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特開2024-104950ウェーハの面取り加工方法及びそれに用いられる面取り加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104950
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ウェーハの面取り加工方法及びそれに用いられる面取り加工装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
H01L21/304 601B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009407
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】津留 太良
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA14
5F057AA34
5F057AA44
5F057BA11
5F057BB09
5F057CA09
5F057DA22
(57)【要約】
【課題】難加工材であるUWBG材料ウェーハ、特にSiCウェーハの面取り加工を高精度な形状形成し、加工変質層等を発生させること無く、加工品質向上を図ることができるウェーハの面取り加工方法及びそれに用いられる面取り加工装置を提供する。
【解決手段】ウェーハWの外周を面取りする面取り加工方法であって、面取り加工を行う斜面Sに垂直となる照射面Lを予め作成する前処理を行い、照射面Lに対して垂直となるように斜面Sに沿って、ウェーハWを貫くようにレーザを照射する。なお、レーザは、ナノ秒パルスレーザの照射と共にCW(連続波)レーザ照射を併用したものであることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハの外周を面取りする面取り加工方法であって、
前記面取り加工を行う斜面に垂直となる照射面を予め作成する前処理を行い、
前記照射面に対して垂直となるように前記斜面に沿って、前記ウェーハを貫くようにレーザを照射することを特徴とする面取り加工方法。
【請求項2】
前記レーザは、パルスレーザの照射と共にCW(連続波)レーザ照射を併用したものであることを特徴とする請求項1に記載の面取り加工方法。
【請求項3】
前記レーザにおける前記パルスレーザは、波長がλ=515nm~1080nmであることを特徴とする請求項2に記載の面取り加工方法。
【請求項4】
前記ウェーハの材料はSiCである請求項1から3のいずれか1項に記載の面取り加工方法。
【請求項5】
前記ウェーハの材料は、4H-SiC、3C-SiC、6H-SiC、15R-SiC、GaN(窒化ガリウム)、酸化ガリウム、AlGaN、ダイヤモンドのいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の面取り加工方法。
【請求項6】
前記レーザによる切断面に(大気圧)水蒸気ブラズマを照射することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の面取り加工方法。
【請求項7】
前記レーザで前記斜面を形成した後の切断面の仕上げ処理として、レーザアニーリングを行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の面取り加工方法。
【請求項8】
前記前処理は前記照射面をアモルファス化することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の面取り加工方法。
【請求項9】
ウェーハの外周を面取りする面取り加工装置において、
予め作成された前記面取り加工を行う斜面に垂直となる照射面と、
前記照射面に対して垂直となるように前記斜面に沿って、前記ウェーハを貫くように照射するレーザと、
前記ウェーハを保持し、X軸、Y軸、Z軸の3軸に加えて、回転のヨー軸と傾斜のピッチ軸の2軸を加えた5軸による構造のワーク移動台と、
前記5軸の移動を行う姿勢変化プログラムと、
