(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106535
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】膜厚測定に使用されるプリセットスペクトルデータの異常検出方法、および光学的膜厚測定装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240801BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
H01L21/304 622R
H01L21/304 622S
B24B49/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010835
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 夕貴
【テーマコード(参考)】
3C034
5F057
【Fターム(参考)】
3C034AA08
3C034BB93
3C034CA02
3C034CA22
3C034CB03
3C034DD10
5F057AA12
5F057AA19
5F057BA11
5F057BA12
5F057BA13
5F057BA15
5F057BA28
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5F057CA11
5F057DA02
5F057EB11
5F057FA46
5F057GA13
5F057GA16
5F057GA17
5F057GA27
5F057GB02
5F057GB13
5F057GB20
(57)【要約】
【課題】膜厚の光学的測定に用いられる基準強度データ(ベース強度データ)などのプリセットスペクトルデータの異常検出を自動的に実行することができる異常検出方法を提供する。
【解決手段】異常検出方法は、ワークピースの研磨前にプリセットスペクトルデータを作成し、プリセットスペクトルデータをオートエンコーダに入力し、オートエンコーダは、複数の正常なプリセットスペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルであり、オートエンコーダから出力された出力データと、プリセットスペクトルデータとの差を算定し、差がしきい値よりも大きいときにプリセットスペクトルデータに異常があると判定する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースの膜厚を光学的に測定するために使用されるプリセットスペクトルデータの異常検出方法であって、
前記ワークピースの研磨前に前記プリセットスペクトルデータを作成し、
前記プリセットスペクトルデータをオートエンコーダに入力し、前記オートエンコーダは、複数の正常なプリセットスペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルであり、
前記オートエンコーダから出力された出力データと、前記プリセットスペクトルデータとの差を算定し、
前記差がしきい値よりも大きいときに前記プリセットスペクトルデータに異常があると判定する、異常検出方法。
【請求項2】
過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、
前記複数のグループのうちの1つに属する複数の正常プリセットスペクトルデータを含む前記訓練データを作成し、
前記訓練データを用いて前記機械学習を実行して前記学習済みモデルである前記オートエンコーダを構築することをさらに含む、請求項1に記載の異常検出方法。
【請求項3】
前記プリセットスペクトルデータは、前記ワークピースからの反射光の強度の基準となる基準強度を含むベース強度データ、光を遮断した条件下で測定された背景強度を含むダークレベルデータ、および前記ワークピースを照射するための光源の光の強度を含む光モニタリングデータのうちのいずれかである、請求項1に記載の異常検出方法。
【請求項4】
ワークピースの膜厚を光学的に測定するために使用されるプリセットスペクトルデータの異常検出方法であって、
過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータのうちの1つである基準スペクトルデータを決定し、
前記ワークピースの研磨前に、最新のプリセットスペクトルデータを作成し、
前記基準スペクトルデータと前記最新のプリセットスペクトルデータとの差を算定し、
前記差がしきい値よりも大きいときに前記最新のプリセットスペクトルデータに異常があると判定する、異常検出方法。
【請求項5】
前記差は、ユークリッド距離である、請求項4に記載の異常検出方法。
【請求項6】
前記基準スペクトルデータを決定する工程は、
過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、
前記複数のグループのうちの1つに属する複数の正常プリセットスペクトルデータの中から選択された1つである前記基準スペクトルデータを決定する工程である、請求項4に記載の異常検出方法。
【請求項7】
前記過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータを正規化して、複数の正規化されたプリセットスペクトルデータを作成し、
前記最新のプリセットスペクトルデータを正規化して、最新の正規化されたプリセットスペクトルデータを作成する工程をさらに含む、請求項4に記載の異常検出方法。
【請求項8】
前記過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータおよび前記最新のプリセットスペクトルデータのそれぞれは、前記ワークピースからの反射光の強度の基準となる基準強度を含むベース強度データ、光を遮断した条件下で測定された背景強度を含むダークレベルデータ、および前記ワークピースを照射するための光源の光の強度を含む光モニタリングデータのうちのいずれかである、請求項4に記載の異常検出方法。
【請求項9】
ワークピースの膜厚を光学的に測定する光学的膜厚測定装置であって、
光を発する光源と、
前記光源から発せられた光を前記ワークピースに照射し、前記ワークピースからの反射光を受ける光学センサヘッドと、
前記ワークピースからの反射光のスペクトル測定データと、プリセットスペクトルデータとに基づいて、前記ワークピースの膜厚を決定する処理システムを備え、
前記処理システムは、
前記プリセットスペクトルデータをオートエンコーダに入力し、前記オートエンコーダは、複数の正常なプリセットスペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルであり、
前記オートエンコーダから出力された出力データと、前記プリセットスペクトルデータとの差を算定し、
前記差がしきい値よりも大きいときに前記プリセットスペクトルデータに異常があると判定するように構成されている、光学的膜厚測定装置。
【請求項10】
前記処理システムは、
過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、
前記複数のグループのうちの1つに属する複数の正常プリセットスペクトルデータを含む前記訓練データを作成し、
前記訓練データを用いて前記機械学習を実行して前記学習済みモデルである前記オートエンコーダを構築するように構成されている、請求項9に記載の光学的膜厚測定装置。
【請求項11】
