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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010529
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】セレンの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 19/02 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
C01B19/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111911
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 学
(57)【要約】
【課題】亜セレン酸とルテニウムを含む酸性水溶液から、セレンの沈殿回収時にルテニウムの混入を良好に抑制してセレンを回収する方法を提供する。
【解決手段】亜セレン酸とルテニウムを含む酸性水溶液にジメチルスルホキシドを添加し、酸性水溶液を液温65℃以上に加温して還元剤を添加してセレンを沈殿させ、還元を停止した後、沈殿したセレンを回収する、セレンの回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜セレン酸とルテニウムを含む酸性水溶液にジメチルスルホキシドを添加し、前記酸性水溶液を液温65℃以上に加温して還元剤を添加してセレンを沈殿させ、還元を停止した後、前記沈殿したセレンを回収する、セレンの回収方法。
【請求項2】
前記酸性水溶液のセレン濃度が0.002g/L以下に達する前に前記還元を停止して、前記沈殿したセレンを回収する、請求項1に記載のセレンの回収方法。
【請求項3】
前記酸性水溶液のセレン濃度が0.5g/L以下に達する前に前記還元を停止して、前記沈殿したセレンを回収する、請求項1に記載のセレンの回収方法。
【請求項4】
前記還元を停止するときの前記酸性水溶液中のルテニウム/セレンの質量濃度比が70以下である、請求項1に記載のセレンの回収方法。
【請求項5】
前記ジメチルスルホキシドは前記酸性水溶液1Lに対して1~20mL添加する、請求項1に記載のセレンの回収方法。
【請求項6】
前記ジメチルスルホキシドを添加する前の前記酸性水溶液に、ルテニウムが100~500mg/L含まれている、請求項1に記載のセレンの回収方法。
【請求項7】
前記還元剤が、二酸化硫黄である、請求項1に記載のセレンの回収方法。
【請求項8】
前記還元剤が、チオ硫酸イオン、チオ尿素、アセトン、または、セレンより卑な金属である、請求項1に記載のセレンの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセレンの回収方法に関し、特に、セレンとルテニウムを含む酸性水溶液からセレンを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンはカルコゲン元素に属し、各種ガラス産業や光学機器に利用されている。ルテニウムは触媒や各種合金の微量添加剤として利用されている金属である。両元素の単体は、ほとんどが銅乾式製錬の副産物であるか、もしくはその製錬中間物を原料として生産されている。
【0003】
銅乾式製錬では、銅精鉱を熔解し、転炉、精製炉で純度99%以上の粗銅とした後に電解精製工程において純度99.99%以上の電気銅を生産する。銅以外の有価物は電解精製時にスライムとして沈殿する。
【0004】
このスライムには、金、銀、白金、パラジウムのほかにもルテニウムやロジウム、イリジウムといった希少金属、銅精鉱に含まれているセレンやテルルが同時に濃縮される。銅製錬副産物としてこれらの元素は個別に分離・回収される。
【0005】
このスライムの処理には、湿式製錬法が適用される場合が多い。例えば特許文献1においては、当該スライムを塩酸-過酸化水素で処理することで銀を回収している。ここで溶解した金は、溶媒抽出により回収した後に、その他の有価物を二酸化硫黄で順次還元回収されている。
【0006】