を備えたことを特徴とする面取り加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハの外周を面取りするウェーハの面取り加工方法及びそれに用いられる面取り加工装置に関し、特に近年、パワーデバイスへの実用化が進んでいる半導体材料のSiCウェーハの製造に好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、ウェーハの品質向上の要求が強く、ウェーハ端面(エッジ部)の加工状態が重要視され、Si(シリコン)ウェーハ等の半導体ウェーハは、ハンドリングによるチッピングを防止するため、縁部を研削することで面取り加工が行われ、研磨による鏡面面取り加工が行われている。
【0003】
近年は、炭素(C)とシリコン(Si)との化合物であるSiC(炭化ケイ素)を始め、バンドギャップ(UWBG)が大きく、結晶を構成する原子間の結合が強い壊れにくい材料、例えばGaN(窒化ガリウム)、酸化ガリウム、AlGaN、ダイヤモンドを利用した半導体は、シリコン半導体より小型、低消費電力、高効率のパワー素子、高周波素子、耐放射線性に優れた半導体材料として期待され、実用化が進んでいる。しかし、4H-SiC等のUWBG材料は、難加工材であるため品質を満たすための加工コストが大きいことが、更なる普及のための障壁となっている。
【0004】
特許文献1は、ウェーハの周縁エッジ部を面取りする面取り加工方法において、粗研用砥石による粗研削加工を省略し、加工時間の短縮と、ランニングコストの低減を図るため、ウェーハのエッジ部近傍の周縁に沿って斜めにレーザ光を入射させ、内部に多光子吸収による改質領域層を形成させ、エッジ部を斜めに割断除去し、次に、精研用砥石による仕上げ加工を行うことが記載されている。
【0005】
また、特許文献2は、効率良くウェーハの外周に面取り加工を施すため、ウェーハの外周にレーザ光線の集光点を位置づけてレーザアブレーション(光子密度の高いレーザ光を照射し、材料表面を瞬時的に溶融、蒸発させる)によって大まかに面取り加工を施し、後にウェーハの外周を研削砥石で研削して仕上げ加工を施すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-111606号公報
【特許文献2】特開2019-212761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術において、特許文献1、2に記載のものでは、ダイヤモンドに続く硬さを有するSiCは難加工材であり、加工に時間が掛かり、所望の形状を創成するのが困難であり、砥石の消耗も激しく研削加工のコストの低減が十分できるものとは言い難かった。また、レーザアブレーションでSiCウェーハの角部を除去し、後に研削砥石による仕上げ加工する方法は、レーザで除去する領域が大きい場合、レーザ出力や熱応力の発生等で亀裂が進展したり、デブリを発生したり、して除去形状(品質)をコントロールするのが困難かつ、時間が掛かり現実的では無かった。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、レーザを使用して難加工材である4H-SiC等のUWBG材料ウェーハ、特にSiCウェーハの外周部、及びOF(オリエンテーションフラット)の面取り加工を、後工程等にとって好適な(高精度な形状形成、均一な表面状態(うねり・粗さ)に行うことができるウェーハの面取り加工方法及びそれに用いられる面取り加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、ウェーハの外周を面取りする面取り加工方法であって、前記面取り加工を行う斜面に垂直となる照射面を予め作成する前処理を行い、前記照射面に対して垂直となるように前記斜面に沿って、前記ウェーハを貫くようにレーザを照射する。
【0010】
さらに、上記の面取り加工方法において、前記レーザは、パルスレーザの照射と共にCW(連続波)レーザ照射を併用したものであることが好ましい。
【0011】
さらに、上記の面取り加工方法において、前記レーザにおける前記パルスレーザは、波長がλ=515nm~1080nmであることが好ましい。
【0012】
さらに、上記の面取り加工方法において、前記ウェーハの材料はSiCであることが好ましい。
【0013】
さらに、上記の面取り加工方法において、前記ウェーハの材料は、4H-SiC、3C-SiC、6H-SiC、15R-SiC、GaN(窒化ガリウム)、酸化ガリウム、AlGaN、ダイヤモンドのいずれかであることが好ましい。
