(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104590
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】多糖類を用いた酵母への耐性付与方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/16 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
C12N1/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008890
(22)【出願日】2023-01-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】金木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】畑中 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高木 紀美子
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA72X
4B065AC02
4B065AC06
4B065BA23
4B065BB18
(57)【要約】
【課題】簡便且つ遺伝子操作を伴わずに、酵母にアルカリ耐性や高温耐性を付与することができる新規手段の提供。
【解決手段】アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液において酵母を培養することを含む、酵母へのアルカリ耐性及び/又は高温耐性の付与方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液において酵母を培養することを含む、酵母へのアルカリ耐性及び/又は高温耐性の付与方法。
【請求項2】
アニオン性官能基を有する多糖類が、脱アシル化ジェランガム、アルギン酸、ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、及びラムナン硫酸からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アニオン性官能基を有する多糖類が、脱アシル化ジェランガムであるか、又は、脱アシル化ジェランガムとアルギン酸である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液が、塑性流体であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
培養が浮遊培養である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液において酵母を培養することを含む、アルカリ耐性及び/又は高温耐性を有する酵母の製造方法。
【請求項7】
アニオン性官能基を有する多糖類が、脱アシル化ジェランガム、アルギン酸、ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、及びラムナン硫酸からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
アニオン性官能基を有する多糖類が、脱アシル化ジェランガムであるか、又は、脱アシル化ジェランガムとアルギン酸である、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液が、塑性流体であることを特徴とする、請求項6~8のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項10】
培養が浮遊培養である、請求項6~9のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項11】
アニオン性官能基を有する多糖類を含む、酵母へのアルカリ耐性及び/又は高温耐性付与用剤。
【請求項12】
アニオン性官能基を有する多糖類が、脱アシル化ジェランガム、アルギン酸、ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、及びラムナン硫酸からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項11記載の剤。
【請求項13】
アニオン性官能基を有する多糖類が、脱アシル化ジェランガムであるか、又は、脱アシル化ジェランガムとアルギン酸である、請求項12記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類を用いた酵母への耐性付与方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物は、一般に顕微鏡でなければ観察することのできない、小さな生物の総称である。微生物には、かび、酵母、細菌、藻類などが含まれる。微生物は、土壌、深海、温泉、食品、人体、空気中など、地球上のあらゆる場所に生息している。地球上には約1,200万種に及ぶ生物が存在しているといわれているが、そのうち約300万種(25%)が微生物である。
