(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105175
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】複合粒子、膜状部材及び再生膜状部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 292/00 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
C08F292/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023190323
(22)【出願日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2023009700
(32)【優先日】2023-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古海 誓一
(72)【発明者】
【氏名】松浦 佐和
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直人
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026AC00
4J026BA27
4J026BB03
4J026CA07
4J026DB02
4J026DB09
4J026DB19
4J026DB24
4J026EA05
4J026EA06
4J026FA02
4J026FA07
4J026GA08
(57)【要約】
【課題】損傷等に対してもリサイクル可能なコロイド結晶材料を形成可能な複合粒子、この複合粒子を含む膜状部材及び、損傷した膜状部材を再生可能である再生膜状部材の製造方法を提供する。
【解決手段】無機粒子と、前記無機粒子の表面上に位置し、前記無機粒子を覆う、アクリル系モノマーに由来する構成単位を複数含むポリマー鎖を含むシェル層と、を備える複合粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子と、前記無機粒子の表面上に位置し、前記無機粒子を覆う、アクリル系モノマーに由来する構成単位を複数含むポリマー鎖を含むシェル層と、を備える複合粒子。
【請求項2】
前記アクリル系モノマーは、アクリロイル基を除く炭素数が4~12であるアクリル酸エステルである請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
無機粒子は、シリカ、炭素材料及び金属酸化物の少なくとも一方の粒子である請求項1に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記ポリマー鎖は、前記アクリル酸エステルに由来する構成単位を複数含む第1のポリマー鎖と、単独重合体としたときに結晶化温度が25℃以上となる(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位を複数含む第2のポリマー鎖とを含み、無機粒子側から見て前記第1のポリマー鎖及び前記第2のポリマー鎖の順に位置する請求項2に記載の複合粒子。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系モノマーは、(メタ)アクリロイル基を除く炭素数が18以上である(メタ)アクリル酸エステルである請求項4に記載の複合粒子。
【請求項6】
無機粒子の表面に下記一般式(1)で表される構造が結合し、前記一般式(1)で表される構造を介して前記無機粒子と前記ポリマー鎖が結合している請求項1に記載の複合粒子。
【化1】
一般式(1)中、nは3~10の整数であり、R
1はメチル基又はエチル基であり、*1は、それぞれ独立に前記無機粒子との結合位置又は炭素数1~3のアルコキシ基との結合位置であり、*2は、前記ポリマー鎖との結合位置である。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の複合粒子を含む膜状部材。
【請求項8】
コロイド結晶構造を有する請求項7に記載の膜状部材。
【請求項9】
せん断力が印加された請求項7に記載の膜状部材。
【請求項10】
損傷した請求項8に記載の膜状部材に対して加熱条件下にてせん断応力を印加することでコロイド結晶構造を有する再生膜状部材を得る再生膜状部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合粒子、膜状部材及び再生膜状部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径の揃った微粒子が三次元的に規則的配列したコロイド結晶に光が入射されると、微粒子の配列面間隔に応じた特定波長の光が反射される(ブラッグ反射)。その反射光の波長が可視光線の波長領域に生じる場合、構造性発色として視認することができる。このコロイド結晶の研究は数多く行われており、様々な光学素子、光機能材料などへの展開が期待されている。
【0003】
例えば、微粒子の間隙をアクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂で埋めたコロイド結晶を備える樹脂固定コロイド結晶シートが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
持続可能な社会の実現が求められている昨今、限りある資源の保護に貢献する観点から、リサイクルが可能な材料が求められている。そのため、コロイド結晶を用いたコロイド結晶材料においてもリサイクル可能であることが望ましい。
【0006】
特許文献1に示される樹脂固定コロイド結晶シートのようなコロイド結晶材料には化学架橋が施されている。そのため、このようなコロイド結晶材料では、切断、損傷等に対する修復、任意の形状への再成形などもできず、リサイクルすることが難しいという問題がある。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、損傷等に対してもリサイクル可能なコロイド結晶材料を形成可能な複合粒子、この複合粒子を含む膜状部材及び、損傷した膜状部材を再生可能である再生膜状部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 無機粒子と、前記無機粒子の表面上に位置し、前記無機粒子を覆う、アクリル系モノマーに由来する構成単位を複数含むポリマー鎖を含むシェル層と、を備える複合粒子。
<2> 前記アクリル系モノマーは、アクリロイル基を除く炭素数が4~12であるアクリル酸エステルである<1>に記載の複合粒子。
<3> 無機粒子は、シリカ、炭素材料及び金属酸化物の少なくとも一方の粒子である<1>に記載の複合粒子。
<4> 前記ポリマー鎖は、前記アクリル酸エステルに由来する構成単位を複数含む第1のポリマー鎖と、単独重合体としたときに結晶化温度が25℃以上となる(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位を複数含む第2のポリマー鎖とを含み、無機粒子側から見て前記第1のポリマー鎖及び前記第2のポリマー鎖の順に位置する<2>又は<3>に記載の複合粒子。
<5> 前記(メタ)アクリル系モノマーは、(メタ)アクリロイル基を除く炭素数が1
8以上である(メタ)アクリル酸エステルである<4>に記載の複合粒子。
<6> 無機粒子の表面に下記一般式(1)で表される構造が結合し、前記一般式(1)で表される構造を介して前記無機粒子と前記ポリマー鎖が結合している<1>~<5>のいずれか1つに記載の複合粒子。
【0009】
【0010】
一般式(1)中、nは3~10の整数であり、R1はメチル基又はエチル基であり、*1は、それぞれ独立に前記無機粒子との結合位置又は炭素数1~3のアルコキシ基との結合位置であり、*2は、前記ポリマー鎖との結合位置である。
<7> <1>~<6>のいずれか1つに記載の複合粒子を含む膜状部材。
<8> コロイド結晶構造を有する<7>に記載の膜状部材。
<9> せん断力が印加された<6>又は<7>に記載の膜状部材。
<10> 損傷した<7>~<9>のいずれか1つに記載の膜状部材に対して加熱条件下にてせん断応力を印加することでコロイド結晶構造を有する再生膜状部材を得る再生膜状部材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、損傷等に対してもリサイクル可能なコロイド結晶材料を形成可能な複合粒子、この複合粒子を含む膜状部材及び、損傷した膜状部材を再生可能である再生膜状部材の製造方法を提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例1のSiP-POAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1のSiP-POAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定の結果である。
【
図4】
図4は、実施例1のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定の結果である。
【
図5】
図5は、実施例1のSiP-POAのエラストマー膜について、圧縮過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例1のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例1のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例1のSiP-POAのエラストマー膜について、温度分散測定の結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例12のSiP-PODAのエラストマー膜について、温度分散測定の結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例1のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、温度分散測定の結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例1~5のSiP-POAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例1~5のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、実施例1~5のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例1~5のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例1~5のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸による応力測定を繰り返し行った結果を示すグラフである。