【0014】
さらに、上記の面取り加工方法において、前記レーザによる切断面に(大気圧)水蒸気ブラズマを照射することが好ましい。
【0015】
さらに、上記の面取り加工方法において、前記レーザで前記斜面を形成した後の切断面の仕上げ処理として、レーザアニーリングを行うことが好ましい。
【0016】
さらに、上記の面取り加工方法において、前記前処理は前記照射面をアモルファス化することが好ましい。
【0017】
また、本発明は、ウェーハの外周を面取りする面取り加工装置において、ウェーハの外周を面取りする面取り加工装置において、予め作成された前記面取り加工を行う斜面に垂直となる照射面と、前記照射面に対して垂直となるように前記斜面に沿って、前記ウェーハを貫くように照射するレーザと、前記ウェーハを保持し、X軸、Y軸、Z軸の3軸に加えて、回転のヨー軸と傾斜のピッチ軸の2軸を加えた5軸による構造のワーク移動台と、前記5軸の移動を行う姿勢変化プログラムと、を備えたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、面取り加工を行う斜面Sに垂直となる照射面Lを予め作成する前処理を行い、照射面Lに対して垂直となるように斜面Sに沿って、ウェーハWを貫くようにレーザを照射するので、難加工材であるUWBG材料ウェーハ、特にSiCウェーハの面取り加工を高精度な形状形成し、加工変質層等を発生させること無く、加工品質向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態によるレーザを用いたウェーハWの面取り加工方法を示す説明図
図2】一実施形態による照射面Lにレーザ10を照射した状態を示す断面説明図
図3】一実施形態によるウェーハWの形状加工の説明図
図4】一実施形態によるレーザ照射部の構成図
図5】一実施形態による面取り加工装置の構成図
図6】一実施形態による面取り加工方法の制御モデルの構築を示すフローチャート
図7】一実施形態によるR部(端面と斜面Sとの接続部)の処理を示す断面説明図
図8】一実施形態によるR部の処理を示すレーザ照射部の構成図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一実施形態によるレーザを用いたウェーハW(SiCウェーハ)の面取り加工方法を示す説明図であり(a)はウェーハWを4H-SiCとした場合の結晶方位と形状、OF(オリエンテーションフラット)を示している。(b)は面取り加工を行う外周部の上半断面を示している。SiC半導体の最大特徴は、バンドギャップがSi半導体に比べて3倍と広く、デバイス化した場合には低消費電力化、高効率化、小型化される点にある。SiCには様々なポリタイプ(結晶多形)が存在し、結晶構造によって呼び方が分類され、それぞれ物性値が異なり、パワーデバイス向けにはウェーハWは、4H-SiCが最適とされている。ウェーハWは、時計方向に回転している。
【0021】
面取り加工は、面取り加工を行う斜面Sに対して斜め下方向から行う。そして、斜面Sの加工は、レーザ照射ポイント(面)をレーザ10の吸収に好適な条件になるように前処理を行う。前処理は、斜面Sに垂直となる照射面Lを予め作成して行う。照射面Lの大きさは、数十μm~1mmの大きさで良い。前処理は、レーザ処理以外でも良いが、レーザ照射により照射面L、斜面Sをアモルファス化することが望ましい。
【0022】
図2は、照射面Lにレーザ10を照射した状態を示す断面説明図である。レーザ10は、照射面Lに対して垂直、入射角が±5度以内となるように斜面Sに沿って、ウェーハWの一部を貫くように照射する。レーザ10による貫通力は、偏光状態、パルス幅にも大きく影響される。例えばレーザ10は、波長がλ=515nm~1080nmのシングルショットのピコ秒もしくはナノ秒パルスレーザとして、設定される。
【0023】
図3は、ウェーハWの形状加工の説明図である。ウェーハWの形状は、ワークとなるウェーハWを移動させることで、レーザの照射点を順次移動させ、所望の形状にレーザにより(糸鋸のように)縁部を切断し面取りを行う。円周部はθ(ヨー軸)を、OF(オリエンテーションフラット)部はX、Y軸を移動してレーザ10をウェーハWの縁部に照射させる。
【0024】
