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特開2024-105173電極、絶縁性材料セット、電極の製造方法、電極積層体、電気化学素子、及び移動体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105173
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】電極、絶縁性材料セット、電極の製造方法、電極積層体、電気化学素子、及び移動体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240730BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240730BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240730BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240730BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M10/0562
H01M10/0585
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023152076
(22)【出願日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2023009733
(32)【優先日】2023-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】木田 仁司
(72)【発明者】
【氏名】栗山 博道
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡
(72)【発明者】
【氏名】東 隆司
(72)【発明者】
【氏名】李 木馨
(72)【発明者】
【氏名】後藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】大屋 彼野人
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM12
5H050AA14
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA09
5H050EA28
5H050GA03
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA09
(57)【要約】
【課題】絶縁性構造体が水平方向にプレスした際に潰れ易さの異なる部分を有し、潰れ易い部分が電極合材層とは逆方向に反ることにより、電極全体としての反りを低減することができる電極の提供。
【解決手段】電極基体と、前記電極基体上に電極合材層と、前記電極合材層の隣接部に絶縁性構造体と、を有し、前記絶縁性構造体が、荷重を掛けたときの収縮率が互いに異なる、第1の部分と、前記第1の部分とは異なる第2の部分と、を前記電極基体に対して水平な方向に沿って有する電極。
【選択図】図15


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基体と、
前記電極基体上に電極合材層と、
前記電極合材層の隣接部に絶縁性構造体と、を有し、
前記絶縁性構造体が、荷重を掛けたときの収縮率が互いに異なる、第1の部分と、前記第1の部分とは異なる第2の部分と、を前記電極基体に対して水平な方向に沿って有することを特徴とする電極。
【請求項2】
前記第1の部分が、前記絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平な方向において前記電極合材層に近い近位部分であり、
前記第2の部分が、前記絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平な方向において前記電極合材層から遠い遠位部分であり、
前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも小さい請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記絶縁性構造体に1MPaの荷重を掛けたときの、前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも10%以上小さい請求項2に記載の電極。
【請求項4】
前記近位部分の空隙率が、前記遠位部分の空隙率よりも小さい請求項2に記載の電極。
【請求項5】
前記近位部分の硬度が、前記遠位部分の硬度よりも高い請求項2に記載の電極。
【請求項6】
前記近位部分の厚みが、前記遠位部分の厚みよりも小さい請求項2に記載の電極。
【請求項7】
前記電極合材層が、前記電極基体と接するテーパー面を有し、
前記近位部分が、前記テーパー面の少なくとも一部に隣接する請求項2記載の電極。
【請求項8】
前記第1の部分が、前記絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平な方向において前記電極合材層に近い近位部分であり、
前記第2の部分が、前記絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平な方向において前記電極合材層から遠い遠位部分であり、
前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも大きい請求項1に記載の電極。
【請求項9】
前記絶縁性構造体に1MPaの荷重を掛けたときの、前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも10%以上大きい請求項8に記載の電極。
【請求項10】
前記近位部分の空隙率が、前記遠位部分の空隙率よりも大きい請求項8に記載の電極。
【請求項11】
前記近位部分の硬度が、前記遠位部分の硬度よりも低い請求項8に記載の電極。
【請求項12】
前記近位部分の厚みが、前記遠位部分の厚みよりも大きい請求項8に記載の電極。
【請求項13】
第1の絶縁性材料と、第2の絶縁性材料と、を有する絶縁性材料セットであって、
前記第1の絶縁性材料から形成された構造体の収縮率と、前記第2の絶縁性材料から形成された構造体の収縮率とが、互いに異なることを特徴とする絶縁性材料セット。
【請求項14】
前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料が、重合反応誘起相分離性の重合性組成物であり、
前記第1の絶縁性材料の相分離性と、前記第2の絶縁性材料の相分離性とが、互いに異なる請求項13に記載の絶縁性材料セット。
【請求項15】
前記第1の絶縁性材料が、第1の粒子を含む重合性組成物であり、
前記第2の絶縁性材料が、第2の粒子を含む重合性組成物であり、
前記第1の粒子の平均粒径と、前記第2の粒子の平均粒径とが、互いに異なる請求項13に記載の絶縁性材料セット。
【請求項16】
前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料が、重合性組成物であり、
前記第1の絶縁性材料から形成された構造体の硬度と、前記第2の絶縁性材料から形成された構造体の硬度とが、互いに異なる請求項13に記載の絶縁性材料セット。
【請求項17】
第1の絶縁性材料を、電極基体上に設けられた電極合材層の隣接部に付与する第1の付与工程と、
第2の絶縁性材料を、電極基体上に設けられた電極合材層の隣接部に隣接して付与する第2の付与工程と、
前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料のセットからなる絶縁性構造体を形成する絶縁性構造体形成工程と、を含み、
前記絶縁性構造体に荷重を掛けたときに、前記絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平な方向において、前記電極合材層に近い近位部分の収縮率と、前記電極合材層から遠い遠位部分の収縮率と、が互いに異なることを特徴とする電極の製造方法。
【請求項18】
前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料のセットが、請求項13から16のいずれかに記載の絶縁性材料セットである請求項17に記載の電極の製造方法。
【請求項19】
前記第1の付与工程における前記第1の絶縁性材料の単位面積当たりの付与量と、前記第2の付与工程における前記第2の絶縁性材料の単位面積当たりの付与量とが、互いに異なる請求項17に記載の電極の製造方法。
【請求項20】
請求項1に記載の電極と、
前記電極上に固体電解質層と、を有することを特徴とする電極積層体。
【請求項21】
前記電極が、請求項2に記載の電極であり、
前記電極合材層及び前記絶縁性構造体の前記近位部分上に固体電解質層と、を有する請求項20に記載の電極積層体。
【請求項22】
前記電極が、請求項8に記載の電極であり、
前記電極合材層、前記絶縁性構造体の前記近位部分、及び前記遠位部分上に固体電解質層と、を有する請求項20に記載の電極積層体。
【請求項23】
請求項20に記載の電極積層体を有することを特徴とする電気化学素子。
【請求項24】
請求項23に記載の電気化学素子を有することを特徴とする移動体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、絶縁性材料セット、電極の製造方法、電極積層体、電気化学素子、及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体二次電池は、従来のリチウムイオン二次電池に比べ、温度変化に強く、発火リスクが小さいといった安全面だけでなく、急速充電も可能といった性能面からの期待も大きく、電気自動車等へ搭載など、需要が拡大することが予想されている。また、各種ウェアラブル機器や医療用パッチに搭載する薄型電池に対するニーズが高まってきており、全固体二次電池に対する要求が多様化している。
【0003】
正極と負極と固体電解質層で構成される全固体電池では、全固体電池の性能向上のために高い密度を狙って、正極、固体電解質層、及び負極を含む積層体を非常に高い圧力でプレスする場合があるが、このプレスの際に、固体電解質においてクラックなどの破損が生じ、その結果、全固体電池の使用時に、正極と負極との間で短絡が発生してしまう懸念があった。
【0004】
このような全固体電池における固体電解質のクラックなどの破損を防止するために、これまでに、正極集電体と、前記正極集電体上に形成された正極活物質を含む正極活物質層と、を含む固体電池用正極であって、前記正極活物質層を有する面の前記正極活物質層の外周部の隣接する少なくとも2辺に、正極ガイドが配置されている、固体電池用正極が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、絶縁性構造体が水平方向にプレスした際に潰れ易さの異なる部分を有し、潰れ易い部分が電極合材層とは逆方向に反ることにより、電極全体としての反りを低減することができる電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としての本発明の電極は、電極基体と、前記電極基体上に電極合材層と、前記電極合材層の隣接部に絶縁性構造体と、を有し、前記絶縁性構造体が、荷重を掛けたときの収縮率が互いに異なる、第1の部分と、前記第1の部分とは異なる第2の部分と、を前記電極基体に対して水平な方向に沿って有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、絶縁性構造体が水平方向にプレスした際に潰れ易さの異なる部分を有し、潰れ易い部分が電極合材層とは逆方向に反ることにより、電極全体としての反りを低減することができる電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態の電極の一例を示す断面図である。
図2図2は、本実施形態の電極積層体の一例を示す断面図である。
図3図3は、本実施形態の電気化学素子の一例を示す断面図である。
図4図4は、本実施形態の電極一例を示す上面図である。
図5図5は、本実施形態の電極の他の一例を示す上面図である。
図6図6は、本実施形態の電極の他の一例を示す上面図である。
図7図7は、本実施形態の絶縁性構造体の製造装置である液体吐出装置の一例を示す模式図である。
図8図8は、本実施形態の絶縁性構造体の製造装置である液体吐出装置の他の例を示す模式図である。
図9図9は、本実施形態の絶縁性構造体の製造装置である液体吐出装置の他の例を示す模式図である。
図10図10は、図9の液体吐出装置の変形例を示す模式図である。
図11図11は、本実施形態の絶縁性構造体の製造装置としてのドラム状の中間転写体を用いた印刷部の一例を示す構成図である。
図12図12は、本実施形態の絶縁性構造体の製造装置としての無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部の一例を示す構成図である。
図13図13は、本実施形態の電気化学素子である全固体電池の一例を示す断面図である。
図14図14は、本実施形態の電極積層体において電極全体としての反りが低減される様子を示す概略断面図である。
図15図15は、第1の実施形態の電極の一例を示す概略断面図である。
図16図16は、第1の実施形態の電極の他の一例を示す概略断面図である。
図17図17は、第2の実施形態の電極の一例を示す概略断面図である。
図18図18は、第2の実施形態の電極の他の一例を示す概略断面図である。
図19図19は、第2の実施形態の電極の他の一例を示す概略断面図である。
図20図20は、第1の実施形態の電極を有する電極積層体の一例を示す概略断面図である。
図21図21は、第2の実施形態の電極を有する電極積層体の一例を示す概略断面図である。
図22図22は、本実施形態の電極である両面電極の一例を示す断面図である。
図23図23は、本実施形態の電極である両面電極の他の一例を示す断面図である。
図24図24は、本実施形態の電極である両面電極の他の一例を示す断面図である。
図25図25は、本実施形態の電極の前駆体の一例を示す断面図である。
図26図26は、本実施形態の電極の前駆体の他の一例を示す断面図である。
図27図27は、本実施形態の絶縁性構造体の製造装置の一例を示す概略斜視図である。
図28図28は、本発明の電気化学素子である全固体電池を搭載した移動体の一例を示す概略図である。
図29図29は、実施例1の電極を示す概略断面図である。
図30図30は、実施例1~8、及び比較例1の電極における、遠位部分の収縮率と近位部分の収縮率との差、及び電極の反りの関係を示すグラフである。
図31図31は、実施例9の電極を示す概略断面図である。
図32図32は、実施例10の電極を示す概略断面図である。
図33図33は、実施例11の電極を示す概略断面図である。
図34図34は、実施例12の電極を示す概略断面図である。
図35図35は、実施例13の電極を示す概略断面図である。
図36図36は、実施例14の電極を示す概略断面図である。
図37図37は、実施例15の電極を示す概略断面図である。
図38図38は、実施例16の電極を示す概略断面図である。
図39図39は、実施例17の電極を示す概略断面図である。
図40図40は、実施例18の電極を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(電極)
本発明の電極は、電極基体と、前記電極基体上に電極合材層と、前記電極合材層の隣接部に絶縁性構造体と、を有する。
前記絶縁性構造体が、荷重を掛けたときの収縮率が互いに異なる、第1の部分と、前記第1の部分とは異なる第2の部分と、を前記電極基体に対して水平な方向に沿って有する。
換言すると、前記絶縁性構造体に荷重を掛けたときに、前記絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平な方向において、第1の部分の収縮率と、前記第1の部分とは異なる第2の部分の収縮率と、が互いに異なる。
【0010】
本発明の電極は、本発明者らが、以下の従来技術における問題点を見出したことに基づく発明である。
すなわち、従来の固体電池用正極を用いた全固体電池の製造方法では、全固体電池における正極と負極との短絡を防止するために、正極活物質層における固体電解質層と対向する面の外周部に正極ガイドを配置して、積層、及びプレスを実施しているが、全固体電池作製の際には非常に高い圧力がかかるため、正極ガイドのクラックや電極への圧力負荷がかかり、依然として電極、及び固体電解質層への圧力負荷によるダメージが生じるという問題がある。
なお、正極ガイドは、プレス時耐えられるようにある程度の粘弾性が必要であることから樹脂製が好ましく、生産性や活物質層の形状多様性を鑑み、コーターを用い、重合性組成物を塗布することで、塗布膜を形成することが好ましいと考えられる。しかしながら、特許文献1(国際公開第2020-022111号)には、正極ガイドの材料として、絶縁性樹脂、無機酸化物等の絶縁性材料や積層シートがその一形態として開示されるが、正極ガイド(絶縁性構造体)が、重合性組成物から製造されることの開示はない。
【0011】
正極、固体電解質層、及び負極を含む積層体を非常に高い圧力でプレスすると、例えば、正極合材層が正極基体(正極集電体)よりも延伸するため、積層体乃至電極が、正極基体に対して正極合材層がある側に凸に反るという問題がある。これは、特に片面電極である場合や、両面電極でも各電極の厚みや材料や大きさなど構造が異なる場合に顕著に生じる。
さらには、固体電解質が絶縁性構造体に染み込んで電池特性を悪化させる、固体電解質がはみ出す、密着性が不十分であるなどといった問題がある。
さらに、特許文献1(国際公開第2020-022111号)のように、正極ガイドがフィルムなどを加工した独立体として配置される場合は、正極と隙間なく密着させることが難しいため、正極端部のカバレッジが悪くなるとともに、上述した積層体乃至電極の反りを解消できないという問題がある。
【0012】
近年、微少量乃至精密パターン塗布に対応し、材料のロスを最小限に抑えることが可能であり、製版(マスク)なしでCADデータなどから精密なパターンの塗布が可能であることから、産業用コーターとしてインクジェット方式が注目されている。さらにインクジェット印刷は、膜厚の均一性が高く、高精度な着弾、塗り分け塗布が可能であり、異形塗布、微細配線、微小片などの配線描画が可能であることから、光硬化型液体組成物を用いて、樹脂製の活物質層ガイドを形成することが期待されている。
【0013】
本発明者らは、前記目的を解決すべく、鋭意検討した結果、本発明の電極が、絶縁性構造体が水平方向にプレスした際に潰れ易さの異なる部分を有し、潰れ易い部分が電極合材層とは逆方向に反ることにより、電極全体としての反りを低減することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0014】
すなわち、図14を参照して説明すると、電極25乃至積層体35を高圧力でプレスすると、電極合材層20が電極基体21よりも延伸するため(図14中、電極合材層20における矢印参照)、電極25が電極基体21に対して電極合材層20方向に凸に反るという問題が生じる。これに対して、本実施形態の電極25では、絶縁性構造体10に荷重を掛けたときに、絶縁性構造体10における第1の部分10aの収縮率と、絶縁性構造体10における前記第1の部分とは異なる第2の部分10bの収縮率と、が互いに異なることにより、潰れ難い部分(例えば、第1の部分10a)が固体電解質30を構造的に(割れないように)支えながら、潰れ易い部分(例えば、第2の部分10b)が電極合材層20と逆方向に反るので、電極合材層20部分の反りを相殺して電極全体としての反り(カール)を低減することができる(図14)。
