(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106239
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】分散板、ガス供給機構及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/455 20060101AFI20240731BHJP
H01L 21/31 20060101ALN20240731BHJP
【FI】
C23C16/455
H01L21/31 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010473
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴彰
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA06
4K030AA13
4K030AA16
4K030AA17
4K030AA18
4K030BA40
4K030CA04
4K030CA12
4K030EA05
4K030EA06
4K030FA01
4K030GA02
4K030HA01
4K030JA10
4K030LA02
4K030LA15
5F045AA08
5F045AA15
5F045AB33
5F045AC01
5F045AC05
5F045AC07
5F045AC16
5F045AD01
5F045AE01
5F045BB15
5F045BB20
5F045DP03
5F045DQ10
5F045EE17
5F045EF05
5F045EF14
5F045EH14
5F045EH19
5F045EK07
(57)【要約】
【課題】熱応力を低減することができる分散板、ガス供給機構及び基板処理装置を提供する。
【解決手段】基板処理装置の処理容器内に配置される分散板であって、中央部と前記中央部を囲む外周部とを有する、円盤状の本体部と、前記中央部に形成され、前記処理容器内の基板を処理する第1空間へ開口する複数の第1孔と、を備え、前記本体部は、前記中央部に前記本体部を厚さ方向に貫通するスリットを有する、分散板が提供される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板処理装置の処理容器内に配置される分散板であって、
中央部と前記中央部を囲む外周部とを有する、円盤状の本体部と、
前記中央部に形成され、前記処理容器内の基板を処理する第1空間へ開口する複数の第1孔と、を備え、
前記本体部は、
前記中央部に前記本体部を厚さ方向に貫通するスリットを有する、
分散板。
【請求項2】
前記スリットは、前記中央部の中心から又は前記中心を通る径方向の線から所定角度傾けて前記外周部に向かって形成されている、
請求項1に記載の分散板。
【請求項3】
前記スリットは、前記中央部の中心から又は前記中心から所定角度傾けて放射状に形成されている、
請求項2に記載の分散板。
【請求項4】
前記スリットは、前記外周部に向かって複数に分岐している、
請求項3に記載の分散板。
【請求項5】
前記スリットは、周方向に形成されている、
請求項1に記載の分散板。
【請求項6】
前記スリットは、前記中央部の中心を通る軸に対して回転対称に形成されている、
請求項1に記載の分散板。
【請求項7】
前記スリットは、前記複数の第1孔を横切って前記本体部を厚さ方向に貫通する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の分散板。
【請求項8】
前記スリットは、前記複数の第1孔を避けて前記本体部を厚さ方向に貫通する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の分散板。
【請求項9】
前記スリットは、前記複数の第1孔の中心を結ぶように形成されている、
請求項7に記載の分散板。
【請求項10】
前記スリットの末端は、前記複数の第1孔の少なくともいずれかに繋がっている、
請求項1~6のいずれか一項に記載の分散板。
【請求項11】
前記スリットは、同一の幅である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の分散板。
【請求項12】
前記スリットは、異なる幅である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の分散板。
【請求項13】
前記スリットの幅は、前記中央部の中心から前記外周部に向かって細くなる、
請求項12に記載の分散板。
【請求項14】
前記複数の第1孔は、第1ガスを前記第1空間へ供給し、
