(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010536
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】水溶液中のリン酸塩の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/02 20060101AFI20240117BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20240117BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
G01N30/02 E
G01N30/88 B
G01N30/72 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111923
(22)【出願日】2022-07-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年1月31日~2月4日、2021年度計量標準総合センター成果発表会のポスター発表プログラムで発表した。 (2)令和3年8月9日、Limnology and Oceanography: Methods、第19巻、第10号、第682~691頁で発行された。
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】チョン 千香子
(72)【発明者】
【氏名】野々瀬 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】三浦 勉
(57)【要約】
【課題】塩分の影響を抑制して高感度で分析できる、水溶液中のリン酸塩の分析方法を提供する。
【解決手段】水溶液中のリン酸塩の分析方法は、イオンクロマトグラフィーによって、リン酸塩および塩分を含む水溶液から塩分を分離して、リン酸塩含有水溶液を得る分離工程と、前記イオンクロマトグラフィーに連結されている誘導結合プラズマ質量分析計に、前記イオンクロマトグラフィーから前記リン酸塩含有水溶液を供給し、前記リン酸塩含有水溶液中のリン酸塩を分析する分析工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンクロマトグラフィーによって、リン酸塩および塩分を含む水溶液から塩分を分離して、リン酸塩含有水溶液を得る分離工程と、
前記イオンクロマトグラフィーに連結されている誘導結合プラズマ質量分析計に、前記イオンクロマトグラフィーから前記リン酸塩含有水溶液を供給し、前記リン酸塩含有水溶液中のリン酸塩を分析する分析工程と、
を有する、水溶液中のリン酸塩の分析方法。
【請求項2】
前記分析工程において、前記イオンクロマトグラフィーから前記誘導結合プラズマ質量分析計に前記リン酸塩含有水溶液を供給する前および後の少なくとも一方に、前記イオンクロマトグラフィーで得られるナトリウム含有水溶液を、前記イオンクロマトグラフィーから前記誘導結合プラズマ質量分析計に供給する、請求項1に記載の水溶液中のリン酸塩の分析方法。
【請求項3】
前記分離工程において、前記イオンクロマトグラフィーと前記誘導結合プラズマ質量分析計との間に設けられる切替バルブによって、前記イオンクロマトグラフィーで得られる塩化物イオン含有水溶液を分離する、請求項1または2に記載の水溶液中のリン酸塩の分析方法。
【請求項4】
前記水溶液には、リン酸塩が5μg/kg以上300mg/kg以下含まれる、請求項1または2に記載の水溶液中のリン酸塩の分析方法。
【請求項5】
前記水溶液は、塩分濃度が3.0%以上である、請求項1または2に記載の水溶液中のリン酸塩の分析方法。
【請求項6】
前記水溶液は、海水である、請求項1または2に記載の水溶液中のリン酸塩の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中のリン酸塩の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沿岸域の産業利用や海底鉱物資源探索にあたり、環境に負荷をかけない開発の指標として、海水や沿岸水などの天然水のモニタリングは必須である。そのうち、栄養塩の一つであるリン酸塩は、生態系への影響が大きいことから、着目されているモニタリング指標の一つとなっている。
【0003】
