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特開2024-104863シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104863
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240730BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240730BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240730BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240730BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20240730BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20240730BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20240730BHJP
   C12N 5/20 20060101ALI20240730BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20240730BHJP
   C07K 1/22 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12M1/34 F
A61P35/00
A61P1/18
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 E
A61K39/395 T
G01N33/574 Z
C07K7/06
C07K14/705
C12N5/20
C12P21/08
C07K1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009264
(22)【出願日】2023-01-25
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(糖鎖利用による革新的創薬技術開発事業)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】久野 敦
(72)【発明者】
【氏名】千葉 靖典
(72)【発明者】
【氏名】安形 清彦
(72)【発明者】
【氏名】圷 ゆき枝
(72)【発明者】
【氏名】坂元 亨宇
(72)【発明者】
【氏名】眞杉 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 剣
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚志
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB15
4B029BB17
4B029CC01
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4B064AG26
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA05
4B064DA14
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB33
4C085BB34
4C085BB35
4C085BB36
4C085BB37
4C085BB41
4C085BB43
4C085CC02
4C085CC23
4C085DD32
4C085DD33
4C085DD34
4C085DD35
4C085DD84
4C085DD88
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG08
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045EA51
4H045EA54
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】
シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片、ハイブリドーマ、核酸、発現ベクター、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの検出キット、検出方法、医薬等を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明に係るシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体により、上記目的を達成することができる。
【選択図】なし


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項2】
配列番号2若しくは3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに結合する、請求項1に記載の抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項3】
a)配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、
b)配列番号8のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくは
c)配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、
を含む、請求項1に記載の抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項4】
a)配列番号16のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)1、配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)2、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)3、配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)1、配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)2、及び配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)3、
b)配列番号30のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)1、配列番号31のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)2、配列番号32のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)3、配列番号33のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)1、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)2、及び配列番号35のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)3、若しくは
c)配列番号44のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)1、配列番号45のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)2、配列番号46のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)3、配列番号47のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)1、配列番号48のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)2、及び配列番号49のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)3
を含む、請求項1に記載の抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項5】
請求項1に記載の抗体、またはその抗原結合断片を産生するハイブリドーマ。
【請求項6】
受託番号:NITE P-03670として寄託されているハイブリドーマ、受託番号:NITE P-03671として寄託されているハイブリドーマ、または受託番号NITE P-03672として寄託されているハイブリドーマ。
【請求項7】
受託番号:NITE P-03670で寄託されているハイブリドーマ、受託番号:NITE P-03671で寄託されているハイブリドーマ、若しくは受託番号NITE P-03672で寄託されているハイブリドーマ若しくはその子孫により産生される抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項8】
請求項1に記載の抗体、またはその抗原結合断片のアミノ酸配列をコードする核酸。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸を含有する発現ベクター。
【請求項10】
生物学的試料においてシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出するための、請求項1に記載の抗体、またはその抗原結合断片を含む検出キット。
【請求項11】
生物学的試料が、がん組織に由来する、請求項10に記載の検出キット。
【請求項12】
請求項1に記載の抗体、またはその抗原結合断片を使用することを含む、生物学的試料におけるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの検出方法。
【請求項13】
生物学的試料が、がん組織に由来する、請求項12に記載の検出方法。
【請求項14】
請求項1に記載の抗体、またはその抗原結合断片を用いてがん組織に由来する生物学的試料におけるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出することを含む、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを標的とした治療に応答する可能性の高いがん患者を特定するための方法。
【請求項15】
配列番号2または配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む、単離されたペプチド。
【請求項16】
請求項15に記載の少なくとも1のペプチドを動物に免疫することを含む、抗体の作製方法。
【請求項17】
請求項15に記載のペプチドを使用することを含む、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片を選択するための方法。
【請求項18】
請求項1~4及び7のいずれか1項に記載の抗体、または抗体断片を含む、がんを治療するための医薬。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスアドヘリン(FXYD5)は、様々な固形がん組織、及び一部の正常細胞においても発現することが知られる膜糖タンパク質である。
ディスアドヘリンはO-結合型糖鎖により高度に修飾されることが報告されている(非特許文献3)。
ディスアドヘリンは細胞膜上に発現し、細胞接着を低下させ、がん組織ではがんの浸潤や転移に関与する。特に、O-結合型糖鎖ディスアドヘリンは細胞間接着をさらに低下させることが報告されている。O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンは、正常細胞と比較してがん組織において高発現し、O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの阻害によって、細胞接着の低下が阻止されることも報告されている(非特許文献4)。
【0003】
これまで、ヒトのディスアドヘリンに対する抗体として、国立がん研究センターにて開発されたNCC-3G10、NCC-M53や、当該分子上の特定位置のN-アセチルガラクトサミン修飾物を認識するmAb 6C5が報告されている(非特許文献1~2、5)。
【0004】
しかしながら、これらの既存抗体は、ディスアドヘリンを検出することができるものの、血管など周辺の正常組織に存在するディスアドヘリンも検出するため、がん組織に特異的な、がんの浸潤や転移の促進に作用するディスアドヘリンを特異的に検出するためには十分でなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dysadherin, a cancer-associated cell membrane glycoprotein, down-regulates E-cadherin and promotes metastasis, Ino Y. et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 365-370, 2001.
【非特許文献2】Dysadherin overexpression in pancreatic ductal adenocarcinoma reflects tumor aggressiveness: relationship to e-cadherin expression, Shimamura T. et al., J. Clin. Oncol., 21(4), 659-67, 2003.
【非特許文献3】Aberrant O-glycosylation inhibits stable expression of dysadherin, a carcinoma-associated antigen, and facilitates cell-cell adhesion, Tsuiji H. et al., Glycobiology, vol. 13, no. 7, pp.521-527, 2003.
【非特許文献4】The O-glycosylated ectodomain of FXYD5 impairs adhesion by disrupting cell-cell trans-dimerization of Na, K-ATPase beta 1 subunits, Tokhtaeva E. et al., Journal of Cell Science, 129, 2394-2406, 2016.
【非特許文献5】A strategy for generating cancer-specific monoclonal antibodies to aberrant O-glycoproteins: identification of a novel dysadherin-Tn antibody, Steentoft C. et al., Glycobiology, vol. 29, no. 4, pp. 307-319, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究により、がん組織に発現するディスアドヘリン上のO-結合型糖鎖が高度にシアル酸修飾を含むことを見いだし、がん組織に発現するシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体の取得に成功し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1] シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片。

[2] 配列番号2若しくは3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに結合する、[1]記載の抗体、またはその抗原結合断片。

[3] a)配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、
b)配列番号8のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくは
c)配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、
を含む、[1]若しくは[2]に記載の抗体、またはその抗原結合断片。

[4] a)配列番号16のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)1、配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)2、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)3、配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)1、配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)2、及び配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)3、
b)配列番号30のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)1、配列番号31のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)2、配列番号32のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)3、配列番号33のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)1、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)2、及び配列番号35のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)3、若しくは
c)配列番号44のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)1、配列番号45のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)2、配列番号46のアミノ酸配列を含む重鎖超可変領域(HCDR)3、配列番号47のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)1、配列番号48のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)2、及び配列番号49のアミノ酸配列を含む軽鎖超可変領域(LCDR)3
を含む、[1]若しくは[2]記載の抗体、またはその抗原結合断片。

[5] [1]~[4]いずれかに記載の抗体、またはその抗原結合断片を産生するハイブリドーマ。

[6] 受託番号:NITE P-03670で寄託されているハイブリドーマ、受託番号:NITE P-03671で寄託されているハイブリドーマ、または受託番号NITE P-03672で寄託されているハイブリドーマ。

[7] 受託番号:NITE P-03670で寄託されているハイブリドーマ、受託番号:NITE P-03671で寄託されているハイブリドーマ、若しくは受託番号NITE P-03672で寄託されているハイブリドーマ若しくはその子孫により産生される抗体、またはその抗原結合断片。

[8] [1]~[7]のいずれかに記載の抗体、またはその抗原結合断片のアミノ酸配列をコードする核酸。

[9] [8]に記載の核酸を含有する発現ベクター。

[10] 生物学的試料においてシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出するための、[1]~[7]のいずれかに記載の抗体、または抗原結合断片を含む検出キット。

[11] 生物学的試料が、がん組織に由来する、[10]に記載の検出キット。

[12] [1]~[7]のいずれかに記載の抗体、またはその抗原結合断片を使用することを含む、生物学的試料におけるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの検出方法。

[13] 生物学的試料が、がん組織に由来する、[12]に記載の検出方法。

[15] [1]~[7]のいずれかに記載の抗体、またはその抗原結合断片を用いてがん組織に由来する生物学的試料におけるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出することを含む、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを標的とした治療に応答する可能性の高いがん患者を特定するための方法。

[15] 配列番号2または配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む、単離されたペプチド。

[16] [15]に記載の少なくとも1のペプチドを動物に免疫することを含む、抗体の作製方法。

[17] [15]に記載のペプチドを使用することを含む、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片を選択するための方法。

[18] [1]~[4]及び[7]のいずれかに記載の抗体、または抗体断片を含む、がんを治療するための医薬。

[19] 配列番号2または配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む、単離されたペプチドの、抗体作製の免疫原としての使用。

