(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106836
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】真空蒸着装置用の蒸着源及びこの蒸着源を備える真空蒸着装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20240801BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240801BHJP
H10K 71/16 20230101ALI20240801BHJP
【FI】
C23C14/24 A
C23C14/24 C
H10K50/10
H10K71/16
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011302
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】深尾 万里
(72)【発明者】
【氏名】関根 元気
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC33
3K107CC45
3K107FF15
3K107GG04
3K107GG34
3K107GG43
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029BC07
4K029BD01
4K029CA01
4K029DB06
4K029DB12
4K029DB17
4K029DB23
4K029HA01
4K029KA01
4K029KA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】スワップ移動及び走査移動時の移動速度を速くしても蒸着物質の液面の揺れが可及的に抑制されて、基板面内における膜厚分布の均一性且つ生産性よく成膜できる真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】真空チャンバ内に配置され、蒸着物質Vmを気化または昇華させて被処理基板に対して蒸着する真空蒸着装置用の蒸着源DS1は、蒸着物質が充填されると共に上面に気化させた蒸着物質の放出開口14aを有する収容箱11と、収容箱内の蒸着物質の加熱を可能とする加熱手段13とを有し、収容箱を第1位置と第2位置との間でスワップ移動させると共に、第1位置または第2位置にある収容箱を一方向に走査移動させる移動手段を備え、放出開口を臨む蒸着物質の上面部分より上方に突出する高さを有して、収容箱の内部空間を複数の小空間Spに仕切る仕切部材3が収容箱内に設けられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置され、蒸着物質を気化または昇華させて被処理基板に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源であって、
蒸着物質が充填されると共に上面に気化させた蒸着物質の放出開口を有する収容箱と、収容箱内の蒸着物質の加熱を可能とする加熱手段とを有し、収容箱を第1位置と第2位置との間でスワップ移動させると共に、第1位置または第2位置にある収容箱を一方向に走査移動させる移動手段を備えるものにおいて、
放出開口を臨む蒸着物質の上面部分より上方に突出する高さを有して、当該収容箱の内部空間を複数の小空間に仕切る仕切部材が収容箱内に設けられることを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項2】
前記仕切部材が板材を格子状に組付けて構成され、前記仕切部材と前記収容箱の内側壁及び内底壁との間に隙間が設けられることを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項3】
前記仕切部材は、前記収容箱に前記蒸着物質を充填した後に着脱自在に設けられることを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の蒸着源と、当該蒸着源が設けられる真空チャンバとを備え、真空雰囲気の真空チャンバ内に被処理基板を設置し、蒸着物質を気化させると共に収容箱を一方向に走査移動させて被処理基板表面に所定の薄膜を蒸着する真空蒸着装置において、
