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特開2024-106602粒子計測装置、粒子計測方法、反射率基準サンプル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106602
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】粒子計測装置、粒子計測方法、反射率基準サンプル
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/08 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
G01B11/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010959
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安齋 由美子
(72)【発明者】
【氏名】峯邑 浩行
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA26
2F065AA59
2F065BB07
2F065BB17
2F065CC31
2F065EE01
2F065FF52
2F065FF61
2F065GG06
2F065GG22
2F065HH13
2F065LL04
2F065QQ29
(57)【要約】
【課題】本発明は、光を用いて液体サンプル内に含まれる粒子のサイズを計測するに際して、様々な理由で変化する感度に対応することができる技術を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る粒子計測装置は、基準サンプルを用いて、サンプルに含まれる粒子のサイズを校正し、前記基準サンプルは、サンプル容器窓と同じ材質および厚さを有する基準サンプル窓を備えるとともに、反射率がサンプルと同程度の物質を備え、異なる2時点において計測した前記物質の反射率を用いて、サンプルサイズを校正する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体のサンプルに含まれる粒子のサイズを計測する粒子計測装置であって、
光を出射する光源、
前記光源からの光を信号光と参照光に分岐する分岐部、
前記信号光を集光して前記サンプルに対して照射する照射部、
前記粒子からの反射光と前記参照光を干渉させることにより得られる干渉信号を検出する検出部、
前記検出部が検出した前記干渉信号を用いて前記サンプルのサイズを計測するとともに、基準サンプルの計測結果を用いて前記サイズを校正する、処理部、
を備え、
前記基準サンプルは、前記サンプルを収容するサンプル容器が備えるサンプル容器窓と同じ材質および厚さを有する基準サンプル窓を備え、
前記基準サンプルは、前記サンプルの反射率との間の差分が許容範囲内である反射率を有する物質を、前記基準サンプル窓と接する位置に備え、
前記処理部は、第1時点において前記物質の反射率を計測した結果を第1反射率として取得し、
前記処理部は、前記第1時点よりも前記サンプルを計測する時点に近い第2時点において前記物質の反射率を計測した結果を第2反射率として取得し、
前記処理部は、前記第1反射率と前記第2反射率を用いて、前記サンプルのサイズを校正する
ことを特徴とする粒子計測装置。
【請求項2】
前記照射部は、前記光の焦点位置が前記基準サンプル窓と前記物質との間の境界面となるように前記光を照射し、
前記処理部は、前記基準サンプル窓と前記物質との間の境界面から得られる前記干渉信号を用いて、前記第1反射率と前記第2反射率をそれぞれ取得する
ことを特徴とする請求項1記載の粒子計測装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記第1反射率に対する前記第2反射率の比率を、感度係数として計算し、
前記処理部は、前記干渉信号を用いて計測した前記サンプルのサイズに対して前記感度係数を乗算することにより、前記サンプルのサイズを校正する
ことを特徴とする請求項1記載の粒子計測装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記感度係数が所定範囲外である場合は、その旨を表す信号を出力する
ことを特徴とする請求項3記載の粒子計測装置。
【請求項5】
前記光源は、前記サンプルのサイズを計測するときと、前記物質の反射率を計測するときいずれにおいても、同じ出射パワーを有する前記光を出射し、
前記処理部は、前記同じ出射パワーを有する前記光によって得られる前記干渉信号を用いて、前記サンプルのサイズ、前記第1反射率、前記第2反射率をそれぞれ取得する
ことを特徴とする請求項1記載の粒子計測装置。
【請求項6】
前記粒子計測装置はさらに、前記サンプル容器を載置するプレートと、前記プレート上に載置された前記サンプル容器を覆うフレームとを備え、
前記基準サンプルは、前記プレート上の前記フレーム外の位置に、前記プレートに対して固定することができるように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の粒子計測装置。
【請求項7】
前記照射部は、前記光の焦点位置が前記サンプル容器窓と前記液体との間の境界面となるように前記光を照射し、
