(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106045
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】牛蹄の削蹄支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20240731BHJP
【FI】
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010109
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】守 哲平
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC01
5L050CC01
(57)【要約】
【課題】個体に応じた正確な削蹄領域を判定できる牛蹄の削蹄支援システムを提供すること。
【解決手段】本発明の牛蹄の削蹄支援システムは、コンピュータが、削蹄対象牛蹄の牛蹄外郭三次元データを取得するデータ取得ステップS1と、データ取得ステップS1で取得した牛蹄外郭三次元データから推定モデルを用いて削蹄領域を判定する判定ステップS2と、判定ステップS2で判定した削蹄領域を表示する表示ステップS3とを実行することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蹄角質、骨、及び外郭が撮影された学習用牛蹄のCT画像を用い、理想削蹄領域を加えた教師データによって機械学習された推定モデルを用いて削蹄対象牛蹄の削蹄領域を判定し、判定された前記削蹄領域を表示する牛蹄の削蹄支援システムであって、
コンピュータが、
前記削蹄対象牛蹄についての牛蹄外郭三次元データを取得するデータ取得ステップと、
前記データ取得ステップで取得した前記牛蹄外郭三次元データから前記推定モデルを用いて前記削蹄領域を判定する判定ステップと、
前記判定ステップで判定した前記削蹄領域を表示する表示ステップと
を実行する
ことを特徴とする牛蹄の削蹄支援システム。
【請求項2】
前記教師データには、撮影された前記CT画像とともに前記学習用牛蹄の球節周囲長、蹄冠幅、及び理想蹄背壁長を含み、
前記データ取得ステップでは、前記牛蹄外郭三次元データから、前記削蹄対象牛蹄について、球節周囲長、蹄冠幅、及び蹄背壁長測定開始点を取得し、
前記判定ステップでは、前記球節周囲長及び前記蹄冠幅から前記推定モデルを用いて理想蹄背壁長を判定し、
前記表示ステップでは、前記データ取得ステップで取得した前記蹄背壁長測定開始点と、前記判定ステップで判定した前記理想蹄背壁長とによって特定される理想蹄負面を、前記削蹄領域との境界面として表示する
ことを特徴とする請求項1に記載の牛蹄の削蹄支援システム。
【請求項3】
学習用牛蹄の球節周囲長、蹄冠幅、及び理想蹄背壁長に理想削蹄領域を加えた教師データによって機械学習された推定モデルを用いて削蹄対象牛蹄の削蹄領域を判定し、判定された前記削蹄領域を表示する牛蹄の削蹄支援システムであって、
コンピュータが、
前記削蹄対象牛蹄についての牛蹄外郭三次元データから、前記削蹄対象牛蹄について、球節周囲長、蹄冠幅、及び蹄背壁長測定開始点を取得するデータ取得ステップと、
前記球節周囲長及び前記蹄冠幅から前記推定モデルを用いて理想蹄背壁長を判定する判定ステップと、
前記データ取得ステップで取得した前記蹄背壁長測定開始点と、前記判定ステップで判定した前記理想蹄背壁長とによって特定される理想蹄負面を、前記削蹄領域との境界面として表示する表示ステップと
を実行する
ことを特徴とする牛蹄の削蹄支援システム。
【請求項4】
前記表示ステップでは、前記削蹄対象牛蹄の撮影画像に前記削蹄領域を表示する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の牛蹄の削蹄支援システム。
【請求項5】
前記表示ステップでは、現実の前記削蹄対象牛蹄に対してXRによって前記削蹄領域を表示する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の牛蹄の削蹄支援システム。