前記真空チャンバに被処理基板を格納する補助チャンバが連設され、収容箱の第1位置及び第2位置に夫々対応する真空チャンバ内の所定位置と、補助チャンバとの間で被処理基板を搬送する搬送手段を更に備えることを特徴とする真空蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内に配置され、蒸着物質を気化または昇華させて被処理基板に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源及びこの蒸着源を備える真空蒸着装置に関し、より詳しくは、真空チャンバ内で2枚の被処理基板に対して交互に蒸着するためのものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば有機EL素子の製造工程においては、真空雰囲気中にて、加熱により蒸着物質を気化または昇華させて、ガラス基板等の被処理基板(以下「基板」ともいう)の表面に所定の薄膜を蒸着する工程があり、この蒸着工程には真空蒸着装置が広く利用されている。この種の真空蒸着装置は例えば特許文献1で知られている。このものは、真空チャンバを備え、真空チャンバ内には、蒸着物質が充填されると共に上面に気化させた蒸着物質の放出開口を有する収容箱と、この収容箱内の蒸着物質の加熱を可能とする加熱手段とを有する蒸着源が配置されている。蒸着源にはまた、真空チャンバ内で収容箱を第1位置と第2位置との間でスワップ移動させると共に、第1位置または第2位置にある収容箱を一方向に走査移動させる移動手段が設けられている。
【0003】
真空雰囲気の真空チャンバ内の所定位置に最初の基板(第1の基板)が設置され、放出開口から気化または昇華した蒸着物質を放出する状態で第1位置にある収容箱が一方向に走査移動されて基板表面に所定の薄膜が蒸着される。併せて、真空チャンバ内の他の所定位置に次の基板(第2の基板)が設置される。そして、第1の基板への蒸着が完了すると、収容箱が回転またはスライドによるスワップ移動で第2位置に移動され、その後に収容箱が一方向に走査移動されて第2の基板表面に所定の薄膜が蒸着される。併せて、蒸着済みの第1の基板が真空チャンバ外へと搬出され、更に次の基板が真空チャンバ内の所定位置に設置される。以降、この操作を繰り返して複数枚の基板に対して順次蒸着される。これにより、蒸着物質の使用効率を向上させることができる。
【0004】
ところで、蒸着物質が、例えば液相を経て気相に転移する蒸発材料である場合、収容箱内の蒸着物質は、常時、溶融して液状となっている。このため、スワップ移動時や走査移動時にその移動速度が速くなると、放出開口を臨む蒸着物質の液面が波打つように揺れてしまう(
図4(b)参照)。走査移動時の移動速度は、基板表面に蒸着しようとする薄膜の膜厚と基板面内の膜厚分布の面内均一性に応じて適宜設定される。例えば、面内均一性を重視して蒸着するような場合、走査移動時の移動速度を比較的遅くし、目標膜厚で蒸着するために収容箱を往復走査移動させる。他方、スワップ移動時の移動速度は、生産性を考慮すると、可及的に速い方が望ましい。
【0005】
然し、スワップ移動時の移動速度が速くなればなる程、スワップ移動を停止したときの蒸着物質の液面の揺れが大きくなり、このような状態で走査移動を開始して蒸着するのでは、放出開口から放出される蒸着物質の量が局所的に不安定になって、基板面内における膜厚分布の均一性よく蒸着できないという問題が生じる。このような場合、スワップ移動を停止した後に液面の揺れが可及的小さくなるまで待つことが考えられるが、これでは、却って生産性が損なわれる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、スワップ移動及び走査移動時の蒸着物質の上面の揺れが可及的に抑制されて、基板面内における膜厚分布の均一性よく且つ生産性よく成膜できる真空蒸着装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内に配置され、蒸着物質を気化または昇華させて被処理基板に対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置用の蒸着源は、蒸着物質が充填されると共に上面に気化させた蒸着物質の放出開口を有する収容箱と、収容箱内の蒸着物質の加熱を可能とする加熱手段とを有し、収容箱を第1位置と第2位置との間でスワップ移動させると共に、第1位置または第2位置にある収容箱を一方向に走査移動させる移動手段を備えるものにおいて、放出開口を臨む蒸着物質の上面部分より上方に突出する高さを有して、当該収容箱の内部空間を複数の小空間に仕切る仕切部材が収容箱内に設けられることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、仕切部材で収容箱の内部空間が複数の小空間に仕切られていることで、収容箱のスワップ移動時や走査移動時、収容箱のスワップ移動方向前後または走査移動方向前後に蒸着物質の上面(液面)の揺れが大きく伝播することが防止され、結果として、蒸着物質の上面の揺れが可及的に抑制される。その結果、放出開口から放出される蒸着物質の量の変動が抑制され、基板面内における膜厚分布の均一性よく蒸着することができる。しかも、収容箱を比較的速い速度でスワップ移動や走査移動させることができるため、生産性を向上させることができる。
