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特開2024-104800ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104800
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20240730BHJP
   C08J 9/24 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CEZ
C08J9/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009161
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】福手 恭之
(72)【発明者】
【氏名】玉岡 章宏
【テーマコード(参考)】
4F070
4F074
【Fターム(参考)】
4F070AA58
4F070AB23
4F070AB24
4F070DA41
4F070DB01
4F070DC07
4F070DC09
4F074AA87
4F074CA52
4F074CC03Y
4F074CC04Y
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA24
4F074DA43
4F074DA47
4F074DA57
(57)【要約】
【課題】樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体が良好な表面状態を有する樹脂粉体、及びその製造方法、並びに該樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体、及びその製造方法をを提供する。
【解決手段】平均粒径が5μm以上100μm以下であり、示差走査熱量計で測定される融点Tm1のピーク幅が10℃以下である、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体により、上記課題を解決する。該ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体は、動的画像解析法で測定される平均円形度が0.70以上1.00以下であることが好ましい。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が5μm以上100μm以下であり、示差走査熱量計で測定される融点Tm1のピーク幅が10℃以下である、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体。
【請求項2】
動的画像解析法で測定される平均円形度が0.70以上1.00以下である、請求項1に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体。
【請求項3】
最大粒径と平均粒径との比(最大粒径/平均粒径)が、6.5以下である、請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体であり、空孔率が20%以上60%以下である、多孔質成形体。
【請求項5】
周波数1MHzにおける比誘電率が1.0以上2.5以下である、請求項4に記載の多孔質成形体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の製造方法であって、
平均粒径が5μm以上100μm以下であり、示差走査熱量計で測定される融点Tm1が250℃以上300℃以下であるポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を含有する粉体材料を、270℃より高く300℃未満の温度、及び0.5時間より長く8時間未満の時間で熱処理することを有する、製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の多孔質成形体の製造方法であって、
平均粒径が5μm以上100μm以下であり、示差走査熱量計で測定される融点Tm1のピーク幅が10℃以下である、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を含有する材料を、270℃以上315℃以下の温度、及び0.1MPa以上30MPa以下の圧力でプレス成形することを有する、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体及びその製造方法、並びに該粉体からなる多孔質成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体は、樹脂粉体を、粒子同士が重なり合う界面に空隙が残った多孔質の状態で熱処理して固めた成形体であり、フィルター、吸音材、含浸材、塗布材、医療関連部品、情報関連部品及びエレクトロニクス部品等の種々の用途に用いられている。ポリアリーレンサルファイド樹脂は、高い機械的強度を有するとともに、耐熱性及び耐薬品性等に優れているため、ポリアリーレンサルファイド樹脂微粒子を含む樹脂粉体は高温環境や酸性溶液と接触する環境等において用いることができる多孔質成形体を形成できると期待されている。
ポリアリーレンサルファイド樹脂の粒子を用いてなる多孔質成形体として、上記種々の用途に所望される高い強度、並びに優れた誘電特性、透過性、及び通気性を有する多孔質成形体が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-7387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリアリーレンサルファイド樹脂の粒子を用いてなる多孔質成形体は、成形時の加熱加圧処理によって、又はその後の冷却によって表面に割れやヒケが発生する場合があり、上記種々の用途に所望される表面状態の特性が十分ではない場合がある。
【0005】
本発明は、良好な表面状態を有する多孔質成形を与えることができる樹脂粉体、及びその製造方法、並びに該樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に関するものである。
