(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104961
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】非可食性原料を用いた微生物共培養系によるポリエステル産生
(51)【国際特許分類】
C12P 7/62 20220101AFI20240730BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20240730BHJP
C12P 1/06 20060101ALI20240730BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C12P7/62
C12P1/04 Z
C12P1/06 Z
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009430
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】高須賀 太一
(72)【発明者】
【氏名】クマール ビジェイ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD83
4B064CA02
4B064CA04
4B064CC10
4B064CC30
4B064CD22
4B064CD24
4B064DA16
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA44X
4B065AA50X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BB26
4B065BC50
4B065CA12
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】本発明は、非可食性原料から微生物産生ポリエステルを得ることを目的とする。
【解決手段】本発明により、非可食性原料を含む培地中で木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌とを共培養することを含む、非可食性原料からポリエステルを製造する方法等が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非可食性原料を含む培地中で木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌とを共培養することを含む、非可食性原料からポリエステルを製造する方法。
【請求項2】
前記木質分解性昆虫共生放線菌が、Streptomyces属細菌である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記PHA産生菌が、Priestia megaterium、Cupriavidus necator、Sphingobium scinonens、Burkholderia sacchari、Paracoccus sp. LL1、およびPseudomonas putidaからなる群から選択される1種または2種以上の菌である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記非可食性原料が、非可食性植物バイオマスまたは非可食性海藻バイオマスである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌とを含む、非可食性原料からのポリエステルの製造のためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非可食性原料からポリエステルを製造するための方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性バイオプラスチック生産は、石油を原料とする合成プラスチックを代替する新規技術として国内外で発展してきており、微生物産生ポリエステル[ポリヒドロキシアルカノエート(Polyhydroxyalkanoate:PHA)ともいう]などの高性能化や工業化が進んでいる。これまでに、短鎖PHA(Scl-PHA)の合成が報告されているRalstonia属やBurkholderia属のPHA産生菌や、Holoferax属やPseudomonas属の中鎖PHA(Mcl-PHA)産生菌が自然界から単離されており、グルコースや植物油等の可食性原料から様々なPHA高分子の合成が報告されている。さらに、これらの細菌にゲノム改変や、モデル大腸菌の代謝工学的手法を施すことで、PHAの生産量やPHAの組成をコントロールするための研究が行われている(非特許文献1)。しかしながら、可食性原料を利用したPHA合成は、石油原料に比べ非効率であり、生産コストが問題とされている。
【0003】
そのため、非可食性原料を利用したPHA合成技術の確立が求められている。従来技術による非可食性原料を利用したPHA生産は、2段階のプロセスを要する。すなわち、第一段階で、商業用バイオマス分解酵素カクテルによって非可食性原料を糖化し、第二段階でPHA産生菌によって糖化産物をPHAに転換する。しかしながら、第一段階である非可食性原料の糖化に用いる商業用酵素カクテルは高価であるため、植物バイオマスをはじめとする非可食性原料からのダイレクトなPHA合成技術が求められている。
【0004】
一方、発明者らはこれまで、植物バイオマスを糖化できる昆虫共生Streptomyces属放線菌の研究を行っており、これらの放線菌によって分泌される多様な植物バイオマス分解酵素の機能や培養条件等について研究を行ってきた(非特許文献2~5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tan et al., Trends in Biotechnol., Vol. 39, Issue 9, September 2021, pages 953-963