前記本体部は、
前記中央部に形成されている拡散路であって、前記第1ガスとは別の第2ガスを拡散する前記拡散路と、
前記拡散路から前記第1空間へ前記第2ガスを通す複数の第2孔と、
を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の分散板。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか一項に記載の分散板を備えるガス供給機構。
【請求項16】
請求項1~6のいずれか一項に記載の分散板を備えるガス供給機構と、
前記分散板に対向して設けられた載置台と、を有し、
前記ガス供給機構から供給されるガスにより前記載置台に載置された基板を処理する、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分散板、ガス供給機構及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1は、シャワープレートの直下に、プラズマ中のイオンをトラップするための複数の貫通穴が設けられた板部材を配置することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、熱応力を低減することができる分散板、ガス供給機構及び基板処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一の態様によれば、基板処理装置の処理容器内に配置される分散板であって、中央部と前記中央部を囲む外周部とを有する、円盤状の本体部と、前記中央部に形成され、前記処理容器内の基板を処理する第1空間へ開口する複数の第1孔と、を備え、前記本体部は、前記中央部に前記本体部を厚さ方向に貫通するスリットを有する、分散板が提供される。
【発明の効果】
【0006】
一の側面によれば、熱応力を低減することができる分散板、ガス供給機構及び基板処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係るプラズマ処理装置の一例を示す断面斜視図。
【
図2】
図1のプラズマ処理装置のシャワーヘッドとその周辺を示す断面図。
【
図3】第1実施例のスリットを示す
図2のA-A断面図。
【
図4】スリットを有しない分散板への熱応力のシミュレーション結果の一例を示す図。
【
図5】第2実施例のスリットを示す
図2のA-A断面図。
【
図6】第3実施例のスリットを示す
図2のA-A断面図。
【
図7】第4実施例のスリットを示す
図2のA-A断面図。
【
図8】第5実施例のスリットを示す
図2のA-A断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
本明細書において平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、実施形態の効果を損なわないほどのずれが許容される。角部の形状は、直角に限られず、弓状に丸みを帯びてもよい。平行、直角、直交、水平、垂直、円、一致には、略平行、略直角、略直交、略水平、略垂直、略円、略一致が含まれてもよい。
【0010】
[基板処理装置]
基板処理には、ALD(Atomic Layer Deposition)装置、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置による成膜処理やALE(Atomic Layer Etching)装置によるエッチング処理がある。VHF又はUHFの電磁波(高周波)を使用して生成したプラズマにより成膜処理及び/又はエッチング処理を行う場合、13.56MHzを一例とする高周波を使用して生成したプラズマと比較してイオンによるダメージが低い。また、高密度プラズマにより堆積速度やエッチング速度の上昇、高被覆性等を期待できる。
【0011】
一方、ALD装置やALE装置では、短時間で繰り返しガスの切り替えを行う。よって、高速なガスの切り替えを実現するために処理空間を小さくすることが重要である。
【0012】
本実施形態に係る基板処理装置は、基板の処理空間及びプラズマ空間の間に設けられ、これらの空間を画定する分散板を有する。処理空間及びプラズマ空間の高さは、ガス置換効率の向上等を図るために数ミリ(例えば2mm)から十数ミリであり、非常に狭い。このため、分散板は、プラズマ空間にて生成されたプラズマからの入熱と基板の載置台に内蔵されたヒータからの熱を受ける。分散板の中央部には多数の孔が設けられており、分散板の水平方向の熱伝導に寄与する固体断面積を減らすため、分散板の中央部の温度は外周部の温度よりも上がりやすくなる。その結果、分散板には、温度上昇により低下するアルミ合金の強度に対してそれを上回る熱応力が発生する場合がある。分散板の強度を上回る熱応力が発生すると分散版が塑性変形する可能性がある。プラズマを均一に制御するためにはプラズマ空間の寸法を均一に保つことが重要であるが、塑性変形した分散板はもとには戻らず、プラズマ空間や処理空間の寸法が変化し、プラズマ生成効率を低下させ、基板へのプラズマ制御の均一性が損なわれる場合がある。そこで、以下に説明する一実施形態では、熱応力を低減することができる分散板を備える基板処理装置を提案する。
