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特開2024-106682光ファイバ母材の製造方法および光ファイバの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106682
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】光ファイバ母材の製造方法および光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/012 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
C03B37/012 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011074
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武笠 和則
(72)【発明者】
【氏名】福尾 長延
(72)【発明者】
【氏名】相曽 景一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 脩悟
【テーマコード(参考)】
4G021
【Fターム(参考)】
4G021BA02
4G021BA03
4G021BA04
(57)【要約】
【課題】簡易な工程および装置にてガラス部材にアルカリ元素をドープすること。
【解決手段】光ファイバ母材の製造方法は、コア部を形成するコア部形成工程と、コア部の外周にクラッド部を形成するクラッド部形成工程と、を備え、コア部形成工程は、アルカリ元素がドープされた固体の第1部材と、アルカリ元素がドープされていない固体の第2部材とであって、一方が棒状であり、他方が一方を取り囲むことができる形状を有する第1部材と第2部材とを、互いに接触しないように、かつ他方が一方を取り囲むように配置する配置工程と、第1部材と第2部材とを互いに接触しない状態で加熱し、第1部材から第2部材へアルカリ元素を飛散させる熱処理工程と、を含み、クラッド部形成工程においては、熱処理工程によってアルカリ元素がドープされた第2部材をコア部の少なくとも一部として使用する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、前記コア部の外周を取り囲み前記コア部の最大屈折率よりも低い屈折率を有するクラッド部とを備える光ファイバ母材の製造方法であって、
前記コア部を形成するコア部形成工程と、
前記コア部の外周に前記クラッド部を形成するクラッド部形成工程と、
を備え、
前記コア部形成工程は、
アルカリ元素がドープされた固体の第1部材と、アルカリ元素がドープされていない固体の第2部材とであって、一方が棒状であり、他方が前記一方を取り囲むことができる形状を有する前記第1部材と前記第2部材とを、互いに接触しないように、かつ前記他方が前記一方を取り囲むように配置する配置工程と、
前記第1部材と前記第2部材とを互いに接触しない状態で加熱し、前記第1部材から前記第2部材へ前記アルカリ元素を飛散させる熱処理工程と、
を含み、
前記クラッド部形成工程においては、前記熱処理工程によって前記アルカリ元素がドープされた前記第2部材を前記コア部の少なくとも一部として使用する
光ファイバ母材の製造方法。
【請求項2】
前記第1部材と前記第2部材とがシリカ系ガラスからなる
請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項3】
前記第1部材がガラスの前駆体からなる
請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ元素はカリウムを含む
請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項5】
前記配置工程において、前記第1部材と前記第2部材とを、固定機構によって互いに接触しないように固定し、
前記熱処理工程において、前記第1部材と前記第2部材とが溶融しない温度で熱処理を行う
請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項6】
前記第2部材は、前記第1部材を取り囲むことができる形状を有し、
前記コア部形成工程は、前記アルカリ元素がドープされた前記第2部材をコラップスするコラップス工程を含む
請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項7】
前記コア部形成工程は、前記配置工程と前記熱処理工程との組を複数含み、