[20] [1]~[4]及び[7]のいずれかに記載の抗体、またはその抗体断片の治療上有効量を、それを必要とするがん患者に投与することを含む、がんの治療方法。

[21] がんの治療における使用のための[1]~[4]及び[7]のいずれかに記載の抗体、または抗体断片。

[22] がんの治療用医薬の製造における[1]~[4]及び[7]のいずれかに記載の抗体、または抗体断片の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】膵がん患者3症例(ID:296T、323T、325T)(A~C)のがん部領域組織におけるディスアドへリンの糖鎖プロファイリングのためのレクチンアレイの結果を示すグラフである。Dは膵臓がん細胞株(PSN-1)由来ディスアドへリンのレクチンアレイの結果を示す。縦軸は相対シグナル値を示し、横軸にはレクチンアレイチップver1.0に含まれる45種レクチンのうち特徴的なものを抜粋している。
図2】マウス免疫抗原用タンパク質発現コンストラクトを示す図である。
図3】シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体の作製における、マウス免疫のスケジュール及び概要を示す表である。
図4】3匹のマウス(マウスID:DA#1~#3)から得られた抗血清及び既存の抗DA抗体(3G10)を用いたELISA測定系による抗体価を示すグラフである。
図5】3匹のマウスのうちの1匹(マウスID:DA#2)について、細胞融合の条件を示す表である。
図6】細胞融合からその後の選抜により最終的に3クローンを取得するまでの経過を示す表である。
図7】ハイブリドーマの培養上清を用い、HCSにより得られた結果(蛍光顕微鏡画像)の一部である。
図8】14種のハイブリドーマの培養上清(DAP-1、DAP-2、DAP-3、DAP-4、DAP-5、DAP-6、DAP-7、DAP-8、DAP-9、DAP-10、DAP-11、DAP-12、DAP-13、DAP-14)及び既存抗体(M53 mAb)を用いた、BxPC-3(ディスアドヘリン陽性のヒト膵臓腺がん細胞株(BxPC3))、MCF-7(ディスアドヘリン陰性のヒト乳腺がん細胞株、ネガティブコントロール(MCF7))、及びrDA(糖鎖修飾のないリコンビナントヒトディスアドヘリン)に対するウェスタンブロット解析の結果を示す。
図9】ハイブリドーマの培養上清(DAP-2、DAP-3、DAP-7、DAP-8、DAP-12、DAP-13、DAP-14)、精製抗体(purified mAb)(DAP-7、DAP-13、DAP-14)及び既存抗体(M53 mAb)を用いた、HCS、ウェスタンブロット解析、モノクローナル抗体のアイソタイプ、抗体グループ、免疫組織化学染色、及びフローサイトメトリーの結果を示す表である。
図10】ハイブリドーマの培養上清(DAP-7、DAP-13、DAP-14)及び既存抗体(M53 mAb)を用いた、シアリダーゼA処理あり(SA(-))または処理なし(SA(+))の細胞溶解物(A549、HCC827、BxPC-3(BxPC3)、Capan-2(Capan2)、HT29、HAK1B、HLF、HeLa、HEK293)に対するウェスタンブロット解析の結果を示す。
図11】ハイブリドーマの培養上清(DAP-7)及び既存抗体(M53 mAb)を用いた、膵臓がん組織、正常膵臓組織、膵炎組織における免疫組織化学染色の結果を示す。矢尻は血管内皮、矢印は神経、Lはランゲルハンス島を示す。
図12】野生型ヒトディスアドヘリンのアミノ酸配列(配列番号1)及びエピトープマッピングのために設計した変異体8種のアミノ酸配列(配列番号65~72)の一部(上段)、及び抗DA抗体(DAP-7、DAP-13、DAP-14)及び既存抗DA抗体(M53 mAb)のエピトープマッピングの結果(エピトープグループ、エピトープ位置)、及び結合親和性(下段)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
実施形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0012】
〔抗体〕
本実施形態に係る抗体は、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体である。
【0013】
一実施形態において、該抗体は、その製造工程で用いられた細胞、生物体内から単離された、単離抗体である。
【0014】
本明細書において、ディスアドヘリン(dysadherin)は「FXYD5」、「FXYD5タンパク質」、「DA」と同義で用いられる。
【0015】
本明細書において、ディスアドヘリンにおけるシアル酸は、いかなるシアル酸も包含し、例えば、その修飾によっても限定されず、アセチル修飾されたシアル酸、グリコリル修飾されたシアル酸、水酸基で置換されたシアル酸等であってもよい。
一実施形態において、本実施形態に係る抗体の特異的結合の観点から、ディスアドヘリンにおけるシアル酸は、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)であることが好ましい。
すなわち、一実施形態において、抗体は、NeuAc修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体である。
【0016】
本実施形態に係る抗体は、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの少なくとも一部に結合性を有することにより、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する。一方、本実施形態に係る抗体は、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有さないディスアドヘリンに対し、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに対する結合性と比較して結合性が低い、または結合しない抗体である。
【0017】
一実施形態において、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンは、がん組織内のがん細胞において発現するディスアドヘリンである。
よって、一実施形態において、抗体は、がん細胞で発現するシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体である。
がん細胞では、ディスアドヘリン上のO-結合型糖鎖が高度にシアル酸修飾されており、本実施形態に係る抗体によって、がん細胞で発現するシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを特異的に検出することができる。
【0018】
一実施形態において、シアル酸修飾O-結合型糖鎖は、ディスアドヘリンにおいて、少なくとも1つ以上のO-結合型糖鎖付加位置に付加されている。O-結合型糖鎖付加位置のアミノ酸は限定されないが、Ser及び/またはThrであることが好ましい。
【0019】
一実施形態において、抗体が認識するシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンは、抗体が結合する範囲でその由来動物は限定されないが、哺乳動物由来のディスアドヘリンであることが好ましく、ヒト由来のディスアドヘリンであることが好ましい。
【0020】
一実施形態において、抗体は、1つ若しくは複数の任意のO-結合型糖鎖付加位置であるSer及び/またはThrにシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するヒトディスアドヘリンに結合する抗体である。
【0021】
本実施形態に係る抗体は、本技術分野で当業者に周知の方法を用いてポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として得ることができる。
【0022】
抗体は、その由来が特に限定されるものではなく、例えば、マウス抗体、ラット抗体、ハムスター抗体、モルモット抗体、ウサギ抗体、アルパカ抗体、ウマ抗体、ヤギ抗体、ヒツジ抗体、サル抗体、イヌ抗体、及び/またはヒト抗体であってもよい。
抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、及び/またはライブラリー由来であってもよい。例えば、抗体の一部がヒト由来、それ以外がヒト以外に由来するアミノ酸配列を有する抗体であってもよい。
【0023】
一実施形態において、抗体が、がん細胞で発現するシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合し易くなる観点から、抗体は、野生型ヒトディスアドヘリン(UniProt: Q96DB9)(配列番号1)の24~46番目のアミノ酸配列(配列番号2)を含むペプチドの少なくとも一部に特異的に結合する、または野生型ヒトディスアドヘリンの58~66番目のアミノ酸配列(配列番号3)を含むペプチドの少なくとも一部に特異的に結合する抗体である。
一実施形態において、抗体が、がん細胞で発現するシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合し易くなる観点から、抗体は、野生型ヒトディスアドヘリン(配列番号1)の49~56番目のアミノ酸配列(配列番号73)を含むペプチドに結合しない抗体であることが好ましい。
一実施形態において、抗体が、がん細胞で発現するシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合し易くなる観点から、配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチド、及び/または配列番号3のアミノ酸配列を含むペプチドは、そのO-結合型糖鎖付加位置にシアル酸修飾O-結合型糖鎖を含むことが好ましい。
【0024】
一実施形態において、抗体は、配列番号2または配列番号3のアミノ酸配列を含むペプチドに結合する抗体である。
【0025】
一実施形態において、抗体は、配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖(HC)可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくは配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び/または配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖(LC)可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくは配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0026】
一実施形態において、抗体は、配列番号4若しくは配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び/または配列番号6若しくは配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むことが好ましい。
【0027】
一実施形態において、抗体は、配列番号8のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくは配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び/または配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくは配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0028】
一実施形態において、抗体は、配列番号8若しくは配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び/または配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むことが好ましい。
【0029】
一実施形態において、抗体は、配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくは配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び/または配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくは配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0030】
一実施形態において、抗体は、配列番号12若しくは配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び/または配列番号14若しくは配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むことが好ましい。
【0031】
一実施形態において、抗体は、配列番号4若しくは配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域における3つの各重鎖超可変領域(HCDR)配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体、または配列番号6若しくは配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域における3つの各軽鎖超可変領域(LCDR)配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体であってもよい。
【0032】
抗体は、配列番号16、配列番号17、及び配列番号18に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体、または配列番号19、配列番号20、及び配列番号21に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体であることが好ましい。
抗体は、配列番号16、配列番号17、及び配列番号18に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体、並びに配列番号19、配列番号20、及び配列番号21に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体であることがより好ましい。
抗体は、配列番号16、配列番号17、及び配列番号18に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含む抗体であっても、または配列番号19、配列番号20、及び2配列番号21に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含む抗体であってもよい。
抗体は、配列番号16、配列番号17、及び配列番号18に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)、並びに配列番号19、配列番号20、及び配列番号21に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含む抗体であることがさらに好ましい。
【0033】
一実施形態において、抗体は、配列番号4若しくは配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域における4つの重鎖フレームワーク配列(FR1、FR2、FR3、及びFR4)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体、または配列番号6若しくは配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域における4つの軽鎖フレームワーク配列(FR1、FR2、FR3、及びFR4)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることが好ましい。
【0034】
抗体は、配列番号22、配列番号23、配列番号24、及び配列番号25に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体、または配列番号26、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることが好ましい。
抗体は、配列番号22、配列番号23、配列番号24、及び配列番号25に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体、並びに配列番号26、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることがより好ましい。
抗体は、配列番号22、配列番号23、配列番号24、及び配列番号25に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列を含む抗体であっても、または配列番号26、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列を含む抗体であってもよい。
