(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105273
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】FGF-18化合物に対する反応性を予測する代謝バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240730BHJP
C07K 14/50 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
C07K14/50
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024064931
(22)【出願日】2024-04-12
(62)【分割の表示】P 2020518048の分割
【原出願日】2018-09-28
(31)【優先権主張番号】17194220.4
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18169324.3
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
2.VISUAL BASIC
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ハー.ラーデル
(72)【発明者】
【氏名】ハンス ゲーリング
(72)【発明者】
【氏名】アネ-クリスティーネ バイ-イェンスン
(72)【発明者】
【氏名】モーデン カースデール
(72)【発明者】
【氏名】ピア クビスト
(57)【要約】
【課題】 FGF-18化合物に対する反応性を予測する代謝バイオマーカーに関する。
【解決手段】本発明は、軟骨障害の治療前又は治療時における、FGF-18化合物に対する臨床反応に関連するバイオマーカーに関する。より具体的には、本発明は、軟骨障害の診断及び治療のために使用することができる、血液、血清、滑液、又は尿中に存在する特定のタンパク質に関する。本発明はさらに、FGF-18化合物の治療に反応する軟骨関連の特定のタンパク質、ならびにそれらの発現プロファイルに基づく診断ツール及びキットを開示する。よって本発明は、FGF-18化合物を用いる治療の開始前又は治療時における、FGF-18化合物の治療に対する反応の予測に使用することができる。本発明は、FGF-18化合物の関節内投与により治療すべき対象の選択/同定に使用することができる。診断におけるこれらのバイオマーカーの使用により対象のベネフィットの増加及びリスクの低下につながる可能性がある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨障害を有する対象における、FGF-18化合物を用いる治療に対する感受性を予測する方法であって、
a)前記対象由来の試料から、CTX-II及び/又はProC2からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する工程;並びに
b)工程a)の結果から、FGF-18化合物を用いる治療に対する前記対象の高度、中程度、低度又は非感受性を予測する工程:を含む、方法。
【請求項2】
a)350±2SDng/mmolよりも高いCTX-II、
b)4.2±2SDng/mLよりも高いProC2:
の存在から、FGF-18化合物を用いる治療に対する低度又は非感受性を予測する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
a)350±2SDng/mmolよりも低いCTX-II、及び/又は
b)4.2±2SDng/mLよりも低いProC2:
の存在から、FGF-18化合物を用いる治療に対する高度又は中程度感受性を予測する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
軟骨障害を有する対象を、FGF-18化合物を用いる治療又は臨床試験の組み入れ又はそれからの除外に関して、前記治療に対するそれらの感受性の尤度に基づき、選択する方法であって、
a)前記対象由来の試料から、CTX-II及び/又はProC2からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する工程、ここで、前記タンパク質の少なくとも1種の量が、前記治療に対し感受性であるか又は非感受性であることに関する対象のリスクの指標となる工程;並びに
b)感受性の対象を前記治療に対し適切であるとして選択する工程:を含む、方法。
【請求項5】
a) 350±2SDng/mmolよりも高いCTX-II、及び/又は
b) 4.2±2SDng/mLよりも高いProC2
を示す対象を、前記FGF-18化合物を用いる治療から除外する工程を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
a) 350±2SDng/mmolよりも低いCTX-II、及び/又は
b) 4.2±2SDng/mLよりも低いProC2
を示す対象を、前記FGF-18化合物を用いる治療に組み入れる工程を含む、請求項4記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項記載の方法を実行するための手段、及び使用説明書を含む、キット。
【請求項8】
対象が350±2SDng/mmolよりも低いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも低いProC2を示すことを特徴とする、軟骨障害を有する対象の治療における使用のための、FGF-18化合物。
【請求項9】
軟骨障害を有する対象をFGF-18化合物を用いて治療する方法であって:
a)前記対象由来の試料から、CTX-II及び/又はProC2からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する工程であって、ここで、前記量が、前記FGF-18化合物を用いる治療に対し高度又は中程度感受性であることに関する対象のリスクの指標となる工程;
b)i.350±2SDng/mmolよりも低いCTX-II、及び/又は
ii.4.2±2SDng/mLよりも低いProC2、
を有する対象を選択する工程;
c)前記選択した対象に、FGF-18化合物を関節内投与する工程:
を含む方法。
【請求項10】
FGF-18化合物が、3週間にわたり週1回投与される治療サイクルを1サイクル行う、請求項8記載の使用又は請求項9記載の方法のためのFGF-18化合物。
【請求項11】
前記治療サイクルが繰り返され得る、請求項10記載の使用又は方法のためのFGF-18化合物。
【請求項12】
前記FGF-18化合物が、スプリフェルミン又はFGF-18部分を含む融合タンパク質である、請求項1~6及び9~11のいずれか一項記載の方法、請求項7記載のキット、又は請求項80、10および11のいずれか一項記載の使用のためのFGF-18化合物。
【請求項13】
前記軟骨障害が、変形性関節症、軟骨損傷、関節軟骨に影響を及ぼす骨折、又は関節軟骨に衝撃を与える手術手技、例えば微小骨折からなる群から選択される、請求項1~6及び9~12のいずれか一項記載の方法、請求項7もしくは12のいずれか一項記載のキット、又は請求項8および10~12のいずれか一項記載の使用のためのFGF-18化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、薬理遺伝学、より具体的には軟骨障害の治療前又は治療時における、FGF-18化合物に対する臨床反応に関連するバイオマーカーに関する。より具体的には、本発明は、とりわけ、軟骨障害の診断および治療のために使用することができる、血液、血清、滑液、又は尿中に存在する特定のタンパク質に関する。本発明は更に、FGF-18化合物の治療に反応する軟骨に関連する特定のタンパク質、並びにそれらの量又は発現プロファイルに基づく、診断ツール及びキットを開示する。従って、本発明は、FGF-18を用いる治療の開始前又は治療時における、FGF-18化合物の治療に対する反応の予測に使用することができる。本発明は、FGF-18化合物の関節内投与により治療すべき対象の選択/同定に使用することができる。診断におけるこれらのバイオマーカーの使用により対象のベネフィットの増加及びリスクの低下につながる可能性がある。
【背景技術】
【0002】
軟骨障害は、広義には、結合組織における代謝異常の変性を特徴とする疾患を指し、罹患した身体部分の痛み、硬直および運動の制限といった症状が現れる。これらの障害は、病理が原因のものや、外傷やけがの結果であることがある。とりわけ、軟骨障害として、変形性関節症(OA)、軟骨損傷(軟骨および関節のスポーツ損傷、ならびに微小骨折などの外科的損傷が含まれる)が挙げられる。成熟軟骨は、特に成熟軟骨細胞に増殖する能力がほとんどなく、そして血管がないために、それ自身を修復する能力が限られている。さらに、軟骨は栄養が不足しており、酸素圧が低い。傷害または疾患により損傷した軟骨、特に関節軟骨の置換は、医師にとって大きな課題であり、利用可能な外科的処置手順は、完全に予測できるものではなく、効果ある期間が限定的であると考えられている。
【0003】
したがって、若い被験者のほとんどは治療を希望しないか、可能な限り治療を延期するように助言される。治療が必要な場合、標準的な手順は年齢に依存し、関節全置換術、軟骨片の移植、または骨髄刺激技術(微小骨折など)等、多岐にわたる。微小骨折は、骨髄由来の幹細胞による軟骨沈着を刺激するための軟骨下骨の穿通に関与する一般的な手順である。しかしながら、この技術は軟骨欠損を十分に修復せず、そして形成された新しい軟骨は主に線維軟骨であるため、機能や生体力学が不十分または変化してしまうことが示されている。実際、線維軟骨は同等の耐久性を有さず、周囲の硝子軟骨に正しく接着しない場合がある。このため、新しく合成された線維軟骨は、容易に破損するおそれがある(予想される時間枠:5~10年)。
【0004】
