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特開2024-106460気泡含有ゲル状食品組成物、気泡含有ゲル状食品及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106460
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】気泡含有ゲル状食品組成物、気泡含有ゲル状食品及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/281 20160101AFI20240801BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240801BHJP
   A23J 3/08 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
A23L29/281
A23L5/00 M
A23L5/00 E
A23J3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010720
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 康生
(72)【発明者】
【氏名】松宮 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】金城 史奈
(72)【発明者】
【氏名】花澤 智仁
(72)【発明者】
【氏名】金子 渉
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 正典
【テーマコード(参考)】
4B035
4B041
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LG02
4B035LG12
4B035LG15
4B035LG19
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP37
4B041LC05
4B041LC10
4B041LE04
4B041LK02
4B041LK11
4B041LK14
4B041LK18
4B041LK37
4B041LP01
4B041LP25
(57)【要約】
【課題】本発明は、ホエイタンパク質を含み、当該タンパク質の熱凝固を利用するゲル状食品において、適度な崩れやすさを有し、保存中や凍結解凍処理後の離水が低減し、また、強制吸水性が向上し、さらにまた凍結乾燥処理後の吸水性や吸油性も向上した新規の気泡含有ゲル状食品を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、ホエイタンパク質の熱凝固を利用する気泡含有ゲル状食品組成物であって、
4重量%以上10重量%以下のホエイタンパク質を含み、5%以上65%未満の含気率である、前記気泡含有ゲル状食品組成物を提供する。また、本発明は、ホエイタンパク質の熱凝固を利用する気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法であって、ホエイタンパク質素材を含む原材料を溶解又は分散させる第一の組成物の分散工程と、第一の組成物を予備加熱保持する工程と、
塩類を添加して第二の組成物を得る工程と、第二の組成物を起泡する工程と、を含む気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホエイタンパク質の熱凝固を利用する気泡含有ゲル状食品組成物であって、
4重量%以上10重量%以下のホエイタンパク質を含み、
5%以上65%未満の含気率である、前記気泡含有ゲル状食品組成物。
【請求項2】
2000mg/kg以上、10000mg/kg未満のナトリウムまたは、
800mg/kg以上、1900mg/kg未満のカルシウム、
をさらに含む、請求項1に記載の気泡含有ゲル状食品組成物。
【請求項3】
油脂を0.1~50重量%含む請求項1又は2に記載の気泡含有ゲル状食品組成物。
【請求項4】
以下の式により求められる崩れやすさが90%未満である請求項1又は2に記載の気泡含有ゲル状食品組成物。
崩れやすさ(%)=10回圧縮時の硬度(N)/1回圧縮時の硬度(N)×100
【請求項5】
凍結解凍処理した場合の離水率が20%未満で、圧縮試験における強制吸水性が0.1g/ml以上で、ある請求項1又は2に記載の気泡含有ゲル状食品組成物。
【請求項6】
凍結乾燥処理した場合の吸水性が、0.22g/ml以上で、かつ、吸油性が、0.18g/ml以上で、ある請求項1又は2に記載の気泡含有ゲル状食品組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の気泡含有ゲル状食品組成物を一部あるいは全部に含む、気泡含有ゲル状食品。
【請求項8】
ホエイタンパク質の熱凝固を利用する気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法であって、
ホエイタンパク質素材を含む原材料を水溶性媒体に溶解又は分散させる第一の組成物の分散工程と、
第一の組成物を予備加熱保持する工程と、
塩類を添加して第二の組成物を得る工程と、
第二の組成物を起泡する工程と、
を含む気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
【請求項9】
ホエイタンパク質の熱凝固を利用する気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法であって、
ホエイタンパク質素材及び油脂を含む原材料を水溶性媒体に溶解又は分散させる第一の組成物の分散工程と、
第一の組成物を均質化する工程と、
第一の組成物を均質化した後に、予備加熱保持する工程と、
塩類を添加して第二の組成物を得る工程と、
第二の組成物を起泡する工程と、
を含む気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
【請求項10】
前記第二の組成物と、
起泡していない組成物を混合することにより混合物の含気率を調整する工程をさらに含む、
請求項8又は9に記載の気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
【請求項11】
前記起泡していない組成物が、第二の組成物と同一の組成物である請求項10に記載の気泡含有ゲル状食品の製造方法。
【請求項12】
ホエイタンパク質の熱凝固を利用する気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法であって、
ホエイタンパク質素材を含む原材料を水溶性媒体に溶解又は分散させる第一の組成物の分散工程と、
第一の組成物を予備加熱保持する工程と、
塩類を添加して第二の組成物を得る工程と、
第二の組成物を起泡する工程と、
ホエイタンパク質素材及び油脂を含む原材料を水溶性媒体に溶解又は分散させる第三の組成物の分散工程と、
第三の組成物を均質化する工程と、
第三の組成物を均質化した後に、予備加熱保持する工程と、
塩類を添加して第四の組成物を得る工程と、
第四の組成物と前記起泡された第二の組成物と混合することにより、混合物である第五の組成物の含気率を調製する工程と、
を含む気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
【請求項13】
第一の組成物を予備加熱保持する工程が、70~90℃で4~45分間予備加熱保持する工程である、請求項8、9又は12に記載の気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
【請求項14】
塩類を添加して第二の組成物又は第四の組成物を得る工程が50℃以下に冷却してから塩類を添加して得る工程である、請求項8、9又は12に記載のゲル状食品組成物の製造方法。
