IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社堀場エステックの特許一覧

特開2024-106711ウエハ温度制御装置、ウエハ温度制御方法及びウエハ温度制御プログラム
<>
  • 特開-ウエハ温度制御装置、ウエハ温度制御方法及びウエハ温度制御プログラム 図1
  • 特開-ウエハ温度制御装置、ウエハ温度制御方法及びウエハ温度制御プログラム 図2
  • 特開-ウエハ温度制御装置、ウエハ温度制御方法及びウエハ温度制御プログラム 図3
  • 特開-ウエハ温度制御装置、ウエハ温度制御方法及びウエハ温度制御プログラム 図4
  • 特開-ウエハ温度制御装置、ウエハ温度制御方法及びウエハ温度制御プログラム 図5
  • 特開-ウエハ温度制御装置、ウエハ温度制御方法及びウエハ温度制御プログラム 図6
  • 特開-ウエハ温度制御装置、ウエハ温度制御方法及びウエハ温度制御プログラム 図7
  • 特開-ウエハ温度制御装置、ウエハ温度制御方法及びウエハ温度制御プログラム 図8
  • 特開-ウエハ温度制御装置、ウエハ温度制御方法及びウエハ温度制御プログラム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106711
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】ウエハ温度制御装置、ウエハ温度制御方法及びウエハ温度制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05D 23/19 20060101AFI20240801BHJP
   G05B 13/04 20060101ALI20240801BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G05D23/19 J
G05B13/04
H01L21/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011118
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
(72)【発明者】
【氏名】瀧尻 興太郎
【テーマコード(参考)】
5H004
5H323
【Fターム(参考)】
5H004GA05
5H004GA06
5H004GB15
5H004HA01
5H004HA02
5H004HA03
5H004HB01
5H004HB03
5H004KC27
5H004MA04
5H004MA39
5H004MA42
5H004MA43
5H323AA01
5H323BB01
5H323CA01
5H323CA06
5H323CB25
5H323DA05
5H323DB15
5H323FF08
5H323GG16
5H323HH02
5H323KK10
5H323LL24
5H323MM06
5H323NN03
(57)【要約】
【課題】ガスの圧力を調整することで、ウエハの温度を制御するものにおいて、将来のウエハ温度を予測し、ウエハ温度を目標温度に制御する。
【解決手段】温度調整されたプレートにウエハが載置され、プレートとウエハとの間にガスを供給して、ウエハの温度を制御するウエハ温度制御装置であって、ガスの圧力を調整する圧力調整器と、ウエハの近傍温度を測定する近傍温度センサと、近傍温度センサにより測定される近傍温度とウエハの目標温度とに基づいて、モデル予測制御により圧力調整器に入力される圧力操作量を制御する圧力制御部とを備え、圧力制御部は、モデル予測制御の予測モデルとしてガスの圧力から求まるプレート及びウエハの間の熱伝達率を変数としたモデルを用いるものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度調整されたプレートにウエハが載置され、前記プレートと前記ウエハとの間にガスを供給して、前記ウエハの温度を制御するウエハ温度制御装置であって、
前記ガスの圧力を調整する圧力調整器と、
前記ウエハの近傍温度を測定する近傍温度センサと、