変形性関節症の対象にとって、手術によらない治療は、とりわけ理学療法、生活様式の改善(例えば、身体活動の増大)、支持器具、経口及び注射用薬物(例えば、非ステロイド系抗炎症薬)、歩行補助具及び医学的症状管理があるる。ひとたびこれらの治療が失敗すると、関節置換術などの手術が、その対象にとっての主な選択肢となる。脛骨又は大腿骨の骨切除術(骨を切断し、摩耗した関節のバランスを取り戻す)は、症状を軽減し、活動的な生活様式の維持を助け、且つ関節全置換術が必要になるのを遅らせることができる。関節全置換術は、進行した変形性関節症の症状の緩和を提供することができるが、概して対象の生活様式及び/又は活動レベルの変更が必要である。
【0005】
その時点では、市販されている薬物による治療は、主に疼痛緩和に向けられている。依然、軟骨の損傷を回復するか又は延期する商業的に入手可能な治療は存在しない(Lotz,2010参照)。
【0006】
線維芽細胞成長因子18(FGF-18)は、FGF-8およびFGF-17と密接に関連するタンパクのFGFファミリーのメンバーである。FGF-18は軟骨細胞および骨芽細胞の増殖剤であることが示されている(Ellsworthら、2002;Shimoakaら、2002;Gigoutら、2017)。FGF-18は、変形性関節症や軟骨損傷などの軟骨障害の治療のために、単独で(WO2008/023063)、またはヒアルロン酸と組み合わせて(WO2004/032849)提案されている。
【0007】
スプリフェルミンは、ヒトFGF-18の切断型であるが、これは、変形性関節症及び軟骨損傷の両方の治療に関する臨床試験において研究中である(詳細については、例えば、NCT01033994、NCT00911469及びNCT01066871参照)。スプリフェルミンの現在の投薬方式は、3週間にわたり週1回(1治療サイクル)であり、この薬物は関節内注射により投与される。この治療サイクルは、反復することができる。この投薬方式は、WO2008/023063に記載されている。
【0008】
この時点で、臨床試験時におけるFGF-18によるOA(変形性関節症)及び軟骨損傷の治療は、その反応に関する予測情報なしで、すなわちその治療の効果が高い可能性があるか、中等度であるか、あるいはわずかな効果しか示さないそれとも全く効果がないかといった知見なしに、対象へ投与されている(Lohmanderら、2014;Dahlbergら、2016)。現在、スプリフェルミンによる少なくとも1回の治療サイクル後に、多くの治療対象集団は、MRI技術による軟骨厚の測定値やWOMACスコアにて、治療に対する中等度/高度の反応を示すが、治療に反応しない(つまり、MRI技術による軟骨厚の測定値の増加がない又は限定的)か、又は反応するが対照と比べて高いWOMACスコアを示してしまう一部の患者も存在する。
【0009】
WO2014/023703は、FGF-18による、OA、軟骨損傷、又は微小骨折などの軟骨障害の治療に対する臨床反応の質に関連する遺伝子マーカー(SNPs、IL-1RN rs9005及びIL-1RN rs315952の組合せ)を記載している。そのようなマーカーは、治療前の遺伝子スクリーニングを通じて、FGF-18を用いる治療に対する非常に良好な臨床反応など、FGF-18を用いる治療に対し特定の反応を示す可能性が高い対象、又は逆にその療法が失敗する可能性がある対象の亜群を同定するのに有用である。
【0010】
治療に対する対象の臨床反応の種別に関する知見を用い、療法を最適化するか、又は療法を選択する(最初の選択となる療法としてFGF-18を用いる治療を選択するなど)か、又は投薬方式を適合させることができる。そのような情報は、対象における、OA及び/又は軟骨損傷などの軟骨障害の医学的管理にとって、臨床的に有用であろう。例えば、OA又は軟骨損傷の個体が、FGF-18治療に反応しないリスクが高いことがわかっている場合には、医師は、該対象をFGF-18治療から除外し、患者に無駄な処置をせずリスクのない治療を行うことができる。加えて、そのような予測情報は、投薬方式に関する決定に導くためにも臨床的に有用である。
【0011】
治療される対象あるいは自身の患者に最良の療法を探す医師にとって、幅広い解決法を提供するために、療法の最適化又は療法の選択を補助する更なるバイオマーカーを同定する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0012】
本明細書記載の、proC2又はCTX-IIなどの代謝バイオマーカーは、変形性関節症又は軟骨障害の患者の検出、診断及び/又は治療において、単独又は組合せのいずれかで使用することができる。これらのバイオマーカーの少なくとも1種(又はそれらの組合せ)の発現レベル(又は量)を、例えば、特定の治療に含めるべきあるいは逆に特定の治療から除外されるべき患者を検出するために使用することができる。
【0013】
本発明は、軟骨障害を有する対象における、FGF-18化合物を用いる治療に対する感受性を予測する方法であって、
a)試料から、CTX-II及び/又はProC2からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する工程;
b)工程a)の結果から、FGF-18化合物を用いる治療に対する前記対象の高度、中程度、低度 又は非感受性を予測する工程:を含む、方法に関する。
【0014】
上記方法によると、350±2SDng/mmolよりも高いCTX-II(正規平均(normal mean)の>240~260%)及び/又は4.2±2SDng/mLよりも高いProC2(正規平均の>120~280%)の存在は、FGF-18化合物を用いる治療に対する反応がない又は反応が低度である(すなわち、低度感受性又は非感受性)ことの指標となる。逆に、350±2SDng/mmolよりも低いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも低いProC2の存在は、FGF-18化合物を用いる治療に対する反応が中程度(すなわち、中程度の感受性)又は高度である(すなわち、高い感受性)ことのの指標となる。
【0015】
また、軟骨障害を有する対象を、FGF-18化合物を用いる治療又は臨床試験の組み入れ又はそれからの除外に関して、前記治療に対するそれらの感受性の尤度に基づき、選択する方法であって、
a)試料から、CTX-II及び/又はProC2からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する工程、ここで、前記タンパク質の少なくとも1種の量が、前記治療に対し感受性であるか又は非感受性であることに関する対象のリスクの指標となる工程;並びに
b)感受性の対象を前記治療に対し適切であるとして選択する工程:を含む方法も、本明細書に記載される。
【0016】
上記方法によると、350±2SDng/mmolよりも高いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも高いProC2を示す対象は、FGF-18化合物を用いる治療から除外される(すなわち、彼等は選択されない)。逆に、350±2SDng/mmolよりも低いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも低いProC2を示す対象は、FGF-18化合物を用いる治療に組み入れられる(すなわち、彼等は選択される)。
【0017】
また、軟骨障害を有する対象をFGF-18化合物を用いて治療する方法であって、
a.試料から、CTX-II及び/又はProC2からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する工程であって、ここで、前記量が、前記FGF-18化合物を用いる治療に対し高度又は中程度感受性であることに関する対象のリスクの指標となる工程;
b.350±2SDng/mmolよりも低いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも低いProC2を有する対象を選択する工程;
c.工程b.において選択した対象に、FGF-18化合物を関節内投与する工程:
を含む方法も記載される。
【0018】
総じて本発明の特定の実施態様において、すなわち本明細書において言及した方法又は使用のいずれかにおいて、治療として使用されるFGF-18化合物は、スプリフェルミン又はFGF-18部分を含む融合タンパク質であり、そして対象は、変形性関節症、軟骨損傷、関節軟骨に影響を及ぼす骨折、又は関節軟骨に衝撃を与える手術手技(例えば、微小骨折)からなる群から選択される軟骨障害を有する。
【0019】
本明細書において言及した方法又は使用のいずれかにおいて、少なくとも1種のタンパク質の量を決定する前に、例えば血液、血清、滑液又は尿などの収集により、該対象の試料(又は被験試料)を得る必要があることは理解されるべきである。更に、本明細書において言及した方法又は使用のいずれも、インビトロにおいて実行され、且つ動物又はヒトの身体上では実行されないことも理解されるべきである。
【0020】
(定義)
-本明細書において使用される用語「FGF-18化合物」又は「FGF-18」は、ヒトFGF-18タンパク質の少なくとも1種の生体活性を維持しているタンパク質であることが意図される。FGF-18は、天然型(native)、その成熟型、又はその切断型であってよい。ヒトFGF-18タンパク質の生体活性は、とりわけ、骨芽細胞活性の増加(WO98/16644参照)、又は軟骨形成の増加(WO2008/023063参照)である。天然型、又は野生型のヒトFGF-18は、骨格の発達時にほとんどが生成されるタンパク質であり、骨及び軟骨の形成に関与している(Haqueら、2007参照)。ヒトFGF-18は、当初zFGF-5と称され、そしてWO98/16644において完全に記載されている。配列番号1は、アミノ酸残基1(Met)~27(Ala)からなるシグナルペプチドを伴う、天然型ヒトFGF-18のアミノ酸配列に対応している。ヒトFGF-18の成熟型は、配列番号1の残基28(Glu)~残基207(Ala)までのアミノ酸配列(180個のアミノ酸)に対応している。
【0021】
FGF-18化合物は、本発明において、出願WO2006/063362により示されたような、組換え法により作製されてよい。発現系及び条件に応じて、本発明のFGF-18は、出発メチオニン(Met)残基を有するか又は選択のためのシグナル配列を持つ組換え宿主細胞において発現される。大腸菌などの原核生物宿主において発現される場合、FGF-18は、その配列のN末端に追加のMet残基を含む。例えば、ヒトFGF-18のアミノ酸配列は、大腸菌において発現される場合、N末端のMet残基(1位)に始まり、それに配列番号1の残基28(Glu)~残基207(Ala)が続く。
