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特開2024-106264固体電解質体、全固体電池、及び全固体電池の製造方法
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  • 特開-固体電解質体、全固体電池、及び全固体電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106264
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】固体電解質体、全固体電池、及び全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240731BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240731BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240731BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240731BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240731BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240731BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010518
(22)【出願日】2023-01-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、文部科学省、研究成果展開事業、産業技術力強化法第17条第1項の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】高橋 綾香
(72)【発明者】
【氏名】細野 英司
(72)【発明者】
【氏名】北浦 弘和
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】曽根 理嗣
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA05
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA25
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ03
5H029CJ28
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029EJ07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ15
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA09
5H050DA13
5H050EA15
5H050FA02
5H050GA03
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA15
(57)【要約】
【課題】サイクル特性などの諸特性に優れた全固体電池を低コストで得ることが可能な固体電解質体を提供すること。また、この固体電解質体を備える全固体電池及びその製造方法を提供すること。
全固体電池のサイクル特性などの諸特性を改善できる固体電解質体及びその製造方法、並びに前記固体電解質体を備える全固体電池を提供すること。
【解決手段】表面及び裏面を有する板状又はシート状の固体電解質体であって、前記固体電解質体は、複数の固体電解質粒子を含み、前記表面及び裏面の少なくとも一方に面する内部領域において層状金属硫化物を含み、前記層状金属硫化物は、前記複数の固体電解質粒子の間の界面に存在する、固体電解質体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面及び裏面を有する板状又はシート状の固体電解質体であって、
前記固体電解質体は、複数の固体電解質粒子を含み、前記表面及び裏面の少なくとも一方に面する内部領域において層状金属硫化物を含み、
前記層状金属硫化物は、前記複数の固体電解質粒子の間の界面に存在する、固体電解質体。
【請求項2】
前記層状金属硫化物は、遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物、硫化鉄(II)(FeS)、硫化銅(II)(CuS)、ボーナイト(CuFeS)、及び硫化スズ(II)(SnS)からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の固体電解質体。
【請求項3】
前記層状金属硫化物は遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物であり、前記遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物は、二硫化モリブデン(MoS)、二硫化タングステン(WS)、二硫化タンタル(TaS)、二硫化ニオブ(NbS)、二硫化チタン(TiS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀ニオブ(AgNbS)、二硫化銅ニオブ(CuNbS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀チタン(AgTiS)、及び二硫化銅チタン(CuTiS)からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項2に記載の固体電解質体。
【請求項4】
前記固体電解質体は、固体電解質粒子及び層状金属硫化物以外の成分の含有量が0.1質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の固体電解質体。
【請求項5】
正極活物質を含む正極活物質層を備える正極、
固体電解質層、及び
負極活物質を含む負極活物質層を備える負極を、この順に備え、
前記固体電解質層が請求項1又は2に記載の固体電解質体である、全固体電池。
【請求項6】