図4は、(a)は、一実施形態のより具体的なレーザ照射部の構成図である。図4(b)は、加工されたウェーハWの端部断面の詳細形状を示し、端面からR部、斜面Sを経由して水平面である上面に至る。下面は上面側と同一である。レーザ10は、ガウシアンのビームプロファイルを有したレーザ光源10-1からのレーザ10の出射光は、集光光学系10-2であるビームエキスパンダでレーザスポットの径が拡大される。
【0025】
また、出射光は、ホモジナイザー(回折型光学素子)、波長板や偏光子を介して照射面Lに至る。レーザスポットの形状は、例えば、半円形状の窓を持つマスクを通過して半円の方向へ偏向したエネルギ密度の分布にビーム成形しても良い。
【0026】
マスクは、ガラス、合成石英、高分子フィルム上にクロムあるいは黒化金属銀を遮光膜として描画図形を形成する。マスクの窓形状は、描画図形によって半円形状に限らず作成、回転等ができる。エネルギ密度のビームプロファイルは、ホモジナイザー(回折型光学素子)、マスクを介して形成することで切り替えが可能となる。
【0027】
レーザスポットは、平凸レンズで構成された集光レンズで集光される。エネルギ密度は、照射位置でレーザスポットの大きさ、集光度、パルス幅、偏光状態、ビームプロファイルで調整される。レーザ10の枠部は、光を吸収あるいは反射するものが安全上好ましく、適当な厚みを有する金属、アルミに黒色アルマイト処理したものなどが適する。
【0028】
ワークとなるウェーハWは、姿勢を可変するワーク移動台17において真空チャックテーブル16で保持される。ワーク移動台17は、X軸、Y軸、Z軸の3軸に加えて、回転のヨー軸と傾斜のピッチ軸の2軸を加えた5軸構造とする。レーザ10は、ピコ秒もしくはナノ秒パルスレーザの照射と共に、CW(連続波)レーザ照射を併用してもよい。レーザ10は、プリズム系、集光光学系10-2を介し照射面Lに対して垂直に入射し、面取り加工を行う斜面Sに沿って貫通して行く。CW(連続波)レーザを併用すると、急激な温度変化をより防ぎやすく、繰り返し熱応力による負荷を低減し転位の発生をより抑制しやすい。
【0029】
CW(連続波)レーザの波長λは、例えば、515nm以上が好ましく、800nm以上がより好ましく、上限としては、1080nm以下が好ましい。レーザ10は、照射箇所へのレーザ照射エネルギの累積値(累積照射エネルギ)が所定値となるように、結晶方位や形状に合わせて照射条件を決定する。これにより、急激な温度変化を防ぎ、繰り返し熱応力による負荷を低減し転位の発生を抑制する。
【0030】
前処理としてレーザ照射により照射面Lをアモルファス化する場合は、波長がλ=515nm~1080nmのシングルショットのピコ秒もしくはナノ秒パルスレーザとして、ウェーハWの材料であるSiCの加工閾値以下の低強度とする。そして、ピコ秒もしくはナノ秒パルスレーザのフルエンス(光子密度:単位面積当たりのエネルギ)は、レーザアブレーションが発生するフルエンスよりも低くする。SiCは、固有の加工閾値があり、特定の条件の(例えば2~4ナノ秒の範囲内の)、ナノ秒パルスレーザであれば、レーザの照射位置で、吸収により、狙った斜面Sの部分が加熱されて、改質が起こり、a-Si(アモルファスシリコン)化される。
【0031】
前処理としてレーザ照射により照射面Lをアモルファス化する場合と、すでに説明した照射面LにウェーハWの一部を貫くようにレーザ10を照射する場合とでは、レーザの波長、及び、パルスレーザの条件は同一でもよいし、異なってもよい。なかでも、より効率的に加工が行える点では、両者の条件が、それぞれ所定の範囲内に含まれる点で同一であることが好ましい。その範囲の具体例の一つが、波長がλ=515nm~1080nmのシングルショットのピコ秒もしくはナノ秒パルスレーザである。
この場合、一形態として、前処理としてレーザ照射により照射面Lをアモルファス化する場合には、ピコ秒を複数のパルス列として重ねて照射する形態(「バーストモード」と呼ばれる方法)を用いると、疑似的にパルス幅を大きくすることができる。これにより、波長がλ=515nm~1080nmのシングルショットのピコ秒もしくはナノ秒パルスレーザを用いても、加工閾値を超えない範囲に調整しやすく、アモルファス化をより効率的に進行できる。
また、この場合、照射面Lのアモルファス化と、それに続くウェーハWの加工とを連続的に実施してもよい。
【0032】