前記近傍温度センサにより測定される近傍温度と前記ウエハの目標温度とに基づいて、モデル予測制御により前記圧力調整器に入力される圧力操作量を制御する圧力制御部とを備え、
前記圧力制御部は、前記モデル予測制御の予測モデルとして、前記プレート及び前記ウエハの間の熱伝達係数を前記ガスの圧力から求まる変数としたモデルを用いるものである、ウエハ温度制御装置。
【請求項2】
前記予測モデルに用いる前記熱伝達係数は、前記ガスの圧力に応じて非線形又は線形の関係を有するものである、請求項1に記載のウエハ温度制御装置。
【請求項3】
前記圧力制御部は、前記モデル予測制御において状態ベクトルの係数行列に前記ガスの圧力がパラメータとして含まれる状態方程式を用いて前記圧力操作量を制御する、請求項1又は2に記載のウエハ温度制御装置。
【請求項4】
前記圧力制御部は、前記モデル予測制御において前記ウエハの温度に関する予測軌道を計算する毎に前記係数行列を計算し、その計算された前記係数行列を用いて前記予測軌道を計算する、請求項3に記載のウエハ温度制御装置。
【請求項5】
前記圧力制御部は、前記予測軌道を計算する毎に、前記圧力調整器に入力された圧力操作量又は前記圧力調整器により調整された圧力を用いて、前記係数行列を計算する、請求項4に記載のウエハ温度制御装置。
【請求項6】
前記圧力制御部は、前記モデル予測制御において前記ウエハの温度に関する参照軌道と、前記ウエハの温度に関する予測軌道との偏差に関する評価関数を最小化するように前記圧力操作量を決定する、請求項1乃至5の何れか一項に記載のウエハ温度制御装置。
【請求項7】
前記圧力制御部は、前記評価関数として加重最小二乗法を用いている、請求項6に記載のウエハ温度制御装置。
【請求項8】
前記プレートには、前記ウエハの目標温度が互いに異なる複数の領域が設定されている、請求項1乃至7の何れか一項に記載のウエハ温度制御装置。
【請求項9】
温度調整されたプレートにウエハを載置し、前記プレートと前記ウエハとの間にガスを供給して、前記ウエハの温度を制御するウエハ温度制御方法であって、
前記ガスの圧力を圧力調整器により調整し、
前記ウエハの近傍温度を近傍温度センサにより測定し、
前記近傍温度センサにより測定される近傍温度と前記ウエハの目標温度とに基づいて、モデル予測制御により前記圧力調整器に入力される圧力操作量を制御する方法であり、
前記モデル予測制御の予測モデルとして、前記プレート及び前記ウエハの間の熱伝達係数を前記ガスの圧力から求まる変数としたモデルを用いるものである、ウエハ温度制御方法。
【請求項10】
温度調整されたプレートにウエハが載置され、前記プレートと前記ウエハとの間にガスを供給して、前記ウエハの温度を制御するものであり、前記ガスの圧力を調整する圧力調整器と、前記ウエハの近傍温度を測定する近傍温度センサとを備えるウエハ温度制御装置に用いられるウエハ温度制御プログラムであって、
前記近傍温度センサにより測定される近傍温度と前記ウエハの目標温度とに基づいて、モデル予測制御により前記圧力調整器に入力される圧力操作量を制御する圧力制御部としての機能をコンピュータに備えさせるものであり、
前記圧力制御部は、前記モデル予測制御の予測モデルとして、前記プレート及び前記ウエハの間の熱伝達係数を前記ガスの圧力から求まる変数としたモデルを用いるものである、ウエハ温度制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハ温度制御装置、ウエハ温度制御方法及びウエハ温度制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば成膜処理等の半導体製造プロセスでは、処理対象であるウエハを静電チャック等のプレート上に載置して行われる。ここで、静電チャック等のプレートは、ウエハの温度を所定の目標温度に制御すべく、温度調整されている。
【0003】
そして、ウエハが載置されたプレートは、真空等の低圧な環境下に配置されることから、特許文献1に示すように、温度調整されているプレートからウエハへの熱伝達を促進するために、プレートとウエハとの間にヘリウムガス等の熱伝達ガスを供給するものが考えられている。