なお、図14では、電極合材層20に起因する凸方向の反り、及び潰れ易い部分における反対方向への反りが生じている様子をわかりやすく示すため、電極基体21上に電極合材層20及び絶縁性構造体10の組み合わせを複数配置したが、これに限定されず、少なくとも1組の電極合材層20及び絶縁性構造体10を有すればよい。
【0015】
また、第1の部分が電極合材層に近い近位部分であり、第2の部分が電極合材層から遠い遠位部分であり、近位部分の収縮率が遠位部分の収縮率よりも小さい場合(つまり、遠位部分が潰れ易い部分である場合;第1の実施形態)を例として説明したが、後述するように、近位部分の収縮率が遠位部分の収縮率よりも大きい場合(つまり、近位部分が潰れ易い部分である場合;第2の実施形態)であってもよく、いずれの場合でも、潰れ易い部分が電極合材層の凸方向の反りとは逆方向に反ることにより、電極全体としての反りを低減した電極を提供することができる。
【0016】
このように、電極全体としての反りを低減できることで、従来の正極ガイドに比べ、より一層圧力を緩和することもでき、クラックなどの破損の発生を抑制することができる。電極合材層及び絶縁性構造体上に設けられた固体電解質層にも、圧力負荷を分散して均一な圧力を印加することが可能であり、プレス工程におけるクラックなどの破損の発生を抑制することができる。
反りが低減された電極乃至電極積層体を用いるので、破損の発生が抑制された電極積層体と、対となる電極と、を組み合わせることで、製造工程が安定化され、更なるプレス工程における破損の発生を抑制し、正極と負極との短絡が防止されるとともに、電池特性に優れる全固体電池を形成することができる。
【0017】
本実施形態の電極について、以下に更に詳細に説明する。
前記電極は、電極基体と、前記電極基体上に電極合材層と、前記電極合材層の隣接部に絶縁性構造体と、を有する。
前記絶縁性構造体が、荷重を掛けたときの収縮率が互いに異なる、第1の部分と、前記第1の部分とは異なる第2の部分と、を前記電極基体に対して水平な方向に沿って有する。
前記絶縁性構造体は、前記電極基体に対して水平な方向において、第1の部分と、前記第1の部分とは異なる第2の部分と、を有し、第1の部分の収縮率と、第2の部分の収縮率と、が互いに異なる。
【0018】
前記第1の部分と、前記第2の部分とは、絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平方向の任意の2つの部分であればよく、特に制限はなく目的に応じて適宜選択できる。
具体的には、前記電極基体に対して水平方向の任意の2点において、収縮率を評価し、第1の部分の収縮率と、第2の部分の収縮率と、が互いに異なることを同定することにより、前記電極を同定することができる。
【0019】
[収縮率の測定方法]
ここで、前記絶縁性構造体における収縮率は、ロールプレス、一軸プレス、冷間静水等方圧プレス(CIP)などによる、荷重前後の絶縁性構造体(乃至測定対象となる部分)の厚みの変化量(変位量)を荷重前の絶縁性構造体の厚みで除することで求めることができる(下記式参照)。前記厚みは、例えば、レーザ顕微鏡(VK-X3000、株式会社キーエンス製)により測定できる。
収縮率(%)=[(荷重前の絶縁性構造体の厚み-荷重後の絶縁性構造体の厚み)/荷重前の絶縁性構造体の厚み]×100
また、前記収縮率は、国際規格(ISO)14577:計装化押し込み試験に基づくナノインデンテーション法により得られた荷重変位曲線より、収縮量(圧縮量)を評価し、第1の部分の収縮量と、第2の部分の収縮量と、が互いに異なることを同定することができる。具体的には、ナノインデンター(Nano Indenter G200、Keysight Technologies(KLA Corporation)社製)を用いて測定することができる。
前記収縮率を測定する際に、前記絶縁性構造体に掛ける荷重としては、特に制限はなく、プレスする際の圧力などの目的に応じて適宜選択することができるが、有意差が生じる1MPa以上が好ましく、大凡潰れる250MPa以上がより好ましい。また、前記荷重の上限値としては、製造工程でのプレス圧以下が好ましい。
【0020】
前記電極の絶縁性構造体における第1の部分、及び第2の部分としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択できるが、前記第1の部分が、前記絶縁性構造体における前記電極合材層に近い近位部分であり、前記第2の部分が、前記絶縁性構造体における前記電極合材層から遠い遠位部分であり、前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも小さい態様であってもよく(第1の実施形態、近位低収縮率)、前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも大きい態様であってもよく(第2の実施形態、近位高収縮率)、いずれも好適に実施できる。
【0021】
[第1の実施形態(近位低収縮率)]
第1の実施形態における電極は、前記第1の部分が、前記絶縁性構造体における前記電極合材層に近い近位部分であり、前記第2の部分が、前記絶縁性構造体における前記電極合材層から遠い遠位部分であり、前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも小さい。
前記絶縁性構造体に1MPaの荷重を掛けたときの、前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも10%以上小さいことが好ましく、20%以上小さいことがより好ましく、また、30%以下小さいことが好ましく、27%以下小さいことがより好ましい。
【0022】
第1の実施形態について、図15を用いて説明する。図15は第1の実施形態における電極125の断面図である。電極基体121上に形成された電極合材層120に隣接して絶縁性構造体110が形成されており、絶縁性構造体110における、電極合材層120に近い近位部分110aと、電極合材層120から遠い遠位部分110bとで、プレスの際の潰れ易さが異なるよう、荷重を掛けたときの収縮率が異なっており、近位部分110aの収縮率が、遠位部分110bの収縮率よりも小さい。
遠位部分110bの収縮率としては、電極全体としての反りを低減する点で、プレスの際に電極基体121の平面方向へ収縮する程度に潰れ易いことが好ましい。近位部分110aの収縮率としては、プレスの際に固体電解質を構造的に支える枠体としての効果がより得られる点で、電極合材層120と同程度であることが好ましい。
【0023】
第1の実施形態において、絶縁性構造体の収縮率が異なる態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、絶縁性構造体の空隙率が異なる態様であってもよく、絶縁性構造体の硬度が異なる態様であってもよく、絶縁性構造体の厚みが異なる態様であってもよく、いずれの態様も好適に適用できる。
具体的には、(1)近位部分の空隙率が、遠位部分の空隙率よりも小さいこと、(2)近位部分の硬度が、遠位部分の硬度よりも高いこと、(3)近位部分の厚みが、遠位部分の厚みよりも小さいこと、の少なくともいずれか1つを満たすことが好ましい。
【0024】
-(1)空隙率-
前記近位部分の空隙率としては、前記遠位部分の空隙率よりも小さいことが好ましく、10%以上小さいことがより好ましく、20%以上小さいことが更に好ましく、30%以上小さいことが特に好ましい。
遠位部分の空隙率としては、電極全体としての反りを低減する点で、プレスの際に電極基体の平面方向へ収縮する程度に潰れ易いことが好ましい。近位部分の空隙率としては、プレスの際に固体電解質を構造的に支える枠体としての効果がより得られる点で、電極合材層と同程度であることが好ましい。
前記絶縁性構造体の遠位部分の空隙率としては、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。また、近位部分の空隙率としては、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。
遠位部分の空隙率が30%以上であることで、固体電解質層形成後のプレス工程において、絶縁性構造体から固体電解質層にかかる圧力を緩和することができる。また、近位部分の空隙率が20%以下であることで、絶縁性構造体の強度の観点から、プレス工程を経たときに、絶縁性構造体の形状を十分に保つことができる。
【0025】
-空隙率の測定-
前記絶縁性構造体の空隙率の評価方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、絶縁性構造体に、オスミウム染色を施した後で、エポキシ樹脂で真空含浸し、集束イオンビーム(FIB)で内部の断面構造を切り出し、イオンミリング(CP加工)により断面出しを行い、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて空隙率を測定する方法などが挙げられる。
【0026】
-(2)硬度-
前記近位部分の硬度としては、前記遠位部分の硬度よりも高いことが好ましく、10%以上高いことがより好ましく、20%以上高いことが更に好ましい。
遠位部分の硬度としては、電極全体としての反りを低減する点で、プレスの際に電極基体の平面方向へ収縮する程度に潰れ易いことが好ましい。近位部分の硬度としては、プレスの際に固体電解質を構造的に支える枠体としての効果がより得られる点で、電極合材層と同程度であることが好ましい。
【0027】
-硬度の測定方法-
前記絶縁性構造体における硬度としては、収縮率の測定と同様にして、国際規格(ISO)14577:計装化押し込み試験に基づくナノインデンテーション法により得られた荷重変位曲線より、硬度を求めることができる。具体的には、ナノインデンター(Nano Indenter G200、Keysight Technologies(KLA Corporation)社製)を用いて測定することができる。
また、ビッカース硬度計やロックウェル硬度計などを用いて計測することができる。
【0028】
-(3)厚み-
前記近位部分の厚みが、前記遠位部分の厚みよりも大きいことが好ましく、10%以上大きいことがより好ましく、20%以上大きいことが更に好ましい。
ここで、前記絶縁性構造体の厚みを測定するときの電極としては、プレスを施された電極であってもよく、プレス前の電極であってもよい。
【0029】
第1の実施形態において絶縁性構造体の厚みが異なる態様の一例について、図16を用いて説明する。図16は第1の実施形態において絶縁性構造体の厚みが異なる電極225の断面図である。
電極基体221上に形成された電極合材層220に隣接して絶縁性構造体210が形成されており、絶縁性構造体210の、電極合材層220に近い近位部分210aと、電極合材層220から遠い遠位部分210bとで、プレスの際の潰れ易さが異なるよう、荷重を掛けたときの収縮率が異なっており、近位部分210aの収縮率が、遠位部分210bの収縮率よりも小さい。
さらに、プレス前の電極225において、近位部分210aの厚みが、遠位部分210bの厚みよりも小さい。このような構成により、電極合材層220の上部に固体電解質を形成する前に一旦プレスした場合に、プレス後の、近位部分210aの厚みと、遠位部分210bの厚みとが揃うため、電極合材層220の上部に固体電解質層を形成した後再びプレスして電極積層体を製造する際に、固体電解質層を構造的に支える枠体としての効果がより得られる。他の電極構造体と積層し易いという効果も呈する。
【0030】
第1の実施形態において、前記電極合材層が、前記電極基体と接するテーパー面を有し、前記近位部分が、前記テーパー面の少なくとも一部に隣接する態様であってもよい。
具体的には、後述する実施例11~12の電極の概略断面図(図33~34)に示すように、近位部分110aが電極合材層120のテーパー面の一部に隣接して形成され、近位部分110a及びテーパー面に隣接して遠位部分110bが形成されていてもよく、或いは、近位部分110aが電極合材層120のテーパー面の全面に隣接して形成されていてもよい。電極合材層120のテーパー面は、順テーパー形状であってもよく(図33参照)、逆テーパー形状であってもよい(図34参照)。
【0031】
-厚みの測定方法-
前記絶縁性構造体の厚みとしては、集束イオンビーム(FIB)で内部の断面構造を切り出し、走査電子顕微鏡(SEM)観察により、絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平方向の任意の2つの部分として、近位部分及び遠位部分(或いは、第1の部分及び第2の部分)の厚みを測定することにより、求めることができる。
【0032】
[第2の実施形態(近位高収縮率)]
第2の実施形態における電極は、前記第1の部分が、前記絶縁性構造体における前記電極合材層に近い近位部分であり、前記第2の部分が、前記絶縁性構造体における前記電極合材層から遠い遠位部分であり、前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも大きい。
前記絶縁性構造体に1MPaの荷重を掛けたときの、前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも10%以上大きいことが好ましく、20%以上大きいことがより好ましく、また、30%以下大きいことが好ましく、27%以下大きいことがより好ましい。
【0033】
第2の実施形態について、図17を用いて説明する。図17は第2の実施形態における電極325の断面図である。電極基体321上に形成された電極合材層320に隣接して絶縁性構造体310が形成されており、絶縁性構造体310における、電極合材層320に近い近位部分310aと、電極合材層320から遠い遠位部分310bとで、プレスの際の潰れ易さが異なるよう、荷重を掛けたときの収縮率が異なっており、近位部分310aの収縮率が、遠位部分310bの収縮率よりも大きい。
近位部分310aの収縮率としては、電極全体としての反りを低減する点で、プレスの際に電極基体321の平面方向へ収縮する程度に潰れ易いことが好ましい。遠位部分310bの収縮率としては、プレスの際に固体電解質を構造的に支える枠体としての効果がより得られる点で、電極合材層320と同程度であることが好ましい。
【0034】
第2の実施形態において、絶縁性構造体の収縮率が異なる態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、絶縁性構造体の空隙率が異なる態様であってもよく、絶縁性構造体の硬度が異なる態様であってもよく、絶縁性構造体の厚みが異なる態様であってもよく、いずれの態様も好適に適用できる。
具体的には、(1)近位部分の空隙率が、遠位部分の空隙率よりも大きいこと、(2)近位部分の硬度が、遠位部分の硬度よりも低いこと、(3)近位部分の厚みが、遠位部分の厚みよりも大きいこと、の少なくともいずれか1つを満たすことが好ましい。
【0035】
-(1)空隙率-
前記近位部分の空隙率としては、前記遠位部分の空隙率よりも大きいことが好ましく、10%以上大きいことがより好ましく、20%以上大きいことが更に好ましい。
近位部分の空隙率としては、電極全体としての反りを低減する点で、プレスの際に電極基体の平面方向へ収縮する程度に潰れ易いことが好ましい。遠位部分の空隙率としては、プレスの際に固体電解質を構造的に支える枠体としての効果がより得られる点で、電極合材層と同程度であることが好ましい。
前記絶縁性構造体の近位部分の空隙率としては、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。また、遠位部分の空隙率としては、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。
近位部分の空隙率が30%以上であることで、固体電解質層形成後のプレス工程において、絶縁性構造体から固体電解質層にかかる圧力を緩和することができる。また、遠位部分の空隙率が20%以下であることで、絶縁性構造体の強度の観点から、プレス工程を経たときに、絶縁性構造体の形状を十分に保つことができる。
【0036】
-(2)硬度-
前記近位部分の硬度としては、前記遠位部分の硬度よりも低いことが好ましく、10%以上低いことがより好ましく、20%以上低いことが更に好ましい。
近位部分の硬度としては、電極全体としての反りを低減する点で、プレスの際に電極基体の平面方向へ収縮する程度に潰れ易いことが好ましい。遠位部分の硬度としては、プレスの際に固体電解質を構造的に支える枠体としての効果がより得られる点で、電極合材層と同程度であることが好ましい。
【0037】
-(3)厚み-
前記近位部分の厚みが、前記遠位部分の厚みよりも小さいことが好ましく、10%以上小さいことがより好ましく、20%以上小さいことが更に好ましい。
ここで、前記絶縁性構造体の厚みを測定するときの電極としては、プレスを施された電極であってもよく、プレス前の電極であってもよい。
【0038】
第2の実施形態において絶縁性構造体の厚みが異なる態様の一例について、図18を用いて説明する。図18は第2の実施形態において近位部分の厚みが大きい電極425の断面図である。
電極基体421上に形成された電極合材層420に隣接して絶縁性構造体410が形成されており、絶縁性構造体410の、電極合材層420に近い近位部分410aと、電極合材層420から遠い遠位部分410bとで、プレスの際の潰れ易さが異なるよう、荷重を掛けたときの収縮率が異なっており、近位部分410aの収縮率が、遠位部分410bの収縮率よりも大きい。
さらに、プレス前の電極425において、近位部分410aの厚みが、遠位部分410bの厚みよりも大きい。このような構成により、電極合材層420の上部に固体電解質を形成する前に一旦プレスした場合に、プレス後の、近位部分410aの厚みと、遠位部分410bの厚みとが揃うため、電極合材層420の上部に固体電解質層を形成した後再びプレスして電極積層体を製造する際に、固体電解質層を構造的に支える枠体としての効果がより得られる。他の電極構造体と積層し易いという効果も呈する。
【0039】
第2の実施形態において絶縁性構造体の厚みが異なる態様の他の例について、図19を用いて説明する。図19は第2の実施形態において遠位部分の厚みが大きい電極525の断面図である。
電極基体521上に形成された電極合材層520に隣接して絶縁性構造体510が形成されており、絶縁性構造体510の、電極合材層520に近い近位部分510aと、電極合材層520から遠い遠位部分510bとで、プレスの際の潰れ易さが異なるよう、荷重を掛けたときの収縮率が異なっており、近位部分510aの収縮率が、遠位部分510bの収縮率よりも大きい。
さらに、電極525でのプレス前の状態かプレス後の状態かに関わらず、電極構造体を重ね合わせてプレスする前において、遠位部分510bの厚みが、近位部分510aの厚みよりも大きい。このような構成により、電気化学素子を製造する際に、電極525の絶縁性構造体510に対向する部材(例えば、対向電極の絶縁性構造体)との密着性が向上したり、プレスの際に電極が伸びることを拘束して伸びにくくしたりする効果を呈する。
【0040】
(電極積層体)
本発明の電極積層体は、上記した本発明の電極と、前記電極上に固体電解質層と、を有する。
換言すると、本発明の電極積層体は、電極基体と、前記電極基体上に電極合材層と、前記電極合材層の隣接部に絶縁性構造体と、前記電極合材層及び前記絶縁性構造体上に固体電解質層と、を有する。
前記絶縁性構造体が、荷重を掛けたときの収縮率が互いに異なる、第1の部分と、前記第1の部分とは異なる第2の部分と、を前記電極基体に対して水平な方向に沿って有する。
【0041】
電極積層体の一態様について、図20を用いて説明する。図20は第1の実施形態における電極125を有する電極積層体135の断面図である。電極基体121上に形成された電極合材層120に隣接して絶縁性構造体110が形成されており、さらに、電極合材層120及び絶縁性構造体110の上に固体電解質層130が形成される。
