(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106478
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】多環性有機化合物又はその塩、及び該多環性有機化合物又はその塩を含有する水系電解液、並びに該水系電解液を用いたレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20240801BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20240801BHJP
C07D 241/44 20060101ALI20240801BHJP
C07D 241/36 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/02
C07D241/44 CSP
C07D241/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010746
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 光紀
(72)【発明者】
【氏名】大泉 淳一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 芳恵
(72)【発明者】
【氏名】木村 南
(72)【発明者】
【氏名】川村 将也
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA03
5H126BB10
5H126GG17
5H126RR01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】レドックスフロー電池の活物質として用いられる化合物又はその塩、及び該化合物又はその塩を活物質として含有する水系電解液、並びに該水系電解液を用いたレドックスフロー電池を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物又はその塩、及び該化合物又はその塩を活物質として含有する水系電解液、並びに該水系電解液を用いたレドックスフロー電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【化1】
(一般式(1)中、R
1~R
14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アミノ基、アミド基、ニトリル基、チオール基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、及びリン酸基から選択される基であり、R
9及びR
10は結合して環を形成していてもよく、
R
1~R
14の少なくとも一つは、ヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換したスルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換した硫酸基、及びアミノ基から選択される基である。)
【請求項2】
R1~R4の少なくとも一つは、ヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換したスルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換した硫酸基、及びアミノ基から選択される基である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記式(1-1)~(1-15)のいずれかで表される化合物である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【化2】
【化3】
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【化4】
(一般式(2)中、R
1~R
8及びR
11~R
14は、前記一般式(1)におけるR
1~R
8及びR
11~R
14と同義である。)
【請求項5】
前記一般式(2)で表される化合物が、下記式(2-1)~(2-15)のいずれかで表される化合物である、請求項4に記載の化合物。
【化5】
【化6】
【請求項6】
R1~R14の少なくとも一つは、スルホン酸基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物又はその塩と、水と、を含有する水系電解液。
【請求項8】
請求項7に記載の水系電解液、正極、負極、及びセパレータを備える、レドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環性有機化合物又はその塩及び該多環性有機化合物又はその塩を含有する水系電解液、並びに該水系電解液を用いたレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能型社会の実現に向けて、温室効果ガスを発生しない再生可能エネルギーの利用が盛んになっている。しかし、再生可能エネルギーの発電量は、季節、天候等に左右されやすいため、再生可能エネルギーを安定的に供給するための電力貯蔵用の蓄電池の需要が必要となる。このような産業用の蓄電池として、レドックスフロー電池が知られている。