前記プリセットスペクトルデータは、前記ワークピースからの反射光の強度の基準となる基準強度を含むベース強度データ、光を遮断した条件下で測定された背景強度を含むダークレベルデータ、および前記光源の光の強度を含む光モニタリングデータのうちのいずれかである、請求項9に記載の光学的膜厚測定装置。
【請求項12】
ワークピースの膜厚を光学的に測定する光学的膜厚測定装置であって、
光を発する光源と、
前記光源から発せられた光を前記ワークピースに照射し、前記ワークピースからの反射光を受ける光学センサヘッドと、
前記ワークピースからの反射光のスペクトル測定データと、プリセットスペクトルデータとに基づいて、前記ワークピースの膜厚を決定する処理システムを備え、
前記処理システムは、
過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータのうちの1つである基準スペクトルデータを決定し、
前記ワークピースの研磨前に、最新のプリセットスペクトルデータを作成し、
前記基準スペクトルデータと前記最新のプリセットスペクトルデータとの差を算定し、
前記差がしきい値よりも大きいときに前記最新のプリセットスペクトルデータに異常があると判定するように構成されている、光学的膜厚測定装置。
【請求項13】
前記差は、ユークリッド距離である、請求項12に記載の光学的膜厚測定装置。
【請求項14】
前記処理システムは、
過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、
前記複数のグループのうちの1つに属する複数の正常プリセットスペクトルデータの中から選択された1つである前記基準スペクトルデータを決定するように構成されている、請求項12に記載の光学的膜厚測定装置。
【請求項15】
前記処理システムは、
前記過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータを正規化して、複数の正規化されたプリセットスペクトルデータを作成し、
前記最新のプリセットスペクトルデータを正規化して、最新の正規化されたプリセットスペクトルデータを作成するように構成されている、請求項12に記載の光学的膜厚測定装置。
【請求項16】
前記過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータおよび前記最新のプリセットスペクトルデータのそれぞれは、前記ワークピースからの反射光の強度の基準となる基準強度を含むベース強度データ、光を遮断した条件下で測定された背景強度を含むダークレベルデータ、および前記光源の光の強度を含む光モニタリングデータのうちのいずれかである、請求項12に記載の光学的膜厚測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ、基板、パネルなどの半導体デバイスの製造に使用されるワークピースからの反射光のスペクトルに基づいて膜厚を測定する技術に関し、特に膜厚測定用に予め用意されるプリセットスペクトルデータの異常を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスには、SiO2などの絶縁膜を研磨する工程や、銅、タングステンなどの金属膜を研磨する工程などの様々な工程が含まれる。裏面照射型CMOSセンサおよびシリコン貫通電極(TSV)の製造工程では、絶縁膜や金属膜の研磨工程の他にも、シリコン層(シリコンウェーハ)を研磨する工程が含まれる。ウェーハの研磨は、その表面を構成する膜(絶縁膜、金属膜、シリコン層など)の厚さが所定の目標値に達したときに終了される。
【0003】
ウェーハの研磨は研磨装置を使用して行われる。絶縁膜やシリコン層などの非金属膜の膜厚を測定するために、研磨装置は、一般に、光学式膜厚測定装置を備える。この光学式膜厚測定装置は、光源から発せられた光をウェーハの表面に導き、ウェーハからの反射光のスペクトルを解析することで、ウェーハの膜厚を検出するように構成される。
【0004】
光学式の膜厚測定では、光学システムに機差が存在することがある。言い換えると、光学システムの機差に起因して光の強度にばらつきがあるため、不要なノイズの原因となる。そこで、光学システムに起因するノイズを除去するために、予め基準強度データ(ベース強度データ)を測定しておき、ウェーハ研磨時の反射光の各波長における実測強度を基準強度で割り算することで、相対反射率を求めている。この相対反射率を利用することで、光学システムに起因するノイズを除去することができ、正確な膜厚測定を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
予測不能な光学システムの不良や装置立ち上げや装置調整時に予測不能なセットアップミスがある場合、基準強度データが異常値となるために、実測値に大幅な誤差を生じることがある。そこで、従来は装置立ち上げ時や研磨パッドなどの消耗品交換時に、基準強度データに異常があるか否かの判断を実際の膜厚測定結果に基づいて行っていた。しかしながら、このような従来の方法は、長い作業時間と労力を要する。
【0007】
そこで、本発明は、膜厚の光学的測定に用いられる基準強度データ(ベース強度データ)などのプリセットスペクトルデータの異常検出を自動的に実行することができる異常検出方法および光学的膜厚測定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、ワークピースの膜厚を光学的に測定するために使用されるプリセットスペクトルデータの異常検出方法であって、前記ワークピースの研磨前に前記プリセットスペクトルデータを作成し、前記プリセットスペクトルデータをオートエンコーダに入力し、前記オートエンコーダは、複数の正常なプリセットスペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルであり、前記オートエンコーダから出力された出力データと、前記プリセットスペクトルデータとの差を算定し、前記差がしきい値よりも大きいときに前記プリセットスペクトルデータに異常があると判定する、異常検出方法が提供される。
【0009】
一態様では、前記異常検出方法は、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、前記複数のグループのうちの1つに属する複数の正常プリセットスペクトルデータを含む前記訓練データを作成し、前記訓練データを用いて前記機械学習を実行して前記学習済みモデルである前記オートエンコーダを構築することをさらに含む。
一態様では、前記プリセットスペクトルデータは、前記ワークピースからの反射光の強度の基準となる基準強度を含むベース強度データ、光を遮断した条件下で測定された背景強度を含むダークレベルデータ、および前記ワークピースを照射するための光源の光の強度を含む光モニタリングデータのうちのいずれかである。
【0010】
一態様では、ワークピースの膜厚を光学的に測定するために使用されるプリセットスペクトルデータの異常検出方法であって、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータのうちの1つである基準スペクトルデータを決定し、前記ワークピースの研磨前に、最新のプリセットスペクトルデータを作成し、前記基準スペクトルデータと前記最新のプリセットスペクトルデータとの差を算定し、前記差がしきい値よりも大きいときに前記最新のプリセットスペクトルデータに異常があると判定する、異常検出方法が提供される。
【0011】
一態様では、前記差は、ユークリッド距離である。
一態様では、前記基準スペクトルデータを決定する工程は、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、前記複数のグループのうちの1つに属する複数の正常プリセットスペクトルデータの中から選択された1つである前記基準スペクトルデータを決定する工程である。