【0003】
人類は古くから多くの微生物を産業に応用してきたが、とりわけ、酵母は非常に有用な産業微生物の一種として、アルコールやパンなどの食品の製造分野、医薬品やバイオ燃料などの有用物質の製造分野、環境に優しい洗剤や環境汚染物質の分解などの環境修復分野など、多方面において利用されている。
【0004】
酵母の利用における制限の一つとして、酵母が生存できる条件下において使用する必要がある点が挙げられる。例えば、食品工場由来の排水における含有微生物の管理という観点において、アルカリを用いた消毒は簡易な方法である一方で、アルカリを用いた排水の消毒を行うと、あらゆる含有微生物が死滅してしまうため、環境汚染物質の分解を目的として排水中に散布された有用な微生物なども死滅させてしまう問題がある。また、酵母はアルカリ耐性を有さない種が多いことから、パンやアルコールの製造においては、原料に酵母を添加する前に、原料を中和する必要があるなどの問題もある。
【0005】
微生物に対して特定のストレス(例えば、アルカリ条件など)への耐性を付与する方法としては、微生物を当該ストレスを受け続ける環境で生育させる手法(即ち「馴養」)が知られている。しかし、一般的に馴養には時間がかかり、しかも必ずしも目的とする耐性を獲得した微生物が得られるかどうかも予測が困難であることが知られている。また、馴養を通して、当該微生物が本来有していた有用な特性が変化してしまう場合もあり、馴養による微生物への耐性付与には課題も多い。
【0006】
また、微生物に特定の耐性を付与する別の方法として、遺伝子組換えによる耐性付与方法が構築されている。例えば、特許文献1では、遺伝子組換えによる酵母へのアルカリ耐性の付与方法が教示されている。しかし、遺伝子組換えを伴う手法により製造された微生物は、自然環境への放出が法律で禁じられていることから、実際に産業界において使用できる場面は極めて制限される。従って、かかる手法により技術的には微生物に耐性を付与できるとしても、産業利用の観点において大きな課題が残る。
【0007】
また、微生物へのアルカリ耐性の付与に加えて、微生物への高温耐性の付与についても強いニーズがある。しかし、簡便且つ使用制限の少ない微生物への高温耐性の付与方法についてはほとんど報告されていない。
【0008】
ところで、脱アシル化ジェランガム(DAG)等の多糖類は、金属カチオン(例えばカルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合することにより、溶液中で三次元ネットワーク(不定型な構造体)を形成する。この三次元ネットワークを含む液体培地中で細胞を培養すると、細胞は当該三次元ネットワークにトラップされ沈降しないため、振とうや回転操作を要することなく細胞を培地中に浮遊状態で均一に分散させた状態で培養する技術が報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開第2007-61025号公報
【特許文献2】国際公開第2014/017513号
【非特許文献】
【0010】
【特許文献1】Antonio Casamayor et al., Biochem J. 2012 May 15;444(1):39-49.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
かかる背景から、本発明は、簡便且つ遺伝子操作を伴わずに、酵母にアルカリ耐性や高温耐性を付与することができる新規手段の提供を課題とする。また、本発明は、安全かつ適法に産業に応用することができる、所望の耐性を獲得した酵母の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意工夫を重ねた結果、酵母を特定の多糖類を含有する水溶液で浮遊培養することにより、アルカリに対しての耐性や高温への耐性を付与し得ることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0013】
[1]
アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液において酵母を培養することを含む、酵母へのアルカリ耐性及び/又は高温耐性の付与方法。
[2]
アニオン性官能基を有する多糖類が、脱アシル化ジェランガム、アルギン酸、ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、及びラムナン硫酸からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]記載の方法。
[3]
アニオン性官能基を有する多糖類が、脱アシル化ジェランガムであるか、又は、脱アシル化ジェランガムとアルギン酸である、[2]記載の方法。
[4]
アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液が、塑性流体であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか記載の方法。
