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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104577
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】基板処理方法及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240729BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240729BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240729BHJP
   C23C 14/50 20060101ALI20240729BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20240729BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/31 D
H01L21/302 105A
C23C14/50 A
C23C16/458
H05B3/20 309
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008872
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中畑 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】三浦 英之
【テーマコード(参考)】
3K034
4K029
4K030
5F004
5F045
5F131
【Fターム(参考)】
3K034AA02
3K034BA06
3K034BB06
3K034BC16
3K034JA10
4K029CA05
4K029DA08
4K029DC39
4K029JA01
4K029JA05
4K030GA02
4K030JA11
4K030JA17
4K030JA18
4K030KA23
4K030KA39
4K030KA46
5F004AA01
5F004BB12
5F004BB18
5F004BB22
5F004BB26
5F004BB29
5F004CA03
5F004CA04
5F004CA08
5F004CB12
5F045AA19
5F045AD04
5F045AD05
5F045AD06
5F045AD07
5F045AD08
5F045AD09
5F045BB02
5F045DP03
5F045EK07
5F045EM05
5F045EM09
5F045EM10
5F045GB05
5F131AA02
5F131AA03
5F131AA32
5F131BA03
5F131BA04
5F131BA19
5F131BA23
5F131BA24
5F131BA37
5F131CA03
5F131CA09
5F131CA18
5F131EA03
5F131EA04
5F131EB11
5F131EB81
(57)【要約】
【課題】比較的サイズの大きい基板Swの破損や位置ずれを招くことなく、基板をその全面に亘って静電吸着させて均等な所定温度まで加熱できる基板処理方法を提供する。
【解決手段】真空チャンバ内で所定温度に加熱されたチャックプレート52の表面に基板Swを設置し、電極53a~53dに電圧を印加してチャックプレートの表面に基板を静電吸着させる。チャックプレートの表面に基板をその全面に亘って静電吸着させるのに必要な電極に印加する電圧を吸着電圧とし、チャックプレートの表面に基板を静電吸着させる前のチャックプレートと基板との温度差が予め設定される範囲を超えていると、吸着電圧を所定時間だけパルス状に印加する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内で所定温度に加熱されたチャックプレートの表面に被処理基板を設置し、電極に電圧を印加してチャックプレートの表面に被処理基板を静電吸着させる工程を含む基板処理方法において、
チャックプレートの表面に被処理基板をその全面に亘って静電吸着させるのに必要な電極に印加する電圧を吸着電圧とし、チャックプレートの表面に被処理基板を静電吸着させる前のチャックプレートと被処理基板との温度差が予め設定される範囲を超えていると、吸着電圧を所定時間だけパルス状に印加する工程を更に含むことを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
前記チャックプレートに前記被処理基板を静電吸着させた後にその静電吸着を解除するときに、前記吸着電圧と同等の逆電圧を同等の周期及び印加時間でパルス状に印加する工程を更に含むことを特徴とする基板処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の基板処理方法であって、前記チャックプレートがPBN製のセラミックスプレートであり、当該チャックプレートに一対の電極が埋設されて当該一対の電極間に直流の前記吸着電圧を印加するものにおいて、
