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特開2024-105145液体組成物、収容容器、樹脂絶縁層、電極、電極積層体、電気化学素子、電極の製造方法、電極積層体の製造方法、電極積層体の製造装置、電気化学素子の製造方法、及び電気化学素子の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105145
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】液体組成物、収容容器、樹脂絶縁層、電極、電極積層体、電気化学素子、電極の製造方法、電極積層体の製造方法、電極積層体の製造装置、電気化学素子の製造方法、及び電気化学素子の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240730BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20240730BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240730BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240730BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240730BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240730BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/02 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/139
H01M10/0585
C08F20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009731
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】大屋 彼野人
(72)【発明者】
【氏名】東 隆司
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡
【テーマコード(参考)】
4J100
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AL61P
4J100AL63P
4J100AL66P
4J100AL67P
4J100BA08P
4J100CA01
4J100DA57
4J100JA44
5H029AJ11
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ03
5H029CJ22
5H029HJ00
5H029HJ02
5H029HJ07
5H029HJ11
5H029HJ12
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050GA03
5H050GA22
5H050GA29
5H050HA00
5H050HA02
5H050HA07
5H050HA11
5H050HA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】樹脂層形成時の硬化収縮と膨潤収縮とを同時に低減でき、100μmスケールの厚みを有する樹脂層でも反りが抑制された樹脂層を形成することができる液体組成物の提供。
【解決手段】平均分子量が700未満の重合性化合物と、非芳香族系化合物である溶剤と、を含む液体組成物であって、前記重合性化合物と前記液体組成物とのHSP距離の2乗であるΔHSPが下記式(I)で表され、前記重合性化合物と前記溶剤との相溶限界となるΔHSPをΔHSP SLとしたときの、ΔHSPとΔHSP SLとの関係が下記式(II)を満たす、組成物。
式(I):ΔHSP=(δ -δ +(δ -δ +(δ -δ
式(II):0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SL
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される平均分子量が700未満の重合性化合物と、
非芳香族系化合物である溶剤と、を含む液体組成物であって、
前記重合性化合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を(δ ,δ ,δ )、前記重合性化合物の体積分率をXとし、前記溶剤のHSPを(δ ,δ ,δ )、前記溶剤の体積分率をXとし、前記液体組成物のHSPを(δ ,δ ,δ )、前記液体組成物の体積分率をX+X=1とし、ΔHSPが下記式(I)で表され、前記重合性化合物と前記溶剤との相溶限界となるΔHSPをΔHSP SLとしたときの、ΔHSPとΔHSP SLとの関係が下記式(II)を満たすことを特徴とする液体組成物。
式(I)
ΔHSP=(δ -δ +(δ -δ +(δ -δ
式(II)
0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SL
【化1】
(ただし、前記一般式(1)中、Rは、非環式アルキレン基及び非環式アルキレンオキシド基の少なくともいずれかを示し、Yは、水素原子又は-O-COCH=CH基を示す。)
【請求項2】
0.90ΔHSP SL≦ΔHSP≦ΔHSP SLを満たす請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体組成物が容器中に収容されたことを特徴とする収容容器。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の液体組成物を重合してなることを特徴とする樹脂絶縁層。
【請求項5】
電極基体と、
前記電極基体上に電極合材層と、
前記電極合材層の外周部に、請求項4に記載の樹脂絶縁層と、を有することを特徴とする電極。
【請求項6】
請求項5に記載の電極と、
前記電極上に固体電解質層と、を有することを特徴とする電極積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の電極積層体を有することを特徴とする電気化学素子。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の液体組成物を、電極基体上の外周部に付与する付与工程と、
前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂絶縁層を形成する重合工程と、
前記電極基体上に電極合材層を形成する電極合材層形成工程と、を含み、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層が互いに隣接して形成されたことを特徴とする電極の製造方法。
【請求項9】
前記付与が、インクジェット法により実施される請求項8に記載の電極の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の液体組成物を、電極基体上の外周部に付与する付与工程と、
前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂絶縁層を形成する重合工程と、
前記電極基体上に電極合材層を形成する電極合材層形成工程と、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層をプレスするプレス工程と、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層上に固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程と、を含み、
前記電極合材層形成工程が、前記付与工程の前、又は前記重合工程の後に実施され、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層が互いに隣接して形成されたことを特徴とする電極積層体の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の液体組成物が収容された収容容器と、
前記液体組成物を、電極基体上の外周部に付与する付与手段と、
前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂絶縁層を形成する重合手段と、
前記電極基体上に電極合材層を形成する電極合材層形成手段と、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層を前記電極基体方向にプレスするプレス手段と、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層上に固体電解質層を形成する固体電解質層形成手段と、を有し、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層が互いに隣接して形成されたことを特徴とする電極積層体の製造装置。
【請求項12】
請求項10に記載の電極積層体の製造方法により電極積層体を製造する電極積層体製造工程と、
前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含むことを特徴とする電気化学素子の製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載の電極積層体の製造装置により電極積層体を製造する電極積層体製造手段と、
前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化手段と、を有することを特徴とする電気化学素子の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体組成物、収容容器、樹脂絶縁層、電極、電極積層体、電気化学素子、電極の製造方法、電極積層体の製造方法、電極積層体の製造装置、電気化学素子の製造方法、及び電気化学素子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体二次電池は、従来のリチウムイオン二次電池に比べ、温度変化に強く、発火リスクが小さいといった安全面だけでなく、急速充電も可能といった性能面からの期待も大きく、電気自動車等へ搭載など、需要が拡大することが予想されている。また、各種ウェアラブル機器や医療用パッチに搭載する薄型電池に対するニーズが高まってきており、全固体二次電池に対する要求が多様化している。
【0003】
正極と負極と固体電解質層で構成される全固体電池では、全固体電池の性能向上のために高い密度を狙って、正極、固体電解質層、及び負極を含む積層体を非常に高い圧力でプレスする場合があるが、このプレスの際に、固体電解質においてクラックなどの破損が生じ、その結果、全固体電池の使用時に、正極と負極との間で短絡が発生してしまう懸念があった。
【0004】
このような全固体電池における固体電解質のクラックなどの破損を防止するために、これまでに、正極集電体と、前記正極集電体上に形成された正極活物質を含む正極活物質層と、を含む固体電池用正極であって、前記正極活物質層を有する面の前記正極活物質層の外周部の隣接する少なくとも2辺に、正極ガイドが配置されている、固体電池用正極が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、樹脂層形成時の硬化収縮と膨潤収縮とを同時に低減でき、100μmスケールの厚みを有する樹脂層でも反りが抑制された樹脂層を形成することができる液体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としての本発明の液体組成物は、下記一般式(1)で表される平均分子量が700未満の重合性化合物と、非芳香族系化合物である溶剤と、を含む液体組成物であって、前記重合性化合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を(δ ,δ ,δ )、前記重合性化合物の体積分率をXとし、前記溶剤のHSPを(δ ,δ ,δ )、前記溶剤の体積分率をXとし、前記液体組成物のHSPを(δ ,δ ,δ )、前記液体組成物の体積分率をX+X=1とし、ΔHSPが下記式(I)で表され、前記重合性化合物と前記溶剤との相溶限界となるΔHSPをΔHSP SLとしたときの、ΔHSPとΔHSP SLとの関係が下記式(II)を満たす。
式(I)
ΔHSP=(δ -δ +(δ -δ +(δ -δ
式(II)
0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SL
【0007】
【化1】
(ただし、前記一般式(1)中、Rは、非環式アルキレン基及び非環式アルキレンオキシド基の少なくともいずれかを示し、Yは、水素原子又は-O-COCH=CH基を示す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂層形成時の硬化収縮と膨潤収縮とを同時に低減でき、100μmスケールの厚みを有する樹脂層でも反りが抑制された樹脂層を形成することができる液体組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態の電極の一例を示す断面図である。
図2図2は、本実施形態の電極積層体の一例を示す断面図である。
図3図3は、本実施形態の電気化学素子の一例を示す断面図である。
図4図4は、本実施形態の電極の一例を示す上面図である。
図5図5は、本実施形態の電極の他の一例を示す上面図である。
図6図6は、本実施形態の電極の他の一例を示す上面図である。
図7図7は、本実施形態の樹脂絶縁層の製造装置である液体吐出装置の一例を示す模式図である。
図8図8は、本実施形態の樹脂絶縁層の製造装置である液体吐出装置の他の例を示す模式図である。
図9図9は、本実施形態の樹脂絶縁層の製造装置である液体吐出装置の他の例を示す模式図である。
図10図10は、図9の液体吐出装置の変形例を示す模式図である。
図11図11は、本実施形態の樹脂絶縁層の製造装置としてのドラム状の中間転写体を用いた印刷部の一例を示す構成図である。
図12図12は、本実施形態の樹脂絶縁層の製造装置としての無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部の一例を示す構成図である。
図13図13は、樹脂絶縁層と電極合材層の位置関係を模式的に示す図である。
図14図14は、樹脂絶縁層と電極合材層の厚み関係を模式的に示す図である。
図15図15は、本実施形態の電気化学素子である全固体電池の一例を示す断面図である。
図16図16は、樹脂絶縁層と電極合材層の距離を模式的に示す図である。
図17図17は、樹脂絶縁層と電極合材層の距離を模式的に示す図である。
図18図18は、本実施形態における樹脂層形成メカニズムを模式的に示す図である。
図19図19は、本発明の電気化学素子である全固体電池を搭載した移動体の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(液体組成物)
本発明の液体組成物は、下記一般式(1)で表される平均分子量が700未満の重合性化合物と、非芳香族系化合物である溶剤と、を含む液体組成物であって、更に必要に応じてその他の成分を含む。