【0003】
現在、一般的なレドックスフロー電池ではバナジウムが電解液中の活物質として用いられているが、バナジウムが希少金属であることから、供給不足の懸念及びコスト高が課題となっている。また、電解液として高濃度の硫酸を用いるため、バナジウムに代わる活物質の探索が続けられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、水と特定の構造を有する第1の有機化合物とその還元生成物を含む第1のレドックス対を含む正極電解液と、水と特定の構造を有する第2の有機化合物とその還元生成物を含む第2のレドックス対を含む負極電解液と、を含むレドックスフロー電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第9,614,245号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているレドックスフロー電池の電解液は、高濃度のアルカリ条件下で使用できる特定構造の活物質にすぎず、実用的には電解液のpH領域、電池に求める起電力に応じて、様々な化合物を提供する必要がある。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決すべくなされたものであり、レドックスフロー電池の活物質として用いられる多環性有機化合物又はその塩、及び該多環性有機化合物又はその塩を活物質として含有する水系電解液、並びに該水系電解液を用いたレドックスフロー電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、特定の多環性有機化合物又はその塩と、水とを含む水系電解液を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] 下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【化1】
(一般式(1)中、R
1~R
14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アミノ基、アミド基、ニトリル基、チオール基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、及びリン酸基から選択される基であり、R
9及びR
10は結合して環を形成していてもよく、
R
1~R
14の少なくとも一つは、ヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換したスルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換した硫酸基、及びアミノ基から選択される基である。)
[2] [1]に記載の化合物又はその塩と、水と、を含有する水系電解液。
[3] [2]に記載の水系電解液、正極、負極、及びセパレータを備える、レドックスフロー電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レドックスフロー電池の活物質として用いられる多環性有機化合物又はその塩、及び該多環性有機化合物又はその塩を活物質として含有する水系電解液、並びに該水系電解液を用いたレドックスフロー電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】式(1-1)で表される化合物のナトリウム塩を含む水溶液のサイクリックボルタモグラムを表す図である。
【
図2】合成例2で得られた化合物の混合物のナトリウム塩を含む水溶液のサイクリックボルタモグラムを表す図である。
【
図3】式(2-1)で表される化合物のナトリウム塩を含む水溶液のサイクリックボルタモグラムを表す図である。
【
図4】合成例4で得られた化合物の混合物のナトリウム塩を含む水溶液のサイクリックボルタモグラムを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩である。
【0013】
【0014】
一般式(1)中、R1~R14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アミノ基、アミド基、ニトリル基、チオール基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、及びリン酸基から選択される基であり、R9及びR10は結合して環を形成していてもよく、
R1~R14の少なくとも一つは、ヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換したスルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換した硫酸基、及びアミノ基から選択される基である。
【0015】
一般式(1)で表される化合物はヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換したスルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換した硫酸基、及びアミノ基から選択される基を少なくとも一つ有するため、水に対して高い溶解性を有する。R1~R14の少なくとも一つが、スルホン酸基であると、一般式(1)で表される化合物の水に対する溶解性がより増すため好ましい。
