(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105990
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】包餡用油脂組成物、ベーカリー食品用包餡生地、ベーカリー食品、ベーカリー食品用包餡生地の製造方法、ベーカリー食品の製造方法および、包餡物の減少を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20240731BHJP
A23D 7/01 20060101ALI20240731BHJP
A21D 13/31 20170101ALI20240731BHJP
A21D 13/38 20170101ALI20240731BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20240731BHJP
A23G 3/40 20060101ALI20240731BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240731BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23D7/01
A21D13/31
A21D13/38
A23G3/34
A23G3/40
A23L5/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010023
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】曽我 貞夫
【テーマコード(参考)】
4B014
4B026
4B032
4B035
【Fターム(参考)】
4B014GE02
4B014GG14
4B014GK07
4B014GL06
4B014GQ14
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG15
4B026DH01
4B026DK01
4B026DK10
4B026DP01
4B026DX05
4B032DB01
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4B032DK09
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4B032DK18
4B032DK67
4B032DL20
4B032DP30
4B032DP40
4B035LC03
4B035LC16
4B035LE02
4B035LE07
4B035LG08
4B035LG09
4B035LG12
4B035LG54
4B035LK17
4B035LP02
4B035LP35
(57)【要約】
【課題】 ベーカリー食品用生地に包餡された際に、加熱処理後の包餡物の減少を抑制できる包餡用油脂組成物を提供する。
【解決手段】 食用油脂と乳化剤を含有する、包餡用油脂組成物であって、
前記食用油脂の30℃における固体脂含量が2%以上20%以下であり、
前記乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルおよびモノグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種である、前記包餡用油脂組成物である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂と乳化剤を含有する、包餡用油脂組成物であって、
前記食用油脂の30℃における固体脂含量が2%以上20%以下であり、
前記乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルおよびモノグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種である、前記包餡用油脂組成物。
【請求項2】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸が飽和脂肪酸である、請求項1に記載の包餡用油脂組成物。
【請求項3】
前記モノグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸のヨウ素価が0以上100以下である、請求項1に記載の包餡用油脂組成物。
【請求項4】
前記食用油脂の20℃における固体脂含量が5%以上24%以下である、請求項1に記載の包餡用油脂組成物。
【請求項5】
前記包餡用油脂組成物中の、前記食用油脂100質量部に対する前記乳化剤の含有量が0.05質量部以上3質量部以下である、請求項1に記載の包餡用油脂組成物。
【請求項6】
ベーカリー食品用生地に包餡するための、請求項1に記載の包餡用油脂組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の包餡用油脂組成物を包餡してなる、ベーカリー食品用包餡生地。
