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特開2024-106726児の脳機能の発達を促進するための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106726
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】児の脳機能の発達を促進するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/125 20160101AFI20240801BHJP
   A23C 9/16 20060101ALI20240801BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
A23L33/125
A23C9/16
A23C9/152
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011135
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭悟
(72)【発明者】
【氏名】中村 吉孝
(72)【発明者】
【氏名】神野 慎治
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
【Fターム(参考)】
4B001AC03
4B001EC06
4B018LB07
4B018MD31
4B018MD71
4B018ME14
(57)【要約】
【課題】ジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)、及びその構成糖が乳児に与える影響を明らかにする。児の脳機能の発達を促進させることができる組成物を提供する。
【解決手段】DSLNT、及びその構成糖からなる群より選択されるいずれかを含む、児の脳機能の発達を促進するための組成物を提供する。脳機能の発達は、好ましくは、粗大運動の領域、及び個人・社会の領域における発達である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)、及びその構成糖からなる群より選択されるいずれかを含む、児の脳機能の発達を促進するための組成物。
【請求項2】
脳機能の発達が、粗大運動の領域、及び個人・社会の領域のいずれかにおける発達である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
脳機能の発達が、11か月齢以後の児の脳機能の発達である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
6か月齢以下の児に摂取させるための、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
調製粉乳、調製液状乳、及び母乳代替食品からなる群より選択されるいずれかの形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
摂取時のDSLNTの濃度が0.09mg/mL以上である、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
摂取時のDSLNTの濃度が0.153mg/mL以上である、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
調製粉乳の形態であり、100gあたりDSLNTを52.9mg以上含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
調製粉乳の形態であり、100gあたりDSLNTを90mg以上含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、児の脳機能の発達を促進するための組成物に関する。本発明は、乳児・幼児の発達、健康、及び栄養の分野、並びにそれらのための飲食品の製造の分野等で有用である。
【背景技術】
【0002】
ヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、母乳に含まれる固形成分の中でラクトース、脂質に次ぐ三番目に多い成分である。母乳育児の期間が子どもの知能(intelligence)に与える影響が報告されている(非特許文献1)。また、ヒトミルクオリゴ糖のうち、2’-フコシルラクトース(2’-FL)や6’-シアリルラクトース(6'-SL)が、乳児の神経発達と正の相関があることが報告されている(非特許文献2)。
【0003】
さらにHMOと脳・神経の発達等に関し、特許文献1には、HMOがヒトの胃腸管内のアッカーマンシアの存在量を増加させ、ストレス、不安およびうつ病様行動などの脳消化管障害、自閉症様行動の処置または予防のために用いうることが記載されている。また特許文献2には、フコシル化中性HMO、非フコシル化中性HMO、シアル化HMO、または前記のいずれかの任意の組み合わせが、ミエリン形成向上によって非乳児の脳の前頭前皮質領域を成熟させ、アルツハイマー病、うつ病、不安、統合失調症、自閉症、認知症等の処置のために有効であることが記載されている。
【0004】
一方、HMOの一種であるジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)に関しては、早産児に最も多くみられる腸疾患の一つである壊死性腸炎(NEC)を発症した乳児が得ていた母乳のDSLNT含量は、NECを発症しなかった乳児が得ていた母乳よりも優位に低く、母乳のDSLNT含量は、NEC発症リスクのある乳児を特定し、リスクの高いドナーミルクをスクリーニングするための非侵襲的なマーカーとなる可能性があり、さらにDSLNTはNECに対する新しい治療法を開発するために役立つ可能性があることが報告されている(非特許文献3及び4)。
【0005】
また特許文献3は、微生物発酵により生成された3’-SLおよび/または6’-SLから本質的になる噴霧乾燥粉末を含む栄養組成物が開示され、追加のHMOとしてDSLNTを含んでもよいことが記載されている。しかし、DSLNTの機能については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2019/106620(特表2021-504420)
【特許文献2】国際公開WO2020/178774(特表2022-523560)
【特許文献3】国際公開WO2019/110803(特表2021-505171)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hou, L., Li, X., Yan, P., Li, Y., Wu, Y., Yang, Q., Shi, X., Ge, L., and Yang, K.: Impact of the Duration of Breastfeeding on the Intelligence of Children: A Systematic Review with Network Meta-Analysis, Breastfeed Med (2021).
【非特許文献2】Elena Oliveros , M. J. M., Francisco J Torres-Espinola: Human Milk Levels of 2´-Fucosyllactose and 6´-Sialyllactose are Positively Associated with Infant Neurodevelopment and are Not Impacted by Maternal BMI or Diabetic Status, J Nutr Food Sci, 4, 024 (2020).