また、特許文献2には同様の方法で金銀を回収した後、二酸化硫黄で有価物を還元して沈殿せしめ、セレンのみを蒸留して除去して貴金属類を濃縮する方法が開示されている。
【0007】
貴金属を回収した後の溶液にはテルル、セレン等の有価物が含まれており、これら有価物を回収することが必要である。当該有価物の回収方法としては、さらに還元剤の添加により生じた沈殿を回収する方法が知られる。
【0008】
とりわけ、特許文献1に開示されているように、二酸化硫黄により生じた沈殿を回収する方法は、コストや製造規模の面で利点が多い。加えて、各元素が順次沈殿することから、分離精製にも効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-316735号公報
【特許文献2】特開2004-190134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
セレンは銅製錬の副生物として回収されるため、二酸化硫黄もしくは亜硫酸塩による還元回収時に他元素が不純物として混入する。その代表的な元素はルテニウムとテルルである。セレンを還元してその沈殿を回収する工程では、その原料液に100~500mg/L程度のルテニウムが含まれている。
【0011】
一般的に、セレン回収工程では二酸化硫黄を長時間吹き込むが、その時ルテニウムの一部がセレンと共に沈殿する。沈殿したセレンは蒸留されてさらに純度が高まる。この時にセレンと一緒に蒸留釜に持ち込まれたルテニウムは、気化せず蒸留釜中に残留する。
【0012】
セレン回収工程の沈殿物中のルテニウム含有量は、セレンと比べて微量ではあるが、繰り返し蒸留工程にチャージされるため、蒸留釜内に徐々にルテニウムが蒸留残渣として蓄積していく。蒸留釜内の残留ルテニウム量が増えてくると、単位操作当たりの処理量を圧迫したり、蒸留釜の熱伝導性を下げる問題が生じる。そのため、定期的にセレンの蒸留釜は内部を清掃しなければならないが、清掃期間はセレンの蒸留が停止することになり、製造効率が低下する。また、蒸留釜の清掃で回収されるセレン蒸留残渣には、ルテニウムが濃縮されており、別途処理して有価物として精製する必要がある。このため、セレンの沈殿回収時にルテニウムの混入を抑制し、セレン回収後液に分配させて然るべきルテニウム回収工程で処理することができれば、セレンの製造効率が向上する。
【0013】
本発明はこのような従来の事情を鑑み、亜セレン酸とルテニウムを含む酸性水溶液から、セレンの沈殿回収時にルテニウムの混入を良好に抑制してセレンを回収する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、亜セレン酸とルテニウムを含む酸性水溶液にジメチルスルホキシドを添加し、酸性水溶液を液温65℃以上に加温して還元剤を添加してセレンを沈殿させることで、セレンの沈殿回収時にルテニウムの混入を良好に抑制してセレンを回収することができることを見出した。本発明はかかる知見により完成されたものである。
【0015】
すなわち本発明は以下の発明を包含する。
(1)亜セレン酸とルテニウムを含む酸性水溶液にジメチルスルホキシドを添加し、前記酸性水溶液を液温65℃以上に加温して還元剤を添加してセレンを沈殿させ、還元を停止した後、前記沈殿したセレンを回収する、セレンの回収方法。
(2)前記酸性水溶液のセレン濃度が0.002g/L以下に達する前に前記還元を停止して、前記沈殿したセレンを回収する、前記(1)に記載のセレンの回収方法。
(3)前記酸性水溶液のセレン濃度が0.5g/L以下に達する前に前記還元を停止して、前記沈殿したセレンを回収する、前記(1)に記載のセレンの回収方法。
(4)前記還元を停止するときの前記酸性水溶液中のルテニウム/セレンの質量濃度比が70以下である、前記(1)~(3)のいずれかに記載のセレンの回収方法。
(5)前記ジメチルスルホキシドは前記酸性水溶液1Lに対して1~20mL添加する、前記(1)~(4)のいずれかに記載のセレンの回収方法。
(6)前記ジメチルスルホキシドを添加する前の前記酸性水溶液に、ルテニウムが100~500mg/L含まれている、前記(1)~(5)のいずれかに記載のセレンの回収方法。
(7)前記還元剤が、二酸化硫黄である、前記(1)~(6)のいずれかに記載のセレンの回収方法。