一つの前記第1部材を用いて前記配置工程と前記熱処理工程との複数の組を行う
請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一つに記載の光ファイバ母材の製造方法を行う光ファイバ母材製造工程と、
製造した前記光ファイバ母材から光ファイバを線引きする線引工程と、
を備える光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材の製造方法および光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスからなる光ファイバにおいて伝送損失を低減する技術として、コア部にアルカリ元素をドープする技術が知られている。コア部にアルカリ元素がドープされた光ファイバを製造するために、コア部にアルカリ元素がドープされた光ファイバ母材を製造する技術が開示されている(特許文献1~3)。特許文献1~3では、アルカリ元素を含む化合物を加熱してガスとし、そのガスをキャリアガスなどでガラス部材まで輸送し、当該ガラス部材に気相のアルカリ元素をドープしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005-537210号公報
【特許文献2】特表2007-513862号公報
【特許文献3】特表2007-516929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~3に開示されたいずれの技術も、ガラス部材にアルカリ元素をドープするための特殊な装置が必要であり、かつ工程が複雑であるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡易な工程および装置にてガラス部材にアルカリ元素をドープすることができる光ファイバ母材の製造方法および光ファイバの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、コア部と、前記コア部の外周を取り囲み前記コア部の最大屈折率よりも低い屈折率を有するクラッド部とを備える光ファイバ母材の製造方法であって、前記コア部を形成するコア部形成工程と、前記コア部の外周に前記クラッド部を形成するクラッド部形成工程と、を備え、前記コア部形成工程は、アルカリ元素がドープされた固体の第1部材と、アルカリ元素がドープされていない固体の第2部材とであって、一方が棒状であり、他方が前記一方を取り囲むことができる形状を有する前記第1部材と前記第2部材とを、互いに接触しないように、かつ前記他方が前記一方を取り囲むように配置する配置工程と、前記第1部材と前記第2部材とを互いに接触しない状態で加熱し、前記第1部材から前記第2部材へ前記アルカリ元素を飛散させる熱処理工程と、を含み、前記クラッド部形成工程においては、前記熱処理工程によって前記アルカリ元素がドープされた前記第2部材を前記コア部の少なくとも一部として使用する、光ファイバ母材の製造方法である。
【0007】
前記第1部材と前記第2部材とがシリカ系ガラスからなるものでもよい。
【0008】
前記アルカリ元素はカリウムを含んでもよい。
【0009】
前記配置工程において、前記第1部材と前記第2部材とを、固定機構によって互いに接触しないように固定し、前記熱処理工程において、前記第1部材と前記第2部材とが溶融しない温度で熱処理を行ってもよい。
【0010】
前記第2部材は、前記第1部材を取り囲むことができる形状を有し、前記コア部形成工程は、前記アルカリ元素がドープされた前記第2部材をコラップスするコラップス工程を含んでもよい。
【0011】
前記コア部形成工程は、前記配置工程と前記熱処理工程との組を複数含み、一つの前記第1部材を用いて前記配置工程と前記熱処理工程との複数の組を行ってもよい。
【0012】
本発明の一態様は、前記光ファイバ母材の製造方法を行う光ファイバ母材製造工程と、製造した前記光ファイバ母材から光ファイバを線引きする線引工程と、を備える、光ファイバの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれは、簡易な工程および装置にてガラス部材にアルカリ元素をドープすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態1に係る製造方法によって製造する光ファイバ母材の模式的な断面図である。
図2図2は、実施形態1に係る光ファイバ母材の製造方法のフロー図である。
図3図3は、準備工程、配置工程および熱処理工程について説明する図である。
図4図4は、コラップス工程について説明する図である。
