(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105202
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】没食子酸を有効成分とする花粉症状抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/235 20060101AFI20240730BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240730BHJP
A61P 27/14 20060101ALI20240730BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240730BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240730BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240730BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240730BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A61K31/235
A61P11/02
A61P27/14
A61P37/08
A61P11/00
A61K9/08
A61K47/22
A61K47/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024007869
(22)【出願日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2023009232
(32)【優先日】2023-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】下仲 敦
(72)【発明者】
【氏名】石田 達也
(72)【発明者】
【氏名】小泉 明子
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB01
4C076CC03
4C076CC10
4C076CC15
4C076DD25Z
4C076DD59Z
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA18
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA37
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA33
4C206ZA34
4C206ZA59
4C206ZB13
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、花粉による症状を抑制する新規な組成物を提供することである。
【解決手段】本発明に係る花粉症状抑制用組成物は、抗ヒスタミン活性をほとんど有さない没食子酸を有効成分とする。この花粉症状抑制用組成物を対象(例えば、ヒト)に摂取させることによって、花粉による症状が抑制される。また、上述の花粉症状抑制用組成物は、没食子酸の摂取量として一日あたり1mg以上20mg以下の範囲内で対象に摂取させることが好ましい。また、上述の花粉症状抑制用組成物は、8週間以上継続して対象に摂取させることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
没食子酸を有効成分とする花粉症状抑制用組成物。
【請求項2】
前記没食子酸の摂取量として一日当たり1mg以上20mg以下の範囲内で対象に摂取させることにより花粉による症状を抑制する、請求項1に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項3】
前記没食子酸の摂取量として一日当たり1mg以上20mg以下の範囲内で8週間以上継続して対象に摂取させることにより花粉による症状を抑制する、請求項1に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項4】
前記対象は、ヒトである、請求項2または3に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項5】
前記対象は、花粉による症状を有するヒトである、請求項4に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項6】
前記花粉が、ヒノキ科植物の花粉である、請求項1に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項7】
