(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105101
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】骨盤底筋の修復剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/18 20060101AFI20240730BHJP
A61K 36/804 20060101ALI20240730BHJP
A61K 36/40 20060101ALI20240730BHJP
A61K 36/894 20060101ALI20240730BHJP
A61K 36/884 20060101ALI20240730BHJP
A61K 36/90 20060101ALI20240730BHJP
A61K 36/65 20060101ALI20240730BHJP
A61K 36/54 20060101ALI20240730BHJP
A61K 36/714 20060101ALI20240730BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240730BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A61K36/18
A61K36/804
A61K36/40
A61K36/894
A61K36/884
A61K36/90
A61K36/65
A61K36/54
A61K36/714
A61P15/00
A61P21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009669
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】松下 哲也
(72)【発明者】
【氏名】稲木 萌翔
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB11
4C088AB12
4C088AB32
4C088AB33
4C088AB37
4C088AB58
4C088AB71
4C088BA08
4C088MA08
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA81
4C088ZA94
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、骨盤底筋を修復できる医薬品を提供することである。
【解決手段】八味地黄丸及び/又はそのエキスは、骨盤底筋の修復剤の有効成分として有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
八味地黄丸及び/又はそのエキスを含有する、骨盤底筋の修復剤。
【請求項2】
出産で生じた骨盤底筋の損傷に対して用いられる、請求項1に記載の骨盤底筋の修復剤。
【請求項3】
骨盤底筋の収縮機能の改善のために用いられる、請求項1に記載の骨盤底筋の修復剤。
【請求項4】
骨盤臓器脱の予防に用いられる、請求項1に記載の骨盤底筋の修復剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨盤底筋の修復剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトは直立歩行をしているため、内臓が骨盤底方向に重力を受けている。このような内臓は、肛門挙筋をはじめとする骨盤底筋等の支持構造により支えられている。女性の場合、出産時に直径約10cmの胎児の頭が膣を通過するために、骨盤底筋群が伸ばされて損傷することがある。さらに、加齢に伴い骨盤底筋が弛緩することによって、骨盤内臓器が本来の位置よりも下垂する骨盤臓器脱に至ることがある。
【0003】
骨盤臓器脱への対処としては、経過観察、骨盤底筋体操、ペッサリー、手術が挙げられる(非特許文献1)。比較的軽度の症例であれば、骨盤底筋を強化する骨盤底筋体操が最も有効とされている。ペッサリーは、骨盤内臓器を支えるために腟に挿入する器具であり、患者自体が定期的に外して洗浄する必要がある。盤底筋体操とペッサリーを試しても症状が続く場合、及び患者がペッサリーの使用を望まない場合には、手術が選択肢となる。手術では、骨盤内臓器の支持組織の修復を外科的に行う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Charlie C. Kilpatrick , MD, MEd, Baylor College of Medicine,“骨盤臓器脱(POP)(骨盤底支持組織の障害)”,[online],2019年 7月,Merck & Co., Inc.,[令和5年1月22日検索],インターネット<URL:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/22-%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E9%AA%A8%E7%9B%A4%E8%87%93%E5%99%A8%E8%84%B1%EF%BC%88pop%EF%BC%89/%E9%AA%A8%E7%9B%A4%E8%87%93%E5%99%A8%E8%84%B1%EF%BC%88pop%EF%BC%89>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
女性の多くが骨盤臓器脱のリスクを負っており、実際に経験する。しかしながら、羞恥心等から受診率は低い。また、骨盤底筋体操、ペッサリー、手術といった対処法があっても、継続が困難であったり、適用に制限があったりするため、対処に踏み込めない例が多く存在する。このような状況において、骨盤底筋を医薬品で修復できることが望まれる。
