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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105980
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240731BHJP
   H01L 21/461 20060101ALI20240731BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20240731BHJP
   B23K 26/53 20140101ALN20240731BHJP
【FI】
H01L21/78 B
H01L21/78 F
H01L21/78 S
H01L21/461
B23K26/36
B23K26/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010010
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】橋本 一輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 正和
【テーマコード(参考)】
4E168
5F004
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AD01
4E168AD18
4E168AE01
4E168CB07
4E168DA04
4E168DA24
4E168EA06
4E168HA01
4E168JA12
5F004AA16
5F004DB01
5F004EB04
5F004FA05
5F063AA02
5F063BA07
5F063CB02
5F063CB06
5F063CB12
5F063CB16
5F063CB17
5F063CB22
5F063CB25
5F063CB26
5F063CB27
5F063CB28
5F063CC29
5F063CC38
5F063CC39
5F063CC53
5F063DD25
5F063DD37
5F063DD46
(57)【要約】
【課題】チップとなる領域にバリが発生し難いチップの製造方法を提供する。
【解決手段】基板と、膜と、を含む被加工物からチップを製造するチップの製造方法であって、分割予定ラインに沿って膜側から被加工物にレーザービームを照射することで、分割予定ラインの幅の方向において互いに離れた2本の溝を形成し、分割予定ラインに沿って膜側から被加工物の2本の溝の間の領域にレーザービームを照射することで、2本の溝のそれぞれの脇に膜が残存する残存領域を形成するように2本の溝の間で基板を露出させ、分割予定ラインに沿って膜側から被加工物の2本の溝の間の残存領域にレーザービームを照射することで、2本の溝の間の該残存領域を除去し、分割予定ラインに沿って基板を切断することで、チップを製造する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び該第1面とは反対側の第2面を有する基板と、該基板の該第1面に重ねられた膜と、を含む被加工物からチップを製造するチップの製造方法であって、
該被加工物に設定され幅を持つ直線状の分割予定ラインに沿って該膜側から該被加工物にレーザービームを照射することで、該分割予定ラインの該幅の方向において互いに離れた2本の溝を形成し、
該2本の溝を形成した後に、該分割予定ラインに沿って該膜側から該被加工物の該2本の溝の間の領域にレーザービームを照射することで、該2本の溝のそれぞれの脇に該膜が残存する残存領域を形成するように該2本の溝の間で該基板を露出させ、
該2本の溝の間で該基板を露出させた後に、該分割予定ラインに沿って該膜側から該被加工物の該2本の溝の間の該残存領域にレーザービームを照射することで、該2本の溝の間の該残存領域を除去し、
該2本の溝の間で該基板を露出させると同時に、該2本の溝の間で該基板を露出させた後且つ該2本の溝の間の該残存領域を除去する前に、又は該2本の溝の間の該残存領域を除去した後に、該分割予定ラインに沿って該基板を切断することでチップを製造するチップの製造方法。
【請求項2】
該分割予定ラインに沿って切削ブレードで該基板を切削することで、該基板を切断してチップを製造する請求項1に記載のチップの製造方法。
【請求項3】