前記花粉が、スギ花粉である、請求項6に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項8】
前記花粉による症状が、鼻に対する症状である、請求項1に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項9】
前記鼻に対する症状が、水様性鼻漏、鼻づまり、および鼻のかゆみから成る群より選択される少なくとも一種の症状である、請求項8に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項10】
前記花粉による症状が、目に対する症状である、請求項1に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項11】
前記目に対する症状が、目のかゆみ、および、涙目から成る群より選択される少なくとも一種の症状である、請求項10に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項12】
前記花粉による症状が、喉に対する症状である、請求項1に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項13】
前記喉に対する症状が、喉の痛み、喉の腫れ、および喉のかゆみから成る群より選択される少なくとも一種の症状である、請求項12に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項14】
前記花粉による症状が、日常生活への支障をきたす症状である、請求項1に記載の花粉症状抑制用組成物。
【請求項15】
没食子酸を有効成分とする花粉症状抑制組成物を、花粉による症状を有する対象に摂取させる、花粉による症状の抑制方法(ただし、ヒトを治療する方法を除く。)。
【請求項16】
前記花粉症状抑制組成物は、前記没食子酸の摂取量として一日当たり1mg以上20mg以下の範囲内で前記対象に摂取される、請求項15に記載の花粉による症状の抑制方法。
【請求項17】
前記花粉症状抑制組成物は、8週間以上継続して前記対象に摂取される、請求項15に記載の花粉による症状の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、没食子酸を有効成分とする花粉症状抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、スギ花粉症は有病率の高さと症状(目鼻の不快感等)の激しさから国民病とも言われている。2019年に実施された全国疫学調査によると、花粉症全体の有病率は42.5%、スギ花粉症の有病率は38.8%との調査結果(いずれも全国平均)が出ており、花粉症状による有病率は年々増加している。
【0003】
花粉による症状を抑える薬剤としては、抗ヒスタミン剤やステロイド剤など多数の医薬品が用いられている。特に、近年では、ヒスタミン遊離活性抑制作用を有する化合物に注目した研究が盛んに行われている。例えば、特開2001-278792号公報には、没食子酸エステル型のプロアントシアニジンを有効成分とする抗アレルギー剤が、ヒスタミン等の化学伝達物質の受容体に結合する系を経て、ヒスタミン等の化学伝達物質の遊離が抑制されることにより、抗アレルギー作用を示すことが示唆されている。
【0004】
しかし、前述のヒスタミン受容体にはいくつか種類があるため、特開2001-278792号公報に記載されている系では、前述の抗アレルギー剤とヒスタミンの受容体の結合が達成されず、抗アレルギー作用を発揮できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、花粉による症状を抑制する新規な組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、抗ヒスタミン活性を有さない没食子酸が、花粉による症状の抑制作用を発揮することを見出した。また、本発明者らは、ヒトにおいて花粉による症状を抑制するための没食子酸の有効用量を見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
(1)没食子酸を有効成分とする花粉症状抑制用組成物。なお、ここにいう「花粉」は、植物の花の雄しべから出る粉状の細胞のことをいい、特定のものに限定されない。また、ここにいう「組成物」には、流動食、サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物が含まれる。
【0009】
(2)没食子酸の摂取量として一日当たり1mg以上20mg以下の範囲内で対象に摂取させることにより花粉による症状を抑制する、(1)に記載の花粉症状抑制用組成物。なお、ここにいう「摂取」は、経口摂取、経皮接種などのように摂取経路は特に限定されず、体外から体内に成分を取り込む方法のことを指す。また、ここにいう「対象」は、ヒト等の霊長類を含む動物である。