【請求項6】
前記判定ステップでは、前記削蹄領域とともに、前記削蹄対象牛蹄の蹄角質領域及び骨領域を判定し、
前記表示ステップでは、現実の前記削蹄対象牛蹄に対してXRによって前記削蹄領域、前記蹄角質領域及び前記骨領域を表示する
ことを特徴とする請求項1に記載の牛蹄の削蹄支援システム。
【請求項7】
蹄角質、骨、及び外郭が撮影された学習用牛蹄のCT画像を用いた教師データによって機械学習された推定モデルを用いて削蹄対象牛蹄の蹄角質領域及び骨領域を判定し、判定された前記蹄角質領域及び前記骨領域を表示することで前記削蹄対象牛蹄に対する削蹄を支援する牛蹄の削蹄支援システムであって、
コンピュータが、
前記削蹄対象牛蹄についての牛蹄外郭三次元データを取得するデータ取得ステップと、
前記データ取得ステップで取得した前記牛蹄外郭三次元データから前記推定モデルを用いて前記蹄角質領域及び前記骨領域を判定する判定ステップと、
前記判定ステップで判定した前記蹄角質領域及び前記骨領域を表示する表示ステップと
を実行する
ことを特徴とする牛蹄の削蹄支援システム。
【請求項8】
前記表示ステップでは、前記削蹄対象牛蹄の撮影画像に前記蹄角質領域及び前記骨領域を表示する
ことを特徴とする請求項7に記載の牛蹄の削蹄支援システム。
【請求項9】
前記表示ステップでは、現実の前記削蹄対象牛蹄に対してXRによって前記蹄角質領域及び前記骨領域を表示する
ことを特徴とする請求項7に記載の牛蹄の削蹄支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正確な削蹄領域を判定できる牛蹄の削蹄支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
牛の蹄は1カ月に約1cm伸び、年に2、3回の削蹄を要する。削蹄が適切に行われない場合は、蹄が変形し、歩行や立位が困難になるばかりか、蹄病や筋・関節疾患等を発症する。
濃厚飼料多給などによる飼育方法によっては、蹄が延びやすく、変形を生じやすく、疾患リスクも高まる。
これらの問題は、牛の健康や生産性に深刻な影響を与え、多大な経済的損失をもたらす。
牛の飼養頭数約381万頭に対して、認定牛削蹄師は3,000人程度であり、休職者もいるため、現役の認定牛削蹄師は更に少ない。
また、産業動物臨床獣医師のほとんどが削蹄教育を受けておらず、適切な蹄病治療ができない状況にある。全国各都道府県にある農業大学校(畜産コース)や、大学(獣医学分野)においても、認定牛削蹄師の資格を持つ教員がほとんど存在せず、削蹄教育が十分に行われていない。削蹄教育が可能な大学は、数校のみに限られてしまっている。
1970年代に提唱された“蹄背壁長7.5cm”という削蹄基準は、平均体重が急増した現代の牛の削蹄に適さない。削り足りなければ蹄の変形が進み、疼痛や蹄病を発症するリスクが高まる。削り過ぎれば激しい疼痛を伴い、出血や感染症の原因となる。わずかな削蹄の違いが、牛のウェルフェアレベルに大きく左右する。
このような状況の中で、削蹄の新基準策定に関するニーズが国内外で高まっている。
一方、新基準を定めて世界に発信する研究や、AI、XR、DX等の先端技術を積極的に活用した削蹄支援システムや削蹄教育システムの開発は皆無である。
ところで、特許文献1では、個体差のある牛の蹄の適正な蹄背壁長を認知することで、削蹄師の経験をサポートする削蹄補助具を提案しており、牛蹄の蹄冠幅と適正な蹄背壁長との統計的な相関関係に基づいている。
また、特許文献2では、乳牛等の蹄状態診断システムにおいて、蹄の状態を客観的に診断することができるようにして、削蹄の適期(適正な時期)を容易に知ることができ、乳牛等の動物が脚等の病気になりにくいようにする診断方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-143156号公報
【特許文献2】特開2005-253435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では個体差に応じた適正な蹄背壁長が十分に認知できるとは言えず、特許文献2では、撮像画像中における乳牛の特定の部位の動きに基づいて、撮像した乳牛の蹄の状態を診断するものであり、牛蹄の蹄角質、骨、及び外郭形状で判断するものではない。