例えば、海水中のリン酸塩をモニタリングする場合、海水に含まれる塩分は約35g/kgであるのに対し、分析対象であるリン酸塩は0.1μg/kg~300mg/kg程度と極僅かであり、両者の差は非常に大きい。そのため、リン酸塩の分析は、大量に含まれる塩分の影響を大きく受ける。
【0004】
例えば、特許文献1に記載されるような連続流れ分析法では、分析感度は良いものの、塩分の影響を大きく受けるため、分析精度に問題がある。また、特許文献2に記載されるようなイオンクロマトグラフィー分析方法では、塩分の完全分離は可能であるものの、分析感度に難がある。こうしたことから、リン酸塩の分析には、塩分の影響を受けにくく、かつ、数μg/kgオーダーの分析を可能にする感度を有することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-288228号公報
【特許文献2】特開2018-54302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、塩分の影響を抑制して高感度で分析できる、水溶液中のリン酸塩の分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] イオンクロマトグラフィーによって、リン酸塩および塩分を含む水溶液から塩分を分離して、リン酸塩含有水溶液を得る分離工程と、前記イオンクロマトグラフィーに連結されている誘導結合プラズマ質量分析計に、前記イオンクロマトグラフィーから前記リン酸塩含有水溶液を供給し、前記リン酸塩含有水溶液中のリン酸塩を分析する分析工程と、を有する、水溶液中のリン酸塩の分析方法。
[2] 前記分析工程において、前記イオンクロマトグラフィーから前記誘導結合プラズマ質量分析計に前記リン酸塩含有水溶液を供給する前および後の少なくとも一方に、前記イオンクロマトグラフィーで得られるナトリウム含有水溶液を、前記イオンクロマトグラフィーから前記誘導結合プラズマ質量分析計に供給する、上記[1]に記載の水溶液中のリン酸塩の分析方法。
[3] 前記分離工程において、前記イオンクロマトグラフィーと前記誘導結合プラズマ質量分析計との間に設けられる切替バルブによって、前記イオンクロマトグラフィーで得られる塩化物イオン含有水溶液を分離する、上記[1]または[2]に記載の水溶液中のリン酸塩の分析方法。
[4] 前記水溶液には、リン酸塩が5μg/kg以上300mg/kg以下含まれる、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の水溶液中のリン酸塩の分析方法。
[5] 前記水溶液は、塩分濃度が3.0%以上である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の水溶液中のリン酸塩の分析方法。
[6] 前記水溶液は、海水である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の水溶液中のリン酸塩の分析方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塩分の影響を抑制して高感度で分析できる、水溶液中のリン酸塩の分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態の水溶液中のリン酸塩の分析方法の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施形態の水溶液中のリン酸塩の分析方法における誘導結合プラズマ質量分析計、および一般的な誘導結合プラズマ質量分析計での、キャリアガス流量とNa係数率との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施形態の水溶液中のリン酸塩の分析方法における誘導結合プラズマ質量分析計でのキャリアガス流量とNa係数率およびP係数率との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施形態の水溶液中のリン酸塩の分析方法におけるイオンクロマトグラフィーでの、塩化物イオンを除去しない水溶液のクロマトグラムである。
【
図5】
図5は、実施形態の水溶液中のリン酸塩の分析方法におけるイオンクロマトグラフィーでの、塩化物イオンを除去した水溶液のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、溶液に含まれる無機成分の分離に優れているイオンクロマトグラフィー、および高感度かつ高選択的な無機成分の検出に優れている誘導結合プラズマ質量分析計を組み合わせることで、塩分の影響を抑制して、高感度でリン酸塩を分析できることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0012】