【0010】
(3)没食子酸の摂取量として一日当たり1mg以上20mg以下の範囲内で8週間以上継続して対象に摂取させることにより花粉による症状を抑制する、(1)または(2)に記載の花粉症状抑制用組成物。
【0011】
(4)対象は、ヒトである、(2)または(3)に記載の花粉症状抑制用組成物。
【0012】
(5)対象は、花粉による症状を有するヒトである、(4)に記載の花粉症状抑制用組成物。
【0013】
(6)花粉による症状の原因となる花粉が、ヒノキ科植物の花粉である、(1)から(5)のいずれか一つに記載の花粉症状抑制用組成物。なお、本発明にかかる花粉症状抑制用組成物は、スギ花粉に対して特に有効である。
【0014】
(7)花粉による症状が、鼻に対する症状である、(1)から(6)のいずれか一つに記載の花粉症状抑制用組成物。
【0015】
(8)鼻に対する症状が、水様性鼻漏、鼻づまり、および鼻のかゆみから成る群より選択される少なくとも一種の症状である、(7)に記載の花粉症状抑制用組成物。
【0016】
(9)花粉による症状が、目に対する症状である、(1)から(6)のいずれか一つに記載の花粉症状抑制用組成物。
【0017】
(10)目に対する症状が、目のかゆみ、および、涙目から成る群より選択される少なくとも一種の症状である、(9)に記載の花粉症状抑制用組成物。
【0018】
(11)花粉による症状が、喉に対する症状である、(1)から(6)のいずれか一つに記載の花粉症状抑制用組成物。
【0019】
(12)喉に対する症状が、喉の痛み、喉の腫れ、および喉のかゆみから成る群より選択される少なくとも一種の症状である、(11)に記載の花粉症状抑制用組成物。
【0020】
(13)花粉による症状が、日常生活への支障をきたす症状である、(1)から(12)のいずれか一つに記載の花粉症状抑制用組成物。
【0021】
また、本発明には、以下の発明も包含される。
(14)没食子酸を有効成分とする花粉症状抑制用組成物を、花粉による症状を有する対象に摂取させる、花粉による症状の抑制方法(ただし、ヒトを治療する方法を除く。)。
【0022】
(15)前記花粉症状抑制組成物は、前記没食子酸の摂取量として一日当たり1mg以上20mg以下の範囲内で前記対象に摂取される、(14)に記載の花粉による症状の抑制方法。
【0023】
(16)前記花粉症状抑制組成物は、8週間以上継続して前記対象に摂取される、(14)または(15)に記載の花粉による症状の抑制方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る組成物は、抗ヒスタミン活性をほとんど有しない没食子酸を有効成分とするため、抗ヒスタミン薬では効果を発揮することができなかった花粉による症状を有するヒトにも花粉による症状を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、曝露室内での即時反応記録により被験者の「鼻かみ回数」を評価した結果を示すグラフである。なお、グラフ中の*印は、試験飲料摂取前後において有意差があることを示す。
【
図2】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、曝露室内での即時反応記録(VAS法)により被験者の「鼻詰まりスコア」を評価した結果を示すグラフである。なお、グラフ中の*印は、試験飲料摂取前後において有意差があることを示す。
【
図3】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、曝露室内での即時反応記録(VAS法)により被験者の「鼻のかゆみスコア」を評価した結果を示すグラフである。なお、グラフ中の*印は、試験飲料摂取前後において有意差があることを示す。
【
図4】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、曝露室内での即時反応記録(VAS法)により被験者の「生活への支障度スコア」を評価した結果を示すグラフである。なお、グラフ中の*印は、試験飲料摂取前後において有意差があることを示す。
【
図5】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、曝露室内での即時反応記録(VAS法)により被験者の「眼のかゆみスコア」を評価した結果を示すグラフである。なお、グラフ中の*印は、試験飲料摂取前後において有意差があることを示す。
【
図6】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、曝露室内での即時反応記録(VAS法)により被験者の「流涙スコア」を評価した結果を示すグラフである。なお、グラフ中の*印は、試験飲料摂取前後において有意差があることを示す。