【
図16】
図16は、実施例3のリサイクル1回目~3回目であるエラストマー膜について、ひずみ印加処理前後の反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、実施例4のリサイクル1回目~3回目であるエラストマー膜について、ひずみ印加処理前後の反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図18】
図18は、実施例3のリサイクル1回目~3回目であるひずみ印加後のエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図19】
図19は、実施例4のリサイクル1回目~3回目であるひずみ印加後のエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図20】
図20は、実施例6~8のSiP-POAのエラストマー膜について、ひずみ印加前での反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図21】
図21は、実施例6~8のSiP-POAのエラストマー膜について、ひずみ印加後での反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図22】
図22は、実施例13のSiP-POA-b-PDAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図23】
図23は、実施例13のSiP-POA-b-PDAのエラストマー膜について、圧縮過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図24】
図24は、実施例13のSiP-POA-b-PDAのエラストマー膜について、延伸過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図25】
図25は、実施例13のSiP-POA-b-PDAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図26】
図26は、実施例13のSiP-POA-b-PDAのエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図27】
図27は、実施例13のSiP-POA-b-PDAのエラストマー膜について、温度分散測定の結果を示すグラフである。
【
図28】
図28は、実施例14のSiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図29】
図29は、実施例14のSiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図30】
図30は、実施例14のSiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図31】
図31は、実施例14のSiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図32】
図32は、実施例14のSiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図33】
図33は、実施例14のSiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜について、温度分散測定の結果を示すグラフである。
【
図34】
図34は、実施例15のSiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図35】
図35は、実施例15のSiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図36】
図36は、実施例15のSiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図37】
図37は、実施例15のSiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図38】
図38は、実施例15のSiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図39】
図39は、実施例15のSiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜について、温度分散測定の結果を示すグラフである。
【
図40】
図40は、実施例16のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図41】
図41は、実施例16のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図42】
図42は、実施例16のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図43】
図43は、実施例16のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図44】
図44は、実施例16のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図45】
図45は、実施例16のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、温度分散測定の結果を示すグラフである。
【
図46】
図46は、実施例17~25のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、広角X線回折(WAXD)測定の結果を示すグラフである。
【
図47】
図47は、実施例17~25のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、温度分散測定の結果を示すグラフである。
【
図48】
図48は、実施例17~19のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図49】
図49は、実施例20~22のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図50】
図50は、実施例23~25のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図51】
図51は、実施例1、18、21及び24のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図52】
図52は、CBNs-POAの熱重量測定の結果を示すグラフである。
【
図53】
図53は、実施例26~28のCBNs-POAを添加したエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図54】
図54は、実施例28のエラストマー膜及びCBNs-POAを添加していないSiP-POAのエラストマー膜について、ひずみ印加後の反射スペクトル測定の結果を示すグラフである。
【
図55】
図55は、実施例29のCBNs-POAを添加したエラストマー膜及びCBNs-POAを添加していないエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図56】
図56は、実施例29のCBNs-POAを添加したエラストマー膜について、圧縮による応力測定の結果である。
【
図57】
図57は、実施例29のCBNs-POAを添加したエラストマー膜について、圧縮過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図58】
図58は、実施例29のCBNs-POAを添加したエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果である。
【
図59】
図59は、実施例29のCBNs-POAを添加したエラストマー膜について、延伸過程における反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図60】
図60は、実施例29のリサイクル1回目~3回目であるエラストマー膜について、ひずみ印加処理前後の反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図61】
図61は、実施例29のリサイクル1回目~3回目であるひずみ印加後のエラストマー膜について、延伸による応力測定の結果を示すグラフである。
【
図62】
図62は、実施例18のエラストマー膜について、延伸過程におけるサイクル試験の結果を示すグラフである。
【
図63】
図63は、実施例21のエラストマー膜について、延伸過程におけるサイクル試験の結果を示すグラフである。
【
図64】
図64は、実施例24のエラストマー膜について、延伸過程におけるサイクル試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示において段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の成分の合計量を意味する。
本開示において、置換又は無置換を明記していない化合物については、本開示における効果を損なわない範囲で、任意の置換基を有していてもよい。
なお、本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。本開示において、任意の組み合わせにおいて、2つ以上の好ましい態様を組み合わせてもよい。
