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特開2024-105041粒子の挙動をシミュレートするためのプログラム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105041
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】粒子の挙動をシミュレートするためのプログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G16Z 99/00 20190101AFI20240730BHJP
【FI】
G16Z99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009563
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】曽田 力央
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049DD02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】所定の制限の少なくとも一部を解消した、粒子のシミュレートするためのプログラム及び方法並びにデータを製造する方法を提供する。
【解決手段】流体中の粒子の挙動をシミュレートするプログラムは、流体のデータを読み込むステップ、第1の粒子のデータを読み込むステップ、第1の粒子のデータに少なくとも基づいて粒子を粗視化して、第2の粒子のデータを生成するステップ及び流体のデータ及び第2の粒子のデータに少なくとも基づいて、粒子の挙動を計算するステップを、情報処理装置のプロセッサに実行させる。第2の粒子のデータを生成するステップは、粒子を粗視化することに対応して、第2の粒子の加速度が第1の粒子の加速度と等しくなるように、第1の粒子の質量、密度及び当該粒子に加わる力のうちの1種以上を補正し、粒子の挙動を計算するステップは、流体の抗力係数に少なくとも基づいて計算する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体中の粒子の挙動をシミュレートするためのプログラムであって、
情報処理装置のプロセッサに命じて、以下のステップを実行させることが可能である、プログラム:
・流体のデータを読み込むステップ、
・第1の粒子のデータを読み込むステップ、
・前記第1の粒子のデータに少なくとも基づいて、粒子を粗視化して、第2の粒子のデータを生成するステップ、
・前記流体のデータ及び前記第2の粒子のデータに少なくとも基づいて、粒子の挙動を計算するステップ、
ここで、前記第2の粒子のデータを生成するステップは、粒子を粗視化することに対応して、前記第2の粒子の加速度が前記第1の粒子の加速度と等しくなるように、前記第1の粒子の質量、密度、及び、当該粒子に加わる力のうちの1種以上を補正することを含み、
前記粒子の挙動を計算するステップは、前記流体の抗力係数に少なくとも基づいて計算することを含み、
前記抗力係数は、以下の式で表される:
【数1】
(式1)
(ただし、Reは前記流体のレイノルズ数、a、b、cは前記第1の粒子の球形度によって定まる定数とする)
【請求項2】
請求項1のプログラムであって、前記補正することは、前記第1の粒子の加速度と、前記第2の粒子の加速度とを、前記抗力係数を使って各々表現したときに、定数a、b、cを含む項同士が等しくなるように、前記第1の粒子の質量、密度、及び、当該粒子に加わる力のうちの1種以上を補正することを含む、プログラム。
【請求項3】
前記a、b、cは以下の式2~式4によって定まる、請求項1に記載のプログラム。
【数2】
(式2)
【数3】
(式3)
【数4】
(式4)
(ただし、ψは粒子の球形度とする)
【請求項4】
請求項1に記載のプログラムであって、予め前記定数a、b、cを算出するステップを実行可能なプログラムであり、
予め前記定数a、b、cを算出するステップは、球形度、抗力係数、及び、レイノルズ数のいずれか1以上を含む実験データからフィッティングを行うことを含む、プログラム。
【請求項5】
請求項1に記載のプログラムであって、
