(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106693
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】シアリルGalNAcが結合したMUC1を認識する抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240801BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240801BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240801BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240801BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240801BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240801BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61P35/00
A61K39/395 E
A61K39/395 T
G01N33/574 B
G01N33/53 V
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011092
(22)【出願日】2023-01-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(糖鎖利用による革新的創薬技術開発事業)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入村 達郎
(72)【発明者】
【氏名】永井(伝田) 香里
(72)【発明者】
【氏名】野地 美樹
(72)【発明者】
【氏名】千葉 靖典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】清水 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】安型 清彦
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085BB11
4C085CC21
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA28
4H045EA51
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シアリルGalNAcが結合したMUC1を認識する抗体を作製し、その機能を明らかにすること。
【解決手段】MUC1タンデムリピートのT5、S6、T10、S16及びT17から選ばれるアミノ酸残基の1残基~5残基にシアリルGalNAcが結合したMUC1を認識する抗体又はその機能的断片。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MUC1タンデムリピートのT5、S6、T10、S16及びT17から選ばれるアミノ酸残基の1残基~5残基にシアリルGalNAcが結合したMUC1を認識する抗体又はその機能的断片。
【請求項2】
MUC1タンデムリピートのアミノ酸配列が、AHGVTSAPDTRPAPGSTAPPAHGV(配列番号1)である、請求項1記載の抗体又はその機能的断片。
【請求項3】
次の(a)~(f)から選ばれるものである、請求項1又は2記載の抗体又はその機能性断片。
(a)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号2に示されるアミノ酸配列、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号3に示されるアミノ酸配列、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号4に示されるアミノ酸配列、又は配列番号4に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がYTSで示されるアミノ酸配列、又はYTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号6に示されるアミノ酸配列、又は配列番号6に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
(b)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号7に示されるアミノ酸配列、又は配列番号7に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号9に示されるアミノ酸配列、又は配列番号9に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号10に示されるアミノ酸配列、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がDTSで示されるアミノ酸配列、又はDTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号11に示されるアミノ酸配列、又は配列番号11に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
(c)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号12に示されるアミノ酸配列、又は配列番号12に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号13に示されるアミノ酸配列、又は配列番号13に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号14に示されるアミノ酸配列、又は配列番号14に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号15に示されるアミノ酸配列、又は配列番号15に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がDTSで示されるアミノ酸配列、又はDTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号16に示されるアミノ酸配列、又は配列番号16に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
(d)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号17に示されるアミノ酸配列、又は配列番号17に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号18に示されるアミノ酸配列、又は配列番号18に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号19に示されるアミノ酸配列、又は配列番号19に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号20に示されるアミノ酸配列、又は配列番号20に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がDTSで示されるアミノ酸配列、又はDTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号21に示されるアミノ酸配列、又は配列番号21に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであるモノクローナル抗体又は機能的断片。
(e)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号22に示されるアミノ酸配列、又は配列番号22に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号23に示されるアミノ酸配列、又は配列番号23に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号24に示されるアミノ酸配列、又は配列番号24に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号25に示されるアミノ酸配列、又は配列番号25に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がDTSで示されるアミノ酸配列、又はDTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号26に示されるアミノ酸配列、又は配列番号26に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
(f)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号27に示されるアミノ酸配列、又は配列番号27に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号28に示されるアミノ酸配列、又は配列番号28に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号29に示されるアミノ酸配列、又は配列番号29に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号30に示されるアミノ酸配列、又は配列番号30に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がSTSで示されるアミノ酸配列、又はSTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号31に示されるアミノ酸配列、又は配列番号31に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の抗体又はその機能的断片を含有するがん細胞又はがん組織検出用試薬。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項記載の抗体又はその機能的断片を含有するがん予防又は治療薬。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項記載の抗体又はその機能性断片を用いて、生体試料中のMUC1タンデムリピートのT5、S6、T10、S16及びT17から選ばれるアミノ酸残基の1残基~5残基にシアリルGalNAcが結合したMUC1を検出する工程を有する、がん細胞又はがん組織の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアリルGalNAcが結合したMUC1を認識する抗体及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ムチンはO-結合型糖鎖を多数付加している上皮の表層側に発現する糖タンパク質で、セリン及び/又はスレオニンを多数含むアミノ酸配列の繰り返し(タンデムリピート)を持つ。ムチンのコアポリペプチドの遺伝子はヒトでは約20種知られている。膜貫通ドメインを持つ膜型と分泌型がある。基本的な機能は上皮表面の保護と潤滑である。