図5図5は、実施形態2に係る光ファイバ母材の製造方法を説明する図である。
図6図6は、実施形態3に係る光ファイバの製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略している。また、本明細書においては、カットオフ波長または実効カットオフ波長とは、国際通信連合(ITU)のITU-T G.650.1で定義するケーブルカットオフ波長をいう。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはG.650.1およびG.650.2における定義、測定方法に従うものとする。
【0016】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る製造方法によって製造する光ファイバ母材の模式的な断面図である。光ファイバ母材100は、シリカ系ガラスのようなガラスからなるコア部101と、コア部101の最大屈折率よりも低い屈折率を有するシリカ系ガラスのようなガラスからなり、コア部101の外周を取り囲むクラッド部102とを備える。
【0017】
コア部101には、アルカリ元素がドープされている。アルカリ元素は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)などから選ばれた少なくとも一種を含む。また、コア部101には、ゲルマニウム(Ge)や、フッ素(Fe)や、塩素(Cl)や、アルミニウム(Al)などの、光ファイバに使用される他のドーパントが含まれていてもよい。
【0018】
図2は、実施形態1に係る光ファイバ母材の製造方法のフロー図である。実施形態1に係る光ファイバ母材の製造方法は、コア部形成工程とクラッド部形成工程とを備える。
【0019】
ステップS110では、コア部101を形成するコア部形成工程を実行する。ステップS120では、コア部101の外周を取り囲むようにクラッド部102を形成するクラッド部形成工程を実行する。これにより、光ファイバ母材100が製造される。
【0020】
コア部形成工程とクラッド部形成工程とについて具体的に説明する。コア部形成工程は、準備工程と、配置工程と、熱処理工程と、コラップス工程とを含む。
【0021】
図2図3、および図4を参照して準備工程、配置工程、熱処理工程、およびコラップス工程について説明する。ステップS101では、第1部材1と第2部材2とを準備する準備工程を実行する。
【0022】
第1部材1は、アルカリ元素がドープされた固体の部材であり、本実施形態では断面が円形の棒状である。第1部材1は、シリカ系ガラスのようなガラスからなる。また、第1部材1は、ゲルのように未焼結の材料からなっていてもよい。このような未焼結の材料は、ガラスの前駆体とも呼ばれる。第1部材1は、VAD(Vapor Axial Deposition)法やMCVD(Modified Chemical Vapor Deposition)法のような方法を用いて製造すれば、高純度のガラス部材とすることができる。また、第1部材1は、ゾルゲル法、サンド法、および押し出し成形法など、比較的複雑な工程や時間の掛かる工程が少ない方法で準備してもよい。第1部材1は、必ずしも高純度でなくてもよく、種々の不純物を含んでいてもよい。第1部材1は、第1部材と第2部材とのうち棒状である一方の一例である。
【0023】
第1部材1にアルカリ元素をドープする方法は、第1部材1をVAD法やMCVD法を用いて製造する場合は、気相法などを利用できる。一方、第1部材1をゾルゲル法、サンド法、または押し出し成形法などを用いて製造する場合は、原料にアルカリ元素を含む材料を混ぜればよい。
【0024】
第2部材2は、アルカリ元素がドープされていない固体の部材であり、本実施形態では、第1部材1を挿入できる内径を有する円管状である。第2部材2は、シリカ系ガラスのようなガラスからなる。第2部材2は、後にコア部となるので、高純度であることが好ましい。第2部材2は、VAD法やMCVD法のような方法を用いて製造することが好ましい。第2部材2は、第1部材と第2部材とのうち、一方を取り囲むことができる形状を有する他方の一例である。
【0025】
ステップS102では、第1部材1と第2部材2とを、互いに接触しないように、かつ第2部材2が第1部材1を取り囲むように配置する配置工程を実行する。
【0026】
本実施形態では、図3に示すように、第2部材2の孔2aに第1部材1を挿入して、第2部材2が第1部材1を取り囲むようにする。そして、この状態で、熱処理装置の把持機構11、12によって第1部材1の両端を把持して固定し、把持機構13、14によって第2部材2の両端を把持して固定し、互いに接触しないように固定する。把持機構11、12、13、14は固定機構の一例である。