前記重合性化合物と前記液体組成物とのHSP距離の2乗である、ΔHSPが下記式(I)で表され、前記重合性化合物と前記溶剤との相溶限界となるΔHSPをΔHSP SLとしたときの、ΔHSPとΔHSP SLとの関係が下記式(II)を満たす。
式(I)
ΔHSP=(δ -δ +(δ -δ +(δ -δ
式(II)
0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SL
【0011】
【化2】
(ただし、前記一般式(1)中、Rは、非環式アルキレン基及び非環式アルキレンオキシド基の少なくともいずれかを示し、Yは、水素原子又は-O-COCH=CH基を示す。)
【0012】
本発明の液体組成物は、本発明者らが、以下の従来技術における問題点を見出したことに基づく発明である。
すなわち、従来の固体電池用正極を用いた全固体電池の製造方法では、全固体電池における正極と負極との短絡を防止するために、正極活物質層における固体電解質層と対向する面の外周部に正極ガイドを配置して、積層、及びプレスを実施しているが、全固体電池作製の際には非常に高い圧力がかかるため、正極ガイドのクラックや電極への圧力負荷がかかり、依然として電極、及び固体電解質層への圧力負荷によるダメージが生じるという問題がある。
なお、正極ガイドは、プレス時耐えられるようにある程度の粘弾性が必要であることから樹脂製が好ましく、生産性や活物質層の形状多様性を鑑み、コーターを用い、液体組成物を塗布することで、塗布膜を形成することが好ましいと考えられる。しかしながら、特許文献1(国際公開第2020-022111号公報)には、正極ガイドの材料として、絶縁性樹脂、無機酸化物等の絶縁性材料や積層シートがその一形態として開示されるが、樹脂絶縁層が、液体組成物から製造されることの開示はない。
【0013】
近年、微少量乃至精密パターン塗布に対応し、材料のロスを最小限に抑えることが可能であり、製版(マスク)なしでCADデータなどから精密なパターンの塗布が可能であることから、産業用コーターとしてインクジェット方式が注目されている。さらにインクジェット印刷は、膜厚の均一性が高く、高精度な着弾、塗り分け塗布が可能であり、異形塗布、微細配線、微小片などの配線描画が可能であることから、光硬化型液体組成物を用いて、樹脂製の活物質層ガイドを形成することが期待されている。
【0014】
一般に、光硬化型液体組成物は、光開始剤とアクリル系多官能モノマーで構成される場合が多い。このような多官能モノマーを用いた光硬化の場合、多数のモノマーが重合して1つの分子となることで、ファンデルワールス距離から共有結合距離へのギャップから体積収縮(以下、「硬化収縮」と称する)し、基板からの剥離や樹脂層のカールといった現象が発生する場合が多い。
【0015】
これに対し、モノマー分子中の二重結合以外の部分が大きくなるほど硬化収縮は抑制傾向にあることが知られており、硬化収縮率と分子量の逆数には相関があることが認められている(例えば、高分子 27巻 2月号(1978)、高分子技術レポート VOl.8(2014)など参照)。
【0016】
しかしながら、発明者らの検討によれば、モノマー分子中の二重結合以外の部分が大きい多官能モノマー、すなわちマクロモノマーやオリゴマーを用いた場合には、相対的に架橋密度が小さくなるため、希釈溶剤溶存下で硬化させると希釈溶剤の含浸によって大きく膨潤した状態で重合されることとなり、溶剤除去工程において体積収縮(以下、「膨潤収縮」と称する)が生じてしまうことが課題であった。
したがって、硬化収縮と膨潤収縮を同時に抑制した樹脂絶縁層の形成には、より一層の改善の余地があった。
【0017】
本発明者らは、前記目的を解決すべく、鋭意検討した結果、本発明の液体組成物が、樹脂層形成時の硬化収縮と膨潤収縮とを同時に低減でき、100μmスケールの厚みを有する樹脂層でも反りが抑制された樹脂層を形成することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0018】
<重合性化合物>
前記重合性化合物は、下記一般式(1)で表される平均分子量が700未満の重合性化合物であり、非環式アルキレン基(ポリオレフィン)、又は非環式ポリアルキレンオキシド構造を有し、2官能又は3官能のアクリレートである。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【化3】
(ただし、前記一般式(1)中、Rは、非環式アルキレン基及び非環式アルキレンオキシド基の少なくともいずれかを示し、Yは、水素原子又は-O-COCH=CH基を示す。)
【0019】
前記重合性化合物を用いた場合、本発明の液体組成物を硬化することによって得られる樹脂層が100μmスケールの厚い膜であった場合でも、樹脂層形成時の硬化収縮と膨潤収縮を同時に抑制することができ、反りが抑制された樹脂層を形成することができる。
その要因は定かではないが重合性化合物の平均分子量が700未満の場合、硬化収縮低減のために一般に用いられるマクロモノマーやオリゴマーと比較して架橋密度が高くなるため、硬化工程における溶剤の含浸による膨潤が相対的に低減され、結果として溶剤が除去される際の膨潤収縮が抑制されたことに起因するものと考えられる。一方で、上述したように一般的なマクロモノマーやオリゴマーと比較すると前記重合性化合物の分子量が小さいため硬化収縮の影響が強く現れることが予見されるが、柔軟性に富む非環式アルキレン基又は非環式アルキレンオキシド基を有する重合性化合物を用いることで硬化収縮が抑制されたと考えられる。ただし、これらは厚い樹脂層の硬化収縮低減に関しての必要条件であり、必要十分条件にはなり得ず、重合性化合物と溶剤が、前記式(II)で表される関係性を満たす必要がある。
【0020】
前記非環式アルキレン基としては、例えば、n-へキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、n-ノニレン基、n-デシレン基、n-ドデシレン基等の直鎖アルキレン基;-CHC(CHCH)(CHA)CH-(すなわち、トリメチロールプロパンの3つのOH基を除き、1つのOH基を置換基Aに置換したもの)等の分岐アルキレン基などが挙げられる。
前記置換基Aとしては、置換基Y、非環式アルキレンオキシド基と置換基Yとの組み合わせなどが挙げられる。
前記非環式アルキレンオキシド基としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
前記Rとして、非環式アルキレン基及び非環式アルキレンオキシド基を組み合わせてもよい。
【0021】
前記Yが水素原子の場合は、前記重合性化合物は2官能のアクリレートであり、前記Yが-O-COCH=CH基(すなわち、アクリル基に酸素原子が結合した基)の場合は、前記重合性化合物は3官能のアクリレートである。
前記2官能のアクリレートとしては、2官能非環式アルキルアクリレート;2官能非環式ポリエチレングリコールアクリレート、2官能非環式ポリプロピレングリコールアクリレート、2官能非環式ポリテトラメチレングリコールアクリレート等の2官能非環式ポリアルキレンオキシドアクリレートなどが挙げられる。
前記3官能のアクリレートとしては、3官能非環式アルキルアクリレート、3官能非環式ポリアルキレンオキシドアクリレートなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
また、本発明の効果が得られる範囲で前記重合性化合物以外のその他の重合性化合物を併用してもよい。
【0022】
2官能非環式アルキルアクリレートとしては、例えば、NKエステルシリーズ A-HD-N、A-NON-N、A-DOD-N、A-NPG(以上、いずれも新中村化学工業株式会社製);ライトアクリレートシリーズ NP-A、MPD-A、1,6HX-A、1,9ND-A(以上、いずれも共栄社化学株式会社製);KAYARAD NPGDA(日本化薬株式会社製);Miramerシリーズ M200(Miwow社製);ビスコートシリーズ #195、#230、#260(大阪有機化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0023】
2官能ポリエチレングリコールアクリレートとしては、例えば、NKエステルシリーズ A-200、A-400(以上、いずれも新中村化学工業株式会社製);ライトアクリレートシリーズ 3EG-A、4EG-A、9EG-A(以上、いずれも共栄社化学株式会社製);ブレンマーシリーズ ADE-200、ADE-300、ADE-400A(以上、いずれも日油株式会社製);Miramerシリーズ M202、M280、M284(以上、いずれもMiwow社製);KAYARAD PEG400DA(日本化薬株式会社製)などが挙げられる。
【0024】
2官能非環式ポリプロピレングリコールアクリレートとしては、例えば、NKエステルシリーズ APG-200、APG-400(以上、いずれも新中村化学工業株式会社製);ビスコート#310HP(大阪有機化学工業株式会社製)、ブレンマーADP-400(日油株式会社製)、Miramerシリーズ M216、M220、M222、M2040(以上、いずれもMiwow社製)などが挙げられる。
【0025】
2官能ポリテトラメチレングリコールアクリレートとしては、例えば、ライトアクリレート PTMGA-250(共栄社化学株式会社製)、ブレンマーADT-250(日油株式会社製)などが挙げられる。
【0026】
3官能非環式アルキルアクリレートとしては、例えば、NKエステル A-TMPT(新中村化学工業株式会社製);ビスコート #295(大阪有機化学工業株式会社製)などが挙げられる。
3官能非環式ポリアルキレンオキシドアクリレートとしては、例えば、NKエステルシリーズ A-TMPT-9EO、A-GLY-3E、A-GLY-9E(以上、いずれも新中村化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0027】
[重合性化合物の平均分子量]
前記重合性化合物の平均分子量としては、膨潤収縮のさらなる低減の観点から、700未満であり、600以下が好ましく、500以下がより好ましい。また硬化収縮のさらなる低減の観点から、200以上がより好ましく、300以上がさらに好ましい。
前記平均分子量は、数平均分子量であり、具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。
【0028】
<溶剤>
前記溶剤は、非芳香族系化合物である溶剤である。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
非芳香族化合物を用いる場合、後述する重合性化合物と溶剤との前記式(II)で表される関係性が成立する場合において、優れた硬化収縮を抑制する効果が得られる。
その要因は定かではないが、芳香族化合物は、一般に溶解力が極めて高い溶剤として知られており(例えば、油化学、第9巻、12号(1960)参照)、芳香族化合物を用いた場合は、重合性化合物が重合反応を開始して溶剤と相溶しなくなって析出がはじめるまでの所要時間が非芳香族化合物以外の溶剤よりも長くなることが予想される。したがって、後述する樹脂層形成メカニズムに基づくと重合反応により得られた樹脂層は緻密な状態となっていることが推察され、結果として硬化収縮の低減効果を十分に得られないものと考えられる。
【0029】
前記溶剤としては、非芳香族系化合物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルコール系溶剤、アミン系溶剤、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルデヒド系溶剤、チオール系溶剤などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、前記式(II):0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SLで表される関係性を満たしやすい点で、低極性溶剤が好ましく、炭化水素系溶剤、非環式エステル系溶剤、3級アルコール系溶剤、アミン系溶剤がより好ましい。
【0030】
前記炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、オクタン、デカン、メンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、p-メンタンなどが挙げられる。
【0031】
前記非環式エステル系溶剤としては、例えば、酪酸エチル、吉草酸エチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ウンデカン酸エチル、ラウリン酸エチル、酪酸メチル、吉草酸メチル、ヘキサン酸メチル、ヘプタン酸メチル、オクタン酸メチル、ノナン酸メチル、デカン酸メチル、ウンデカン酸メチル、ラウリン酸メチル、イソ吉草酸エチル、酢酸イソアミル、イソ酢酸イソアミル、イソ酪酸イソブチル、3-メトキシイソ酪酸メチル、イソ酪酸ブチル、イソ吉草酸イソブチル、2-メチル酪酸ブチル、イソ吉草酸ブチル、酢酸ヘプチル、イソ吉草酸イソアミル、酢酸2-エチルヘキシル、酪酸ヘキシル、安息香酸エチル、ヘキサン酸ヘキシル、n-オクタン酸アミル、酢酸へキシルなどが挙げられる。
【0032】
前記3級アルコール系溶剤としては、例えば、tert-アミルアルコール、3-メチル-3-ペンタノール、2,3-ジメチル-2-ヘキサノール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1-フェニル-2-プロパノール、リナロール、α-テルピネオール、テトラヒドロリナロール、2-メチル-4-フェニル-2-ブタノールなどが挙げられる。
【0033】
前記アミン系溶剤としては、例えば、1,1,3,3-テトラメチルブチルアミン、tert-アミルアミンなどが挙げられる。
【0034】
前記溶剤の沸点としては、重合性化合物の重合反応時に生じる熱によって重合反応完了前に溶剤が揮発してしまうことを防ぐ観点から、120℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、170℃以上が更に好ましい。
また、前記溶剤の沸点としては、重合性化合物の重合後に溶剤を容易に揮発させる観点から、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。
【0035】
[重合性化合物と溶剤の関係]
本発明の液体組成物は、重合性化合物と溶剤とが以下の関係を満たす必要がある。
各々のハンセン溶解度パラメータ(HSP)、及び体積分率を以下としたときに、ΔHSPが下記式(I)で表され、前記重合性化合物と前記溶剤との相溶限界となるΔHSPをΔHSP SLとしたときの、ΔHSPとΔHSP SLとの関係が下記式(II)を満たす。
・重合性化合物
HSP:(δ ,δ ,δ ) 体積分率:X
・溶剤
HSP:(δ ,δ ,δ ) 体積分率:X
・液体組成物
HSP:(δ ,δ ,δ ) 体積分率:X=X+X=1
HSP:(δ ,δ ,δ
=(δ ・X+δ ・X,δ ・X+δ ・X,δ ・X+δ ・X
【0036】
式(I)
ΔHSP=(δ -δ +(δ -δ +(δ -δ
式(II)
0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SL
【0037】