【非特許文献2】Takasuka et al., Sci. Rep., 3, 2013
【非特許文献3】Takasuka et al., Proteins, 2013, Str. Func. And Bioinfo., DOI: 10.1002/prot.24491
【非特許文献4】Book et al., PLoS Biology, 2016, DOI:10.137/journal.pbio.1002475
【非特許文献5】Ohashi et al., Appl. Environ. Microb., 2021, DOI:10.1128/AEM.02719-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、非可食性原料から微生物産生ポリエステルを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、木質分解性昆虫共生放線菌(放線菌門細菌)の生育条件の検討やゲノム解析をした結果、これらの菌は常温常圧で生育し、また通常の放線菌と異なり、抗生物質等の二次代謝産物を産生しないことを見出した。この知見に基づき、これらの放線菌をPHA産生菌と共培養したところ、驚くべきことに、当該放線菌とPHA産生菌とが共に安定に培養されることができ、さらに、当該共培養により非可食性植物バイオマスを原料としてダイレクトにPHAを合成できることを見出した。かくして、本発明が完成された。
【0008】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1]非可食性原料を含む培地中で木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌とを共培養することを含む、非可食性原料からポリエステルを製造する方法。
[2]前記木質分解性昆虫共生放線菌が、Streptomyces属細菌である、[1]記載の方法。
[3]前記PHA産生菌が、Priestia megaterium、Cupriavidus necator、Sphingobium scinonens、Burkholderia sacchari、Paracoccus sp. LL1、およびPseudomonas putidaからなる群から選択される1種または2種以上の菌である、[1]記載の方法。
[4]前記非可食性原料が、非可食性植物バイオマスまたは非可食性海藻バイオマスである、[1]記載の方法。
[5]木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌とを含む、非可食性原料からのポリエステルの製造のためのキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌とを非可食性原料の存在下で共培養することにより、一段階で、非可食性原料から微生物産生ポリエステルを製造することができる。本発明により製造される微生物産生ポリエステルは、生物分解性バイオプラスチックとして、医療、食品、衣料や石油由来プラスチックをはじめとする代替化成品等の様々な分野において有用である。また、本発明は、非可食性の原料を用いることができるので、資源の有効利用の観点からも価値がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌との共培養の写真である。
【
図2】単一炭素源下での木質分解性昆虫共生放線菌またはPHA産生菌の生育結果を示す。
【
図3】木質分解性昆虫共生放線菌またはPHA産生菌の単独培養系または共培養系によるPHA産生結果を示す。図中、「S+Pm」は、S. sp. SirexAAEとP. megateriumの共培養系、「S+Cn」は、S. sp. SirexAAEとC. necatorの共培養系、「S+Pm+Cn」は、S. sp. SirexAAEとP. megateriumとC. necatorの共培養系を示す。
【
図4A】共培養系によるポリエステル産生に対する窒素源の影響を示す。
【
図4B】共培養系によるポリエステル産生に対する窒素源の影響を示す。
【
図5-1】様々な多糖類炭素源からの共培養系によるポリエステル産生結果を示す。
【
図5-2】様々な多糖類炭素源からの共培養系によるポリエステル産生結果を示す。
【
図5-3】様々な多糖類炭素源からの共培養系によるポリエステル産生結果を示す。
【
図5-4】様々な多糖類炭素源からの共培養系によるポリエステル産生結果を示す。
【
図6】ススキバイオマスからの共培養系によるポリエステル産生試験結果を示す。
【
図7A】ススキバイオマス存在下で5日間共培養後の培養液(左:植菌なし;右:共培養)の写真である。
【
図7B】ススキバイオマス存在下で7日間共培養後に抽出したPHA(左:植菌していない培地からの抽出液;右:共培養後のPHA抽出液)の写真である。
【
図8】ススキバイオマスからの共培養系によって産生されたポリエステルのGC-MS解析結果を示す。
【
図9A】様々な木質分解性昆虫共生放線菌を用いた3種共培養系によるポリエステル産生試験の結果を示す。図中、「DCW」は乾燥細胞重量を示し、「None」は、放線菌を用いず、PHA産生菌のみを用いた培養系による結果を示す。
【
図9B】様々な木質分解性昆虫共生放線菌を用いた3種共培養系によるポリエステル産生試験の結果を示す。図中、「PHA」はポリエステル産生量を示し、「None」は、放線菌を用いず、PHA産生菌のみを用いた培養系による結果を示す。