実施形態の水溶液中のリン酸塩の分析方法は、イオンクロマトグラフィーによって、リン酸塩および塩分を含む水溶液から塩分を分離して、リン酸塩含有水溶液を得る分離工程と、イオンクロマトグラフィーに連結されている誘導結合プラズマ質量分析計に、イオンクロマトグラフィーからリン酸塩含有水溶液を供給し、リン酸塩含有水溶液中のリン酸塩を分析する分析工程と、を有する。
【0013】
図1は、実施形態の水溶液中のリン酸塩の分析方法の一例を示す概略図である。
【0014】
実施形態の水溶液中のリン酸塩の分析方法(以下、単にリン酸塩の分析方法ともいう)は、分離工程と分析工程とを有する。
【0015】
分離工程では、イオンクロマトグラフィーによって、リン酸塩および塩分を含む水溶液(以下、単に水溶液ともいう)から塩分を分離して、リン酸塩含有水溶液を得る。
【0016】
例えば、
図1に示すように、イオンクロマトグラフィー1では、ポンプ11を用いて、溶離液10と共にインジェクター12から注入された水溶液がカラム部15に供給される。分析対象試料である水溶液は、少なくともリン酸塩および塩分を含む。例えば、水溶液には、リン酸塩が5μg/kg以上300mg/kg以下含まれる。
【0017】
カラム部15は、ガードカラム13および分離カラム14を備え、オーブン16内に設けられる。カラム部15内のガードカラム13および分離カラム14を通過した水溶液はサプレッサー17に供給された後、六方バルブなどの切替バルブ18によって、塩分を含む水溶液(以下、塩分含有水溶液ともいう)が分離される。
【0018】
水溶液から塩分を分離することで得られるリン酸塩含有水溶液は、イオンクロマトグラフィー1に連結されている誘導結合プラズマ質量分析計2に供給される。誘導結合プラズマ質量分析計2は、例えば高分解能型の誘導結合プラズマ質量分析計である。また、塩分含有水溶液は、系外に排出される。
【0019】
このように、水溶液に含まれる塩分がイオンクロマトグラフィー1によって分離される。そのため、誘導結合プラズマ質量分析計2に供給されるリン酸塩含有水溶液中の塩分濃度は、誘導結合プラズマ質量分析計2で実施されるリン酸塩分析の影響を受けにくい程度の濃度であり、水溶液中の塩分濃度に比べて非常に低い。
【0020】
分離工程の後に実施される分析工程では、イオンクロマトグラフィー1から誘導結合プラズマ質量分析計2にリン酸塩含有水溶液を供給し、誘導結合プラズマ質量分析計2でリン酸塩含有水溶液中のリン酸塩を分析する。
【0021】
例えば、
図1に示すように、分離工程で得られたリン酸塩含有水溶液は、イオンクロマトグラフィー1から誘導結合プラズマ質量分析計2のネブライザー(噴霧器)19に供給される。リン酸塩含有水溶液は、ネブライザー19によってスプレーチャンバー20へ噴霧され、霧状のエアロゾルになる。エアロゾルは、スプレーチャンバー20で粒径選別され、選別されたエアロゾルの一部はICPトーチ21に搬送され、残りは系外に排出される。
【0022】
ICPトーチ21において、アルゴンプラズマ中で生成されたイオンは、サンプリングコーン22を経由し、後段のスキマーコーン23によってスキミングされ、その後に質量分析計24に導かれる。こうして、リン酸塩含有水溶液中のリン酸塩を分析できる。また、ブースターポンプなどの荒引ポンプ25によって、系内を排気する。
【0023】
このように、誘導結合プラズマ質量分析計2に供給されるリン酸塩含有水溶液中の塩分濃度は、イオンクロマトグラフィー1による水溶液からの塩分分離によって、誘導結合プラズマ質量分析計2で実施されるリン酸塩分析の影響を受けにくい程度に低減される。そして、誘導結合プラズマ質量分析計2においてリン酸塩含有水溶液のリン酸塩分析を行うことによって、塩分の影響を抑制して高感度でリン酸塩を分析することができる。
【0024】
実施形態のリン酸塩の分析方法は、上記のように、塩分の影響を抑制してリン酸塩を高感度に分析できることから、水溶液は、河川水、沿岸水、海水のような塩分濃度の異なる天然水であることが好適であり、そのなかでも、海水であることがより好適である。また、水溶液は、塩分濃度が3.0%以上であってもよい。
【0025】
