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特開2024-106191ターゲット供給装置、及び電子デバイスの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106191
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】ターゲット供給装置、及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20240731BHJP
   H05G 2/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
G03F7/20 503
H05G2/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010363
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】300073919
【氏名又は名称】ギガフォトン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 真生
【テーマコード(参考)】
2H197
4C092
【Fターム(参考)】
2H197CA10
2H197GA01
2H197GA05
2H197GA24
4C092AA06
4C092AB10
4C092AB19
4C092AC09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ターゲット供給装置のノズル表面の稼働時間の経過に伴う撥スズ性の低下を抑制する。
【解決手段】ターゲット供給装置は、EUV光を生成するためにレーザ光が集光される集光位置にスズを含む液体状のターゲット物質を供給するターゲット供給装置であって、ターゲット物質を収容するタンクと、タンクの内部と連通し、ターゲット物質が通過するノズル孔が形成されたノズルと、を備え、ノズル孔が設けられ、かつ集光位置に対向するノズルの表面には、表面の材質によって発揮される撥スズ性よりも大きな撥スズ性を発揮する凹凸構造が形成されている。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EUV光を生成するために、レーザ光が集光される集光位置にスズを含む液体状のターゲット物質を供給するターゲット供給装置であって、
前記ターゲット物質を収容するタンクと、
前記タンクの内部と連通し、前記ターゲット物質が通過するノズル孔が形成されたノズルと、
を備え、
前記ノズル孔が設けられ、かつ前記集光位置に対向する前記ノズルの表面には、前記表面の材質によって発揮される撥スズ性よりも大きな撥スズ性を発揮する凹凸構造が形成されている、
ターゲット供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載のターゲット供給装置であって、
前記表面の材質は、酸化モリブデン、酸化タングステン、アルミナ、及び石英のうちのいずれかである。
【請求項3】
請求項1に記載のターゲット供給装置であって、
前記凹凸構造は、前記ノズル孔を囲う領域に設けられている。
【請求項4】
請求項3に記載のターゲット供給装置であって、
前記表面は、前記凹凸構造の外側に、前記凹凸構造よりも撥スズ性が小さい平面領域を有する。
【請求項5】
請求項1に記載のターゲット供給装置であって、
前記凹凸構造は、複数の凸部と複数の凹部とを有し、前記凸部は少なくとも一方向に所定の配列ピッチで配列されている。
【請求項6】
請求項5に記載のターゲット供給装置であって、
前記配列ピッチは、0.2μmより大きく2μmより小さい。
【請求項7】
請求項6に記載のターゲット供給装置であって、
前記凸部の高さは、0.2μmより大きく2μmより小さい。
【請求項8】
請求項5に記載のターゲット供給装置であって、
前記凸部は、多角柱、円柱、多角錐、円錐、半球、断面が多角形の壁形状、又は、断面が円形の壁形状である。
【請求項9】
請求項1に記載のターゲット供給装置であって、
前記凹凸構造の表面に酸化膜を備える。
【請求項10】
電子デバイスの製造方法であって、
EUV光を生成するために、レーザ光が集光される集光位置にスズを含む液体状のターゲット物質を供給するターゲット供給装置であって、前記ターゲット物質を収容するタンクと、前記タンクの内部と連通し、前記ターゲット物質が通過するノズル孔が形成されたノズルと、を備え、前記ノズル孔が設けられ、かつ前記集光位置に対向する前記ノズルの表面には、前記表面の材質によって発揮される撥スズ性よりも大きな撥スズ性を発揮する凹凸構造が形成されている、ターゲット供給装置
を備えるEUV光生成装置によって生成した前記EUV光を露光装置に出力し、
電子デバイスを製造するために、前記露光装置内で感光基板上に前記EUV光を露光すること、
を含む電子デバイスの製造方法。
【請求項11】
電子デバイスの製造方法であって、
EUV光を生成するために、レーザ光が集光される集光位置にスズを含む液体状のターゲット物質を供給するターゲット供給装置であって、前記ターゲット物質を収容するタンクと、前記タンクの内部と連通し、前記ターゲット物質が通過するノズル孔が形成されたノズルと、を備え、前記ノズル孔が設けられ、かつ前記集光位置に対向する前記ノズルの表面には、前記表面の材質によって発揮される撥スズ性よりも大きな撥スズ性を発揮する凹凸構造が形成されている、ターゲット供給装置
を備えるEUV光生成装置によって生成した前記EUV光をマスクに照射して前記マスクの欠陥を検査し、
前記検査の結果を用いてマスクを選定し、
前記選定したマスクに形成されたパターンを感光基板上に露光転写すること、