絶縁性構造体110における、電極合材層120に近い近位部分110aと、電極合材層120から遠い遠位部分110bとで、プレスの際の潰れ易さが異なるよう、荷重を掛けたときの収縮率が異なっており、近位部分110aの収縮率が、遠位部分110bの収縮率よりも小さい。
固体電解質層130は、絶縁性構造体110の一部を覆っていてもよく、絶縁性構造体110の全体を覆っていてもよいが、近位部分110aの一部又は全体を覆い、遠位部分110bを覆わないことが好ましい。すなわち、電極125が、電極合材層120及び絶縁性構造体110の近位部分110a上に固体電解質層130を有することが好ましい。このような構成により、電極積層体の製造過程において、固体電解質層130形成用の塗布液を塗布した際に絶縁性構造体110への塗布液の染み込みが生じにくくなるため、電池特性が悪化しにくい効果が得られる。
【0042】
電極積層体の他の態様について、図21を用いて説明する。図21は第2の実施形態における電極325を有する電極積層体335の断面図である。電極基体321上に形成された電極合材層320に隣接して絶縁性構造体310が形成されており、さらに、電極合材層320及び絶縁性構造体310の上に固体電解質層330が形成される。
絶縁性構造体310における、電極合材層320に近い近位部分310aと、電極合材層320から遠い遠位部分310bとで、プレスの際の潰れ易さが異なるよう、荷重を掛けたときの収縮率が異なっており、近位部分310aの収縮率が、遠位部分310bの収縮率よりも大きい。
固体電解質層330は、絶縁性構造体310の一部を覆っていてもよく、絶縁性構造体310の全体を覆っていてもよいが、潰れ易い近位部分310aを渡って遠位部分310bの一部又は全体を覆うことが好ましく、遠位部分310bの全体を覆うことがより好ましい。すなわち、電極325が、電極合材層320、絶縁性構造体310の近位部分310a、及び遠位部分310b上に固体電解質層330を有することが好ましい。このような構成により、プレスの際に、固体電解質層330が外側に押し出されるのを、潰れ難い遠位部分310bが枠体として構造的に支えるとともに、潰れ易い近位部分310aが固体電解質層330の変形を吸収し、固体電解質の押し出しを抑えながら良好に電極合材層320と固体電解質層330とを密着させることができるという効果が得られる。
【0043】
図1に、本発明の電極の一例を示す。図1は、電極25の断面図であり、電極25は、第1の電極基体21、及び第1の電極基体21上に電極合材層20と、を有する第1の電極と、第1の電極合材層20の隣接部に絶縁性構造体10と、を有し、絶縁性構造体10に荷重を掛けたときに、絶縁性構造体10における第1の部分の収縮率と、絶縁性構造体10における前記第1の部分とは異なる第2の部分の収縮率と、が互いに異なる。
なお、図1では、第1の電極基体21の片面に電極合材層20と、絶縁性構造体10が設けられた構成を図示しているが、第1の電極基体21の対向する両面に、電極合材層20と、絶縁性構造体10が設けられていてもよい。
例えば、図22~24に示すように、第1の電極基体21の表面と裏面とで、電極合材層20、20’乃至絶縁性構造体10、10’の材料や絶縁性構造体の収縮率が異なる両面電極であってもよく(図22)、電極合材層乃至絶縁性構造体のサイズが異なる両面電極であってもよく(図23)、電極合材層乃至絶縁性構造体の厚みが異なる両面電極であってもよく(図24)、いずれの場合も好適に適用でき、プレスによって電極合材層に起因する反りが発生する電極において、電極全体の反りを低減することができる。
【0044】
図2に、本発明の電極積層体の一例を示す。図2は、電極積層体35の断面図であり、電極積層体35は、第1の電極基体21と、第1の電極基体21上に第1の電極合材層20と、第1の電極合材層20の隣接部に絶縁性構造体10と、第1の電極合材層20及び絶縁性構造体10上に固体電解質層30と、を有し、絶縁性構造体10に荷重を掛けたときに、絶縁性構造体10における第1の部分の収縮率と、絶縁性構造体10における前記第1の部分とは異なる第2の部分の収縮率と、が互いに異なる。
電極積層体35における電極25としては、図14~19、及び図22~24に示す各実施形態を好適に適用することができる。また、電極積層体35としては、図20~21に示す各実施形態を好適に適用することができる。
なお、図2では、第1の電極基体21の片面に電極合材層20と、絶縁性構造体10と、固体電解質層30が設けられた構成を図示しているが、第1の電極基体21の対向する両面に、電極合材層20と、絶縁性構造体10と、固体電解質層30が設けられていてもよい。
【0045】
そして、図3に、後述する本発明の電気化学素子の一例を示す。図3は、電気化学素子45の断面図であり、電気化学素子45は、電極積層体35上に、第2の電極基体41、及び第2の電極基体41上に電極合材層40と、を有する第2の電極を有し、固体電解質層30と、電極合材層40とが互いに面する。電気化学素子45は、単電池層であり、これを積層して積層電池とすることができる。
なお、図3では、第1の電極基体21の片面に電極合材層20と、絶縁性構造体10と、固体電解質層30が設けられた構成を図示しているが、第1の電極基体21の対向する両面に、電極合材層20と、絶縁性構造体10と、固体電解質層30が設けられていてもよく、この構成が積層された積層電池としてもよい。
【0046】
以下に、本発明の電極、及び電極積層体の各構成について説明する。
<電極(第1の電極、第2の電極)>
前記電極は、電極基体と、電極合材層と、絶縁性構造体と、を有する。
負極と正極とを総称して「電極」と称し、負極用電極基体と正極用電極基体とを総称して「電極基体」と称し、負極合材層と正極合材層とを総称して「電極合材層」と称する。
また、第1の電極が負極であった場合は第2の電極は正極を指し、第1の電極が正極であった場合は第2の電極は負極を指す。
【0047】
<電極基体>
前記電極基体としては、導電性を有し、印加される電位に対して安定基材であれば、特に制限はなく、例えば、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、チタニウム箔、及びそれらをエッチングして微細な穴を開けたエッチド箔や、リチウムイオンキャパシタに用いられる穴あき電極基体などが挙げられる。
【0048】
<電極合材層>
前記電極合材層(以下、「活物質層」と称することがある)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、活物質(負極活物質又は正極活物質)を含み、更に必要に応じて、導電助剤、バインダ、分散剤、固体電解質、その他の成分を含んでもよい。
【0049】
<<活物質>>
前記活物質としては、正極活物質又は負極活物質を用いることができる。なお、正極活物質又は負極活物質は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記正極活物質としては、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に制限はないが、アルカリ金属含有遷移金属化合物を用いることができる。
前記アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄及びバナジウムからなる群より選択される1種以上の元素とリチウムとを含む複合酸化物等のリチウム含有遷移金属化合物が挙げられる。
前記リチウム含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。
前記アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、結晶構造中にXO4四面体(X=P,S,As,Mo,W,Si等)を有するポリアニオン系化合物も用いることができる。これらの中でも、サイクル特性の点で、リン酸鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム等のリチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましく、リチウム拡散係数、出力特性の点で、リン酸バナジウムリチウムが特に好ましい。
なお、ポリアニオン系化合物は、電子伝導性の点で、炭素材料等の導電助剤により表面が被覆されて複合化されていることが好ましい。
【0050】
前記負極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に制限はないが、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を用いることができる。
前記炭素材料として、天然黒鉛、球状又は繊維状の人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。
炭素材料以外の材料としては、チタン酸リチウム、酸化チタンなどが挙げられる。
また、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高める観点から、シリコン、錫、シリコン合金、錫合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化錫等の高容量材料も負極活物質として好適に使用できる。
【0051】
<<導電助剤>>
前記導電助剤としては、例えば、ファーネス法、アセチレン法、ガス化法等により製造されているカーボンブラックや、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛粒子等の炭素材料を用いることができる。炭素材料以外の導電助剤としては、例えば、アルミニウム等の金属粒子、金属繊維を用いることができる。なお、導電助剤は予め活物質と複合化されていてもよい。
前記活物質に対する前記導電助剤の質量比としては、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。活物質に対する導電助剤の質量比が10質量%以下であると、電極合材層の安定性が向上する。また、活物質に対する導電助剤の質量比が8質量%以下であると、電極合材層の安定性が更に向上する。
【0052】
<<バインダ>>
前記バインダは、負極材料同士、正極材料同士、負極材料と負極用電極基体、正極材料と正極用電極基体を結着することが可能であれば、特に制限はない。ただし、電極合材層形成用の組成物をインクジェット吐出に用いる場合は、液体吐出ヘッドのノズル詰まりを抑制する観点から、バインダは、電極合材層形成用の組成物の粘度を上昇させにくいことが好ましい。
【0053】
前記活物質に対する前記バインダの含有量としては、1質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量以上10質量%以下がより好ましい。活物質に対するバインダの含有量が1質量%以上であると、活物質を電極基体に強固に結着させることが可能である。
【0054】
前記バインダとしては、高分子化合物を用いることができる。
例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテフタレート、ポリブチレンテフタレート等の熱可塑性樹脂、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物、ポリアミドイミド、エチレン-プロピレン-ブタジエンゴム(EPBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、イソプレンゴム、ポリイソブテン、ポリエチレングリコール(PEO)ポリメチルメクリル酸(PMMA)、ポリエチレンビニルアセテート(PEVA)などが挙げられる。
【0055】
<<固体電解質>>
前記電極合材層に含まれる固体電解質層を構成する材料としては、電子絶縁性を有し、かつ、イオン電導性を示す固体物質であれば、特に制限はないが、硫化物固体電解質や酸化物系固体電解質が、高いイオン導電性を有する観点で好ましい。
前記硫化物固体電解質としては、例えば、Li10GeP12、アルジロダイト型結晶構造を有するLiPSX(X=F,Cl,Br,I)などが挙げられる。
前記酸化物系固体電解質としては、例えば、ガーネット型結晶構造を有するLLZ(LiLaZr12)やNASICON型結晶構造を有するLATP(Li1+xAlxTi20x(PO)(0.1≦x≦0.4)、ペロブスカイト型結晶構造を有するLLT(Li0.33La0.55TiO)、アモルファス状のLIPON(Li2.9PO3.30.4)などが挙げられる。
【0056】
<<その他の成分>>
その他の成分としては、例えば、分散剤が挙げられる。
【0057】
<<<分散剤>>>
前記分散剤としては、電極合材層形成用組成物中の活物質の分散性を向上させることが可能であれば、特に制限はないが、例えば、ポリエチレンオキシド系、ポリプロピレンオキシド系、ポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、ポリエチレングリコール系、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等の高分子分散剤;アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系高級アルコールアルキレンオキサイド系、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系等の低分子分散剤;ポリリン酸塩系分散剤等の無機分散剤;などが挙げられる。
【0058】
上記に挙げたもの以外でも、当該発明の趣旨を逸脱するものでなければ、特に制限はない。また、これら固体電解質を、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの固体電解質層を構成するために液体に溶解又は分散させる電解質材料としては、固体電解質の前駆体となる材料である、例えば、LiSとP、LiCl、固体電解質の材料であるLiS-P系ガラス、Li11ガラスセラミクスなどが挙げられる。
【0059】
<絶縁性構造体>
前記絶縁性構造体は、前記電極基体上に設けられた電極合材層の隣接部に設けられる。
前記絶縁性構造体の材質としては、絶縁性であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂、ガラス、セラミクス、ゴムなどが挙げられる。これらの中でも、樹脂(ポリマー)が好ましく、例えば、重合性組成物を重合させてなる樹脂、樹脂溶液を塗布してなる樹脂などが好適に挙げられる。
前記絶縁性構造体は、多孔質構造体であることが好ましく、樹脂を骨格とする共連続構造を有することがより好ましい。
前記絶縁性構造体の体積固有抵抗率としては、1×1012(Ω・cm)以上が好ましい。
ここで、「共連続構造」とは、2種以上の物質乃至相が、それぞれ連続構造を有し、界面を形成しない構造を意味し、本実施形態においては、樹脂相と空孔相とが共に三次元分岐網目連続相となっている構造を意味する。このような構造は、例えば、後述する重合性組成物を重合誘起相分離法によって重合することにより形成することができる。
【0060】
前記絶縁性構造体の形状、及び設ける領域について、図を用いて説明する。図4~6は、図1に示す電極25の上面図、及び他の実施形態の上面図である。
図4において、絶縁性構造体10は、電極合材層20の2辺に隣接して設けられる。図5においては、2つの領域の絶縁性構造体10のそれぞれは、電極合材層20の1つの長辺と当該長辺の2つの角に隣接して設けられる。
また、図6に示すように、絶縁性構造体10は、電極合材層20の4辺全てに連続的に隣接して設けられてもよく、図示しないが断続的に隣接して設けられてもよい。
前記絶縁性構造体は、前記電極合材層の端面と隣接する前記絶縁性構造体の一連の90%以上の領域において、前記電極合材層の端面に接触して連続し、前記電極合材層の前記電極基体と接する端部を被覆することが好ましい。
【0061】
ここで、「電極合材層の隣接部」に設けられるとは、前記電極合材層の隣接部の少なくとも2辺に前記絶縁性構造体が設けられていればよく、前記絶縁性構造体が、前記電極合材層の隣接部の3辺に設けられていてもよく、4辺(すべての辺)に設けられていてもよい。また、前記絶縁性構造体は、任意の辺において、電極タブを突出させるための凹部や、切り欠き部を有していてもよい。
また、「電極基体の隣接部」に設けられるとは、電極基体の端部を含むように絶縁性構造体が設けられてもよく、図4~6のように絶縁性構造体の周囲に電極基体の余白をもって絶縁性構造体が設けられていてもよい。
【0062】
また、前記絶縁性構造体における500MPa、5分間の押圧後の圧縮率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1%以上50%以下が好ましく、5%以上20%以下がより好ましい。
前記圧縮率が50%以下であると、絶縁性構造体の強度の観点から、プレス工程を経たときに、絶縁性構造体の形状を十分に保つことができる。前記圧縮率が1%以上であると、固体電解質層形成後のプレス工程において、絶縁性構造体から固体電解質層にかかる圧力を緩和することができる。
【0063】
前記絶縁性構造体が、共連続構造を有することで、電極合材層の厚みと、絶縁性構造体の厚みと、を略同等にしようとした際に、プレスにより容易に精度高く絶縁性構造体の厚みを制御することができる。また、前記絶縁性構造体は、後述する通り塗布及び重合誘起相分離法により形成できることによっても容易に絶縁性構造体の厚みを制御することができる。共連続構造を有する多孔質の樹脂層であれば、プレスした際に生じる圧力を効率よく逃がせることが可能となるため、樹脂層の破壊や高低差ムラなどといった不具合の発生を抑制し、品質のよい樹脂層を得ることができる。
【0064】
デンドライド析出による短絡が生じ得る電気化学素子においては、通常、正極合材層よりも負極合材層を大きくする構成が一般的である。このとき、正極集電体及び負極集電体が略同等の大きさであると、正極集電体上において、負極の負極合材層が対向する領域において、正極合材層が形成されない余剰部が発生する。電気学素子特性の観点から、絶縁性構造体は、正極の余剰部、即ち正極合材層の隣接部に設けられることが好ましい。なお、電気化学素子としたときに、正極合材層よりも負極合材層を小さくする構成がとられる場合であれば、絶縁性構造体は負極の余剰部、即ち負極合材層の隣接部に設けられることが好ましい。
【0065】
前記絶縁性構造体が多孔質構造体であること、すなわち、共連続構造を有し、空孔が連通していることを確認する方法としては、例えば、上述した空隙率の測定により、多孔質構造体の断面を走査電子顕微鏡(SEM)等により画像観察し、空孔同士の繋がりが連続していることを確認する方法が挙げられる。また、空孔が連通していることで得られる物性の一つとして透気度が挙げられる。
【0066】
[透気度]
前記多孔質構造体の透気度としては、1,000秒/100mL以下が好ましく、500秒/100mL以下がより好ましく、300秒/100mL以下が更に好ましい。
前記透気度は、JIS P8117に準拠して測定される透気度であり、例えば、ガーレー式デンソメーター(株式会社東洋精機製作所製)等を用いて測定することができる。
一例として、透気度が1,000秒/100mL以下であることをもって空孔が連通していると判断してもよい。
【0067】
前記多孔質構造体が有する孔の断面形状としては、略円形状、略楕円形状、略多角形状等の様々な形状及び様々な大きさであって構わない。ここで、孔の大きさとは、断面形状における最も長い部分の長さを指すものとする。孔の大きさは、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した断面写真から求めることができる。