このうち、ムチン1(MUC1)は膜型ムチンでタンデムリピートドメイン、膜貫通ドメイン、細胞質ドメインを持つ。細胞質ドメインは、シグナル伝達、アポトーシスの抑制などに関わる。MUC1はがん細胞で発現が亢進し、糖鎖付加状態や糖鎖構造が異なることから、それ自身がワクチンとして、抗MUC1抗体は、ADC、CAR-T、などとして利用できる可能性があり、開発が進められている。
【0003】
1980年代に、がん細胞に対する結合性がその由来する正常上皮細胞に比べて高いことを指標に世界各地の多くの研究室で得られたモノクローナル抗体が結合する相手(抗原)が、MUC1として同定された。抗MUC1抗体には、そのMUC1への結合が糖鎖付加によって影響を受けるものがあることが判明していたが、特異性や結合性の正体は不明であった。
【0004】
乳がんにおいては、がん細胞はMUC1の産生量が高いだけでなく、糖鎖付加数が少なく、糖鎖が短小である場合が多く、このことが抗体の結合性の違いと関係する(抗体ががん特異性を持つ)との報告が多く見られた(非特許文献1)。臨床現場では、抗MUC1抗体(DF3と115D8の組み合わせ)が乳がんの負荷状態(tumor burden)を示す血清マーカーであるCA15-3の検出に広く用いられて来た(非特許文献2)。
また、本発明者らは、MUC1に種々の糖鎖を付加したポリペプチドを認識する抗MUC1抗体を作製し、その特異性を報告した(非特許文献3-5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Glycoconjugate.J.17:649-658,2000
【非特許文献2】Dis.Markers.2018:9863092,2018
【非特許文献3】Jpn.J.Cancer Res.87(5):488-496,1996
【非特許文献4】J.Immunol.Methods.270(2):199-209,2002
【非特許文献5】Sci.Rep.9(1):16641,2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シアリルGalNAcが結合したMUC1を認識する抗体は作製されておらず、当該抗体がどのような機能を示すのかは知られていなかった。
従って、本発明の課題は、シアリルGalNAcが結合したMUC1を認識する抗体を作製し、その機能を明らかにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、MUC1タンデムリピートの種々の位置にシアリルGalNAcが結合したMUC1を認識する抗体を作製し、その結合特異性を検討したところ、MUC1タンデムリピートの特定の位置にシアリルGalNAcが結合したMUC1又はその機能的断片が、これらのシアリルGalNAcが結合したMUC1に対する特異性が高く、また種々のがん細胞に特異的に結合することから、がんの診断やがんの予防又は治療剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[9]を提供するものである。
[1]MUC1タンデムリピートのT5、S6、T10、S16及びT17から選ばれるアミノ酸残基の1残基~5残基にシアリルGalNAcが結合したMUC1を認識する抗体又はその機能的断片。
[2]MUC1タンデムリピートのアミノ酸配列が、AHGVTSAPDTRPAPGSTAPPAHGV(配列番号1)である、[1]記載の抗体又はその機能的断片。
[3]次の(a)~(f)から選ばれるものである、[1]又は[2]記載の抗体又はその機能性断片。
(a)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号2に示されるアミノ酸配列、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号3に示されるアミノ酸配列、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号4に示されるアミノ酸配列、又は配列番号4に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がYTSで示されるアミノ酸配列、又はYTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号6に示されるアミノ酸配列、又は配列番号6に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
(b)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号7に示されるアミノ酸配列、又は配列番号7に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号9に示されるアミノ酸配列、又は配列番号9に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号10に示されるアミノ酸配列、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がDTSで示されるアミノ酸配列、又はDTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号11に示されるアミノ酸配列、又は配列番号11に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
(c)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号12に示されるアミノ酸配列、又は配列番号12に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号13に示されるアミノ酸配列、又は配列番号13に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号14に示されるアミノ酸配列、又は配列番号14に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号15に示されるアミノ酸配列、又は配列番号15に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がDTSで示されるアミノ酸配列、又はDTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号16に示されるアミノ酸配列、又は配列番号16に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
(d)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号17に示されるアミノ酸配列、又は配列番号17に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号18に示されるアミノ酸配列、又は配列番号18に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号19に示されるアミノ酸配列、又は配列番号19に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号20に示されるアミノ酸配列、又は配列番号20に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がDTSで示されるアミノ酸配列、又はDTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号21に示されるアミノ酸配列、又は配列番号21に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであるモノクローナル抗体又は機能的断片。
(e)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号22に示されるアミノ酸配列、又は配列番号22に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号23に示されるアミノ酸配列、又は配列番号23に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号24に示されるアミノ酸配列、又は配列番号24に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号25に示されるアミノ酸配列、又は配列番号25に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がDTSで示されるアミノ酸配列、又はDTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号26に示されるアミノ酸配列、又は配列番号26に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
(f)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号27に示されるアミノ酸配列、又は配列番号27に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号28に示されるアミノ酸配列、又は配列番号28に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号29に示されるアミノ酸配列、又は配列番号29に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号30に示されるアミノ酸配列、又は配列番号30に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がSTSで示されるアミノ酸配列、又はSTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号31に示されるアミノ酸配列、又は配列番号31に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の抗体又はその機能的断片を含有するがん細胞又はがん組織検出用試薬。
[5][1]~[3]のいずれかに記載の抗体又はその機能的断片を含有するがん予防又は治療薬。