を含む電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ターゲット供給装置、及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセスの微細化に伴って、半導体プロセスの光リソグラフィにおける転写パターンの微細化が急速に進展している。次世代においては、10nm以下の微細加工が要求されるようになる。このため、波長約13nmの極端紫外(EUV:Extreme Ultraviolet)光を生成するための装置と縮小投影反射光学系とを組み合わせた半導体露光装置の開発が期待されている。
【0003】
EUV光生成装置としては、ターゲット物質にレーザ光を照射することによって生成されるプラズマが用いられるLaser Produced Plasma(LPP)式の装置の開発が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7405416号明細書
【特許文献2】米国特許第10251253号明細書
【特許文献3】米国特許第10506697号明細書
【特許文献4】特開2001-152138号公報
【特許文献5】米国特許第9544982号明細書
【概要】
【0005】
本開示の1つの観点に係るターゲット供給装置は、EUV光を生成するために、レーザ光が集光される集光位置にスズを含む液体状のターゲット物質を供給するターゲット供給装置であって、ターゲット物質を収容するタンクと、タンクの内部と連通し、ターゲット物質が通過するノズル孔が形成されたノズルと、を備え、ノズル孔が設けられ、かつ集光位置に対向するノズルの表面には、表面の材質によって発揮される撥スズ性よりも大きな撥スズ性を発揮する凹凸構造が形成されている。
【0006】
本開示の1つの観点に係る電子デバイスの製造方法は、EUV光を生成するために、レーザ光が集光される集光位置にスズを含む液体状のターゲット物質を供給するターゲット供給装置であって、ターゲット物質を収容するタンクと、タンクの内部と連通し、ターゲット物質が通過するノズル孔が形成されたノズルと、を備え、ノズル孔が設けられ、かつ集光位置に対向するノズルの表面には、表面の材質によって発揮される撥スズ性よりも大きな撥スズ性を発揮する凹凸構造が形成されている、ターゲット供給装置を備えるEUV光生成装置によって生成したEUV光を露光装置に出力し、電子デバイスを製造するために、露光装置内で感光基板上にEUV光を露光すること、を含む。
【0007】
本開示の1つの観点に係る電子デバイスの製造方法は、EUV光を生成するために、レーザ光が集光される集光位置にスズを含む液体状のターゲット物質を供給するターゲット供給装置であって、ターゲット物質を収容するタンクと、タンクの内部と連通し、ターゲット物質が通過するノズル孔が形成されたノズルと、を備え、ノズル孔が設けられ、かつ集光位置に対向するノズルの表面には、表面の材質によって発揮される撥スズ性よりも大きな撥スズ性を発揮する凹凸構造が形成されている、ターゲット供給装置を備えるEUV光生成装置によって生成したEUV光をマスクに照射してマスクの欠陥を検査し、検査の結果を用いてマスクを選定し、選定したマスクに形成されたパターンを感光基板上に露光転写すること、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。
図1図1は、電子デバイス製造装置の構成例を示す模式図である。
図2図2は、図1に示す電子デバイス製造装置とは別の電子デバイス製造装置の構成例を示す模式図である。
図3図3は、比較例に係るEUV光生成装置の構成を示す模式図である。
図4図4は、EUV光生成装置の稼働直後の初期状態におけるノズルの状態を示す断面図である。
図5図5は、初期状態において表面にスズ粒子が付着した様子を示すノズルの拡大断面図である。
図6図6は、一定の稼働時間経過後において表面にスズ粒子が付着した様子を示すノズルの拡大断面図である。
図7図7は、表面の撥スズ性が低下した直後の第1期間におけるノズルの状態を示す断面図である。
図8図8は、第1期間後の第2期間におけるノズルの状態を示す断面図である。
図9図9は、第2期間後の第3期間におけるノズルの状態を示す断面図である。
図10図10は、第3期間後の第4期間におけるノズルの状態を示す断面図である。
図11図11は、第1実施形態に係るターゲット供給装置が備えるノズルの構成を示す断面図である。
図12図12は、第1実施形態に係るノズルの表面の撥スズ性を説明するノズルの拡大断面図である。
図13図13は、ノズルの材質をモリブデンやタングステンなどの金属とした場合における凹凸構造の状態変化を示す拡大断面図である。
図14図14は、第1実施形態に係るノズルの表面にスズ粒子が付着して成長する様子を示す断面図である。
図15図15は、第1実施形態に係るノズルの表面にスズ粒子が付着して成長する様子を示す断面図である。
図16図16は、第1実施形態に係るノズルの表面にスズ粒子が付着して成長する様子を示す断面図である。
図17図17は、第2実施形態に係るターゲット供給装置が備えるノズルの構成を示す断面図である。
図18図18は、凹凸構造で成長したスズ粒子が平面領域へ移動する様子を示すノズルの拡大断面図である。
図19図19は、凹凸構造の構成例を示す斜視図である。
図20図20は、凹凸構造が撥スズ性を発揮するための条件の一例を示す表である。
図21図21は、凹凸構造の第1変形例を示す斜視図である。
図22図22は、凹凸構造の第2変形例を示す斜視図である。
図23図23は、凹凸構造の第3変形例を示す斜視図である。
図24図24は、凹凸構造の第4変形例を示す斜視図である。
図25図25は、凹凸構造の第5変形例を示す斜視図である。
図26図26は、凹凸構造の第6変形例を示す斜視図である。