前記正極活物質層及び前記負極活物質層の一方又は両方が固体電解質粒子をさらに含む、請求項5に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記正極活物質層及び前記負極活物質層の一方又は両方が層状金属硫化物をさらに含む、請求項5に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記正極活物質層及び前記負極活物質層の一方又は両方が固体電解質粒子及び層状金属硫化物を含み、
前記正極活物質層は、正極活物質、固体電解質粒子、及び層状金属硫化物以外の成分の含有量が0.1質量%以下であり、
前記負極活物質層は、負極活物質、固体電解質粒子、及び層状金属硫化物以外の成分の含有量が0.1質量%以下である、請求項5に記載の全固体電池。
【請求項9】
請求項5に記載の全固体電池の製造方法であって、以下の工程;
正極活物質層前駆体、固体電解質層前駆体及び負極活物質層前駆体を準備する準備工程、
前記正極活物質層前駆体、前記固体電解質層前駆体、及び前記負極活物質層前駆体をこの順に積層して積層体を作製する積層工程、及び
前記積層体にプレス処理を施すプレス工程を含み、
前記準備工程の際に、前記正極活物質層前駆体、前記固体電解質層前駆体及び前記負極活物質層前駆体の少なくとも一つに層状金属硫化物を加える、方法。
【請求項10】
前記プレス処理の際に、9.25MPa以上925MPa以下の圧力を前記積層体に加える、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質体、全固体電池、及び全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化抑制が喫緊の課題となる現在において、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用することが求められ、そのような背景のもと、得られた再生可能エネルギーを効率よく貯蔵する蓄電池、特に軽量でエネルギー密度の大きいリチウムイオン電池(LIB)の研究開発が盛んに進められている。リチウムイオン電池は、正極にコバルト酸リチウム等の正極活物質を、負極に黒鉛等の負極活物質を、電解質に有機電解液を用いている。
【0003】
一方で、電池性能のさらなる向上が期待され、なかでも負極、正極、及び電解質の全てが固体からなる全固体電池が注目されている。全固体電池は、液漏れや発火の恐れがある有機電解液を含まないため、安全性に優れるという特長がある。また固体電解質は、液体電解質に比べて電極での反応が少なく劣化しにくいとともに、温度及び圧力変化に対して安定である。そのため、固体電解質材料を備える全固体電池は、寿命が長く、利用可能な温度及び圧力範囲が広いという利点がある。さらに、固体状の正極材料、電解質材料及び負極材料を積層して作製することができるので、製造が容易であるとともに、大容量化及び小型化を図りやすいという特長がある。
【0004】
特に全固体電池は航空・宇宙用途環境下で使用される電池として有望視されている。航空・宇宙環境下では環境温度の幅が広い。また、紫外線や放射線の照射量が多く、高分子材料が劣化しやすい。さらに一度使用を始めると、保守・管理を容易に行うことができない。この点、温度及び圧力変化の影響を受けにくい全固体電池は安定的な動作が可能である。また無機固体電解質を備えた全固体電池は、紫外線や放射線の影響を受けにくいという利点がある。さらに液体電解質を含まないため、液漏れや発火の恐れがなく、保守・管理の必要を抑えることができる。
【0005】
全固体電池に関する文献として、例えば特許文献1には、リチウムイオン伝導性を有する硫化物系無機固体電解質と固体化合物とを含有する全固体二次電池用固体電解質層、及び前記固体電解質層を備えた全固体電池が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲)。また、特許文献1には、固体化合物が組成式:Li(1+x+y)AlTi(2-x)Si(3-y)12で表される化合物であること、充電により生成したリチウム金属を、デンドライトへの成長前又は成長過程で固体化合物と化学反応させてデンドライトの正極への到達を阻害することが記載されている(特許文献1の[0017]及び[0027])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-020387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、全固体電池の開発が進められているものの、従来の全固体電池には改良の余地があった。このことを、全固体電池断面の一例を模式的に示す図1を用いて説明する。全固体電池100は、正極2、固体電解質層8、及び負極10がこの順に積層した構造を有している。正極2は、正極集電体4及びその表面に設けられた正極活物質層6を備える。負極10は、負極集電体12及びその表面に設けられた負極活物質層14を備える。正極活物質層6、固体電解質層8、及び負極活物質層14のそれぞれは、多数の正極活物質、固体電解質粒子、及び負極活物質粒子を含み、隣接する層と接している。電池の使用時(放電時)には、負極活物質層14に蓄積された伝導イオン(Li等)が固体電解質層8を通って正極活物質層6に移動し、それに伴い、外部機器16に電子(e)が供給される。
【0008】
全固体電池の実用化を目指す上で、活物質層(正極活物質層及び負極活物質層)と固体電解質層との界面での密着性が重要である。また固体電解質層が十分に緻密化されていることも重要である。界面での密着性が不十分であると、伝導イオンの移動が妨げられるため、界面抵抗が増大して電池の出力特性が低下する。固体電解質粒子の間隙に空孔が多く存在すると、固体電解質層内での伝導イオンの移動が妨げられる。
【0009】
そのため、従来の固体電池を製造する際は、活物質層と固体電解質層の積層体を高圧でプレス処理して活物質層と固体電解質層を緻密化するとともに、両者の密着性を確保していた。しかしながら、高圧プレス処理は、大型設備を必要とするとともにサイクルタイムが長い。そのため製造コストが増大するという問題があった。
【0010】
また、従来の固体電池では活物質層と固体電解質層の界面密着性を長期に亘って維持することが困難という問題もあった。活物質材料は充放電時に体積膨張及び収縮して体積変化する。特に大容量材料は体積変化が大きく、この体積変化が活物質層と固体電解質層の界面に応力をもたらす。充放電を繰り返すことで応力が継続的に加わり、その結果、活物質層と固体電解質層の密着性が低下して、これが出力特性の劣化につながる。そのため、従来の全固体電池ではサイクル特性向上を図る上で限界があった。