吸着電圧を0.4kV~0.6kVの範囲とし、パルス状に吸着電圧を印加するときの周波数を0.25Hz~10Hzの範囲及び1パルス内における吸着電圧の印加時間を2.2秒以下に設定したことを特徴とする請求項1記載の基板処理方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の基板処理方法であって、前記チャックプレートがPBN製のセラミックスプレートであり、当該チャックプレートに一対の電極が埋設されて当該一対の電極間に直流の前記吸着電圧を印加するものにおいて、
吸着電圧を0.6kV以上とし、パルス状に吸着電圧を印加するときの周波数を0.2Hz~20Hzの範囲及び1パルス内における吸着電圧の印加時間を1.8秒以下に設定したことを特徴とする請求項1記載の基板処理方法。
【請求項5】
真空チャンバ内に配置されて被処理基板が設置されるチャックプレートと、チャックプレートに組み付けられる電極に電圧を印加するチャック電源と、チャックプレートを所定温度に加熱する加熱手段とを備え、加熱されたチャックプレートの表面に被処理基板を設置した後に電極に電圧を印加してチャックプレートの表面に被処理基板を静電吸着されるようにした基板処理装置において、
チャックプレートの表面に被処理基板を静電吸着させる前のチャックプレートと被処理基板との温度差を測定する測定手段を更に備え、
測定手段で測定した温度差が予め設定される範囲を超えていると、チャックプレートの表面に被処理基板をその全面に亘って静電吸着させるのに必要な電極に印加する電圧を吸着電圧とし、チャック電源によって吸着電圧を所定時間だけパルス状に印加するように構成したことを特徴とする基板処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板処理方法及び基板処理装置に関し、より詳しくは、真空雰囲気の真空チャンバ内で所定温度に加熱されたチャックプレートの表面に被処理基板を設置し、電極に電圧を印加してチャックプレートの表面に被処理基板を静電吸着させたときに、被処理基板がその全面に亘って静電吸着されて可及的速やかに均等な温度に加熱されるようにした基板処理方法及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程には、シリコンウエハまたはシリコンカーバイトウエハなどの被処理基板(以下、「基板」という)の片面に対して成膜処理やドライエッチング処理といった各種の処理を施す工程があり、このような処理工程は、真空雰囲気が形成された真空処理装置の真空チャンバ内で実施される。真空チャンバ内には、通常、静電チャックを持つステージが設けられている。そして、静電チャックを構成するチャックプレートの表面に基板を設置した後、当該チャックプレートに組み付けた吸着用の電極に電圧を印加してチャックプレートの表面に静電吸着し、基板を位置決め保持した状態で各種の処理が施される。また、処理工程によっては、ステージにホットプレートなどの加熱手段を組み付け、基板をチャックプレートからの熱伝導で所定温度(例えば、300℃)に加熱制御しながら処理を施すことがある。
【0003】
ここで、チャックプレートの表面に設置したときの(処理前の)基板には反りや歪を生じているものがある。このことから、基板を静電吸着するときに電極に対する印加電圧を段階的に増加させつつ矩形パルス状に電圧を印加することで基板をその全面に亘って静電吸着させ、その上で基板を所定温度に加熱する基板処理方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このように基板を静電吸着させた後に基板を加熱するのでは、真空チャンバ内で処理を開始するまでの時間が長くなるという問題がある。そこで、予めチャックプレートを所定温度に加熱し、この加熱されたチャックプレートの表面に基板を設置して静電吸着させる際に、電極に対する印加電圧を段階的に増加させつつ矩形パルス状に電圧を印加するという上記従来例を適用することが考えられる。
【0004】
このような手法では、基板サイズが小さい場合(例えば、8インチ)には、基板を静電吸着させながらその全面に亘って均等に加熱できる一方で、基板サイズが大きくなると(例えば、φ12インチ)、基板の破損や位置ずれを招く場合があることが判明した。そこで、本願の発明者らは、鋭意研究を重ね、次のことを知見するのに至った。即ち、吸着開始当初の吸着電圧が比較的低電圧である状態では、基板変形の影響を大きく受けて基板の大部分が静電吸着されず、単位時間あたりの基板の昇温速度が遅い。