【0022】
また、用語「FGF-18化合物」は、FGF-18の天然型、成熟型、又は切断型のバリアント又は変異体、並びに異種タンパク質又は化合物(chemical compound)に結合された(生体)活性のあるFGF-18部分を含む融合タンパク質(EP17192467.3パテントファミリーに開示されたものなど)も含む。そのような融合タンパク質において、FGF-18部分は、FGF-18タンパク質の天然型、成熟型又は切断型、又はそのバリアントもしくは変異体であってもよい。
【0023】
-本明細書において使用される用語FGF-18の「切断型」は、配列番号1の残基28(Glu)~196(Lys)を含むか又はこれからなるタンパク質を指す。好ましくは、FGF-18タンパク質の切断型は、「trFGF-18」(170個のアミノ酸)と称されるポリペプチドであり、Met残基(N末端)で始まり、それに野生型ヒトFGF-18のアミノ酸残基28(Glu)~196(Lys)が続く。trFGF-18のアミノ酸配列は、配列番号2に示されている(配列番号2のアミノ酸残基2~170までは、配列番号1のアミノ酸残基28~196までに対応している)。trFGF-18は、大腸菌により作製される、ヒトFGF-18の組換え切断型である(WO2006/063362参照)。このFGF-18の特定の形の国際一般名(INN)は、スプリフェルミンである。スプリフェルミンは、成熟ヒトFGF-18と類似の活性を発揮することが示されており、例えば、軟骨細胞増殖及び軟骨沈着を増大し、様々な軟骨組織の修復及び再建をもたらす(WO2008/023063参照)。
【0024】
-用語「マーカー」又は「バイオマーカー」は、互換的に使用される。本発明の文脈において、これらは、タンパク質である。「予後バイオマーカー」は、どの療法であるかにかかわらず、疾患の進行、疾患の重症度又は疾患転帰を含むがこれらに限定されない対象の状態についての情報を与える。「予測バイオマーカー」は、有効性及び安全上の転帰を含むがこれらに限定されない受けた治療の効果についての情報を与える。予後及び予測の観点からの定義として互いに排他的ではないため、バイオマーカーは、予後と予測のいずれであってもよい。バイオマーカーの量又はバイオマーカーの発現レベルは、本明細書において、所与のタンパク質のnMol、μMol、mMol、ng、μg、mg又はgとして表される。該量又はレベルは、絶対値として(例えば、10ngもしくは2μg)、又は濃度として(例えば、10ng/mL、2μg/mL、10ng/mmol又は2μg/mmol)表すことができる。これらのバイオマーカーに関し、用語「量」又は「発現レベル」は、互換的に使用することができる。
【0025】
-用語「代謝バイオマーカー」は、非限定的に、CTX-II、ProC2、PIIANP、C2M、ARGS、AGNx1などのバイオマーカーを指す。より具体的には、用語「代謝バイオマーカー」は、軟骨代謝のバイオマーカー、すなわち、コラーゲンおよびアグリカン代謝回転その他の軟骨基質成分の分解および/または合成を指す。様々なコラーゲンおよびアグリカンマーカーが記載されている(Karsdalら、2016)。
【0026】
-用語「CTX-II」または「CTXII」は、II型コラーゲン架橋C-テロペプチドを指す。これは、変形性関節症の一因であるII型コラーゲン分解のバイオマーカーである(たとえばDuclosら、2010参照)。
【0027】
-用語「proC2」は、II型コラーゲンの合成中に生成されるII型コラーゲンのネオエピトープを指し、proC2アッセイでエピトープとして認識される配列シーケンスQDVRQPを有する。ProC2は、軟骨形成(II型コラーゲン形成)アッセイのマーカーである。ProC2は修復能に関連しており、軟骨に起因する疾患を有する患者を特定するための有用なツールとなりうる。ProC2は、臨床サンプルの前臨床試験で試験されたバイオマーカーである(例えば、Gudmannら、2016;Munkら、2016;Gudmannら、2014参照)。
【0028】
-用語PIIANPは、II型コラーゲンのプロペプチドを指す。IIA型プロコラーゲンには、II型コラーゲン遺伝子のエクソン2によってコードされるN末端69アミノ酸のシステインリッチな球状ドメインが含まれる。IIA型プロコラーゲンは、罹患軟骨の変形性関節症軟骨細胞によって合成されることが判明しており、軟骨細胞が罹患軟骨を修復しようとする動きを反映する特定の関節炎バイオマーカーとして寄与できる(Valdesら、2014)。
【0029】
-用語C2Mは、軟骨の分解に関連する血清学的なII型コラーゲン分解ネオエピトープを指す。C2Mは、MMPによって生成されるII型コラーゲンのらせん間フラグメントである。このバイオマーカーは、薬物反応、疼痛測定、およびX線写真によりみられる重症度に関連すると記載されている(Valdesら、2014)
【0030】
-用語ARGSは、アグリカン分解中に生成されるネオエピトープを指す。アッセイにより、血清および滑液中のアグリカン分解産物が検出される。ARGSレベルは軟骨障害の進行に関連する(Struglicsら、2011;Struglicsら、2015)。
【0031】
-用語AGNx1は、アグリカン分解中に生成される別のネオエピトープを検出するアッセイに関連する。
【0032】
-用語「マーカー」又は「バイオマーカー」は、互換的に使用される。
【0033】
-用語「SD」は、標準偏差を意味し、任意の検証アッセイ/システムの通常の偏差に関連する。
【0034】
-「軟骨障害」は、本明細書で使用される場合、外傷などの損傷、軟骨障害または関節炎に起因する障害を包含する。本明細書に記載のFGF-18製剤の投与により治療できる軟骨障害の例として、変形性関節症などの関節炎、軟骨損傷、関節軟骨に影響を与える骨折、または関節軟骨に影響を与える外科的処置(例えば、微小骨折)が挙げられるが、これらに限定されない。軟骨石灰化症、多発性軟骨炎、再発性多発性軟骨炎、強直性脊椎炎または肋軟骨炎といった軟骨または関節の変性疾患/障害もこの用語に含まれる。国際軟骨再生会議(International Cartilage Repair Society)は、軟骨欠損の重症度を評価するために関節鏡検査の等級付けシステムを提案する。グレード0:(正常な)健康な軟骨、グレード1:軟骨にソフトスポットまたは水ぶくれがある、グレード2:軟骨に軽微な亀裂が見える、グレード3:病変に深い裂け目(軟骨層の50%超)、グレード4:軟骨の亀裂が下層(軟骨下層)の骨を露出している(例えば、http://www.cartilage.org/_files/contentmanagement/ICRS_evaluation.pdfの13頁参照)。
【0035】
-用語「変形性関節症」は、関節症の最も一般的な形態を意図するのに使用される。「変形性関節症」という用語は、原発性変形性関節症および続発性変形性関節症の両方を包含する(例えば、The Merck Manual,17th edition,page 449参照)。変形性関節症を分類/等級付けする最も一般的な方法は、ケルグレン・ローレンスのX線等級化スケールを使用することである(下の表を参照)。変形性関節症は、軟骨の破壊によって引き起こされることがある。軟骨の破片が割れて骨間の関節に痛みと腫れを引き起こすことがある。時間が経つにつれて、軟骨が完全にすり減り、骨同士がこすれることもある。変形性関節症はあらゆる関節に影響を与える可能性があるが、通常は手、腰、膝、足、脊椎などの体重を支える関節が関係する。好ましい例では、変形性関節症は、変形性膝関節症または変形性股関節症であってもよい。変形性関節症は、本発明にかかるFGF-18化合物を投与することによって治療することができる好ましい軟骨障害の1つである。
【0036】
変形性関節症のシェルグレン・ローレンスX線等級化スケールを、以下に記載する:
【0037】
【0038】
グレード1及び2は、この疾患の重症度の低い型と考えられるのに対し、グレード3及び4は、この疾患のより重症な型と考えることができる。
【0039】
-本明細書で使用される「軟骨損傷」という用語は、特に外傷に起因する軟骨障害または軟骨損傷である。軟骨損傷は、とりわけ外傷性の物理的な破損の後、更にとりわけ事故または手術(例えば、微小骨折手術)に起こり得る。この用語「軟骨損傷」には、軟骨または骨軟骨の骨折、半月板損傷、および微小骨折も含まれる。また、この定義において、関節の組織のスポーツによる損傷またはスポーツによる摩耗も考慮される。
【0040】
-「WOMAC総スコア」又は「WOMACスコア」(「ウェスタンオンタリオ大学・マクマスター大学変形性関節症指数(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)」の「WOMAC」)は、疼痛(WOMAC疼痛スコア)、機能(WOMAC機能スコア)及び拘縮(WOMAC拘縮スコア)を測定する。軟骨損傷に関連する疼痛及び機能障害の評価に適用される場合、これは3つのサブクラスに分類された24項目を含む質問からなる(疼痛に関する5項目、拘縮に関する2項目及び身体機能に関する17項目)(Bellamyら、1988;Wolfe、1999参照)。これは、とりわけOA重症度の評価において広範に使用される周知の手段である。
【0041】
-軟骨修復を評価するために、軟骨容積測定が、軟骨の側面容積(LFTCとも称される)、軟骨の内側容積(MFTCとも称される)、軟骨の総容積(LFTC+MFTCとも称される)、及び新たな総平均軟骨厚みの測定を含む磁気共鳴画像(MRI)の測定により実施された。
【0042】
-用語「ベースライン」は、治療前(すなわち、試験登録時)を意味する。これは、とりわけ、試験登録時(すなわち、FGF-18化合物又はプラセボによる治療前)の所定の対象の軟骨容積及びWOMAC総スコアといった(ただしこれらに限定されない)臨床変数を指す。
【0043】