[1] 平均粒径が5μm以上100μm以下であり、示差走査熱量計で測定される融点Tm1のピーク幅が10℃以下である、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体。
[2] 動的画像解析法で測定される平均円形度が0.70以上1.00以下である、[1]に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体。
[3] 最大粒径と平均粒径との比(最大粒径/平均粒径)が、6.5以下である、[1]又は[2]に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体。
[4] [1]~[3]の何れかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体であり、空孔率が20%以上60%以下である、多孔質成形体。
[5] 周波数1MHzにおける比誘電率が1.0以上2.5以下である、[4]に記載の多孔質成形体。
[6] [1]~[3]の何れかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の製造方法であって、
平均粒径が5μm以上100μm以下であり、示差走査熱量計で測定される融点Tm1が250℃以上300℃以下であるポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を含有する粉体材料を、270℃より高く300℃未満の温度、及び0.5時間より長く8時間未満の時間で熱処理することを有する、製造方法。
[7] [4]~[6]の何れかに記載の多孔質成形体の製造方法であって、
平均粒径が5μm以上100μm以下であり、示差走査熱量計で測定される融点Tm1のピーク幅が10℃以下である、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を含有する材料を、270℃以上315℃以下の温度、及び0.1MPa以上30MPa以下の圧力でプレス成形することを有する、製造方法。
[8] 多孔質成形体を製造するための、[1]~[3]の何れかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体。
[9] 多孔質成形体を製造するための、[1]~[3]の何れかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の使用。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好な表面状態を有する多孔質成形体を与えることができる樹脂粉体、及びその製造方法、並びに該樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。本発明における数値範囲についての「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。
【0009】
[ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体]
本発明者は、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の融点Tm1のピーク幅を所定の範囲にすることで、該樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体が良好な表面状態を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
(樹脂粉体)
本実施形態に係るポリアリーレンサルファイド樹脂粉体(以下、「樹脂粉体」ともいう)は、平均粒径が5μm以上100μm以下であり、示差走査熱量計で測定される融点Tm1のピーク幅が10℃以下である。
【0011】
ここで、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体は、粉体粒子から構成される。
【0012】
樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体の強度は、バーコル硬度計を用いて、多孔質成形体の上に直径40mm×厚さ3mmのガラス板を載せた状態で80Nの荷重を加え、破壊が認められない強度であることが好ましい。
【0013】
樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体の比誘電率は、周波数1MHzで測定した場合に、1.0以上2.5以下であることが好ましく、1.2以上2.0以下であることがより好ましい。比誘電率は、例えば、誘電率測定装置(Novocontrol Technologies社製、Concept42)を用いて測定することができる。
【0014】
ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の示差走査熱量計で測定される融点Tm1のピーク幅は、10℃以下であることが好ましく、0℃以上10℃以下であることがより好ましく、5℃以上10℃以下であることがさらに好ましく、6℃以上10℃以下であることがさらに好ましい。6℃以上10℃以下である場合、6℃であっても、7℃であっても、8℃であっても、9℃であっても、10℃であってもよく、6.5℃であっても、7.2℃であっても、7.8℃であっても、8.7℃であっても、9.1℃であっても、9.3℃であってもよく、これらの何れかを下限、他の何れかを上限とする範囲であってもよい。
なお、融点Tm1のピーク幅は、JIS K-7121(1999)に基づいた方法により、室温から10℃/分の昇温速度で加熱(1stRUN)した際に観測される1stRUNの融解ピークにおける、融解ピークの開始温度(オンセット温度)と融解ピークの終了温度(オフセット温度)との差とする。ここで、オンセット温度は、融解ピーク曲線の融解開始側でのベースラインと該曲線の変曲点での接線との交点である。オフセット温度は、融解ピーク曲線の融解終了側でのベースラインと該曲線の変曲点での接線との交点である。