そして、吸着電圧を高くすると、静電吸着される基板の部分が増加して基板も昇温するが、このとき、チャックプレートの表面に基板を静電吸着させる前のチャックプレートと基板との温度差によっては、瞬時に基板面内に大きな温度むらが生じ、これに起因して基板の破損や当該基板がチャックプレート上で跳ねて位置ずれを起こす場合があることを知見するのに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-152335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、比較的基板サイズが大きい場合でも、被処理基板の破損や位置ずれを招くことなく、可及的速やかに被処理基板をその全面に亘って静電吸着させて均等な所定温度まで加熱できるようにした基板処理方法及び基板処理装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、真空チャンバ内で所定温度に加熱されたチャックプレートの表面に被処理基板を設置し、電極に電圧を印加してチャックプレートの表面に被処理基板を静電吸着させる工程を含む基板処理方法において、チャックプレートの表面に被処理基板をその全面に亘って静電吸着させるのに必要な電極に印加する電圧を吸着電圧とし、チャックプレートの表面に被処理基板を静電吸着させる前のチャックプレートと被処理基板との温度差が予め設定される範囲を超えていると、吸着電圧を所定時間だけパルス状に印加する工程を更に含むことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、上記従来例のように電極に印加する電圧を段階的に増加させるのではなく、当初から吸着電圧、即ち、被処理基板がチャックプレートの表面にその全面に亘って静電気力で強制的に吸着できる電圧を電極に印加する。そして、チャックプレートと被処理基板との温度差が大きいときだけ(例えば、200℃以上の場合)、吸着開始当初、周波数及び1パルス内における吸着電圧の印加時間を適宜設定して吸着電圧をパルス状に印加する。これにより、比較的基板サイズが大きい場合でも、基板面内での大きな温度むらの発生を抑制しながら、可及的速やかに被処理基板をその全面に亘って静電吸着させて均等な所定温度まで加熱できることが確認された。
【0009】
本発明においては、前記チャックプレートに前記被処理基板を静電吸着させた後にその静電吸着を解除するときに、前記吸着電圧と同等の逆電圧を同等の周期及び印加時間でパルス状に印加する工程を更に含むことが好ましい。これにより、真空チャンバ内での処理工程の実施後にステージ上から処理済みの被処理基板を取り出すために、被処理基板の静電吸着を解除したときに当該被処理基板がチャックプレート上で跳ねて位置ずれを起こすといったことが防止できる。
【0010】
なお、本発明において、前記チャックプレートがPBN(Pyrolytic Boron Nitride)製のセラミックスプレートであり、当該チャックプレートに一対の電極が埋設されて当該一対の電極間に直流の前記吸着電圧を印加する場合、吸着電圧が0.4kV~0.6kVの範囲であれば、パルス状に吸着電圧を印加するときの周波数を0.25Hz~10Hzの範囲及び1パルス内における吸着電圧の印加時間を2.2秒以下に設定すればよい。他方で、吸着電圧が0.6kV以上であれば、パルス状に吸着電圧を印加するときの周波数を0.2Hz~20Hzの範囲及び1パルス内における吸着電圧の印加時間を1.8秒以下に設定すればよい。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明は、真空チャンバ内に配置されて被処理基板が設置されるチャックプレートと、チャックプレートに組み付けられる電極に電圧を印加するチャック電源と、チャックプレートを所定温度に加熱する加熱手段とを備え、加熱されたチャックプレートの表面に被処理基板を設置した後に電極に電圧を印加してチャックプレートの表面に被処理基板を静電吸着されるようにした基板処理装置において、チャックプレートの表面に被処理基板を静電吸着させる前のチャックプレートと被処理基板との温度差を測定する測定手段を更に備え、測定手段で測定した温度差が予め設定される範囲を超えていると、チャックプレートの表面に被処理基板をその全面に亘って静電吸着させるのに必要な電極に印加する電圧を吸着電圧とし、チャック電源によって吸着電圧を所定時間だけパルス状に印加するように構成したことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の基板処理方法を実施できる基板処理装置を備えるスパッタリング装置の模式断面図。
図2図1のII―II線に沿う断面図
図3】電極への電圧印加と基板の温度変化との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、被処理基板をφ12インチのシリコンウエハ(以下、「基板Sw」という)、吸着用の電極を双極型のもの、処理工程を真空雰囲気中にてスパッタリング法により成膜するものを例に本発明の基板処理方法及び基板処理装置の実施形態を説明する。
【0014】