また、R1~R4の少なくとも一つが、ヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換したスルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換した硫酸基、及びアミノ基から選択される基であると、一般式(1)で表される化合物の水に対する溶解性又は水中分散性がより向上するため好ましい。
【0016】
R1~R14がハロゲン原子である場合、R1~R14は好ましくはフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素であり、より好ましくはフッ素又は塩素であり、更に好ましくはフッ素である。
R1~R14がアルキル基である場合、R1~R14は好ましくは炭素数1~4のアルキル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、又はイソブチル基であり、更に好ましくはメチル基又はエチル基である。
R1~R14がアリール基である場合、R1~R14は好ましくは炭素数6~22のアリール基であり、より好ましくはフェニル基又はナフチル基であり、更に好ましくはフェニル基である。
R1~R14がアルコキシ基である場合、R1~R14は好ましくは炭素数1~10のアルコキシ基であり、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、又はイソブトキシ基であり、更に好ましくはメトキシ基又はエトキシ基である。
R1~R14がアシルオキシ基である場合、R1~R14は好ましくは炭素数1~10のアシルオキシ基であり、より好ましくはアセチルオキシ基、n-プロパノイルオキシ基、イソプロパノイルオキシ基、n-ブタノイルオキシ基、s-ブタノイルオキシ基、t-ブタノイルオキシ基、又はイソブタノイルオキシ基であり、更に好ましくはアセチルオキシ基である。
R1~R14がアルコキシカルボニル基である場合、R1~R14はカルボキシ基と炭素数1~4のアルコールとのエステルであり、好ましくはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、s-ブトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、又はイソブトキシカルボニル基であり、より好ましくはメトキシカルボニル基又はエトキシカルボニル基である。
R1~R14がアシル基である場合、R1~R14は好ましくはアセチル基、n-プロパノイル基、イソプロパノイル基、n-ブタノイル基、s-ブタノイル基、t-ブタノイル基、又はイソブタノイル基であり、より好ましくはアセチル基である。
R1~R14がアミド基である場合、R1~R14はアミノ基と炭素数1~4のカルボン酸とのアミドであり、好ましくはホルムアミド基、酢酸アミド基、プロピオン酸アミド基、酪酸アミド基、イソ酪酸アミド基、又はコハク酸イミド基であり、より好ましくはホルムアミド基又は酢酸アミド基である。
【0017】
一般式(1)で表される化合物がその塩である場合、R1~R14のヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換したスルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換した硫酸基は塩を形成してもよく、好ましくはこれらの基のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩であり、より好ましくはこれらの基のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩又はアンモニウム塩である。
一般式(1)で表される化合物がその塩である場合、R1~R14のアミノ基は塩を形成してもよく、好ましくはアミノ基の無機酸塩、より好ましくはアミノ基の塩酸塩である。
【0018】
また、一般式(1)において、R
9及びR
10が結合して環を形成する場合、一般式(1)で表される化合物は、一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】
【0019】
一般式(2)中、R1~R8及びR11~R14は、前記一般式(1)におけるR1~R8及びR11~R14と同義である。
【0020】
一般式(1)で表される化合物としては、例えば式(1-1)~式(1-15)で表される化合物が挙げられる。
【0021】
【0022】
また、一般式(2)で表される化合物としては、例えば式(2-1)~式(2-15)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
【0024】
(一般式(1)で表される化合物の調製)
一般式(1)で表される化合物の合成方法としては、例えば、ベンジル誘導体や9,10-フェナントレンキノン誘導体等のジケトンとo-フェニレンジアミン誘導体とを縮合させる方法や、ウォール・アウエ反応によって得られる多環性有機化合物に対応する化合物として一般式(1)で表される化合物を得る方法等が挙げられる。
【0025】