[5]
培養が浮遊培養である、[1]~[4]のいずれか記載の方法。
[6]
アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液において酵母を培養することを含む、アルカリ耐性及び/又は高温耐性を有する酵母の製造方法。
[7]
アニオン性官能基を有する多糖類が、脱アシル化ジェランガム、アルギン酸、ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、及びラムナン硫酸からなる群から選択される少なくとも1つである、[6]記載の製造方法。
[8]
アニオン性官能基を有する多糖類が、脱アシル化ジェランガムであるか、又は、脱アシル化ジェランガムとアルギン酸である、[7]記載の製造方法。
[9]
アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液が、塑性流体であることを特徴とする、[6]~[8]のいずれか記載の製造方法。
[10]
培養が浮遊培養である、[6]~[9]のいずれか記載の製造方法。
[11]
アニオン性官能基を有する多糖類を含む、酵母へのアルカリ耐性及び/又は高温耐性付与用剤。
[12]
アニオン性官能基を有する多糖類が、脱アシル化ジェランガム、アルギン酸、ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、及びラムナン硫酸からなる群から選択される少なくとも1つである、[11]記載の剤。
[13]
アニオン性官能基を有する多糖類が、脱アシル化ジェランガムであるか、又は、脱アシル化ジェランガムとアルギン酸である、[12]記載の剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便且つ遺伝子操作を伴わずに、酵母にアルカリに対する耐性及び/又は高温に対する耐性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
1.酵母へのアルカリ耐性及び/又は高温耐性の付与方法
本発明は、アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液において酵母を培養することを含む、酵母へのアルカリ耐性及び/又は高温耐性の付与方法(以下、「本発明の方法」と称することがある)を提供する。
【0017】
本発明の方法において用いられるアニオン性官能基を有する多糖類としては、本発明の所望の効果を得られる限り特に限定されない。一態様において、アニオン性官能基を有する多糖類は、アニオン性の官能基を有する酸性多糖類であり得る。アニオン性の官能基を有する酸性多糖類としては、特に限定されないが、例えば、構造中にウロン酸(例えば、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸、又はマンヌロン酸等)を有する多糖類;構造中に硫酸又はリン酸を有する多糖類、或いはその両方の構造を持つ多糖類等が挙げられる。より具体的には、脱アシル化ジェランガム(以下、本明細書において「DAG」と称する場合がある)、アルギン酸、ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ラムナン硫酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つが例示される。尚、塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の塩、カルシウム、バリウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩、又はアルミニウム、亜鉛、銅、鉄、アンモニウム、有機塩基及びアミノ酸等の塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
これらの多糖類の重量平均分子量は、好ましくは10,000~50,000,000であり、より好ましくは100,000~20,000,000、更に好ましくは1,000,000~10,000,000である。例えば、当該分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるプルラン換算で測定できる。さらに、DAGはリン酸化したものを使用することもできる。当該リン酸化は公知の手法で行うことができる。
【0019】
多糖類は、複数種(例えば、2種)を組み合わせて使用することができる。多糖類の組み合わせの種類は特に限定されないが、好ましくは、当該組み合せはDAG又はその塩を含む。即ち、好適な多糖類の組み合せとしては、DAG又はその塩、及びDAG又はその塩以外の多糖類(例、アルギン酸、キサンタンガム、アルギン酸、ローカストビーンガム、メチルセルロース、ダイユータンガム又はそれらの塩)が含まれる。具体的な多糖類の組み合わせとしては、DAGとアルギン酸、DAGとキサンタンガム、DAGとアルギン酸ナトリウム、DAGとローカストビーンガム、DAGとメチルセルロース、DAGとダイユータンガム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明の方法の好ましい一態様において、アニオン性の官能基を有する多糖類は、DAGであるか、又は、DAGとアルギン酸の混合物であり得る。
