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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104831
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】加工食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20240730BHJP
   A23L 13/60 20160101ALI20240730BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20240730BHJP
   A23L 29/10 20160101ALI20240730BHJP
   A23L 13/10 20160101ALI20240730BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20240730BHJP
   A23L 3/3517 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A23L5/00 Z
A23L13/60 A
A23L13/00 Z
A23L29/10
A23L13/10
A23L13/60 Z
A23D7/00 504
A23L3/3517
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009213
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】柿原 健佑
(72)【発明者】
【氏名】渡部 晶大
【テーマコード(参考)】
4B021
4B026
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
4B021LA06
4B021LA30
4B021LA41
4B021LP09
4B021LP10
4B021LW04
4B021MC01
4B021MK01
4B021MK21
4B021MK28
4B021MP02
4B021MP03
4B021MQ01
4B021MQ04
4B026DC03
4B026DK01
4B026DK03
4B026DP10
4B026DX03
4B035LC05
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4B035LE07
4B035LE20
4B035LG01
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4B035LP03
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4B035LP35
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4B035LP59
4B042AC06
4B042AD01
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4B042AD03
4B042AD05
4B042AD08
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4B042AD20
4B042AD21
4B042AD39
4B042AG03
4B042AG04
4B042AG06
4B042AH01
4B042AH02
4B042AH06
4B042AK01
4B042AK03
4B042AK04
4B042AK07
4B042AK08
4B042AK11
4B042AK20
4B042AP03
4B042AP07
4B042AP14
4B042AP17
4B042AP18
4B042AP19
4B042AP23
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】化学保存料を用いることなく、また、特別な装置を必要とすることなく、簡易な処理で、加工食品の保存中の生菌の増殖を抑制し、保存性に優れた加工食品を提供する。
【解決手段】加工食品と、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤を含む乳化剤溶液とを接触させる工程を有する、加工食品の製造方法。前記加工食品と前記乳化剤溶液との接触を、該乳化剤溶液を該加工食品に添加、噴霧、又は塗布することによって行うか、あるいは、該乳化剤溶液に該加工食品を浸漬させることにより行うことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工食品と、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤を含む乳化剤溶液とを接触させる工程を有する、加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記乳化剤が、構成脂肪酸の炭素数が14及び/又は16の乳化剤を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される一以上の乳化剤を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステルを含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記乳化剤が、構成脂肪酸の炭素数が16の乳化剤を