【0013】
[プラズマ処理装置]
以下、一実施形態に係るプラズマ処理装置100の構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態に係るプラズマ処理装置100の一例を示す断面模式図である。
【0014】
プラズマ処理装置100は、処理容器10と、処理容器10内に配置された載置台20と、載置台20の上方に位置するシャワーヘッド30と、制御装置80とを有する。プラズマ処理装置100は、一実施形態に係る基板処理装置の一例である。
【0015】
処理容器10は、プラズマ処理装置100の内部空間を画定する。半導体ウェハを一例とする基板Wは処理容器10の内部空間において処理される。処理容器10は、略円筒形状を有しており、処理容器10内の上方においてシャワーヘッド30が配置されている。処理容器10は、アルミニウム等の金属から形成されている。処理容器10は、接地されている。
【0016】
処理容器10の側壁は、通路25を提供している。基板Wは、処理容器10の内部と外部との間で搬送されるときに、通路25を通過する。通路25は、ゲートバルブ26によって開閉可能である。ゲートバルブ26は、処理容器10の側壁に沿って設けられている。
【0017】
処理容器10の底部は、排気口22を提供している。排気口22は、排気管23を介して排気装置24に接続されている。排気装置24は、図示しない自動圧力制御弁を有する圧力制御器及びターボ分子ポンプ等の真空ポンプを含む。処理容器10の内部のガスは、排気口22を介して排気装置24によって外部に排気することができる。基板Wの処理は、処理容器10内を真空雰囲気に制御して行われる。
【0018】
載置台20は、その上に基板Wを載置する。基板Wは、略水平な状態で載置台20上に載置される。載置台20は、支持部材21によって支持されていてもよい。支持部材21は、処理容器10の底部から上方に延びている。載置台20及び支持部材21は、窒化アルミニウム等の誘電体から形成され得る。
【0019】
シャワーヘッド30は、上部電極42と分散板41とを有する。上部電極42と分散板41とは、載置台20の上方にて対向して設けられている。上部電極42および分散板41は、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス等の金属からなる。
【0020】
上部電極42は、円盤状の上部シャワープレート42Dと、円盤状であってプラズマ空間10u側が凹面になっている支持プレート42Uを含む。分散板41は、処理容器10内であって上部電極42の下方に設けられる。上部シャワープレート42Dと分散板41とは多孔板であり、複数の孔からガスを供給するシャワープレート構造を有している。シャワーヘッド30は、分散板41を備えるガス供給機構の一例である。
【0021】
支持プレート42Uの下方には、上部シャワープレート42Dを挟んでプラズマ空間10uが形成されている。支持プレート42Uと上部シャワープレート42Dとで画定される空間はガス拡散室43として機能する。
【0022】
上部シャワープレート42Dの下面は、凸型などの形状を有してもよい。また、上部シャワープレート42Dの直下に誘電体を薄い板で形成し、外力により変形(たわみ)させ、上部シャワープレート42Dの金属表面との隙間を変化させることによりプラズマを制御してもよい。
【0023】
上部電極42には、高周波電源50から整合器51及び電力伝送線路54を介してVHF帯の高周波電力が供給される。VHF帯の高周波電力をVHF電力ともいう。分散板41は、下部シャワープレート41Dを有する。下部シャワープレート41Dを挟んでプラズマ空間10uの反対側には、下部シャワープレート41Dと載置台20の間に処理空間10sが形成されている。上部電極42と分散板41との間のプラズマ空間10uには、VHF電力が供給され、かつ、後述するガスが供給される。プラズマ処理装置100は、プラズマ空間10uにてガスからプラズマを生成し、プラズマ空間10uから処理空間10sにプラズマ中のラジカルやイオン等の活性種を供給するリモートタイプのプラズマ処理装置である。
【0024】