なお、削蹄対象牛蹄に対して、CT画像を撮ることができれば、削蹄対象牛蹄の蹄角質領域及び骨領域を把握できるため、削蹄領域を把握できるが、生きた牛に対して牛蹄のCT画像を得ることは容易ではない。
【0005】
そこで本発明は、個体に応じた正確な削蹄領域を判断できる牛蹄の削蹄支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の牛蹄の削蹄支援システムは、蹄角質、骨、及び外郭が撮影された学習用牛蹄のCT画像を用い、理想削蹄領域を加えた教師データによって機械学習された推定モデルを用いて削蹄対象牛蹄の削蹄領域を判定し、判定された前記削蹄領域を表示する牛蹄の削蹄支援システムであって、コンピュータが、前記削蹄対象牛蹄についての牛蹄外郭三次元データを取得するデータ取得ステップS1と、前記データ取得ステップS1で取得した前記牛蹄外郭三次元データから前記推定モデルを用いて前記削蹄領域を判定する判定ステップS2と、前記判定ステップS2で判定した前記削蹄領域を表示する表示ステップS3とを実行することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の牛蹄の削蹄支援システムにおいて、前記教師データには、撮影された前記CT画像とともに前記学習用牛蹄の球節周囲長、蹄冠幅、及び理想蹄背壁長を含み、前記データ取得ステップS1では、前記牛蹄外郭三次元データから、前記削蹄対象牛蹄について、球節周囲長、蹄冠幅、及び蹄背壁長測定開始点を取得し、前記判定ステップS2では、前記球節周囲長及び前記蹄冠幅から前記推定モデルを用いて理想蹄背壁長を判定し、前記表示ステップS3では、前記データ取得ステップS1で取得した前記蹄背壁長測定開始点と、前記判定ステップS2で判定した前記理想蹄背壁長とによって特定される理想蹄負面を、前記削蹄領域との境界面として表示することを特徴とする。
請求項3記載の本発明の牛蹄の削蹄支援システムは、学習用牛蹄の球節周囲長、蹄冠幅、及び理想蹄背壁長に理想削蹄領域を加えた教師データによって機械学習された推定モデルを用いて削蹄対象牛蹄の削蹄領域を判定し、判定された前記削蹄領域を表示する牛蹄の削蹄支援システムであって、コンピュータが、前記削蹄対象牛蹄について牛蹄外郭三次元データから、前記削蹄対象牛蹄について、球節周囲長、蹄冠幅、及び蹄背壁長測定開始点を取得するデータ取得ステップS1と、前記球節周囲長及び前記蹄冠幅から前記推定モデルを用いて理想蹄背壁長を判定する判定ステップS2と、前記データ取得ステップS1で取得した前記蹄背壁長測定開始点と、前記判定ステップS2で判定した前記理想蹄背壁長とによって特定される理想蹄負面を、前記削蹄領域との境界面として表示する表示ステップS3とを実行することを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の牛蹄の削蹄支援システムにおいて、前記表示ステップS3では、前記削蹄対象牛蹄の撮影画像に前記削蹄領域を表示することを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の牛蹄の削蹄支援システムにおいて、前記表示ステップS3では、現実の前記削蹄対象牛蹄に対してXRによって前記削蹄領域を表示することを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項1に記載の牛蹄の削蹄支援システムにおいて、前記判定ステップS2では、前記削蹄領域とともに、前記削蹄対象牛蹄の蹄角質領域及び骨領域を判定し、前記表示ステップS3では、現実の前記削蹄対象牛蹄に対してXRによって前記削蹄領域、前記蹄角質領域及び前記骨領域を表示することを特徴とする。