【請求項15】
さらに、気泡後の第二の組成物を加熱及び冷却する工程、を含む請求項8、9又は12に記載の気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
【請求項16】
混合物の含気率を調整する工程が、含気率5%以上65%未満に調整する工程である、請求項8、9又は12に記載の気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
【請求項17】
請求項8、9又は12に記載の気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法により得られた組成物を容器に充填し密封する工程と、
前記容器に密封された混合物を加熱、及び冷却する工程と、
を含む気泡含有ゲル状食品の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホエイタンパク質の熱凝固を利用するゲル状食品に関し、気泡含有ゲル状食品組成物、気泡含有ゲル状食品及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気泡含有ゲル状食品は、気泡を含まないバルクゲルからなるゲル状食品と比較して、軽い食感を付与できるだけでなく、香気成分の放出も促進されるといった効果がある。そのため、食品の分野では含気処理は、一般的な加工処理であり、気泡を含有させることによるゲル状食品の改質についてもこれまでに報告がされてきた。
例えば特許文献1には、水溶性蛋白質を泡立てた後、加熱した糖液を加えてさらに泡立てて泡状物を得、これを卵液と混合した後加熱調理する気泡含有ゲル状食品及びその製造方法について開示されている。そして、この製法により得られる卵を主体とする冷凍食品は、解凍後の離水や組織破壊が防止されるとともに、ソフトな食感としっとりした組織を有するものが得られる優れた効果を奏することについても記載されている。ここで、凍結解凍後の離水や組織破壊は、食品産業においては、深刻な課題である。そのため、本特許文献1のようにゲルに気泡を含有させることで、凍結解凍後の離水を抑制させる報告は見受けられるが、一方で、気泡含有ゲル状食品の凍結解凍後の強制吸水に関する報告はほとんどない。また、凍結乾燥処理は、低温真空化で食品の水分を除去する手法であるが、気泡含有ゲルを凍結乾燥処理した場合の特性変化についてはほとんど報告がない。
【0003】
また、卵白を利用したメレンゲやムースなど、これらを加熱により凝固した気泡含有ゲル状食品は、広く好まれる食品ではあるが、卵アレルギーを有する人は食べることができないという課題がある。その他の加熱により凝固した気泡含有ゲル状食品としては、はんぺんなど魚のすりみを用いた食品がある。このような食品は、原料の魚臭さや保存性の悪さの他、アレルゲンとして魚を含むため、非加熱の魚原料または魚類の加工品を用いることを前提とした食品工場でしか一般的には製造することができない。そのため、これまでに加熱により凝固する気泡含有ゲル状食品を調製するための素材として、加熱凝固性のタンパク質である牛乳由来のホエイタンパク質分離物(WPI)などで、卵や魚に由来する原材料を代替した検討が報告されてきた。
例えば特許文献2は、食感がソフトで、軽く、口溶けがよく、風味がまろやかで良好な気泡含有食品組成物を提供することを目的とし、起泡化食品素材としてWPIを用いた製造方法が開示されている。具体的には、WPIを配合して原材料とともに含気処理するか、WPI含有水溶液を含気処理して得られる起泡物を原材料に混合して調製する工程について開示されている。
【0004】
特許文献3には、嵩高く泡立ったメレンゲ様の気泡入り加工食品であって、滑らかな食感を有する気泡入り加工食品を提供することを目的とした気泡含有ゲル状食品が開示されている。具体的な製造方法としては、乳清及び増粘多糖類を含有し、油脂含有量1%以下であるスラリーを用いた、比重0.2~0.7である、気泡入り加工食品の製造方法であって、スラリーを品温60℃以上に加熱する工程と、品温50℃以上でスラリーを泡立てる工程と、得られた気泡入りスラリーを、泡立て終了時の品温から10℃を超えて上昇させることなく品温60℃以上で容器に充填・密封する工程とを含む、気泡入り加工食品の製造方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の気泡含有ゲル状食品では、原料として卵が必須であることから、卵アレルギーを有する人は食べることができないという課題がある。
また、特許文献2の気泡含有ゲル状食品では、WPI溶液を起泡させる前に加熱処理をしていないためゾルの起泡性に劣り、その結果安定した含気率が得られない可能性がある。
さらに、特許文献3の気泡含有ゲル状食品では、原料として増粘多糖類が必須であることから、べたつきや口溶けの悪さが課題としてある。また、通常起泡物に油脂が含有されると、起泡が著しく抑制されることから、含気食品への油脂の添加は特許文献3のように油脂の含有率が1重量%以下であることが必要であり、適度な油脂の添加によるなめらかさや特有の風味の付与した含気食品を製造することは困難であるという課題があった。油脂を35重量%~50重量%程度含有する含気食品であるホイップドクリームは、油脂が含気食品の構造の主体とされるが、調製翌日には離水が発生したり、構造が収縮するなど保存性が悪いことや、40℃以上に加熱した場合には油脂が融解し、液状化するため、加熱した場合、ホイップドクリームの構造は破壊されるといった課題があった。
このように、これらの先行文献では、WPI溶液を起泡させる前に加熱や加塩の処理による起泡性の向上や、気泡含有ゲルの崩れやすさの向上、凍結解凍処理をした場合の離水の低減や強制吸水性の向上、凍結乾燥処理した場合の吸水性・吸油性の向上、油脂を1重量%よりも多く含有し加熱凝固により気泡の構造が保持された気泡・油脂含有ゲルについての検討はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-98663号公報
【特許文献2】特開2004-105179号公報
【特許文献3】特開2013-233116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ホエイタンパク質を含み、当該タンパク質の熱凝固を利用するゲル状食品において、適度な崩れやすさを有し、保存中や凍結解凍処理後の離水が低減し、また、強制吸水性が向上し、さらにまた凍結乾燥処理後の吸水性や吸油性も向上した新規の気泡含有ゲル状食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ホエイタンパク質の含量、その他の原料及び含有量、ならびにホエイタンパク質素材の起泡処理条件について鋭意検討を行ったところ、ホエイタンパク質素材(WPI、ホエイタンパク質濃縮物(WPC))を所定の条件で加熱して加塩したのち、起泡し、加熱凝固することにより、適度な崩れやすさを有し、保存中や凍結解凍処理後の離水が低減し、また、凍結乾燥処理後の吸水性や吸油性が向上した新規の気泡含有ゲル状食品を調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明には以下の構成が含まれる。
<1>
ホエイタンパク質の熱凝固を利用する気泡含有ゲル状食品組成物であって、
4重量%以上10重量%以下のホエイタンパク質を含み、
5%以上65%未満の含気率である、前記気泡含有ゲル状食品組成物。
<2>
2000mg/kg以上、10000mg/kg未満のナトリウムまたは、
800mg/kg以上、1900mg/kg未満のカルシウム、
をさらに含む、<1>に記載の気泡含有ゲル状食品組成物。
<3>
油脂を0.1~50重量%含む<1>又は<2>に記載の気泡含有ゲル状食品組成物。
<4>
以下の式により求められる崩れやすさが90%未満である<1>~<2>のいずれかに記載の気泡含有ゲル状食品組成物。