-「対象」または「患者」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物の両方を指す。非ヒトという用語は、げっ歯類(マウスを含む)、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、または霊長類などの哺乳動物を含む。
【0044】
-「感受性(sensitives)」は、FGF-18化合物を用いる軟骨障害の治療に対する反応を示す対象である。好ましくは、感受性対象(又は治療に対し感受性/反応を示す対象)は、とりわけ総軟骨厚み及び/又は総軟骨容積においてプラセボ治療した対象よりもより高い増加、すなわち軟骨修復を示す。また、感受性対象は、プラセボと比較して、WOMAC総スコアにおいて少なくとも同等の改善を示す。用語「超感受性(super-sensitives)」(又は「高度感受性(high-sensitives)」又は「高度に感受性(highly-sensitives)」)、「中程度感受性(intermediate-sensitives)」、及び「非感受性(non-sensitives)」(「低度感受性(low-sensitives)」を含む)は、FGF-18化合物の投薬方式後に、軟骨容積の増加度が非常に異なる種々の対象群を指す。超感受性は、FGF-18化合物を用いる治療に対し高度な反応(すなわち、高度な軟骨修復)を示し、中程度感受性は、FGF-18化合物を用いる治療に対し良好又は中程度の反応(つまり、良好又は中程度の軟骨修復)を示し、そして非感受性は、FGF-18化合物を用いる治療に対し反応を示さない又は低度の反応を示す。超感受性及び感受性対象のいずれも、プラセボに対し、WOMAC総スコアにおいて改善を有し、その改善は同等である。逆に、非反応者はWOMAC合計スコアの改善がプラセボよりも有意に小さい。用語「超感受性」、「高度感受性」は互換的に使用される。超感受性はAIRイベントのリスクが高いことが示されていることに留意すべきである。
【0045】
より具体的には、「中程度感受性」、「超感受性」、「非感受性」、「中程度反応者」、「超反応者」及び「非反応者」(低度の反応者を含む)は、FGF-18化合物を用いる治療後の軟骨量の増加度およびWOMAC総スコアの改善度が異なる種々の対象群を含むが、これらに限定されない。
【0046】
感受性/反応の評価に関して提唱された判定基準は、以下である(しかしこれらに限定されない):
1.ベースラインと比べ正の軟骨増加、
2.プラセボにおける変化よりも有意に高い軟骨増加の変化(例えば、α=5%で、BMI、KLグレード、性別及び年齢について調節した線型モデルで試験した場合)、
3.ベースラインと比べたWOMACスコア改善、すなわち縮小(例えば、5ポイントを上回る減少)、
4.プラセボにおける変化を有意に上回らないWOMACスコアの変化(例えば、α=5%で、BMI、KLグレード、性別及び年齢について調節した線型モデルで試験した場合)。
【0047】
-FGF-18化合物の治療に対する「反応(response)」又は「感受性(sensitivity)」は、初回注射から少なくとも1年又はより好ましくは2年後の、1)例えばMRI又はX線での測定による軟骨容積及び/又は軟骨厚みの増加、2)WOMAC総スコアの減少、又は3)プラセボ由来の変化を有意に上回らないWOMAC総スコアの変化、として理解される(「感受性(sensitives)」の定義も参照)。
【0048】
-本発明において使用される用語「MAD」は、反復容量漸増(Multiple Ascending Dose)を意味する。この用語に数字が続く場合、その数字は、FGF-18化合物が治療時に注射される容量に相当する。例えば、MAD100は、治療期間に対象が1回の注射当たりFGF-18化合物100mcgを受け取る治療を指す。略語「PL」(及び「MADPL」)は、プラセボを指す。
【0049】
-本明細書において使用される用語「記憶装置」は、任意の好適な演算装置又は処理装置又はデータもしくは情報の記憶のために構成もしくは適合されたその他の装置を含むことが意図されている。本発明での使用に適した電子装置の例は、スタンドアローン演算装置、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、インターネット、イントラネット及びイクストラネットを含むデータの電気通信ネットワーク、並びにローカル及び分散形コンピュータ処理システムがある。記憶装置はまた、以下を含むが、これらに限定されるものではない:フロピーディスク、ハードディスク記憶媒体、磁気テープなどの磁気記憶媒体、例えばCD-ROM、DVDなどの光学記憶媒体、例えばRAM、ROM、EPROM、EEPROM、一般的ハードディスクなどの電子記憶媒体、並びに例えば磁気/光学記憶媒体などの、これらのカテゴリのハイブリッドがある。
【0050】
-本明細書に使用される用語「記憶される」とは、記憶装置上に情報をコード化するプロセスを指す。当業者は、発現レベル情報を含む製品(manufactures)を作製するための公知の媒体上に情報を記録するための現在公知の方法のいずれかを、容易に採用することができる。
【0051】
(発明の詳細な説明)
変形性関節症、軟骨損傷、関節軟骨に影響を及ぼす骨折、又は関節軟骨に衝撃を与える手術手技(例えば、微小骨折)などの、軟骨障害を有する対象の治療に関して、FGF-18化合物の治療の臨床有効性(とりわけ軟骨菲薄化及び/又は軟骨修復に関して)を推測する必要性が存在する。このような対象の治療を最適化するために、とりわけ軟骨修復に関して、FGF-18化合物の治療に対する所与の対象の反応の予測因子として使用することができるバイオマーカーを同定することは重要である。そのような予測バイオマーカーは、非感受性であるか、または逆に治療に対して感受性または高感受性であるかのいずれかである高リスク群を同定するために使用してもよい。たとえば、変形性関節症を有する対象が治療に対する反応がない(又は非感受性である)リスクが高いことがわかっている場合、医師は、前記対象に、スプリフェルミンまたはFGF-18部分を含む融合タンパク質などのFGF-18化合物を提案しないことを決定できる。逆に、変形性関節症を有する対象が治療に対し高度感受性であるリスクが高いことがわかっている場合、医師は該対象に投与するFGF-18化合物の投与量を低減すべく投与計画を適合することを決定できる。実際、FGF-18化合物に高度感受性であることは、AIR(急性炎症反応)などの望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。そのような予測情報は、とりわけ患者へ適用すべき投薬方式について、あるいは、必要に応じて(たとえば、FGF-18化合物の治療が推奨されない場合)関節置換手術のタイミングで、医学的決定へのガイドとして臨床的に有用である。
【0052】
本発明の驚くべき知見は、FGF-18化合物(例えばスプリフェルミン)投与に関連する可能性のあるバイオマーカーを同定することを目指す研究に基づく。この研究において、バイオマーカーとして数多くのタンパク質マーカーが使用された(表1参照)。タンパク質マーカーと臨床反応変数の間の関係が、評価された。この種の分析の背景となる論理的根拠は、スプリフェルミン又はFGF-18部分を含む融合タンパク質などのFGF-18化合物を用いて治療すべき対象について、臨床転帰(とりわけ、軟骨修復に関して)を予測するバイオマーカー(複数)として有用なタンパク質(複数)を同定することであった。これらのタンパク質は、特定の対象集団を階層化および標的化するために使用することができる。
【0053】
様々なバイオマーカーが、高値と低値の基準を適用することによって、FGF-18療法に対する反応の変化を示すか、あるいは転帰(すなわち、軟骨の厚さまたは体積、WOMACスコア)の変化を示した。例としてC1M、C3M及びhs-CRPが挙げられる。本発明者らは、驚くべきことに、ある種の代謝タンパク質と転帰(例えば軟骨修復)との関係を発見した。CTX-II及びProC2タンパク質が特に興味深い。CTX-II及び/又はProC2のみが本明細書において具体的に記載されるが、PIIANP、C2M、ARGS又はAGNx1などの他の代謝バイオマーカーを使用することもできることに留意すべきである。よって、本発明の教示に基づき、これらのバイオマーカーの各々の閾値を発見することは、当業者にとって慣習的な事柄である。
【0054】
これらのタンパク質は、変形性関節症におそらく関連があるものとして、文献に記載されている。例えば、CTX-II及びProC2は、代謝バイオマーカーと考えられている(Bay-Jensen,2016)。
【0055】
驚くべきことに、本発明者らにより、CTX-II及び/又はProCなどの代謝バイオマーカーの量が少ないほど、軟骨損傷に罹患した対象において、スプリフェルミン又はFGF-18部分を含有する融合タンパク質などのFGF-18化合物を用いる治療に対する反応が良好であることが発見された。これらの対象は、感受性と称され、この群は、中程度感受性又は高度感受性対象の両者を含む。逆に、これもまた驚くべきことに、本発明者らにより、CTX-II及び/又はProC2の量が多いほど、軟骨障害に罹患した対象において、スプリフェルミン又はFGF-18部分を含有する融合タンパク質などのFGF-18化合物を用いる治療に対する反応がない又は反応が低度である(すなわち、FGF-18化合物を用いる治療に対する低度又は非感受性)ことも発見された。これらの対象は、非感受性対象と称され、この群は低度感受性又は非感受性対象の両者を含む。更に驚くべきことに、これらのバイオマーカーの各々は、単独で使用しても、FGF-18化合物に対する反応の効果的な予測を提供できることが発見された。
【0056】
従って本発明の知見は、バイオマーカーCTX-II及び/又はProCは、スプリフェルミン又はFGF-18部分を含有する融合タンパク質などのFGF-18化合物の治療に対する対象の反応性の予測バイオマーカーとして単独又は組合せのいずれかで使用できることである。好ましくは、この対象は、変形性関節症、軟骨損傷、関節軟骨に影響を及ぼす骨折、又は関節軟骨に衝撃を与える手術手技(例えば、微小骨折)などの軟骨障害を有する。特定の実施態様において、対象は、CTX-IIの量が350±2SDng/mmol(正規平均の>240~260%)よりも高いか、及び/又は、ProC2の量が4.2±2SDng/mL(正規平均の>120~280%)よりも高い場合に、FGF-18化合物の治療に対し非感受性(又は低度感受性)であると予測される。逆に、対象は、CTX-II量が350±2SDng/mmolよりも低いか、及び/又は、ProC2量が4.2±2SDng/mLよりも低い場合に、FGF-18化合物の治療に対し感受性(又は反応者又は良好な反応者)であると予測される。
