(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010670
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、硬化性フィルム、及び、積層フィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20240117BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240117BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240117BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20240117BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20240117BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240117BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20240117BHJP
C09J 115/00 20060101ALI20240117BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240117BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L63/00 A
C08K3/013
C08K9/04
C08G59/40
H05K1/03 610L
H05K1/03 610S
C09J7/30
C09J115/00
C09J11/06
C09J11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113194
(22)【出願日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2022111967
(32)【優先日】2022-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】大古田 耀平
(72)【発明者】
【氏名】正木 剛史
(72)【発明者】
【氏名】川守 崇司
【テーマコード(参考)】
4J002
4J004
4J036
4J040
【Fターム(参考)】
4J002AC001
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002AC101
4J002AC111
4J002BB151
4J002BB181
4J002BB241
4J002BD121
4J002BG041
4J002BP011
4J002CC044
4J002CC054
4J002CC083
4J002CD002
4J002CD022
4J002CD042
4J002CD052
4J002CD062
4J002CE003
4J002CH041
4J002CK021
4J002CP031
4J002DE097
4J002DE107
4J002DE137
4J002DE147
4J002DE187
4J002DE237
4J002DG057
4J002DJ007
4J002DJ017
4J002DJ047
4J002DK007
4J002EU116
4J002FB107
4J002FB137
4J002FD017
4J002FD142
4J002FD143
4J002FD144
4J002FD156
4J002GJ02
4J002GQ01
4J004AA05
4J004BA02
4J004DB03
4J004EA05
4J004FA05
4J004FA08
4J036AA01
4J036AE07
4J036DA02
4J036DC41
4J036FA05
4J036FB01
4J036FB05
4J036FB06
4J036FB08
4J040CA001
4J040DM011
4J040GA11
4J040KA16
4J040KA17
4J040KA23
4J040KA28
4J040KA29
4J040KA31
4J040KA35
4J040KA36
4J040KA42
4J040MA02
4J040MA10
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】溶融粘度を低減できる硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)ゴム成分と、(B)エポキシ基を有する架橋成分と、(C)硬化剤と、(D)硬化促進剤と、(E)フィラーと、を含有し、(C)硬化剤が、エステル系硬化剤及びフェノール系硬化剤を含む、硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ゴム成分と、(B)エポキシ基を有する架橋成分と、(C)硬化剤と、(D)硬化促進剤と、(E)フィラーと、を含有し、
前記(C)硬化剤が、エステル系硬化剤及びフェノール系硬化剤を含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
多層プリント配線板の層間接着剤として用いられる、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)ゴム成分が、アクリルゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブチレンスチレンゴム、スチレンエチレンプロピレンスチレンゴム、スチレンエチレンブチレンスチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、硫化ゴム、エピクロルヒドリンゴム、及び塩素化ブチルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムを含む、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)ゴム成分が、架橋基を有するゴムを含む、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記架橋基が、酸無水物基又はカルボキシ基のうちの少なくとも一方である、請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)エポキシ基を有する架橋成分の重量平均分子量が200~1000である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(D)硬化促進剤の含有量が、前記(A)ゴム成分、前記(B)エポキシ基を有する架橋成分及び前記(C)硬化剤の合計量100質量部に対して、0.1~10質量部である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記(E)フィラーが、表面処理フィラーを含む、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記表面処理フィラーが、エポキシ基、ビニル基及びフェニルアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有するフィラーを含む、請求項8に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記(E)フィラーの含有量が、硬化性樹脂組成物の固形分全量を基準として30~75質量%である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