【0006】
本開示は、骨盤底筋を修復できる医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、八味地黄丸エキスに、骨盤底筋を修復できる作用があることを見出した。本開示は、この知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 八味地黄丸及び/又はそのエキスを含有する、骨盤底筋の修復剤。
項2. 出産で生じた骨盤底筋の損傷に対して用いられる、項1に記載の骨盤底筋の修復剤。
項3. 骨盤底筋の収縮機能の改善のために用いられる、項1又は2に記載の骨盤底筋の修復剤。
項4. 骨盤臓器脱の予防に用いられる、項1~3のいずれかに記載の骨盤底筋の修復剤。
項5. 骨盤底筋の修復剤の製造のための、八味地黄丸及び/又はそのエキスの使用。
項6. 骨盤底筋の修復に用いるための、八味地黄丸及び/又はそのエキス。
項7. 骨盤底筋の修復を必要とする対象に、有効量の八味地黄丸及び/又はそのエキスを投与する工程を含む、骨盤底筋の修復方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、骨盤底筋を修復できる医薬品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の骨盤底筋の修復剤により、骨盤底筋損傷モデルラットの骨盤底筋の筋損傷が修復されたことを示す。
【
図2】本開示の骨盤底筋の修復剤により、骨盤底筋損傷モデルラットの骨盤底筋機能が正常化したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の骨盤底筋の修復剤は、八味地黄丸及び/又はそのエキスを含有することを特徴とする。以下、本開示の骨盤底筋の修復剤について詳述する。
【0012】
有効成分
本開示の骨盤底筋の修復剤は、有効成分として八味地黄丸及び/又はそのエキスを含有する。八味地黄丸は、「金匱要略」に記載された処方構成に基づく、ジオウ、サンシュユ、サンヤク、タクシャ、ブクリョウ、ボタンピ、ケイシ(ケイヒ)、ブシ(ブシ末)からなる混合生薬である。
【0013】
本開示において、八味地黄丸を構成する生薬の混合比については特に制限されないが、通常、ジオウ2.5~8重量部、サンシュユ1.5~4重量部、サンヤク1.5~4重量部、タクシャ1.5~3重量部、ブクリョウ1.5~3重量部、ボタンピ1.5~3重量部、ケイシ(ケイヒ)0.5~1重量部、ブシ(ブシ末)0.25~1重量部が挙げられる。
【0014】
本開示で使用される八味地黄丸の製造に供される生薬調合物の好適な例としては、ジオウ2.5重量部、サンシュユ1.5重量部、サンヤク1.5重量部、タクシャ1.5重量部、ブクリョウ1.5重量部、ボタンピ1.5重量部、ケイシ(ケイヒ)0.5重量部、ブシ(ブシ末)0.5重量部の混合物が挙げられる。
【0015】
本開示の骨盤底筋の修復剤において、有効成分としては、骨盤底筋の修復効果をより一層高める観点から、好ましくは八味地黄丸エキスが挙げられる。
【0016】
八味地黄丸のエキスの形態としては、流エキス、軟エキス等の液状のエキス、及び固形状の乾燥エキス末のいずれであってもよい。
【0017】
八味地黄丸の液状のエキスは、八味地黄丸に従った混合生薬を抽出処理し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮することにより得ることができる。抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されず、水又は含水エタノール、好ましくは水が挙げられる。また、八味地黄丸の乾燥エキス末は、液状のエキスを乾燥処理することにより得ることができる。乾燥処理の方法としては特に限定されず、例えば、スプレードライ法、エキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法等が挙げられる。
【0018】
本開示において、八味地黄丸エキスとしては、前述の方法で調製したエキスを使用してもよいし、市販されるものを使用してもよい。
【0019】
本開示の骨盤底筋の修復剤において、八味地黄丸及びそのエキスの含有量としては、本開示の効果を奏する限り特に限定されず、製剤形態等に応じて適宜決定することができる。
【0020】
その他の成分
本開示の骨盤底筋の修復剤は、上記有効成分単独からなるものであってもよいし、製剤形態に応じた添加剤及び/又は基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの基剤及び添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、並びに/若しくは骨盤底筋の修復剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0021】
また、本開示の骨盤底筋の修復剤は、上記有効成分の他に、必要に応じて、他の栄養成分及び/又は薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分及び薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分及び薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類等に応じて適宜設定される。
【0022】
製剤形態