[6][1]~[3]のいずれかに記載の抗体又はその機能性断片を用いて、生体試料中のMUC1タンデムリピートのT5、S6、T10、S16及びT17から選ばれるアミノ酸残基の1残基~5残基にシアリルGalNAcが結合したMUC1を検出する工程を有する、がん細胞又はがん組織の検出方法。
[7]がんの予防又は治療薬製造のための、[1]~[3]のいずれかに記載の抗体又はその機能性断片の使用。
[8]がんを予防又は治療するための、[1]~[3]のいずれかに記載の抗体又はその機能性断片。
[9][1]~[3]のいずれかに記載の抗体又はその機能性断片を投与することを特徴とするがんの予防又は治療方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗体は、シアリルGalNAcが結合したMUC1に特異的であり、種々のがん細胞に特異的に結合することから、がんの診断や癌の予防又は治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】免疫原としての糖ペプチドの製造ステップと製造ステップ毎のHPLCチャートを示す。
【
図2】免疫原として合成した各種糖ペプチドの構造とマウスへの免疫操作を示す。
【
図3】免疫原として合成した各種糖ペプチドを投与して得られたマウス抗血清と抗原との反応性(ELISA)を示す。
【
図4】免疫原として合成した各種糖ペプチドを投与して得られたマウス抗血清の細胞染色結果(ハイコンテントAnalysis)を示す。
【
図5】ハイブリドーマM5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4の細胞染色像を示す。
【
図6】M5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4抗体のウエスタンブロッティング結果を示す。
【
図7】M5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4抗体の組織免疫染色マクロ像を示す。
【
図8】M5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4抗体のがん細胞免疫染色結果を示す。
【
図9】STn-MUC1-IgGタンパク質のウエスタンブロッティング結果を示す。
【
図10】2F7-1B1-1F8、7G9-1E8-2H4、M5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4抗体のがん細胞への結合性(フローサイトメトリー)を示す(1)。
【
図11】2F7-1B1-1F8、7G9-1E8-2H4、M5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4抗体のがん細胞への結合性(フローサイトメトリー)を示す(2)。
【
図12】2F7-1B1-1F8、7G9-1E8-2H4、M5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4抗体のエピトープ解析結果を示す。
【
図13】2F7-1B1-1F8、7G9-1E8-2H4抗体のエピトープ解析結果を示す。
【
図14】M3S-4、M5S-10抗体のエピトープ解析結果を示す。
【
図15】2F7-1B1-1F8、7G9-1E8-2H4、M5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4抗体のVH鎖とVL鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、MUC1タンデムリピートのT5、S6、T10、S16及びT17から選ばれるアミノ酸残基の1残基~5残基にシアリルGalNAcが結合したMUC1を認識する抗体又はその機能的断片である。
前述のように、MUC1は膜型ムチンでタンデムリピートドメイン、膜貫通ドメイン、細胞質ドメインを持つ。細胞質ドメインは、シグナル伝達、アポトーシスの抑制などに関わる。MUC1はがん細胞で発現が亢進し、糖鎖付加状態や糖鎖構造が異なることから、それ自身がワクチンとして、また抗MUC1抗体は、ADC、CAR-T、などとして利用できる可能性があり、開発が進められている。しかし、本発明のようなシアリルGalNAcが結合したMUC1を認識する抗体は知られていない。
【0012】
本発明において、MUC1タンデムリピートのアミノ酸配列は、AHGVTSAPDTRPAPGSTAPPAHGV(配列番号1)である。
当該タンデムリピートのT5、S6、T10、S16及びT17から選ばれるアミノ酸残基には、種々の糖鎖が結合していることが知られているが、本発明では、これらのアミノ酸残基の1残基~5残基にシアリルGalNAcが結合したMUC1を認識する抗体を作製することとした。従って、本発明の抗体が認識するMUC1としては、例えば、次の下線部のアミノ酸残基にシアリルGalNAcが結合したMUC1が挙げられる。
【0013】
【0014】
これらのシアリルGalNAc結合MUC1のうち、可能性の高い生合成経路の観点から、T5又はT17にシアリルGalNAcを持つものに結合性を有するものがより好ましく、T10にシアリルGalNAcを持つものに結合性を有するものがさらに好ましい。また、同じ位置に異なる(シアリルGalNAc以外の)糖鎖(シアリルGal-GalNAc、Gal-GalNAc、GalNAcなど)を有するMUC1あるいは糖鎖を有しないMUC1に交差結合性がないものが最も好ましい。
【0015】
本発明の抗体としては、重鎖及び軽鎖のCDRのアミノ酸配列が次のものである抗体が好ましい。
(a)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号2に示されるアミノ酸配列、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号3に示されるアミノ酸配列、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号4に示されるアミノ酸配列、又は配列番号4に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がYTSで示されるアミノ酸配列、又はYTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号6に示されるアミノ酸配列、又は配列番号6に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
(b)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号7に示されるアミノ酸配列、又は配列番号7に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号9に示されるアミノ酸配列、又は配列番号9に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号10に示されるアミノ酸配列、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がDTSで示されるアミノ酸配列、又はDTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号11に示されるアミノ酸配列、又は配列番号11に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
(c)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号12に示されるアミノ酸配列、又は配列番号12に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号13に示されるアミノ酸配列、又は配列番号13に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号14に示されるアミノ酸配列、又は配列番号14に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号15に示されるアミノ酸配列、又は配列番号15に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がDTSで示されるアミノ酸配列、又はDTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号16に示されるアミノ酸配列、又は配列番号16に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
(d)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号17に示されるアミノ酸配列、又は配列番号17に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号18に示されるアミノ酸配列、又は配列番号18に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号19に示されるアミノ酸配列、又は配列番号19に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号20に示されるアミノ酸配列、又は配列番号20に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がDTSで示されるアミノ酸配列、又はDTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号21に示されるアミノ酸配列、又は配列番号21に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであるモノクローナル抗体又は機能的断片。
(e)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号22に示されるアミノ酸配列、又は配列番号22に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号23に示されるアミノ酸配列、又は配列番号23に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号24に示されるアミノ酸配列、又は配列番号24に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号25に示されるアミノ酸配列、又は配列番号25に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がDTSで示されるアミノ酸配列、又はDTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号26に示されるアミノ酸配列、又は配列番号26に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
