(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106720
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/027 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
C01B25/027
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011128
(22)【出願日】2023-01-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】板谷 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】小堺 規行
(72)【発明者】
【氏名】岡田 豊
(72)【発明者】
【氏名】國西 健史
(72)【発明者】
【氏名】門野 壮
(57)【要約】
【課題】廃棄物を燃焼した燃焼排熱を利用するとともに、黄リンを製造するための過程で排出される残渣をセメント原料として有効に用いて、特に、セメント工場等に適した環境に優れた循環サイクルを形成する、環境負荷を低減することが可能となる、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法を提供することである。
【解決手段】
本発明の廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法は、リン含有廃棄物又はリン鉱石に酸又はアルカリを添加して、該廃棄物から粗リン酸を抽出するとともに、残渣をセメント原料として利用する工程(1)、次いで、抽出した粗リン酸に還元剤を添加し、排熱を利用して100~300℃で脱水処理する工程(2)、次いで、セメント工場からの排熱を利用して、前記脱水処理した粗リン酸を300~1300℃に加熱して直接還元処理を実施して黄リンを生成する工程(3)を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有廃棄物又はリン鉱石に酸又はアルカリを添加して、該廃棄物から粗リン酸を抽出するとともに、残渣をセメント原料として利用する工程(1)、
次いで、抽出した粗リン酸に還元剤を添加し、排熱を利用して100~300℃で脱水処理する工程(2)、
次いで、セメント工場からの排熱を利用して、前記脱水処理した粗リン酸を300~1300℃に加熱して直接還元処理を実施して黄リンを生成する工程(3)
を備えることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の黄リンの製造方法において、排熱は、廃棄物を乾留してガスを発生させ、当該ガスを燃焼させた排熱であり、該乾留処理により生成された残渣はセメント原料に利用されることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の黄リンの製造方法において、上記工程(1)は、更に、リン含有廃棄物にカルシウム塩を添加し、排熱を利用してリン酸カルシウム塩を生成させ、該生成させたリン酸カルシウム塩を含む廃棄物に酸を添加してリン酸を抽出するとともに、残渣をセメント原料として利用することを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の黄リンの製造方法において、リン含有廃棄物は、廃リン酸、リンを含有する、下水汚泥焼却灰・脱水ケーキ・下水汚泥の炭化物、スラグ、肉骨粉、家畜糞尿・し尿処理物、食肉加工副産物及び食品廃棄物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の黄リンの製造方法において、排熱は、廃プラスチック、廃タイヤ、廃油、廃木材、石炭灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種の廃棄物を焼却することによる排熱であることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法に関し、特に、廃棄物焼却処理工場等から発生する燃焼排熱を用いて、リンを含む廃棄物を原料として黄リンを有効に製造することができる、環境負荷を低減することができる黄リンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント産業は、廃プラスチック、廃タイヤ、廃油、廃木材等を、熱エネルギーとして、また原料の一部に石炭灰、汚泥、下水汚泥焼却灰、高炉スラグ等を従来より使用してきており、セメント産業は、廃棄物を原料または、熱エネルギーとして活用し、有価物を生み出しており、サーキュラーエコノミーの構築に多大なる貢献をしている。
【0003】