「0.51≦ΔHSP」の関係を満たすことにより硬化収縮が著しく低減され、得られる樹脂層のカールは急激に抑制される。その要因は定かではないが、下記樹脂層形成メカニズムに基づくものと考察している。
重合反応初期では、重合体A’の分子量はまだ小さく、重合体A’のHSPは重合性化合物Aのそれと同程度と考えられる。また、この段階では液体組成物中の重合性化合物Aの体積分率もほとんど変化していないため、液体組成物のHSP値は、重合開始前と同程度である。結果として重合体A’は液体組成物中に溶解した状態にある(図18、ステップ1)。
重合反応が進むにつれて重合体A’の分子量が大きくなってくると、重合体A’のハンセン球は次第に小さくなってくる。また、液体組成物中の重合性化合物Aの体積分率低下により、液体組成物のHSP値は経時で溶剤BのHSP値へ近づいていく。そして重合体A’と液体組成物のHSPがある一定以上離れたタイミングで重合体A’はもはや液体組成物中に溶解できなくなり析出して重合体A’の核が形成される(図18、ステップ2)。
さらに重合反応が進行するにつれ重合体A’の核成長が起こり、そしてついにはそれぞれの核が結合して多孔性の樹脂絶縁層が形成される(図18、ステップ3)。
【0038】
さて、硬化収縮とは、上述したようにファンデルワールス距離から共有結合距離へのギャップによる体積収縮であるから、樹脂層の空隙率が大きいほど硬化収縮は低減される。ここで、Roller’s equationによると、同じ条件で充填した粒子径の揃った粉体層の空間率は、粉体の粒子径が限界粒子径以上であれば粒子径に無関係に一定値を示すが、それ以下では粒子径の減少とともに増加する。重合体A’の核サイズはナノスケールであることから限界粒子径以下であると考えられ、したがって、空隙率の増加には重合体A’の核の小粒径化が有効であることがわかる。
重合体A’の核を小粒径化させるためには重合体A’の分子量がまだ小さいタイミングで核形成をさせる必要がある。言い換えれば、液体組成物中の重合体A’の相溶性が重合開始後ただちに低下すると、核小粒径化が実現できる。そして相溶性の指標として重合性化合物Aと液体組成物のHSP値の距離の二乗であるΔHSPが、ΔHSP≧0.51を満たすとき、核小粒径化による空隙率増大によって硬化収縮が著しく低減することができると考察される。
【0039】
「ΔHSP≦ΔHSP SL」の関係を満たすとき、均質な樹脂層が得られる。
一方、重合性化合物と溶剤が相溶しない体積分率で混合された場合には、液体組成物の塗工から硬化して樹脂層を形成させるまでの間に液体組成物の組成が不均一となり、結果として得られる樹脂層の膜質が不均一なものとなってしまう。
【0040】
ΔHSPは0.51以上であり、硬化収縮のさらなる低減の観点から、2.0以上がより好ましく、15.0以上がさらに好ましく、0.9ΔHSP SL以上が特に好ましい。また、得られる樹脂層の均質性担保の観点からΔHSP SL以下である。
【0041】
前記重合性化合物の体積分率としては、式(II):0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SLの関係を満足したうえで、核成長による空隙率低下を抑制する観点から、0.3以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましい。また、膜厚制御の観点から0.7以下が好ましい。
【0042】
前記溶媒の体積分率としては、式(II):0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SLの関係を満足したうえで、膜厚制御の観点から、0.3以上が好ましい。また、核成長による空隙率低下を抑制する観点から、0.7以下が好ましく、0.6以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましい。
【0043】
前記重合性化合物をn種類以上併用する場合(nは2以上の整数を示す)、重合性化合物のHSP値:HSP(δ ,δ ,δ )は、以下のように取り扱う。
【0044】
【数1】
【0045】
前記溶剤をn種類以上併用する場合(nは2以上の整数を示す)、溶剤のHSP値:HSP:(δ ,δ ,δ )は、以下のように取り扱う。
【0046】
【数2】
【0047】
[ハンセン溶解度パラメータHSP]
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)とは、2種の物質の相溶性を予測するのに有用なツールであって、チャールズハンセン(Charles M.Hansen)によって発見されたパラメータである。
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、実験的及び理論的に誘導された下記3つのパラメータ(δ、δ、及びδ)を組み合わせることにより表される。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)の単位は、MPa0.5又は(J/cm0.5が用いられる。本実施形態では(J/cm0.5を用いた。
・δ:ロンドン分散力に由来するエネルギー。
・δ:双極子相互作用に由来するエネルギー。
・δ:水素結合力に由来するエネルギー。
【0048】
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、(δ、δ、δ)のように表されるベクトル量であり、3つのパラメータを座標軸とする3次元空間(ハンセン空間)上にプロットして表される。一般的に使用される物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、データベース等の公知の情報源があるため、例えば、データベースを参照することによって、所望の物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を入手することができる。
【0049】
データベースにハンセン溶解度パラメータ(HSP)が登録されていない物質は、例えば、Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)等のコンピュータソフトウェアを用いることによって、物質の化学構造や、後述するハンセン溶解球法からハンセン溶解度パラメータ(HSP)を計算することができる。
【0050】
2種以上の物質を含む混合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、各物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に、混合物全体に対する各物質の体積比を乗じた値のベクトル和として算出することができる。
【0051】
[相溶限界]
本発明における相溶限界とは、重合性化合物と溶剤とを混合した後、1週間静置した状態でも上澄み液が目視で観察されないことと定義される。
具体的には、以下の手順により、重合性化合物と溶剤との相溶性を評価することができ、相溶限界ΔHSP SLを同定することができる。
【0052】
[相溶性評価]
重合性化合物と溶剤とを混合して得られた液体組成物を内径10mmのサンプル管に液高さ50mmとなるように加え、密閉した状態で遮光環境、25℃の環境で1週間保管する。1週間後、上澄み層が観察されない(上澄み層の高さが0.1mm未満である)場合に、重合性化合物と溶剤との相溶性があると判断できる。
【0053】
[相溶限界ΔHSP SLの同定]
重合性化合物の体積分率Xを0.02ずつ変化させていき、相溶性評価の評価基準が上澄み層が観察されない(上澄み層の高さが0.1mm未満である)から上澄み層の高さが0.1mm以上へと変わる直前の組成比を相溶限界として判断し、そのΔHSPをΔHSP SLとする。
また、溶媒が2種類の溶媒B及びBからなり、溶剤Bと溶剤Bの比率を変更した際の相溶限界を見極める場合においては、溶媒の体積分率を一定のまま溶剤B及び溶剤Bの体積分率を0.02ずつ変化させ、相溶性評価がAからBへと評価が変わる直前の組成比を相溶限界として判断し、そのΔHSPをΔHSP SLとする。
【0054】
<その他の成分>
その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、重合開始剤、レベリング剤などが挙げられる。
【0055】
<<重合開始剤>>
一般にアクリル基は、重合性が高く、高いラジカル重合性を有する。このため光重合開始剤や熱重合開始剤などの重合開始剤を用いることにより、素早く樹脂組成物を得ることができる。
例えば、電子線を用いることで開始剤なしでも樹脂組成物を得ることができるが、硬化速度や装置コストの関係で光重合開始剤を用いることが好ましい。
【0056】
前記光重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルキルフェノン系重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤、オキシムエステル系重合開始剤などが挙げられる。
前記アルキルフェノン系重合開始剤としては、例えば、Omniradシリーズ 651、184、1173、2959、127、907、369、369E、379EG(以上、いずれもIGM Resins B.V.製)などが挙げられる。
前記アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤としては、例えば、Omniradシリーズ TPO、819(以上、いずれもIGM Resins B.V.製)などが挙げられる。
前記オキシムエステル系重合開始剤としては、例えば、Irgacureシリーズ OXE01、OXE02、OXE03、OXE04(以上、いずれもBASFJapan社製)などが挙げられる。
【0057】
重合開始剤の含有量としては、十分な硬化速度が得られる点で、重合性化合物の総質量を100.0質量%とした場合に、0.05質量%以上10.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。
【0058】
[液体組成物の製造方法]
液体組成物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、重合開始剤を重合性化合物に溶解させる工程、非水系溶剤や他の溶剤などの他の成分を更に溶解させる工程、及び均一な溶液とするために撹拌する工程などを経て作製することが好ましい。
【0059】
<収容容器>
前記収容容器は、前記樹脂絶縁層を形成するための液体組成物と、容器とを含み、液体組成物が前記容器中に収容された収容容器である。
容器としては、例えば、ガラス瓶、プラスチック容器、プラスチックボトル、ステンレスボトル、一斗缶、ドラム缶などが挙げられる。
【0060】
(樹脂絶縁層)
本発明の樹脂絶縁層は、上記した本発明の液体組成物を重合してなる樹脂絶縁層である。
前記樹脂絶縁層の体積抵抗値が、1012Ω・cm以上である。
導電性フィラー等を添加することによって導電パスを有してしまう場合、正極及び負極間で短絡する可能性があるため、導電パスを有さない樹脂絶縁層が好ましい。
【0061】
前記樹脂絶縁層は、多孔質樹脂であることが好ましく、樹脂を骨格とする共連続構造を有することがより好ましい。
前記樹脂絶縁層の体積固有抵抗率としては、1×1012(Ω・cm)以上が好ましい。
ここで、「共連続構造」とは、2種以上の物質乃至相が、それぞれ連続構造を有し、界面を形成しない構造を意味し、本実施形態においては、樹脂相と空孔相とが共に三次元分岐網目連続相となっている構造を意味する。このような構造は、例えば、前記液体組成物を重合誘起相分離法によって重合することにより形成することができる。
【0062】
[重合誘起相分離]
多孔質樹脂、又は樹脂を骨格とする共連続構造を有する多孔質樹脂は、重合誘起相分離により好適に形成される。重合誘起相分離は、重合性化合物と溶剤が相溶するが、重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)と溶剤は相溶しない(相分離を生じる)状態を表す。相分離により多孔質樹脂を得る方法は他にも存在するが、重合誘起相分離の方法を用いることで、網目構造を有する多孔質樹脂を形成できるために、薬品や熱に対する耐性の高い多孔質樹脂が期待できる。また、他の方法と比較して、プロセス時間が短く、表面修飾が容易といったメリットも挙げられる。
【0063】
次に、重合性化合物を含む液体組成物による、重合誘起相分離を用いた多孔質樹脂の形成プロセスについて説明する。重合性化合物は、光照射等により重合反応を生じて樹脂を形成する。このプロセスの間、成長中の樹脂における溶剤に対する溶解度が減少し、樹脂と溶剤の間における相分離が生じる。最終的に、樹脂は、溶剤等が孔を満たし、樹脂骨格による共連続構造を有する多孔質構造を形成する。これを乾燥すると、溶剤等は除去され、三次元網目構造の共連続構造を有する多孔質樹脂が残る。そのため、適切な空隙率を有する多孔質樹脂を形成するため、溶剤と重合性化合物との相溶性、及び溶剤と重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性が検討される。
【0064】
前記樹脂絶縁層が、共連続構造を有し、空孔が連通していることを確認する方法としては、例えば、多孔質樹脂の断面を走査電子顕微鏡(SEM)等により画像観察し、空孔同士の繋がりが連続していることを確認する方法が挙げられる。また、空孔が連通していることで得られる物性の一つとして透気度が挙げられる。
【0065】
[走査電子顕微鏡(SEM)による画像観察、及び空隙率の測定]
前記多孔質樹脂の空隙率としては、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。また、90%以下が好ましく、85%以下がより好ましい。
空隙率が30%以上であることで、固体電解質層形成後のプレス工程において、樹脂絶縁層から固体電解質層にかかる圧力を緩和することができる。また、空隙率が90%以下であることで、樹脂絶縁層の強度の観点から、プレス工程を経たときに、樹脂絶縁層の形状を十分に保つことができる。
前記多孔質樹脂の空隙率の評価方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多孔質樹脂に、オスミウム染色を施した後で、エポキシ樹脂で真空含浸し、集束イオンビーム(FIB)で内部の断面構造を切り出し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて空隙率を測定する方法などが挙げられる。
【0066】
[透気度]
前記多孔質樹脂の透気度としては、1,000秒/100mL以下が好ましく、500秒/100mL以下がより好ましく、300秒/100mL以下が更に好ましい。
前記透気度は、JIS P8117に準拠して測定される透気度であり、例えば、ガーレー式デンソメーター(株式会社東洋精機製作所製)等を用いて測定することができる。
一例として、透気度が1,000秒/100mL以下であることをもって空孔が連通していると判断してもよい。
【0067】
前記多孔質樹脂が有する孔の断面形状としては、略円形状、略楕円形状、略多角形状等の様々な形状及び様々な大きさであって構わない。ここで、孔の大きさとは、断面形状における最も長い部分の長さを指すものとする。孔の大きさは、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した断面写真から求めることができる。