融点Tm1のピーク幅を10℃以下とすることにより、樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体が、高い強度及び低誘電率を維持しつつ、その表面状態が良好となり易い。
ここで、本明細書において、多孔質成形体について表面状態が良好であるとは、多孔質成形体の表面に割れ及び/又はヒケが発生していない状態、又は発生が少ない状態を指す。ヒケとは、多孔質成形体の収縮により生じる、意図しない凹みである。
【0015】
一実施形態において、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体は、285℃、0.1MPaの条件による80×10×4mmの曲げ試験片の熱プレスによる成形品の1以上の表面に、直径(最大直線距離)が1mm以上の割れ及び/又はヒケがないことが好ましく、割れ及び/又はヒケがないことがより好ましい。熱プレスは、270℃以上315℃以下の温度、及び0.1MPa以上30MPa以下の圧力で行うことができる。
【0016】
ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の融点Tm1のピーク幅の調整は、樹脂粉体の製造時、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を含有する粉体材料に対する熱処理温度を調整すること、及び/又は熱処理時間を調整することによって行うことができる。
また、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子の溶融粘度が低すぎるとTm1のピーク幅が大きくなる傾向にあるため、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子の溶融粘度を後述する好ましい範囲にすることによってTm1のピーク幅を調整することもできる。
例えば、示差走査熱量計で測定される融点Tm1が250℃以上300℃以下であるポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を含有する粉体材料を、270℃より高く300℃未満の温度、及び0.5時間より長く8時間未満の時間で熱処理することで、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の融点Tm1のピーク幅を容易に10℃以下にすることができる。
【0017】
ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の、平均粒径の好適範囲、最大粒径と平均粒径との比(最大粒径/平均粒径)の好適範囲、及び円形度の好適範囲は、下記で説明するポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子の、平均粒径、最大粒径/平均粒径、及び円形度とそれぞれ同じである。平均粒径、最大粒径/平均粒径、及び円形度は、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子に対する、下記に説明するような熱処理によって変化しないためである。
【0018】
ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の平均粒径は、5μm以上100μm以下であり、好ましくは10μm以上90μm以下であり、より好ましくは15μm以上80μm以下である。平均粒径を5μm以上100μm以下とすることにより、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の粉体粒子同士の密着性を高めることができる。また、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子が、下記の融点Tm1を満たす場合に、プレス成形時に300℃を超える高温又は1500MPaを超える高圧にしなくとも高い強度の多孔質成形体を得易くなる。プレス成形時に高温又は高圧にする必要がないので、得られる多孔質成形体の空孔率が低下することを防ぐことができる。その結果、高い強度に加えて、優れた誘電特性、通気性及び透過性を有する多孔質成形体にすることができる。これに対して、平均粒径が上記範囲を超える場合は、高温又は高圧にしなければ高い強度を有する多孔質成形体を得ることが難しい。
「平均粒径」とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法による体積基準の算術平均粒子径を意味する。平均粒径は、例えば、株式会社堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-960を用いて測定することができる。
【0019】
ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体は、最大粒径と平均粒径との比(最大粒径/平均粒径)が、6.5以下であることが好ましく、5.5以下であることがより好ましい。下限値は特に限定されず、1以上とすることができる。なお、「最大粒径」とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法により測定した値のうち、最大値のことをいう。最大粒径と平均粒径との比(最大粒径/平均粒径)を6.5以下とすることにより、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の粉体粒子同士の密着性をより高めてより高い強度の多孔質成形体にすることができる。
【0020】
ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を構成する粉体粒子は、所定の円形度を有していることが好ましい。すなわち、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体は、動的画像解析法で測定される平均円形度が0.70以上1.00以下であることが好ましく、0.80以上1.00以下であることがより好ましい。平均円形度をこの範囲とすることにより、ポリアリーレンサルファイド樹脂微粒子同士の密着性を高めて高い強度の多孔質成形体にすることができる。平均円形度は、動的画像解析法/粒子状態分析計を用いて、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体中の4500粒の微粒子について、面積Aと周囲長Pから円形度を以下の式(II)から算出し、その平均値とする。