抗体は、配列番号22、配列番号23、配列番号24、及び配列番号25に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列、並びに配列番号26、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列を含む抗体であることがさらに好ましい。
【0035】
一実施形態において、抗体は、配列番号4若しくは配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域における3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、並びに/または配列番号6若しくは配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域における3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含み、かつ配列番号4若しくは配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域における4つの重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4、並びに/または配列番号6若しくは配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域における4つの軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることが好ましい。
【0036】
抗体は、配列番号16、配列番号17、及び配列番号18に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、並びに配列番号19、配列番号20、及び配列番号21に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含み、かつ配列番号22、配列番号23、配列番号24、及び配列番号25に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4、並びに配列番号26、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることがより好ましい。
抗体は、配列番号16、配列番号17、及び配列番号18に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)、並びに配列番号19、配列番号20、及び配列番号21に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含み、かつ配列番号22、配列番号23、配列番号24、及び配列番号25に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4、並びに配列番号26、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることがさらに好ましい。
抗体は、配列番号16、配列番号17、及び配列番号18に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)、並びに配列番号19、配列番号20、及び配列番号21に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含み、かつ配列番号22、配列番号23、配列番号24、及び配列番号25に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列、並びに配列番号26、配列番号27、配列番号28、及び配列番号29に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列を含む抗体であることがさらに好ましい。
【0037】
一実施形態において、配列番号8若しくは配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域における3つの各重鎖超可変領域(HCDR)配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体、または配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域における3つの各軽鎖超可変領域(LCDR)配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体であってもよい。
【0038】
抗体は、配列番号30、配列番号31、及び配列番号32に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体、または配列番号33、配列番号34、及び配列番号35に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体であることが好ましい。
抗体は、配列番号30、配列番号31、及び配列番号32に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体、並びに配列番号33、配列番号34、及び配列番号35に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体であることがより好ましい。
抗体は、配列番号30、配列番号31、及び配列番号32に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含む抗体であっても、または配列番号33、配列番号34、及び配列番号35に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含む抗体であってもよい。
抗体は、配列番号30、配列番号31、及び配列番号32に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)、並びに配列番号33、配列番号34、及び配列番号35に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含む抗体であることがさらに好ましい。
【0039】
一実施形態において、抗体は、配列番号8若しくは配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域における4つの重鎖フレームワーク配列(FR1、FR2、FR3、及びFR4)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体、または配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域における4つの軽鎖フレームワーク配列(FR1、FR2、FR3、及びFR4)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることが好ましい。
【0040】
抗体は、配列番号36、配列番号37、配列番号38、及び配列番号39に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体、または配列番号40、配列番号41、配列番号42、及び配列番号43に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることが好ましい。
抗体は、配列番号36、配列番号37、配列番号38、及び配列番号39に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体、並びに配列番号40、配列番号41、配列番号42、及び配列番号43に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることがより好ましい。
抗体は、配列番号36、配列番号37、配列番号38、及び配列番号39に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列を含む抗体であっても、または配列番号40、41、42、及び43に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列を含む抗体であってもよい。
抗体は、配列番号36、配列番号37、配列番号38、及び配列番号39に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列、並びに配列番号40、配列番号41、配列番号42、及び配列番号43に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列を含む抗体であることがさらに好ましい。
【0041】
一実施形態において、抗体は、配列番号8若しくは配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域における3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、並びに/または配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域における3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含み、かつ配列番号8若しくは配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域における4つの重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4、並びに/または配列番号10若しくは配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域における4つの軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることが好ましい。
【0042】
抗体は、配列番号30、配列番号31、及び配列番号32に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、並びに配列番号33、配列番号34、及び配列番号35に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含み、かつ配列番号36、37、38、及び39に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4、並びに配列番号40、配列番号41、配列番号42、及び配列番号43に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることがより好ましい。
抗体は、配列番号30、配列番号31、及び配列番号32に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)、並びに配列番号33、配列番号34、及び配列番号35に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含み、かつ配列番号36、配列番号37、配列番号38、及び配列番号39に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4、並びに配列番号40、41、42、及び43に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることがさらに好ましい。
抗体は、配列番号30、配列番号31、及び配列番号32に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)、並びに配列番号33、配列番号34、及び配列番号35に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含み、かつ配列番号36、配列番号37、配列番号38、及び配列番号39に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列、並びに配列番号40、配列番号41、配列番号42、及び配列番号43に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列を含む抗体であることがさらに好ましい。
【0043】
一実施形態において、配列番号12若しくは配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域における3つの各重鎖超可変領域(LCDR)配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体、または配列番号14若しくは配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域における3つの各軽鎖超可変領域(LCDR)配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体であってもよい。
【0044】
抗体は、配列番号44、配列番号45、及び配列番号46に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体、または配列番号47、配列番号48、及び配列番号49に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体であることが好ましい。
抗体は、配列番号44、配列番号45、及び配列番号46に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体、並びに配列番号47、配列番号48、及び配列番号49に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体であることがより好ましい。
抗体は、配列番号44、配列番号45、及び配列番号46に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含む抗体であっても、または配列番号47、配列番号48、及び配列番号49に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含む抗体であってもよい。
抗体は、配列番号44、配列番号45、及び配列番号46に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)、並びに配列番号47、配列番号48、及び配列番号49に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含む抗体であることがさらに好ましい。
【0045】
一実施形態において、抗体は、配列番号12若しくは配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域における4つの重鎖フレームワーク配列(FR1、FR2、FR3、及びFR4)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体、または配列番号14若しくは配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域における4つの軽鎖フレームワーク配列(FR1、FR2、FR3、及びFR4)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることが好ましい。
【0046】
抗体は、配列番号50、配列番号51、配列番号52、及び配列番号53に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体、または配列番号54、配列番号55、配列番号56、及び配列番号57に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることが好ましい。
抗体は、配列番号50、配列番号51、配列番号52、及び配列番号53に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体、並びに配列番号54、配列番号55、配列番号56、及び配列番号57に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることがより好ましい。
抗体は、配列番号50、配列番号51、配列番号52、及び配列番号53に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列を含む抗体であっても、または配列番号54、配列番号55、配列番号56、及び配列番号57に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列を含む抗体であってもよい。
抗体は、配列番号50、配列番号51、配列番号52、及び配列番号53に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列、並びに配列番号54、配列番号55、配列番号56、及び配列番号57に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列を含む抗体であることがさらに好ましい。
【0047】