【請求項8】
請求項7に記載のベーカリー食品用包餡生地を加熱処理されてなる、ベーカリー食品。
【請求項9】
請求項1乃至6いずれか1項に記載の包餡用油脂組成物を含むベーカリー食品用包餡生地の製造方法であって、
ベーカリー食品用生地を準備する工程と、
前記ベーカリー食品用生地に前記包餡用油脂組成物を包餡する工程と、
を含む前記製造方法。
【請求項10】
請求項9の製造方法により得られたベーカリー食品用包餡生地を加熱処理する工程を含む、ベーカリー食品の製造方法。
【請求項11】
ベーカリー食品用生地に包餡用油脂組成物を包餡したベーカリー食品用包餡生地を加熱処理してベーカリー食品を製造する際に、前記ベーカリー食品中の前記包餡用油脂組成物由来の包餡物の減少を抑制する方法であって、
前記包餡用油脂組成物が食用油脂と乳化剤を含有し、
前記食用油脂の30℃における固体脂含量が2%以上20%以下であり、
前記乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルおよびモノグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種である、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包餡用油脂組成物、ベーカリー食品用包餡生地、ベーカリー食品、ベーカリー食品用包餡生地の製造方法、ベーカリー食品の製造方法および、包餡物の減少を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィリング類は、洋菓子やパン等どのベーカリー食品に用いられている。フィリング類に求められる重要な特性の一つが、焼成等により加熱処理した後にも、元の形状をそのまま維持できる耐熱保形性である。例えば、耐熱保形性が劣るフィリング類を用いて加熱処理すると溶融して、洋菓子やパン等の内部から外部へ流出や噴出する。また、フィリング類には、フィリング類を職人が生地へ包餡しやすい包餡適性や、フィリング類を機械的に生地へ充填しやすい充填適性も求められる。
【0003】
メープルシロップ等を含有させた甘いマーガリンやファットスプレッドを、パン生地に包餡し焼成したメロンパン等の包餡パンが、市場で認知されている。マーガリンやファットスプレッド等の加工油脂製品は固形油脂で保形性を保っているため、焼成等の加熱処理がされると包餡された加工油脂製品の固形油脂が融解してしまう。固形油脂が融解してしまうと多くの包餡物がパン生地に浸み込んだり、パン生地から浸み出したりして、包餡物が減少し、包餡部がほぼ空洞になる。包餡部残量が少なくなると、特にメロンパンの場合、メロン皮の重さを支えきれなくなるため、潰れた外観になってしまうことが課題となっている。そのため、加熱処理しても包餡された加工油脂製品由来の包餡物を多く残せる技術が求められていた。
【0004】
特許文献1には、焼き菓子のセンタークリームとして用いられ、焼き菓子生地と共に焼成されたとき硬くなったり、流れたりせず、焼成後も目減りしたり、硬さの変化がなく、異味・異臭を呈せず且つ白色又は淡色で、油脂組成物が記載されている。この油脂組成物は、可塑性油脂100重量部に、α-化架橋エーテル澱粉10~200重量部を配合して得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1の油脂組成物は、焼き菓子を想定した技術であり、パン類を含めた幅広いベーカリー食品に適用できない場合がある。また、澱粉を含む油脂組成物であるため、マーガリン等の加工油脂製品の製造に通常用いられる急冷捏化装置では製造ができない場合がある等の課題があった。
本発明は、汎用の急冷捏化装置でも製造でき、加熱処理後の包餡物の減少を抑制できる包餡用油脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の食用油脂と特定の乳化剤を含む包餡用油脂組成物は、加熱処理後の包餡用油脂組成物由来の包餡物の減少を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
食用油脂と乳化剤を含有する、包餡用油脂組成物であって、
前記食用油脂の30℃における固体脂含量が2%以上20%以下であり、
前記乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルおよびモノグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種である、前記包餡用油脂組成物。
[2]
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸が飽和脂肪酸である、[1]に記載の包餡用油脂組成物。
[3]
前記モノグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸のヨウ素価が0以上100以下である、[1]または[2]に記載の包餡用油脂組成物。