崩れやすさ(%)=10回圧縮時の硬度(N)/1回圧縮時の硬度(N)×100
<5>
凍結解凍処理した場合の離水率が20%未満で、圧縮試験における強制吸水性が0.1g/ml以上で、ある<1>又は<2>に記載の気泡含有ゲル状食品組成物。
<6>
凍結乾燥処理した場合の吸水性が、0.22g/ml以上で、かつ、吸油性が、0.18g/ml以上で、ある<1>又は<2>に記載の気泡含有ゲル状食品組成物。
<7>
<1>又は<2>に記載の気泡含有ゲル状食品組成物を一部あるいは全部に含む、気泡含有ゲル状食品。
<8>
ホエイタンパク質の熱凝固を利用する気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法であって、
ホエイタンパク質素材を含む原材料を水溶性媒体に溶解又は分散させる第一の組成物の分散工程と、
第一の組成物を予備加熱保持する工程と、
塩類を添加して第二の組成物を得る工程と、
第二の組成物を起泡する工程と、
を含む気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
<9>
ホエイタンパク質の熱凝固を利用する気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法であって、
ホエイタンパク質素材及び油脂を含む原材料を水溶性媒体に溶解又は分散させる第一の組成物の分散工程と、
第一の組成物を均質化する工程と、
第一の組成物を均質化した後に、予備加熱保持する工程と、
塩類を添加して第二の組成物を得る工程と、
第二の組成物を起泡する工程と、
を含む気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
<10>
前記第二の組成物と、
起泡していない組成物を混合することにより混合物の含気率を調整する工程をさらに含む、
<8>又は<9>に記載の気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
<11>
前記起泡していない組成物が、第二の組成物と同一の組成物である<10>に記載の気泡含有ゲル状食品の製造方法。
<12>
ホエイタンパク質の熱凝固を利用する気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法であって、
ホエイタンパク質素材を含む原材料を水溶性媒体に溶解又は分散させる第一の組成物の分散工程と、
第一の組成物を予備加熱保持する工程と、
塩類を添加して第二の組成物を得る工程と、
第二の組成物を起泡する工程と、
ホエイタンパク質素材及び油脂を含む原材料を水溶性媒体に溶解又は分散させる第三の組成物の分散工程と、
第三の組成物を均質化する工程と、
第三の組成物を均質化した後に、予備加熱保持する工程と、
塩類を添加して第四の組成物を得る工程と、
第四の組成物と前記起泡された第二の組成物と混合することにより、混合物である第五の組成物の含気率を調製する工程と、
を含む気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
<13>
第一の組成物を予備加熱保持する工程が、70~90℃で4~45分間予備加熱保持する工程である、<8>、<9>又は<12>に記載の気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
<14>
塩類を添加して第二の組成物又は第四の組成物を得る工程が50℃以下に冷却してから塩類を添加して得る工程である、<8>、<9>又は<12>に記載のゲル状食品組成物の製造方法。
<15>
さらに、気泡後の第二の組成物を加熱及び冷却する工程、を含む<8>、<9>又は<12>に記載の気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
<16>
混合物の含気率を調整する工程が、含気率5%以上65%未満に調整する工程である、<8>、<9>又は<12>に記載の気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法。
<17>
<8>、<9>又は<12>に記載の気泡含有ゲル状食品組成物の製造方法により得られた組成物を容器に充填し密封する工程と、
前記容器に密封された混合物を加熱、及び冷却する工程と、
を含む気泡含有ゲル状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、適度な崩れやすさを有し、凍結解凍後の離水の低減や吸水性を向上させた、新規の気泡含有ゲル状食品を提供することができる。さらに本発明の気泡含有ゲル状食品は、気泡を含有することで凍結乾燥処理後の吸油性、吸水性も付与することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の気泡含有ゲル状食品組成物、気泡含有ゲル状食品及びその製造方法について以下に詳細に説明する。
【0011】
(気泡含有ゲル食品組成物、気泡含有ゲル状食品)
本発明の気泡含有ゲル状食品は、ホエイタンパク質を所定の範囲で含み、ホエイタンパク質の熱凝固を利用するゲル状食品のうち、気泡を多量に含むことによって多孔組織を一部あるいは全部に含む食品であればいずれでもよく、蒸し機や焼成機、フライヤーなどを用いて加熱凝固した気泡含有ゲル食品が好ましい。このうちでも、砂糖などで甘味付けしたデザート様の含気食品、うまみ調味料や塩類で調味したはんぺん様の含気食品を例示できる。
また、従来の気泡含有ゲル状食品において卵白を利用したメレンゲやムース用いて調整される食品の代替として適している。このような食品としては、具体的にはマシュマロ、クッキー、焼きメレンゲ、ダッコワーズ、マカロン、等の菓子類;ムース、ババロア、アイスクリーム、泡雪羹、プディング、スフレ等のデザート類;シフォンケーキ、スポンジケーキ、パウンドケーキ、ホットケーキ等のケーキ類;パン類;はんぺん、テリーヌ、しんじょ、伊達巻及びシュウマイ等の練り食品;たこ焼、明石焼、お好み焼、ピザ生地等の粉加工食品(粉練り製品)等の加工食品類;ホイップドクリーム等のクリーム類等を挙げることができる。また、べたつきが問題にならない成分率であれば、デンプンなどの多糖類を含有することについても問題はない。
本明細書中、気泡を含有するという意味において、含気食品と気泡含有食品は同義で用いられ、また、含気処理と起泡処理も特に断らない限り同義で用いられる。
本発明において、気泡含有ゲル状食品組成物は、気泡含有ゲル状食品の一部分あるいは全部に含まれる。すなわち、本発明の気泡含有ゲル状食品組成物は、それ自体が気泡含有ゲル状食品となる場合もあり、また、他の気泡を含まないゲル状あるいはゲル状ではない食品組成物と混合することにより、また、一部に混入することにより、また、加工されることにより気泡含有ゲル状食品となる場合がある。混合する場合の典型例は、気泡を含有するゲル状食品組成物を、気泡を含有しないゲル状食品組成物と混合することで所望の含気率に調整した気泡含有ゲル状食品を製造する場合が典型例である。また、一部に混入する場合の典型例は、すでに成形あるいは半成形された食品の一部に本発明のゲル状食品組成物を混入して、加熱凝固させた食品などが相当する。また、加工される場合の典型例は、気泡含有ゲル状食品組成物が慣用の調理方法などにより調理された食品などが相当する。
本発明の気泡含有ゲル状食品組成物は、気泡含有ゲル状食品それ自体であることもあるため、特に断らない限りは、以下の気泡含有ゲル状食品としての説明を気泡含有ゲル状食品組成物の説明に置き換えることができるものとする。
【0012】
(気泡含有ゲル状食品の原材料)
本発明の気泡含有ゲル状食品の原材料について以下に詳細に説明する。