一態様では、前記異常検出方法は、前記過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータを正規化して、複数の正規化されたプリセットスペクトルデータを作成し、前記最新のプリセットスペクトルデータを正規化して、最新の正規化されたプリセットスペクトルデータを作成する工程をさらに含む。
一態様では、前記過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータおよび前記最新のプリセットスペクトルデータのそれぞれは、前記ワークピースからの反射光の強度の基準となる基準強度を含むベース強度データ、光を遮断した条件下で測定された背景強度を含むダークレベルデータ、および前記ワークピースを照射するための光源の光の強度を含む光モニタリングデータのうちのいずれかである。
【0012】
一態様では、ワークピースの膜厚を光学的に測定する光学的膜厚測定装置であって、光を発する光源と、前記光源から発せられた光を前記ワークピースに照射し、前記ワークピースからの反射光を受ける光学センサヘッドと、前記ワークピースからの反射光のスペクトル測定データと、プリセットスペクトルデータとに基づいて、前記ワークピースの膜厚を決定する処理システムを備え、前記処理システムは、前記プリセットスペクトルデータをオートエンコーダに入力し、前記オートエンコーダは、複数の正常なプリセットスペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルであり、前記オートエンコーダから出力された出力データと、前記プリセットスペクトルデータとの差を算定し、前記差がしきい値よりも大きいときに前記プリセットスペクトルデータに異常があると判定するように構成されている、光学的膜厚測定装置が提供される。
【0013】
一態様では、前記処理システムは、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、前記複数のグループのうちの1つに属する複数の正常プリセットスペクトルデータを含む前記訓練データを作成し、前記訓練データを用いて前記機械学習を実行して前記学習済みモデルである前記オートエンコーダを構築するように構成されている。
一態様では、前記プリセットスペクトルデータは、前記ワークピースからの反射光の強度の基準となる基準強度を含むベース強度データ、光を遮断した条件下で測定された背景強度を含むダークレベルデータ、および前記光源の光の強度を含む光モニタリングデータのうちのいずれかである。
【0014】
一態様では、ワークピースの膜厚を光学的に測定する光学的膜厚測定装置であって、光を発する光源と、前記光源から発せられた光を前記ワークピースに照射し、前記ワークピースからの反射光を受ける光学センサヘッドと、前記ワークピースからの反射光のスペクトル測定データと、プリセットスペクトルデータとに基づいて、前記ワークピースの膜厚を決定する処理システムを備え、前記処理システムは、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータのうちの1つである基準スペクトルデータを決定し、前記ワークピースの研磨前に、最新のプリセットスペクトルデータを作成し、前記基準スペクトルデータと前記最新のプリセットスペクトルデータとの差を算定し、前記差がしきい値よりも大きいときに前記最新のプリセットスペクトルデータに異常があると判定するように構成されている、光学的膜厚測定装置が提供される。
【0015】
一態様では、前記差は、ユークリッド距離である。
一態様では、前記処理システムは、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、前記複数のグループのうちの1つに属する複数の正常プリセットスペクトルデータの中から選択された1つである前記基準スペクトルデータを決定するように構成されている。
一態様では、前記処理システムは、前記過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータを正規化して、複数の正規化されたプリセットスペクトルデータを作成し、前記最新のプリセットスペクトルデータを正規化して、最新の正規化されたプリセットスペクトルデータを作成するように構成されている。
一態様では、前記過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータおよび前記最新のプリセットスペクトルデータのそれぞれは、前記ワークピースからの反射光の強度の基準となる基準強度を含むベース強度データ、光を遮断した条件下で測定された背景強度を含むダークレベルデータ、および前記光源の光の強度を含む光モニタリングデータのうちのいずれかである。
【発明の効果】
【0016】
オートエンコーダは、複数の正常なプリセットスペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルである。より具体的には、プリセットスペクトルデータがオートエンコーダに入力されたときに、オートエンコーダは入力されたプリセットスペクトルデータと実質的に同じデータを出力するように機械学習が行われる。異常なプリセットスペクトルデータがオートエンコーダに入力されると、オートエンコーダは、入力されたプリセットスペクトルデータとは大きく異なるデータを出力する。したがって、入力されたプリセットスペクトルデータと、出力データとの差(再構成誤差ともいう)がしきい値よりも大きいときは、入力されたプリセットスペクトルデータに異常があると判定することができる。
【0017】
同様に、予め定められた基準スペクトルデータと最新のプリセットスペクトルデータとの差がしきい値よりも大きいときは、最新のプリセットスペクトルデータに異常があると判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】光学式膜厚測定装置の詳細な構成の一実施形態を示す断面図である。
【
図3】スペクトル測定データの一例を示すグラフである。
【
図4】ベース強度データの一例を表すスペクトルである。
【
図5】ダークレベルデータの一例を表すスペクトルである。
【
図6】相対反射率データの一例を表すスペクトルである。
【
図7】オートエンコーダの一例を示す模式図である。
【
図8】正常なプリセットスペクトルデータとしてのベース強度データがオートエンコーダに入力されたときの一例を示す図である。
【
図9】異常なプリセットスペクトルデータとしてのベース強度データがオートエンコーダに入力されたときの一例を示す図である。
【
図10】オートエンコーダを用いてベース強度データに異常があるか否かを定期的に判定した結果の一例を示すグラフである。
【
図11】プリセットスペクトルデータの異常を検出する一実施形態を説明するフローチャートである。
【
図12】クラスタリングにより複数のプリセットスペクトルデータが3つのグループに分けられた例を示す図である。
【
図13】光学式膜厚測定装置の他の実施形態を備えた研磨装置の模式図である。
【
図14】プリセットスペクトルデータの異常を検出する他の実施形態を説明するフローチャートである。
【
図15】
図15(a)は、正規化される前の複数のプリセットスペクトルデータの一例を示すグラフであり、
図15(b)は、正規化された後の複数のプリセットスペクトルデータの一例を示すグラフである。
【
図16】
図16(a)は、正規化される前の基準スペクトルデータと最新のプリセットスペクトルデータとの差を定期的に算定した結果を示すグラフであり、