【0021】
本発明の方法の一態様において、アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液は塑性流体であり得る。
【0022】
本明細書において、「塑性流体」とは、流動させるために降伏応力が必要な流体、すなわち、降伏値を持つ流体をいう。塑性流体は、ビンガム流体であってもよく、非ビンガム流体であってもよい。
【0023】
本発明の方法において用いられる塑性流体は、静置状態において酵母を沈降させずに保持できる塑性流体であれば特に制限されないが、当該塑性流体の降伏値は、酵母を分散保持する観点から、8mPa以上であることが好ましく、保管容器への充填など操作性の観点から、500mPa以下であることが好ましい。降伏値は、例えば後述の実施例に記載の方法で測定することができる。具体的にはレオメーター(アントンパール社製、機種:MCR301、コーンロータ:CP75-1)を用いた測定により導出することができる。
【0024】
また、本発明の方法において用いられる塑性流体の粘度は、操作性の観点から、1~25℃において1.5~200mPa・sが好ましい。粘度は、例えば後述の実施例に記載の方法で測定することができる。具体的にはE型粘度計(東機産業株式会社製、TV-22型粘度計、機種:TVE-22L、コーンロータ:標準ロータ 1°34’×R24、回転数10~100rpm)を用いて測定することができる。
【0025】
適切な添加量の多糖類を塑性流体でない液体に添加することによって当該塑性流体でない液体を塑性流体とすることができる。
【0026】
塑性流体でない液体を塑性流体にするための多糖類の濃度は、多糖類の種類に依存するが、通常0.0005%乃至1.0%(重量/容量)、好ましくは0.001%乃至0.4%(重量/容量)、より好ましくは0.005%乃至0.1%(重量/容量)、さらに好ましくは0.005%乃至0.05%(重量/容量)となるようにすれば良い。
【0027】
例えば、DAGの場合、0.001%乃至1.0%(重量/容量)、好ましくは0.003%乃至0.5%(重量/容量)、より好ましくは0.005%乃至0.1%(重量/容量)、更に好ましくは0.01%乃至0.05%(重量/容量)、最も好ましくは、0.01%乃至0.03%(重量/容量)であり得る。ネイティブ型ジェランガムの場合、0.05%乃至1.0%(重量/容量)、好ましくは、0.05%乃至0.1%(重量/容量)であり得る。
【0028】
また、DAG又はその塩と、DAG又はその塩以外の多糖類との組合せを用いる場合、DAG又はその塩の濃度としては、0.005~0.02%(重量/容量)、好ましくは0.01~0.02%(重量/容量)が例示され、DAG又はその塩以外の多糖類の濃度としては、0.005~0.4%(重量/容量)、好ましくは0.1~0.4%(重量/容量)が例示される。具体的な濃度範囲の組合せとしては、以下が例示される。
DAG又はその塩:0.005~0.08%(好ましくは0.01~0.04%)(重量/容量)
DAG以外の多糖類
キサンタンガム:0.01~0.2%(重量/容量)
アルギン酸ナトリウム:0.01~0.2%(重量/容量)
ローカストビーンガム:0.01~0.2%(重量/容量)
メチルセルロース:0.01~0.2%(重量/容量)(好ましくは0.2~0.4%(重量/容量))
ダイユータンガム:0.01~0.2%(重量/容量)
カルボキシメチルセルロース:0.01~0.2%(重量/容量)
【0029】
尚、多糖類を添加することで塑性流体を調製する場合、金属カチオン、例えば2価の金属カチオン(カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオンおよび銅イオン等)、好ましくはカルシウムイオンを塑性流体でない水溶液へ添加することが好ましい場合がある。例えば、DAG等の水溶性多糖類は、金属カチオンを介して三次元ネットワークを構成することによって塑性流体でない液体を塑性流体とする。従って、酵母を培養するための水溶液中に多糖類が三次元ネットワークを構成して塑性流体でない液体を塑性流体とするのに十分な量の金属カチオンが含まれていない場合は、金属カチオンを添加することが好ましい。
【0030】
本発明の方法においては、酵母を培養するための(塑性流体でない)水溶液は、酵母の生存に悪影響を与えるものでない限り特に限定されない。本発明の方法において用いられる水溶液としては、例えば、水、緩衝液、及び、酵母培養用の液体培地等が挙げられるがこれらに限定されない。好ましい一態様において、水溶液は、リン酸バッファー等の緩衝液または酵母培養用の液体培地であり得る。酵母培養用の液体培地は公知(例、YM培地、YPD培地など)であり、市販のものを用いればよい。
【0031】