【非特許文献3】Autran CA, et al.: Human milk oligosaccharide composition predicts risk of necrotising enterocolitis in preterm infants, Gut 2017;0:1-7.
【非特許文献4】Masi AC, et al. Human milk oligosaccharide DSLNT and gutmicrobiome in preterm infants predicts necrotising enterocolitis, Gut 2021;70:2273-2282.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
母乳中に含まれるDSLNTは、上述したようにNECとの関連が知られているが、DSLNTが、乳児の脳機能の発達に与える影響は不明であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下を提供する。
[1] ジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)、及びその構成糖からなる群より選択されるいずれかを含む、児の脳機能の発達を促進するための組成物。
[2] 脳機能の発達が、粗大運動の領域、及び個人・社会の領域のいずれかにおける発達である、1に記載の組成物。
[3] 脳機能の発達が、11か月齢以後の児の脳機能の発達である、1又は2に記載の組成物。
[4] 6か月齢以下の児に摂取させるための、1から3のいずれか1項に記載の組成物。
[5] 調製粉乳、調製液状乳、及び母乳代替食品からなる群より選択されるいずれかの形態である、1から4のいずれか1項に記載の組成物。
[6] 摂取時のDSLNTの濃度が0.09mg/mL 以上である、1から5のいずれか1項に記載の組成物。
[7] 摂取時のDSLNTの濃度が0.153mg/mL以上である、1から6のいずれか1項に記載の組成物。
[8] 調製粉乳の形態であり、100gあたりDSLNTを52.9mg 以上含む、1から7のいずれか1項に記載の組成物。
[9] 調製粉乳の形態であり、100gあたりDSLNTを90mg以上含む、1から8のいずれか1項に記載の組成物。
【0010】
[10] 下記の工程を含む、児の脳機能の発達を促進するための方法:ジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)、及びその構成糖からなる群より選択されるいずれかを含む人工栄養組成物を製造し;製造した組成物を、脳機能の発達を促進する必要がある児に摂取させる、下記の工程を含む、児の脳機能の発達を促進するための非治療的方法:DSLNT、及びその構成糖からなる群より選択されるいずれかを含む組成物を、脳機能の発達の促進が望ましい児に摂取させる。児の脳機能の発達を促進するための方法に使用するための、DSLNT、及びその構成糖からなる群より選択されるいずれかを含む組成物。児の脳機能の発達を促進するための組成物の製造における、DSLNT、及びその構成糖からなる群より選択されるいずれかを含む組成物の使用。児の脳機能の発達を促進するための、DSLNT、及びその構成糖からなる群より選択されるいずれかを含む組成物の使用。
[11] 脳機能の発達が、粗大運動の領域、及び個人・社会の領域のいずれかにおける発達である、10に記載の方法、組成物、又は使用。
[12] 脳機能の発達が、11か月齢以後の児の脳機能の発達である、10又は11に記載の方法、組成物、又は使用。
[13] 6か月齢以下の児に摂取させるための、10から12のいずれか1項に記載の方法、組成物、又は使用。
[14] 組成物が、調製粉乳、調製液状乳、及び母乳代替食品からなる群より選択されるいずれかの形態である、10から13のいずれか1項に記載の方法、組成物、又は使用。
[15] 摂取時のDSLNTの濃度が0.09mg/mL 以上である、10から14のいずれか1項に記載の方法、組成物、又は使用。
[16] 摂取時のDSLNTの濃度が0.153mg/mL以上である、10から15のいずれか1項に記載の方法、組成物、又は使用。
[17] 組成物が調製粉乳の形態であり、100gあたりDSLNTを52.9mg 以上含む、10から16のいずれか1項に記載の方法、組成物、又は使用。
[18] 組成物が調製粉乳の形態であり、100gあたりDSLNTを90mg以上含む、10から17のいずれか1項に記載の方法、組成物、又は使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物は、児の脳機能の発達を促進させることで児の将来の健やかな成長に寄与し得る。
本発明の組成物が有効成分とするDSLNTは元来母乳に含有されていることから、本発明の組成物は、児において、安全に目的の効果を発揮できる。