他方で、セメント製造においては、石灰石の脱炭酸及び石炭等熱エネルギーの燃焼により多量の二酸化炭素が排出される。石灰石の脱炭酸により排出される二酸化炭素は、セメントクリンカ製造プロセス上において生じるため、これら燃焼熱の有効利用は、循環型社会の形成、特に炭素循環の適正化の観点から極めて重要である。
【0004】
2009年にスウェーデンのJ.Rockstromらが地球環境がもつ収容力(環境容量)を科学的に把握する事を目的とし地球の収容限界(プラネタリー・バウンダリー)という概念を提示した(A safe operating space for humanity. Nature. 461. 472-475)。ここで炭素と同様にリン・窒素循環についても、不安定な領域を超えてしまっている(高リスク)とされており、窒素については、本来、生態系のプロセスによって大気から固定される窒素量と、硝酸態窒素が気体状の窒素に還元されて大気中に戻る量は、ほぼ均衡しているが、大規模な化学肥料の生産等によりこの均衡を破る程、大量の窒素化合物が環境中に放出されているとされている(環境省(2018):平成30年度環境白書.第1章 第五次環境基本計画に至る持続可能な社会への潮流.7)。
【0005】
またリンについても、上記文献において今後1000年以内に海洋無酸素事変を引き起こす可能性のある陸域からのリン負荷速度は、1100万トン/年とされ、2015年には、リン負荷速度は2200万トン/年に達し、すでに地球の限界を超えているとされている(大竹久夫(2019):リンのはなし.朝倉書店)。
かかる観点より、炭素と同様に窒素・リン循環の適正化に取り組む技術開発が喫緊の課題となっている。
【0006】
一方、リンは我々の日々の生活に欠かせない元素であり、例えば、自動車、電子部品、医薬品や食品など広範な製造業分野で使われる多くの高純度リン素材(LiPF6、PCl3、P5S2、縮合リン酸や有機ホスホン酸など)は、黄リンを出発原料として製造されている。
黄リンは、リン鉱石を原料に製造される方法が最も一般的であり、リン鉱石、ケイ石、コークスの原料を所定の割合で混合して電気炉内で加熱溶融し、還元されたガス状のリンを冷却し得られるものであり(電気炉法)、当該反応には、1300~1500℃程度の熱が必要である(非特許文献1)。その反応例を以下に示す。
(反応例)
4Ca(PO4)3F+30C+21SiO2→
3P4+3CO+20CaSiO3+SiF4
【0007】
また、黄リンの製造方法として、特開2012-017230号公報(特許文献1)には、不純物として、砒素及びアンチモンを多く含有する粗製黄リンから、一気に砒素及びアンチモンを低減することができる高純度元素リンの製造方法として、液状の粗製黄リンと、ヨウ素酸及びヨウ素酸塩から選択されるヨウ素酸含有化合物との接触処理をキレート剤の存在下に水溶媒中で行うことを特徴とし、前記キレート剤は多価カルボン酸、多価カルボン酸塩、ホスホン酸及びホスホン酸塩から選択される方法が開示されている。
【0008】
更に、特開2020-180040号公報(特許文献2)には、リンを含むリン原料および炭素を含む還元剤を含む混合原料を、回転炉床炉内で回転する炉床上に供給する原料供給工程と、前記混合原料を前記回転炉床炉の加熱室内において間接加熱装置で加熱し、還元してリンの揮発蒸気を発生させる還元工程と、前記リンの揮発蒸気を前記回転炉床炉外に排出し、黄リンに凝縮させる凝縮工程とを備える黄リンの製造方法が開示されている。
【0009】
しかし、従来の電気炉法による黄リンの製造方法は、電気炉を用いるため、黄リン製造設備の腐食・劣化が早く、製造コストや製造効率の点に問題を有している。
また、従来の黄リンの製造方法は、セメント工場等において廃棄物を燃焼して発生する燃焼排熱やリンを含む廃棄物を利用するとともに、残渣を再利用して黄リンを有効に製造するものではなく、環境負荷を低減することができる製造方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012-017230号公報
【特許文献2】特開2020-180040号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】リンの辞典(朝倉書店 2017年、大竹久夫ほか)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記問題を解決し、排熱、好ましくは廃棄物燃焼を利用するとともに、例えばリンを含有する廃棄物を原料として利用し、黄リンを製造する際に排出される残渣をセメント原料として有効に用いて、セメント工場等に適した環境に優れた循環サイクルを形成する、環境負荷を低減することが可能となる、黄リンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、リン酸を含む廃棄物等に還元剤を添加して、直接還元する焼成方法を用いるとともに、廃棄物燃焼排熱等の排熱を利用等することで、環境的に優れた方法として、環境負荷の低減が可能となる黄リンの製造方法見出したものである。