前記処理部は、前記サンプル容器窓と前記液体との間の境界面から得られる前記干渉信号の大きさをサンプル干渉信号値として取得し、
前記処理部は、前記基準サンプル窓と前記物質との間の境界面から得られる前記干渉信号の大きさを基準サンプル干渉信号値として取得し、
前記処理部は、前記サンプル干渉信号値と前記基準サンプル干渉信号値を用いて、前記液体の屈折率を計算する
ことを特徴とする請求項2記載の粒子計測装置。
【請求項8】
前記物質は紫外線硬化樹脂であることを特徴とする請求項1記載の粒子計測装置。
【請求項9】
前記物質は、
1層の誘電体膜または2種以上の誘電体膜の多層構造、
誘電体膜の上に金属膜を積層した構造、
のうち少なくともいずれかである
ことを特徴とする請求項1記載の粒子計測装置。
【請求項10】
前記基準サンプルを備えることを特徴とする請求項1記載の粒子計測装置。
【請求項11】
前記物質は、屈折率が1.47±0.03である
ことを特徴とする請求項10記載の粒子計測装置。
【請求項12】
液体のサンプルに含まれる粒子のサイズを計測する粒子計測方法であって、
光源から光を出射するステップ、
前記光源からの光を信号光と参照光に分岐するステップ、
前記信号光を集光して前記サンプルに対して照射するステップ、
前記粒子からの反射光と前記参照光を干渉させることにより得られる干渉信号を検出するステップ、
前記検出した前記干渉信号を用いて前記サンプルのサイズを計測するステップ、
基準サンプルを用いて前記サイズを校正するステップ、
を有し、
前記基準サンプルは、前記サンプルを収容するサンプル容器が備えるサンプル容器窓と同じ材質および厚さを有する基準サンプル窓を備え、
前記基準サンプルは、前記サンプルの反射率との間の差分が許容範囲内である反射率を有する物質を、前記基準サンプル窓と接する位置に備え、
前記校正するステップにおいては、第1時点において前記物質の反射率を計測した結果を第1反射率として取得し、
前記校正するステップにおいては、前記第1時点よりも前記サンプルを計測する時点に近い第2時点において前記物質の反射率を計測した結果を第2反射率として取得し、
前記校正するステップにおいては、前記第1反射率と前記第2反射率を用いて、前記サンプルのサイズを校正する
ことを特徴とする粒子計測方法。
【請求項13】
液体のサンプルに対して光を照射することにより前記サンプルに含まれる粒子のサイズを計測する粒子計測装置において前記サイズの計測結果を校正するために用いる基準サンプルであって、
前記基準サンプルは、前記粒子計測装置が備えるベースプレートによって形成され前記サンプルを収容するサンプル容器を保持するサンプルホルダに対して、脱着可能に構成されており、
前記基準サンプルは、前記サンプル容器が備えるサンプル容器窓と同じ材質および厚さを有する基準サンプル窓を備え、
前記基準サンプルは、前記サンプルの反射率との間の差分が許容範囲内である反射率を有する物質を、前記基準サンプル窓と接する位置に備え、
前記基準サンプル窓は、前記基準サンプルの底部に配置された透明平板上に形成されており、
前記透明平板の厚さが175±70μmの範囲にあり、かつ前記透明平板の屈折率が1.520±0.22の範囲にある
ことを特徴とする基準サンプル。
【請求項14】
前記透明平板のいずれかの面上には、前記基準サンプルを識別するID情報を表す形状パターンが形成されている
ことを特徴とする請求項13記載の基準サンプル。
【請求項15】
前記物質は、屈折率が1.47±0.03である
ことを特徴とする請求項13記載の基準サンプル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体サンプル内に含まれる粒子のサイズを計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の開発対象は低分子薬からバイオ医薬品へシフトしつつある。バイオ医薬品は高分子であるがゆえに凝集しやすく、凝集すると毒性を生じる場合がある。例えばアメリカ食品医薬品局等は、凝集体の濃度管理規制を強めようとしている。そこで0.1~1umのサブミクロン領域における凝集体について、所望密度のサイズ分布を定量的に計測する技術が必要とされている。タンパク質の凝集体は溶媒中に浮遊し、ブラウン運動によって位置が時間とともに変化している。以下本発明では、タンパク質の凝集体およびポリスチレンビーズ等の標準粒子のサイズと密度の計測技術について記述する。これらの被検物を総称して『粒子』に統一して記述する。
【0003】
特許文献1は、光計測を用いて粒子を検出する技術について記載している。同文献は、『光を集光して光スポットを生成し、前記光スポットのサイズの略3倍以下の被検物を計測する光計測方法であって、少なくとも前記光の焦点位置を光軸方向に動かしながら前記被検物に対して照射することにより前記被検物から反射される反射光を検出する信号取得ステップ、前記反射光の強度と前記被検物のサイズとの間の対応関係を記述した対応関係データを取得するステップ、前記反射光の強度を用いて前記対応関係データを照会することにより前記被検物のサイズを取得するサイズ算出ステップ、を有することを特徴とする光計測方法。』について開示している(請求項1)。同文献記載の技術は、反射光と参照光を干渉させて信号増強することにより、前処理が不要で、高分解能な計測を実現することができる。
【0004】