母乳栄養が得られない場合であっても、母乳栄養と同様に脳機能の発達を促進させる組成物が提供できる。
本発明により、乳児期に摂取したDSLNTと脳機能の発達の関連性についての情報が提供される。
本発明の組成物は、児の脳機能に関連した疾患又は状態の処置への適用が期待できる。また本発明の組成物は、乳児のみならず、幼児、小児、成人、高齢者における脳機能の発達の促進、栄養状態の改善、健康の維持・増進への適用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】母乳中のDSLNT濃度に基づく群間の発達スコアの比較
図2】1か月母乳中のDSLNT濃度の分布。図中のDSLNT濃度の分布を示す横線は、濃度の低いものから、最小値、第1四分位数、第2四分位数(中央値)、第3四分位数、最大値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[有効成分]
本発明の組成物は、ジシアリルラクト-N-テトラオース(Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)Galβ1-4Glc、DSLNT)、及びその構成糖からなる群より選択されるいずれかを、有効成分として含む。いずれかとは、数も種類も任意である意である。
【0014】
本発明に関し、ヒトミルクオリゴ糖の略称及び構造は、Nutr Rev. 2017 Nov 1;75(11):920-933. doi: 10.1093/nutrit/nux044.及びNutrients 2021, 13(8), 2737; https://doi.org/10.3390/nu13082737にしたがう。これらの文献に齟齬がある場合は、後者にしたがう。
【0015】
本発明に関し、DSLNTの構成糖というときは、特に記載した場合を除き、DSLNTを構成する糖(DSLNTの分解により生じる糖)であって、還元末端をもつグルコースとそれに付加したガラクトースを除いたものをいう。HMOは、摂取後、ヒト大腸に存在する腸内細菌により分解されることが知られている(J Pediatr. 1998 Jul;133(1):95-8. doi: 10.1016/s0022-3476(98)70185-4)。DSLNTの構成糖の例として、ラクト-N-ビオース(LNB)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、N-アセチルノイラミン酸 (Neu5Ac) 、及びガラクトースが挙げられる。組成物に用いられるDSLNTの構成糖は、目的の効果を有する限り、特に限定されない。また、組成物に用いられるDSLNT及びDSLNTの構成糖は、1種でもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0016】
DSLNT、及びその構成糖は、種々の方法で製造し得る。合成してもよく、その物質を含む天然物や酵母等の培養物から抽出してもよい。
【0017】
本発明の組成物は、ジシアリルラクト-N-テトラオース(Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)Galβ1-4Glc、DSLNT)、及びその構成糖からなる群より選択されるいずれかを、有効成分として含む。いずれかとは、数も種類も任意である意である。
【0018】
[用途]
(機能・作用)
本発明の組成物は、児の脳機能の発達を促進するために用いることができる。脳機能の発達は、既存の種々の検査で評価できるものを含む。既存の検査の例として、発達スクリーニング(質問紙)、例えば、Ages & Stages Questionnaires(登録商標), Third Edition(ASQ(登録商標)-3)、その翻訳語版、遠城寺式乳幼児分析的発達検査法、デンバー式発達スクリーニング検査(DDST)、その日本語版(JDDST);個別発達検査、例えば、新版K式発達検査等が挙げられる。
【0019】
好ましい態様では、組成物は、5つの発達領域のいずれかにおける促進のために用いられる。5つの発達領域とは、コミュニケーション(喃語、発声、聞き取りと理解)、粗大運動(腕、脚、及び身体全体の運動)、微細運動(手先と指の動き)、問題解決(おもちゃでの学習と遊び)、個人・社会(社会性を示す一人遊び、おもちゃや他の子どもとの遊び)をいう。
【0020】
一態様では、組成物は、粗大運動の領域における発達の促進のために用いられる。また他の態様において、組成物は、5つの領域のうち、粗大運動の領域、及び個人・社会の領域の少なくとも一方を含む、いずれか領域の発達の促進のために用いられる。また他の態様において、組成物は、5つの領域のうち、粗大運動の領域、及び個人・社会の領域の双方を含む、いずれかの領域の発達の促進のために用いられる。
【0021】