粗視化率を読み込むステップを更に備え、
前記第2の粒子のデータを生成するステップは、前記第1の粒子のデータと前記粗視化率とに少なくとも基づいて、前記第2の粒子のサイズを設定することを含む、プログラム。
【請求項6】
請求項1に記載のプログラムであって、前記第1の粒子のデータは、粒子のサイズ、個数、球形度、質量のうち少なくとも1以上を含む、プログラム。
【請求項7】
請求項1~6いずれか1項に記載のプログラムを、情報処理装置を用いて実行することを含む方法。
【請求項8】
粒子の挙動をシミュレートしたデータを製造する方法であって、請求項1~6いずれか1項に記載のプログラムを、情報処理装置を用いて実行することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粒子の挙動をシミュレートするためのプログラム及び方法に関する。より具体的には、粗視化した粒子の挙動をシミュレートするためのプログラム、当該プログラムを用いた方法、及び、当該プログラムを用いてデータを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体を取り扱う際には、予め、コンピュータを用いて、粒子の挙動をシミュレートすることがある。ポピュラーな手法として、個別要素法(Distinct Element Method、DEM)又は離散要素法(Discrete Element Method、DEM)が挙げられる。
【0003】
特許文献1では、DEMのシミュレーションにおいて、更に粒子を混合撹拌した際の粒子の混合度、粒子間に発生する静電気量を基に粒子間に作用する静電気力を求める方法を開示している。
【0004】
また、非特許文献1では、DEMでの計算量の負荷を減らす目的で、より簡便な粗視化粒子モデル(Simpler Coarse-Grain Model、SCGモデル)を用いた手法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-214134号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Processes 2021, 9(7), 1098
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように粒子をシミュレートする様々な手法がこれまでに開発されてきた。しかし、これらの手法には様々な制限があった。例えば、上記非特許文献1で用いられた手法は、限られた条件下でしか採用することができなかった。
【0008】
そこで、本開示は、上述した制限の少なくとも一部を解消した、粒子をシミュレートする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本開示は、一側面において、以下の発明を提供する。
(発明1)
流体中の粒子の挙動をシミュレートするためのプログラムであって、
情報処理装置のプロセッサに命じて、以下のステップを実行させることが可能である、プログラム:
・流体のデータを読み込むステップ、
・第1の粒子のデータを読み込むステップ、
・前記第1の粒子のデータに少なくとも基づいて、粒子を粗視化して、第2の粒子のデータを生成するステップ、
・前記流体のデータ及び前記第2の粒子のデータに少なくとも基づいて、粒子の挙動を計算するステップ、
ここで、前記第2の粒子のデータを生成するステップは、粒子を粗視化することに対応して、前記第2の粒子の加速度が前記第1の粒子の加速度と等しくなるように、前記第1の粒子の質量、密度、及び、当該粒子に加わる力のうちの1種以上を補正することを含み、
前記粒子の挙動を計算するステップは、前記流体の抗力係数に少なくとも基づいて計算することを含み、
前記抗力係数は、以下の式で表される:
【数1】
(式1)
(ただし、Reは前記流体のレイノルズ数、a、b、cは前記第1の粒子の球形度によって定まる定数とする)
(発明2)
発明1のプログラムであって、前記補正することは、前記第1の粒子の加速度と、前記第2の粒子の加速度とを、前記抗力係数を使って各々表現したときに、定数a、b、cを含む項同士が等しくなるように、前記第1の粒子の質量、密度、及び、当該粒子に加わる力のうちの1種以上を補正することを含む、プログラム。