【0011】
本発明者らは、このような従来の問題点に鑑みて、鋭意検討を行った。その結果、固体電解質層を構成する固体電解質体の特定の部位に層状金属硫化物を加えることで、低圧プレス処理でも活物質層と固体電解質層の緻密化及び密着性の向上を図ることができ、それにより、サイクル特性などの諸特性に優れた全固体電池を低コストで得ることが可能になるとの知見を得た。
【0012】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、サイクル特性などの諸特性に優れた全固体電池を低コストで得ることが可能な固体電解質体の提供を課題とする。また本発明は、この固体電解質体を備える全固体電池及びその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記(1)~(10)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0014】
(1)表面及び裏面を有する板状又はシート状の固体電解質体であって、
前記固体電解質体は、複数の固体電解質粒子を含み、前記表面及び裏面の少なくとも一方に面する内部領域において層状金属硫化物を含み、
前記層状金属硫化物は、前記複数の固体電解質粒子の間の界面に存在する、固体電解質体。
【0015】
(2)前記層状金属硫化物は、遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物、硫化鉄(II)(FeS)、硫化銅(II)(CuS)、ボーナイト(CuFeS)、及び硫化スズ(II)(SnS)からなる群から選択される少なくとも一種である、上記(1)の固体電解質体。
【0016】
(3)前記層状金属硫化物は遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物であり、前記遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物は、二硫化モリブデン(MoS)、二硫化タングステン(WS)、二硫化タンタル(TaS)、二硫化ニオブ(NbS)、二硫化チタン(TiS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀ニオブ(AgNbS)、二硫化銅ニオブ(CuNbS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀チタン(AgTiS)、及び二硫化銅チタン(CuTiS)からなる群から選択される少なくとも一種である、上記(2)の固体電解質体。
【0017】
(4)前記固体電解質体は、固体電解質粒子及び層状金属硫化物以外の成分の含有量が0.1質量%以下である、上記(1)~(3)のいずれかの固体電解質体。
【0018】
(5)正極活物質を含む正極活物質層を備える正極、
固体電解質層、及び
負極活物質を含む負極活物質層を備える負極を、この順に備え、
前記固体電解質層が上記(1)~(4)のいずれかの固体電解質体である、全固体電池。
【0019】
(6)前記正極活物質層及び前記負極活物質層の一方又は両方が固体電解質粒子をさらに含む、上記(5)の全固体電池。
【0020】
(7)前記正極活物質層及び前記負極活物質層の一方又は両方が層状金属硫化物をさらに含む、上記(5)又は(6)の全固体電池。
【0021】
(8)前記正極活物質層及び前記負極活物質層の一方又は両方が固体電解質粒子及び層状金属硫化物を含み、
前記正極活物質層は、正極活物質、固体電解質粒子、及び層状金属硫化物以外の成分の含有量が0.1質量%以下であり、
前記負極活物質層は、負極活物質、固体電解質粒子、及び層状金属硫化物以外の成分の含有量が0.1質量%以下である、上記(5)の全固体電池。
【0022】
(9)上記(5)の全固体電池の製造方法であって、以下の工程;
正極活物質層前駆体、固体電解質層前駆体及び負極活物質層前駆体を準備する準備工程、
前記正極活物質層前駆体、前記固体電解質層前駆体、及び前記負極活物質層前駆体をこの順に積層して積層体を作製する積層工程、及び
前記積層体にプレス処理を施すプレス工程を含み、
前記準備工程の際に、前記正極活物質層前駆体、前記固体電解質層前駆体及び前記負極活物質層前駆体の少なくとも一つに層状金属硫化物を加える、方法。
【0023】
(10)前記プレス処理の際に、9.25MPa以上925MPa以下の圧力を前記積層体に加える、上記(9)の方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、サイクル特性などの諸特性に優れた全固体電池を低コストで得ることが可能な固体電解質体が提供される。また本発明によれば、この固体電解質体を備える全固体電池及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】全固体電池断面の一例を示す模式図である。
図2】MoS粉末のSEM像を示す。
図3】全固体電池のサイクル特性を示す。
図4】全固体電池の充放電曲線を示す(2サイクル目)。
図5】全固体電池の充放電曲線を示す(5サイクル目)。
図6】全固体電池の充放電曲線を示す(10サイクル目)。
図7】正極活物質層のSEM像及びEDS像を示す。
図8】全固体電池のサイクル特性を示す。
図9】全固体電池のサイクル特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0027】
<<1.固体電解質体>>
本実施形態の固体電解質体は、板状又はシート状の形状を有し、表面及び裏面を有する。すなわち、厚み方向に対して大きい幅方向及び長さ方向の寸法を有する。また固体電解質体は、複数の固体電解質粒子を含む。複数の固体電解質粒子が固体電解質体を構成するとも言える。固体電解質粒子は固体電解質材料からなり、外部からの電界印加によりイオン伝導性を示す。なお板状とは比較的厚い形状を意味し、シート状とは板状よりも薄い形状を意味する。
【0028】
固体電解質体に含まれる固体電解質粒子は、イオン伝導性を示すものであれば、その材料は特に限定されない。無機固体電解質材料及び有機固体電解質材料のいずれであってもよい。しかしながら、温度安定性が高く且つ耐環境性に優れる無機固体電解質材料が好ましい。
【0029】