図27図27は、凹凸構造の第7変形例を示す斜視図である。
【実施形態】
【0009】
<内容>
1.概要
2.電子デバイス製造装置
3.比較例に係るEUV光生成装置
3.1 構成及び動作
3.2 課題
4.第1実施形態に係るEUV光生成装置
4.1 構成及び動作
4.2 効果
5.第2実施形態に係るEUV光生成装置
5.1 構成及び動作
5.2 効果
6.凹凸構造
6.1 条件
6.2 変形例
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。以下に説明される実施形態は、本開示のいくつかの例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
1.概要
本開示の実施形態は、EUV光生成装置に用いられるターゲット供給装置、及び電子デバイス製造装置に関するものである。
【0012】
2.電子デバイス製造装置
図1は、電子デバイス製造装置の構成例を示す。図1に示す電子デバイス製造装置は、EUV光生成装置100及び露光装置200を含む。露光装置200は、反射光学系である複数のミラー211,212を含むマスク照射部210と、マスク照射部210の反射光学系とは別の反射光学系である複数のミラー221,222を含むワークピース照射部220と、を含む。
【0013】
マスク照射部210は、EUV光生成装置100から入射するEUV光101によって、ミラー211,212を介してマスクテーブルMTのマスクパターンを照明する。ワークピース照射部220は、マスクテーブルMTによって反射されるEUV光101を、ミラー221,222を介してワークピーステーブルWT上に配置される不図示のワークピース上に結像させる。ワークピースは、フォトレジストが塗布される半導体ウエハなどの感光基板である。露光装置200は、マスクテーブルMTとワークピーステーブルWTとを同期して平行移動させることにより、マスクパターンを反映したEUV光101をワークピースに露光する。以上のような露光ステップによって半導体ウエハにデバイスパターンを転写することで半導体デバイスを製造することができる。
【0014】
図2は、図1に示す電子デバイス製造装置とは別の電子デバイス製造装置の構成例を示す。図2に示す電子デバイス製造装置は、EUV光生成装置100、及び検査装置300を含む。検査装置300は、反射光学系である複数のミラー311,313,315を含む照明光学系310と、照明光学系310の反射光学系とは別の反射光学系である複数のミラー321,323、及び検出器325を含む検出光学系320と、を含む。
【0015】
照明光学系310は、EUV光生成装置100から入射するEUV光101をミラー311,313,315で反射して、マスクステージ331に配置されるマスク333を照射する。マスク333は、パターンが形成される前のマスクブランクスを含む。検出光学系320は、マスク333からのパターンを反映したEUV光101をミラー321,323で反射して検出器325の受光面に結像させる。EUV光101を受光した検出器325は、マスク333の画像を取得する。検出器325は、例えばTDI(Time Delay Integration)カメラである。以上のようなステップによって取得されるマスク333の画像により、マスク333の欠陥を検査し、検査の結果を用いて、電子デバイスの製造に適するマスクを選定する。そして、選定したマスクに形成されるパターンを、露光装置200を用いて感光基板上に露光転写することで電子デバイスを製造することができる。
【0016】
3.比較例に係るEUV光生成装置
3.1 構成及び動作
以下では、図1に示すように外部装置としての露光装置200に向けてEUV光101を出射するEUV光生成装置100を用いて説明する。図2に示すように外部装置としての検査装置300に向けてEUV光101を出射するEUV光生成装置100についても同様である。本開示において、鉛直方向をZ方向とし、Z方向に直交する1つの方向をX方向とし、Z方向及びX方向に直交する方向をY方向とする。
【0017】
図3は、比較例に係るEUV光生成装置100の構成を示す。図3に示すように、EUV光生成装置100は、チャンバ10、レーザ装置LD、プロセッサ120、及びレーザ光デリバリ光学系30を主な構成として含む。
【0018】
チャンバ10は、密閉可能な容器である。チャンバ10は、低圧雰囲気の内部空間を囲う内壁10bを含む。また、チャンバ10は、サブチャンバ15を含み、サブチャンバ15には、サブチャンバ15の壁を貫通するように後述のステージ機構49を介してターゲット供給装置40が取り付けられている。ターゲット供給装置40は、タンク41、ノズル42、及び圧力調節器43を含み、ターゲット物質Mをチャンバ10の内部空間に供給する。
【0019】
タンク41は、その内部にスズ(Sn)を含むターゲット物質Mを収容している。タンク41の内部は、タンク41内の圧力を調節する圧力調節器43と連通している。タンク41には、ヒータ44及び温度センサ45が取り付けられている。ヒータ44は、ヒータ電源46から供給される電流により、タンク41を加熱する。この加熱により、タンク41内のターゲット物質Mは溶融する。温度センサ45は、タンク41を介してタンク41内のターゲット物質Mの温度を測定する。圧力調節器43、温度センサ45、及びヒータ電源46は、プロセッサ120に電気的に接続されている。
【0020】
ノズル42は、タンク41に取り付けられている。ノズル42には、タンク41の内部と連通しており、液体状のターゲット物質Mが通過する貫通孔であるノズル孔42aが形成されている。ノズル42の表面42bは、ノズル孔42aが設けられ、かつ後述するレーザ光90の集光位置FPに対向している。また、ノズル42の表面42bは、X方向及びY方向に平行であって、Z方向から平面視した場合、ノズル孔42aを中心とした円形状である。例えば、ノズル42の表面42bの直径は20mmであり、ノズル孔42aの直径は3μmである。