【
図9C】様々な木質分解性昆虫共生放線菌を用いた3種共培養系によるポリエステル産生試験の結果を示す。図中、「DCW」は乾燥細胞重量を示し、「None」は、放線菌を用いず、PHA産生菌のみを用いた培養系による結果を示す。
【
図9D】様々な木質分解性昆虫共生放線菌を用いた3種共培養系によるポリエステル産生試験の結果を示す。図中、「PHA」はポリエステル産生量を示し、「None」は、放線菌を用いず、PHA産生菌のみを用いた培養系による結果を示す。
【
図10】様々なバイオマスからの共培養系によるポリエステル産生試験結果を示す。図中、「Miscanthus」はススキ、「Corn stalk」はトウモロコシの芯、「Corn leaves」はトウモロコシの葉を示す。標準偏差をエラーバーとして示す(n=3)。
【
図11】様々な培養条件における共培養系による非可食性原料からのポリエステル産生試験結果を示す。(A)は温度条件、(B)はpH条件、(C)は非可食性原料(Biomass)濃度条件、(D)は植菌比率条件を変化させた場合の、培養期間4日間での結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、非可食性原料を含む培地中で木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌とを共培養することを特徴とする。以下に詳細に説明する。
【0012】
<非可食性原料>
本明細書において、非可食性原料とは、そのままでは人が食べられない(消化することができない)材料、または通常、食に供されない材料をいい、主に難消化性または非消化性の多糖類を含む材料である。本発明で使用される非可食性原料としては、例えば、非可食性植物バイオマス(リグノセルロース系バイオマスともいう)、または非可食性海藻バイオマスが挙げられる。非可食性植物バイオマスの具体例として、限定するものではないが、ススキ、ライグラス、木くず、木材チップ、おがくず、パルプ線維スラッジ、作物植物の可食部以外の部分(例えば、トウモロコシの芯や茎葉、稲わら、もみがら等)が挙げられる。非可食性海藻バイオマスの具体例として、限定するものではないが、ホンダワラ類等が挙げられる。一方日本国外において、海藻は食用とされていないため、海藻全般を海洋バイオマスという。
【0013】
培地は、炭素源として、好ましくは唯一の炭素源として、非可食性原料を含む。培地中に含まれる非可食性原料は、好ましくは、細胞壁を破壊するために、または細胞壁の破壊を助けるために、または細胞壁構成成分中のセルロースやヘミセルロースを抽出するために前処理されていてもよい。前処理の例として、限定するものではないが、物理的または機械的処理あるいは化学的処理が挙げられ、具体的には、例えば、粉砕、破砕、細片化、アルカリ処理、イオン水処理等の既知の方法を用いることができ、2以上の処理を組み合わせてもよい。
【0014】
培地は、前記炭素源の他に、微生物の生育に必要な栄養素を含む。例えば、培地は、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、ナトリウムなどのミネラルや、コバルト、銅、亜鉛、ニッケルなどの微量元素が含んでいてもよい。
【0015】
非可食性原料は炭素源の他に窒素源も提供するため、非可食性原料以外の窒素源を培地に加える必要はないが、さらなる窒素源を培地に加えてもよい。かかる窒素源の例としては、限定するものではないが、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素などの無機窒素源、またはペプトン、トリプトン、酵母抽出物、カザミノ酸などの有機窒素源が挙げられる。
【0016】
培地は、液体培地または固体培地であってもよく、好ましくは液体培地である。培地として、例えば、M63培地、M9培地等の既知の最少培地に非可食性原料を加えたものを用いてもよい。培地中に含まれる、非可食性原料やその他の栄養素の量は、特に限定されず、当業者によって適宜決定することができる。例えば、限定するものではないが、約1w/v%~5w/v%、好ましくは約0.25w/v%~2w/v%の非可食性原料が培地中に含まれていてもよい。
【0017】
<木質分解性昆虫共生放線菌>
本明細書において、木質分解性昆虫共生放線菌とは、昆虫に共生している放線菌であり、当該放線菌が木質分解酵素を分泌して樹木を枯れさせることにより、当該昆虫、例えばその幼虫にとって好適な生育環境を作り出す。前記昆虫は、例えば、樹木に産卵する昆虫であり、該樹木中で孵化した幼虫が、共生放線菌の分泌酵素によって分解された樹木成分を栄養素として成長する。前記昆虫としては、例えば、限定するものではないが、キバチ、キクイムシ等が挙げられる。
【0018】
本明細書において、木質分解酵素とは、植物細胞壁を分解する一連の反応を触媒する酵素群をいい、例えば、植物細胞壁の構成成分であるセルロース、ヘミセルロース、および/またはリグニンを分解する酵素を含む。前記放線菌は、共生昆虫が生息している植物に依って様々な種類の木質分解酵素を分泌する。例えば、前記木質分解酵素として、限定するものではないが、セルラーゼ(例えば、エンド-セルラーゼ、エキソ-セルラーゼ等)、ヘミセルラーゼ(例えば、キシラナーゼ、マンナナーゼ等)、多糖類モノオキシゲナーゼ、セルビアーゼ、1,3-ベータ-グルカナーゼ等が挙げられる。前記木質分解酵素は、木質と同様に非消化性または難消化性の多糖類(例えば、βグルカンであるラミナリン、セルロースなど)を含む海藻類も分解することができる。
【0019】