図16(b)は、正規化された後の基準スペクトルデータと最新のプリセットスペクトルデータとの差を定期的に算定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、研磨装置の一実施形態を示す模式図である。
図1に示すように、研磨装置は、研磨パッド2を支持する研磨テーブル3と、膜を有するワークピースWを研磨パッド2に押し付ける研磨ヘッド1と、研磨テーブル3を回転させるテーブルモータ6と、研磨パッド2上にスラリーなどの研磨液を供給するための研磨液供給ノズル5と、研磨装置の動作を制御するための動作制御部9を備えている。研磨パッド2の上面は、ワークピースWを研磨する研磨面2aを構成する。ワークピースWの例としては、半導体デバイスの製造に使用されるウェーハ、基板(円形基板、多角形基板)、パネルなどが挙げられる。
【0020】
研磨ヘッド1はヘッドシャフト10に連結されており、ヘッドシャフト10は図示しない研磨ヘッドモータに連結されている。研磨ヘッドモータは、研磨ヘッド1をヘッドシャフト10とともに矢印で示す方向に回転させる。研磨テーブル3はテーブルモータ6に連結されており、テーブルモータ6は研磨テーブル3および研磨パッド2を矢印で示す方向に回転させるように構成されている。研磨ヘッド1、研磨ヘッドモータ、研磨液供給ノズル5、およびテーブルモータ6は動作制御部9に接続されている。
【0021】
ワークピースWは次のようにして研磨される。研磨テーブル3および研磨ヘッド1を
図1の矢印で示す方向に回転させながら、研磨液供給ノズル5から研磨液が研磨テーブル3上の研磨パッド2の研磨面2aに供給される。ワークピースWは研磨ヘッド1によって回転されながら、研磨パッド2上に研磨液が存在した状態でワークピースWは研磨ヘッド1によって研磨パッド2の研磨面2aに押し付けられる。ワークピースWの表面は、研磨液の化学的作用と、研磨液に含まれる砥粒および研磨パッド2の機械的作用により研磨される。
【0022】
動作制御部9は、プログラムが格納された記憶装置9aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する処理装置9bを備えている。動作制御部9は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。記憶装置9aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。処理装置9bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、動作制御部9の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0023】
研磨装置は、ワークピースWの膜の厚さを測定する光学式膜厚測定装置20を備えている。光学式膜厚測定装置20は、光を発する光源22と、光源22の光をワークピースWに照射し、ワークピースWからの反射光を受ける光学センサヘッド25と、光学センサヘッド25に連結された分光器27と、ワークピースWからの反射光に基づいてワークピースWの膜の厚さを決定する処理システム30を備えている。光学センサヘッド25は、研磨テーブル3内に配置されており、研磨テーブル3とともに回転する。図示しないが、分光器27および光源22に接続された複数の光学センサヘッド25が設けられてもよい。
【0024】
処理システム30は、プログラムが格納された記憶装置30aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置30bを備えている。処理システム30は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。記憶装置30aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置30bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、処理システム30の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0025】
動作制御部9および処理システム30のそれぞれは、複数のコンピュータから構成されてもよい。例えば、動作制御部9および処理システム30のそれぞれは、エッジサーバおよびクラウドサーバの組み合わせから構成されてもよい。一実施形態では、動作制御部9および処理システム30は、1台のコンピュータから構成されてもよい。
【0026】
図2は、光学式膜厚測定装置20の詳細な構成の一実施形態を示す断面図である。光学式膜厚測定装置20は、光を発する光源22と、光源22に連結された投光光ファイバーケーブル31と、分光器27に連結された受光光ファイバーケーブル32を備えている。投光光ファイバーケーブル31の先端31aおよび受光光ファイバーケーブル32の先端32aは、光学センサヘッド25を構成している。すなわち、投光光ファイバーケーブル31は、光源22の光を研磨パッド2上のワークピースWに導き、受光光ファイバーケーブル32はワークピースWからの反射光を受け、分光器27に伝達する。
【0027】
分光器27は処理システム30に接続されている。投光光ファイバーケーブル31、受光光ファイバーケーブル32、光源22、および分光器27は研磨テーブル3に取り付けられており、研磨テーブル3および研磨パッド2とともに一体に回転する。投光光ファイバーケーブル31の先端31aおよび受光光ファイバーケーブル32の先端32aから構成される光学センサヘッド25は、研磨パッド2上のワークピースWの表面に対向して配置されている。光学センサヘッド25の位置は、研磨テーブル3および研磨パッド2が一回転するたびに研磨パッド2上のワークピースWの表面を横切る位置である。研磨パッド2は、光学センサヘッド25の上方に位置した通孔2bを有している。光学センサヘッド25は、研磨テーブル3が一回転するたびに光を通孔2bを通じてワークピースWに照射し、かつワークピースWからの反射光を通孔2bを通じて受ける。
【0028】
光源22は、短い時間間隔で繰り返し発光するフラッシュ光源である。光源22の例としては、キセノンフラッシュランプが挙げられる。光源22は、動作制御部9に電気的に接続されており、動作制御部9から送られるトリガー信号を受けて発光する。より具体的には、光学センサヘッド25が研磨パッド2上のワークピースWの表面を横切る間、光源22は複数のトリガー信号を受けて複数回発光する。したがって、研磨テーブル3が一回転するたびに、ワークピースW上の複数の測定点に光が照射される。
【0029】
光源22によって発せられた光は、投光光ファイバーケーブル31を通って光学センサヘッド25に伝達され、光学センサヘッド25から放射される。光は、研磨パッド2の通孔2bを通って研磨パッド2上のワークピースWに入射する。ワークピースWから反射した光は、研磨パッド2の通孔2bを再び通過し、光学センサヘッド25によって受けられる。ワークピースWからの反射光は、受光光ファイバーケーブル32を通って分光器27に伝達される。
【0030】
分光器27は、光を波長に従って分解し、各波長での反射光の強度を所定の波長範囲に亘って測定するように構成される。すなわち、分光器27は、ワークピースWからの反射光を波長に従って分解し、各波長での反射光の強度を所定の波長範囲に亘って測定して、スペクトル測定データを生成する。スペクトル測定データは、処理システム30に送られる。
【0031】
図3は、スペクトル測定データの一例を示すグラフである。