前記(E)フィラーの平均粒径が、0.01~5.0μmである、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物からなる硬化性フィルム。
【請求項13】
基材フィルムと、前記基材フィルム上に設けられた請求項12に記載の硬化性フィルムと、を備える積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硬化性樹脂組成物、硬化性フィルム、及び、積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板における伝送信号の高速化に伴い、信号の高周波化が進んでいる。これに伴い、プリント配線板には、高周波領域での低誘電特性(低誘電率、低誘電正接)の要求が高まっている。また、プリント配線板の回路を被覆する保護層(カバーレイ)、多層プリント配線板における層間接着剤等にも、基材等との接着性を有することに加えて、低誘電特性を有することが求められている。低誘電特性を有する硬化物が得られる樹脂組成物として、例えば特許文献1には、スチレン系エラストマーを含む接着剤組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エラストマーを用いた接着剤組成物は、誘電特性に優れる硬化物を得やすい傾向がある反面、エラストマーの分子量が大きく流動性が低いため、接着剤組成物の溶融粘度が高くなる傾向がある。そして、接着剤組成物の溶融粘度が高いと、プリント配線板の回路を十分に埋め込むことが困難となる。
【0005】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、溶融粘度を低減できる硬化性樹脂組成物、それを用いた硬化性フィルム、及び、積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は、以下の硬化性樹脂組成物、硬化性フィルム、及び、積層フィルムを提供する。
【0007】
[1](A)ゴム成分と、(B)エポキシ基を有する架橋成分と、(C)硬化剤と、(D)硬化促進剤と、(E)フィラーと、を含有し、上記(C)硬化剤が、エステル系硬化剤及びフェノール系硬化剤を含む、硬化性樹脂組成物。
[2]多層プリント配線板の層間接着剤として用いられる、上記[1]に記載の硬化性樹脂組成物。
[3]上記(A)ゴム成分が、アクリルゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブチレンスチレンゴム、スチレンエチレンプロピレンスチレンゴム、スチレンエチレンブチレンスチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、硫化ゴム、エピクロルヒドリンゴム、及び塩素化ブチルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムを含む、上記[1]又は[2]に記載の硬化性樹脂組成物。
[4]上記(A)ゴム成分が、架橋基を有するゴムを含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[5]上記架橋基が、酸無水物基又はカルボキシ基のうちの少なくとも一方である、上記[4]に記載の硬化性樹脂組成物。
[6]上記(B)エポキシ基を有する架橋成分の重量平均分子量が200~1000である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[7]上記(D)硬化促進剤の含有量が、上記(A)ゴム成分、上記(B)エポキシ基を有する架橋成分及び上記(C)硬化剤の合計量100質量部に対して、0.1~10質量部である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[8]上記(E)フィラーが、表面処理フィラーを含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[9]上記表面処理フィラーが、エポキシ基、ビニル基及びフェニルアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有するフィラーを含む、上記[8]に記載の硬化性樹脂組成物。
[10]上記(E)フィラーの含有量が、硬化性樹脂組成物の固形分全量を基準として30~75質量%である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[11]上記(E)フィラーの平均粒径が、0.01~5.0μmである、上記[1]~[10]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[12]上記[1]~[11]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物からなる硬化性フィルム。
[13]基材フィルムと、上記基材フィルム上に設けられた上記[12]に記載の硬化性フィルムと、を備える積層フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、溶融粘度を低減できる硬化性樹脂組成物、それを用いた硬化性フィルム、及び、積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。「固形分」とは、樹脂組成物において、揮発する物質(水、溶剤等)を除いた不揮発分を指す。すなわち、「固形分」とは、後述する樹脂組成物の乾燥において揮発せずに残る溶剤以外の成分を指し、室温(25℃)で液状、水飴状又はワックス状の成分も含む。本明細書において、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及びそれに対応する「メタクリル酸」を意味し、他の類似語についても同様である。
【0011】
[硬化性樹脂組成物]
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、(A)ゴム成分と、(B)エポキシ基を有する架橋成分と、(C)硬化剤と、(D)硬化促進剤と、(E)フィラーと、を含有し、(C)硬化剤が、エステル系硬化剤及びフェノール系硬化剤を含む。本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、プリント配線板における電気回路を被覆する保護層(カバーレイ)形成用、多層プリント配線板における層間接着剤等として用いることができる。本実施形態に係る硬化性樹脂組成物によれば、被着体、例えば、プリント配線板の金属部分、基材等のプリント配線板を構成する材料との接着性を有しつつ、エステル系硬化剤及びフェノール系硬化剤を併用することで、溶融粘度(最低溶融粘度)を低減することができる。溶融粘度を低減できることから、本実施形態に係る硬化性樹脂組成物によれば、保護層形成用又は層間接着剤として用いた場合に、プリント配線板の回路を十分に埋め込むことができる。