粗大運動の領域における発達の促進は、具体的には、移動するとき、遊ぶとき等の腕・脚の使い方、及びそれらを強調させて動かす能力等で示される。したがって、より具体的な態様では、組成物は、腕・脚の使い方、及びそれらを強調させて動かす能力の促進のために用いられる。個人・社会の領域における発達の促進は、具体的には、身の回りのことがどれだけ自分でできるか(服を着せる際に自分で袖の中に手を伸ばしていくか、ズボンをはかせる際に足を上げるか、等)、及び他者とのやり取りの能力(ちょうだいといわれると持っている物を差し出す、ボールを投げたり転がしたりして相手とやり取りができる、等)等で示される。したがって、より具体的な態様では、組成物は、自分の身の回りのことをする能力、及び他者とのやり取りの能力の促進のために用いられる。
【0022】
5つの領域における発達は、Ages & Stages Questionnaires(登録商標), Third Edition(ASQ(登録商標)-3)、及びその日本語版で評価できる。ASQ(登録商標)-3を用いる場合、対象となる児の正確な月齢・年齢に応じ、質問紙を選択する。日本語版としては、6か月、12か月、18か月、24か月、30か月、36か月、42か月、48か月、54か月、60か月用の質問紙が用意されている。対象となる児が妊娠37週0日よりも前に生まれた児である場合、評価時に2歳未満であれば、修正月齢に基づいて質問紙を選択する。質問紙は通常、保護者か養育者が記入する。記入された得点を集計し、必要に応じ得点を補正し、各領域ごとのカットオフ値が示されたグラフを用いて各領域の発達状況を評価することができる。
【0023】
一態様では、組成物は、11か月齢以後の児の脳機能の発達の促進のために用いられる。本発明者らの検討によると、1~6か月齢までに摂取した母乳中のDSLNT量と日本語版ASQ-3 24か月基本情報記入用紙(対象月齢:11か月0日~12か月30日)で評価した発達との高い相関が認められている。
【0024】
ある組成物が脳機能の発達を促進するとは、DSLNT及びその構成糖を含まないか、又はより低い濃度のDSLNT及びその構成糖を含む組成物を摂取させた場合に比較して、5つの領域のいずれかにおける発達が速く進むこと(ASQ(登録商標)-3ではより高い得点が算出される)のほか、5つの領域のいずれかにおいて順調な発達を助けること、5つの領域のいずれかの発達の程度が観察を要する範囲内である場合に順調な発達の程度に近づけること、等が含まれる。
【0025】
本発明の組成物はまた、脳機能の発達を促進することにより良くなることが期待できる、脳機能に関連した疾患又は状態の処置のために用いうる。このような疾患又は状態の例として、発達障害が挙げられる。発達障害は、脳機能の発達が関係する障害である。発達障害には、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、トゥレット症候群、吃音が含まれる。
【0026】
本発明の組成物はまた、脳機能を健康に維持するため、脳機能の発達を良好に維持するため、それらを助けるために、用いることができる。
【0027】
なお本発明に関し、疾患又は状態について処置というときは、発症リスクの低減、発症の遅延、予防、治療、進行の停止、遅延を含む。処置には、医師が行う、病気の治療を目的とした医療行為と、医師以外の者、例えば栄養士、管理栄養士、保健師、助産師、看護師、臨床検査技師、食品製造者、食品販売者等が行う、非医療的行為とが含まれる。また処置には、特定の食品の投与又は摂取の推奨、食餌方法指導、保健指導、栄養指導(傷病者に対する療養のために必要な栄養の指導、及び健康の保持増進のための栄養の指導を含む。)、給食管理、給食に関する栄養改善上必要な指導が含まれる。本発明における処置の対象は、ヒト(個体)と非ヒト哺乳類動物(コンパニオンアニマル等)を含む。
【0028】
(対象)
本発明の組成物は、脳機能の発達の促進が望ましい対象、又はその必要がある対象に摂取させるのに適している。このような対象には、乳児(1歳未満。1か月齢までの新生児を含む。)、幼児(1歳以上6歳未満)、子ども(6歳以上15歳未満)、成人(15歳以上)、中高年者(40歳以上65歳未満)、高齢者(65歳以上)、妊婦、産婦、病中病後の者、男性、女性が含まれる。
【0029】
一態様では、組成物は、児(乳児、幼児、及び子ども)に摂取させるため、好ましくは乳児又は幼児に、より好ましくは乳児(例えば6か月齢以下)に摂取させるために用いられる。他の態様では、組成物は、母乳栄養ではなく人工栄養が望ましい対象、又は人工栄養の必要がある対象に摂取させるのに適している。
【0030】
[組成物]
(剤型・形態)
本発明の組成物は、固体、液体、混合物、懸濁物、乳化物、ゲル、ゾル等の任意の形態に調製できる。本発明の組成物は、各種の成分を混合して調製した、人工(synthesized)栄養組成物とすることができる。
【0031】