すなわち、環境負荷を低減する本発明の黄リンの製造方法は、以下の方法である。
【0014】
(I)本発明の廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法は、
リン含有廃棄物又はリン鉱石に酸又はアルカリを添加して、該廃棄物から粗リン酸を抽出するとともに、残渣をセメント原料として利用する工程(1)、
次いで、抽出した粗リン酸に還元剤を添加し、排熱を利用して100~300℃で脱水処理する工程(2)、
次いで、排熱を利用して、前記脱水処理した粗リン酸を300~1300℃に加熱処理して直接還元処理を実施して黄リンを生成する工程(3)
を備えることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法である。
【0015】
(II)好適には、上記(I)記載の本発明の黄リンの製造方法において、排熱は、廃棄物を乾留して可燃性ガスを発生させ、当該ガスを燃焼させた排熱であり、該乾留処理により生成された残渣はセメント原料に利用されることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法である。
【0016】
(III)好適には、上記(I)又は(II)の本発明の黄リンの製造方法において、上記工程(1)は、リン含有廃棄物にカルシウム塩を添加し、排熱を利用してリン酸カルシウム塩を生成させ、該生成させたリン酸カルシウム塩を含む廃棄物に酸を添加して粗リン酸を抽出するとともに、残渣をセメント原料として利用することを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法である。
【0017】
(IV)更に好適には、上記(I)乃至(III)いずれかに記載の黄リンの製造方法において、リン含有廃棄物は、廃リン酸、リンを含有する、下水汚泥焼却灰・脱水ケーキ・下水汚泥の炭化物(炭化汚泥)・スラグ・肉骨粉・家畜糞尿・し尿処理物・食肉加工副産物及び食品廃棄物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法である。
【0018】
(V)更に好適には、上記(I)乃至(IV)いずれかに記載の黄リンの製造方法において、排熱は、廃プラスチック、廃タイヤ、廃油、廃木材、石炭灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種の廃棄物を焼却することによる排熱であることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の環境負荷を低減する黄リンの製造方法は、工場等から排出される燃焼排熱を有効に利用して、リンを含有する廃棄物等から直接還元により黄リンを製造することが可能となり、製造設備の腐食や劣化が少なく、また種々の還元剤を利用して黄リンの製造が可能となる、環境的にも優れる方法となる。
また本発明の方法により得られた黄リンは、自動車、電子部品、医薬品や食品等の従来から黄リンが利用されている分野で有効利用することができる、環境的に優れた循環再生サイクルを生み出すことが可能となる。
【0020】
更に、本発明の黄リンの製造方法により産出された残渣物を、セメント工場等でセメント原料として用いることが可能となり、残渣物の再利用を可能とするサイクルを形成することができる。
また、セメント工場等から排出される燃焼排熱を活用して、本発明の黄リンを製造する工程における熱源として使用できるため、セメント製造工程等での排熱ガスを有効利用することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の黄リンの製造方法の工程の概要の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を、
図1を参照しながら以下の好適例により説明するが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明の廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法は、
リン含有廃棄物又はリン鉱石に酸又はアルカリを添加して、該廃棄物から粗リン酸を抽出するとともに、残渣をセメント原料として利用する工程(1)、
次いで、抽出した粗リン酸に還元剤を添加し、排熱を利用して100~300℃で脱水処理する工程(2)、
次いで、排熱を利用して、前記脱水処理した粗リン酸を300~1300℃に加熱して直接還元処理を実施して黄リンを生成する工程(3)
を備える、黄リンの製造方法である。
なお、排熱には、廃棄物を焼却して得られた排熱や、廃棄物を乾留ガス化し該ガス化ガスを燃焼することによる乾留ガス燃焼排熱をも含むものである。
【0024】
図1に示すように、環境負荷を低減する本発明の黄リンの製造方法に用いることができるリン含有物としては、リンを含有する廃棄物、リン鉱石、リン酸等を例示することができる。