したがって、前記木質分解酵素は、非可食性原料中の非消化性または難消化性多糖類を単糖に分解(糖化)する反応を触媒することができる。前記木質分解酵素は、好ましくは、非可食性原料の糖化のための2種以上の酵素を含む混合物である。前記木質分解酵素は、好ましくは、少なくともセルラーゼを含む。前記木質分解性昆虫共生放線菌は、例えば、セルロース分解性昆虫共生放線菌である。
【0020】
前記木質分解性昆虫共生放線菌は、非可食性原料を炭素源として利用して生育する菌であり、前記木質分解酵素を分泌し、かつ、抗生物質などの抗菌性二次代謝産物を生成しない菌である。前記木質分解性昆虫共生放線菌は、抗菌性二次代謝産物を生成しないので、PHA産生菌と共培養することができる。前記木質分解性昆虫共生放線菌はまた、好ましくは、常温、常圧、および/または好気的条件下で生育でき、さらに好ましくは周囲条件下で生育できる。
【0021】
前記木質分解性昆虫共生放線菌は、前記昆虫から単離された野生型の菌、その変異株、または組換え体であってもよい。前記木質分解性昆虫共生放線菌の例として、限定するものではないが、Streptomyces属細菌が挙げられる。好ましくは、Storeptomyces属細菌が用いられる。Streptomyces属の木質分解性昆虫共生放線菌の具体例として、限定するものではないが、Streptomyces sp. sirex AA-E、Streptomyces sp. DpondAA-B6、Streptomyces sp. PalvLS-984、Streptomyces flavogriseus、Streptomyces sp. KhCrAH-340、Streptomyces drozdowiczii、Streptomyces sp. LaPpAH-95、Streptomyces sp. ATexAB-D23、Streptomyces sp. Amel2xE9、Streptomyces sp. LamerLS-31b、Streptomyces sp. PpalLS-921、Streptomyces sp. KhCrAH-244、Streptomyces sp. AmelKG-A3、Streptomyces sp. DpondAA-D4、Streptomyces sp. LamerLS-316、Streptomyces sp. DpondAA-F4a、Streptomyces sp. DvalAA-83、Streptomyces sp. DpondAA-F4等、またはその変異株または組換え体が挙げられる。
【0022】
Streptomyces sp. sirex AA-Eは、キバチの一種であるSirex noctilioに共生している放線菌である。Streptomyces sp. sirex AA-E(Streptomyces sp. ActEとも称する)の代表的サンプルは、米国特許第10214758号の実施可能目的のために、ブダペスト条約にしたがって2011年12月1日にアメリカ合衆国20110、バージニア州マナッサス、ユニバーシティ・ブールバード(University Boulevard, Manassas, Va. USA, Zip Code 20110)に住所を有するアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション[American Type Culture Collection(ATCC)]に寄託され、特許受託番号PTA-12245が付与されている。
【0023】
<PHA産生菌>
本明細書において、PHA産生菌は、細胞内で、炭素源からポリエステルを合成して蓄積することができる細菌をいう。PHA産生菌としては、水素細菌、窒素固定菌、光合成細菌など多くの種類の細菌が知られている。PHA産生菌によって合成されるポリエステルは、一般にヒドロキシアルカン酸のポリエステル(ポリヒドロキシアルカノエート)であるが、PHA産生菌の種類または基質(炭素源)の種類によっては、脂肪族鎖式飽和のヒドロキシアルカン酸に限らず、その主鎖または側鎖に不飽和結合や環状構造を含むヒドロキシカルボン酸など、様々な種類のヒドロキシカルボン酸をモノマー単位とするポリエステルを合成することができる。また、PHA産生菌の種類または基質(炭素源)の種類によって、単一重合体だけでなく、共重合体のポリエステルも合成することができる。
【0024】
本発明で使用されるPHA産生菌としては、前記木質分解性昆虫共生放線菌による非可食性原料の糖化によって生成された糖類を炭素源としてポリエステルを合成する能力を有する細菌であれば特に限定されない。例えば、限定するものではないが、Cupriavidus属細菌、Ralstonia属細菌、Alcaligenes属細菌、Priestia細菌、Bacillus属細菌、Pseudomonas属細菌、Sphingobium属細菌、Burkholderia属細菌、Paracoccus属細菌等が挙げられ、なかでも好ましくは、ポリエステル製造の簡便性の観点から、常温、常圧、および/または好気的条件下で生育でき、さらに好ましくは周囲条件下で生育できるPHA産生菌が選ばれる。本明細書において、常温とは、15℃~30℃程度をいう。本明細書において、常圧とは、1気圧をいう。
【0025】
本発明で使用されるPHA産生菌は、既知の菌種または菌株であってもよく、あるいは土壌、河川、海、植物などの様々な起源から新たに分離され、前記炭素源からのポリエステル産生についてスクリーニングすることによって得られる菌であってもよい。既知のPHA産生菌としては、例えば、限定するものではないが、Cupriavidus necator(Ralstonia eutropha、またはAlcaligenes eutrophusともいう)、Priestia megaterium(Bacillus megateriumともいう)、Sphingobium scionens、Burkholderia sacchari、Paracoccus sp. LL1、Pseudomonas putida等が挙げられる。好ましくは常温常圧有酸素下で生育する、いずれのPHA産生菌を用いてもよい。
