(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010596
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ガスセンサおよびセンサデバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
G01N27/12 C
G01N27/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112025
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】崔 弼圭
(72)【発明者】
【氏名】増田 佳丈
(72)【発明者】
【氏名】江間 巧馬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 誠一
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA26
2G046BA08
2G046BA09
2G046EA02
2G046EA04
2G046FB02
2G046FE39
(57)【要約】
【課題】ガスセンサにおける応答特性を良好にする。
【解決手段】酸化スズを含む第1層と、前記第1層の面上に形成され、酸化セリウム粒子を含む第2層とを含むガス感応層を具備し、前記酸化セリウム粒子の表面は、{100}面であるガスセンサ。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化スズを含む第1層と、
前記第1層の面上に形成され、酸化セリウム粒子を含む第2層とを含むガス感応層を具備し、
前記酸化セリウム粒子の表面は、{100}面である
ガスセンサ。
【請求項2】
前記酸化スズは、ナノシート状である
請求項1のガスセンサ。
【請求項3】
半導体式のガスセンサである
請求項1のガスセンサ。
【請求項4】
前記酸化セリウム粒子の平均一次粒子径は、3~100nmである
請求項1のガスセンサ。
【請求項5】
前記ガス感応層にそれぞれ異なる位置で接続される第1電極および第2電極を具備する
請求項1のガスセンサ。
【請求項6】
請求項5のガスセンサと、
前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流に応じて、検出対象となるガスの存在を検知する検知部とを具備する
センサデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを検知するためのガスセンサおよびガスセンサを用いたセンサデバイスの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスを検知するためのガスセンサに関する各種の技術が従来から提案されている。種々のガスセンサの中でも半導体式ガスセンサは、低濃度ガスの検知において利点を有しているものの、さらなる応答特性の向上が強く求められている。
【0003】
半導体式ガスセンサにおいて、ガスを検知するためのガス感応層として金属酸化物を用いることが広く知られている。半導体式ガスセンサでは、ガス感応層において検知対象となるガスを吸着したときの抵抗値の変化を利用してガスが検知される。
【0004】
ガス感応層として利用する金属酸化物として、種々の材料が検討されている。金属酸化物として酸化スズ(SnO2)を金属酸化物として用いることが広く知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、酸化スズを含む単層でガス感応層を構成した場合の応答特性には改善の余地がある。特に、疾患との関連性があると考えられている生体ガス(例えば呼気や皮膚ガス)中に含まれるガスの検知にガスセンサを利用する場合には、低濃度の領域においても良好な応答特性が望まれている。以上の事情を考慮して、本発明では、応答特性が良好なガスセンサ、および、当該ガスセンサを用いたセンサデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明に係るガスセンサは、酸化スズを含む第1層と、前記第1層の面上に形成され、酸化セリウム粒子を含む第2層とを含むガス感応層を具備し、前記酸化セリウム粒子の表面は、{100}面である。
【0008】
[2]前記酸化スズは、ナノシート状である[1]のガスセンサ。
【0009】
[3]半導体式のガスセンサである[1]または[2]のガスセンサ。
【0010】
[4]前記酸化セリウム粒子の粒径は、10~90nmである[1]から[3]の何れかのガスセンサ。
【0011】
[5]前記ガス感応層にそれぞれ異なる位置で接続される第1電極および第2電極を具備する[1]~[4]の何れかのガスセンサ。