前記多孔質構造体の有する孔の大きさとしては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択できるが、孔の大きさと絶縁性構造体上に設けられる固体電解質層を形成するための重合性組成物に含まれる固体電解質のメジアン径との比が1よりも小さいことが好ましく、0.8以下であることがより好ましい。孔の大きさが、固体電解質のメジアン径よりも大きい場合、絶縁性構造体の孔内に固体電解質が含まれやすくなってしまう。上記範囲とすることで絶縁性構造体に固体電解質が含まれにくい構成とすることができ、プレス時の圧力分散や、絶縁性構造体から固体電解質にかかる圧力の緩和の点で有利である。
多孔質構造体の有する孔の大きさ及び空隙率をこれらの範囲にする方法としては、特に限定されないが、例えば、重合性組成物中における重合性化合物の含有量を上記の範囲に調整する方法、重合性組成物中におけるポロジェンの含有量を上記の範囲に調整する方法、及び活性エネルギー線の照射条件を調整する方法などが挙げられる。
【0068】
前記絶縁性構造体の平均厚みとしては、特に限定はなく、電極合材層の平均厚みなどの各種条件に応じて適宜選択することができるが、1.0μm以上150.0μm以下が好ましく、10.0μm以上100.0μm以下がより好ましい。平均厚みが10.0μm以上であることで圧力負荷を分散することができるとともに、正極と負極との短絡を防止することができ、100.0μm以下にすることで密度が高く電池特性に優れる電気化学素子を製造できる。
前記平均厚みは、任意の3点以上の厚みを測定し、その平均を算出することにより求めることができる。
【0069】
<固体電解質層>
前記固体電解質層の固体電解質としては、前記電極合材層の固体電解質として説明した材料を適宜選択して用いることができる。
前記固体電解質層はバインダを含んでもよく、前記バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテフタレート、ポリブチレンテフタレート等の熱可塑性樹脂、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物、ポリアミドイミド、エチレン-プロピレン-ブタジエンゴム(EPBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリブチルメタクリレート(PBMA)、イソプレンゴム、ポリイソブテン、ポリエチレングリコール(PEO)、ポリエチレンビニルアセテート(PEVA)などが挙げられる。
【0070】
(絶縁性材料セット)
本発明の絶縁性材料セットは、第1の絶縁性材料と、第2の絶縁性材料と、を有する絶縁性材料セットであり、前記第1の絶縁性材料から形成された構造体の収縮率と、前記第2の絶縁性材料から形成された構造体の収縮率とが、互いに異なる。
前記絶縁性材料セットによれば、上記した本発明の電極を好適に製造することができる。
【0071】
前記絶縁性材料セットとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、以下の各態様が好適に挙げられる。
(1)前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料が、重合性組成物であり、前記第1の絶縁性材料から形成された構造体の収縮率と、前記第2の絶縁性材料から形成された構造体の収縮率とが、互いに異なる態様、
(2)前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料が、重合反応誘起相分離性の重合性組成物であり、前記第1の絶縁性材料の相分離性と、前記第2の絶縁性材料の相分離性とが、互いに異なる態様、
(3)前記第1の絶縁性材料が、第1の粒子を含む重合性組成物であり、前記第2の絶縁性材料が、第2の粒子を含む重合性組成物であり、前記第1の粒子の平均粒径と、前記第2の粒子の平均粒径とが、互いに異なる態様、
(4)前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料が、重合性組成物であり、前記第1の絶縁性材料から形成された構造体の硬度と、前記第2の絶縁性材料から形成された構造体の硬度とが、互いに異なる態様。
【0072】
第1の絶縁性材料及び第2の絶縁性材料は、互いに異なってもよく、互いに同じであってもよい。
互いに異なる場合、第1の絶縁性材料及び第2の絶縁性材料を用いて第1の部分及び第2の部分を塗り分けることにより、第1の部分の収縮率と、第2の部分の収縮率と、が互いに異なる絶縁性構造体を有する本発明の電極を好適に製造することができる。
互いに同じである場合、絶縁性構造体の前駆体における第1の部分及び第2の部分の厚みが互いに異なる電極前駆体を製造し、プレスすることにより、第1の部分の収縮率と、第2の部分の収縮率と、が互いに異なる絶縁性構造体を有する本発明の電極を好適に製造することができる。
【0073】
-重合性組成物-
前記重合性組成物は、絶縁性構造体を形成するための重合性組成物であって、重合性化合物を含み、溶媒乃至液体を含むことが好ましく、更に必要に応じて、重合開始剤などのその他の成分を含む。
前記重合性組成物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、以下の第1の実施形態、第2の実施形態、及び第3の実施形態が好適に挙げられる。
【0074】
[第1の実施形態の重合性組成物]
第1の実施形態としての前記重合性組成物は、下記一般式(1)で表される重合性化合物と、下記一般式(2)で表される非水系溶媒と、を含み、更に必要に応じて、重合開始剤などのその他の成分を含む。
前記一般式(2)のAが水酸基である場合の前記水酸基における水素原子と酸素原子のミリカン電荷の差が0.520以上であり、前記一般式(2)のAがアミノ基である場合の前記アミノ基における水素原子と窒素原子のミリカン電荷の差が0.470以上である。
【0075】
【化1】
(ただし、前記一般式(1)中、Rは、酸素原子を有してよい炭素数2以上のn価の官能基を示し、nは、2~6の整数を示す。)
【0076】
【化2】
(ただし、前記一般式(2)中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭化水素基を示し、R、R及びRの合計の炭素数が4以上であり、Aは、水酸基又は-NRHで表されるアミノ基を示し、Rは、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。)
【0077】
第1の実施形態としての前記重合性組成物は、硫化物固体電解質のイオン電導性の低下を抑制でき、反りの少ない絶縁性構造体を形成することができる。
【0078】
前記重合性化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2官能アルキルアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールアクリル酸付加物、2官能ポリエチレングリコールアクリレート、2官能ポリプロピレングルコールアクリレート、2官能ポリテトラメチレングリコールアクリレート、2官能環状アクリレート、2官能アルコキシ化芳香族系アクリレート、2官能アクリル酸多量体エステルアクリレート等の2官能アクリレート;3官能トリメチロールプロパンアクリレート、3官能アルコキシ化グリセリンアクリレート、3官能イソシアヌネートアクリレート等の3官能アクリレート;4官能ペンタエリストールアクリレート、4官能ジトリメチロールプロパンアクリレート、4官能ジグリセリンテトラアクリレート、6官能ジペンタエリストールヘキサアクリレート等の4~6官能アクリレート;などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
[第2の実施形態の重合性組成物]
第2の実施形態としての前記重合性組成物は、下記一般式(3)で表される平均分子量が700未満の重合性化合物と、非芳香族系化合物である溶剤と、を含み、更に必要に応じて、重合開始剤などのその他の成分を含む。
前記重合性化合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を(δ ,δ ,δ )、前記重合性化合物の体積分率をXとし、前記溶剤のHSPを(δ ,δ ,δ )、前記溶剤の体積分率をXとし、前記重合性組成物のHSPを(δ ,δ ,δ )、前記重合性組成物の体積分率をX+X=1とし、ΔHSPが下記式(I)で表され、前記重合性化合物と前記溶剤との相溶限界となるΔHSPをΔHSP SLとしたときの、ΔHSPとΔHSP SLとの関係が下記式(II)を満たす。
式(I)
ΔHSP=(δ -δ +(δ -δ +(δ -δ
式(II)
0.51≦ΔHSP≦ΔHSP SL
【0080】
【化3】
(ただし、前記一般式(3)中、Rは、非環式アルキレン基及び非環式アルキレンオキシド基の少なくともいずれかを示し、Yは、水素原子又は-O-COCH=CH基を示す。)
【0081】
第2の実施形態としての前記重合性組成物は、樹脂層形成時の硬化収縮と膨潤収縮とを同時に低減でき、100μmスケールの厚みを有する樹脂層でも反りが抑制された樹脂層を形成することができる。
【0082】
前記Yが水素原子の場合は、前記重合性化合物は2官能のアクリレートであり、前記Yが-O-COCH=CH基(すなわち、アクリル基に酸素原子が結合した基)の場合は、前記重合性化合物は3官能のアクリレートである。
前記2官能のアクリレートとしては、2官能非環式アルキルアクリレート;2官能非環式ポリエチレングリコールアクリレート、2官能非環式ポリプロピレングリコールアクリレート、2官能非環式ポリテトラメチレングリコールアクリレート等の2官能非環式ポリアルキレンオキシドアクリレートなどが挙げられる。
前記3官能のアクリレートとしては、3官能非環式アルキルアクリレート、3官能非環式ポリアルキレンオキシドアクリレートなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
前記溶剤としては、非芳香族系化合物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルコール系溶剤、アミン系溶剤、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルデヒド系溶剤、チオール系溶剤などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
[第3の実施形態の重合性組成物]
第3の実施形態としての前記重合性組成物は、重合性化合物、及び液体を含み、更に必要に応じて、重合開始剤などのその他の成分を含む。
前記重合性組成物は、多孔質樹脂を形成し、前記重合性組成物を撹拌しながら測定した波長550nmにおける光透過率が、30%以上であり、前記重合性組成物を重合して作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上である。
第3の実施形態としての重合性組成物については、特開2021-088691号公報に記載された事項を適宜選択することができる。
以下に、第1~第3の実施形態に共通する事項、及び各実施形態(主に、第3の実施形態)に関する事項について、説明する。
【0085】
前記重合反応誘起相分離性の重合性組成物は、多孔質構造体を形成する。すなわち、重合性組成物における重合性化合物の重合及び硬化により樹脂を骨格とする多孔質構造を有する樹脂構造体(「多孔質樹脂」又は「多孔質構造体」とも称する)を形成する。
ここで、「重合性組成物が多孔質樹脂を形成する」とは、重合性組成物中において多孔質樹脂が形成される場合だけでなく、重合性組成物中において多孔質樹脂の前駆体(例えば、多孔質樹脂の骨格部)が形成され、その後の処理(例えば、加熱処理等)で多孔質樹脂が形成される場合等も含む意味である。
【0086】
--重合性化合物--
前記重合性化合物は、重合することにより樹脂を形成し、重合性組成物の組成及び特徴により多孔質樹脂を形成する。
前記重合性化合物は、重合することにより重合物(樹脂)を形成する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の重合性化合物を選択することができるが、少なくとも1つのラジカル重合性官能基を有することが好ましい。
前記重合性化合物としては、例えば、1官能、2官能、又は3官能以上のラジカル重合性モノマー、ラジカル重合性オリゴマー等のラジカル重合性化合物;重合性官能基以外の官能基を更に有する機能性モノマー、機能性オリゴマーなどが好適に挙げられる。これらの中でも、2官能以上のラジカル重合性化合物が好ましい。
前記重合性化合物の重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、及びビニル基の少なくともいずれかが好ましく、(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
前記重合性化合物が、活性エネルギー線の照射によって重合可能であることが好ましく、熱又は光により重合可能であることがより好ましい。
【0087】
重合性化合物により形成される樹脂は、活性エネルギー線の付与(例えば、光の照射や加熱)等で形成される網目状の構造体を有する樹脂であることが好ましく、例えば、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、エン-チオール反応により形成される樹脂などが好適に挙げられる。
これらの中でも、反応性の高いラジカル重合を利用して構造体を形成することが容易な点から、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるアクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂がより好ましく、また、生産性の観点から、ビニル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるビニルエステル樹脂がより好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、重合性化合の組み合わせとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、柔軟性付与のため、ウレタンアクリレート樹脂を主成分として他の樹脂を混合することが好ましい。なお、アクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくともいずれかを有する重合性化合物を、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と称する。
【0088】
前記活性エネルギー線としては、重合性組成物中の重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線などが挙げられる。これらの中でも紫外線が好ましい。特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
活性エネルギー線の照射強度は、1W/cm以下が好ましく、300mW/cm以下がより好ましく、100mW/cm以下が更に好ましい。但し、活性エネルギー線の照射強度が低すぎると、相分離が過度に進行することで多孔質構造のばらつきや粗大化が生じやすくなり、更に、照射時間も長くなって生産性が低下することから、10mW/cm以上が好ましく、30mW/cm以上がより好ましい。
【0089】
前記1官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0090】
前記2官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0091】
前記3官能以上のラジカル重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0092】
前記重合性化合物の含有量は、重合性組成物全量に対して、5.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上50.0質量%以下がより好ましく、20.0質量%以上40.0質量%以下が更に好ましい。
前記含有量が70.0質量%以下である場合、得られる多孔質体の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質体が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、前記含有量が5.0質量%以上である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0093】
--液体--
前記液体は、ポロジェンを含み、更に必要に応じて、ポロジェン以外のその他の液体を含む。
前記ポロジェンは、重合性化合物と相溶する液体であって、かつ、重合性組成物中において重合性化合物が重合していく過程で重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。重合性組成物中にポロジェンが含まれることで、重合性化合物が重合した場合に、多孔質樹脂を形成する。また、光又は熱によってラジカル又は酸を発生する化合物(後述する重合開始剤)を溶解可能であることが好ましい。
液体乃至ポロジェンは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
なお、本実施形態において、液体は重合性を有さない。
【0094】
ポロジェンの1種単独としての沸点又は2種類以上を併用した場合の沸点としては、常圧において、50℃以上250℃以下が好ましく、70℃以上200℃以下がより好ましく、120℃以上190℃以下が更に好ましい。沸点が50℃以上であることにより、室温付近におけるポロジェンの気化が抑制されて重合性組成物の取扱が容易になり、重合性組成物中におけるポロジェンの含有量の制御が容易になる。また、沸点が250℃以下であることにより、重合後のポロジェンを除去する工程における時間が短縮され、多孔質樹脂の生産性が向上する。また、多孔質樹脂の内部に残存するポロジェンの量を抑制することができるので、多孔質樹脂を物質間の分離を行う物質分離層や反応場としての反応層などの機能層として利用する場合に、品質が向上する。
【0095】
ポロジェンとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール類;γブチロラクトン、炭酸プロピレン等のエステル類;N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;などを挙げることができる。また、テトラデカン酸メチル、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、テトラデカン等の比較的分子量の大きな液体も挙げることができる。また、アセトン、2-エチルヘキサノール、1-ブロモナフタレン等の液体も挙げることができる。
【0096】
なお、上記の例示された液体であれば常にポロジェンに該当するわけではない。
ポロジェンとは、上記の通り、重合性化合物と相溶する液体であって、かつ液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。言い換えると、ある液体がポロジェンに該当するか否かは、重合性化合物及び重合物(重合性化合物が重合することにより形成される樹脂)との関係で決まる。
また、液体組成物は、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればよいため、液体組成物作製時の材料選択の幅が広がり、液体組成物の設計が容易になる。液体組成物作製時の材料選択の幅が広がることで、多孔質構造の形成以外の観点で液体組成物に求められる特性がある場合に、対応の幅が広がる。例えば、液体組成物をインクジェット方式で吐出する場合、多孔質形成以外の観点として、吐出安定性等を有する液体組成物であることが求められるが、材料選択の幅が広いため、液体組成物の設計が容易になる。
【0097】
前記液体乃至ポロジェンの含有量としては、液体組成物全量に対して、30.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、50.0質量%以上90.0質量%以下がより好ましく、60.0質量%以上80.0質量%以下が更に好ましい。