(8)前記還元剤が、チオ硫酸イオン、チオ尿素、アセトン、または、セレンより卑な金属である、前記(1)~(6)のいずれかに記載のセレンの回収方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、亜セレン酸とルテニウムを含む酸性水溶液から、セレンの沈殿回収時にルテニウムの混入を良好に抑制してセレンを回収する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明を実施するための形態を詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0018】
非鉄金属製錬、とりわけ銅製錬の電解精製工程で生じる電解スライムはカルコゲン元素と貴金属を多く含む。当該電解スライムは、一例を示すと、金を10~30kg/t、銀を100~250kg/t、パラジウムを1~3kg/t、ルテニウムを800~3000g/t、セレンを5~15質量%程度含有する。
【0019】
塩酸と過酸化水素を添加してこの電解スライムを溶解すると銅電解殿物の溶解液になるが、銀は溶解直後に塩化物イオンと不溶性の塩化銀沈殿を形成する。酸化剤と塩素を含む溶液、例えば王水や塩素水であれば貴金属類は溶解して銀を塩化銀として分離できる。塩化物浴であるため浸出貴液(PLS)には貴金属元素、希少金属元素、セレン、テルルが分配する。セレンは、当該酸性水溶液中にセレンオキソニウムとして含まれるが大部分は亜セレン酸である。
【0020】
貴金属類は溶媒抽出や酸化還元電位差を利用して回収する。貴金属類を除いた後の酸性水溶液は、一例として、セレンを25~40g/L、ルテニウムを100~500mg/L含む。この酸性水溶液に、還元剤を添加してセレンを回収する。当該還元剤としては、二酸化硫黄を使用することができる。二酸化硫黄は製錬排ガスとして得ることができ、還元剤として好適である。還元剤としては、二酸化硫黄の他にも、後述の強力な還元剤を用いてもよい。
【0021】
反応器の大きさや二酸化硫黄供給量にもよるがセレンの還元には15m3の原料液で8~10時間程度を要する。他元素と比べてセレンが圧倒的高濃度で存在するので沈殿物の98質量%以上はセレンである。とはいえ、このとき、溶液中のルテニウムの30~50質量%がセレンと共に沈殿してしまう。本工程での沈殿物中のルテニウム品位は0.2質量%程度に相当する。そのため、沈殿物を蒸留するセレン蒸留釜に持ち込まれるルテニウム量も無視できない。
【0022】
セレンと共に沈殿するルテニウム量を抑制するために、ジメチルスルホキシド(DMSO)を添加する。DMSOは硫黄原子の不対電子、もしくは負に大きく分極した酸素原子がルテニウム(II)と相互作用し、その配位結合力は亜硫酸と比べて強い。さらにルテニウムにDMSOが配位すると第一配位圏の立体障害が大きくなり、還元剤である亜硫酸イオンの接近を困難にする。亜硫酸イオンのルテニウム(II)への接近が阻害されると、還元剤である亜硫酸はルテニウムではなく大過剰に存在する亜セレン酸と反応する確率が上昇する。二酸化硫黄もしくは亜硫酸イオンが立体障害の影響を最も受けるが、他の還元剤でセレンを還元する場合においても立体障害により、ルテニウムの還元沈殿が良好に抑制され、沈殿物へのルテニウム混入防止に効力を発揮する。特に、ジメチルスルホキシドを添加する前の酸性水溶液中のルテニウム濃度が低濃度であるとき、有効である。ルテニウム濃度が高い場合には、そのまま臭素酸ナトリウムを添加して蒸留する等、従来用いられている別のルテニウム回収技術を用いることも可能であるが、ルテニウムが低濃度の場合には従来の方法ではコスト的に見合う方法はないためである。本発明の場合、ルテニウム濃度が100~500mg/Lという低濃度であっても、ルテニウムの還元沈殿を良好に抑制することができる。
【0023】
ルテニウムの還元沈殿が良好に抑制されることについては、上述の立体障害が主たる要因ではあるが、DMSOの間接的なルテニウムの安定化も要因である。DMSOは還元剤によりジメチルスルフィドに還元される。ルテニウムイオンの第一配位圏にあるDMSOは、ルテニウムより還元剤や電子の接近を受けやすいため、ルテニウムより先に犠牲的に還元される。還元後のDMSOはジメチルスルフィドとなり、揮散するためセレンを汚染しない。特にアセトンのような強力な還元剤を用いる場合は、このようなDMSOの間接的なルテニウムの安定化がルテニウムの還元沈殿の抑制の主要因である。この強力な還元剤としては、亜セレン酸の還元に有効かつルテニウムの一部を還元する物質であり、例えば、チオ硫酸イオン、チオ尿素、水溶性のアルデヒド類、アセトンなどの水溶性のケトン類、セレンより卑な金属等が挙げられる。なかでもセレンより卑な金属を還元剤として用いると、還元反応効率の面で最も好ましい。セレンより卑な金属は、鉄、銅、及び、銅被覆鉄のいずれか一種以上が挙げられる。