こうして得られた一般式(1)で表される化合物を、カチオン種又はアニオン種と反応させることにより、一般式(1)で表される化合物の塩を調製することができる。カチオン種又はアニオン種としては、R1~R14のヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基、アルキル基若しくはアルコキシ基に置換したスルホン酸基、硫酸基、及びアルキル基若しくはアルコキシ基に置換した硫酸基、並びにアミノ基(以下、これらを総じて「塩を形成する基」ともいう。)と塩を形成するカチオン種又はアニオン種であれば特に限定されないが、カチオン種としては、アルカリ金属のカチオン及びアンモニウムが挙げられる。アルカリ金属のカチオン源としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド等のアルカリ金属のアルコキシド等が挙げられる。アルカリ金属のカチオン種は、溶液、好ましくは水溶液を用いてもよい。アンモニウムのカチオン源としては、例えば、濃アンモニア水(約28%)が挙げられる。アニオン種としては、R1~R14のアミノ基と塩を形成するアニオン種であれば特に限定されないが、無機酸のアニオンが挙げられる。無機酸のアニオン源としては、例えば、無機酸及びその水溶液が挙げられ、希塩酸が好ましい。
【0026】
一般式(1)で表される化合物の塩は、一般式(1)で表される化合物を溶解しない溶媒に一般式(1)で表される化合物を懸濁させ、上記カチオン源又はアニオン源を徐々に加え、一般式(1)で表される化合物の塩が溶媒に完全に溶解した後に溶媒を留去することで得ることができる。
カチオン種又はアニオン種の添加量は、一般式(1)で表される化合物に対して1等量以上添加すればよく、好ましくは、一般式(1)で表される化合物中のスルホン酸基及び硫酸基の合計モル数と添加後のカチオンが同量となるように、又は一般式(1)で表される化合物中のアミノ基の合計モル数と添加後のアニオンが同量となるように接触させることが好ましい。すなわち、一般式(1)で表される化合物に含まれるスルホン酸基及び硫酸基の一部が既にカチオン種の塩となっているときは、塩となっているカチオン種と添加したカチオン種の合計量が一般式(1)で表される化合物中のスルホン酸基及び硫酸基の合計モル数と同量となるようにカチオン種を接触させることが好ましく、また、一般式(1)で表される化合物に含まれるアミノ基の一部が既にアニオン種の塩となっているときは、塩となっているアニオン種と添加したアニオン種の合計量が一般式(1)で表される化合物中のアミノ基の合計モル数と同量となるようにアニオン種を接触させることが好ましい。過剰のカチオン種又はアニオン種を接触させると、水系電解液のpHが大きく変化してしまうため、カチオン種の添加量は、一般式(1)で表される化合物中のスルホン酸基、カルボキシ基、及びフェノール性水酸基の合計モル数の1.3倍までとすることが好ましい。
一般式(1)で表される化合物を溶解しない溶媒としては、例えば、メタノールを用いることができる。溶媒は、溶解後の一般式(1)で表される化合物の塩のモル濃度が好ましくは0.001M以上、より好ましくは0.002M以上、そして好ましくは0.3M以下、より好ましくは0.25M以下となる量で用いる。
一般式(1)で表される化合物の懸濁液にカチオン種又はアニオン種を滴下する際の温度としては、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、そして好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは室温(25℃)である。
【0027】
[水系電解液]
本発明の水系電解液は、一般式(1)で表される化合物及び/又はその塩と、水と、を含有する。
水系電解液中の一般式(1)で表される化合物及びその塩の合計の濃度は、好ましくは0.001M以上、より好ましくは0.002M以上、そして、好ましくは0.3M以下、より好ましくは0.25M以下である。
【0028】
(水)
本発明の水系電解液が含む水は、特に限定されないが、好ましくは蒸留水、イオン交換水、超純水であり、コストの観点からより好ましくはイオン交換水である。
【0029】
(支持電解質)
本発明の水系電解液は、上記の一般式(1)で表される化合物又はその塩に加え、導電性を高める支持電解質として働く、アルカリ金属塩及びアミン塩からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましい。
アルカリ金属塩としては、例えば、アルカリ金属のハロゲン化物塩;アルカリ金属の硫酸塩、アルカリ金属の硝酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、アルカリ金属の炭酸塩等のアルカリ金属の無機酸塩;アルカリ金属のシュウ酸塩、アルカリ金属のクエン酸塩等のアルカリ金属の有機酸塩等が挙げられる。
アミン塩としては、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。
これらの中でも、アルカリ金属のハロゲン化物塩が好ましく、アルカリ金属の塩化物塩がより好ましく、塩化リチウム、塩化ナトリウム及び塩化カリウムから選択される1種がより好ましく、塩化カリウムがより好ましい。
【0030】
水系電解液中の支持電解質の濃度は、支持電解質の合計濃度が好ましくは0.1M以上、より好ましくは0.5M以上、そして好ましくは2M以下、より好ましくは1.5M以下である。