図3において、縦軸はワークピースWからの反射光の強度を表し、横軸は反射光の波長を表す。
図3に示すように、スペクトル測定データは、光の波長と強度との関係を示すスペクトル(分光波形)として表すことができる。
【0032】
処理システム30は、ワークピースWからの反射光のスペクトル測定データと、以下に説明するプリセットスペクトルデータに基づいて、ワークピースWの膜厚を決定するように構成されている。より具体的には、処理システム30は、スペクトル測定データとプリセットスペクトルデータから相対反射率データを生成し、相対反射率データに基づいてワークピースWの膜厚を決定する。相対反射率データは、複数の波長において算定された複数の相対反射率を含むデータである。相対反射率とは、反射光の強度を示す指標値であり、光の強度と基準強度との比である。各波長において光の強度(実測強度)を所定の基準強度で割ることにより、装置の光学系や光源固有の強度のばらつきなどの不要なノイズが実測強度から除去される。
【0033】
処理システム30は、相対反射率データR(λ)を算定するための以下の算定式(1)を記憶装置30a内に格納している。相対反射率データR(λ)は、次の算定式(1)を用いて算定される。
【数1】
ここで、λは波長であり、E(λ)はワークピースWから反射した光の波長λでの強度を表すスペクトル測定データであり、B(λ)は波長λでの基準強度を表すベース強度データであり、D(λ)は光を遮断した条件下で測定された波長λでの背景強度(ダークレベル)を表すダークレベルデータである。波長λは、所定の波長範囲内の波長である。ワークピースWの膜厚を決定するのに使用されるプリセットスペクトルデータは、上記算定式(1)に含まれるベース強度データB(λ)とダークレベルデータD(λ)を少なくとも含む。
【0034】
ベース強度データB(λ)は、上記所定の波長範囲に亘って測定された光の基準強度のデータである。例えば、ベース強度データB(λ)は、光学センサヘッド25から発せられた光の強度を所定の波長範囲に亘って直接測定するか、または光学センサヘッド25から鏡に光を照射し、鏡からの反射光の強度を分光器27によって所定の波長範囲に亘って測定することによって得られる。あるいは、ベース強度データB(λ)は、膜が形成されていないシリコンウェーハ(ベアウェーハ)を研磨パッド2上で水の存在下で水研磨しているとき、または上記シリコンウェーハ(ベアウェーハ)が研磨パッド2上に置かれているときにシリコンウェーハからの反射光の強度を分光器27により所定の波長範囲に亘って測定することによって得られる。
【0035】
ダークレベルデータD(λ)は、光を遮断した条件下で上記所定の波長範囲に亘って分光器27によって測定された背景強度(ダークレベル)のデータである。ダークレベルデータD(λ)を測定するための光が遮断された環境は、分光器27に内蔵されたシャッター(図示せず)で光を遮ることにより作り出すことができる。
【0036】
ベース強度データB(λ)およびダークレベルデータD(λ)は、光強度と波長との関係を示すスペクトルとして表すことができる。
図4は、ベース強度データB(λ)の一例を表すスペクトルであり、
図5は、ダークレベルデータD(λ)の一例を表すスペクトルである。さらに、
図6は、相対反射率データR(λ)の一例を表すスペクトルである。
【0037】
スペクトル測定データE(λ)はワークピースWの研磨中に生成される。ベース強度データB(λ)およびダークレベルデータD(λ)は、ワークピースWが研磨される前に生成される。例えば、研磨装置がアイドリング状態のとき、あるいは研磨パッドが新たな研磨パッドに交換された直後にベース強度データB(λ)およびダークレベルデータD(λ)が生成される。
【0038】
上記式(1)から分かるように、相対反射率は各波長において算出される。具体的には、各波長での光の実測強度からダークレベルを引き算して補正実測強度を求め、さらに対応する基準強度から上記ダークレベルを引き算して補正基準強度を求め、そして、補正実測強度を補正基準強度で割り算することにより、相対反射率が求められる。
【0039】
処理システム30は、ワークピースWからの反射光の強度の実測データであるスペクトル測定データE(λ)と、予め用意されたベース強度データB(λ)とダークレベルデータD(λ)から、上記算定式(1)を用いて相対反射率データR(λ)を算定し、相対反射率データR(λ)に基づいてワークピースWの膜厚を決定する。
【0040】
相対反射率データR(λ)に基づいてワークピースWの膜厚を決定する方法には、公知の技術が用いられる。例えば、処理システム30は、相対反射率データR(λ)のスペクトルに最も形状が近い参照スペクトルを参照スペクトルライブラリの中から決定し、この決定された参照スペクトルに関連付けられた膜厚を決定する。他の例では、処理システム30は、相対反射率データR(λ)のスペクトルに対してフーリエ変換を実行し、得られた周波数スペクトルから膜厚を決定する。
【0041】
処理システム30は、プリセットスペクトルデータであるベース強度データB(λ)およびダークレベルデータD(λ)に異常があるいか否かを自動的に検出する機能を有する。ベース強度データB(λ)およびダークレベルデータD(λ)の異常は、光源22の不具合、投光光ファイバーケーブル31の不具合、受光光ファイバーケーブル32の不具合などの光学式膜厚測定装置20の不具合に起因して起こることがある。ベース強度データB(λ)およびダークレベルデータD(λ)に異常があると、処理システム30は、ワークピースWの正確な膜厚を決定することができない。
【0042】
そこで、本実施形態では、処理システム30は、プリセットスペクトルデータであるベース強度データB(λ)およびダークレベルデータD(λ)に異常があるいか否かを定期的に検出するように構成されている。より具体的には、処理システム30は、プリセットスペクトルデータ(ベース強度データB(λ)またはダークレベルデータD(λ))をオートエンコーダに入力し、オートエンコーダから出力された出力データとの差を算定する。
【0043】
オートエンコーダは、複数の正常なプリセットスペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルである。より具体的には、正常なプリセットスペクトルデータがオートエンコーダに入力されたときに、オートエンコーダは入力された正常なプリセットスペクトルデータと実質的に同じデータを出力するようにオートエンコーダの機械学習が行われる。したがって、異常なプリセットスペクトルデータがオートエンコーダに入力されると、オートエンコーダは、入力されたプリセットスペクトルデータとは大きく異なるデータを出力する。
【0044】
処理システム30は、入力されたプリセットスペクトルデータと、出力データとの差(再構成誤差ともいう)がしきい値よりも大きいときは、入力されたプリセットスペクトルデータに異常があると判定するように構成されている。
【0045】
図7は、オートエンコーダの一例を示す模式図である。オートエンコーダは、入力されたプリセットスペクトルデータの特徴量を抽出するエンコーダ41と、抽出した特徴量から、入力されたプリセットスペクトルデータを再構築するデコーダ42を有している。
【0046】
図8は、正常なプリセットスペクトルデータとしてのベース強度データB(λ)がオートエンコーダに入力されたときの一例を示す図である。オートエンコーダは、複数の正常なプリセットスペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルであるので、