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記乳化剤のHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値が10以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記乳化剤が、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤を50質量%以上含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記乳化剤が、構成脂肪酸に飽和脂肪酸を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記乳化剤溶液が、エタノールを含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記加工食品と前記乳化剤溶液との接触を、該乳化剤溶液を該加工食品に添加、噴霧、又は塗布することによって行うか、あるいは、該乳化剤溶液に該加工食品を浸漬させることにより行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項11】
前記加工食品が食肉製品である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項12】
前記食肉製品が、ハム、ソーセージ、ベーコン、ブロックチャーシュー、ビーフジャーキー、ローストチキン、唐揚げ、チキンナゲット、サラダチキン、ハンバーグ、又はミートボールである、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記食肉製品が、ソーセージであり、前記乳化剤溶液との接触を、食肉をケーシングに充填させた後に行う、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
加工食品と、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤を含む乳化剤溶液とを接触させる工程を有する、加工食品の静菌方法。
【請求項15】
前記乳化剤溶液が、エタノールを含む、請求項14に記載の静菌方法。
【請求項16】
前記加工食品と前記乳化剤溶液との接触を、該乳化剤溶液を該加工食品に添加、噴霧、又は塗布することによって行うか、あるいは、該乳化剤溶液に該加工食品を浸漬させることにより行う、請求項14又は15に記載の静菌方法。
【請求項17】
前記加工食品が食肉製品である、請求項14又は15に記載の静菌方法。
【請求項18】
前記食肉製品が、ハム、ソーセージ、ベーコン、ブロックチャーシュー、ビーフジャーキー、ローストチキン、唐揚げ、チキンナゲット、サラダチキン、ハンバーグ、又はミートボールである、請求項17に記載の静菌方法。
【請求項19】
前記食肉製品が、ソーセージであり、前記乳化剤溶液との接触を、食肉をケーシングに充填させた後に行う、請求項18に記載の静菌方法。
【請求項20】
少なくともその表面に、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤が添加されている、加工食品。
【請求項21】
前記加工食品が食肉製品である、請求項20に記載の加工食品。
【請求項22】
前記食肉製品が、ハム、ソーセージ、ベーコン、ブロックチャーシュー、ビーフジャーキー、ローストチキン、唐揚げ、チキンナゲット、サラダチキン、ハンバーグ、又はミートボールである、請求項21に記載の加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存中の生菌の増殖が少なく、保存性に優れた加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
加工食品は、食品になんらかの加工・調理を施したものであり、その種類は、水産練り製品、肉加工品、乳加工品、野菜加工品、果実加工品、油脂食品、嗜好食品、調味料、菓子類、冷凍食品、レトルト食品、缶詰食品、びん詰め食品、インスタント食品等、多岐にわたり、近年益々その需要が拡大しつつある。
【0003】
一方で、加工食品はその製造工程において、加熱殺菌された後に、窒素ガス封入されて包装、又は、真空包装され提供されることが一般的であるが、加熱殺菌後、製造ライン等に付着していた菌、特に乳酸菌が加工食品に移行し、乳酸菌が付着した状態で包装されてしまう場合があった。特に乳酸菌は嫌気環境下で増殖し易いため、保存中に酸素濃度が低い加工食品の包装袋内で増殖し易く、加工食品を腐敗・変敗させる原因となる場合があった。
【0004】
従来、加工食品の保存期間における生菌の増殖を抑制し、保存性を高めるために各種の化学保存料が用いられている。しかし、食品添加物に対する消費者の心証から、化学保存料を用いることは好ましいことではなく、さらに、このような化学保存料を用いても、十分に生菌の増殖を抑制できないこともみられた。また、放射線を照射することで微生物を死滅させ、貯蔵安定性を改善する手法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この方法では放射線照射のための装置が必要となる上に、日本国内では食品安全基準から放射線の使用はじゃがいも以外では認められていない。
【0005】
このため、当該分野においては、加工食品の保存における生菌の増殖を抑制することができ、保存性に優れた加工食品を提供するための、新たな手段が切望されていた。
【0006】