【0026】
本発明で使用されるPHA産生菌は、野生型細菌、その変異株、または組換え体であってもよい。例えば、大腸菌などのPHA産生能を有さない他の菌に、PHA産生菌のポリエステル合成系をコードする遺伝子を遺伝子組み換え技術により導入した組換え菌や、PHA産生菌のポリエステル合成系の1以上の酵素をコードする遺伝子を他のPHA産生菌の遺伝子に置き換えた組換え菌、PHA産生菌のポリエステル合成系の1以上の酵素をコードする遺伝子が改変された変異株等も、本発明で使用することができる。
【0027】
<ポリエステルの製造>
前記木質分解性昆虫共生放線菌と前記PHA産生菌とを、前記非可食性原料を含む培地中で共培養することによって、一段階でポリエステルが製造される。前記放線菌が非可食性原料に含まれる多糖類を糖化し、前記PHA産生菌が前記糖化によって生成された単糖類を利用してポリエステルを製造する。
【0028】
前記放線菌として、2種以上の放線菌を用いてもよい。また、前記PHA産生菌として、2種以上のPHA産生菌を用いてもよい。一例として、1種の木質分解性昆虫共生放線菌と、1種または2種のPHA産生菌とを共培養してもよい。培地に添加する前記放線菌と前記PHA産生菌の量は、特に限定されず、培養条件や使用する細菌の種類によって、適宜調整すればよい。例えば、限定するものではないが、各細菌が細菌数または細菌重量に基づき同量になるよう培地に添加してもよく、または木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌が細菌数または細菌重量に基づき、例えば1:1~1:4の範囲で培地に添加してもよい。
【0029】
共培養は、好ましくは、好気的条件下で行う。例えば、培養器として、通気撹拌可能な発酵槽を使用してもよい。共培養の温度条件は、前記放線菌およびPHA産生菌が増殖し、かつ、ポリエステルが産生される範囲であればよく、特に限定されない。例えば、約15℃~約35℃が好ましく、さらに好ましく約20℃~約30℃で共培養してもよい。簡便性の観点から、好ましくは、共培養は、常温、常圧および好気的条件下で行い、さらに好ましくは周囲条件下で行う。
【0030】
共培養のpH条件は、特に限定されず、前記放線菌およびPHA産生菌が増殖し、かつ、ポリエステルが産生される範囲内で適宜決定すればよい。共培養の培地のpHは、例えばpH6~9程度に維持してもよく、細菌種の組み合わせによって変更しうる培養時間は、培養規模や所望のポリエステルの量によって適宜決定すればよいが、例えば、4日~7日程度培養してもよい。前記放線菌は、抗菌性二次代謝産物を生成しないため、長期間、例えば10日以上、共培養することができる。
【0031】
共培養する間、非可食性原料および/またはその他の栄養素を連続的または断続的に供給してもよい。また、共培養する間、前記放線菌および/または前記PHA産生菌を培養器に追加してもよい。
【0032】
かくして製造されたポリエステルは、前記PHA産生菌の菌体内に蓄積される。PHA産生菌が死んだ(溶菌)場合は、培養液中にもポリエステルが存在しうる。当該ポリエステルは、前記共培養によって得られる培養物から回収することができる。ここで、培養物には、培養によって得られる増殖した菌体、細菌の分泌物および代謝産物等を含む培地、その希釈物、濃縮物が包含される。培養物からポリエステルを回収する方法としては、特に限定されないが、例えば、当該分野で既知の方法を用いることができる。例えば、培養終了後、培地から遠心分離等の分離手段によって菌体を分離し、菌体を蒸留水、メタノール等により洗浄し、乾燥(例えば、凍結乾燥)させ、得られた乾燥菌体を、クロロホルム等の有機溶剤を用いて加熱処理することによって、ポリエステルを抽出してもよい。かくして得られたポリエステルを含有する有機溶剤溶液から、ろ過等によって菌体成分を除去し、ろ液にメタノールまたはヘキサン等の貧溶媒を加えてポリエステルを沈殿させてもよい。さらに、ろ過または遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させてポリエステルを回収することができる。
【0033】
かくして、使用される非可食性原料の種類、放線菌の種類およびPHA産生菌の種類によって、様々な種類のヒドロキシカルボン酸をモノマー単位として含むポリエステルが製造される。例えば、限定するものではないが、モノマー単位として3-ヒドロキシアルカン酸を含むポリエステル、例えば、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸、3-ヒドロキシヘキサン酸などをモノマー単位として含む単重合(ホモポリマー)または共重合ポリエステルが挙げられる。
【0034】
<キット、使用>
本発明はさらに、木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌との組み合わせを含む、非可食性原料からのポリエステルの製造のためのキットを提供する。該キットは、2種以上の木質分解性昆虫共生放線菌を含んでいてもよい。該キットは、2種以上のPHA産生菌を含んでいてもよい。該キットはさらに、前記放線菌と前記PHA産生菌との共培養のための培地であって、炭素源を含まない培地を含んでいてもよい。
【0035】
本発明のさらなる態様において、非可食性原料からのポリエステルの製造のための木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌の組み合わせの使用が提供される。前記組み合わせは、2種以上の木質分解性昆虫共生放線菌を含んでいてもよい。前記組み合わせは、2種以上のPHA産生菌を含んでいてもよい。