(発明3)
前記a、b、cは以下の式2~式4によって定まる、発明1又は2に記載のプログラム。
【数2】
(式2)
【数3】
(式3)
【数4】
(式4)
(ただし、ψは粒子の球形度とする)
(発明4)
発明1又は2に記載のプログラムであって、予め前記定数a、b、cを算出するステップを実行可能なプログラムであり、
予め前記定数a、b、cを算出するステップは、球形度、抗力係数、及び、レイノルズ数のいずれか1以上を含む実験データからフィッティングを行うことを含む、プログラム。
(発明5)
発明1~4いずれか1つに記載のプログラムであって、
粗視化率を読み込むステップを更に備え、
前記第2の粒子のデータを生成するステップは、前記第1の粒子のデータと前記粗視化率とに少なくとも基づいて、前記第2の粒子のサイズを設定することを含む、プログラム。
(発明6)
発明1~5いずれか1つに記載のプログラムであって、前記第1の粒子のデータは、粒子のサイズ、個数、球形度、質量のうち少なくとも1以上を含む、プログラム。
(発明7)
発明1~6いずれか1つに記載のプログラムを、情報処理装置を用いて実行することを含む方法。
(発明8)
粒子の挙動をシミュレートしたデータを製造する方法であって、発明1~6いずれか1つに記載のプログラムを、情報処理装置を用いて実行することを含む方法。
【発明の効果】
【0010】
一側面において、上記発明は、以下の式で表される抗力係数に少なくとも基づいて粒子の挙動を計算する。
【0011】
【数5】
(式5)
【0012】
(ただし、Reは流体のレイノルズ数、a、b、cは前記第1の粒子の球形度によって定まる定数とする)
【0013】
このことにより、球形以外の粒子に対しても、シミュレートすることが可能となる。また、所定のレイノルズ数の範囲においても計算することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態における本開示の情報処理装置の構成を示す。
図2】一実施形態における本開示のシステムの構成を示す。
図3】一実施形態における本開示の方法を示す。
図4】実施例における粒子の挙動をシミュレートした結果を示す。
図5】比較例1における粒子の挙動をシミュレートした結果を示す。
図6】比較例2における粒子の挙動をシミュレートした結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
1.概要
一実施形態において、本開示は、流体中の粒子の挙動をシミュレートするためのプログラム、当該プログラムを用いた方法、及び、当該プログラムを用いてデータを製造する方法に関する。
【0016】
適用対象の技術分野は特に限定されず、流体中の粒子の挙動をシミュレートする任意の技術分野に適用可能である。技術分野の例としては、以下が含まれるが、これらに限定されない:サイクロン分離機中の粒子、撹拌槽内の粒子、室内の粉塵、ジェットミル粉砕機内の粒子、浮遊選鉱中の粒子、サンドブラスト中の粒子、スラリー内の粒子など。
【0017】
粒子のサイズも特に限定されず、本開示の方法及びプログラムは、任意のサイズの粒子に適用可能である。例えば、粒子のサイズは、ミリオーダーであってもよく、マイクロオーダーであってもよく、ナノオーダーであってもよい。粒子は、粉体も含む。また、粒子の種類も限定されず、本開示の方法及びプログラムを通して、1種類の粒子の挙動をシミュレートしてもよく、2種類以上の粒子の挙動をシミュレートしてもよい。粒子の形状、粒子の数も特に限定されない。
【0018】
好ましくは、本開示のプログラム等は、希薄系の流体中の粒子の挙動をシミュレートするのに好適である。換言すれば、本開示のプログラム等は、流体中の粒子の濃度が低い状況における粒子の挙動をシミュレートするのに好適である。
【0019】
限定されるものでないが、本開示のプログラム等は、例えば、ストークス数100未満で表される状況下での粒子の挙動をシミュレートするのに好適である。
【0020】