図1を参照して、本実施形態の基板処理装置を備えるスパッタリング装置Smは、真空雰囲気の形成が可能な真空チャンバ1を有する。真空チャンバ1の上面開口にはカソードユニット2が着脱自在に取り付けられている。カソードユニット2は、ターゲット21と、このターゲット21の上方に配置される磁石ユニット22とで構成される。ターゲット21としては、基板Sw表面に成膜しようとする膜に応じて、アルミニウム、銅、チタンやアルミナ製などの公知のものが利用される。ターゲット21は、バッキングプレート21aに取り付けた状態で、そのスパッタ面21bを下方にした姿勢で真空チャンバ1の上壁に設けた真空シール兼用の絶縁体31を介して真空チャンバ1の上部に取り付けられる。
【0015】
ターゲット21には、ターゲット種に応じて直流電源や交流電源などから構成されるスパッタ電源21cからの出力21dが接続され、ターゲット種に応じて、例えば負の電位を持つ直流電力や所定周波数の高周波電力(交流電力)が投入される。磁石ユニット22は、ターゲット21のスパッタ面21bの下方空間に磁場を発生させ、スパッタリング時にスパッタ面21bの下方で電離した電子等を捕捉してターゲット21から飛散したスパッタ粒子を効率よくイオン化する公知の閉鎖磁場若しくはカスプ磁場構造を有するものである。真空チャンバ1の側壁にはガス管41が接続され、図外のマスフローコントローラを介して流量制御されたスパッタガスが真空チャンバ1内に導入される。スパッタガスには、真空チャンバ1にプラズマを形成する際に導入されるアルゴンガス等の希ガスだけでなく、酸素ガスや窒素ガスなどの反応ガスも含まれる。真空チャンバ1の側壁にはまた排気口42が開設され、排気口42には、図外のターボ分子ポンプやロータリポンプなどで構成される真空ポンプに通じる排気管43が接続され、真空チャンバ1内を一定速度で真空排気し、スパッタリングによる成膜時には、スパッタガスを導入した状態で真空チャンバ1が所定圧力に保持される。そして、真空チャンバ1の下部にターゲット21に対向させて本実施形態の基板処理装置を構成するステージ5が配置されている。なお、図1中、符号61,62は、防着板である。
【0016】
図2も参照して、ステージ5は、真空チャンバ1の下部に設けた絶縁体32を介して設置される、筒状の輪郭を持つ金属製(例えばSUS製)の基台51と、この基台51の上面に設けたチャックプレート52とを有する。基台51には、特に図示して説明しないが、図外のチラーユニットから供給される冷媒を循環させる冷媒循環路が形成され、基板Swを所定温度範囲に制御する際に選択的に基台51を冷却できるようにしている。チャックプレート52はPBN製のセラミックスプレートであり、基台51の上面より一回り小さい外径を有する。チャックプレート52にはまた、静電気力で基板Swを静電吸着するための吸着用の正負一対の電極53a~53dが夫々埋設されている。各対の電極53a~53dは、所定面積の金属板で構成され、電源ケーブル54a,54bを介してチャック電源55a,55bに夫々接続されている。チャック電源55a,55bとしては公知のものが利用でき、特に図示して説明しないが、各対の電極53a~53dに対して任意の波形で所定範囲の直流電圧を印加できる電圧制御回路と、各対の電極53a~53dに逆電圧を印加する逆電圧印加回路とを備える。吸着電圧は、予め実験的に求められ、反りや歪を生じているφ12インチの基板Swをその全面に亘って静電気力で強制的に吸着できる電圧(例えば、0.4kV~1kV)に設定される。
【0017】
基台51とチャックプレート52との間には、例えば窒化アルミニウム製のホットプレート56が介設されている。ホットプレート56には、例えば電気ヒータ等の加熱手段56aが組み込まれ、電気ヒータに通電して所定温度範囲(例えば、100℃~500℃)に加熱できる。この場合、チャックプレート52にヒータを内蔵してチャックプレート52とホットプレート56とを一体に形成することもできる。ホットプレート56にはまた、熱電対などの測定手段としての温度センサ57が組み込まれ、温度センサ57の測温部(図示せず)がチャックプレート52の下面に当接してチャックプレート52の温度を測定できる。なお、特に図示して説明しないが、ステージ5には公知の構造を持つ基板リフト機構が設けられ、図外の搬送ロボットとの間で基板Swの受け渡しができるようにしている。上記スパッタリング装置Smは、マイクロコンピュータ、記憶素子やシーケンサ等を備えた制御ユニットCUを備え、制御ユニットCUは、スパッタ電源21c、チャック電源55a,55b、マスフローコントローラや真空ポンプといった各部品の作動を統括して制御する。詳細は後述するが、制御ユニットCUは、本実施形態の基板処理装置の構成要素ともなり、温度センサ57からの入力に応じてチャック電源55a,55bの各対の電極53a~53dへの電圧の印加も制御する。以下に、上記スパッタリング装置Smを用いて基板Swの下面に所定膜を成膜する場合を例に本実施形態の基板処理方法を説明する。
【0018】