また、水系電解液中の支持電解質の濃度は、支持電解質の合計濃度が好ましくは0.1M以上2M以下、より好ましくは0.5M以上1.5M以下である。
【0031】
水系電解液のpHは、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上であり、そして好ましくは12以下、より好ましくは11以下、更に好ましくは10.5以下である。
【0032】
[水系電解液の製造方法]
本発明の水系電解液の製造方法は、一般式(1)で表される化合物又はその塩を、水を含む溶媒に溶解させることを含む。水系電解液が支持電解質を含む場合、支持電解質は、いずれのタイミングで水を含む溶媒に溶解させることができる。
【0033】
水系電解液に含まれる化合物の構造は、核磁気共鳴(以下、NMRと省略することがある)分析によって測定する。不活性雰囲気下で、水系電解液を重溶媒中に溶解させ、NMR管に入れてNMR測定を行う。また、NMR管として二重管を用い、一方に水系電解液を入れ、もう一方に重溶媒を入れて、NMR測定を行ってもよい。重溶媒としては、重水、重メタノール、重アセトニトリル、重ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。水系電解液の構成成分の濃度を決定する場合は、重溶媒中に規定量の標準物質を溶解させて、スペクトルの比率から各構成成分の濃度を算出することができる。また、予め水系電解液を構成する成分の一種以上の濃度を、ガスクロマトグラフィーのような別の分析手法で求めておき、濃度既知の成分とそれ以外の成分とのスペクトル比から濃度を算出することもできる。用いる核磁気共鳴分析装置は、プロトン共鳴周波数400MHz以上の装置が好ましい。測定核種としては1H、13C、31P、19F、11B等が挙げられる。
一般式(1)で表される化合物は、水系電解液中で解離状態にあるため、一般式(1)で表される化合物のアニオン種又はカチオン種が検出できればよい。ただし、無機系カチオン種を考慮する場合は、別途ICP発光分光分析によって濃度を算出し、NMRの結果と合わせることで組成を決定する。
【0034】
[レドックスフロー電池]
本発明の一実施態様であるレドックスフロー電池は、水系電解液を循環させる正極側循環機構及び負極側循環機構、並びに電池セルを有する。電池セルは水系電解液を循環させることで酸化還元反応を進行させ充電と放電を行う。電池セルは正極を収容する正極室と、負極を収容する負極室と、正極室と負極室を仕切るセパレータと、を備える。正極室及び負極室は、それぞれ正極側循環機構及び負極側循環機構により供給される正極側電解液及び負極側電解液が循環可能となっている。本実施態様のレドックスフロー電池では、本発明の水系電解液を負極側電解液として含む。
【0035】
(水系電解液)
水系電解液は、正極側電解液及び負極側電解液を含む。
【0036】
(正極側電解液)
正極側電解液は負極側電解液と同様に水系電解液を用いる。正極側電解液は、負極側電解液である本発明の水系電解液が含む支持電解質と同じ支持電解質を含む。
正極側電解液が含む活物質(正極活物質)としては、レドックスフロー電池に通常用いられる活物質を用いることができるが、負極側電解液が活物質として含む一般式(1)で表される化合物又はその塩との酸化還元電位の差が1.0V以上である活物質であることが好ましく、1.1V以上であることがより好ましく、1.2V以上であることが更に好ましい。このような活物質を用いることで、レドックスフロー電池の起電力を高めることができる。一般式(1)で表される化合物又はその塩との酸化還元電位の差が1.0V以上である正極活物質としては、ニトロキシルラジカル構造を有する化合物、フェロシアン化物、フェロセン構造を有する化合物、キノン化合物、臭素イオン、ヨウ素イオン等が挙げられ、ニトロキシルラジカル構造を有する化合物、フェロシアン化物、及びフェロセン構造を有する化合物から選択される少なくとも一つの化合物が好ましい。ニトロキシルラジカル構造を有する化合物としては、例えば4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(4-ヒドロキシ-TEMPO)、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(TEMPO)、1-メチル-アザアダマンタン-N-オキシル(1-メチル-AZADO)、アザアダマンタン-N-オキシル(AZADO)等が挙げられ、フェロシアン化物としてはフェロシアン化カリウムやフェロシアン化ナトリウムが挙げられ、フェロセン構造を有する化合物としては(フェロセニルメチル)トリメチルアンモニウムクロリド、1,1’-ビス[3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]フェロセンジクロリド、フェロセン-1,1’-ジカルボン酸、フェロセンカルボン酸、フェロセンスルホン酸、フェロセン-1,1’-ジスルホン酸、フェロセン酢酸、フェロセニルメタノール等が挙げられる。