請求項7記載の本発明の牛蹄の削蹄支援システムは、蹄角質、骨、及び外郭が撮影された学習用牛蹄のCT画像を用いた教師データによって機械学習された推定モデルを用いて削蹄対象牛蹄の蹄角質領域及び骨領域を判定し、判定された前記蹄角質領域及び前記骨領域を表示することで前記削蹄対象牛蹄に対する削蹄を支援する牛蹄の削蹄支援システムであって、コンピュータが、前記削蹄対象牛蹄についての牛蹄外郭三次元データを取得するデータ取得ステップS1と、前記データ取得ステップで取得した前記牛蹄外郭三次元データから前記推定モデルを用いて前記蹄角質領域及び前記骨領域を判定する判定ステップS2と、前記判定ステップで判定した前記蹄角質領域及び前記骨領域を表示する表示ステップS3とを実行することを特徴とする。
請求項8記載の本発明は、請求項7に記載の牛蹄の削蹄支援システムにおいて、前記表示ステップS3では、前記削蹄対象牛蹄の撮影画像に前記蹄角質領域及び前記骨領域を表示することを特徴とする。
請求項9記載の本発明は、請求項7に記載の牛蹄の削蹄支援システムにおいて、前記表示ステップS3では、現実の前記削蹄対象牛蹄に対してXRによって前記蹄角質領域及び前記骨領域を表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、個体に応じた正確な削蹄領域を判断でき、熟練者でなくても適切な削蹄作業を行え、スキル学習にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例における牛蹄の削蹄支援システムのフローチャート
【
図3】撮影装置を用いて撮影された削蹄対象牛蹄の牛蹄外郭三次元データのイメージ図
【
図4】牛蹄の要部(球節周囲長、蹄冠幅、及び蹄背壁長測定開始点)を示す写真
【
図8】本実施例における牛蹄の削蹄支援システムでの表示例を示す図
【
図9】本実施例における牛蹄の削蹄支援システムでの他の表示例を示す図
【
図10】ホルスタイン雌牛屠畜蹄を用いた機械学習の判定結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による牛蹄の削蹄支援システムは、コンピュータが、削蹄対象牛蹄についての牛蹄外郭三次元データを取得するデータ取得ステップと、データ取得ステップで取得した牛蹄外郭三次元データから推定モデルを用いて削蹄領域を判定する判定ステップと、判定ステップで判定した削蹄領域を表示する表示ステップとを実行するものである。本実施の形態によれば、削蹄対象牛蹄の牛蹄外郭三次元データを元に、個体に応じた正確な削蹄領域を判断できるとともに、削蹄領域を表示することで、熟練者でなくても適切な削蹄作業を行え、スキル学習にも利用できる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による牛蹄の削蹄支援システムにおいて、教師データには、撮影されたCT画像とともに学習用牛蹄の球節周囲長、蹄冠幅、及び理想蹄背壁長を含み、データ取得ステップでは、牛蹄外郭三次元データから、削蹄対象牛蹄について、球節周囲長、蹄冠幅、及び蹄背壁長測定開始点を取得し、判定ステップでは、球節周囲長及び蹄冠幅から推定モデルを用いて理想蹄背壁長を判定し、表示ステップでは、データ取得ステップで取得した蹄背壁長測定開始点と、判定ステップで判定した理想蹄背壁長とによって特定される理想蹄負面を、削蹄領域との境界面として表示するものである。本実施の形態によれば、撮影された削蹄対象牛蹄の牛蹄外郭三次元データを元に、個体に応じた正確な削蹄領域を判定できるとともに、削蹄領域との境界面を表示することで、熟練者でなくても適切な削蹄作業を行え、スキル学習にも利用できる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態による牛蹄の削蹄支援システムは、コンピュータが、削蹄対象牛蹄についての牛蹄外郭三次元データから、削蹄対象牛蹄について、球節周囲長、蹄冠幅、及び蹄背壁長測定開始点を取得するデータ取得ステップと、球節周囲長及び蹄冠幅から推定モデルを用いて理想蹄背壁長を判定する判定ステップと、データ取得ステップで取得した蹄背壁長測定開始点と、判定ステップで判定した理想蹄背壁長とによって特定される理想蹄負面を、削蹄領域との境界面として表示する表示ステップとを実行するものである。