特許文献2には、加工食品の一つであるソーセージの充填用ケーシングの調製において、天然腸を、食品用乳化剤を含有する溶液で処理することにより、食感および硬さなどを改善する方法が提案されている。特許文献2では、食品用乳化剤について、「好ましくは炭素数18の不飽和脂肪酸、例えばオレイン酸を、約50質量%以上、好ましくは約70質量%以上含有する不飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸混合物」と記載され、実施例では構成脂肪酸の炭素数が18のジグリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)が使用されている。
【0007】
また、特許文献3には、特定の合成長繊維からなる不織布製シートに蔗糖脂肪酸エステルなどの界面活性剤処理を施し、ビスコースコート性を付与してなるハム・ソーセージケーシング用包装材が提案されている。
【0008】
さらに、特許文献4には、ソーセージの食肉部分に有機酸モノグリセリド等の乳化剤を含有させることで、風味や食味を改善したソーセージが提案されている。
【0009】
しかしながら、これらの特許文献は、何れも加工食品の保存性を改善するために乳化剤を用いるものではなく、乳化剤で加工食品の保存性を改善することは提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002-360157号公報
【特許文献2】特開2006-166731号公報
【特許文献3】特開平4-253653号公報
【特許文献4】特開2021-3047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、化学保存料を用いることなく、また、特別な装置を必要とすることなく、簡易な処理で、加工食品の保存中の生菌の増殖を抑制し、保存性に優れた加工食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤で加工食品を処理することにより、保存中の生菌の増殖を効果的に抑制することができ、加工食品の保存性を向上させることができることを見出した。
【0013】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
[1] 加工食品と、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤を含む乳化剤溶液とを接触させる工程を有する、加工食品の製造方法。
[2] 前記乳化剤が、構成脂肪酸の炭素数が14及び/又は16の乳化剤を含む、[1]の製造方法。
[3] 前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される一以上の乳化剤を含む、[1]又は[2]の製造方法。
[4] 前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステルを含む、[3]の製造方法。
[5] 前記乳化剤が、構成脂肪酸の炭素数が16の乳化剤を含む、[2]~[4]のいずれかの製造方法。
[6] 前記乳化剤のHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値が10以上である、[1]~[5]のいずれかの製造方法。
[7] 前記乳化剤が、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤を50質量%以上含む、[1]~[6]のいずれかの製造方法。
[8] 前記乳化剤が、構成脂肪酸に飽和脂肪酸を含む、[1]~[7]のいずれかの製造方法。
[9] 前記乳化剤溶液が、エタノールを含む、[1]~[8]のいずれかの製造方法。
[10] 前記加工食品と前記乳化剤溶液との接触を、該乳化剤溶液を該加工食品に添加、噴霧、又は塗布することによって行うか、あるいは、該乳化剤溶液に該加工食品を浸漬させることにより行う、[1]~[9]のいずれかの製造方法。
[11] 前記加工食品が食肉製品である、[1]~[10]のいずれかの製造方法。
[12] 前記食肉製品が、ハム、ソーセージ、ベーコン、ブロックチャーシュー、ビーフジャーキー、ローストチキン、唐揚げ、チキンナゲット、サラダチキン、ハンバーグ、又はミートボールである、[11]の製造方法。
[13] 前記食肉製品が、ソーセージであり、前記乳化剤溶液との接触を、食肉をケーシングに充填させた後に行う、[12]の製造方法。
【0014】
[14] 加工食品と、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤を含む乳化剤溶液とを接触させる工程を有する、加工食品の静菌方法。
[15] 前記乳化剤が、構成脂肪酸の炭素数が14及び/又は16の乳化剤を含む、[14]の静菌方法。
[16] 前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される一以上の乳化剤を含む、[14]又は[15]の静菌方法。
[17] 前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステルを含む、[16]の静菌方法。
[18] 前記乳化剤が、構成脂肪酸の炭素数が16の乳化剤を含む、[15]~[17]のいずれかの静菌方法。
[19] 前記乳化剤のHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値が10以上である、[14]~[18]のいずれかの静菌方法。
[20] 前記乳化剤が、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤を50質量%以上含む、[14]~[19]のいずれかの静菌方法。