該基板に吸収される波長のレーザービームを該分割予定ラインに沿って該基板に照射して該基板をアブレーション加工することで、該基板を切断してチップを製造する請求項1に記載のチップの製造方法。
【請求項4】
該基板を透過する波長のレーザービームを該分割予定ラインに沿って該基板に照射して該基板の内部に分割の起点となる起点領域を形成することで、該基板を切断してチップを製造する請求項1に記載のチップの製造方法。
【請求項5】
該基板に対してプラズマ状態のエッチングガスを供給することで、該基板を切断してチップを製造する請求項1に記載のチップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機やパーソナルコンピュータに代表される電子機器では、電子回路等のデバイスを備えるチップ(デバイスチップ)が必須の構成要素になっている。このチップは、例えば、シリコン(Si)等の半導体でなるウェーハの表面側をストリートと呼ばれる分割予定ラインで複数の領域に区画し、各領域に電子回路等のデバイスを形成した後、この分割予定ラインに沿ってウェーハを分割することにより得られる。
【0003】
近年では、上述したデバイスの処理能力を高めるために、通常の絶縁膜に比べて誘電率が低いLow-k膜(低誘電率絶縁膜)を用いてデバイスの配線間を絶縁する技術が実用化されている。配線間の絶縁にLow-k膜を用いることで、回路パターンの微細化に伴い配線の間隔が狭くなったとしても、配線間に生じる静電容量の増大が抑制される。つまり、配線間の静電容量の増大に起因する信号の遅延も抑制される。
【0004】
ところが、Low-k膜の機械的な強度は、一般的に、通常の絶縁膜に比べて低い。よって、例えば、環状のブレードを回転させて切り込ませる切削加工のような方法でウェーハを分割しようとすると、ウェーハからLow-k膜が剥がれてしまう。そこで、ウェーハにレーザービームを照射してLow-k膜が除去された2本の溝を分割予定ラインに形成し、この2本の溝の間の領域を加工することで、Low-k膜の剥がれを抑制しながらウェーハを分割する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-64231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した2本の溝の間の領域には、Low-k膜をはじめとしたバリ(突起物)の原因となる種々の膜が残っているので、この2本の溝の間でウェーハを加工すると、チップとなる領域にバリが発生し易かった。
【0007】
よって、本発明の目的は、チップとなる領域にバリが発生し難いチップの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、第1面及び該第1面とは反対側の第2面を有する基板と、該基板の該第1面に重ねられた膜と、を含む被加工物からチップを製造するチップの製造方法であって、該被加工物に設定され幅を持つ直線状の分割予定ラインに沿って該膜側から該被加工物にレーザービームを照射することで、該分割予定ラインの該幅の方向において互いに離れた2本の溝を形成し、該2本の溝を形成した後に、該分割予定ラインに沿って該膜側から該被加工物の該2本の溝の間の領域にレーザービームを照射することで、該2本の溝のそれぞれの脇に該膜が残存する残存領域を形成するように該2本の溝の間で該基板を露出させ、該2本の溝の間で該基板を露出させた後に、該分割予定ラインに沿って該膜側から該被加工物の該2本の溝の間の該残存領域にレーザービームを照射することで、該2本の溝の間の該残存領域を除去し、該2本の溝の間で該基板を露出させると同時に、該2本の溝の間で該基板を露出させた後且つ該2本の溝の間の該残存領域を除去する前に、又は該2本の溝の間の該残存領域を除去した後に、該分割予定ラインに沿って該基板を切断することでチップを製造するチップの製造方法が提供される。
【0009】
本発明の一側面において、該分割予定ラインに沿って切削ブレードで該基板を切削することで、該基板を切断してチップを製造することが好ましい。又は、該基板に吸収される波長のレーザービームを該分割予定ラインに沿って該基板に照射して該基板をアブレーション加工することで、該基板を切断してチップを製造することが好ましい。
【0010】