【0010】
本発明において、前記仕切部材が板材を格子状に組付けて構成され、前記仕切部材と前記収容箱の内側壁及び内底壁との間に隙間が設けられることが好ましい。これによれば、格子状としたことで仕切部材のみで自立が可能となり、仕切部材を支持する支持部材を設ける必要がない。また、溶融して液状となった蒸着物質は、仕切部材と収容箱の内側壁及び内底壁との間の隙間を介して各小空間を流動できるため、各小空間内の蒸着物質の液面(即ち、蒸発面積)を均一に維持することができる。
【0011】
また、本発明において、前記仕切部材は、前記収容箱に前記蒸着物質を充填した後に着脱自在に設けられることが好ましい。これによれば、仕切部材はその自重により液状の蒸着物質内に沈むため、収容箱内に充填された蒸着物質の上面に仕切部材を載せるだけで、仕切部材を簡便に設置することができる。また、成膜終了後は、仕切部材を収容箱から取り外すことで、収容箱内に残った蒸着物質の回収が容易となる。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の真空蒸着装置は、前記蒸着源と、当該蒸着源が設けられる真空チャンバとを備え、真空雰囲気の真空チャンバ内に被処理基板を設置し、蒸着物質を蒸発させると共に収容箱を一方向に走査移動させて被処理基板表面に所定の薄膜を蒸着するものにおいて、前記真空チャンバに被処理基板を格納する補助チャンバが連設され、収容箱の第1位置及び第2位置に夫々対応する真空チャンバ内の所定位置と、補助チャンバとの間で被処理基板を搬送する搬送手段を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態の蒸着源を備える真空蒸着装置の平面図。
【
図2】(a)は、本発明の実施形態の蒸着源を備える真空蒸着装置を説明する、一部を断面視とした部分斜視図、(b)は、
図1の真空蒸着装置のIIb-IIb線に沿う部分断面図。
【
図3】(a)本実施形態の蒸着源の平面図、(b)(a)の蒸着源のIIIb-IIIb線に沿う部分断面図。
【
図4】(a)スワップ移動時の本実施形態の蒸着源の部分断面図、(b)スワップ移動時の従来例の蒸着源の部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、被処理基板を矩形の輪郭を持つガラス基板(以下、「基板Sw」という)、蒸着物質を、液相を経て気相に転移する蒸発材料とし、基板Swの片面に対して真空蒸着法により所定の薄膜を蒸着(成膜)する場合を例に本発明の真空蒸着装置用の蒸着源及びこの蒸着源を備える真空蒸着装置の実施形態を説明する。
【0015】
図1を参照して、DMは本実施形態の真空蒸着装置である。真空蒸着装置DMは、真空チャンバVc1,Vc2を備え、各真空チャンバVc1,Vc2には、ロードロックバルブLv1~Lv4を介して、補助チャンバとしての搬送チャンバTcが連設されている。搬送チャンバTcには、後述の使用前後のマスクプレートMpが収納されるマスクストックチャンバMc1,Mc2と、ロードロックチャンバLc1,Lc2とがロードロックバルブLv5~Lv8を介して連設されている。特に図示して説明しないが、各真空チャンバVc1,Vc2、搬送チャンバTc、マスクストックチャンバMc1,Mc2及びロードロックチャンバLc1,Lc2には、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力(真空度)に真空排気して真空雰囲気を形成することができる。また、基板Swは、ロードロックチャンバLc1からロードロックチャンバLc2の方向(
図1中、左方から右方)に搬送される。以下においては、基板Swの搬送方向をX軸方向、X軸方向に直交する方向をY軸方向とする。
【0016】
搬送チャンバTc内には、搬送手段として真空搬送ロボットTrが設けられている。真空搬送ロボットTrは、フォーク状のロボットハンドRhを有し、図示省略の移動手段によりX軸方向への移動と回転とが可能なように構成されている。真空搬送ロボットTrは、搬送チャンバTcから各真空チャンバVc1,Vc2内の後述する基板保持手段21,22に、基板Sw及びマスクプレートMpを夫々搬送し、基板Swは真空チャンバVc1,Vc2内に夫々格納される。そして、各真空チャンバVc1,Vc2の底部には、本実施形態の蒸着源としての線形蒸着源DS1,DS2が夫々設けられている。以下、真空チャンバVc1内に設けられる線形蒸着源DS1を例に説明する。