前記多孔質樹脂の有する孔の大きさとしては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択できるが、孔の大きさと樹脂絶縁層上に設けられる固体電解質層を形成するための液体組成物に含まれる固体電解質のメジアン径との比が1よりも小さいことが好ましく、0.8以下であることがより好ましい。孔の大きさが、固体電解質のメジアン径よりも大きい場合、樹脂絶縁層の孔内に固体電解質が含まれやすくなってしまう。上記範囲とすることで樹脂絶縁層に固体電解質が含まれにくい構成とすることができ、プレス時の圧力分散や、樹脂絶縁層から固体電解質にかかる圧力の緩和の点で有利である。
多孔質樹脂の有する孔の大きさ及び空隙率をこれらの範囲にする方法としては、特に限定されないが、例えば、液体組成物中における重合性化合物の含有量を上記の範囲に調整する方法、液体組成物中におけるポロジェンの含有量を上記の範囲に調整する方法、及び活性エネルギー線の照射条件を調整する方法などが挙げられる。
【0068】
(電極)
本発明の電極は、電極基体と、前記電極基体上に電極合材層と、前記電極合材層の外周部に、上記した本発明の樹脂絶縁層と、を有する。
【0069】
(電極積層体)
本発明の電極積層体は、上記した本発明の電極と、前記電極上に固体電解質層と、を有する。
換言すると、本発明の電極積層体は、電極基体と、前記電極基体上に電極合材層と、前記電極合材層の外周部に、上記した本発明の樹脂絶縁層と、前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層上に固体電解質層と、を有する。
【0070】
図1に、本発明の電極の一例を示す。図1は、電極25の断面図であり、電極25は、第1の電極基体21、及び第1の電極基体21上に電極合材層20と、を有する第1の電極と、第1の電極合材層20の外周部に樹脂絶縁層10と、を有する。
なお、図1では、第1の電極基体21の片面に電極合材層20と、樹脂絶縁層10が設けられた構成を図示しているが、第1の電極基体21の対向する両面に、電極合材層20と、樹脂絶縁層10が設けられていてもよい。
図2に、本発明の電極積層体の一例を示す。図2は、電極積層体35の断面図であり、電極積層体35は、第1の電極基体21と、第1の電極基体21上に第1の電極合材層20と、第1の電極合材層20の外周部に樹脂絶縁層10と、第1の電極合材層20及び樹脂絶縁層10上に固体電解質層30と、を有する。
なお、図2では、第1の電極基体21の片面に電極合材層20と、樹脂絶縁層10と、固体電解質層30が設けられた構成を図示しているが、第1の電極基体21の対向する両面に、電極合材層20と、樹脂絶縁層10と、固体電解質層30が設けられていてもよい。
そして、図3に、後述する本発明の電気化学素子の一例を示す。図3は、電気化学素子45の断面図であり、電気化学素子45は、電極積層体35上に、第2の電極基体41、及び第2の電極基体41上に電極合材層40と、を有する第2の電極を有し、固体電解質層30と、電極合材層40とが互いに面する。電気化学素子45は、単電池層であり、これを積層して積層電池とすることができる。
なお、図3では、第1の電極基体21の片面に電極合材層20と、樹脂絶縁層10と、固体電解質層30が設けられた構成を図示しているが、第1の電極基体21の対向する両面に、電極合材層20と、樹脂絶縁層10と、固体電解質層30が設けられていてもよく、この構成が積層された積層電池としてもよい。
【0071】
<電極(第1の電極、第2の電極)>
前記電極は、電極基体と、電極合材層と、樹脂絶縁層と、を有する。
負極と正極とを総称して「電極」と称し、負極用電極基体と正極用電極基体とを総称して「電極基体」と称し、負極合材層と正極合材層とを総称して「電極合材層」と称する。
また、第1の電極が負極であった場合は第2の電極は正極を指し、第1の電極が正極であった場合は第2の電極は負極を指す。
【0072】
<電極基体>
前記電極基体としては、導電性を有し、印加される電位に対して安定基材であれば、特に制限はなく、例えば、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、チタニウム箔、及びそれらをエッチングして微細な穴を開けたエッチド箔や、リチウムイオンキャパシタに用いられる穴あき電極基体などが挙げられる。
【0073】
<電極合材層>
前記電極合材層(以下、「活物質層」と称することがある)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、活物質(負極活物質又は正極活物質)を含み、更に必要に応じて、導電助剤、バインダ、分散剤、固体電解質、その他の成分を含んでもよい。
【0074】
<<活物質>>
前記活物質としては、正極活物質又は負極活物質を用いることができる。なお、正極活物質又は負極活物質は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記正極活物質としては、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に制限はないが、アルカリ金属含有遷移金属化合物を用いることができる。
前記アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄及びバナジウムからなる群より選択される1種以上の元素とリチウムとを含む複合酸化物等のリチウム含有遷移金属化合物が挙げられる。
前記リチウム含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。
前記アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、結晶構造中にXO4四面体(X=P,S,As,Mo,W,Si等)を有するポリアニオン系化合物も用いることができる。これらの中でも、サイクル特性の点で、リン酸鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム等のリチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましく、リチウム拡散係数、出力特性の点で、リン酸バナジウムリチウムが特に好ましい。
なお、ポリアニオン系化合物は、電子伝導性の点で、炭素材料等の導電助剤により表面が被覆されて複合化されていることが好ましい。
【0075】
前記負極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に制限はないが、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を用いることができる。
前記炭素材料として、天然黒鉛、球状又は繊維状の人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。
炭素材料以外の材料としては、チタン酸リチウム、酸化チタンなどが挙げられる。
また、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高める観点から、シリコン、錫、シリコン合金、錫合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化錫等の高容量材料も負極活物質として好適に使用できる。
【0076】
<<導電助剤>>
前記導電助剤としては、例えば、ファーネス法、アセチレン法、ガス化法等により製造されているカーボンブラックや、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛粒子等の炭素材料を用いることができる。炭素材料以外の導電助剤としては、例えば、アルミニウム等の金属粒子、金属繊維を用いることができる。なお、導電助剤は予め活物質と複合化されていてもよい。
前記活物質に対する前記導電助剤の質量比としては、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。活物質に対する導電助剤の質量比が10質量%以下であると、液体組成物の安定性が向上する。また、活物質に対する導電助剤の質量比が8質量%以下であると、液体組成物の安定性が更に向上する。
【0077】
<<バインダ>>
前記バインダは、負極材料同士、正極材料同士、負極材料と負極用電極基体、正極材料と正極用電極基体を結着することが可能であれば、特に制限はない。ただし、液体組成物をインクジェット吐出に用いる場合は、液体吐出ヘッドのノズル詰まりを抑制する観点から、バインダは、液体組成物の粘度を上昇させにくいことが好ましい。
【0078】
前記活物質に対する前記バインダの含有量としては、1質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量以上10質量%以下がより好ましい。活物質に対するバインダの含有量が1質量%以上であると、活物質を電極基体に強固に結着させることが可能である。
【0079】
前記バインダとしては、高分子化合物を用いることができる。
例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテフタレート、ポリブチレンテフタレート等の熱可塑性樹脂、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物、ポリアミドイミド、エチレン-プロピレン-ブタジエンゴム(EPBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、イソプレンゴム、ポリイソブテン、ポリエチレングリコール(PEO)ポリメチルメクリル酸(PMMA)、ポリエチレンビニルアセテート(PEVA)などが挙げられる。
【0080】
<<分散剤>>
前記分散剤としては、液体組成物中の活物質の分散性を向上させることが可能であれば、特に制限はないが、例えば、ポリエチレンオキシド系、ポリプロピレンオキシド系、ポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、ポリエチレングリコール系、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等の高分子分散剤;アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系高級アルコールアルキレンオキサイド系、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系等の低分子分散剤;ポリリン酸塩系分散剤等の無機分散剤;などが挙げられる。
【0081】
<<固体電解質>>
前記電極合材層に含まれる固体電解質層を構成する材料としては、電子絶縁性を有し、かつ、イオン電導性を示す固体物質であれば、特に制限はないが、硫化物固体電解質や酸化物系固体電解質が、高いイオン電導性を有する観点で好ましい。
前記硫化物固体電解質としては、例えば、Li10GeP12、アルジロダイト型結晶構造を有するLiPSX(X=F,Cl,Br,I)などが挙げられる。
前記酸化物系固体電解質としては、例えば、ガーネット型結晶構造を有するLLZ(LiLaZr12)やNASICON型結晶構造を有するLATP(Li1+xAlxTi20x(PO)(0.1≦x≦0.4)、ペロブスカイト型結晶構造を有するLLT(Li0.33La0.55TiO)、アモルファス状のLIPON(Li2.9PO3.30.4)などが挙げられる。
【0082】
上記に挙げたもの以外でも、当該発明の趣旨を逸脱するものでなければ、特に制限はない。また、これら固体電解質を、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの固体電解質層を構成するために液体に溶解又は分散させる電解質材料としては、固体電解質の前駆体となる材料である、例えば、LiSとP、LiCl、固体電解質の材料であるLiS-P系ガラス、Li11ガラスセラミクスなどが挙げられる。
【0083】
<<その他の成分>>
その他の成分としては、例えば、分散剤が挙げられる。
【0084】
<樹脂絶縁層>
前記樹脂絶縁層は、前記電極基体上に設けられた電極合材層の外周部に設けられ、かつ前記電極基体上の前記電極基体の外周部に設けられる。
【0085】
前記樹脂絶縁層の形状、及び設ける領域について、図を用いて説明する。図4~6は、図1に示す電極の積層体25の上面図、及び他の実施形態の上面図である。
図4において、樹脂絶縁層10は、電極合材層20の2辺に隣接して設けられる。図5においては、2つの領域の樹脂絶縁層10のそれぞれは、電極合材層20の1つの長辺と当該長辺の2つの角に隣接して設けられる。
また、図6に示すように、樹脂絶縁層10は、電極合材層20の4辺全てに連続的に隣接して設けられてもよく、図示しないが断続的に隣接して設けられてもよい。
【0086】
ここで、「電極合材層の外周部」に設けられるとは、前記電極合材層の外周部の少なくとも2辺に前記樹脂絶縁層が設けられていればよく、前記樹脂絶縁層が、前記電極合材層の外周部の3辺に設けられていてもよく、4辺(すべての辺)に設けられていてもよい。また、前記樹脂絶縁層は、任意の辺において、電極タブを突出させるための凹部や、切り欠き部を有していてもよい。
また、「電極基体の外周部」に設けられるとは、電極基体の端部を含むように樹脂絶縁層が設けられてもよく、図4~6のように樹脂絶縁層の周囲に電極基体の余白をもって樹脂絶縁層が設けられていてもよい。
前記樹脂絶縁層は、電極合材層と離間していてもよく(図13の左上図)、電極合材層と隣接していてもよい(図13の右上図、左下図、及び右下図)が、前記電極合材層と隣接することが好ましい。
前記隣接している場合、図13に示すように、樹脂絶縁層と電極合材層との対面が互いに一部領域で接触していてもよく(図13の右上図)、樹脂絶縁層と電極合材層との対面全面が接触していてもよい(図13の左下図、及び右下図)。ここで、樹脂絶縁層を後から設けた場合には、樹脂絶縁層が電極合材層側に重なり(図13の左下図)、電極合材層側を後から設けた場合には、電極合材層側が樹脂絶縁層に重なる(図13の右下図)。
前記離間している場合の、樹脂絶縁層と電極合材層との距離dとしては、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、1mm以下が更に好ましい。
樹脂絶縁層と電極合材層との距離dが10mm以下であると、プレス工程を経た後に樹脂絶縁層と電極合材層とが接触しやすくなるため、固体電解質層を樹脂絶縁層及び電極合材層上に均一に形成することができ、また固体電解質層をプレスした際に固体電解質層に対して均一に圧力を付加することができる。
電極合材層と樹脂絶縁層との距離d(電極合材層の外周部と樹脂絶縁層の幅)は、図16~17のように定義する。図16に示す電極合材層と樹脂絶縁層とが隣接する状態を0とし、図17に示す矢印の間を電極合材層と樹脂絶縁層との距離dとする。
樹脂絶縁層が電極合材層側に重なっている場合(例えば、図13の左下図、及び右下図)、マイナスの値で示す。
【0087】
前記電極積層体における、前記電極合材層の平均厚みAに対する、前記樹脂絶縁層の平均厚みBの比(B/A)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.97以上1.03以下が好ましく、0.98以上1.02以下がより好ましい。