【0014】
<複合粒子>
本開示の複合粒子は、無機粒子と、前記無機粒子の表面上に位置し、前記無機粒子を覆う、アクリル系モノマーに由来する構成単位を複数含むポリマー鎖を含むシェル層と、を備える。ポリマー鎖を含むシェル層で覆われた無機粒子を備える複合粒子を成形した成形物(例えば、シート状物)では、ポリマー鎖の絡み合いにより三次元構造(例えば、コロイド結晶構造)が維持されており、化学架橋が施されていない。そのため、損傷した場合であっても、せん断応力の印加等により修復、再成形等が可能であり、修復又は再成形の際に光学特性、力学特性等の変化も生じにくい。したがって、本開示の複合粒子は、損傷等に対してもリサイクル可能なコロイド結晶材料を形成可能である。
【0015】
(無機粒子)
本開示の複合粒子は、無機粒子を備える。無機粒子は、シェル層が表面上に位置するコア粒子となり得るものであれば特に限定されない。
【0016】
無機粒子は、シリカ、炭素材料及び金属酸化物の少なくとも一方の粒子であることが好ましい。炭素材料としては、カーボンブラック、コークス、黒鉛等が挙げられる。金属酸化物としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化インジウムスズ、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ニッケル等が挙げられる。
光の反射率を高めて反射光の視認性を高める観点から、無機粒子の屈折率が高いことが好ましく、例えば、酸化チタンが好ましい。
エラストマー膜の彩度を高める観点から、無機粒子は、炭素材料の粒子(炭素質粒子)を含むことが好ましく、カーボンブラックを含むことがより好ましい。また、カーボンブラック等の光を吸収し発熱する粒子を使用することで、UV(紫外線)等の光をエラストマー膜に照射した際に、エラストマー膜に含まれる当該粒子が発熱してエラストマー膜の修復、再成形等が可能となる。この場合、UV等の照射により熱が発生するため、別途エラストマー膜を加熱する等の処理は不要である。
【0017】
無機粒子の平均粒径は、1nm~10μmであってもよく、10nm~10μmであってもよく、100nm~10μmであってもよい。
無機粒子の平均粒径は、10nm~1μmであってもよく、10nm~500nmであってもよく、20nm~300nmであってもよく、30nm~200nmであってもよい。無機粒子の平均粒径を小さくすることで、柔軟な膜状部材が得られる傾向にある。
本開示において、粒子の平均粒径は、体積平均粒子径を指しており、例えば、動的光散乱式(DLS)粒子径分布測定装置(製品番号;UPA-UT151、日機装株式会社製)を用いて、粒子径の温度が25℃に調節した条件で測定することができる。
【0018】
(シェル層)
本開示の複合粒子は、無機粒子の表面上に位置し、前記無機粒子を覆うシェル層を備える。シェル層は、アクリル系モノマーに由来する構成単位を複数含むポリマー鎖を含む。
【0019】
アクリル系モノマーとしては、アクリロイル基を有するモノマーであれば特に限定されない。アクリル系モノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、tert-オクチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ラウリルアクリレート、ミリスチルアクリレート、ステアリルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、フルオロアルキルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリル酸;アクリル酸2-イソシアネートエチル等のイソシアネート基含有アクリレート;N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N-t-ブチルアミノエチルアクリレート等の窒素含有アクリレート;アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド等のアミド基含有単量体;が挙げられる。
【0020】
アクリル系モノマーは、複合粒子を含む膜状部材の柔軟性の観点から、アクリロイル基を除く炭素数が4~14であるアクリル酸エステル(以下、特定のアクリル酸エステルとも称する。)であることが好ましく、複合粒子を含む膜状部材の圧縮及び解放時の反射色が可逆的に変化しやすい観点から、炭素数4~12であるアクリル酸エステルであることがより好ましい。
特に、シェル層に含まれるポリマー鎖が特定のアクリル酸エステルに由来する構成単位を複数含むポリマー鎖のみからなる場合、複合粒子を含む膜状部材の圧縮及び解放時の反射色が可逆的に変化しやすい観点から、アクリル系モノマーは、炭素数4~8であるアクリル酸エステルであることがより好ましい。
【0021】
特定のアクリル酸エステルとしては、例えば、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、tert-オクチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ウンデシルアクリレート、ドデシルアクリレート(ラウリルアクリレート)、トリデシルアクリレート、テトラデシルアクリレート等が挙げられる。
【0022】
ポリマー鎖は、アクリル系モノマー以外のモノマー(以下、その他のモノマーともいう
)に由来する構成単位を含んでいてもよい。その他のモノマーとしては、スチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、2-ビニルナフタレン、p-メトキシスチレン等のスチレン系単量体;クロトン酸等の不飽和カルボン酸単量体;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物単量体;フマル酸ジメチル、フマル酸ジシクロヘキシル等のフマル酸エステル系単量体;m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等のイソシアネート基含有単量体;2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等の芳香族含窒素単量体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン単量体;酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体;ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0023】
シェル層に含まれるポリマー鎖は、特定のアクリル酸エステルに由来する構成単位(以下、第1の構成単位とも称する。)を複数含む第1のポリマー鎖と、単独重合体としたときに結晶化温度が25℃以上となる(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位(以下、第2の構成単位とも称する。)を複数含む第2のポリマー鎖とを含むことが好ましい。さらに、無機粒子側から見て第1のポリマー鎖及び第2のポリマー鎖の順に位置することがより好ましい。結晶化温度が25℃以上となる第2の構成単位を複数含む第2のポリマー鎖が最表面上に位置することで室温付近にてポリマー鎖の結晶化が生じていることでタック性が抑制される。
【0024】
前述のように、第1のポリマー鎖は、アクリロイル基を除く炭素数が4~14であるアクリル酸エステルに由来する構成単位(第1の構成単位)を複数含み、第2のポリマー鎖は、第2の構成単位を複数含むことが好ましい。
【0025】
第1のポリマー鎖は、第1の構成単位のみからなるものであってもよく、第1の構成単位及びその他の構成単位を含むものであってもよい。第1のポリマー鎖におけるその他の構成単位としては、例えば、その他のモノマーに由来する構成単位、特定のアクリル酸エステル以外のアクリル系モノマーに由来する構成単位等が挙げられる。
【0026】
第1のポリマー鎖に含まれる第1の構成単位の割合は、全構成単位100モル%に対し、50モル%~100モル%であってもよく、70モル%~100モル%であってもよく、90モル%~100モル%であってもよい。
【0027】
第2のポリマー鎖は、第2の構成単位のみからなるものであってもよく、第2の構成単位及びその他の構成単位を含むものであってもよい。第2のポリマー鎖におけるその他の構成単位としては、例えば、その他のモノマーに由来する構成単位、第2の構成単位以外のアクリル系モノマーに由来する構成単位等が挙げられる。
【0028】
第2のポリマー鎖に含まれる第2の構成単位の割合は、全構成単位100モル%に対し、50モル%~100モル%であってもよく、70モル%~100モル%であってもよく、90モル%~100モル%であってもよい。
【0029】
第2の構成単位において、単独重合体としたときに結晶化温度が25℃以上となる(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を除く炭素数が18以上である(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0030】
(メタ)アクリロイル基を除く炭素数が18以上である(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリロイル基を除く炭素数が18~22である(メタ)アクリル酸エステルであってもよい。具体的には、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、ノナデシルアクリレート、エイコシルアクリレート、ヘンエイコシルアクリレート、ドコシルアクリレート(ベヘニルアクリレート)等が挙げられる。
【0031】
コア-シェル粒子である複合粒子を製造する際には、例えば、原子移動ラジカル重合(ATRP)開始基を有するコア粒子からグラフト重合する方法(手法1)、コア粒子表面に高分子鎖末端の官能基を反応させる方法(手法2)、マクロモノマーをコモノマーとする粒子合成(手法3)などにより製造することができる。高密度なグラフト鎖を形成でき、グラフト鎖に様々な単量体が使用でき、更にはグラフト鎖の分子量を自由に設計できる点で手法1が好ましい。
【0032】