本発明の方法により耐性を付与される酵母は、特に限定されないが、産業利用可能であることが知られている酵母であることが好ましい。一例としては、ヤロウィア属(Yarrowia)、アスペルギルス属(Aspergillus)、キャンディダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、ハンセヌラ属(Hansenura)、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、トリコスポロン属(Trichosporon)、リポマイセス属(Lipomyces)、ロードトルラ属(Rhodotorula)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)等の酵母が挙げられる。好ましい一態様において、酵母は、ヤロウィア属酵母、アスペルギルス属酵母、又はサッカロマイセス属酵母であり得、より好ましくは、ヤロウィア属酵母であり得、特に好ましくは、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であり得る。
【0032】
本発明の方法は、多糖類を含有する水溶液中で酵母を培養することを特徴する。本発明の一態様において、酵母の培養は浮遊培養であり得る。本明細書において「浮遊培養」とは、水溶液中に存在する多糖類が形成する三次元ネットワークにより酵母が支持されることによって、培養容器の底面のみに偏在せず、三次元的な広がりをもって分散した状態での培養を意味する。尚、酵母の浮遊培養においては、撹拌や振とうを伴ってもよく、又は伴わなくともよい。好ましい一態様において、本発明の方法は、水溶液が塑性流体であり、且つ、撹拌や振とうを伴なわない浮遊培養(即ち「静置浮遊培養」)により実施され得る。
尚、本明細書において、「酵母の培養」とは、酵母が生存する如何なる状態をも含む概念である。本明細書において、酵母の培養は、酵母の増殖が達成されてもよいし、達成されなくともよい。換言すれば、酵母の生存を維持するような状態もまた、本願明細書における「酵母の培養」に含まれ得る。
【0033】
本発明の方法において、酵母を培養する条件は、酵母が生存し、所望の耐性を付与される限り特に限定されない。例えば、培養期間は、通常1分以上であり、好ましくは30分以上(1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、5時間以上、6時間以上、7時間以上、8時間以上、9時間以上、10時間以上、11時間以上、又は12時間以上)であり、より好ましくは1日以上(2日以上、又は3日以上)である。また、培養期間の上限も、所望の効果が得られる限り特に限定されないが、通常1年以下であり、好ましくは6か月以下であり、より好ましくは1か月以下(2週間以下、又は1週間以下)であり得る。また、培養温度としては、通常2~50℃であり得、好ましくは3~40℃(例えば、4~37℃、4~36℃、4~35℃、4~34℃、4~33℃、4~32℃、4~31℃、4~30℃、4~29℃、4~28℃、4~27℃、4~26℃、4~25℃、4~24℃、4~23℃、4~22℃、4~21℃、4~20℃、4~19℃、4~18℃、4~17℃、4~16℃、4~15℃、4~14℃、4~13℃、4~12℃、4~11℃、4~10℃、4~9℃、4~8℃、4~7℃、4~6℃、4~5℃)であり得る。また、一般的に酵母の培養は弱酸性条件で行うことが好ましいことから、通常pH5.0~7.0であり得、好ましくはpH5.5~6.5であり得る。
【0034】
一態様において、本発明の方法におけるアニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液は、当該多糖類以外の成分を含んでいてもよい。かかる成分としては、例えば、酵母の栄養源となる物質や酵母の生物学的機能や生存性を高め得る物質などが挙げられる。
【0035】
酵母の栄養源となる物質は、特に限定されないが、例えば、炭素源、窒素源、無機塩等が挙げられる。
【0036】
炭素源としては、例えば、グルコース、フラクトース、セロビオース、ラフィノース、キシロース、マルトース、ガラクトース、ソルボース、グルコサミン、リボース、アラビノース、ラムノース、スクロース、トレハロース、α-メチル-D-グルコシド、サリシン、メリビオース、ラクトース、メレジトース、イヌリン、エリスリトール、グルシトール、マンニトール、ガラクチトール、N-アセチル-D-グルコサミン、デンプン、デンプン加水分解物、糖蜜、廃糖蜜等の糖類、麦、米等の天然物、グリセロール、メタノール、エタノール等のアルコール類、酢酸、乳酸、コハク酸、グルコン酸、ピルピン酸、クエン酸等の有機酸類、ヘキサデカン等の炭化水素などが挙げられる。また、上記炭素源の1種または2種以上が含まれていてもよい。
【0037】
窒素源としては、肉エキス、魚肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆加水分解物、大豆粉末、カゼイン、ミルクカゼイン、カザミノ酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸等の各種アミノ酸、コーンスティープリカー、その他の動物、植物、微生物の加水分解物等の有機窒素源; アンモニア、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩、硝酸ナトリウムなどの硝酸塩、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩、尿素等の無機窒素源などが挙げられる。また、上記窒素源の1種または2種以上が含まれていてもよい。