特許文献2は、対物レンズを物理的に走査するとともに、信号光と干渉光の干渉を位相条件の異なる4つの検出器で受光することにより、タイムドメインOCT(Optical Coherence Tomography)におけるミラーの走査による参照光の位相調整を不要とする技術を開示している。さらに特許文献2は、特許文献1の技術に基づいて、液中でブラウン運動する粒子の運動の影響を受けないように、光スポットの走査を高速化する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-102032号公報
【特許文献2】WO2020/144754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~2記載の技術は、液体サンプル内の粒子から反射した信号光と参照光が干渉することによって生じる干渉信号を用いて、粒子サイズを計測する。実際の測定においては、環境温度変化、経時変化、対物レンズに付着した埃などによる、半導体レーザの波長ズレやレーザパワーの変動が発生し、これにより検出信号が変動することがある。それを抑えるために、粒子サイズが既知の標準ビーズを用いて、感度校正を実施する。
【0007】
しかしこの校正手順は、標準ビーズを準備するなどの手間がかかる。また標準ビーズからの光反射率と粒子からの光反射率との間の差異に起因して、標準ビーズに対してレーザ照射するときと粒子に対してレーザ照射するときとの間でレーザパワーを変更する必要があり、これにともなって感度係数が両者の間で異なる可能性がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、光を用いて液体サンプル内に含まれる粒子のサイズを計測するに際して、様々な理由で変化する感度に対応することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る粒子計測装置は、基準サンプルを用いて、サンプルに含まれる粒子のサイズを校正し、前記基準サンプルは、サンプル容器窓と同じ材質および厚さを有する基準サンプル窓を備えるとともに、反射率がサンプルと同程度の物質を備え、異なる2時点において計測した前記物質の反射率を用いて、サンプルサイズを校正する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る粒子計測方法によれば、光を用いて液体サンプル内に含まれる粒子のサイズを計測するに際して、様々な理由で変化する感度に対応することができる。上記した以外の課題、構成、効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】特許文献1および特許文献2の粒子サイズと反射光量の大きさの関係を説明する摸式図である。
図2】実施形態1に係る粒子計測装置の構成図である。
図3A】反射率基準サンプルを配置するフレームと金属プレートを説明する図である。
図3B】反射率基準サンプルを配置するフレームと金属プレートを説明する図である。
図4】反射率基準サンプル303と焦点位置を説明する側断面図である。
図5A】感度補正の定量化方法を示す模式図である。
図5B】感度補正の定量化方法を示す模式図である。
図6】Aの計測フローの1例を示す図である。
図7】Aの計測フローの1例を示す図である。
図8】Aの計測フローの別例を示す図である。
図9】Aを計測した後、続いて実サンプルを計測する計測フローの1例を示す図である。
図10】反射率基準サンプル303の配置を示す図である。
図11A】感度校正を実施して高精度なサイズ計測を実現するための透明平板402の厚さバラツキの仕様について示す計算結果である。
図11B図11Aと同様に透明平板402の屈折率とStrehl強度の関係を計算した結果を示す。
図12】反射率基準サンプル303のID情報を示す模式図である。
図13】ID情報を再生する計測フローの1例を示す図である。
図14A】計測対象の粒子と溶媒を含む実サンプルを入れた容器と、実サンプルの溶媒屈折率を計測する際のレーザ光の焦点位置の関係を示す摸式図である。
図14B図14Aに続いて焦点位置をサンプル内の所定の位置に移動して、サンプルに内包される粒子のサイズを計測する様子を示す。
図15A】実施形態2における反射率基準サンプル303の反射率を示す。
図15B】実施形態2の反射率基準サンプル303の別構成例における反射率を示す。
図16】反射率基準サンプル303の別構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<従来技術の課題>
図1は、特許文献1および特許文献2の粒子サイズと反射光量の大きさの関係を説明する摸式図である。特許文献1および特許文献2の技術は、溶媒中に分散している粒子のサイズを計測するために、粒子からの反射信号光と参照光の干渉を利用する。検出される反射光は、粒子のサイズとともに、その屈折率に応じて変化する。特許文献1および特許文献2に記載の技術では、光の干渉を利用して反射光の電場振幅を電圧に変換して検出信号を得ることができる。このとき、検出信号の大きさEsigは、粒子の屈折率n、溶媒の屈折率nを用いて、Fresnelの法則から、光源のコヒーレンス長が十分に長い場合、次式で表すことができる。Sはサンプルに照射する光の電場振幅、Rは参照光の電場振幅、σは上に示した粒子のサイズに応じた係数、ηは反射光と参照光の干渉効率および光検出器の高電変換の効率を示す定数、である。
【0013】
【数1】
【0014】