また、本明細書において、用語「第1の粒子」及び「第2の粒子」が使用される。ここで、「第2の粒子」は、「第1の粒子」の粗視化に関連する用語である。しかし、シミュレートする粒子の種類が複数ある場合には、当該種類の数に応じた「第1の粒子」が存在し、これらにそれぞれ対応した「第2の粒子」が存在する。したがって、繰り返し述べるが、本開示が適用できる範囲は、1種類の粒子を取り扱うケースに限定されない点を留意されたい。
【0021】
2.プログラムを実行する環境
プログラム及び方法を実行するための環境は特に限定されず、典型的な情報処理装置を用いることができる。情報処理装置(100)は、典型的には、図1に示すように、プロセッサ(110)、メモリ(120)、非一時的記憶媒体(130)、及び、通信モジュール(140)を備えることができる。
【0022】
情報処理装置(100)は、例えば、以下が含まれるがこれらに限定されない:サーバ、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン、スマートウォッチ、スマートグラス等。
【0023】
プログラムは、非一時的な記憶媒体(130、例えば、HDD、SSD等)に記憶され、適宜、メモリ(120、例えば、RAM等)にロードされ、プロセッサ(110、例えば、CPU等)によって実行される。必要に応じて、プログラムは、通信モジュール(140)を通してネットワークに接続して、情報の送信及び受信を行うことができる。
【0024】
一実施形態において、プログラムは、アプリケーションソフトとして、1台の情報処理装置(100)にインストールされてもよく、そして、当該情報処理装置(100)によって実行されてもよい。
【0025】
別の実施形態において、情報処理装置(100)の数は1台に限定されず、必要に応じて複数台の情報処理装置(100)を利用してもよい。その際には、プログラムの機能を複数台の情報処理装置(100)に分散させてもよい。
【0026】
或いは、図2に示すように、サーバ(210)と端末(220)がネットワークを通して相互に接続されたシステム(200)の構成を採用してもよい。当該システム(200)において、端末(220)は、ユーザからの入力を受信し、当該受信した入力の少なくとも一部をサーバ(210)に送信してもよい。サーバ(210)は、端末(220)から送信された入力情報を受信し、情報処理を行い、出力の一部を端末(220)に送信してもよい。そして、端末(220)は、サーバ(210)から送信された出力情報を受信し、端末(220)において表示してもよい。
【0027】
したがって、別の一側面において、本開示は、本開示のプログラムを含む情報処理装置、及び、当該情報処理装置を含むシステムにも関する。更に別の一側面においては、本開示は、本開示のシステムを構成する端末、及び/又は、サーバに関する。端末及びサーバの内部構成は、図1に示す情報処理装置と同様であってもよい。更に別の一側面においては、本開示は、プログラムを記憶した記憶媒体(例えば、HDD、SSD、フラッシュメモリ、光学ディスク等)に関する。
【0028】
3.プログラムが実行する各ステップ
一実施形態において、本開示のプログラムは、図3に示すように、以下のステップを少なくとも含む。
【0029】
・流体のデータを読み込むステップ(S10)、
・第1の粒子のデータを読み込むステップ(S20)、
・第1の粒子のデータに少なくとも基づいて、粒子を粗視化して、第2の粒子のデータを生成するステップ(S30)、
・流体のデータ及び第2の粒子のデータに少なくとも基づいて、粒子の挙動を計算するステップ(S40)
【0030】
ここで、第2の粒子のデータを生成するステップは、粒子を粗視化することに対応して、第2の粒子の加速度が第1の粒子の加速度と等しくなるように、第1の粒子の質量、密度、及び、当該粒子に加わる力のうちの1種以上を補正することを含む。
【0031】
また、粒子の挙動を計算するステップは、流体の抗力係数に少なくとも基づいて計算することを含む。
【0032】
そして、前記抗力係数は、以下の式で表される:
【数6】
(式6)
(ただし、Reは流体のレイノルズ数、a,b,cは第1の粒子の球形度によって定まる定数とする)
【0033】
各ステップについて、以下詳述する。
【0034】
3-1.流体のデータを読み込むステップ
上述した通り、一実施形態において、本開示は、流体中の粒子の挙動をシミュレートするためのプログラム等に関する。したがって、シミュレートするために、流体のデータを読み込むことが必要となる。