【0004】
ここで、プレートとウエハとの間に供給される熱伝達ガスの圧力により熱伝達率が異なるため、その熱伝達ガスの圧力を調整する必要がある。
【0005】
しかしながら、熱伝達ガスの圧力を調整しても、プレートに載置されたウエハ自体の温度を制御することは、様々な技術的な制約から難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4034344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、本願発明者は、上述した構成において、温度調整されているプレートからウエハへの熱伝達をモデル化して、モデル予測制御(MPC:Model Predictive Control)を適用することを考えている。ここで、モデル予測制御の状態方程式は、モデルをシンプルにするとともに計算負荷を小さくするために、状態ベクトルの係数行列(A行列)及び入力ベクトルの係数行列(B行列)には、物性値から求まる定数を用いることが考えられる。
【0008】
ところが、上述したように、プレートとウエハとの間に供給されるガスの圧力により熱伝達率が異なるため、時間とともに熱伝導率が変化するモデルにおいて、状態ベクトルの係数行列(A行列)に定数(固定の熱伝導率)を用いてしまうと、ウエハ温度を目標温度に精度良く制御することが難しくなってしまう。
【0009】
そこで、本発明は上述した問題を解決すべくなされたものであり、ガスの圧力を調整することでウエハの温度を制御するものにおいて、将来のウエハ温度を予測し、ウエハ温度を目標温度に制御することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明に係るウエハ温度制御装置は、温度調整されたプレートにウエハが載置され、前記プレートと前記ウエハとの間にガスを供給して、前記ウエハの温度を制御するウエハ温度制御装置であって、前記ガスの圧力を調整する圧力調整器と、前記ウエハの近傍温度を測定する近傍温度センサと、前記近傍温度センサにより測定される近傍温度と前記ウエハの目標温度とに基づいて、モデル予測制御により前記圧力調整器に入力される圧力操作量を制御する圧力制御部とを備え、前記圧力制御部は、前記モデル予測制御の予測モデルとして、前記プレート及び前記ウエハの間の熱伝達係数を前記ガスの圧力から求まる変数としたモデルを用いるものであることを特徴とする。
【0011】
このようなウエハ温度制御装置であれば、モデル予測制御の予測モデルとしてプレート及びウエハの間の熱伝達係数をガスの圧力から求まる変数としたモデルを用いるので、将来のウエハ温度を予測し、ウエハ温度を目標温度に制御することができる。
【0012】
ここで、近傍温度とは、例えばウエハに対して所定距離以内にある部材又は空間の温度であり、ウエハ温度と近傍温度との間で関係性を示す温度モデルを構築することが可能な温度を含む。また、近傍温度は、ウエハに直接接触している部材の温度、ウエハとの界面が存在する空間又は気体の温度、又は、ウエハWに対して数μmの隙間を介して存在している部材の温度を含む。さらに、近傍温度は、ウエハとの間で伝導、対流又は放射の少なくとも1つによって熱の伝導又は伝達が生じ得る部材の温度を含んでも良い。
【0013】
将来のウエハ温度を精度良く予測するためには、前記予測モデルに用いる前記熱伝達係数は、前記ガスの圧力に応じて非線形又は線形の関係を有するものであることが望ましい。
【0014】
圧力制御部の具体的な実施の態様としては、前記圧力制御部は、前記モデル予測制御において状態ベクトルの係数行列に前記ガスの圧力がパラメータとして含まれる状態方程式を用いて前記圧力操作量を制御することが考えられる。
【0015】
具体的な圧力制御部の態様としては、前記圧力制御部は、前記モデル予測制御において前記ウエハの温度に関する予測軌道を計算する毎に前記係数行列を計算し、その計算された前記係数行列を用いて前記予測軌道を計算することが考えられる。
【0016】