式1で表される検出信号を測定することによって粒子サイズの計測が可能になる。実際の測定においては、環境温度変化、経時変化、あるいは対物レンズに付着した埃などによる、半導体レーザの波長ズレやレーザパワーの変動が発生するので、検出信号が変動することがある。それを抑えるために、以下の手順によって感度校正を実施する。
【0015】
(1)粒子サイズが既知のポリスチレン製標準ビーズを、適切な濃度に純水で希釈した標準サンプルを準備する。
(2)実際に計測したいサンプルの計測直前に、標準サンプルを計測する。
(3)標準サンプルの計測結果から、測定されたサイズと真のサイズとのズレがなくなるような感度補正係数を求め、その値を手動で入力する。
【0016】
上記校正手順は、標準ビーズの準備、正確な希釈、測定などのために煩雑な手間と膨大な時間が必要であり、ユーザ利便性の観点で課題がある。また、標準ビーズのロットによってサイズのバラツキがあることがあり、またビーズ希釈撹拌中にビーズが欠損することがあるので、正確な測定ができない場合があるという課題があった。さらに、ポリスチレンからなる標準ビーズは溶媒である純水との屈折率差が大きいので反射率が大きく、計測レーザパワーを比較的低めに設定する必要があるのに対して、例えばタンパク質粒子を計測する場合には、タンパク質粒子と溶媒との屈折率差が小さいので反射率が小さく、計測レーザパワーを比較的高めに設定しなければならない。この両者の間のレーザパワーの違いによりレーザ温度の違いが生じて、レーザ波長が両者で異なる可能性がある。この波長のズレによって感度係数が両者で異なる可能性があり、正確な感度補正にあたって課題となる。
【0017】
<本発明の基本原理>
(感度定量化)
本発明は上記の課題を解決するために、計測対象である粒子から得られる信号光と同等な反射信号を有する平面をもつ反射率基準サンプルを用いて感度校正をすることとした。具体的には、式1に対して感度係数Kを導入した次式によって粒子を計測する。
【0018】
【数2】
【0019】
感度係数Kは次式で定義される。Aは本発明の粒子計測装置出荷時に計測した反射率基準サンプルの反射率である。Aは、実際に計測したいサンプルの計測直前に、反射率基準サンプルを計測したときの反射率である。
【0020】
【数3】
【0021】
粒子計測毎あるいは所定の条件毎にこの反射率基準サンプルを計測すれば、感度係数Kによって、より簡便な方法で感度を補正することが可能となる。
【0022】
(基準サンプル)
反射率基準サンプルは、粒子を計測するためのサンプル容器の光入射面のガラス窓と同じ材質および同じ厚さを有するガラス窓を有し、このガラス窓に接して、計測サンプルの反射率と略等しい反射率を境界面に有する物質を形成した構造を有する。これによって、反射率基準サンプルと計測サンプルの計測条件を同一とすることができる。特に、サンプル計測時と基準サンプル計測時のレーザパワーを同一とすることにより、反射光と参照光の干渉効率を同一とすることができるので、より正確な感度補正が可能となる。
【0023】
反射率基準サンプルの1例として、透明平板に接して屈折率1.47±0.03の樹脂を形成した。これにより、透明平板と樹脂との間の屈折率差が、タンパク質粒子と溶媒との間の屈折率差と同程度になり、反射率基準サンプルの反射率と溶媒中のタンパク質粒子の反射率が略等しくなるので、タンパク質粒子計測用の反射率基準サンプルとして用いることができる。ここでいう略等しいとは、計測結果の誤差が許容範囲内に収まる程度のことを意味する。換言すると、透明平板に対して接する物質(ここでは樹脂)の反射率と、サンプルの反射率との間の差分が、計測誤差の観点から許容範囲内に収まることが必要である。
【0024】
反射率基準サンプルの別例として、後述するように透明平板に接して誘電体膜を形成した。計測対象粒子が金属粒子の場合、溶媒中の金属粒子の反射率は、その材料や材質等によって0.01%から数%の値まで変わり得る。誘電体膜の材料と膜厚、さらに誘電体膜の上に形成する金属膜の材料と膜厚を選ぶことによって、所定の反射率になるよう設計でき、様々な粒子に対応することが可能となる。
【0025】
<実施の形態1>
以下、本発明の実施形態の記載においては図に記載したように、光軸方向をz軸にとる座標系に統一して説明を進める。また、測定対象とする粒子のサイズは、体積が等しい球の直径として扱う。
【0026】
図2は、本発明の実施形態1に係る粒子計測装置の構成図である。高周波重畳や出射パワー制御を実施するレーザドライバ101により発光状態を制御された光源100から出射したレーザ光は、コリメートレンズ102によって平行光に変換され、光学軸が水平方向に対して約22.5度に設定されたλ/2板103によって偏光方位を調整された後、偏光ビームスプリッタ104によって信号光と参照光とに分離される。
【0027】
参照光は、λ/4板105によって円偏光状態に変換された後、参照光ミラー106によって反射され、λ/4板105によって往路とは偏光が90度回転した偏光状態となり、偏光ビームスプリッタ104で反射される。信号光は、XY方向の複合偏向素子107により進行方向が偏向されたのち、内蔵されたλ/4板の作用により円偏光状態に変換され、対物レンズ108によってサンプル204内で焦点を結ぶ。
【0028】
サンプルをZ軸方向に移動する駆動機構109は、信号光の焦点位置をZ軸方向(光軸方向)に沿って走査する機能を有する。サンプル204から反射した信号光の成分は、XY方向の複合偏向素子107によって、往路と同じ方向に偏向されるとともに、内蔵されたλ/4板の作用により円、往路とは偏光が90度回転した偏光状態になり、偏光ビームスプリッタ104を透過する。