【0057】
従って本発明は、軟骨障害を有する対象において、FGF-18化合物を用いる治療に対する感受性を予測する方法であって、
a)前記対象の生体試料から、CTX-II及び/又はProC2からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する工程;
b)工程a)の結果から、FGF-18化合物を用いる治療に対する前記対象の高度、中程度又は非感受性を予測する工程:を含む方法に関する。
【0058】
少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する前に、例えば血液、血清、滑液又は尿の収集により、該対象の試料(又は生体試料又は被験試料)を得ることが必要である。従って本発明は、軟骨障害を有する対象において、FGF-18化合物を用いる治療に対する感受性を予測する方法であって、
a)前記対象から試料を得る工程;
b)試料から、CTX-II及び/又はProC2からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する工程;並びに
c)工程a)の結果から、FGF-18化合物を用いる治療に対する前記対象の高度、中程度又は非感受性を予測する工程:を含む方法に関する。
【0059】
上記方法によると、350±2SDng/mmolよりも高いCTX-II(正規平均の>240~260%)及び/又は4.2±2SDng/mLよりも高いProC2(正規平均の>120~280%)の存在は、FGF-18化合物を用いる治療に対する反応がない又は反応が低度(例えば、非感受性又は低度感受性)であることの指標となる。よって、その対象は非感受性であると予測される。逆に、350±2SDng/mmolよりも低いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも低いProC2の存在は、FGF-18化合物を用いる治療に対する反応が中程度(例えば、中程度感受性)又は高度(例えば、高度感受性)であることの指標となる。よって、その対象はFGF-18化合物を用いる治療に対し感受性(又は反応性)である(つまり、反応者である)と予測される。この予測から、医師は、FGF-18化合物の治療に対し、中程度感受性及び高度感受性の両者を含む感受性であると予測される対象のみを容易に選択できる。
【0060】
また、本発明は、軟骨障害を有する対象を、FGF-18化合物を用いる治療又は臨床試験の組み入れ又はそれからの除外に関して、前記治療に対するそれらの感受性の尤度に基づき、選択する方法であって、
a)前記対象の生体試料から、CTX-II及び/又はProC2からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する工程、ここで、これらのバイオマーカーの少なくとも1種の量が、前記治療に対し感受性であるか又は非感受性であることに関する対象のリスクの指標となる工程;並びに
b)感受性の対象を前記治療に対し適切であるとして選択する工程:を含む方法を包含する。
【0061】
先に開示したアッセイにおいて、少なくとも1種のタンパク質の量を決定する前に、例えば、血液、血清、滑液又は尿の収集により、対象の試料(又は被験試料又は生体試料)を得ることが必要である。従って本発明は、軟骨障害を有する対象を、FGF-18化合物を用いる治療又は臨床試験の組み入れ又はそれからの除外に関して、前記治療に対するそれらの感受性の尤度に基づき、選択する方法であって、
a.該対象から生体試料を得る工程;
b.試料から、CTX-II及び/又はProC2からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する工程、ここで、これらのバイオマーカーの少なくとも1種の量が、前記治療に対し感受性であるか又は非感受性であることに関する対象のリスクの指標となる工程;並びに
c.感受性の対象を前記治療に対し適切であるとして選択する工程:を含む方法に関する。
【0062】
上記方法によると、350±2SDng/mmolよりも高いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも高いProC2を示す対象は、FGF-18化合物を用いる治療から除外される(すなわち、彼等は選択されない)。逆に、350±2SDng/mmolよりも低いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも低いProC2を示す対象は、FGF-18化合物を用いる治療に組み入れられる(すなわち、彼等は選択される)。
【0063】
代替的に、軟骨障害を有する対象を、FGF-18化合物を用いる治療又は臨床試験への組み入れ又はそれからの除外に関して、FGF-18化合物に対するそれらの感受性の尤度を基に、選択する方法であって、
(a)軟骨障害を有すると診断されたヒト対象由来の試験試料を、CTX-IIおよび/またはProC2からなる群から選択されるバイオマーカーの少なくとも1つの量を決定するように適合された少なくとも1つのアッセイに供する工程;
(b)前記アッセイから、前記治療に対して感受性または非感受性であることについて対象の尤度を決定する工程;並びに
(c)前記アッセイにより、350±2SDng/mmolよりも低いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも低いProC2が検出された場合、その対象をFGF-18化合物を用いる治療又は臨床試験へ組み入れ、そして、350±2SDng/mmolよりも高いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも高いProC2が検出された場合、その対象をFGF-18化合物を用いる治療又は臨床試験から除外するよう対象を選択する工程:を含む方法も記載する。
【0064】
代替的に、FGF-18化合物を試験するための臨床試験に対するヒト対象を選択する方法は、a)軟骨障害と診断されたヒト対象由来の生体試料を、CTX-II及び/又はProC2の少なくとも1種の量について、アッセイする工程;
b)CTX-II及び/又はProC2の少なくとも1種の量を決定する工程;並びに
c)350±2SDng/mmolよりも高いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも高いProC2を示すヒト対象を臨床試験に選択する工程:を含んでよい。
【0065】
また、本発明は、FGF-18化合物を試験する臨床試験から、ヒト対象を除外する方法であって、
(a)CTX-II及び/又はProC2の少なくとも1種の量について、軟骨障害と診断されたヒト対象由来の生体試料をアッセイする工程;
(b)前記アッセイから、前記対象が治療に対し感受性又は非感受性である尤度を決定する工程;並びに、
(c)350±2SDng/mmolよりも高いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも高いProC2を示すヒト対象を、臨床試験から除外する工程:を含む方法も記載する。
【0066】
試料中の1又は複数のバイオマーカーの量(又は発現レベル)は、必要ならば、参照試料由来の参照量(又は参照発現レベル)と比較することができる。該参照レベルは、健常対象から、又は該治療前もしくは治療中に診断もしくは治療される同じ患者から、入手することができる。
【0067】
FGF-18化合物は、通常、1治療サイクルにつき、注射あたり100mcgの用量で週1回ずつ3週間にわたり、関節内投与される。高度感受性であると予測される対象のために提案される代替投薬方式は、FGF-18化合物を、治療サイクルあたり3週間、週1回、注射あたり30mcgの用量で関節内投与することである。好ましい用量は注射あたり100mcgであり、おそらく高度感受性の場合は注射あたり30mcgに低減されるものの、本発明は前記用量に限定されないことを理解されたい。したがって、FGF-18化合物は、注射あたり50~300mcg、好ましくは60~25mcg、さらに好ましくは100~200mcgの用量で関節内投与することができる。超感受性対象の場合、前記用量は、例えば、1/2又は約1/2、または1/3、または約1/3に低減できる場合がある。たとえば、通常の用量が注射あたり50mcgである場合、用量は注射あたり16~25mcgの間に低減されることがある。
【0068】
FGF-18化合物は、通常、1サイクルにつき、注射あたり100mcgの用量で週1回ずつ3週間にわたり、関節内投与される。FGF-18化合物は、通常、少なくとも1回の治療サイクルで投与される。好ましくは、治療サイクルは、初回治療サイクルの開始後、例えば6ヶ月(又は約26週間)に少なくとも1回繰り返される。2年以内に最大4サイクルの治療サイクルを行うことが、有望な結果を示す(
図1参照)。
【0069】
本発明は更に、対象が350ng/mmolよりも低いCTX-II及び/又は4.2ng/mLよりも低いProC2を有するという特徴を有する、軟骨障害を有する対象の治療における使用のための、FGF-18化合物を包含する。したがって、これらの基準を満たさない対象は、好ましくはFGF-18化合物の治療から除外される。
【0070】