特に好ましい態様では、本発明の組成物は、調製粉乳、調製液状乳、又は母乳代替食品の形態である。調製粉乳とは、生乳、牛乳若しくは特別牛乳又はこれらを原料として製造した食品を加工し、又は主要原料とし、これに乳幼児に必要な栄養素を加え粉末状にしたものをいう。調整液状乳とは、生乳、牛乳若しくは特別牛乳又はこれらを原料として製造した食品を加工し、又は主要原料とし、これに乳幼児に必要な栄養素を加え、液状にしたものをいう。
【0032】
調製粉乳、調製液状乳、又は母乳代替食品は、乳児用、フォローアップ用、低出生体重児用、小児用、成人用、高齢者用、アレルギー用、乳糖不耐症用、先天代謝異常用でありうる。フォローアップ用とは、日本においては9か月齢ぐらいからの離乳期以降から3歳ころまでの、乳児期から幼児の時期に必要な栄養素をバランスよく摂取させるためのものをいう。
【0033】
一態様では、調製粉乳は5~17%、好ましくは8~16%、より好ましくは12~15%となるように溶解して使用されるものである。調製粉乳は、1回量(例えば湯に溶解して200 mlの乳を調製するための量)をスティック包装又はキューブの形状とすることができる。
【0034】
本発明の組成物は、調製粉乳、調製液状乳、又は母乳代替食品以外の、食品、又は医薬品である組成物とすることができる。食品、又は医薬品は、特に記載した場合を除き、ヒトのためのもののみならず、ヒト以外の動物のためのものを含む。食品は、特に記載した場合を除き、一般食品、機能性食品、幼児向け食品、栄養組成物を含み、また治療食(治療の目的を果たすもの。医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの。)、食事療法食、成分調整食、介護食、治療支援用食品を含む。食品は、特に記載した場合を除き、固形物のみならず、液状のもの、例えば飲料、ドリンク剤、流動食、及びスープを含む。機能性食品とは、生体に所定の機能性を付与できる食品をいい、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)、機能性表示食品、栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル、液剤等の各種の剤型のもの)、美容食品(例えば、ダイエット食品)等の、健康食品の全般を包含している。また、本発明において「機能性食品」とは、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含している。化粧品は、薬用化粧品を含む。
【0035】
組成物が食品である場合、サプリメント、菓子、飲料、ドリンク剤、調味料、乳製品、加工食品、惣菜、スープ等の任意の形態にすることができる。具体的には、本発明の組成物は、グミ、タブレット、ドリンク剤、発酵乳、乳性飲料、乳飲料、清涼飲料、アイスクリーム、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品等の形態とすることができ、また飲料や食品に混合するための、又は希釈して飲料等を調製するための、顆粒、粉末、ペースト、濃厚液等の形態とすることができ、具体的には乳に添加するためのシロップの形態とすることができる。
【0036】
組成物が医薬品である場合、具体的な形態の例として、チュアブル錠、舌下錠、錠剤、丸剤、カプセル、顆粒剤、散剤、粉末剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、リニメント剤、ローション剤、ジェル剤、エアゾール剤、スプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、テープ剤、ハップ剤、点眼剤、点鼻剤、坐剤が挙げられる。
【0037】
(含有量・用量・濃度)
組成物における、有効成分の含有量及び濃度は、目的の効果が発揮される量であればよく、対象の月齢、年齢、体重、目的とする効果等の種々の要因を考慮して、適宜設定することができる。なお本発明に関し、組成物中のDSLNTの含有量、及び摂取時のDSLNTの濃度を示すときは、特に記載した場合を除き、DSLNTとしての含有量、及び濃度を示している。すなわち、有効成分としてDSLNTの構成糖のいずれかを含む場合は、示された含有量及び濃度のDSLNTと等モルの含有量・等モル濃度の、構成糖が用いられている。この換算は当業者であれば容易に行うことができる。また、有効成分が複数である場合、例えば、DSLNTとその構成糖1種が含まれている場合は、示された含有量及び濃度は、必要な換算を行った上での合計の含有量、及び濃度である。
【0038】
組成物が液体である場合、例えば調製液状乳である場合、組成物のDSLNT濃度は、上述の5つの領域のうち、いずれかの領域における発達を促進するとの観点からは、0.05 mg/mL以上であることが好ましく、0.07 mg/mL以上であることがより好ましい。上述の5つの領域のうち、少なくとも粗大運動の領域を含むいずれかの領域における発達を促進するとの観点からは、DSLNTの濃度は、0.09 mg/mL以上であることが好ましく、0.153 mg/mL以上であることがより好ましく、0.399 mg/mL以上であることがさらに好ましく、0.485 mg/mL以上であることがさらに好ましい。