【0012】
[6]本発明に係るセンサデバイスは、[1]から[5]の何れかのガスセンサと、前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流に応じて、検出対象となるガスの存在を検知する検知部とを具備する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るガスセンサによれば、応答特性を良好にすることができる。本発明に係るセンサデバイスによれば、高精度にガスを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1における{100}面が露出する酸化セリウムナノキューブ(水酸化セリウム原料)の走査型電子顕微鏡像である。
【
図2】実施例2における{100}面が露出する酸化セリウムナノキューブ(硝酸セリウム原料)の走査型電子顕微鏡像である。
【
図3】実施例2における{100}面が露出する酸化セリウムナノキューブ(水酸化セリウム原料)の透過型電子顕微鏡像である。
【
図4】比較例1における{111}面が露出する酸化セリウム正八面体粒子(水酸化セリウム原料)の走査型電子顕微鏡像である。
【
図5】比較例2における{111}面が露出する酸化セリウム正八面体粒子(硝酸セリウム原料)の走査型電子顕微鏡像である。
【
図6】比較例2における{111}面が露出する酸化セリウム正八面体粒子(硝酸セリウム原料)の透過型電子顕微鏡像である。
【
図7】実施例および比較例に係るガスセンサで使用したアルミナ基板(酸化スズナノシートの形成前)の表面における走査型電子顕微鏡像である。
【
図8】実施例および比較例に係るガスセンサで使用したアルミナ基板(酸化スズナノシートの形成前)の断面における走査型電子顕微鏡像である。
【
図9】実施例に係るガスセンサで使用したアルミナ基板(酸化スズナノシートの形成後)の表面における走査型電子顕微鏡像である。
【
図10】実施例に係るガスセンサで使用したアルミナ基板(酸化スズナノシートの形成後)の断面における走査型電子顕微鏡像である。
【
図11】実施例に係るガスセンサのガス感応層の表面(酸化セリウムの{100}面)における走査型電子顕微鏡像である。
【
図12】実施例に係るガスセンサのガス感応層の断面における走査型電子顕微鏡像である。
【
図13】実施例2に係るガスセンサのアセトンに対する駆動温度によるセンサ応答値を示すグラフである。
【
図14】実施例1,2および比較例1~3に係るガスセンサについて、複数のターゲットガスに対する抵抗値の変化を示すグラフである。
【
図15】実施例1,2および比較例1~3に係るガスセンサについて、複数のターゲットガスに対するセンサ応答(Ra/Rg)の変化を示すグラフである。
【
図16】実施例1,2および比較例1~3に係るガスセンサについて、アセトンに対するセンサ応答(Ra/Rg)の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るガスセンサは、所望のガスを検知するセンサ機器である。具体的には、ガスセンサは、絶縁性の基板と、電極対(第1電極および第2電極)と、ガス感応層とを具備する。
【0016】
電極対は、基板の表面に形成される。ガス感応層は、第1電極および第2電極にそれぞれ異なる位置で接続される。例えば、電極対の表面(基板とは反対側の表面)を覆うようにガス感応層が設けられる。すなわち、第1電極の表面および第2電極の表面と、基板のうち第1電極と第2電極との間の表面とにわたってガス感応層が設けられる。なお、基板は、公知の任意の絶縁材料(例えば金属酸化物など)でされる。同様に、第1電極および第2電極は、公知の任意の導電材料(例えばPt,Ir,Pd,Ag,Ni,W,Cu,Alなど)で形成される。
【0017】
本発明に係るガス感応層は、第1層と、当該第1層の表面(基板とは反対側の表面)に形成される第2層とを含む。基板からみて厚さ方向において第1層と第2層とがこの順番で位置する。すなわち、第2層は、第1層からみて基板とは反対側に位置する。本実施形態のガス感応層においては、第2層の表面(第1層とは反対側の表面)がガスに直接的に接触(すなわちガスを吸着)する面である。
【0018】
第1層は、酸化スズ(SnO2)を含む。酸化スズは、主成分として第1層に含有され、例えば第1層中に70質量%以上含有され、好ましくは80質量%以上含有され、さらに好ましくは90質量%以上含有される。なお、第1層中の全体が酸化スズ(100質量%)であってもよい。
【0019】