無機固体電解質材料として、典型的には硫化物系と酸化物系が挙げられる。硫化物系固体電解質材料はイオン導電率が高く、広い電位域において電気化学的に安定であり、室温加圧で粒界抵抗を大幅に低減できるという利点を有する。硫化物系固体電解質材料として、LiPS、Li10GeP12、及びLi3.25Ge0.250.75などの組成を有する結晶質材料;30LiS・26B・44LiI、63LiS・36SiS・1LiPO、57LiS・38SiS・5LiSiO、70LiS・30P、及び50LiS・50GeSなどの組成を有するガラス;Li11及びLi3.250.95などの組成を有するガラスセラミックが挙げられる。一方で、酸化物系固体電解質材料は大気安定性に優れるという特徴がある。酸化物系固体電解質材料として、La0.51Li0.34TiO2.94などの組成を有するペロブスカイト型結晶質材料;Li1.3Al0.3Ti1.7(POなどの組成を有するNASICON結晶質材料;LiLaZr12などの組成を有するガーネット型結晶質材料;50LiSiO・50LiBOなどの組成を有するガラス;Li2.9PO3.30.46、及びLi3.6Si0.60.4などの組成を有するアモルファス材料;Li1.07Al0.69Ti1.46(PO及びLi1.5Al0.5Ge1.5(POなどの組成を有するガラスセラミックが挙げられる。
【0030】
本実施形態の固体電解質体は、表面及び裏面の少なくとも一方に面する内部領域において、固体電解質粒子の他に層状金属硫化物を含む。ここで、表面とは、固体電解質体の幅方向及び長さ方向で規定される2面のうち一方の面であり、裏面とは、表面と対向する面である。また内部領域とは、表面及び裏面の一方に面し、所定の深さでもって区画される領域である。内部領域を表層部と呼ぶこともできる。内部領域(表層部)に含まれる層状金属硫化物は、複数の固体電解質粒子間の間隙に存在する。
【0031】
層状金属硫化物は、層間結合力の小さい層状結晶構造を有する金属硫化物である。例えば、二硫化タングステン(WS)は、六方晶系の結晶構造を有する層状格子構造を有している。この結晶は、タングステン(W)原子をその両側から硫黄(S)原子で挟み込んだ構造を備えた層が(0001)方向に積層された構造を有している。各層を構成する原子同士は、結合力が大きい共有結合により結びついているのに対し、層同士は、結合力の小さいファンデルワース力により結合している。そのため、層状金属硫化物は、層間剥離し易く、剥離しないとしても層間滑りが起こり易い。そのため容易に変形するという性質がある。また積層構造の最上部の相と最下層の層は、他の物質に付着しやすい。
【0032】
本実施形態の固体電解質体は、層状金属硫化物を含むが故に、この固体電解質体を備える全固体電池の製造を容易にする効果がある。すなわち無機化合物は一般には高硬度材料である。しかしながら、層状金属硫化物は応力を受けた際に容易に変形するため、固体潤滑性及び軟物質性を示す。このような性質を有する層状金属硫化物を固体電解質体に加えると、全固体電池製造時に高圧プレス処理を行う必要がない。低圧プレスでも緻密化が可能であるため、製造コスト低減の効果がある。
【0033】
言い換えると、低圧プレスでも十分に緻密化した固体電解質体や全固体電池の製造が可能となる。また層状金属硫化物は他の物質に付着しやすいので、固体電解質体に含まれる固体電解質粒子の脱落を抑制する。この点、層状金属硫化物は結着材としての機能を有しており、固体電解質体に保形性を付与すると言うこともできる。層状金属硫化物の作用によって緻密化されて保形性を有する固体電解質体の内部では伝導イオンの移動がスムーズに行われる。イオン伝導度が高くなる結果、全固体電池の出力特性を改善するという働きがある。また、緻密であるが故に固体電解質粒子間の空隙が小さくなる。これにより電極間の短絡を引き起こすデンドライト成長が抑制され、全固体電池の出力劣化の問題を抑えることができるという効果も期待できる。
【0034】
上述した効果に加えて、本実施形態の固体電解質体は応力緩和機能を有するため、全固体電池のサイクル特性を向上させる効果がある。先述したように、活物質材料は充放電時に体積膨張及び収縮を起こす。例えば、リチウムイオン電池の負極活物質として多用されるケイ素(Si)系材料は、リチウム(Li)を吸蔵すると体積が300~400%に増加し、リチウム脱離に伴い体積が減少する。また正極活物質として多用されるリチウム遷移金属系複合酸化物は、ケイ素系材料ほどではないものの、Liの吸蔵及び脱離に伴い体積が変化する。充放電及びそれに伴う活物質層の体積変化が繰り返し起こると、活物質層(正極活物質層、負極活物質層)と固体電解質体の界面に集中した応力が限界値を超え、そこから亀裂や剥離が生じる。亀裂や剥離が生じると、イオン伝導が阻害されるため界面抵抗が増大して電池の出力特性が劣化する。
【0035】
この点、層状金属硫化物は応力を受けた際に容易に変形するため、その応力を緩和する。そのような層状金属硫化物を含む固体電解質体を用いて全固体電池を構成すると、固体電解質体と活物質層との界面での応力が緩和されて、界面での亀裂や剥離が抑制される。その結果、界面抵抗増大及び出力特性劣化が抑えられる。
【0036】
好ましくは、層状金属硫化物は、遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物、硫化鉄(II)(FeS)、硫化銅(II)(CuS)、ボーナイト(CuFeS)、及び硫化スズ(II)(SnS)からなる群から選択される一種である。より好ましくは、層状金属硫化物は遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物であり、この遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物は、二硫化モリブデン(MoS)、二硫化タングステン(WS)、二硫化タンタル(TaS)、二硫化ニオブ(NbS)、二硫化チタン(TiS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀ニオブ(AgNbS)、二硫化銅ニオブ(CuNbS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀チタン(AgTiS)、及び二硫化銅チタン(CuTiS)からなる群から選択される少なくとも一種である。これらの化合物には潤滑効果がある。
【0037】
固体電解質体は、表層部(内部領域)のみに層状金属硫化物を含んでもよく、あるいは表層部以外の領域に層状金属硫化物を含んでもよい。例えば、固体電解質体の全体に亘って層状金属硫化物を含んでもよい。層状金属硫化物を少なくとも表層部に含ませることで、上述した優れた効果を固体電解質体に付与することができる。