電力伝送線路54は、処理容器10の天壁10aに形成された貫通穴27を通り、上部電極42に接続されている。本実施形態では、高周波電源50から供給される高周波電力の周波数は、VHF帯の周波数であり、30MHz~300MHzである。ただし、高周波電源50から供給される高周波電力の周波数は、これに限らず、例えばUHF帯の周波数であってもよいし、13MHz又はこれ以上のRF波の周波数であってもよい。UHF波の周波数は300MHz~3GHzである。
【0025】
下部シャワープレート41Dは、上部シャワープレート42Dの下方にて上部シャワープレート42Dに対向する。下部シャワープレート41Dの直径は、上部シャワープレート42Dの直径よりも大きく、処理容器10の直径に等しい。下部シャワープレート41Dの外周は処理容器10の側壁にて処理容器10の上部と下部との間に挟まれて固定されている。これにより、下部シャワープレート41Dは処理容器10の内部をシャワーヘッド30が設けられた上部空間12と、載置台20が設けられた下部空間11とに区画する。
【0026】
支持プレート42Uの外周に沿って、天壁10aと支持プレート42Uとの間に導波路53が形成されている。導波路53は、さらに処理容器10の側壁と支持プレート42Uとの間に垂直方向に延び、下部シャワープレート41Dの外周上面まで延在する。上部シャワープレート42Dと下部シャワープレート41Dとの間には環状の誘電体の放射部44が配置されている。放射部44の外周面の直径は、上部シャワープレート42Dの直径と等しい。放射部44は、導波路53を伝搬したVHF電力を透過させ、プラズマ空間10uに放射する。
【0027】
上部シャワープレート42Dには、上部電極42を上下に貫通する複数の貫通孔42aが設けられている。反応ガスは、反応ガス供給源63からガス供給ライン64を通って天壁10aを貫通する貫通孔65、天壁10aと支持プレート42Uとを繋ぐ環状部材66及び支持プレート42Uを貫通する貫通孔67を通り、支持プレート42Uのガス拡散室43に供給される。反応ガスは、ガス拡散室43に連通する上部シャワープレート42Dの複数の貫通孔42aからプラズマ空間10uに放出される。
【0028】
分散板41は、例えば厚さが12mm程度の円盤状の下部シャワープレート41Dを有する。下部シャワープレート41Dは、円盤状の本体部の一例である。更に、分散板41は、下部シャワープレート41Dを上下に貫通し、処理空間10sへ開口する複数のガス孔41b(貫通孔)を有する。処理空間10sは、処理容器10内の基板Wを処理する第1空間の一例である。プラズマ空間10uに供給され、プラズマで励起されたガスおよびプラズマ中のラジカル、イオンの活性種は、複数のガス孔41bから処理空間10sへ供給され、基板処理に使用される。
【0029】
[第1実施例のスリット]
図1に加えて
図2及び
図3を参照しながら説明を続ける。
図2は、
図1のプラズマ処理装置100のシャワーヘッド30とその周辺を示す断面図である。
図3は、
図2のA-A断面図の一例であり、第1実施例のスリット46を示す。
【0030】
図1~
図3に示すように、下部シャワープレート41Dの外周には、2カ所に流路(拡散路)41cと連通するガス供給口62が形成されている。下部シャワープレート41Dの中央部41D1は、下部シャワープレート41Dの外周部41D2に囲まれた領域である。中央部41D1の領域にて複数のガス孔41b及びスリット46が下部シャワープレート41Dを貫通し、複数のガス孔41b及びスリット46以外の空間は、隔壁45を介して原料ガスが流れる流路41cとなっている。つまり、複数のガス孔41b及びスリット46と流路41cとは隔壁45により仕切られている。隔壁45は、例えばアルミニウム合金により形成されてもよい。原料ガスは、
図1に示すように、原料ガス供給源60からガス供給ライン61を通って2分岐し、ガス供給口62から流路41c内に供給される。
【0031】
図1及び
図2に示すように、下部シャワープレート41Dには複数のガス孔41aが設けられている。複数のガス孔41aは、分散板41の流路41cの下部に設けられ、処理空間10sに向けて下向きに開口する。すなわち、複数のガス孔41aは、下部シャワープレート41Dの載置台20に対向する面に開口する。原料ガスは、下部シャワープレート41D内の流路41cを流れ、複数のガス孔41aから処理空間10sへ供給される。
【0032】
ALD法による成膜処理を実行する場合、まず、原料ガスを下部シャワープレート41Dの複数のガス孔41aから処理空間10sへ供給する。このとき、VHF電力は供給しない。これにより、原料ガスは基板Wの表面に化学吸着する。
【0033】