[4]
前記食用油脂の20℃における固体脂含量が5%以上23%以下である、[1]乃至[3]いずれか1項に記載の包餡用油脂組成物。
[5]
前記包餡用油脂組成物中の、前記食用油脂100質量部に対する前記乳化剤の含有量が0.05質量部以上3質量部以下である、[1]乃至[4]いずれか1項に記載の包餡用油脂組成物。
[6]
ベーカリー食品用生地に包餡するための、[1]乃至[5]いずれか1項に記載の包餡用油脂組成物。
[7]
[1]乃至[6]いずれか1項に記載の包餡用油脂組成物を包餡してなる、ベーカリー食品用包餡生地。
[8]
[7]に記載のベーカリー食品用包餡生地を加熱処理されてなる、ベーカリー食品。
[9]
[1]乃至[6]いずれか1項に記載の包餡用油脂組成物を含むベーカリー食品用包餡生地の製造方法であって、
ベーカリー食品用生地を準備する工程と、
前記ベーカリー食品用生地に前記包餡用油脂組成物を包餡する工程と、
を含む前記製造方法。
[10]
[9]の製造方法により得られたベーカリー食品用包餡生地を加熱処理する工程を含む、ベーカリー食品の製造方法。
[11]
ベーカリー食品用生地に包餡用油脂組成物を包餡したベーカリー食品用包餡生地を加熱処理してベーカリー食品を製造する際に、前記ベーカリー食品中の前記包餡用油脂組成物由来の包餡物の減少を抑制する方法であって、
前記包餡用油脂組成物が食用油脂と乳化剤を含有し、
前記食用油脂の30℃における固体脂含量が2%以上20%以下であり、
前記乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルおよびモノグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種である、前記方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の包餡用油脂組成物は、ベーカリー食品中の加熱処理後の包餡用油脂組成物由来の包餡物の減少を抑制することができる。好ましく態様によれば、包餡用油脂組成物由来の包餡物を好ましいドロッとした食感にすることができ、包餡用油脂組成物を包餡する際に、包みやすく作業性にも優れたものにできる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の包餡用油脂組成物、ベーカリー食品用包餡生地、ベーカリー食品、ベーカリー食品用包餡生地の製造方法、ベーカリー食品の製造方法および、包餡物の減少を抑制する方法の具体的な実施の形態を以下に説明する。
なお、本明細書において数値範囲の上限値及び下限値を示したときは、上限値及び下限値を適宜組み合わせることができ、それにより得られた数値範囲も開示しているものとする。
【0011】
本発明の包餡用油脂組成物は、食用油脂と乳化剤を含有し、前記食用油脂の30℃における固体脂含量が2%以上20%以下であり、前記乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルおよびモノグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種である。
【0012】
前記食用油脂の30℃における固体脂含量は、加熱処理後の包餡用油脂組成物由来の包餡物の減少を抑制する観点から、2%以上20%以下であり、3%以上15%以下であることが好ましく、4%以上12%以下であることがより好ましい。ここで、油脂の固体脂含量は、AOCS Official Method Cd16b-93のMethod Iに則り測定した値である。
【0013】
前記食用油脂の20℃における固体脂含量は、加熱処理後の包餡用油脂組成物由来の包餡物の減少を抑制する観点から、5%以上24%以下であることが好ましく、7%以上23%以下であることがより好ましく、9%以上22%以下であることがさらに好ましい。
【0014】
前記食用油脂を構成する脂肪酸の総炭素数(以降CNとも記載)が38以上46以下のトリアシルグリセロール含有量は、加熱処理後の包餡用油脂組成物由来の包餡物の減少を抑制する観点から、3質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。ここで、CNが38以上46以下のトリアシルグリセロール含有量は基準油脂分析試験法の2.4.6.1-1996に従って測定することができる。
【0015】