【0021】
ノズル42は、ノズル孔42aからジェット状にターゲット物質Mを吐出する。ノズル42には、ピエゾ素子47が取り付けられている。ピエゾ素子47は、ピエゾ電源48に電気的に接続されており、ピエゾ電源48から印加される電圧で駆動されて振動する。ピエゾ電源48は、プロセッサ120に電気的に接続されている。ピエゾ素子47の振動により、ノズル孔42aから吐出されるジェット状のターゲット物質Mは、所定の直径を有するドロップレット状のターゲット物質Mに変化して、集光位置FPに向かって落下する。ノズル孔42aから集光位置FPに向かって落下するターゲット物質Mの軌道は、Z方向に平行な直線状である。
【0022】
チャンバ10は、ターゲット回収部14を含む。ターゲット回収部14は、チャンバ10の内壁10bに取り付けられた箱体であり、チャンバ10の内壁10bに設けられた開口10aを介してチャンバ10の内部空間に連通している。開口10aは、ノズル42の直下に設けられている。ターゲット回収部14は、開口10aを通過してターゲット回収部14に到達する不要なターゲット物質Mを回収するドレインタンクである。
【0023】
ノズル42の材質として、金属、セラミック、ガラスなどが選択可能である。特にターゲット物質Mがスズを含み、かつノズル42の材質として金属を選択する場合は、ターゲット物質Mの溶融温度と腐食とに耐え得るように、モリブデンやタングステンなどを選択することが好ましい。
【0024】
サブチャンバ15には、タンク41を水平方向に移動可能に保持するステージ機構49が設けられている。ステージ機構49は、後述するレーザ光90の集光位置FPからのターゲット物質Mの軌道の位置ズレを補正するために、ノズル42の位置をXY平面内で移動させる機能を有する。
【0025】
チャンバ10の内壁10bには、少なくとも1つの貫通孔が設けられている。この貫通孔は、レーザ装置LDから出射されるパルス状のレーザ光90が透過するウィンドウ12によって塞がれている。
【0026】
また、チャンバ10の内部空間には、レーザ集光光学系13が設けられている。レーザ集光光学系13は、レーザ光集光ミラー13a及び高反射ミラー13bを含む。レーザ光集光ミラー13aは、ウィンドウ12を透過するレーザ光90を反射して集光する。高反射ミラー13bは、レーザ光集光ミラー13aが集光するレーザ光90を反射する。レーザ光集光ミラー13a及び高反射ミラー13bの位置は、レーザ光マニュピレータ13cにより、チャンバ10の内部空間でのレーザ光90の集光位置FPがプロセッサ120から指定された位置になるように調節される。集光位置FPは、ノズル42のノズル孔42aの直下に位置するように調節されている。
【0027】
集光位置FPにおいてドロップレット状のターゲット物質Mにレーザ光90が照射されると、プラズマが生成されるとともに、プラズマからEUV光101が放射される。このとき、ターゲット物質Mの一部は、スズ粒子として飛散し、ノズル42の表面42bなどのチャンバ10内の構成要素に堆積する。
【0028】
チャンバ10の内部空間には、例えば、回転楕円面形状の反射面75aを含むEUV光集光ミラー75が設けられている。EUV光集光ミラー75は、チャンバ10の内部空間におけるレーザ光90の光路と重ならない位置に配置されている。反射面75aは、集光位置FPにおいてプラズマから放射されるEUV光101を反射する。反射面75aは、第1焦点及び第2焦点を含む。反射面75aは、例えば、第1焦点が集光位置FPに位置し、第2焦点が中間集光点IFに位置するように配置されている。
【0029】
また、EUV光生成装置100は、チャンバ10の内部空間及び露光装置200の内部空間を連通させる接続部19を含む。接続部19の内部には、アパーチャが形成された壁が配置されている。この壁は、アパーチャが第2焦点に位置するように配置されていることが好ましい。接続部19は。EUV光生成装置100におけるEUV光101の出射口である。EUV光101は、接続部19からEUV光生成装置100の外部に出射されて露光装置200に入射する。
【0030】
また、EUV光生成装置100は、圧力センサ26、及びターゲットセンサとしての検出部27を含む。圧力センサ26及び検出部27は、チャンバ10に取り付けられ、プロセッサ120に電気的に接続されている。圧力センサ26は、チャンバ10の内部空間の圧力を計測し、計測した圧力を示す信号をプロセッサ120に出力する。
【0031】
検出部27は、例えば撮像機能を含み、プロセッサ120からの指示によってノズル42から吐出されるターゲット物質Mの存在、軌跡、位置、流速などを検出する。検出部27は、チャンバ10の内部に配置されてもよいし、チャンバ10の外部に配置されてチャンバ10の壁に設けられる不図示のウィンドウを介してターゲット物質Mを検出してもよい。検出部27は、不図示の受光光学系と、例えばCCD(Charge-Coupled Device)やフォトダイオードなどの不図示の撮像部と、を含む。受光光学系は、ターゲット物質Mの検出精度を向上させるために、ターゲット物質Mの軌跡及びその周囲における像を撮像部の受光面に結像する。
【0032】
検出部27の視野内のコントラストを向上させるために不図示の光源が配置されている。撮像部は、光源による光の集光領域をターゲット物質Mが通過するときに、ターゲット物質Mの軌跡及びその周囲を通る光の変化を検出する。撮像部は、検出した光の変化を、ターゲット物質Mのイメージデータに変換する。撮像部は、この電気信号をプロセッサ120に出力する。
【0033】