一実施形態は、基本的には斜面Sに垂直となる照射面Lを前処理として予め作成し、レーザ10を照射面Lから斜面Sに沿って入射する。また、レーザ10は、前処理としてアモルファス化されていればアモルファス層で吸収されやすい波長であることが好ましい。その場合、レーザ10は、アモルファス層、SiCではアモルファスシリコンで吸収されやすい波長であり、前処理で改質された部分で効率的に光吸収されて溶融する。
【0033】
また、レーザ10は、CWレーザ(連続レーザ)の照射に代えてフェムト秒レーザで照射しても良い。レーザ10をフェムト秒レーザとした場合は、波長λは515~1080nmが好ましく、800~1080nmがより好ましく、800nmが更に好ましい。レーザ10は、集光光学系10-2を介して照射面Lから斜面Sに沿って照射する。前処理としてアモルファス化されていれば、照射されるフェムト秒レーザは、シングルショットとして、c-Si(炭化ケイ素)層の加工閾値以下の低強度とする。
【0034】
フェムト秒レーザは、時間単位を「フェムト」(千兆分の一)単位で扱い、数フェムト秒から数百フェムト秒の間だけ発光する光レーザである。そして、フェムト秒レーザとしたレーザ10は、a-Si(アモルファスシリコン)化部分に、a-Si(アモルファスシリコン)に対して吸収率の高い波長である355、532、785nmのパルスレーザを選択して照射し、溶融させエピタキシャル成長させて結晶方位が揃った単結晶とする。
【0035】
なお、加工閾値は、ウェーハWの材料(SiCのポリタイプ、GaN(窒化ガリウム)、酸化ガリウム、AlGaN、ダイヤモンド)によりレーザの波長及びパルス幅に依存した明確なレーザ照射フルエンスが存在し、用いるレーザの波長、強度、パルス幅、繰返し周波数、集光度、パルス幅、偏光状態、ビームプロファイル等によって異なる。
【0036】
図5は面取り加工装置の構成図である。制御部30は、過去の経験値である照射条件データベース32から構築された加工学習モデル31に基づいて、レーザ条件(出力、パルス幅等)、形状プログラム(ワーク軌道決定からワーク移動)を決定し、レーザ光源10-1、集光光学系10-2、ワーク移動台17、真空チャックテーブル16、形状測定部18を制御する。5軸構造のワーク移動台17は、制御部30の姿勢変化プログラムによって移動が行われる。
【0037】
形状測定部18は、面取り部の形状、うねり、粗さ等を測定する。集光光学系10-2は、反射鏡等によるスキャン光学系により、レーザスキャン、偏光が行われる。なお、面取り加工装置は、ウェーハWの外周を面取りすることに限らず、ノッチ、オリフラ形状の加工も共通して行うことができる。
【0038】
図6は面取り加工方法の制御モデルの構築を示すフローチャートである。まず、面取り部の目標形状を決定し、目標形状をデータ化する(ステップS1)。
制御プログラムは、データ化された目標形状に従って、ウェーハWの位置制御、照射条件としてレーザのパルス幅、レーザビームをポリゴンミラー等で一定の順序で走査させる偏光の条件、ビームプロファイル、指定したサイクル数からなる波形を出力するバースト条件等を決定(ステップS2)及び変化(ステップS3)して面取り加工を行う。
【0039】
レーザ加工後、CCD、CMOS等のカメラで形状を計測する。面取り部は、斜面、端面に対してピッチ軸を回転させてカメラによる照射面が垂直になるように撮像する。さらに、外周部は、ヨー軸を360度回転させて一周撮像することが可能となる(ステップS4)。
次に、計測結果と目標形状とを比較し、その良否を判定する(ステップS5)。
【0040】
加工毎の照射条件は、照射条件データベース32として記憶し、最適化条件(例えば、偏光の切り替え、パルス幅調整)を求め、必要に応じて更新して加工学習モデル31を構築する。偏光の切り替えは、波長板や偏光子を用いる。波長板や偏光子は、偏光を制御、分析、及び最適化するものであり、レーザ光源10-1に対して、波長の分離、微調整、楕円率の調整、偏光の回転などを行う。
【0041】
図7は、面取り部におけるR部(端面と斜面Sとの接続部)の処理を示す断面説明図であり、上面側のみを表している。R部の処理は、レーザ10で斜面Sを形成した後に行う。図7(a)は、照射するレーザのビームプロファイルをフラットトップ形状LP1にしたことを模擬的に表している。図7(b)は、ビームプロファイルを三角形状LP2にしたことを模擬的に表している。