又は、該基板を透過する波長のレーザービームを該分割予定ラインに沿って該基板に照射して該基板の内部に分割の起点となる起点領域を形成することで、該基板を切断してチップを製造することが好ましい。又は、該基板に対してプラズマ状態のエッチングガスを供給することで、該基板を切断してチップを製造することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面にかかるチップの製造方法では、2本の溝が形成された後に、この2本の溝の間の領域にレーザービームが照射されることで、2本の溝のそれぞれの脇に膜が残存する残存領域を形成するように2本の溝の間で基板が露出し、その後、2本の溝の間の残存領域にレーザービームが照射されることで、2本の溝の間の残存領域が除去される。
【0012】
つまり、2本の溝の間の膜は、残存領域が形成される第1段階と、残存領域が除去される第2段階と、の2段階を経て除去される。そのため、第1段階において形成される残存領域にバリが発生したとしても、このバリは、第2段階で残存領域とともに除去される。よって、本発明の一側面にかかるチップの製造方法によれば、2本の溝の間の膜を1段階で除去する従来の方法に比べて、チップとなる領域にバリが発生し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、被加工物の外観を示す斜視図である。
図2図2は、被加工物の一部を示す断面図である。
図3図3は、被加工物の分割予定ラインにレーザービームが照射される様子を示す側面図である。
図4図4は、分割予定ラインに2本の溝が形成された状態の被加工物の一部を示す平面図である。
図5図5は、分割予定ラインに2本の溝が形成された状態の被加工物の一部を示す断面図である。
図6図6は、2本の溝の間で基板が露出した状態の被加工物の一部を示す平面図である。
図7図7は、2本の溝の間で基板が露出した状態の被加工物の一部を示す断面図である。
図8図8は、2本の溝の脇に残存していた残存領域が除去された状態の被加工物の一部を示す平面図である。
図9図9は、2本の溝の脇に残存していた残存領域が除去された状態の被加工物の一部を示す断面図である。
図10図10は、2本の溝の間の領域で切断された状態の被加工物の一部を示す平面図である。
図11図11は、2本の溝の間の領域で切断された状態の被加工物の一部を示す断面図である。
図12図12は、第1変形例にかかるチップの製造方法において2本の溝の間の領域に割断の起点となる起点領域が形成された状態の被加工物の一部を示す断面図である。
図13図13は、第1変形例にかかるチップの製造方法において2本の溝の間で割断された状態の被加工物の一部を示す断面図である。
図14図14は、第2変形例にかかるチップの製造方法において2本の溝の間の領域で切断された状態の被加工物の一部を示す断面図である。
図15図15は、第2変形例にかかるチップの製造方法において2本の溝の脇に残存していた残存領域が除去された状態の被加工物の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかるチップの製造方法に使用される被加工物11の外観を示す斜視図であり、図2は、被加工物11の一部を示す断面図である。図1及び図2に示されるように、被加工物11は、例えば、円形状の表面(第1面)13aと、表面13aとは反対側の円形状の裏面(第2面)13bと、を有する円盤状の基板13を含む。この基板13は、代表的には、シリコン(Si)等の半導体で構成されるウェーハである。
【0015】
基板13の表面13a側には、1又は複数の膜によって構成される機能層(膜)15が重ねられている。具体的には、この機能層15は、配線等となる金属膜、配線間を絶縁する絶縁膜(Low-k膜を含む)、半導体膜等により構成される。なお、機能層15に用いられるLow-k膜としては、代表的には、SiOF、SiOB等の無機材料でなる無機絶縁膜や、ポリイミド系、パレリン系のポリマー等でなる有機絶縁膜等が挙げられる。
【0016】
上述した基板13の裏面13bが被加工物11の裏面11bとなり、機能層15の表面15aが被加工物11の表面11aとなる。この被加工物11の表面11a側は、例えば、所定の幅を持つ直線状の複数の分割予定ライン(ストリート)17で複数の小領域に区画されており、各小領域には、機能層15を構成要素として含むIC(Integrated Circuit)等のデバイス19が設けられている。機能層15は、分割予定ライン17にも形成されている。
【0017】