前記液体乃至ポロジェンの含有量が30.0質量%以上である場合、得られる多孔質体の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質体が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、前記液体乃至ポロジェンの含有量が95.0質量%以下である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0098】
なお、液体組成物は、上記の通り、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればよいため、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有さないその他の液体(ポロジェンではない液体)を追加的に含有していてもよい。
前記その他の液体の含有量としては、液体組成物全量に対して10.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、0質量%(含まれないこと)が特に好ましい。
【0099】
液体組成物中における重合性化合物の含有量とポロジェンの含有量の質量比(重合性化合物:ポロジェン)は、1.0:0.4~1.0:19.0が好ましく、1.0:1.0~1.0:9.0がより好ましく、1.0:1.5~1.0:4.0が更に好ましい。
【0100】
[重合誘起相分離]
多孔質樹脂は、重合誘起相分離により形成される。重合誘起相分離は、重合性化合物とポロジェンは相溶するが、重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)とポロジェンは相溶しない(相分離を生じる)状態を表す。相分離により多孔質体を得る方法は他にも存在するが、重合誘起相分離の方法を用いることで、網目構造を有する多孔質体を形成できるために、薬品や熱に対する耐性の高い多孔質体が期待できる。また、他の方法と比較して、プロセス時間が短く、表面修飾が容易といったメリットも挙げられる。
【0101】
次に、重合性化合物を含む重合性組成物による、重合誘起相分離を用いた多孔質樹脂の形成プロセスについて説明する。重合性化合物は、光照射等により重合反応を生じて樹脂を形成する。このプロセスの間、成長中の樹脂におけるポロジェンに対する溶解度が減少し、樹脂とポロジェンの間における相分離が生じる。最終的に、樹脂は、ポロジェン等が孔を満たし、樹脂骨格による共連続構造を有する多孔質構造を形成する。これを乾燥すると、ポロジェン等は除去され、三次元網目構造の共連続構造を有する多孔質樹脂が残る。そのため、適切な空隙率を有する多孔質樹脂を形成するため、ポロジェンと重合性化合物との相溶性、及びポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性が検討される。
【0102】
[光透過率]
前記重合性組成物を撹拌しながら測定した波長550nmにおける光透過率は、30%以上である。
ポロジェンと重合性化合物との相溶性は、前記光透過率により判断することができる。
前記光透過率が30%以上である場合を、液体がポロジェンを含み、重合性化合物とポロジェンとが相溶の状態、30%未満である場合を、重合性化合物と液体とが非相溶の状態であると判断する。
【0103】
前記光透過率は、具体的には以下の方法により測定することができる。
まず、重合性組成物を石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、以下の条件により、重合性組成物の波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定する。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品番号:42016、株式会社ミトリカ製)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・撹拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定して取得する(透過率:100%)
【0104】
[ヘイズ値の上昇率]
前記重合性組成物を重合して作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上である。
ポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性は、前記ヘイズ値の上昇率により判断することができる。
前記ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を、液体がポロジェンを含み、樹脂とポロジェンとが非相溶の状態、1.0%未満である場合を、樹脂と液体とが相溶の状態であると判断する。
ヘイズ測定用素子におけるヘイズ値は、重合性化合物が重合することにより形成される樹脂とポロジェンとの相溶性が低いほど高くなり、相溶性が高いほど低くなる。また、ヘイズ値が高いほど重合性化合物が重合することにより形成される樹脂が多孔質構造を形成しやすくなることを示す。
【0105】
前記ヘイズ値の上昇率は、具体的には、前記重合性組成物を重合して作製した平均厚み100μmのヘイズ測定用素子の重合前後におけるヘイズ値の上昇率であり、以下の方法により測定することができる。
-ヘイズ測定用素子の作製-
まず、無アルカリガラス基板上に、スピンコートによりギャップ剤としての樹脂微粒子を基板上に均一分散させる。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。次に、重合性組成物を、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、「UV照射前ヘイズ測定用素子」を作製する。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射して重合性組成物を硬化させる。最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「ヘイズ測定用素子」を作製する。ギャップ剤のサイズ(平均粒子径100μm)がヘイズ測定用素子の平均厚みに相当する。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した重合性組成物量:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
【0106】
-ヘイズ値(曇り度)の測定-
次に、作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定する。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)のUV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出する。
なお、測定に用いる装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業株式会社製
【0107】
--その他の成分--
---重合開始剤---
前記重合性組成物は、重合開始剤などのその他の成分を含んでもよい。
前記重合開始剤は、光や熱等のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、重合性化合物の重合を開始させることが可能な材料である。重合開始剤としては、例えば、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、塩基発生剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、光ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0108】
光ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、公知の光ラジカル発生剤を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、商品名イルガキュアやダロキュアで知られるミヒラーケトンやベンゾフェノンのような光ラジカル重合開始剤、アセトフェノン誘導体などが挙げられる。
具体的な化合物としては、例えば、α-ヒドロキシ-アセトフェノン、α-アミノアセトフェノン、4-アロイル-1,3-ジオキソラン、ベンジルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、pp’-ジクロロベンゾフェン、pp’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインn-プロピル、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(ダロキュア1173)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンモノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド;チタノセン、フルオレセン、アントラキノン、チオキサントン;キサントン、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物;ジハロメチル化合物、活性エステル化合物、有機ホウ素化合物などが挙げられる。
【0109】
更に、ビスアジド化合物のような光架橋型ラジカル発生剤を同時に含有させても構わない。また、熱のみで重合させる場合は、通常のラジカル発生剤であるazobisisobutyronitrile(AIBN)等の熱重合開始剤を使用することができる。
【0110】
重合開始剤の含有量としては、十分な硬化速度が得られる点で、重合性化合物の総質量を100.0質量%とした場合に、0.05質量%以上10.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。
【0111】
---界面活性剤---
前記重合性組成物は、界面活性剤を含有してもよい。
前記界面活性剤は、気液界面に配向し、消泡や表面張力を低下させ、液膜上部の平滑化と平均化、いわゆる液膜のレベリングを目的として使用することができる。
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリコン系界面活性剤、アクリル系界面活性剤、フッ素系界面活性剤が好適に挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0112】
前記シリコン系界面活性剤としては、例えば、ポリフローシリーズ KL-400HF、KL-401、KL-402、KL-406(以上、いずれも共栄社化学株式会社製);BYKシリーズ UV3500、UV3505、UV3510、UV3530、UV3570、UV3575、UV3576(以上、いずれもビックケミージャパン株式会社製);ディスパロンシリーズ UVX-272、NSH-8430HF、1711EF、LS-001、LS-460、LS-480(以上、いずれも楠本化成株式会社製)などが挙げられる。
【0113】
前記アクリル系界面活性剤としては、例えば、ポリフローシリーズ No.7No.36、No.50E、No.56、No.75、No.77、No.85、No.85HF、No.90、No.90D-50、No.95、No.99C(以上、いずれも共栄社化学株式会社製);BYKTMシリーズ 3440、3560(以上、いずれもビックケミージャパン株式会社製);ディスパロンシリーズ 1970、230、230HF、LF-1980、LF-1982、LF-1983、LF-1984、LF-1985、UVX-36(以上、いずれも楠本化成株式会社製)などが挙げられる。
【0114】
前記フッ素系界面活性剤としては、例えば、サーフロンシリーズ(ACGセイミケミカル社製);メガファックシリーズ RS-56、RS-75、RS-72-K、RS-76-E、RS-76-NS、RS-78、RS-90(以上、いずれもDIC株式会社製)などが挙げられる。
そのほかの構造としては、例えば、BYKTM-UV3535(ビックケミージャパン株式会社製)、ディスパロンシリーズ LHP-90、LHP-91、LHP-95、LHP-96(以上、いずれも楠本化成株式会社製)などが挙げられる。
【0115】
前記重合性組成物は、重合性組成物中に分散物を含まない非分散系組成物であっても、重合性組成物中に分散物を含む分散系組成物であってもよいが、非分散系組成物であることが好ましい。
【0116】
[粘度]
重合性組成物の粘度としては、重合性組成物層の安定性から5mPa・s以上が好ましく、インクジェット用インクとして使用することを考慮すると、5mPa・s以上20mPa・s以下がより好ましい。
ここで、粘度は、25℃において回転速度100rpmの回転速度で測定した粘度であり、具体的には粘度TV25型粘度計(コーンプレート)で、で回転速度100rpmの回転速度で測定した値を採用することができる。
【0117】
[ハンセン溶解度パラメータ(HSP)]
上記のポロジェンと重合性化合物との相溶性、及びポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性は、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を通じて予測することができる。
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)とは、2種の物質の相溶性を予測するのに有用なツールであって、チャールズハンセン(Charles M.Hansen)によって発見されたパラメータである。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、実験的及び理論的に誘導された下記3つのパラメータ(δD、δP、及びδH)を組み合わせることにより表される。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)の単位は、MPa0.5又は(J/cm0.5が用いられる。本実施形態では(J/cm0.5を用いた。
・δD:ロンドン分散力に由来するエネルギー。
・δP:双極子相互作用に由来するエネルギー。
・δH:水素結合力に由来するエネルギー。
【0118】
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、(δD,δP,δH)のように表されるベクトル量であり、3つのパラメータを座標軸とする3次元空間(ハンセン空間)上にプロットして表される。一般的に使用される物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、データベース等の公知の情報源があるため、例えば、データベースを参照することによって、所望の物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を入手することができる。データベースにハンセン溶解度パラメータ(HSP)が登録されていない物質は、例えばHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)等のコンピュータソフトウェアを用いることによって、物質の化学構造や、後述するハンセン溶解球法からハンセン溶解度パラメータ(HSP)を計算することができる。2種以上の物質を含む混合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、各物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に、混合物全体に対する各物質の体積比を乗じた値のベクトル和として算出される。なお、本実施形態では、データベース等の公知の情報源に基づいて入手される液体(ポロジェン)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を「液体のハンセン溶解度パラメータ」と表す。
【0119】
[重合性組成物の製造方法]
重合性組成物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、重合開始剤を重合性化合物に溶解させる工程、ポロジェンや他の成分を更に溶解させる工程、及び均一な溶液とするために撹拌する工程などを経て作製することが好ましい。
【0120】
(電極の製造方法、及び電極の製造装置)
本発明の電極の製造方法は、第1の付与工程と、第2の付与工程と、絶縁性構造体形成工程と、を含み、更に必要に応じて電極合材層形成工程、除去工程などのその他の工程を有する。
前記絶縁性構造体に荷重を掛けたときに、前記絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平な方向において、前記電極合材層に近い近位部分の収縮率と、前記電極合材層から遠い遠位部分の収縮率と、が互いに異なる。
本発明の電極の製造装置は、第1の収容容器と、第2の収容容器と、第1の付与手段と、第2の付与手段と、絶縁性構造体形成手段と、を有し、更に必要に応じて電極合材層形成手段、除去手段などのその他の手段を有する。
【0121】
<第1の収容容器、第2の収容容器>
前記第1の収容容器は、第1の絶縁性材料と、容器とを含み、前記容器に第1の絶縁性材料が収容された収容容器である。
前記第2の収容容器は、第2の絶縁性材料と、容器とを含み、前記容器に第1の絶縁性材料が収容された収容容器である。
容器としては、例えば、ガラス瓶、プラスチック容器、プラスチックボトル、ステンレスボトル、一斗缶、ドラム缶などが挙げられる。
【0122】
<第1の付与工程、第1の付与手段>
前記第1の付与工程は、第1の絶縁性材料を、電極基体上に設けられた電極合材層の隣接部に付与する工程であり、第1の付与手段により好適に実施できる。
前記第1の付与手段は、第1の収容容器に収容された第1の絶縁性材料を、電極基体上に設けられた電極合材層の隣接部に付与する手段である。
第1の絶縁性材料から形成された構造体が、電極における絶縁性構造体の第1の部分(近位部分)に相当する。
【0123】
<第2の付与工程、第2の付与手段>
前記第2の付与工程は、第2の絶縁性材料を、電極基体上に設けられた電極合材層の隣接部に隣接して付与する工程であり、第2の付与手段により好適に実施できる。
前記付与手段は、第2の収容容器に収容された第2の絶縁性材料を、電極基体上に設けられた電極合材層の隣接部に隣接して付与する手段である。
ここで、「電極合材層の隣接部に隣接して付与する」とは、電極合材層の隣接部に付与される第1の絶縁性材料に隣接するように、第2の絶縁性材料を付与することを意味する。ただし、第1の付与工程及び第2の付与工程の順番は、限定されず、いずれを先行して実施してもよい。
第2の絶縁性材料から形成された構造体が、電極における絶縁性構造体の第2の部分(遠位部分)に相当する。
【0124】
前記付与する工程及び手段としては、第1の絶縁性材料乃至第2の絶縁性材料を付与できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷方法に応じた任意の印刷装置を用いることができる。これらの中でも、インクジェット印刷法が好ましい。これによって必要となる箇所に対して精度よく樹脂層を形成することできる。
【0125】
第1の絶縁性材料乃至第2の絶縁性材料は、上記した本発明の絶縁性材料セットであることが好ましい。
第1の絶縁性材料及び第2の絶縁性材料は、互いに異なってもよく、互いに同じであってもよい。
また、前記第1の付与工程における前記第1の絶縁性材料の単位面積当たりの付与量と、前記第2の付与工程における前記第2の絶縁性材料の単位面積当たりの付与量とが、互いに異なる態様であってもよい。
【0126】