円形度=(4×π×A)/P ・・・(II)
【0021】
ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体は、1種のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。得られる多孔質成形体の強度を制御しやすい点で、2種以上のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体をブレンドして用いることが好ましい。ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の総使用量は、多孔質成形体中30体積%以上であることが好ましく、50体積%以上であることがより好ましい。上限値は、特に限定されず、例えば、100体積%以下とすることができる。
【0022】
(ポリアリーレンサルファイド樹脂)
ポリアリーレンサルファイド樹脂は、以下の一般式(I)で示される繰り返し単位を有する樹脂である。
-(Ar-S)- ・・・(I)
(但し、Arは、アリーレン基を示す。)
【0023】
アリーレン基は、特に限定されないが、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等を挙げることができる。ポリアリーレンサルファイド樹脂Aは、上記一般式(I)で示される繰り返し単位の中で、同一の繰り返し単位を用いたホモポリマーの他、用途によっては異種の繰り返し単位を含むコポリマーとすることができる。
【0024】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp-フェニレン基を有する、p-フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするものが好ましい。p-フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするホモポリマーは、極めて高い耐熱性を持ち、広範な温度領域で高強度、高剛性、さらに高い寸法安定性を示すからである。このようなホモポリマーを用いることで非常に優れた物性を備える成形品を得ることができる。
【0025】
コポリマーとしては、上記のアリーレン基を含むアリーレンサルファイド基の中で異なる2種以上のアリーレンサルファイド基の組み合わせが使用できる。これらの中では、p-フェニレンサルファイド基とm-フェニレンサルファイド基とを含む組み合わせが、耐熱性、成形性、機械的特性等の高い物性を備える成形品を得るという観点から好ましい。p-フェニレンサルファイド基を70mol%以上含むポリマーがより好ましく、80mol%以上含むポリマーがさらに好ましい。なお、フェニレンサルファイド基を有するポリアリーレンサルファイド樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)である。
【0026】
ポリアリーレンサルファイド樹脂は、一般にその製造方法により、実質的に線状で分岐や架橋構造を有しない分子構造のものと、分岐や架橋を有する構造のものが知られているが、本実施形態においてはその何れのタイプのものについても有効である。
【0027】
ポリアリーレンサルファイド樹脂の製造方法は、特に限定されず、従来公知の製造方法によって製造することができる。例えば、低分子量のポリアリーレンサルファイド樹脂を合成後、公知の重合助剤の存在下で、高温下で重合して高分子量化することで製造することができる。
【0028】
ポリアリーレンサルファイド樹脂には、各種の繊維状、粉粒状、板状の無機及び有機の充填剤を配合することができる。繊維状充填剤としては、ガラス繊維、ミルドガラスファイバー、カーボン繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、ウォラストナイト等の珪酸塩の繊維、硫酸マグネシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状充填剤はガラス繊維である。なお、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維状物質も使用することができる。
粉粒状充填剤としては、カーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、クレー、硅藻土、ウォラストナイト等の硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナ等の金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、タルク、各種の金属箔等が挙げられる。
これらの無機及び有機充填剤は一種又は二種以上併用することができる。
【0029】
充填剤の含有量は、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、5~200質量部とすることができる。また、ポリアリーレンサルファイド樹脂には、その他の成分として、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、結晶核剤等の添加剤が配合されていてもよい。
【0030】
[ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の製造方法]
ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体は、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を粉体材料として得られる。
本明細書において、「微粒子」との用語は、0.1μm~1000μm程度の平均粒径を有する粒子のことをいう。「平均粒径」の測定方法については、上述のとおりである。
【0031】