【0036】
木質分解性昆虫共生放線菌、PHA産生菌、非可食性原料、ポリエステル、培地等については、前記したとおりである。
【実施例0037】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0038】
実施例1:木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌との共培養実験
木質分解性昆虫共生放線菌としてStreptomyces sp. Sirex AA-E(以下、S. sp. Sirex AA-Eともいう)(北海道大学大学院農学研究員高須賀研究室(Takasuka laboratory, Research Faculty of Graduate School of Agriculture, Hokkaido University, Japan)より入手)を、PHA産生菌としてPriestia megaterium(NBRC15308/ATCC14581)(以下、P. megateriumともいう)およびCupriavidus necator(NBRC102504/ATCC17697)(以下、C. necatorともいう)を用いて共培養した。これら3種の細菌を、YMEA(Yeast Malt Extract Agar)寒天培地上に互いに交わるように植菌し、30℃で3日間培養した。その結果、これら3種の細菌間において生育阻害がないことが示された(
図1)。
【0039】
実施例2:様々な単一炭素源を含む培地中での生育試験
実施例1で使用した3種の細菌について、植物細胞壁多糖類の構成成分であるセロビオース(cellobiose)、グルコース(glucose)、キシロビオース(xylobiose)、キシロース(xylose)、マンノース(mannose)、またはアラビノース(arabinose)の単一炭素源下で生育試験を行った。1w/v%前記炭素源を含むM63最少培地中、30℃で24時間、各細菌を培養し、吸光光度計(600nm)で濁度を測定することにより細胞生育を確認した。結果を表1および
図2に示す。なお、M63最少培地は、10.72g/L K
2HPO
4、5.24g/L KH
2PO
4、10.00g/L (NH
4)
2SO
4、0.12g/L MgSO
4、1mg/L チアミンを含む。
【0040】
【0041】
その結果、P. megateriumはグルコースとキシロースを炭素源として生育し、C. necatorの生育にはグルコースが最適である事が分かった。本結果から、C. necatorとP. megateriumはグルコースやキシロースを主に利用し、これらが利用しない二糖からなるセロビオースやキシロビオース、およびマンノースやアラビノースをS. sp. Sirex AAEが利用する事を確認した。したがって、木質分解性昆虫共生放線菌とPHA産生菌の共培養系では、植物バイオマス分解産物をそれぞれの細菌が栄養源として競合しない事が示された。
【0042】
実施例3:多糖類炭素源を用いた共培養系によるポリエステル産生試験
M63最少培地に結晶性を無くしたカルボキシメチルセルロース(CMC)またはキシランを1w/v%添加して液体培地を調製した。50mLの液体培地中に、各1mg(乾燥重量)のS.sp. SirexAA-E、P. megaterium、C. necatorを単独、2種、または3種植菌し、単独または共培養系で3日間30℃で培養し、細胞量(バイオマス)(mg/10mL)とPHA産生量(mg/10mL)を測定した。この際、2種または3種共培養系に植菌する細胞は、それぞれ細胞の乾燥重量比が1:1または1:1:1となるように調整した。バイオマスは、培養後の乾燥細胞重量を示しており、600nmでの吸光光度測定から以下の式により計算した。
SirexAA-Eの場合 1OD=10^6cfu=1.3mg/mL(乾燥重量)
P. megateriumの場合 1OD=10^6cfu=1.1mg/mL(乾燥重量)
C. necatorの場合 1OD=10^7cfu=1.5mg/mL(乾燥重量)
また、生産されたPHAについては、培養液から菌体を分離し、乾燥させ、次亜塩素酸-クロロホルム(1:1)で処理、次いでメタノール沈殿により抽出後、乾燥重量を測定した[Hahn et al., Biotechnol. Bioeng. (1994), 44, 256-61]。
【0043】
結果を
図3に示す。単独培養の場合、PHA生産はなく、S. sp. SirexAA-EとP. megaterium(S+Pm)の組合せでは、CMC存在下で0.2mg/mL、キシラン存在下で0.05mg/mLのPHAがそれぞれ生産された。また、S. sp. SirexAA-EとC. necator(S+Cn)の組合せでも同様に、CMC存在下で0.3mg/mL、キシラン存在下で0.2mg/mLのPHAが生産された。さらに3種共培養(S+Pm+Cn)の結果、CMC存在下で0.4mg/mL、キシラン存在下で0.5mg/mLのPHAが生産された。本結果から、本発明の共培養系によりPHA合成が出来る事が示された。
【0044】
実施例4:共培養系によるポリエステル産生に対する窒素源の影響
細胞増殖数とPHA産生量を向上させるために、実施例3で行った3種共培養系(重量比 S:Pm:Cn=1:1:1)に、0.2w/v%の窒素源を加え、実施例3と同様に培養し、細胞乾燥重量およびPHA合成量を評価した。窒素源として、硫酸アンモニウム(NH
4SO