第1の絶縁性材料及び第2の絶縁性材料が、互いに異なる場合、第1の絶縁性材料から形成された構造体の収縮率と、第2の絶縁性材料から形成された構造体の収縮率とが、互いに異なることにより、第1の付与工程及び第2の付与工程により第1の絶縁性材料及び第2の絶縁性材料を用いて第1の部分及び第2の部分を塗り分けることにより、第1の部分の収縮率と、第2の部分の収縮率と、が互いに異なる絶縁性構造体を有する電極を好適に製造することができる。
【0127】
具体的には、前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料が、重合反応誘起相分離性の重合性組成物であり、前記第1の絶縁性材料の相分離性と、前記第2の絶縁性材料の相分離性とが、互いに異なることにより、相分離し易い絶縁性材料(インク)で潰れ易い絶縁性構造体を形成し、相分離し難い絶縁性材料(インク)で潰れ難い絶縁性構造体を形成することができる。
潰れ易さは架橋密度で制御することができる。すなわち官能基密度の増加に伴い潰れ難くなる傾向がある。なお、官能基密度はモノマーの官能基数とモノマー分子量により決定される。したがって、モノマーの平均的な官能基数として、2以下が好ましく、2官能基以下のモノマーの重合により多孔質膜が形成されることがより好ましい。モノマーの分子量としては、多孔質形成上の観点から、膨潤収縮のさらなる低減のために、700未満であり、600以下が好ましく、500以下がより好ましく、また硬化収縮のさらなる低減のために、200以上が好ましく、300以上がより好ましい。
【0128】
具体的には、インクに用いるモノマーとして、潰れ易い順に、以下(1)~(4)が挙げられる。
(1)KAYARAD PEG200DA(日本化薬株式会社製)
(2)KAYARAD PEG200DA、及びNKエステル A-GLY-9E(新中村化学工業株式会社製)の例えば、モル比1:1の混合物
(3)NKエステル A-GLY-9E
(4)NKエステル A-TMMP(新中村化学工業株式会社製)
これらから第1の絶縁性材料と第2の絶縁性材料を選択することによって、潰れ易さに差を付けたインクを製作することができる。
モノマーの分子量が700未満200以上であれば、重合によって得られる樹脂層が100μmスケールの厚い膜であった場合でも、硬化収縮と膨張収縮を同時に抑制することができる。
【0129】
また、前記第1の絶縁性材料が、第1の粒子を含む重合性組成物であり、前記第2の絶縁性材料が、第2の粒子を含む重合性組成物であり、前記第1の粒子の平均粒径と、前記第2の粒子の平均粒径とが、互いに異なることにより、粒子サイズの大きいインクで潰れ易い(空隙率が大きい)絶縁性構造体を形成し、粒子サイズの小さいインクで潰れ難い(空隙率が小さい)絶縁性構造体を形成することができる。
また、絶縁性構造体形成後(塗膜乾燥後)の乾燥後の硬度の異なる2以上の絶縁性材料(インク)を用い、硬度の低いインクで潰れ易い絶縁性構造体を形成し、硬度の高いインクで潰れ難い絶縁性構造体を形成することができる。
【0130】
第1の絶縁性材料及び第2の絶縁性材料が、互いに同じであってもよく、その場合、前記第1の付与工程における前記第1の絶縁性材料の単位面積当たりの付与量と、前記第2の付与工程における前記第2の絶縁性材料の単位面積当たりの付与量とが、互いに異なる態様である第1の付与工程及び第2の付与工程により、絶縁性構造体前駆体における第1の部分及び第2の部分の厚みが互いに異なる電極前駆体を製造し、次いで、プレス処理を実施することにより、第1の部分の収縮率と、第2の部分の収縮率と、が互いに異なる絶縁性構造体を有する電極を得ることができる。
【0131】
図25~26を用いて本実施形態の電極の製造方法における電極前駆体の例について説明する。
図25は、プレス前の電極前駆体625を示す断面図であり、第1の実施形態の電極(近位低収縮)を得るための電極前駆体である。
電極基体621上に形成された電極合材層620に隣接して絶縁性構造体前駆体610が形成されており、絶縁性構造体前駆体610の、電極合材層620に近い近位部分610aと、電極合材層620から遠い遠位部分610bとで、荷重を掛けた際の潰れ易さは略同一であり、かつプレスした際は電極基体621の平面方向に縮む程度の柔らかさであり、近位部分610aの厚みが、遠位部分610bの厚みよりも厚く形成される。
絶縁性構造体形成工程においてプレス処理を行うことで、荷重を掛けた際の収縮率について、近位部分610aが、遠位部分610bよりも大きい、図15に示したような第1の実施形態の電極が形成される。プレス処理後の近位部分610aの潰れ易さが、電極合材層620と同等になるように、プレス処理前の近位部分610aの厚みを設計することで、第1の実施形態の電極を好適に製造することができる。
プレス処理前の近位部分610aの厚みをどの程度にすれば良いかは、各材質や電極構造にも因るが、図18で示した実施形態における近位部分410aの厚みよりも厚いのが一般的である。
【0132】
図26は、プレス前の電極前駆体725を示す断面図であり、第2の実施形態の電極(近位高収縮)を得るための電極前駆体である。
電極基体721上に形成された電極合材層720に隣接して絶縁性構造体前駆体710が形成されており、絶縁性構造体前駆体710の、電極合材層720に近い近位部分710aと、電極合材層720から遠い遠位部分710bとで、荷重を掛けた際の潰れ易さは略同一であり、かつプレスした際は電極基体721の平面方向に縮む程度の柔らかさであり、遠位部分710bの厚みが、近位部分710aの厚みよりも厚く形成される。
絶縁性構造体形成工程においてプレス処理を行うことで、荷重を掛けた際の収縮率について、遠位部分710bが、近位部分710aよりも大きい、図17に示したような第2の実施形態の電極が形成される。プレス処理後の遠位部分710bの潰れ易さが、電極合材層720と同等になるように、プレス処理前の遠位部分710bの厚みを設計することで、第2の実施形態の電極を好適に形成することができる。
プレス処理前の遠位部分710bの厚みをどの程度にすれば良いかは、各材質や電極構造にも因るが、図19で示した実施形態における遠位部分510bの厚みよりも厚いのが一般的である。
【0133】
<絶縁性構造体形成工程、絶縁性構造体形成手段>
前記絶縁性構造体形成工程は、前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料のセットからなる絶縁性構造体を形成する工程であり、絶縁性構造体形成手段により好適に実施できる。
前記絶縁性構造体形成手段は、前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料のセットからなる絶縁性構造体を形成する手段である。
前記絶縁性構造体に荷重を掛けたときに、前記絶縁性構造体における前記電極合材層に近い近位部分の収縮率と、前記絶縁性構造体における前記電極合材層から遠い遠位部分の収縮率と、が互いに異なる。
【0134】
第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料が重合性組成物である場合、前記絶縁性構造体形成工程は、前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料のセットに熱又は光を付与して重合させて絶縁性構造体を形成する重合工程であってもよく、重合手段により好適に実施できる。
前記重合手段は、前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料のセットに熱又は光を付与して重合させて絶縁性構造体を形成する手段である。
前記重合により、前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料における前記重合体化合物が重合し、電極基体上の隣接部に絶縁性構造体を製造することができる。第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料が、重合反応誘起相分離性の重合性組成物である場合には、重合誘起相分離により、多孔質樹脂が形成される。
前記重合処理及び重合部としては、特に制限はなく、用いる重合開始剤や重合様式などの目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光重合の場合、波長365nmの紫外線を3秒間照射する光照射処理及び光照射方法、熱重合の場合、150℃真空乾燥で12時間加熱する加熱処理及び加熱方法などが挙げられる。
【0135】
<<プレス処理、プレス部>>
前記プレス処理は、前記絶縁性構造体前駆体をプレスする工程であり、プレス手段により好適に実施できる。
前記プレス部は、前記絶縁性構造体前駆体をプレスする手段である。
第1の絶縁性材料及び第2の絶縁性材料が、互いに同じである場合、第1の部分及び第2の部分の厚が異なる絶縁性構造体前駆体を形成し、次いで、前記絶縁性構造体前駆体をプレスして絶縁性構造体を形成するプレス処理を実施することが好ましい。これにより、第1の部分の収縮率と、第2の部分の収縮率と、が互いに異なる絶縁性構造体を有する電極を得ることができる。
第1の絶縁性材料及び第2の絶縁性材料が、互いに異なる場合であっても、プレス処理を実施してもよい。
【0136】
前記プレス方法としては、特に制限はなく、市販の加圧成型装置を用いて行うことができ、前記絶縁性構造体前駆体を前記電極基体方向にプレスすればよく、例えば、一軸プレス、ロールプレス、冷間静水等方圧プレス(CIP)、ホットプレスなどが挙げられる。これらの中でも、等方加圧することができる冷間静水等方圧プレス(CIP)が好ましい。
プレス圧力は、1MPa~900MPaが好ましく、50MPa~300MPaがより好ましい。
【0137】
電極前駆体をプレス処理することで、電極合材層の厚みと、絶縁性構造体の厚みとが略同等である電極を製造することができる。
また、プレス処理していない電極を、電極積層体の製造過程や電気化学素子の製造過程において、積層後に一括プレスしてもよく、等方圧プレスしてもよい。或いは、弾性変形する樹脂を絶縁性構造体として用いることより、電極合材層の厚みと、絶縁性構造体の厚みとが略同等ではない電極としてもよく、いずれも好適に適用できる。
【0138】
<その他の工程、その他の手段>
前記電極の製造方法におけるその他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電極合材層形成工程、除去工程などが挙げられる。
前記電極の製造装置におけるその他の手段としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電極合材層形成手段、除去手段などが挙げられる。
【0139】
<<電極合材層形成工程、電極合材層形成手段>>
前記電極合材層形成工程は、前記電極基体上に電極合材層を形成する工程であり、電極合材層形成手段により好適に実施できる。
前記電極合材層形成手段は、前記電極基体上に電極合材層を形成する手段である。
【0140】
前記電極合材層を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉体状の活物質や結着剤、導電材等を液体中に分散し、得られた分散液を電極基体上に塗布し、固定して乾燥する方法などが挙げられる。
前記塗布方法としては、例えば、スプレー、ディスペンサ、ダイコーター、引き上げ塗工などが挙げられる。
【0141】
<<除去工程、除去手段>>
前記除去工程は、前記絶縁性構造体形成工程により形成された絶縁性構造体から液体を除去する工程であり、除去手段により好適に実施できる。
前記除去手段は、前記絶縁性構造体形成手段により形成された絶縁性構造体から液体を除去する手段である。
前記液体を除去する方法としては、特に限定されず、例えば、加熱することにより多孔質樹脂から溶媒、分散液などの液体を除去する方法が挙げられる。このとき、減圧下で加熱することで液体の除去がより促進され、形成される絶縁層における液体の残存を抑制できるので好ましい。
加熱する際には、ステージにより加熱してもよいし、ステージ以外の加熱機構により加熱してもよい。加熱機構は、基体の上下の何れか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。加熱機構としては、特に制限はなく、例えば、抵抗加熱ヒータ、赤外線ヒータ、ファンヒータ等が挙げられる。
加熱温度は、特に制限はないが、使用エネルギーの観点から、70℃~150℃が好ましい。
【0142】
(電極積層体の製造方法、及び電極積層体の製造装置)
本発明の電極積層体の製造方法は、上記した本発明の電極の製造方法により電極を製造する電極製造工程と、固体電解質層形成工程と、を有し、更に必要に応じてプレス工程などのその他の工程を有する。
本発明の電極積層体の製造装置は、上記した本発明の電極の製造装置により電極を製造する電極製造手段と、固体電解質層形成手段と、を有し、更に必要に応じてプレス手段などのその他の手段を有する。
前記電極の製造方法における各工程、及び電極の製造装置における各手段としては、上記した本発明の電極の製造方法、及び電極の製造装置において説明した事項を適宜選択することができる。
【0143】
<固体電解質層形成工程、固体電解質層形成手段>
前記固体電解質層形成工程は、前記電極合材層及び前記絶縁性構造体上に固体電解質層を形成する工程であり、固体電解質層形成手段により好適に実施できる。
前記固体電解質層形成手段は、前記電極合材層及び前記絶縁性構造体上に固体電解質層を形成する手段である。
前記固体電解質層を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記固体電解質、及び必要に応じて前記バインダを含む重合性組成物を、前記電極合材層及び前記絶縁性構造体上に塗布し、固化して乾燥させる方法が挙げられる。
【0144】
塗布方法としては、特に制限はなく、例えば、インクジェット法やスプレーコート法、ディスペンサ法などの液体吐出方法や、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法などが挙げられる。
【0145】
<プレス工程、プレス手段>
前記プレス工程は、前記電極合材層及び前記絶縁性構造体をプレスする工程であり、プレス手段により好適に実施できる。
前記プレス手段は、前記電極合材層及び前記絶縁性構造体をプレスする手段である。
前記プレスを行うことにより、前記電極合材層が前記電極基体よりも延伸するために前記電極が前記電極基体に対して電極合材層方向に凸に反るという問題が生じるが、絶縁性構造体の第1の部分及び第2の部分のいずれかの収縮率が大きい部分が電極合材層とは逆方向に反るため、電極合材層部分の反りを相殺して電極全体としての反りを低減することができる。
前記プレス工程を行うタイミングとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記電極基体上に、前記電極合材層及び前記絶縁性構造体(乃至その前駆体)を形成した後に、前記電極合材層及び前記絶縁性構造体をプレスしてもよく、或いは、プレス前の前記絶縁性構造体の厚みと前記電極合材層の厚みが略同等であれば、更に固体電解質層を設けた後に、プレスしてもよく、その両方を行ってもよい。
【0146】
前記プレス方法としては、特に制限はなく、市販の加圧成型装置を用いて行うことができ、前記電極合材層及び前記絶縁性構造体を前記電極基体方向にプレスすればよく、例えば、一軸プレス、ロールプレス、冷間静水等方圧プレス(CIP)、ホットプレスなどが挙げられる。これらの中でも、等方加圧することができる冷間静水等方圧プレス(CIP)が好ましい。
プレス圧力は、電極基体と電極合材層とを圧着しつつ、電極合材層を圧密化することができる圧力で行うことがよく、1MPa~900MPaが好ましく、50MPa~300MPaがより好ましい。
【0147】
[絶縁性構造体乃至電極の製造方法]
本実施形態の絶縁性構造体乃至電極の製造方法を実施するための製造装置の一例を図27に示す。
図27に示す電極の製造装置900は、付与手段としてのインクジェットプリントヘッド904を有する。
ガントリーアーム901の上にX軸直動ガイド902が設置され、X軸直動ガイド902に取り付けられたプリントヘッドベース903にインクジェットプリントヘッド904が複数台取り付けてあり、インクジェットプリントヘッド904は副走査方向に移動可能となっている。ステージ905はY軸直動ガイド906に取り付けられており,ステージ905上に置かれたメディア907は、副走査方向に対して直角な主走査方向に移動可能となっている。
【0148】
インクジェットプリントヘッド904はサブインクタンク908からインクが供給され,サブインクタンク908は、負圧コントローラ兼インク補充ポンプ909により、常に適切な圧力に減圧されており、ノズルからインクが垂れないようになっている。サブインクタンク908のインク残量が少なくなれば、負圧コントローラ兼インク補充ポンプ909により、メインインクタンク910からインクが補充される。インクとして絶縁性構造体形成用の絶縁性材料(例えば、第1の絶縁性材料及び第2の絶縁性材料のセット)が用いられている。メディア907は、電極基体上に電極合材層が設けられた基材である。
【0149】
Y軸直動ガイド906によりメディア907を主走査方向に動かしながら、制御信号に従ってインクジェットプリントヘッド904からメディア907に向けてインクを吐出させて、メディア907上に所望の画像を形成する。X軸直動ガイド902によりインクジェットプリントヘッド904を副走査方向に所望の量だけ動かした後に、再度Y軸直動ガイド906によりメディア907を主走査方向に動かしながら、制御信号に従ってインクジェットプリントヘッド904からメディア907に向けてインクを吐出させて、メディア907上に所望の画像を形成する。この動作を1回又は繰り返し実施することにより、メディア907上の正極914に隣接して所望の形状の絶縁性構造体911が形成される。
【0150】
インクジェットプリントヘッド904は、温調機構を内蔵していてインクを温調してもよい。メインインクタンク910やサブインクタンク908においても、図示しない温調機構でインクを温調している。インクの粘度は、温調することによりある程度粘度を調整可能であり、インクジェットプリントヘッドに用いるのに適した粘度である5mPa・s~15mPa・s程度に調整することで、安定した高速画像形成を可能とする。
【0151】
[基材に重合性組成物を直接的に付与することで絶縁性構造体乃至電極を形成する実施形態]
図7は、本実施形態の電極積層体の製造方法を実現するための絶縁性構造体の製造装置(液体吐出装置)の一例を示す模式図である。
絶縁性構造体の製造装置500は、上記した重合性組成物を用いて絶縁性構造体を製造する装置である。絶縁性構造体の製造装置は、印刷基材4上に、重合性組成物を付与して重合性組成物層を形成する付与処理を実施する印刷部100と、重合性組成物層に熱又は光を付与して重合させる重合処理を実施する重合部200と、多孔質樹脂前駆体6を加熱し、その孔内の溶媒を除去することで多孔質樹脂を得る加熱処理を実施する加熱部300を備える。絶縁性構造体の製造装置は、印刷基材4を搬送する搬送部5を備え、搬送部5は、印刷部100、重合部200、加熱部300の順に印刷基材4をあらかじめ設定された速度で搬送する。
印刷基材4は、電極基体上に電極合材層が設けられた基材である。
【0152】
-印刷部100-
印刷部100は、印刷基材4上に絶縁性構造体を形成するための重合性組成物を付与する付与工程を実現する付与手段の一例である印刷装置1aと、重合性組成物を収容する収容容器1bと、収容容器1bに貯留された重合性組成物を印刷装置1aに供給する供給チューブ1cを備える。
収容容器1bは、重合性組成物7を収容し、印刷部100は、印刷装置1aから重合性組成物7を吐出して、印刷基材4上に重合性組成物7を付与して重合性組成物層を薄膜状に形成する。なお、収容容器1bは、絶縁性構造体の製造装置と一体化した構成であってもよいが、絶縁性構造体の製造装置から取り外し可能な構成であってもよい。また、絶縁性構造体の製造装置と一体化した収容容器や絶縁性構造体の製造装置から取り外し可能な収容容器に添加するために用いられる容器であってもよい。