前記食用油脂に用いられる油脂は、食用として用いられれば特に限定されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、微細藻類油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、あまに油、エゴマ油、カカオ脂、シア脂、サル脂等の植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられ、これらの内から1種又は2種以上を選択することができる。前記食用油脂はエステル交換油脂を含むことが好ましく、パーム分別油脂、パーム極度硬化油、パーム核油、及びパーム核極度硬化油から選ばれた1種または2種以上を原料に含むエステル交換油脂を含むことがより好ましく、パーム分別油脂及びパーム極度硬化油から選ばれた1種または2種と、パーム核油及びパーム核極度硬化油から選ばれた1種または2種、とを原料に含むエステル交換油脂を含むことがさらに好ましい。
【0016】
本発明の包餡用油脂組成物中の前記食用油脂の含有量は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。上限は特にないが、前記食用油脂と前記乳化剤の合計含有量が100質量%以下である。
【0017】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸は、飽和脂肪酸であることが好ましく、ベヘン酸であることがより好ましい。
【0018】
前記モノグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸のヨウ素価は0以上100以下であることが好ましく、1以上90以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明の包餡用油脂組成物中の、前記食用油脂100質量部に対する前記乳化剤の含有量は、加熱処理後の包餡用油脂組成物由来の包餡物の減少を抑制する観点から、0.05質量部以上3質量部以下であることが好ましく、0.08質量部以上2質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以上1質量部以下であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明の包餡用油脂組成物は、油脂を含む油相と水を含む水相とを油中水型に乳化した油中水型油脂組成物であってもよいし、水分が0.5質量%以下であるショートニングであってもよいが、油中水型油脂組成物であることが好ましい。油中水型油脂組成物の場合、連続相である油相の含有量は、好ましくは50質量%以上99.4質量%以下、より好ましくは60質量%以上98質量%以下、さらに好ましくは、70質量%以上85質量%以下である。水相の含有量は、好ましくは0.6質量%以上50質量%以下、より好ましくは2質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは、15質量%以上30質量%以下である。油中水型油脂組成物の例としては、ファットスプレッドやマーガリン等が挙げられる。
【0021】
本発明の包餡用油脂組成物は、包餡物にトロっとした食感を付与する観点から、糖質を含むことが好ましい。糖質としては、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等)、二糖類(ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等)、オリゴ糖、糖アルコール、デンプン、デンプン分解物、多糖類等が挙げられる。なかでも単糖を含むことが好ましく、グルコース及びフルクトースを含むことがより好ましい。グルコース及びフルクトースを含むものとして異性化糖が挙げられる。前記包餡用油脂組成物中の前記糖質の含有量は、5質量%以上25質量%以下であることが好ましく、7質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、9質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。異性化糖やコーンシロップのように液糖を含有する場合は、液糖の含有量に液糖のBrix値を乗じた値を糖質の含有量としてよい。
【0022】
本発明の包餡用油脂組成物には、前記食用油脂、前記乳化剤、前記糖質および水以外に、従来の公知の成分を含んでもよい。公知の成分としては、特に限定されないが、例えば乳、乳製品、蛋白質、塩類、酸味料、pH調整剤、抗酸化剤、香辛料、着色成分、香料等が挙げられる。乳としては、牛乳等が挙げられる。乳製品としては、脱脂乳、クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白濃縮ホエイパウダー、ホエイ蛋白コンセントレート、ホエイ蛋白アイソレート、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等が挙げられる。蛋白質としては、大豆蛋白質、エンドウ豆蛋白質、小麦蛋白質等の植物蛋白質等が挙げられる。抗酸化剤としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物等が挙げられる。香辛料としては、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロン等が挙げられる。着色成分としては、カロテン、アナトー、アスタキサンチン等が挙げられる。香料としては、バターフレーバー、ミルクフレーバー等が挙げられる。また、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル及び前記モノグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤を含んでいてもよい。そのような乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲において添加することができる。