【0012】
また、本実施形態に係る硬化性樹脂組成物によれば、高周波領域での低誘電特性に優れ、且つ、(E)フィラーを含むことで線膨張係数が低い硬化物(保護層及び接着剤層等)を形成することができる。そのため、本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、プリント配線板の保護層形成用及び層間接着剤として好適に用いることができ、特に溶融粘度を低減でき且つ硬化物の低線膨張係数を実現できることから、層間接着剤として好適に用いることができる。以下、硬化性樹脂組成物中に含まれ得る各成分について説明する。
【0013】
<(A)ゴム成分>
(A)ゴム成分は、例えば、アクリルゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブチレンスチレンゴム、スチレンエチレンプロピレンスチレンゴム、スチレンエチレンブチレンスチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、硫化ゴム、エピクロルヒドリンゴム、及び塩素化ブチルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムを含むことができる。吸湿等による絶縁信頼性への影響低減、接続信頼性への影響低減、及び配線へのダメージ低減の観点から、ガス透過性が低いゴム成分を用いてもよい。係る観点から、(A)ゴム成分が、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、スチレンエチレンブチレンスチレンゴム、及びブチルゴムから選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。(A)ゴム成分は、スチレンエチレンブチレンスチレンゴムを含んでもよい。
【0014】
アクリルゴムの市販品としては、例えば日本ゼオン株式会社「Nipol ARシリーズ」、株式会社クラレ「クラリティシリーズ」が挙げられる。
【0015】
イソプレンゴムの市販品としては、例えば日本ゼオン株式会社「Nipol IRシリーズ」が挙げられる。
【0016】
ブタジエンゴムの市販品としては、例えば日本ゼオン株式会社「Nipol BRシリーズ」等が挙げられる。
【0017】
アクリロニトリルブタジエンゴムの市販品としては、例えば株式会社ENEOSマテリアル「NBRシリーズ」(旧:JSR株式会社「JSR NBRシリーズ」)が挙げられる。
【0018】
シリコーンゴムの市販品としては、例えば信越シリコーン株式会社「KMPシリーズ」が挙げられる。
【0019】
エチレンプロピレンゴムの市販品としては、例えば株式会社ENEOSマテリアル「EPシリーズ」(旧:JSR株式会社「JSR EPシリーズ」)等が挙げられる。
【0020】
フッ素ゴムの市販品としては、例えばダイキン株式会社「ダイエルシリーズ」等が挙げられる。
【0021】
エピクロルヒドリンゴムの市販品としては、例えば日本ゼオン株式会社「Hydrinシリーズ」が挙げられる。
【0022】
(A)ゴム成分は、合成により作製することもできる。例えば、アクリルゴムでは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物等を反応させることにより得られる。
【0023】
(A)ゴム成分は、架橋基を有するゴムを含んでいてもよい。架橋基を有するゴムを用いることにより、硬化物の強度、耐熱性及び接着性が向上し易い傾向がある。架橋基は、(A)ゴム成分の分子鎖を架橋する反応を進行させ得る反応性基であればよい。その例としては、後述する(B)架橋成分が有する反応性基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、エポキシ基及びカルボキシ基が挙げられる。
【0024】
(A)ゴム成分は、酸無水物基又はカルボキシ基のうち少なくとも一方の架橋基を有するゴムを含んでいてもよい。酸無水物基を有するゴムの例としては、無水マレイン酸で部分的に変性されたゴムが挙げられる。無水マレイン酸で部分的に変性されたゴムは、無水マレイン酸に由来する構成単位を含む重合体である。(A)ゴム成分は、無水マレイン酸で部分的に変性されたゴムを含んでいてもよい。無水マレイン酸で部分的に変性されたゴムの市販品としては、例えば、旭化成株式会社製のスチレン系エラストマー「タフプレン912」がある。
【0025】
無水マレイン酸で部分的に変性されたゴムは、無水マレイン酸で部分的に変性された水素添加型スチレン系エラストマーであってもよい。水素添加型スチレン系エラストマーは、接続信頼性向上、絶縁信頼性向上、及び耐候性向上等の効果も期待できる。水素添加型スチレン系エラストマーは、不飽和二重結合を含むソフトセグメントを有するスチレン系エラストマーの不飽和二重結合に水素を付加反応させて得られるエラストマーである。無水マレイン酸で部分的に変性された水素添加型スチレン系エラストマーの市販品の例としては、クレイトンポリマージャパン株式会社の「FG1901」、「FG1924GT」、旭化成株式会社の「タフテックM1911」、「タフテックM1913」、「タフテックM1943」がある。無水マレイン酸で部分的に変性された水素添加型スチレン系エラストマーは、無水マレイン酸で部分的に変性された水素添加型スチレンエチレンブチレンスチレンエラストマーであってもよい。
【0026】
(A)ゴム成分の重量平均分子量は、塗膜性、回路埋込性の観点から、20000~200000、30000~150000、又は50000~125000であってもよい。ここでの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求められる標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0027】
硬化性樹脂組成物において、(A)ゴム成分の含有量は、(A)ゴム成分、(B)架橋成分及び(C)硬化剤の総量を基準として、60~95質量%であることが好ましく、65~90質量%であることがより好ましく、65~85質量%であることが更に好ましい。(A)ゴム成分の含有量が60質量%以上であると、ゴム成分と架橋成分がよく混ざり合う傾向がある。(A)ゴム成分の含有量が95質量%以下であると、得られる硬化物が接着性、接続信頼性、絶縁信頼性、及び耐熱性の点で特に優れた特性を有する傾向がある。硬化物における(A)ゴム成分の含有量が、硬化物の質量を基準として、上記範囲内にあってもよい。
【0028】
<(B)エポキシ基を有する架橋成分>