本実施の形態によれば、削蹄対象牛蹄の牛蹄外郭三次元データを元に、個体に応じた正確な削蹄領域を判定できるとともに、削蹄領域との境界面を表示することで、熟練者でなくても適切な削蹄作業を行え、スキル学習にも利用できる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第1から第3のいずれかの実施の形態による牛蹄の削蹄支援システムにおいて、表示ステップでは、削蹄対象牛蹄の撮影画像に削蹄領域を表示するものである。本実施の形態によれば、適切な削蹄作業を行え、スキル学習にも利用できる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第1から第3のいずれかの実施の形態による牛蹄の削蹄支援システムにおいて、表示ステップでは、現実の削蹄対象牛蹄に対してXRによって削蹄領域を表示するものである。本実施の形態によれば、作業者や学習者に対して正しい削蹄領域を示すことができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第1の実施の形態による牛蹄の削蹄支援システムにおいて、判定ステップでは、削蹄領域とともに、削蹄対象牛蹄の蹄角質領域及び骨領域を判定し、表示ステップでは、現実の削蹄対象牛蹄に対してXRによって削蹄領域、蹄角質領域及び骨領域を表示するものである。本実施の形態によれば、削蹄領域だけでなく、蹄角質領域及びや骨領域を表示することで、作業者や学習者のスキル向上につながる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態による牛蹄の削蹄支援システムは、コンピュータが、削蹄対象牛蹄についての牛蹄外郭三次元データを取得するデータ取得ステップS1と、データ取得ステップで取得した牛蹄外郭三次元データから推定モデルを用いて蹄角質領域及び骨領域を判定する判定ステップS2と、判定ステップで判定した蹄角質領域及び骨領域を表示する表示ステップS3とを実行するものである。本実施の形態によれば、削蹄対象牛蹄の牛蹄外郭三次元データを元に、個体に応じた正確な蹄角質領域及び骨領域を表示することで、熟練者でなくても適切な削蹄作業を行え、スキル学習にも利用できる。
【0016】
本発明の第8の実施の形態は、第7の実施の形態による牛蹄の削蹄支援システムにおいて、表示ステップでは、削蹄対象牛蹄の撮影画像に蹄角質領域及び骨領域を表示するものである。本実施の形態によれば、適切な削蹄作業を行え、スキル学習にも利用できる。
【0017】
本発明の第9の実施の形態は、第7の実施の形態による牛蹄の削蹄支援システムにおいて、表示ステップでは、現実の削蹄対象牛蹄に対してXRによって蹄角質領域及び骨領域を表示するものである。本実施の形態によれば、作業者や学習者に対して正しい削蹄領域を判断させることができる。
【実施例0018】
以下に、本発明の牛蹄の削蹄支援システムの一実施例について説明する。
図1は本発明の一実施例における牛蹄の削蹄支援システムのフローチャートである。
本実施例における牛蹄の削蹄支援システムは、コンピュータが、削蹄対象牛蹄についての牛蹄外郭三次元データを取得するデータ取得ステップ(S1)と、データ取得ステップ(S1)で取得した牛蹄外郭三次元データから推定モデルを用いて、蹄角質領域、骨領域、及び削蹄領域を判定する判定ステップ(S2)と、判定ステップ(S2)で判定した削蹄領域を表示する表示ステップ(S3)とを実行する。
データ取得ステップ(S1)で取得する牛蹄外郭三次元データは、撮影対象物までの測距が可能な撮影装置を用いて撮影することで得ることができる。
このような撮影装置としては、例えば、LiDAR(Light Detection And Ranging)センサを内蔵したカメラを用いることができる。LiDARセンサによって、撮影対象物までの距離や形状を測定することができる。
また、牛蹄外郭三次元データは、異なる角度で撮影された写真から作成されるフォトグラメトリによって得ることもできる。
更には、牛蹄外郭三次元データは、レーザースキャンや白色光スキャンなどで得たデータを用いて作成してもよい。