[21] 前記乳化剤が、構成脂肪酸に飽和脂肪酸を含む、[14]~[20]のいずれかの静菌方法。
[22] 前記乳化剤溶液が、エタノールを含む、[14]~[21]のいずれかの静菌方法。
[23] 前記加工食品と前記乳化剤溶液との接触を、該乳化剤溶液を該加工食品に添加、噴霧、又は塗布することによって行うか、あるいは、該乳化剤溶液に該加工食品を浸漬させることにより行う、[14]~[22]のいずれかの静菌方法。
[24] 前記加工食品が食肉製品である、[14]~[23]のいずれかの静菌方法。
[25] 前記食肉製品が、ハム、ソーセージ、ベーコン、ブロックチャーシュー、ビーフジャーキー、ローストチキン、唐揚げ、チキンナゲット、サラダチキン、ハンバーグ、又はミートボールである、[24]の静菌方法。
[26] 前記食肉製品が、ソーセージであり、前記乳化剤溶液との接触を、食肉をケーシングに充填させた後に行う、[25]の静菌方法。
【0015】
[27] 少なくともその表面に、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤が添加されている、加工食品。
[28] 前記乳化剤が、構成脂肪酸の炭素数が14及び/又は16の乳化剤を含む、[27]の加工食品。
[29] 前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される一以上の乳化剤を含む、[27]又は[28]の加工食品。
[30] 前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステルを含む、[29]の加工食品。
[31] 前記乳化剤が、構成脂肪酸の炭素数が16の乳化剤を含む、[28]~[30]のいずれかの加工食品。
[32] 前記乳化剤のHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値が10以上である、[27]~[31]のいずれかの加工食品。
[33] 前記乳化剤が、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤を50質量%以上含む、[27]~[32]のいずれかの加工食品。
[34] 前記乳化剤が、構成脂肪酸に飽和脂肪酸を含む、[27]~[33]のいずれかの加工食品。
[35] 前記加工食品が食肉製品である、[27]~[34]のいずれかの加工食品。
[36] 前記食肉製品が、ハム、ソーセージ、ベーコン、ブロックチャーシュー、ビーフジャーキー、ローストチキン、唐揚げ、チキンナゲット、サラダチキン、ハンバーグ、又はミートボールである、[35]の加工食品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、化学保存料を用いることなく、また、特別な装置を必要とすることなく、簡易な処理で、加工食品の保存における生菌の増殖を抑制し、保存性に優れる加工食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
【0019】
本発明は、加工食品と、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤を含む乳化剤溶液とを接触させる工程を有する、加工食品の製造方法に関する。
本発明において「加工食品」とは、食品になんらかの加工・調理を施したものを意味し、その種類は特に限定されず、麦類(精麦)、粉類(米粉、小麦粉、雑穀粉、豆粉、いも粉、調製穀粉、その他の粉類)、でん粉(小麦でん粉、とうもろこしでん粉、甘しょでん粉、ばれいしょでん粉、タピオカでん粉、サゴでん粉、その他のでん粉);野菜加工品(野菜缶・瓶詰、トマト加工品、塩蔵野菜(漬物を除く。)、野菜漬物、野菜冷凍食品、乾燥野菜、野菜つくだ煮、その他の野菜加工品);きのこ類加工品;果実加工品(果実缶・瓶詰、ジャム・マーマレード及び果実バター、果実漬物、乾燥果実、果実冷凍食品、その他の果実加工品);茶、コーヒー及びココアの調製品(茶、コーヒー製品、ココア製品);香辛料(ブラックペッパー、ホワイトペッパー、レッドペッパー、シナモン(桂皮)、クローブ(丁子)、ナツメグ(肉ずく)、サフラン、ローレル(月桂葉)、パプリカ、オールスパイス(百味こしょう)、さんしょう、カレー粉、からし粉、わさび粉、しょうが、その他の香辛料);めん・パン類(めん類、パン類);穀類加工品(アルファー化穀類、米加工品、オートミール、パン粉、ふ、麦茶、その他の穀類加工品);菓子類(ビスケット類、焼き菓子、米菓、油菓子、和生菓子、洋生菓子、半生菓子、和干菓子、キャンデー類、チョコレート類、チューインガム、砂糖漬菓子、スナック菓子、冷菓、その他の菓子類);豆類の調製品(あん、煮豆、豆腐・油揚げ類、ゆば、凍り豆腐、納豆、きなこ、ピーナッツ製品、いり豆、その他の豆類調製品);砂糖類(砂糖、糖蜜、糖類);こんにゃく等の農産加工食品;食肉製品(加工食肉製品、鳥獣肉の缶・瓶詰、加工鳥獣肉冷凍食品、その他の食肉製品);酪農製品(牛乳、加工乳、乳飲料、練乳及び濃縮乳、粉乳、発酵乳及び乳酸菌飲料、バター、チーズ、アイスクリーム類、その他の酪農製品);加工卵製品(鶏卵の加工製品、その他の加工卵製品);蜂蜜等の蜂加工食品;加工魚介類(素干魚介類、塩干魚介類、煮干魚介類、塩蔵魚介類、缶詰魚介類、加工水産物冷凍食品、練り製品、その他の加工魚介類);加工海藻類(こんぶ、こんぶ加工品、干のり、のり加工品、干わかめ類、干ひじき、干あらめ、寒天、その他の加工海藻類)等の水産加工食品;調味料及びスープ(食塩、みそ、しょうゆ、ソース、食酢、調味料関連製品、スープ、その他の調味料及びスープ);食用油脂(食用植物油脂、食用動物油脂、食用加工油脂);調理食品(調理冷凍食品、チルド食品、レトルトパウチ食品、弁当、そうざい、その他の調理食品);イースト;植物性たんぱく及び調味植物性たんぱく;麦芽及び麦芽抽出物ならびに麦芽シロップ;粉末ジュース等;飲料等(飲料水、清涼飲料、酒類、氷、その他の飲料等が挙げられる。好ましくは、本発明において「加工食品」とは食肉製品であり、より詳細には、ハム、ソーセージ、ベーコン、ブロックチャーシュー、ビーフジャーキー、ローストチキン、唐揚げ、チキンナゲット、サラダチキン、ハンバーグ、ミートボール等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0020】