(f)免疫グロブリンVH鎖のCDR1が配列番号27に示されるアミノ酸配列、又は配列番号27に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR2が配列番号28に示されるアミノ酸配列、又は配列番号28に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVH鎖のCDR3が配列番号29に示されるアミノ酸配列、又は配列番号29に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR1が配列番号30に示されるアミノ酸配列、又は配列番号30に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR2がSTSで示されるアミノ酸配列、又はSTSで示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、免疫グロブリンVL鎖のCDR3が配列番号31に示されるアミノ酸配列、又は配列番号31に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体又は機能的断片。
【0016】
前記抗体のうち、有用性の観点から、pH感受性が低いものが好ましい。また安定性の高いものがより好ましい。
【0017】
前記配列番号2~31に示されるアミノ酸配列における、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列としては、配列番号2~31において1~10個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が好ましく、1~8個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列がより好ましく、1~5個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列がさらに好ましく、さらに1~2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列がさらに好ましい。また、配列番号2~37に示されるアミノ酸配列と、配列番号2~31に示されるアミノ酸配列の1~数個が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列の同一性は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上がよりさらに好ましく、98%以上がよりさらに好ましい。
【0018】
本発明の好ましい抗体は、前記(a)~(f)の各CDRの配列を有するものであって、これらの領域以外の領域のアミノ酸配列は特に制限されない。従って、本発明の抗体は、ヒト抗体のようなラット以外の哺乳動物抗体でもよく、ヒト化抗体でもよい。より具体的には、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなるキメラ抗体であっても良く、この様な抗体はラット抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体のCDRへ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体例として、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAを、ヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP239400、国際特許出願公開番号WO96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、CDRが良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のFRのアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res,1993,53,851-856.)。
【0019】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原又は所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(WO93/12227,WO92/03918,WO94/02602,WO94/25585,WO96/34096,WO96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047,WO92/20791,WO93/06213,WO93/11236,WO93/19172,WO95/01438,WO95/15388を参考にすることができる。
【0020】
抗体のクラスは特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。精製の容易性等を考慮すると好ましくはIgGである。
【0021】
機能的断片としては、抗体断片(フラグメント)等の低分子化抗体や抗体の修飾物が挙げられる。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv、Diabodyなどを挙げることができる。
【0022】
本発明の抗体は、例えば、前記MUC1タンデムリピートのT5、S6、T10、S16及びT17から選ばれるアミノ酸残基の1残基~5残基にシアリルGalNAcが結合したMUC1を合成し、これを免疫原としてマウスなどの動物に免疫する。免疫動物の脾細胞と動物ミエローマ細胞とを融合させてハイブリドーマを得る。得られたハイブリドーマから、例えば、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-468とMDA-MB-468にシアリルGalNAcを合成する酵素遺伝子St6galnac1を導入したトランスフェクタントを用いたハイコンテントAnalysis(HCA)により、目的とする抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすればよい。
また、シアリルGalNAcが結合したMUC1タンパク質を免疫原としてマウスなどの動物に免疫する。免疫動物の脾細胞と動物ミエローマ細胞とを融合させてハイブリドーマを得る。得られたハイブリドーマから、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-468とMDA-MB-468-St6galnac1トランスフェクタント及びマウス大腸がん細胞株SL4、SL4にSt6galnac1を導入したSL4-St6galnac1トランスフェクタント、MUC1遺伝子を導入したSL4-MUC1トランスフェクタント、SL4にM
UC1遺伝子とSt6galnac1を導入したSL4-MUC1-St6galnac1トランスフェクタントを用いたFACSによるスクリーニングにより、目的とする抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすればよい。
【0023】
本発明の抗体は、後記実施例に示すように、種々のがん細胞に特異的に結合することから、がん細胞又はがん組織検出用試薬、或いはがん予防又は治療薬として有用である。
すなわち本発明の一態様は、前記本発明の抗体又はその機能的断片を含有するがん細胞又はがん組織検出用試薬である。
また、本発明の別の一態様は、前記本発明の抗体又はその機能的断片を含有するがん予防又は治療薬である。
ここで、本発明において、検出対象又は予防治療対象となるがんとしては、糖付加MUC1を発現しているがんであればよく、乳がん、大腸がん、肺扁平上皮がん、肺腺がん、食道がん、すい臓がん、卵巣がんがより好ましい。
【0024】
前記がん細胞又はがん組織検出用試薬は、任意の生体試料に前記本発明の抗体若しくはその機能的断片又はそれらの標識体を反応させて、生体試料中のシアリルGalNAcが結合したMUC1を検出することにより行われる。
シアリルGalNAcが結合したMUC1の検出手段としては、液体クロマトグラフィー質量分析法、免疫学的法、特異的結合能を有する低/中分子や核酸あるいは核酸誘導体を用いた方法等が挙げられるが、簡便かつ測定感度が高い免疫学的方法が好ましい。
免疫学的方法としては、イムノクロマト法、酵素標識免疫学的測定法(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、凝集法、比濁法、フローサイトメトリー法、組織免疫染色法、ウエスタンブロット等のイムノブロット法等のいずれも用いることができる。ここでイムノブロット法は、ポリペプチドをメンブレンに転写し、メンブレン上のポリペプチドを抗体で検出する方法である。抗体の検出には、酵素標識、蛍光標識等が用いられる。
【0025】
本発明のがん予防又は治療薬は、前記の抗体を含有すればよいが、薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、乳化、カプセル封入、凍結乾燥等により、製剤化して医薬組成物として製造することができる。
本発明のがん予防又は治療薬の投与経路としては、注射剤が好ましい。注射用の処方においては、本発明の抗体を水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、又は生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、本発明の医薬は、油性又は水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、又は乳濁液等の形状をとることができる。あるいは、本発明抗体を粉体の形態で製造し、使用前に滅菌水等を用いて水溶液又は懸濁液を調製してもよい。
【0026】
また本発明の抗体を用いれば、新たながん予防又は治療薬をスクリーニングすることもできる。すなわち、例えば、本発明の抗体と拮抗する薬物をスクリーニングすれば、その薬物はがん予防又は治療薬として有用である可能性がある。
【実施例0027】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例1(糖ペプチド免疫による抗シアリルGalNAc(以下、STnと略することもある)-MUC1抗体の作製)
【0029】
(糖ペプチドの作製)
MUC1糖ペプチド(STn-MUC1)は、MUC1の中のO結合型糖鎖修飾が起こるセリン(Ser、S),スレオニン(Thr、T)に富んだ繰り返し配列を利用した。実験には、
図1に示す27アミノ酸を用い、免疫抗原にはN末端にシステイン(Cys、C)を追加した。このN末端にシステインが結合したペプチドのアミノ酸配列を配列番号38に示す。また、N末端にシステインが結合していないペプチドのアミノ酸配列を配列番号39に示す。以下の実施例では、糖鎖修飾位置は、この配列番号39に示すアミノ酸配列中のシステイン残基及びスレオニン残基の番号を記載する。従って、実施例中のアミノ酸残基の番号と配列番号1基準のアミノ酸残基の番号とは、3相違する。