レーザ装置LDは、バースト動作するマスターオシレータを含む。マスターオシレータは、バーストオンでパルス状のレーザ光90を出射する。マスターオシレータは、例えば、ヘリウムや窒素などが炭酸ガス中に混合される気体を放電によって励起することで、レーザ光90を出射するレーザ装置である。マスターオシレータは、量子カスケードレーザ装置であってもよい。また、マスターオシレータは、Qスイッチ方式により、パルス状のレーザ光90を出射してもよい。また、マスターオシレータは、光スイッチや偏光子などを含んでもよい。なお、バースト動作とは、バーストオン時に連続するパルス状のレーザ光90を所定の繰り返し周波数で出射し、バーストオフ時にレーザ光90の出射を抑制する動作である。
【0034】
レーザ装置LDから出射されたレーザ光90の進行方向は、レーザ光デリバリ光学系30によって調節される。レーザ光デリバリ光学系30は、レーザ光90の進行方向を調節する複数のミラー31,32を含む。ミラー31,32の少なくとも1つの位置は、不図示のアクチュエータで調節される。ミラー31,32の少なくとも1つの位置が調節されることで、レーザ光90がウィンドウ12から適切にチャンバ10の内部空間に伝搬し得る。
【0035】
プロセッサ120は、制御プログラムが記憶された記憶装置と、当該制御プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)と、を含む処理装置である。プロセッサ120は、本開示に含まれる各種処理を実行するために特別に構成又はプログラムされ、EUV光生成装置100全体を制御する。プロセッサ120には、圧力センサ26で計測されたチャンバ10の内部空間の圧力に係る信号、検出部27によって撮像されたターゲット物質Mのイメージデータ、露光装置200からバースト動作を指示するバースト信号などが入力される。プロセッサ120は、上記各種信号を処理し、例えば、ターゲット物質Mが吐出されるタイミングを制御する。また、プロセッサ120は、ステージ機構49によりターゲット物質Mの吐出方向を制御する。また、プロセッサ120は、レーザ装置LDの出射タイミング、レーザ光90の進行方向、集光位置FPなどを制御する。
【0036】
3.2 課題
図4は、EUV光生成装置100の稼働直後の初期状態におけるノズル42の状態を示す。図4は、ノズル42の材質としてモリブデンやタングステンなどの金属を選択した場合を示している。この場合、ノズル42の表面42bには、酸化膜42cが形成される。酸化膜42cは、ノズル42の表面42bが大気中の酸素と反応して酸化することにより変質した自然酸化膜である。ノズル42の材質がモリブデンである場合には、酸化膜42cは酸化モリブデンである。ノズル42の材質がタングステンである場合には、酸化膜42cは酸化タングステンである。酸化膜42cは、ノズル42の材質である金属よりも大きな撥スズ性を発揮する。撥スズ性とは、スズを弾く性質をいう。本比較例では、ノズル42の表面42bは、凹凸のない平坦な平面である。
【0037】
なお、ノズル42の材質としてアルミナや石英などを選択した場合は、これらの材質自体が酸化物であるので、ノズル42の表面42bは、大気中の酸素と反応せず変質しないが、撥スズ性を発揮する。
【0038】
チャンバ10の内部空間においてレーザ光90が照射されたターゲット物質Mの一部は、スズ粒子としてノズル42の表面42bに向かって飛来する。ノズル42の表面42bが酸化膜42cに変質されている状態では、飛来してきたスズ粒子は、ノズル42の表面42bに衝突し、その多くは、撥スズ性によって跳ね返ってチャンバ10の内部空間に向かう。図4において、P1は、ノズル42の表面42bに向かって飛来するスズ粒子を例示している。P2は、ノズル42の表面42bで跳ね返ったスズ粒子を例示している。
【0039】
しかし、ノズル42の表面42bに衝突したスズ粒子の一部は、表面42bに付着して残留する。P3は、ノズル42の表面42bに付着した直後のスズ粒子を例示している。ノズル42の表面42bに付着したスズ粒子は、表面42bに付着した他のスズ粒子と合体したり、飛来してきたスズ粒子を吸収したりすることで体積が増加する。以下、体積が増加することを成長するという。P4は、成長したスズ粒子を例示している。成長したスズ粒子は、やがて自重によって落下する。P5は、成長して落下したスズ粒子を例示している。
【0040】
また、ノズル42の表面42bにおけるノズル孔42aの近傍に付着したスズ粒子は、体積が増加することにより、ノズル孔42aから吐出されるジェット状のターゲット物質Mに接触して吸収されることがある。P6は、ノズル孔42aの近傍でターゲット物質Mに接触して吸収されるスズ粒子を例示している。
【0041】
図5に示すように、初期状態においてノズル42の表面42bに付着したスズ粒子は、撥スズ性により表面42bとの接触角θが大きく、表面42bとの接触面積Sが小さい。このため、表面42bに付着したスズ粒子は、成長して巨大化する前に自重によって落下する。なお、巨大化とは、スズ粒子の体積が一定値以上となることをいう。
【0042】
例えば、接触角θは、表面42bの材質によって次のように異なる。酸化モリブデンの場合、θ=143°である。酸化タングステンの場合、θ=150°である。アルミナの場合、θ=163°である。石英の場合、θ=123°~150°である。
【0043】
このように、初期状態では、ノズル42の表面42bにスズ粒子が付着して成長したとしても、スズ粒子は、巨大化する前に自重によって落下するか、若しくは、巨大化する前にノズル孔42aから吐出されるターゲット物質Mに接触して吸収される。このときターゲット物質Mに吸収されるスズ粒子の体積は小さいので、スズ粒子の吸収によりターゲット物質Mの軌道が乱されることはない。
【0044】