図8に示すように、正常なベース強度データB(λ)がオートエンコーダに入力されたときは、オートエンコーダは、入力されたベース強度データB(λ)と実質的に同じ出力データを出力する。したがって、入力されたベース強度データB(λ)と出力データとの差(再構成誤差)は小さい。
【0047】
図9は、異常なプリセットスペクトルデータとしてのベース強度データB(λ)がオートエンコーダに入力されたときの一例を示す図である。
図9に示すように、異常なベース強度データB(λ)がオートエンコーダに入力されたときは、オートエンコーダは、入力されたベース強度データB(λ)と大きく異なる出力データを出力する。したがって、入力されたベース強度データB(λ)と出力データとの差(再構成誤差)は大きい。
【0048】
図10は、オートエンコーダを用いてベース強度データB(λ)に異常があるか否かを定期的に判定した結果の一例を示すグラフである。
図10において、縦軸は入力されたベース強度データB(λ)と出力データとの差(再構成誤差)を表し、横軸は時間を表している。時間T1~T4、T6~T7では、差はしきい値よりも小さいが、時間T5では、差はしきい値よりも大きい。処理システム30は、入力されたベース強度データB(λ)と、出力データとの差がしきい値よりも大きいときは、入力されたベース強度データB(λ)に異常があると判定する。
【0049】
同様にして、処理システム30は、ダークレベルデータD(λ)に異常があるか否かをオートエンコーダを用いて判定することができる。ワークピースの正確な膜厚測定を保証するために、処理システム30は、オートエンコーダを用いてベース強度データB(λ)およびダークレベルデータD(λ)に異常があるか否かを定期的に判定するように構成されている。
【0050】
ベース強度データB(λ)およびダークレベルデータD(λ)に対応して複数のオートエンコーダが設けられてもよく、あるいはベース強度データB(λ)およびダークレベルデータD(λ)に対して共通のオートエンコーダが設けられてもよい。
【0051】
図11は、プリセットスペクトルデータの異常を検出する一実施形態を説明するフローチャートである。
ステップ101では、分光器27は、ワークピースWの研磨前にプリセットスペクトルデータを作成する。プリセットスペクトルデータは、ベース強度データB(λ)またはダークレベルデータD(λ)である。
ステップ102では、処理システム30は、プリセットスペクトルデータを、学習済みモデルであるオートエンコーダに入力する。
ステップ103では、処理システム30は、オートエンコーダに入力されたプリセットスペクトルデータと、オートエンコーダから出力された出力データとの差を算定する。
ステップ104では、処理システム30は、差がしきい値よりも大きいか否かを判定する。
ステップ105では、処理システム30は、差がしきい値よりも大きいときはプリセットスペクトルデータに異常があると判定する。
ステップ106では、差がしきい値よりも小さいときは、ワークピースWが研磨される。
【0052】
オートエンコーダの機械学習に使用される訓練データは、過去の研磨、実験などで得られた多数のプリセットスペクトルデータのうちの正常なプリセットスペクトルデータを含む。正常なプリセットスペクトルデータは、光学式膜厚測定装置20が正常に機能しているとき(すなわち、光源22、光ファイバーケーブル31,32などに不具合がないとき)に取得されたデータである。過去に取得された膨大な数のプリセットスペクトルデータには、異常なプリセットスペクトルデータ(すなわち、光学式膜厚測定装置20に不具合があるときに取得されたプリセットスペクトルデータ)が含まれることがある。
【0053】
そこで、一実施形態では、処理システム30は、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、複数のグループのうちの1つに属する複数の正常プリセットスペクトルデータを含む訓練データを作成し、訓練データを用いて機械学習を実行して学習済みモデルであるオートエンコーダを構築するように構成されている。
【0054】
クラスタリングはクラスター分析とも呼ばれ、クラスタリングのアルゴリズムは、複数のプリセットスペクトルデータを、ある特徴に基づいて分類する人工知能のアルゴリズムの一種である。処理システム30の記憶装置30aには、複数のプリセットスペクトルデータを、クラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分けるためのプログラムが格納されている。処理システム30の演算装置30bは、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行することによって複数のプリセットスペクトルデータを複数のグループに分ける。
【0055】
図12は、複数のプリセットスペクトルデータがクラスタリングにより3つのグループに分けられる様子を示す図である。
図12に示す例では、処理システム30は、正常プリセットスペクトルデータのグループである第2グループに含まれるプリセットスペクトルデータを訓練データとして用いて機械学習を実行する。クラスタリングは、過去に取得された膨大な数のプリセットスペクトルデータを、正常なプリセットスペクトルデータと異常なプリセットスペクトルデータに速やかに分けることができる。
図12に示す例では、複数のプリセットスペクトルデータは3つのグループに分けられているが、2つのグループ、または4つ以上のグループに分けられることもある。
【0056】
次に、光学式膜厚測定装置20の他の実施形態について
図13を参照して説明する。
図13は、光学式膜厚測定装置20の他の実施形態を備えた研磨装置の模式図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1乃至
図12を参照して説明した上記実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0057】
本実施形態では、プリセットスペクトルデータは、上述したベース強度データおよびダークレベルデータに加えて、以下に説明する光モニタリングデータを含む。光モニタリングデータは、光源22の光量の経時的な低下を監視するためのデータであり、ベース強度データおよびダークレベルデータと同様に、ワークピースWの膜厚の測定に使用される。
【0058】
本実施形態の光学式膜厚測定装置20は、光源22から発せられた光を、投光光ファイバーケーブル31および受光光ファイバーケーブル32をバイパスして分光器27に直接導くバイパス光ファイバーケーブル72と、分光器27を受光光ファイバーケーブル32またはバイパス光ファイバーケーブル72のいずれかに選択的に連結させる光路選択装置70を備えている。受光光ファイバーケーブル32は、光路選択装置70に接続されている。バイパス光ファイバーケーブル72の一端は光源22に接続されており、バイパス光ファイバーケーブル72の他端は光路選択装置70に接続されている。光路選択装置70は、分光器27に光学的に接続されている。
【0059】
光路選択装置70が受光光ファイバーケーブル32を分光器27に光学的に接続すると、ワークピースWからの反射光は受光光ファイバーケーブル32および光路選択装置70を通って分光器27に導かれる。光路選択装置70がバイパス光ファイバーケーブル72を分光器27に光学的に接続すると、光源22によって発せられた光は、投光光ファイバーケーブル31および受光光ファイバーケーブル32を通らずに、バイパス光ファイバーケーブル72および光路選択装置70を通って分光器27に導かれる。光路選択装置70の動作は処理システム30によって制御される。光路選択装置70の例としては、光スイッチ、光シャッタが挙げられる。
【0060】