また、分析工程において、イオンクロマトグラフィー1から誘導結合プラズマ質量分析計2にリン酸塩含有水溶液を供給する前および後の少なくとも一方に、イオンクロマトグラフィー1で得られるナトリウム含有水溶液を、イオンクロマトグラフィー1から誘導結合プラズマ質量分析計2に供給することが好ましい。すなわち、ナトリウム含有水溶液を誘導結合プラズマ質量分析計2のチューニング溶液として用いることが好ましい。
【0026】
ここで、本発明者らは、誘導結合プラズマ質量分析計2のチューニング溶液について以下のように検討した。
【0027】
一般的に、誘導結合プラズマ質量分析計で分析感度の最適化を行う場合、複数元素が既知濃度含まれるチューニング溶液を誘導結合プラズマ質量分析計に対して連続的に導入し、Li(軽質量数)、In(中質量数)、U(重質量数)のシグナルの増減をモニターしながら、プラズマトーチ位置、キャリアガス流量などのパラメータを調整して、係数率が最大となる値を選択する。
【0028】
図2は、実施形態の水溶液中のリン酸塩の分析方法における誘導結合プラズマ質量分析計、および一般的な誘導結合プラズマ質量分析計での、キャリアガス流量とNa係数率との関係を示すグラフである。実施形態のリン酸塩の分析方法では、イオンクロマトグラフィー1に直結している誘導結合プラズマ質量分析計2を用い、一般的な誘導結合プラズマ質量分析では、イオンクロマトグラフィー1に直結していない誘導結合プラズマ質量分析計を用いている。
【0029】
図2に示すように、一般的な誘導結合プラズマ質量分析計と比較し、誘導結合プラズマ質量分析計2では、係数率が最大となるキャリアガス流量は、低流量側へシフトした。すなわち、誘導結合プラズマ質量分析計2での最適値は、一般的な誘導結合プラズマ質量分析計と異なることがわかる。この結果は、誘導結合プラズマ質量分析計2としての感度最適化が必要であることを示している。
【0030】
しかしながら、実施形態のリン酸塩の分析方法では、
図1に示すように、イオンクロマトグラフィー1の後段に誘導結合プラズマ質量分析計2が連結されていることから、誘導結合プラズマ質量分析計2への溶液導入部は、イオンクロマトグラフィー1で塞がれている。そのため、一般的に行われているチューニング溶液の連続導入は、誘導結合プラズマ質量分析計2には実施できない。
【0031】
こうした知見を基に、イオンクロマトグラフィー1に直結している誘導結合プラズマ質量分析計2の感度最適化のために、通常は分析の妨害元素として排出対象となるNa、ここではイオンクロマトグラフィー1の溶離液10中のNaを利用して、誘導結合プラズマ質量分析計2のパラメータを調整することを考えた。
【0032】
イオンクロマトグラフィー1では、分析対象試料である水溶液をインジェクター12からカラム部15内に導入する際に、系内に連続的に流している溶離液10の流れを利用する。溶離液10はポンプ11によりイオンクロマトグラフィー1から誘導結合プラズマ質量分析計2へ常に連続導入されているため、溶離液成分でかつ分析対象であるP(リン酸塩)と質量数が近いものが誘導結合プラズマ質量分析計2の感度の指標になると考えた。また、実施形態のリン酸塩の分析方法で用いる溶離液10はNaを含有している。そこで、溶離液中のNaを誘導結合プラズマ質量分析計2のチューニングに利用することを発想した。
【0033】
ここで、Naは、大気環境中にも多量に含まれる成分であるため、分析妨害元素として知られている。さらには、イオンクロマトグラフィー1から誘導結合プラズマ質量分析計2に連続導入することからも、Naは、分析やモニターの対象ではなく、いかに分析対象試料から排出するかという観点で見られる元素である、ということが技術常識である。このように、Naを利用して誘導結合プラズマ質量分析計2の感度調整を行う発想は、一般的な技術常識とかけ離れている。
【0034】
また、誘導結合プラズマ質量分析計2のチューニングに溶離液中のNaを利用する点、および分析対象試料である塩分を含む水溶液からリン酸(陰イオン)を分離する点から、イオンクロマトグラフィー1のカラム部15は炭酸系の陰イオン交換カラムであることが好ましく、イオンクロマトグラフィー1の溶離液10は炭酸系溶離液(Na2CO3水溶液+NaHCO3水溶液の混合液)であることが好ましい。
【0035】
図3は、実施形態の水溶液中のリン酸塩の分析方法における誘導結合プラズマ質量分析計でのキャリアガス流量とNa係数率およびP係数率との関係を示すグラフである。