酸化スズの形態は、特に限定されず、例えばナノシート状またはナノ粒子状である。ただし、ガスセンサの抵抗値を低くして、かつ、ガスの選択性を良好にする観点からは、第1層にナノシート状の酸化スズを用いる構成が好適である。ナノシート状とは、厚さ(平均値)が例えば1~100nm程度の層状である2次元のナノ構造体である。なお、ナノシートの厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)像や走査型電子顕微鏡(SEM)像から、任意の数十個(例えば30個)のシート片について測定した厚さの平均値である。
【0020】
ナノ粒子状の酸化スズを用いる場合、粒子径(平均値)は、例えば1~100nmである。粒子径(二次粒子径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)像や走査型電子顕微鏡(SEM)像から、任意の数十個(例えば30個)の粒子について測定した粒子径の平均値である。なお、本発明において粒子径(一次粒子径も同様)は、粒子の円相当直径(粒子の面積や体積などが同じ円や球の直径)である。
【0021】
第1層の膜厚は、特に限定されず、例えばナノシートの膜厚やナノ粒子の粒子径程度である。なお、他の元素(例えばZn,Ti,Ce,Feなど)をドープさせた酸化スズを第1層に用いてもよい。
【0022】
第2層は、酸化セリウム(CeO2)粒子を含む。酸化セリウム粒子は、主成分として第2層に含有され、例えば第2層中に70質量%以上含有され、好ましくは80質量%以上含有され、さらに好ましくは90質量%以上含有される。なお、第2層中の全体が酸化セリウム粒子(100質量%)であってもよい。
【0023】
酸化セリウム粒子の表面は、{100}面である。酸化セリウム粒子の{100}面が露呈しているとも換言できる。第2層における第1層とは反対側の表面は、酸化セリウムの{100}面が露出することが好ましい。なお、{100}面は、(100)面に等価な面群である。
【0024】
酸化セリウム粒子の表面が{100}面であることは、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)により酸化セリウム粒子を観察することで確認できる。
【0025】
酸化セリウム粒子の粒子径(平均値)は、特に限定されないが、例えば100nm~500μmである。粒子径(二次粒子径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)像や走査型電子顕微鏡(SEM)像から、任意の数十個(例えば30個)の粒子について測定した粒子径の平均値である。
【0026】
酸化セリウム粒子の一次粒子の平均一次粒子径は、例えば3~100nmであり、好ましくは5~20nmである。平均一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)像や走査型電子顕微鏡(SEM)像から、任意の数十個(例えば30個)の一次粒子について測定した一次粒子径の平均値である。
【0027】
酸化セリウム粒子の一次粒子は、キューブ状(略立方体状)であることが好ましい。ただし、酸化セリウム粒子の一次粒子は、その他の形状(例えば球状)であってもよい。また、第2層として使用する酸化セリウム粒子は、単結晶であることが好ましい。
【0028】
第2層の膜厚は、特に限定されず、例えば酸化セリウム粒子の粒子径程度である。なお、酸化セリウム粒子の表面が{100}面であることが維持されていれば、他の元素(例えばZn,Bi,Ni,Feなど)をドープさせた酸化セリウム粒子を第2層に用いてもよい。
【0029】
第1層の表面全体の面積のうち第2層(すなわち酸化セリウム粒子の{100}面)で被覆されている面積の割合(被覆率)は、例えば10%以上であり、好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは30%以上である。なお、当該被覆率の上限値は、例えば100%以下であり、好ましくは80%以下であり、より好ましくは65%以下であり、さらに好ましくは50%以下である。第1層の表面のうち第2層で被覆される割合が上記の範囲内であることで、応答特性を良好にすることができる。
【0030】
被覆率は、例えば透過型電子顕微鏡像や走査型電子顕微鏡像から特定する。なお、第1層の表面において第2層以外の層(すなわち{100}面が露出する酸化セリウム粒子以外の酸化物からなる層)が存在してもよい。
【0031】
また、第2層が第1層の表面において連続した一連の層として形成されることは必須ではない。すなわち、第1層の表面において第2層が相互に離間した複数の領域として点在していてもよい。なお、ガス感応層が第1層および第2層に加えて他の層を含む場合もある。
【0032】
本発明に係るガスセンサによれば、例えばガス感応層が酸化スズからなる層の単層である構成と比較して、応答特性(センサ応答(Ra/Rg))を良好にすることができる。なお、Raは空気中でのガスセンサの抵抗であり、Rgは検知対象となるガス(ターゲットガス)中での抵抗である。