上述したように、光学式膜厚測定装置20は、光源22の光をワークピースWに導き、ワークピースWからの反射光を解析することによってワークピースWの膜厚を決定する。しかしながら、光源22の光量は、光源22の使用時間とともに徐々に低下する。結果として、真の膜厚と、測定された膜厚との間の誤差が大きくなってしまう。そこで、本実施形態では、光学式膜厚測定装置は、バイパス光ファイバーケーブル72を通じて分光器27に導かれた光源22の光の強度を含む光モニタリングデータに基づいて、ワークピースWからの反射光の強度を補正し、光源22の光量の低下を補償するように構成されている。
【0061】
処理システム30は、上記算定式(1)に代えて、次の算定式(2)を用いて補正された相対反射率データR'(λ)を算出する。
【数2】
ここで、E(λ)はワークピースWから反射した光の波長λでの強度を表すスペクトル測定データであり、B(λ)は波長λでの基準強度を表すベース強度データであり、D1(λ)はベース強度データB(λ)を測定する直前または直後に光を遮断した条件下で測定された波長λでの背景強度(ダークレベル)を表すダークレベルデータであり、F(λ)はベース強度データB(λ)を測定する直前または直後にバイパス光ファイバーケーブル72を通じて分光器27に導かれた光源22の光の波長λでの強度を表す光モニタリングデータであり、D2(λ)は光モニタリングデータF(λ)を測定する直前または直後に光を遮断した条件下で測定された波長λでの背景強度(ダークレベル)を表すダークレベルデータであり、G(λ)はスペクトル測定データE(λ)を測定する前にバイパス光ファイバーケーブル72を通じて分光器27に導かれた光源22の光の波長λでの強度を表す光モニタリングデータであり、D3(λ)はスペクトル測定データE(λ)を測定する前であって、かつ光モニタリングデータG(λ)を測定する直前または直後に光を遮断した条件下で測定された波長λでの背景強度(ダークレベル)を表すダークレベルデータである。
【0062】
波長λは、所定の波長範囲内の波長である。E(λ)、B(λ)、D1(λ)、F(λ)、D2(λ)、G(λ)、D3(λ)は、上記所定の波長範囲に亘って測定されたデータである。ダークレベルデータD1(λ)、D2(λ)、D3(λ)は、上述した実施形態におけるダークレベルデータD(λ)と同様にして測定される。ダークレベルデータD1(λ)、D2(λ)、D3(λ)を測定するための光が遮断された環境は、分光器27に内蔵されたシャッター(図示せず)で光を遮ることにより作り出すことができる。
【0063】
処理システム30は、上記算定式(2)を記憶装置30a内に予め格納している。ベース強度データB(λ)、ダークレベルデータD1(λ)、光モニタリングデータF(λ)、ダークレベルデータD2(λ)は、ワークピースWの研磨前に予め測定され、定数として上記算定式(2)に予め入力される。スペクトル測定データE(λ)はワークピースWの研磨中に測定される。光モニタリングデータG(λ)およびダークレベルデータD3(λ)はワークピースWの研磨前(好ましくはワークピースWの研磨直前)に測定される。
【0064】
光モニタリングデータF(λ),G(λ)は、ワークピースWが研磨される前に測定される。具体的には、処理システム30は、光路選択装置70を操作して、バイパス光ファイバーケーブル72を分光器27に接続し、光源22の光をバイパス光ファイバーケーブル72を通じて分光器27に導く。分光器27は、所定の波長範囲に亘って光源22の光の強度を測定し、光モニタリングデータF(λ),G(λ)を生成する。分光器27は、光モニタリングデータF(λ),G(λ)を処理システム30に送る。
【0065】
処理システム30は、光モニタリングデータおよびダークレベルデータを上記算定式(2)に入力する。処理システム30は、光路選択装置70を操作して受光光ファイバーケーブル32を分光器27に接続する。その後、ワークピースWが研磨され、ワークピースWの研磨中にスペクトル測定データE(λ)が分光器27によって測定される。
【0066】
処理システム30は、ワークピースWの研磨中に、スペクトル測定データE(λ)の測定値を上記算定式(2)に入力し、相対反射率データR'(λ)を算出する。より具体的には、処理システム30は、相対反射率を所定の波長範囲において算出する。処理システム30は、相対反射率データR'(λ)に基づいて、ワークピースWの膜厚を決定する。相対反射率データR'(λ)は、補正された光の強度に基づいて作成されるので、処理システム30は、ワークピースWの正確な膜厚を決定することができる。
【0067】
本実施形態によれば、ワークピースWの研磨前にバイパス光ファイバーケーブル72を通じて分光器27に導かれた光源22の光の光モニタリングデータG(λ)に基づいて、ワークピースWからの反射光が補正される。よって、処理システム30は、ワークピースWの正確な膜厚を決定することができる。
【0068】
光モニタリングデータG(λ)およびダークレベルデータD3(λ)は、ワークピースが研磨されるたびに測定されてもよいし、または所定枚数のワークピース(例えば25枚のワークピース)が研磨されるたびに測定されてもよい。
【0069】
ベース強度データB(λ)、ダークレベルデータD1(λ)、光モニタリングデータF(λ)、ダークレベルデータD2(λ)、光モニタリングデータG(λ)、およびダークレベルデータD3(λ)は、ワークピースWの研磨前に測定されるプリセットスペクトルデータである。処理システム30は、
図7乃至
図10を参照して説明した上記実施形態と同様にして、ベース強度データB(λ)、ダークレベルデータD1(λ)、光モニタリングデータF(λ)、ダークレベルデータD2(λ)、光モニタリングデータG(λ)、およびダークレベルデータD3(λ)に異常があるか否かを、オートエンコーダを用いて判定するように構成されている。
【0070】
ベース強度データB(λ)、ダークレベルデータD1(λ)、光モニタリングデータF(λ)、ダークレベルデータD2(λ)、光モニタリングデータG(λ)、およびダークレベルデータD3(λ)に対応する複数のオートエンコーダが設けられてもよく、あるいは共通のオートエンコーダが設けられてもよい。
【0071】
本実施形態のプリセットスペクトルデータの異常検出は、
図11を参照して説明したフローチャートと同様にして実行されるので、その重複する説明を省略する。
【0072】
図12を参照して説明したクラスタリングを用いた訓練データの作成は、本実施形態にも適用することができる。
【0073】
次に、プリセットスペクトルデータの異常検出方法の他の実施形態について説明する。本実施形態に使用される光学式膜厚測定装置20の構成および動作は、
図1および
図2を参照して説明した上記実施形態、または
図13を参照して説明した上記実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0074】
本実施形態では、処理システム30は、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータのうちの1つである基準スペクトルデータを決定し、ワークピースの研磨前に、最新のプリセットスペクトルデータを作成し、基準スペクトルデータと最新のプリセットスペクトルデータとの差を算定し、差がしきい値よりも大きいときに最新のプリセットスペクトルデータに異常があると判定するように構成されている。
【0075】
プリセットスペクトルデータは、
図1乃至
図12を参照して説明した実施形態でのベース強度データB(λ)、ダークレベルデータD(λ)、および