しかしながら、酸化膜42cに付着したスズ粒子は、酸化膜42cを還元する作用がある。このため、EUV光生成装置100の稼働時間の経過とともにノズル42の表面42bの材質そのものが露出した状態に変化し、やがて、表面42bは、図6に示すように酸化膜42cが消滅した状態となる。表面42bから酸化膜42cが消滅すると撥スズ性が低下する。これにより、接触角θが小さくなって、接触面積Sが大きくなる。
【0045】
なお、ノズル42の材質がアルミナや石英などであって、表面42bに材質自体による撥スズ性が発揮される場合であっても、稼働時間の経過とともに表面42bが劣化することにより、撥スズ性が低下してしまう。
【0046】
このように、ノズル42の表面42bの撥スズ性が低下すると、例えば、図7図10に示す第1~第4期間を経てターゲット物質Mの軌道が乱されることにより、レーザ光90でターゲット物質Mを照射できなくなる。
【0047】
図7は、表面42bの撥スズ性が低下した直後の第1期間におけるノズル42の状態を示す。図7に示すように、第1期間では、チャンバ10の内部空間から飛来したスズ粒子が表面42bに付着し始める。このとき、表面42bは撥スズ性が低下しているので、スズ粒子が容易に付着する。第1期間では、表面42bに付着したスズ粒子の体積は小さいので、ターゲット物質Mがスズ粒子を吸収したとしてもターゲット物質Mの軌道は乱されない。
【0048】
図8は、第1期間後の第2期間におけるノズル42の状態を示す。図8に示すように、第2期間では、表面42bに付着したスズ粒子は、表面42bに付着した他のスズ粒子と合体したり、飛来してきたスズ粒子を吸収したりすることにより成長し始める。表面42bは撥スズ性が低下しているので、表面42bに付着したスズ粒子は、落下しにくく、成長しやすい。
【0049】
図9は、第2期間後の第3期間におけるノズル42の状態を示す。図9に示すように、第3期間では、表面42bのノズル孔42a近傍に付着して成長中のスズ粒子が、ノズル孔42aから吐出されるターゲット物質Mに接触して吸収される。ターゲット物質Mがスズ粒子を吸収する際に、スズ粒子に引っ張られてターゲット物質Mの軌道が傾斜することがある。しかし、第3期間では、スズ粒子の成長があまり進んでいないため、傾斜量は小さく、傾斜している時間も短時間である。また、第3期間では、傾斜量が小さいので、ステージ機構49によりターゲット物質Mの軌道を補正することができる。但し、第3期間では、表面42bにおいてノズル孔42aから離れた領域では、スズ粒子が成長し続けて巨大化する。
【0050】
図10は、第3期間後の第4期間におけるノズル42の状態を示す。図10に示すように、第4期間では、ノズル孔42aから離れた領域で巨大化したスズ粒子の端部がノズル孔42aに接近する。当該スズ粒子は、その端部がノズル孔42aから吐出されるターゲット物質Mに接触して、ターゲット物質Mに吸収され始める。巨大化したスズ粒子がターゲット物質Mに吸収されて消滅するまでの時間は、第3期間の場合よりも長くなるので、ターゲット物質Mの軌道は大きく傾斜する。すなわち、第4期間では、傾斜量が大きく、傾斜している時間も長時間であるので、ステージ機構49によりターゲット物質Mの軌道を補正することは困難である。
【0051】
このように、比較例に係るEUV光生成装置100では、稼働時間の経過とともに表面42bの撥スズ性が低下して、ターゲット物質Mの軌道が大きく乱されることにより、レーザ光90の集光位置FPにターゲット物質Mを供給することができなくなる。この結果、レーザ光90でターゲット物質Mを照射できず、EUV光生成装置100によるEUV光101の生成が停止する。EUV光101の生成が停止すると、EUV光生成装置100の稼働を停止してターゲット供給装置40を交換することが必要となる場合がある。
【0052】
4.第1実施形態に係るEUV光生成装置
第1実施形態に係るEUV光生成装置100について説明する。第1実施形態に係るEUV光生成装置100は、ターゲット供給装置40のノズル42の構成が異なること以外は、比較例に係るEUV光生成装置100と同様の構成である。なお、上記において説明した構成と同様の構成については同一の符号を付し、特に説明する場合を除き、重複する説明は省略する。
【0053】
4.1 構成及び動作
図11は、第1実施形態に係るターゲット供給装置40が備えるノズル42の構成を示す。本実施形態では、ノズル42の表面42bには、表面42bの材質によって発揮される撥スズ性よりも大きな撥スズ性を発揮する凹凸構造50が形成されている。
【0054】
例えば、ノズル42の材質は、モリブデン、タングステン、アルミナ、及び石英のうちのいずれかである。ここで、ノズル42の材質がモリブデンである場合には、表面42bの材質は酸化モリブデンである。ノズル42の材質がタングステンである場合には、表面42bの材質は酸化タングステンである。ノズル42の材質がアルミナである場合には、表面42bの材質はアルミナである。ノズル42の材質が石英である場合には、表面42bの材質は石英である。
【0055】
凹凸構造50は、複数の凸部51と複数の凹部52とを有し、凹部52は少なくとも一方向に所定の配列ピッチで配列されている。凹凸構造50は、ノズル孔42aを囲う領域に設けられている。本実施形態では、表面42bの全体に凹凸構造50が形成されている。
【0056】
例えば、凹凸構造50は、パルスレーザ装置により表面42bをレーザ加工することにより形成される。レーザ加工により形成した溝が凹部52となり、2つの溝の間が凸部51となる。凹凸構造50は、レーザ加工に限られず、リソグラフィ、ナノインプリンティングなどの技術を用いて形成することが可能である。なお、レーザ加工、リソグラフィ、及びナノインプリンティングのうちの2以上を用いて凹凸構造50を形成してもよい。
【0057】