【0039】
組成物が液体である場合、例えば調製液状乳である場合、組成物のDSLNT濃度の上限は、適宜設定でき、例えば、5.0 mg/mL以下とすることができ、4.0 mg/mL以下としてもよく、3.0 mg/mL以下としてもよく、2.0 mg/mL以下としてもよく、1.0 mg/mL以下としてもよい。母乳に通常含まれる量の範囲内という観点からは、DSLNTの濃度は、0.90 mg/mL以下であることが好ましく、0.71 mg/mL以下としてもよい。
【0040】
組成物が固体である場合、例えば調製粉乳である場合、組成物100 gあたりのDSLNTの量は、上述の5つの領域のうち、いずれかの領域における発達を促進するとの観点からは、20 mg以上であることが好ましく、40 mg以上であることがより好ましい。上述の5つの領域のうち、少なくとも粗大運動の領域を含むいずれかの領域における発達を促進するとの観点からは、組成物100 gあたりのDSLNTの量は、52.9 mg以上であることが好ましく、90 mg以上であることがより好ましく、234 mg以上であることがさらに好ましく、285 mg以上であることがさらに好ましい。
【0041】
組成物が固体である場合、例えば調製粉乳である場合、組成物100 gあたりのDSLNTの量の上限は、適宜設定でき、例えば、60 mg以下とすることができ、50 mg以下としてもよく、40 mg以下としてもよく、30 mg以下としてもよく、20 mg以下としてもよい。母乳に通常含まれる量の範囲内という観点からは、組成物100 gあたりのDSLNT類の量は、1420 mg以下であることが好ましく、418 mg以下としてもよい。
【0042】
組成物中のDSLNTの含有量は、一日あたりのDSLNT類の量を勘案して設計してもよい。DSLNTの一日量は、5 mg以上とすることができ、10 mg以上としてもよい。上述の5つの領域のうち、少なくとも粗大運動の領域を含むいずれかの領域における発達を促進するとの観点からは、DSLNTの一日量は、9 mg以上であることが好ましく、15.3 mg以上であることがより好ましい。
【0043】
DSLNTの一日量の上限は、適宜設定でき、例えば、500 mg以下とすることができ、400 mg以下としてもよく、300 mg以下としてもよく、200 mg以下としてもよく、100 mg以下としてもよい。母乳に通常含まれる量の範囲内という観点からは、DSLNTの一日量は、900 mg以下であることが好ましく、71 mg以下としてもよい。このような一日量は、複数に、例えば一日3~7回の摂取に適するように、3~7つに分割してもよい。
【0044】
組成物は一日のうちのどの時点で摂取させてもよい。組成物が、調製粉乳、調製液状乳、又は母乳代替食品である場合、母乳育児の場合と同様に本発明の組成物を用いて授乳することができる。
【0045】
(他の成分、添加剤)
本発明の組成物は、DSLNT及びその構成糖以外に、食品又は医薬品として許容可能な他の栄養成分を含んでいてもよい。例えば組成物が調製粉乳、調製液状乳、又は母乳代替食品の形態である場合、DSLNT及びその構成糖以外の成分として、たんぱく質、脂質、コレステロール、炭水化物、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、葉酸、亜鉛、ナトリウム、カリウム、カルシウム、セレン、鉄、銅、マグネシウム、リン、ラクトアドヘリン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、ARA(アラキドン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)、リノール酸、α-リノレン酸、リン脂質、フラクトオリゴ糖、イノシトール、β-カロテン、塩素、カルニチン、タウリン、ヌクレオチド等を含みうる。
【0046】
組成物はまた、DSLNT及びその構成糖以外に、食品、又は医薬品として許容可能な他の有効成分や栄養成分を含んでいてもよい。
【0047】
また組成物は、食品、又は医薬品として許容される添加物をさらに含んでいてもよい。そのような添加物の例は、不活性担体(固体や液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤、乳化剤、安定剤、甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、天然物である。
【0048】
(用法)
本発明の組成物は、経口的に用いられる。非経口的に、例えば経管的(胃瘻、腸瘻)に投与してもよいし、経鼻的に用いてもよいが、経口的に用いることが望ましい。