アミノ酸配列中には、5箇所のO結合型糖鎖修飾が起こる可能性のあるS/Tが存在し(T8,S9,T13,S19,T20)、5箇所全てにSTnが結合した糖ペプチドをMUC1_5STn、T8,S19,T20の3箇所にSTnが結合した糖ペプチドをMUC1_3STnとした。
【0030】
抗原に用いたMUC1_5STn、MUC1_3STn糖ペプチドは、ペプチド合成装置で化学合成したGalNAcペプチドを基質に、糖転移酵素ST6GalNAc1を用いてシアル酸を転移して作製した。糖ペプチドの化学合成と糖転移酵素による修飾については非特許文献3記載の方法に基づいて実施した。
【0031】
MUC1_3STnの合成については、反応液(170uL:MOPS 100mM、塩化マンガン 10mM、合成糖ペプチド 0.41mM,CMP-Neu5Ac 4.9mM,PMSF 1mM,cOmplete
TM(Sigma-Aldrich社製)、Alkaline Phosphatase 1.5U、ST6GalNAc1 45uL)を37℃でインキュベーションした。反応開始約24時間後にMALDI-TOF MS及びHPLCにより反応の進行を確認後、ST6GalNAc1(50uL)、CMP-Neu5Ac(100mM溶液5uL)、塩化マンガン(100mM溶液5uL)、MOPS(1000mM溶液5uL)、Alkaline Phosphatase(2uL,1U)、cOmplete
TM(25X溶液、3uL)を酵素反応液に追加し再び37℃でインキュベーションした。反応開始後48、72時間の時点でも反応の進行状況をMALDI-TOF MS及びHPLCで確認し、ST6GalNAc1(70uL)、CMP-Neu5Ac(100mM溶液4uL)、Alkaline Phosphatase(2uL,1U)、cOmplete
TM(25X溶液、2uL)をそれぞれの時点で添加した。反応開始約90時間後、反応液を減圧乾固し、残渣を140uLの水に溶かした後、フィルター濾過しHPLCによる精製を行い、25.1nmol(収率36%,溶出時間13.0min)の3STn体を得た(
図1(a))。なおHPLCは、カラムとしてInertSustainAQ-C18(5um,4.6x250mm、ジーエルサイエンス社製)を用い、溶媒A(10mM トリエチルアミン酢酸水溶液(TEAA)と溶媒B(10mM TEAA in アセトニトリル)を9:1で混合した溶媒で平衡化し、20分間で8:2まで直線的に上昇させることで溶出を行った。
【0032】
MUC1_5STnの合成については、反応液(178uL:MOPS 100mM,塩化マンガン 10mM,基質 0.39mM,CMP-Neu5Ac 9.4mM,PMSF 1mM,cOmplete
TM,Alkaline Phosphatase 1.5U,ST6GalNAc1 45uL)を37℃でインキュベーションした。反応開始約24時間後にMALDI-TOF MS及びHPLCにより反応の進行を確認後、ST6GalNAc1(50uL)、CMP-Neu5Ac(100mM溶液10uL)、塩化マンガン(100mM溶液5uL)、MOPS(1000mM溶液5uL)、Alkaline Phosphatase(2uL,1U)、cOmplete
TM(25X溶液、3uL)を酵素反応液に追加し再び37℃でインキュベーションした。反応開始後48、72時間の時点でも反応の進行状況をMALDI-TOF MS及びHPLCで確認し、ST6GalNAc1(70uL)、CMP-Neu5Ac(100mM溶液9uL)、Alkaline Phosphatase(2uL,1U)、cOmplete
TM(25X溶液、2uL)をそれぞれの時点で添加した。反応開始約90時間後、反応液を減圧乾固し、残渣を140uLの水に溶かした後、フィルター濾過しHPLCによる精製を行い、32.5nmol(収率46%,溶出時間11.8min)の5STn体を得た(
図1(b))。
【0033】
(糖ペプチド抗原のマウスへの免疫)
MUC1_5STn、MUC1_3STn糖ペプチド(
図2(a))のN末端には予めシステイン残基が導入してあり、このシステイン残基をキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)とのコンジュゲーションに利用した。各種抗原ペプチド 0.2mg分を、Thermo Fischer Scientific社製、Imject Maleimide Activated mcKLH Spin Kit(#77666)を使用して、KLHに結合(コンジュゲート)させた。生理食塩水に溶解した各種KLHコンジュゲート・ペプチドをThermo Fischer Scientific社製、Imject Alum Adjuvantと混合し、これをC57BL/6Jマウスあるいは、RORγTgマウスへ接種した。MUC1_5STn糖ペプチドは3匹のRORγTgマウスと2匹のC57BL/6Jマウスへ、MUC1_3STn糖ペプチドは2匹のRORγTgマウスへ免疫を行った。免疫スケジュールを
図2(b)に示す。初日(Day0)に10μg分、Day4に10μg分、Day11に10μg分を腹腔内注射した。マウスの眼窩採血を定期的に行い、血清中の抗原に対する抗体価の上昇をモニタリングしながら免疫を行った。また、抗体価の上昇が期待できることから、血清及び免疫B細胞の回収を行う3日前に腹腔内への糖ペプチド抗原投与(2μg)によるブーストを行った。ブーストの3日後に免疫を終了し、抗体産生細胞を採取した。
【0034】
上述のようにして免疫されたマウスから得られた、各種抗原に対する抗血清(免疫原に対する抗体が含まれている)を使用して、糖ペプチドに対する反応性(結合性)について、ELISA測定系による検出を行った。免疫に使用したMUC1_5STn、MUC1_3STn糖ペプチドに加え、コントロールとして糖鎖のないMUC1ペプチド抗原(MUC1_0STn)をそれぞれELISAプレートに固相化し、検出側には抗血清と市販の二次抗体を用いてELISA測定系での検討を行った。
【0035】
各種糖ペプチド(MUC1_5STn、MUC1_3STn、MUC1_0STn)をPBSで0.5μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレート(ThermoFischer社 Immobilizer Amino)に100uL/ウェルずつ添加しアミノ基を介して共有結合させた。4℃で一晩各抗体をプレートに吸着(固相化)させた後、溶液を廃棄して、ウェルをPBS-T(PBS,0.05% Tween-20)で洗浄した。次に、抗血清の希釈系列溶液100μLを各ウェルに添加した。37℃で2時間反応させた後、ウェル中の溶液を廃棄し、PBS-Tにて洗浄した後、4000倍希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG抗体(Jackson社、115-035-062)を室温で1時間反応させた。その後、反応液を廃棄、洗浄した後、1StepUltra TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。
【0036】
day21(12500倍希釈)とday36(12500倍、62500倍希釈)の血清の結果を
図3に示す。それぞれのマウス血清は、MUC1_5STn,MUC1_3STn,MUC1_0STn糖ペプチドに対して反応性を示したが、抗原反応性は異なっていた。特に、day36(62500倍希釈)では、マウス2を除き、糖鎖のないMUC1_0STnに比べて、糖鎖の結合しているMUC1_5STn、MUC1_3STnに対して有意に高い反応性を示した。RORγTgマウスとC57BL/6Jマウスとの比較では、MUC1_5STnを免疫した群において、day21ではRORγTgマウスの抗体価が高い傾向が見られたが、day36においては顕著な差は見られなかった。
【0037】
続いて、マウス血清を用いて細胞の染色を行った。染色には、MDA-MB-468細胞(以下MM468と略す)とそれを親株に用いてSt6galnac1遺伝子を発現させた細胞(MDA-MB-468+St6galnac1、以下MM468+ST6と略す)を用いた。MDA-MB-468細胞はヒト乳がん由来の培養細胞株で、endogenousにMUC1が発現している。この細胞にSTn合成酵素であるSt6galnac1遺伝子を発現させることにより、STnが結合したMUC1を発現するようになる。2種類の細胞を96well plate(Nunc MicroWell 96-Well Optical-Bottom Plates with Polymer Base (Black Plate),Thermo Fisher Scientific社製)に播種し、5%CO2濃度、37℃で2日間培養した。培地を取り除き、PBSで洗浄した後、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定した。PBSで洗浄した後に、PBSで1000倍希釈した抗血清を100μL/wellで加え、室温で2時間インキュベーションし、血清中の抗体を反応させた。反応液を取り除き、PBSで洗浄した後に2000倍希釈したAlexaFluor 488 goat anti-mouse IgG(ThermoFischer社)を100μL/wellで加え、室温で1時間インキュベーションした。細胞染色画像はCell Insight CX5(Thermo Fisher Scientific)を用いて取得した。
【0038】
染色の結果を
図4に示す。縦軸に染色強度、横軸に細胞の種類と濃度を記す。MUC1発現細胞(MM468)とSTn-MUC1発現細胞(MM468+ST6)を1wellあたり2.0x10
4,1.0x10
4,0.5x10
4の3種類の濃度で、2wellずつ播種し染色を行った。すべてのマウス血清は、MUC1発現細胞(MM468)よりもSTn-MUC1発現細胞(MM468+ST6)をより強く染色することが確認された。
以上の結果から、MUC1_5/3STnペプチドを免疫したマウスの血清には、STn-MUC1を認識して、細胞染色が可能な抗体が含まれている可能性が示唆された。
【0039】
(ハイブリドーマの作製)
STn-MUC1糖ペプチドを免疫したマウスの血清を用いた解析の結果、目的とする抗体が含まれている可能性が確認できたので、抗体産生細胞と骨髄腫(ミエローマ)細胞(P3U1細胞、SP2/0-Ag14細胞)との細胞融合を行うことでハイブリドーマを作製し、STn-MUC1を認識するモノクローナル抗体のスクリーニングを行った。脾細胞は免疫マウス由来脾臓組織からダウンス型ホモジナイザーを用いて分離した。免疫マウス由来脾細胞とマウス骨髄腫細胞の細胞をそれぞれRPMI培地(無血清)で洗浄した後に5:1の比で混合し、細胞融合促進剤(GenomONE-CF Kit,コスモバイオ)による細胞融合作業(氷上5分、37℃、15分)を行った。