一実施形態において、抗体は、配列番号12若しくは配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域における3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、並びに/または配列番号14若しくは配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域における3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含み、かつ配列番号12若しくは配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域における4つの重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4、並びに/または配列番号14若しくは配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域における4つの軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることが好ましい。
【0048】
抗体は、配列番号44、配列番号45、及び配列番号46に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、並びに配列番号47、配列番号48、及び配列番号49に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含み、かつ配列番号50、配列番号51、配列番号52、及び配列番号53に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4、並びに配列番号54、配列番号55、配列番号56、及び配列番号57に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることがより好ましい。
抗体は、配列番号44、配列番号45、及び配列番号46に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)、並びに配列番号47、配列番号48、及び配列番号49に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含み、かつ配列番号50、配列番号51、配列番号52、及び配列番号53に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4、並びに配列番号54、配列番号55、配列番号56、及び配列番号57に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む抗体であることがさらに好ましい。
抗体は、配列番号44、配列番号45、及び配列番号46に記載される3つの各重鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)、並びに配列番号47、配列番号48、及び配列番号49に記載される3つの各軽鎖CDR配列(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含み、かつ配列番号50、配列番号51、配列番号52、及び配列番号53に記載される4つの各重鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列、並びに配列番号54、配列番号55、配列番号56、及び配列番号57に記載される4つの各軽鎖FR1、FR2、FR3、及びFR4配列を含む抗体であることがさらに好ましい。
【0049】
一実施形態において、抗体は、配列番号58に記載のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体であってもよい。
一実施形態において、抗体は、配列番号59に記載のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体であってもよい。
一実施形態において、抗体は、配列番号58に記載のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、及び配列番号59に記載のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体であってもよい。
一実施形態において、抗体は、配列番号58に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、及び配列番号59に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体であってもよい。
【0050】
一実施形態において、抗体は、配列番号60に記載のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体であってもよい。
一実施形態において、抗体は、配列番号61に記載のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体であってもよい。
一実施形態において、抗体は、配列番号60に記載のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、及び配列番号61に記載のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体であってもよい。
一実施形態において、抗体は、配列番号60に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、及び配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体であってもよい。
【0051】
一実施形態において、抗体は、配列番号62に記載のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体であってもよい。
一実施形態において、抗体は、配列番号63に記載のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体であってもよい。
一実施形態において、抗体は、配列番号62に記載のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、及び配列番号63に記載のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体であってもよい。
一実施形態において、抗体は、配列番号62に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、及び配列番号63に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体であってもよい。
【0052】
一実施形態において、本発明に係る抗体の定常領域のアミノ酸配列は、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する限り限定されない。
例えば、重鎖定常領域は、α、δ、ε、γ、またはμのいずれであってもよく、軽鎖定常領域は、λ、κ、またはιのいずれであってもよい。
一実施形態において、本発明に係る抗体のアイソタイプは、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する限り限定されず、例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgMのいずれであってもよく、サブクラスは、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、Ig4、またはIgMのいずれであってもよい。
【0053】
一実施形態において、抗体は、受託番号:NITE P-03670(受託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構、受領日:2022年6月14日)、受託番号:NITE P-03671(受託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構、受領日:2022年6月14日)、及び/若しくは受託番号NITE P-03672(受託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構、受領日:2022年6月14日)により特定される細胞株であるハイブリドーマにより産生される抗体、または該ハイブリドーマの子孫により産生される抗体である。当該子孫には、寄託したハイブリドーマそのもの、寄託されたハイブリドーマを培養したもの、寄託したハイブリドーマから分譲されたもの、これらのさらなる継代培養細胞等が含まれる。
【0054】
一実施形態において、抗体は、低分子化抗体であってもよく、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する限り、全長抗体の一部分が欠損している抗体断片も許容される。すなわち、抗体は、抗体の部分であってもよく、好ましくはその抗原結合領域または可変領域を含む抗原結合断片である。
【0055】
抗原結合断片の具体例として、例えば、Fv、scFv、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fd、dAb、CDR、scFv-Fc断片、ナノボディ、アフィボディ、ダイアボディ、アビマー、ミニボディ、バーサボディ等が挙げられる。
【0056】
抗原結合断片は、当業者に周知の方法を用いて取得することができ、例えば、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンなどで処理し抗体断片を生成させるか、または、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい。得られた抗原結合断片は、抗体と同様にして抗原との反応性、特異性等を評価することができる。
【0057】
一実施形態において、抗体は、多重特異性抗体であってもよい。多重特異性抗体とは、異なる複数のエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体をいうが、該エピトープは異なる分子中に存在していてもよいし、同一の分子中に存在していてもよい。
多重特異性抗体は、当業者に周知の方法を用いて作製することができる。例えば、二重特異性抗体の場合、認識抗原が異なる2種類の抗体を結合させて、二重特異性抗体を作製することができる。結合させる2種類の抗体は、それぞれが重鎖と軽鎖を有する抗体の1/2分子であっても良いし、重鎖のみからなる抗体の1/4分子であっても良い。あるいは、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製することもできる。さらに、本技術分野で当業者に周知の遺伝子工学的手法により二重特異性抗体を作製することもできる。
【0058】
〔ペプチド〕
本実施形態に係るペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくは10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下若しくは1以下のアミノ酸が付加、欠失、及び/若しくは置換されたアミノ酸配列を含む単離されたペプチド、または配列番号3に記載のアミノ酸配列に対し、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくは10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下若しくは1以下のアミノ酸が付加、欠失、及び/若しくは置換されたアミノ酸配列を含む単離されたペプチドである。
【0059】
ペプチドは、野生型ヒトディスフェリンのアミノ酸配列(配列番号1)において、24番目~46番目に対応するアミノ酸配列(配列番号2)を含むペプチド、または58番目~66番目に対応するアミノ酸配列(配列番号3)を含むペプチドであることが好ましい。
【0060】
一実施形態において、ペプチドは、1または複数のシアル酸修飾O-結合型糖鎖付加位置を含んでいてもよく、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するペプチドであってもよい。
【0061】
〔抗体〕に記載されるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体は、一実施形態において、本実施形態に係るいずれかのペプチドをエピトープとしてシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに結合してもよい。
従って、一実施形態において、本実施形態に係るいずれかのペプチドは、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体を作製するための抗原ペプチドとして使用することができる。
抗原ペプチドとして、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むペプチド、または配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドが好ましい。これにより、取得される抗体が、がん細胞で発現するシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合し易くなる。
【0062】
一実施形態において、抗体が、がん細胞で発現するシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合し易くなる観点から、抗原ペプチドとして、配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチド、及び/または配列番号3のアミノ酸配列を含むペプチドは、そのO-結合型糖鎖付加位置にシアル酸修飾O-結合型糖鎖を含むことが好ましい。
【0063】
該抗原ペプチドは、例えば〔抗体の作製〕に記載した方法において用いることができる。
一実施形態として、ペプチドを抗原ペプチドとして用いる場合、〔抗体の作製〕に説明するとおり、ペプチドは、適切な担体に結合していてもよい。
【0064】
一実施形態において、本実施形態に係るペプチドは、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片を選択するための方法に用いることができる。
【0065】
〔抗体の作製〕に説明するとおり、例えば、作製した候補ハイブリドーマの中から、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片に特異的に結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択するために、ペプチド(抗原ペプチド)を使用することができる。
具体的には、ELISA法またはウェスタンブロット法等によって、該ペプチドを含むタンパク質または抗原ペプチドに対する産生抗体の結合性を評価することにより、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択することができる。
【0066】
〔抗体の作製〕
本実施形態において、抗体は、モノクローナル抗体として作製することも、ポリクローナル抗体として作製することもできる。
【0067】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、ファージディスプレイ法、または抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主を用いた遺伝子工学的手法等の、本技術分野で当業者に周知の方法によって作製することができる。
【0068】
具体的には、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに結合するモノクローナル抗体は、本技術分野で当業者に周知の方法により、生物学的試料から単離したディスアドヘリン分子、または〔ペプチド〕に記載のいずれかのペプチドを、抗原ペプチドとして哺乳動物に対して投与することにより、すなわち、抗体産生が可能な部位にそれ自体、または担体、希釈剤と共に投与することにより、作製することができる。
抗原タンパク質またはペプチドが合成タンパク質またはペプチドである場合、これらを大量に発現させ、精製して、免疫原として用いることができる。
【0069】
担体としては、抗原性刺激のあるキャリアタンパク質、例えば、キーホール・リンペット・ヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ウシサイログロブリン、オボアルブミン(OVA)を使用することができる。
担体と抗原ペプチドとの混合比、及び抗原と担体との結合のための縮合剤は、所望の抗体が得られる範囲で限定されない。
【0070】
抗原ペプチドの投与に際し、抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバント、または不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。その投与頻度は本技術分野で当業者に周知の方法に従って適宜決定することができる。