本発明の気泡含有ゲル状食品は、ホエイタンパク質の熱凝固を利用する食品である。当該食品の製造に主に用いるタンパク質は、ホエイタンパク質(β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン)であり、ゲル状食品の製造には、上記のタンパク質だけでなく、これらのタンパク質を含むWPI(ホエイタンパク質単離物)、WPC(ホエイタンパク質濃縮物)を用いることができる。また、ホエイタンパク質以外のタンパク質を含むこともできる。
本発明の気泡含有ゲル状食品に用いられるホエイタンパク質素材の含量は、4重量%以上10重量%以下であればよく、5.5重量%以上8.5重量%以下が好ましく、6.5重量%以上7.5重量%以下がさらに好ましい。4重量%未満では加熱凝固後のゲル構造の収縮が著しく、10重量%より多いと食品とした場合に崩れにくくなるからである。
なお、本発明の気泡含有ゲル状食品中の、総タンパク質の含量はケルダール法により、個別のタンパク質は液体クロマトグラフィー法により定量できる。
本発明の気泡含有ゲル状食品の加塩には塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムなどの塩類を用いることができる。
その他、食品衛生法における乳及び乳製品の成分規格等に関する省令第二条において定義される乳製品を本発明の主要な原材料として用いることができる。さらに、糖類、うま味調味料、ハーブ、香料などを風味付けの原材料として用いることができる。
また、油脂を添加する場合には気泡・油脂含有ゲル状食品組成物中、0.1~50重量%以下であればよく、0.1~30重量%以下が好ましく、0.1~15重量%以下がさらに好ましい。油脂を添加することにより、加熱凝固により気泡の構造が保持された気泡含有ゲル状食品において、なめらかさや油脂特有の風味を付与することができる。
【0013】
(気泡含有ゲル状食品の製造方法)
本発明のゲル状食品の製造方法は、一般的なゲル状食品の製造設備に起泡設備を組み合わせた製造条件で製造することができる。以下にその一様態を例示する。
【0014】
[工程a]第一の組成物の調製工程
第一の組成物は、水(50~90℃の溶解水)にホエイタンパク質含有素材を含む原材料を溶解または分散させて調製する。攪拌は、1000~10000rpm、3~60分間程度の条件で行う。ここで、原材料を溶解または分散させる媒体は、水溶性媒体あればよく、水以外の成分を含んでいてもよく、典型例は水である。
[工程b]第一の組成物を予備加熱保持する工程
第一の組成物の温度が70~90℃で、4~45分間以上保持、またはこれと同等の温度履歴で処理し、第一の組成物を冷却する。冷却する温度は50℃以下が好ましく、30℃以下がさらに好ましい。
[工程c]塩類を添加し、第二の組成物を得る工程
工程bを経た第一の組成物に、塩類を添加し攪拌により混合し、第二の組成物を得る。
[工程d]第二の組成物の起泡
第二の組成物を攪拌式の起泡装置により、500~5000rpm、3~60分間程度の条件で起泡する。
[工程e]第二の組成物の含気率の調整
起泡した第二の組成物と起泡前の第二の組成物を混合し、攪拌機で混合する。
[工程f]第二の組成物の充填
工程eを経た第二の組成物を、容器に充填し、密閉する。
[工程g]第二の組成物の加熱凝固および冷却
工程fを経た第二の組成物を、密閉容器のまま、70℃以上の温湯に浸漬し、第二の組成物の中心温度70~90℃で、5~60分間以上保持、またはこれと同等の温度履歴で処理し加熱凝固物を得る。加熱終了後、第二の組成物は氷冷水に浸漬し速やかに10℃まで冷却する。氷冷水で冷却後は、10℃以下で保存する。
本発明において、[工程a]~[工程d]により得られた起泡した第二の組成物も、本発明の気泡含有ゲル状食品組成物に含まれる。また、[工程d]と[工程e]は連続式の含気装置などを用いて、一括して処理することもできる。すなわち、起泡していない組成物と後から混合することなく、連続式の含気装置で任意の含気率で調製することができる。
また、[工程f]~[工程g]は、基本的には、第二の組成物を容器に充填し、密閉して加熱することで気泡含有ゲルを製造する工程であるが、気泡が組成物内に残存できる範囲で他の工程に代えることもできる。たとえば、密閉容器ではなくチューブの中に第二の組成物を連続的に送り出し、マイクロ波により加熱する工程である。チューブから排出されたゲル状組成物を適当な大きさにカットすることによりゲル状食品を得ることもできる。
さらにまた、起泡した第二の組成物と、第二の組成物とは異なる組成のものを混合し、気泡含有ゲル状食品を調製する方法については、後述する。
【0015】
(気泡・油脂含有ゲル状食品の製造方法)
本発明の気泡含有ゲル状食品において、油脂を含有する場合を特に気泡・油脂含有ゲル状食品ということがあるが、特に断らない限りは両者を含む意である。本発明の気泡・油脂含有ゲル状食品の製造方法は、一般的なゲル状食品の製造設備に起泡設備を組み合わせた製造条件で製造することができる。以下にその一様態を例示する。
【0016】
[工程a]第一の組成物の調製工程
第一の組成物は、水(50~90℃の溶解水)にホエイタンパク質含有素材を含む原材料の他、油脂を溶解または分散させて調製する。攪拌は、1000~10000rpm、3~60分間程度の条件で行い、均質を予備加熱処理する前に処理する場合は、高圧ホモジナイザーを用いて1~20MPaの条件で行う。
[工程b]第一の組成物を予備加熱保持する工程
第一の組成物の温度が70~90℃で、4~45分間以上保持、またはこれと同等の温度履歴で処理し、第一の組成物を冷却する。均質を予備加熱処理した後に処理する場合は、第一の組成物の温度を60℃に調温し、高圧ホモジナイザーを用いて1~20MPaで処理し、第一の組成物を冷却する。冷却する温度は50℃以下が好ましく、30℃以下がさらに好ましい。
[工程c]塩類を添加し、第二の組成物を得る工程
工程bを経た第一の組成物に、塩類を添加し攪拌により混合し、第二の組成物を得る。
[工程d]第二の組成物の起泡
第二の組成物を攪拌式の起泡装置により、500~5000rpm、3~60分間程度の条件で起泡する。
[工程e]第二の組成物の含気率の調整
起泡した第二の組成物と起泡前の第二の組成物を混合し、攪拌機で混合する。
[工程f]第二の組成物の充填
工程eを経た第二の組成物を、容器に充填し、密閉する。
[工程g]第二の組成物の加熱凝固および冷却
工程fを経た第二の組成物を、密閉容器のまま、70℃以上の温湯に浸漬し、第二の組成物の中心温度70~90℃で、5~60分間以上保持、またはこれと同等の温度履歴で処理し加熱凝固物を得る。加熱終了後、第二の組成物は氷冷水に浸漬し速やかに10℃まで冷却する。氷冷水で冷却後は、10℃以下で保存する。
なお、[工程d]と[工程e]は連続式の含気装置などを用いて、一括して処理することもできる。
また、[工程a]~[工程d]により得られた起泡した第二の組成物は、本発明の気泡含有ゲル状食品組成物に含まれる。また、当該組成物を気泡を含有しない組成物と混合することなく、[工程f] 、[工程g]を経て本発明の気泡・油脂含有ゲル状食品とすることもできる。
さらにまた、起泡した第二の組成物と、第二の組成物とは異なる組成のものを混合し、気泡含有ゲル状食品を調製する方法については、後述する。
【0017】
(気泡含有ゲル状食品の加工処理方法)
本発明の気泡含有ゲル状食品の加工処理方法は、一般的な加工設備を用いた条件で処理することができる。例えば、殺菌、冷凍、解凍、凍結乾燥などが挙げられる。
本発明の気泡含有ゲル状食品は、保存中や凍結解凍処理後の離水が低減し、また、凍結乾燥処理後の吸水性や吸油性が向上した食品であるから、各種の加工を施した食品としても好適に利用することができる。
【0018】
(起泡前の組成物の粘度)
本発明の起泡処理前の組成物の粘度は、低すぎると気泡安定性が低く、高すぎると気泡の取り込みが阻害され、好ましい特性の気泡含有ゲル食品組成物を調製することができない。したがって、起泡前の組成物の粘度としては、
3mPa・s以上、2000mPa・s未満であればよく、
10mPa・s以上、200mPa・s未満であればより好ましく、