【0049】
組成物は、繰り返し対象に摂取させることができ、また長期間にわたり継続して対象に摂取させることができる。期間は特に限定されないが、効果が十分に認められるためには、比較的長い期間、例えば1週間以上、2週間以上、1か月以上、3か月以上、6カ月以上、1年以上、継続して摂取させることが好ましい。有効成分であるDSLNT及びその構成糖は食経験の長い物質であり、またDSLNTは元来母乳に含有されていることから、本発明の組成物は、長期間摂取させるのに特に適している。
【0050】
(その他)
本発明の組成物は、他の成分の摂取、健康食品・サプリメント等の摂取、運動、通常の食事等とともに用いることができる。また本発明の組成物は、脳機能の発達を促すような療法と併用してもよい。脳機能の発達を促すような療法の例として、インクルーシブ療法、音楽療法、作業療法、ソーシャル・スキル・トレーニング、認知行動療法、療育法が挙げられる。
【0051】
本発明の組成物は、当業者であれば既存の設備等を利用して適宜製造することができる。組成物の製造において、DSLNT及びその構成糖の配合の段階は、DSLNT及びその構成糖の特性を著しく損なわない限り、特に制限されない。
【0052】
本発明の組成物は、調製粉乳、調製液状乳、又は母乳代替食品の形態である場合も、常法にしたがい製造することができる。例えば、調製粉乳である場合は次のように製造することができる。乳清たんぱく質の処理物、カゼイン、大豆たんぱく質の処理物、糖類(乳糖、オリゴ糖)、ミネラル類、ビタミン類、油脂(脂肪酸として、ARA、DHA、リノール酸、α-リノレン酸等を含む。)を配合し、溶解、混合、清浄化した後、殺菌、濃縮、均質化し、噴霧乾燥その他の乾燥工程を経て、調製粉乳を得ることができる。この場合も、DSLNT及びその構成糖の配合の段階は、DSLNT及びその構成糖の特性を著しく損なわない限り、特に制限されない。
【0053】
本発明の組成物を含む製品には、機能や使用目的(用途)を表示することができ、また特定の対象に対して投与・摂取を薦める旨を表示することができる。表示は、直接的に又は間接的にすることができ、直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、パンフレット、展示会、メディアセミナー等のセミナー、書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール、音声等の、場所又は手段による、広告・宣伝活動を含む。表示される機能や使用目的(用途)の例として、「脳機能の発達を助ける」、「脳機能を維持するのを助ける」、「6か月齢までのあかちゃんに」、「乳児に」、「幼児に」、等が挙げられる。
【0054】
なお本願は、別の発明として、下記も提供する。
[i] 6'-シアリルラクトース(Neu5Acα(2-6)Galβ(1-4)Glc, 6'-sialyllactose, 6'-SL)、及びその構成糖であるシアル酸からなる群より選択されるいずれかを含む、児の、個人・社会の領域における脳機能の発達を促進するための組成物。
[ii] 11か月齢以後の児の脳機能の発達のためのものである、A1に記載の組成物。
[iii] 6か月齢以下の児に摂取させるための、i又はiiに記載の組成物。
[iv] 調製粉乳、調製液状乳、及び母乳代替食品からなる群より選択されるいずれかの形態である、iからiiiのいずれか1項に記載の組成物。
[v] 摂取時の6'-SLの濃度が0.01 mg/mL以上、好ましくは0.34 mg/mL以上、より好ましくは0.550 mg/mL以上、さらに好ましくは0.631 mg/mL以上である、iからivのいずれか1項に記載の組成物。いずれの場合も上限は適宜設定できるが、母乳に通常含まれる量の範囲内という観点からは、摂取時の6'-SLの濃度は、0.7 mg/mL以下であることが好ましく、0.65 mg/mL以下としてもよい。
[vi] 調製粉乳の形態であり、100gあたり6'-SLを、5.9 mg以上、好ましくは200 mg以上、より好ましくは320 mg以上、さらに好ましくは370 mg以上含む、iからvのいずれか1項に記載の組成物。いずれの場合も上限は適宜設定できるが、母乳に通常含まれる量の範囲内という観点からは、100g当たりの6'-SLの量は、420 mg以下であることが好ましく、390 mg以下としてもよい。
本明細書の、DSLNT、及びその構成糖からなる群より選択されるいずれかを有効成分として含む組成物についての説明は、上記のiからviと矛盾しない限り、上記iからviの各々の発明にも当てはまる。
【0055】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例0056】
[DSLNTによる児の脳機能発達促進効果]
方法1
児が摂取した母乳のDSLNTの濃度に依存して将来の児の脳機能発達が促進されるかを検討した。具体的な方法は下記の通り。