(B)エポキシ基を有する架橋成分は、硬化反応時に架橋して架橋重合体を形成する成分である。(B)エポキシ基を有する架橋成分は、(A)ゴム成分に該当しない成分である。(B)エポキシ基を有する架橋成分は、分子内にエポキシ基を有していれば特に制限されず、例えば一般的なエポキシ樹脂であることができる。エポキシ樹脂としては、単官能、2官能又は多官能(3官能以上)のいずれでもよく、特に制限はないが、硬化性をより十分に得る観点から、2官能又は多官能のエポキシ樹脂を用いてもよい。
【0029】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型、ナフタレン型、ジシクロペンタジエン型、クレゾールノボラック型等のエポキシ樹脂が挙げられる。低タック性、誘電特性、及び耐熱性の観点から、(B)エポキシ基を有する架橋成分として、ナフタレン型型又はジシクロペンタジエン型のエポキシ樹脂を選択してもよく、ジシクロペンタジエン型のエポキシ樹脂を選択してもよい。これらのエポキシ樹脂は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
無水マレイン酸基又はカルボキシ基を有するゴムと、エポキシ基を有する化合物(エポキシ樹脂)との組み合わせにより、硬化物の耐熱性、低透湿度、接着性の点で、特に優れた効果が得られる傾向がある。硬化物の耐熱性が向上すると、例えば窒素リフローのような加熱工程における硬化物の劣化を抑制することができる。
【0031】
(B)エポキシ基を有する架橋成分の重量平均分子量は、例えば、200~2000であってよいが、樹脂組成物の流動性、硬化物の誘電特性の観点から、200~1000であることが好ましく、250~800であることがより好ましく、300~550であることが更に好ましく、350~450であることが特に好ましい。
【0032】
(B)エポキシ基を有する架橋成分の数平均分子量は、例えば、100~1000であってよいが、樹脂組成物の流動性、硬化物の誘電特性の観点から、150~500であることが好ましく、200~400であることがより好ましく、250~350であることが更に好ましく、250~300であることが特に好ましい。
【0033】
上述した重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求められる標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0034】
(B)エポキシ基を有する架橋成分のエポキシ当量は、例えば、200~330g/eqであってよいが、樹脂組成物の流動性、硬化物の誘電特性の観点から、220~310g/eq、220~290g/eq、220~270g/eq、又は230~260g/eqであってよい。
【0035】
硬化性樹脂組成物は、本開示の効果を著しく損なわない範囲で、(B)エポキシ基を有する架橋成分以外の他の架橋成分を含んでいてもよい。他の架橋成分の含有量は、硬化物の誘電正接をより十分に低減する観点から、(B)エポキシ基を有する架橋成分100質量部に対して10質量部未満であることが好ましい。
【0036】
<(C)硬化剤>
硬化剤は、それ自体が硬化反応に関与する化合物である。本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、エステル系硬化剤及びフェノール系硬化剤の2種類の硬化剤を少なくとも含む。硬化性樹脂組成物は、エステル系硬化剤及びフェノール系硬化剤の2種類を含むことで、溶融粘度を低減することができる。
【0037】
エステル系硬化剤は、硬化物の耐熱性を向上しつつ、硬化物の誘電正接を低減することができる。
【0038】
エステル系硬化剤としては特に制限されないが、耐熱性の向上効果及び誘電正接の低減効果をより十分に得る観点から、フェノールエステル類、ジシクロペンタジエン構造を含有するエステル類、ナフタレン構造を含有するエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の反応活性の高いエステル基を1分子中に1個又は2個以上有する化合物が好ましく用いられる。エステル系硬化剤としては、ナフタレン構造を含有する化合物を用いてもよい。エステル系硬化剤としてより具体的には、例えば、「EPICLON HPC8000-65T」、「EPICLON HPC8000-L-65MT」、「EPICLON HPC8150-60T」、「EPICLON HPC8150-62T」、「EPICLON HPC8150-65T」(いずれもDIC株式会社製の商品名)等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
エステル系硬化剤は、硬化反応時に下記式(I)に示すように(B)架橋成分と反応するものと考えられる。このようなエステル系硬化剤と、(B)架橋成分との反応において水酸基は生成せず、また、副反応が生じたとしても水酸基は生成し難く、その結果、低い誘電正接を実現できるものと考えられる。
【0040】
【化1】
式中、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ独立に、1価の有機基を示すが、本開示の効果がより十分に得られることから、芳香環を有する1価の有機基であってもよい。
【0041】
フェノール系硬化剤は、エステル系硬化剤と併用することで、硬化性樹脂組成物の溶融粘度を低減できると共に、硬化物の接着性を有しつつ、硬化物の誘電正接を低減することができる。本実施形態に係る硬化性樹脂組成物においては、フェノール系硬化剤が(A)ゴム成分と相互作用することで、(A)ゴム成分に起因した流動性の低下を抑制でき、硬化性樹脂組成物の溶融粘度を低減できるものと考えられる。
【0042】
フェノール系硬化剤としては特に制限されないが、アルキルフェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、末端にフェノール性水酸基を有する樹脂等が挙げられる。硬化性樹脂組成物の溶融粘度の低減効果、及び硬化物の耐熱性の向上効果をより十分に得る観点から、フェノール系硬化剤は、例えば、アルキルフェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂等であってよく、アルキルフェノール樹脂であってよい。硬化性樹脂組成物の溶融粘度の低減効果、硬化物の耐熱性の向上効果、硬化物の接着性の向上効果及び硬化物の誘電正接の低減効果をより十分に得る観点から、フェノール系硬化剤は、例えば、末端にフェノール性水酸基を有する樹脂等であってよい。フェノール系硬化剤は、上記効果を更に十分に得る観点から、例えば、「PR1501」(昭和電工マテリアルズ株式会社製)、「FTC509」(群栄化学工業株式会社製)として入手可能である。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
硬化性樹脂組成物は、本開示の効果を著しく損なわない範囲で、エステル系硬化剤及びフェノール系硬化剤以外の他の硬化剤を含んでいてもよい。他の硬化剤の含有量は、硬化性樹脂組成物の溶融粘度、及び、硬化物の誘電正接をより十分に低減する観点から、エステル系硬化剤及びフェノール系硬化剤の合計100質量部に対して10質量部未満であることが好ましい。