ATRP開始基を有するコア粒子を製造する場合には公知の方法が採用され、特に制限されるものではない。例えば、ATRP開始基を有する化合物(ATRP開始基を有するシランカップリング剤など)をコア粒子の表面の官能基と反応させる方法が挙げられる。
【0033】
本開示の複合粒子では、無機粒子の表面に下記一般式(1)で表される構造又は下記一般式(2)で表される構造が結合し、一般式(1)で表される構造又は下記一般式(2)で表される構造を介して無機粒子と前記ポリマー鎖が結合していてもよい。一般式(1)で表される構造又は下記一般式(2)で表される構造は、リビングラジカル重合開始基がアクリル系モノマーと反応することで形成され得る。
【0034】
【0035】
一般式(1)中、nは3~10の整数であり、R1はメチル基又はエチル基であり、*1は、それぞれ独立に前記無機粒子との結合位置又は炭素数1~3のアルコキシ基との結合位置であり、*2は、前記ポリマー鎖との結合位置である。
一般式(2)中、R1はメチル基又はエチル基であり、*1は、それぞれ独立に前記無機粒子との結合位置であり、*2は、前記ポリマー鎖との結合位置である。
【0036】
本開示の複合粒子は、1種の複合粒子からなるものであってもよく、2種以上の複合粒子の混合物であってもよい。
例えば、1種の複合粒子は複数個の粒子であってもよく、この場合は複数個の粒子間にて、無機粒子の材質及びシェル層を構成する構成単位の種類が同じ複合粒子を指す。1種の複合粒子が複数個の粒子である場合、複合粒子を構成する無機粒子の粒径、形状等はそれぞれ同一でも相違していてもよく、複合粒子を構成するシェル層におけるポリマー鎖の形状、長さ、量等はそれぞれ同一でも相違していてもよい。
2種以上の複合粒子の混合物では、無機粒子の材質が異なる複合粒子の組み合わせであってもよく、シェル層のポリマー鎖を構成する構成単位の種類が異なる複合粒子の組み合わせであってもよく、無機粒子の材質及び構成単位の種類の両方が異なる複合粒子の組み合わせであってもよい。
【0037】
本開示の複合粒子は、シリカ及び金属酸化物の少なくとも一方の粒子である無機粒子とアクリル系モノマーに由来する構成単位を複数含むポリマー鎖を含むシェル層と、を備える第1の複合粒子と、炭素質粒子である無機粒子とアクリル系モノマーに由来する構成単位を複数含むポリマー鎖を含むシェル層と、を備える第2の複合粒子との組み合わせであってもよい。
【0038】
第1の複合粒子を構成するシェル層、第2の複合粒子を構成するシェル層の好ましい構成は、本開示の複合粒子を構成するシェル層の好ましい構成と同様である。
【0039】
本開示の複合粒子が、第1の複合粒子及び第2の複合粒子の組み合わせである場合、第2の複合粒子の含有率は、第1の複合粒子に対し、0.001質量%~50質量%であってもよく、0.0015質量%~10質量%であってもよく、0.002質量%~1質量%であってもよい。
【0040】
<膜状部材>
本開示の膜状部材は、前述の本開示の複合粒子を含む。例えば、膜状部材は、本開示の複合粒子をホットプレス等を用いて成形した成形物であってもよい。
【0041】
本開示の膜状部材は、コロイド結晶構造を有することが好ましい。コロイド結晶構造を有することで、三次元周期構造による光のブラッグ反射による構造色を呈する。例えば、複合粒子を成形した膜状部材に対してせん断力が印加されていることでポリマー鎖を有する複合粒子が配向してコロイド結晶構造を形成し得る。
【0042】
本開示の膜状部材は、化学架橋が施されていない成形物であることが好ましい。化学架橋が施されずに複合粒子に含まれるポリマー鎖の絡み合いにより三次元構造(例えば、コロイド結晶構造)が維持されていることで、損傷した場合であっても、せん断応力の印加等により修復、再成形等が可能となる。
【0043】
本開示の膜状部材は、2種以上の複合粒子の混合物、例えば、第1の複合粒子と第2の複合粒子との混合物を含んでいてもよい。例えば、膜状部材は、2種以上の複合粒子の混合物をホットプレス等を用いて成形した成形物であってもよい。
【0044】
<再生膜状部材の製造方法>
本開示の再生膜状部材の製造方法は、損傷した本開示の膜状部材に対して加熱条件下にてせん断応力を印加することでコロイド結晶構造を有する再生膜状部材を得る方法である。
【0045】
切断、割れ等により損傷した膜状部材を加熱することで複合粒子に含まれるポリマー鎖の絡み合いがほどけて複合粒子の三次元配置がランダムとなる。加熱条件下にて膜状部材にせん断応力を印加することでコロイド結晶構造を有する膜状部材が得られる。そして、加熱された膜状部材を室温等まで冷却することで複合粒子に含まれるポリマー鎖が再度絡み合うことでコロイド結晶構造が維持される。そのため、膜状部材が損傷した場合であっても、せん断応力の印加により修復、再成形等が可能である。修復又は再成形した再生膜状部材では、修復、再成形等の処理を繰り返し行った場合であっても、その光学特性、力学特性等の変化も生じにくい。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
平均粒径が120nmであるシリカ微粒子を準備した。16.9質量%のシリカ微粒子の水分散液13.7gを遠心分離し、シリカ微粒子をエタノールに再分散させた。この操作を3回行い、最終的に10質量%のシリカ微粒子のエタノールサスペンションを23.0g調製した。28%アンモニア水溶液13.9gとエタノール175mLを混合した溶液を、シリカ微粒子のエタノールサスペンション23.0gを入れたナスフラスコに滴下し、40℃のオイルバスで3時間撹拌した。続いて、このナスフラスコに、エタノール10.0mLと原子移動ラジカル重合(ATRP)開始基を有するシランカップリング剤(2-ブロモ-2-メチルプロパン酸6-(トリエトキシシリル)ヘキシル)2.00gを混合した溶液を滴下して40℃で18時間撹拌した。これを遠心分離にかけ、沈殿をエタノール中に再分散させた。この操作を3回行い、最終的にシリカ微粒子が10質量%のエタノールサスペンション23.0gを調製した。
これにより、表面上に以下の式(1a)で表されるATRP開始基を有するシリカ微粒子を作製した。なお、式(1a)中の*1は、それぞれ独立にシリカ微粒子との結合位置又はエトキシ基との結合位置である。
【0048】
【0049】
(ポリマー鎖で修飾したシリカ微粒子の作製)
次に、フラスコ内にATRP開始基を有するシリカ微粒子0.603g、n-オクチルアクリレート30.0g、重合開始剤である2-ブロモイソ酪酸エチル(EBIB)1.97mg、配位子であるトリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(Me6TREN)28.6mg、並びに触媒である臭化銅(I)13.8mg及び臭化銅(II)6.3mgを加えた。そして、45℃にて5時間重合反応させた。これを遠心分離することにより、n-オクチルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(POA鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-POA)を作製した。
【0050】
(ブロックポリマー鎖で修飾したシリカ微粒子の作製)
前述のようにして作製したSiP-POAに対してn-オクタデシルアクリレート(ODA)を重合反応させてn-オクチルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(第1のポリマー鎖)及びn-オクタデシルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(第2のポリマー鎖)で修飾したシリカ微粒子を作製した。まず、フラスコ内にSiP-POA 0.391g、n-オクタデシルアクリレート7.16g、EBIB 1.97mg、Me6TREN 21.8mg、臭化銅(I)14.7mg及び臭化銅(II)4.7mgを加えた。そして、85℃にて40分間重合反応させた。これを遠心分離及び透析することにより、SiP-POAに対してb-PODA鎖で修飾したシリカ微粒子(SiP-POA-b-PODA)を作製した。
【0051】
(ホットプレスによる成形)
前述のようにしてそれぞれ作製したSiP-POA及びSiP-POA-b-PODAを100℃でホットプレスし、直径約25mm、厚さ約500μmの円板状に成形した。これにより、円板状のエラストマー膜を作製した。
【0052】
(振動せん断ひずみの印加)
レオメーターの平行平板治具で振動せん断ひずみを円板状のエラストマー膜に対して以下の条件で印加した。これにより、ひずみ印加後のエラストマー膜を作製した。
-振動せん断ひずみの印加条件-
治具の直径:25mm
機種:MCR102型(アントンパール社)
温度:100℃
周波数:0.1Hz
ノーマルフォース:7N
ひずみ:100%
時間:10min
【0053】
ひずみ印加後のエラストマー膜(SiP-POAのエラストマー膜及びSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜)に対し、反射スペクトル測定、圧縮による応力測定、圧縮過程における反射スペクトルの測定、延伸過程における反射スペクトルの測定及び温度分散測定をそれぞれ行った。
【0054】
(反射スペクトル測定)
SiP-POAのエラストマー膜及びSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルを測定した。結果を
図1及び
図2に示す。
図1及び
図2に示すように、SiP-POAのエラストマー膜及びSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜は、ひずみ印加により赤色の反射色を示した。反射色を示した理由としては、加熱によりシリカ微粒子のポリマー鎖の絡み合いがほどけ、振動せん断ひずみの印加によりエラストマー膜内にてポリマー鎖を有するシリカ微粒子が配向してコロイド結晶構造を形成したため、と推測される。
【0055】
(圧縮による応力測定)
SiP-POAのエラストマー膜及びSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定を行った。結果を
図3及び
図4に示す。