【
図7】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、曝露室内での即時反応記録(VAS法)により被験者の「喉のイガイガ感スコア」を評価した結果を示すグラフである。なお、グラフ中の*印は、試験飲料摂取前後において有意差があることを示す。
【
図8】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、曝露室内での即時反応記録(VAS法)により被験者の「眠気スコア」を評価した結果を示すグラフである。
【
図9】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、遅発反応記録(VAS法)により被験者の「鼻詰まりスコア」を評価した結果を示すグラフである。なお、グラフ中の*印は、試験飲料摂取前後において有意差があることを示す。
【
図10】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、遅発反応記録(VAS法)により被験者の「眼のかゆみスコア」を評価した結果を示すグラフである。なお、グラフ中の*印は、試験飲料摂取前後において有意差があることを示す。
【
図11】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、遅発反応記録(VAS法)により被験者の「流涙スコア」を評価した結果を示すグラフである。なお、グラフ中の*印は、試験飲料摂取前後において有意差があることを示す。
【
図12】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、遅発反応記録(VAS法)により被験者の「喉のイガイガ感スコア」を評価した結果を示すグラフである。なお、グラフ中の*印は、試験飲料摂取前後において有意差があることを示す。
【
図13】スギ花粉人工曝露試験において、試験飲料を被験者に摂取させる前と、8週間継続して摂取させた後とで、遅発反応記録(VAS法)により被験者の「眠気スコア」を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態に係る花粉による症状の緩和用、抑制用、軽減用または予防用組成物(以下「花粉症状抑制用組成物」と称することがある。)は、没食子酸を有効成分とする。没食子酸は、サイトカインの一種であるインターロイキン9(以下「IL-9」と称する)の活性を抑制することにより花粉による症状を抑制する。そのため、本発明の実施の形態に係る花粉症状抑制用組成物によれば、抗ヒスタミン薬では効果を発揮することができなかった花粉による症状を有するヒトにも花粉症状抑制作用を発揮することができる。
【0027】
なお、ここにいう「花粉」とは、種子植物門の植物の花の雄しべから出る粉状の細胞である。この花粉は、人体にアレルギー症状を引き起こす花粉であれば特に制限されないが、例としては、ヒノキ科(Cupressaceae)、マツ科、ブナ科、ニレ科、ヤナギ科、カバノキ科、イチョウ科、クワ科、キク科、イネ科、タデ科およびイラクサ科の花粉などが挙げられる。なお、ヒノキ科には、ヒノキ、スギ亜科(Taxodioideae)の樹木などが含まれる。また、スギ亜科には、スギが含まれる。また、カバノキ科には、シラカバなどが含まれる。また、キク科には、ブタクサ、ヨモギなどが含まれる。また、イネ科には、カモガヤ、ハルガヤ、オオアワガエリなどが含まれる。なお、本発明の実施の形態に係る花粉症状抑制用組成物は、ヒノキ科植物の花粉に対して有効であり、スギ亜科植物の花粉に対してより有効であり、スギの花粉に対してさらに有効であり、日本に生息するスギ(Cryptomeria japonica)に対して特に有効である。
【0028】
ところで、一般的に花粉の形態は、その花粉の放出元である植物の科や属で同じ形態となる。例えば、以下の文献Aには、ヒノキ花粉がスギ花粉と共通の抗原性を持つことが報告されており、以下の文献Bには、春期花粉症患者の76.4%はスギ花粉とヒノキ花粉両方に陽性であることが報告されている。
(文献A)岡野ら,「ヒノキ特異的IgE抗体陽性患者の臨床的検討:ヒノキAlaSTAT検査を用いて」,アレルギー, 43, 1179-1184 (1994)
(文献B)Sone T. et al., “Identification of human T cell epitopes in Japanese cypress pollen allergen, Cha o 1, elucidates the intrinsic mechanism of cross-allergenicity between Cha o 1 and Cry j 1, the major allergen of Japanese cedar pollen, at the T cell level”, Clin Exp Allergy, 35, 664-671 (2005)