具体的に前記圧力制御部は、前記予測軌道を計算する毎に、前記圧力調整器に入力された圧力操作量又は前記圧力調整器により調整された圧力を用いて、前記係数行列を計算することが考えられる。
【0017】
前記圧力制御部は、前記モデル予測制御において前記ウエハの温度に関する参照軌道と、前記ウエハの温度に関する予測軌道との偏差に関する評価関数を最小化するように前記圧力操作量を決定することが考えられる。ここで、前記圧力制御部は、前記評価関数として加重最小二乗法を用いることが考えられる。このように評価関数として加重最小二乗法を用いることで、反復計算が不要となり、計算量を減らすことができる。
【0018】
前記プレートにおいて前記ウエハの目標温度が互いに異なる複数の領域が設定されているものにおいて、本発明のモデル予測制御を好適に用いることができる。
【0019】
また、本発明に係るウエハ温度制御方法は、温度調整されたプレートにウエハを載置し、前記プレートと前記ウエハとの間にガスを供給して、前記ウエハの温度を制御するウエハ温度制御方法であって、前記ガスの圧力を圧力調整器により調整し、前記ウエハの近傍温度を近傍温度センサにより測定し、前記近傍温度センサにより測定される近傍温度と前記ウエハの目標温度とに基づいて、モデル予測制御により前記圧力調整器に入力される圧力操作量を制御する方法であり、前記モデル予測制御の予測モデルとして、前記プレート及び前記ウエハの間の熱伝達係数を前記ガスの圧力から求まる変数としたモデルを用いるものであることを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明に係るウエハ温度制御プログラムは、温度調整されたプレートにウエハが載置され、前記プレートと前記ウエハとの間にガスを供給して、前記ウエハの温度を制御するものであり、前記ガスの圧力を調整する圧力調整器と、前記ウエハの近傍温度を測定する近傍温度センサとを備えるウエハ温度制御装置に用いられるウエハ温度制御プログラムであって、前記近傍温度センサにより測定される近傍温度と前記ウエハの目標温度とに基づいて、モデル予測制御により前記圧力調整器に入力される圧力操作量を制御する圧力制御部としての機能をコンピュータに備えさせるものであり、前記圧力制御部は、前記モデル予測制御の予測モデルとして、前記プレート及び前記ウエハの間の熱伝達係数を前記ガスの圧力から求まる変数としたモデルを用いるものであることを特徴とする。
【0021】
なお、ウエハ温度制御プログラムは、電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD又はフラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
このように本発明によれば、ガスの圧力を調整することでウエハの温度を制御するものにおいて、将来のウエハ温度を予測し、ウエハ温度を目標温度に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係るウエハ温度制御装置の構成を模式的に示す斜視図である。
図2】ウエハ及び吸着プレートの間に供給される熱伝達ガスの圧力と、ウエハ及び吸着プレートの間の熱伝達係数との関係を示す図である。
図3】同実施形態のモデル予測制御の仕組みを示す図である。
図4】同実施形態のモデル予測制御に用いられる制御対象モデルを示す図である。
図5】同実施形態のモデル予測制御において、互いに異なる2つの領域を区別することなく表記した参照軌道及び予測軌道を示す図である。
図6】同実施形態のモデル予測制御の状態方程式及び参照軌道を示す図である。
図7】同実施形態のモデル予測制御の自由応答による予測値、ステップ応答による予測値及び予測軌道を示す図である。
図8】同実施形態のモデル予測制御の評価関数を示す図である。
図9】同実施形態のウエハ温度制御装置を用いてウエハの温度を制御した場合と、モデル予測制御において係数行列(A行列)の圧力を初期圧力で固定してウエハの温度を制御した場合(比較例)とのシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<本発明の一実施形態>