SiP-POAのエラストマー膜及びSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜は圧縮可能であった。20%まで圧縮した際の最大点応力を比較すると、SiP-POAのエラストマー膜では約2kPaであり、SiP-POA-b-PODAのエラストマー膜では約85kPaであった。
【0056】
(圧縮過程における反射スペクトルの測定)
SiP-POAのエラストマー膜及びSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮しながら反射スペクトルを測定した。結果を
図5及び
図6に示す。
SiP-POAのエラストマー膜では、膜厚方向に約10%の圧縮を行うことで反射色は赤色(約620nm)から緑色(約560nm)へと変化した。
SiP-POA-b-PODAのエラストマー膜では、膜厚方向に約35%の圧縮を行うことで反射色は赤色(約650nm)から青色(約430nm)へと変化した。
【0057】
(延伸過程における反射スペクトルの測定)
SiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸をしながら反射スペクトルを測定した。結果を
図7に示す。SiP-POAのエラストマー膜については、膜の柔軟性、粘着性が高く、上手く延伸することができなかった。
SiP-POA-b-PODAのエラストマー膜では、初期状態から約100%まで延伸を行うことで反射色は赤色(約620nm)から青緑色(約510nm)へと変化した。
【0058】
(温度分散測定)
実施例1のSiP-POAのエラストマー膜、後述の実施例12のSiP-PODAのエラストマー膜及び実施例1のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、粘弾性測定装置により温度分散測定を行った。測定結果を
図8~
図10に示す。
図10では、転移領域にてG’>G”となっていた。
図10の結果により、PODA鎖の結晶化による架橋が施されていることが示唆された。
【0059】
SiP-POAのエラストマー膜ではタック性が確認されたが、SiP-POAのエラストマー膜ではタック性が確認されなかった。
SiP-POA-b-PODAのエラストマー膜では、SiP-POAのエラストマー膜と比較してより広波長での圧縮による反射色の変化が確認された。
さらに、SiP-POAのエラストマー膜は粘着性及び柔軟性の観点から延伸することができなかった。一方、SiP-POA-b-PODAのエラストマー膜は延伸可能であり、広波長での延伸による反射色の変化が確認された。
【0060】
[実施例2~5]
実施例1において、SiP-POAに対してb-PODA鎖で修飾したシリカ微粒子(SiP-POA-b-PODA)の作製条件を表1に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にしてSiP-POA-b-PODAを作製した。なお、表1中の重合時間を長くするほど、b-PODA鎖の分子量は大きくなる、と推測される。
【0061】
【0062】
実施例1と同様にして実施例2~5のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルを測定した。結果を
図11に示す。
図11に示すように、重合時間と相関するPODA鎖の分子量にかかわらず、せん断の印加により赤色の反射色を示した。
【0063】
実施例1と同様にして実施例2~5のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定を行った。結果を
図12に示す。
図12に示すように、PODA鎖の分子量が小さくなるにつれて最大点応力は小さくなり、柔軟性に優れるエラストマー膜が得られた。
【0064】
実施例1~5のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸による応力測定を行った。結果を
図13に示す。
図13に示すように、実施例5を除き、PODA鎖の分子量が小さくなるにつれて破断ひずみの値が大きくなり、延伸力に優れるエラストマー膜が得られた。
【0065】
実施例1と同様にして実施例2~5のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸過程における反射スペクトルを測定した。結果を
図14に示す。
図14に示すように、実施例1~5において、反射色は赤色から青緑色を示した。
【0066】
実施例1~5のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸による応力測定を繰り返し行った。結果を
図15に示す。
図15に示すように、実施例1~3では、少なくとも100回のサイクル試験を行ってもエラストマー膜の破断は確認されなかった。
一方、実施例4及び5では、10回のサイクル試験を行ってもエラストマー膜の破断は確認されなかったが、その後に延伸による応力測定を繰り返すことでエラストマー膜が破断した。
【0067】
上記の実験結果により、実施例1及び3のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜は、延伸性及び繰り返し延伸に対する耐性に優れていた。
【0068】
(リサイクル試験)
実施例3及び4について、以下のようにしてリサイクル性を評価した。まず、実施例3及び4のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜を板状に切断することでエラストマー膜の破片を得た(切断処理)。次に、エラストマー膜の破片同士が接触した状態にて100℃でホットプレスすることで直径約25mm、厚さ約500μmの円板状に再成形した(再成形処理)。レオメーターの平行平板治具で振動せん断ひずみを円板状の再成形されたエラストマー膜に対して以下の条件で印加した(ひずみ印加処理)。これにより、リサイクル1回目であるひずみ印加後のエラストマー膜を作製した。
-振動せん断ひずみの印加条件-
治具の直径:25mm
機種:MCR102型(アントンパール社)
温度:100℃
周波数:0.1Hz
ノーマルフォース:7N
ひずみ:100%
時間:10min
【0069】
リサイクル1回目であるエラストマー膜について、前述のひずみ印加処理前後の反射スペクトルを測定した。結果を
図16及び17に示す。
【0070】
また、リサイクル1回目であるエラストマー膜に対して切断処理、再成形処理及びひずみ印加処理を2回繰り返した。
リサイクル2回目及びリサイクル3回目であるエラストマー膜についても、前述のひずみ印加処理前後の反射スペクトルを測定した。結果を
図16及び17に示す。
【0071】
図16及び17に示すように、リサイクル1回目~3回目では、反射波長及び反射率はおおむね一致していた。再成形を繰り返した場合であっても、エラストマー膜の光学特性が変化しにくいことが確認できた。
【0072】
実施例3及び4について、リサイクル1回目~3回目であるひずみ印加後のエラストマー膜について、延伸による応力測定を行った。結果を
図18及び19に示す。
【0073】
図18及び19に示すように、リサイクル1回目~3回目では、破断ひずみ及び最大点応力はおおむね一致していた。再成形を繰り返した場合であっても、エラストマー膜の力学特性が変化しにくいことが確認できた。
【0074】
リサイクル試験の結果から、ひずみ印加後のエラストマー膜では、化学架橋が施されておらず、室温にてポリマー鎖の絡み合いによりコロイド結晶構造が維持されている、と推測される。さらに、リサイクルを繰り返した場合であっても、エラストマー膜の光学特性及び力学特性の変化は生じにくいことも確認できた。
【0075】
[実施例6~8]
実施例1のSiP-POAの作製において、n-オクチルアクリレートの重合条件を変更することでPOA鎖の数平均分子量(Mn)の異なるSiP-POAを作製した。実施例6~8のSiP-POAを用いて実施例1と同様にしてSiP-POAのエラストマー膜を作製した。実施例6~8のSiP-POAにおいて、POA鎖の数平均分子量の計算結果は以下の通りである。
-POA鎖の数平均分子量-
実施例6:Mn=1.09×105
実施例7:Mn=1.91×105
実施例8:Mn=2.78×105
【0076】
なお、POA鎖の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により求め、以下の式(3)~式(5)からグラフト密度を求めた。結果は以下の通りである。-グラフト密度-
実施例6:0.81
実施例7:0.69
実施例8:0.45
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
式(3)~式(5)中、wはシリカ微粒子1個あたりのポリマー鎖の質量であり、ρはシリカ微粒子の密度であり、Vはシリカ微粒子1個あたりの体積であり、αはポリマー鎖の燃焼によるSiP-POAの質量減少率(0<α<100)であり、xはシリカ微粒子1個あたりのポリマー鎖の数であり、NAはアボガドロ定数であり、Mnはポリマー鎖の数平均分子量であり、σはグラフト密度であり、Aはシリカ微粒子の表面積である。
【0081】
(反射スペクトル測定)
実施例6~8のSiP-POAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルを測定した。結果を
図20及び
図21に示す。
図20及び
図21に示すように、ひずみ印加によって反射率が大幅に上昇した。さらに、POA鎖の数平均分子量の値によって、反射色が調整可能であることも確認できた。例えば、POA鎖の数平均分子量を大きくすることで、反射色を長波長化できる傾向にある。
【0082】
[実施例9]
実施例8のSiP-POAの作製において、n-オクチルアクリレートの替わりにn-ブチルアクリレートを使用し、重合条件を適宜変更することでn-ブチルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(PBA鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-PBA)を作製した。SiP-PBAを用いて実施例8と同様にしてSiP-PBAのエラストマー膜を作製した。PBA鎖の数平均分子量は、2.04×105であった。
【0083】