基板Wに原料ガスを吸着させた後、処理容器10内にN2ガス等の不活性ガス(パージガス)を供給することにより処理容器10内の原料ガスを不活性ガスで置換する。次に、反応ガスを上部シャワープレート42Dの複数の貫通孔42aからプラズマ空間10uに供給する。このとき、放射部44からプラズマ空間10uにVHF電力が供給され、反応ガスはプラズマ空間10uにてプラズマ化される。プラズマで励起された反応ガスおよびプラズマ中のラジカル、イオンの活性種は、複数のガス孔41bから処理空間10sへ導入される。これにより、基板W上に吸着した原料ガスを反応ガスにより反応させる。原料ガスがシリコン含有ガス、反応ガスがNH3ガス又はN2ガスの場合、NH3分子の分解により生じたNHxラジカルにより、基板Wの表面のシリコン含有ガスが窒化され、基板W上にシリコン窒化膜が成膜される。
【0034】
複数のガス孔41bは、第1ガス(反応ガス)を第1空間(処理空間10s)へ供給する複数の第1孔の一例である。第1ガスは反応ガスに加えてプラズマ励起用ガスを含んでもよい。プラズマ励起用ガスはArガス等の不活性ガスであってもよい。
【0035】
下部シャワープレート41D内の流路41cは、中央部41D1に形成されている拡散路であって、第1ガスとは別の第2ガス(原料ガス)を拡散する拡散路の一例である。また、複数のガス孔41aは、流路41cから第1空間(処理空間10s)へ第2ガスを通す複数の第2孔の一例である。第2ガスは、原料ガスとしてのシリコン含有ガスを含む。シリコン含有ガスは、シラン(SiH4)ガス、ジクロロシラン(SiH2Cl2:DCS)ガス、又はトリシリルアミン(Si3H9N:TSA)ガスであってもよい。第2ガスは原料ガスに加えてアルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスを含んでもよい。
【0036】
上部電極42の複数の貫通孔42aの直径は、分散板41の複数のガス孔41bの直径よりも小さい。複数のガス孔41bから反応ガスを処理空間10sへ供給する間、複数の貫通孔42aからArガス等の希釈ガスを流すことで、処理空間10sへ供給された反応ガスが複数の貫通孔42aへ進入することを抑制することができる。このときの希釈ガスは、反応ガスの進入を抑制するための抑制ガスとしての機能を有する。抑制ガスとしての機能を有する希釈ガスは、Arガス、N2ガス、H2ガス又はO2ガスの少なくともいずれかであってよい。
【0037】
制御装置80は、ALD法による成膜等の種々の工程をプラズマ処理装置100に実行させるコンピュータが実行可能な命令を処理する。制御装置80は、種々の工程を実行するようにプラズマ処理装置100の各要素を制御するように構成され得る。一実施形態において、制御装置80の一部又は全てがプラズマ処理装置100に含まれてもよい。制御装置80は、処理部、記憶部及び通信インターフェースを含んでもよい。制御装置80は、例えばコンピュータにより実現される。処理部は、記憶部からプログラムを読み出し、読み出されたプログラムを実行することにより種々の制御動作を行うように構成され得る。このプログラムは、予め記憶部に格納されていてもよく、必要なときに、媒体を介して取得されてもよい。取得されたプログラムは、記憶部に格納され、処理部によって記憶部から読み出されて実行される。媒体は、コンピュータに読み取り可能な種々の記憶媒体であってもよく、通信インターフェースに接続されている通信回線であってもよい。処理部は、CPU(Central Processing Unit)であってもよい。記憶部は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。通信インターフェースは、LAN(Local Area Network)等の通信回線を介してプラズマ処理装置100との間で通信を行ってもよい。
【0038】
上部電極42と分散板41との間の間隔(プラズマ空間10uの高さ)及び分散板41と載置台20との間の間隔(処理空間10sの高さ)は、数ミリから十数ミリである。気層中での活性種の失活を抑制し、ガス置換効率を向上させるために、これらの空間は狭いことが望ましい。この結果、分散板41の下部シャワープレート41Dは、プラズマからの入熱と載置台20内のヒータからの熱を受けやすい。下部シャワープレート41Dには多数の孔が設けられており、これらの孔は下部シャワープレート41Dの水平方向の熱伝導に寄与する固体断面積を減らすため、下部シャワープレート41Dの中央部41D1の温度は外周部41D2の温度よりも上がりやすくなる。その結果、アルミ合金で構成された下部シャワープレート41Dには温度上昇により低下するアルミ合金の強度に対してそれを上回る熱応力が発生し、変形が生じる場合がある。
【0039】
図4は、
図3のスリット46を有しない分散板への熱応力のシミュレーション結果の一例を示す。