なお、撮影装置などで三次元データを得る場合には、削蹄対象牛蹄とともに校正球を撮影又はスキャンすることで正確な実寸データに校正することができる。
【0019】
図2は、撮影装置で撮影する削蹄対象牛蹄を示しており、1頭の牛に対して、4本の足をすべて撮影する。
【0020】
図3は、このような撮影装置を用いて撮影された削蹄対象牛蹄の牛蹄外郭三次元データのイメージ図である。
データ取得ステップ(S1)では、牛蹄外郭三次元データから、削蹄対象牛蹄について、更に、球節周囲長、蹄冠幅、及び蹄背壁長測定開始点を取得することもできる。
【0021】
図4は、牛蹄の要部写真であり、球節周囲長、蹄冠幅、及び蹄背壁長測定開始点を示している。
なお、球節周囲長、蹄冠幅、及び蹄背壁長測定開始点については、コンピュータが画像認識によって特徴点を特定して判別及び算出することもできるが、人為的に特徴点を特定することで、コンピュータによって算出することもできる。
【0022】
判定ステップ(S2)で用いる推定モデルは、蹄角質、骨、及び外郭が撮影された学習用牛蹄のCT画像を用いた教師データによって機械学習される。教師データには、理想削蹄領域を加えることが好ましい。
教師データには、一つの学習用牛蹄に対して所定のスライス幅(例えば1mm)でスキャンされた複数枚のCT画像を用いることが好ましい。複数枚のCT画像には、異なる方向の断面によるCT画像を用いることもできる。複数枚のCT画像による三次元の教師データとすることで、蹄角質領域及び骨領域、並びに削蹄領域を精度よく判定することができる。
図5は学習用牛蹄のCT画像である。
図5(a)は撮影されたCT画像、
図5(b)は
図5(a)のCT画像を元にした学習用牛蹄の外郭を識別した画像、
図5(c)は
図5(a)のCT画像を元にした学習用牛蹄の外郭、蹄角質領域、及び骨領域を識別した画像、
図5(d)は
図5(a)のCT画像を元に理想削蹄領域を加えた画像である。
図5(a)に示すように、撮影されたCT画像によって蹄角質領域及び骨領域、並びに外郭を判定可能であり、
図5(a)に示すCT画像に、
図5(d)に示す理想削蹄領域を加えた画像を教師データとして用いることができる。
また、
図5(a)に示すCT画像の代わりに、
図5(b)に示す外郭を識別した画像と
図5(d)に示す理想削蹄領域を加えた画像を教師データとして用いることができる。
また、
図5(a)に示すCT画像の代わりに、
図5(c)に示す外郭、蹄角質領域、及び骨領域を識別した画像と
図5(d)に示す理想削蹄領域を加えた画像を教師データとして用いることができる。
図5(d)に示す理想削蹄領域を加えた画像を教師データとすることで削蹄領域を精度よく判定することができる。
また、
図5(c)に示す外郭、蹄角質領域、及び骨領域を識別した画像を教師データとすることで、蹄角質領域及び骨領域を精度よく判定することができ、判定した蹄角質領域及び骨領域を表示することでも、削蹄作業を支援できる。
【0023】
図6は理想削蹄領域の説明用画像である。
図6中に示すように、蹄底角質内側面から蹄角質の厚さを例えば5mmから7mmとなる位置を理想蹄負面として、理想蹄負面を形成する蹄底角質の厚さよりも厚い蹄角質を削蹄領域とする。
このように、削蹄領域は、理想蹄負面を基準とするため、表示ステップで表示される切削領域は、
図8に示すように理想蹄負面よりも下方であってもよい。
また、教師データとする理想削蹄領域は、三次元の画像データを元に理想蹄負面を決定することで得ることができるが、二次元の画像データで理想蹄負面を決定することでも得ることができる。
【0024】
図7は教師データを示す画像であり、
図7(a)は学習用牛蹄の外郭、蹄角質領域、及び骨領域を識別した画像、
図7(b)は
図7(a)に示す画像に更に理想削蹄領域を加えた画像である。
【0025】
なお、教師データには、撮影されたCT画像(CT画像には、
図5(b)や
図5(c)に示す画像を含む)とともに、学習用牛蹄の球節周囲長、蹄冠幅、及び理想蹄背壁長を含むものでもよい。
教師データに、学習用牛蹄の球節周囲長、蹄冠幅、及び理想蹄背壁長を含む場合には、判定ステップ(S2)では、球節周囲長及び蹄冠幅から推定モデルを用いて理想蹄背壁長を判定することができる。
