(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105016
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】洗浄液とすすぎ液とのセット、洗浄方法、及び液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
C11D 17/08 20060101AFI20240730BHJP
B41J 2/17 20060101ALI20240730BHJP
C11D 17/04 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C11D17/08
B41J2/17 101
C11D17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009513
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】増子 龍也
(72)【発明者】
【氏名】小西 鷹介
(72)【発明者】
【氏名】畑中 伸一
【テーマコード(参考)】
2C056
4H003
【Fターム(参考)】
2C056JB00
2C056JB15
2C056KA01
4H003DA05
4H003EA12
4H003EA19
4H003EA25
4H003EA26
4H003EB03
4H003EB04
4H003EB41
4H003ED02
4H003ED28
4H003ED30
4H003FA04
(57)【要約】
【課題】金属膜形成用インクなど様々な組成のインクの固着物を容易に取り除くとともに、研磨材の残留を防ぐことができる洗浄液とすすぎ液とのセットの提供。
【解決手段】洗浄液と、すすぎ液と、を含み、前記洗浄液が、粒子、及び前記粒子を溶解しない液体を含み、前記すすぎ液が、前記粒子を溶解可能な液体を含む洗浄液とすすぎ液とのセットである。液体吐出装置の流路及び吐出口を洗浄するための洗浄液とすすぎ液とのセットであって、前記粒子の最大粒径が前記吐出口の内径の1/3以下である態様、前記粒子の最大粒径が100μm以下である態様が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液と、すすぎ液と、を含み、
前記洗浄液が、粒子、及び前記粒子を溶解しない液体を含み、
前記すすぎ液が、前記粒子を溶解可能な液体を含むことを特徴とする洗浄液とすすぎ液とのセット。
【請求項2】
液体吐出装置の流路及び吐出口を洗浄するための洗浄液とすすぎ液とのセットであって、
前記粒子の最大粒径が、前記吐出口の内径の1/3以下である請求項1に記載の洗浄液とすすぎ液とのセット。
【請求項3】
前記粒子の最大粒径が、100μm以下である請求項1に記載の洗浄液とすすぎ液とのセット。
【請求項4】
前記粒子の最大粒径が、10μm以下である請求項2又は3に記載の洗浄液とすすぎ液とのセット。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の洗浄液とすすぎ液とのセットを用い、液体吐出装置の流路及び吐出口を洗浄するための洗浄方法であって、
前記洗浄液を前記流路及び吐出口に流通する工程と、
前記すすぎ液を前記流路及び吐出口に流通して前記洗浄液を除去する工程と、
を含むことを特徴とする洗浄方法。
【請求項6】
前記粒子のモース硬度が、前記流路における主要材料のモース硬度と同じ、又はより低い請求項5に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記粒子のモース硬度が、前記流路に固着した固着物のモース硬度と同じ、又はより高い請求項5に記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記粒子が、前記すすぎ液に溶解して電離する粒子であり、
前記流路に流通した前記すすぎ液の電気伝導度を測定して洗浄度を判別する工程を更に含む請求項5に記載の洗浄方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の洗浄液とすすぎ液とのセットと、
液体を収容した収容部と、
前記液体を流通可能な流路と、
前記液体からなる液滴を吐出する吐出口を有する液体吐出ヘッドと、を有し、
前記洗浄液及び前記すすぎ液の各々を前記液体として流通可能であることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項10】
前記流路が、前記液体が循環可能な流路であり、
前記洗浄液及び前記すすぎ液の各々を前記液体として循環可能である請求項9に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
前記洗浄液を前記流路に流通する手段と、
前記すすぎ液を前記流路に流通して前記洗浄液を除去する手段と、
を有する請求項9に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
前記粒子が、前記すすぎ液に溶解して電離する粒子であり、
前記流路に流通した前記すすぎ液の電気伝導度を測定して洗浄度を判別する手段を更に有する請求項9に記載の液体吐出装置。
【請求項13】
前記洗浄液を収容した洗浄液収容容器と、
前記すすぎ液を収容したすすぎ液収容容器と、を更に有し、
前記洗浄液収容容器及び前記すすぎ液収容容器の各々が、液体吐出装置に着脱可能である請求項9に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液とすすぎ液とのセット、洗浄方法、及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットによる印刷技術を活用して、電子デバイスなどに対する機能膜を印刷する技術の開発が進められている。機能膜の代表例として、集積回路(Integrated Circuit:IC)パッケージ表面への電磁波シールド用の金属膜が挙げられる。
【0003】