図3に示すように、キャリアガス流量に対するPとNaの係数率増減を誘導結合プラズマ質量分析計2で調べた結果、傾向は一致した。
【0036】
この結果から、分析対象であるリン酸塩の感度最適化には、イオンクロマトグラフィー1から排出される溶離液中のNa、すなわちイオンクロマトグラフィー1で生成されるナトリウム含有水溶液を誘導結合プラズマ質量分析計2のチューニング溶液として使用できることがわかった。
【0037】
また、分離工程において、イオンクロマトグラフィー1と誘導結合プラズマ質量分析計2との間に設けられる切替バルブ18によって、イオンクロマトグラフィー1で得られる塩化物イオン含有水溶液を分離することが好ましい。すなわち、塩化物イオン含有水溶液は、切替バルブ18によって誘導結合プラズマ質量分析計2に供給しないことが好ましい。
【0038】
ここで、本発明者らは、誘導結合プラズマ質量分析計2への塩化物イオン含有水溶液の供給有無について以下のように検討した。
【0039】
図4は、実施形態の水溶液中のリン酸塩の分析方法におけるイオンクロマトグラフィーでの、塩化物イオンを除去しない水溶液のクロマトグラムである。
図4に示すように、イオンクロマトグラフィー1から排出される水溶液を陰イオン交換カラムに通すと、塩化物イオンが時間順で最初のピークとして現れた。そして、塩化物イオンの巨大ピークがほぼ収束した後に、リン酸塩の小さなピークが現れた。
【0040】
図5は、実施形態の水溶液中のリン酸塩の分析方法におけるイオンクロマトグラフィーでの、塩化物イオンを除去した水溶液のクロマトグラムである。塩化物イオンの巨大ピークの影響を排除するために、イオンクロマトグラフィー1と誘導結合プラズマ質量分析計2との連結部分に設けられる切替バルブ18の切替えによって、イオンクロマトグラフィー1から排出される塩化物溶出部分の溶液を除去し、その後の溶液のみを陰イオン交換カラムに通すと、
図5に示すように、塩化物イオンの巨大ピークは現れず、リン酸塩のピークのみが現れた。
【0041】
また、切替バルブの切替え有無によるリン酸塩分析の感度を比較した。具体的には、切替バルブを切替えて塩化物イオンを除去したリン酸塩含有水溶液、および切替バルブを切替えないで塩化物イオンを除去しなかったリン酸塩含有水溶液について、誘導結合プラズマ質量分析計2でリン酸塩を8回分析した結果を表1に示す。
【0042】
【0043】
表1に示すように、切替バルブを切替えて塩化物イオンを除去したサンプルでは、切替バルブを切替えないでイオンクロマトグラフィーからの溶液を誘導結合プラズマ質量分析計に全て導入したサンプルと比べて、5%程度の感度向上を確認できた。また、シグナルの繰り返し性についても、0.5%以上の向上を確認できた。また、切替バルブを切替えないでイオンクロマトグラフィーからの溶液を全て導入したサンプルの結果から、分析時間が長くなるほど、換言すると分析回数が多くなるほど、塩化物イオンが誘導結合プラズマ質量分析計内に付着したことに起因するメモリ効果が現れたため、感度や繰り返し性の違いは大きくなると考えられる。
【0044】
このように、切替バルブ18の切替えによって、水溶液を分析する際の妨害となる多量の塩化物イオンの排除、すなわちイオンクロマトグラフィー1で生成される塩化物イオン含有水溶液を誘導結合プラズマ質量分析計2に供給せずに分析系外へ排除することによって、リン酸塩の分析感度およびシグナルの繰り返し性が向上できることがわかった。
【0045】
以上説明した実施形態によれば、溶液に含まれる無機成分の分離に優れているイオンクロマトグラフィー、および高感度かつ高選択的な無機成分の検出に優れている誘導結合プラズマ質量分析計を連結することで、水溶液中の塩分の影響を抑制して、リン酸塩を高感度に分析することができる。このように、塩分の影響を抑制してリン酸塩の分析が可能であることから、塩分の異なる天然水について、同一の指標(検量線)を用いて、同条件で連続的に分析することができる。
【0046】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 イオンクロマトグラフィー
2 誘導結合プラズマ質量分析計
10 溶離液
11 ポンプ
12 インジェクター
13 ガードカラム
14 分離カラム
15 カラム部
16 オーブン
17 サプレッサー
18 切替バルブ
19 ネブライザー
20 スプレーチャンバー
21 ICPトーチ
22 サンプリングコーン
23 スキマーコーン
24 質量分析計
25 荒引ポンプ