【0035】
流体のデータは、ユーザがインターフェース(例えば、ディスプレイに表示された入力用のフォーム)を通して所与の情報を入力することによって、読み込まれてもよい。あるいは、流体のデータの読み込みは、所与のファイルを読み込むことによって行われてもよい(例えば、過去のシミュレーションデータから複製する場合等)。
【0036】
流体のデータは、限定されないが、以下のいずれか1以上を含むことができる:流体密度、流体粘度、流体速度等。好ましくは、流体のデータは、更に、以下のいずれか1以上を含むことができる:流体温度、空間座標(例えば、X、Y、Z)、並びに、流体速度のX成分、Y成分、Z成分等。
【0037】
3-2.第1の粒子のデータを読み込むステップ
また、シミュレートするために、流体のデータだけでなく、粒子のデータを読み込む必要がある。両者の読み込みのステップの実行は、どちらが先でもよく、どちらが後でもよく、同時であってもよい。
【0038】
本明細書において、「第1の粒子」とは、シミュレーション対象となっている元々の粒子を意味する。
【0039】
第1の粒子のデータは、限定されないが、以下のいずれか1以上を含むことができる:粒子のサイズ(例えば、球形の粒子の場合における直径)、粒子の個数、形状(例えば、球形度)、質量。好ましくは、第1の粒子のデータは、以下のいずれか1以上を含むことができる:粒子のサイズ(例えば、球形の粒子の場合における直径)、形状(例えば、球形度)、ポアソン比、ヤング率、摩擦係数、反発係数、接触角、物質名、粒子1つあたりの質量、体積、粒子の個数、質量等。
【0040】
3-3.第2の粒子のデータを生成するステップ
上述した第1の粒子のデータに少なくとも基づいて、第2の粒子のデータを生成する。好ましくは、上述した流体のデータに更に基づいて、第2の粒子のデータを生成してもよい。粒子の数が多いとシミュレートする際に計算量の負荷が大きくなる。このことにより、シミュレートした結果を得るのに時間がかかる。
【0041】
計算量の負荷を低減することを目的として、取り扱う粒子の数を減らし、実際の粒子のサイズよりも大きいサイズの粒子を使用して、粒子の挙動を解析することができる。
【0042】
発明の理解を促進することと目的として、このセクションでは、まず、非特許文献1に示す手法を説明し、そのあとで、本開示の一実施形態に係るプログラムにおける第2の粒子のデータを生成するステップについて説明する。
【0043】
まず、粒子の加速度は以下の関係式で表現できる。
a=FD/m
(式7)
【0044】
ここで、
a:加速度
D:粒子が流体から受ける力
m:質量
【0045】
そして、粒子が流体から受ける力FDは以下の関係式で表現できる。
【数7】
(式8)
【0046】
ここで、
D:抗力係数(又は抵抗係数)
A:流体の流れ方向に直交する面への粒子投影面積
ρf:流体の密度
r:流体に対する粒子の相対速度
なお、粒子が球形以外の場合の投影面積Aは、状況に応じて、適切な方法で算出してもよい。例えば、粒子は、流体の流れに対して最も投影面積が小さい面が向くように配置されるので、当該向きにおける投影面積を採用してもよい。あるいは、非球形粒子と同じ体積の球における断面積(即ち、球の中心を通る断面の面積)を採用してもよい。
【0047】
そして、抗力係数CDは以下の関係式で表現できる。
【数8】
(式9)
【0048】
ここで、
Re:レイノルズ数
(ただし、上記の関係式はレイノルズ数が2未満で、尚且つ、粒子が球形であることを前提としている)
【0049】
また、レイノルズ数Reは、以下の関係式で表現できる。
【数9】
(式10)
【0050】
ここで、
d:粒子の直径
μf:流体の粘度
【0051】
したがって、粗視化した粒子(CG、Coarse-Grain)における加速度は、以下の関係式で表現できる。
【0052】
【数10】

(式11)
【0053】
【数11】
(式12)
【0054】
ここで、ρp:粒子の密度
【0055】
これらの関係式に基づいて、粗視化した粒子(CG、Coarse-Grain)と、元々の粒子(O、original)とが同じ加速度を有するように、計算式を補正する。
【0056】