【0044】
硬化性樹脂組成物において、(B)架橋成分及び(C)硬化剤の合計の含有量は、(A)ゴム成分、(B)架橋成分及び(C)硬化剤の総量を基準として、5~40質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましく、15~35質量%であることが更に好ましい。(B)架橋成分及び(C)硬化剤の合計の含有量が5質量%以上であると、より十分な硬化が得られ易いと共に、硬化物が接着性、絶縁信頼性、及び耐熱性の点で特に優れた特性を有する傾向がある。(B)架橋成分及び(C)硬化剤の合計の含有量が40質量%以下であると、より十分な伸縮性が得られ易く、かつゴム成分と架橋成分がよく混ざり合う傾向がある。
【0045】
硬化性樹脂組成物において、(B)架橋成分とエステル系硬化剤及びフェノール系硬化剤との含有量比は、(B)エポキシ樹脂中のエポキシ基と、エステル系硬化剤中のエステル結合及びフェノール系硬化剤中のフェノール性水酸基の合計との当量比で、4:5~5:4の範囲であることが好ましく、4.5:5~5:4.5の範囲であることがより好ましい。含有量比が上記範囲内であることで、より十分な硬化が得られ易いと共に、硬化物が接着性、絶縁信頼性、及び耐熱性の点で特に優れた特性を有する傾向がある。
【0046】
硬化性樹脂組成物において、フェノール系硬化剤の含有量は、(A)ゴム成分、(B)架橋成分及び(C)硬化剤の総量を基準として、2~20質量%であることが好ましく、5~10質量%であることがより好ましい。フェノール系硬化剤の含有量が2質量%以上であると、硬化性樹脂組成物の溶融粘度をより低減できる傾向があり、20質量%以下であると、硬化物の誘電正接をより低減できる傾向がある。
【0047】
<(D)硬化促進剤>
(D)硬化促進剤は、硬化反応の触媒として機能する化合物である。(D)硬化促進剤は、三級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、リン系化合物、ルイス酸、アミン錯塩及びホスフィンから選ばれるものであってもよい。これらの中でも、硬化性樹脂組成物のワニスの保存安定性、硬化性、硬化物の誘電特性の観点から、イミダゾールを使用してもよい。(A)ゴム成分が無水マレイン酸で部分的に変性されたゴムを含む場合、これと相溶するイミダゾールを選択してもよい。イミダゾールは、1-ベンジル-2-メチルイミダゾールであってもよい。
【0048】
硬化性樹脂組成物において、(E)硬化促進剤の含有量は、(A)ゴム成分、(B)架橋成分及び(C)硬化剤の合計量100質量部に対して、0.1~10質量部であってもよい。(E)硬化促進剤の含有量が0.1質量部以上であると、より十分な硬化が得られ易い傾向がある。(E)硬化促進剤の含有量が10質量部以下であると、耐熱性、誘電特性、硬化性樹脂組成物のワニス、フィルム等の保存安定性、が向上する傾向がある。以上の観点から、(E)硬化促進剤の含有量は0.1~7質量部、0.3~5質量部、又は、0.3~3質量部であってもよい。
【0049】
<(E)フィラー>
硬化性樹脂組成物が(E)フィラーを含有する場合、硬化物の線膨張係数(CTE)を低減することができる。
【0050】
(E)フィラーとしては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、及びフェニルアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有するフィラーであってよい。これらの基を有することで、フィラー界面での樹脂成分との相溶性、フィラーの分散性、硬化性樹脂組成物の保存安定性、硬化物の線膨張係数、硬化物の接着性の点で、特に優れた特性を有する傾向がある。そのため、硬化性樹脂組成物を、多層プリント配線板の層間接着剤としてより好適に用いることができる。
【0051】
(E)フィラーとしては、線膨張係数、接着性の観点から、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、及びフェニルアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有するフィラーを含むことが好ましく、ビニル基、エポキシ基、及びフェニルアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有するフィラーを含むことがより好ましく、エポキシ基を有するフィラーを含むことが更に好ましい。
【0052】
(E)フィラーとしては、線膨張係数、及び、低極性の樹脂基材に対する接着性の観点からは、ビニル基又はエポキシ基を有するフィラーが更に好ましく、同じ観点から、エポキシ基を有するフィラーが特に好ましい。低極性の樹脂基材としては、例えば、液晶ポリマーを挙げることができる。
【0053】
(E)フィラーは、表面処理が施されたフィラーであってよい。表面処理フィラーは、フィラーの表面を有機シラン化合物等の表面処理剤で処理することで得ることができる。フィラーの表面を処理することで、フィラー界面での樹脂成分との相溶性、フィラーの分散性、硬化性樹脂組成物の保存安定性、硬化物の線膨張係数、硬化物の接着性の点で、特に優れた特性を有する傾向がある。そのため、(E)フィラーとして表面処理が施されたフィラーを用いることで、硬化性樹脂組成物を、多層プリント配線板の層間接着剤としてより好適に用いることができる。表面処理としては、表面修飾であってよい。
【0054】
表面処理フィラーとしては、線膨張係数、接着性の観点から、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、及びフェニルアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有するフィラーを含むことが好ましく、ビニル基、エポキシ基、及びフェニルアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有するフィラーを含むことがより好ましく、エポキシ基を有するフィラーが更に好ましい。
【0055】
表面処理フィラーとしては、線膨張係数、及び、低極性の樹脂基材に対する接着性の観点からは、ビニル基又はエポキシ基を有するフィラーが更に好ましく、同じ観点から、エポキシ基を有するフィラーが特に好ましい。低極性の樹脂基材としては、例えば、液晶ポリマーを挙げることができる。
【0056】
上述した表面処理フィラーを用いた場合、硬化性樹脂組成物の硬化物は、プリント配線板を構成する材料等との接着性がより向上する傾向にあり、特に、低粗化又は無粗化の表面を有する基材との接着性がより向上する傾向にある。従来の硬化性樹脂組成物では、例えば無粗化の液晶ポリマーフィルムに対する接着性を高めることが困難であったが、上述した表面処理フィラーを含有する硬化性樹脂組成物の硬化物は、低極性の樹脂基材、例えば無粗化の液晶ポリマーフィルムに対して良好な接着性を得ることができる傾向にある。