実施例9のSiP-PBAのエラストマー膜について、圧縮及び解放を行うことで実施例8と同様に反射色が赤色と緑色の間で可逆的に変化することを確認した。
【0084】
[実施例10及び11]
実施例8のSiP-POAの作製において、n-オクチルアクリレートの替わりにn-デシルアクリレート(実施例10)又はラウリルアクリレート(実施例11)を使用し、重合条件を適宜変更した。これにより、実施例10にてn-デシルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(PDA鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-PDA)を作製し、実施例11にてラウリルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(PLA鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-PLA)を作製した。SiP-PDA及びSiP-PLAを用いて実施例8と同様にしてSiP-PDAのエラストマー膜及びSiP-PLAのエラストマー膜を作製した。PDA鎖の数平均分子量は、4.38×105であり、PLA鎖の数平均分子量は、2.59×105であった。
【0085】
実施例10及び11のSiP-PDAのエラストマー膜及びSiP-PLAのエラストマー膜について、圧縮及び解放を行うことで反射色を確認した。圧縮することで赤色から緑色に反射色が変化することが確認できたが、圧縮力を解放しても反射色は元に戻らなかった。実施例10及び11のエラストマー膜については、応力を解放した場合であっても、応力の履歴が維持されることが確認でき、応力履歴の確認、評価等が必要な用途に使用可能である。また、前述のような再成形処理及びひずみ印加処理を行うことで、反射色を元に戻してリサイクルすることも可能である。
【0086】
[実施例12]
実施例8のSiP-POAの作製において、n-オクチルアクリレートの替わりにn-オクタデシルアクリレートを使用し、重合条件を適宜変更することでn-オクタデシルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(PODA鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-PODA)を作製した。SiP-PODAを用いて実施例8と同様にしてSiP-PODAのエラストマー膜を作製した。PODA鎖の数平均分子量は、2.00×105であった。
【0087】
実施例12のSiP-PODAのエラストマー膜について、圧縮及び解放を行うことで反射色を確認した。エラストマー膜が非常に硬く、手では圧縮することができなかったが、圧縮試験機を用いて圧縮することで青色の反射色の濃淡が変化することが確認できたが、圧縮力を解放しても反射色は元に戻らなかった。
【0088】
実施例6~12におけるポリマー鎖で修飾したシリカ微粒子の作製条件を以下の表2にまとめた。
【0089】
【0090】
[実施例13]
実施例1において、SiP-POAに対してn-オクタデシルアクリレートの替わりにn-ドコシルアクリレートを重合反応させてn-オクチルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(第1のポリマー鎖)及びn-ドコシルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(第2のポリマー鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-POA-b-PDA)を作製した。SiP-POA-b-PDAを用いて実施例1と同様にしてSiP-POA-b-PDAのエラストマー膜を作製した。ポリ(n-ドコシルアクリレート)は、結晶化温度が約47℃のポリマーである。
【0091】
実施例13のSiP-POA-b-PDAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルを測定した。結果を
図22に示す。
図22に示すように、SiP-POA-b-PDAのエラストマー膜は、ひずみ印加により赤色の反射色を示した。
【0092】
実施例13のSiP-POA-b-PDAのエラストマー膜について、圧縮しながら反射スペクトルを測定した。結果を
図23に示す。
【0093】
実施例13のSiP-POA-b-PDAのエラストマー膜について、延伸をしながら反射スペクトルを測定した。結果を
図24に示す。
【0094】
さらに、実施例13のSiP-POA-b-PDAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定及び延伸による応力測定をそれぞれ行った。また、このエラストマー膜について、粘弾性測定装置により温度分散測定を行った。結果を
図25~
図27に示す。
【0095】
実施例13のSiP-POA-b-PDAのエラストマー膜について、圧縮及び解放又は延伸及び解放を行うことで反射色が可逆的に変化することを確認した。さらに、このエラストマー膜を破断させた場合であっても、加熱及びせん断の印加により再成形可能であった。
【0096】
[実施例14]
n-オクチルアクリレートの替わりに2-エチルヘキシルアクリレートを用いた以外は実施例1と同様にして、2-エチルヘキシルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(PEHA鎖、分岐型のポリマー鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-PEHA)を作製した。SiP-PEHAに対してn-オクタデシルアクリレートを実施例1と同様に重合反応させて2-エチルヘキシルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(第1のポリマー鎖)及びn-オクタデシルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(第2のポリマー鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-PEHA-b-PODA)を作製した。SiP-PEHA-b-PODAを用いて実施例1と同様にしてSiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜を作製した。
【0097】
実施例14のSiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルを測定した。結果を
図28に示す。
図28に示すように、SiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜は、ひずみ印加により反射色を示した。
【0098】
実施例14のSiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮しながら反射スペクトルを測定した。結果を
図29に示す。
【0099】
実施例14のSiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸をしながら反射スペクトルを測定した。結果を
図30に示す。
【0100】
さらに、実施例14のSiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定及び延伸による応力測定をそれぞれ行った。また、このエラストマー膜について、粘弾性測定装置により温度分散測定を行った。結果を
図31~
図33に示す。
【0101】
実施例14のSiP-PEHA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮及び解放又は延伸及び解放を行うことで反射色が可逆的に変化することを確認した。さらに、このエラストマー膜を破断させた場合であっても、加熱及びせん断の印加により再成形可能であった。
【0102】
[実施例15]
n-オクチルアクリレートの替わりにラウリルアクリレートを用いた以外は実施例1と同様にして、ラウリルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(PLA鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-PLA)を作製した。SiP-PLAに対してn-オクタデシルアクリレートを実施例1と同様に重合反応させてラウリルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(第1のポリマー鎖)及びn-オクタデシルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(第2のポリマー鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-PLA-b-PODA)を作製した。SiP-PLA-b-PODAを用いて実施例1と同様にしてSiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜を作製した。
【0103】
実施例15のSiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルを測定した。結果を
図34に示す。
図34に示すように、SiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜は、ひずみ印加により反射色を示した。
【0104】
実施例15のSiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮しながら反射スペクトルを測定した。結果を
図35に示す。
【0105】
実施例15のSiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸をしながら反射スペクトルを測定した。結果を
図36に示す。
【0106】
さらに、実施例15のSiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定及び延伸による応力測定をそれぞれ行った。また、このエラストマー膜について、粘弾性測定装置により温度分散測定を行った。結果を
図37~
図39に示す。
【0107】