そのためには、以下の関係式を解けばよい。
【0057】
CG=aO
(式13)
【0058】
ここで、
CG:粗視化粒子の加速度
O:元の粒子の加速度
【0059】
上記の式に当てはめると以下のような関係式が導かれる。
【0060】
【数12】
(式14)
【0061】
この式を整理すると以下のような関係式が導かれる。
【0062】
【数13】
(式15)
【0063】
したがって、元の粒子の密度について、元の粒子および粗視化粒子の粒子径比の二乗の比率で補正を行うことで、元の粒子の加速度と、粗視化粒子の加速度が等しくなるようにできる。
【0064】
上記のように補正したことによる効果については、非特許文献1に示す実験結果(例えば、Fig.1等)を参照されたい。
【0065】
なお、一実施形態において、プログラムは、ユーザから入力した補正値を直接受信するというよりは、例えば、元々の粒子のサイズとともに、当該粒子のサイズに対する倍率(粗視化率)を、インターフェースを通して入力させるように構成されてよい。
【0066】
粗視化率は、例えば、元々の粒子のサイズの2倍にする場合には、数値「2」を入力してもよく、或いは、百分率で表現された「200」(%)を入力してもよい。
【0067】
また、粒子の粗視化率に応じて、プログラムは、粒子の個数を調整してもよい。好ましくは、粗視化処理に応じて変化した体積に応じて個数を調整してもよい。例えば、粒子の粗視化率を2倍に設定した場合、粒子の体積は8倍になる。これに応じて粒子の個数を1/8に調整してもよい。
【0068】
ここで、上記の方法では、抗力係数として以下の値を採用していた。
【数14】
(式16)
【0069】
しかし、上記の抗力係数は、ストークスの法則に基づいており、そして、レイノルズ数が2未満、且つ、粒子が球形であることを前提としている。
【0070】
したがって、上記前提条件以外の状況においては適用することができない。
【0071】
そこで、一実施形態における本開示の方法では、上記抗力係数の代わりに、以下の抗力係数を採用する。
【0072】
【数15】
(式17)
【0073】
上記の関係式は、H.N.YOWらによって提唱されている(Advanced Powder Technol.,Vol.16,No.4,pp.363-372(2005))。
【0074】
H.N.YOWらによると、上記の関係式は、幅広い球形度、幅広いレイノルズ数、及び、様々な形状の粒子に対して適用できると述べている。
【0075】
したがって、一実施形態のプログラムにおいて、適用可能な球形度は、特に限定されず、好ましくは、0.006~1であってもよく、更に好ましくは、0.034以上であってもよい。また、一実施形態のプログラムにおいて、適用可能なレイノルズ数は、特に限定されず、好ましくは、10-2~105であり、更に好ましくは、2以上であってもよい。更には、一実施形態のプログラムにおいて、適用可能な粒子の形状は、特に限定されず、例えば、球形、立方体、立方八面体、正八面体、正四面体、円盤、円柱、直方体等が挙げられる。
【0076】
上記H.N.YOWらによる抗力係数を採用した場合、加速度は以下のように計算される。
【数16】
(式18)
【0077】
【数17】
(式19)
【0078】
ここで、上記式の3つの項を、それぞれ、a1,CG、a2,CG、a3,CGとする。これらは、それぞれ、定数a、b、cを含む項に対応する。
【0079】
CG=aOの方程式を解く必要があるところ、a1,O+a2,O+a3,O=a1,CG+a2,CG+a3,CGの関係が成立すればよいことが理解できる。そして、この方程式を解いて、ρOとρCGとの関係を導けば、上記と同様の補正が可能となる(上記では、密度について、粒子径の二乗の比率で補正を行っている)。しかし、この方程式を解こうとすると、非常に複雑であって解くことができなかった。そのため、当業者は非特許文献1に示される手法における抗力係数を、H.N.YOWらによって提唱される抗力係数に置き換えようと考えもしなかった。この点、本発明者はaCG=aOの方程式を解くにあたって、即ち、a1,O+a2,O+a3,O=a1,CG+a2,CG+a3,CGの関係を解くにあたって、この式が成立するためには、定数a、b、cを含む項同士が等しくなればよいことを見出した。