【0057】
硬化性樹脂組成物の流動性と硬化物の線膨張係数の低減とを両立する観点から、(E)フィラーの含有量は、硬化性樹脂組成物の固形分全量を基準として30~75質量%、30~70質量%、40~70質量%、又は、50~70質量%であってもよい。(E)フィラーの含有量が上記範囲内であると、硬化性樹脂組成物の流動性と硬化物の線膨張係数低減とを両立することができる。
【0058】
(E)フィラーの平均粒径は、硬化物の誘電特性、接着性、及びフィルム外観に優れる観点から、0.01μm以上、0.1μm以上、又は、0.2μm以上であってもよく、5.0μm以下、4.0μm以下、3.0μm以下、1.0μm以下、又は、0.8μm以下であってもよい。すなわち、(E)フィラーの平均粒径は、0.01~5.0μm、0.1~4.0μm、0.2~3.0μm、0.2~1.0μm、又は、0.2~0.8μmであってもよい。(E)フィラーの平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求められる粒度分布における積算頻度50%の粒径を意味する。
【0059】
(E)フィラーとしては、線膨張係数をより低減し、弾性率を向上する観点から、無機フィラーを用いてもよい。無機フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化タンタル、ジルコニア、窒化ケイ素、酸化ガリウム、窒化ホウ素、チタン酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛、スピネル、ムライト、コーディエライト、タルク、チタン酸アルミニウム、イットリア含有ジルコニア、硫酸バリウム、ケイ酸バリウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、及びチタン酸マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物を含有するフィラーが挙げられる。無機フィラーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。これらの中でも、無機フィラーは、分散性、硬化物の耐熱性の観点から、シリカ、アルミナ、チタニア、又は窒化ホウ素のいずれかを含有する無機フィラーであってもよい。無機フィラーは、誘電特性の観点から、シリカを含有する無機フィラーであってもよい。
【0060】
(E)フィラーとしては、有機フィラーを用いてもよい。有機フィラーは一般的に粒子状のものであり、有機溶剤に溶解せず分散するものである。また、有機フィラーは(A)ゴム成分に該当しないものである。有機フィラーとしては、液晶ポリマー(LCP)、及び、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等からなるフィラーが挙げられる。有機フィラーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。また、(E)フィラーは、無機フィラーの1種又は2種以上と、有機フィラーの1種又は2種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0061】
(E)フィラーとしては、分散性及び耐熱性の観点から、シリカ、アルミナ、チタニア、又は窒化ホウ素を表面処理した無機フィラーであってよく、シリカ、アルミナ、又は窒化ホウ素を表面処理した無機フィラーであってよい。(E)フィラーは、線膨張係数及び接着性の観点から、シリカを表面処理した、表面処理シリカフィラーであってよい。
【0062】
無機フィラーに対する表面処理剤としては、線膨張係数、接着性の観点から、エポキシシラン化合物、アミノシラン化合物、(メタ)アクリルシラン化合物、ビニルシラン化合物等の有機シラン化合物を用いてもよい。
【0063】
有機シラン化合物としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、及び3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0064】
<その他の成分>
硬化性樹脂組成物は、以上の成分の他、必要に応じて、酸化防止剤、黄変防止剤、紫外線吸収剤、可視光吸収剤、着色剤、可塑剤、安定剤、充填剤、難燃剤、レベリング剤等を、本開示の効果を著しく損なわない範囲で更に含んでもよい。
【0065】
特に、硬化性樹脂組成物は、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、及び加水分解防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の劣化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤は、酸化による劣化を抑制する。また、酸化防止剤は、高温下での十分な耐熱性を硬化物に付与する。熱安定剤は、高温下での安定性を硬化物に付与する。光安定剤の例としては、紫外線による劣化を防止する紫外線吸収剤、光を遮断する光遮断剤、有機材料が吸収した光エネルギーを受容して有機材料を安定化する消光機能を有する消光剤が挙げられる。加水分解防止剤は、水分による劣化を抑制する。劣化防止剤は、酸化防止剤、熱安定剤、及び紫外線吸収剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。劣化防止剤としては、以上例示した成分から1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。より優れた効果を得るために、2種以上の劣化防止剤を併用してもよい。
【0066】
硬化性樹脂組成物は、上述した各成分を有機溶剤に溶解又は分散した樹脂ワニスとして調製してもよい。有機溶剤としては、特に制限はないが、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、p-シメン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の環状エーテル;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミドなどが挙げられる。溶解性及び沸点の観点から、トルエン、又はN,N-ジメチルアセトアミドを用いてもよい。これらの有機溶剤は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。樹脂ワニス中の固形分(有機溶剤以外の成分)濃度は、20~80質量%であってもよい。
【0067】
上記の樹脂ワニスの混合及び混練は、通常の攪拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を適宜、組み合わせて行うことができる。
【0068】
[硬化性フィルム及び積層フィルム]
本実施形態に係る硬化性フィルムは、上述の硬化性樹脂組成物からなる。硬化性フィルムは、例えば、硬化性樹脂組成物を含有する樹脂ワニスを基材フィルムに塗布し、塗膜から溶剤を除去することにより容易に製造することができる。この方法によれば、基材フィルムと、該基材フィルム上に設けられた硬化性フィルムとを備える積層フィルムを得ることができる。