なお、本実施形態では、シリコン等の半導体で構成されるウェーハを基板13として含む被加工物11が用いられるが、被加工物11に含まれる基板13の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば、他の半導体、セラミックス、樹脂、金属等の材料で構成される基板13を含む被加工物11が用いられてもよい。同様に、デバイス19の種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はない。被加工物11には、デバイス19が形成されていなくてもよい。
【0018】
本実施形態にかかるチップの製造方法では、このように構成された被加工物11を分割予定ライン17で分割することにより、それぞれがデバイス19を含む複数のチップが製造される。具体的には、まず、被加工物11に設定された分割予定ライン17に沿って機能層15側から被加工物11にレーザービームを照射することで、分割予定ライン17の幅の方向において互いに離れた2本の溝が形成される(溝形成ステップ)。
【0019】
図3は、被加工物11の分割予定ライン17にレーザービーム21が照射される様子を示す側面図である。図4は、対象の分割予定ライン17に2本の溝11cが形成された状態の被加工物11の一部を示す平面図であり、図5は、対象の分割予定ライン17に2本の溝11cが形成された状態の被加工物11の一部を示す断面図である。
【0020】
分割予定ライン17にレーザービーム21を照射して溝11cを形成する際には、例えば、図3に示されるレーザー加工装置2が使用される。なお、以下の説明で用いられるX軸(加工送り軸)、Y軸(割り出し送り軸)、及びZ軸(鉛直軸)は、互いに垂直である。また、図3に示されるように、本実施形態では、裏面11b側にテープ23が貼付された状態で被加工物11にレーザービーム21が照射されるが、被加工物11には、テープ23が貼付されていない状態でレーザービーム21が照射されてもよい。
【0021】
図3に示されるように、レーザー加工装置2は、被加工物11を保持できるように構成されたチャックテーブル4を備えている。チャックテーブル4の上面(保持面)4aは、X軸及びY軸に対して概ね平行に、且つ概ね平坦に構成され、例えば、被加工物11の裏面11b側に貼付されているテープ23に接触する。この上面4aは、チャックテーブル4の内部に設けられている流路(不図示)や、バルブ(不図示)等を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。
【0022】
チャックテーブル4の下部には、上面4aの中央を通りZ軸に対して概ね平行な回転軸の周りにチャックテーブル4を回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。チャックテーブル4及び回転駆動源は、ボールねじ式の移動機構(不図示)に支持されており、この移動機構により、X軸及びY軸のそれぞれに沿って移動する。
【0023】
チャックテーブル4の上方には、レーザー発振器(不図示)により生成されたレーザービーム21を、チャックテーブル4により保持された被加工物11へと導くレーザー加工ヘッド6が配置されている。レーザー発振器は、例えば、レーザー発振に適したNd:YAG等のレーザー媒質を含み、被加工物11(機能層15)に吸収される波長を持つパルス状のレーザービーム21を所定の繰り返し周波数で生成する。
【0024】
レーザー加工ヘッド6は、レーザー発振器から放射されたパルス状のレーザービーム21を被加工物11へと導くミラーやレンズ等の光学系を備えており、例えば、チャックテーブル4の上方の所定の高さの位置(Z軸に沿う方向での位置)にレーザービーム21を集光させる。レーザー加工ヘッド6から照射されるレーザービーム21により、被加工物11の機能層15がアブレーション加工される。
【0025】
被加工物11をレーザービーム21で加工する際には、まず、被加工物11の裏面11b側に貼付されているテープ23が上面4aに接触するように、つまり、被加工物11の表面11a側が上方を向くように、被加工物11がチャックテーブル4に載せられる。この状態で、吸引源により発生させた負圧(吸引力)をチャックテーブル4の上面4aに作用させると、テープ23が上面4aに吸引され、被加工物11は、テープ23を介してチャックテーブル4に保持される。
【0026】