インクジェットのような微細な流路を用いた液搬送においては、インク材料の固着物は液搬送の異常及び吐出不良につながるため、定期的又は異常時には随時、洗浄が行われる。
【0004】
従来、水難溶性樹脂を有するインクを使用するインクジェットヘッドの印刷後の洗浄液として、化学的な洗浄を行う洗浄液が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
一方、金属膜形成用のインクでは、結着剤は樹脂などの有機物ではなく、金属そのものが結合したものであり、金属の固着物を除去するには、樹脂などの有機物を除去する方法とは異なる作用が必要となり得る。
【0005】
インクジェットの印刷後ではないものの、インクジェット記録ヘッドの製造方法として、ヘッドの吐出エレメントを切断して吐出口を形成する際に、液室を介してインク流路から吐出口へ向けて、研磨材を混入した液体を加圧状態とし、吐出口が開口したときに研磨材を混入した液体を、吐出口から噴霧させる製造方法が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、このような技術を洗浄方法に適用する場合、研磨材による流路の閉塞、研磨材の残留の問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金属膜形成用インクなど様々な組成のインクの固着物を容易に取り除くとともに、研磨材の残留を防ぐことができる洗浄液とすすぎ液とのセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としての本発明の洗浄液とすすぎ液とのセットは、洗浄液と、すすぎ液と、を含み、前記洗浄液が、粒子、及び前記粒子を溶解しない液体を含み、前記すすぎ液が、前記粒子を溶解可能な液体を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属膜形成用インクなど様々な組成のインクの固着物を容易に取り除くとともに、研磨材の残留を防ぐことができる洗浄液とすすぎ液とのセットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態の液体吐出装置における液体吐出ヘッドの一例を示す外観斜視説明図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す液体吐出ヘッドにおける、ノズル配列方向と直交する方向の断面説明図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の液体吐出装置の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の液体吐出装置の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、本実施形態の液体吐出装置の一例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、本実施形態の液体吐出装置の一例を示す概略図である。
【
図7】
図7は、
図2に示す液体吐出ヘッドの流路及び吐出口に固着物が固着した様子を示す概略図である。
【
図8A】
図8Aは、
図7に示す液体吐出ヘッドの流路及び吐出口における固着物を本実施形態の洗浄方法により洗浄する様子を示す概略図(その1)である。
【
図8B】
図8Bは、
図7に示す液体吐出ヘッドの流路及び吐出口における固着物を本実施形態の洗浄方法により洗浄する様子を示す概略図(その2)である。
【
図8C】
図8Cは、
図7に示す液体吐出ヘッドの流路及び吐出口における固着物を本実施形態の洗浄方法により洗浄する様子を示す概略図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(洗浄液とすすぎ液とのセット)
本発明の洗浄液とすすぎ液とのセットは、洗浄液と、すすぎ液と、を含み、前記洗浄液が、粒子、及び前記粒子を溶解しない液体を含み、前記すすぎ液が、前記粒子を溶解可能な液体を含み、更に必要に応じてその他の液体やその他の部材を含んでもよい。
前記洗浄液とすすぎ液とのセットは、液体吐出装置の流路及び吐出口を洗浄するための洗浄液とすすぎ液とのセットであって、前記粒子の最大粒径が、前記吐出口の内径の1/3以下であることが好ましい。
また、前記洗浄液とすすぎ液とのセットは、前記粒子の最大粒径が、100μm以下であることが好ましい。
本発明の洗浄液とすすぎ液とのセットは、液体吐出装置の流路及び吐出口を洗浄するための洗浄液とすすぎ液とのセットとして好適に用いることができる。
【0011】
<洗浄液>
前記洗浄液は、粒子、及び前記粒子を溶解しない液体を含み、更に必要に応じてその他の成分を含んでもよい。
前記粒子の最大粒径が、前記吐出口の内径の1/3以下、及び100μm以下の少なくともいずれかを満たすことが好ましい。
【0012】
<<粒子>>
前記粒子は、前記液体に溶解せず、前記すすぎ液に溶解する粒子であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、NaCl、KCl、MgSO4、CaCO3、燐灰石(Ca10(PO4)6(OH)2)等のイオン結晶;ショ糖等の分子結晶;などが挙げられる。
前記粒子は、研磨材として機能し、粒子の接触による物理的な作用により液体吐出装置の流路及び吐出口に固着した固着物を剥離及び除去することができる。
【0013】
前記粒子の最大粒径としては、前記吐出口の内径の1/3以下が好ましく、前記吐出口の内径の1/6以上1/3以下がより好ましい。また、吐出口の内径が小さい(例えば、内径30μm)の場合には、10μm以下が好ましい。
具体的には、ノズル径26μmの吐出口を有するインクジェットヘッドGEN5シリーズ(株式会社リコー製)を有する液体吐出装置を洗浄する場合には、前記最大粒径が8.7μm以下が好ましく、4.7μm以上8.7μm以下がより好ましい。また、内径200μmの吐出口を有する液体吐出装置を洗浄する場合には、前記最大粒径が66.7μm以下が好ましく、33.3μm以上66.7μm以下がより好ましい。