4)、カザミノ酸(casamino acid)、麦芽エキス(malt extract)、ペプトン(peptone)、トリプトン(tryptone)、または酵母エキス(yeast extract)を用いた。結果を
図4Aに示す。その結果、アミノ酸混合液(カザミノ酸)が、キシランおよびCMC存在下の共培養において細胞量とPHA産生量を最も促進する事が分かった。さらに、カザミノ酸の至適%を評価するために、窒素源として0.05w/v%~1w/v%のカザミノ酸、および炭素源として1w/v%の結晶性を無くしたカルボキシメチルセルロース(CMC)、1w/v%のキシラン、またはCMCとキシランを合わせて1w/v%(各0.5w/v%)含む培地において、同様に試験した。結果を
図4Bに示す。その結果、CMCやキシランなどの精製糖質を単一炭素源とした場合、0.5w/v%カザミノ酸が最適である事が分かった。これらの結果から、植物バイオマスなどの窒素源を含む非可食性原料の存在下で本発明の共培養系を用いれば、追加の窒素源を加える事なくPHA産生量が得られることが示唆された。
【0045】
実施例5:様々な多糖類炭素源からの共培養系によるポリエステル産生試験
250mLフラスコ中、炭素源として、結晶性を無くしたカルボキシメチルセルロース(CMC)、キシラン、マンナン、またはこれらの組み合わせを1w/v%含有し、窒素源としてカザミノ酸を0.5w/v%含有するM63最少培地(全容量50mL)に、S.sp. SirexAA-E、P. megaterium、およびC. necatorの3種の細菌(重量比1:1:1)を1w/v%植菌し、150rpmで攪拌しながら30℃で7日間培養した。培養3日後、5日後、および7日後に、乾燥細胞重量(mg/mL)とPHA産生量(mg/mL)を実施例3と同様の方法で測定した。
【0046】
結果を
図5-1~
図5-4に示す。本発明の共培養系を用いれば、様々な多糖類炭素源からポリエステル産生が可能なことが示された。
【0047】
実施例6:非可食性原料からの共培養系によるポリエステル産生試験
本実施例では、唯一の炭素源および窒素源として非可食性原料を用いた。非可食性原料として、ススキ(Miscanthus)を乾燥させ、粉末化した後、1w/v%NaOHを用いて120℃で1時間処理し、次いで、3M HClを加えて最終pHを7.0になるよう調製した。250mLフラスコ中、単一炭素源として、前記のように前処理したススキを2w/v%含有するM63最少培地(全容量50mL)に、S.sp. SirexAAE、P. megaterium、およびC. necatorの3種の細菌(重量比1:1:1)それぞれ1mg(乾燥重量)を植菌し、200rpmで攪拌しながら30℃で7日間培養した。乾燥細胞重量(mg/mL)とPHA産生量(mg/mL)を実施例3と同様の方法で測定した。さらに、得られたPHA抽出液をメタノールと反応させた(methanolysis)後、8890GCシステム(Agilent Technologies, Santa Clara, USA)におけるDB-5MSカラム(30m、0.25mm、0.25μm)およびマススぺ黒メーターJMS-TQ4000GC(JEOL Ltd., Akishima, Japan)を用いるGC-MS解析に付した。
【0048】
結果を
図6に示す。また、5日間培養後の培養液、および7日間培養後に抽出したPHAの写真をそれぞれ、
図7Aおよび
図7Bに示す。また、GC-MS解析結果を
図8に示す。その結果、2.5mg/mLの細胞乾燥重量と、0.6mg/mLのPHAが得られた(
図6)。本実施例では、窒素源を添加していないため、前記3種の細菌が、ススキの植物細胞壁由来の窒素源(アミノ酸や核酸など)を利用出来ている事が示された。また、S.sp. SirexAA-E、P. megaterium、およびC. necatorの3種共培養系によってススキから合成されたPHAは、ポリ3-ヒドロキシブチレート(P3-HB)であることが分かった(
図8)。
【0049】
実施例7:様々な木質分解性昆虫共生放線菌の共培養系によるポリエステル産生試験
木質分解性昆虫共生放線菌として、Streptomyces sp. KhCrAH-340、Streptomyces sp. PpalLS-921、Streptomyces sp. KhCrAH-244、Streptomyces sp. AmelKG-A3、Streptomyces sp. DpondAA-D4、Streptomyces sp. LamerLS-31b、Streptomyces sp. ATexAB-D23、Streptomyces sp. PalvLS984、Streptomyces sp. LamerLS-316、Streptomyces sp. DpondAA-F4a、Streptomyces sp. DvalAA-83、またはStreptomyces sp. DpondAA-F4(以下、それぞれ、S. sp. KhCrAH-340、S. sp. PpalLS-921、S. sp. KhCrAH-244、S. sp. AmelKG-A3、S. sp. DpondAA-D4、S. sp. LamerLS-31b、S. sp. ATexAB-D23、S. sp. PalvLS984、S. sp. LamerLS-316、S. sp. DpondAA-F4a、S. sp. DvalAA-83、またはS. sp. DpondAA-F4ともいう)(いずれも北海道大学大学院農学研究員高須賀研究室、またはウィスコンシン大学(University of Wisconsin-Madison)のCameron Currie教授より入手)、PHA産生菌としてP. megateriumおよびC. necatorを用いる3種共培養により、炭素源として、結晶性を無くしたカルボキシメチルセルロース(CMC)またはトウモロコシ芯由来のキシラン(corn cob xylan)(東京化成工業株式会社製)からポリエステルを生産させた。また、対照として、木質分解性昆虫共生放線菌を含まない、2種のPHA産生菌のみを用いた培養系によって同様に試験した。