【0029】
したがって、本発明の実施の形態に係る花粉症状抑制用組成物は、スギ花粉(スギ属の花粉)やヒノキ花粉のみならず、スギ亜科植物の花粉、延いてはヒノキ科植物の花粉を要因とする花粉症にも有効であると思料する。
【0030】
ところで、ヒスタミンは中枢神経系においては覚醒作用や興奮作用などを司る重要な物質であるため、抗ヒスタミン薬により脳内のヒスタミンの遊離が抑制されると、抗ヒスタミン薬を服用したヒトは強烈な眠気を感じることがある。しかし、本発明の実施の形態に係る花粉症状抑制用組成物は、ヒスタミンの遊離を抑制することはないため、抗ヒスタミン薬を服用した場合に比べて、同組成物を服用したヒトの眠気を抑えることができる。
【0031】
本発明の実施の形態に係る花粉症状抑制用組成物の有効成分である没食子酸の一日あたりの摂取量は、1mg以上20mg以下の範囲内の量であることが好ましく、2mg以上15mg以下の範囲内の量であることがより好ましく、3mg以上10mg以下の範囲内の量であることがさらに好ましく、4mg以上8mg以下の範囲内の量であることがさらに好ましく、4mg以上5mg以下の範囲内の量であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の実施の形態に係る花粉症状抑制用組成物は、花粉による症状の緩和効果、抑制効果、軽減効果あるいは予防効果を高める観点から、8週間以上継続して摂取することが好ましく、12週間以上継続して摂取することがより好ましく、24週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、36週間以上継続して摂取することが特に好ましい。なお、同組成物中の有効成分である没食子酸は、厚生労働省の調査研究報告書において、「ヒトの健康に対して有害影響を及ぼすような毒性はないと考えられた」と結論付けられている。そのため、同組成物の摂取期間の上限は特に制限されず、永久的に継続摂取することが可能であるが、強いて上限を設けるならば、例えば60週間以下である。なお、この上限は、花粉による症状の程度などにより、例えば、120週間以下としてもよいし、100週間以下としてもよいし、80週間以下としてもよい。
【0033】
本発明の実施の形態に係る花粉症状抑制用組成物は、摂取経路は特に限定されないが、経口摂取されるのが好ましい。また、前記組成物を経口摂取する際の前記組成物の摂取形態は特に限定はされないが、前記組成物を含む飲料として経口摂取されることが特に好ましい。この際に、前記組成物を水に含有させて摂取してもよいし、水の代わりに炭酸水を使用して前記組成物を含む炭酸飲料として摂取してもよいし、あるいは青汁や野菜ジュースなどに前記組成物を含有させた飲料として摂取してもよい。
【0034】
本発明の実施の形態に係る花粉症状抑制用組成物は、抗ヒスタミン薬と併用することができる。この場合、IL-9抑制作用とヒスタミン遊離抑制作用の2つの作用により、花粉による症状を緩和することができるため好ましい。
【0035】
ところで、本発明の実施の形態に係る花粉症状抑制用組成物に、その用途、効能、機能、有効成分の種類、使用方法などの説明を表示することが好ましい。ここにいう「表示」には、需要者に対して上記効果の説明を知らしめるための全ての表示が含まれる。この表示は、上述の表示内容を想起・類推させ得るような表示であればよく、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体などの如何に拘わらない全てのあらゆる表示を含み得る。例えば、製品の包装・容器に上記説明を表示すること、製品に関する広告・価格表もしくは取引書類に上記説明を表示して展示もしくは頒布すること、またはこれらを内容とする情報を電磁気的(インターネットなど)方法により提供することが挙げられる。
【0036】
本発明の実施の形態に係る花粉症状抑制用組成物を包装してなる製品には、例えば、「花粉による症状を緩和する」、「花粉による症状を抑制する」、「花粉による症状を軽減する」、「花粉による症状を予防する」、「花粉による症状の緩和用」、「花粉による症状の抑制用」、「花粉による症状の軽減用」、「花粉による症状の予防用」等との表示が付されることが好ましい。
【0037】