【0038】
内部領域(表層部)のみに層状金属硫化物を含む場合には、内部領域の厚さは、固体電解質体の厚さ以下であることを前提として、0.1μm以上、1μm以上、5μm以上、又は10μm以上であってよい。また内部領域の厚さは、固体電解質体の厚さ以下であることを前提として、2000μm以下、1000μm以下、500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は10μm以下であってよい。層状金属硫化物は、固体電解質体の表面及び裏面のいずれか一方のみに面する内部領域のみに含まれてもよく、あるいは表面に面する内部領域、及び裏面に面する内部領域の双方に含まれていてもよい。
【0039】
本実施形態の固体電解質体は、板状又はシート状である限り、その寸法は限定されない。例えば、長尺形状の固体電解質体であってもよい。長尺状の固体電解質体は、ロール・トゥ・ロール方式での全固体電池の製造に好適である。また電池形状に打ち抜いた個片の固体電解質体であってもよい。厚み方向の寸法は、幅方向及び長さ方向の寸法より小さければ限定されない。厚み方向の寸法は、限定される訳ではないが、典型的には1μm以上2000μm以下である。
【0040】
固体電解質体は、固体電解質粒子及び層状金属硫化物以外の他の成分を含んでもよい。このような成分として樹脂バインダーなどの公知の結着材やイオン伝導性を上げるためのイオン液体が挙げられる。しかしながら、樹脂バインダー等の高分子成分は耐環境性、特に耐放射線に劣る。例えば樹脂バインダーとして多用されるポリフッ化ビニルデン(PVdF)に放射線を照射すると、橋かけ重合、主鎖切断、及び/又は脱フッ化水素反応が生じる。また液体成分は液漏れの原因となる。
【0041】
したがって、高分子成分や液体成分の含有量を抑えることで、固体電解質体に耐環境性及び安全性向上の効果を付与することができる。本実施形態の固体電解質体は結着材としての機能を有する層状金属硫化物を含む、そのため、樹脂バインダー量を抑えても、保形性に優れるとともに十分に緻密化された固体電解質体を得ることが可能である。固体電解質粒子及び層状金属硫化物以外の成分の含有量は0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以下がより好ましい。
【0042】
<<2.全固体電池>>
本実施形態の全固体電池は、正極、固体電解質層、及び負極を、この順に備える。正極は、正極活物質を含む正極活物質層を備える。負極は、負極活物質を含む負極活物質層を備える。また固体電解質層は上述した固体電解質体である。隣接する活物質層(正極活物質層、負極活物質層)と固体電解質層(固体電解質体)は接触している。全固体電池は、充電時には、外部回路から負極側に電子(e)が供給され、そこに伝導イオン(Li等)が蓄積される。一方で放電時には、負極に蓄積された伝導イオンが固体電解質層(固体電解質体)を通って正極側に戻され、それに伴い、負極から外部機器に電子が供給される。
【0043】
正極は正極活物質層を備える。正極活物質層は正極活物質を含む。正極活物質は公知の材料で構成すればよい。例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、又はLiNi0.5Co0.2Mn0.3等の岩塩層状型活物質;LiMn、又はLi(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質;LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、又はLiCuPO等のオリビン型活物質;LiFeSiO、又はLiMnSiO等のポリアニオン型活物質が挙げられる。
【0044】
正極活物質層は正極活物質単体からなるシートであってもよく、あるいは正極活物質粒子の成形体であってもよい。正極活物質粒子の平均粒径は、限定される訳ではないが、典型的には0.1μm以上100μm以下である。正極活物質層は1種類のみの活物質を含んでもよく、あるいは複数種の活物質を組み合わせて含んでもよい。正極活物質層の厚さは、限定される訳ではないが、典型的には1μm以上1000μm以下である。
【0045】
正極は、正極活物質層を支持する正極集電体を備えてもよい。正極集電体は、公知の材料で構成すればよい。例えば、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、及び/又はカーボン(C)を含む板、箔、又はメッシュが挙げられる。
【0046】
負極は負極活物質層を備える。負極活物質層は負極活物質を含む。負極活物質は公知の材料で構成すればよい。例えば、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、又はスズ(Sn)等の金属活物質;天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ハードカーボン、又はソフトカーボン等のカーボン活物質、LiTi12等の酸化物系活物質が挙げられる。
【0047】
負極活物質層は負極活物質単体からなるシートであってもよく、あるいは負極活物質粒子の成形体であってもよい。負極活物質粒子の平均粒径は、限定される訳ではないが、典型的には0.1μm以上100μm以下である。負極活物質層は1種類のみの活物質を含んでもよく、あるいは複数種の活物質を組み合わせて含んでもよい。負極活物質層の厚さは、限定される訳ではないが、典型的には1μm以上1000μm以下である。
【0048】
負極は、負極活物質層を支持する負極集電体を備えてもよい。負極集電体は、公知の材料で構成すればよい。例えば、ステンレス鋼(SUS)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及び/又はカーボン(C)を含む板、箔、又はメッシュが挙げられる。
【0049】
好ましくは、活物質層(正極活物質層及び負極活物質層)の一方又は両方が固体電解質粒子をさらに含む。電極(正極、負極)での伝導イオンの送受をスムーズに行わせるためには、活物質粒子と固体電解質の界面を増やすことが有効である。活物質層中に固体電解質粒子を加えることで、活物質粒子と固体電解質の接触面積が増えるため、伝導イオン(Li等)の送受が効率的に進む。そのため、全固体電池の出力特性のより一層の向上を図ることができる。
【0050】