図12は、第1実施形態に係るノズル42の表面42bの撥スズ性を説明する。図12に示すように、本実施形態では、凹凸構造50により表面42bの撥スズ性が大きいため、表面42bに付着するスズ粒子はほぼ球状であって、接触角θが大きく、接触面積Sが小さい。本実施形態では、表面42bに凹凸構造50が形成されていることにより、図5に示す比較例のように表面42bが平面状であって酸化膜42cに変質している場合よりも接触角θが大きく、接触面積Sが小さい。
【0058】
図13は、ノズル42の材質をモリブデンやタングステンなどの金属とした場合における凹凸構造50の状態変化を示す。(A)は、EUV光生成装置100の稼働直後の初期状態を示す。(B)は、一定時間稼働後の状態を示す。(A)に示すように、初期状態では、凹凸構造50の表面に酸化膜53が存在する。酸化膜53は、凹凸構造50の表面が大気中の酸素と反応して酸化することにより変質した自然酸化膜である。(B)に示すように、一定時間稼働後には、例えば凸部51の頂面の酸化膜53が還元されて消滅する。しかし、凸部51の頂面の酸化膜53が消滅したとしても、凹凸構造50はそのまま残るため、稼働時間が長期化しても撥スズ性が発揮され続ける。
【0059】
4.2 効果
比較例では、ノズル42の表面42bの撥スズ性は、表面42bの材質よって発揮されるが、本実施形態では、撥スズ性は凹凸構造50によって発揮される。したがって、本実施形態では、稼働時間の経過に伴う撥スズ性の低下が抑制され、表面42bの材質によって発揮される撥スズ性よりも大きな撥スズ性が長期間にわたって発揮される。
【0060】
図14図16は、第1実施形態に係るノズル42の表面42bにスズ粒子が付着して成長する様子を示す。図14に示すように、稼働直後の初期には、チャンバ10の内部空間から飛来するスズ粒子は、表面42bに付着しにくいが、一部は表面42bに付着する。図15に示すように、表面42bに付着したスズ粒子は、他のスズ粒子と合体したり、飛来してきたスズ粒子を吸収したりすることで成長する。図16に示すように、表面42bのノズル孔42a近傍で成長するスズ粒子は、ノズル孔42aから吐出されるターゲット物質Mに接触してターゲット物質Mに吸収される。また、表面42bのノズル孔42aから離れた領域で成長するスズ粒子は、凹凸構造50による撥スズ性によって巨大化する前に落下する。
【0061】
このように、本実施形態では、表面42bに付着したスズ粒子は、巨大化する前に落下するか、若しくは巨大化する前にターゲット物質Mに吸収されるので、ターゲット物質Mがスズ粒子を吸収したとしても、ターゲット物質Mの軌道が乱されることはない。ターゲット物質Mの軌道が乱されて傾斜したとしても、その傾斜量はステージ機構49により補正可能な程度である。すなわち、本実施形態では、ターゲット供給装置40によるレーザ光90の集光位置FPへのターゲット物質Mの供給が安定するので、ターゲット供給装置40の交換が必要となる時期が伸びる。これにより、EUV光生成装置100が長寿命化する。
【0062】
5.第2実施形態に係るEUV光生成装置
第2実施形態に係るEUV光生成装置100について説明する。第2実施形態に係るEUV光生成装置100は、ターゲット供給装置40のノズル42の構成が異なること以外は、第1実施形態に係るEUV光生成装置100と同様の構成である。なお、上記において説明した構成と同様の構成については同一の符号を付し、特に説明する場合を除き、重複する説明は省略する。
【0063】
5.1 構成及び動作
図17は、第2実施形態に係るターゲット供給装置40が備えるノズル42の構成を示す。本実施形態では、ノズル42の表面42bは、凹凸構造50の外側に、凹凸構造50よりも撥スズ性が小さい平面領域60を有する。
【0064】
本実施形態では、ノズル42の表面42bには、ノズル孔42aを中心として半径φ以内の領域に凹凸構造50が設けられ、凹凸構造50の外側が平面領域60となっている。凹凸構造50は、第1実施形態と同様の構成である。平面領域60は、凹凸構造50の凸部51の頂面と面一である。平面領域60は、Z方向に平面視した場合、ノズル孔42aを中心としたリング形状である。例えば、半径φは、100μm≦φ≦1mmの範囲内である。
【0065】
平面領域60の撥スズ性は、平面領域60の材質によって発揮されるので、凹凸構造50の撥スズ性よりも小さい。第1実施形態と同様に、ノズル42の材質は、モリブデン、タングステン、アルミナ、及び石英のうちのいずれかである。この場合、平面領域60の材質は、酸化モリブデン、酸化タングステン、アルミナ、及び石英のうちのいずれかである。
【0066】
5.2 効果
第1実施形態で説明したように、ノズル42の表面42bに撥スズ性が大きい凹凸構造50を設けたとしても、凹凸構造50にスズ粒子が付着して成長することがあり、スズ粒子の巨大化を完全に抑制することはできない。そのため、確率は低いが、凹凸構造50に付着して巨大化したスズ粒子がノズル孔42aから吐出されるターゲット物質Mに接触することが起こり得る。
【0067】
図18に示すように、第2実施形態では、凹凸構造50で成長したスズ粒子は、その外側の平面領域60と接触すると、凹凸構造50と平面領域60との撥スズ性の違いにより、撥スズ性が小さい平面領域60へ移動する。換言すると、スズ粒子は、接触角θが大きい凹凸構造50から接触角θが小さい平面領域60へ移動する。したがって、凹凸構造50で成長したスズ粒子は、巨大化する前に平面領域60に接触して、ノズル孔42aから離れた平面領域60へ移動する。
【0068】
このように、本実施形態では、第1実施形態のようにノズル42の表面42bの全面に凹凸構造50を設けた場合よりも、ノズル孔42aの周辺領域でのスズ粒子の巨大化が抑制される。この結果、巨大化したスズ粒子がノズル孔42aから吐出されるターゲット物質Mに接触する確率が抑制され、EUV光生成装置100がさらに長寿命化する。