【0033】
本発明のガスセンサでは、特に、ターゲットガスが低濃度の場合にも高精度にガスを検知できるという利点がある。例えば、疾患との関連性があると考えられている生体ガス(例えば呼気や皮膚ガス)中に含まれる低濃度のガス(例えばアセトン,アセトアルデヒド,エタノール,アンモニア,アリルメルカプタンなど)の検知に有効である。
【0034】
本発明は、以上に例示したガスセンサと、第1電極と第2電極との間に流れる電流に応じて、検出対象となるターゲットガスの存在(さらには濃度)を検知する検知部とを具備するセンサデバイスとしても観念できる。本発明に係るセンサデバイスによれば、高精度にガスを検知することができる。
【0035】
本発明に係るガスセンサの製造方法には、公知の任意の各種の技術が採用される。まず、第1電極および第2電極を形成した基板の表面に第1層を形成する。第1層の形成においては、公知の任意の成膜技術(例えば、蒸着法,スパッタリング,化学気相成長法,液相結晶成長法など)が利用される。第1層に酸化スズナノシートを用いる場合には、酸化スズの前駆体溶液(例えばフッ化スズ水溶液)に基盤を浸漬することで、基板に酸化スズナノシートを形成する液相結晶成長法が用いられる。
【0036】
次に、第1層の表面に第2層を形成する。第2層は、{100}面が露出する酸化セリウム粒子を用いて公知の任意の成膜技術(例えば、分散液滴下,蒸着法,スパッタリング,化学気相成長法,液相結晶成長法など)により形成される。
【0037】
{100}面が露出する酸化セリウム粒子の製造には、公知の任意の技術が採用される。例えば、酸化セリウム粒子の前駆体(例えば水酸化セリウムや硝酸セリウム)を溶解した水溶液に当該前駆体と等しいモル数のデカン酸を添加して、所定の温度(例えば400℃前後)に加熱しておいた回分式反応器に入れて数分間にわたり保持することで、{100}面が露出する酸化セリウム粒子を合成する。
【実施例0038】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0039】
[実施例1]
実施例1に係るガスセンサは、第1層としてナノシート型の酸化スズを用いて、第2層としてナノキューブ型の酸化セリウム粒子(以下「酸化セリウムナノキューブ」と表記する)を用いた。実施例1は以下の通りに製造した。
【0040】
<1>酸化セリウムナノキューブの合成
{100}面が露出する酸化セリウムナノキューブは、以下の通りに製造した。まず、水酸化セリウム(Ce(OH)4;富士フイルム和光純薬株式会社製)を溶解した水溶液(0.1M)を調整し、当該水溶液に水酸化セリウムと等しいモル数のデカン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を添加した。そして、あらかじめ400℃に加熱しておいた回分式反応器に入れて10分間保持することにより、{100}面が露出する酸化セリウムナノキューブを合成した。
【0041】
次に、合成した酸化セリウムナノキューブを取り出し、遠心分離によって不純物を取り除いた。続けて、酸化セリウムナノキューブを凍結乾燥機により粉末状にした。
【0042】
<2>酸化スズ(SnO2)ナノシートの合成
まず、スクリーン印刷を用いて、アルミナ基板の表面にPt製のくし形電極(一対)を形成した。なお、アルミナ基板の裏面には、センサを加熱する際に使用するヒータ用の電極(Pt製)も形成した。次に、アルミナ基板のうちくし形電極を形成した表面を、真空紫外光を20分間にわたり露光することで表面の吸着有機物の除去を行い、親水性へと変性させた。
【0043】
酸化スズナノシートは、液相結晶成長法を用いて形成した。具体的には、28mMに調製した90℃のフッ化スズ水溶液を調整し、上記のアルミナ基板を30分間にわたり浸漬し、アルミナ基板の表面に酸化スズナノシートからなる薄膜を形成した。
【0044】
<3>ガスセンサの作製
<2>においてアルミナ基板上に合成した酸化スズナノシートの表面に、<1>において合成した粉末状の酸化セリウムナノキューブを蒸留水に超音波洗浄機を用いて分散させた分散液を滴下した後に乾燥させることで、酸化スズナノシートの表面を{100}面が露出する酸化セリウムナノキューブにより被覆(修飾)した。作製したガスセンサをCeO2{100}-Hと表記する。
【0045】
[実施例2]
実施例2では、実施例1と同様に、第1層としてナノシート型の酸化スズを用いて、第2層として酸化セリウムナノキューブを用いた。酸化セリウムナノキューブの合成において、水酸化セリウムに代えて硝酸セリウム(Ce(NO3)3;富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いたことは、実施例1と同様である。作製したガスセンサをCeO2{100}-Nと表記する。