以下に、本発明に係るウエハ温度制御装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下に示すいずれの図についても、わかりやすくするために、適宜省略し又は誇張して模式的に描かれている。同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0025】
<1.ウエハ温度制御装置の基本構成>
本実施形態のウエハ温度制御装置100は、例えば成膜処理等の半導体製造プロセスを行う半導体製造装置に用いられるものであり、例えば真空チャンバ内においてウエハWの裏面を静電チャックするように構成されている。
【0026】
具体的にウエハ温度制御装置100は、図1に示すように、上面にウエハWが載置される吸着プレート2と、吸着プレート2の温度を調整する温度調整器3とを備えている。
【0027】
吸着プレート2は、ウエハWを静電吸着力で保持するいわゆる静電チャックを構成するものである。本実施形態の吸着プレート2は、概略円板状をなすセラミックプレートであり、その上面がウエハWを吸着する吸着面2aとなる。吸着プレート2の内部には、吸着プレート2とウエハWとの間で静電力を発生させるための静電電極(図示しない)が設けられている。
【0028】
温度調整器3は、吸着プレート2の温度を予め設定された温度に温度調整するものであり、吸着プレート2を加熱する加熱器31と、吸着プレート2を冷却する冷却器32とを有している。なお、温度調整器3として加熱器31を有さない構成であっても良い。
【0029】
加熱器31は、吸着プレート2の内部に設けられており、吸着プレート2を加熱するための複数のヒータ電極31aを有する。複数のヒータ電極31aは、制御装置CTLの加熱制御部11aにより供給される電力が制御され、ユーザが設定する加熱操作量に応じてそれぞれ独立に制御される。
【0030】
冷却器32は、吸着プレート2の下面に接触して設けられており、概略円板状をなすベースプレート32aと、ベースプレート32a内に形成された冷却流路32bとを備えている。
【0031】
冷却流路32bは、ベースプレート32aの内部において平面視において螺旋状に形成されている。この冷却流路32bには、例えばチラー等の冷却源(不図示)に繋がる導入流路32c及び導出流路32dが接続されている。また、冷却流路32bに接続される流路には、冷媒流量を制御する制御バルブ32eが設けられており、当該制御バルブ32eは、制御装置CTLの冷却制御部11bによってその弁開度が制御される。
【0032】
また、本実施形態のウエハ温度制御装置100は、吸着プレート2とウエハWとの間に例えばヘリウムガス又はアルゴンガス等の熱伝達を伝達するガス(以下、熱伝達ガス)を供給するガス供給機構4を備えている。
【0033】
このガス供給機構4は、吸着プレート2の吸着面2aと吸着されているウエハWの裏面との間に所定圧力の熱伝達ガスを供給するものである。
【0034】
具体的にガス供給機構4は、吸着プレート2の吸着面2aに形成されたガス流通溝41と、当該ガス流通溝41に熱伝達ガスを供給するガス供給路42と、ガス流通溝41に供給される熱伝達ガスの圧力を調整する圧力調整器43とを有している。ガス流通溝41に供給された熱伝達ガスは、当該ガス流通溝41から吸着プレート2の吸着面2aと吸着されているウエハWの裏面との間に流入する。
【0035】
ガス流通溝41は、例えば吸着プレート2の中心軸から放射状に形成された複数の直線溝と、吸着プレート2の中心軸から同士円状に形成された複数の円形溝とを有している。また、ガス供給路42は、吸着プレート2の中心軸に沿って形成されおり、熱伝達ガス源(不図示)に接続されている。
【0036】
また、圧力調整器43は、熱伝達ガスの圧力を調整することにより、吸着プレート2からウエハWへの熱伝達率(ウエハW及び吸着プレート2の間の熱伝達係数)を変化させることができる。なお、図2にウエハW及び吸着プレート2の間に供給される熱伝達ガスの圧力と、ウエハW及び吸着プレート2の間の熱伝達係数との関係を示している。本実施形態の熱伝達係数は、熱伝達ガスの圧力に応じて非線形の関係を有するものであるが、線形の関係を有するものとしても良い。