図13を参照して説明した実施形態でのベース強度データB(λ)、ダークレベルデータD1(λ)、光モニタリングデータF(λ)、ダークレベルデータD2(λ)、光モニタリングデータG(λ)、およびダークレベルデータD3(λ)を含む。
【0076】
基準スペクトルデータを決定するために準備された、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータは、過去の研磨、実験などで得られた複数のプリセットスペクトルデータである。基準スペクトルデータは、光学式膜厚測定装置20が正常に機能しているとき(すなわち、光源22、光ファイバーケーブル31,32などに不具合がないとき)に取得された正常なプリセットスペクトルデータである。処理システム30は、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータから1つの正常なプリセットスペクトルデータを選択し、選択した正常なプリセットスペクトルデータである基準スペクトルデータを決定する。基準スペクトルデータは記憶装置30aに格納される。
【0077】
処理システム30は、ワークピースWの研磨前に、最新のプリセットスペクトルデータを作成する。最新のプリセットスペクトルデータの作成は、上述した実施形態と同じようにして行われる。例えば、光の基準強度のデータであるベース強度データは、光学センサヘッド25から発せられた光の強度を所定の波長範囲に亘って直接測定するか、または光学センサヘッド25から鏡に光を照射し、鏡からの反射光の強度を分光器27によって所定の波長範囲に亘って測定することによって得られる。あるいは、ベース強度データは、膜が形成されていないシリコンウェーハ(ベアウェーハ)を研磨パッド2上で水の存在下で水研磨しているとき、または上記シリコンウェーハ(ベアウェーハ)が研磨パッド2上に置かれているときにシリコンウェーハからの反射光の強度を分光器27により所定の波長範囲に亘って測定することによって得られる。ダークレベルデータおよび光モニタリングデータも、上述した実施形態と同様にして生成することができるので、その重複する説明を省略する。
【0078】
処理システム30は、基準スペクトルデータと最新のプリセットスペクトルデータ(例えば、最新のベース強度データ、最新のダークレベルデータ、または最新の光モニタリングデータ)との差を算定する。本実施形態では、処理システム30は、基準スペクトルデータと最新のプリセットスペクトルデータとの差として、ユークリッド距離を算定する。
【0079】
予め定められた基準スペクトルデータと最新のプリセットスペクトルデータとの差がしきい値よりも小さいときは、最新のプリセットスペクトルデータは正常であると判定できる。これに対して、予め定められた基準スペクトルデータと最新のプリセットスペクトルデータとの差がしきい値よりも大きいときは、最新のプリセットスペクトルデータに異常があると判定することができる。
【0080】
図14は、プリセットスペクトルデータの異常を検出する一実施形態を説明するフローチャートである。
ステップ201では、処理システム30は、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータのうちの1つである基準スペクトルデータを決定する。基準スペクトルデータは、光学式膜厚測定装置20に不具合がないときに生成されたプリセットスペクトルデータである。
ステップ202では、分光器27は、ワークピースWの研磨前に最新のプリセットスペクトルデータを作成する。最新のプリセットスペクトルデータは、最新のベース強度データまたは最新のダークレベルデータまたは最新の光モニタリングデータである。
ステップ203では、処理システム30は、基準スペクトルデータと、最新のプリセットスペクトルデータとの差を算定する。
ステップ204では、処理システム30は、差がしきい値よりも大きいか否かを判定する。
ステップ205では、処理システム30は、差がしきい値よりも大きいときは最新のプリセットスペクトルデータに異常があると判定する。
ステップ206では、差がしきい値よりも小さいときは、ワークピースWが研磨される。
【0081】
図12を参照して説明したクラスタリングは、本実施形態にも適用することができる。すなわち、処理システム30は、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、複数のグループのうちの1つに属する複数の正常プリセットスペクトルデータの中から1つの正常プリセットスペクトルデータを選択し、選択された正常プリセットスペクトルデータである基準スペクトルデータを決定するように構成されてもよい。クラスタリングは、過去に取得された膨大な数のプリセットスペクトルデータを、正常なプリセットスペクトルデータと異常なプリセットスペクトルデータに速やかに分けることができる。
【0082】
一実施形態では、処理システム30は、過去に取得された複数のプリセットスペクトルデータを正規化して、複数の正規化されたプリセットスペクトルデータを作成し、複数の正規化されたプリセットスペクトルデータから基準スペクトルデータを選択するように構成されてもよい。さらに、処理システム30は、最新のプリセットスペクトルデータを正規化して、最新の正規化されたプリセットスペクトルデータを作成するように構成されてもよい。
【0083】
図15(a)は、正規化される前の複数のプリセットスペクトルデータの一例を示すグラフであり、
図15(b)は、正規化された後の複数のプリセットスペクトルデータの一例を示すグラフである。
図15(a)と
図15(b)との対比から分かるように、正規化は、プリセットスペクトルデータのレベルのばらつきを小さくすることができる。
【0084】
図16(a)は、正規化される前の基準スペクトルデータと最新のプリセットスペクトルデータとの差を定期的に算定した結果を示すグラフであり、
図16(b)は、正規化された後の基準スペクトルデータと最新のプリセットスペクトルデータとの差を定期的に算定した結果を示すグラフである。
図16(a)および
図16(b)において、縦軸は基準スペクトルデータと最新のプリセットスペクトルデータとの差(ユークリッド距離)を表し、横軸は時間を表している。
【0085】
図16(a)と
図16(b)との対比から分かるように、プリセットスペクトルデータの正規化は、基準スペクトルデータと最新のプリセットスペクトルデータとの差のばらつきを小さくすることができる。結果として、処理システム30は、差としきい値との比較に基づいて、最新のプリセットスペクトルデータ(例えば、ベース強度データ、またはダークレベルデータ、または光モニタリングデータ)に異常があるか否かを正しく判定することができる。
【0086】
今まで説明した実施形態では、1つの光学センサヘッド25が設けられているが、本発明は上記実施形態に限定されず、複数の光学センサヘッド25が研磨テーブル3内に設けられてもよい。例えば、研磨テーブル3の回転に伴って複数の光学センサヘッド25がワークピースWの異なる部位(例えば中心領域とエッジ領域)を横切るように複数の光学センサヘッド25が配置されてもよい。
【0087】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0088】
1 研磨ヘッド
2 研磨パッド
2a 研磨面
3 研磨テーブル
5 研磨液供給ノズル
6 テーブルモータ
9 動作制御部
10 ヘッドシャフト
20 光学式膜厚測定装置
22 光源
25 光学センサヘッド
27 分光器
30 処理システム
31 投光光ファイバーケーブル
32 受光光ファイバーケーブル
41 エンコーダ
42 デコーダ
70 光路選択装置
72 バイパス光ファイバーケーブル
W ワークピース