学習用牛蹄の球節周囲長、蹄冠幅、及び理想蹄背壁長を教師データに含む場合には、表示ステップ(S3)では、データ取得ステップ(S1)で取得した蹄背壁長測定開始点と、判定ステップ(S2)で判定した理想蹄背壁長とによって特定される理想蹄負面を、削蹄領域との境界面として表示することができる。
【0026】
また、判定ステップ(S2)で用いる推定モデルは、学習用牛蹄の球節周囲長、蹄冠幅、及び理想蹄背壁長に理想削蹄領域を加えた教師データによって機械学習されるものであってもよい。
学習用牛蹄の球節周囲長、蹄冠幅、及び理想蹄背壁長に理想削蹄領域を加えた教師データによって機械学習される推定モデルを用いる場合には、データ取得ステップ(S1)では、撮影された削蹄対象牛蹄の牛蹄外郭三次元データから、削蹄対象牛蹄について、球節周囲長、蹄冠幅、及び蹄背壁長測定開始点を取得し、判定ステップ(S2)では、球節周囲長及び蹄冠幅から推定モデルを用いて理想蹄背壁長を判定し、表示ステップ(S3)では、データ取得ステップ(S1)で取得した蹄背壁長測定開始点と、判定ステップ(S2)で判定した理想蹄背壁長とによって特定される理想蹄負面を、削蹄領域との境界面として表示する。
【0027】
図8は本実施例における牛蹄の削蹄支援システムでの表示例を示す図である。
図8に示す表示例では、削蹄対象牛蹄の撮影画像に削蹄領域を表示している。このように、削蹄対象牛蹄の撮影画像に削蹄領域を表示することで、適切な削蹄作業を行え、スキル学習にも利用できる。
【0028】
図9は本実施例における牛蹄の削蹄支援システムでの他の表示例を示す図である。
図9に示す表示例では、現実の削蹄対象牛蹄に対して、VR、AR、MR等の総称であるXRによって削蹄領域を表示している。このように、現実の削蹄対象牛蹄に対してXRによって削蹄領域を表示することで、作業者や学習者に対して正しい削蹄領域を示すことができる。
なお、
図9では、削蹄領域だけを現実の削蹄対象牛蹄に重ねて表示した場合を示しているが、削蹄領域とともに、蹄角質領域及び骨領域を表示することが好ましい。このように、現実の削蹄対象牛蹄に対してXRによって削蹄領域とともに、蹄角質領域及び骨領域を表示することで、作業者や学習者のスキル向上を図ることができる。なお、削蹄領域とともに、蹄角質領域及び骨領域を表示する場合には、判定ステップ(S2)では、削蹄領域とともに、削蹄対象牛蹄の蹄角質領域及び骨領域を判定する。
【0029】
ホルスタイン雌牛屠畜蹄92本(前肢牛蹄40本、後肢牛蹄52本)を用いて機械学習の判定精度を検証した。
ホルスタイン雌牛屠畜蹄についてCT画像を取得し、CT値によって骨領域と蹄角質領域とを色分けし、色分けされた画像を元に、
図6に示すように、蹄底角質内側面を判別し、理想蹄負面を決定して削蹄領域に着色を施して識別した。
ホルスタイン雌牛屠畜蹄92本の内、75%を機械学習用に用い、12.5%を検証用に用い、テスト用に12.5%を用いた。
図10(a)は前肢、
図10(b)は後肢についての機械学習の判定結果を示している。
図10(a)に示すように、前肢については、骨の判定精度は88.5%、蹄角質の判定精度は89.0%、削蹄領域の判定精度は68.0%であり、
図10(b)に示すように、後肢については、骨の判定精度は84.4%、蹄角質の判定精度は87.2%、削蹄領域の判定精度は67.2%であった。
このように、牛蹄の内部構造である骨領域や蹄角質領域、更には削蹄領域について、一定の確率で推定できることが検証された。
【0030】
以上のように、本実施例は、学習用牛蹄のCT画像に理想削蹄領域を加えた教師データ、又は学習用牛蹄の球節周囲長、蹄冠幅、及び理想蹄背壁長に理想削蹄領域を加えた教師データによって機械学習された推定モデルを用いて削蹄対象牛蹄の削蹄領域を判定し、判定された削蹄領域を表示する牛蹄の削蹄支援システムであり、撮影された削蹄対象牛蹄の牛蹄外郭三次元データを基に、個体に応じた正確な削蹄領域を判定できるとともに、削蹄領域を表示することで、熟練者でなくても適切な削蹄作業を行え、スキル学習にも利用できる。