本実施形態に係るポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の製造方法は、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を含有する粉体材料を熱処理する工程を有する。
【0032】
ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子としては、上記した、ポリアリーレンサルファイド樹脂の製造方法によって得られたポリアリーレンサルファイド樹脂をそのまま用いることもできるし、上記ポリアリーレンサルファイド樹脂をペレット、繊維、フィルム等に成形したものを、ジェットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ボールミル、カッターミル、石臼型摩砕機等を用いた乾式粉砕、湿式粉砕、冷凍粉砕により粉砕処理したものを用いることもできる。
また、溶媒中にポリアリーレンサルファイド樹脂を溶解させた後にスプレードライする方法、溶媒中でエマルションを形成した後で貧溶媒に接触させる貧溶媒析出法、溶媒中でエマルションを形成した後で有機溶媒を乾燥除去する液中乾燥法等により得られたポリアリーレンサルファイド樹脂を用いることもできる。ポリアリーレンサルファイドと熱可塑性樹脂を混ぜ合わせた後、熱可塑性樹脂を溶媒で溶解除去して、上記平均粒径を有する、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を得る方法を用いることもできる。
【0033】
ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子の示差走査熱量計で測定される融点Tm1は、250℃以上300℃以下であり、好ましくは255℃以上300℃以下であり、より好ましくは260℃以上300℃以下である。融点Tm1を250℃以上300℃以下とすることにより、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を含有する粉体材料を用いて製造されたポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体の耐熱性を高めることができるとともに、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体が後述する平均粒径を満たす場合に、高い強度に加えて、優れた誘電特性、通気性及び透過性を有する多孔質成形体にすることができる。
なお、融点Tm1は、JIS K-7121(1999)に基づいた方法により、室温から10℃/分の昇温速度で加熱(1stRUN)した際に観測される1stRUNの融解ピークにおけるピークトップの温度とする。
【0034】
ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子は、示差走査熱量計で測定される融点Tm1よりも30℃高いシリンダー温度及びせん断速度1200sec-1で測定した溶融粘度が、25Pa・s以上5000Pa・s以下であることが好ましく、30Pa・s以上1000Pa・s以下であることがより好ましい。30Pa・s以上1000Pa・s以下である場合、50Pa・s以上800Pa・s以下であっても、100Pa・s以上500Pa・s以下であってもよい。ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子の溶融粘度を25Pa・s以上5000Pa・s以下とすることにより、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を含有する粉体材料を用いて製造されたポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を用いて均質な多孔質成形体を得ることができる。溶融粘度の調整は、ポリアリーレンサルファイド樹脂の重合時のモノマー仕込み比を調整すること、重合時間を制御すること、及び溶融粘度が異なるポリアリーレンサルファイド樹脂をブレンドすることなどで行うことができる。
【0035】
ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子の、平均粒径の好適範囲、最大粒径と平均粒径との比(最大粒径/平均粒径)の好適範囲、及び円形度の好適範囲は、上記で説明したポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の、平均粒径、最大粒径/平均粒径、及び円形度とそれぞれ同じである。平均粒径、最大粒径/平均粒径、及び円形度は、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子に対する、下記に説明するような熱処理によって変化しないためである。
一実施形態において、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の製造方法は、平均粒径が5μm以上100μm以下であり、示差走査熱量計で測定される融点Tm1が250℃以上300℃以下であるポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を含有する粉体材料を熱処理する工程を有する。
【0036】
ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子に対する熱処理の温度は、270℃より高く300℃未満であることが好ましく、275℃以上290℃以下であることがより好ましく、280℃以上290℃以下であることがさらに好ましい。280℃以上290℃以下である場合、280℃であっても、285℃であっても、290℃であってもよく、これらの何れかを下限、他の何れかを上限とする範囲であってもよい。
熱処理時間は、0.5時間より長く8時間未満であることが好ましく、2時間以上8時間未満であることがより好ましく、2.5時間以上7時間以下であることがさらに好ましく、3時間以上7時間以下であることがさらに好ましく、3時間以上6時間以下であることがさらに好ましい。3時間以上6時間以下である場合、3時間であっても、4時間であっても、5時間であっても、6時間であってもよく、これらの何れかを下限、他の何れかを上限とする範囲であってもよい。
ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を含む粉体材料に対し、270℃より高く300℃未満、0.5時間より長く8時間未満の条件で熱処理することにより、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体のTm1のピーク幅を容易に10℃以下にすることができる。その結果、得られるポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を用いてなる多孔質成形体が、高い強度及び低誘電率を維持しつつ、その表面状態が良好な、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を得やすくなる。
【0037】
上記熱処理温度と時間とは、何れの範囲を組み合わせて行ってもよい。
一実施形態において、270℃より高く300℃未満である温度で、好ましくは0.5時間より長く8時間未満、より好ましくは2.5時間以上7時間以下、さらに好ましくは3時間以上7時間以下、さらに好ましくは3時間以上6時間以下の時間、熱処理する。
一実施形態において、0.5時間より長く8時間未満の時間、好ましくは270℃より高く300℃未満、より好ましくは275℃以上290℃以下、さらに好ましくは280℃以上290℃以下である温度で、熱処理する。
一実施形態において、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の製造方法は、平均粒径が5μm以上100μm以下であり、示差走査熱量計で測定される融点Tm1が250℃以上300℃以下であるポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を含有する粉体材料を、275℃以上290℃以下の温度で、3時間以上6時間以下の時間熱処理することが好ましい。275℃以上290℃以下の温度で、3時間以上6時間以下の時間熱処理する工程を有する。これにより、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子が溶融することなく粉体を取得し易くなり、かつ/又はポリアリーレンサルファイド樹脂粉体のTm1のピーク幅を10℃以下にし易くなる。
【0038】
一実施形態において、ポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子に対する熱処理量は、下記式:
熱処理量=[対数表示した加熱温度(℃)×加熱時間(時)]
(但し、加熱温度は270℃より高く300℃未満であり、加熱時間は0.5時間より長く8時間未満である)
で表される。
ここで、対数表示の底は限定されない。
例えば、加熱温度X(℃)をlоg10Xで表した場合(表1)、上記式で表される熱処理量は、6.10~17.24であることが好ましく、7.00~14.70であることがより好ましく、7.38~12.26であることがさらに好ましい。
【0039】
熱処理は、例えば、酸素雰囲気下、窒素気流下、又は乾燥空気下の何れで行うこともできるが、酸素雰囲気下で行うことが好ましい。また、熱処理は、加圧又は減圧といった気圧調節環境下で行ってもよい。
熱処理のための装置としては、送風乾燥機(例えば、竪型通気回転乾燥機、回転型通気乾燥機、バンド型通気乾燥機、回分式通気乾燥機など)等を例示できる。例えば、熱処理は、「HIGH-Temp.OVEN PHH-201」(エスペック株式会社製)等の空気循環式乾燥機を用いて行うことができる。
【0040】
[多孔質成形体]
本実施形態に係る多孔質成形体は、上記した「ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体」を用いて形成されているので、高い強度、並びに優れた誘電特性、透過性、及び通気性を維持しつつ、良好な表面状態を有する。
多孔質成形体は、空孔率が、20%以上60%以下であり、25%以上55%以下であることが好ましい。空孔率が20%以上60%以下であるので、高い強度を維持しつつ、優れた誘電特性、通気性及び透過性を達成することができる。空孔率の調整は、プレス成形する工程における温度及び圧力を所定の範囲にするにより行うことができる。
【0041】
空孔率の算出方法は、例えば、水、水銀等の各種流体の加圧下での充填量から求める方法の他、より簡便には、比重計を用いて測定した見掛け比重と真比重の関係より、以下の式(III)から求めることもできる。
空孔率(%)=(1-(見掛け比重)/(真比重))×100・・・(III)
【0042】
上記多孔質成形体は、高い強度、低誘電率、優れた通気性及び透過性、並びに良好な表面状態を有する耐熱性多孔質成形体であるので、フィルター、吸音材、含浸材、塗布材、医療関連部品、情報関連部品、およびエレクトロニクス部品等の種々の用途において好ましく用いることができる。中でも、周波数1MHzにおける比誘電率が好ましくは1.0以上2.5以下であり、より好ましくは1.2以上2.0以下である多孔質成形体は、情報関連部品及びエレクトロニクス部品等の電気・電子部品用に好ましく用いることができる。
【0043】
[多孔質成形体の製造方法]
本実施形態に係る多孔質成形体の製造方法は、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を含有する材料を、プレス成形する工程を有する。
【0044】
(プレス成形工程)
プレス成形工程では、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を含有する材料を、270℃以上315℃以下の温度、好ましくは275℃以上310℃以下の温度、より好ましくは275℃以上300℃以下、及び0.1MPa以上30MPa以下の圧力、好ましくは0.1MPa以上20MPa以下の圧力でプレス成形する工程を有する。プレス成形工程により、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体は、粉体粒子同士が重なり合う界面に空隙を維持したまま部分的に溶着されて多孔質成形体を形成する。温度が上記範囲に満たない場合は、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体中の粉体粒子間の密着性が悪く多孔質成形体が破壊されやすい。