【0037】
具体的に圧力調整器43は、圧力センサ及び圧力制御バルブを有するものであり、当該圧力制御バルブは、制御装置CTLの圧力制御部12によってその弁開度が制御される。
【0038】
また、ウエハ温度制御装置100は、ウエハWの近傍温度を測定する近傍温度センサ5を備えている。この近傍温度センサ5は、ベースプレート32aの裏面側に設けられており、ウエハWの近傍温度としてベースプレート32aの温度を測定するものである。本実施形態の近傍温度センサ5は、例えば放射温度計等の赤外線センサである。なお、近傍温度センサ5は、ウエハWの近傍温度として吸着プレート2の温度を測定するものであっても良い。
【0039】
<2.ウエハ温度制御系>
さらに、ウエハ温度制御装置100は、少なくとも温度調整器3及び圧力調整器43の動作を制御する制御装置CTLを備えている。
【0040】
なお、制御装置CTLは、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、各種入出力機器を備えたいわゆるコンピュータである。そして、メモリに格納されているウエハ温度制御プログラムが実行されて、各種機器が協働することによって、温度調整器3の動作を制御する温度制御部11と、圧力調整器43の動作を制御する圧力制御部12としての機能を発揮する。
【0041】
本実施形態の温度制御部11は、加熱制御部11a及び冷却制御部11bを有し、加熱制御部11aにより加熱器31の各ヒータ電極31aに固定電力を供給し、冷却制御部11bにより冷却器32の制御バルブ32eの弁開度が一定となるように制御する。すなわち、温度制御部11は、加熱器31及び冷却器32の動作中はそれらの加熱操作量及び冷却操作量を固定し、温度調整器3による単位時間あたりの温度調整量が一定となるように制御する。なお、加熱制御部11a及び冷却制御部11bでは、加熱操作量及び冷却操作量がその他の物性値(例えば熱伝達係数等)の変数とはならず、後述する係数行列(A行列)には含まれないので、以下に示す圧力制御部12で行われる予測モデル制御は行わない。
【0042】
圧力制御部12は、近傍温度センサ5により測定される近傍温度とウエハWの目標温度とに基づいて、モデル予測制御により、熱伝達ガスの圧力PHGを調整する圧力調整器43を制御する。
【0043】
ここで、モデル予測制御は、図3に示すように、各時刻で未来の応答を予測しながら最適化を行う制御手法であり、圧力制御部12の内部に予測モデル(制御対象モデル)を持つことで、制御対象の現時刻からある有限区間に渡る未来の振る舞いを予測するものである。なお、図3において、目標指令r(t)は、ウエハWの目標温度であり、制御入力u(t)は、圧力調整器43に入力される圧力操作量であり、制御出力y(t)は、近傍温度センサ5により測定される近傍温度である。この制御対象から測定された近傍温度値を圧力制御部12の内部における予測モデルに適用し、圧力制御部12の内部における予測モデルに適用し、最適化器にて現在の時刻から所定の時刻における追従誤差を最小化するように新たな制御入力u(t)を決定する。
【0044】
このモデル予測制御に用いられる制御対象モデルを図4に示している。本実施形態の制御対象モデルは、同心円状に2つの加熱領域が設定されており、中央部に位置する円形状の加熱領域(Zone1)と、外周部に位置する円環状の加熱領域(Zone2)とを有する。そして、この吸着プレート2では、中央部の加熱領域の目標温度がTW1_SETであり、外周部の加熱領域の目標温度がTW2_SETである。なお、図5には、互いに異なる2つの領域を区別することなく表記した参照軌道及び予測軌道を示している。
【0045】
図4に示す制御対象モデルにおいて、Zone1のウエハ温度TW1の時間変化(TW1の上にドットを示す変数)、及び、Zone2のウエハ温度TW2の時間変化(TW2の上にドットを示す変数)は、A項:外部への熱輻射と、B項:ゾーン間の熱移動と、C項:レイヤ間の熱移動と、D項:熱供給とにより示すことができる。なお、A項に示す熱輻射は、温度の4乗に比例するが、A項自体が小さい値であり、ここでは計算を簡単化するために便宜上1乗としている。