収容容器1bや供給チューブ1cは、重合性組成物7を安定して貯蔵及び供給できるものであれば任意に選択可能である。収容容器1bや供給チューブ1cを構成する材料は、紫外及び可視光の比較的短波長領域において遮光性を有することが好ましい。これにより、重合性組成物7が外光により重合開始されることが防止される。
【0153】
-重合部200-
重合部200は、図7に示すように、光重合の場合、重合工程を実施する重合手段の一例である光照射装置2aと、重合不活性気体を循環させる重合不活性気体循環装置2bを有し、光照射装置2aは、印刷部100により形成された重合性組成物層に重合不活性気体存在下において光を照射し、光重合させて多孔質樹脂前駆体6を得る。
光照射装置2aは、重合性組成物層に含まれる光重合開始剤の吸収波長に応じて適宜選択され、重合性組成物層中の化合物の重合を開始及び進行させられるものならば特に限定はなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、熱陰極管、冷陰極管、LED等の紫外線光源などが挙げられる。ただし、短波長の光ほど一般に深部に到達しやすい傾向を持つため、形成する多孔質膜の厚みに応じて光源を選択することが好ましい。
次に、光照射装置2aの光源の照射強度に関して、照射強度が強すぎると相分離が十分に起きる前に急激に重合が進行するため、多孔質構造が得られにくい傾向がある。また、照射強度が弱すぎる場合は、相分離がミクロスケール以上に進行し、多孔質のばらつきや粗大化が起きやすい。また、照射時間も長くなり、生産性が低下する傾向にある。そのため、照射強度としては10mW/cm以上1W/cm以下が好ましく、30mW/cm以上300mW/cm以下がより好ましい。
【0154】
重合不活性気体循環装置2bは、大気中に含まれる重合活性な酸素濃度を低下させ、重合性組成物層の表面近傍の重合性化合物の重合反応を阻害されることなく進行させる役割を担う。そのため、用いられる重合不活性気体は上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えば窒素や二酸化炭素やアルゴンなどが挙げられる。
重合不活性気体のO濃度としては、阻害低減効果が効果的に得られることを考慮して、20%未満(大気よりも酸素濃度が低い環境)が好ましく、0%以上15%以下がより好ましく、0%以上5%以下が更に好ましい。また、重合不活性気体循環装置2bは安定した重合進行条件を実現させるために、温度を調節できる温調手段が設けられていることが好ましい。
【0155】
重合部200は、熱重合の場合は、加熱装置であってもよい。加熱装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、基板加熱(例えば、ホットプレート)、IRヒータ、温風ヒータなどが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
また、加熱温度や時間、又は光照射の条件に関しては、重合性組成物7に含まれる重合性化合物や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0156】
-除去部300-
除去部300は、図7に示すように、加熱装置3aを有し、重合部200により形成した多孔質樹脂前駆体6を加熱装置3aにより加熱して、残存する液体を乾燥させて除去する液体除去工程を行う。これにより多孔質樹脂を形成することができる。除去部300は、液体除去を減圧下で実施してもよい。
また、除去部300は、多孔質樹脂前駆体6を加熱装置3aにより加熱して、重合部200で実施した重合反応を更に促進させる重合促進工程、及び多孔質樹脂前駆体6に残存する光重合開始剤を、加熱装置3aにより加熱して乾燥させて除去する開始剤除去工程も行う。なお、これらの重合促進工程及び開始剤除去工程は、液体除去工程と同時ではなく、液体除去工程の前又は後に実施されてもよい。
さらに、除去部300は、液体除去工程後に、多孔質を減圧下で加熱する重合完了工程を行う。加熱装置3aは、上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えばIRヒータや温風ヒータなどが挙げられる。
また、加熱温度や時間に関しては、多孔質樹脂前駆体6に含まれる液体の沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0157】
図8は、本実施形態の電極積層体の製造方法を実現するための絶縁性構造体の製造装置(液体吐出装置)の他の一例を示す模式図である。
液体吐出装置300’は、ポンプ310と、バルブ311、312を制御することにより、重合性組成物が液体吐出ヘッド306、タンク307、チューブ308を循環することが可能である。
また、液体吐出装置300’は、外部タンク313が設けられており、タンク307内の重合性組成物が減少した際に、ポンプ310と、バルブ311、312、314を制御することにより、外部タンク313からタンク307に重合性組成物を供給することも可能である。
前記絶縁性構造体の製造装置を用いると、付与対象物の狙ったところに重合性組成物を吐出することができる。
【0158】
本実施形態の絶縁性構造体の製造方法の他の例を図9に示す。
基材上に多孔質樹脂が設けられた電極210の製造方法は、液体吐出装置300’を用いて、基材211上に、重合性組成物12Aを、順次吐出する工程を含む。
まず、細長状の基材211を準備する。そして、基材211を筒状の芯に巻き付け、多孔質樹脂212を形成する側が、図9中、上側になるように、送り出しローラ304と巻き取りローラ305にセットする。ここで、送り出しローラ304と巻き取りローラ305は、反時計回りに回転し、基材211は、図9中、右から左の方向に搬送される。そして、送り出しローラ304と巻き取りローラ305の間の基材211の上方に設置されている液体吐出ヘッド306から、図8と同様にして、重合性組成物12Aの液滴を、順次搬送される基材211上に吐出する。
なお、液体吐出ヘッド306は、基材211の搬送方向に対して、略平行な方向又は略垂直な方向に、複数個設置されていてもよい。次に、重合性組成物12Aの液滴が吐出された基材211は、送り出しローラ304と巻き取りローラ305によって、重合部309に搬送される。その結果、多孔質樹脂212が形成され、基材上に多孔質樹脂が設けられた電極210が得られる。その後、高分子電解質が設けられた電極210は、打ち抜き加工等により、所望の大きさに切断される。
重合部309は、基材211の上下の何れか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。
重合部309としては、重合性組成物12Aに直接接触しなければ、特に制限はなく、例えば、熱重合の場合、抵抗加熱ヒータ、赤外線ヒータ、ファンヒータ等;光重合の場合、紫外線照射装置などが挙げられる。なお、重合部309は、複数個設置されていてもよい。
【0159】
加熱又は光照射の条件は、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。重合により重合性組成物12Aが重合されて多孔質樹脂が形成される。
また、図10のように、タンク307Aは、タンク307Aに接続されたタンク313Aから重合性組成物を供給してもよく、液体吐出ヘッド306は、複数の液体吐出ヘッド306A、306Bを有してもよい。
【0160】
[基材に重合性組成物を間接的に付与することで絶縁性構造体、乃至電極積層体を形成する実施形態]
図11~12は、本実施形態の絶縁性構造体の製造装置としての、付与手段としてインクジェット方式、及び転写方式を採用した印刷部の一例を示す構成図であり、図11は、ドラム状の中間転写体を用いた印刷部、図12は、無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部を示す構成図である。
図11に示した印刷部400´は、中間転写体4001を介して基材に重合性組成物乃至多孔質樹脂を転写することで基材上に多孔質樹脂を形成する、インクジェットプリンタである。
【0161】
印刷部400´は、インクジェット部420、転写ドラム4000、前処理ユニット4002、吸収ユニット4003、加熱ユニット4004および清掃ユニット4005を備える。
インクジェット部420は、複数のヘッド101を保持したヘッドモジュール422を備える。ヘッド101は、転写ドラムに4000に支持された中間転写体4001に重合性組成物を吐出し、中間転写体4001上に重合性組成物層を形成する。各ヘッド101は、ラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの基材の記録領域の幅をカバーする範囲にノズルが配列されている。ヘッド101は、その下面に、ノズルが形成されたノズル面を有しており、ノズル面は、微小間隙を介して中間転写体4001の表面と対向している。本実施形態の場合、中間転写体4001は円軌道上を循環移動する構成であるため、複数のヘッド101は、放射状に配置される。
【0162】
転写ドラム4000は、圧胴621と対向し、転写ニップ部を形成する。前処理ユニット4002は、ヘッド101による重合性組成物の吐出前に、例えば、中間転写体4001上に、重合性組成物の粘度を高めるための反応液を付与する。吸収ユニット4003は、転写前に、中間転写体4001上の重合性組成物層から液体成分を吸収する。加熱ユニット4004は、転写前に、中間転写体4001上の重合性組成物層を加熱する。重合性組成物層を加熱することで、重合性組成物を熱重合させて、多孔質樹脂を形成する。また、液体が除去され、基材への転写性が向上する。清掃ユニット4005は、転写後に中間転写体4001上を清掃し、中間転写体4001上に残留したインクやごみ等の異物を除去する。
圧胴621の外周面は、中間転写体4001に圧接しており、圧胴621と中間転写体4001との転写ニップ部を基材が通過するときに、中間転写体4001上の多孔質樹脂が基材に転写される。なお、圧胴621は、その外周面に基材の先端部を保持するグリップ機構を少なくとも1つ備えた構成としてもよい。
【0163】
図12に示した印刷部400´´は、中間転写ベルト4006を介して基材に重合性組成物乃至多孔質樹脂を転写することで基材上に多孔質樹脂を形成する、インクジェットプリンタである。
印刷部400´´は、インクジェット部420に設けた複数のヘッド101から重合性組成物の液滴を吐出して、中間転写ベルト4006の外周表面上に重合性組成物層を形成する。中間転写ベルト4006に形成された重合性組成物層は、加熱ユニット4007によって加熱され、熱重合することで多孔質樹脂を形成し、中間転写ベルト4006上で膜化する。
【0164】
中間転写ベルト4006が転写ローラ622と対向する転写ニップ部において、中間転写ベルト4006上の膜化した多孔質樹脂は基材に転写される。転写後の中間転写ベルト4006の表面は、清掃ローラ4008によって清掃される。
中間転写ベルト4006は、駆動ローラ4009a、対向ローラ4009b、複数(本例では4つ)の形状維持ローラ4009c,4009d,4009e,4009f、および複数(本例では4つ)の支持ローラ4009gに架け渡され、図中矢印方向に移動する。ヘッド101に対向して設けられる支持ローラ4009gは、ヘッド101からインク滴が吐出される際の中間転写ベルト4006の引張状態を維持する。
【0165】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、上記した本発明の電極乃至電極積層体を少なくとも有し、更に外装を有する電気化学素子である。前記電気化学素子は、固体電解質層を有する全固体電池であることが好ましい。
前記外装としては、電極と電極構造体とを封止することができれば特に制限はなく、目的に応じて公知の外装を適宜選択することができる。
図15に、本発明の電気化学素子である全固体電池の一例を示す。
図15に示す全固体電池は、正極20と負極40が、固体電解質30を介して、積層されている。ここで、正極20は、負極40の両側に積層されている。
また、正極基体21には、引き出し線50が接続されており、負極基体41には、引き出し線51が接続されている。
なお、正極20と負極40の積層数は、特に制限は無い。また、正極20の個数と負極40の個数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
引き出し線50及び51は、外装60の外部に引き出されている。
前記電気化学素子の形状としては、特に制限はなく、例えば、ラミネートタイプ、シリンダタイプコインタイプなどが挙げられる。
【0166】
(電気化学素子の製造方法、及び電気化学素子の製造装置)
本発明の電気化学素子の製造方法は、上述した本発明の電極積層体の製造方法により電極積層体を製造する電極製造工程と、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
本発明の電気化学素子の製造装置は、上述した本発明の電極積層体の製造装置により電極積層体を製造する電極製造部と、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化部と、を有し、必要に応じて、更にその他の手段を有する。
【0167】
<電極製造工程、及び電極製造部>
前記電極製造工程は、上記した本発明の電極積層体の製造方法において説明した、付与工程と、重合工程と、電極合材層形成工程と、プレス工程と、固体電解質層形成工程と、を含み、更に必要に応じて、電極加工工程などのその他の手段を有する。
前記電極製造部は、上記した本発明の電極積層体の製造装置において説明した、収容容器と、付与手段と、重合手段と、電極合材層形成手段と、プレス手段と、固体電解質層形成手段と、を有し、更に必要に応じて、電極加工手段などのその他の手段を有する。
前記電極製造工程、及び前記電極製造部により、電極基体と、前記電極基体上に電極合材層と、前記電極合材層の隣接部に絶縁性構造体と、前記電極合材層及び前記絶縁性構造体上に固体電解質層と、を有する電極積層体を製造することができる。
【0168】
<素子化工程、及び素子化部>
前記素子化工程は、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する工程である。
前記素子化部は、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する手段である。
電極積層体を用いて電気化学素子を製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の電気化学素子の製造方法を選択することができ、例えば、対向電極の設置、巻回又は積層、容器への収容の少なくともいずれかを行い蓄電素子とする方法が挙げられる。
なお、素子化工程としては、素子化の全行程を備える必要はなく、素子化の一部の工程を含むものであってもよい。
【0169】
<電極加工工程、及び電極加工部>
電極加工部は、付与部よりも下流において、樹脂層が形成された電極積層体を加工する手段である。電極加工部は、裁断、折り畳み、及び貼り合わせの少なくとも1つを実施してもよい。積層電極加工部は、例えば、樹脂層が形成された積層電極を裁断し、積層電極の積層体を作製することができる。電極加工部は、樹脂層が形成された積層電極を巻回又は積層することができる。
電極加工部は、例えば、電極加工装置を有し、多孔質樹脂層が形成された積層電極の裁断やつづら折り、積層や巻回を目的の電池形態に応じて実施する。
電極加工部によって行われる電極加工工程は、例えば、付与工程よりも下流において、樹脂層が形成された積層電極を加工する工程である。電極加工工程は、裁断工程、折り畳み工程、及び貼り合わせ工程の少なくとも1つを含んでもよい。
【0170】
<電気化学素子の用途>
電気化学素子の用途としては、特に制限はなく、例えば、車両等の移動体;スマートフォン、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドホンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラ等の電気機器などが挙げられる。これらの中でも、車両、電気機器が特に好ましい。
前記移動体としては、例えば、普通自動車、大型特殊自動車、小型特殊自動車、トラック、大型自動二輪車、普通自動二輪車などが挙げられる。
【0171】
[移動体]
図28に、本発明の電気化学素子である全固体電池を搭載した移動体の一例を示す。移動体70は、例えば電気自動車である。移動体70はモーター71と、電気化学素子72と、移動手段の一例としての車輪73を備える。電気化学素子72は、上述した本発明の電気化学素子である。電気化学素子72は、モーター71に電力を供給することでモーター71を駆動する。駆動されたモーター71は、車輪73を駆動させることができ、その結果、移動体70は移動することができる。
以上の構成によれば、正極と負極との短絡を防止するとともに、電池特性に優れる電気化学素子からの電力により駆動するので、安全かつ効率よく移動体を移動させることができる。
移動体70は電気自動車に限られず、PHEVやHEV、又はディーゼルエンジンと電気化学素子とを併用して走行可能な機関車やバイクであってもよい。又、移動体は、電気化学素子のみ、又はエンジンと電気化学素子とを併用して走行可能な、工場等で使用される搬送用ロボットであってもよい。また、移動体は、その物体全体が移動せず、一部のみが移動するもの、例えば、工場の製造ラインに配される、電気化学素子のみ、又はエンジンと電気化学素子とを併用してアーム等が動作可能な組立ロボットであってもよい。
【実施例0172】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0173】
<絶縁性材料1の調製例>
モノマーAとして、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(品名:A-DCP、新中村化学工業株式会社製)を用い、固形分濃度が50質量%となるようにジエチレングリコールジエチルエーテル(東京化成工業株式会社製)で希釈して、モノマーAの固形分濃度50質量%溶液である絶縁性材料1を調製した。
【0174】
<絶縁性材料2~5の調製例>
モノマーBとして、ポリエチレングリコール#200ジアクリレート(品名:A-200、新中村化学工業株式会社製)を用い、固形分濃度が50質量%となるようにパラメンタン(東京化成工業株式会社製)で希釈してモノマーBの固形分濃度50質量%溶液を調整した。
次いで、表1に示すモノマーA:モノマーBの比率(質量比)となるように、モノマーAの固形分濃度50質量%溶液、及びモノマーBの固形分濃度50質量%溶液を混合して、モノマーA、及びモノマーBの比率を変えた絶縁性材料2~5をそれぞれ調製した。
【0175】
<絶縁性構造体1の形成例>
絶縁性材料1を基材としてのアルミニウム箔基体(50mm×50mm、平均厚み15μm)上に、インクジェット法により付与し、波長365nmUV光100mW/cmにて重合させ、80℃にて真空乾燥させ、平均厚みが100μm程度である絶縁性構造体1を形成した。
【0176】
<絶縁性構造体2~5の形成例>
絶縁性構造体1の形成において、絶縁性材料1を絶縁性材料2~5にそれぞれ変更したこと以外は、と同様にして、絶縁性構造体2~5をそれぞれ形成した。
【0177】
得られた絶縁性構造体1~5について、以下の手順により、弾性変形仕事率、収縮率、及び空隙率を測定した。
【0178】
<弾性変形仕事率、及び収縮率の測定>