【0071】
モノクローナル抗体の作製のために用いられる哺乳動物は、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、アルパカ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、サル、イヌであってもよいが、細胞融合の工程でのミエローマ細胞との適合性を考慮すれば、マウス、ラット、またはハムスターが好ましく、マウスがより好ましい。
【0072】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの調製のため、抗原ペプチドを免疫された哺乳動物から抗体価の認められた個体を選択し、最終免疫の2~5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合させる。
哺乳動物における抗血清中の抗体価の測定は、ELISA法等の当業者に周知の方法に従って行えばよい。
細胞融合操作は当業者に周知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインの方法[Nature, 256, 495(1975年)]に従って行えばよい。ミエローマ細胞は、本技術分野で周知の細胞から適宜選択すればよく、例えば、NS-1、P3U1、及びSP2/0から選択することができる。
細胞融合条件は、当業者が適宜決定できるが、例えば、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを通常約1:1~20:1の比で混合し、PEG(例えば、PEG1000~PEG6000)を10~80%程度の濃度で添加し、約20~40℃、好ましくは約30~37℃で約1~10分間インキュベートすることにより、効率よく細胞融合を実施できる。細胞融合促進のため、センダイウイルス由来の膜タンパク質(HVJ Envelope)等のPEG以外の周知の試薬を用いることもできる。
【0073】
細胞融合した、ハイブリドーマの選択は、本技術分野で当業者に周知の方法に従って行うことができ、ハイブリドーマが選択できる範囲で限定されないが、例えば、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地を用いることができる。
例えば、1~20%、好ましくは10~20%のウシ胎児血清を含むRPMI 1640培地、1~10%のウシ胎児血清を含むGIT培地(富士フイルム和光純薬(株))またはハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM-101、日水製薬(株))、10~20%のウシ胎児血清を含むハイブリドーマ培養用無血清培地(Hybridoma-SFM、インビトロジェン)等を用いてもよい。
ハイブリドーマ選択のための培養条件は、当業者が適宜決定できるが、例えば、培養温度は、通常20~40℃であり、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5日~3週間、好ましくは1週間~2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行なってもよい。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定することができる。
【0074】
所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの選択は、本技術分野で当業者に周知の方法に従って行うことができる。
例えば、ELISA法またはウェスタンブロット法等の、抗原タンパク質または抗原ペプチドに対する産生抗体の結合性を評価する方法によって、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択することができる。
【0075】
ハイブリドーマを用いたモノクローナル抗体の作製は、本技術分野で当業者に周知の方法に従って行うことができる。
例えば、該ハイブリドーマを適当な培養培地で培養し、培養上清を回収することにより行ってもよく、ハイブリドーマを哺乳動物の腹腔内に投与し、腹水を回収することにより行ってもよい。
モノクローナル抗体の精製は、ハイブリドーマの培養上清又は培養したハイブリドーマを超音波装置、ホモジナイザー等で処理した溶解物、またはハイブリドーマを腹腔内に投与した哺乳動物から採取した腹水を、例えば、硫安塩析、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等)、ゲル濾過等の方法、またはこれらの方法を適宜組み合わせた、当業者に周知の方法により行うことができる。
【0076】
ハイブリドーマとしては、例えば、受託番号:NITE P-03670で寄託されている細胞株、受託番号:NITE P-03671で寄託されている細胞株、及び/または受託番号:NITE P-03670で寄託されている細胞株を用いることができる。
【0077】
一実施形態において、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマにより産生される抗体をコードする塩基配列を解析し、その抗体遺伝子またはその一部を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞を用い、遺伝子工学的に作製することもできる。
【0078】
ここで、抗体をコードする塩基配列は、〔抗体〕において説明したいずれかの抗体のアミノ酸配列をコードする塩基配列であることが好ましい。
【0079】
一実施形態において、ポリクローナル抗体は、上記の方法により、抗原ペプチドを投与することにより免疫された哺乳動物の血液、腹水、母乳等、好ましくは血液から採取することができ、ニワトリを免疫した場合は血液及び卵黄から採取できる。
【0080】
抗血清中のポリクローナル抗体価の測定、抗原ペプチドに対する結合性の評価、ポリクローナル抗体の分離精製等は、上記のモノクローナル抗体の作製方法に従って行うことができる。
【0081】
〔ハイブリドーマ〕
本実施形態に係るハイブリドーマは、〔抗体〕で説明したシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片を産生する、ハイブリドーマである。
【0082】
一実施形態において、ハイブリドーマは、受託番号:NITE P-03670で寄託されている細胞株、受託番号:NITE P-03671で寄託されている細胞株、及び/または受託番号:NITE P-03670で寄託されている細胞株である、ハイブリドーマである。
【0083】
ハイブリドーマは、〔抗体の作製〕において、モノクローナル抗体の作製方法として説明した本技術分野で当業者に周知の方法によって作製することができる。
【0084】
〔核酸及び発現ベクター〕
本実施形態に係る核酸は、〔抗体〕において説明したいずれかの抗体、またはその抗原結合断片のアミノ酸配列をコードする核酸である。
【0085】
〔抗体の作製〕で説明したとおり、一実施形態において、本実施形態に係る核酸、すなわち抗体遺伝子を、適切な発現ベクターに組み込んで宿主細胞に導入することによって、抗体を遺伝子工学的に作製することができる。
抗体遺伝子の単離、抗体遺伝子の発現ベクターへの導入、宿主細胞の形質転換のための方法は既に確立されており(例えば、Vandamme, A. M. et al., Eur.J. Biochem.(1990)192, 767-775)、本技術分野で周知の方法に従って、当業者が行うことができる。
【0086】
一実施形態に係る核酸は、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、若しくは配列番号63に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、またはそれらのいずれかの一部のアミノ酸配列を有するものであることが好ましいが、該各塩基配列と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有する塩基配列を有する核酸であってもよい。
ここで、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、または配列番号63に記載のアミノ酸配列の一部とは、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖CDR1~3、軽鎖CDR1~3、重鎖フレームワーク1~4、または軽鎖フレームワーク1~4であってもよい。
一実施形態において、核酸は、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、若しくは配列番号63に記載のアミノ酸配列、またはそれらのいずれかの一部のアミノ酸配列に対し、1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10アミノ酸残基が付加、欠失、及び/または置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸、並びに、そのような変異を含むアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸に相補的な核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を包含する。
ここで、「ストリンジェントな条件」とは、核酸同士の、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、配列同一性が高い核酸、すなわち塩基配列が少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%以上の配列同一性を有する核酸の相補鎖がハイブリダイズし、それより配列同一性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件等が挙げられる。ストリンジェントな条件は、当該分野で周知の方法に従って当業者が適宜選択することができる。
【0087】
本実施形態に係る発現ベクターは、上記核酸のいずれかを含む発現ベクターである。
【0088】
該発現ベクターを適切な宿主細胞に導入し、培養することにより、核酸によりコードされるアミノ酸配列を含む抗体、または抗体の一部を産生することができ、本発明に係る抗体を作製することができる。
【0089】
使用する発現ベクターは、当業者が周知のベクターから適宜選択することができ、抗体またはその抗原結合断片を発現することができる範囲で限定されない。
【0090】
〔検出方法〕
本実施形態に係る検出方法は、〔抗体〕に記載のいずれかの抗体、またはその抗原結合断片を使用することを含む、生物学的試料におけるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの検出方法である。
【0091】
〔抗体〕に記載の抗体、またはその抗原結合断片は、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する。すなわち、一実施形態において、抗体、またはその抗原結合断片は、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに結合し、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有さないディスアドヘリンに対し、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに対する結合性と比較して結合性が低い若しくは結合しない抗体、またはその抗原結合断片である。従って、〔抗体〕に記載の抗体、またはその抗原結合断片を使用することにより、生物学的試料において、ディスアドヘリンの中でも、特にシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出することができる。
【0092】
ここで、本実施形態において、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体の例及び好ましい例は、〔抗体〕に記載のとおりである。
【0093】
一実施形態において、生物学的試料は、その由来生物種が特に限定されるものではなく、使用する抗体が、少なくとも特異的に結合し得るシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを有する生物種であればよいが、その検出感度を考慮すれば、抗体が、哺乳動物のシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに結合する抗体である場合、生物学的試料は、哺乳動物由来であることが好ましい。抗体が、特定の哺乳動物のシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体である場合、生物学的試料は、同一の哺乳動物由来であることがより好ましい。例えば、抗体が、ヒトのシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体である場合、生物学的試料はヒト由来であることが好ましい。
【0094】
がん細胞では、正常細胞と比較して、ディスアドヘリン上のO-結合型糖鎖が高度にシアル酸修飾されている。よって、抗体が、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する場合、がん細胞で発現するシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを特異的に検出することができる。
【0095】
従って、一実施形態において、生物学的試料は、好ましくはヒトである哺乳動物由来の、がん組織またはがん組織であると疑われる組織に由来することが好ましい。生物学的試料は、単離された細胞であっても、組織であってもよい。
がんの種類は、その細胞または組織にシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンが含まれる可能性のある範囲で限定されず、例えば、膵臓がん、肝臓がん、胆道がん、肺がん(非小細胞肺がん、小細胞肺がんを含む)、乳がん、頭頸部がん、甲状腺がん、唾液腺がん、中皮腫、食道がん、小腸がん、大腸がん、胃がん、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、腎盂・尿管がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮肉腫、皮膚がん、メラノーマ、肉腫、脳腫瘍が挙げられるが、膵臓がんであることが好ましい。
【0096】
生物学的試料は、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出するために用いることのできるあらゆる生物学的試料を包含する。
一実施形態において、生物学的試料は、血液関連試料(例えば、全血、血清、血漿、または他の血液由来試料)、尿、精液、脳脊髄液等の体液、若しくは気管支肺胞洗浄液等の液体生物学的試料であっても、または培養細胞、培養組織、生体由来細胞、若しくは生体由来固形組織であってもよい。生物学的試料が生体由来である場合には、生検によって取得してもよく、または外科手術により切除された組織から取得してもよい。
【0097】
生物学的試料は、新鮮な試料であっても、組織固定液等の中で保存された試料であってもよく、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの検出の方法に従って、当業者が適宜選択することができる。
【0098】
一実施形態において、生物学的試料におけるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの検出は、抗体を用いた方法として当業者に周知の免疫学的手法によって行うことができ、例えば、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)を含むEIA(Enzyme Immunoassay)、蛍光免疫測定法、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、RIA(Radioimmuno assay)、ウェスタンブロット法、ラテックス凝集法、イムノクロマト法、サンドイッチ法等が挙げられる。
免疫学的手法に用いる緩衝液、陽性または陰性対照試料、二次抗体、シグナル可視化試薬等は、当該分野で周知の方法に従って当業者が適宜選択することができる。
【0099】
免疫学的手法に供するために、例えば、生物学的試料を、適切な緩衝液中において超音波装置やホモジナイザー等で処理し、溶解物を取得してもよい。処理済試料において、必要に応じ、タンパク質を濃縮する等の前処理を行ってもよい。このように調製した試料に対し、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片を反応させることによって、生物学的試料におけるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出することができる。