真空雰囲気の真空チャンバ1内にてステージ5への基板Swの設置に先立って、成膜時に加熱しようとする基板Swの温度に応じて、加熱手段56aを作動させてホットプレート56、ひいては、チャックプレート52を所定温度に加熱する。温度センサ57で測定したチャックプレート52の温度が所定値に達すると、搬送ロボット及び基板リフト機構によりステージ5に基板Swが設置される。このとき、制御ユニットCUには、成膜前の基板Swの温度が入力される。ステージ5への基板Swの設置の直前に基板Swの温度を温度センサ(図示せず)で測定し、この測定した温度を制御ユニットCUに入力するようにしてもよい。そして、制御ユニットCUは、この入力された温度と温度センサ57で測定された温度との温度差が所定値以上か否かを判別し、所定値(例えば、200℃)より低い場合には、チャック電源55a,55bにより一定の直流電圧が各対の電極53a~53dに連続して印加する。このときの吸着電圧は、上述したように基板Swをその全面に亘って静電吸着するのに必要な電圧(例えば、0.4kV~1kV)に設定される。なお、吸着電圧の上限は、チャック電源55a,55bの設計値に応じて適宜設定される。これにより、基板Swがチャックプレート52にその全面に亘って静電吸着されて均等な所定温度まで加熱される。
【0019】
他方で、温度差が所定値以上の場合には、制御ユニットCUは、図3に示すように、電圧印加開始から所定時間だけチャック電源55a,55bにより上記と同等の直流電圧がパルス状に電極53a~53dに印加する。吸着電圧が0.4kV~0.6kVの範囲であれば、パルス状に吸着電圧を印加するときの周波数が0.25Hz~10Hzの範囲及び1パルス内における吸着電圧の印加時間が2.2秒以下に設定され、吸着電圧を0.6kV以上であれば、パルス状に吸着電圧を印加するときの周波数を0.2Hz~20Hzの範囲及び1パルス内における吸着電圧の印加時間が1.8秒以下に設定される。パルス状に吸着電圧を印加する時間は、例えば、基板Sw面内の温度むらの範囲に応じて適宜設定される。これにより、図3中に実線で示すように、基板Swの部分の急激な温度上昇を抑制して大きな温度むらの発生を抑制しながら、可及的速やかに基板Swをその全面に亘って静電吸着させて均等な所定温度まで加熱できる。そして、所定時間が経過すると、制御ユニットCUは、基板Swが所定温度に加熱されたと判断し、公知の方法でターゲット21をスパッタリングして基板Sw表面に所定の薄膜が成膜される。
【0020】
基板Swへの成膜が終了すると、チャック電源55a,55bにより各対の電極53a~53dに対して逆電圧が印加されてチャックプレート52からの基板Swの静電吸着が解除される。この場合、制御ユニットCUは、静電吸着時の電圧印加状態に応じてチャック電源55a,55bにより電極53a~53dに対して逆電圧を印加する。即ち、基板Swの温度と温度センサ57で測定された温度との温度差が所定値より低いことで、チャック電源55a,55bにより一定の直流電圧が電極に連続して印加した場合には、同等の逆電圧を連続して印加する。他方で、温度差が所定値以上であることでパルス状に電圧印加した場合には、チャック電源55a,55bにより電極53a~53dに対して印加するものと同等の電圧を同等の周期及び印加時間でパルス状に印加する。これにより、基板Swの静電吸着を解除したときに基板Swがチャックプレート52上で跳ねて位置ずれを起こすといったことが防止できることが確認された。チャックプレート52からの基板Swの静電吸着が解除されると、搬送ロボット及び基板リフト機構によりステージ5から成膜済みの基板Swが搬送される。
【0021】
以上の効果を確認するために、図1に示すスパッタリング装置Smのステージ5を用いて次の実験を行った。即ち、基板Swをφ12インチのシリコンウエハとし、各対の電極53a~53dへの印加電圧を0.4kVに設定した。そして、加熱手段56aを作動させてチャックプレート52を所定温度に加熱した後、チャックプレート52に基板Swを設置し、基板Swを静電吸着しながら加熱した。試料1では、基板Swの温度と温度センサ57で測定された温度との温度差が200℃の状態でチャックプレート52に基板Swを設置し、0.4kVで各対の電極53a~53dに連続して電圧印加したところ、基板Swの破損や位置ずれを招くことなく、短時間で基板Swをその全面に亘って静電吸着させて均等な所定温度まで加熱できた。試料2では、温度差が250℃の状態でチャックプレート52に基板Swを設置し、0.4kVで各対の電極53a~53dに連続して電圧印加したところ、数秒後に基板Swがチャックプレート52上で跳ねて位置ずれを起こした。そこで、試料3では、パルス状に吸着電圧を印加するときの周波数を1Hz、1パルス内における吸着電圧の印加時間を2.0秒に設定し、温度差が250℃の状態でチャックプレート52に基板Swを設置した後に、0.4kVで各対の電極53a~53dにパルス状に60秒間電圧印加した。これによれば、基板Swの破損や位置ずれは見られず、また、基板Sw中心及び基板Sw中心を通って互いに直交する線上の各2点の温度を測定したところ、平均温度は251.1℃、最大の温度差は10℃であり、基板Swをその全面に亘って静電吸着させて所望の温度まで均等に加熱できることが確認された。なお、パルス状に吸着電圧を印加するときの周波数が0.25Hz~10Hzの範囲及び1パルス内における吸着電圧の印加時間が2.2秒以下であれば、同等の効果が得られることが確認された。但し、短い時間で基板Swをその全面に亘って静電吸着させて加熱するには、吸着電圧の印加時間が、4秒以上であることが好ましい。