また、前記粒子の最大粒径としては、洗浄対象となる液体吐出装置の流路及び吐出口に応じて適宜選択することができるが、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下が更に好ましく、吐出口の内径が小さい(例えば、内径30μm以下)の場合には、10μm以下が好ましい。前記粒子の最大粒径の下限値としては、粒子の衝突や接触の効率の観点から、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。
前記粒子の最大粒径を制限することにより、液体吐出装置の流路乃至吐出口の閉塞を防止でき、粒子の衝突や接触による物理的な作用により流路及び吐出口の洗浄が可能となる。
【0014】
前記粒子の最大粒径は、例えば、所定の孔径を有するメンブレンフィルターを用いてろ過を行い、前記孔径以上の粒径を有する粒子を除去した洗浄液を用いることにより、制御することができる。その場合、ろ過前の洗浄液は、前記最大粒径よりも大きい粒径の粒子を含んでいてもよい。
【0015】
前記粒子の平均粒径としては、特に制限はなく、洗浄対象となる液体吐出装置の流路及び吐出口に応じて適宜選択することができるが、前記吐出口の内径の1/6以上1/3以下が好ましい。
【0016】
前記粒子の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、粒子の接触による固着物の剥離及び除去の効率の点で、5体積%以上30体積%以下が好ましく、10体積%以上20体積%以下がより好ましい。
【0017】
前記粒子のモース硬度の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記流路における主要材料のモース硬度と同じ、又はより低いことが好ましい。
前記流路における主要材料について、ステンレス鋼(SUS)等を積層して、流路、液室、及び吐出口を形成したインクジェットヘッドや、シリコンプロセスを利用してエッチング等により流路、液室、及び吐出口を形成したインクジェットヘッドなどが知られており、SUS304、SUS316、SUS430等のステンレス鋼(SUS)はいずれもモース硬度4、シリコンはモース硬度7であった。
したがって、前記流路における主要材料がステンレス鋼である場合、前記粒子のモース硬度は4以下が好ましく、前記流路における主要材料がシリコンである場合、前記粒子のモース硬度は7以下が好ましい。これにより、前記流路における主要材料を研磨して破損することなく、効率的に流路や吐出口に固着した固着物を剥離及び除去することができる。
【0018】
また、前記粒子のモース硬度の下限値としては、前記流路に固着した固着物のモース硬度と同じ、又はより高いことが好ましい。
前記流路に固着した固着物について、後述する実施例において、金属膜形成用のインクを用いて金属膜を形成したところ、銀錯体インク、又は銀ナノ粒子分散インクで形成した銀膜はいずれもモース硬度2であり、銅錯体インク、又は銅ナノ粒子分散インクで形成した銅膜はいずれもモース硬度3であった。バルク金属に近い導電率を示す金属膜では、その純度は99.9%以上と高く、不純物が少ない金属膜ではバルク金属と同等のモース硬度を示すと考えられる。
したがって、前記流路に固着した固着物が銀膜である場合、前記粒子のモース硬度は2以上が好ましく、前記流路に固着した固着物が銅膜である場合、前記粒子のモース硬度は3以上が好ましい。これにより、効率的に流路や吐出口に固着した固着物を剥離及び除去することができる。
【0019】
ここで、「モース硬度」とは、傷のつきやすさを指標とした硬さの尺度であり、前記粒子の選定に利用することができる。
モース硬度は、表1に示した、モース硬度1から10に対応する標準鉱物を用いて、以下の手順にしたがって測定することができる。
具体的には、ある材料Aを標準鉱物である燐灰石(硬度5)と擦り合わせたとき、両方に傷がついた場合、材料Aのモース硬度は5となる。また、材料Aにも燐灰石にも傷がつかなかった場合もモース硬度は5である。
また、ある材料Bを燐灰石と擦り合わせたとき、材料Bにのみ傷がつけば燐灰石よりも軟らかいことが分かる。次に、材料Bと蛍石(硬度4)を擦り合わせたとき、蛍石にのみ傷がつけば材料Bは蛍石よりも硬いことが分かる。この場合、材料Bは、蛍石(硬度4)と燐灰石(硬度5)の間の硬さということになり、モース硬度4.5となる。
【0020】
【0021】
<<粒子を溶解しない液体>>
前記粒子を溶解しない液体としては、前記粒子との組み合わせに応じて、適宜選択することができ、例えば、水、メタノール、エタノール、1-ブタノール、2-プロパノール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
ここで、「粒子を溶解しない」とは、JIS K8001試薬試験方法通則(項目3.2、表1参照)に基づく「溶解の程度」により規定でき、具体的には、一定量の溶質を、試料が固体の場合は粉末とした後、溶媒中に入れ、20℃±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、30分以内に溶けるために必要な溶媒の体積(mL)で規定し、溶質1g又は1mLを溶かすのに要する溶媒量が、1,000mL以上10,000mL未満(極めて溶けにくい)、又は10,000mL以上(ほとんど溶けない)の場合を意味する。
液体(溶媒)100mLに対する粒子(溶質)の溶解度[g/100mL]に換算した場合には、前記溶解度としては、0.1g/100mL以下(極めて溶けにくい又はほとんど溶けない)が好ましく、0.05g/100mL以下がより好ましく、0.01g/100mL以下(ほとんど溶けない)が更に好ましい。
【0023】
<<その他の成分>>
前記その他の成分として、例えば、粒子を溶解せず、固着物の除去を助けるような界面活性剤などが適用可能である。
【0024】
<すすぎ液>