【0027】
ステップS103では、第1部材1と第2部材2とを互いに接触しない状態で加熱し、加熱により第1部材1から第2部材2へアルカリ元素を飛散させる熱処理工程を実行する。
【0028】
本実施形態では、図3に示すように、熱処理装置が備える火炎のような熱源20を第1部材1および第2部材2の長手方向に沿って移動させて熱処理を行う。これにより、第1部材1が加熱されて第1部材1から第2部材2へアルカリ元素が飛散し、第2部材2にアルカリ元素がドープされる。
【0029】
熱処理の条件については、第1部材1および第2部材2が溶融変形しない温度および時間を設定する事が望ましい。たとえば第1部材1および第2部材2がシリカ系ガラスからなる場合は、温度は800℃から1,500℃であれば3時間以上の長時間でもよい。また、1,600℃以上の高温処理であれば、或る箇所を連続的に加熱する時間は1時間以下である方がよい。熱処理の雰囲気は特に限定はされないが、たとえば大気や不活性ガスである。
【0030】
また、把持機構11、12、13、14は、第1部材1および第2部材2の一方または両方を軸回りに回転可能に構成されていてもよい。このような回転により、熱処理を軸回りに均一に行うことが容易になる。また、第1部材1および第2部材2の一方または両方を軸回りに回転させる代わりに、熱源20を第2部材2の周りに回転させてもよい。
【0031】
また、第1部材1と第2部材2との距離は、近い方が第1部材1から第2部材2へアルカリ元素が飛散しやすいので、第2部材2のドープ量を多くできる。この点で、第1部材1と第2部材2との距離は、第1部材1の直径の3倍以下が好ましく、2倍以下がより好ましく、1.5倍以下がさらに好ましい。一方、第1部材1と第2部材2との距離が近すぎると、第1部材1および第2部材2の一方または両方が加熱により変形した場合に接触するおそれがあるので、或る程度の距離があることが好ましい。この点で、第1部材1と第2部材2との距離は、1.05倍以上が好ましい。
【0032】
ステップS104では、アルカリ元素がドープされた第2部材2をコラップスするコラップス工程を実行する。すなわち、本実施形態では第2部材2は円筒状なので、その孔2aを無くすようにコラップスすることが好ましい。
【0033】
本実施形態では、図4に示すように、火炎のような熱源20を、第2部材2にアルカリ元素がドープされた部材である第2部材3の長手方向に沿って移動させてコラップス工程を行う。これにより、第2部材3の孔3aが無くなり、棒状の第2部材4となる。
【0034】
つぎに、クラッド部形成工程について説明する。クラッド部形成工程においては、熱処理工程によってアルカリ元素がドープされ、さらにコラップス工程によって棒状にされた第2部材4をコア部101の少なくとも一部として使用する。本実施形態では、第2部材4をそのままコア部101として使用する。
【0035】
クラッド部形成工程においては、第2部材4に、公知のOVD(Outside Vapor Deposition)法やジャケット法を用いてクラッド部102を形成する。これにより、光ファイバ母材100が製造される。
【0036】
以上のような実施形態1によれば、準備工程と、配置工程と、熱処理工程と、コラップス工程とのような簡易な装置を用いた簡易な工程によって、コア部101にアルカリ元素がドープされた光ファイバ母材100を製造することができる。
【0037】
特に、実施形態1によれば、第1部材1と第2部材2とを互いに接触しない状態で加熱し、加熱により第1部材1から第2部材2へアルカリ元素を飛散させる。これにより、第1部材1と第2部材2とを互いに接触させた状態で加熱して第1部材1から第2部材2へアルカリ元素を拡散させる場合と比べて、拡散後に第1部材1と第2部材2とを分離する工程(たとえば穿孔法などの煩雑な工程)が不要になるので、工程が格段に簡易になる。また、第1部材1と第2部材2とが一体化している場合は、分離する工程において第2部材2の一部が削られるなどしてその一部が欠損するので、コア部101として使用できる第2部材2の量が減ってしまう。これに対して、実施形態1ではそのような欠損が生じないので、第2部材2を有効活用できる。また、第1部材1と第2部材2とが非接触であれば、第1部材1が鉄(Fe)のようなアルカリ元素よりも飛散や拡散がしにくい元素が含んでいても、接触している場合よりも第2部材2にドープされにくいので、第1部材1の純度があまり高くなくてもよい。これにより第1部材1を安価かつ簡易に準備できる。