【0023】
本発明の包餡用油脂組成物は、包餡作業性の観点から、可塑性油脂組成物であることが好ましい。可塑性油脂組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば油中水型に乳化した形態のものは、前記油相と前記水相とを、適宜に加熱し混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の密封式急冷捏和装置により急冷捏和し得ることができる。ショートニングは、前記油相を加熱した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の密封式急冷捏和装置により急冷捏和し得ることができる。急冷捏和後には、必要に応じて20℃程度の温度で数日保管する熟成工程を経てもよい。
【0024】
本発明の包餡用油脂組成物は、パンや菓子等のベーカリー食品用生地に包餡される。前記ベーカリー食品用生地は、イーストを含むパン生地でもよく、イーストを含まない焼き菓子生地のいずれでもよいが、パン生地であることが好ましい。
【0025】
前記ベーカリー食品用生地は、穀粉を主成分とし、穀粉としては、通常、バーカリー食品用生地に配合されるものであれば、特に限定されないが、例えば小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉、澱粉等が挙げられる。
【0026】
前記ベーカリー食品用生地には、穀粉以外にも、通常、ベーカリー食品用生地に配合されるものであれば、特に制限なく配合することができる。また、これらの配合量も、特に制限されない。具体的には、例えば、前記包餡油脂組成物が含む成分として挙げた乳、乳製品、蛋白質、糖質の他、マーガリンやファットスプレッド、ショートニングのような加工油脂製品、フラワーペースト、水、卵、卵加工品、塩類、乳化剤、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、豆腐、豆乳、大豆蛋白質、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色料、香料等が挙げられる。
【0027】
前記ベーカリー食品用生地は、上述した原料を用いて従来公知の方法により、得ることができる。例えば、前記原料を縦型ミキサー等で混合してベーカリー食品用生地を準備する。前記ベーカリー食品用生地がパン生地であれば、適宜発酵工程を行ってもよい。
【0028】
本発明の包餡用油脂組成物をベーカリー食品用生地に包餡する工程は、包餡機等を用いて機械的に行ってもよいし、手作業で行ってもよいが、本発明の包餡用油脂組成物は包餡作業性に優れているため、機械的に行うことが好適である。包餡機の具体例としてCN200、CN208、CN500(いずれもレオン自動機株式会社製)等が挙げられる。
【0029】
前記包餡用油脂組成物をベーカリー食品用生地に包餡する工程を経た後、必要に応じてクッキー生地等の上掛け生地、チョコチップ等を付加し、ベーカリー食品用包餡生地が得られる。ベーカリー食品用包餡生地中の前記包餡用油脂組成物の含有量に、特に制限はないが、例えば、10質量%以上40質量%以下である。
【0030】
前記ベーカリー食品用包餡生地を加熱処理する工程を経てベーカリー食品が得られる。加熱処理の手段としては、オーブン加熱、蒸し加熱等が挙げられる。加熱処理の温度に制限はないが、例えば100℃以上300℃以下である。
【0031】
本発明の包餡用油脂組成物を包餡したベーカリー食品用包餡生地を加熱処理して得られたベーカリー食品は、前記包餡用油脂組成物由来の包餡物の減少を抑制されたものとすることができる。包餡物の減少量は、加熱処理手段や加熱処理温度、包餡量により変化するが、例えば、ベーカリー食品用包餡生地に包餡された包餡用油脂組成物の60質量%以下である。
【0032】
前記ベーカリー食品は、包餡ができるものであれば特に制限はない。具体的には、メロンパン、スイートブール等のパン類、フォンダンショコラ等の焼き菓子等が挙げられる。
【0033】
メロンパンやスイートブールのように上掛けされたベーカリー食品の場合、前記包餡用油脂組成物由来の包餡物の減少が抑制されるため、上掛け生地の質量に耐えることができるため、潰れた形状とならずドーム状の形状とすることができる。