細胞融合後、20% S-clone medium(積水メディカル)と10% 牛胎児血清(FBS)を含むRPMI 1640(+ペニシリン、+ストレプトマイシン)に懸濁し、96-wellプレートに5x104細胞/wellで播種した。選択培地としてHAT培地(RPMI1640培地に100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン及び10%牛胎児血清(FBS)、10-4Mヒポキサンチン、1.5×10-5Mチミジン及び4×10-7Mアミノプテリンを加えた培地)を用いて培養を行い、融合細胞のみが生存するように選択的な培養を行った。選択培地で培養開始後約10日以降に生育してくる細胞をハイブリドーマとして選択するため、次に限界希釈法によって、モノクローンの細胞を得た。具体的には、96-wellプレートに細胞溶液を濃いものから薄いものへと希釈系列を作製するようにして播種し、数の限定された細胞由来のハイブリドーマ細胞群を選択するとともに、後述のスクリーニングによってSTn-MUC1に反応する抗体を産生するクローンを選択した。
【0040】
(ハイブリドーマのスクリーニング)
増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗HBs抗原モノクローナル抗体が含まれる否かを上述の様にHigh Content Analysis法(Cell Insight CX5)によりスクリーニングした。STn-MUC1発現細胞(MM468+ST6)を96well plate(Nunc MicroWell 96-Well Optical-Bottom Plates with Polymer Base(Black Plate),Thermo Fisher Scientific社製)に5x103細胞/wellで播種し、染色前に4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄した後に1%ヤギ血清でブロッキングした。ハイブリドーマを培養したウェル中に含まれる培養上清100μLを採取し、固定したSTn-MUC1発現細胞(MM468+ST6)の各ウェルに加え、室温で2時間インキュベーションした。二次抗体には2000倍希釈したAlexaFluor 488 goat anti-mouse IgGとHoechst 33342(0.5ug/mL)の混合液を用い、室温で1時間インキュベーションした。Cell Insight CX5を用いて核染色と細胞染色を最適の露光で4視野/ウェルで画像を取得した。二次抗体のみの染色を基準として陽性ウェルを選定し、画像を確認し細胞膜が染色されているウェルを候補とした。次に、STn-MUC1発現細胞(MM468+ST6)とMUC1発現細胞(MM468)の染め分けを行い、STn-MUC1発現細胞(MM468+ST6)に陽性でMUC1発現細胞(MM468)に陰性のウェルを最終候補とした。
【0041】
スクリーニングの結果、M5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4の4つのハイブリドーマ細胞株が得られた。M5S-1とM5S-10は、MUC1-5STn糖ペプチドをC57BL/6Jマウスに免疫したマウス脾細胞とP3U1細胞との融合により得られた。M5S-8は、MUC1-5STn糖ペプチドをRORγTgマウスに免疫したマウス脾細胞とSP2/0-Ag14細胞との融合により得られた。M3S-4は、MUC1-3STn糖ペプチドをRORγTgマウスに免疫したマウス脾細胞とP3U1細胞との融合により得られた。4つのハイブリドーマ細胞株の培養上清を用いた細胞染色では、それぞれMUC1を発現するMUC1発現細胞(MM468)には陰性であったが、STn-MUC1を発現するSTn-MUC1発現細胞(MM468+ST6)には陽性であった(
図5)。
【0042】
(ウエスタンブロットによる抗体の性状解析)
STn-MUC1に対する4種類の抗体の性状解析のためウエスタンブロット法を行った。以下に記す6種類の細胞からRIPA Buffer(ナカライテスク社製、08714-04)で抽出した細胞ライセート中のタンパク質30μgを5-20% XV PANTER GEL(DRC社製、NXV-275HP20)で展開した。細胞は、(レーン1)SL4-P46:マウス大腸がん細胞Colon38の高肝転移性バリアントSL4株のmockトランスフェクタント、(レーン2)SL4-P46-2F5:SL4-P46株のSt6galnac1トランスフェクタント、(レーン3)SL4-M8:SL4株のMUC1トランスフェクタント、(レーン4)SL4-M8-2A4:SL4-M8株のSt6galnac1トランスフェクタント、(レーン5)MDA-MB-468、(レーン6)MDA-MB-468-St6galnac1を用いた。
細胞ライセートに含まれるタンパク質は、電気泳動で展開した後のゲルからHybond-Pメンブレン(アマシャム社製)に転写され、5%スキムミルク(ベクトン・ディッキンソン社製)含有中PBS-T(0.1%Tween20(富士フイルム和光純薬、166-21115)を含むPBS)中で室温、60分間ブロッキング反応を行った。その後、ハイブリドーマ培養上清を1%スキムミルク含有PBS-Tで100倍に希釈し、メンブレン上に添加し、室温で60分間反応させた。反応液を取り除き、メンブレンをPBS-Tで2回洗浄した後、1%スキムミルク含有PBSTで5000倍に希釈したマウスIgG-HRP(Thermo Fisher Scientific,#A28177)をメンブレン上に添加し、室温で60分間反応した。反応液を取り除き、PBSTで洗浄後、Immobilon Forte(Millipore社製,WBLUF0500)を用いてシグナルを増幅し、LuminoGraph(ATTO社製、WSE-6100)で検出した。コントロールとして、抗MUC1抗体(R&D systems社製、MAB6298、500倍希釈で使用)とMUC1上のシアリルTを認識するMY.1E12抗体(順天堂大学、2000倍希釈で使用)のウエスタンブロットも行った。
【0043】
ウエスタンブロットの結果を
図6に示す。コントロールのMUC1抗体を用いた場合、MUC1が発現する細胞でシグナルが検出された(レーン3,4,5,6)。それぞれでサイズやパターンが異なることから、糖鎖の付き方や切断のされ方に違いがあることが考えられる。MY.1E12抗体の場合も同様に、MUC1が発現する細胞でシグナルが検出されたが、MUC1抗体で検出されたシグナルより高分子量のサイズにバンドが検出された。M5S-1,M5S-8,M5S-10は、レーン4とレーン6にシグナルが検出された。どちらもMUC1とSt6galnac1の両方が発現する細胞であり、M5S-1,MM5S-8,M5S-10のエピトープにはMUC1とSt6galnac1の両方が必要であることが確認された。一方、M3S-4の場合はレーン4にはバンドが検出されず、レーン6のみにバンドが検出された。このことから、M3S-4のエピトープにもMUC1とSt6galnac1の両方が必要であることがわかる。レーン4とレーン6はともにMUC1とSt6galnac1の両方が発現するが、ホスト細胞の由来が異なる(レーン4:マウス大腸がん、レーン6:ヒト乳がん)ため、反応性の違いは由来細胞の違いよるものかもしれない。また、M5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4が検出するバンドのサイズは、MY.1E12の場合と同様にMUC1抗体のシグナルに比べて高分子量のバンドが確認された。糖鎖の結合したMUC1は種々のプロテアーゼによる分解を受けにくくなるため、その結果、高分子量にのみバンドが検出されるのかもしれない。
【0044】
(STn-MUC1抗体を用いた各種癌組織パネルの免疫染色)
STn-MUC1は、各種がん細胞において発現が上昇することが期待されたため、M5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4ハイブリドーマ細胞株の培養上清用いて、がん組織の免疫染色を行った。がん組織は市販の組織パネル(Human Multiple Organs Tumor and Normal Tissue Microarray BC001134b、Biomax社製)を用いた。組織パネルを連続切片で5枚購入し(BC001134b-077,-078,-079,-080,-081)、M5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4培養上清とコントロールとしてMUC1上のSTを認識するMY.1E12抗体(順天堂大学製)で染色した。組織パネルは、キシレンとエタノールで脱パラフィン処理した後、Dako Target retrieval solution,pH6.0(Dako社製、S1699)中で110℃、10分間オートクレーブ処理し、抗原の賦活化を行った。溶液から取り出し、PBSで洗浄の後、0.3%過酸化水素(30%過酸化水素水をメタノールで希釈)処理を室温で20分間行い、内在性のペルオキシダーゼをブロックした。反応液を取り除き、PBSで洗浄した後、Dako Cytomation Biotin Blocking System(Dako社製、X0590)を用いて内在性のビオチンをブロックした。続いて、2%ウマ血清(Normal Horse Serum、Vector社製、S-2000)(PBSで希釈)で室温、30分間、ブロッキング処理を行った。1次抗体のM5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4ハイブリドーマ培養上清は原液のまま使用した。MY.1E12抗体は2%ウマ血清で1000倍に希釈して使用した。1次抗体溶液をパネル上に添加し、4℃で一晩反応した。PBSで洗浄後、2次抗体としてウマ血清で200倍に希釈したHorse Anti-Mouse IgG(H+L)biotinylated(Vector社製、BA-2000)を添加し、室温で30分間反応した。PBSで洗浄後、VECTASTAIN Elite ABC Kit(Vector社製、PK-6101)を用いて、シグナルを増幅し、ImmPACT DAB substrate Kit,Peroxidase(Vector社製、SK-4105)を用いて発色した。核染色はマイヤーヘマトキシリン溶液(富士フイルム和光純薬、131-09665)を用いた。脱水、透徹、封入の後、Keyence社製 BIOREVO BZ-X710を用いて組織像を観察した。
【0045】
使用した組織パネルに含まれている組織情報を表2~表5に示す。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
また、各抗体を用いて染色した結果のマクロ像(対物レンズ:4倍レンズ使用)を
図7に示す。ヘマトキシリン・エオジン染色像は、Biomed社のweb siteから引用した。比較するコントロールとして、MUC1上のST構造を認識するモノクローナル抗体MY.1E12(順天堂大学)で染色を行った。