15mPa・s以上、40mPa・s未満であればよりいっそう好ましい。
粘度は、B型粘度計を用いて測定することができ、塩類を添加した後の組成物が上記範囲であることが望ましい。また、上記の粘度範囲は、起泡処理を行う際の組成物の粘度がこの範囲内であればよく、当該組成物の温度は問わない。
【0019】
(崩れやすさ)
本発明の気泡含有ゲル状食品の崩れやすさは、専門パネラーによる官能評価によって評価することができる。崩れやすい場合、口中での崩壊が早く官能的に好まれ、崩れにくい場合、飲み込むまでに時間がかかり官能的には好まれない。崩れやすさは、喫食開始後に崩れやすい順に、「最適」「良好」「可」「不適」で評価し、ゲル化していないものは「不可」とした。
また、崩れやすさはその他に硬度測定によっても評価ができる。具体的には、本発明のゲル状食品の崩れやすさは、テクスチャーアナライザー(以下、TA)による圧縮試験により得られる硬度(N)から算出することができる。用いるTAとして、TA. XTPlus(Stable Micro Systems社)を例示できる。測定は、サンプル(バルクゲル、気泡含有ゲル)を20mm角に切り出して測定部にセットし、直径20mm円筒型(ステンレス製)のプランジャーを使用し、速度1mm/sec、圧縮率40%、10回圧縮の条件で行い、崩れやすさは以下の式により算出した。
崩れやすさ(%)=10回圧縮時の硬度(N)/1回圧縮時の硬度(N)×100
この硬度測定による崩れやすさと官能評価の結果は以下のように対応している。
90%以上のものを適度な崩れやすさ「不適」、
70%以上90%未満を適度な崩れやすさ「可」、
このうちでも60%以上70%未満を適度な崩れやすさ「良好」、
さらにこのうちでも1%以上60%未満を適度な崩れやすさ「最適」とした。
また、ゲル化していないものは「不可」とした。
以上より、本発明の気泡含有ゲル状食品の上記式で求められる崩れやすさは、
1%以上90%未満であればよく、
1%以上70%未満であればさらに好ましく、
1%以上60%未満であればよりいっそう好ましい。
【0020】
(含気率)
本発明の気泡含有ゲル状食品の含気率は以下の式により算出することができる。
含気率(%)={1-サンプルの重量(g)/サンプルの体積(ml)}×100
含気率は、40%程度の場合が、専門のパネラーによる崩れやすさや気泡の均一性の官能評価が高かった。含気率が低すぎる場合は、バルクゲルの特性に近づき、崩れやすさが低く、離水や吸水性、吸油性の評価が低かった。含気率が高すぎる場合は、ぼそぼそとした食感となり、口当たりが悪い上、気泡部分が多いため、食べ応えがなさすぎるという評価であった。
したがって、本発明の気泡含有ゲル状食品の含気率は、
5%以上65%未満であればよく、
10%以上65%未満であればさらに好ましく、
25%以上55%未満であればよりいっそう好ましく、
35%以上45%未満で最も好ましい。
【0021】
(凍結解凍後の離水率の測定)
本発明において、含気処理のされていないバルクゲルと気泡含有ゲルの凍結解凍処理後の離水率は以下の方法により測定することができる。測定は、サンプルを20mm角に切り出して測定部にセットし、ステンレス容器に入れて冷凍したサンプルを、シャーレに取り出して解凍し、シャーレに残った水分量(g)を測定する。また、水分率は乾燥減量法により測定する。離水率は、以下の式により算出することができる。
離水率(%)=無負荷状態で系外に滲出する水の重量/
(解凍前サンプルの重量×水分率)×100
離水が多いほど、ゲルがぱさつくなど、好ましくない評価となる。
これより、本発明の気泡含有ゲル状食品の離水率は、
20%未満であればよく、
10%未満であればより好ましく、
5%未満であればよりいっそう好ましい。
【0022】
(凍結解凍後の強制吸水性の測定)
本発明において、バルクゲルと気泡含有ゲルも凍結解凍処理後の強制吸水性は、以下の方法により測定することができる。サンプル(バルクゲル、気泡含有ゲル)を20mm角に切り出して測定部にセットし、ステンレス容器に入れて冷凍したサンプルを、シャーレに取り出して解凍し、サンプルが浮かない程度の量の水で浸す。次に、レオメーター(RE2-33005B,山電社)を用いて、直径40mm円板型(プラスチック製)のプランジャー、速度1mm/sec、圧縮率40%の条件で圧縮試験を行い、圧縮試験後に増加したサンプルの重量から、以下の式により強制吸水性を算出することができる。
強制吸水性=(凍結解凍後の圧縮試験により増加したサンプル重量(g))/
(凍結解凍前のサンプル重量(g)
強制吸水性が高いほど、ゲル中に水分がとりこまれ、ぱさつきなどを低減できることから、本発明の気泡含有ゲル状食品の強制吸水性は、
0.1g/ml以上であればよく、
0.2g/ml以上であればさらに好ましく、
0.5g/ml以上であればよりいっそう好ましい。
【0023】
(吸水性の測定)
本発明において、凍結乾燥したバルクゲルと気泡含有ゲルの吸水性は、以下の方法により測定することができる。サンプルを20mm角に切り出し、液体窒素で凍結し、真空乾燥機(EYELA社)を用いて20時間乾燥させる。凍結乾燥したサンプルを90℃の水に30分間浸漬し、浸漬後に増加したサンプルの重量から、以下の式により吸水性を算出することができる。
吸水性=(凍結乾燥処理後の吸水試験により増加したサンプル重量(g)/
(凍結乾燥処理後のサンプル体積(ml))
吸水性が高いほど、凍結乾燥処理したゲル中に水分がとりこまれ、ぱさつきなどを低減できるうえ、水溶性の栄養成分を含有させることができるといった機能特性も付与できることから、本発明の気泡含有ゲル状食品の吸水性は、
0.22g/ml以上であればよく、
0.25g/ml以上であればさらに好ましく
0.30g/ml以上であればよりいっそう好ましい。
【0024】
(吸油性の測定)
本発明において、凍結乾燥したバルクゲルと気泡含有ゲルの吸油性は、以下の方法により測定することができる。サンプルを20mm角に切り出し、液体窒素で凍結し、真空乾燥機(EYELA社)を用いて20時間乾燥させる。凍結乾燥したサンプルを90℃のナタネ油に30分間浸漬し、浸漬後に増加したサンプルの重量から、以下の式により吸油性を算出することができる。
吸油性=(凍結乾燥処理後の吸油試験により増加したサンプル重量(g)/
(凍結乾燥処理後のサンプル体積(ml))
吸油性が高いほど、凍結乾燥処理したゲル中に油分がとりこまれ、ぱさつきなどを低減できるうえ、油溶性の栄養成分を含有させることができるといった機能特性も付与できることから、本発明の気泡含有ゲル状食品の吸油性は、
0.18g/ml以上であればよく、
0.30g/ml以上であればさらに好ましく
0.40g/ml以上であればよりいっそう好ましい。
【0025】
(塩類)
本発明の気泡含有ゲル状食品組成物の起泡性は、ナトリウムやカルシウムの含量に影響を受け、少なすぎるとホエイタンパク質による増粘が十分でなく起泡性が悪化し、高すぎると増粘しすぎて、あるいはゲル化して起泡性が悪化する。これらの特性から、本発明の気泡含有ゲル状食品を製造する際の起泡前の組成物のナトリウムやカルシウムの含有率の好ましい範囲は次のとおりである。
本発明の気泡含有ゲル状食品組成物のナトリウム含量は、2000mg/kg以上10000mg/kg未満であればよく、
3000mg/kg以上10000mg/kg未満ならばさらに好ましく、
3000mg/kg以上6000mg/kg未満ならばよりいっそう好ましい。
気泡含有ゲル状食品組成物のカルシウム含量は、800mg/kg以上1900mg/kg未満であればよく、
1200mg/kg以上1900mg/kg未満ならばさらに好ましく、
1200mg/kg以上1600mg/kg未満ならばよりいっそう好ましい。
また、ナトリウム塩とカルシウム塩を併用することもできるが、その場合は上記範囲に限定されない。
なお、気泡含有ゲル状食品組成物中のカルシウムやナトリウムなどの含量は原子吸光光度法(灰化法)により測定できる。