また、本発明は、FGF-18化合物の治療に対する感受性を決定するか、又はFGF-18化合物を用いる治療方式を決定するためのアッセイにも関し、(a)軟骨障害を有すると診断されたヒト対象由来の被験試料を、CTX-II及び/又はProC2の少なくとも1種の量を決定する少なくとも1種のアッセイに供する工程、(b)CTX-II及び/又はProC2の少なくとも1種の量を決定する工程、並びに(c)工程b)の結果から、FGF-18化合物を用いる治療に対する前記対象の感受性又は非感受性を決定する工程:を含むアッセイにも関する。このアッセイによると、350ng/mmolよりも高いCTX-II及び/又は4.2ng/mLよりも高いProC2の存在は、FGF-18化合物を用いる治療に対する非感受性の指標となる。逆に、350ng/mmolよりも低いCTX-II及び/又は4.2ng/mLよりも低いProC2の存在は、感受性の指標となる。このアッセイの結果から、医師は、FGF-18化合物の治療に対し、中程度感受性 及び高度感受性の両者を含む感受性であると予測される対象のみを容易に選択できる。先に開示したアッセイにおいて、少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する前に、例えば血液、血清、滑液又は尿の収集により、該対象のバイオマーカー(又は被験)試料を得ることが必要とされる。
【0071】
また、本発明は、軟骨障害のヒト対象に対する治療方式を選択するアッセイであって、(a)軟骨障害を有すると診断されるヒト対象由来の被験試料を、CTX-II及び/又はProC2の少なくとも1種の量を決定する少なくとも1種のアッセイに供する工程、(b)前記対象がFGF-18治療に対し中程度感受性又は高度感受性である尤度を決定する工程、並びに(c)工程b)の結果から、前記対象に対し好適な治療方式を決定する工程:を含むアッセイに関する。対象が350ng/mmolより低いCTX-II及び/又は4.2ng/mLより低いProC2を有する場合、この量が上記化合物に対する反応に関連するという認識に基づいて、好適な治療方式での治療への選択および治療がされ、対象が350±2SDng/mmolよりも高いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも高いProC2を有する場合、この量が上記化合物に対する反応に関連するという認識に基づいて、この対象をFGF-18化合物を用いる治療から除外することができる。
【0072】
また、軟骨障害を有する対象をFGF-18化合物を用いて治療する方法であって、
a.試料から、CTX-II及び/又はProC2からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定する工程であって、ここで、前記量が、前記FGF-18化合物を用いる治療に対し高度又は中程度感受性であることに関する対象のリスクの指標となる工程;
b.350±2SDng/mmolよりも低いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも低いProC2を有する対象を選択する工程;
c.工程b.において選択した対象に、FGF-18化合物を関節内投与する工程:
を含む方法も記載される。
【0073】
更に、軟骨障害のヒト対象を治療する方法であって、
(a)CTX-II及び/又はProC2からなる群から選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量について、軟骨障害を有すると診断された対象の生体試料をアッセイする工程;並びに
(b)対象が、350±2SDng/mmolよりも低いCTX-II及び/又は4.2±2SDng/mLよりも低いProC2を有する場合、有効量のFGF-18化合物を含む組成物を含む投薬方式で対象に投与する工程:を含む方法が開示される。
【0074】
総じて本発明の文脈において、CTX-II及び/又はProC2は、FGF-18化合物に対する反応の有用な予測バイオマーカーであることが示されている。従ってこれらは、予測バイオマーカーと考えられる。
【0075】
総じて本発明の文脈において、本発明の少なくとも1種のバイオマーカーの量のアッセイ又はその他の決定は、治療前又は治療時に行ってもよい。実際、治療時に投薬方式を新規バイオマーカーの状況に適合させる必要があることもある。
【0076】
総じて本発明の文脈において、350±2SDng/mmolのCTX-II又は4.2±2SDng/mLのProC2の範囲内である患者に関し、別の代謝バイオマーカーを用い診断又はバイオマーカー試験を完了することが勧められる。例えば、CTX-IIのレベルが350±2SDng/mmolの範囲内である場合、次にProC2のレベルが考慮できる。患者が、350±2SDng/mmolのCTX-II及び 4.2±2SDng/mLのProC2の範囲を示す希少例(rare case)において、次にWO2014023703で開示されたもののような、炎症バイオマーカー又はSNPバイオマーカーなどの別の種類のバイオマーカーを用いる診断又はバイオマーカー試験を完了することが勧められる。
【0077】
本発明の別の実施態様において、データを得るためのシステム(及びコンピュータシステムとするためのコンピュータ可読(readable)媒体)も提供される。該データは、とりわけ、対象におけるFGF-18化合物を用いる治療の適合性を評価するか、又は所定の対象に関するFGF-18化合物の治療有効性をモニタリングするか、もしくは単に疾患の進行をモニタリングするために使用することができる。該システムは、臨床試験時FGF-18化合物を用いる治療が想定される場合、又は該化合物を用いる治療が既に進行中である場合に、使用することができる。
【0078】
従って、本発明の実施態様には、少なくとも1名の軟骨障害の対象から得られた少なくとも1種の被験試料からデータを得るためのコンピュータシステムが含まれ、このシステムは以下を備える:
(a)少なくとも1種の該被験試料を受け取り、本発明の少なくとも1種のバイオマーカーの量を決定するために、少なくとも1種の該被験試料に対し、少なくとも1種の分析を実行するように構成された、少なくとも1種の決定モジュール;
(b)該決定モジュールからのデータ出力を記憶するよう構成された少なくとも1種の記憶装置;並びに、
(c)一部該決定モジュールからのデータ出力に基づくコンテンツを表示するための、少なくとも1つのディスプレイモジュール、ここでこのコンテンツは、これらの条件の少なくとも1つの存在、及び任意にこれらの条件のいずれか一つの非存在の指標となるシグナルを含む。
【0079】
このコンピュータ可読媒体は、コンピュータ上で方法を実行するためのソフトウェアモジュールを規定するために、それらの上に記録されたコンピュータ可読命令を有することができる。そのような場合、該コンピュータ可読の記憶媒体は:
(a)記憶装置上に記憶されたデータを、参照データと比較し、比較結果を提供するための命令であって、ここで比較は、本発明に従う少なくとも1種のバイオマーカーの量を基にしているもの;並びに
(b)一部該決定モジュールからのデータ出力に基づくコンテンツを表示するための命令であって、ここでこのコンテンツは、少なくとも1種の条件の存在、及び任意に1又は複数の条件の非存在の指標となるシグナルを含む。
【0080】
コンピュータ可読の記憶媒体は、コンピュータによりアクセスすることができる、任意の利用可能な有形(tangible)媒体であってもよい。コンピュータ可読の記憶媒体は、コンピュータ可読命令、データ構造(structure)、プログラムモジュール又は他のデータなどの、情報の記憶に関する任意の方法又は技術において実行された、揮発性及び不(16on)揮発性、取り外し可能及び取り外しができない有形媒体を含む。コンピュータ可読の記憶媒体は、RAM(ランダムアクセスメモリー)、ROM(リードオンリーメモリー)、EPROM(消去可能なプログラム可能なリードオンリーメモリー)、EEPROM(電気的に消去可能なプログラム可能なリードオンリーメモリー)、フラッシュメモリー又は他のメモリー技術、CD-ROM(コンパクトディスクリードオンリーメモリー)、DVD(デジタル多用途ディスク)又は他の光学記憶媒体、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶又は他の磁気記憶媒体、他の型の揮発性及び不揮発性メモリー、並びに所望の情報の記憶に使用することができ、且つ好適な前述の組わせを含むコンピュータにアクセスすることができる、任意の他の有形媒体を含むが、これらに限定されるものではない。
【0081】
1又は複数のコンピュータ可読の媒体上に具現化された(embodied)コンピュータ可読データは、例えば、コンピュータによる実行結果として、コンピュータに、本明細書記載の1又は複数の機能、並びに/又はそれらの様々な実施態様、変動及び組合せを実行することを命令する1又は複数のプログラムの一部として、命令を規定してよい。そのような命令は、例えば、Java、J#、Visual Basic、C、C#、C++、Fortran、Pascal、Eiffel、Basic、COBOLアッセンブリ言語、及び同類のものなどの複数のプログラミング言語のいずれか、もしくはそれらの様々な組合せで記載されてよい。その上にそのような命令が具体化されているコンピュータ可読の媒体は、システムのいずれかの1又は複数のコンポーネント上に存在するか、又は本明細書記載のコンピュータ可読の記憶媒体は、1又は複数のそのようなコンポーネントにわたって分布してもよい。
【0082】
コンピュータ可読媒体は、その媒体上に記憶された命令が、本明細書において検討した本発明の態様を実行するため任意のコンピュータ資源に格納されるように、可搬型(transportable)であってよい。
【0083】
決定モジュールにおいて決定された情報は、記憶装置により読み取ることができる。記憶装置は、その上に記録された発現レベル又はタンパク質レベルの情報を有するように、適合又は構成される。そのような情報は、例えばインターネットを介して、ディスケット上で、USB(ユニバーサルシリアルバス)を介して又は任意の他の好適な通信モードを介して、電子的伝達及び読み取りできるデジタル型で提供されてよい。
【0084】
総じて本発明の文脈において、例えば本発明の方法、使用、アッセイ又はキットのいずれか一つの文脈において、好ましいFGF-18化合物は、スプリフェルミン、又はFGF-18部分を含む融合タンパク質などの、切断型FGF-18であり、好ましい軟骨障害は、変形性関節症、軟骨損傷、関節軟骨に影響を及ぼす骨折、又は関節軟骨に衝撃を与える手術手技、例えば微小骨折などからなる群から選択される。
【0085】