【0022】
次に、各対の電極53a~53dへの印加電圧を0.6kVに設定した。そして、加熱手段56aを作動させてチャックプレート52を所定温度に加熱した後、チャックプレート52に基板Swを設置し、基板Swを静電吸着しながら加熱した。試料4では、基板Swの温度と温度センサ57で測定された温度との温度差が350℃の状態でチャックプレート52に基板Swを設置し、0.6kVで各対の電極53a~53dに連続して電圧印加したところ、上記同様、十数秒経過すると、基板Swがチャックプレート52上で跳ねて位置ずれを起こし、場合によっては基板Swが破損した。そこで、試料5では、パルス状に吸着電圧を印加するときの周波数を5Hz、1パルス内における吸着電圧の印加時間を1.2秒に設定し、温度差が350℃の状態でチャックプレート52に基板Swを設置した後に、0.6kVで各対の電極53a~53dにパルス状に60秒間電圧印加した。これによれば、上記同様、基板Swの破損や位置ずれは見られず、また、基板Sw中心及び基板Sw中心を通って互いに直交する線上の各2点の温度を測定したところ、平均温度は351.4℃、最大の温度差は20℃であり、基板Swをその全面に亘って静電吸着させて所望の温度まで均等に加熱できることが確認された。なお、パルス状に吸着電圧を印加するときの周波数が0.2Hz~20Hzの範囲及び1パルス内における吸着電圧の印加時間が1.8秒以下であれば、同等の効果が得られることが確認された。但し、短い時間で基板Swをその全面に亘って静電吸着させて加熱するには、吸着電圧の印加時間が、5秒以上であることが好ましい。
【0023】
次に、試料5において、チャックプレート52からの基板Swの静電吸着を解除するときに、チャック電源55a,55bにより各対の電極53a~53dに対して逆電圧を印加した。このとき、電極53a~53dに対して印加するものと同等の逆電圧を連続して印加すると、基板Swがチャックプレート52上で跳ねることが確認された。他方で、吸着時に電極53a~53dに対して印加したものと同等の逆電圧を同等の周期及び印加時間でパルス状に印加すると、基板Swがチャックプレート52上で跳ねて位置ずれを起こすといったことが見られず、良好に基板Swの静電吸着を解除できることが確認された。
【0024】
参考実験として、基板Swとチャックプレート52の温度との温度差が350℃の状態でチャックプレート52に基板Swを設置し、0.2kVで各対の電極53a~53dに30秒間連続して電圧印加し、基板Sw中心及び基板Sw中心を通って互いに直交する線上の各2点の温度を測定したところ、一の測定点では300℃近くまで昇温したが、その他の測定点の平均温度は約260℃、最大の温度差は58℃であった。これにより、基板サイズが大きい場合、吸着電圧が比較的低いと、基板Sw変形の影響を大きく受けてその大部分が静電吸着されず、大きな温度むら生じていることが判る。そして、吸着電圧を0.4kVに高めたところ、更に大きな温度むらが発生し、これに起因して基板Swがチャックプレート52上で跳ねて位置ずれを起こした。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、処理工程をスパッタリング法による成膜処理としたが、これに限定されるものではなく、基板温度を制御しつつエッチング、CVD等の他の処理を行う場合にも本発明は適用することができる。また、上記実施形態では、静電チャックとして双極型を例に説明したが、これに限定されるものではく、単極型のものにも本発明は適用することができる。更に、上記実施形態では、チャックプレートをPBN製としたものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、他のセラミックスプレート、例えばアルミナ、窒化アルミニウムや窒化シリコンを用いることができる。この場合、チャックプレートの材質に応じて、パルス状に印加するときの温度差、印加電圧、吸着開始当初、周波数及び1パルス内における吸着電圧の印加時間が適宜設定される。特に、PBN製のチャックプレートと同等の吸着力を有する他のセラミックスプレートであれば、同等の吸着力を発生させる印可電圧において、上記実施例で説明した温度差、吸着開始当初、周波数及び1パルス内における吸着電圧の印加時間を採用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1…真空チャンバ、5…ステージ(真空処理装置の構成要素)、52…チャックプレート,53a~53d…吸着用の電極、55a,55b…チャック電源(真空処理装置の構成要素)、56…ホットプレート(加熱手段の構成要素)、57…温度センサ(測定手段:真空処理装置の構成要素)、Sw…被処理基板(基板)、Sm…スパッタリング装置。
図1
図2
図3