前記すすぎ液は、前記粒子を溶解可能な液体を含む。前記粒子との組み合わせに応じて適宜選択することができ、例えば、水、炭酸水、メタノール、エタノール、1-ブタノール、2-プロパノール、アセトンなどが挙げられる。これらの中でも、水を主体とする液体が好ましく、水が好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
ここで、「粒子を溶解可能」とは、上述したJIS K8001試薬試験方法通則(項目3.2、表1参照)に基づく「溶解の程度」により規定でき、溶質1g又は1mLを溶かすのに要する溶媒量が、1mL以上10mL未満(溶けやすい)、又は1mL未満(極めて溶けやすい)の場合を意味する。
液体(溶媒)100mLに対する粒子(溶質)の溶解度[g/100mL]に換算した場合には、前記溶解度としては、10g/100mL超(溶けやすい又は極めて溶けやすい)が好ましく、15g/100mL以上がより好ましく、20g/100mL以上が更に好ましい。
【0026】
[粒子、洗浄液、すすぎ液の好適な組み合わせ]
粒子、洗浄液、及びすすぎ液の好適な組み合わせは、特に制限はなく、上記したモース硬度の関係、粒子の溶解の程度や、その他の要求により適宜選択することができる。
例えば、粒子として塩化ナトリウム(NaCl、モース硬度2)を用いる場合、洗浄液としてはエタノール(粒子の溶解度0.051g/100mL)、1-ブタノール(粒子の溶解度0.004g/100mL)、すすぎ液としては水(粒子の溶解度35.9g/100mL)の組み合わせが好ましい。
粒子として硫化マグネシウム(MgSO4、モース硬度2)を用いる場合、洗浄液としてはエタノール(粒子の溶解度0.018g/100mL)、すすぎ液としては水(粒子の溶解度26.9g/100mL)の組み合わせが好ましい。
【0027】
粒子として炭酸カルシウム(CaCO3、モース硬度3)を用いる場合は特殊であり、水に不溶であるため洗浄液として水(粒子の溶解度0.015g/100mL)が好ましく、すすぎ液に炭酸水(粒子の溶解度16.6g/100mL)を用いると式1のように変化し、水溶性となる。
(式1)
CaCO3+H2O+CO2 → Ca(HCO3)2
その他、表2-1及び表2-2の実施例に示す組み合わせを好適に使用することができる。
【0028】
(液体吐出装置)
本発明の液体吐出装置は、上記した本発明の洗浄液とすすぎ液とのセットと、液体を収容した収容部と、前記液体を流通可能な流路と、前記液体からなる液滴を吐出する吐出口を有する液体吐出ヘッドと、を有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
前記液体吐出装置は、前記洗浄液及び前記すすぎ液の各々を前記液体として流通可能である。
前記流路が、前記液体が循環可能な流路であり、前記洗浄液及び前記すすぎ液の各々を前記液体として循環可能であることが好ましい。
また、前記液体吐出装置は、前記洗浄液を収容した洗浄液収容容器と、前記すすぎ液を収容したすすぎ液収容容器と、を更に有し、前記洗浄液収容容器及び前記すすぎ液収容容器の各々が、液体吐出装置に着脱可能であることが好ましい。
【0029】
インクジェット装置などの液体吐出装置は、インク液滴を吐出する吐出ヘッドで構成した記録ヘッドを備え、塗布対象を搬送しながら、インク液滴を付着させて膜形成、像形成を行なう。このような吐出ヘッドの吐出口(ノズルとも称する)と呼ばれる多数の細孔から液滴を吐出することで、対象物に非接触でパターンを形成することが可能となっている。
吐出ヘッドは、内径10μm~200μmの微細なオリフィスをもつノズル部、ノズル部に繋がる圧力発生部、圧力発生部に液体を供給する液室部等から構成され、高精度に形成されている。
ヘッド当たりのノズル数は、数十から数千と多く、各ノズルが正常に動作し、吐出不良状態(例えば、ノズルより吐出しない、ノズル面に対して垂直方向でない方向に吐出される、吐出された液滴が所望の大きさを形成できない)が存在しないことを確かめる必要がある。
【0030】
このような吐出不良検査を行なうために検出可能な液体をヘッドに充填し、ヘッドから吐出させることで不具合を検知することが行われている。また、修理等でヘッドやインク供給系に充填したインクが外部に漏れて周囲を汚さないためにも、インクジェット装置内のインクを洗い流すことが必要となる。
従来、水単独、界面活性剤水溶液、溶剤などが洗浄液として用いられているが、これらは主に化学的な洗浄であり、完全に洗浄できなこともあり、吐出不良が発生したりするなどの問題がある。
機能性のインクでは、金属膜を形成するためのインクなどが実用化されている。金属インクには、金属ナノ粒子を分散させたナノインク、金属錯体を溶解させた錯体インクがある。紙などの記録媒体上に識別可能であれば良い最小量の色材を含む画像系のインクに比べて、機能性のインクでは、インクに内包する機能材料の量が多く、ヘッドの流路に金属材料などが強固に固着した固着物が発生しやすい場合がある。
【0031】
前記洗浄液とすすぎ液とのセットを有する前記液体吐出装置により、前記洗浄液及び前記すすぎ液の各々を流通することにより、従来の化学的な洗浄では対処し難い、金属膜形成用インクなど様々な組成のインクの固着物を容易に取り除くとともに、研磨材の残留を防ぐことができる。
【0032】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。本発明の液体吐出装置に係る液体吐出ヘッドの一例について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、本実施形態の液体吐出装置における液体吐出ヘッドの一例を示す外観斜視説明図、
図2は、
図1に示す液体吐出ヘッドの一例を示す、ノズル配列方向と直交する方向の断面説明図である。
なお、以下で述べる「液体」として、画像形成時にはインクを使用でき、洗浄時には、前記洗浄液、及び前記すすぎ液を順次使用することができる。
【0033】
液体吐出ヘッド100は、循環型液体吐出ヘッドであり、ノズル板1と、個別流路材である流路板2と、壁面部材としての振動板部材3とを積層接合している。そして、振動板部材3の振動領域(振動板)30を変位させる圧電アクチュエータ11と、ヘッドのフレーム部材を兼ねている共通流路材20と、カバー29を備えている。