実施例15のSiP-PLA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮及び解放又は延伸及び解放を行うことで反射色が可逆的に変化することを確認した。さらに、このエラストマー膜を破断させた場合であっても、加熱及びせん断の印加により再成形可能であった。
【0108】
[実施例16]
実施例1のSiP-POAの作製において、重合時間を短くしたこと以外は実施例1と同様にしてSiP-POA-b-PODAを作製した。SiP-POA-b-PODAを用いて実施例1と同様にしてSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜を作製した。
【0109】
実施例16のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、ひずみ印加前後での反射スペクトルを測定した。結果を
図40に示す。
図40に示すように、SiP-POA-b-PODAのエラストマー膜は、ひずみ印加により反射色を示した。
【0110】
実施例16のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮しながら反射スペクトルを測定した。結果を
図41に示す。
【0111】
実施例16のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、延伸をしながら反射スペクトルを測定した。結果を
図42に示す。
【0112】
さらに、実施例16のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮による応力測定及び延伸による応力測定をそれぞれ行った。また、このエラストマー膜について、粘弾性測定装置により温度分散測定を行った。結果を
図43~
図45に示す。
【0113】
実施例16のSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、圧縮及び解放又は延伸及び解放を行うことで反射色が可逆的に変化することを確認した。さらに、このエラストマー膜を破断させた場合であっても、加熱及びせん断の印加により再成形可能であった。
【0114】
[実施例17~19]
平均粒径が83nmであるシリカ微粒子を準備した。実施例1と同様の手順により、シリカ微粒子が10質量%のエタノールサスペンションを調製することで、表面上に前述の式(1a)で表されるATRP開始基を有するシリカ微粒子を作製した。
【0115】
(ポリマー鎖で修飾したシリカ微粒子の作製)
次に、フラスコ内にATRP開始基を有するシリカ微粒子0.603g、n-オクチルアクリレート30.0g、重合開始剤である2-ブロモイソ酪酸エチル(EBIB)1.97mg、配位子であるトリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(Me6TREN)28.6mg及び臭化銅(II)6.3mgを加え、20分間窒素バブリングを行った。次いで、液体に臭化銅(I)13.8mgを加え、10分間窒素バブリングを行った。そして、45℃にて5時間重合反応させた。遠心分離及び析出の操作を行うことで、n-オクチルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(POA鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-POA)を得た。
【0116】
(ブロックポリマー鎖で修飾したシリカ微粒子の作製)
前述のようにして作製したSiP-POAに対してn-オクタデシルアクリレート(ODA)を重合反応させてn-オクチルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(第1のポリマー鎖)及びn-オクタデシルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(第2のポリマー鎖)で修飾したシリカ微粒子を作製した。まず、スクリュー管にSiP-POA 0.700gを加え、アニソール2.00mLと重合禁止剤を除去したODA 13.0gに溶解させた。調製した液体にEBIB 1.97mg、Me6TREN 21.8mg、及び臭化銅(II)4.7mgを加えた、20分間窒素バブリングを行った。次いで、液体に臭化銅(I)13.9mgを加え、10分間窒素バブリングを行った。そして、85℃のアルミビーズバスで撹拌し、表3に示す時間にて重合させた。反応液に水素化トリブチルスズ43.2mgを滴下し、85℃で1時間撹拌した。そして、反応液を室温に戻しながら、空気バブリングを行って反応を止めた。遠心分離及び析出の操作を行うことでSiP-POAに対してb-PODA鎖で修飾したシリカ微粒子(SiP-POA-b-PODA)を得た。
【0117】
[実施例20~22]
平均粒径が60nmであるシリカ微粒子を準備した。実施例1と同様の手順により、シリカ微粒子が10質量%のエタノールサスペンションを調製することで、表面上に前述の式(1a)で表されるATRP開始基を有するシリカ微粒子を作製した。
【0118】
(ポリマー鎖で修飾したシリカ微粒子の作製)
次に、実施例20~22で作製したATRP開始基を有するシリカ微粒子を用いたこと以外は実施例17~実施例19と同様にしてn-オクチルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(POA鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-POA)を得た。
【0119】
(ブロックポリマー鎖で修飾したシリカ微粒子の作製)
平均粒径が60nmであるシリカ微粒子(SiP-POA)を使用し、かつ表3に示す時間にて重合反応を行ったこと以外は実施例17~19と同様にしてSiP-POAに対してb-PODA鎖で修飾したシリカ微粒子(SiP-POA-b-PODA)を得た。
【0120】
[実施例23~25]
平均粒径が36nmであるシリカ微粒子を準備した。実施例1と同様の手順により、シリカ微粒子が10質量%のエタノールサスペンションを調製することで、表面上に前述の式(1a)で表されるATRP開始基を有するシリカ微粒子を作製した。
【0121】
(ポリマー鎖で修飾したシリカ微粒子の作製)
次に、実施例23~25で作製したATRP開始基を有するシリカ微粒子を用いたこと以外は実施例17~実施例19と同様にしてn-オクチルアクリレートに由来する構成単位からなるポリマー鎖(POA鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-POA)を得た。
【0122】
(ブロックポリマー鎖で修飾したシリカ微粒子の作製)
平均粒径が36nmであるシリカ微粒子(SiP-POA)を使用し、かつ表3に示す時間にて重合反応を行ったこと以外は実施例17~19と同様にしてSiP-POAに対してb-PODA鎖で修飾したシリカ微粒子(SiP-POA-b-PODA)を得た。
【0123】
(ホットプレスによる成形)
実施例17~25において、前述のようにしてそれぞれ作製したSiP-POA-b-PODAを100℃でホットプレスし、直径約25mm、厚さ約500μmの円板状に成形した。これにより、円板状のエラストマー膜を作製した。
【0124】
【0125】
実施例17~25のエラストマー膜は、高い透明性を有していた。これは、シリカ微粒子とポリマー鎖との屈折率差が小さく、光の散乱が抑制されたためであると考えられる。実施例17、18、20、21、23及び24のエラストマー膜はタック性を有していなかった。一方、実施例19、22及び25のエラストマー膜はタック性を有していた。
【0126】
(WAXD測定)
実施例17~25のエラストマー膜について、広角X線回折(WAXD)測定を行った。結果を
図46に示す。
図46に示されるように、PODA鎖の結晶化由来のピーク(2θ=21°付近)がすべてのサンプルで観測された。また、重合時間が長いことでPODA鎖の導入量が多い実施例17、20及び23では強いピークが確認され、重合時間が短いことでPODA鎖の導入量が少ない実施例19、22及び25では弱いピークが確認された。各エラストマー膜について、WAXD測定より求めた結晶化度を表4に示す。
【0127】
(温度分散測定)
実施例17~25のエラストマー膜について、粘弾性測定装置により温度分散測定を行った。測定結果を
図47に示す。
図47に示されるように、実施例17、18、20、21、23及び24のエラストマー膜では、転移領域にてG’がG”を大きく上回っていた。一方、実施例19、22及び25のエラストマー膜では、転移領域にてG’がG”をわずかに上回っていた。これらの結果は、重合時間が短いことでPODA鎖の導入量が少ない実施例19、22及び25では、物理架橋が少ないことを示唆している。各エラストマー膜について、25℃での貯蔵弾性率(G’、Pa)を表4に示す。
【0128】
(延伸による応力測定)
実施例17~25のエラストマー膜について、延伸による応力測定を行った。結果を
図48~50に示す。さらに、各エラストマー膜について、破断ひずみ(%)及び最大点応力(MPa)の結果を表4に示す。
【0129】
【0130】
表4の結果から、結晶化度が大きいエラストマー膜ではG’の値が高く、硬いエラストマー膜となる傾向が確認できた。さらに、シリカ微粒子の粒径が小さいほど、G’の値が低く、柔軟なエラストマー膜となる傾向が確認できた。この理由は粒径の小さいシリカ微粒子を使用することでエラストマー膜中のポリマー鎖の体積分率が増加するため、と推測される。
表4の結果から、PODA鎖の導入量によって破断ひずみが変化する傾向が確認できた。具体的には、PODA鎖の導入量が多い実施例17、20及び23では、PODA鎖の導入量がより少ない実施例18、21及び24と比較して破断ひずみが低下する傾向が確認できた。これは物理架橋によりエラストマー膜の柔軟性が乏しくなるため、と推測される。一方、PODA鎖の導入量が少ない実施例19、22及び25では、PODA鎖の導入量がより多い実施例と比較して破断ひずみが低下する傾向が確認できた。これはPODA鎖の導入量が少ないことで物理架橋点が少なく、エラストマー膜の強度が低下するため、と推測される。
【0131】