ナトリウムやカルシウムは食品として添加できる形態であればいずれでもよく、NaCl、CaCl等が挙げられる。なお、上記のナトリウムやカルシウムの含量の範囲のゲル状食品組成物として起泡した後に、塩類を多めに含む組成物と混合し、最終のナトリウムやカルシウムの含量は上記範囲よりもさらに高含量の気泡含有ゲル状食品を製造することができることはいうまでもない。
【0026】
(オイルオフ)
本発明の気泡含有ゲル状食品のオイルオフは、専門のパネラーにより評価した。評価方法については、保存後の気泡・脂質含有ゲルの表面、またはサンプルを20mm角に切り出す際に、脂質の排出が認められるものを「オイルオフあり」とした。
【実施例0027】
以下、本発明の試験例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
〔試験例1〕
試験例1では、気泡含有ゲル状食品の特性に対するホエイタンパク質素材の配合率と種類の影響を評価した。なお、目標とした含気率は40%である。
1.試験方法
表1に示す配合の試験品を調製した。なお、WPIはホエイタンパク質分離物、WPC80はタンパク質含量が約80%のホエイタンパク質濃縮物である。
【0029】
【表1】
【0030】
本試験例の気泡含有ゲル状食品の製造方法を次に示す。
[工程a]第一の組成物の調製工程
第一の組成物は、水(約60℃の温湯)にホエイタンパク質含有素材を溶解または分散させて調製した。攪拌は、ローターステーター型攪拌機を用い、1400rpm、10分間の条件とした。
[工程b]第一の組成物を予備加熱保持する工程
第一の組成物をプレート式の熱交換器を用いて、第一の組成物の中心温度80℃で10分間の条件で予備加熱保持した。予備加熱保持後の第一の組成物は25℃まで冷却した。
[工程c]塩類を添加し、第二の組成物を得る工程
[工程b]を経た第一の組成物に、カルシウム塩(CaCl)の水溶液を、攪拌により混合し、第二の組成物を得た。
[工程d]第二の組成物の起泡工程
第二の組成物80gを、ハンドホイッパーを用いて、1000rpm、3分間の条件で起泡させた。
[工程e]第二の組成物の含気率の調整工程
起泡した第二の組成物と起泡していない第二の組成物をヘラで混合し、任意の割合の含気率に調整した。
[工程f]第二の組成物の充填工程
[工程e]を経た第二の組成物を、容器に充填し、密閉した。
[工程g]第二の組成物の加熱冷却工程
[工程f]を経た第二の組成物を密閉容器のまま、90℃の温湯に15分間浸漬し、第二の組成物の中心温度80℃で、5分間以上保持し、加熱凝固させ気泡含有ゲル状食品を得た。加熱終了後、気泡含有ゲル状食品は氷冷水に浸漬し速やかに10℃まで冷却した。氷冷水で冷却後は、10℃庫で保存した。
なお、[工程d]と[工程e]を経ず、起泡しないゲルをバルクゲル、[工程e]を経た第二の組成物を気泡含有ゾル(後述する試験例では「ゲル化前」と表現する場合がある)、[工程g]で得られたゲルを気泡含有ゲルとして、以下の評価を行った。
その他、[工程d]と[工程e]は連続式の含気装置などを用いて、一括して処理することもできる。
【0031】
2.評価方法
(1)起泡前の組成物の粘度
本発明の起泡前の組成物の粘度は、上記工程cにおいて、カルシウム塩(CaCl)の水溶液を、攪拌により混合した15分後にサンプル(サンプル温度25℃)を採取しB型粘度計を用いて測定した。評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
3mPa・s未満または2000mPa・s以上 :「不適」
3mPa・s以上、2000mPa・s未満 :「可」
10mPa・s以上、200mPa・s未満 :「良好」
15mPa・s以上、40mPa・s未満 :「最適」
【0032】
(2)気泡含有ゲル状食品の崩れやすさの測定
本発明のバルクゲルと気泡含有ゲルの崩れやすさは、TAによる圧縮試験により得られる硬度(N)から算出することができる。測定は、室温に戻した気泡含有ゲル状食品を20mm角に切り出して測定部にセットし、直径40mm円板型(プラスチック製)のプランジャーを使用し、速度1mm/sec、圧縮率40%、10回圧縮の条件で行い、崩れやすさは以下の式により算出した。
崩れやすさ(%)=10回圧縮時の硬度(N)/1回圧縮時の硬度(N)×100
上記硬度測定による崩れやすさ(%)と事前に行った専門のパネラーによる官能評価の結果は以下のように対応している。
90%以上のもの :適度な崩れやすさ「不適」
1%以上10%未満、70%以上90%未満 :適度な崩れやすさ「可」
10%以上30%未満、60%以上70%未満 :適度な崩れやすさ「良好」
30%以上60%未満 :適度な崩れやすさ「最適」
ゲル化していないもの :「不可」
【0033】
(3)含気率
本発明の気泡含有ゲルの含気率は、調整した翌日に測定し、以下の式により算出することができる。
含気率(%)={1-サンプルの重量(g)/サンプルの体積(ml)}×100
含気率の評価基準は以下のとおりである。
<含気率の評価基準>
5%未満、又は65%以上 :「不適」
5%以上65%未満 :「可」
10%以上25%未満、又は55%以上65%未満 :「良」
25%以上35%未満、又は45%以上55%未満 :「良好」
35%以上45%未満 :「最適」
ゲル化していないもの :「不可」
【0034】
(4)凍結解凍後の離水率の測定
バルクゲルと気泡含有ゲルの解凍処理後の離水率を測定した。測定は、サンプルを20mm角に切り出して測定部にセットし、ステンレス容器に入れて冷凍したサンプルを、シャーレに取り出して解凍し、シャーレに残った水分量(g)を測定した。また、水分率は乾燥減量法により測定した。離水率は、以下の式により算出した。
離水率(%)=無負荷状態で系外に滲出する水の重量/
(解凍前サンプルの重量×水分率)×100
離水が多いほど、ゲルがぱさつくなど、好ましくない評価となる。これより、離水率の評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
5%未満 :「最適」
5%以上10%未満 :「良好」
10%以上20%未満:「可」
20%以上 :「不適」
ゲル化していないもの:「不可」
【0035】
(5)凍結解凍後の強制吸水性の測定
バルクゲルと気泡含有ゲルについて、凍結解凍処理後の強制吸水性を測定した。サンプル(バルクゲル、気泡含有ゲル)を20mm角に切り出して測定部にセットし、ステンレス容器に入れて冷凍したサンプルを、シャーレに取り出して解凍し、サンプルが浮かない程度の量の水で浸した。次に、レオメーター(RE2-33005B,山電社)を用いて、直径40mm円板型(プラスチック製)のプランジャー、速度1mm/sec、圧縮率40%の条件で圧縮試験を行い、圧縮試験後に増加したサンプルの重量から、強制吸水性を算出した。
強制吸水性は、以下の式により算出した。
強制吸水性=(凍結解凍後の圧縮試験により増加したサンプル重量(g))/
(凍結解凍前のサンプル重量(g)
強制吸水性が高いほど、ゲル中に水分がとりこまれ、ぱさつきなどを低減できる。これより、強制吸水性の評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
0.1g/ml未満 :「不適」
0.1g/ml以上0.2g/ml未満:「可」
0.2g/ml以上0.5g/ml未満:「良好」
0.5g/ml以上 :「最適」
ゲル化していないもの :「不可」
【0036】
(6)凍結乾燥品の吸水性
凍結乾燥したバルクゲルと気泡含有ゲルの吸水性を測定した。サンプルを20mm角に切り出し、液体窒素で凍結し、真空乾燥機(EYELA社)を用いて20時間乾燥させた。凍結乾燥したサンプルを90℃の水に30分間浸漬し、浸漬後に増加したサンプルの重量から、吸水性を算出した。
吸水性=(凍結乾燥処理後の吸水試験により増加したサンプル重量(g)/
(凍結乾燥処理後のサンプル体積(ml))