【0050】
M63最少培地にCMCまたはキシランを1w/v%およびカザミノ酸を0.5w/v%添加して液体培地を調製した。50mLの液体培地中に、各1mg(乾燥重量)の上記放線菌およびPHA産生菌を植菌し(乾燥重量比1:1:1)、3日間30℃で培養した。乾燥細胞重量(mg/mL)とPHA産生量(mg/mL)を実施例3と同様の方法で測定した。
【0051】
図9Aおよび
図9Bに、炭素源としてCMCを用いた場合の結果を示す。
図9Cおよび
図9Dに、炭素源としてトウモロコシ芯由来のキシランを用いた場合の結果を示す。いずれの木質分解性昆虫共生放線菌を用いた場合も、PHA産生菌との共培養によりPHA合成が出来る事が示された。
【0052】
実施例8:様々な非可食性原料からの共培養系によるポリエステル産生試験
非可食性原料として、ススキ、またはトウモロコシの茎または葉を用いた。非可食性原料は、乾燥させ、粉末化した後、1w/v%NaOHを用いて120℃で1時間処理し、次いで、水道水で洗浄して最終pHを7.0になるよう調製した。このように前処理した非可食性原料(ススキ、トウモロコシ茎、またはトウモロコシ葉)1.0w/v%を唯一の炭素源および窒素源として、50mLのM63最少培地に加えた。該培地中に、S.sp. SirexAAEおよびP. megateriumの2種の細菌をそれぞれ1mg(乾燥重量)植菌し、150rpmで攪拌しながら30℃で6日間培養した培養液2mlを採取し、エッペンドルフチューブ中、10000gで5分間遠心分離し、得られたペレットを90℃で完全に乾燥させ、重量を測定し、該重量からエッペンチューブの重量を差し引くことによって、乾燥細胞重量(mg/mL)を算出した。また、PHA産生量(mg/mL)を実施例3と同様の方法で測定した。
【0053】
結果を
図10に示す。S.sp. SirexAAEとP. megateriumの共培養により、いずれの非可食性原料からもPHA産生が得られた。ススキを用いた場合のPHA産生量が最も大きく、0.21±0.03mg/mlであり、ススキ1mgあたり21mgのPHA収量が得られた。
【0054】
実施例9:非可食性原料からのポリエステル産生のための共培養条件の検討
50mLのM63最少培地に、唯一の炭素源および窒素源として、実施例8の記載と同様に前処理したススキを加え、種々の培養条件において、S.sp. SirexAAEおよびP. megateriumの共培養を行った。培養条件として、培養温度25~37℃、pH4~10、ススキ添加濃度(0.25~3.0w/v%)、S.sp. SirexAAE対P. megateriumの植菌比率(重量比 1:0、9:1、4:1、1:1、1:4、1:9、0:1)、培養期間(2~8日間)を用いた。温度またはpH条件を変化させる場合は、1.0w/v%のススキバイオマスを用いた。植菌比率を変化させる場合は、0.5w/v%のススキバイオマスを用いた。なお、1:1のS.sp. SirexAA-E対P. megateriumの植菌比率は、~2×104コロニー形成単位(cfu)/mlのS.sp. SirexAA-Eおよび~10×104cfu/mlのP. megateriumを表す。
【0055】
結果を表2および
図11に示す。PHA産生に最適な温度およびpHはそれぞれ、30℃およびpH7と決定された。ススキを原料として用いる場合、pH5~9の範囲でPHA産生が可能であった。上記の最適な温度およびpH条件下で、種々のススキ添加濃度(0.25w/v%、0.5w/v%、1.0w/v%、2w/v%)条件下で4日間共培養を行った結果、0.5w/v%のススキバイオマスの存在下の共培養が最も高いPHA産生量(0.17±0.02mg/ml)を示し、PHA収率は34±2mg/gバイオマスであった。一方、0.25w/v%のススキバイオマスの存在下での共培養の場合、最大のPHA収率(44±4mg/g)を示し、PHA産生量は0.11±0.1mg/mlであった。1.0%を超える高いススキバイオマス濃度では、PHA産生量が低かった。これは、リグノセルロース加水分解物が種々の阻害物質または毒性物質を含み、細菌生育に影響を及ぼすためと考えられる。したがって、S.sp. SirexAAEとP. megateriumの共培養系では、0.5w/v%のススキバイオマスが最適であったが、使用する細菌の種類や植物バイオマスの種類によって共培養系における好ましい植物バイオマスの量も変化しうると考えられる。S.sp. SirexAA-E対P. megateriumの植菌比率については、1:1および1:4でそれぞれ、1gのススキバイオマスあたり28±3mgおよび40±4mgのPHA産生をもたらした(表2)。一方、1:9のS.sp. SirexAA-E対P. megateriumの植菌比率では、1gのススキバイオマスあたり31±7mgのPHA産生であった。このことより、S.sp. SirexAA-E対P. megateriumの植菌比率が1:4を超えると、単にPHA産生細菌の摂取量を増やせばPHA産生量が増えるわけではないことが示された。対照的に、P. megateriumに対し高いS.sp. SirexAA-E植菌量(4:1、および9:1)を用いると、低いPHA産生量が観察された。したがって、本実施例では、30℃、pH7、バイオマス5g/l、S.sp. SirexAA-E対P. megateriumの植菌比率1:4が最適な培養条件であった。
【0056】