次に、加工の対象となる分割予定ライン17の長さの方向がX軸に対して概ね平行になるように、チャックテーブル4の回転軸の周りの向きが回転駆動源により調整される。そして、分割予定ライン17の長さの方向での延長線の上方にレーザー加工ヘッド6が配置されるように、Y軸に沿う方向でのチャックテーブル4の位置が移動機構により調整される。また、被加工物11の加工に適した高さの位置にレーザービーム21を集光させるように、レーザー加工ヘッド6の光学系等が調整される。
【0027】
その後、図3に示されるように、レーザー加工ヘッド6にレーザービーム21を照射させながら、移動機構が所定の速さ(加工送り速度)でチャックテーブル4をX軸に沿って移動させる。つまり、チャックテーブル4に保持された被加工物11と、レーザービーム21の集光点と、がX軸に沿って相対的に移動する。
【0028】
その結果、レーザービーム21が表面11a側から分割予定ライン17に沿って被加工物11に照射され、機能層15のレーザービーム21が照射された部分は、アブレーション加工により除去される。そして、図4及び図5に示されるように、分割予定ライン17に沿った溝11cが得られる。
【0029】
レーザービーム21を照射する際の条件は、対象の分割予定ライン17の幅の方向において互いに離れた2本の溝11cが適切に形成される範囲で調整される。例えば、レーザービーム21の波長は、266nm~1064nm、代表的には、355nmに設定され、繰り返し周波数は、50kHz~5000kHz、代表的には、1000kHzに設定され、平均出力は、0.1W~10W、代表的には、1.0Wに設定され、加工送り速度は、10mm/s~1000mm/s、代表的には、50mm/sに設定される。
【0030】
また、レーザービーム21は、分割予定ライン17の幅の方向において互いに離れた2点(つまり、Y軸に沿って離れた2点)に集光されるように、分岐されていてもよい。この場合には、1度のチャックテーブル4の移動(レーザービーム21の走査)により、2本の溝11cが同時に形成される。ただし、レーザービーム21を照射する際の具体的な条件や照射の態様等は、これらに限定されない。
【0031】
なお、このようにして形成される溝11cの底には、基板13が露出している可能性が高い。ただし、溝11cの底には、必ずしも基板13が露出しなくてもよい。つまり、溝11cは、機能層15の裏面15bに達していてもよいし、機能層15の裏面15bに達していなくともよい。
【0032】
対象の分割予定ライン17に2本の溝11cが形成された後には、2本の溝11cの間で基板13が露出するように、この分割予定ライン17に沿って機能層15側から2本の溝11cの間の領域にレーザービームが照射される。より具体的には、2本の溝11cのそれぞれの脇に機能層15が残存する残存領域が形成されるように、2本の溝11cの間の領域にレーザービームが照射される(残存領域形成ステップ)。
【0033】
図6は、2本の溝11cの間で基板13が露出した状態の被加工物11の一部を示す平面図であり、図7は、2本の溝11cの間で基板13が露出した状態の被加工物11の一部を示す断面図である。2本の溝11cの間で基板13を露出させる際にも、例えば、上述したレーザー加工装置2と同様のレーザー加工装置が使用される。具体的な加工の手順は、溝11cが形成される場合と同様である。
【0034】
例えば、所定のレーザービームが表面11a側から分割予定ライン17に沿って被加工物11の2本の溝11cの間の領域に照射されると、機能層15のレーザービームが照射された部分は、アブレーション加工により除去される。これにより、図6及び図7に示されるように、分割予定ライン17に沿って2本の溝11cの間で機能層15が除去され基板13が露出した露出領域11dが形成される。
【0035】
レーザービームを照射する際の条件は、機能層15が残存する残存領域11eを2本の溝11cのそれぞれの脇に形成することができる範囲で調整される。例えば、レーザービームの波長は、266nm~1064nm、代表的には、355nmに設定され、繰り返し周波数は、50kHz~5000kHz、代表的には、500kHzに設定され、平均出力は、0.1W~10W、代表的には、3.0Wに設定され、加工送り速度は、10mm/s~1000mm/s、代表的には、800mm/sに設定される。
【0036】