電極合材層の平均厚みA、樹脂絶縁層の平均厚みBは、それぞれ任意の3点以上の厚みを測定し、その平均を算出することにより求めることができる。
プレス前、及びプレス後における、電極合材層の平均厚みA、樹脂絶縁層の平均厚みBの関係としては、図14に模式的に示すように、A<Bであっても、A=Bであっても、A<Bであってもよく、いずれも適宜選択することができるが、A=B、乃至A<Bであることが好ましい。
【0088】
また、前記樹脂絶縁層における500MPa、5分間の押圧後の圧縮率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1%以上50%以下が好ましく、5%以上20%以下がより好ましい。
前記圧縮率が50%以下であると、樹脂絶縁層の強度の観点から、プレス工程を経たときに、樹脂絶縁層の形状を十分に保つことができる。前記圧縮率が1%以上であると、固体電解質層形成後のプレス工程において、樹脂絶縁層から固体電解質層にかかる圧力を緩和することができる。
【0089】
前記樹脂絶縁層が、多孔質樹脂である又は共連続構造を有すると、電極合材層の厚みと、樹脂絶縁層の厚みと、を略同等にしようとした際に、プレスにより容易に精度高く樹脂絶縁層の厚みを制御することができる。また、前記樹脂絶縁層は、後述する通り、塗布及び重合誘起相分離法により形成できることによっても容易に樹脂絶縁層の厚みを制御することができる。共連続構造を有する多孔質の樹脂層であれば、プレスした際に生じる圧力を効率よく逃がせることが可能となるため、樹脂層の破壊や高低差ムラなどといった不具合の発生を抑制し、品質のよい樹脂層を得ることができる。
デンドライド析出による短絡が生じ得る電気化学素子においては、通常、正極合材層よりも負極合材層を大きくする構成が一般的である。このとき、正極集電体及び負極集電体が略同等の大きさであると、正極集電体上において、負極の負極合材層が対向する領域において、正極合材層が形成されない余剰部が発生する。電気学素子特性の観点から、樹脂絶縁層は、正極の余剰部、即ち正極合材層の外周部に設けられることが好ましい。なお、電気化学素子としたときに、正極合材層よりも負極合材層を小さくする構成がとられる場合であれば、樹脂絶縁層は負極の余剰部、即ち負極合材層の外周部に設けられることが好ましい。
【0090】
前記樹脂絶縁層の平均厚みとしては、特に限定はなく、電極合材層の平均厚みなどの各種条件に応じて適宜選択することができるが、1.0μm以上150.0μm以下が好ましく、10.0μm以上100.0μm以下がより好ましい。平均厚みが10.0μm以上であることで圧力負荷を分散することができるとともに、正極と負極との短絡を防止することができ、100.0μm以下にすることで密度が高く電池特性に優れる電気化学素子を製造できる。
前記平均厚みは、任意の3点以上の厚みを測定し、その平均を算出することにより求めることができる。
【0091】
<固体電解質層>
前記固体電解質層の固体電解質としては、前記電極合材層の固体電解質として説明した材料を適宜選択して用いることができる。
前記固体電解質層はバインダを含んでもよく、前記バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテフタレート、ポリブチレンテフタレート等の熱可塑性樹脂、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物、ポリアミドイミド、エチレン-プロピレン-ブタジエンゴム(EPBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリブチルメタクリレート(PBMA)、イソプレンゴム、ポリイソブテン、ポリエチレングリコール(PEO)、ポリエチレンビニルアセテート(PEVA)などが挙げられる。
【0092】
(電極の製造方法、及び電極の製造装置)
本発明の電極の製造方法は、付与工程と、重合工程と、電極合材層形成工程と、を有し、更に必要に応じてその他の工程を有する。
本発明の電極の製造装置は、収容容器と、付与手段と、重合手段と、電極合材層形成手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0093】
(電極積層体の製造方法、及び電極積層体の製造装置)
本発明の電極積層体の製造方法は、付与工程と、重合工程と、電極合材層形成工程と、プレス工程と、固体電解質層形成工程と、を有し、更に必要に応じてその他の工程を有する。
本発明の電極積層体の製造装置は、収容容器と、付与手段と、重合手段と、電極合材層形成手段と、プレス手段と、固体電解質層形成手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0094】
[樹脂絶縁層形成工程、及び樹脂絶縁層形成手段]
ここで、電極積層体における樹脂絶縁層を形成する方法は、付与工程と、重合工程とを少なくとも含む。
すなわち、前記樹脂絶縁層を形成する方法は、重合性化合物及び液体を含有する液体組成物を、電極基体上の外周部に付与する付与工程と、前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂絶縁層を形成する重合工程と、を有し、更に必要に応じてその他の工程を有する。
前記樹脂絶縁層を形成する手段は、重合性化合物及び液体を含有する液体組成物が収容された収容容器と、前記液体組成物を、電極基体上の外周部に付与する付与手段と、前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂絶縁層を形成する重合手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0095】
[樹脂絶縁層、及び電極合材層の形成順序]
樹脂絶縁層、及び電極合材層の形成順序としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記電極合材層形成工程が前記付与工程の前に実施され、前記電極合材層を形成した後に、前記電極合材層の外周部に前記樹脂絶縁層を形成してもよい。その場合、前記電極積層体の製造方法は、樹脂絶縁層形成工程(付与工程、重合工程)、電極合材層形成工程、プレス工程、及び固体電解質層形成工程の順に実施される。
或いは、前記電極合材層形成工程が前記重合工程の後に実施され、前記樹脂絶縁層を前記電極基体上の外周部に形成した後に、前記電極基体上の前記外周部の内側に前記電極合材層を形成してもよい。その場合、前記電極積層体の製造方法は、電極合材層形成工程、樹脂絶縁層形成工程(付与工程、重合工程)、プレス工程、及び固体電解質層形成工程の順に実施される。
【0096】
<付与工程、付与手段>
前記付与工程は、前記液体組成物を電極基体上の外周部に付与する工程であり、付与手段により好適に実施できる。
前記付与手段は、前記収容容器に収容された前記液体組成物を電極基体上の外周部に付与する手段である。
【0097】
前記付与工程及び付与手段としては、液体組成物を付与できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷方法に応じた任意の印刷装置を用いることができる。これらの中でも、インクジェット印刷法が好ましい。これによって必要となる箇所に対して精度よく樹脂層を形成することできる。
【0098】
<重合工程、重合手段>
前記重合工程は、前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂絶縁層を形成する工程であり、重合手段により好適に実施できる。
前記重合手段は、前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂絶縁層を形成する手段である。
前記重合により、前記液体組成物中の前記重合体化合物が重合し、重合誘起相分離により、多孔質樹脂が形成され、電極基体上の外周部に樹脂絶縁層を製造することができる。
前記重合処理及び重合部としては、特に制限はなく、用いる重合開始剤や重合様式などの目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光重合の場合、波長365nmの紫外線を3秒間照射する光照射処理及び光照射方法、熱重合の場合、150℃真空乾燥で12時間加熱する加熱処理及び加熱方法などが挙げられる。
【0099】
<その他の工程、その他の手段>
前記積層体の製造装置におけるその他の処理としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、除去工程などが挙げられる。
前記積層体の製造方法におけるその他の手段としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、除去手段などが挙げられる。
【0100】
<<溶剤除去工程、溶剤除去手段>>
前記除去工程は、前記重合処理により液体組成物が重合してなる多孔質樹脂から溶剤を除去する工程であり、溶剤除去部により好適に実施できる。
前記溶剤除去手段は、前記重合部で液体組成物が重合してなる多孔質樹脂から溶剤を除去する手段である。
前記溶剤を除去する方法としては、特に限定されず、例えば、加熱することにより多孔質樹脂から溶剤を除去する方法が挙げられる。このとき、減圧下で加熱することで溶剤の除去がより促進され、形成される絶縁層における溶剤の残存を抑制できるので好ましい。
加熱する際には、ステージにより加熱してもよいし、ステージ以外の加熱機構により加熱してもよい。加熱機構は、基体の上下の何れか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。加熱機構としては、特に制限はなく、例えば、抵抗加熱ヒータ、赤外線ヒータ、ファンヒータ等が挙げられる。
加熱温度は、特に制限はないが、使用エネルギーの観点から、70℃~150℃が好ましい。
【0101】
<電極合材層形成工程、電極合材層形成手段>
前記電極合材層形成工程は、前記電極基体上に電極合材層を形成する工程であり、電極合材層形成手段により好適に実施できる。
前記電極合材層形成手段は、前記電極基体上に電極合材層を形成する手段である。
前記電極合材層形成工程を実施する順番としては、上述した通り、前記付与工程の前であってもよく、前記重合工程の後であってもよい。
すなわち、前記電極合材層を形成した後に、前記電極合材層の外周部に前記樹脂絶縁層を形成してもよく、或いは、前記樹脂絶縁層を前記電極基体上の外周部に形成した後に、前記電極基体上の前記外周部の内側に前記電極合材層を形成してもよい。
【0102】
前記電極合材層を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉体状の活物質や結着剤、導電材等を液体中に分散し、得られた分散液を電極基体上に塗布し、固定して乾燥する方法などが挙げられる。
前記塗布方法としては、例えば、スプレー、ディスペンサ、ダイコーター、引き上げ塗工などが挙げられる。
【0103】
<プレス工程、プレス手段>
前記プレス工程は、前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層をプレスする工程であり、プレス手段により好適に実施できる。
前記プレス手段は、前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層をプレスする手段である。
前記プレスを行うことにより、前記電極合材層の平均厚みと、前記樹脂絶縁層の平均厚みとを略同等とすることができ、したがって、電極上に設けられた固体電解質層をプレスする際に高い圧力がかかった場合でも、圧力負荷を優れて分散することができる。
前記プレス工程を行うタイミングとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記電極基体上に、前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層を形成した後に、前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層をプレスしてもよく、或いは、プレス前の前記樹脂絶縁層の厚みと前記電極合材層の厚みが略同等であれば、更に固体電解質層を設けた後に、プレスしてもよく、その両方を行ってもよい。
【0104】
前記プレス方法としては、特に制限はなく、市販の加圧成型装置を用いて行うことができ、前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層を前記電極基体方向にプレスすればよく、例えば、一軸プレス、ロールプレス、冷間静水等方圧プレス(CIP)、ホットプレスなどが挙げられる。これらの中でも、等方加圧することができる冷間静水等方圧プレス(CIP)が好ましい。
プレス圧力は、電極基体と電極合材層とを圧着しつつ、電極合材層を圧密化することができる圧力で行うことがよく、1MPa~900MPaが好ましく、250MPa~700MPaがより好ましい。
【0105】
<固体電解質層形成工程、固体電解質層形成手段>
前記固体電解質層形成工程は、前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層上に固体電解質層を形成する工程であり、固体電解質層形成手段により好適に実施できる。
前記固体電解質層形成手段は、前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層上に固体電解質層を形成する手段である。
前記固体電解質層を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記固体電解質、及び必要に応じて前記バインダを含む液体組成物を、前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層上に塗布し、固化して乾燥させる方法が挙げられる。
【0106】
塗布方法としては、特に制限はなく、例えば、インクジェット法やスプレーコート法、ディスペンサ法などの液体吐出方法や、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法などが挙げられる。
【0107】
[基材に液体組成物を直接的に付与することで樹脂絶縁層、乃至電極積層体を形成する実施形態]
図7は、本実施形態の電極積層体の製造方法を実現するための樹脂絶縁層の製造装置(液体吐出装置)の一例を示す模式図である。
樹脂絶縁層の製造装置500は、上記した液体組成物を用いて樹脂絶縁層を製造する装置である。樹脂絶縁層の製造装置は、印刷基材4上に、液体組成物を付与して液体組成物層を形成する付与処理を実施する印刷部100と、液体組成物層に熱又は光を付与して重合させる重合処理を実施する重合部200と、多孔質樹脂前駆体6を加熱し、その孔内の溶剤を除去することで多孔質樹脂を得る加熱処理を実施する加熱部300を備える。樹脂絶縁層の製造装置は、印刷基材4を搬送する搬送部5を備え、搬送部5は、印刷部100、重合部200、加熱部300の順に印刷基材4をあらかじめ設定された速度で搬送する。
印刷基材4は、電極基体上に電極合材層が設けられた基材であってもよい。また、電極合材層を有しない電極基体であってもよく、その場合は、樹脂絶縁層の形成後に電極合材層が設けられる。
【0108】
-印刷部100-
印刷部100は、印刷基材4上に樹脂絶縁層を形成するための液体組成物を付与する付与工程を実現する付与手段の一例である印刷装置1aと、液体組成物を収容する収容容器1bと、収容容器1bに貯留された液体組成物を印刷装置1aに供給する供給チューブ1cを備える。