【0029】
サンプル容器200は、ウェル内にサンプル204を保持するとともに、透明窓202を介して信号光をサンプル内に導く。203はサンプル容器のウェルを形成する樹脂部材である。金属プレート201は透明窓202と接触して、機械的にサンプル容器200を保持するとともに、サンプルの温度の安定化を担う。
【0030】
信号光と参照光は、偏光ビームスプリッタ104によって合波され、検出光学系112に導かれ、ピンホール111を介してハーフビームスプリッタ113によって透過光と反射光に分岐される。
【0031】
反射光は、光学軸が水平方向に対して約45度に設定されたλ/4板114を通過した後、集光レンズ115によって集光されるとともに偏光ビームスプリッタ116によって2分岐され、それぞれ光検出器150、151で光電変換され、電流差動アンプ152により差動増幅され検出信号123となる。
【0032】
透過光は、光学軸が水平方向に対して約22.5度に設定されたλ/2板118を透過した後、集光レンズ119によって集光されるとともに偏光ビームスプリッタ120によって2分岐され、それぞれ光検出器153、154で光電変換され、電流差動アンプ155によって差動増幅され検出信号122となる。
【0033】
検出光学系112はホモダイン位相ダイバーシティ法を構成しており、検出信号122、および123は信号処理部124で処理される。信号処理部124(処理部)は、情報保持部125に保持された情報に基づき感度補正を実施し、補正を含む算出結果を表示部126において表示してユーザに提示する。情報保持部125に保持された情報、およびそれに基づく感度補正については後述する。
【0034】
(境界面の反射率測定)
図3A図3Bは、反射率基準サンプルを配置するフレームと金属プレートを説明する図である。図において、反射率基準サンプル303はフレーム302に対して挿入し、金属プレート201の面に接触するようにして配置する。この時、反射率基準サンプル303は他のサンプル容器304と一緒にフレーム302に配置してもよい。反射率基準サンプル303を他のサンプル容器304と一緒にフレーム302に配置した場合、両者を一連のフローでまとめて計測することが可能となる。
【0035】
図4は、反射率基準サンプル303と焦点位置を説明する側断面図である。反射率基準サンプル303は、透明平板402と容器403と透明平板402に接する物質404からなり、金属プレート201に接触して配置する。対物レンズ108で集光された光400は測定用の窓405を透過して、透明平板402と物質404との間の境界面に対して照射される。境界面と対物レンズ108との間の相対位置を調整することによって、対物レンズ108の焦点位置と境界面を一致させて、境界面からの反射率を取得する。さらに、参照光ミラー106の位置を調整して、境界面からの反射率が最大となるように光路長を調整する。
【0036】
(感度定量化)
図5A図5Bは、感度補正の定量化方法を示す模式図である。まず、装置に備え付けた反射率基準サンプル303の透明平板402と、透明平板402に接する物質404との間の境界面からの反射率(A)を、上記の方法によって装置出荷時に計測し、情報保持部125にその情報を保持する。次に、実サンプルの計測時に、同様にして反射率基準サンプル303の透明平板402と、透明平板402に接する物質404との間の境界面からの反射率(A)を計測し、情報保持部125にその情報を保持する。AおよびAの値から感度係数Kを求めることができ、式2によって検出信号の補正が可能となる。
【0037】
図5においては、A>Aの場合を示した。これを引き起こす要因としては、環境温度変化や経時変化による半導体レーザの波長ズレやレーザパワーの変動、対物レンズを含む光学素子に付着した埃、光学素子自身の経時変化などによって光学特性が変化し出力信号が低下すること、などが考えられる。上記の感度補正の定量化方法を用いることによって、これらの要因が計測結果に与える影響をきわめて小さくすることが可能となる。
【0038】
(計測フロー)
図6は、Aの計測フローの1例を示す図である。本フローチャートは、信号処理部124によって実施することができる。以下のフローチャートも同様である。信号光の集光位置を反射率基準サンプル303の平面位置に移動させ、光源100を標準パワーPで発光させる。境界面のZ軸方向位置Z0と参照光ミラー106の位置Rをそれぞれ初期化する。透明窓405の周辺においてZ0を走査しながら信号を計測することにより、Z0を決定する。決定したZ0においてRを走査しながら信号を計測することにより、信号光と参照光それぞれの光路長が一致するミラー位置R0を決定する。この時点で得られる信号レベルをAとして情報保持部125へ格納する。
【0039】
とAは同じ光出射パワーを用いて計測するので、ここでは標準パワーを用いることとした。標準パワーを用いるのは、計測結果の信号レベルが飽和しないことを意図したものである。この飽和しない信号レベルが得られる条件の下で、サンプルの反射率と、反射率基準サンプル303の反射率とが、略同一(両者の間の差異が計測精度の観点から許容範囲内)であることが必要である。
【0040】
図7は、Aの計測フローの1例を示す図である。A図6と同様に計測することができる。信号処理部124は、図6図7によって得られたAおよびAから感度係数Kを計算する。
【0041】