総じて本発明の文脈において、例えば本発明の方法、使用、アッセイ、コンピュータシステム又はキットのいずれかひとつの文脈において、本発明の少なくとも1種のバイオマーカー(例えば、CTX-II及び/又はProC2)の量を決定する前に、例えば、血液、血清、滑液又は尿の収集により、対象の試料(又は生体試料又は被験試料)を得ることが必要であることが理解されるべきである。また、細胞、組織、軟骨又は滑液からも得ることができるがこれらに限定されない。
【0086】
軟骨障害に罹患し、且つ本明細書記載の方法、使用、アッセイ、キット及び他のコンピュータシステムのいずれかに従い試験、検査及び/又は治療される個体は、スプリフェルミン又はFGF-18部分を含有する融合タンパク質などのFGF-18化合物を用いる治療の候補であるヒト対象である。好ましい実施態様において、個体は、軟骨障害と診断されているか、又は軟骨障害の症状を示している。
【0087】
更なる実施態様において、本発明は、先に記載された方法を実行する手段、並びに使用説明書を含むキットを包含する。好ましくは、キットは、本発明のバイオマーカー(例えば、CTX-II及び/又はProC2)の少なくとも1種の存在を検出するための手段、並びにそれらを定量するための手段を含む。キットは、本発明のバイオマーカーの少なくとも2種の存在を検出するための手段、並びにそれらを定量するための手段も含んでよい。
【0088】
本発明の方法及びキットは、臨床診断的な適用に有用である。ただし、本明細書において使用される用語「診断的」は、臨床用途又は医学用途に限定されず、本明細書において請求される本発明の診断的方法及びキットは、本明細書記載の任意のマーカーの存在又は非存在に関し対象を試験することが望ましい任意の研究応用や臨床試験時にも有用である。
【0089】
本発明の文脈において、少なくとも1種の本発明のバイオマーカー(例えば、CTX-II及び/又はProC2)の存在及びそれらの定量は、例えばELISAを含む、それ自体が当業者に公知である任意の技術により、検出されてよい。
【0090】
本明細書の請求の範囲内の本発明の他の実施態様は、本明細書に開示の本発明の明細書の記載又は実施を考慮すれば当業者には明らかであろう。本明細書の記載は、本願の実施例と共に、本願請求項により特定される本発明の範囲及び精神を伴う単なる例示であるという意図である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
(図面の説明)
【
図1】
図1:フォワード試験においてスプリフェルミンについて使用した投薬方式のスキーム。
【
図2】
図2:総大腿脛骨関節の軟骨厚み(mm)に関する、治療による数週間にわたるベースラインからの絶対変化における平均及び95%CI-mITT解析セット。
【
図3】
図3:総大腿脛骨関節の軟骨容積(μL)に関する、治療による数週間にわたるベースラインからの絶対変化における平均及び95%CI-mITT解析セット。
【
図4】
図4:軟骨代謝亜群ごとの、バイオマーカーによる総大腿脛骨関節における軟骨厚み(mm)に関する、治療による数週間にわたるベースラインからの絶対変化における平均及び95%CI-ITT解析セット-ProC2代謝バイオマーカー。
【
図5】
図5:軟骨代謝亜群ごとの、バイオマーカーによる総大腿脛骨関節における軟骨厚み(mm)に関する、治療による数週間にわたるベースラインからの絶対変化における平均及び95%CI-ITT解析セット-CTX-II代謝バイオマーカー。
【
図6】
図6:軟骨代謝亜群ごとの、標的膝におけるWOMAC総スコアに関する、治療による数週間にわたるベースラインからの絶対変化に関する平均及び95%CI-ITT解析セット-ProC2代謝バイオマーカー。
【
図7】
図7:軟骨代謝亜群ごとの、標的膝におけるWOMAC総スコアに関する、治療による数週間にわたるベースラインからの絶対変化に関する平均及び95%CI-ITT解析セット-CTX-II代謝バイオマーカー。
【0092】
(配列の説明)
配列番号1:天然型ヒトFGF-18のアミノ酸配列。
配列番号2:組換え切断型FGF-18(trFGF-18)のアミノ酸配列。
配列番号3:マーカーCTX-IIのアミノ酸配列。
配列番号4:マーカーPROC2のアミノ酸配列。
【実施例0093】
1.FGF-18化合物
本実施例において治療として使用するFGF-18化合物は、スプリフェルミンである。これは、「定義」の項において定義したように、FGF-18の切断型である。2種の強度:30μg及び100μgのスプリフェルミンが、本試験に供給された。スプリフェルミンは、3mLガラスバイアル内の白色の滅菌した凍結乾燥散剤として供給された。各バイアルは、スプリフェルミン活性物質31.5μg又は105μgのいずれかを含み;これらの量は、各々、30μg又は100μgのスプリフェルミン活性物質の抽出を可能にするよう、5%過剰に含まれ、引き続き0.9%w/v塩化ナトリウム注射液(本明細書において「生理食塩水」と称す)により再構成される。この製剤の賦形剤は、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)、水酸化ナトリウム、O-リン酸、ショ糖、及びポロキサマー188である。30μg治療のためのキットは、スプリフェルミン(強度30μg)の1ガラスバイアル、及び注射用の滅菌生理食塩水(2mL/アンプル)の1ガラスアンプルを含んだ。100μg治療のためのキットは、スプリフェルミン(強度100μg)の1ガラスバイアル、及び注射用の滅菌生理食塩水(2mL/アンプル)の1ガラスアンプルを含んだ。全ての治療群に関して、投与容積は、2mLであった。
【0094】
2.方法
フォワード試験
本試験は、フォワード試験(EMR700692-006)に基づく。5群の患者を試験した:
・グループ1(プラセボ4サイクル;以後プラセボと称す):108名の対象。
・グループ2(スプリフェルミン30μg/注射2サイクル、プラセボ2サイクルと交代;以後スプリフェルミン/プラセボ30μgと称す):110名の対象。
・グループ3(スプリフェルミン30μg/注射4サイクル;以後スプリフェルミン30μgと称す):111名の対象。
・グループ4(スプリフェルミン100μg/注射2サイクル、プラセボ2サイクルと交代;以後スプリフェルミン/プラセボ100μgと称す):110名の対象。
・グループ5(スプリフェルミン100μg/注射4サイクル;以後スプリフェルミン100μgと称す):110名の対象。
【0095】
このフォワード試験に従い、患者は、6ヶ月の間隔で、4サイクルの治療(各々、連続する3週間にわたり、週1回の関節内注射を3回行うことからなる)を受けた(
図1参照)。注射は全て、関節内投与であった(関節内に行った)。
【0096】
主要有効性評価項目は、2年時点でMRIにより評価した、総大腿脛骨関節中の軟骨厚みのベースラインからの変化であった。
【0097】
探索的評価項目は、治療に対する反応又は疾患進行に関連するベースラインタンパク質マーカー及び/又は遺伝子マーカーを含んだ(反応は、MRI及び/又は質問票により評価した)。
【0098】
組み入れ基準/除外基準
本試験は、シェルグレン・ローレンスグレード(KLG)2度又は3度を有し、並びに内側区画内で最少関節腔幅(JSW)≧2.5mmを有する、米国リウマチ学会(ACR)の臨床及びX線判定基準に従い原発性大腿脛骨OAを持つ、男女いずれかの成人対象を参加させた。対象は、ほとんどの日に標的膝に疼痛を有し、及び/又は、前月のほとんどの日に、パラセタモル(アセトアミノフェン)、COXインヒビター(COXibs)を含む全身性非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)、又はトラマドールによる、膝疼痛の対症療法を必要としなければならず、且つ以下の両点を有さなければならない:1)少なくとも6ヶ月間の標的膝のOAに起因した疼痛の病歴、並びに2)アセトアミノフェン、局所もしくは経口のNSAIDS、COXibs、オピオイド、及び/又はトラマドールの鎮痛薬投薬の少なくとも5半減期のウォッシュアウト後の、スクリーニング及びベースライン時に、ウェストオンタリオ大学・マクマスター大学変形膝関節症指数(WOMAC)の疼痛指数の質問1(「平地を歩くとき[過去48時間にわたり、標的膝において]どの程度痛みを感じましたか?」)に応えて、4~9ポイントの標的膝の疼痛スコア。妊娠の可能性のある女性は、本試験を通じて1年当たり1%未満の妊娠率(failure rate)の避妊法を使用した。
【0099】
主要除外基準には、標的膝の大腿脛骨軸における>5度のゆがみ(malalignment)、標的膝中の臨床の炎症徴候(すなわち、発赤)、スクリーニング前6ヶ月以内のいずれかの膝へのコルチコステロイド又はヒアルロン酸の関節内投与、その後2年以内の何らかの膝手術の計画(標的膝又は対側膝のいずれかに影響を及ぼす)、試験参加の不適合であるとみなされる共存する病態又は治療、MRI走査への禁忌(スキャナへのフィット不能又は膝コイルを含む)、妊娠又は授乳、過去30日以内の別の臨床試験への参加、及び法的無能力者又は法的能力の限界者が含まれた。
【0100】
書面によるインフォームドコンセントは、各試験実施の前に得た。
【0101】
統計学的方法
主要評価項目に対する治療効果は、ベースライン値、治療群、評価時点、並びに国因子(country as factor)、及び治療群と評価時点の交互作用(treatment-by-time point as interaction)を含む、ベースラインからの絶対変化に対する、反復測定の分散分析を使用し(ANOVA、SASのPROC MIXEDを使用)、投与量-範囲(dose-ranging)により評価した。主要有効性分析は、2年目での、線形の投与量関係及び総括的治療効果を試験することからなる。有意レベルは、両方の試験に関して両側5%に設定した。一対比較(スプリフェルミン、対、プラセボ、及びスプリフェルミン投与量群及び方式群の間)を、このモデル化フレームワークの状況内で行った。各一対比較に関して、治療間の差異及び対応する95%信頼区間(CI)及びp値を示した。主要評価項目に使用したものと同じANOVAモデルを使用し、各評価時点及び全時間(over time)での、MRI評価項目、WOMAC評価項目(総、疼痛、機能、及び拘縮のスコア)、並びにX線評価項目などの、持続する副次的評価項目に対する治療効果を評価した。ロジスティック回帰を使用し、OMERACT-OARSI反応率などの、2値(binary)有効性評価項目に対する治療効果を評価した。各一対比較に関する点推定及び対応する95%CI及びp値を示す。