【0080】
そこで、以下のように三種類の等式を設定する。
【0081】
【数18】
(式20)
【0082】
3つの等式を解くと以下のように表現される。
【0083】
【数19】
(式21)
【0084】
したがって、粗視化粒子の加速度を計算する際には、各3つの項において、元々の粒子の密度に、それそれ、粒子サイズの比率(2乗比、3/2乗比、1乗比)を乗じる補正を行えばよい。そして、上記の形の数式の解き方は、たいして複雑ではなく、数式として直感的に扱いやすいという利点がある。
【0085】
上記の方法では、密度を補正している。直接値を補正する対象は、密度に限定されず、例えば、他の変数を補正してもよい。例えば、質量を補正する場合には、「mCG=kmO」と置いたときに、「aCG=aO」(FD,CG/mCG=FD,O/mO)が成立するような定数kを算出した後、粗視化粒子における加速度を、「FD,CG/(kmO)」として計算してシミュレートしてもよい。したがって、第2の粒子の加速度が第1の粒子の加速度と等しくなるように補正することは、第1の粒子の質量、密度、及び、当該粒子に加わる力のうち1種以上を補正することを含む。
【0086】
また、以下の式のa、b、cの各値については、H.N.YOWらが提唱するように球形度に応じて適宜設定すればよい。
【0087】
【数20】
(式22)
【0088】
例えば、H.N.YOWらのFig.4、Table.1等に示すように、実験などによって、球形度とレイノルズ数と抗力係数の曲線を作成し、これにフィットするa、b、cの各値を導出してもよい。好ましくは、a、b、cの各値は、球形度ψに応じて以下のように決定されてもよい。
【0089】
【数21】
(式23)
【0090】
【数22】
(式24)
【0091】
【数23】
(式25)
【0092】
ただし、ψは粒子の球形度とする。ここで、球形度は、Wadellにより定義された球形度である。即ち、球形度は以下の式で表される:
(球形度)=(第1の粒子と同体積の球の表面積)/(第1の粒子の表面積)
【0093】
以上に示す方法で、粒子に係るパラメータの補正を行い、第2の粒子のデータを生成する。
【0094】
2種類以上の粒子をシミュレートする場合には、種類の数に応じて、上述した第2の粒子のデータを生成するステップを繰り返すことができる。
【0095】
上記の方法を採用することで、非特許文献1の手法では適用できなかった、球形以外の粒子に対して、粗視化によるシミュレーションを適用することが可能となる。また、上記の方法を採用することで、従来のSCGモデルでは適用できなかったレイノルズ数が2以上の領域(例えば、アレン域(2<Re<500)、ニュートン域(500<Re<105))の状況で、粗視化によるシミュレーションを適用することが可能となる。
【0096】
また、球形以外の粒子を取り扱う場合には、粒子のサイズは、任意の方法で設定してもよい。例えば、粒子の体積と同じ体積を有する球体の直径を、粒子のサイズとして採用してもよい。あるいは、粒子の中心部分から頂点部分までの距離の2倍を、粒子のサイズとして採用してもよい(例えば、立方体、直方体、正四面体、正八面体等の場合)。あるいは、円柱や円盤の場合には、粒子の中心部分から、円周上の任意の点部分までの距離の2倍を、粒子のサイズとして採用してもよい。あるいは、任意の形状において、投影面積をその体積に基づいて導出し、そして、当該投影面積と等しい球の直径を、粒子のサイズとして採用してもよい。
【0097】
3-4.粒子の挙動を計算するステップ
第2の粒子のデータを生成した後は、粒子の挙動を計算する。粒子の挙動を計算する方法については特に限定されないが、典型的には、DEMが挙げられる。
【0098】
当該ステップでは、流体のデータ及び第2の粒子のデータに少なくとも基づいて計算を行う。また、場合によっては、重力のデータに更に基づいて計算を行ってもよい。
【0099】
そして、容器の内部空間での粒子の挙動を計算する場合には、容器の内部空間のデータに更に基づいて計算を行ってもよい。この場合には、プログラムは、容器の内部空間のデータを読み込むステップを予め実行することができる。
【0100】