【0038】
無機塩としては、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銅、鉄及び亜鉛等の塩(例えば、リン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、塩化物等)等が挙げられる。また、上記無機塩の1種または2種以上が含まれていてもよい。
【0039】
酵母の生物学的機能や生存性を高め得る物質は、所望の目的が達成される限り特に限定されず、酵母の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、酵母が油脂分解可能な酵母である場合は、その生物学的機能を維持又は高める目的で、油分を添加してもよい。
【0040】
本明細書において「油分」とは、トリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドのようなグリセリド類を多く含む食用または工業用油脂、ならびに脂肪酸を指す。本発明の方法において用いられる油分としては、例えば、オリーブ油、キャノーラ油、ココナッツ油、ごま油、米油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油、牛脂、ラード、鶏油、魚油、鯨油、バター、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等の食用油脂;アマニ油、ジャトロファ油、トール油、ハマナ油、ひまし油、ホホバ油等の工業用油脂、または、酪酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、デセン酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、イコセン酸、ドコセン酸、テトラコセン酸、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、オクタデカテトラエン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラエン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、ヘンイコサペンタエン酸、ドコサジエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の脂肪酸が好ましい。
【0041】
油分の添加量は特に限定されず、微生物の種類に応じて適宜選択すればよい。一例としては、油分を、本発明の組成物1L中に1~30g、より好ましくは5~15g添加することができるが、これに限定されない。油分は単独で添加してもよく、2種以上を添加してもよい。
【0042】
また、アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液に、金属塩を添加してもよい。金属塩としては、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、ニッケル、亜鉛、銅などの金属元素の、硫酸塩、亜硫酸塩、次亜硫酸塩、過硫酸塩、チオ硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ピロリン酸、塩酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物(たとえば、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)等が例示できるが、これらに限定されない。金属塩は、より具体的には、例えば、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、過硫酸ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸カリウム、亜硫酸カリウム、次亜硫酸カリウム、チオ硫酸カリウム、炭酸カリウム、過硫酸カリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、酢酸カリウム、硝酸カリウム、亜硝酸カリウム、クエン酸カリウム、シュウ酸カリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、チオ硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、第一リン酸マグネシウム、第二リン酸マグネシウム、第三リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、亜硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、チオ硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、塩化カルシウム等が例示できる。金属塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0043】