【0038】
(実施形態2)
図1に示すような光ファイバ母材100の別の製造方法として、実施形態2に係る光ファイバ母材の製造方法を説明する。実施形態2は、図2に示す実施形態1のフローと同様のフローで実施できるが、準備する第1部材および第2部材が実施形態1の場合とは異なる。また、実施形態2では後述するようにコラップス工程は不要である。
【0039】
図5は、実施形態2に係る光ファイバ母材の製造方法を説明する図である。図5に示すように、実施形態2では、第1部材1Aと、第2部材2Aとを準備する。
【0040】
第1部材1Aは、アルカリ元素がドープされた固体の部材であり、本実施形態では、第2部材2Aを挿入できる内径を有する円管状である。第2部材2Aは、アルカリ元素がドープされていない固体の部材であり、本実施形態では断面が円形の棒状である。第1部材1Aは、第1部材と第2部材とのうち、一方を取り囲むことができる形状を有する他方の一例である。第2部材2Aは、第1部材と第2部材とのうち棒状である一方の一例である。
【0041】
第1部材1Aは、第1部材1と同様に、ガラスやガラスの前駆体からなるものである。第2部材2Aは、第1部材1と同様に、ガラスからなるものである。
【0042】
実施形態2では、第1部材1Aおよび第2部材2Aを準備する準備工程を実行した後、第1部材1Aと第2部材2Aとを、互いに接触しないように、かつ第1部材1Aが第2部材2Aを取り囲むように配置する配置工程を実行する。本実施形態では、図5に示すように、第1部材1Aの孔1Aaに第2部材2Aを挿入して、第1部材1Aが第2部材2Aを取り囲むようにする。そして、この状態で、把持機構11、12によって第2部材2Aの両端を把持して固定し、把持機構13、14によって第1部材1Aの両端を把持して固定し、互いに接触しないようにする。
【0043】
つづいて、熱源20にて、第1部材1Aと第2部材2Aとを互いに接触しない状態で加熱し、加熱により第1部材1Aから第2部材2Aへアルカリ元素を飛散させる熱処理工程を実行する。これにより、第1部材1Aが加熱されて第1部材1Aから第2部材2Aへアルカリ元素が飛散し、第2部材2Aにアルカリ元素がドープされる。
【0044】
つづいて、熱処理工程の際の熱処理の条件や雰囲気は、実施形態1の場合と同様でよい。また、第1部材1Aおよび第2部材2Aの一方または両方の軸回りの回転と、熱源20の回転とについても、実施形態1の場合と同様でよい。
【0045】
また、第1部材1Aと第2部材2Aとの距離についても、実施形態1の場合と同様に、第2部材2Aの直径の3倍以下、または2倍以下、さらには1.5倍以下が好ましく、1.05倍以上が好ましい。
【0046】
実施形態2では、熱処理工程によってアルカリ元素がドープされた第2部材2Aは棒状なので、コラップス工程を行うことなく、実施形態1と同様なクラッド部形成工程を実行して、光ファイバ母材100が製造される。
【0047】
以上のような実施形態2によれば、実施形態1よりもさらに簡易な装置を用いた簡易な工程によって、コア部101にアルカリ元素がドープされた光ファイバ母材100を製造することができる。
【0048】
(実施形態3)
実施形態3として、図1に示すような光ファイバ母材100を用いて光ファイバを製造する方法を説明する。図6は、実施形態3に係る光ファイバの製造方法のフロー図である。
【0049】
実施形態3では、ステップS201において、光ファイバ母材製造工程として、実施形態1または2に係る光ファイバ母材の製造方法を実行し、光ファイバ母材100を製造する。つづいて、ステップS202において、製造した光ファイバ母材100を線引きする線引工程を実行する。線引工程は、公知の線引き装置を用いて実行できる。
【0050】
以上のような実施形態3によれば、簡易な装置を用いた簡易な工程によって、コア部にアルカリ元素がドープされた光ファイバを製造することができる。
【0051】
(実施例、比較例)
実施例および比較例として、以下のように光ファイバ母材を製造し、さらにこの光ファイバ母材から光ファイバを製造した。
【0052】
第2部材として、VAD法を用いて高純度のシリカガラスからなるシリカガラス棒を製造した。第2部材にはClを500ppmだけドープした。第2部材の外径は35mmであり、長さは1,000mmであった。
【0053】
一方、円管状の第1部材を製造し、準備した。具体的には、円管状の容器にTEOS(テトラエトキシシラン)、エタノール、水、アンモニア、KSiOなどを入れて、ゾルゲル法を用いてKがドープされた円管状のシリカ乾燥ゲルを生成し、これを第1部材とした。第1部材中のKの濃度は、場所によって濃度分布が見られたが、平均で1,000ppmであった。また、第1部材の内径は40mm、外径は50mm、長さは800mmであった。