【0045】
ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体は、1種のみでもよいし2種以上を混合して用いることもできる。後述する半溶融状態を制御し易く多孔質成形体の強度を向上させ易い点で、2種以上のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体をブレンドして用いることが好ましい。多孔質成形体の製造には、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体のみからなる材料を用いてもよいし、上記ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を、充填剤や他の添加剤と混合した混合材料を用いてもよい。充填剤や添加剤としては、上記のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体に配合することができる充填剤や添加剤と同じものを用いることができる。混合材料とする場合のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の使用量は、全材料中10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。充填剤及び添加剤の使用量は、全材料中、90質量%以下とすることができ、80質量%以下とすることもできる。混合方法は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、振とうによる混合方法、ボールミル等の粉砕を伴う混合方法、ヘンシェルミキサー等の攪拌翼による混合方法等を用いることができる。
【0046】
本実施形態では、上記所定のポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を含有する材料を用いるので、上記の温度及び圧力の範囲でプレス成形することで、ポリアリーレンサルファイド樹脂が半溶融した状態でプレス成形することができる。半溶融状態でプレス成形することにより、多孔質成形体の強度を高めることができる。また、半溶融状態でプレス成形する場合、プレス圧力を調整することで、多孔質成形体の空孔率と強度とを調整することができる。その結果、多孔質成形体の強度や誘電特性、通気性及び透過性等の特性を制御することが可能となる。例えば、半溶融状態でプレス成形した多孔質成形体は、空孔率が40%~55%であり比誘電率が2未満とすることができる。これに対して、プレス圧力のみによる未溶融状態でのプレス成形では、所望の強度を有する多孔質成形体を得るためには、プレス圧力を高圧にする必要があり、その場合は空孔率が過度に減少してしまい特性が悪化してしまう。例えば、後述する比較例ではプレス圧力を2000MPaにしなければ所望の強度が達成できず、その場合空孔率が20%未満に減少し誘電特性が悪化している。
【0047】
プレス成形方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。プレス成形方法としては、例えば、治具内に材料を充填し、270℃以上315℃以下の温度、好ましくは275℃以上310℃以下の温度、より好ましくは275℃以上300℃以下の温度、及び0.1MPa以上30MPa以下の圧力、好ましくは0.1MPa以上20MPa以下の圧力で、加圧成形する方法を挙げることができる。なお、融点Tm1はポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の上記融点Tm1である。その後、放冷することにより多孔質成形体を得ることができる。こうして得られた多孔質成形体は、上記したポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を含む粉体材料を用いて形成されているので、高い強度、低誘電率、優れた通気性及び透過性、耐熱性、並びに良好な表面状態を有する。
一実施形態において、多孔質成形体の製造方法は、平均粒径が5μm以上100μm以下であり、示差走査熱量計で測定される融点Tm1のピーク幅が10℃以下である、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を含有する材料を、270℃以上315℃以下の温度、及び0.1MPa以上30MPa以下の圧力でプレス成形する工程を有することが好ましい。
【0048】
(その他の工程)
さらに別の工程として、ポリアリーレンサルファイド樹脂微粒子同士の密着性をより高めることができる点で、プレス成形工程で得られた多孔質成形体をさらにオーブン等で加熱焼結させる焼結工程を有していてもよい。焼結工程は、プレス成形工程で得られた多孔質成形体を、例えば、270℃~305℃、好ましくは275℃~300℃の温度で、1時間以上20時間以下、好ましくは1時間以上20時間以下で加熱して焼結させる工程とすることができる。
【実施例0049】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0050】
[ポリアリーレンサルファイド樹脂]
実施例及び比較例で用いたポリアリーレンサルファイド樹脂は、以下のとおりである。
PPS:ポリフェニレンサルファイド樹脂、株式会社クレハ製「フォートロンKPS」、(溶融粘度:130Pa・s(せん断速度:1216sec-1、310℃))
【0051】
[実施例1~7、及び比較例1~9]
PPSを気流式ジェットミル(株式会社セイシン企業製、縦型ジェット粉砕機SKジェット・オー・ミル)を用いて、乾式粉砕処理してポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を得た。このポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子の融点Tm1、溶融粘度、平均粒径、最大粒径、及び平均円形度を、後述の方法で測定した。結果を表2に示した。