【0042】
R部の処理は仕上げ処理であるので、照射するビームのプロファイルは、レーザ光のプロファイル(パワー分布)を形成するホモジナイザー等でフラットトップ形状LP1又は、三角形状LP2にしてR部へ照射する。R部の形成は、角度を変えて複数回照射してもよいし、異なる角度から同時に照射してもよい。
【0043】
平面部である斜面Sの仕上げ処理は、レーザ照射面に対して略垂直とするが、R部は、曲率のある照射箇所であるので、全ての照射箇所に対して垂直にレーザを照射するのは困難である。そこで、曲率のある照射箇所は、区間分割(離散化)してレーザ入射角を変化させ、区間毎のレーザ照射面に対して垂直に照射する。また、曲率のある照射箇所は、スキャンピッチSPを大きくして、(あるいは、累積の照射回数を減らし)スループットを短縮させ、効率良くすることが望ましい。
【0044】
図8は、R部及び斜面Sの仕上げ処理を示す具体的なレーザ照射部の構成図であり、R部を照射する場合のレーザ10とワークの関係を示すY軸正面図である。R部の断面は、平置き状態で図(a)に示すように斜面Sを有している。図(b)は、斜面Sの照射状態を示し、ワーク移動台17をピッチ軸回りに回転させて、レーザ10により斜面Sが垂直になるように、かつX軸方向に移動してレーザ照射を行う。
【0045】
図(c)は、端面の仕上げ処理による照射状態を示し、図(b)と同様にレーザ照射面が垂直になるようにレーザを照射する。さらに、外周部は、をヨー軸回りに360度回転させて一周処理する。
【0046】
レーザ10による切断面(斜面S)は、比較的粗さ等が残っているので、(大気圧)水蒸気ブラズマを切断面に照射し、後工程として行われる異方性エッチング等(NaOH等のアルカリエッチング)に好適なように均一な酸化膜を形成させたり、仕上げ処理で研磨をしたり、することが望ましい。
【0047】
レーザ10で斜面Sを形成した後の切断面の仕上げ処理は、レーザアニーリングを行って表面溶融固化させ表面の平坦化を行うことも望ましい。レーザアニーリングは、アモルファス膜にレーザを照射し、融解、結晶化することが良く、パルスレーザで加工閾値(レーザアブレーション)よりも小さい値の光子密度(フルエンス)で行う。そして、レーザアニーリングは、結晶方位が揃った再結晶化(エピタキシャル成長)を進展させ、結晶方位の影響、結晶欠陥等を無くすことができる。
【0048】
切断面の仕上げ処理をレーザアニーリングで行う場合は、レーザ10は、フルエンスの高いレーザ光として良い。この場合は、照射された斜面Sの表面は瞬時的に溶融、蒸発しイオン、原子、ラジカル、分子、クラスタ、固体片などが放出され、高速なプロセスで行われる。
【0049】
フェムト秒レーザ照射をアブレーションが起こるフルエンスとした場合は、レーザ光の偏光と垂直方向にナノ周期構造が自己組織的に形成される。また、ナノ周期構造の周期は、入射レーザのフルエンス、波長、入射パルス数によって変化する。フェムト秒レーザの照射の場合は、偏光子によってs偏光、p偏光の成分を調整しても良い。
【0050】
以上、述べたように、面取り加工は、斜面Sに垂直となる照射面Lを予め作成する前処理後、レーザ10によって行うので、加工品質向上を図ることができる。そして、実施形態は、後工程のエッチング処理の負荷を低減、レーザを用いたクーラント等が必要無い比較的クリーンな処理、砥石等の消耗品が必要無くコスト抑制できる等の効果が顕著である。
【0051】
また、斜面Sに垂直となる照射面Lを予め作成する前処理を行ってからレーザ10で面取り加工を行うことは、4H-SiCによるウェーハWのみならず、他のポリタイプ(3C-SiC、6H-SiC、15R-SiC等)、バンドギャップが大きく(UWBG)、難加工材であるGaN(窒化ガリウム)、酸化ガリウム、AlGaN、ダイヤモンドを利用したいずれかのものにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10…レーザ
10-1…レーザ光源
10-2…集光光学系
16…真空チャックテーブル
17…ワーク移動台
18…形状測定部
30…制御部
31…加工学習モデル
32…照射条件データベース
L…照射面
S…斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8