【0054】
つぎに、Kがドープされた第1部材を熱処理装置の把持チャックで把持し、固定した。つづいて、第2部材を第1部材の孔の中に挿入した後、熱処理装置の把持チャックで把持し、固定した。
【0055】
つぎに、第1部材および第2部材を軸回りに回転させながら、酸水素バーナの火炎で炙り、1,800℃程度の温度で熱処理を行った。このとき、酸水素バーナを第1部材の長手方向に移動させることで、第1部材および第2部材の同じ箇所を炙り続けないようにした。これにより、第1部材および第2部材の変形を防止した。
【0056】
ただし、酸水素バーナの長手方向での移動範囲を制限し、第1部材および第2部材に、長手方向において熱処理がされた部分(熱処理部)と熱処理がされていない部分(非熱処理部)が形成されるようにした。
【0057】
熱処理の後、第2部材を第1部材から抜き取り、第2部材の熱処理部の一部を切り取って分析した。すると、熱処理部には、その外周側にピークを有するような濃度分布でKがドープされていることを確認した。濃度のピーク値は300ppmであった。
【0058】
つぎに、第2部材にジャケット工程を施してクラッド部を形成して光ファイバ母材を製造した。さらに、光ファイバ母材から光ファイバを製造した。このように製造した光ファイバでは、線引き時の加熱によってKがコア部とクラッド部の内側領域とに拡散し、比較的均一な濃度になると考えられる。また、線引き時にはコア部とクラッド部の内側領域との仮想温度が下がるので、光ファイバの伝送損失が低減されると考えられる。
【0059】
そして、このように製造した光ファイバには、熱処理によってKがドープされた第2部材から製造されたKドープ部と、熱処理がされずにKがドープされなかった第2部材から製造されたK非ドープ部とが含まれる。そこで、Kドープ部の一部を切り出して実施例の光ファイバとし、K非ドープ部の一部を切り出して比較例の光ファイバとした。
【0060】
つぎに、実施例および比較例の各光ファイバの光学特性を測定した。その結果を表1に示す。表1において、「Aeff」は有効コア断面積を意味し、「λcc」はカットオフ波長を意味する。実施例の光ファイバと比較例の光ファイバとでは、同じ光ファイバ母材から製造したことにより比屈折率差やコア径は同じなので、有効コア断面積およびカットオフ波長は略同じ値であった。一方、実施例の光ファイバは、伝送損失が実施例の光ファイバよりも約0.02dB/kmだけ低かった。これは実施例の光ファイバではKが適正にドープされたためであると考えられる。
【表1】
【0061】
なお、上記実施形態では、熱源20を移動させて熱処理工程を行っているが、第1部材と第2部材とをオーブンのような熱処理装置に入れて、第1部材と第2部材とを全体的に加熱する熱処理工程を行ってもよい。
【0062】
また、上記実施形態において、コア部形成工程は、配置工程と熱処理工程との組を複数含み、一つの第1部材を用いて配置工程と熱処理工程との複数の組を行ってもよい。例えば、実施形態1において実行する、第1部材1と第2部材2とを用いた配置工程と熱処理工程とを第1の組とする。その後、まだ第1部材1に十分な濃度のアルカリ元素がドープされていれば、第1部材1と、第2部材2とは別の第2部材を準備し、これらを用いて第2の組である配置工程と熱処理工程とを行う。さらに、その後もまだ第1部材1に十分な濃度のアルカリ元素がドープされていれば、第1部材1と、さらに別の第2部材を準備し、これらを用いてさらなる組である配置工程と熱処理工程とを行ってもよい。これにより、第1部材1を有効活用し、アルカリ元素がドープされた複数の第2部材を製造できる。
【0063】
また、上記実施形態では、第2部材2や第1部材1Aは円管状であるが、形状はこれに限定はされない。たとえば、第2部材2や第1部材1Aは、複数の板状の部材を組み合わせて第1部材1や第2部材2Aを取り囲むことができる形状にしてもよい。また、実施形態1に係る光ファイバ母材の製造方法では、第2部材4をそのままコア部101として使用しているが、第2部材をコア部とクラッド部の一部ととして使用してもよい。
【0064】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1、1A :第1部材
1Aa、2a、3a :孔
2、2A、3、4 :第2部材
11、12、13、14 :把持機構
20 :熱源
100 :光ファイバ母材
101 :コア部
102 :クラッド部
図1
図2
図3
図4
図5
図6