当該計算を行うことで、時間ごとに各粒子がどの位置に存在するかを記録したデータを生成することができる。そして、当該データは所定のプログラムで読み込むことにより、画面上で粒子の挙動を表示することができる。
【実施例0101】
以下では、粒子が液中を沈降する挙動をシミュレートした結果を示す。条件は以下の通りに設定した。
粒子の形状:球形
元々の粒子のサイズ:1mm
粗視化した粒子のサイズ(又は粗視化率):1mm(1倍)、2mm(2倍)、4mm(4倍)
流体密度:1000kg/m3
流体粘度:8.9×10-4Pa・s
粒子密度:1200kg/m3
粒子に加わる力:重力g(9.8m/s2
【0102】
抗力係数CDを算出するための定数a、b、cを算出するための式は以下の式を採用した。
【0103】
【数24】
(式26)
【0104】
【数25】
(式27)
【0105】
【数26】
(式28)
【0106】
ここで、粒子の形状は球であるため、球形度ψ=1である。
【0107】
まず、上記設定条件における終末速度の理論値を算出した。
【0108】
その際、レイノルズ数Reが不明であるため、いったんレイノルズ数Reがアレン域(2<Re<500)であると仮定して、以下の式に当てはめて終末速度を計算した。
【0109】
【数27】
(式29)
【0110】
なお、上記の設定条件によれば、各変数は以下の通りとなる。
ρp=1200(kg/m3
ρf=1000(kg/m3
g=9.8(m/s2
μ=8.9×10-4(Pa・s)
d=10-3(m)
【0111】
また、上述したように、レイノルズ数Reは、以下の関係式で表現できる。
【数28】
(式30)
【0112】
ここで、
d:粒子の直径
μf:流体の粘度
【0113】
したがって、上記理論値を、上記式に当てはめてレイノルズ数を算出すると以下のようになる。
【数29】
(式31)
【0114】
ここから、レイノルズ数は、アレン域(2<Re<500)の数値となっており、上記の仮定に矛盾がないことが確認できた。したがって、アレン域であることを前提に算出した終末速度(0.0425m/s)が正しいことが確認できた。
【0115】
次に、上記設定条件に基づいて、液中の粒子が沈降する挙動をシミュレートした。粒子を粗視化する際に行う加速度の補正について、3種類の補正を設定した。1つめは実施例に該当する補正であり、上記(式21)に基づいて、加速度の補正を行った。2つめは、比較例に該当する補正であり、上記(式15)に基づいて、加速度の補正を行った(比較例1)。3つめは、比較例に該当し、加速度の補正を行わなかった(比較例2)。
【0116】
シミュレートした結果を図4図6に示す。実施例(図4)では、どの粒子も同じ速度で沈降していた。また、比較例1(図5)においても、どの粒子も同じ速度で沈降していた。一方で、比較例2(図6)では、最も大きく粗視化した粒子が一番早く沈降していた。
【0117】
このように、実施例と、比較例1では、粗視化した後も、元々の粒子と同じように挙動することが示された。
【0118】
ここで、シミュレートした際に、実施例及び比較例1における各粒子の終末速度を算出した。結果は以下の通りであった。
実施例: 0.0422m/s
比較例1:0.1223m/s
【0119】
したがって、実施例における各粒子の終末速度(0.0422m/s)が、理論的に算出された終末速度(0.0425m/s)とほぼ一致する。一方、従来のSCGモデルに対応する比較例1における各粒子の終末速度(0.1223m/s)は理論的に算出された終末速度から大きくずれていることが分かる。すなわち、実施例では、レイノルズ数が2以上の状況(Re=48)で、矛盾の無いシミュレート結果を得ることができることが示された。
【0120】
以上、発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。
【符号の説明】
【0121】
100 情報処理装置
110 プロセッサ
120 メモリ
130 非一時的記憶媒体
140 通信モジュール
200 システム
210 サーバ
220 端末
310 元々の粒子
320 サイズ2mmの粒子
330 サイズ4mmの粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6