吸水性が高いほど、凍結乾燥処理したゲル中に水分がとりこまれ、ぱさつきなどを低減できるうえ、水溶性の栄養成分を含有させることができるといった機能特性も付与できる。これより、吸水性の評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
0.22g/ml未満 :「不適」
0.22g/ml以上0.25g/ml未満:「可」
0.25g/ml以上0.30g/ml未満:「良好」
0.30g/ml以上 :「最適」
ゲル化していないもの :「不可」
【0037】
(7)凍結乾燥品の吸油性
凍結乾燥したバルクゲルと気泡含有ゲルの吸油性を測定した。サンプルを20mm角に切り出し、液体窒素で凍結し、真空乾燥機(EYELA社)を用いて20時間乾燥させた。凍結乾燥したサンプルを90℃のナタネ油に30分間浸漬し、浸漬後に増加したサンプルの重量から、吸油性を算出した。
吸油性=(凍結乾燥処理後の吸油試験により増加したサンプル重量(g)/
(凍結乾燥処理後のサンプル体積(ml))
吸油性が高いほど、凍結乾燥処理したゲル中に油分がとりこまれ、ぱさつきなどを低減できるうえ、油溶性の栄養成分を含有させることができるといった機能特性も付与できる。これより、吸油性の評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
0.18g/ml未満 :「不適」
0.18g/ml以上0.30g/ml未満:「可」
0.30g/ml以上0.40g/ml未満:「良好」
0.40g/ml以上 :「最適」
ゲル化していないもの :「不可」
【0038】
(8)オイルオフ
本発明の気泡含有ゲル状食品のオイルオフは、専門のパネラーにより評価した。評価方法については、保存後の気泡・脂質含有ゲルの表面、またはサンプルを20mm角に切り出す際に、脂質の排出が認められるものを「オイルオフあり」とした。
【0039】
(9)その他の測定
(i)第二の組成物中のホエイタンパク質
第二の組成物中のタンパク質は液体クロマトグラフィー法により定量した。
(ii)塩類の含量
気泡含有ゲル状食品中の塩類(カルシウムカルシウム、ナトリウム等)含量は原子吸光光度法(灰化法)により測定した。
【0040】
3.測定結果
表2に本試験例1の各試験品のゲル化前、気泡含有ゲル、バルクゲルの評価を示す。WPI又はWPCの配合率が低いほど、気泡の安定性が悪く、加熱凝固を経るとゲルが収縮することで含気率が低下したと考えられる。試験例のうち、実施例1-3はゲル化前と気泡含有ゲルの特性がすべての評価項目で「最適」であった。比較例1-1はゲル化前と気泡含有ゲルの特性がすべての評価項目で「不可」であった。また、比較例1-2と比較例1-3では気泡含有ゲルのいずれかの項目が「不適」であった。なお、バルクゲルの特性は試験例1全てで「不可」「不適」であった。
したがって、気泡安定剤としてのホエイタンパク質素材の有用性及びホエイタンパク質を含む気泡含有ゲルとすることで様々な好ましい特性を付与できることが分かった。併せて、ホエイタンパク質素材の配合率が4重量%以上10重量%未満ならばよく、5.5重量%以上8.5重量%未満ならばなおよく、6.5重量%以上7.5重量%未満ならば特に好ましいことが分かった。なお、気泡含有ゲルは凍結解凍品の離水や強制吸水性、凍結乾燥品の吸水性や吸油性にも優れることから、凍結や凍結乾燥処理を行うような食品にも応用可能であることがわかった。
【0041】
【表2】
【0042】
〔試験例2〕
試験例2では、気泡含有ゲル状食品の特性に対する第一の組成物の予備加熱条件の影響を評価した。
1.試験方法、評価方法
表3に示す配合の試験品を調製した。気泡含有ゲル状食品の製造方法および評価方法は試験例1と同様である。
【0043】
【表3】
【0044】
2.測定結果
表4に本試験例2の各試験品のゲル化前(第二の組成物)、気泡含有ゲル、バルクゲルの評価を示す。第一の組成物の80℃以上の保持時間が短いほど、粘度の上昇が少なく、気泡を安定してとりこめず、第一の組成物の80℃以上の保持時間が長いほど、粘度が上昇しすぎて、気泡の取り込みが悪化する傾向であった。このうち、実施例2-3はゲル化前と気泡含有ゲルの特性がすべての評価項目で「最適」であった。比較例2-1、比較例2-3はゲル化前と気泡含有ゲルの特性がすべての評価項目でが「不適」であった。また、比較例2-1と比較例2-2では気泡含有ゲルの全ての項目が「不適」であった。なお、バルクゲルの特性は試験例3全てで「不可」「不適」であった。
したがって、ゲル化前の起泡時と気泡含有ゲルとで好ましい特性を付与するためには、組成物1の予備加熱条件は80℃で4分間以上45分間未満ならばよく、8分間以上35分間未満ならなお良く、15分間以上25分間未満が特に良いことが分かった。
【0045】
【表4】
【0046】
〔試験例3〕
試験例3では、気泡含有ゲル状食品の特性に対する第二の組成物調製時の塩類の種類と配合率の影響を評価した。
1.試験方法、評価方法
表5に示す配合の試験品を調製した。気泡含有ゲル状食品の製造方法および評価方法は試験例1と同様である。
【0047】
【表5】
【0048】
2.測定結果
表6に本試験例3の各試験品のゲル化前(第二の組成物)、気泡含有ゲル、バルクゲルの評価を示す。第二の組成物のナトリウムやカルシウムが少なすぎると、粘度の上昇が少なく、気泡を安定してとりこめず、第二の組成物のナトリウムやカルシウムが多すぎると、粘度が上昇しすぎて、気泡の取り込みが悪化する傾向であった。このうち、実施例3-2はゲル化前と気泡含有ゲルの特性がすべての評価項目で「最適」であった。比較例3-1、比較例3-3はゲル化前と気泡含有ゲルの特性がすべての評価項目でが「不適」であった。また、比較例3-2と比較例3-4では気泡含有ゲルのいずれかの項目が「不適」であった。なお、バルクゲルの特性は試験例3全てで「不可」「不適」であった。したがって、ゲル化前の起泡時と気泡含有ゲルとで好ましい特性を付与するためには、ナトリウム塩添加の場合、第二の組成物のナトリウム含量が2000mg/kg以上10000mg/kg未満ならばよく、3000mg/kg以上10000mg/kg未満ならばなおよく、3000mg/kg以上6000mg/kg未満ならば特に好ましいことが分かった。また、カルシウム塩添加の場合、組成物2のカルシウム含量が800mg/kg以上1900mg/kg未満ならばよく、1200mg/kg以上1900mg/kg未満ならばなおよく、1200mg/kg以上1600mg/kg未満ならば特に好ましいことが分かった。
【0049】
【表6】
【0050】
〔試験例4〕
試験例4では、気泡含有ゲル状食品の特性に対する含気率の影響を評価した。
1.試験方法、評価方法
表7に示す配合の試験品を調製した。気泡含有ゲル状食品の製造方法および評価方法については、工程eにおいて含気率を表8の数値となるように調整した以外は、試験例1と同様である。
【0051】
【表7】
【0052】
2.測定結果
表8に本試験例4の各試験品のゲル化前(第二の組成物)、気泡含有ゲル、バルクゲルの評価を示す。まず、実施例4-4はゲル化前と気泡含有ゲルの特性がすべての評価項目で「最適」であった。比較例4-1の含気率が低すぎる場合は気泡含有による特性改善の効果が十分でなかった。実施例4-2の含気率「可」では、崩れやすさは「可」であったが、凍結解凍品や凍結乾燥品の特性改良は「不適」であった。比較例4-2の含気率が高すぎる場合は、気泡の分散状態が均一でなく組織がぼそぼそとし、好ましい食感ではなかった。なお、バルクゲルの特性は試験例4全てで「不適」であった。
以上より、気泡含有ゲルで好ましい特性を付与するために含気率のみに着目した場合、5%以上65%未満ならばよく、10%以上65%未満ならばなおよく、25%以上55%未満ならばいっそう好ましく、35%以上45%未満ならば特に好ましいことが分かった。
【0053】
【表8】
【0054】
〔試験例5〕
試験例5では、気泡含有ゲル状食品の特性に対する油脂の添加率と工程の影響を評価した。