ノズル板1は、液体を吐出する複数のノズル4を有している。
【0034】
流路板2は、複数のノズル4に各々ノズル連通路5を介して通じる複数の圧力室6と、複数の圧力室6に各々通じる複数の流体抵抗部を兼ねる個別供給流路7と、2以上の個別供給流路7に通じる1又は複数の液導入部となる中間供給流路8などを形成している。
個別供給流路7は、前記実施形態と同様に、個別供給流路7は、圧力室6よりも流体抵抗が高い2つの第1流路7A及び第2流路7Bと、第1流路7Aと第2流路7Bとの間に配置され、第1流路7A及び第2流路7Bよりも流体抵抗が低い第3流路7Cとを含む。
なお、流路板2は、複数枚の板状部材2A~2Eを積層して構成しているが、これに限るものではない。
また、流路板2は、複数の圧力室6にノズル連通路5を介して各々通じる流路板2の面方向に沿う複数の個別回収流路57と、2以上の個別回収流路57に通じる1又は複数の液導出部となる中間回収流路58を形成している。
【0035】
個別回収流路57は、圧力室6よりも流体抵抗が高い2つの第1流路57A及び第2流路57Bと、第1流路57Aと第2流路57Bとの間に配置され、第1流路57A及び第2流路57Bよりも流体抵抗が低い第3流路57Cとを含む。個別回収流路57は、第2流路57Bよりも循環方向において下流側となる流路57Dは第3流路57Cと同じ流路幅にしている。
【0036】
共通流路材20は、複数の圧力室6に通じる共通供給流路10と共通回収流路50とを形成している。なお、本実施形態においては、共通供給流路10は、ノズル配列方向において共通回収流路50と並ぶ流路分10Aと、共通回収流路50と並ばない流路分10Bとで構成している。
【0037】
共通供給流路10は、振動板部材3に設けた開口部9を介して液導入部となる中間供給流路8に連通し、中間供給流路8を介して個別供給流路7に通じている。共通回収流路50は、振動板部材3に設けた開口部59を介して液導出部となる中間回収流路58に連通し、中間回収流路58を介して個別回収流路57に通じている。
また、共通供給流路10は供給ポート71に通じ、共通回収流路50は回収ポート72に通じている。
【0038】
振動板部材3は、流路板2の圧力室6の壁面を形成する変位可能な複数の振動板(振動領域)30を有する。ここでは、振動板部材3は2層構造(限定されない)とし、流路板2側から薄肉部を形成する第1層3Aと、厚肉部を形成する第2層3Bで構成されている。
薄肉部である第1層3Aで圧力室6に対応する部分に変形可能な振動領域30を形成している。振動領域30内には、第2層3Bで圧電アクチュエータ11と接合する厚肉部である凸部30aを形成している。
【0039】
振動板部材3の圧力室6とは反対側に、振動板部材3の振動領域30を変形させる駆動手段(アクチュエータ手段、圧力発生手段)としての電気機械変換素子を含む圧電アクチュエータ11を配置している。
この圧電アクチュエータ11は、ベース部材13上に接合した圧電部材にハーフカットダイシングによって溝加工をして、ノズル配列方向において、所要数の柱状の圧電素子12を所定の間隔で櫛歯状に形成している。そして、圧電素子12は、振動板部材3の振動領域30に形成した厚肉部である凸部30aに接合している。
この圧電素子12は、圧電層と内部電極とを交互に積層したものであり、内部電極がそれぞれ端面に引き出されて外部電極(端面電極)に接続され、外部電極にフレキシブル配線部材15が接続されている。
【0040】
この液体吐出ヘッド100において、圧電素子12を積層方向に伸長させ、振動板部材3の振動領域30をノズル4に向かう方向に変形させて圧力室6の容積を収縮させることにより、圧力室6内の液体が加圧され、ノズル4から液体が吐出される。
また、ノズル4から吐出されない液体はノズル4を通過して個別回収流路57から共通回収流路50に回収され、共通回収流路50から外部の循環流路を通じて共通供給流路10に再度供給される。また、ノズル4から液体吐出を行っていないときも、共通供給流路10から圧力室6を経て共通回収流路50に液体が循環し、外部の循環流路を通じて共通供給流路10に再度供給される。
本実施形態において、簡単な構成で、液体吐出に伴う圧力変動を減衰して、共通供給流路10、共通回収流路50に対する伝搬を抑制することができる。
【0041】
図3は、本実施形態の液体吐出装置の一例を説明するための概略図である。
図2の液体吐出装置は、液体吐出ヘッド100と、例えば、200℃まで加温可能なステージ110とを有し、ステージ110上に塗布対象120を固定配置し、矢印方向に搬送されるとともにインクを塗布する。
液体吐出ヘッド100の流路で吐出に寄与する吐出口の内径(ノズル部のノズル径)は解像度、液滴サイズによって決まる。吐出液滴サイズ7pLで吐出可能な液体吐出ヘッドでは、吐出口の内径は26μmであった。
また、液体吐出装置としては、ジェットディスペンサーのようなインクジェットに比べ大型の吐出装置も含まれる。ジェットディスペンサーの吐出口の内径としては、例えば、100μm~200μmである。
【0042】
図4~5に、インク等の液体を流通する機構として循環流路を有する液体吐出装置の例を示し、
図6に、循環流路を有さず一方向に液体を流通する液体吐出装置の例を示す。
図4に示すように、インクジェット装置200は内部に、インクタンク201と、吐出部202としてのインクジェットヘッドと、循環流路203とを有する。
循環流路203は、循環流路203内に、バッファタンク203Aとポンプ203Bとを有する。ただし、
図5に示すインクジェット装置300のように、循環流路303は、循環流路303内に、バッファタンクとポンプとを有していなくてもよく、インクタンク301と、吐出部302と、循環流路303とを有していてもよい。
また、
図6のように循環流路を有さず、インクタンク401と、吐出部402としてのインクジェットヘッドと、インクタンク401から吐出部402へ一方向に液体を流通する流路403と、を有するインクジェット装置400であってもよく、このような装置は以前より広く用いられている。