本開示の骨盤底筋の修復剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、トローチ剤、チュアブル剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、丸剤等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられ、好ましくは丸剤、顆粒剤又は錠剤が挙げられる。
【0023】
製造方法
本開示の骨盤底筋の修復剤の製造方法は、上記生薬成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0024】
用途
本開示の骨盤底筋の修復剤は、骨盤底筋を修復する目的で使用される。修復対象となる骨盤底筋の状態としては、ミオゲニン(Myogenin)、ミオゲニンファクター6(Myogenic factor 6)及び/又はカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン等)が増加した状態、より具体的には、骨盤底筋が損傷した状態が挙げられ、さらに具体的には、出産等で骨盤底筋が急激に伸張させられることで損傷した状態、及び骨盤底筋が加齢等により長期的に負荷を受け弛緩した状態が挙げられる。本開示の骨盤底筋の修復剤は、好ましくは、出産で生じた骨盤底筋の損傷に対して用いられる。
【0025】
本開示の骨盤底筋の修復剤は、骨盤底筋を修復することで骨盤底筋の収縮機能を改善できる。従って、本開示の骨盤底筋の修復剤は、骨盤底筋の収縮機能の改善のために用いることができる。
【0026】
本開示の骨盤底筋の収縮剤は、上記の状態の骨盤底筋が引き起こす任意の症状の予防又は改善に用いることができる。例えば、本開示の骨盤底筋の修復剤は、骨盤臓器脱の予防に用いることもできる。骨盤臓器脱の対象となる骨盤内臓器としては、子宮、腟、膀胱、尿道、直腸等が挙げられる。また、本開示の骨盤底筋の修復剤は、便漏れ等の症状の改善に用いることもできる。
【0027】
本開示の骨盤底筋の修復剤の適用対象としては女性及び男性を問わないが、好ましくは女性に適用される。
【0028】
本開示の骨盤底筋の修復剤の適用対象の年齢は問わず、出産世代を含む若年世代から高齢世代まで適用可能であり、具体的には、20歳代~90歳代が挙げられる。
【0029】
用量・用法
本開示の骨盤底筋の修復剤は、経口投与によって使用される。本開示の骨盤底筋の修復剤の用量については、投与対象者の年齢、体質、症状の程度等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒトに対して1日当たり、八味地黄丸量(有効成分に八味地黄丸が用いられる場合)及び八味地黄丸エキスの原生薬換算量(有効成分に八味地黄丸エキスが用いられる場合)の総量で、例えば5~22g程度、好ましくは7~16g程度、より好ましくは9~13g程度となる量で、1日1~3回、好ましくは3回の頻度で服用すればよい。服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、食前(食事の30分前)又は食間(食後2時間後)が好ましい。
【0030】
また、本開示の骨盤底筋の修復剤の服用期間としては、例えば1週間以上、好ましくは10日以上、より好ましくは2週間以上が挙げられる。
【実施例0031】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(1)骨盤底筋の修復剤の調製
原料生薬として、ジオウ2.5重量部、サンシュユ1.5重量部、サンヤク1.5重量部、タクシャ1.5重量部、ブクリョウ1.5重量部、ボタンピ1.5重量部、ケイヒ0.5重量部、ブシ末0.5重量部を用い、これらを刻んだ後、水10倍重量を用いて約100℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得た。抽出液を減圧下で濃縮してスプレードライヤーを用いて乾燥し、八味地黄丸エキス末を得た。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給して行った。
【0033】
(2)実験方法
8週齢のラットを、無処置群、コントロール群、八味地黄丸投与群に分けた。コントロール群及び八味地黄丸投与群のラットの膣内にバルーンを挿入して拡張させ、骨盤底筋群損傷モデルラットを作成した。八味地黄丸投与群については、八味地黄丸エキスを7日間混餌投与した。無処置群及びコントロール群では、八味地黄丸エキスを含まない餌を給餌した。
【0034】
骨盤底筋における筋損傷マーカーであるMyogenin及びMyogenic factor 6のmRNA(筋損傷の程度が大きいほど多く発現する)の発現量、並びに筋肉収縮に用いられるカテコラミンであるアドレナリン及びノルアドレナリン(骨盤底筋の収縮機能が低下しているほど多く分泌される)の濃度を測定した結果を
図1及び2に示す。なお、Myogenin及びMyogenic factor 6のmRNA量は、内部標準遺伝子であるGAPDHのmRNA量でそれぞれ除することにより評価を行った。
【0035】
図1に示すとおり、コントロール群では骨盤底筋の損傷により筋損傷マーカー値が増加したことに対し、八味地黄丸エキスの投与により、筋損傷マーカーの明確な減少傾向が認められた。つまり、八味地黄丸エキスの投与により、骨盤底筋の損傷が修復されたことが認められた。さらに
図2に示す通り、コントロール群では骨盤底筋の損傷によりアドレナリン及びノルアドレナリンの量が増加したことに対し、八味地黄丸エキスの投与により、アドレナリン及びノルアドレナリンの量が低下したことが認められた。つまり、八味地黄丸エキスの投与による骨盤底筋の損傷の修復により、骨盤底筋の収縮機能が改善したことが認められた。