また、このレーザービームは、分割予定ライン17の幅の方向で露出領域11dとなる所定の範囲に同時に照射されるように、分岐又は成形されていてもよい。この場合には、1度のチャックテーブル4の移動(レーザービームの走査)により、対象の分割予定ライン17に露出領域11d及び残存領域11eが形成される。ただし、レーザービームを照射する際の具体的な条件や照射の態様等は、これらに限定されない。
【0037】
2本の溝11cの間で基板13が露出し、露出領域11d及び残存領域11eが形成された後には、この分割予定ライン17に沿って機能層15側から2本の溝11cの間の残存領域11eにレーザービームが照射され、2本の溝11cの間の残存領域11eが除去される(残存領域除去ステップ)。
【0038】
図8は、2本の溝11cの脇に残存していた残存領域11eが除去された状態の被加工物11の一部を示す平面図であり、図9は、2本の溝11cの脇に残存していた残存領域11eが除去された状態の被加工物11の一部を示す断面図である。2本の溝11cの間の残存領域11eを除去する際にも、例えば、上述したレーザー加工装置2と同様のレーザー加工装置が使用される。具体的な加工の手順は、溝11cが形成される場合等と同様である。
【0039】
例えば、所定のレーザービームが表面11a側から分割予定ライン17に沿って残存領域11eに照射されると、対象の残存領域11eは、アブレーション加工により除去される。これにより、図8及び図9に示されるように、2本の溝11cと露出領域11dとが連結された幅の広い露出領域11fが形成される。
【0040】
2本の溝11cの間で残存領域11eが除去され、幅の広い露出領域11fが形成された後には、対象の分割予定ライン17に沿って任意の方法で基板13が切断される(基板切断ステップ)。これにより、対象の分割予定ライン17で被加工物11が分割され、複数のチップが得られる。図10は、2本の溝11cの間の領域で切断された状態の被加工物11の一部を示す平面図であり、図11は、2本の溝11cの間の領域で切断された状態の被加工物11の一部を示す断面図である。
【0041】
基板13を切断する際の具体的な方法としては、例えば、砥粒が結合剤に分散されてなる切削ブレードを分割予定ライン17の露出領域11fに沿って切り込ませる切削加工、基板13に吸収される波長のレーザービームを分割予定ライン17の露出領域11fに沿って基板13に照射するアブレーション加工、基板13に反応するプラズマ状態のエッチングガスを基板13に対して供給するエッチング加工等の方法が用いられる。
【0042】
これらの方法により、基板13は対象の分割予定ライン17において除去され、図10及び図11に示されるように、基板13を表面13aから裏面13bまで貫通するカーフ(スリット)11gが対象の分割予定ライン17に形成される。すなわち、被加工物11は、対象の分割予定ライン17において複数のチップへと分割される。
【0043】
なお、本実施形態では、被加工物11の1本の分割予定ライン17に対する加工のみに着目してチップの製造方法が説明されているが、本発明にかかるチップの製造方法では、全ての分割予定ライン17が同様の方法で加工され得る。加工の順序に対する大きな制限もない。
【0044】
例えば、全ての分割予定ライン17に同じ加工(例えば、2本の溝11cを形成する加工)が施された後に、全ての分割予定ライン17に次の同じ加工(例えば、露出領域11d及び残存領域11eを形成する加工)が施されてもよい。また、1本の分割予定ライン17に全ての加工が施された後に、次の1本の分割予定ライン17に全ての加工が施されてもよい。
【0045】
以上のように、本実施形態にかかるチップの製造方法では、2本の溝11cが形成された後に、この2本の溝11cの間の領域にレーザービームが照射されることで、2本の溝11cのそれぞれの脇に機能層(膜)15が残存する残存領域11eを形成するように2本の溝11cの間で基板13が露出し、その後、2本の溝11cの間の残存領域11eにレーザービームが照射されることで、2本の溝11cの間の残存領域11eが除去される。
【0046】
つまり、2本の溝11cの間の機能層15は、残存領域11eが形成される第1段階と、残存領域11eが除去される第2段階と、の2段階を経て除去される。そのため、第1段階において形成される残存領域11eにバリが発生したとしても、このバリは、第2段階で残存領域11eとともに除去される。よって、本実施形態にかかるチップの製造方法によれば、2本の溝11cの間の膜を1段階で除去する従来の方法に比べて、チップとなる領域にバリが発生し難くなる。
【0047】