【0051】
その結果、今回作製したモノクローナル抗体は、様々ながん種でがん部位を染色することが確認できた(
図8)。組織によって抗体間の反応の違いはあるが、特にM5S-10は多くのがん種(肺扁平上皮がん、肺腺がん、食道がん、膵臓がん、卵巣がん)でMY.1E12と同様にがん部位を染色した。
【0052】
実施例2(STn-Muc1タンパク質を免疫原とした抗STn-MUC1抗体の作製)
【0053】
(STn-MUC1-IgGタンパク質の調製)
O-結合型糖鎖合成不全株CHO-ldldD細胞(Kingsley et al.Cell,44(5),749-759(1986).“Reversible Defects in O-linked glycosylation and LDL receptor expression in a UDP-Gal/UDP-GalNAc 4-epimerase deficient mutant”)に、MUC1細胞外ドメイン(タンデムリピート配列16回分を含む)とマウスIgG2a Fc領域のキメラタンパク質を遺伝子導入したCHO-ldlD-MUC1細胞(Tarp et al.Glycobiology,17(2),197-209(2007). “Identification of a novel cancer-specific immunodominant glycopeptide epitope in the MUC1 tandem repest”)に、シアル酸転移酵素ST6GalNAc1の遺伝子を含むプラスミドベクターpcDNA3.1/Zeo-St6galnac1をLipofectamine 3000(Thermo Fisher Scientific:L3000001)を用いて遺伝子導入を行い、Zeocin (InvivoGen:61483-26)800μg/mLによりセレクションを行った。遺伝子導入細胞の培地中に最終濃度1mMとなるようにN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)(SIGMA:A2795)を添加し3日間培養を行ったあと、細胞表面でのSTnの発現を、抗STn抗体TKH2(Kjeldsen et al.Cancer Res.,48(8):2214-2220(1988).“Preparation and characterization of monoclonal antibodies directed to the tumor-associated O-linked sialosyl-2->6alpha-N-acetylgalactosaminyl(sialosyl-Tn)epitope”)によりフローサイトメーター(BD Biosciences:FACS Verse)で検出した。また、AutoMACS(Miltenyi Biotec:autoMACS Pro Separator)によりTKH2高結合細胞を選別することを2回繰り返した後、限界希釈法によりクローニングし、再度AutoMACSによりTKH2高結合細胞を選別し、CHO-ldlD-MUC1-St6galnac1細胞を樹立した。
【0054】
CHO-ldlD-MUC1-St6galnac1細胞を、HT-supplement(Thermo Fisher Scientific:11067030)、L-glutamine、G418(ナカライテスク:09380-44)及びZeocinを添加したProCHO4培地(Lonza:12-029Q)に馴化させた後、高密度の細胞培養を可能にし、高濃度で分泌タンパク質を回収可能な浮遊細胞用CELLine350(WHEATON:WCL-0350)を使用して、1mM GalNAc添加培地中で培養し、1週間毎に培養上清を取得した。回収した培養液3.5mLに対して1mLスラリーのnProtein A Sepharose 4 Fast Flow(GE:17-5280-04)を加え、4℃で一晩(約16時間)回転しながらインキュベートした。ムロマックカラムにパックし、10倍量のPBSで洗浄した。100mM Glycine-HCl(pH2.7)で溶出し、1M Tris-HCl(pH9.0)で中和した。Amicon Ultra-0.5,Ultracel 50kDa(Merck:UFC505008)で脱塩・濃縮を行った。250ng/レーンでSDS-PAGEを行い、銀染色、抗マウスIgG抗体、ビオチン化抗MUC1抗体HMPV、ビオチン化抗STn抗体TKH2によりウエスタンブロッティングを行った。その結果、精製されたMUC1タンパク質にSTnが付加されていることが確認された(
図9)。
【0055】
(STn-MUC1タンパク質のマウスへの免疫とハイブリドーマの作製)
St6galnac1::2ダブルノックアウトマウス(オス、6~24週齢)のフットパッドに10μgのSTn-MUC1タンパク質とアジュバントとして1μg LPSを混合して投与した。2週間おきに2回投与、または2回免疫後の4ヶ月後に3回目の投与を行った。免疫前、免疫1週間後に採血を行い、血清中の抗体価をSTn-MUC1-IgGタンパク質に対する結合性をELISA及びSTn-MUC1発現細胞への結合性をフローサイトメトリーにより評価した。STn-MUC1に対して抗体価が上昇したと考えられるマウスに、30μgのSTn-MUC1-IgGタンパク質を尾静脈投与によりブーストをかけ、その3日後にマウスを犠牲死させ、無菌的に脾臓を摘出し、脾細胞を調製した。なお、遺伝子組換え動物の使用については、順天堂大学医学部DNA実験安全委員会及び動物実験委員会での審査・承認を得て行った。
【0056】
脾細胞とマウスミエローマ細胞PAI(Stocker.J.W. Res. Disclosure 217,155(1982)“Generation of twon new mouse myeloma cell lines ‘PAI’ and ‘PAI-O’ for hybridoma production”)の細胞融合は、一般的なPEG法により行った(Antibodies.a laboratory manual.second edition.Cold Spring Harbor Laboratory Press,2014)。具体的には、脾細胞とミエローマ細胞を5:1の比率で混合し、遠心後に上清を完全に除き、タッピングにより細胞をほぐしたあと、チューブを穏やかに回転させなから50% PEG(SIGMA:P7181)1mLを1分かけてゆっくり加え、さらに2分穏やかにふりまぜながら反応させた。血清不含DMEM培地(ナカライ:08458-45)4.5mLを3分かけてゆっくり加えた後、さらに4.5mLを2分かけて加えたあと、牛胎児血清を2mLゆっくり加え、遠心し、上清を取り除いた。タッピングによりほぐした融合細胞にHAT培地(GIT(富士フイルム和光純薬:637-25715)-10%(V/V)牛胎児血清-10%BM Condimed H1(Roche:11088947001)-HAT(KAC:IC1680849)-5%(V/V)NCTC-109(Thermo Fisher Scientific:21340039)-MEM Non-Essential Amino Acids Solution(Thermo Fisher Scientific:11140050)-L-glutamine-Penicillin-Streptomycin(Thermo Fisher Scientific:15140122))20mLを加えて2回洗浄した後、HAT培地に懸濁し、脾細胞で換算して1x105cells/wellで96well Flat-Plateに播種し、融合から7日後にHAT培地を追加し、融合細胞のみを選択した。融合から9日後以降に十分なコロニーの成長を確認できたウェルから上清を回収してスクリーニングを行った。培養上清回収時及び3回継代するまでは、HT培地(GIT-10% FBS-10%(V/V) BM-condimed H1-HT-5%(V/V)NCTC109-NEAA-L-glutamine-PN/ST)を使用し、それ以後はGIT培地(GIT-5% NCTC109-NEAA-L-glutamine-PN/ST)を使用した。スクリーニングは、MUC1陽性かつSTn陽性のMM468+ST6細胞への結合性をフローサイトメーター(BD FACSVerese)または蛍光プレートリーダー(BioTek SynergyLX Multi-Mode Reader)により測定し、結合性のあったウェルを選択した。選択されたウェルのハイブリドーマを、限界希釈法によるクローニングを2回行って得られたクローンについて、ELISA法により免疫に使用したSTn-MUC1タンパク質への結合性及びフローサイトメトリー、ウエスタンブロット法によりMUC1陽性かつSTn陽性の細胞への結合性を確認して、2つのモノクローナル抗体産生ハイブリドーマクローン2F7-1B1-1F7及び7G9-1E8-2H4を樹立した。
【0057】
実施例3(フローサイトメトリーによる抗体の結合特異性の解析)
ヒト乳癌細胞株MM468細胞(MUC1陽性、STn陰性)及びSt6galnac1を強制発現させたMM468+ST6細胞(MUC1陽性、STn陽性)、マウス大腸がん細胞株にpDKOFベクターを導入したSL4-P46(MUC1陰性、STn陰性、以下P46)及びSt6galnac1を強制発現させたSL4-P46-2F5(以下P46+ST6)、マウス大腸がん細胞株にMUC1を強制発現させたSL4-M8(MUC1陽性、STn陰性、以下M8)及びSt6galnac1を強制発現させたSL4-M8-2A4(MUC1陽性、STn陽性、以下M8+ST6)細胞に対する結合性をフローサイトメトリーにより解析した。
【0058】
ヒト乳癌細胞株は2.5g/Lトリプシン-1mmol/L EDTA溶液(ナカライテスク、32777-15)、マウス大腸がん細胞株は0.5g/Lトリプシン-0.53mmol/L EDTA溶液(ナカライテスク、32778-34)で細胞を培養ディッシュから剥離し、細胞数をカウントし(Bio-Rad、TC20全自動セルカウンター)、3×105個の細胞をFACS解析に用いた。細胞を96ウェルU底プレートに入れ、200μLの0.1%(w/v)のBSAと0.1%(w/v)のNaN3を含むPBS(FACSバッファー)で2回洗浄後、ハイブリドーマ培養上清を原液またはFACSバッファーで2倍希釈して各々100μLずつ細胞に添加し、氷上で約30分間インキュベートした。その後、細胞を200μLのFACSバッファーで2回洗浄後、終濃度7.5μg/mLになるようにFACSバッファー中に懸濁したFITC標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch,115-095-003)溶液を100μLずつ細胞に添加し、氷上で約30分間インキュベートした。その後、細胞を200μLのFACSバッファーで2回洗浄後、終濃度1μg/mLになるようにFACSバッファー中に懸濁したDAPI(Roche,10236276001)溶液を100μLずつ細胞に添加し、ナイロンメッシュ(N-No.355T)を通して200μLのFACSバッファーに注入し、その細胞懸濁液をフローサイトメーター(BD FACSVerese)にて測定した。測定結果はFlowJo(BD)にて解析した。