本発明において「乳化剤」は、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤を含む。この乳化剤の構成脂肪酸の炭素数が16以下であることにより、十分な生菌増殖抑制効果を得ることができる。当該構成脂肪酸の炭素数は、8~16が好ましく、特に14及び16が好ましく、とりわけ16であることが生菌増殖抑制効果の観点から好ましい。また、構成脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよく、これらの混合物であってもよいが、生菌増殖抑制効果の観点から、好ましくは飽和脂肪酸、或いは飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸との混合物であり、より好ましくは飽和脂肪酸である。
【0021】
なお、乳化剤は、通常、構成脂肪酸の炭素数の異なるものの混合物として供給される。本発明で用いる乳化剤は、生菌増殖抑制効果の観点から、構成脂肪酸の炭素数が16以下のものを主体として50質量%以上含むことが好ましく、この割合は、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。
【0022】
また、本発明で用いる乳化剤は、飲食品の製造において一般的に用いられる、食品用乳化剤である。
【0023】
また、本発明で用いる乳化剤は、モノエステル含量及び水への溶解度と分散性の観点から、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値が10以上、特に15以上であることが好ましい。
【0024】
本発明で用いる乳化剤としては、具体的には、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルが好ましく、生菌増殖抑制効果の観点から、特にショ糖脂肪酸エステルが好ましい。
【0025】
このような乳化剤としては、市販品を用いることができ、ショ糖脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、「リョートーシュガーエステルP-1670」、「リョートーシュガーエステルM-1695」、「リョートーシュガーエステルL-1695」、「リョートーシュガーエステルP-1570」、「リョートーシュガーエステル モノエステル-P」(以上、三菱ケミカル社製、商品名);「DKエステルSS」、「DKエステルF-160」、「DKエステルF-140」(以上、第一工業製薬社製、商品名)等が挙げられる。
【0026】
また、グリセリン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、「リョートーポリグリエステルM-7D」、「リョートーポリグリエステルL-7D」、「リョートーポリグリエステルM-10D」、「リョートーポリグリエステルL-10D」(以上、三菱ケミカル社製、商品名);「SYグリスターML750」、「SYグリスターML500」、「SYグリスターMM750」(以上、阪本薬品工業社製、商品名);「サンソフトQ-14S」、「サンソフトQ-12S」、「サンソフトA-141E」、「サンソフトA-121E」(以上、太陽化学社製、商品名)、「ポエムJ-0021」、「ポエムDP-95RF」、「ポエムTRP-97RF」(以上、理研ビタミン社製、商品名)、「NIKKOL Hexaglyn 1-M」、「NIKKOL Hexaglyn 1-L」、「NIKKOL Decaglyn 1-M」、「NIKKOL Decaglyn 1-L」(以上、日光ケミカルズ社製、商品名)等が挙げられる。
【0027】
これらの乳化剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明において、乳化剤は、適当な溶媒中に溶解させた乳化剤溶液の形態で用いることができる。「溶媒」は乳化剤を溶解することが可能な液体であればよく、加工食品の種類、乳化剤の種類、加工食品と乳化剤溶液の接触方法等の要因に応じて適宜選択することができる。例えば、本発明において利用可能な「溶媒」としては、水、湯、脱塩水、エタノール、及びそれらの組み合わせ等が挙げられる。中でも、エタノールは、乾燥が容易であり、効率的に溶媒除去できるために好ましい。
【0029】
本発明において、加工食品と乳化剤溶液との接触は、加工食品の少なくとも表面が乳化剤溶液と接触することを可能とする任意の手段で行うことができ、このような手段としては、加工食品に対する乳化剤溶液の添加、塗布、もしくは噴霧処理、又は乳化剤溶液中への加工食品の浸漬処理、ならびにこれらの組み合わせ等が好ましい。
【0030】