【0046】
[比較例1]
比較例1では、ガスセンサの第2層として、{111}面が露出する酸化セリウム正八面体粒子(正八面体形状のナノ粒子)を用いた。比較例1では、水酸化セリウムを溶解させた水溶液(0.1M)に、当該水酸化セリウムと等しいモル数のデカン酸を添加せずに合成を行ったこと以外は、実施例1と同様である。作製したガスセンサをCeO2{111}-Hと表記する。
【0047】
[比較例2]
比較例2では、ガスセンサの第2層として、{111}面が露出する酸化セリウム正八面体粒子を用いた。{111}面が露出する酸化セリウム正八面体粒子については、水酸化セリウムに代えて硝酸セリウム(Ce(NO3)3;富士フイルム和光純薬株式会社製)を使用したこと以外は、比較例1と同様である。作製したガスセンサをCeO2{111}-Nと表記する。
【0048】
[比較例3]
比較例3では、ガス感応層を酸化スズナノシートからなる単層とした。
【0049】
以下の通り、実施例および比較例について評価した。
【0050】
<1>酸化セリウムナノキューブ(実施例1,2)および酸化セリウム正八面体粒子(比較例1,2)
実施例1,2で使用した酸化セリウムナノキューブと、比較例1,2で使用した酸化セリウム正八面体粒子とについて、電子顕微鏡観察を行った。その結果を
図1~
図6に示す。
【0051】
図1は、実施例1における酸化セリウムナノキューブ(水酸化セリウム原料)の走査型電子顕微鏡(SEM)像であり、
図2は、実施例2における酸化セリウムナノキューブ(硝酸セリウム原料)の走査型電子顕微鏡像である。
図1および
図2から把握される通り、実施例1,2に係る酸化セリウムナノキューブは凝集体を形成していた。実施例1において凝集体を構成する酸化セリウムナノキューブの一次粒子径は、10nm程度であった。実施例2において凝集体を構成する酸化セリウムナノキューブの一次粒子の一次粒子径は、20~50nm程度であった。すなわち、実施例1,2において酸化セリウムナノキューブの平均一次粒子径は、3~100nmの範囲内になる。
【0052】
図3は、実施例2における酸化セリウムナノキューブの透過型電子顕微鏡(TEM)像である。実施例2における酸化セリウムナノキューブは、格子縞間隔が0.27nmの立方体形状(すなわちキューブ状)であり、{100}面が露出した単結晶であることが、
図3のTEM像から確認できた。
【0053】
図4は、比較例1における酸化セリウム正八面体粒子(水酸化セリウム原料)の走査型電子顕微鏡像であり、
図5は、比較例2における酸化セリウム正八面体粒子(硝酸セリウム原料)の走査型電子顕微鏡像である。
【0054】
図4から把握される通り、比較例1に係る酸化セリウム正八面体粒子は、凝集体を形成していた。比較例1において凝集体を構成する酸化セリウム正八面体粒子の一次粒子径は、10nm程度であった。一方で、比較例2では、多面体の粒子からなる凝集体と、大型の正八面体形状の粒子が観察された。正八面体形状の粒子のサイズは、50~数百nm程度であった。
【0055】
図6は、比較例2における酸化セリウム正八面体粒子(硝酸セリウム原料)の透過型電子顕微鏡像である。比較例2におけるは、格子縞間隔が0.32nmの正八面体形状であり、{111}面が露出した単結晶であることが、
図6のTEM像から確認できた。
【0056】
<2>酸化スズナノシート
図7および
図8は、各実施例および各比較例に係るガスセンサで使用したアルミナ基板(酸化スズナノシートの形成前)における走査型電子顕微鏡像ある。
図7はアルミナ基板の表面の走査型電子顕微鏡像であり、
図8はアルミナ基板の断面の走査型電子顕微鏡像である。
図7および
図8から把握される通り、アルミナ基板は数μmの粒径のアルミナ粒子から構成されており、粒界では100nm程度の凹凸も確認された。
【0057】
図9および
図10は、実施例2に係るガスセンサで使用したアルミナ基板(酸化スズナノシートの形成後)における走査型電子顕微鏡像ある。
図9はアルミナ基板の表面の走査型電子顕微鏡像であり、
図10はアルミナ基板の断面の走査型電子顕微鏡像である。
図9および
図10から把握される通り、アルミナ基板の表面に酸化スズナノシートが析出し、点在している様子が観察された。
【0058】
<3>ガス感応層
図11および
図12は、実施例2に係るガスセンサのガス感応層における走査型電子顕微鏡像ある。
図11はガス感応層の最表面(酸化セリウムの{100}面)における走査型電子顕微鏡像であり、
図12はガス感応層の断面における走査型電子顕微鏡像である。
図11および