【0100】
または、免疫学的手法に供するために、生物学的試料が組織の場合、当業者に周知の方法に従って生物学的試料の組織切片を作製してプレパラートを調製してもよい。組織切片に対し、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片を反応させることによって、生物学的試料におけるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出することができる。特に、組織切片を用いた場合には、生物学的試料内のシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの局在も併せて検出することができる。
【0101】
〔検出キット〕
本実施形態に係る検出キットは、生物学的試料においてシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出するための、〔抗体〕に記載のシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片を含む検出キットである。
【0102】
シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体の例及び好ましい例は〔抗体〕に記載のとおりである。
【0103】
一実施形態において、本発明に係る検出キットは、〔検出方法〕で説明した方法を実施するために用いることができる。
【0104】
一実施形態において、検出キットを適用する生物学的試料は、がん組織に由来することが好ましい。
【0105】
一実施形態において、検出キットを適用する生物学的試料は、好ましくはヒトである哺乳動物由来のがん組織に由来することが好ましい。
【0106】
一実施形態において、検出キットは、生物学的試料におけるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに対する、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の結合を検出するための試薬として、緩衝液またはその濃縮液、陽性または陰性対照試料、生物学的試料調製用試薬、二次抗体、シグナル可視化試薬、防腐剤、ブロッキング試薬、安定剤等を、1つ以上含んでいてもよい。
【0107】
一実施形態において、検出キットに含まれるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片は、検出工程に必要な修飾が付されたものであってもよい。修飾は、当業者が周知の技術から適宜選択することができるが、例えば、ビオチン、蛍光物質、酵素等であってもよい。
【0108】
一実施形態において、検出キットは、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が固定化された媒体を含んでいてもよい。
媒体は、当業者に周知の物質から適宜選択することができ、例えば、濾紙等の紙、ガラス、繊維、ニトロセルロース等の変性セルロース、ナイロン、プラスチック等からなるフィルター、メンブレン、プレート、ディッシュ、または磁性素材等からなる粒子等であってもよい。
【0109】
一実施形態において、媒体は、例えば、〔検出方法〕で説明したとおり、免疫学的手法に供するために生物学的試料を処理して得られた溶解物等を滴下する部分または試料を浸す第一の部分と、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が固定化された第二の部分と、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が産生されたホストの動物種の免疫グロブリンに特異的に反応する抗免疫グロブリン抗体等が固定化された第三の部分を有する。
一実施形態において、媒体として、第二の部分が第一の部分と第三の部分との間に備えられ、第一の部分には、金属コロイド粒子(例えば、金コロイド粒子等)、重金属(例えば、金、白金等)、蛍光物質(例えば、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、ローダミン、ファロイジン等)、着色ラテックス粒子等の標識物質で標識された、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含むクロマトグラフ媒体を挙げることができる。
クロマトグラフ媒体としては、例えば、ガラスやシリカ等の無機繊維からなる濾紙、ニトロセルロース等の変性セルロース等を用いることができる。このようなクロマトグラフ媒体を用いることにより、生物学的試料中にシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンが含まれるか否かを検出することが可能である。
【0110】
その原理としては、生物学的試料を処理して得られた溶解物等をクロマトグラフ媒体の第一の部分に滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、試料中のシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンは、第一の部分に含まれる標識された抗体またはその抗原結合断片と反応して複合体を形成し、液が媒体中を広がるのを利用して、その複合体は第二の部分へと移動し、第二の部分において固定化された抗体またはそのフラグメントに捕捉されてその位置で標識物質によりシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの検出が可能となる。第一の部分からくるフリーの抗体は、第三の部分へと移動し、第三の部分において固定化された抗免疫グロブリン抗体に捕捉され、第三の部分で発色が生じる。この第三の部分での発色は、検出の陽性対照となる。これに対して、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの抗原を含まない試料を第一の部分に滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、第一の部分に含まれる標識された抗体またはその抗原結合断片が、第二の部分を素通りして第三の部分へと移動し、第三の部分において固定化された抗免疫グロブリン抗体に捕捉され、第三の部分でのみ発色が生じる。このように、第二の部分にシグナルが現れたか否かによって、試料中にシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンが含まれるか否かを検出することが可能である。
【0111】
〔検査キット、診断キット〕
〔検出キット〕に記載の検出キットを使用することで、生物学的試料においてシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出することができる。
よって、下記のとおり、〔検出キット〕に記載の検出キットを含む検査キット、または診断キットを提供することができる。
【0112】
がん細胞では、正常細胞と比較して、ディスアドヘリン上のO-結合型糖鎖が高度にシアル酸修飾されており、細胞接着を著しく低下させてがんの浸潤や転移に関与することが報告されている。従って、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンは、がんの治療標的となり得る。
例えば、生物学的試料ががん組織に由来する場合、シアル酸O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出することによって、該がんが、シアル酸O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを標的とした治療に応答する可能性が高いか否かを決定することができる。
【0113】
よって、一実施形態において、〔検出キット〕に記載の検出キットは、がん患者から取得した生物学的試料(がん組織)におけるシアル酸O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出することによって、シアル酸O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを標的とした治療に応答する可能性の高いがん患者を特定するための、検査キット、または診断キットとして用いることができる。
【0114】
〔がん患者特定方法、診断方法〕
本実施形態に係るがん患者を特定するための方法は、〔抗体〕に記載の抗体または抗原結合断片を用いて生物学的試料におけるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを検出することを含む、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを標的とした治療に応答する可能性の高いがん患者を特定するための方法である。
【0115】
がん細胞では、正常細胞と比較して、ディスアドヘリン上のO-結合型糖鎖が高度にシアル酸修飾されており、細胞接着を著しく低下させてがんの浸潤や転移に関与することが報告されている。従って、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンは、がんの治療標的となり得る。よって、例えば、生物学的試料ががん組織に由来する場合、シアル酸O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの検出を実施し、シアル酸O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンが検出されることを基準として、シアル酸O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを標的とした治療に応答する可能性の高いがん患者を特定することができる。
【0116】
また、一実施形態において、例えば、生物学的試料ががん組織に由来する場合、がん患者から取得した生物学的試料(がん組織)におけるシアル酸O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンの検出を実施し、シアル酸O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンが検出されることを基準として、シアル酸O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを標的とした治療に応答する可能性の高いがん患者を特定することができ、特定されたがん患者はシアル酸O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを標的とした治療に適用であると診断することができる。
【0117】
一実施形態において、本実施形態に係るがん患者を特定するための方法、及び診断方法は、〔検出キット〕、〔検査キット、診断キット〕に記載のキットを用いて実施してもよい。
【0118】
〔医薬、治療方法、使用〕
本実施形態に係る医薬は、〔抗体〕に記載される少なくとも1の抗体または抗体断片を含む、がんを治療するための医薬である。
【0119】
本実施形態に係る治療方法は、〔抗体〕に記載される少なくとも1の抗体または抗体断片の治療上有効量を、それを必要とするがん患者に投与することを含む、がんの治療方法である。
【0120】
本実施形態に係る抗体または抗体断片は、〔抗体〕に記載される少なくとも1の抗体または抗体断片であって、がんの治療における使用のための抗体または抗体断片である。
【0121】
本実施形態に係る使用は、がんの治療用医薬の製造における、〔抗体〕に記載される少なくとも1の抗体または抗体断片の使用である。
【0122】
ここで、「医薬」、「治療方法」、「抗体または抗体断片」、及び「使用」についての本実施形態において、抗体の例及び好ましい例は、〔抗体〕に記載されるとおりである。抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、及び/またはライブラリー由来であってもよく、抗体の一部がヒト由来、それ以外がヒト以外に由来するアミノ酸配列を有する抗体であってもよいが、治療対象の動物種に従って、改変されていることが好ましい。例えば、ヒトの治療用の医薬に使用する場合は、ヒト化された抗体であってもよい。
【0123】
治療対象は、がん細胞においてO-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンが高度にシアル酸修飾されており、〔抗体〕に記載のいずれかの抗体が、がん細胞におけるシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する範囲で限定されないが、抗体の結合親和性を考慮すれば、抗体が、哺乳動物のシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに結合する抗体である場合、哺乳動物由来であることが好ましい。抗体が、ヒトのシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに結合する抗体である場合、治療対象は、ヒトであることが好ましい。
【0124】
がんの種類は、その細胞または組織にシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンが含まれる可能性のある範囲で限定されず、例えば、膵臓がん、肝臓がん、胆道がん、肺がん(非小細胞肺がん、小細胞肺がんを含む)、乳がん、頭頸部がん、甲状腺がん、唾液腺がん、中皮腫、食道がん、小腸がん、大腸がん、胃がん、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、腎盂・尿管がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮肉腫、皮膚がん、メラノーマ、肉腫、脳腫瘍が挙げられるが、膵臓がんであることが好ましい。
【0125】
本実施形態において、抗体または抗体断片は、製剤化されていてもよく、1または複数の任意の薬学的に許容される担体と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で調製されてもよい。
薬学的に許容される担体は、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸等の緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む、抗酸化剤;保存料(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル、若しくはベンジルアルコール;メチル若しくはプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール等);低分子(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、若しくはリジン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、若しくはデキストリンを含む、単糖、二糖、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトール等の、砂糖類;ナトリウム等の塩形成対イオン類;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/またはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン系表面活性剤であってもよい。
【0126】
抗体または抗体断片は、全身的または局所的に、経口投与または非経口で治療対象に投与することができる。
【0127】
抗体または抗体断片は、その他の有効成分と共に製剤化されて、治療対象に投与されても、その他の有効成分とは別に製剤化された併用医薬として治療対象に投与されてもよい。併用医薬として用いられる場合、その他の有効成分と同時に、別々に、または連続して投与されてもよい。
【0128】
一実施形態において、「医薬」、「治療方法」、「抗体または抗体断片」、及び「使用」において、〔がん患者特定方法、診断方法〕に記載の方法によって、生物学的試料においてシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンが検出された対象に、抗体または抗体断片が投与されてもよい。これにより、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンを標的とした治療に応答する可能性の高い対象に対する治療を行うことができる。
【実施例0129】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0130】
[実施例1]がん組織におけるレクチンマイクロアレイ解析
ディスアドへリン上にがんに特徴的な糖鎖が生じるかを予備的に検証するために、ランダムに選抜された膵がん患者3症例(ID:296T、323T、325T)のがん部領域組織を用い、以下の実験を実施した。