【0043】
図4に示すインクジェット装置200のように、循環流路203は、循環流路203内に、バッファタンク203Aを有することが好ましく、ポンプ203Bを有することが好ましい。
インクタンク201には、通常、液体としてインクが貯留されている。吐出部202から、インクが吐出される。吐出部202は吐出口(ノズル)を有する。インクタンク201に、吐出部202が接続されている。インクタンク201と吐出部202とは流路を介して接続されている。循環流路203の一端は吐出部202に接続されており、他端はインクタンク201に接続されている。循環流路203の内部を、インクが流れる。
【0044】
バッファタンク203A又はポンプ203Bが備えられる場合には、バッファタンク203A及びポンプ203Bはそれぞれ、吐出部202とインクタンク201との間に配置されることが好ましい。バッファタンク203Aはポンプ203Bよりも吐出部202側に配置されている。ポンプ203Bは、バッファタンク203Aよりもインクタンク201側に配置されている。バッファタンク203Aには、インクが仮貯留される。
吐出部202、302、402としては、サーマル方式、バブル噴射方式、電磁バルブ方式又はピエゾ方式のインクジェットヘッド等が挙げられる。
【0045】
インクの循環方法は、インク自重を利用したり、ポンプを利用して加減圧を行い循環することが可能である。これらは組み合わせて用いてもよい。循環効率を高めるため、循環流路203内に上記インクを移送させるポンプを有することが好ましい。
吐出部202の吐出口においては、適切な圧力に保ち、圧力変動が少ないことが好ましい。ポンプ等を使用する場合にはポンプの脈動を抑えるためにポンプと吐出部との間にバッファタンクやダンパを設けることが好ましい。
インクの塗布工程において、インクジェット装置200内で、インクをインクタンク201から吐出部202に移動させた後に、吐出部202から吐出されなかったインクを、循環流路203内を流してインクタンク201に移動させる。それによって、上記の塗布工程において、インクを循環させながら、塗布することができる。
【0046】
(洗浄方法、及び液体吐出装置における洗浄態様)
本発明の洗浄方法は、上記した本発明の洗浄液とすすぎ液とのセットを用い、液体吐出装置の流路及び吐出口を洗浄するための洗浄方法であって、洗浄工程と、すすぎ工程とを含み、洗浄度判別工程を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の工程を含む。
本発明の液体吐出装置は、洗浄手段と、すすぎ手段と、洗浄度判別手段を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の手段を含む。
前記洗浄液とすすぎ液とのセットとしては、上記した本発明の洗浄液とすすぎ液とのセットにおいて説明した事項を適宜選択することができる。
【0047】
<洗浄工程、洗浄手段>
前記洗浄工程は、前記洗浄液を前記流路及び吐出口に流通する工程であり、前記洗浄手段により好適に実施できる。
前記洗浄手段は、前記洗浄液を前記流路及び吐出口に流通する手段である。インクに代えて洗浄液を液体として用いることで、液体吐出装置の流路及び吐出口に流通することができる。
前記洗浄工程としては、例えば、洗浄液を所定の流速で流路及び吐出口に流通(好適には循環)させる。洗浄時間の設定、及び洗浄効果の評価としては、例えば、60秒ごとに吐出口から洗浄液を吐出することにより評価を行い、固着物の剥離片が観察されなくなった時点を洗浄所要時間(回復時間)とすることができる。
【0048】
前記洗浄液の流速としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、インクを流通させる際の流速であってもよく、加圧することにより流速を増してもよい。前記加圧の圧力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01MPa以上0.2MPa以下が好ましく、0.02MPa以上0.1MPa以下がより好ましい。
また、固着物の剥離効果を高める点で、洗浄液の流通の際に乱流を起こしてもよく、超音波を付与して超音波処理を行ってもよい。
【0049】
<すすぎ工程、すすぎ手段>
前記すすぎ工程は、前記すすぎ液を前記流路及び吐出口に流通して前記洗浄液を除去する工程であり、前記すすぎ手段により好適に実施できる。
前記すすぎ手段は、前記すすぎ液を前記流路及び吐出口に流通して前記洗浄液を除去する手段である。インクに代えてすすぎ液を液体として用いることで、液体吐出装置の流路及び吐出口に流通することができる。
前記すすぎ工程としては、例えば、すすぎ液を所定の流速で流路及び吐出口に流通させる。すすぎ液は、液体吐出装置内を循環させ、一定時間循環させた後に吐出口やすすぎ液収容容器に排液してもよく、吐出口へ一方向で流通させてもよい。
【0050】
すすぎ工程の回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、新たなすすぎ液を用いて複数回(2回以上、3回以上、4回以上など)のすすぎ工程を行うことが好ましい。
すすぎ工程の回数、すすぎ時間の設定、及びすすぎ効果の評価としては、例えば、吐出口などから排液されたすすぎ液において、固着物の剥離片が観察されないこと、後述する洗浄度判別工程により電気伝導度などを指標として設定及び評価することができる。
【0051】
<洗浄度判別工程、洗浄度判別手段>
前記洗浄度判別工程は、前記流路に流通した前記すすぎ液の電気伝導度を測定して洗浄度を判別する工程であり、前記洗浄度判別手段により好適に実施できる。
前記洗浄度判別手段は、前記流路に流通した前記すすぎ液の電気伝導度を測定して洗浄度を判別する手段である。
前記粒子が前記すすぎ液に溶解して電離する粒子である場合に、洗浄度判別工程を実施することができる。すすぎ液が、水、又は炭酸水であることが好ましい。
【0052】
電気伝導率が、400μs/cm以下であると、電気伝導率が約400μs/cm以下である水道水と同等に電気伝導度が低く、すすぎ工程により十分に粒子の溶解物が除去されていると判断することができる。