【0034】
好ましい態様に依れば、本発明の包餡用油脂組成物を包餡したベーカリー食品用包餡生地を加熱処理して得られたベーカリー食品は、その包餡物を好ましいドロッとした食感とすることができる。ドロッとした食感とは、ジュレのような粘調性を感じられる様を意味する。
【実施例0035】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0036】
(原料)
配合油脂および包餡用油脂組成物の調製に際し、以下のものを使用した。
(原料油脂)
菜種油(製品名:AJONOMOTO さらさらキャノーラ油、株式会社J-オイルミルズ製)
パーム油(株式会社J-オイルミルズ製)
パーム核油(株式会社J-オイルミルズ製)
パームオレイン(ヨウ素価56、株式会社J-オイルミルズ製)
パームステアリン(ヨウ素価32、株式会社J-オイルミルズ製)
乳脂(バターオイルCML、丸和油脂株式会社製)
エステル交換油脂1(後述する「エステル交換油脂1の製造」により得られた油脂)
エステル交換油脂2(後述する「エステル交換油脂2の製造」により得られた油脂)
エステル交換油脂3(後述する「エステル交換油脂3の製造」により得られた油脂)
(乳化剤)
ポリグリセリン脂肪酸エステル(製品名:SYグリスターHB-750(構成脂肪酸:ベヘン酸)、阪本薬品工業株式会社製)
モノグリセリン脂肪酸エステル1(製品名:エマルジーP-100、構成脂肪酸のヨウ素価:1、理研ビタミン株式会社製)
モノグリセリン脂肪酸エステル2(製品名:エマルジーHRO、構成脂肪酸のヨウ素価:83、理研ビタミン株式会社製)
(その他)
異性化糖(ハイフラクトM-75、Brix値:75%、日本コーンスターチ株式会社製)
【0037】
(エステル交換油脂の製造方法)
原料油脂、エステル交換油脂および配合油脂の下記の項目について下記の方法で測定した。
【0038】
(エステル交換油脂1の製造)
パーム油を30質量部及びパーム核油を70質量部混合した混合油に対して、ナトリウムメトキシドを触媒として0.3質量部添加し、80℃、真空度2.7kPaの条件で60分間攪拌しながらランダムエステル交換反応をおこなった。ランダムエステル交換反応後、水洗して触媒を除去した後に、ニッケル触媒にて極度硬化をおこなった。極度硬化後、活性白土を用いて脱色し、更に脱臭をおこなってエステル交換油脂1を得た。
【0039】
(エステル交換油脂2の製造)
パーム油を50質量部及びパーム核油を50質量部混合した混合油を用いたこと以外は、エステル交換油脂1と同じ方法で、エステル交換油脂2を得た。
【0040】
(エステル交換油脂3の製造)
パームオレインを45質量部、パーム核油を30質量部、パームステアリン20質量部及びハイエルシン菜種極度硬化油を5質量部混合した混合油を用いたこと以外は、エステル交換油脂1と同じ方法で、エステル交換油脂3を得た。
【0041】
(測定方法)
原料油脂および後述する配合油脂の下記の項目について下記の方法で測定した。
【0042】
構成する脂肪酸の総炭素数(以後、CNとも記載)が38以上44以下のトリアシルグリセロール含有量は、基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.6.1-1996 トリアシルグリセリン組成(ガスクロマトグラフ法)」により測定して、算出した。
【0043】
ヨウ素価は、基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」により測定した。
【0044】
油脂の固体脂含量は、AOCS Official Method Cd 16b-93に記載のMETHOD Iにより測定した。
【0045】
(包餡用油脂組成物の配合と製造)
包餡用油脂組成物が含有する配合油脂とそれらの固体脂含量、CNが38以上46以下のトリアシルグリセロール含量を表1に、包餡用油脂組成物の配合を表2及び3に示した。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
(包餡用油脂組成物の製造)
表2及び表3の包餡用油脂組成物の油相の配合にしたがい、表2及び表3に記載の食用油脂をそれぞれ70℃に加温後に乳化剤を添加(ただし、比較例2-1は添加しない)溶解し、油相を準備した。表2及び表3の水相の配合にしたがい、水と異性化糖を混合し、60℃の水相を準備した。次に、前記油相に前記水相を添加し、プロペラ撹拌機で撹拌して混合乳化した乳化液をパーフェクターによって急冷捏和し、可塑性を有する油中水型の包餡用油脂組成物を得た。得られた包餡用油脂組成物は5℃に設定された恒温槽に保管した。
【0050】
(包餡ベーカリー食品の製造)
包餡用油脂組成物を用い、次の手順で包餡ベーカリー食品を作製した。表4に示す配合にてパン生地を、表5に示す配合にてクッキー生地を製造した。
【0051】
(パン生地の製造)