一態様において、酵母の良好な生存率の観点から、金属塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選択される元素の、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、又はそれらの組み合わせであることが好ましく、マグネシウム及び/又はカルシウムの硫酸塩であることがより好ましい。なお、本明細書における「金属塩」は、金属塩の水和物や溶媒和物も含まれる。
【0044】
また、別の一態様において、アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液は、グルコース、フルクトース等の単糖類;スクロース、ラクトース、マルトース等のトレハロース以外の二糖類;シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロース、コーンスターチ等の多糖類; 大豆タンパク等のタンパク質; 大豆ペプチド、ゼラチン、ペプトン、トリプトン等のタンパク加水分解物やペプチド; 大豆油、菜種油、パーム油、ゴマ油、オリーブ油等の油脂; アスコルビン酸やその塩、トコフェロール等のビタミン類; ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の界面活性剤; ポリエチエレングリコール、グリセリンなどを含んでいてもよい。
【0045】
また、アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液はpH調整剤等を含んでいてもよい。
【0046】
2.アルカリ耐性及び/又は高温耐性を有する酵母の製造方法
本発明はまた、アニオン性官能基を有する多糖類を含有する水溶液において酵母を培養することを含む、アルカリ耐性及び/又は高温耐性を有する酵母の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称することがある)を提供する。
【0047】
本発明の製造方法の具体的な実施形態は、上述した本発明の方法と同様である。
【0048】
3.酵母へのアルカリ耐性及び/又は高温耐性付与用剤
本発明はまた、アニオン性官能基を有する多糖類を含む、酵母へのアルカリ耐性及び/又は高温耐性付与用剤(以下、「本発明の剤」と称することがある)を提供する。
【0049】
本発明の剤に含まれる、アニオン性官能基を有する多糖類は、本発明の方法において説明したものと同じである。一態様において、本発明の剤に含まれるアニオン性官能基を有する多糖類は、DAGであるか、又はDAGとアルギン酸の混合物であり得る。
【0050】
本発明の剤に配合されるアニオン性官能基を有する多糖類の量は特に限定されないが、剤全体に対して、通常0.001~100重量%であり、好ましくは1~100重量%であり、より好ましくは10~100重量%であり得るが、これらに限定されない。
【0051】
本発明の剤は、アニオン性官能基を有する多糖類以外の成分を含んでいてもよい。かかる成分としては、例えば、酵母の栄養源となる物質や酵母の生物学的機能や生存性を高め得る物質などが挙げられるが、これらの成分は、本発明の方法において説明したものと同じである。
【0052】
本発明の剤の剤形もまた特に限定されないが、通常は、固体状、粒状、粉末状、液体状、スラリー状など、任意の剤形であって良い。
【0053】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0054】
[試験例1]脱アシル化ジェランガム(DAG)水溶液の作製
ガラス製培地ビンに100容量部の水道水およびDAG(三晶株式会社製)を0.8重量部加え、オートクレーブ滅菌処理(121℃、20分)を行うことにより0.8%(重量/容量)DAG水溶液を作製した。
【0055】
[試験例2]酵母への耐性付与用の液体組成物の作製
水道水に尿素、及び各種金属塩を混合した水溶液(以下、「基礎水溶液」と称することがある)を調製した。基礎水溶液に対して、試験例1で作製した0.8%(重量/容量)DAG水溶液、又はこれを水道水で0.08%(重量/容量)に希釈したDAG水溶液を混合することで、0.04%(重量/容量)のDAGを含有する液体組成物(以下、DAGを含有する液体組成物を「耐性付与用液体組成物」と称することがある)を作製した。尚、基礎水溶液とDAG水溶液の混合には3次元培地作製キット(日産化学 FCeM(登録商標)-series Preparation Kit)を使用し、以下の手順で行った。
【0056】
<3次元培地作製キットを用いた耐性付与用液体組成物の作製>