【0053】
<その他の工程、その他の手段>
前記その他の工程、その他の手段としては、特に制限はなく、公知の液体吐出装置において行う工程や備える手段を目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例0054】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0055】
金属膜形成用の機能インクとして以下のインク1~4を作製した。
【0056】
(インク1)
Ag錯体インク(インク1)は、電子情報通信学会論文誌 C Vol.J95-C No.11 pp.394-399の「β-ケトカルボン酸銀塩インクを利用した低温配線形成技術」に基づいて、2-メチルアセト酢酸銀、アミン溶媒、及びアセチレンアルコールを質量比率でそれぞれ25:74:1となるように混合して作製した。機能材料、すなわちAgの含有量は、2体積%、粘度は13mPa・sであった。
インク1を用いて形成された膜の熱伝導率は84W/m・K、体積抵抗率は7.1μΩcmであった。
【0057】
(インク2)
Agナノ粒子分散インクは、Ag粒子の粒子径が50nm、Agの含有量が17体積%、粘度が10mPa・sである。
インク2を用いて形成された膜の熱伝導率は70W/m・K、体積抵抗率は8.0μΩcmであった。
【0058】
(インク3)
Cu錯体インク(インク3)は、Journal of Materials Chemistry C,2018,6,6406に基づいて、エタノールとジアミン混合物にギ酸銅四水和物を、Cu:NH2のモル比が1:4となるように溶解させ、フィルタリングして得た。Cu錯体インクのCu含有量は2体積%、粘度は13mPa・sであった。
インク3を用いて形成された膜の熱伝導率は88W/m・K、体積抵抗率は6.9μΩcmであった。
【0059】
(インク4)
Cuナノ粒子分散インクは、Cu粒子の粒子径が50nm、Cuの含有量が12体積%、粘度が8mPa・sであった。
インク4を用いて形成された膜の熱伝導率は62W/m・K、体積抵抗率は8.5μΩcmであった。
【0060】
[機能膜の形成]
図1~3で示すように液体吐出ヘッド100(産業用インクジェットヘッドMH5420、株式会社リコー製)を有する印刷装置500を用いて、200℃まで加温可能な搬送ベルト412上に塗布対象としての電子部品を固定配置し、副走査方向に搬送しながらインクを塗布した。なお、液体吐出ヘッド100は塗布対象の上面に対し、ギャップ2mmで配置した。また、吐出液滴サイズを7pLで描画できるよう、液体吐出ヘッドの吐出駆動波形を調整した。各インクを吐出周波数2kHzで吐出した。
液体吐出ヘッドの流路で吐出に最も重要な吐出口(ノズル部)の内径は26μmであった。
【0061】
いずれのインクもステージの加熱を行うとともに、100cm
3~200cm
3のインクの吐出を行った結果、チャネル数320×4列(すなわち全1280チャネル)のノズルのうち5~10チャネルに吐出不良が発生した。
これらのヘッドを分解し観察すると、
図2に示す液体吐出ヘッドの流路(ノズル連通路5)及び吐出口(ノズル4)部分を拡大した
図7に示すように、ノズル又はノズル近くの流路にインクの主成分である金属と同一金属を含む固着物が確認できた。
【0062】
[固着物のモース硬度測定]
各インク1~4の金属膜のモース硬度を、表1に示した標準鉱物を用いて測定した結果、銀錯体インク、又は銀ナノ粒子分散インクで形成した銀膜はいずれもモース硬度2であり、銅錯体インク、又は銅ナノ粒子分散インクで形成した銅膜はいずれもモース硬度3であった。
【0063】
[流路における主要材料のモース硬度測定]
インクジェットヘッド(MH5420、株式会社リコー製)は、流路にステンレス鋼(SUS)を用いているため、SUS304、SUS316、SUS430等のSUSのモース硬度を測定したところ、いずれもモース硬度4であった。
一方、シリコンプロセスにより製造したインクジェットヘッド(TH6310F、株式会社リコー製、チャネル数100×8列×2モジュール(すなわち全1,600チャネル))の流路を構成するシリコンのモース硬度を測定したところ、モース硬度7であった。
【0064】
[粒子、洗浄液、及びすすぎ液の選定]
粒子の選定においては、粒子のモース硬度、固着物のモース硬度との関係、及び流路における主要材料のモース硬度との関係と共に、洗浄液の液体及びすすぎ液に対する、可溶、不溶の差が大きな物質を選定した。用いた組み合わせを表2-1及び表2-2に示した。
【0065】
[洗浄方法の実施]
最大粒径は、各々所定の孔径を有するフィルター(シリンジフィルター、Membrane Solutions社製、孔径:3μm;及びフィルター金網メッシュ、フロンケミカル社製、孔径:5、7、8、10μm)を使って制限した。
図1~3の装置で、洗浄液をインク注入側から注入し、1mL/s~4mL/sの流量で循環しながら、同時にノズルからも吐出する洗浄工程を実施し、60秒ごとに吐出口からの吐出評価を粒子化観察によって行い、全ノズルから吐出され、かつ吐出角度が±10°以内となる回復時間をn数3で評価した。
測定した回復時間及びその平均を表2-3に示した。
ここで、「粒子化観察」とは、ノズルを側面から観察するカメラと対向するLEDなどの照明を吐出周波数に合わせて点滅させることで、繰り返される液の吐出状態を静止状態の粒子のように観察する手段である。
【0066】
すすぎ工程については、すすぎ液を1mL/s~4mL/sの流量で流通してノズル、及びインク出口ポートから排液するすすぎを5回行った。
すすぎ液が水又は炭酸水である実施例及び比較例について、5回目のすすぎ液について、電離抵抗を測定することで洗浄度を判断した。電気伝導率が、400μs/cm以下であると、電気伝導率が約400μs/cm以下である水道水と同等に電気伝導度が低く、すすぎ工程により十分に粒子の溶解物が除去されていると判断することができる。
測定した回復時間及びその平均を表2-3に示した。