活物質層に加える固体電解質粒子は、特に限定されず、公知の材料で構成すればよい。固体電解質層(固体電解質体)を構成する固体電解質粒子と同一組成であってよく、あるいは異なる組成であってよい。例えば、LiPS等の硫化物系固体電解質材料やLa0.51Li0.34TiO2.94など等の酸化物系固体電解質材料が挙げられる。固体電解質粒子の平均粒径は、限定される訳ではないが、典型的には0.1μm以上100μm以下である。
【0051】
好ましくは、活物質層(正極活物質層及び負極活物質層)の一方又は両方が層状金属硫化物をさらに含む。先述したように、層状金属硫化物は潤滑機能を有する。このような機能を有する層状金属硫化物を加えると、低圧プレス処理でも緻密な活物質層を作製することができる。そのため出力特性がより一層優れた全固体電池を得ることが可能となる。
【0052】
また層状金属硫化物は応力緩和機能を有するため、これを活物質層に加えることで電池のサイクル特性をより一層向上させることが可能となる。先述したように、充放電の際に活物質粒子が体積変化する。この体積変化は、活物質層と固体電解質層の界面のみならず、活物質層の内部にも問題を引き起こす。例えば、体積変化による応力が電極中の導電パスを切断したり、あるいは活物質粒子を脱落させたりし、これが電池のサイクル特性劣化を引き起こす。応力緩和剤として機能する層状金属硫化物を活物質粒子の粒子間に配置させると、活物質層中の応力が緩和され、サイクル特性劣化などの問題発生を防ぐことができる。
【0053】
さらに、層状金属硫化物は半導体的特性を有しており、導電助剤として機能する。例えば、二硫化タングステン(WS)はn型半導体としての性質を有しており、その導電率は10-3S/cm程度である。そのため、従来から多用されているカーボンブラックなどの導電助剤を層状金属硫化物で置き換えることが可能である。また層状金属硫化物はリチウム(Li)貯蔵特性を有しており、活物質として機能する。例えば、二硫化タングステン(WS)や二硫化モリブデン(MoS)は、2V領域で200mAh/g程度のリチウム貯蔵特性を示すことが知られている。したがって、層状金属硫化物を用いることで、カーボンブラックなどの導電助剤を用いなくても、良好な充放電特性を示す全固体電池の開発が可能となる。
【0054】
その上、層状金属硫化物を活物質層に加えることで、活物質粒子成分の固体電解質への拡散抑制の効果が期待される。活物質粒子が固体電解質に直接接触していると、活物質粒子成分が拡散することがある。これに対して、層状金属硫化物が活物質粒子表面を被覆するように存在していると、この層状金属硫化物が保護被膜として機能し、活物質粒子成分の拡散を抑制すると考えられる。
【0055】
活物質層に加える層状金属硫化物は、固体電解質層(固体電解質体)に加える層状金属硫化物と同一組成のものであってよく、あるいは異なる組成のものであってもよい。好ましくは、層状金属硫化物は、遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物、硫化鉄(II)(FeS)、硫化銅(II)(CuS)、ボーナイト(CuFeS)、及び硫化スズ(II)(SnS)からなる群から選択される一種である。より好ましくは、層状金属硫化物は遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物であり、この遷移金属ジカルコゲナイド系層間化合物は、二硫化モリブデン(MoS)、二硫化タングステン(WS)、二硫化タンタル(TaS)、二硫化ニオブ(NbS)、二硫化チタン(TiS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀ニオブ(AgNbS)、二硫化銅ニオブ(CuNbS)、二硫化クロムタンタル(CrTaS)、二硫化銀チタン(AgTiS)、及び二硫化銅チタン(CuTiS)からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0056】
正極活物質層は、正極活物質粒子、固体電解質粒子及び層状金属硫化物以外の成分を含んでもよい。また負極活物質層は、負極活物質粒子、固体電解質粒子及び層状金属硫化物以外の成分を含んでもよい。このような成分として、カーボンブラックなどの公知の導電助剤や、樹脂バインダーなどの公知の結着材が挙げられる。
【0057】
しかしながら、カーボンブラックや樹脂バインダーはリチウム(Li)貯蔵能力に劣る。そのため、活物質層がこれらの成分を多量に含むと、電池の容量向上を図ることが困難になる。また樹脂バインダーは耐環境性に劣る。したがって、カーボンブラックや樹脂バインダーといった他の成分の含有量を抑えることで、耐環境性やエネルギー密度向上の効果をより一層顕著に図ることができる。正極活物質層は、これに含まれる正極活物質粒子、固体電解質粒子、及び層状金属硫化物以外の成分の含有量が、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。負極活物質層は、これに含まれる負極活物質粒子、固体電解質粒子、及び層状金属硫化物以外の成分の含有量が、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
【0058】
全固体電池の構造は公知の態様とすればよい。例えば、正極、負極、及び固体電解質層(固体電解質体)の積層体を外装缶内に封入した構造が挙げられる。電池の形状も限定されず、円筒形、角形、ボタン型、ラミネート型などの形状であってよい。
【0059】
好ましくは、全固体電池は、高放射線環境下で用いられる電池である。ここで、高放射線環境とは、航空、宇宙、及び/又は原子力発電所などの放射線量が高い環境のことである。本実施形態の全固体電池は、電池特性(エネルギー密度、サイクル特性)に優れる。また耐環境性に優れる態様とすることが可能である。そのため高放射線環境下での使用に特に好適である。
【0060】
なお、上述した説明では、リチウムイオン(Li)が伝導イオンである全固体リチウムイオン電池について主として説明した。しかしながら、本実施形態の全固体電池は全固体リチウムイオン電池に限定される訳ではない。ナトリウムイオン(Na)やカリウムイオン(K)が伝導イオンである全固体ナトリウムイオン電池や全固体カリウムイオン電池などであってもよい。これらの電池においても、上述した効果、特に固体潤滑機能及び応力緩和機能を有する層状金属硫化物による電池特性改善の効果が得られることは明らかである。全固体リチウムイオン電池以外の電池を対象とする場合には、電池の種類に応じて活物質材料や固体電解質材料を選択すればよい。