添加、塗布、もしくは噴霧処理においては、乳化剤を適当な溶媒中に通常100~100000ppm、好ましくは500~50000ppm、より好ましくは1000~10000ppm(例えば、10000ppm)の濃度で溶解し、この乳化剤溶液を、常法に従い加工食品に添加、塗布、もしくはスプレーし、その後必要に応じてさらに乾燥させて溶媒を除去することによって、乳化剤を加工食品の加工食品の少なくとも表面に付着させることにより行うことができる。乳化剤溶液中に含まれる乳化剤の量が上記下限以上であれば、加工食品に、より効率的に乳化剤を付着させることができ、乳化剤付着率ないしは含有率が高く、生菌の増殖抑制効果に優れた加工食品を得ることができる。一方、乳化剤溶液中に含まれる乳化剤の量が上記上限以下であれば食味に影響が出にくく、生菌の増殖抑制効果に優れた加工食品を得ることができる。
【0031】
また、浸漬処理においては、乳化剤を適当な溶媒中に通常0.01~10質量%、好ましくは0.05~5質量%、より好ましくは0.1~1質量%(例えば、1質量%)の濃度で溶解させ、この乳化剤溶液に常法に従い加工食品を浸漬させて、その後必要に応じてさらに乾燥させて溶媒を除去することによって、乳化剤を加工食品の少なくとも表面に付着させることにより行うことができる。乳化剤溶液中に含まれる乳化剤の量が上記下限以上であれば、加工食品に効率的に乳化剤を付着させることができ、乳化剤付着率ないしは含有率が高く、生菌の増殖抑制効果に優れた加工食品を得ることができる。一方、乳化剤溶液中に含まれる乳化剤の量が上記上限以下であれば、食味に影響が出にくく、生菌の増殖抑制効果に優れた加工食品を得ることができる。加工食品を乳化剤溶液に浸漬する際の温度は特に限定されないが、好ましくは10℃以下、より好ましくは4~8℃とすることができる。浸漬温度が上記上限以下であれば、加工食品に存在する生菌の増殖により腐敗が生じるのを低減することができる。加工食品を乳化剤溶液に浸漬する時間は、加工食品の種類、乳化剤溶液中に含まれる乳化剤の量や種類等の要因によっても適宜設定すればよい。例えば、ソーセージのケーシングを食品用乳化剤溶液に浸漬する時間は、溶液中の食品用乳化剤含有率によっても異なるが、通常1~5時間、特に2~3時間であることが好ましい。浸漬時間が上記下限以上であれば、加工食品に乳化剤を効果的に付着ないしは含有させることができる。浸漬時間が上記上限以下であれば生産性に優れる。一方で、連続製造ラインに付随する加工食品の食品用乳化剤溶液によるボイル浸漬工程であれば、数秒程度とすることができる。
【0032】
加工食品と乳化剤溶液との接触は、加工食品の製造過程における任意の段階で行うことが可能であるが、好ましくは、加工食品を加熱調理/処理する工程(存在する場合)から容器に充填するまで、もしくは包装するまでの間のいずれかの段階で行う。この間に両者を接触させることにより、乳化剤の変性や失活を回避すること、及び/又は、生菌の効率的な増殖抑制効果を得ながら、生産性にも優れること等ができる。
【0033】
本発明の製造方法により製造された加工食品においては、少なくともその表面に、前記乳化剤が添加されており、これにより保存における生菌の増殖を抑制することができ、優れた保存性を得ることができる。
【0034】
本発明の一態様において、加工食品は食肉製品であるソーセージが好ましい。すなわち、本発明の一態様において、ソーセージと前記乳化剤を含む乳化剤溶液とを接触させる工程を有する、ソーセージの製造方法に関する。
【0035】
本発明において「ソーセージ」は、従来公知の一般的な方法により製造されたものを用いることができ、すなわち、ソーセージ用ケーシングに食肉を充填することにより調製することができる。
【0036】
ソーセージ用ケーシングは、天然腸(羊腸、豚腸、牛腸等)、コラーゲンフィルム、セルロースフィルム、合成フィルム等を用いることができ、好ましくは、食感及び風味の観点から、天然腸である。
【0037】
ケーシングに充填する食肉は、食肉や飲食品の製造において一般的に用いられる、糖類、調味料、塩類、香辛料、油脂、pH調整剤、甘味料、香料、ビタミン、抗酸化剤、着色剤、食品繊維、増粘多糖類、膨張剤、結着剤、発色剤、アスコルビン酸ナトリウム、ゲル形成物質、澱粉、有機酸、リポ蛋白、甘味料、香料、抗酸化剤等のその他の成分、コーン等の穀物や、チーズ等の具材の一又は複数を添加して、必要に応じて水(氷水)と共に混練して調製されたペースト状のものを用いることができる。
【0038】
ソーセージの原料食肉としては、特に制限はなく、通常、ソーセージの原料として用いられているものをいずれも用いることができる。例えば、豚肉、牛肉、馬肉、羊肉、山羊肉、家兎肉、家きん肉、魚肉、鯨肉、臓器及びこれらの混合肉などがあるが、これらに限定されない。また、ソーセージの調製のために使用できる肉の種類(部位)として、バラ肉、ロース肉、肩肉、モモ肉及びこれらの混合肉などのいずれでも使用できる。
【0039】
調製された食肉は、充填器を用いてケーシングに充填され、所定の長さの鎖状にリンキングされた後、通常、製造するソーセージの種類に応じて、乾燥、加熱等の処理が施される。スモークソーセージの場合は燻製処理が、ボイルドソーセージの場合は湯煮処理が行われる。本発明におけるソーセージの種類としては特に制限はなく、肉ペーストをケーシングに詰めて湯煮(ボイル)したボイルドソーセージであってもよく、また、燻煙で燻製処理(スモーク)した後、蒸気で加熱したスモークソーセージであってもよい。
【0040】