リンを含有する廃棄物としては、例えば、リン含有廃棄物は、廃リン酸、リンを含有する、下水汚泥焼却灰・脱水ケーキ・下水汚泥の炭化物(炭化汚泥)、スラグ、肉骨粉、家畜糞尿・し尿処理物、食肉加工副産物及び食品廃棄物からなる群より選ばれることができ、これらを単独でまたは2種類以上混合して使用することが可能である。
【0025】
廃棄物中にリンがリン酸アルミニウムおよびリン酸鉄として含有される場合には、好ましくは、必要に応じて、これらのリン含有物にカルシウム塩を添加し、加熱して、例えば750~1000℃、好ましくは850~900℃で加熱処理をする。
添加するカルシウム塩としては、例えば酸化カルシウム、炭酸カルシウム、コンクリートスラッジ乾燥物等を例示することができ、これらの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
例えば、一例として、下水汚泥焼却灰中においてリンはリン酸アルミニウムとして含有されているが、かかる形態からリン酸を抽出することは困難であるため、リン酸カルシウムに変換する必要があり、この変換方法として、下水汚泥焼却灰に、上記カルシウム塩を添加して加熱処理することで、下記反応例により、リン酸アルミニウムの形態をリン酸カルシウムに転換することができる。
(反応例)
2Ca9Al(PO4)7+3CaO→7Ca3(PO4)2+Al2O3
【0027】
当該加熱処理には、上記したような工場からの排熱が利用でき、
図1に示すように、工場、例えば廃棄物処理工場での廃棄物焼却処理により発生した排熱を利用することができる。
特にセメント工場からの排熱を好ましく利用することができる。
【0028】
例えば塩素含有廃棄物プラスチックであるポリ塩化ビニル樹脂廃棄物等の塩素が含有される廃棄物をセメント原料に利用すると、セメントに含まれる塩素の量が多くなり望ましくない。
したがって、
図1に示すように、脱塩のために加熱する塩素排出工程を設けることにより、含有される塩素は系外に排出され、焼却後の残渣に含まれる塩素が低減されるため、セメント工場にてセメント原料として利用することが可能となる。脱塩のための塩素排出工程として、乾留炉を用いることができる。
これにより、従来埋め立て材料として使用されてきた焼却残渣物を、セメント原料として利用でき、環境負荷が低減され、環境的に優れた循環利用を可能とする。
【0029】
また、特にセメント工場においては、セメントクリンカを製造する際に、セメント原料を焼成するが、その際の排熱や、またセメントクリンカを焼成する際に発生した排熱を、上記排熱として有効に利用されることが望ましい。
また、廃棄物を乾留してガスを発生させ、当該ガスを燃焼させた排熱を利用することも可能であり、例えば、廃棄物を乾留炉で300~400℃で蒸し焼きにしてガスを発生させ、乾留炉で発生した当該ガスを燃焼させて、温度800~900℃の排熱として利用することができる。
かかる排熱を利用することで、従来黄リン製造に使用していた電力を代替することが可能となるため電力利用低減が図られ、環境負荷を低減することが可能となる。
【0030】
リン含有廃棄物等の上記リン含有物に、酸又はアルカリを添加処理して、粗リン酸を抽出、または、必要に応じてリン含有物にカルシウム塩を添加して熱処理したリン含有物に、酸又はアルカリを添加して処理して、リン酸を抽出する(工程(1))。
リン含有物に添加して粗リン酸を抽出する酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等が例示できる。
また、リン含有物に添加して粗リン酸を抽出するアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を例示することができる。
【0031】
上記リン含有廃棄物等に酸又はアルカリを添加配合して、好ましくは5~50℃、より好ましくは10~40℃で十分に攪拌等して反応させることで、リン含有廃棄物中のリンを粗リン酸液・リン酸液(以下、粗リン酸等)として得ることができる。
一方で、粗リン酸等以外の残渣物は、公知のろ過方法でろ過することで粗リン酸等と分離することができ、これらの残渣物はセメント原料として利用することができ、セメント工場に循環して再利用される。
【0032】
なお、粗リン酸抽出工程(1)は、上記方法に限定されず、リン酸含有廃棄物等から粗リン酸を抽出できる方法であれば、任意の公知の方法を適用することも可能である。
【0033】
次いで、抽出した粗リン酸等に還元剤を添加して、100~300℃に加熱して脱水をする(工程(2))。
これは、脱水が十分でなく水分が存在すると、生成する黄リン(P4)が水分子と反応してしまい、五酸化二リン(P2O5)と水素になってしまうため、リン酸液の十分な脱水が必要となる。
【0034】