【0057】
生後1か月~生後6か月まで完全母乳栄養であった150児を対象とし、その児が生後1か月の時点で飲用した母乳のDSLNT濃度をLC-MS/MSによる多重反応モニタリングにて測定し、外部標準法により定量した。児の発達スコアは、生後12か月の時点でASQ(登録商標)-3(日本語版ASQ(登録商標)-3乳幼児発達検査スクリーニング質問紙,医学書院,2021)を用いて評価した。ASQ-3ではコミュニケーション、微細運動、粗大運動、個人-社会、問題解決の5つの領域から児の脳機能発達を評価する。これら2つの指標の関係性を、順序ロジスティック回帰分析により評価した。回帰モデルの調整には、ASQ-3にて脳発達に影響する因子とされる在胎週数を用いた。また、児が摂取する脳機能発達に関わるHMOの条件をそろえるため、2-FLおよび6'-SLの分泌型の情報も回帰モデルの調整に用いた。
【0058】
結果1
順序ロジスティック回帰分析では、生後12か月の発達スコアのうちの粗大運動の領域と母乳のDSLNT濃度に5%未満の危険率で有意な正の相関が認められた(下表)。
【0059】
【表1】
【0060】
方法2
生後1か月から生後6か月まで完全母乳栄養であった150児を対象とし、その児が生後1か月の時に飲用した母乳のDSLNTの濃度および6'-SLの濃度をLC-MS/MSにより測定した。DSLNTは方法1で検討した成分であり、6'-SLは既に脳機能発達との関連が報告されたHMOのひとつである。児の発達スコアは、生後12か月の時点でASQ-3を用いて評価した。母乳に含まれるDSLNTと6'-SLのどちらが脳機能発達を促進させる効果が高いかを評価する目的で、DSLNTと6'-SLのうちDSLNT濃度のみが高い母乳を飲用した群(1)と、6'-SL濃度のみが高い母乳を飲用した群(2)を150児の中から抽出し、両群間の発達スコアを比較した。
【0061】
【表2】
【0062】
結果2
方法2に従って分類した結果の比較を表3に示す。群(1)の発達スコア(12か月、個人-社会)が、群(2)にくらべて4.0高かった。この差は発達スコアのおよそ1段階に相当する。
【0063】
これより、児の発達を促進する効果は、6'-SLより、DSLNTの方が高いことが示された。
【0064】
【表3】
【0065】
方法3
児が摂取した母乳中のDSLNTの濃度による、将来の児の脳機能発達の差異を検討した。具体的な方法は下記の通り。
【0066】
方法1では、カテゴリー変数である2-FL分泌型、6'-SL分泌型の情報により調整した解析にて母乳のDSLNT濃度と児の脳機能発達の関連が見出された。これを踏まえて、方法3の検討では、飲用した母乳の2-FLの濃度が0.1 mg/ml未満または6'-SLの濃度が0.05 mg/ml未満であった児を解析対象者から除外した。解析対象者122名を母乳のDSLNT濃度に応じて3群にわけ、発達スコアの群間比較を行った。群分けは、3群の境界濃度を0.153 mg/ml(1か月母乳のDSLNT濃度の平均値-1×標準偏差)および、0.271 mg/ml(1か月母乳のDSLNT濃度の平均値)として行った。すなわち、飲用した母乳中のDSLNT濃度が≧0.271 mg/mlの群(高DSLNT群)と<0.271 mg/mlかつ≧0.153 mg/mlの群(中DSLNT群)、<0.153 mg/mlの群(低DSLNT群)の3群で群間比較を行った。
【0067】
結果3
発達スコア(12か月粗大運動)は、低DSLNT群で39.1であったのに対して、中DSLNT群では48.5、高DSLNT群では49.0とそれぞれ、9.4、9.9高かった(図1)。この差は発達スコアのおよそ2段階に相当する。
【0068】
これより、飲用する母乳のDSLNT濃度が、中DSLNT濃度群の下限値の0.153 mg/ml以上であれば、児の脳機能発達が促進されることが示された。
【0069】
方法4
児が摂取する組成物中のDSLNTの最大量を確認した。具体的な方法は下記の通り。
方法1に示した母乳のDSLNT含量から、母乳のDSLNT濃度の分布を示す箱ひげ図を作成した。得られた分布から最大の母乳のDSLNT濃度を児が摂取する組成物中のDSLNTの最大量を確認した。
【0070】
結果4
生後1か月時点で児が飲用した母乳150検体のDSLNT濃度の分布を図2に示す。最小値は0.09 mg/mLであり、最大濃度は0.71 mg/mlであった。これより生後1か月の児が摂取する上限のDSLNT濃度は0.71 mg/mlと確認した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、児の脳機能発達を将来にわたって促進できる食品組成物と、食品の製造方法を提供することができる。また本発明により、様々な人々の栄養の改善が実現され、健康的な生活が確保され、福祉が促進されることが期待できる。
図1
図2