図4の横軸は円盤状の分散板の中心Oを0として径方向の位置を示し、左縦軸は分散板の温度を示し、右縦軸は分散板にかかる応力(熱応力)を示す。
【0040】
分散板の中央部から外周部へ熱が逃げていくため、分散板の温度(計算値)を示す線Aは、中央部が高く、外周部へ向かって低くなっている。この結果、分散板の熱に対する耐力(温度を代入した補完値)を示す線Bは、中央部が低く、外周部へ向かって高くなっている。分散板にかかる応力を示す線Cは、中央部の中心Oである0mm付近から径方向に約40mmの領域にて耐力を示す線Bを超え、分散板のアルミ合金の強度(耐力)に対してそれを上回る熱応力が発生し、変形が生じる可能性があることがわかる。
【0041】
(第1実施例)
そこで、本実施形態に係る分散板41は、
図3に示すように、中央部41D1に下部シャワープレート41Dを厚さ方向に貫通するスリット46を有する。スリット46は、中央部41D1の中心Oから外周部41D2に向かって形成されている。スリット46は、中央部41D1の中心Oから放射状に形成されている。スリット46は、中央部41D1の中心Oから外周部41D2に向かう間に複数に分岐している。
【0042】
図3の第1実施例では、6本のスリット46が、中央部41D1の中心Oから60度の等角度で放射状に形成されているが、これに限らず、6本よりも多い又は6本よりも少ない複数本のスリット46が等角度で放射状に形成されてもよい。また、第1実施例のスリット46は、中心Oから径方向に等距離伸びた位置において二分岐している。これにより、スリット46の末端は、周方向にほぼ等間隔に12本形成される。ただし、分岐の回数は1回に限らず、2回以上であってもよい。また、スリット46の分岐は二分岐に限らず、三分岐又はそれ以上であってもよい。外周部41D2に向かうスリット46の本数は、段階的に増加してもよい。
【0043】
スリット46は、中央部41D1の中心Oを通る軸に対して回転対称に形成されている。360/n度回転させると重なるものをn回対称という。
図3の第1実施例のスリット46は、6回対称であり、60度回転させるとほぼ重なる隙間である。
【0044】
第1実施例のスリット46は、中央部41D1に形成された複数のガス孔41b同士を繋ぐように複数のガス孔41bを横切って下部シャワープレート41Dを厚さ方向に貫通する。第1実施例のスリット46は、複数のガス孔41bのそれぞれの中心を結ぶように形成されている。複数のガス孔41bの間を結ぶスリット46は、同一の幅である。第1実施例のスリット46は、分岐後、三角形の二辺を形成するように複数のガス孔41bを結ぶように形成されているが、分岐後のスリット46が形成する形状は三角形に限らない。
【0045】
下部シャワープレート41Dにスリット46を形成することにより、分散板41の温度分布に応じて、温度が高くなりやすい中央部41D1に対して温度が低くなりやすい外周部41D2との膨張差による応力が発生しにくくなる。これにより、下部シャワープレート41Dがヒータやプラズマから熱を受けたときに下部シャワープレート41Dに発生する応力を緩和し、分散板41の熱応力を低減することができる。これにより、分散板41の垂直方向の変形を抑制することができる。また、温度が高くなるほど分散板41はスリット46が狭くなる方向に膨張する。このため、実際の使用環境ではスリット46の隙間が狭くなり、プラズマ空間10uから処理空間10sに供給する反応ガスの分布などスリット46が他に与える影響も小さくすることができる。
【0046】
特に、第1実施例のスリット46は、中央部41D1の中心Oから外周部41D2に向かう隙間であり、中心Oから放射状に形成されている。このため、下部シャワープレート41Dの中心Oから外周部41D2に熱が伝わることをスリット46が邪魔せず、スリット46の有無によって下部シャワープレート41Dの温度分布は変わらない。このため、スリット46の有無によって下部シャワープレート41Dの温度分布に伴って発生する応力は変わらない。よって、入熱による下部シャワープレート41Dの膨張及び収縮に応じてスリット46の幅が変化することにより、下部シャワープレート41Dに発生する応力を緩和することができる。この結果、分散板41の垂直方向の変形を抑制することができる。
【0047】
プラズマからの入熱やヒータの熱により下部シャワープレート41Dが膨張及び収縮した状態を測定しておき、スリット46の幅を膨張の程度に応じて定めてもよい。次に、スリットの幅が同一の第2実施例のスリット46A及びスリットの幅が異なる第3実施例のスリット46Bについて、
図5及び
図6を参照しながら説明する。
図5は、
図2のA-A断面図の一例であり、第2実施例のスリット46Aを示す。
図6は、