粗リン酸等に添加配合する還元剤としては、例えば、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩;亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸水素塩;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム等のチオ硫酸塩;硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化カルシウム等の硫化物;水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化カルシウム等の水硫化物;多硫化ナトリウム、多硫化カリウム、多硫化カルシウム等の多硫化物;チオ酸塩、二酸化硫黄、硫黄等の硫黄化合物;硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、塩化第一鉄等の第一鉄塩や3価チタン塩等の金属塩及びその水和物;アルデヒド類、糖類、ギ酸、シュウ酸、アスコルビン酸等の有機化合物;高炉スラグ粉末、泥炭、亜炭、ヨウ素、鉄粉、コークス等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を配合して用いることができる。
なお、還元剤は、脱水処理をする際の温度範囲には影響を及ぼされないものであって、酸化還元反応で他の物質を還元し、自身が酸化される物質であれば、特に限定されず、固体であっても液体であってもよい。
【0035】
還元剤を添加して100~300℃に加熱脱水処理をするが、この場合の加熱には、
図1に示すように、上記と同様に、工場、例えば廃棄物処理工場での廃棄物焼却処理により発生した排熱を利用することができる。
特にセメント工場からの排熱を好ましく利用することができる。
【0036】
例えば、セメント工場においては、セメントクリンカを製造する際に、セメント原料を焼成するが、その際の排熱や、またセメントクリンカを焼成する際に発生した排熱を、当該排熱として有効に利用されることが望ましい。
また、廃棄物を乾留してガスを発生させ、当該ガスを燃焼させた排熱を利用することも可能であり、例えば、廃棄物を乾留炉で300~400℃で蒸し焼きにしてガスを発生させ、乾留炉で発生した当該ガスを燃焼させて、温度800~900℃の排熱として利用することができる。
かかる排熱を利用することで、従来黄リン製造に使用していた電力を代替することが可能となるため電力利用低減が図られ、環境負荷を低減することが可能となる。
また、かかる加熱脱水により、含有されている水分は水蒸気として系外に排出される。
【0037】
次いで、脱水処理した粗リン酸等を300~1300℃に加熱処理して、直接還元処理を実施する(工程(3))。
このように、本発明においては、粗リン酸等を直接還元処理することで、従来の黄リンを製造する工程で必要であった温度よりも、低い温度で加熱処理して黄リンを製造することが可能であり、したがって、従来の電気炉ではなく、通常の焼却炉での温度領域において黄リンを製造することが可能となる。
そのため、黄リン製造設備の腐食・劣化は少なくなり、黄リン製造設備の寿命を長くすることができる。
【0038】
直接還元処理反応としては、例えば以下の反応を例示することができ、当該直接還元処理工程(3)により、黄リンを得ることができる。
(反応例)
3Ca(PO4)2+10C→Ca(PO4)2+10CO+P4
【0039】
かかる加熱処理には、
図1に示すように、上記と同様に、工場、例えば廃棄物処理工場での廃棄物焼却処理により発生した排熱を利用することができる。
【0040】
かかる排熱についても、上記と同様に、特にセメント工場からの排熱を好ましく利用することができる。
特にセメント工場においては、セメントクリンカを製造する際に、セメント原料を焼成するが、その際の排熱や、またセメントクリンカを焼成する際に発生した排熱を、上記排熱として有効に利用されることが望ましい。
また、廃棄物を乾留してガスを発生させ、当該ガスを燃焼させた排熱を利用することも可能であり、例えば、廃棄物を乾留炉で300~400℃で蒸し焼きにしてガスを発生させ、乾留炉で発生した当該ガスを燃焼させて、温度800~900℃の排熱として利用することができる。
かかる排熱を利用することで、従来黄リン製造に使用していた電力を代替することが可能となるため電力利用低減が図られ、環境負荷を低減することが可能となる。
【0041】
このように、本発明は、黄リンを、環境負荷が低減された製造方法により得ることができ、また、黄リンを産出する際に排出されるCO、CO2、H2等のガスは必要に応じて、公知の処理方法で処理されて排気等することができる。
【0042】
本発明の黄リンの製造方法により、例えば廃棄物焼却工場等からの排熱を利用することができ、また産出される残渣はセメント工場での原料として利用することが可能で、環境にすぐれた循環サイクルが形成されるとともに、リン含有廃棄物から黄リンを直接還元により製造することができ、環境負荷が低減された優れた黄リンの製造方法である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