次に、シリカ微粒子の平均粒径が120nm、83nm、60nm、36nmのエラストマー膜(実施例1:SiP120、実施例18:SiP83、実施例21:SiP60及び実施例24:SiP36)について、延伸による応力測定の結果を
図51に示す。シリカ微粒子の平均粒径が小さいほどエラストマー膜の破断ひずみの値が大きくなる傾向が見られた。これは、シリカ微粒子の平均粒径が小さいほどエラストマー膜中のポリマー鎖の体積分率が増加するため、ガラス転移温度が低く柔軟性に優れているPOA鎖の影響を強く受けたから、と推測される。
【0132】
[実施例26~28]
平均粒径が15nmであるカーボンブラック粒子(三菱カーボンブラック#2350、CBNs)を準備した。200mLの三口フラスコに、CBNs 0.300g及び脱水N,N-ジメチルホルムアミド(脱水DMF)100mLを加えてCBNsをよく分散させた。分散液にトリエチルアミン0.660gを加え、10分間窒素バブリングを行った。0℃に冷却した後、2-ブロモイソブチリルブロミド(BIBB)1.50gを分散液に滴下し、1時間撹拌した。次いで、分散液を室温に戻し、一晩撹拌した。反応液に対して遠心分離を行うことでATRP開始基を有するCBNsを得た。
これにより、表面上に以下の式(2a)で表されるATRP開始基を有するCBNsを作製した。なお、式(2a)中の*1は、それぞれ独立にCBNsとの結合位置である。
【0133】
【0134】
(ポリマー鎖で修飾したカーボンブラック粒子の作製)
次に、スクリュー管にATRP開始基を有するCBNs 0.300g、脱水DMF 6.00mL及びn-オクチルアクリレート10.0gを加えてよく分散させた。分散液にEBIB 2.62mg、Me6TREN 28.0mg、及び臭化銅(II)4.2mgを加え、10分間窒素バブリングを行った。次いで、液体に臭化銅(I)13.9mgを加え、10分間窒素バブリングを行った。そして、60℃のアルミビーズバスで22時間撹拌し、重合させた。反応液に水素化トリブチルスズ43.2mgを滴下し、60℃で1時間撹拌した。そして、反応液を室温に戻しながら、空気バブリングを行って反応を止めた。遠心分離の操作を行うことでPOA鎖で修飾したCBNs(CBNs-POA)を得た。
【0135】
(エラストマー膜の作製)
実施例1で作製したポリマー鎖(POA鎖)で修飾したシリカ微粒子(SiP-POA)と、前述のCBNs-POAをトルエンに分散させた。このとき、SiP-POAとCBNs-POAの量が異なる3種類のサンプルを用意した。使用したSiP-POAとCBNs-POAの質量を表5に示す。分散液をテフロン(登録商標)製の小皿に滴下し、溶媒蒸発法によりトルエンを蒸発させた。そして、100℃でホットプレスし、直径約25mm、厚さ約500μmの円板状に成形した。これにより、円板状のエラストマー膜を作製した。
【0136】
【0137】
CBNs又はATRP開始基を有するCBNsをトルエンに分散させた場合、CBNsは時間が経つにつれ沈降してきたのに対し、ATRP開始基を有するCBNsは3時間経過してもトルエン中によく分散していた。
【0138】
CBNs-POAの熱重量測定の結果を
図52に示す。約430℃で重量減少が終了し、重量減少率は約17%であった。
【0139】
(振動せん断ひずみの印加)
レオメーターの平行平板治具で振動せん断ひずみを実施例26~28の円板状のエラストマー膜に対して前述の条件で印加した。これにより、ひずみ印加後のエラストマー膜を作製した。
【0140】
(反射スペクトル測定)
ひずみ印加前後のエラストマー膜(CBNs-POAを添加したエラストマー膜)に対し、反射スペクトル測定を行った。結果を
図53に示す。
ひずみ印加前では、実施例26~28のエラストマー膜は、深緑色を呈しており、反射スペクトルのピークは観測されなかった。ひずみ印加後では、実施例26~28のエラストマー膜は、波長約580nmのオレンジ色の光を反射した。また、反射率は実施例26で12%、実施例27で15%、実施例28で20%であった。
【0141】
反射率が最も高かった実施例28のエラストマー膜及びCBNs-POAを添加していないSiP-POAのエラストマー膜について、ひずみ印加後の反射スペクトル測定の結果を
図54に示す。実施例28のエラストマー膜では、CBNs-POAを添加していないSiP-POAのエラストマー膜と比較してベースラインは低下し、またピークがシャープになっていることが確認できた。この結果から、CBNs-POAを添加することで散乱光が吸収されエラストマー膜の彩度が向上した、と推測される。
【0142】
[実施例29]
実施例1で作製したSiP-POAに対してb-PODA鎖で修飾したシリカ微粒子(SiP-POA-b-PODA)と、前述のCBNs-POAをトルエンに分散させた。使用したSiP-POA-b-PODAに対するCBNs-POAの割合は、0.025質量%である。分散液をテフロン(登録商標)製の小皿に滴下し、溶媒蒸発法によりトルエンを蒸発させた。そして、100℃でホットプレスし、直径約25mm、厚さ約500μmの円板状に成形した。これにより、円板状のエラストマー膜を作製した。
【0143】
(振動せん断ひずみの印加)
レオメーターの平行平板治具で振動せん断ひずみを実施例29の円板状のエラストマー膜に対して前述の条件で印加した。これにより、ひずみ印加後のエラストマー膜を作製した。
【0144】
(各物性測定)
ひずみ印加後の実施例29のエラストマー膜に対し、反射スペクトル測定、圧縮による応力測定、圧縮過程における反射スペクトルの測定、延伸による応力測定、及び延伸過程における反射スペクトルの測定をそれぞれ行った。結果を
図55~
図59に示す。なお、比較のため、CBNs-POAを添加していないSiP-POA-b-PODAのエラストマー膜について、ひずみ印加後の反射スペクトル測定を行った。
図57に示すように、CBNs-POAを添加したエラストマー膜では、膜厚方向に約30%の圧縮を行うことで反射色は赤色(約620nm)から青色(約430nm)へと変化した。
図59に示すように、CBNs-POAを添加したエラストマー膜では、幅方向に約160%まで延伸を行うことで反射色は赤色(約630nm)から青色(約430nm)へと変化した。
【0145】
(リサイクル試験)
実施例29について、以下のようにしてリサイクル性を評価した。まず、実施例29のエラストマー膜を板状に切断することでエラストマー膜の破片を得た(切断処理)。次に、エラストマー膜の破片同士が接触した状態にて100℃でホットプレスすることで直径約25mm、厚さ約500μmの円板状に再成形した(再成形処理)。レオメーターの平行平板治具で振動せん断ひずみを円板状の再成形されたエラストマー膜に対して実施例3及び4と同様の条件で印加した(ひずみ印加処理)。これにより、リサイクル1回目であるひずみ印加後のエラストマー膜を作製した。
【0146】
リサイクル1回目であるエラストマー膜について、前述のひずみ印加処理前後の反射スペクトルを測定した。次いで、リサイクル1回目であるエラストマー膜に対して切断処理、再成形処理及びひずみ印加処理を2回繰り返した。リサイクル2回目及びリサイクル3回目であるエラストマー膜についても、前述のひずみ印加処理前後の反射スペクトルを測定した。結果を
図60に示す。
【0147】
図60に示すように、リサイクル1回目~3回目では、反射波長及び反射率はおおむね一致していた。再成形を繰り返した場合であっても、エラストマー膜の光学特性が変化しにくいことが確認できた。
【0148】
実施例29について、リサイクル1回目~3回目であるひずみ印加後のエラストマー膜について、延伸による応力測定を行った。結果を
図61に示す。
【0149】
図61に示すように、リサイクル1回目~3回目では、破断ひずみ及び最大点応力はおおむね一致していた。再成形を繰り返した場合であっても、エラストマー膜の力学特性が変化しにくいことが確認できた。
【0150】
以上の結果から、SiP-POA-b-PODAに対してCBNs-POAを添加して作製したエラストマー膜にてリサイクルを繰り返した場合であっても、SiP-POA-b-PODAのエラストマー膜と同様に光学特性及び力学特性の変化は生じにくいことも確認できた。
【0151】
(サイクル試験)
シリカ微粒子の平均粒径をそれぞれ83nm、60nm及び36nmとした実施例18、21及び24のエラストマー膜について、延伸過程におけるサイクル試験を行い、耐久性を検討した。結果を
図62~
図64に示す。各エラストマー膜に対して表4に示す破断ひずみの7割程度の延伸を繰り返した場合、シリカ微粒子の平均粒径が83nmである実施例18のエラストマー膜では、50回の延伸が繰り返し可能であり、シリカ微粒子の平均粒径が60nm及び36nmである実施例21及び24のエラストマー膜では、少なくとも100回の延伸が繰り返し可能であった。
【0152】
(光照射による修復)
実施例29にて得られたエラストマー膜について、以下の(1)~(6)の手順の作業を行った。なお、各作業は室温条件下にて行った。
(1)エラストマー膜をT字型に切り抜いた型に入れ、ガラス基板で挟んだ。
(2)エラストマー膜を挟んだガラス基板に対し、室温にて5分間、365nmのUV(紫外線)照射を行い、T字型のエラストマー膜を得た。
(3)T字型のエラストマー膜を細かく切断し、U字型に切り抜いた型に入れ、ガラス基板で挟んだ。
(4)エラストマー膜を挟んだガラス基板に対し、室温にて5分間、365nmのUV照射を行い、U字型のエラストマー膜を得た。
(5)U字型のエラストマー膜を細かく切断し、S字型に切り抜いた型に入れ、ガラス基板で挟んだ。
(6)最後に、エラストマー膜を挟んだガラス基板に対し、室温にて5分間、365nmのUV照射を行い、S字型のエラストマー膜を得た。
【0153】
上記の作業を行うことで、光照射により室温条件であってもエラストマー膜を修復及び再成形できることが確認された。この理由としては、以下のように推測される。カーボンブラックは、光を吸収することで発熱する光熱変換現象を示す場合がある。そのため、実施例29のようにCBNs-POAを添加したエラストマー膜では、UVを照射することで、エラストマー膜に含まれるカーボンブラックが発熱し、修復による再成形が可能となる。実際に、CBNs-POAを添加したエラストマー膜にUV照射を行うことで、当該エラストマー膜が約60℃まで発熱していることをサーモグラフィーカメラにより確認した。