これらの中でも、第1の態様の水系電解液では、起電力の大きいレドックスフロー電池とする観点から、ニトロキシルラジカル構造を有する化合物及びフェロセン構造を有する化合物から選択される少なくとも一つの化合物がより好ましく、ニトロキシルラジカル構造を有する化合物が更に好ましい。また、第2の態様の水系電解液では、広いpH領域において電池を駆動させることのできる水系電解液とする観点から、ニトロキシルラジカル構造を有する化合物、フェロシアン化物、フェロセン構造を有する化合物から選択される少なくとも一つの化合物が好ましく、フェロシアン化ナトリウム、(フェロセニルメチル)トリメチルアンモニウムクロリド及び4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシルがより好ましく、フェロシアン化ナトリウムが更に好ましい。
【0037】
(正極及び負極)
正極及び負極としては、比表面積が大きい電子伝導体を用いることができ、例えば多孔質金属、カーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンナノチューブシート等が挙げられる。正極には正極端子が接続され、負極には負極端子が接続され、正極端子及び負極端子は充放電装置に接続されている。充放電装置は、充電時には電池セルの充電時に正極と負極に電圧を印加し、放電時には正極と負極を介して電池セルから電力を取り出す。
【0038】
(セパレータ)
セパレータとしては、多孔質膜を用いることができ、例えば、陰イオン交換膜、陽イオン交換膜、ポリプロピレンの多孔質膜、ポリエチレンの多孔質膜、芳香族ポリアミドの不織布セパレータ、セルロースの不織布セパレータ等が挙げられる。これらの中でも、電荷補償に塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオンなどのアニオンを用いる場合、陰イオン交換膜が好ましく、電荷補償にナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオンなどのカチオンを用いる場合、陽イオン交換膜が好ましく、陰イオン交換膜がより好ましい。
【0039】
(正極側循環機構及び負極側循環機構)
正極側循環機構は、正極側タンク、正極側ポンプ、及び正極側配管を有し、正極側タンクに貯蔵する正極側電解液を、正極側ポンプの働きにより正極側配管を通じて電池セルの正極室に正極側電解液を流入させる。電池セルで充放電された正極側電解液は、正極室から流出され、正極側タンクに戻る。正極側タンクの流出部又は正極側タンクと電池セルの間には正極活物質の流失を制限する正極フィルタが設けられていてもよい。正極フィルタによって正極活物質が電池セルに流入することを防止することができ、正極活物質と負極活物質が混合することによる電池セルの故障や劣化を防ぐことができる。正極側ポンプは正極側循環機構のどの位置に設けられていてもよいが、好ましくは正極側タンクと電池セルの間である。
負極側循環機構は、負極側タンク、負極側ポンプ、及び負極側配管、並びに任意に負極フィルタを有する。これらの配置及び働きは、正極側循環機構の対応する各部と同様である。
【実施例0040】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(DFT計算)
密度汎関数理論(DFT)を用いて酸化状態と還元状態の分子の自由エネルギーを計算し、それらの差を反応電子数とファラデー定数で除することでredox電位を算出した。計算はGaussian16を用い、汎関数と基底関数はそれぞれωB97X-D、6-31+G(d,p)を用いた。また、溶媒である水の影響を考慮するため、連続誘電体モデル(PCM)を適用した。
redox電位Ecalcは、下記式で表される。
【0042】
【0043】
式中、Gredは還元状態の分子の自由エネルギー、Goxは酸化状態の分子の自由エネルギー、GH+はプロトンの自由エネルギー、Fはファラデー定数、Eabsは参照電極の絶対電位である。
【0044】
(実施例1)
<一般式(1)で表される化合物の合成>
合成例1(式(1-1)で表される化合物の合成)
撹拌器を備えたガラス容器内にベンジル(2.12g、10mmol)、エタノール(120mL)を混合し、ここへ3,4-ジアミノベンゼンスルホン酸(1.92g、10mmol)を加え、70℃で2時間加熱撹拌した。室温まで冷却し、濃縮後、析出した固体をろ取した。固形分を酢酸エチルで洗浄することにより式(1-1)で表される化合物の淡黄色固体を2.07g得た。
得られた化合物の構造を、LC-MSを測定することで確認した。
【0045】
合成例2
撹拌機を備えたガラス容器内に合成例1で得られた式(1-1)で表される化合物の固体0.30gと発煙硫酸1gを混合し、50℃で8時間加熱撹拌した。室温まで冷却し、氷1gを添加した後、飽和食塩水6mLを加えて氷浴中で撹拌した。析出した固体をろ取し、飽和食塩水で洗浄することで式(1-2)で表される化合物、式(1-3)で表される化合物、及び式(1-4)で表される化合物の混合物として淡黄色固体を0.12g得た。
得られた化合物の構造を、LC-MSを測定することで確認した。
【0046】
合成例3(式(2-1)で表される化合物の合成)
9,10-フェナントレンキノン(2.12g、10mmol)、エタノール(120mL)を混合し、ここへ3,4-ジアミノベンゼンスルホン酸(1.92g、10mmol)を加え、70℃で6時間加熱撹拌した。室温まで冷却し、濃縮後、析出した固体をろ取した。固形分を酢酸エチルで洗浄することにより式(2-1)で表される化合物の淡黄色固体を2.78g得た。