図8は、Aの計測フローの別例を示す図である。図7のフローに加えて、感度係数Kに所定の値を設定し、AおよびAから求められる感度係数Kが所定値の範囲外になった場合に、感度異常処理を実行することができる。例えば信号処理部124は、感度係数Kが所定範囲外である旨の信号やメッセージを出力することにより、ユーザに対してその旨を通知することができる。
【0042】
図9は、Aを計測した後、続いて実サンプルを計測する計測フローの1例を示す図である。実サンプルを計測する際に、Z0とR0については反射率基準サンプルと同様に決定することができる。焦点位置をZ0から所定の測定位置Zへ移動させ、所定の走査条件にしたがって焦点を走査しながら、検出信号を処理する。感度係数Kに基づいて実サンプルの計測結果を校正する。以上の処理により、実サンプルの粒子サイズと密度分布を計算し、その結果を表示部126上で表示する。
【0043】
(反射率基準サンプルの配置)
図10は、反射率基準サンプル303の配置を示す図である。図3において、反射率基準サンプル303を他のサンプル容器304と一緒にフレーム302内に配置した例を示したが、他の位置に配置することもできる。例えば、金属プレート201を保持している、金属プレート201よりも大きいサンプルステージ1001の一部に、図4に示す構造を持つ反射率基準サンプル303を配置することができる。このとき、金属プレート201とは別の金属プレート1002に接するように、フレーム302の外側に反射率基準サンプル303を配置することができる。別の金属プレート1002は、金属プレート201とは別のものを用いてもよいし、金属プレート201と一体になったものを用いてもよい。
【0044】
反射率基準サンプル303をフレーム302の外側に配置すると、フレーム302内のすべての位置に計測したいサンプルを配置することができるので、計測できるサンプル数を最大化することができる。また、この配置によって、フレーム302の外側に配置した反射率基準サンプル303をユーザが取り外せないような構成にすることが可能である。これによって、反射率基準サンプル303を配置し忘れる、配置位置を間違うなどのヒューマンエラーを避けることができる。例えばユーザが見えないところに反射率基準サンプル303をおくことが考えられる。反射率基準サンプル303は、着脱可能に構成してもよいし、固定的に取り付けてもよい。
【0045】
(透明平板の厚み)
図11Aは、感度校正を実施して高精度なサイズ計測を実現するための透明平板402の厚さバラツキの仕様について示す計算結果である。粒子サイズ分布を高精度に計測するためには、サンプル容器の構成仕様と同様に、反射率基準サンプル303の構成においても所定の仕様を満足する必要がある。よく知られているように、透明平板402の厚さが所定の値からずれた場合、光学的には球面収差が発生する。検出信号への影響は、波面収差に基づくStrehl強度の低下として扱うことができる。透明平板402の厚さのズレによる検出信号(Strehl強度)の低下の様子を計算した。ここでは、光源100として波長785nmの半導体レーザを用い、対物レンズ108として開口数0.45の顕微鏡レンズ、透明平板402として厚さ175μmのホウケイ酸ガラス(屈折率実測値=1.520)を用いた場合の結果を示している。図に見られるように、検出信号の低下量を0.2%以下とするためには、透明平板402の厚さのバラツキは70μm以下が求められることがわかる。
【0046】
図11Bは、図11Aと同様に透明平板402の屈折率とStrehl強度の関係を計算した結果を示す。図にみられるように、透明平板402の屈折率の許容範囲は±0.22である。
【0047】
本発明の1例として、図4および後述する図12図16に示す反射率基準サンプル303は、図3に示したサンプル容器304と光学的に互換性がなければ正確な感度を取得することができない。具体的には、底部に形成された透明平板402は厚さが175±70μm、屈折率が1.520±0.22でなければならない。これを満たすことができる透明平板402の材質として光学品質のホウケイ酸ガラス基板を利用することができる。
【0048】
(ID情報)
図12は、反射率基準サンプル303のID情報を示す模式図である。反射率基準サンプル303にID情報を持たせることができる。具体的には、反射率基準サンプル303の持つ反射率に対応した情報を、透明平板402の金属プレート201と接する側の面内かつ透明窓405の内側1202において、容器開口部1203より外側となる場所に、バーコードなどの光学的に識別可能な形態で記録する。反射率に対応した情報としては、反射率の値そのものであってもよいし、値のレベル(高・中・低など)であってもよい。また、反射率の値もしくはレベルに紐づいた記号や情報などでもよい。記録の方法は、印刷や刻印など公知の手法によって行うことができる。
【0049】
透明平板402の金属プレート201と接する側の面内にレーザ光の焦点を合わせ、図のxy方向に走査することによって、ID情報1201を再生することができる。ID情報の再生を反射率基準サンプル303の計測前に実施することによって、そのサンプルが確実に反射率基準サンプルであることがわかるので、基準サンプルの取り違えなどのヒューマンエラーを避けることができる。
【0050】
ID情報としては反射率に対応した情報の他の情報を記録することも可能である。例えば、あらかじめ決めた特定の識別情報や基準サンプルのシリアル番号などである。これによって、基準サンプルの品質担保が可能となる。