なお、以上のような表示を行うために使用する文言は、上述の例に限定されず、そのような意味と同義である文言であってもかまわない。そのような文言としては、例えば、需要者に対して、「花粉によるつらい症状を緩和する」、「花粉による症状が現れた後の体調(コンディション)の回復を促進する」、「花粉による不快感を緩和する」、「花粉による目、鼻、喉の不快感を抑制あるいは軽減する」、「つらい花粉の症状からあなたを守る」、「花粉に負けられないあなたをサポートする」、「花粉による不快な症状を取り除くことでQOL(Quality Of Life:生活の質)を高める」等の種々の文言が許容され得る。
【0038】
なお、上述の花粉症状抑制用組成物は、特別用途食品、総合栄養食品、栄養補助食品、特定保健用食品、機能性表示食品、加工食品等の形態にすることもできる。
【0039】
本発明において、本発明者らは、没食子酸がヒトにおいて花粉による症状を緩和、抑制、軽減あるいは予防することを初めて見出した。また、本発明者らは、ヒトにおいて花粉による症状を緩和、抑制、軽減あるいは予防するための没食子酸の有効用量を見出した。
【0040】
本発明において、花粉による症状改善の指標は、例えば、そのときの体感をビジュアル・アナログ・スケール(VAS)法によるスコアで表すことができる。また、他の花粉による症状改善を示唆する体内物質やバイオマーカーの含有量や濃度などを指標にしてもよい。
【0041】
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例0042】
―試験飲料―
試験飲料として、没食子酸を4.4mg含む試験飲料(以下、「試験飲料」と称する)200mLを用いた。以下に、試験飲料の配合割合を示す。
(原材料の配合割合(質量%))
・没食子酸:0.002
・pH調整剤(アスコルビン酸ナトリウム+重曹):0.126
・原料水:99.872
・合計:100.000
【0043】
以下に、試験飲料の品質規格を示す。
(試験飲料の品質規格)
・pH:6.2±0.2
(25℃、31日間保存後および65℃、14日間保存後においても上記範囲内のpHを示すことが確認されている。)
・没食子酸の含有量:4mg以上8mg以下/200mL
・大腸菌群:陰性(詳細は表1参照)
・性状(状態、風味など):良好(詳細は表1参照)
【表1】
【0044】
上記試験飲料は、無地(白色)の200mLアセプティックブリックパックに充填した。
【0045】
なお、試験飲料は、製造直後より25℃で保存し、163日後まで品質を追跡した(品質保持期間:5か月)。その追跡結果を表2に示す。
【表2】
【0046】
―試験―
成人(スギ花粉に対し目、鼻、喉に不快感を示す者を含む)20名に対し、没食子酸を4.4mg含む飲料200mL(試験飲料)を8週間摂取させ、スギ花粉人工曝露検査にて摂取前後の抗アレルギー作用を評価するヒト臨床試験を実施した。試験実施においては、ヘルシンキ宣言の精神にのっとり、試験の目的、方法、予想される副作用等について全ての被験者に十分に事前説明を行った。
【0047】
以下、この試験条件について詳述する。
(1)被験者
スギ花粉に対し目、鼻、喉に不快感を示す者を含む成人男性13名と成人女性7名を被験者とした。以下の表3に、本試験における被験者20名の背景因子を示す。
【表3】
【0048】
被験者の選択基準および除外基準は、以下の通りであった。
<選択基準>
a)本試験の目的、内容について十分な説明を受け、同意能力があり、十分に理解した上で自由意思により志願し、文書で参加に同意した者
b)本試験の同意取得時点において20歳以上65歳未満の男女
c)直近2年のスギ花粉飛散時期に目鼻の不快感があった者
d)血液免疫学的検査においてスギ花粉特異的IgEのCapsulated hydrophilic carrier polymer radioallergosorbent test(以下、「CAP-RAST」と称する)値がクラス2以上を示した者(ここでCAP-RASTとは、スギ花粉特異的IgEの測定方法の一種であり、クラス1は疑陽性、つまりアレルゲンの疑いがある、クラス2以上は陽性、つまりアレルゲンの可能性が高い、クラス4以上は強陽性で大部分がアレルギー反応を示すと判断される。)。
<除外基準>
a)慢性的な内科的疾患がある者、あるいは重篤な疾患の既往を有する者
b)花粉曝露日の1週間前から曝露日の後4日間に予防接種の予定日がある者
c)スギ花粉に対するアレルゲン免疫療法(SLIT、SCITなど)あるいはアレルギー性鼻炎の手術(レーザー手術など)を同意取得の日より過去3年以内に受けた者、あるいは試験期間中に受ける予定がある者
d)花粉症以外の鼻疾患(急性鼻炎、副鼻腔炎、肥厚性鼻炎、通年性アレルギー等)を有する者
e)アレルギー治療薬(ただし塗り薬を除く)を使用中の者
f)同意取得の日より過去6か月以内にステロイド剤(ケナコルトAなど)の注射を受けた者
g)コーヒー、阿波番茶、プーアル茶を週に5日以上(1日1杯[約100mL]以上)飲む習慣がある者
h)食品アレルギーを有する者