なお、本発明は、上述した実施形態の記載に制限されず様々に変更して実施され得る。例えば、上述した実施形態では、基板13を切断する際に、切削加工、アブレーション加工、又はエッチング加工といった、基板13を分割予定ライン17に沿って除去する方法が採用されているが、基板13を切断する方法は、これらに限定されない。
【0048】
例えば、基板13を切断する際には、基板13を分割予定ライン17に沿って割断する方法等が採用されてもよい。図12は、第1変形例にかかるチップの製造方法において2本の溝11cの間の領域に割断の起点となる起点領域11hが形成された状態の被加工物11の一部を示す断面図であり、図13は、第1変形例にかかるチップの製造方法において2本の溝11cの間で割断された状態の被加工物11の一部を示す断面図である。
【0049】
この第1変形例では、基板13を透過する波長のレーザービームが、例えば、基板13の内部で集光するように、分割予定ライン17に沿って照射される。これにより、基板13は、レーザービームが集光された領域で改質され、図12に示されるように、基板13の内部には、他の領域に比べて脆い起点領域11hが分割予定ライン17に沿って形成される。
【0050】
その後、例えば、基板13に対して力を加えると、図13に示されるように、基板13は、分割予定ライン17に形成された起点領域11hを起点に割断される。これにより、被加工物11が分割予定ライン17で分割され、複数のチップが得られる。なお、基板13は、起点領域11hが形成されるタイミングで同時に割断されることがある。この場合には、その後、基板13を割断するために、基板13に対して力を加える必要はない。
【0051】
また、上述した実施形態及び第1変形例では、2本の溝11cの間の残存領域11eが除去された後に、対象の分割予定ライン17に沿って基板13が切断されているが、基板13が切断されるタイミングは、これに限定されない。例えば、2本の溝11cの間の残存領域11eが除去される前に基板13が切断されてもよい。
【0052】
図14は、第2変形例にかかるチップの製造方法において2本の溝11cの間の領域で切断された状態の被加工物11の一部を示す断面図であり、図15は、第2変形例にかかるチップの製造方法において2本の溝11cの脇に残存していた残存領域11eが除去された状態の被加工物11の一部を示す断面図である。
【0053】
図14に示されるように、第2変形例にかかるチップの製造方法では、例えば、2本の溝11cの間で基板13が露出し、露出領域11d及び残存領域11eが形成された後に、対象の分割予定ライン17に沿って任意の方法で基板13が切断される(基板切断ステップ)。これにより、対象の分割予定ライン17で被加工物11が分割され、複数のチップが得られる。基板13を切断する際の具体的な方法は、上述した実施形態や第1変形例と同様である。
【0054】
なお、この第2変形例では、2本の溝11cの間で基板13が露出し、露出領域11d及び残存領域11eが形成されるのと同時に、基板13が切断されてもよい。すなわち、2本の溝11cの間で基板13を露出させる際のレーザービームによるアブレーション加工で基板13が切断されてもよい。
【0055】
対象の分割予定ライン17に沿って基板13が切断された後には、この分割予定ライン17に沿って機能層15側から2本の溝11cの間の残存領域11eにレーザービームが照射され、図15に示されるように、2本の溝11cの間の残存領域11eが除去される(残存領域除去ステップ)。レーザービームを照射する際の具体的な条件や照射の態様等は、上述した実施形態と同様である。
【0056】
その他、上述の実施形態及び変形例にかかる構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0057】
11 :被加工物
11a :表面
11b :裏面
11c :溝
11d :露出領域
11e :残存領域
11f :露出領域
11h :起点領域
13 :基板
13a :表面(第1面)
13b :裏面(第2面)
15 :機能層(膜)
15a :表面
15b :裏面
17 :分割予定ライン(ストリート)
19 :デバイス
21 :レーザービーム
23 :テープ
2 :レーザー加工装置
4 :チャックテーブル
4a :上面(保持面)
6 :レーザー加工ヘッド
図1
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