図12から、ガス感応層において酸化スズナノシートの表面が、数十nm程度の酸化セリウムナノキューブで被覆されていることが確認できた。なお、酸化セリウムナノキューブは、酸化スズナノシートの表面において点在する。酸化スズナノシートの表面における酸化セリウムナノキューブの被覆率は、50%程度であった。
【0059】
<4>ガスセンサ
実施例2に係るガスセンサ(硝酸セリウム原料)について、200~600℃の範囲で駆動温度を変化させた場合における20ppmのアセトンに対するセンサ応答(Ra/Rg)を評価した。その結果を
図13に示す。Raにおいては、乾燥空気(窒素:酸素=80:20)を用いて測定した。駆動温度は、200℃,300℃,400℃,500℃,550℃および600℃と変化させた。
図13から把握される通り、センサ応答(Ra/Rg)は、駆動温度が550℃の場合に最も高い値(14.8)を示した。
【0060】
実施例1,2および比較例1~3に係るガスセンサについて、抵抗値を測定した。その結果を
図14に示す。ガスセンサの温度を550℃に制御して、ターゲットガスの流通下における抵抗値をセンサ評価モジュールにより測定した。ターゲットガスとしては、疾患との関連性があると考えられている呼気成分に含まれる複数のガスを選択した。具体的には、(a)アセトン,(b)アセトアルデヒド,(c)エタノール,(d)アンモニア,(e)アリルメルカプタンをターゲットガスとして使用した。ガス流量は、多成分ガス混合装置(MU-3616,堀場製作所製)を用いて制御し、総流量は100cm
3・min
-1に設定した。
【0061】
図14に示される通り、ガス感応層として酸化ナノシートからなる第1層を酸化セリウムからなる第2層で被覆した実施例1,2および比較例1,2においては、何れのターゲットガスの場合おいても、ガス感応層として酸化ナノシートからなる単層を用いた比較例3よりも抵抗値は高いことが確認された。
【0062】
次に、実施例1,2および比較例1~3に係るガスセンサについて、各ターゲットガスの濃度を変化させた場合のセンサ応答(Ra/Rg)を評価した。その結果を
図15に示す。なお、Raにおいては、乾燥空気(窒素:酸素=80:20)を用いて測定した。
【0063】
図15に示される通り、実施例1,2は、全てのターゲットガスについて、比較例1~3と比較して、センサ応答(Ra/Rg)が良好であり、濃度の増加に依存してセンサ応答(Ra/Rg)が向上することが確認できた。実施例1,2は、比較例3よりも抵抗値が高かったにもかかわらず、センサ応答(Ra/Rg)が比較例3を上回る結果となった。
【0064】
全てのターゲットガスについて、酸化セリウムの{100}面が露出する実施例1,2は、比較例3と比較して、センサ応答(Ra/Rg)が大きく向上した。それに対して、酸化セリウムの{111}面が露出する比較例1,2は、比較例3と比較して、センサ応答(Ra/Rg)が下回ることが確認された。
【0065】
各ターゲットガスの20ppmにおけるセンサ応答(Ra/Rg)を確認すると、(a)アセトンにおいては、比較例3に対して実施例1は約6.8倍(15/2.2)であり、比較例3に対して実施例2は約5.9倍(13/2.2)であった。
【0066】
(b)アセトアルデヒドにおいては、比較例3に対して実施例1は約3.2倍(8.1/2.5)であり、比較例3に対して実施例2は約3.6倍(8.9/2.5)であった。
【0067】
(c)エタノールにおいては、比較例3に対して実施例1は約2.8倍(22/7.8)であり、比較例3に対して実施例2は約3.5倍(27/7.8)であった。
【0068】
(d)アンモニアにおいては、比較例3に対して実施例1は約1.4倍(4.2/3.1)であり、比較例3に対して実施例2は約1.6倍(5.0/3.1)であった。
【0069】
(e)アリルメルカプタンにおいては、比較例3に対して実施例1は約10.3倍(33/3.2)であり、比較例3に対して実施例2は約7.5倍(23.9/3.2)であった。
【0070】
図15において特にセンサ応答(Ra/Rg)が良好であったアセトンについてさらに低濃度におけるセンサ応答(Ra/Rg)を評価した。その結果を
図16に示す。300ppbにおけるセンサ応答(Ra/Rg)に着目すると、比較例1~3は、1.06以下であり、ほとんど応答を示さなかった。それに対して、実施例2では1.37であり、実施例1では1.24であった。
【0071】
以上のことから、本発明に係るガスセンサは、数百ppbレベルの低濃度のガスに対しても高い応答を実現できることが確認できた。特に、アセトンは糖尿病との相関が報告されており、呼気ガスや皮膚ガスの中の低濃度のアセトンを検知することが求められている。したがって、本発明のガスセンサは、低濃度のアセトンを検知することによる糖尿病のスクリーニングに向けても有効と考えられる。