i)妊娠している者、当試験期間中に妊娠の予定、可能性、希望がある者
j)授乳中の者
k)喫煙本数の多い者(1日21本以上)
l)多量飲酒者(純アルコール換算で、1日60g以上のアルコールを週5日以上摂取する者)
m)同意取得の日より前3か月以内に、他の臨床研究やモニター試験(経口摂取や薬物投与を伴う試験に限る)に参加した者
n)その他、研究責任医師が研究対象者として不適当と判断した者
【0049】
(2)試験詳細
上述の通り、本試験は、試験飲料の摂取前および摂取後におけるスギ花粉人工曝露時の生体反応のデータ取得を目的として実施した。本試験では、1日1本(200mL/本)の試験飲料を、被験者に8週間継続して摂取させた(試験飲料を摂取する時刻は被験者の自由とした)。また、スギ花粉人工曝露試験は研究責任医師の管理のもと、花粉曝露室(EEU Wakayama)にて行った。被験者をスギ花粉に曝露させる時間は3時間とした。また、スギ花粉曝露量については、花粉曝露試験において標準的な条件とされている8000個/m3とした。なお、過去の臨床試験において花粉曝露室(EEU Wakayama)で実施されたスギ花粉人工曝露試験(曝露量:8000個/m3、曝露時間:3時間)は、倫理審査委員会において「軽微な侵襲」と判断されている。
【0050】
(3)評価方法
評価は、被験者自身による曝露室内での即時反応記録(くしゃみ回数、鼻かみ回数)、被験者自身による曝露室内での即時反応記録(くしゃみ回数、鼻かみ回数、鼻詰まり、鼻のかゆみ、生活への支障度、眼のかゆみ、流涙、喉のイガイガ感、眠気)、および被験者自身による人工曝露試験当日からの経時的反応の記録(以下、「遅発反応記録」と称する、評価項目は「被験者自身による曝露室内での即時反応記録」の内容と同様。)を行うことにより実施した。ここで、即時反応記録については、上述のスギ花粉人工曝露試験中における、リアルタイムでの花粉による症状の程度についての評価を実施した。また、遅発反応記録については、前述の人工曝露試験の当日の夜を含めた5日間において、花粉による症状の程度についての評価を実施した。また、前述の被験者自身による即時反応記録(曝露室内記録)および遅発反応記録は、ビジュアル・アナログ・スケール(VAS)法により実施した。VAS法とは、両端に対をなす極端な状態を表記した長さ100mmの線分上に、被験者自身に記入時の主観的な感覚を垂直な1本線で表してもらい、端からその垂線までの長さを測定してVASスコアとすることで、被験者の主観的な感覚を評価する方法である。今回の評価では、例えば、「鼻詰まり」の評価では、左端を「鼻詰まり感が全くない最良の感覚」としてスコア0とし、右端を「鼻で息ができないほど鼻詰まり感がある最悪の感覚」としてスコア10とし、100mmの線分上で回答してもらった。したがって、スコアの数字が小さいほど、良い評価となる。また、VAS法の評価結果は、被験者が試験飲料の摂取を開始する前と8週間継続摂取した後で示した。
【0051】
曝露室内での即時反応記録による「鼻かみ回数」の結果を
図1のグラフに示した。
図1のグラフにおいて、点線のグラフが試験飲料摂取前の結果を示し、実線が試験飲料摂取後の結果を示している。
【0052】
図1に示されるように、「鼻かみ回数」は試験飲料摂取前に比べ、摂取後において曝露室入室から120分経過後で有意に軽減した。したがって、本実施例に係る試験飲料を摂取することにより、「花粉症状による鼻かみ回数」を改善できることが示された。
【0053】
VAS法での評価結果を、
図2~
図13のグラフで示した。各グラフにおいて、点線のグラフが試験飲料摂取前の結果を示し、実線が試験飲料摂取後の結果を示している。
【0054】
「鼻詰まりスコア」についてのVAS法での評価結果を
図2に示した。
図2に示されるように、「鼻詰まりスコア」は試験飲料摂取前に比べ、摂取後において曝露室入室時から60分経過後以降有意に軽減した。したがって、本実施例に係る試験飲料を摂取することにより、「花粉症状による鼻詰まり」を改善できることが示された。
【0055】
「鼻のかゆみスコア」についてのVAS法での評価結果を
図3に示した。
図3に示されるように、「鼻のかゆみスコア」は試験飲料摂取前に比べ、摂取後において曝露室入室時から90分経過後以降有意に軽減した。したがって、本実施例に係る試験飲料を摂取することにより、「花粉症状による鼻のかゆみ」を改善できることが示された。
【0056】
「生活への支障度スコア」についてのVAS法での評価結果を
図4に示した。ここで、「生活への支障度」とは、目、鼻、喉などに対する花粉の症状による仕事や家事などの日常生活への悪影響度を示している。
図4に示されるように、「生活への支障度スコア」は試験飲料摂取前に比べ、摂取後において曝露室入室時から90分経過後以降有意に軽減した。したがって、本実施例に係る試験飲料を摂取することにより、「花粉症状による生活への支障度」を改善できることが示された。