【0069】
基材フィルム上の塗膜から、硬化性樹脂組成物が硬化しない程度の温度で、かつ、溶剤が充分に揮散する条件での乾燥によって、溶剤が除去される。具体的には、通常60~180℃で、0.1~90分間加熱することにより塗膜を乾燥する。得られた硬化性フィルムの好ましい残存揮発分は10質量%以下である。この残存揮発分が10質量%以下であると、組立加熱時の溶剤揮発による発泡が原因で硬化物内部にボイドが残存することを抑制し易い。また、加熱時に発生する揮発成分による周辺材料、あるいは部材の汚染を抑制し易い。
【0070】
基材フィルムの材質としては、特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン、液晶ポリマーが挙げられる。これらの中で、柔軟性及び強靭性の観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホンが好ましい。
【0071】
基材フィルムの厚さは、目的とする柔軟性により適宜変えてよいが、3~250μmであってよい。一般に、3μm以上であるとフィルム強度が十分であり、250μm以下であると十分な柔軟性が得られる。以上の観点から、厚さは5~200μm、又は、7~150μmであってよい。硬化性フィルムとの剥離性向上の観点から、シリコーン系化合物、含フッ素化合物等により離型処理が施された基材フィルムを必要に応じて用いてもよい。
【0072】
必要に応じて保護フィルムを硬化性フィルム上に貼り付け、基材フィルム、硬化性フィルム及び保護フィルムからなる3層構造の積層フィルムとしてもよい。
【0073】
保護フィルムの材質としては、特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンなどが挙げられる。これらの中で、柔軟性及び強靭性の観点から、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。硬化性フィルムとの剥離性向上の観点から、シリコーン系化合物、含フッ素化合物等により離型処理が施された保護フィルムを必要に応じて用いてもよい。
【0074】
保護フィルムの厚さは、目的とする柔軟性により適宜変えてよいが、10~250μmであってよい。一般に、厚さが10μm以上であるとフィルム強度が十分であり、250μm以下であると十分な柔軟性が得られる。以上の観点から、厚さは15~200μm、又は、20~150μmであってよい。
【0075】
硬化性フィルムの乾燥後の厚さは、特に限定されないが、通常は5~1000μmであってよい。厚さが5μm以上であると、硬化性フィルム又はその硬化物は十分な強度が得られ易い傾向がある。厚さが1000μm以下であると、乾燥が十分に行えるため硬化性フィルム中の残留溶媒量を低減し易い傾向がある。
【0076】
積層フィルムは、例えばロール状に巻き取ることによって容易に保存することができる。または、ロール状のフィルムから好適なサイズに切り出したシート状の積層フィルムを保存することもできる。
【0077】
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物、硬化性フィルム及び積層フィルムは、プリント配線板における電気回路を被覆する保護層(カバーレイ)形成用、及び、多層プリント配線板における層間接着剤として好適であり、特に層間接着剤として好適である。
【0078】
[プリント配線板]
本実施形態におけるプリント配線板は、電気回路(導体回路)を形成する金属部分と樹脂基材とから形成された積層体を構成要素として含むものである。プリント配線板は、例えば、金属張積層体を用いてサブトラクティブ法等の従来公知の方法により製造することができる。本実施形態におけるプリント配線板は、必要に応じて金属部分によって形成された導体回路を、部分的、或いは全面的にカバーレイフィルム又はスクリーン印刷インキ等を用いて被覆した、いわゆるフレキシブル回路板(FPC)、フラットケーブル、テープオートメーティッドボンディング(TAB)用の回路板などを総称している。
【0079】
本実施形態のプリント配線板は、プリント配線板として採用され得る任意の積層構成とすることができる。例えば、基材層、接着剤層、金属部分、及び保護層を有するプリント配線板とすることができる。
【0080】
さらに、必要に応じて、上記のプリント配線板を、層間接着剤を用いて2つもしくは3つ以上積層した多層プリント配線板の構成とすることもできる。
【0081】
本実施形態のプリント配線板において、基材層としては、従来からプリント配線板の基材として使用されている任意の基材が使用可能である。
【0082】
本実施形態のプリント配線板において、基材層としては、従来からプリント配線板の基材として使用されている任意の樹脂が使用可能である。基材層の樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂(PTFE等)などを例示することができる。
【0083】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、プリント配線板の各接着剤層、保護層、層間接着剤に使用することが可能である。特に本実施形態の硬化性樹脂組成物を用いてこれらの層を形成すると、流動性向上により埋込性及び成形性に優れ、硬化性樹脂組成物を用いて形成された層自体が低誘電特性に優れ、且つ、低線膨張係数を実現できる。本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物は、例えば、基材層、金属部分等のプリント配線板を構成する材料、特に、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂、PTFE等の低極性基材に対しても、優れた接着性を有する傾向がある。そのため、本実施形態の硬化性樹脂組成物は、多層プリント配線板の層間接着剤として好適である。また、本実施形態の硬化性樹脂組成物は、カバーレイフィルム、積層板、樹脂付き銅箔及びボンディングシートに用いる硬化性樹脂組成物としても好適である。また、本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は(A)ゴム成分を含有するため、その硬化物は柔軟性を有することができる。そのため、本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、フレキシブルプリント配線板の保護層形成用及び層間接着剤として好適に用いることができる。
【0084】