得られたポリアリーレンサルファイド樹脂の微粒子を空気循環式乾燥機(エスペック株式会社製「HIGH-Temp.OVEN PHH-201」)を用いて、表2に示す熱処理条件(温度及び時間)で熱処理してポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を得た。
ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体の融点Tm1のピーク幅を後述の方法で測定した。結果を表2に示した。
【0052】
得られたポリアリーレンサルファイド樹脂粉体2.4gを、80×10×4mmの曲げ試験片の金型に充填して、熱プレス成形機(株式会社東洋精機製作所製「Mini Test Press-10」)を用いて、表2に示す温度及び圧力の条件で多孔質成形体を製造した。多孔質成形体は、熱プレス後12時間室温で放冷した。この多孔質成形体の空孔率、強度、比誘電率、表面状態について後述の方法で評価した。結果を表2に示した。
【0053】
[測定]
(融点Tm1)
JIS K-7121(1999)に基づいた方法により、示差走査熱量計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、DSC7000X)を用いて、室温から10℃/分の昇温速度で加熱(1stRUN)した際に観測される融解ピークにおけるピークトップの温度を融点Tm1として測定した。
【0054】
(溶融粘度)
キャピラリー式レオメーター(株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ1D:ピストン径10mm)を用いて、融点Tm1よりも30℃高いシリンダー温度及びせん断速度1200sec-1の条件で、ISO 11443に準拠し、見かけの溶融粘度を測定した。測定には、内径1mm、長さ10mmのオリフィスを用いた。
【0055】
(平均粒径及び最大粒径)
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-960)を用いて、平均粒径及び最大粒径を測定した。なお、平均粒径は、体積基準の算術平均粒子径である。得られた平均粒径及び最大粒径から、最大粒径/平均粒径を算出した。
【0056】
(円形度)
動的画像解析法/粒子状態分析計(株式会社セイシン企業製、PITA-3)を用いて、ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体中の4500粒の微粒子について、面積Aと周囲長Pから円形度を以下の式(II)から算出し、その平均値を樹脂粉体の平均円形度とした。なお、表2中の「円形度」は平均円形度を示す。
円形度=(4×π×A)/P ・・・(II)
【0057】
(融点Tm1のピーク幅)
JIS K-7121(1999)に基づいた方法により、示差走査熱量計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、DSC7000X)を用いて、室温から10℃/分の昇温速度で加熱(1stRUN)した際に観測される1stRUNの融解ピークにおける、融解ピークの開始温度(オンセット温度)と融解ピークの終了温度(オフセット温度)との差を融点Tm1のピーク幅として測定した。オンセット温度は、融解ピーク曲線の融解開始側でのベースラインと該曲線の変曲点での接線との交点である。オフセット温度は、融解ピーク曲線の融解終了側でのベースラインと該曲線の変曲点での接線との交点である。
【0058】
[評価]
実施例及び比較例で得られた多孔質成形体について、以下の方法で空孔率、強度、比誘電率、及び表面状態を評価した。結果を表2に示した。
【0059】
(空孔率)
空孔率は、見かけ比重と真比重から下記式(III)により求めた。なお、見掛け比重は、比重計(ミラージュ社製、「電子比重計SD-120L」)を用いて測定した。真比重は無孔の成形体を射出成形により作製して同じ比重計で測定した。
空孔率=(1-(見掛け比重)/(真比重))×100・・・(III)
【0060】
(強度)
バーコル硬度計(BarberColmanCompany社)を用いて、多孔質成形体の上に直径40mm×厚さ3mmのガラス板を載せた状態で、80Nの荷重を加えた。多孔質成形体の強度を、以下の基準に従って評価した。
良:破壊が認められない
不良:破壊が認められる
【0061】
(比誘電率)
誘電率測定装置(Novocontrol Technologies社製、Concept42)を用いて、1MHzでの比誘電率を測定した。
【0062】
(表面状態)
ポリアリーレンサルファイド樹脂粉体を、熱プレス成形機でプレス成形した後、多孔質成形体を12時間室温で放冷した。各多孔質成形体の直方体の全面を肉眼で観察し、ノギスを使用してヒケ(窪み)の長さ(長辺)を測定し、ヒケ及び割れの状態を以下のように評価した。
【0063】
・レベル5:成形後の冷却時に、表面に割れは無い。また、表面にヒケは無い。成形体としての使用は可能。
・レベル4:成形後の冷却時に、表面に割れは無い。また、表面に若干(1mm未満)のヒケがある。成形体としての使用は可能。
・レベル3:成形後の冷却時に、表面に割れは無い。しかし、表面に1mm程度のヒケがある。成形体としての使用はできない。
・レベル2:成形後の冷却時に、表面に割れが入っている。また、表面に1mm以上のヒケがある。成形体としての使用はできない。
・レベル1:成形後の冷却時に、表面が割れている。また、表面に1mm以上のヒケがある。成形体としての使用はできない。
このうち、成形体としての使用が可能なレベル4及びレベル5について、表面状態が良好であると判断した。
【0064】
【0065】
表2から明らかなように、実施例1~7の多孔質成形体は、強度評価において破壊が認められず、高い強度を示した。また、空孔率が20%以上60%以下であり、低い誘電率を示した。さらに、表面状態が4又は5であって、すなわち良好であった。
よって、実施例の多孔質成形体は、高い強度、並びに優れた誘電特性、透過性、及び通気性を維持しつつ、良好な表面状態を達成することができる。