【0057】
「眼のかゆみスコア」についてのVAS法での評価結果を
図5に示した。
図5に示されるように、「眼のかゆみスコア」は試験飲料摂取前に比べ、摂取後において曝露室入室時から90分経過後以降有意に軽減した。したがって、本実施例に係る試験飲料を摂取することにより、「花粉症状による眼のかゆみ」を改善できることが示された。
【0058】
「流涙スコア」についてのVAS法での評価結果を
図6に示した。
図6に示されるように、「流涙スコア」は試験飲料摂取前に比べ、摂取後において曝露室入室時から120分経過後以降有意に軽減した。したがって、本実施例に係る試験飲料を摂取することにより、「花粉症状による流涙」を改善できることが示された。
【0059】
「喉のイガイガ感スコア」についてのVAS法での評価結果を
図7に示した。
図7に示されるように、「喉のイガイガ感スコア」は試験飲料摂取前に比べ、摂取後において曝露室入室時から60分経過後以降有意に軽減した。したがって、本実施例に係る試験飲料を摂取することにより、「花粉症状による喉のイガイガ感」を改善できることが示された。
【0060】
「眠気スコア」についてのVAS法での評価結果を
図8に示した。
図8に示されるように、試験飲料の摂取前後において、有意な差は見られなかった。したがって、従来の抗ヒスタミン薬を服用した場合と比べ、本実施例に係る花粉症状抑制用組成物を服用したヒトの眠気を抑えられることが示された。
【0061】
「鼻づまりスコア(遅発反応記録)」についてのVAS法での評価結果を
図9に示した。
図9に示されるように、「鼻詰まりスコア(遅発反応記録)」は試験飲料摂取前に比べ、摂取後において試験当日から2日後経過時点で有意に軽減した。したがって、本実施例に係る試験飲料を摂取することにより、「花粉症状による鼻づまり(遅発反応)」を改善できることが示された。
【0062】
「眼のかゆみスコア(遅発反応記録)」についてのVAS法での評価結果を
図10に示した。
図10に示されるように、「眼のかゆみスコア(遅発反応記録)」は試験飲料摂取前に比べ、摂取後において試験当日から2日後経過後以降有意に軽減した。したがって、本実施例に係る試験飲料を摂取することにより、「花粉症状による眼のかゆみ(遅発反応)」を改善できることが示された。
【0063】
「流涙スコア(遅発反応記録)」についてのVAS法での評価結果を
図11に示した。
図11に示されるように、「流涙スコア(遅発反応記録)」は試験飲料摂取前に比べ、摂取後において試験当日から2日後経過時点で有意に軽減した。したがって、本実施例に係る試験飲料を摂取することにより、「花粉症状による流涙(遅発反応)」を改善できることが示された。
【0064】
「喉のイガイガ感スコア(遅発反応記録)」についてのVAS法での評価結果を
図12に示した。
図12に示されるように、「喉のイガイガ感スコア(遅発反応記録)」は試験飲料摂取前に比べ、摂取後において試験当日から3日後経過後以降有意に軽減した。したがって、本実施例に係る試験飲料を摂取することにより、「花粉症状による流涙(遅発反応)」を改善できることが示された。
【0065】
「眠気スコア(遅発反応記録)」についてのVAS法での評価結果を
図13に示した。
図13に示されるように、試験飲料の摂取前後において、有意な差は見られなかった。したがって、従来の抗ヒスタミン薬を服用した場合と比べ、本実施例に係る花粉症状抑制用組成物を服用したヒトの眠気を抑えられることが示された。
【0066】
曝露室内での即時反応記録における「くしゃみ発作回数」、および遅発反応記録における「くしゃみ発作回数」、「鼻かみ回数」、「鼻のかゆみ」、「生活への支障度スコア」については、試験飲料の摂取前後において、有意な差は見られなかった。
【0067】
(4)結論
以上のスギ花粉人工曝露試験の結果から、本発明の実施の形態に係る試験飲料を摂取することにより、ヒトに対して目、鼻、喉における花粉による症状や不快感を緩和、抑制、軽減、あるいは予防できることが示唆された。このことは、抗ヒスタミン作用を有しない没食子酸を有効成分とする花粉症状抑制用組成物が、ヒトに対して花粉による症状を緩和、抑制、軽減、あるいは予防できることを示唆している。
【0068】
ところで、上述の通り、一般的に花粉の形態は、その花粉の放出元である植物の科や属で同じ形態となる。したがって、上述の実施例に係る試験飲料は、スギ花粉(スギ属の花粉)やヒノキ花粉のみならず、スギ亜科植物の花粉、延いてはヒノキ科植物の花粉を要因とする花粉症にも有効であると思料する。
本発明に係る花粉症状抑制用組成物を対象に摂取させることにより、対象の花粉による体調の不良や不快感を緩和したり、抑制したり、軽減したり、予防したりすることができる。