【0046】
具体的に圧力制御部12は、上述した通り、モデル予測制御の予測モデル(制御対象モデル)として吸着プレート2及びウエハWの間の熱伝達係数を熱伝達ガスの圧力PHGから求まる変数としたモデルを用いるものである。より詳細には、圧力制御部12は、近傍温度センサ5により測定される近傍温度TP1、TP2とウエハWの目標温度TW1_SET、TW2_SETとに基づいて、モデル予測制御により圧力調整器43に入力される圧力操作量を制御する。
【0047】
ここで、圧力制御部12は、モデル予測制御において状態ベクトルの係数行列(A行列)に熱伝達ガスの圧力P、Pがパラメータとして含まれる状態方程式を用いて圧力操作量を制御するものである。ここで、状態ベクトルの係数行列(A行列)に熱伝達ガスの圧力P、Pが含まれるのは、ウエハと吸着プレート間の熱伝達率α(P)、α(P)が熱伝達ガスの圧力P、Pにより変化するためである。
【0048】
具体的に圧力制御部12は、図6に示す状態方程式を用いている。
この状態方程式において、状態ベクトルに掛かる係数行列(A行列)は、分割されたエリア(ゾーン)毎の熱伝導率及び熱容量を示す行列であり、熱伝達ガスの圧力P、Pから求まるウエハW及び吸着プレート2の間の熱伝達率α(P)、α(P)を含んでいる。また、状態方程式において入力ベクトルに掛かる係数行列(B行列)は、ウエハと吸着プレート間の熱伝達率α(P)、α(P)及び外気からの定常的な熱供給q、qを温度変化に変換する係数を示す行列である。さらに、モデル予測制御における参照軌道は、現時点での温度から設定温度に指数関数的に近づく理想的な軌道を示すものであり、図6に示すとおりである。
【0049】
そして、圧力制御部12は、モデル予測制御においてウエハWの温度に関する予測軌道を計算する毎に係数行列(A行列)を計算し、その計算により更新された係数行列(A行列)を用いて次の予測軌道を計算する。
【0050】
具体的に圧力制御部12は、図5及び図6に示すように、状態方程式から求められる予測軌道を計算し、具体的には自由応答による予測値と、ステップ応答による予測値とを用いて、予測軌道を計算する。
【0051】
自由応答による予測値は、現在(時刻k)の入力P(k)、P(k)のままでの今後Npステップ分の軌道を示すものである。
【0052】
ステップ応答による予測値は、入力P(k)をP(k)+1とした場合と、P(k)をP(k)+1とした場合の今後のNpステップ分の軌道と現在温度TW1(k)、TW2(k)との差(変化分)を示すものである。
【0053】
ここで、入力P(k)、P(k)が逐次更新されているので、毎時間計算して求める必要がある。このステップ応答による予測値に用いる入力P(k)、P(k)は、圧力調整器43に入力された圧力操作量又は圧力調整器43により調整された圧力である。
【0054】
そして、圧力制御部12は、図8に示すように、モデル予測制御においてウエハWの温度に関する参照軌道と、ウエハWの温度に関する予測軌道との偏差に関する加重最小二乗法を用いた評価関数を最小化するように圧力操作量を決定する。なお、評価関数において、ハンチングが発生することを防止するために、圧力を小さくする項r、rを追加し、この項r、rをできるだけ小さくしている。このように評価関数として加重最小二乗法を用いることで、反復計算が不要となり、計算量を減らすことができる。なお、評価関数としては、拘束条件の制約等により解析的に解けない場合には、シューティング法、勾配降下法又はニュートン法等の探索的に解く方式のものを用いても良い。
【0055】
<3.シミュレーション結果>
次に、図9に、本実施形態のウエハ温度制御装置100を用いてウエハWの温度を制御した場合と、モデル予測制御において係数行列(A行列)の圧力を初期圧力で固定してウエハWの温度を制御した場合(比較例)とのシミュレーション結果を示す。
【0056】