本実施形態のプリント配線板において、金属部分としては特に限定されないが、配線形成性の観点から、銅であってよい。銅を形成する材料としては、特に制限はなく、例えば銅張積層板及びプリント配線板等に用いられる電解銅箔及び圧延銅箔を使用できる。市販の電解銅箔としては、例えばF0-WS-18(古河電気工業株式会社製、商品名)、NC-WS-20(古河電気工業株式会社製、商品名)、YGP-12(日本電解株式会社製、商品名)、GTS-18(古河電気工業株式会社製、商品名)、及びF2-WS-12(古河電気工業株式会社製、商品名)、F2-WS-18(古河電気工業株式会社製、商品名)が挙げられる。圧延銅箔としては、例えばTPC箔(JX金属株式会社製、商品名)、HA箔(JX金属株式会社製、商品名)、HA-V2箔(JX金属株式会社製、商品名)、及びC1100R(三井住友金属鉱山伸銅株式会社製、商品名)が挙げられる。本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物との接着性の観点から、粗化処理を施している銅箔を使用してもよい。耐折性の観点から、圧延銅箔を用いてもよい。また、金属部分は、粗化処理によって形成された粗化面を有していてもよい。粗化処理を施している銅箔を使用する場合、伝送損失の観点からは、銅箔の粗化処理は最小限であることが好ましく、微細粗化の銅箔を使用することが好ましい。微細粗化の銅箔としては、例えば、FV(FHG)-WS(FV-WS/FHG-WS、銅箔製品、古河電気工業株式会社製、商品名)、FZ-WS(銅箔製品、古河電気工業株式会社製、商品名)が挙げられる。
【0085】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した硬化性樹脂組成物は、保護層(カバーレイ)形成用の組成物、又は、層間接着剤としての用途以外に、以下の用途に使用することができる。すなわち、硬化性樹脂組成物は、難接着材料のプライマー層、接着層付き低誘電材料の接着層等の用途に使用することができる。硬化性樹脂組成物の塗布方法としては特に限定されず、例えば、コンマコーター、バーコーター、ダイコーター、ディッピング、スピンコート等の塗布方法を用いることができる。また、上述した硬化性フィルムは、ビルドアップフィルム、樹脂付き銅箔の樹脂層、低誘電伸縮基材等の用途に使用することができる。
【実施例0086】
本開示について以下の実施例を挙げて更に具体的に説明する。ただし、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0087】
(実施例1~3及び比較例1)
<硬化性樹脂組成物の作製>
表1に示す各材料を、同表に示す固形分の割合(単位:質量部)で混合し、硬化性樹脂組成物を作製した。硬化性樹脂組成物は、溶剤としてトルエンを加えて、固形分40質量%になるように調製した。各材料の詳細を以下に示す。
【0088】
(A)ゴム成分
FG1924:無水マレイン酸変性スチレンエチレンブチレンスチレンエラストマー(クレイトンポリマージャパン株式会社、商品名「FG1924GT」)
【0089】
(B)エポキシ基を有する架橋成分
HP7200L:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名「EPICLON HP-7200L」、エポキシ当量:247g/eq、数平均分子量:288、重量平均分子量:401)
【0090】
(C)硬化剤
HPC8150-62T:エステル系硬化剤(DIC株式会社製、商品名「EPICLON HPC8150-62T」、ナフタレン構造を含有する活性エステル化合物、固形分62質量%のトルエン溶液)
PR1501:フェノール系硬化剤(昭和電工マテリアルズ株式会社製、商品名「PR1501」、アルキルフェノール樹脂)
FTC509:フェノール系硬化剤(群栄化学工業株式会社製、商品名「FTC509」、末端にフェノール性水酸基を有する樹脂)
【0091】
(D)硬化促進剤
1B2MZ:1-ベンジル-2-メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名「1B2MZ」)
【0092】
(E)フィラー
SC2050-MB:エポキシ基修飾シリカフィラー分散液(アドマテックス株式会社製、商品名「SC2050-MB」、平均粒径:0.50μm、溶剤:MEK、固形分:70質量%)
【0093】
<積層フィルムの作製>
基材フィルムとして離型処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡株式会社製、商品名「ピューレックスA3100」、厚さ25μm)を準備した。このPETフィルムの離型処理面上にナイフコータ(株式会社康井精機製、商品名「SNC-350」)を用いて上記硬化性樹脂組成物を塗布した。塗膜を乾燥機(株式会社二葉科学製、商品名「MSO-80TPS」)中、80℃で15分の加熱により乾燥して、厚さ30μmの硬化性フィルムを形成した。形成した硬化性フィルムに、基材フィルムと同じ離型処理PETフィルムを、離型処理面が硬化性フィルム側になる向きで保護フィルムとして貼付けて、積層フィルムを得た。
【0094】
[接着性の測定]
実施例及び比較例で得られた積層フィルムの保護フィルムを剥離し、露出した硬化性フィルムに、(1)表面粗さRzが1.8μmの粗化面を有する電解銅箔(古河電気工業株式会社製、商品名「F2-WS-18」、厚さ18μm)(以下、「VLP-Cu箔」とも言う)、又は、(2)無粗化の液晶ポリマーフィルム(株式会社クラレ製、商品名「ベクスターCTQ」、厚さ100μm)(以下、「LCP」とも言う)を重ねた。このとき、VLP-Cu箔については、粗化面が硬化性フィルム側になる向きで硬化性フィルムに重ねた。その状態で、真空加圧式ラミネータ(ニッコー・マテリアルズ株式会社製、商品名「V130」)を用いて、圧力0.5MPa、温度100℃及び加圧時間60秒の条件で、各基材を硬化性フィルムにラミネートした。次いで、基材フィルムを剥離し、露出した硬化性フィルムに粗化面が硬化性フィルム側になる向きでVLP-Cu箔を重ねて、上記条件でVLP-Cu箔を硬化性フィルムにラミネートした。その後、乾燥機(株式会社二葉科学製、商品名「MSO-80TPS」)中、180℃で60分加熱することにより、VLP-Cu箔と、硬化性フィルムの硬化物である硬化フィルムと、上記(1)又は(2)の基材とを有する積層体を得た。
【0095】
得られた積層体から、長さ100mm、幅5mmの大きさのピール強度測定用のサンプルを切り出した。このサンプルの上記(1)又は(2)の基材側の面をエポキシ接着剤(ハンツマン・ジャパン株式会社製、商品名「アラルダイト ラピッド」)でガラス板に固定した。オートグラフ(株式会社島津製作所製、商品名「EZ-LX」)を用い、引張り速度50mm/分の条件でVLP-Cu箔と硬化フィルムを治具で掴み、ガラス板に固定された各基材から剥離する90度ピール試験を行った。得られたピール強度の測定結果を表1に示す。
【0096】
[溶融粘度の測定]
実施例及び比較例で得られた積層フィルムから基材フィルム及び保護フィルムを除去して硬化性フィルムのみとし、この硬化性フィルムの最低溶融粘度を、粘弾性測定装置(商品名:ARES-G2、TAインスツルメンツ社製、昇温速度:3℃/min、温度範囲:30~200℃、荷重:0.2N、周波数:1Hz、ひずみ:1%)を用いて測定した。また、上記最低溶融粘度を与える温度を記録した。結果を表1に示す。
【0097】