フックを取り付けた縦型ミキサー(カントーミキサーHMS型30、関東混合機工業株式会社)にマーガリンを除いた原料を入れ、低速3分、中低速4分ミキシングした後、15℃に調温したマーガリンを混合し、更に低速2分、中低速4分ミキシングし、捏ね上げ温度を28℃で生地を得た。
得られた生地を28℃、相対湿度75%の発酵槽で60分発酵させた後、生地を45gずつ分割し、パン生地を得た。
【0052】
(クッキー生地の製造)
ビーターを取り付けた縦型ミキサー(カントーミキサーHMS型30、関東混合機工業株式会社)に20℃に調温したマーガリンを入れ、低速30秒、中低速1分ミキシングした。上白糖と食塩を加えて中低速1分ミキシングした後、強力粉を加えてさらに30秒ミキシングし、生地を得た。得られた生地をラップに包んで5℃に設定した恒温槽にて30分休ませた後、恒温槽から取り出しラップを取り除いた。麺棒で厚さ3mmに伸ばし、直径11cmのセルクルで切り抜き、約3gのクッキー生地を得た
【0053】
(ベーカリー食品用包餡生地の製造と焼成)
分割したパン生地を丸めて、20℃で30分休ませた後、平らに伸ばしてから18gの包餡用油脂組成物を載せて、パン生地を上部で絞るようにして包餡用油脂組成物を包み、更にクッキー生地を被せてベーカリー食品用包餡生地を得た。ベーカリー食品用包餡生地を35℃、相対湿度75%の発酵槽で50分発酵させた後、20℃で10分放置した。放置後のベーカリー食品用包餡生地を上部200℃、下部200℃に設定したオーブンで12分間焼成し、包餡ベーカリー食品を得た。
【0054】
【0055】
【0056】
(包餡ベーカリー食品の評価)
(作業性)
包餡ベーカリー食品の製造において、パン生地に包餡用油脂組成物を包む際の作業性を、作業者が下記の評価基準にて評価し、3以上を合格とした。評価結果は表2および表3に示した。
[作業性の評価基準]
5:非常に包みやすい
4:包みやすい
3:やや包みやすい
2:包みにくい
1:かなり包みにくい
【0057】
(包餡領域内の残量)
焼成した包餡ベーカリー食品を20℃で2時間放冷した後、包丁で半分に切断した。切断面から包餡領域の残物を抜き取り、質量を測定した。3個の包餡ベーカリー食品の包餡領域内の残量の平均質量を算出し、7g以上を合格とした。結果を表2および表3に示した。
【0058】
(餡のドロッとした食感)
包餡ベーカリー食品を専門パネラー4名が食して、餡のドロッとした食感を下記の評価基準で評価し、評点の平均値を評価値とし、3以上を合格とした。評価値は表2および表3に示した。
5:非常にドロッとしている
4:ドロッとしている
3:ややドロッとしている
2:あまりドロッとしていない
1:ドロッとしていない
【0059】
表2に示すように配合油脂1~5を使用した実施例1-1~1-5の包餡用油脂組成物を使用すると、包餡時に包みやすく、焼成後の包餡領域内の残量が多く、餡のドロッとした好ましい食感が感じられた。表2には記載がないが、焼成後もドーム形の形状を保っていた。これは焼成後の包餡物の減少を抑制されたため、形状を保ちやすかったと考えられる。一方、配合油脂6を使用した比較例1-1の包餡用油脂組成物を使用すると、包餡用油脂組成物が変形しにくくパン生地を均等に伸ばして絞りにくいため、包餡時に包みにくかった。また、焼成後の包餡領域内の残量が少なく、餡のドロッとした好ましい食感があまり感じられなかった。
このことから、30℃における固体脂含量が4.3~12.4%の食用油脂を含む包餡用油脂組成物を使用すると、包餡時に包みやすく、焼成後の包餡領域内の残量が多く、餡のドロッとした好ましい食感が感じられることがわかった。
【0060】
表3に示すように乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルおよびモノグリセリン脂肪酸エステルの1種または2種を含む実施例1-1、2-1~2-5の包餡用油脂組成物を使用すると、包餡時に包みやすく、焼成後の包餡領域内の残量が多く、餡のドロッとした好ましい食感が感じられた。表3には記載がないが、焼成後もドーム形の形状を保っていた。これは焼成後の包餡物の減少を抑制されたため、形状を保ちやすかったと考えられる。一方、ポリグリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステルのいずれも含まない比較例2-1の包餡用油脂組成物を使用すると、包餡時に包みやすいものの、焼成後の包餡領域内の残量が少なく、餡のドロッとした好ましい食感があまり感じられなかった。
このことから、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルおよびモノグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種または2種を含む包餡用油脂組成物を使用すると、包餡時に包みやすく、焼成後の包餡領域内の残量が多く、餡のドロッとした好ましい食感が感じられることがわかった。