【0051】
IDを記録する透明平板402の面として、金属プレート201と接する側の面でなくともよい。透明平板402にあらかじめID情報を形成しておき、ID情報が形成された面を容器側にして接着することにより、反射率基準サンプル303を製造すればよい。この場合においても、ID情報は透明窓405の内側かつ容器開口部1203の外側に形成する。
【0052】
図13は、ID情報を再生する計測フローの1例を示す図である。ID情報はAまたはAを計測する前に再生することができる。ここではAを計測する際に再生する例を示した。例えば境界面位置Z0とミラー位置Rを走査する前に、ID情報を再生することができる。
【0053】
ID情報は、正しい反射率基準サンプル303を使用しているか否かを事前チェックするために用いることができる。光出射パワーはサンプル種別ごとにあらかじめ決まっているので、光出射パワーを決定するとこれに対応するサンプル種別も決定したことになる。したがって、光出射パワーを決定した後、反射率を計測する前に、ID情報を再生するステップを実施することが望ましい。
【0054】
(機差その他)
反射率基準サンプル303を用いることによって、粒子計測装置に機差(レーザ波長、光学系、ディテクター感度などの微小な差異、など)があっても、同一サンプルに対してほぼ同一の結果を得ることができる。さらに、装置の故障診断にも利用することができる。具体的には感度係数Kがある数値範囲を逸脱した場合、レーザの経時変化による劣化、光学素子への埃等の付着、光学系のズレなどが考えられるので、信号処理部124が例えば表示部126上でアラートを出して、装置メンテナンスや修理を促すことができる。
【0055】
(溶媒屈折率測定)
図14Aは、計測対象の粒子と溶媒を含む実サンプルを入れた容器と、実サンプルの溶媒屈折率を計測する際のレーザ光の焦点位置の関係を示す摸式図である。反射率基準サンプル303は、実サンプルの溶媒の屈折率測定にも用いることができる。図において、1401はサンプル、1402はシーリングテープである。本発明は、溶媒の屈折率を測定するために、透明平板402とサンプルとの間の境界の反射率が、溶媒の屈折率に依存することを利用する。図示しないサンプルステージをZ方向に移動しながら、検出信号が最大となる条件を定めることにより、対物レンズ108の焦点はサンプル1401と透明平板402との間の境界に位置決めすることができる。このとき、Fresnelの式から、検出信号の大きさは式1で表すことができる。
【0056】
本発明において、透明平板402の材質を選択することにより、その屈折率は規定の値として用いることができる。同様に、サンプルに照射する光の電場振幅S,および参照光の電場振幅Rは、図示しない半導体レーザの出射パワー条件を一定とすることにより、定数値として扱うことができる。
【0057】
さらに、反射率基準サンプル303の界面に接する物質として屈折率nの物質をサンプルとして用いた場合の検出信号の大きさを計測しておき、その値をE0sigとする。E0sigは式4で表される。式1と式4より式5が導かれる。式5において、溶媒の屈折率n以外は、既知の値、もしくは計測値であるので、式5を用いて、溶媒の屈折率nを計測することが可能となる。
【0058】
【数4】
【0059】
【数5】
【0060】
図14Bは、図14Aに続いて焦点位置をサンプル内の所定の位置に移動して、サンプルに内包される粒子のサイズを計測する様子を示す。
【0061】
<実施の形態2>
(屈折率:誘電体膜)
図15Aは、本発明の実施形態2における反射率基準サンプル303の反射率を示す。実施形態2においては、図4の反射率基準サンプル303の透明平板402に接する物質として、誘電体膜を用いた。誘電体膜としてZnSSiOを用い、屈折率1.52のホウケイ酸ガラスからなる透明平板402上にスパッタリングによって形成した。誘電体膜を形成した反射率基準サンプルの反射率は、誘電体膜のレーザ光入射側の面からの反射とその奥側の面からの反射の干渉によって、誘電体膜の膜厚に応じて変化する。図15Aは本実施形態2で用いたZnSSiOの膜厚と反射率の関係を示す。
【0062】
図15Bは、実施形態2の反射率基準サンプル303の別構成例における反射率を示す。この構成例においては、透明平板402上に形成した誘電体膜ZnSSiOの上に、さらにスパッタリングによって金属膜としてAl100nm、Ag20nmをそれぞれ形成した。この構造の反射率基準サンプル303の反射率は、誘電体膜ZnSSiOの膜厚に対して図15Bのように変化する。
【0063】
以上のことより、反射率基準サンプル303として、(a)誘電体膜単体もしくは2種以上の誘電体膜による多層構造、(b)誘電体膜と金属膜を順に積層した構造、のいずれかとし、それぞれの膜厚を適切に選ぶことによって、反射率基準サンプル303の反射率を所定の値に設定することができる。図15B中に示したC、D付近は膜厚変動に対してマージンが広いことを意味する。所定の反射率値に対応する膜設計の際にこの点を用いると、成膜レートなど製作に対するマージンが広くなるので好ましい。
【0064】
計測対象粒子が光スポットサイズ以上の大きさである場合や、金属粒子の場合、その材料や材質等によって反射率は高くなる。その場合には、誘電体膜の材料と膜厚、および金属膜の材料と膜厚を選ぶことによって、対象の粒子反射率に対応した構成とすればよい。
【0065】
<実施の形態3>