図2のA-A断面図の一例であり、第3実施例のスリット46Bを示す。
【0048】
(第2実施例)
図5の第2実施例のスリット46Aは、下部シャワープレート41Dを貫通する隙間であり、中央部41D1の中心Oから外周部41D2に向かって放射状に形成されている。第2実施例のスリット46Aは、8回対称であり、45度回転させると重なる。第2実施例のスリット46Aは、複数のガス孔41bを避けて下部シャワープレート41Dを貫通する部分と、複数のガス孔41bを横切って下部シャワープレート41Dを貫通する部分と、を有する。第2実施例のスリット46Aは同一の幅を有する。
【0049】
(第3実施例)
図6の第3実施例のスリット46Bは、下部シャワープレート41Dを貫通する隙間であり、中央部41D1の中心Oから外周部41D2に向かって放射状に形成されている。第2実施例のスリット46Bは、8回対称であり、45度回転させると重なる。第3実施例のスリット46Bは、複数のガス孔41bを避けて下部シャワープレート41Dを貫通する部分と、複数のガス孔41bを横切って下部シャワープレート41Dを貫通する部分と、を有する。
【0050】
第3実施例のスリット46Bは異なる幅を有する。スリット46Bの幅は、中央部41D1の中心Oから外周部41D2に向かって徐々に細くなっている。つまり、第3実施例では中央部41D1にて入熱が多いため、スリット46Bの幅を中央部41D1は広く、外周部41D2は狭くする。
【0051】
このようにスリット46Bの幅は、下部シャワープレート41Dの膨張量を加味して設計してよい。これにより、基板処理時のプラズマやヒータからの入熱による下部シャワープレート41Dの膨張量に従いスリット46Bを塞ぐ又は狭くすることができる。これにより、基板処理時にはスリット46Bが概ね塞がれることによって下部シャワープレート41Dに発生する応力が緩和された状態で複数のガス孔41bから望ましいコンダクタンスのガスを供給することができる。
【0052】
スリット46Bの末端は、複数のガス孔41bの少なくともいずれかに繋がることが好ましい。スリット46Bの末端46eでは応力が集中しやすい。そこで、第3実施例では、8本のスリット46Bのそれぞれの末端46eは、中央部41D1の最外周に配置された2つのガス孔41bに繋がっている。これにより、スリット46Bの末端46eにて応力が集中することを回避することができる。
【0053】
なお、スリットは、複数のガス孔41bを横切って下部シャワープレート41Dを貫通する部分と、複数のガス孔41bを避けて下部シャワープレート41Dを貫通する部分と、の少なくともいずれかを有していればよい。
【0054】
(第4実施例)
図7は、
図2のA-A断面図の一例であり、第4実施例のスリット46Cを示す。第4実施例のスリット46Cは、中心Oを通る径方向の線(
図7では破線で示す)から角度θだけ傾けて配置される。つまり、第4実施例のスリット46Cは、下部シャワープレート41Dを貫通する隙間であり、中央部41D1の中心Oを通る径方向の線から所定角度θ傾けて外周部41D2に向かって放射状に形成されている。第4実施例のスリット46Cは、6回対称であり、60度回転させると重なる。第4実施例のスリット46Cは、複数のガス孔41bを避けて下部シャワープレート41Dを厚さ方向に貫通する。
【0055】
6本のスリット46Cのそれぞれの末端46eは、中央部41D1の最外周に配置された2つのガス孔41bに繋がっている。これにより、スリット46Cの末端46eにて応力が集中することを回避することができる。
【0056】
スリットの末端にて応力が集中することを回避する他の方法としては、スリットの末端のRを5~6mm程度に設計してもよい。
【0057】
(第5実施例)
図8は、
図2のA-A断面図の一例であり、第5実施例のスリット46Dを示す。第5実施例のスリット46Dは、周方向に円周上に隣り合うガス孔41b同士を繋ぐように形成され、下部シャワープレート41Dを貫通する隙間である。第5実施例のスリット46Dは、中央部41D1の中心Oに最も近い位置にて周方向に配置された6つのガス孔41bを2つずつ繋ぐスリット46D1が周方向に形成されている。また、中央部41D1の中心Oに次に近い位置にて周方向に配置された12のガス孔41bのうちの9つを3つずつ繋ぐスリット46D2が周方向に形成されている。スリット46D2は、12のガス孔41bを4つずつ繋いでもよい。スリット46D1とスリット46D2とは、同心円状に形成されている。下部シャワープレート41Dの中心Oから外周部41D2への熱伝導にスリット46D1及びスリット46D2が与える影響を少なくするために、スリット46D1は周方向に配置されたガス孔41bのうち隣接するガス孔41bの一部には形成されていない。スリット46D2も同様に周方向に配置されたガス孔41bのうち隣接するガス孔41bの一部には形成されていない。例えば、