【0024】
酸性水溶液にジメチルスルホキシドを添加した後、酸性水溶液を液温65℃以上に加温して上述の還元剤を添加する。酸性水溶液の液温が65℃未満では、セレンが赤色セレンもしくは粘着性の無定形セレンとして沈殿することが知られる。これらの形態のセレンでは、蒸留前に脱水もしくは、周辺設備に固着してこれを剥離することが必要になる。これに対し、酸性水溶液を液温65℃以上に加温して上述の還元剤を添加することで、セレンを黒色セレンとして回収することができる。
【0025】
セレンの還元が進行するに伴い、液中の亜セレン酸濃度が低下する。するとDMSOが配位しているルテニウム錯体でも還元剤と遭遇しやすくなり、還元を受ける確率が上昇する。還元後の沈殿物においてルテニウムの混入を抑えるには、ある程度の亜セレン酸が液中に存在していることが好ましい。このような観点から、酸性水溶液のセレン濃度が0.002g/L以下に達する前に還元を停止して、沈殿したセレンを回収することが好ましい。また、亜セレン酸をセレンに還元する時、溶液中の亜セレン酸はセレンに換算して0.05g/L以下では還元速度すなわち還元剤を酸化する速度が低下する。ルテニウムが還元される確率を低減するためより好ましくはセレン濃度が0.05g/L以下に達する前に還元を停止する。また、酸性水溶液のセレン濃度が0.5g/L以下に達する前に還元を停止するのがより好ましく、3~5g/L以下に達する前に還元を停止するのが更により好ましい。
【0026】
還元を停止するときの酸性水溶液中のルテニウム/セレンの質量濃度比(mg/mg)が70以下であることが好ましい。還元を停止するときの酸性水溶液中のルテニウム/セレンの質量濃度比が70を超えると、ルテニウムの還元が生じはじめるおそれがある。還元を停止するときの酸性水溶液中のルテニウム/セレンの質量濃度比は、55以下であるのがより好ましく、35以下であるのが更により好ましい。
【0027】
DMSOの添加量は、酸性水溶液1Lに対して1~20mLが好ましい。DMSOの添加量が酸性水溶液1Lに対して20mLを超えると、CODの上昇やDMSO分解物であるジメチルスルフィドの臭気の問題が顕著になるおそれがある。DMSOの添加量が酸性水溶液1Lに対して1mL未満であると、ルテニウムの還元防止効果が低下するおそれがある。DMSOの添加量は、酸性水溶液1Lに対して5~10mLであるのがより好ましい。
【0028】
上述のように還元剤を添加してセレンを沈殿させ、還元を停止した後、沈殿したセレンを回収する。このとき、還元処理後に沈殿したセレン含有物は、フィルタープレス等により固液分離する。対象液の組成によるが、回収したセレン含有物はイリジウム等の有価金属も含まれる場合は製錬原料として利用される。また、回収された後のセレンは、さらに蒸留することで純度を上げることができる。
【実施例0029】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0030】
<処理対象液(亜セレン酸とルテニウムを含む酸性水溶液)の調製>
銅製錬から回収された電解スライムを硫酸により浸出し銅を除いた。濃塩酸と60質量%過酸化水素水を添加して溶解し、固液分離して浸出貴液(Pregnant Leached Solution、以下PLSともいう)を得た。
溶媒抽出により金を除いた後のPLSを撹拌しながら加温し、70℃に達したところで二酸化硫黄と空気の混合ガス(二酸化硫黄濃度5~20体積%)を0.1L/分で吹き込んだ。白金とパラジウムの濃度がいずれも5mg/L以下になったことを確認し、生じた沈殿を酸性水溶液から分離した。当該沈殿を分離した後の酸性水溶液(処理対象液)は亜セレン酸とルテニウムとを含み、当該酸性水溶液中のセレン濃度は34g/L、ルテニウム濃度は140mg/Lであった。