ソーセージと乳化剤溶液との接触は、ソーセージの製造過程における任意の段階にて行うことが可能であるが、特に、食肉をケーシングに充填させた後に行うことが好ましい。ケーシングの調製においてアルカリ処理が用いられる場合、このアルカリ処理により、前記乳化剤の変性や失活を生じる場合があり、所望する生菌の増殖抑制効果や、優れた保存性を得ることができない場合がある。そこで、効率的な生菌増殖抑制効果と生産性の観点から、ソーセージと乳化剤溶液との接触は、乾燥、加熱等の処理の工程の後、容器に充填するまで、もしくは包装するまでの間のいずれかの工程で行うことが、より好ましい。
【0041】
このようにして製造されたソーセージにおいては、少なくともその表面に、前述の乳化剤が添加されており、これにより保存における生菌の増殖を抑制することができ、優れた保存性を得ることができる。
【0042】
本発明はまた、加工食品と、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤を含む乳化剤溶液とを接触させる工程を有する、加工食品の静菌方法に関する。
【0043】
本発明において、「加工食品」、「乳化剤」、「乳化剤溶液」、加工食品と乳化剤溶液との「接触」は、前述のとおりであり、本発明によれば、加工食品の保存中における生菌の増殖を効果的に抑制することができ、加工食品の保存性を向上させることができる。
【0044】
本発明の一態様において、加工食品は食肉製品であるソーセージであることが好ましい。すなわち、本発明の一態様において、ソーセージと前述の乳化剤を含む乳化剤溶液とを接触させる工程を有する、ソーセージの静菌方法に関する。
【0045】
本発明において、「ソーセージ」、ソーセージと乳化剤溶液との「接触」は、前述のとおりであり、本発明によれば、ソーセージの保存中における生菌の増殖を効果的に抑制することができ、ソーセージの保存性を向上させることができる。
【実施例0046】
以下に、実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
以下の実験例、実施例及び比較例において、乳化剤としては、下記表1に示す市販品を用いた。
【0047】
【表1】
【0048】
[実験例]
表2に示す乳化剤を用いて、以下の手順で静菌性試験を行った。
(1)Leuconostoc mesenteroides subsp. suionicum NBRC3426(乳酸菌)を供試菌として、de Man Rogosa and Sharpe agarにて35℃で48時間培養後、リン酸緩衝生理食塩水で1.0×107CFU/mLとなるように希釈調製し、接種用菌液とした。
(2)表2記載の乳化剤は、4000ppmになるように脱塩水に溶解し、オートクレーブ滅菌し、乳化剤溶液とした。
(3)Trypticase soy broth 180μLに対して、乳化剤溶液を10μL添加して混合し、サンプル液とした。さらに混合物95μLを95μLの使用培地と等量混合した。この操作を繰り返し、サンプル液を2、4、8、16、32、64倍希釈した。
(4)供試菌を5μLずつ接種し、35℃で3日間培養した。
(5)目視にて微生物の発育を確認し、発育が見られなかった最小濃度を最小生育阻止濃度(MIC)とした。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示されるように、S-1670は本菌株に対して100ppmの濃度で静菌作用を示すが、M-1695、P-1670は、本菌株に対して25ppmの低濃度で静菌作用を示す。M-1695、P-1670はS-1670に比べて優れた静菌作用があることが確認された。
【0051】
[実施例1]
<ケーシングの処理>
天然の塩漬け羊腸(オーストラリア製)を流水中でよく脱塩し、水気を切ったものの長さ2m分を、ショ糖ミリスチン酸エステル(M-1695)3g、水道水297gからなる水溶液(乳化剤濃度1質量%)に4℃で2時間浸漬した。
【0052】
<ソーセージ作製>
冷蔵庫(庫内温度4℃)に保存しておいた豚赤身挽肉100質量部に、豚背脂挽肉25質量部、食塩1.5質量部、上白糖0.5質量部、ポリリン酸ナトリウム0.3質量部、アスコルビン酸ナトリウム0.25質量部、白コショウ0.1質量部を添加し、次いでこの混合物に氷水20.0質量部を少しずつ添加しながら4分間ミキサーを用いて練り合わせた。その際、原材料の品温が10℃以下に保たれるようにした。得られた肉ペーストは、充填器を用いて上記浸漬処理を施した天然腸に400gずつ充填し、長さ5cmでリンキングしたものをコンベクションオーブン内に移し、これをまず60℃で20分間乾燥し、次に75℃で30分間蒸煮した。
蒸煮後直ちに室温で10分間冷却して荒熱を取り、ソーセージ(ウインナーソーセージ)を得た。
【0053】
<菌接種と保管>
得られたソーセージに、Leuconostoc mesenteroides subsp. suionicum NBRC3426を終濃度4.0×101CFU/g程度になるように接種し、恒温庫(庫内温度10℃)内で4日間保管した。
【0054】
<生菌数の測定と評価>
保管後のソーセージをストマッカー袋に入れ、このストマッカー袋に滅菌済生理食塩水90mLを加え、60秒間ストマッキングし、これを試料懸濁液とし、必要に応じて滅菌済生理食塩水で段階希釈後、標準寒天培地(日水製薬社製)を用いた混釈平板法(35℃、48時間)にて生菌数を測定し、下記基準で評価した。結果を表3に示す。
○:菌数1.0×104CFU/g未満
△:菌数1.0×104CFU/g以上1.0×105CFU/g未満
×:菌数1.0×105CFU/g以上
【0055】
[実施例2]
ショ糖ミリスチン酸エステル(M-1695)の代りに、ショ糖パルミチン酸エステル(P-1670)を用いたこと以外は実施例1と同様にケーシングの処理、ソーセージの作製、菌接種と保存、生菌数の測定と評価を行って、結果を表3に示した。