【0067】
[評価]
すすぎ後のヘッドの吐出性を、再度インク吐出することにより確認した。さらにインクジェットヘッドの分解を行い、流路内部の傷の有無、固着物の有無、残留粒子の有無を顕微鏡観察により確認した。
表2-2に実施例、及び比較例の結果を示した。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
実施例においては、吐出口の内径の1/3以下の最大粒径を有する粒子を含む洗浄液により、固着物が効率的に剥離除去された。粒子のモース硬度が固着物のモース硬度と同じ、又はより高いと効率的に固着物が剥離除去された。すすぎ液に溶解可能な粒子であることから、すすぎ工程により粒子が確実に除去され、すすぎ後の残留粒子は観察されなかった。固着物の発生により影響を受けるインク吐出性を評価したところ、いずれの実施例も固着物が剥離除去されたことによりインク吐出性が良好な結果であった。
また、実施例では、粒子のモース硬度が、流路における主要材料のモース硬度と同じ、又はより低いことから、流路内部の傷は観察されなかった。
なお、実施例3-2及び4-2に示すように、粒径がノズルの1/3を超えると洗浄効率が低下し、洗浄に必要な回復時間が延びるものの、良好に洗浄されることが分った。
【0073】
一方、比較例1、2、3-1、4-1、及び5に示すように、すすぎ液が粒子を溶解できない場合には、すすぎ後の残留粒子が観察され、すすぎ工程により粒子を効率的に除去することができなかった。
比較例6~7に示すように、粒子のモース硬度がヘッド材料であるSUSより高いと流路内部に傷をつけてしまい不具合が発生する一方で、よりモース硬度が高いシリコンで形成されたヘッド材料を用いることで流路内部の傷は発生しないことが分った。なお、比較例6~7の粒子はいずれもすすぎ液で除去できないため、すすぎ後に粒子が残留した。
【0074】
実施例1~3及び5では、粒子がすすぎ液に電離するため、すすぎ後のすすぎ液の電気伝導度を測定することにより、すすぎ後の粒子成分の除去を確認できることが分った。
これらの結果から想定される、液体吐出ヘッドの流路及び吐出口における固着物を本実施形態の洗浄方法により洗浄する様子を
図8A~Cに示す。
すなわち、粒子pを含む洗浄液での洗浄により、固着物aが、粒子pの接触により流路5を形成するノズル板1などから剥離されて除去される(
図8A参照)。次いで、粒子pを溶解可能なすすぎ液でのすすぎにより、粒子pが溶解除去される(
図8B参照)。これらの洗浄及びすすぎにより、固着物aが剥離及び除去され、粒子p及び残留粒子rも除去され、液体吐出装置の流路及び吐出口が洗浄された状態となる(
図8C参照)。
【0075】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 洗浄液と、すすぎ液と、を含み、
前記洗浄液が、粒子、及び前記粒子を溶解しない液体を含み、
前記すすぎ液が、前記粒子を溶解可能な液体を含むことを特徴とする洗浄液とすすぎ液とのセットである。
<2> 液体吐出装置の流路及び吐出口を洗浄するための洗浄液とすすぎ液とのセットであって、
前記粒子の最大粒径が、前記吐出口の内径の1/3以下である前記<1>に記載の洗浄液とすすぎ液とのセットである。
<3> 前記粒子の最大粒径が、100μm以下である前記<1>に記載の洗浄液とすすぎ液とのセットである。
<4> 前記粒子の最大粒径が、10μm以下である前記<2>又は<3>に記載の洗浄液とすすぎ液とのセットである。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の洗浄液とすすぎ液とのセットを用い、液体吐出装置の流路及び吐出口を洗浄するための洗浄方法であって、
前記洗浄液を前記流路及び吐出口に流通する工程と、
前記すすぎ液を前記流路及び吐出口に流通して前記洗浄液を除去する工程と、
を含むことを特徴とする洗浄方法である。
<6> 前記粒子のモース硬度が、前記流路における主要材料のモース硬度と同じ、又はより低い前記<5>に記載の洗浄方法である。
<7> 前記粒子のモース硬度が、前記流路に固着した固着物のモース硬度と同じ、又はより高い前記<5>又は<6>に記載の洗浄方法である。
<8> 前記粒子が、前記すすぎ液に溶解して電離する粒子であり、
前記流路に流通した前記すすぎ液の電気伝導度を測定して洗浄度を判別する工程を更に含む前記<5>から<7>のいずれかに記載の洗浄方法である。
<9> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の洗浄液とすすぎ液とのセットと、
液体を収容した収容部と、
前記液体を流通可能な流路と、
前記液体からなる液滴を吐出する吐出口を有する液体吐出ヘッドと、を有し、
前記洗浄液及び前記すすぎ液の各々を前記液体として流通可能であることを特徴とする液体吐出装置である。
<10> 前記流路が、前記液体が循環可能な流路であり、
前記洗浄液及び前記すすぎ液の各々を前記液体として循環可能である前記<9>に記載の液体吐出装置である。
<11> 前記洗浄液を前記流路に流通する手段と、
前記すすぎ液を前記流路に流通して前記洗浄液を除去する手段と、
を有する前記<9>又は<10>に記載の液体吐出装置である。
<12> 前記粒子が、前記すすぎ液に溶解して電離する粒子であり、
前記流路に流通した前記すすぎ液の電気伝導度を測定して洗浄度を判別する手段を更に有する前記<9>から<11>のいずれかに記載の液体吐出装置である。
<13> 前記洗浄液を収容した洗浄液収容容器と、
前記すすぎ液を収容したすすぎ液収容容器と、を更に有し、
前記洗浄液収容容器及び前記すすぎ液収容容器の各々が、液体吐出装置に着脱可能である前記<9>から<12>のいずれかに記載の液体吐出装置である。
【0076】
前記<1>から<4>のいずれかに記載の洗浄液とすすぎ液とのセット、前記<5>から<8>のいずれかに記載の洗浄方法、及び前記<9>から<13>のいずれかに記載の液体吐出装置は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。