なお、非がん部を対照として実施すべきだが、当該タンパク質の発現が非がん部において認められなかったため以後の実験には用いなかった。
【0131】
(既存抗ディスアドへリン抗体を用いた組織標本中ディスアドへリンのエンリッチ)
膵がん患者3症例のがん部凍結組織を、常法に則り可溶化し、取得溶液を組織溶解物とした。なお、その際用いた可溶化緩衝液は1%プロテアーゼインヒビター(Protease Inhibitor Cocktail, Animal Component Free、Sigma-Aldrich社製)/1%Triton X-100含有Phosphate-buffered saline(PBS)緩衝液である。各サンプルの組織ライセートの液量として10μL相当を用い、久野らや我妻らの方法(Kuno A. et al., Molecular & Cellular Proteomics 8, 99-108(2009)、Wagatsuma T. et al., Frontiers in Oncology 10, 338(2020))に準じ、免疫沈降を行った。
【0132】
上記免疫沈降において、プレクリアに使用したストレプトアビジン固定磁気ビーズ(Dynabeads MyOne Streptavidin T1、DYNAL社製)は10μL分であり、免疫沈降には当該磁気ビーズ10μL、及びビオチン化抗ディスアドへリン抗体(M53 mAb(NCC-M53、Shimamura et al.J.Clinical Oncology 21(4)659-667(2003)に説明される。国立がん研究センターにて作製された。))1μgを用いた。ビーズの洗浄には1%Triton X-100含有TBS緩衝液(TBSTx)を用いた。磁気ビーズに捕捉されたディスアドへリンの溶出のために、沈降後の磁気ビーズペレットへ0.2%SDS含有TBS緩衝液を10μL加え、95℃で10分間加熱処理をした。回収専用磁石により磁気ビーズをトラップし、取得された上清に上記磁気ビーズ20μL分を加え、加熱により該当タンパク質とともに溶出されたビオチン化抗体を、磁気ビーズにトラップ除去し、最終取得上清をディスアドへリン溶出液(ディスアドへリンエンリッチ)とした。該溶出液の半量を用いて常法に従ってウェスタンブロットを行った。なお、泳動ゲルには10-20%グラジェントポリアクリルアミドゲルを用い、検出1次抗体には上記ビオチン化抗体を用い、検出にはストレプトアビジン-HRP及び検出用基質(ImmnoStarLD、FUJIFILM社製)を用いた。これによりがん部より免疫沈降によりディスアドへリン分子のエンリッチが確認できた。ただし、免疫沈降による組織ライセート中ディスアドへリンの回収率が悪かったため、非結合画分を用い、上記と同様の方法により再度ディスアドへリンのエンリッチを行った。2回分のエンリッチ溶液の半量について以後のレクチンアレイ解析に用いた。
【0133】
(レクチンアレイによる組織中ディスアドへリンの糖鎖プロファイリング)
次に、がん部組織におけるディスアドへリンの糖鎖のそれぞれを認識するレクチンの種類を確認するために、上記方法により取得されたディスアドへリンエンリッチを用い、久野らや我妻らの方法(Kuno A. et al.,Molecular & Cellular Proteomics 8, 99-108(2009)、Wagatsuma T. et al., Frontiers in Oncology 10, 338(2020))に準じ、レクチンアレイ解析(抗体オーバーレイ法)を行った。その際に用いたレクチンアレイチップは、市販チップLecChip ver1.0である(グライコテクニカ社製)。
各サンプル(ディスアドへリンエンリッチ)を、上記LecChip ver1.0に、液量として半量をアプライし、10時間以上、20℃で結合反応させた。未反応の基板上レクチンに検出用抗体上の糖鎖が結合し、ノイズとして生じてしまうことを避けるため、ヒト血清由来IgG溶液(Sigma-Aldrich社製)を2μL加え、30分反応させた。その後、上記ビオチン化抗体を100ng添加し1時間、20℃反応し、次いでCy3標識ストレプトアビジンを200ng添加し30分、20℃反応し、余剰蛍光物質をPBSTx(1%Triton X-100含有PBS)で洗浄したのちに、GlycoStation Reader1200(グライコテクニカ社製)でアレイスキャンすることで結合シグナルの検出を行った。
【0134】
結果を図1に示す。なお、図1の各グラフにおいて、縦軸は相対シグナル値を示し、横軸にはレクチンアレイチップver1.0に含まれる45種レクチンのうち特徴的なものを抜粋している。
図1に示すように、それぞれの症例(A)~(C)(ID:296T、323T、325T)において、酷似したシグナルパターンを有していることが分かった。すなわち、O-結合型糖鎖のシアル酸クラスターを認識するWGA、ジシアリルコア1構造を認識するMAH、及びコア1構造を認識するJacalinにおいてシグナルが得られた。この特徴は、膵臓がん細胞株(PSN-1)由来ディスアドへリンのレクチンアレイの結果(Dに示す)と一致した。
なお、CalsepaはN-結合型糖鎖認識レクチンであり、O-結合型糖鎖のみを有するディスアドへリンとの結合性について、原因は不明である。
【0135】
以上から、膵がん患者組織のがん部にはディスアドへリンが存在し、その糖鎖構造としてシアル酸の修飾を高度に受けるO-結合型糖鎖を有している特徴があることが明らかになった。
【0136】
[実施例2]シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体の作製のための免疫原の作製
【0137】
(GFPタグ付きディスアドへリンDA-GFPの発現)
マウス免疫抗原用タンパク質発現コンストラクトを図2に示す。
ヒトディスアドへリン(DA)のアミノ酸配列情報(UniProt: Q96DB9)を配列番号1に示す。
膵臓がんの培養細胞の発現量比較解析に基づき、BxPC-3細胞をディスアドへリン高発現細胞として用いた。BxPC-3細胞からRNAを調製しreverse transcription PCR(RT-PCR)法により細胞外ドメイン(1~145アミノ酸)のcDNAを合成し、GFPタンパク質との融合cDNA(DA-GFP)配列番号64を作製した。発現ベクターにクローニングしてDA-GFPプラスミドDNAを調製し、HEK293TまたはBxPC-3細胞の形質転換に用いた。
【0138】
(DA-GFP融合タンパク質の調製)
BxPC-3細胞の形質転換はLipofectamine LTX(Thermo Fisher Scientific社)を用いて行った。
形質転換24時間後に血清を含まない完全合成培地に交換し、さらに2日間培養を続けた。培養上清を回収し、遠心(8000 rpm x 15 min)後に0.45 μmのフィルターで濾過した。さらにPellicon XL 30K(Merck Millipore)を用いてPBS-T(PBS + 0.05% Tween20)に置換・濃縮した。10 mM NaPi(pH7.4)を用いて透析した後に、Q-Sepharoseカラムを用いてHPLCにて分離し(0.2 M、0.3 M、0.4 M 、1 M NaCl溶出)、DA-GFPフラクションを精製した。
なお、当該融合タンパク質を高発現させた場合、細胞培養上清には高い割合でプロテアーゼにより切断された後に生じるフリーなGFPが存在し、GFP抗体での融合タンパク質の精製効率を低下させる。よって、この過程でフリーのGFPタンパク質を除去し、GFP抗体ビーズを用いてDA-GFPをアフィニティ精製した。この処理は、GFPを認識する抗体の生産を抑制する効果もある。
【0139】
[実施例3]シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合する抗体の作製
(マウスの免疫)
3匹のマウス(マウスID:DA#1~#3)(Balb/cマウス、8週齢のメス)に対し、Day0、5、12、33に、上記の通り調製したDA-GFP 41.5μg、5μg、5μg、2μgを完全フロイント アジュバントと混合して投与し、免疫した。
マウスの眼窩採血を定期的に行い、血清中の抗原に対する抗体価の上昇をモニタリングしながら免疫を行った。
なお、抗体価の上昇が期待できることから、血清及び免疫B細胞の回収を行う3日前(Day33)の免疫時において、尾静脈への免疫原の投与を行ったが、その際#3のマウスにはDA-GFPでなくBxPC-3の細胞溶解物から調製した内在性DAを投与した。このGFPを有さないディスアドへリンへの免疫原の変更は、GFPを認識する抗体の生産を抑制する効果がある。抗体価が十分に上昇したことを確認した免疫マウスから抗体産生細胞(脾細胞)を採取した(Day36)。マウス免疫のスケジュール及び概要を図3に示す。
【0140】
(抗体価の確認)
免疫に用いた抗原(DA-GFP)をELISAプレートに固相化し、検出側として免疫マウスの抗血清あるいは既存の抗DA抗体を用いてELISA測定系での検討を行った。
【0141】
まず、精製DA-GFPをPBSで1μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレート(Thermo Fischer Scientific社、Immobilizer Amino)に100μL/ウエルずつ添加しアミノ基を介して共有結合させた。室温で3時間抗原をプレートに吸着(固相化)させた後、ウエルをPBS-T (PBS, 0.05% Tween-20)で洗浄した。
次に、TBS(50 mM Tris、pH8.0、0.15 M NaCl、0.1% NaN)を用い4℃一晩ブロッキングした。ウエルをPBS-Tで洗浄後、抗血清(Day0、21、28)の希釈系列溶液100μLを各ウエルに添加した。室温で2時間反応させた後、ウエル中の溶液を廃棄し、PBS-Tにて洗浄後、10,000倍希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG抗体(Jackson社、115-035-062)を室温で1時間反応させた。その後、反応液を廃棄、洗浄した後、1StepUltra TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。
その結果を図4(右グラフ)に示す。3匹のマウス(マウスID:DA#1~#3)において、抗体価の十分な上昇が認められた。
【0142】
(細胞染色による抗血清の確認)
免疫後の抗血清に膵臓がん細胞を認識する抗体が存在することを確認するためにBxPC-3細胞の染色を行った。
BxPC-3細胞を96-wellプレートに5×10細胞/ウエルで播種し、培養後にPBSで洗浄し4%パラホルムアルデヒドで固定した。PBSで洗浄した後に、PBSで500倍または1000倍希釈した、3匹の免疫マウスからそれぞれ得た抗血清を100μL/ウエルで加え、室温で2時間インキュベーションした。
PBSで洗浄した後に2000倍希釈したAlexaFluor 488 goat anti-mouse IgG (Thermo Fischer Scientific社)を100μL/ウエルで加え、室温で1時間インキュベーションした。細胞染色画像はCell Insight CX5 (Thermo Fisher Scientific社)を用いて取得し、二次抗体のみの細胞染色画像と比較した。
【0143】
図4(左上及び左下グラフ、HCS)に示すように、3匹のマウス(マウスID:DA#1~#3)において、図4(右グラフ)に示されるELISA測定系と同様のDay21からDay28の抗体価の上昇が認められた。
また、BxPC-3細胞の細胞膜上にシグナルが観察され、免疫後の抗血清に膵臓がん細胞に結合する抗体が含まれることが示された(写真は示さず)。
【0144】
(ハイブリドーマの作製)
抗体産生細胞と骨髄腫(ミエローマ)細胞との細胞融合を行うことでハイブリドーマを作製し、DAを認識するモノクローナル抗体のスクリーニングを行った。
免疫マウス(マウスID:DA#1~#3)(由来脾細胞とマウス骨髄腫細胞(P3U1細胞)を使用して、それぞれの細胞をRPMI培地(無血清)で洗浄した後に5:1の比で混合し、細胞融合促進剤(GenomONE-CF Kit、コスモバイオ)による細胞融合作業(氷上5分、37℃ 15分)を行った。
【0145】
細胞融合後、20% S-clone medium(積水メディカル)と10% ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI 1640(+ペニシリン、+ストレプトマイシン)に懸濁し、96-wellプレートに5×10細胞/ウエルで播種した。選択培地としてHAT培地(RPMI1640培地に100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン及び10% ウシ胎児血清(FBS)、10-4Mヒポキサンチン、1.5×10-5Mチミジン及び4×10-7Mアミノプテリンを加えた培地)を用いて培養を行い、融合細胞のみが生存するように選択的な培養を行った。
選択培地で培養開始後約10日以降に、コロニーを形成した細胞をハイブリドーマとして選択するために、限界希釈法によってモノクローンの細胞を得た。具体的には、96-wellプレートに細胞懸濁溶液の希釈系列を作製して播種し、数の限定された細胞由来のハイブリドーマ群を選択するとともに、後述のスクリーニングによってDAに対する抗体を産生するクローンを選択した。3匹のマウスのうちの1匹(マウスID:DA#2)の条件について図5に示す。
【0146】
融合の結果、880ウエル全てにおいてコロニーの生育が認められた。
【0147】
次に、880ウエルにコロニーが生育したハイブリドーマが産生する抗体について、以下実施例4~7に記載のとおりスクリーニングを行った(図6)。
【0148】
[実施例4]ハイコンテントスクリーニング(HCS)よる抗体の選抜
880ウエルに生育したハイブリドーマの培養上清中にDA-GFPを抗原とする目的の抗DAモノクローナル抗体が含まれる否かを、上述の様にHigh Content Analysis法(Cell Insight CX5)によりスクリーニングした。
BxPC-3細胞をNunc Optical-Bottom Plates withPolymer Base(Thermo Fischer Scientific社) に5×10細胞/ウエルで播種し、染色前に4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄した後に1%ヤギ血清でブロッキングした。ハイブリドーマを培養したウエル中に含まれる培養上清100μLを採取し、固定したBxPC-3細胞の各ウエルに加え、室温で2時間インキュベーションした。ポジティブコントロールとして既存DA抗体である3G10抗体を62.5~500 ng/mLで希釈したものを用いた。二次抗体には2000倍希釈したAlexaFluor 488 goat anti-mouse IgGとHoechst 33342(0.5μg/mL)の混合液を用い、室温で1時間インキュベーションした。
Cell Insight CX5を用いて核染色と細胞染色を最適の露光で4視野/ウエルで画像を取得した。二次抗体のみの染色を基準として陽性ウエルを選定し、画像を確認し細胞膜が染色されているウエルを候補として(1st HCS Hitクローン数129)、拡大培養してさらにHCSを行い、有力候補として17クローン(2nd HCS Hit)に絞り込んだ。図7にその結果の一部を示す。
【0149】
(ハイブリドーマからの産生抗体の回収)
スクリーニングで陽性と認められたハイブリドーマ細胞株は、RPMI1640に10%FBSを添加した培地を用いて37℃で拡大培養した。得られたハイブリドーマの培養上清(100mL~1L程度、必要量に応じて適宣調整)から抗体を精製した。
抗DAモノクローナル抗体は、慣用的技術によって回収可能であり、抗体の精製が必要な場合には、イオン交換クロマトグラフィー法、プロテインA又はプロテインG等によるアフィニティークロマトグラフィー法、ゲルクロマトグラフィー法、硫酸アンモニウム塩析法等公知の方法を用いて精製した。
【0150】
[実施例5]ウェスタンブロット解析による抗体の選抜
DAに対する抗体活性の確認方法としてウェスタンブロット法を行った。
まず、抗原として用いたBxPC-3細胞で発現、調製したDA-GFP、大腸菌で生産した組換えDA(rDA、100 ng)、BxPC-3細胞及びMCF-7細胞の溶解物(5μg)をSDS-PAGE還元条件下で10-20%ゲルを用いて電気泳動し、PVDF膜に転写した。
5%スキムミルク含有PBSでブロッキング後、精製抗体(M53 mAb、3G10 mAb)、100倍希釈したハイブリドーマ(実施例4で選抜された17種)培養上清、または3匹の免疫マウスの抗血清(実施例3で取得)と室温にて1時間反応させた。PVDF膜の洗浄後、二次抗体(0.5μg/mLのHRPラベル化抗マウスIgG抗体)と室温で1時間反応させた。これらのPVDF膜を洗浄後ウェスタンブロッティング検出試薬(Perkin Elmer社)により化学発光にて検出した。
【0151】
実施例4で選抜された17種のうち14種のハイブリドーマの培養上清、及び免疫マウスの抗血清により、ディスアドヘリンに対する特異的バンドが検出された。
14種のハイブリドーマの培養上清による結果を図8及び9に示す。