【0061】
<<3.全固体電池の製造>>
本実施形態の全固体電池は、上述した要件を満足する限り、その製造方法は限定されない。しかしながら好適な製造方法は、以下の工程;正極活物質層前駆体、固体電解質層前駆体及び負極活物質層前駆体を準備する準備工程、正極活物質層前駆体、固体電解質層前駆体、及び負極活物質層前駆体をこの順に積層して積層体を作製する積層工程、及び積層体にプレス処理を施すプレス工程を含む。また準備工程の際に、正極活物質層前駆体、固体電解質層前駆体及び負極活物質層前駆体の少なくとも一つに層状金属硫化物を加える。各工程の詳細について以下に説明する。
【0062】
<準備工程>
準備工程では、正極活物質層前駆体、固体電解質層前駆体及び負極活物質層前駆体を準備する。ここで、正極活物質層前駆体、固体電解質層前駆体及び負極活物質層前駆体のそれぞれは、全固体電池の正極活物質層、固体電解質層(固体電解質体)及び負極活物質層の前駆体となるものである。正極活物質層前駆体、固体電解質層前駆体、及び負極活物質層前駆体のそれぞれは、正極活物質、固体電解質粒子、及び負極活物質を少なくとも含む。
【0063】
正極活物質、固体電解質粒子、及び負極活物質の詳細については先述したとおりである。また活物質層前駆体(正極活物質層前駆体、負極活物質層前駆体)には、集電体(正極集電体、負極集電体)、あるいはこれらの前駆体を設けてもよい。さらに活物質層前駆体には固体電解質粒子を加えてもよい。
【0064】
活物質層前駆体(正極活物質層前駆体、負極活物質層前駆体)は活物質(正極活物質、負極活物質)単体からなるシートであってもよく、あるいは活物質粒子の成形体であってもよい。成形体は、活物質粒子をプレス成形して作製することができる。あるいは、活物質粒子に溶媒を加えてスラリー化し、得られたスラリーを基体上に塗布し、得られた塗布膜を乾燥して作製してもよい。溶媒としてN-ピロリドンなどの公知の有機溶媒を用いればよい。また基体として集電体を用いてもよく、あるいはPETフィルムなどの他の基材を用いてもよい。集電体を用いることで、集電体と活物質層が一体化した正極又は負極を一度の工程で作製することができる。一方で集電体以外の基材を用いた場合には、基材上に成膜したシートを基材から剥離し、これを集電体上に積層すればよい。
【0065】
固体電解質層前駆体は固体電解質粒子の成形体であってもよい。成形体は、固体電解質粒子をプレス成形して作製することができる。あるいは固体電解質粒子に溶媒を加えてスラリー化し、得られたスラリーを基体上に塗布し、得られた塗布膜を乾燥して作製すればよい。溶媒としてN-ピロリドンなどの公知の有機溶媒を用いればよい。また基体としてPETフィルムなどの公知の基材を用いればよい。
【0066】
準備工程の際に、正極活物質層前駆体、固体電解質層前駆体及び負極活物質層前駆体の少なくとも一つに層状金属硫化物を加える。これにより、製造後の全固体電池において、固体電解質層(固体電解質体)の表面及び裏面の少なくとも一方に面する内部領域(表層部)に層状金属硫化物を含ませることが可能となる。
【0067】
例えば、正極活物質層前駆体に層状金属硫化物に加えた場合には、後続する積層工程で、層状金属硫化物を加えた正極活物質層前駆体、固体電解質層前駆体、及び負極活物質層前駆体を積層する。次いで、プレス工程では積層体の上下方向に圧力を加える。この際、潤滑性を有する層状金属硫化物の一部が正極活物質層前駆体から押し出されて固体電解質層前駆体表層部に移動する。そのためプレス工程後の固体電解質層前駆体(固体電解質層)は、その表層部に層状金属硫化物が残存する。負極活物質層前駆体に層状金属硫化物を加えた場合も同様であり、プレス工程で層状金属硫化物の一部が負極活物質層前駆体から固体電解質層前駆体表層部に移動し、そこに残存する。
【0068】
固体電解質層前駆体に層状金属硫化物を加えた場合には、その一部がプレス工程で活物質層前駆体に移動し、残部が固体電解質層前駆体に残留する。したがって、プレス工程後の固体電解質層前駆体には層状金属硫化物が残存する。層状金属硫化物を固体電解質層前駆体の表層部のみに加えてもよく、あるいは全体に加えてもよい。表層部のみに層状金属硫化物を加える方法として、例えば、固体電解質層前駆体を複数のサブシートで構成し、表層部を構成するサブシートのみに層状金属硫化物を加える手法が挙げられる。
【0069】
<積層工程>
積層工程では、得られた正極活物質層前駆体、固体電解質層前駆体、及び負極活物質層前駆体をこの順に積層して積層体を得る。活物質層前駆体の一面に集電体が設けられている場合には、集電体が設けられていない面が固体電解質層前駆体と接するように積層する。積層する前に各シートを個片に打ち抜き、打ち抜いたシートを積層してもよく、あるいは連続シートを積層してもよい。連続シートを用いることで、ロール・トゥ・ロール工程を用いた連続処理が可能となる。
【0070】
<プレス工程>
プレス工程では、得られた積層体にプレス処理を施す。これにより、表層部に層状金属硫化物を含む固体電解質層を正極及び負極で挟み込んだ構造の全固体電池を得ることができる。層状金属硫化物を含む活物質層前駆体を用いた場合には、プレス工程で活物質層前駆体から固体電解質層前駆体に層状金属硫化物が移動する。層状金属硫化物を含む固体電解質層前駆体を準備した場合には、プレス工程後の固体電解質層前駆体(固体電解質層)に層状金属硫化物が残留する。
【0071】
プレス工程では、公知のプレス機を用いて積層体に圧力を印加すればよい。特にロールプレスを用いることで、連続処理が可能となる。プレス工程での圧力の大きさは限定されない。しかしながら、本実施形態の製造方法によれば、正極活物質層前駆体、固体電解質層前駆体及び負極活物質層前駆体の少なくとも一つが潤滑機能を有する層状金属硫化物を含むため、低圧プレスでの緻密化が可能である。プレス処理の際に、ゲージ圧力で、好ましくは9.25MPa以上925MPa以下、より好ましくは46.25MPa以上370MPa以下の圧力を積層体に加える。
【実施例0072】
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実験例A]
実験例Aでは、負極活物質層に層状金属硫化物である二硫化モリブデン(MoS)又は二硫化チタン(TiS)を加えて全固体電池を作製し、その評価を行った。
【0074】
(1)全固体電池の作製
[例1]
<正極合材の作製>