【0102】
疼痛評価及び機能評価
WOMACは、臨床OA試験における症状改変を評価するために使用され有効性が確認されている手段である。この臨床スコアは、1981年に開発され、臨床研究者及び規制当局の両方により、有効な手段であると見なされている。WOMACは、股関節(hip)及び膝のOAの臨床試験において広範に使用され、有効性も確認されている。
【0103】
対象は、自身で24問の質問(すなわち、疼痛に関する5項目、拘縮に関する2項目及び身体機能に関する17項目)全てに、過去48時間に関して、11-ボックスNRS評価(カテゴリー0から10まで)を用い、回答しなければならなかった。右膝及び左膝に関して、異なる形態の質問票が存在し:対側膝の症状によるWOMAC反応の混乱を減少するために、対象は、標的膝に特定されたWOMAC質問票を使用した。その後、質問票の管理(administration)に関して、WOMAC3.1指数に関する指示を行った。
【0104】
JSWのX線評価
X線により測定したJSWの変化は、OAにおける有効性試験で使用するために欧州医薬品庁(EMA)及び米国食品医薬品局(FDA)により承認された評価項目である。JSWは、標準化された技術を用いて測定した。
【0105】
qMRI評価
DBPC治療相に関する主要評価項目は、mITTにおいて2年目にqMRIにより評価した、総大腿脛骨関節の軟骨厚みのベースラインからの変化であった。総大腿脛骨関節の軟骨厚みは、2つの方式で計算した:
1.平均軟骨厚み(総表面積で除算した総容積)
2.総軟骨厚み(内側区画及び側面区画の軟骨厚みの合計)。
【0106】
主要評価項目に対する治療効果は、治療群、評価時点、並びに固定された因子としての(プールされた)国及び共分散としてのベースライン値、及び治療群と評価時点の交互作用を含む、ベースラインからの絶対変化に対する、反復測定の分散分析(ANOVA)を使用し、投与量-範囲を通じて評価した。経時的な測定を繰り返すことにより、「非構造化された(unctructured)」共分散パターンの使用を示す。
【0107】
軟骨厚みにおけるベースラインからの絶対変化の一対比較(スプリフェルミン治療群、対、プラセボ)は、先に記載したモデル化フレームワークの状況内で実行した。各一対比較に関して、治療間の差異及び対応する95%信頼区間(CI)及びp値を提示した。p値(母数効果のタイプ3試験に対応)は、一緒にした全ての評価時点に関する当初の「総括的」モデルにおける全ての共変量(すなわち、ベースライン値、治療、評価時点、治療群と評価時点の交互作用、国)について、並びに全ての評価時点について報告する。推定された係数、p値、及び95%CIは、(i)投与量関係(線形の傾向)及び(ii)投与量レベルとプラセボの間の各一対比較:について、全時間及び各評価時点で提示される。
【0108】
一次結果のロバトネスを評価するために、線形の投与量-関係に関する試験及び総括的治療効果に関する試験は、PP解析セットを用いて繰り返した。mITT解析セットに関して、一次解析の代替方法として、総大腿脛骨関節内の軟骨厚みの順序のあるデータに関して、ノンパラメトリックな解析を行った。データは、ランク変換を使用するDBPC治療相時の2年間にわたる、ベースラインからの絶対変化の大きさにより、順位付けした。
【0109】
バイオマーカー測定
骨及び関節組織の代謝回転並びに滑液炎症の血清学的及び尿の生化学マーカーを、評価した。軟膏代謝の可能性のあるバイオマーカーは、II型コラーゲン分解のネオ-エピトーププロペプチド(proC2)およびII型コラーゲン架橋C-テロペプチド(CTX-II)を含むが、これらに限定されるものではない。全身性バイオマーカー評価のための血液及び尿試料を、以下の時点で収集した:0週目(スプリフェルミンの初回注射前)、26週目、54週目、80週目及び104週目。注射が同じく投与される評価時点に関しては、注射前に試料を採取した。滑液の液体試料を、これらの時点で収集した。これらの試料は、関節内注射手技の一部として、及び注射に使用した針と同じ針を使用し、注射直前に収集した。尿収集に関して、朝2番目の排尿試料を得た。
【0110】
以下の評価を、探索的評価項目として行った:
-本化合物の投与に関連する血清及び尿マーカーにおけるベースラインからの変化。
-治療又は疾患進行に対する反応に関連するベースラインタンパク質マーカー及び/又は遺伝子マーカー(MRI及び/又は質問票により評価した反応)。
【0111】
3.結果
主要評価項目(allcomer)
総大腿脛骨関節(Total femorotibial joint):2年目で、総大腿脛骨関節における軟骨厚みのベースラインからの変化に対する統計学的に有意な治療効果を認めた(
図2参照)。スプリフェルミン/プラセボ100μg群及びスプリフェルミン100μg群の両方は、104週目で、プラセボ群(ベースラインからの平均変化:-0.02mm)と比べ、より大きい改善を示した(ベースラインからの平均変化:各々、+0.02mm及び+0.03mm)(両方の比較に関してp<0.001)。この治療群の差異は、スプリフェルミン/プラセボ100μg群の78週目、及びスプリフェルミン100μg群の52週目に始まった。統計学的有意性は、両群において104週間を通じて維持された。プラセボ群は、104週目までのいずれの来院時にも、ベースラインからの改善を示さなかった。スプリフェルミン/プラセボ100μg群及びスプリフェルミン100μg群における、プラセボ群と比べて、増大した軟骨厚みに関して、全体的に(全ての週間)、統計学的有意差が存在した(各々、p=0.002及びp<0.001)。ANCOVAモデルは、治療(p<0.001)、週数(p<0.001)、治療*週数(p=0.029)、及びプールデータのある国(p=0.009)に関して統計学的に有意であった。
【0112】
総大腿脛骨関節内の軟骨容積:総大腿脛骨関節内の軟骨容積において、ベースラインからの変化に対する、統計学的に有意な治療効果が存在する(
図3;p<0.001)。スプリフェルミン/プラセボ100μg群及びスプリフェルミン100μg群は、プラセボ群と比較してより大きい改善を示した。プラセボと比較したスプリフェルミン100μgの統計学的有意性は、78週目に始まり、104週間を通じて持続され;スプリフェルミン/プラセボ100μgのプラセボと比較した、統計学的有意性は、26週目に明らかであり、且つ78週目から104週目まで持続された。104週目までのベースラインからの平均変化は、スプリフェルミン/プラセボ30μg群、スプリフェルミン30μg群、スプリフェルミン/プラセボ100μg群、及びスプリフェルミン100μg群において、各々、-28.2μL、+9.5μL、+96.6μL(p<0.001)、及び+116.5μL(p<0.001)であり、プラセボ群において-55.5μLであった。プールデータのある国に関して統計学的に有意な効果が存在した(p=0.011)。
【0113】
探索的評価項目(バイオマーカー統計):薬力学(PD)/バイオマーカー分析の総括的目的は、以下である:
-プラセボに対し、症状の転帰を改善しながら(WOMAC総スコア及びWOMAC疼痛指数スコア)、正の構造的転帰を維持する患者(スプリフェルミン、対、プラセボによる、MRI総軟骨厚みにおける差異に基づく)の確定のための予測バイオマーカー(複数可)の同定、
-AIRなどの安全性パラメータに関する、予測バイオマーカー(複数可)の同定、
-可能性のある予測バイオマーカーとしての機能性バイオマーカーの特徴決定、及び可能性のある予測カットオフ値の評価、
-可能性のある予後バイオマーカーの同定(プラセボ群のみ)、
-PDバイオマーカーとしての生化学バイオマーカー(例えば、ProC2及びCTX-II)の評価。
【0114】
階層化及び総大腿脛骨関節における軟骨厚み:総大腿脛骨関節における軟骨厚みのベースラインからの変化は、104週目に、バイオマーカー亜群間で以下の注目すべき差異を示した。ベースラインで軟骨代謝のバイオマーカー(proC2およびCTX-II)のレベルが低い対象は、軟骨代謝のバイオマーカーのレベルが高い対象と比較して、スプリフェルミン(プラセボ対)による104週間の治療後に総軟骨厚みが改善された結果を示した。この異なる反応は、主にプラセボ反応が異なることによる(
図4および5)。驚くべきことに、結果は、代謝の高い軟骨細胞(高いproC2及び/又は高いCTX-II)は、スプリフェルミンなどの同化療法に対する反応が一貫しないことを示す。
【0115】
階層化及びWOMAC総スコア:WOMAC総スコアにおけるベースラインからの変化は、104週目に、バイオマーカー亜群間で以下の注目すべき差異を示した。ベースライン時より軟骨代謝のマーカー(proC2及びCTX-II)のレベルが低い対象は、プラセボを投与した対象又は高いレベルの軟骨代謝のバイオマーカーを有する対象と比較して、スプリフェルミンによる104週間の治療後、WOMAC総スコアが改善された結果を示した(
図6及び7)。これらの結果は驚くべきことに、より代謝が低い(低proC2及び/又は低CTX-II)関節は、軟骨厚みに関するスプリフェルミンなどの同化療法に対する反応が良好であるのみではなく、WOMAC総スコアに対しても正の影響も奏することを示している。
【0116】
【0117】
(略語)
OA=変形性関節症
CI=信頼区間
DBPC=二重盲検プラセボ対照
CTX-II=II型コラーゲン架橋C-テロペプチド
ICOAP=間欠的及び持続的変形性関節症疼痛の測定
ITT=治療意図に基づく
KOOS Symptom Index=膝損傷及び変形性関節症転帰スコアの症状指数
KOOS QOL=膝損傷及び変形性関節症転帰スコアの生活の質
LOCF=フォワードに実行された最終観察
LFTC=側面大腿脛骨区画
MFTC=内側大腿脛骨区画
mITT=改変された治療意図に基づく
MOS SF-36=医学的転帰試験ショートフォーム-36健康状態調査
MRI=磁気共鳴画像法
NRS pain score=数値化スケールの疼痛スコア
PGA=患者の総括的評価
PGIC=患者の変化の総括的印象
PK=薬物動態
PROC2=II型コラーゲンプロペプチドのネオエピトープ
W=週
WOMAC=ウェスタンオンタリオ大学・マクマスター大学変形性関節症指数。