本発明の実施形態3では、反射率基準サンプル303の具体例について説明する。粒子計測装置の構成および計測手順については実施形態1~2と同様である。
【0066】
(反射率基準サンプル1)
図4の反射率基準サンプル303の透明平板402に接する物質として、日本化薬株式会社製の紫外線硬化樹脂(DVD310)を用いた。境界面に泡が混入すると反射率信号に影響するので、それを避けるために、紫外線硬化樹脂を真空容器に入れ、10分間真空排気することによって脱泡処理を実施した。その後、容器403に樹脂を注入し、アイグラフィック製紫外線照射装置(ECS-201G1)により紫外線を約300mJ/cm2照射して樹脂を硬化させた。
【0067】
(屈折率:タンパク質用)
境界面からの反射率は2つの物質の屈折率差に比例する。例えば、サイズ分布を測定するサンプルとしてタンパク質粒子を対象とした場合、溶媒とタンパク質粒子の屈折率差は約0.06である。上記の紫外線硬化樹脂を用いた反射率基準サンプルにおいて、紫外線硬化樹脂DVD310の硬化後の屈折率は1.50であり、透明平板に屈折率1.52のホウケイ酸ガラスを用いた場合、両者の屈折率差は0.02となることから、タンパク質粒子からの反射率と界面反射率も同程度となる。
【0068】
これによって、タンパク質粒子のサイズ分布を計測するレーザパワー条件と同じ条件で反射率基準サンプル303を計測することができ、この条件での感度係数Kを取得することができる。レーザパワー条件の違いは感度係数の違いを引き起こす可能性があるが、本発明の方法によれば、この可能性を排除し、より正確な感度補正が可能であるので、粒子サイズを正確に計測することが可能となる。
【0069】
反射率基準サンプル303としては光学的な経時変化が少なく、長期間使用できるものが望ましい。
【0070】
反射率基準サンプル303の透明平板402に接する物質として、日本化薬製の紫外線硬化樹脂(DVD310)の代わりに、他の紫外線硬化樹脂を用いて、屈折率を変化させたサンプルを準備した。それぞれについて、感度係数Kを求めるための計測を実施したところ、そのレーザパワー条件は以下のようになった。
【0071】
n :レーザパワー条件
1.41:タンパク質粒子サンプル計測よりも低パワー
1.43:タンパク質粒子サンプル計測と略等しいパワー
1.48:タンパク質粒子サンプル計測と略等しいパワー
1.50:タンパク質粒子サンプル計測と略等しいパワー
1.52:タンパク質粒子サンプル計測よりも高パワー
【0072】
これらの結果より、反射率基準サンプル303の透明平板402に接する物質の屈折率は、1.43以上1.50以下が好ましい。
【0073】
図16は、反射率基準サンプル303の別構成例を示す。以上の実施形態では透明平板402に接する物質として、日本化薬製の紫外線硬化樹脂(DVD310)などを用いたが、この代わりに液体樹脂(顕微鏡用シリコーンオイルなど)を用いることができる。図16において、1601はその液体樹脂である。この場合、液体が漏れないようシーリングテープなどで封止する。
【0074】
(反射率基準サンプルの使い方)
複数個の実サンプルを計測する場合、反射率基準サンプル303は計測開始時に1回計測するだけでもよいし、複数個の実サンプル計測における個々の計測ごとに反射率基準サンプル303を計測してもよい。
【0075】
実サンプルの計測に必要な計測時間が比較的短い場合には、実サンプル計測中の環境温度やレーザの温度変化が比較的小さいので、計測開始時に反射率基準サンプルを1回計測して感度補正をしておけばよく、これによって計測に必要な全体の時間の短縮することができる。
【0076】
一方、実サンプルの計測に必要な計測時間が比較的長い場合には、計測中に環境温度やレーザの温度変化が生じる可能性があるので、複数個の実サンプル計測における個々の計測ごとに反射率基準サンプルを計測して感度補正を都度やり直した方が、より正確な計測を実施することができる。このとき、個々の計測ごとではなく、ある一定数の実サンプル計測ごとに、反射率基準サンプルを計測して感度補正を都度やり直してもよい。
【0077】
実サンプルの計測時間の長短は、測定者が決めることができる。この場合、過去に類似のサンプルを計測した時の計測時間を参考にしてもよい。ただし、未知のサンプルを複数個計測する場合には、感度補正を都度やり直す方法が好ましい。
【0078】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0079】
以上の実施形態において、反射率基準サンプル303は、粒子計測装置の構成要素として構成することもできるし、例えば粒子計測装置に対して脱着可能な別部材として構成することもできる。
【0080】
以上の実施形態において、対物レンズ108と駆動機構109は、サンプルに対して信号光を集光して照射する照射部としての役割を有し、検出光学系112は、信号光と干渉光が干渉することによって生じる干渉信号を検出する検出部としての役割を有することを付言しておく。
【符号の説明】
【0081】
100:光源
101:レーザドライバ
108:対物レンズ
109:駆動機構
112:検出光学系
124:信号処理部
200:サンプル容器
201:金属プレート
202:透明窓
303:反射率基準サンプル
402:透明平板
404:物質
1201:ID情報
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16