収容容器1bは、液体組成物7を収容し、印刷部100は、印刷装置1aから液体組成物7を吐出して、印刷基材4上に液体組成物7を付与して液体組成物層を薄膜状に形成する。なお、収容容器1bは、樹脂絶縁層の製造装置と一体化した構成であってもよいが、樹脂絶縁層の製造装置から取り外し可能な構成であってもよい。また、樹脂絶縁層の製造装置と一体化した収容容器や樹脂絶縁層の製造装置から取り外し可能な収容容器に添加するために用いられる容器であってもよい。
収容容器1bや供給チューブ1cは、液体組成物7を安定して貯蔵及び供給できるものであれば任意に選択可能である。収容容器1bや供給チューブ1cを構成する材料は、紫外及び可視光の比較的短波長領域において遮光性を有することが好ましい。これにより、液体組成物7が外光により重合開始されることが防止される。
【0109】
-重合部200-
重合部200は、図7に示すように、光重合の場合、重合工程を実施する重合手段の一例である光照射装置2aと、重合不活性気体を循環させる重合不活性気体循環装置2bを有し、光照射装置2aは、印刷部100により形成された液体組成物層に重合不活性気体存在下において光を照射し、光重合させて多孔質樹脂前駆体6を得る。
光照射装置2aは、液体組成物層に含まれる光重合開始剤の吸収波長に応じて適宜選択され、液体組成物層中の化合物の重合を開始及び進行させられるものならば特に限定はなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、熱陰極管、冷陰極管、LED等の紫外線光源などが挙げられる。ただし、短波長の光ほど一般に深部に到達しやすい傾向を持つため、形成する多孔質膜の厚みに応じて光源を選択することが好ましい。
次に、光照射装置2aの光源の照射強度に関して、照射強度が強すぎると相分離が十分に起きる前に急激に重合が進行するため、多孔質構造が得られにくい傾向がある。また、照射強度が弱すぎる場合は、相分離がミクロスケール以上に進行し、多孔質のばらつきや粗大化が起きやすい。また、照射時間も長くなり、生産性が低下する傾向にある。そのため、照射強度としては10mW/cm以上1W/cm以下が好ましく、30mW/cm以上300mW/cm以下がより好ましい。
【0110】
重合不活性気体循環装置2bは、大気中に含まれる重合活性な酸素濃度を低下させ、液体組成物層の表面近傍の重合性化合物の重合反応を阻害されることなく進行させる役割を担う。そのため、用いられる重合不活性気体は上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えば窒素や二酸化炭素やアルゴンなどが挙げられる。
重合不活性気体のO濃度としては、阻害低減効果が効果的に得られることを考慮して、20%未満(大気よりも酸素濃度が低い環境)が好ましく、0%以上15%以下がより好ましく、0%以上5%以下が更に好ましい。また、重合不活性気体循環装置2bは安定した重合進行条件を実現させるために、温度を調節できる温調手段が設けられていることが好ましい。
【0111】
重合部200は、熱重合の場合は、加熱装置であってもよい。加熱装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、基板加熱(例えば、ホットプレート)、IRヒータ、温風ヒータなどが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
また、加熱温度や時間、又は光照射の条件に関しては、液体組成物7に含まれる重合性化合物や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0112】
-除去部300-
除去部300は、図7に示すように、加熱装置3aを有し、重合部200により形成した多孔質樹脂前駆体6を加熱装置3aにより加熱して、残存する溶剤を乾燥させて除去する溶剤除去工程を行う。これにより多孔質樹脂を形成することができる。除去部300は、溶剤除去を減圧下で実施してもよい。
また、除去部300は、多孔質樹脂前駆体6を加熱装置3aにより加熱して、重合部200で実施した重合反応を更に促進させる重合促進工程、及び多孔質樹脂前駆体6に残存する光重合開始剤を、加熱装置3aにより加熱して乾燥させて除去する開始剤除去工程も行う。なお、これらの重合促進工程及び開始剤除去工程は、溶剤除去工程と同時ではなく、溶剤除去工程の前又は後に実施されてもよい。
さらに、除去部300は、溶剤除去工程後に、多孔質を減圧下で加熱する重合完了工程を行う。加熱装置3aは、上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えばIRヒータや温風ヒータなどが挙げられる。
また、加熱温度や時間に関しては、多孔質樹脂前駆体6に含まれる溶剤の沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0113】
図8は、本実施形態の電極積層体の製造方法を実現するための樹脂絶縁層の製造装置(液体吐出装置)の他の一例を示す模式図である。
液体吐出装置300’は、ポンプ310と、バルブ311、312を制御することにより、液体組成物が液体吐出ヘッド306、タンク307、チューブ308を循環することが可能である。
また、液体吐出装置300’は、外部タンク313が設けられており、タンク307内の液体組成物が減少した際に、ポンプ310と、バルブ311、312、314を制御することにより、外部タンク313からタンク307に液体組成物を供給することも可能である。
前記樹脂絶縁層の製造装置を用いると、付与対象物の狙ったところに液体組成物を吐出することができる。
【0114】
本実施形態の樹脂絶縁層の製造方法の他の例を図9に示す。
基材上に多孔質樹脂が設けられた電極210の製造方法は、液体吐出装置300’を用いて、基材211上に、液体組成物12Aを、順次吐出する工程を含む。
まず、細長状の基材211を準備する。そして、基材211を筒状の芯に巻き付け、多孔質樹脂212を形成する側が、図9中、上側になるように、送り出しローラ304と巻き取りローラ305にセットする。ここで、送り出しローラ304と巻き取りローラ305は、反時計回りに回転し、基材211は、図9中、右から左の方向に搬送される。そして、送り出しローラ304と巻き取りローラ305の間の基材211の上方に設置されている液体吐出ヘッド306から、図8と同様にして、液体組成物12Aの液滴を、順次搬送される基材211上に吐出する。
なお、液体吐出ヘッド306は、基材211の搬送方向に対して、略平行な方向又は略垂直な方向に、複数個設置されていてもよい。次に、液体組成物12Aの液滴が吐出された基材211は、送り出しローラ304と巻き取りローラ305によって、重合部309に搬送される。その結果、多孔質樹脂212が形成され、基材上に多孔質樹脂が設けられた電極210が得られる。その後、高分子電解質が設けられた電極210は、打ち抜き加工等により、所望の大きさに切断される。
重合部309は、基材211の上下の何れか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。
重合部309としては、液体組成物12Aに直接接触しなければ、特に制限はなく、例えば、熱重合の場合、抵抗加熱ヒータ、赤外線ヒータ、ファンヒータ等;光重合の場合、紫外線照射装置などが挙げられる。なお、重合部309は、複数個設置されていてもよい。
【0115】
加熱又は光照射の条件は、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。重合により液体組成物12Aが重合されて多孔質樹脂が形成される。
また、図10のように、タンク307Aは、タンク307Aに接続されたタンク313Aから液体組成物を供給してもよく、液体吐出ヘッド306は、複数の液体吐出ヘッド306A、306Bを有してもよい。
【0116】
[基材に液体組成物を間接的に付与することで樹脂絶縁層、乃至電極積層体を形成する実施形態]
図11~12は、本実施形態の樹脂絶縁層の製造装置としての、付与手段としてインクジェット方式、及び転写方式を採用した印刷部の一例を示す構成図であり、図11は、ドラム状の中間転写体を用いた印刷部、図12は、無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部を示す構成図である。
図11に示した印刷部400´は、中間転写体4001を介して基材に液体組成物乃至多孔質樹脂を転写することで基材上に多孔質樹脂を形成する、インクジェットプリンタである。
【0117】
印刷部400´は、インクジェット部420、転写ドラム4000、前処理ユニット4002、吸収ユニット4003、加熱ユニット4004および清掃ユニット4005を備える。
インクジェット部420は、複数のヘッド101を保持したヘッドモジュール422を備える。ヘッド101は、転写ドラムに4000に支持された中間転写体4001に液体組成物を吐出し、中間転写体4001上に液体組成物層を形成する。各ヘッド101は、ラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの基材の記録領域の幅をカバーする範囲にノズルが配列されている。ヘッド101は、その下面に、ノズルが形成されたノズル面を有しており、ノズル面は、微小間隙を介して中間転写体4001の表面と対向している。本実施形態の場合、中間転写体4001は円軌道上を循環移動する構成であるため、複数のヘッド101は、放射状に配置される。
【0118】
転写ドラム4000は、圧胴621と対向し、転写ニップ部を形成する。前処理ユニット4002は、ヘッド101による液体組成物の吐出前に、例えば、中間転写体4001上に、液体組成物の粘度を高めるための反応液を付与する。吸収ユニット4003は、転写前に、中間転写体4001上の液体組成物層から液体成分を吸収する。加熱ユニット4004は、転写前に、中間転写体4001上の液体組成物層を加熱する。液体組成物層を加熱することで、液体組成物を熱重合させて、多孔質樹脂を形成する。また、溶剤が除去され、基材への転写性が向上する。清掃ユニット4005は、転写後に中間転写体4001上を清掃し、中間転写体4001上に残留したインクやごみ等の異物を除去する。
圧胴621の外周面は、中間転写体4001に圧接しており、圧胴621と中間転写体4001との転写ニップ部を基材が通過するときに、中間転写体4001上の多孔質樹脂が基材に転写される。なお、圧胴621は、その外周面に基材の先端部を保持するグリップ機構を少なくとも1つ備えた構成としてもよい。
【0119】
図12に示した印刷部400´´は、中間転写ベルト4006を介して基材に液体組成物乃至多孔質樹脂を転写することで基材上に多孔質樹脂を形成する、インクジェットプリンタである。
印刷部400´´は、インクジェット部420に設けた複数のヘッド101から液体組成物の液滴を吐出して、中間転写ベルト4006の外周表面上に液体組成物層を形成する。中間転写ベルト4006に形成された液体組成物層は、加熱ユニット4007によって加熱され、熱重合することで多孔質樹脂を形成し、中間転写ベルト4006上で膜化する。
【0120】
中間転写ベルト4006が転写ローラ622と対向する転写ニップ部において、中間転写ベルト4006上の膜化した多孔質樹脂は基材に転写される。転写後の中間転写ベルト4006の表面は、清掃ローラ4008によって清掃される。
中間転写ベルト4006は、駆動ローラ4009a、対向ローラ4009b、複数(本例では4つ)の形状維持ローラ4009c,4009d,4009e,4009f、および複数(本例では4つ)の支持ローラ4009gに架け渡され、図中矢印方向に移動する。ヘッド101に対向して設けられる支持ローラ4009gは、ヘッド101からインク滴が吐出される際の中間転写ベルト4006の引張状態を維持する。
【0121】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、上記した本発明の電極積層体を有する電気化学素子であり、更に外装を有する。前記電気化学素子は、固体電解質層を有する全固体電池である。
前記外装としては、電極積層体を封止することができれば、特に制限はなく、目的に応じて公知の外装を適宜選択することができる。
【0122】
図15に、本発明の電気化学素子である全固体電池の一例を示す。
図15に示す全固体電池は、正極20と負極40が、固体電解質30を介して、積層されている。ここで、正極20は、負極40の両側に積層されている。
また、正極基体21には、引き出し線50が接続されており、負極基体41には、引き出し線51が接続されている。
なお、正極20と負極40の積層数は、特に制限は無い。また、正極20の個数と負極40の個数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
引き出し線50及び51は、外装60の外部に引き出されている。
前記電気化学素子の形状としては、特に制限はなく、例えば、ラミネートタイプ、シリンダタイプコインタイプなどが挙げられる。
【0123】
(電気化学素子の製造方法、及び電気化学素子の製造装置)
本発明の電気化学素子の製造方法は、上述した本発明の電極積層体の製造方法により電極積層体を製造する電極製造工程と、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
本発明の電気化学素子の製造装置は、上述した本発明の電極積層体の製造装置により電極積層体を製造する電極製造部と、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化部と、を有し、必要に応じて、更にその他の手段を有する。
【0124】
<電極製造工程、及び電極製造部>
前記電極製造工程は、上記した本発明の電極積層体の製造方法において説明した、付与工程と、重合工程と、電極合材層形成工程と、プレス工程と、固体電解質層形成工程と、を含み、更に必要に応じて、電極加工工程などのその他の手段を有する。
前記電極製造部は、上記した本発明の電極積層体の製造装置において説明した、収容容器と、付与手段と、重合手段と、電極合材層形成手段と、プレス手段と、固体電解質層形成手段と、を有し、更に必要に応じて、電極加工手段などのその他の手段を有する。
前記電極製造工程、及び前記電極製造部により、電極基体と、前記電極基体上に電極合材層と、前記電極合材層の外周部に樹脂絶縁層と、前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層上に固体電解質層と、を有する電極積層体を製造することができる。
【0125】
<素子化工程、及び素子化部>
前記素子化工程は、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する工程である。
前記素子化部は、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する手段である。
電極積層体を用いて電気化学素子を製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の電気化学素子の製造方法を選択することができ、例えば、対向電極の設置、巻回又は積層、容器への収容の少なくともいずれかを行い蓄電素子とする方法が挙げられる。
なお、素子化工程としては、素子化の全行程を備える必要はなく、素子化の一部の工程を含むものであってもよい。