1.試験方法、評価方法
表9に示す配合の試験品を調製した。気泡含有ゲル状食品の評価方法については、試験例1と同様である。なお、目標とした含気率は40%である。
【0055】
【表9】
【0056】
本試験例の気泡・油脂含有ゲル状食品の製造方法を次に示す。
[工程a] 第一の組成物の調製工程
第一の組成物は、水(約60℃の溶解水)に表9の「第二の組成物の配合率」に記載のホエイタンパク質含有素材、ミセル性カゼイン、ヤシ油を溶解または分散させて調製した。攪拌は、ローターステーター型攪拌機を用い、1400rpm、10分間の条件とした。予備加熱処理する前に均質処理する場合は、高圧ホモジナイザーを用いて10MPaで処理した。
[工程b] 第一の組成物を予備加熱保持する工程
第一の組成物の温度が70~90℃で、4~45分間以上保持、またはこれと同等の温度履歴で処理し、第一の組成物の温度が30℃以下になるまで冷却した。予備加熱処理した後に均質処理する場合は、第一の組成物の温度を60℃に調温し、高圧ホモジナイザーを用いて10MPaで処理し、第一の組成物の温度が30℃以下になるまで冷却した。
[工程c] 塩類を添加し、第二の組成物を得る工程
工程bを経た第一の組成物に、カルシウム塩(CaCl)の水溶液を、攪拌により混合し、第二の組成物を得た。
[工程d] 第二の組成物の起泡工程
第二の組成物を、ハンドホイッパーを用いて、1000rpm、3分間の条件で起泡させた。
[工程e]第二の組成物の含気率の調整工程
起泡した第二の組成物と起泡していない第二の組成物をヘラで混合し、任意の割合の含気率に調整した。
[工程f]第二の組成物の充填工程
[工程e]を経た第二の組成物を、容器に充填し、密閉した。
[工程g]第二の組成物の加熱冷却工程
[工程f]を経た第二の組成物を密閉容器のまま、90℃の温湯に15分間浸漬し、第二の組成物の中心温度80℃で、5分間以上保持し、加熱凝固させ気泡含有ゲル状食品 を得た。加熱終了後、気泡含有ゲル状食品 は氷冷水に浸漬し速やかに10℃まで冷却した。氷冷水で冷却後は、10℃庫で保存した。
なお、[工程d]と[工程e]を経ず、起泡しないゲルをバルクゲル、[工程e]を経たゲルを気泡含有ゲル、[工程g]で得られたゲルを気泡・油脂含有ゲル状食品として、以下の評価を行った。
その他、[工程d]と[工程e]は連続式の含気装置などを用いて、一括して処理することもできる。
【0057】
2.測定結果
表10に本試験例5の各試験品のゲル化前(第二の組成物)、気泡・脂質含有ゲル、脂質含有バルクゲルの評価を示す。実施例5-1、実施例5-2、実施例5-3、実施例5-4は起泡前と気泡・脂質含有ゲルの特性がすべての評価項目で「最適」であった。実施例5-5は、凍結解凍品の離水のみ「不適」であった。実施例5-5では、含気率「可」、崩れやすさは「可」であったが、凍結解凍品や凍結乾燥品の特性改良は「不適」であった。比較例5-1は、第三の組成物が均質処理工程を経ておらず、オイルオフが認められたため、「不可」とした。比較例5-2は、ホイップクリームのタンパク質や脂質の比率を想定した試験例で、工程dを経て気泡含有ゾルは得られたが、工程gの加熱保持によりゲル化せず「不可」であった。なお、バルクゲルの特性は試験例5の全てで「不適」であった。
以上より、脂質を含有する場合でも、予備加熱処理の後、より好ましくは予備加熱処理の前に均質処理をすることで、気泡・脂質含有ゲルを調製できることが分かった。
【0058】
【表10】
【0059】
〔試験例6〕
試験例6では、気泡含有ゲル状食品、気泡・油脂含有ゲル状食品の特性に対する乳タンパク質素材、糖質、油脂の配合率、塩類の成分と工程の影響を評価した。なお、目標とした含気率は40%である。
1.試験方法、評価方法
表11に示す配合の試験品を調製した。ゲル状食品の評価方法は試験例1と同様である。
【0060】
【表11】
【0061】
本試験例の気泡含有ゲル状食品、気泡・油脂含有ゲル状食品の製造方法を次に示す。
[工程a] 第一の組成物の調製工程
第一の組成物は、水(約60℃の溶解水)に表11の「第二の組成物の配合率」に記載のホエイタンパク質素材を溶解または分散させて調製した。攪拌は、ローターステーター型攪拌機を用い、1400rpm、10分間の条件とした。
[工程b] 第一の組成物を予備加熱保持する工程
第一の組成物の温度が70~90℃で、4~45分間以上保持、またはこれと同等の温度履歴で処理し、第一の組成物の温度が30℃以下になるまで冷却した。
[工程c] 塩類を添加し、第二の組成物を得る工程
[工程b]を経た第一の組成物に、カルシウム塩(CaCl)の水溶液を、攪拌により混合し、第二の組成物を得た。
[工程d] 第二の組成物の起泡工程
第二の組成物を、ハンドホイッパーを用いて、1000rpm、3分間の条件で起泡させた。
[工程e] 第三の組成物の分散工程
第三の組成物は、水(約60℃の溶解水)に表11の「第四の組成物の配合率」に記載のホエイタンパク質素材、ミセル性カゼイン、ヤシ油を溶解又は分散させて調製した。攪拌は、ローターステーター型攪拌機を用い、1400rpm、10分間の条件とした。予備加熱処理する前に均質処理する場合は、高圧ホモジナイザーを用いて10MPaで処理した。
[工程f] 第三の組成物を予備加熱保持する工程
第三の組成物の温度が70~90℃で、4~45分間以上保持、またはこれと同等の温度履歴で処理し、第三の組成物の温度が30℃以下になるまで冷却した。予備加熱処理した後に均質処理する場合は、第三の組成物の温度が60℃に調温し、高圧ホモジナイザーを用いて10MPaで処理し、第三の組成物の温度が30℃以下になるまで冷却した。
[工程g] 塩類を添加し、第四の組成物を得る工程
[工程f]を経た第三の組成物に、カルシウム塩(CaCl)の水溶液を、攪拌により混合し、第四の組成物を得た。
[工程h] 含気率を調整した第五の組成物を得る工程
[工程d]を経て起泡した第二の組成物と、[工程g]を経て調製した起泡していない第四の組成物を任意の割合で混合し、含気率を調整し第五の組成物を得た。
[工程i] 第五の組成物の充填工程
第五の組成物を、容器に充填し、密閉した。
[工程j] 第五の組成物の加熱冷却工程
[工程i]を経た第四の組成物を密閉容器のまま、90℃の温湯に15分間浸漬し、第五の組成物の中心温度80℃で、5分間以上保持し、加熱凝固物を得た。加熱終了後、第五の組成物は氷冷水に浸漬し速やかに10℃まで冷却した。氷冷水で冷却後は、10℃庫で保存した。
なお、[工程d]で起泡していない第二の組成物と、[工程g]を経て調製した起泡していない第四の組成物を用いて調製したのが、気泡を含まないバルクゲルである。
また、[工程d]と[工程h]は連続式の含気装置などを用いて、一括して処理することもできる。
【0062】
2.測定結果
表12に本試験例6の各試験品の起泡前(第二の組成物)、気泡含有ゲル、バルクゲルの評価を示す。実施例6-1、実施例6-2、実施例6-3、実施例6-4、実施例6-5はゲル化前と気泡含有ゲルの特性がすべての評価項目で「最適」であった。比較例6-1は、第三の組成物が均質処理工程を経ておらず、オイルオフが認められたため、「不可」とした。なお、バルクゲルの特性は試験例6の全てで「不適」であった。
以上より、起泡液と非起泡液の組成が異なる場合でも、気泡含有ゲルを調製できることが分かった。特に、起泡部に油脂を添加せず、非起泡部に油脂を添加する場合、非起泡部(第四の組成物)は均質処理をしていれば、気泡・油脂含有ゲルを調製できることが分かった。
【0063】
【表12】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、適度な崩れやすさを有し、凍結解凍処理後の離水が低減し、強制吸水性が向上した、新規の気泡含有ゲル状食品を提供することができる。また、さらに凍結乾燥処理後の吸水性や吸油性も向上した新規の気泡含有ゲル状食品や気泡・油脂含有ゲルを提供することができる。