【0069】
また、平面領域60を凹凸構造50の凸部51の頂面と面一とすると、凹凸構造50から平面領域60へのスズ粒子の移動を妨げる段差がないため、凹凸構造50から平面領域60にスズが移動しやすくなる。これにより、ノズル孔42aの周辺領域でのスズ粒子の巨大化がさらに抑制される。
【0070】
6.凹凸構造
6.1 条件
次に、第1実施形態及び第2実施形態に係る凹凸構造50の撥スズ性に関する条件について説明する。図19は、凹凸構造50の構成例を示す。図19に示すように、例えば、凹凸構造50は、四角柱の凸部51をX方向及びY方向に配列することにより構成されている。
【0071】
ノズル孔42aから吐出されるターゲット物質Mに接触してもステージ機構49による補正限界を超えない最大のスズ粒子の直径である許容最大径をDとする。許容最大径Dを有するスズ粒子に対して撥スズ性を発揮するには、P/D<50の関係を満たすことが好ましい。ここで、Pは、X方向における凸部51の配列ピッチである。
【0072】
また、X方向における凸部51の幅をfとし、X方向における凹部52の幅をfとした場合に、凹部52の幅fに対する凸部51の幅fの比率f/fは、1≦f/f≦2の範囲内であることが好ましい。ここで、P=f+fの関係を満たす。
【0073】
また、凸部51の高さをhとした場合に、r=(2h+f)/fで規定される比率rは、3≦r≦5の範囲内であることが好ましい。なお、比率rは、上記範囲内で大きい値であることが好ましい。すなわち、r=5であることがより好ましい。
【0074】
例えば、許容最大径Dは、10μm≦D≦100μmの範囲内の値である。この場合、配列ピッチP、凸部51の幅f、凹部52の幅f、及び凸部51の高さhは、図20に示す値を取ることが好ましい。ここで、f/f=1、及びr=5としている。図20によれば、配列ピッチPは、0.2μm<P<2μmの範囲内であることが好ましく、凸部51の高さhは、0.2μm<h<2μmの範囲内であることが好ましい。なお、撥スズ性の観点によれば配列ピッチPは0.2μm以下であってもよいが、配列ピッチPを小さくしすぎると、凹凸構造50の加工の難易度及び加工コストが高まることから、配列ピッチPの下限を0.2μmとしている。
【0075】
なお、Y方向についても同様である。許容最大径Dを有するスズ粒子に対して撥スズ性を発揮するには、X方向とY方向とのうちいずれか一方向について上記の関係を満たせばよい。
【0076】
以上のように、許容最大径Dを有するスズ粒子に対して撥スズ性を発揮するように凹凸構造50を設定することにより、許容最大径Dを超える大きさに成長したスズ粒子は自重により落下する。これにより、ステージ機構49による補正限界を超える大きさのスズ粒子がノズル孔42aから吐出されるターゲット物質Mに接触することが抑制される。
【0077】
6.2 変形例
凹凸構造50の形状は、種々の変形が可能である。図21図27は、凹凸構造50の形状の変形例を示す。図19では、凸部51を四角柱としているが、図21に示すように、凸部51を三角柱としてもよい。また、凸部51を五角柱などの多角柱としてもよい。また、図22に示すように、凸部51を円柱としてもよい。すなわち、凸部51は、角数が3以上の多角柱又は円柱であってもよい。
【0078】
また、図23に示すように、凸部51を三角錐としてもよい。また、図24に示すように、凸部51を円錐としてもよい。すなわち、凸部51は、角数が3以上の多角錐又は円錐であってもよい。また、図25に示すように、凸部51を半球としてもよい。
【0079】
また、図26に示すように、凸部51を断面が三角形であって一方向に延伸した壁形状としてもよい。断面は、三角形に限られず、四角形、五角形などの多角形であってもよい。また、図27に示すように、凸部51を断面が半円であって一方向に延伸した壁形状としてもよい。すなわち、凸部51は、断面が多角形の壁形状、又は、断面が円形の壁形状であってもよい。
【0080】
また、凸部51は、多角錐又は円錐をZ方向に逆向きとした逆多角錐又は逆円錐であってもよい。
【0081】
なお、凹凸構造50は、撥スズ性を発揮する形状であればどのような構造であってもよく、複数の形状を組み合わせた構造であってもよい。
【0082】
上記の説明は、制限ではなく単なる例示を意図したものである。従って、添付の特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の各実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかであろう。
【0083】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体で使用される用語は、「限定的でない」用語と解釈されるべきである。例えば、「含む」又は「含まれる」という用語は、「含まれるものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。また、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される修飾句「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。また、「A、B及びCの少なくとも1つ」という用語は、「A」「B」「C」「A+B」「A+C」「B+C」又は「A+B+C」と解釈されるべきであり、さらに、それらと「A」「B」「C」以外のものとの組み合わせも含むと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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