得られた化合物の構造を、LC-MSを測定することで確認した。
【0047】
合成例4
撹拌機を備えたガラス容器内に合成例3で得られた式(2-1)で表される化合物の固体0.30gと発煙硫酸1gを混合し、25℃で24時間撹拌した。氷1gと水2mLを加えて希釈後、析出した固体をろ取した。固形分を水2mLへ分散しNaOHでpH7まで中和した。イソプロピルアルコール3mLを加えて攪拌し、析出した固体をろ取した。固形分を水/イソプロピルアルコール=1/2の混合液で洗浄することにより式(2-2)で表される化合物、式(2-3)で表される化合物、及び式(2-4)で表される化合物の混合物として淡黄色固体を0.28g得た。
得られた化合物の構造を、LC-MSを測定することで確認した。
【0048】
(実施例2)
<一般式(1)で表される化合物の電気化学測定>
(実施例2-1)
合成例1で得られた式(1-1)で表される化合物を20mg秤量し、10mLの1mol/L水酸化ナトリウム溶液(pH>12)に溶解させ電解液とした。この溶液に、作用極として炭素電極(グラッシーカーボンディスク電極、電極面積0.28cm
2、ビー・エー・エス社製、型番002012)、参照電極として銀/塩化銀電極(Ag/AgCl(飽和KCl、ビー・エー・エス社製、型番RE-1CP)、対極に白金線(φ0.5)を使用し、走査速度50mV/sでサイクリックボルタンメトリー測定を行った。得られたサイクリックボルタモグラムを
図1に示す。レドックス電位は-0.978V vs Ag/AgClであった。
DFT計算によって予測される式(1-1)で表される化合物レドックス電位は-0.927V vs Ag/AgClである。実際の測定値との差異は51mVで、誤差は5.2%である。
【0049】
(実施例2-2)
式(1-1)で表される化合物を、合成例2で得られた化合物の混合物とした他は実施例2-1と同様にして、サイクリックボルタンメトリー測定を行った。得られたサイクリックボルタモグラムを
図2に示す。レドックス電位は-0.958V vs Ag/AgClであった。
DFT計算によって予測されたレドックス電位は-0.941V vs Ag/AgClである。実際の測定値との差異は16.6mVで、誤差は1.7%である。
【0050】
(実施例2-3)
式(1-1)で表される化合物を、合成例3で得られた式(2-1)で表される化合物とした他は実施例2-1と同様にして、サイクリックボルタンメトリー測定を行った。得られたサイクリックボルタモグラムを
図3に示す。レドックス電位は-0.900V vs Ag/AgClであった。
DFT計算によって予測されたレドックス電位は-0.898V vs Ag/AgClである。実際の測定値との差異は0.2mVで、その誤差は0.03%である。
【0051】
(実施例2-4)
式(1-1)で表される化合物を、合成例4で得られた化合物とした他は実施例2-1と同様にして、サイクリックボルタンメトリー測定を行った。得られたサイクリックボルタモグラムを
図4に示す。レドックス電位は-0.863V vs Ag/AgClであった。
DFT計算によって予測されたレドックス電位は-0.871V vs Ag/AgClである。実際の測定値との差異は8.5mVで、誤差は1.0%である。
【0052】
(実施例3)
例えば、3,3’-ジヒドロキシベンジルと3,4-ジアミノベンゼンスルホン酸を縮合させることで式(1-5)で表される化合物を得ることが出来る。更に、得られた式(1-5)で表される化合物を発煙硫酸等を用いてスルホン化し、必要に応じて単離することで、式(1-6)で表される化合物を得ることが出来る。また、式(1-7)~(1-15)で表される化合物をはじめとする式(1)で表される化合物は、3,3’-ジヒドロキシベンジルと3,4-ジアミノベンゼンスルホン酸を適宜対応する化合物へと変更することで、式(1-5)で表される化合物又は式(1-6)で表される化合物と同様に得ることができる。
【0053】
【0054】
更に、上記式(1-5)で表される化合物の合成方法において、3,3’-ジヒドロキシベンジルを2,7-ジヒドロキシフェナントレンキノンに変更する他は同様にして、式(2-5)で表される化合物を得ることが出来る。更に、式(1-6)で表される化合物の合成方法と同様に式(2-5)で表される化合物をスルホン化することで、式(2-6)で表される化合物を得ることが出来る。また更に、式(2-7)~(2-15)で表される化合物をはじめとする式(2)で表される化合物は、2,7-ジヒドロキシフェナントレンキノンと3,4-ジアミノベンゼンスルホン酸を適宜対応する化合物へと変更することで、式(2-5)で表される化合物又は式(2-6)で表される化合物と同様に得ることができる。
【0055】
【0056】
<一般式(1)で表される化合物のDFT計算によるレドックス電位の予測>
DFT計算によって予測される式(1-1)~式(1-15)で表される化合物及び式(2-1)~式(2-15)で表される化合物のレドックス電位を表1に示す。
【0057】
【0058】
DFT計算によるレドックス電位の推算はJ.Phys.Chem.A 2020年、124巻、35、7166頁-7176頁に記載されており、有機化合物分子に対する信頼性は高く正確であると結論付けられている。また、DFT計算によるレドックス電位の計算値は実測値と良い一致を示している。