【0152】
BxPC-3は、ディスアドヘリン陽性のヒト膵臓腺がん細胞株である。図8及び9に示されるとおり、DAP-2、DAP-3、DAP-7、DAP-8、DAP-12、DAP-13、DAP-14の7種の抗体により、ディスアドヘリン陽性細胞であるBxPC-3の溶解物において、ディスアドヘリンに対するバンドが検出された。
【0153】
MCF-7は、ディスアドヘリン陰性のヒト乳腺がん細胞株であり、本実施例ではネガティブコントロールとして用いた。図8及び9に示されるとおり、試験した14種全ての抗体で、ディスアドヘリン陰性細胞であるMCF-7の溶解物において、ディスアドヘリンに対する特異的なバンドは検出されなかった。
【0154】
BxPC-3溶解物及びMCF-7溶解物を用いて得られた以上の結果は、DAP-2、DAP-3、DAP-7、DAP-8、DAP-12、DAP-13、DAP-14の7種の抗体が、ディスアドヘリンに特異的に結合することを示す。
【0155】
rDAは、大腸菌により発現された糖鎖修飾のないリコンビナントヒトディスアドヘリンである。図8及び9に示されるとおり、ディスアドヘリンに特異的に結合する7種の抗体のうち、DAP-7、DAP-13、DAP-14の3種の抗体では、rDA対する特異的なバンドは検出されなかった。
【0156】
以上の結果は、DAP-7、DAP-13、DAP-14の3種の抗体が、シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに特異的に結合することを示す。
【0157】
ここで、M53 mAbは、ディスアドヘリンに対する既存抗体である。図8のブロットに示されるとおり、M53 mAbを用いた場合、BxPC-3溶解物においてディスアドヘリンに対するバンドが検出されたが、rDAに対する結合も認められた。
このM53 mAbを用いて得られた結果は、M53 mAbは、ディスアドヘリンに対する特異性が低く、糖鎖修飾のないディスアドヘリンに対しても結合性を有するものであることを示す。
【0158】
[実施例6]シアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するディスアドヘリンに対する結合による抗体の選抜
細胞溶解緩衝液を用い、A549(ヒト肺腺がん由来上皮細胞株)溶解物、HCC827(ヒト肺腺がん由来上皮細胞株)溶解物、BxPC-3(ヒト膵臓腺がん細胞株)溶解物、Capan-2(ヒト膵臓がん細胞株)溶解物、HT29(ヒト結腸腺がん細胞株)溶解物、HAK1B(ヒト肝がん細胞株)溶解物、HLF(ヒト肝がん細胞株)溶解物、HeLa(ヒト子宮頸がん細胞株)溶解物、HEK293(ヒト胎児腎細胞株)溶解物を調製し、その疎水画分を取得した。
さらに、各溶解物の疎水画分をシアリダーゼAで処理し、シアル酸非含有ディスアドヘリン含む試料を調製した。
【0159】
各細胞溶解物の疎水画分、及びシアリダーゼA処理疎水画分を、タンパク質量として0.5μgずつSDS電気泳動ゲルに添加して電気泳動を行った。ウェスタンブロッティングの条件は実施例5と同様である。
【0160】
ウェスタンブロット解析の結果を図10に示す。
【0161】
図10に示されるとおり、DAP-7、DAP-13、DAP-14によって、シアリダーゼA処理した各種がん細胞株の溶解物(SA(-))においてバンドは検出されなかった。一方で、シアリダーゼA処理していない各種がん細胞株のなかで固有のシアル化ディスアドへリンを発現している細胞の溶解物において、ディスアドヘリンに対するバンドが検出された。特に、膵臓がん由来の細胞株であるBxPC-3及びCapan-2では、「SA(+)」で強陽性であった。
【0162】
一方、M53 mAbは、シアリダーゼA処理した溶解物、シアリダーゼA処理していない溶解物(SA(+))の両方において、ディスアドヘリンに対するバンドが検出された。
【0163】
この結果は、既存抗体M53 mAbはシアル酸含有ディスアドヘリン、シアル酸非含有ディスアドヘリンの両方に結合し、シアル酸含有ディスアドヘリンを特異的に検出することができないこと、一方で、DAP-7、DAP-13、DAP-14がシアル酸含有ディスアドヘリンに特異的に結合することを示す。
【0164】
[実施例7]免疫組織化学染色による抗体の選抜
ヒト膵がん患者39症例から取得した膵臓がん組織、ヒト個体から取得した正常膵臓組織、ヒト慢性膵炎患者から取得した膵炎組織をそれぞれ10%緩衝ホルマリン固定3μmのパラフィン切片を作製した。
【0165】
ライカバイオシステムズ社の自動免疫染色装置Bond Maxを用いて、Bond Polymer Refine Detection Kit(カタログNo.DS9800、Leica Biosystems社)により免疫染色を行った。一次抗体として用いた抗FXYD5マウスモノクローナル抗体及び抗体濃度は3G10(10 mg/mL)、M53 mAb(0.25 mg/mL)、DAP-7(10 mm/mL)、DAP-13(10 mg/mL)、DAP-14(10 mg/mL)であった。賦活化として、クエン酸ベースpH6緩衝液ER1(カタログNo.AR9961、Leica Biosystems社)で98℃、10分処理した。
【0166】
3G10 mAb、M53 mAb、DAP-7、DAP-13、DAP-14を使用した場合、膵臓がん組織において、がん細胞膜にシグナルが認められ、クローン間で明らかな染色性の違いは見られなかったが、膵臓がん組織・正常膵臓組織・膵炎組織にみられる非がん成分について、染色性に違いが認められた。
3G10 mAb、M53 mAbを使用した場合は血管内皮細胞(矢尻、図11)や末梢神経(矢印、図11)にシグナルがみられたが、DAP-7、DAP-14ではそれらのシグナルは不明瞭であり、DAP-13を使用した場合は弱いシグナルがみられるのみであった。ランゲルハンス島(L)の細胞については、DAP-14で最も強いシグナルがみられ、3G10とDAP-13で中等度のシグナル、M53 mAbとDAP-7では弱いシグナルがみられた。DAP-13では、腺房細胞に陽性となる特徴がみられた。
図11には、既存抗体としてM53 mAbの結果を代表例として示し、開発抗体としてDAP-7の結果を代表例として示す。
【0167】
すなわち、新規抗体であるDAP-7を使用した場合、既存抗体M53 mAbを使用した場合と比較して、高い特異性でがん細胞膜にシグナルが認められた。
【0168】
[実施例8]抗DA抗体の遺伝子工学的作製
(抗DA抗体cDNAのクローニング)
抗DA抗体であるDAP-7、DAP-13、及びDAP-14を産生する、約1×10のハイブリドーマ(順に、受託番号NITE P-03670、NITE P-03671、NITE P-03672)を培地から回収した。
それぞれのハイブリドーマのmRNAを調製し、抗体遺伝子(IgG 重鎖と軽鎖)の定常領域に特異的なプライマーを用いてreverse transcription PCR(RT-PCR)を行い、可変領域を含むcDNAを増幅し調製した(Jin et al. Nat. Med.(2009)15: 1088-1092を参照)。定常領域の相同な配列を含むプラスミドDNAを導入して大腸菌を形質転換し、抗体産生プラスミドを作製した。
得られた抗体産生プラスミドをHEK293T細胞等にトランスフェクションし、抗体を含む培養上清を用いて再度抗原(DA-GFP)との反応性を確認した。
抗原反応性を有するプラスミドDNAについてのみ配列を確認し、それぞれの確定抗体cDNAとした。プラスミドDNAの配列決定は、BigDye Terminator v3.1 (Thermo Fisher Scientific社)とCMVプロモーター用プライマーを用いサーマルサイクラー(BioRad)にて反応、未反応試薬をFastGene Dye Terminator Removal Kit(日本ジェネティクス)で除去した後に、キャピラリーシーケンサー(Thermo Fisher Scientific社)で行った。得られたDNA配列はホモロジー検索を行い既存のDNA配列との比較を行った。
【0169】
(抗DA抗体cDNAの発現)
発現ベクターに組み込まれた抗体cDNA(重鎖(G)と軽鎖(K))(実施例8で得られた抗体産生プラスミド)をGenEluteTM HP Endotoxin-Free Plasmid Maxiprep Kit(Sigma-Aldrich)で調製し、Lipofectamine LTX Reagent (Thermo Fisher Scientific社)を用いてHEK293T細胞にトランスフェクションした。タンパク質フリーの培地に交換して3日後の培養液から抗体を精製した。マウスIgG抗体をProGビーズを用いて回収し、0.1 M グリシン(pH2.5)にて溶出し、3 M Tris-Cl(pH8.5)で中和後にPBSにバッファー交換した。所望の抗体が得られたことは、精製した抗体を12.5%SDS-PAGEで展開し銀染色法あるいはHRPラベル化抗マウスIgG抗体を用いたウェスタンブロット法にて確認した。
【0170】
[実施例9]エピトープマッピング
実施例4でハイブリドーマから取得され、実施例5~7で選抜された抗DA抗体(DAP-7、DAP-13、DAP-14)及び既存抗DA抗体(3G10 mAb、M53 mAb)について、株式会社エピトープサイエンス社によってエピトープマッピング解析が実施された。
【0171】
図12に示すとおり、ヒトディスアドヘリンタンパク質(UniProt:Q96DB9-1)について、分子の全体の高次構造を保持したまま、部分的に構造を破壊した変異体8種を設計した(配列番号65~72)。
変異体8におけるS127のアラニンによる置換は、S329へのO-結合型糖鎖修飾がエピトープ構造に関与するか否かを検討するために導入された。各変異体ではディスアドヘリン分子の全体の高次構造を保持したまま、部分的に構造が破壊されているため、抗体検体の、各変異体への反応性の消失は、抗体のエピトープ構造の変異を反映する。
【0172】
野生型ヒトディスアドヘリンタンパク質(WT)と、各変異体のアミノ酸配列を元に合成したcDNAを発現プラスミドベクターにクローニングし、Neuro2a細胞上に一過性に発現させた。
【0173】
(フローサイトメトリー(FCM))
各変異体の発現レベルと、各抗DA抗体検体の発現細胞に対する結合性とを2次元のフローサイトメトリー(2D-FCM)により同時に分析した。
トランスフェクション後2日目のNeuro2a細胞をFCMに用いた。回収した細胞を5%FBS、25%DMEMと0.05% sodium azideを含むDulbecco’s PBS(FCM buffer)で2×10 個/mlになるように懸濁した。この細胞懸濁液25 μlと、各抗体サンプルを2 μg/mlにPBSで希釈した抗体溶液25 μlを、96-well V plateの各well中で混合し(final 5×10 cells/well、各抗体1μg/ml)、4°Cで30分間反応させた。プレートを遠心し、上清を除いた後、新しいFCM buffer 200 μl/well で懸濁し再遠心する方法で一回洗浄した。洗浄した細胞は、2次抗体のFCM buffer希釈液を25 μl/wellで加えて再懸濁し、4℃で30分間反応させた。2次抗体としては、R-Phycoerythrin(PE)F(ab’)2 Fragment Goat Anti-Mouse IgG(H+L)(Jackson ImmunoResearch, 115-116-146)の400倍希釈液を用いた。1回の洗浄後、各wellの細胞を100 μlのFCM bufferで懸濁し、BD LSRFortessa ×20フローサイトメーターを用いて分析し、FSC-SSCプロット中の細胞イベント8000個のデータを取得した。データ解析にはFlowJoソフトウェア(FlowJo)を用いた。
【0174】
FCMの結果、以下の抗体と変異体の組み合わせにおいて、反応消失が観察され、当該変異体における抗体特異的エピトープの破壊が検出された。
・DAP-7:変異体1
・DAP-13:変異体1
・DAP-14:変異体2、4
・G310 mAb:変異体2、3
・M53 mAb:変異体2、3
【0175】
図12にDAP-7、DAP-13、DAP-14、M53 mAbのエピトープ部位を示す。
DAP-7及びDAP-13は、野生型ヒトディスアドヘリン(ヒト FXYD5(UniProt:Q96DB9-1、配列番号1)の24~46番目のアミノ酸配列(配列番号2)を含み、O-結合型糖鎖付加位置であるSerまたはThrにシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するペプチドをエピトープとし、DAP-14は、野生型ヒトディスアドヘリンの58~66番目のアミノ酸配列(配列番号3)を含み、O-結合型糖鎖付加位置であるSerまたはThrにシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するペプチドをエピトープとし、M53 mAb及びG310 mAbは、野生型ヒトディスアドヘリンの49~56番目のアミノ酸配列(配列番号73)を含み、O-結合型糖鎖付加位置であるSerまたはThrにシアル酸修飾O-結合型糖鎖を有するペプチドをエピトープとすることが示された。
【0176】
以上のことから、新規抗体であるDAP-7、DAP-13、DAP-14は、ディスアドヘリンにおいて、既存抗体であるM53 mAbとは異なるエピトープを認識することが明らかになった。
【0177】
[実施例10]結合親和性測定
各抗体の抗原結合親和性(解離定数(K))を、野生型ヒトディスアドヘリン発現細胞に対する見かけの親和性(Apparent affinity)として、算出した。実施例9で作製した、野生型ヒトディスアドヘリンタンパク質(WT)を一過性発現させたNeuro2a細胞に、各抗体の100 nM(15 μg/ml)からの3.15倍希釈系列を12点反応させた。実施例9と同様の方法によりFCMにより取得されたデータを解析し、TagBFP由来の蛍光をレポーターとして抗原発現陽性の細胞分画を選び、それらの細胞に結合した各抗体の結合量を、PE-ラベル2次抗体由来の蛍光量の80th Percentile Fluorescence Intensity(FI)として算出した。算出されたFI値を抗体濃度の対数に対してプロットし、それぞれの抗体の結合曲線を得て、4-パラメーターロジスティック曲線回帰を用いてフィッティングした(Prism software、GraphPad Software Inc.)。
得られた50%効果濃度(IC50)より解離定数(K)を算出した。
【0178】
DAP-14及びM53 mAbにおいて得られた抗原結合親和性は図12に示すとおりであった。
【0179】
[実施例11]モノクローナル抗体のアイソタイピング
実施例3で得られたハイブリドーマにより産生されるDAP-2、DAP-3、DAP-7、DAP-8、DAP-12、DAP-13、DAP-14の7種のモノクローナル抗体について、IsoStripTMマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(ロシュ社)でアイソタイプを決定した。
【0180】
各アイソタイプは図9の「mIg subclass(test kit)」の項に示すとおりであった。
【0181】
[実施例12]抗体グループの特定
実施例3で得られたハイブリドーマにより産生されるDAP-2、DAP-3、DAP-7、DAP-8、DAP-12、DAP-13、DAP-14の7種のモノクローナル抗体について、実施例8の記載に準じてDNA配列を特定し、免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子(IGHV)及び免疫グロブリンカッパ可変遺伝子(IGKV)を同定し、これらの遺伝子の組み合わせに基づき抗体をグループ分けした。
【0182】
各抗体のグループは図9の「DNA seq」の項に示すとおりであった。
【0183】
[実施例13]抗体のCDR配列の特定
実施例3で得られたハイブリドーマにより産生されるDAP-7、DAP-13、DAP-14の3種のモノクローナル抗体について、実施例8の記載に準じてDNA配列を特定し、NCBIで提供されるIGBLAST(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)を用いたアライメントの結果に基づき各抗体の推定CDR部位を決定した。
【0184】
抗体DAP-7について、推定重鎖CDR部位は、配列番号16~18のアミノ酸配列を有し、推定軽鎖CDR部位は配列番号19~21を有することが明らかになった。
抗体DAP-13について、推定重鎖CDR部位は、配列番号30~32のアミノ酸配列を有し、推定軽鎖CDR部位は配列番号33~35を有することが明らかになった。
抗体DAP-14について、推定重鎖CDR部位は、配列番号44~46のアミノ酸配列を有し、推定軽鎖CDR部位は配列番号47~49を有することが明らかになった。
【0185】
本明細書に記載のアミノ酸配列を以下表1にまとめて示す。
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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