【0056】
[実施例3]
ショ糖ミリスチン酸エステル(M-1695)の代りに、グリセリンパルミチン酸エステル(TRP-97RF)を用いたこと以外は実施例1と同様にケーシングの処理、ソーセージの作製、菌接種と保存、生菌数の測定と評価を行って、結果を表3に示した。
【0057】
[比較例1]
乳化剤溶液によるケーシングの浸漬処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にソーセージの作製、菌接種と保存、生菌数の測定と評価を行って、結果を表3に示した。
【0058】
[比較例2]
ショ糖ミリスチン酸エステル(M-1695)の代りに、ショ糖ステアリン酸エステル(S-1670)を用いたこと以外は実施例1と同様にケーシングの処理、ソーセージの作製、菌接種と保存、生菌数の測定と評価を行って、結果を表3に示した。
【0059】
[比較例3]
天然の塩漬け羊腸(オーストラリア製)を流水中でよく脱塩し、水気を切ったものの2m分を水道水300gに入れ、4℃で2時間浸漬した。
【0060】
ソーセージの作製に当たり、冷蔵庫(庫内温度4℃)に保存しておいた豚赤身挽肉100質量部に、豚背脂挽肉25質量部、食塩1.5質量部、上白糖0.5質量部、ポリリン酸ナトリウム0.3質量部、アスコルビン酸ナトリウム0.25質量部、白コショウ0.1質量部、保存料(商品名:ソルビン酸カリウム;マルゴコーポレーション社製)0.1質量部を添加し、次いでこの混合物に氷水20.0質量部を少しずつ混入しながら4分間ミキサーを用いて練り合わせて(その際、原材料の品温が10℃以下に保たれるようにした。)得られた肉ペーストをケーシングに充填したこと以外は、比較例1と同様にしてソーセージの作製を行い、得られたソーセージについて、実施例1と同様に菌接種と保存、生菌数の測定と評価を行って、結果を表3に示した。
【0061】
[比較例4]
保存料(商品名:ソルビン酸カリウム;マルゴコーポレーション社製)の代りに、ショ糖パルミチン酸エステル(P-1670)を用いたこと以外は、比較例3と同様にしてソーセージの作製を行い、得られたソーセージについて、実施例1と同様に菌接種と保存、生菌数の測定と評価を行って、結果を表3に示した。
【0062】
【表3】
【0063】
表3の結果から、4日間保存後でも、乳化剤を含有する溶液で処理した羊腸を用いて作製したソーセージ(実施例1~実施例3)の生菌数が、乳化剤を含有する溶液で処理しなかった羊腸を用いて作成したソーセージ(比較例1)、及び乳化剤を含有する溶液で処理しなかった羊腸を用いて、保存料を肉部に添加して作製したソーセージ(比較例3)よりも少なく、保存性が優れていることが確認された。
【0064】
また、乳化剤を含有する溶液で処理した羊腸を用いて作製したソーセージにおいて、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤(実施例1~実施例3)を使用したソーセージの生菌数が、構成脂肪酸の炭素数が18の乳化剤(比較例2)を使用したソーセージよりも少なく保存性が優れていることが確認された。
【0065】
更に、構成脂肪酸の炭素数が16の同一の乳化剤を用いても、この乳化剤を含有する溶液で処理した羊腸を用いたソーセージ(実施例2)の方が、この乳化剤を肉部に添加したソーセージ(比較例4)よりも生菌数が少なく、保存性に優れていることが確認された。
【0066】
[実施例4]
<乳化剤のエタノール溶液の調製>
ショ糖ミリスチン酸エステル(M-1695)を10000ppmになるようにエタノールに溶解し、乳化剤のエタノール溶液とした。
【0067】
<ソーセージ表面への乳化剤塗布>
市販のソーセージ(商品名:シャウエッセン;日本ハム社製)1本の表面に、上記乳化剤のエタノール溶液を600μL塗布し、乾燥させ、エタノールを除去することにより、乳化剤を塗布した。
【0068】
<菌接種と保管>
得られたソーセージに、Leuconostoc mesenteroides subsp. suionicum NBRC3426を終濃度1.0×102CFU/g程度になるように接種し、恒温庫(庫内温度10℃)内で28日間保管した。
【0069】
<生菌数の測定と評価>
保管後のソーセージをストマッカー袋に入れ、このストマッカー袋に滅菌済生理食塩水90mLを加え、60秒間ストマッキングし、これを試料懸濁液とし、必要に応じて滅菌済生理食塩水で段階希釈後、標準寒天培地(日水製薬社製)を用いた混釈平板法(35℃,48時間)にて生菌数(LogCFU/g)を測定した。結果を表4に示す。
【0070】
[実施例5]
ショ糖ミリスチン酸エステル(M-1695)の代りに、ショ糖パルミチン酸エステル(P-1670)を用いたこと以外は実施例4と同様に乳化剤のエタノール溶液の調製、ソーセージ表面への乳化剤塗布、菌接種と保存、生菌数の測定と評価を行って、結果を表4に示した。
【0071】
[比較例5]
乳化剤をエタノールに溶解させなかったこと以外は、実施例4と同様にソーセージ表面へのエタノール塗布と除去、菌接種と保存、生菌数の測定と評価を行って、結果を表4に示した。
【0072】
【表4】
【0073】
表4の結果から、28日間保存後でも、乳化剤を塗布したソーセージ(実施例4、実施例5)の生菌数が、乳化剤を塗布していないソーセージ(比較例5)よりも少なく、保存性が優れていることが確認された。この結果より、構成脂肪酸の炭素数が16以下の乳化剤による処理の効果は、加工食品の製造後、その少なくとも表面に添加することによっても得られることが確認された。