正極活物質粒子としてチタン酸リチウム粉末(LiTi12)を、固体電解質粒子としてメカニカルミリング法を用いて合成した硫化リンリチウム粉末(LiPS)を、層状金属硫化物として二硫化モリブデン粉末(MoS)を準備した。
【0075】
準備したLiTi12粉末、LiPS粉末、及びMoS粉末を、質量比でLiTi12粉末、LiPS粉末、及びMoS粉末=3:5:2の割合で混合して正極合材を作製した。
【0076】
<全固体電池の組み立て>
全固体電池の組み立ては、固体電解質層‐正極積層体を作製時の荷重条件(成形圧力)に応じて以下の2種類の手法で行った。
【0077】
‐積層体成形時の圧力332.8MPaのサンプル‐
Φ10mmのポリカーボネートチューブ内に、固体電解質粉末80mgを投入し、18.5MPaで一軸プレスを行った。その後、固体電解質上に正極合材10mgを投入し、従来の過重である332.8MPaの圧力で一軸プレスして本成型を行うことで固体電解質層-正極層積層体を作製した。
【0078】
得られた積層体の正極と反対側にΦ9mmで切り出したInシート(フルウチ化学社製)とΦ8mmで切り出した金属Liシート(フルウチ化学社製)を貼り付け、110.9MPaでプレスして、Li-In層-固体電解質層-正極層から成る全固体電池を得た。
【0079】
‐積層体成形時の圧力18.5~110.9MPaのサンプル‐
Φ10mmのポリカーボネートチューブ内に、固体電解質粉末80mgを投入し、18.5MPaで一軸プレスを行った。その後、固体電解質上に正極合材10mgを投入し、反対側にΦ9mmで切り出したInシート(フルウチ化学社製)とΦ8mmで切り出した金属Liシート(フルウチ化学社製)を貼り付け、所定の圧力で一軸プレスして本成型を行うことでLi-In層-固体電解質層-正極層から成る全固体電池を得た。この際、荷重条件(プレス圧)を18.5MPa、55.5MPa、110.9MPaに変化させそれぞれの条件下でプレス処理を行った。
【0080】
[例2]
層状金属硫化物として二硫化モリブデン粉末(MoS)の代わりに、二硫化チタン粉末(TiS)を用いた。それ以外は例1と同様の手順で全固体電池を作製した。
【0081】
(2)評価
例1及び2で得られた全固体電池について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0082】
<SEM観察>
層状金属硫化物(MoS粉末)、及び全固体電池の各層(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)を、走査型電子顕微鏡(SEM;日本電子株式会社製JSM-IT200)を用いて観察した。またSEM付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて、サンプル中の元素分布を調べた。
【0083】
<充放電特性>
作製した評価用電池について、電圧(vs.Li-In合金)0.4~2.4Vの間で充放電特性のサイクル試験を25℃で行った。
【0084】
(3)評価結果
例1で層状金属硫化物として用いたMoS粉末のSEM像を図2に示す。MoS粉末は、層状の結晶構造を反映した板状粒子から構成されていた。また板状粒子は、その板径が10μm以下であった。
【0085】
プレス処理時の荷重条件(プレス圧)を変化して作製した例1の全固体電池について、10サイクル目までの容量特性結果を図3に示す。また2サイクル目、5サイクル目及び10サイクル目の充放電曲線のそれぞれを図4~6に示す。
【0086】
図3~6に示されるように、プレス圧が55.5~110.9MPaと低くても、従来荷重条件(332.8MPa)と同等の性能が得られた。この結果は、層状金属硫化物(MoS)添加がプレス圧低減及びそれによる製造コスト削減に有用であることを示す。最低圧力55.5MPaまでプレス圧を下げても、従来製造条件と同等の容量が得られることが分かった。
【0087】
プレス圧55.5MPaの条件で作製した例1の全固体電池について、正極活物質層のSEM像及びEDS像を図7(a)~(e)に示す。図7(a)がSEM像であり、図7(b)~(e)がEDS像である。
【0088】
正極活物質層には、活物質(LiTi12)粒子間の隙間を埋め導電助剤としての機能をもたせるために層状金属硫化物(MoS)を加えている。EDS像ではLiTi12の存在を確認するためにチタン(Ti)の分布を調べている(図7(c))。また、LiPS(固体電解質)を確認するためにリン(P)の分布を調べ(図7(e))、MoS(層状金属硫化物)を確認するためにモリブデン(Mo)と硫黄(S)の分布を調べている(図7(b)及び(d))。
【0089】
SEMおよびEDS像から、LiTi12の周囲にMoS及びLiPSの分布が確認された。このことから、55.5MPaのプレス圧でもリチウムイオン電池(LIB)の高効率性能が期待できる。また、MoSがLiPSとも混在して分布していることから固体電解質層の表層部にもMoSが存在していると言える。
【0090】
プレス処理時の圧力を55.5MPaとして作製した例1及び例2の全固体電池について、充放電特性のサイクル試験結果を図8に示す。サイクル試験において、1~5サイクル目の充放電特性は0.01A/gの定電流条件下で測定し、6~10サイクル目の充放電特性は0.02A/gの定電流条件下で測定した。また11~15サイクル目の充放電特性は0.05A/gの定電流条件下で測定した。ここで電流値(0.01~0.05A/g)は正極活物質(LiTi12):1g当たりの電流値である。そして、得られた充放電特性から容量を読み取った。
【0091】
図8に示されるように、TiSを導電助剤として使用した例2では、MoSを使用した例1よりも高容量を得ることができる。電流密度を0.01A/gから2倍の0.02A/gに上げても、活物質質量当たりの容量値は100mAh/g以上を維持していた。このことから、高出力特性が期待された。
【0092】
プレス処理時の圧力を18.5MPa又は55.5MPaとして作製した例2の全固体電池について10サイクル目までの充放電特性を図9に示す。TiSを導電助剤として使用した場合、製造プレス圧を18.5MPaまで下げても、55.5MPaとした場合と変わらない容量を得ることができた。この知見は製造コスト削減と電池特性向上に貢献できる。
【符号の説明】
【0093】
2 正極
4 正極集電体
6 正極活物質層
8 固体電解質層
10 負極
12 負極集電体
14 負極活物質層
100 全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9