廃棄物焼却工場等から排出される排熱を利用するとともに、黄リン製造過程で産出される残渣物等をセメント工場での再利用が可能となり、環境的に優れた循環サイクルが形成できるため、特に、セメント工場にて本発明の製造方法を有効に適用することができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有廃棄物又はリン鉱石に酸又はアルカリを添加して、該リン含有廃棄物又はリン鉱石から粗リン酸を抽出するとともに、残渣をセメント原料として利用する工程(1)、
次いで、抽出した粗リン酸に還元剤を添加し、排熱を利用して100~300℃で脱水処理する工程(2)、
次いで、セメント工場からの排熱を利用して、前記脱水処理した粗リン酸を300~1300℃に加熱して直接還元処理を実施して黄リンを生成する工程(3)
を備えることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の黄リンの製造方法において、排熱は、廃棄物を乾留してガスを発生させ、当該ガスを燃焼させた排熱であり、該乾留により生成された残渣はセメント原料に利用されることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の黄リンの製造方法において、リン含有廃棄物を用いた場合の上記工程(1)は、更に、リン含有廃棄物にカルシウム塩を添加し、排熱を利用してリン酸カルシウム塩を生成させ、該生成させたリン酸カルシウム塩を含む廃棄物に酸を添加して粗リン酸を抽出するとともに、残渣をセメント原料として利用することを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の黄リンの製造方法において、リン含有廃棄物は、廃リン酸、リンを含有する、下水汚泥焼却灰・脱水ケーキ・下水汚泥の炭化物、スラグ、肉骨粉、家畜糞尿・し尿処理物、食肉加工副産物及び食品廃棄物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の黄リンの製造方法において、排熱は、廃プラスチック、廃タイヤ、廃油、廃木材、石炭灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種の廃棄物を焼却することによる排熱であることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
(I)本発明の廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法は、
リン含有廃棄物又はリン鉱石に酸又はアルカリを添加して、該リン含有廃棄物又はリン鉱石から粗リン酸を抽出するとともに、残渣をセメント原料として利用する工程(1)、
次いで、抽出した粗リン酸に還元剤を添加し、排熱を利用して100~300℃で脱水処理する工程(2)、
次いで、排熱を利用して、前記脱水処理した粗リン酸を300~1300℃に加熱して直接還元処理を実施して黄リンを生成する工程(3)
を備えることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
(II)好適には、上記(I)記載の本発明の黄リンの製造方法において、排熱は、廃棄物を乾留して可燃性ガスを発生させ、当該ガスを燃焼させた排熱であり、該乾留により生成された残渣はセメント原料に利用されることを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
(III)好適には、上記(I)又は(II)の本発明の黄リンの製造方法において、リン含有廃棄物を用いた場合の上記工程(1)は、更に、リン含有廃棄物にカルシウム塩を添加し、排熱を利用してリン酸カルシウム塩を生成させ、該生成させたリン酸カルシウム塩を含む廃棄物に酸を添加して粗リン酸を抽出するとともに、残渣をセメント原料として利用することを特徴とする、廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
本発明の廃棄物燃焼排熱を利用した黄リンの製造方法は、
リン含有廃棄物又はリン鉱石に酸又はアルカリを添加して、該リン含有廃棄物又はリン鉱石から粗リン酸を抽出するとともに、残渣をセメント原料として利用する工程(1)、
次いで、抽出した粗リン酸に還元剤を添加し、排熱を利用して100~300℃で脱水処理する工程(2)、
次いで、排熱を利用して、前記脱水処理した粗リン酸を300~1300℃に加熱して直接還元処理を実施して黄リンを生成する工程(3)
を備える、黄リンの製造方法である。
なお、排熱には、廃棄物を焼却して得られた排熱や、廃棄物を乾留ガス化し該ガス化ガスを燃焼することによる乾留ガス燃焼排熱をも含むものである。