図8の例では、スリット46D1は周方向に一つ置きに隣接するガス孔41bは繋がれていない。ただし、スリット46D1及びスリット46D2の配置は、
図8に示す例に限られない。第5実施例においてもスリット46D1及びスリット46D2は、中心Oを通る軸に対して回転対称に形成されている。
図8の例では、スリット46D1及びスリット46D2は3回対称であり、120度回転させるとほぼ重なる隙間である。
【0058】
図8には図示していないが、中央部41D1の領域において、中央部41D1の中心Oに対して同心円状にスリット46D1及びスリット46D2の外側に他のスリット46Dを形成してもよい。これによっても、下部シャワープレート41Dの応力を緩和し、分散板41の熱応力を低減することができる。これにより、分散板41の垂直方向の変形を抑制することができる。
【0059】
[その他]
図3、
図5~
図8に示すように、下部シャワープレート41Dは、中央部41D1と中央部41D1を囲む外周部41D2を有する。複数の孔やスリットは中央部41D1に設けられ、外周部41D2には設けられていない。つまり、外周部41D2は環状であり、下部シャワープレート41Dを厚み方向に貫通するスリット46、46A~46Dを有する中央部41D1の外周に連続して形成され、中央部41D1と一体となって分散板41を構成している。
【0060】
中央部41D1の半径と、外周部41D2の径方向の幅との比は、1:0.05~1:0.5である。このように中央部41D1に対して外周部41D2の領域を広く設計することにより、中央部41D1から外周部41D2までの温度分布が緩やかになる。これにより、スリット46、46A~46Dによって下部シャワープレート41Dの応力を効率的に緩和し、分散板41の熱応力を低減することができる。
【0061】
以上では、分散板41にスリット46を設ける例を説明したが、これに限らない。
図1の分散板41及び上部電極42の少なくともいずれかにスリット46を設けてもよい。また、
図1のシャワーヘッド30は、上部電極42を有しなくてもよい。
【0062】
また、スリット46と流路41cとは隔壁45により隔離されている。これにより、スリット46が原料ガスの供給に影響を与えない構造となっている。
【0063】
以上に説明したように、分散板41にスリットを設けることにより、分散板41の温度が高くなりやすい中央部41D1の中心部の膨張に対して温度が低くなりやすい外周部41D2との膨張差による応力が発生しにくくなる。また分散板41はスリットが狭くなる方向に膨張するため、実際の使用環境ではスリットの隙間が狭くなり、スリット自体が他に与える影響も小さくすることができる。これにより、温度上昇により下部シャワープレート41Dの強度が低下するために発生する応力で分散板41が塑性変形することを避けるために、載置台20と分散板41との距離を広げる必要が無くなる。また、分散板41が塑性変形することを避けるために、基板処理時に処理温度を高くできなかったり、プラズマ生成用の高周波電力を高くできなかったりする等の制約を排除することができる。これにより、生産性向上のための基板処理装置の小容量化、VHF又はUHFの利用と投入電力の増大による堆積高速化などの効果を制限せずに、分散板41を配置することによるプラズマ均一性制御、イオンフラックス制御等の効果を期待することができる。
【0064】
今回開示された実施形態に係る分散板、ガス供給機構及び基板処理装置は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0065】
上記実施形態では、ガス供給孔として機能する複数の孔を有する分散板41にスリット46、46A~46Dを設けたが、これに限らない。例えば、スリット46、46A~46Dは、複数の孔を有し、上部の電極との間に発生するプラズマの制御を目的とする中間電極、グランド電極、イオンカットフィルタ、イオントラップに適用することができる。また、複数の孔を有し、熱又は光の制御を目的とする遮熱板、遮蔽版、吸収板、反射板等に適用してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 処理容器
10u プラズマ空間
10s 処理空間
20 載置台
30 シャワーヘッド
41 分散板
41a ガス孔
41b ガス孔(貫通孔)
41c 流路
41D 下部シャワープレート
42 上部電極
42a 貫通孔
42D 上部シャワープレート
44 放射部
46、46A~46D スリット
80 制御装置
100、100a プラズマ処理装置