【0059】
その結果、樹立した抗体はすべてSTn-MUC1を発現する細胞に結合した(
図10及び
図11)。2F7-1B1-1F8、M3S-4、M5S-8、M5S-10は、MUC1陰性でSTnのみを発現する細胞には結合しなかった。フローサイトメトリー解析の結果は、(実施例3)のウエスタンブロットの結果をサポートするものであった。一方、7G9-1E8-2H4及びM5S-1は、MUC1の発現に関わらず、STn陽性の細胞に結合した。この結果より、7G9-1E8-2H4及びM5S-1はSTn糖鎖のみでも認識する抗体である可能性が考えられた。また、M8+ST6細胞とMM468+ST6細胞に対する反応パターンを見ると、M5S-1とM5S-8の反応性、M5S-10とM3S-4の反応性がそれぞれ似ていることがわかった。
【0060】
実施例4(MUC1 27mer-糖ペプチドに対する抗体の結合特異性の解析(ELISA法))
免疫に用いた糖ペプチドMUC1_5STn、MUC1_3STnは、それぞれMUC1繰り返し配列ペプチドのT8,S9,T13,S19,T20の5箇所全てにSTnが結合したものとT8,S19,T20の3箇所にSTnが結合したものである。またSTn-MUC1タンパク質もMUC1繰り返し配列中の任意のSerまたはThrにSTnが付加している。抗体が認識するエピトープは、この中のいずれかのS/Tに結合したSTnである可能性が考えられるため、抗体の結合特異性を、MUC1ペプチド配列中のセリンまたはスレオニンに1つ、3つ、5つの糖鎖が結合した糖ペプチドを用いてELISA法により解析した。ELISAは、(非特許文献5)に記載の方法を、一部変更して行った。
【0061】
MUC1糖ペプチドをPBSに1μg/mLとなるように希釈し、100μLを96ウェルELISAプレートImmobilizer Amino(Thermo Fisher Scientific:436013)に加え、一晩4℃でインキュベートして固相化した。プレートを0.05%(v/v) Tween-20を含むPBS(PBS-T)で室温にて3回洗浄後、300μLのTBS(50mM Tris,pH8.0-0.15M NaCl-0.1%(W/V)NaN3)で4℃で一晩ブロッキングした。プレートをPBSTで2回洗浄後、精製抗体は0.25μg/mLとなるように1%(W/V)BSA/PBSで希釈し、あるいはハイブリドーマ培養上清は原液で50μLを加え、室温にて2時間インキュベートした。プレートをPBS-Tで3回洗浄後、1%(W/V)BSA/PBSで2500倍希釈したHRP標識ヤギ抗マウスIgG(H+L)(Jackson ImmunoResearch Laboratories:115-035-146)を100μL加え、室温にて1時間インキュベートした。プレートをPBSTで5回洗浄後、Super AquaBlue ELISA Substrate(Thermo Fisher Scientific:00-4203-56)を100μL加え、室温にてインキュベートした。405/492nmの吸光度を、Multiscan FC spectrophotometer(Thermo Fisher Scientific)にて測定した。実験はデュプリケートで行った。
【0062】
その結果、STnが付加されたペプチドへの結合性から6種類の抗体は、3つのカテゴリーに分かれた(
図12)。
第一のカテゴリーは、2F7-1B1-1F8及びM3S-4の2クローンであり、MUC1タンデムリピート配列中のセリンまたはスレオニンに1ヶ所だけSTnが結合した糖ペプチドに特異的に結合し、それぞれSTn-T8、STn-S19に特異的であった。
第二のカテゴリーは、7G9-1A4-1H4、M5S-1、M5S-8の3クローンであり、MUC1タンデムリピート配列中のセリンまたはスレオニンに1ヶ所だけSTnが結合した糖ペプチドには結合性を示さず、MUC1_3STnまたはMUC1_5STnに結合性を示した。特にM5S-8は、MUC1_5STnのみに特異的に結合した。
第三のカテゴリーは、M5S-10の1クローンであり、STn付加の有無によらず、検討したすべてのMUC1ペプチド及び糖ペプチドに結合性を示した。
【0063】
2F7-1B1-1F8抗体は、MUC1糖ペプチドSTn-T8をエピトープとする可能性が考えられたが、エピトープが糖鎖構造に依存するのかを調べるため、T8上の糖鎖構造が異なるMUC1糖ペプチドを合成し、反応性を検証した。その結果、2F7-1B1-1F8はMUC1ペプチドのT8にGalNAc残基(以下Tn)、Galβ1-3GalNAc残基(以下T)、NeuAcα2-3Galβ1-3GalNAc残基(以下ST)が結合した糖ペプチドに結合せず、STnが結合した糖ペプチドにのみ結合した(
図13(a))。このことから、2F7-1B1-1F8のエピトープは、MUC1繰り返し配列中のT8にSTnが結合したものであることが確認された。
【0064】
7G9-1A4-1H4抗体は、1ヶ所だけSTnが結合したMUC1糖ペプチドには結合性を示さずMUC1_3STnまたはMUC1_5STnに結合性を示したが、この反応性が糖鎖構造に依存するのかを調べるため、MUC1_3TnまたはMUC1_5Tnとの反応性を検証した。その結果、7G9-1A4-1H4は、MUC1_3TnまたはMUC1_5Tnには結合せず、MUC1_3STnまたはMUC1_5STnとのみ結合した(
図13(b))。このことから、7G9-1A4-1H4のエピトープにはSTnが必須であることが確認された。
【0065】
M3S-4抗体は、MUC1糖ペプチドSTn-S19をエピトープとする可能性が考えられたが、エピトープが糖鎖構造に依存するのかを調べるため、S19上の糖鎖構造が異なるMUC1糖ペプチドを合成し、反応性を検証した。
図14(a)に示すように、S19上にGalNAc残基(以下Tn)、NeuAcα2-6GalNAc残基(以下STn)、Galβ1-3GalNAc残基(以下T)、NeuAcα2-3Galβ1-3GalNAc残基(以下ST)が結合した4種類の糖ペプチドを合成し、ELASAプレートに固相化した後、M3S-4を反応させた。その結果、M3S-4はTn-S19とSTn-S19に反応し、特に、STn-S19に良く反応した。一方で糖鎖なしのペプチド、T-S19やST-S19には反応しなかった
図14(c)。この結果から、M3S-4のエピトープはMUC1繰り返し配列中のS19にSTnが結合したもので最良であることが確認された。
【0066】
続いて、M5S-10に関して、エピトープ解析を行った。M5S-10は、糖鎖がないMUC1ペプチドに反応したことから、糖ペプチド上の糖鎖構造は抗原エピトープに関与しないことが予想されたが、S9部位の糖鎖にフォーカスしたELISA解析の結果、エピトープは糖鎖に関係がないことが確認された(
図14(b,d))。しかしながら、ウエスタンブロットやFACS解析においては、MUC1の発現だけでは十分ではなく、MUC1とSt6galnac1の共発現が抗体の反応性に必須である。MUC1タンパク質の場合はSTnが結合することで、立体構造に影響を与えて、エピトープを顕在化させている可能性が考えられた。しかしながら、ウエスタンブロットやFACS解析においては、MUC1の発現だけでは十分ではなく、MUC1とSt6galnac1の共発現が抗体の反応性に必須である。MUC1タンパク質の場合はSTnが結合することで、立体構造に影響を与えて、エピトープを顕在化させている可能性が考えられた。
【0067】
実施例5(STn-MUC1抗体の大量発現)
ハイブリドーマ細胞株は、RPMI1640に10%FBSを添加した培地を用いて5%CO2、37℃で拡大培養した。得られたハイブリドーマ細胞の培養上清(100mL~1L程度、必要量に応じて適宣)から抗体を精製した。STn-MUC1モノクローナル抗体は、慣用的技術によって回収可能であり、抗体の精製が必要な場合には、イオン交換クロマトグラフィー法、プロテインA又はプロテインG等によるアフィニティークロマトグラフィー法、ゲルクロマトグラフィー法、硫酸アンモニウム塩析法等、公知の方法を用いて精製した。
【0068】
実施例6(STn-MUC1抗体cDNAのクローニングと発現)
約1x103のハイブリドーマ細胞を回収した。それぞれの細胞のRNAを調製し、抗体遺伝子(IgG、重鎖と軽鎖)特異的なプライマーを用いてreverse transcription PCR(RT-PCR)を行い、可変領域を含むcDNAを増幅し調製した(Jin et al.Nat.Med.(2009)15:1088-1092.))。定常領域の相同な配列を含むプラスミドDNAを導入して大腸菌を形質転換し、抗体産生プラスミドを作製した。得られた抗体産生プラスミドをHEK293T細胞などにトランスフェクションし、抗体を含む培養上清を用いて再度抗原との反応性を確認した。抗原反応性を有するプラスミドDNAについてのみ配列を確認し、それぞれの確定抗体cDNAとした。各抗体cDNAの配列決定は、BigDye Terminator v3.1(Thermo Fisher Scientific)とCMVプロモーター用プライマーを用いサーマルサイクラー(BioRad)にて反応、未反応試薬をFastGene Dye Terminator Removal Kit(日本ジェネティクス)で除去した後に、キャピラリーシーケンサー(Thermo Fisher Scientific社製)で行った。得られたcDNA配列はホモロジー検索を行い既存の既知の抗体遺伝子配列との比較を行った。
【0069】
2F7-1B1-1F8、7G9-1E8-2H4、M5S-1、M5S-8、M5S-10、M3S-4抗体のVH鎖とVL鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列を
図15及び表6に示す。配列は、DNA配列解析の結果得られた核酸配列をアミノ酸に変換したものである。
【0070】
【0071】
発現ベクターに組み込まれた抗体cDNA(重鎖(G)と軽鎖(K))は、GenEluteTM HP Endotoxin-Free Plasmid Maxiprep Kit(Sigma-Aldrich)で調製し、Lipofectamine LTX Reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いてHEK293T細胞にトランスフェクションした。タンパク質フリーの培地に交換して3日後の培養液から抗体を精製した。マウスIgG抗体はProGビーズを用いて回収し、0.1M グリシン(pH2.5)にて溶出し、3M Tris-Cl(pH8.5)で中和後にPBSにバッファー交換した。精製した抗体は、12.5%SDS-PAGEで展開し銀染色法あるいはHRPラベル化抗マウスIgG抗体を用いたウエスタンブロット法にて確認した。