【0126】
<電極加工工程、及び電極加工部>
電極加工部は、付与部よりも下流において、樹脂層が形成された電極積層体を加工する手段である。電極加工部は、裁断、折り畳み、及び貼り合わせの少なくとも1つを実施してもよい。積層電極加工部は、例えば、樹脂層が形成された積層電極を裁断し、積層電極の積層体を作製することができる。電極加工部は、樹脂層が形成された積層電極を巻回又は積層することができる。
電極加工部は、例えば、電極加工装置を有し、多孔質樹脂層が形成された積層電極の裁断やつづら折り、積層や巻回を目的の電池形態に応じて実施する。
電極加工部によって行われる電極加工工程は、例えば、付与工程よりも下流において、樹脂層が形成された積層電極を加工する工程である。電極加工工程は、裁断工程、折り畳み工程、及び貼り合わせ工程の少なくとも1つを含んでもよい。
【0127】
<電気化学素子の用途>
電気化学素子の用途としては、特に制限はなく、例えば、車両等の移動体;スマートフォン、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドホンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラ等の電気機器などが挙げられる。これらの中でも、車両、電気機器が特に好ましい。
前記移動体としては、例えば、普通自動車、大型特殊自動車、小型特殊自動車、トラック、大型自動二輪車、普通自動二輪車などが挙げられる。
【0128】
[移動体]
図19に、本発明の電気化学素子である全固体電池を搭載した移動体の一例を示す。移動体70は、例えば電気自動車である。移動体70はモーター71と、電気化学素子72と、移動手段の一例としての車輪73を備える。電気化学素子72は、上述した本発明の電気化学素子である。電気化学素子72は、モーター71に電力を供給することでモーター71を駆動する。駆動されたモーター71は、車輪73を駆動させることができ、その結果、移動体70は移動することができる。
以上の構成によれば、正極と負極との短絡を防止するとともに、電池特性に優れる電気化学素子からの電力により駆動するので、安全かつ効率よく移動体を移動させることができる。
移動体70は電気自動車に限られず、PHEVやHEV、又はディーゼルエンジンと電気化学素子とを併用して走行可能な機関車やバイクであってもよい。又、移動体は、電気化学素子のみ、又はエンジンと電気化学素子とを併用して走行可能な、工場等で使用される搬送用ロボットであってもよい。また、移動体は、その物体全体が移動せず、一部のみが移動するもの、例えば、工場の製造ラインに配される、電気化学素子のみ、又はエンジンと電気化学素子とを併用してアーム等が動作可能な組立ロボットであってもよい。
【実施例0129】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0130】
(実施例1)
<液体組成物の調製>
表1-1に示す通り、重合性化合物として50質量部のNKエステル A-HD-N(新中村化学工業株式会社製)、溶剤として50質量部のp-メンタン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を混合した後、重合開始剤としてビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフホスフェート(IGM Resins B.V.社製)を重合性化合物に対して1質量%(0.5質量部)の割合で混合し、実施例1の液体組成物を調製した。
なお、用いた重合性化合物の製造会社名、化合物名、HPSパラメータなどを表2に示す。用いた溶媒の製造会社名、化合物名、HPSパラメータなどを表3に示す。
【0131】
<反り評価用の樹脂絶縁層の作製>
アルミニウム箔基体(50mm×50mm、平均厚み:20μm)の片面全領域に、各液体組成物を、バーコータ―を用いて塗布した。次いで、塗布領域に対して紫外線照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm、照射時間:20s)し、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を120℃で1分間加熱することで溶剤を除去し、目的とする平均厚みが100μmである実施例1の樹脂絶縁層を得た。
【0132】
実施例及び比較例においては、相溶性指標ΔHSP、反り評価、及び二次電池のレート特性は、以下の方法により算出、測定、又は評価した。
【0133】
[HSP値、及び相溶性指標ΔHSPの算出]
溶剤のHSP値は、ハンセン溶解度パラメータ・ソフトウェアHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice、Hansen-Solubility.com)のデータベースから参照した。データベースにない場合は、HSPiPソフトウェアのDIY機能を用いて溶剤の分子構造から算出した。
重合性化合物のHSP値は、HSPiPソフトウェアのDIY機能を用いて重合性化合物の分子構造から算出した。重合性化合物中の構造繰り返し単位数が異なるなどして分子量分布がある場合には、重合性化合物Aの数平均分子量と最も近しい分子構造をもとにHSP値を算出した。
【0134】
液体組成物のHSP値は、重合性化合物と溶剤のHSPから以下のように算出した。
・重合性化合物
HSP:(δ ,δ ,δ ) 体積分率:X
・溶剤B
HSP:(δ ,δ ,δ ) 体積分率:X
・液体組成物
HSP:(δ ,δ ,δ ) 体積分率:X=X+X=1
HSP:(δ ,δ ,δ
=(δ ・X+δ ・X,δ ・X+δ ・X,δ ・X+δ ・X
【0135】
相溶性指標ΔHSPは、前記重合性化合物と前記液体組成物とのHSP距離の2乗であり、以下のように算出した。
式(I)
ΔHSP=(δ -δ +(δ -δ +(δ -δ
【0136】
[相溶性評価]
重合開始剤を添加せずに、重合性化合物と溶剤を表1-1に示す比率で混合し、液体組成物を調合した。
前記液体組成物を内径10mmのサンプル管に液高さ50mmとなるように加え、密閉した状態で遮光環境、25℃の環境で1週間保管した。1週間後、相溶性を以下の評価基準から判断した。Aが合格レベルである。
-評価基準-
A:上澄み層が観察されない(上澄み層の高さが0.1mm未満である)
B:上澄み層の高さが0.1mm以上0.5mm未満である
C:上澄み層の高さが0.5mm以上である
【0137】
[相溶限界ΔHSP SLの同定]
重合性化合物の体積分率Xを0.02ずつ変化させていき、相溶性評価の評価基準がAからBへと変わる直前の組成比を相溶限界として判断し、そのΔHSPをΔHSP SLとした。
また、溶媒が2種類の溶媒B及びBからなり、溶剤Bと溶剤Bの比率を変更した際の相溶限界を見極める場合においては、溶媒の体積分率を一定のまま溶剤B及び溶剤Bの体積分率を0.02ずつ変化させ、相溶性評価がAからBへと評価が変わる直前の組成比を相溶限界として判断し、そのΔHSPをΔHSP SLとした。
【0138】
[樹脂絶縁層の反り評価]
得られた樹脂絶縁層の4辺のうち1辺を水平面につけた状態で、他の辺のうち反り上がりの高さの最大値を反り評価値として測定し、以下の評価基準に基づき、反り評価を行った。結果を表1-1に示す。
-評価基準-
◎:反り評価値が0mm以上1mm未満であり、反りがなく極めて良好である。
〇:反り評価値が1mm以上3mm未満であり、反りが少なく良好である。
△:反り評価値が3mm以上5mm未満であり、若干の反りはあるものの使用上の問題はない。
×:反り評価値が5mm以上であり、反りが大きく使用上の問題がある。
【0139】
(実施例2~21、及び比較例1~22)
実施例1において、表1-1~表1-5に示す配合に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~21、及び比較例1~22の液体組成物、及び樹脂絶縁層をそれぞれ作製し、反り評価を行った。結果を表1-1~表1-5に示す。
【0140】
【表1-1】
【0141】
【表1-2】
【0142】
【表1-3】
【0143】
【表1-4】
【0144】
【表1-5】
【0145】
【表2】
【0146】
【表3】
【0147】
以上の結果から、一般式(1)で表される平均分子量が700未満の重合性化合物と、非芳香族系化合物である溶剤と、を含む液体組成物が、式(II):0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SLで表される関係を満たすことにより、得られた樹脂層の反りが少なく、使用上の問題ないレベル、良好又は極めて良好であることが分った。
一方、重合性化合物、溶剤、式(II)の関係のいずれかを満たさない場合、得られた樹脂層の反りが、使用上問題があるレベルとなる、又は樹脂が硬化しないことが判明した。
【0148】
具体的には、実施例1~5からわかるように、分子量700未満の非環式アルキル系の2官能又は3官能アクリレートと、溶剤との、0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SLの関係を満たす組み合わせを用いた場合には、得られた樹脂層の反りが抑制された。
比較例1からわかるように、アクリル基よりも重合反応速度が遅いメタクリル基を有する比較重合性化合物として、分子量700未満の非環式アルキル系2官能メタクリレートを用いた場合には、重合反応が進行せず樹脂層が得られなかった。
【0149】
比較例2からわかるように、4官能以上の比較重合性化合物として分子量700未満の非環式アルキル系4官能アクリレートを用いた場合には、十分な反り抑制効果は得られなかった。
比較例3からわかるように、比較重合性化合物として分子量700未満の環式アルキル系2官能アクリレートを用いた場合には、十分な反り抑制効果は得られなかった。
比較例4からわかるように、分子量700未満の非環式アルキル系の2官能アクリレートであっても、ΔHSPが0.51未満である組み合わせを用いた場合には、十分な反り抑制効果は得られなかった。
【0150】
実施例6~10からわかるように、分子量700未満の種々の非環式アルキレンオキシド系の2官能又は3官能アクリレートと、溶剤との、0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SLの関係を満たす組み合わせを用いた場合には、得られた樹脂層の反りが抑制された。
【0151】
比較例5、9からわかるように、分子量700以上の種々の非環式アルキレンオキシド系の2官能アクリレートを用いた場合には、十分な反り抑制効果は得られなかった。
比較例6からわかるように、メタクリル基を有する比較重合性化合物として、分子量700未満の非環式アルキレンオキシド系2官能メタクリレートを用いた場合には、重合反応が進行せず樹脂層が得られなかった。
【0152】
比較例7からわかるように、比較重合性化合物として分子量700未満の環式アルキレンオキシド系2官能アクリレートを用いた場合には、十分な反り抑制効果は得られなかった。
比較例8からわかるように、比較重合性化合物として分子量700未満の非環式アルキレンオキシドとビスフェノールAの組合せからなる2官能アクリレートを用いた場合には、十分な反り抑制効果は得られなかった。
比較例9からわかるように、4官能以上の比較重合性化合物として分子量700未満の非環式アルキレンオキシド系の6官能アクリレートを用いた場合には、十分な反り抑制効果は得られなかった。
【0153】
実施例11~17及び比較例11からわかるように、同系統の溶媒に限定した場合においても、0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SLの関係を満たす場合にのみ反りが抑制された。
比較例12~15からわかるように、溶剤として芳香族化合物を用いた場合は、0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SLの関係を満たすものの溶媒が相溶限界を持たないため重合体の核成長が促進されず、十分な反り抑制効果は得られなかった。これは芳香族化合物のハンセン球が他溶剤と比べて大きいことが原因して、図18に示す核形成時間が長くなり、核の低粒子径化による樹脂層の高空隙率化がなされなかったためと考えられる。
比較例16~20からわかるように、溶剤として種々の非芳香族化合物を用いた場合でも0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SLの関係を満たさない場合には、十分な反り抑制効果は得られなかった。
【0154】
実施例18~21、比較例21~22では、2種類の溶剤B、及び溶剤Bの体積分率を変化させることで相溶限界となる組成比を見出した(実施例21)。相溶限界組成のΔHSPをΔHSP SLとし、ΔHSP/ΔHSP SL=0.9~1.0の範囲に収まる(0.90ΔHSP SL≦ΔHSP≦ΔHSP SLを満たす)とき、得られた樹脂層の反りがなく、極めて良好となることが確認された(実施例21、22)。一方で、相溶限界を超えると得られる樹脂層は不均質な膜質へ変わり、カール抑制効果が急激に失われた(比較例25、26)。
【0155】
(実施例22)
以下の手順により、樹脂絶縁層を有する電極と、電極積層体と、電気化学素子としての全固体電池とを作製し、電池性能を評価した。
【0156】
<固体電解質の合成>
固体電解質として、アルジロダイト型硫化物固体電解質LiPSCl(LPSC)を公知文献1「J. Power Sources. 2018, 396, 33-40」に従い合成した。
固体電解質塗料は、以下のように作製した。
溶剤としてオクタン(東京化成工業株式会社製)を用いた。脱水した溶剤として、カールフィッシャー水分濃度計により、100ppm以下の水分含有量であることを確認したものを用いた。
この溶剤100質量部に対し、合成した固体電解質100質量部、及び分散剤(Lubrizol社製、SolspersetmTM 21000)1質量部を添加して混合し、固体電解質塗料を得た。
【0157】
<活物質へのイオン電導性酸化物の表面被覆>
正極活物質としてニッケル系正極活物質(ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、以下、「NCM1」と称することがある。平均一次粒子径3.5μm、株式会社豊島製作所製)を用いた。NCM1粒子を表面被覆するイオン電導性酸化物としてはLiNbOを用いた。LiNbO層は、公知文献2「J.Mater.Chem.A. 2021, 9, 4117-4125」を参考に、リチウムとニオブを含有するアルコキシド溶液をNCM1粉末粒子表面で加水分解することにより形成した。まず、無水エタノール(関東化学株式会社製)中に金属リチウム(本城金属株式会社製)を溶解させ、リチウムエトキシドのエタノール溶液を調製した。さらに、この溶液にニオビウムペンタエトキサイド(Nb(OC)(株式会社高純度化学研究所製)を加え、リチウムとニオブを含有するアルコキシド溶液とした。転動流動装置(MP-01、株式会社パウレック製)を用いてNCM1粉末を流動層とし、先のアルコキシド溶液を噴霧することでNCM1粉末粒子表面をアルコキシドで被覆した前駆体粉末を得た。この粉末をドライ空気雰囲気下350℃で加熱することによりNCM1表面にLiNbO層を形成したLNO/NCM1を合成した。
【0158】
<正極作製方法>