基材上に形成した絶縁性構造体1~5の各々を、ナノインデンター(Nano Indenter G200、Keysight Technologies(KLA Corporation)社製)に設置し、基材及び絶縁性構造体の平面に対して略垂直にプローブを操作し、絶縁性構造体の厚み方向に測定を実施した。国際規格(ISO)14577:計装化押し込み試験に基づくナノインデンテーション法により得られた荷重変位曲線より、弾性変形仕事率、及び収縮率を測定した。結果を表1に示す。
【0179】
<空隙率の測定>
得られた絶縁性構造体1~5の各々について、集束イオンビーム(FIB、装置名:Helios Nanolab G3 CX、日本FEI社/Thermo Fisher Scientific社製)で内部の断面構造を切り出し、イオンミリング(CP加工、装置名:IB-19520CCP、日本電子株式会社製)により断面出しを行い、走査電子顕微鏡(SEM、装置名:PhenomProX、Phenom社製)を用いて、空隙率を測定した。結果を表1に示す。
【0180】
表1に示すように、モノマーA、及びモノマーBの比率を変えた絶縁性材料1~5から、潰れ易さの異なる絶縁性構造体1~5をそれぞれ形成することができることがわかった。
弾性変形仕事率が小さい程、収縮率が大きいという結果が得られ、ナノインデンターによる測定で、絶縁性構造体の潰れ易さの判別が可能であることがわかった。
【0181】
【表1】
【0182】
図15に示す第1の実施形態、及び図17に示す第2の実施形態に関連して、図29に示すように、絶縁性構造体の近位部分110aと、遠位部分110bとにおいて、その収縮率が互いに異なる実施例1~8、その収縮率が互いに同じである比較例1の電極をそれぞれ製造した。
【0183】
(実施例1)
<電極合材層の形成>
正極活物質としてLNO/NMC1 45.3質量%、導電材としてアセチレンブラック2.2質量%(デンカブラック、デンカ株式会社製)、バインダとしてポリブチルメタクリレート(PBMA、アルドリッチ社製)1.4質量%、固体電解質14.7質量%をアニソール(東京化成工業株式会社製)36.4質量%中に分散させて正極塗料を作製した。
【0184】
図29に、実施例1の電極の断面図(基材の表面と水平方向の断面図)を示す。
図29に示すように、作製した正極塗料を基材としてのアルミニウム箔基体(50mm×50mm、平均厚み:15μm)の片面に塗布後、乾燥させて30mm×30mmの電極合材層120を形成し、電極合材層120の周囲4辺に幅10mmの余白部分を有する、電極を得た。電極合材層120の平坦部分の平均厚みは100μmであり、単位面積あたりの電池容量は2.91mAh/cmであった。
【0185】
<絶縁性構造体の形成>
次いで、電極合材層120の一辺に対して、近位部分110aに30mm×15mmの絶縁性構造体1と、遠位部分110bに30mm×15mmの絶縁性構造体2と、を並べて平均厚みが100μm程度となるように形成し、実施例1の電極を製造した。
【0186】
(実施例2~4)
実施例1において、遠位部分110bの絶縁性構造体2を、絶縁性構造体3~5にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4の電極をそれぞれ製造した。
【0187】
(比較例1)
実施例1において、遠位部分110bの絶縁性構造体2を、絶縁性構造体1に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の電極をそれぞれ製造した。
【0188】
(実施例5~8)
比較例1において、近位部分110aの絶縁性構造体1を、絶縁性構造体2~5にそれぞれ変更したこと以外は、比較例1と同様にして、実施例5~8の電極をそれぞれ製造した。
【0189】
<電極のプレス方法>
得られた実施例1~8、及び比較例1の各電極について、冷間静水等方圧プレス(CIP、装置名:CP900M、株式会社神戸製鋼所製)にて基材の面に対して垂直方向に印加圧力:250MPaで5分間のプレスを行い、プレス後の各電極を得た。
【0190】
<プレス後の電極における反りの測定方法>
プレス後の各電極の反り度合いについて、JIS G 3193に準拠した平坦度(単位:mm以内)により測定し、評価した。
結果を、図30に示す。図30中、横軸は、近位部分110aの収縮率(a%)と遠位部分110bの収縮率(b%)との差(差の絶対値|a-b|%)を示し、縦軸は、平坦度の値が最も小さい点を1(基準)としたときの平坦度の相対値を示す。当該相対値が大きいほど平坦度が大きく、プレス後の各電極の反りが生じてることを示し、当該相対値が小さいほど、反り低減の効果が大きいことを示す。なお、平坦度が最も小さい点は、完全に平坦というわけではなく、反りは多少生じている。
【0191】
遠位部分110bを変更した実施例1~4及び比較例1(サンプル群A)、並びに近位部分110aを変更した実施例5~8及び比較例1(サンプル群B)は、いずれも同様の結果であり、収縮率差10%辺りから反り低減の効果が大きく現れ始め、収縮率差20%辺りで反り低減の効果が最大となり、収縮率差が約25%以上であると、絶縁性構造体が重合する際のカールが大きくなるため反り低減の効果が得にくくなる。
【0192】
(実施例9)
図16に示す第1の実施形態の他の例に関連して、図31に示すように、絶縁性構造体の近位部分110aと、遠位部分110bとにおいて、その収縮率及び厚みが互いに異なる実施例9の電極を製造した。
【0193】
図31に、実施例9の電極の断面図(基材の表面と垂直方向の断面図)を示す。
図31に示すように、基材としてのアルミニウム箔基体(50mm×50mm、平均厚み15μm)上に、30mm×30mm、平坦部分の平均厚みが65μmの電極合材層220を形成し、電極合材層220の一辺に対して、近位部分210aに絶縁性材料1で30mm×5mm、最大厚み80μm~100μmの絶縁性構造体1を形成し、遠位部分210bに絶縁性材料3で30mm×5mm、最大厚み130μm~170μmの絶縁性構造体3を形成し、実施例9のプレス前の電極を製造した。
【0194】
次いで、前記<電極のプレス方法>により、プレスを行い、平均厚みが65μmである実施例9のプレス後の電極を製造した。
なお、プレス後の電極の厚み65μmに対し、近位部分のプレス前の厚みを1.2~1.5倍程度とし、遠位部分のプレス前の厚みを2~2.6倍程度として複数の組み合わせの電極を製造した。
【0195】
その結果、CIP処理250MPaでプレスした場合に、電極の反りが抑制され、電極合材層から絶縁性構造体まで略平坦、かつ略同一厚みのプレス後の電極を製造できることがわかった。
【0196】
(実施例10)
図18に示す第2の実施形態の他の例に関連して、図32に示すように、絶縁性構造体の近位部分110aと、遠位部分110bとにおいて、その収縮率及び厚みが互いに異なる実施例10の電極を製造した。
【0197】
図32に、実施例10の電極の断面図(基材の表面と垂直方向の断面図)を示す。
図32に示すように、基材としてのアルミニウム箔基体(50mm×50mm、平均厚み15μm)上に、30mm×30mm、平坦部分の平均厚みが65μmの電極合材層420を形成し、電極合材層420の一辺に対して、近位部分410aに絶縁性材料3で30mm×5mm、最大厚み130μm~170μmの絶縁性構造体3を形成し、遠位部分410bに絶縁性材料1で30mm×5mm、最大厚み80μm~100μmの絶縁性構造体1を形成し、実施例10のプレス前の電極を製造した。
【0198】
次いで、前記<電極のプレス方法>により、プレスを行い、平均厚みが65μmである実施例10のプレス後の電極を製造した。
なお、プレス後の電極の厚み65μmに対し、近位部分のプレス前の厚みを2~2.6倍程度とし、遠位部分のプレス前の厚みを1.2~1.5倍程度として複数の組み合わせの電極を製造した。
【0199】
その結果、CIP処理250MPaでプレスした場合に、電極の反りが抑制され、電極合材層から絶縁性構造体まで略平坦、かつ略同一厚みのプレス後の電極を製造できることがわかった。
【0200】
(実施例11)
図15に示す第1の実施形態、及び図29(実施例1)のバリエーションとして、図33に示すように、絶縁性構造体の近位部分110aと、遠位部分110bとにおいて、その収縮率が互いに異なり、かつ、遠位部分110bが電極合材層120に接して設けられた、実施例11の電極を製造した。
【0201】
図33に、実施例11の電極の断面図(基材の表面と垂直方向の断面図)を示す。
図33に示すように、基材としてのアルミニウム箔基体(50mm×50mm、平均厚み15μm)上に、30mm×30mm、平坦部分の平均厚みが65μmの電極合材層120を形成し、電極合材層120の端部に隣接して近位部分110aに絶縁性構造体3を形成し、遠位部分110bに絶縁性構造体1を形成し、実施例11の電極を製造した。
遠位部分110bの収縮率が、近位部分110aの収縮率よりも大きく、近位部分110aは、電極合材層120のテーパー部に形成されている(すなわち、電極合材層120の平坦部分にまで広がっていない)。
【0202】
このような構成とすることで、プレスにより潰れた電極に追従して(拘束されて)絶縁構造体が凹んでしまうのを抑制することができることがわかった。さらには実施例1~10に比較して電極合材層に隣接して設けた絶縁性構造体の幅(枠寸法)を小さくすることができることがわかった。
【0203】
(実施例12)
図15に示す第1の実施形態、図29(実施例1)、及び図33(実施例11)の更なるバリエーションとして、図34に示すように、電極合材層120が逆テーパー形状である、実施例12の電極を製造した。
【0204】
図34に、実施例12の電極の断面図(基材の表面と垂直方向の断面図)を示す。
図34に示すように、基材としてのアルミニウム箔基体(50mm×50mm、平均厚み15μm)上に、近位部分110aと、遠位部分110bとを形成し、次いで、電極合材層120を形成したこと以外は、実施例11と同様にして実施例12の電極を製造した。その結果、電極合材層120が逆テーパー形状となった。また、電極合材層120の端部に隣接して近位部分110a及び遠位部分110bが形成されており、遠位部分110bの収縮率が、近位部分110aの収縮率よりも大きく、近位部分110aは、遠位部分110bのテーパー部の一部として形成されている(すなわち、電極合材層120が近位部分110a及び遠位部分110bに乗り上げている)。
【0205】
このような構成とすることで、プレスにより潰れた電極に追従して(拘束されて)絶縁構造体が凹んでしまうのを抑制することができる。さらには他の実施例に比較して枠寸法を小さくすることができることがわかった。
【0206】
(実施例13~15)
近位部分110aが絶縁性構造体1であり、遠位部分110bが絶縁性構造体3である、実施例2に対して、近位部分110a及び遠位部分110bの幅の比率をそれぞれ変更した実施例13~15の電極をそれぞれ製造した。
【0207】
具体的には、図35~37に示すように、電極合材層120に隣接する近位部分110a及び遠位部分110bを合わせた絶縁性構造体の幅を5mm程度一定とし、遠位部分110bの幅:近位部分110aの幅=1:2、1:1、2:1とそれぞれ変更した実施例13~15の電極をそれぞれ製造した。
次いで、前記<電極のプレス方法>に従って、CIP処理250MPaでプレスした場合に、実施例13~15のいずれの電極においても反りが低減された。これらの中で、遠位幅:近位幅=1:2(実施例13)よりも遠位幅:近位幅=1:1(実施例14)、遠位幅:近位幅=1:1(実施例14)よりも遠位幅:近位幅=2:1(実施例15)において、電極の反りがより効果的に低減できることがわかった。
【0208】
(実施例16~18)
近位部分110aが絶縁性構造体1であり、遠位部分110bが絶縁性構造体3である、実施例2に対して、近位部分110a及び遠位部分110bの幅(長さ)をそれぞれ変更した実施例16~18の電極をそれぞれ製造した。
【0209】
具体的には、図38~40に示すように、電極合材層120に隣接する絶縁性構造体における、遠位部分110bの幅:近位部分110aの幅=1:1程度固定とし、近位部分110aの幅、及び遠位部分110bの幅を合計した総幅を2mm、5mm、10mm程度と変更した実施例16~18の電極をそれぞれ製造した。
次いで、前記<電極のプレス方法>に従って、CIP処理250MPaでプレスした場合に、実施例16~18のいずれの電極においても反りが低減された。これらの中で、絶縁性構造体総幅2mm(実施例16)よりも絶縁性構造体総幅5mm(実施例17)、絶縁性構造体総幅5mm(実施例17)よりも絶縁性構造体総幅10mm(実施例18)において、電極の反りがより効果的に低減できることがわかった。
【0210】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 電極基体と、
前記電極基体上に電極合材層と、
前記電極合材層の隣接部に絶縁性構造体と、を有し、
前記絶縁性構造体が、荷重を掛けたときの収縮率が互いに異なる、第1の部分と、前記第1の部分とは異なる第2の部分と、を前記電極基体に対して水平な方向に沿って有することを特徴とする電極である。
<2> 前記第1の部分が、前記絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平な方向において前記電極合材層に近い近位部分であり、
前記第2の部分が、前記絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平な方向において前記電極合材層から遠い遠位部分であり、
前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも小さい前記<1>に記載の電極である。
<3> 前記絶縁性構造体に1MPaの荷重を掛けたときの、前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも10%以上小さい前記<2>に記載の電極である。
<4> 前記近位部分の空隙率が、前記遠位部分の空隙率よりも小さい前記<2>から<3>のいずれかに記載の電極である。
<5> 前記近位部分の硬度が、前記遠位部分の硬度よりも高い前記<2>から<4>のいずれかに記載の電極である。
<6> 前記近位部分の厚みが、前記遠位部分の厚みよりも小さい前記<2>から<5>のいずれかに記載の電極である。
<7> 前記電極合材層が、前記電極基体と接するテーパー面を有し、
前記近位部分が、前記テーパー面の少なくとも一部に隣接する前記<2>から<6>のいずれかに記載の電極である。
<8> 前記第1の部分が、前記絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平な方向において前記電極合材層に近い近位部分であり、
前記第2の部分が、前記絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平な方向において前記電極合材層から遠い遠位部分であり、
前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも大きい前記<1>に記載の電極である。
<9> 前記絶縁性構造体に1MPaの荷重を掛けたときの、前記近位部分の収縮率が、前記遠位部分の収縮率よりも10%以上大きい前記<8>に記載の電極である。
<10> 前記近位部分の空隙率が、前記遠位部分の空隙率よりも大きい前記<8>から<9>のいずれかに記載の電極である。
<11> 前記近位部分の硬度が、前記遠位部分の硬度よりも低い前記<8>から<10>のいずれかに記載の電極である。
<12> 前記近位部分の厚みが、前記遠位部分の厚みよりも大きい前記<8>から<11>のいずれかに記載の電極である。
<13> 第1の絶縁性材料と、第2の絶縁性材料と、を有する絶縁性材料セットであって、
前記第1の絶縁性材料から形成された構造体の収縮率と、前記第2の絶縁性材料から形成された構造体の収縮率とが、互いに異なることを特徴とする絶縁性材料セットである。
<14> 前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料が、重合反応誘起相分離性の重合性組成物であり、
前記第1の絶縁性材料の相分離性と、前記第2の絶縁性材料の相分離性とが、互いに異なる前記<13>に記載の絶縁性材料セットである。
<15> 前記第1の絶縁性材料が、第1の粒子を含む重合性組成物であり、
前記第2の絶縁性材料が、第2の粒子を含む重合性組成物であり、
前記第1の粒子の平均粒径と、前記第2の粒子の平均粒径とが、互いに異なる前記<13>に記載の絶縁性材料セットである。
<16> 前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料が、重合性組成物であり、
前記第1の絶縁性材料から形成された構造体の硬度と、前記第2の絶縁性材料から形成された構造体の硬度とが、互いに異なる前記<13>に記載の絶縁性材料セットである。
<17> 第1の絶縁性材料を、電極基体上に設けられた電極合材層の隣接部に付与する第1の付与工程と、
第2の絶縁性材料を、電極基体上に設けられた電極合材層の隣接部に隣接して付与する第2の付与工程と、
前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料のセットからなる絶縁性構造体を形成する絶縁性構造体形成工程と、を含み、
前記絶縁性構造体に荷重を掛けたときに、前記絶縁性構造体における、前記電極基体に対して水平な方向において、前記電極合材層に近い近位部分の収縮率と、前記電極合材層から遠い遠位部分の収縮率と、が互いに異なることを特徴とする電極の製造方法である。
<18> 前記第1の絶縁性材料及び前記第2の絶縁性材料のセットが、前記<13>から<16>のいずれかに記載の絶縁性材料セットである前記<17>に記載の電極の製造方法である。
<19> 前記第1の付与工程における前記第1の絶縁性材料の単位面積当たりの付与量と、前記第2の付与工程における前記第2の絶縁性材料の単位面積当たりの付与量とが、互いに異なる前記<17>に記載の電極の製造方法である。
<20> 前記<1>から<12>のいずれかに記載の電極と、
前記電極上に固体電解質層と、を有することを特徴とする電極積層体である。
<21> 前記電極が、前記<2>から<7>のいずれかに記載の電極であり、
前記電極合材層及び前記絶縁性構造体の前記近位部分上に固体電解質層と、を有する前記<20>に記載の電極積層体である。
<22> 前記電極が、前記<8>から<12>のいずれかに記載の電極であり、
前記電極合材層、前記絶縁性構造体の前記近位部分、及び前記遠位部分上に固体電解質層と、を有する前記<20>に記載の電極積層体である。
<23> 前記<20>から<22>のいずれかに記載の電極積層体を有することを特徴とする電気化学素子である。
<24> 前記<23>に記載の電気化学素子を有することを特徴とする移動体である。
【0211】
前記<1>から<12>のいずれかに記載の電極、前記<13>から<16>のいずれかに記載の絶縁性材料セット、前記<17>から<19>のいずれかに記載の電極の製造方法、前記<20>から<22>のいずれかに記載の電極積層体、前記<23>に記載の電気化学素子、及び前記<24>に記載の移動体は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0212】
1a:印刷装置
1b:インク容器
1c:インク供給チューブ
2a:光照射装置
2b:重合不活性気体循環装置
3a:加熱装置
4:印刷基材
5:搬送部
6:多孔質樹脂前駆体(絶縁性構造体前駆体)
7:ガイド部材
10:絶縁性構造体
20:第1の電極合材層
21:第1の電極基体
25:電極
35:電極積層体
40:第2の電極合材層
41:第2の電極基体
45:電気化学素子
100:印刷部
200:重合部
300:除去部
500:絶縁性構造体の製造装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0213】
【特許文献1】国際公開第2020-022111号
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