【0031】
(試験例1)
上記処理対象液を300mL分取し、その温度を70~75℃に調節し、DMSOを0~5mL添加して撹拌した後、二酸化硫黄と空気の混合ガスを吹き込んで還元した。その後、一定時間(120分後、150分後)ごとにサンプルを分取した。蒸発で減った水分量は純水を適宜補充した。210分後に濾別して沈殿物を除去した。ろ液は75℃に再加熱し、表面を銅で被覆した鉄粉(銅含入率70質量%)2gを添加して30分撹拌してセメンテーション(金属置換)に供した。
セメンテーション後の採取サンプルは5Cのろ紙で固液分離した。ろ液は希塩酸で25倍希釈してICP-OES(セイコー社製SPS-3100)によりイットリウムを内部標準として各種成分濃度を測定した。溶液の増減の影響を排除するため銅の濃度でルテニウム濃度を補正した。銅の初期濃度は0.64g/Lであった。ここで、銅は沈殿しないため、銅の濃度から濃縮率を算出してその比率を実測値に掛けることで、当該ルテニウム濃度の補正を行った。結果を表1に示す。なお、表1において、「ND」は検出限界未満の濃度であることを示す。また、「-」はセレン濃度がゼロのため、定義不能であることを示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1の結果から、DMSOの添加量が0.5mL以上でセメンテーション後のルテニウム濃度は高くなったことが分かる。DMSOの添加量との間に正の相関がみられるため、1.5mL/L以上のDMSOの添加でルテニウムの還元が抑制されていることは明らかである。
【0034】
さらに210分経過後のルテニウムの濃度を見ると、1mL以上のDMSOの添加でより強く影響を受けていることが分かる。210分経過後のDMSOの0.5mL添加系では、DMSOの無添加の系よりルテニウム濃度が低いが、これはセレン消失後の二酸化硫黄吹き込み時間が長いことが原因である。また、DMSOを0.5mL添加したときの150分後の結果を見ると、セレンは0.002g/Lまで還元されている一方、ルテニウムは120mg/Lとほとんど還元されていないことがわかる。このため、酸性水溶液中、セレン濃度0.002g/Lまではルテニウムの還元抑制効果があることが分かる。
【0035】
ルテニウムは、酸性水溶液中のセレン濃度が著しく低下すると還元を受け始める。DMSOの添加量にも影響を受けるが、酸性水溶液中のルテニウム/セレンの重量比が70以上ではルテニウムの還元が生じるおそれがあると予想される。
【0036】
(試験例2)
試験例1と同じ処理対象液を200mL分取し、70~75℃に加熱した。DMSOの添加量は、2mL、1mL、または無添加とした。次に、アセトンを水で5倍希釈した液を2mL添加し、液温を70~75℃に保持して撹拌した。続いて、30分ごとに5倍希釈したアセトンを2mL添加した。当該5倍希釈したアセトンの添加量が16mLに達した(3.5時間)後、さらに30分間撹拌した。次に、加熱を停止し、沈殿したセレンを濾別した。ろ液は再度60~65℃に加熱して過酸化水素水(30質量%)を3mL添加して30分撹拌した。次に、鉄粉を2g添加して30分間撹拌した後、濾別し、ろ液中のルテニウム濃度を定量した。
試験例1と同様の操作でサンプル液中の各種成分濃度を定量した。結果を表2に示す。アセトン還元後のルテニウムの濃度は、試験例1と同様に銅の濃度で補正した値を記す。
【0037】
【表2】
【0038】
DMSOの添加により還元剤をアセトンに変えてもルテニウムは還元を受け難くなっていることが分かる。そもそもアセトンには還元効果はほとんどないが、アセトンと亜セレン酸が反応して生じるアルデヒド類やピルビン酸に対してもルテニウムを保護したことになる。さらには鉄置換に対してもルテニウムの還元抑制効果を示したことも分かる。
【0039】
アセトン還元において、DMSOは亜セレン酸に対しても阻害効果を示した。亜セレン酸に配位はしないため、亜セレン酸とアセトンが反応して生じる還元性のピルビン酸をDMSOが酸化することが原因と考えられる。DMSOに酸化されたピルビン酸は亜セレン酸の還元に寄与できない。そのため、DMSOを過量に使用するとアセトン還元においてはアセトン添加量の増量を必要とする。このような観点からは、DMSOの添加量は酸性水溶液1Lに対して20mL以下が好ましい。