いずれのシミュレーションにおいても、目標温度(℃)は(TW1_SET,TW2_SET)=(14.0,12.7)、初期温度(℃)は(TW1,TW2)=(15.5,14.0)、初期圧力(P,P)=(3.0,3.0)である。また、サンプリング周期Tは1秒、参照軌道時定数Trefは15秒、予測ホライズン点数Npは30であり、一致点数Naは15である。
【0057】
図9(a)から分かるように、本実施形態のウエハ温度制御装置100を用いてウエハWの温度を制御した場合には、ウエハWの温度TW1,TW2を目標温度TW1_SET,TW2_SETに精度良く制御できている。一方、図9(b)から分かるように、モデル予測制御において係数行列(A行列)の圧力を初期圧力で固定してウエハの温度を制御した場合には、ウエハWの温度TW1,TW2を目標温度TW1_SET,TW2_SETに精度良く制御できていない。
【0058】
<4.本実施形態の効果>
このように本実施形態におけるウエハ温度制御装置100によれば、モデル予測制御の予測モデルとして熱伝達ガスの圧力から求まる吸着プレート2及びウエハWの間の熱伝達係数を変数としたモデルを用いるので、将来のウエハ温度を予測し、ウエハ温度を目標温度に制御することができる。具体的には、モデル予測制御において状態ベクトルの係数行列(A行列)に熱伝達ガスの圧力がパラメータとして含まれる状態方程式を用いて圧力操作量を制御するので、ウエハ温度を目標温度に精度良く制御することができる。
【0059】
<5.その他の実施形態>
例えば、前記実施形態の吸着プレート2には、熱伝達ガスの圧力を吸着プレート2の面内において異ならせることにより、ウエハWの目標温度が互いに異なる複数の領域が設定されていたが、熱伝達ガスの圧力を吸着プレート2の面内において異ならせることなく、吸着プレート2全体において1つの目標温度が設定されていても良い。
【0060】
また、前記実施形態の加熱器31は、複数のヒータ電極31aによって、吸着プレート2に温度分布を形成することができる。例えば、加熱器31は、吸着プレート2の中央部と外周部で加熱量を異ならせることができ、さらに外周部において概略C字状をなす大領域と、残りの少領域との間でも加熱量を異ならせることができる。すなわち、吸着プレート2には3つの加熱領域が設定され、これにより、吸着プレート2に温度分布が形成される。また、冷却器32も、吸着プレート2の3つの加熱領域に対応させて、ベースプレート32aの表面上に3つの冷却領域を形成するように構成しても良い。その他、外周部を放射状に分割して複数の加熱領域を設定するなどの種々の設定方法が考えられる。
【0061】
ウエハW及び吸着プレート2の加熱又は冷却領域については3つに領域が区成されたものに限られず、さらに多数の領域が区成されていてもよいし、2つの領域が区成されていてもよい。また、領域を設定せずにウエハW又は吸着プレート2全体を1つの温度として取り扱っても良い。
【0062】
また、吸着プレート2については吸着機能がなく、単にウエハWが載置されるプレートであってもよい。
【0063】
冷却器又は加熱器の構成は前述したものに限られない。例えば冷却器はペルチェ素子等を利用して構成してもよいし、加熱器はヒータ電極に限られず、光照射によってウエハを加熱するように構成されたものであってもよいし、プラズマによってウエハが加熱される構成であってもよい。
【0064】
近傍温度センサが測定する箇所は前述した箇所に限られるものではなく、その他の場所であってもよい。要するにウエハ温度と何らかの相関あるいは関係性がありそうな温度を近傍温度として測定すればよい。また、近傍温度センサは赤外線温度センサに限られるものではなく、例えばプレート内に設けられた熱電対等であってもよい。
【0065】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0066】
100・・・ウエハ温度制御装置
W ・・・ウエハ
2 ・・・吸着プレート(プレート)
3 ・・・温度調整器
43 ・・・圧力調整器
5 ・・・近傍温度センサ
12 ・・・圧力制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9