<正極>
正極活物質としてLNO/NMC1 45.3質量%、導電材としてアセチレンブラック2.2質量%(デンカブラック、デンカ株式会社製)、バインダとしてポリブチルメタクリレート(PBMA、アルドリッチ社製)1.4質量%、固体電解質 14.7質量%をアニソール(東京化成工業株式会社製)36.4質量%中に分散させて正極塗料を作製した。
この正極塗料を電極基体としてのアルミニウム箔基体(50mm×50mm、平均厚み:15μm)の片面に塗布後、乾燥させて20mm×20mmの正極合材層を形成し、正極合材層の周囲4辺に幅15cmの余白部分を有する、正極を得た。正極合材層の平均厚みは95μmであり、単位面積あたりの電池容量は2.91mAh/cmであった。
【0159】
<負極作製方法>
<負極>
電極基体としてのステンレス箔基体(50mm×50mm、平均厚み:20μm)上に平均厚み50μmのリチウム金属(本城金属株式会社製)貼り付け、さらに50μmのインジウム箔(株式会社ニラコ製)を貼り付け、25mm×25mmの負極とした。
【0160】
<電極の作製>
実施例6で得た液体組成物をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極を設置し、正極合材層と樹脂絶縁層との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂絶縁層の幅が10mmとなるよう吐出させて塗布した。
その後、直ちに、窒素雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm、照射時間:20s)し、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を120℃で1分間加熱することで溶剤を除去し、実施例22の電極を作製した(図1図6参照)。
【0161】
このとき樹脂絶縁層の平均厚みは121μmであり、樹脂絶縁層の反りは1.0mmであった。
なお、前記樹脂絶縁層の反りは、得られた電極の4辺のうち1辺を水平面につけた状態で、電極における樹脂絶縁層の他の辺のうち反り上がりの高さの最大値を反り評価値として測定した。
【0162】
電極をアルミラミネートで封止した後、冷間静水等方圧プレス(CIP)で500MPa、5分間加圧した。加圧後、電極をアルミラミネートから取り出した。固体電解質層をバーコート法で正極上に塗布形成し、実施例22の電極積層体を得た(図2参照)。
塗布後、再度アルミラミネートで封止し、CIPで500MPa、5分間加圧した。電極と負極を対向させ、単電池層とし(図3参照)、それぞれ引き出し線を付けた後にラミネートで真空封止をして実施例22の電気化学素子としての全固体電池を作製した。
【0163】
以下の手順により、作製した全固体電池の電池電圧を計測すると2.05Vであった。単位面積当たりの容量は、初回放電容量で141mAh/gであった。正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、短絡も見られなかった。
【0164】
[電極の単位面積当たりの容量の測定方法]
電極の単位面積当たりの容量は、充放電測定装置(TOSCAT3001、東洋システム株式会社製)を用いて以下の手順により計測した。
まず、作製した電極を直径10mmの丸型に打ち抜いた。
次に、正極に固体電解質を含む電極は下記の方法で容量評価を実施した。
アルゴン雰囲気下にて正極を直径10mmの丸型電極の単位面積当たりの容量に打ち抜き加工した。
二極式セル(宝泉株式会社製)のポリエチレンテレフタレート(PET)管に80mgの固体電解質1を入れ、プレスピンを載せて、一軸プレス機(P-6、理研精機株式会社製)を用いて表示圧力10MPaで1分間成型した。
次に、直径10mmに打抜いた正極における正極合材層の表面と上記PET管内の固体電解質の表面に接触するように載せて、プレスピンをセットし、一軸プレス機(P-6、理研精機株式会社製)を用いて表示圧力30MPaで1分間成型した。
正極合材層をプレスした逆側に10μmのSUS箔に平均厚み50μmのリチウムを貼り付けたもの(本城金属株式会社製)の上に平均厚み50μmのインジウム(株式会社ニラコ製)を重ねた。そして、一軸プレス機(P-6、理研精機株式会社製)を用いて表示圧力12MPaで3秒間成型した。プレスピンを載せた状態でPET管を二極式セルの中に入れ、デジタルトルクラチェット(KTCツール)で表示圧力25N・mに密封した。
この電気化学素子を、室温(25℃)において、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電した後、2.4Vまで定電流放電して初期充放電を実施した。更に、当該充放電を2回実施し、2回目の放電容量を、初期の正極の単位面積当たりの容量として計測した。
負極に関しても同様に負極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で-0.55V~1.4Vの範囲で充放電を実施し、負極の単位面積当たりの容量を算出した。
【0165】
(実施例23)
実施例5の液体組成物をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極を設置し正極の外周部と樹脂絶縁層との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂絶縁層の幅が10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂絶縁層の平均厚みは113μmであり、樹脂絶縁層の反りは1.2mmであった(図1図6参照)。
以下、実施例22と同様にして実施例23の電極と、電極積層体と、電気化学素子としての全固体電池とを作製した。
作製した全固体電池の電池電圧を計測すると2.09Vであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、短絡も見られなかった。
【0166】
(実施例24)
実施例11の液体組成物をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極を設置し、正極合材層と樹脂絶縁層との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂絶縁層の幅が10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂絶縁層の平均厚みは121μmであり、樹脂絶縁層の反りは1.2mmであった(図1図6参照)。
以下、実施例22と同様にして実施例24の電極と、電極積層体と、電気化学素子としての全固体電池とを作製した。
作製した全固体電池の電池電圧を計測すると 2.09Vであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、短絡も見られなかった。
【0167】
(比較例23)
正極をアルミラミネート封止した後、冷間静水等方圧プレス(CIP)で500MPa、5分間加圧した。加圧後、正極をアルミラミネートから取り出した。
固体電解質層をバーコート法で塗布し電極積層体とした。塗布後、再度アルミラミネートで封止し、CIPで500MPa、5分間加圧した。電極積層体と負極を対向させ、単電池層とし、それぞれ引き出し線を付けた後にラミネートで真空封止をして全固体電池aとした。
【0168】
作製した全固体電池aの電池電圧を計測すると 0.11Vであり、短絡傾向であった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電すると3.6Vまで上昇しなかった。
加圧後、セルを解体したところ固体電解質層にクラックがみられていた。このため電圧が0V付近に低下してしまったと考えられる。
【0169】
(比較例24)
比較例8の液体組成物をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極を設置し正極の外周部と樹脂絶縁層との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂絶縁層の幅が10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂絶縁層の平均厚みは118μmであり、樹脂絶縁層の反りは24.5mmであった。
以下、実施例22と同様にして比較例24の電極と、電極積層体と、電気化学素子としての全固体電池とを作製した。
【0170】
作製した全固体電池の電池電圧を計測すると0.11Vであり、短絡傾向であった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電すると3.6Vまで上昇しなかった。
加圧後、セルを解体したところ固体電解質層にクラックがみられていた。このため電圧が0V付近に低下してしまったと考えられる。
【0171】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 下記一般式(1)で表される平均分子量が700未満の重合性化合物と、
非芳香族系化合物である溶剤と、を含む液体組成物であって、
前記重合性化合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を(δ ,δ ,δ )、前記重合性化合物の体積分率をXとし、前記溶剤のHSPを(δ ,δ ,δ )、前記溶剤の体積分率をXとし、前記液体組成物のHSPを(δ ,δ ,δ )、前記液体組成物の体積分率をX+X=1とし、ΔHSPが下記式(I)で表され、前記重合性化合物と前記溶剤との相溶限界となるΔHSPをΔHSP SLとしたときの、ΔHSPとΔHSP SLとの関係が下記式(II)を満たすことを特徴とする液体組成物である。
式(I)
ΔHSP=(δ -δ +(δ -δ +(δ -δ
式(II)
0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SL
【化4】
(ただし、前記一般式(1)中、Rは、非環式アルキレン基及び非環式アルキレンオキシド基の少なくともいずれかを示し、Yは、水素原子又は-O-COCH=CH基を示す。)
<2> 0.90ΔHSP SL≦ΔHSP≦ΔHSP SLを満たす前記<1>に記載の液体組成物である。
<3> 前記<1>又は<2>に記載の液体組成物が容器中に収容されたことを特徴とする収容容器である。
<4> 前記<1>又は<2>に記載の液体組成物を重合してなることを特徴とする樹脂絶縁層である。
<5> 電極基体と、
前記電極基体上に電極合材層と、
前記電極合材層の外周部に、前記<4>に記載の樹脂絶縁層と、を有することを特徴とする電極である。
<6> 前記<5>に記載の電極と、
前記電極上に固体電解質層と、を有することを特徴とする電極積層体である。
<7> 前記<6>に記載の電極積層体を有することを特徴とする電気化学素子である。
<8> 前記<1>又は<2>に記載の液体組成物を、電極基体上の外周部に付与する付与工程と、
前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂絶縁層を形成する重合工程と、
前記電極基体上に電極合材層を形成する電極合材層形成工程と、を含み、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層が互いに隣接して形成されたことを特徴とする電極の製造方法である。
<9> 前記付与が、インクジェット法により実施される前記<8>に記載の電極の製造方法である。
<10> 前記<1>又は<2>に記載の液体組成物を、電極基体上の外周部に付与する付与工程と、
前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂絶縁層を形成する重合工程と、
前記電極基体上に電極合材層を形成する電極合材層形成工程と、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層をプレスするプレス工程と、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層上に固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程と、を含み、
前記電極合材層形成工程が、前記付与工程の前、又は前記重合工程の後に実施され、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層が互いに隣接して形成されたことを特徴とする電極積層体の製造方法である。
<11> 前記<1>又は<2>に記載の液体組成物が収容された収容容器と、
前記液体組成物を、電極基体上の外周部に付与する付与手段と、
前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂絶縁層を形成する重合手段と、
前記電極基体上に電極合材層を形成する電極合材層形成手段と、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層を前記電極基体方向にプレスするプレス手段と、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層上に固体電解質層を形成する固体電解質層形成手段と、を有し、
前記電極合材層及び前記樹脂絶縁層が互いに隣接して形成されたことを特徴とする電極積層体の製造装置である。
<12> 前記<10>に記載の電極積層体の製造方法により電極積層体を製造する電極積層体製造工程と、
前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含むことを特徴とする電気化学素子の製造方法である。
<13> 前記<11>に記載の電極積層体の製造装置により電極積層体を製造する電極積層体製造手段と、
前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化手段と、を有することを特徴とする電気化学素子の製造装置である。
【0172】
前記<1>から<2>のいずれかに記載の液体組成物、前記<3>に記載の収容容器、前記<4>に記載の樹脂絶縁層、前記<5>に記載の電極、前記<6>に記載の電極積層体、前記<7>に記載の電気化学素子、前記<8>から<9>のいずれかに記載の電極の製造方法、前記<10>に記載の電極積層体の製造方法、前記<11>に記載の電極積層体の製造装置、前記<12>に記載の電気化学素子の製造方法、前記<13>に記載の電気化学素子の製造装置は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0173】
1a:印刷装置
1b:インク容器
1c:インク供給チューブ
2a:光照射装置
2b:重合不活性気体循環装置
3a:加熱装置
4:印刷基材
5:搬送部
6:多孔質樹脂前駆体(樹脂絶縁層前駆体)
7:ガイド部材
10:樹脂絶縁層
20:第1の電極合材層
21:第1の電極基体
25:電極
35:電極積層体
40:第2の電極合材層
41:第2の電極基体
45:電気化学素子
100:印刷部
200:重合部
300:除去部
500:樹脂絶縁層の製造装置
d:樹脂絶縁層と電極合材層の距離
【先行技術文献】
【特許文献】
【0174】
【特許文献1】国際公開第2020-022111号
図1
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