3次元培地作製キットを使用した耐性付与用液体組成物の作製においては、50mLコニカルチューブ(住友ベークライト社製)に47.5mLの1倍基礎水溶液を分注し、キットの構成品であるアダプターキャップを装着した。つぎに、2.5mLの0.8%(重量/容量)DAG水溶液を充填したディスポーザブルシリンジの先端部をアダプターキャップの円筒部に嵌め込んで接続し、シリンジのプランジャーを人力で押圧し、勢い良くシリンジ内のDAG水溶液を容器内へと射出して基礎水溶液と混合させて0.04%DAGを含有する耐性付与用液体組成物を作製した。
【0057】
[試験例3]耐性付与用液体組成物を用いたアルカリ性耐性及び高温耐性の付与
[1.微生物の調製]
油脂分解能を有する酵母の1種であるY.lipolyticaを含む懸濁標準液0.1Lを遠心管に分注し、遠心分離(6000×g、10分、15℃)した。遠心分離後に上清を廃棄し、得られた酵母のペレットの全てを基礎水溶液に懸濁させることでY.lipolyticaの懸濁標準液の40倍濃縮液を調製した。
また、比較菌として、油脂分解能を有する細菌の1種である、バークホルデリア・アルボリス(B. arboris)についても同様の操作を行い、B. arborisの懸濁標準液の40倍濃縮液を調製した。
【0058】
耐性付与用液体組成物を用いた静置培養を次の通り行った:0.04%(重量/容量)DAGを含有する耐性付与用液体組成物9.5mLあるいはDAGを含有しない基礎水溶液9.5mLをそれぞれ15mLチューブに添加し、これに対してY.lipolytica又はB. arborisの40倍濃縮液をそれぞれ0.5mL添加した。上記サンプルはそれぞれ2本ずつ調製した。調製したサンプルを冷蔵下で14日間静置した。
【0059】
サンプルを冷蔵下で14日間静置後に、それぞれのサンプルから3.2mLを採取し、これをY.lipolytica及びB. arborisが生存や増殖に必要な栄養素(尿素:45mg/L、KH2PO4:5.25mg/L、Na2HPO4:1.41mg/L、キャノーラ油:500ppm/L、Triton-X:50ppm/L)を含有する水溶液(以下、「油脂含有水溶液」と称することがある)を用いて再培養した。
【0060】
なお、静置培養により微生物に耐性が付与されているかを確認するために、油脂含有水溶液での培養は次の2つの条件で行った:
[高温条件]40℃、pH7.3、常時撹拌(120rpm)
[アルカリ条件]30℃、pH10、常時撹拌(120rpm)
【0061】
油脂含有水溶液を用いた微生物の培養は6時間実施した。菌数のカウントのためのサンプリングは、培養開始時及び培養開始後6時間の時点で行った。
【0062】
また、培養した微生物の菌数のカウントは、次の手順で行った。培養後のサンプルをよく懸濁した。各サンプルをカウントに適した濃度となるように適宜希釈し、希釈後のサンプルを0.1mL採取し、平板培地2枚に滴下し、コンラージ棒を用いて菌液を培地上に塗布した。B.arborisのコロニー形成にはオイル寒天培地を、Y.lipolyticaのコロニー形成には抗生物質を添加したLB寒天培地を用いた。微生物を塗布した平板培地は、30℃で3日以上培養し、その後、平板培地上に形成したコロニー数をカウントし、生菌数とした。コロニー数は2枚の平板培地の平均を用いた。結果を表1~表4に示す。尚、表1は高温条件で培養したB. arborisの結果を、表2は高温条件で培養したY.lipolyticaの結果を、表3はアルカリ条件で培養したB. arborisの結果を、表4は、アルカリ条件で培養したY.lipolyticaの結果を、それぞれ示す。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
表1~4に示される通り、高温条件(40℃)又はアルカリ条件(pH10)で6時間培養すると、基礎水溶液で14日間静置したサンプルでは、両微生物とも生存率が減少した。
一方で、耐性付与用液体組成物で14日間静置したY. lipolyticaは、高温条件での培養において8%の生存が確認された。また、驚くべきことに、耐性付与用液体組成物で14日間静置したY. lipolyticaは、アルカリ条件での培養において生存率が152%まで上昇した。
【0068】
以上の結果から耐性付与用液体組成物中でY. lipolyticaを培養すると、高温耐性及びアルカリ耐性を付与できることが示された。一方で、油脂分解性細菌であるB. arborisにおいては、かかる耐性付与効果は確認されなかった。
【0069】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明においては、以下のようなメカニズムを介して、酵母に耐性が付与されるものと予想される:
(1)酵母を、多糖類を含む液体組成物中で培養すると酵母が多糖類に接着した状態となる;
(2)多糖類との接着により酵母の遺伝子発現プロファイルが変化する;
(3)遺伝子発現プロファイルが変化した結果として、酵母のタンパク質発現プロファイルが変化し、酵母の細胞壁などの組成が変更され、耐性を獲得する。
本発明によれば、簡便且つ遺伝子操作を伴わずに、酵母にアルカリ耐性や高温耐性を付与することができる。従って、本発明は、食品、医薬品、バイオ燃料などの製造業や環境修復分野などにおいて極めて有用である。