【0017】
図2及び
図3も参照して、線形蒸着源DS1は、蒸着物質Vmを収容する金属製の収容箱11を有する。収容箱11内には金属製の坩堝12が格納され、坩堝12内に蒸着物質Vmが充填される。蒸着物質Vmとしては、基板Swに成膜しようとする薄膜に応じて有機材料や金属材料が適宜選択され、顆粒状またはタブレット状のものが利用される。坩堝12と収容箱11との間には、坩堝12の外壁面をその全体に亘って覆うように加熱手段としてのシースヒータ13が設けられ、坩堝12を介して蒸着物質Vmを沸点以上の温度に加熱できる。また、収容箱11の上面には、気化させた蒸着物質Vmの放出開口14aを有する放出ノズル14がX軸方向に所定間隔で10本列設されている。そして、シースヒータ13により坩堝12内の蒸着物質Vmがその融点以上の温度に加熱されることで、蒸着物質Vmは溶融して液状となり、更に沸点以上の温度に加熱されることで、気化された蒸着物質Vmが放出ノズル14の放出開口14aから放出される。
【0018】
真空チャンバVc1の下面には、収容箱11をスワップ移動及び走査移動させる移動手段Stが設けられる。移動手段Stは、Y軸方向にのびる2本の第1ガイドレールGr1,Gr1を有し、第1ガイドレールGr1,Gr1には、これらに跨るように第1スライダSr1が摺動自在に係合している。そして、第1スライダSr1には、放出ノズル14が上方を向く姿勢で収容箱11が設置される。また、移動手段Stは、X軸方向にのびる2本の第2ガイドレールGr2,Gr2を有する。各第2ガイドレールGr2,Gr2には、第1ガイドレールGr1,Gr1の両端部下面に夫々設けた第2スライダSr2が摺動自在に係合し、収容箱11を第1ガイドレールGr1,Gr1と共に第1位置P1(
図2中、実線で示す位置)とこの第1位置P1からX軸方向に所定距離離れた第2位置P2(二点鎖線で示す位置)との間でスライドさせてスワップ移動することができる。第1位置P1または第2位置P2では、収容箱11を第1ガイドレールGr1,Gr1に沿って且つ基板SwのY軸方向全長に亘って収容箱11を走査移動することができる。
【0019】
真空チャンバVc1上部の、第1位置P1及び第2位置P2と対向する各位置には、第1及び第2の基板保持手段2
1,2
2が夫々設けられている。各基板保持手段2
1,2
2は、真空チャンバVc1の天板から下方にのびる4本のロッド部21と、各ロッド部21の下端に設けられる支持部材22とで構成される。そして、搬送チャンバTc内の真空搬送ロボットTrにより搬送される基板Swが、真空チャンバVc1内に夫々搬送されて、各基板保持手段2
1,2
2により保持される。また、各基板保持手段2
1,2
2によって保持される各基板Swと線形蒸着源DS1との間には、基板Swと同様に真空搬送ロボットTrにより搬送される板状のマスクプレートMpが設けられている。マスクプレートMpは、インバー、アルミ、アルミナやステンレス等の金属製またはポリイミド等の樹脂製の薄板で構成され、図示省略の板厚方向に貫通する開口が所定のマスクパターンで複数形成されている。基板保持手段2
1,2
2やマスクプレートMpとしては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。なお、
図2(a)及び
図2(b)中、符号Apは、第1位置P1と第2位置P2との成膜空間を仕切る防着板である。
【0020】
蒸着物質Vmが充填された坩堝12内には、仕切部材3が着脱自在に設けられている。仕切部材3は、X軸方向にのびる複数枚の金属製の第1板材31とY軸方向にのびる複数枚の金属製の第2板材32とが格子状に組付けて構成される。各板材31,32は、坩堝12内への設置状態で放出開口14aを臨む蒸着物質Vmの上面部分より上方に突出する高さを有し、収容箱11の内部空間を複数の小空間Spに仕切る。また、各板材31,32の下端には切欠部31a,32aが夫々設けられて、各板材31,32の長手方向両端に脚片31b,32bが夫々形成されるようにしている。そして、脚片31b,32bを介して坩堝12の内底壁部に支持される。これにより、各板材31,32の下端と坩堝12の内底壁部との間には、隙間Gp1が設けられる。また、各板材31,32のX軸方向及びY軸方向の長さは、坩堝12内への設置状態で各板材31,32のX軸方向またはY軸方向の両端部と坩堝12の内側壁との間に隙間Gp2,Gp3が存するように設定される。各板材31,32の板厚さは、例えば、蒸着物質Vmの加熱温度を考慮して適宜設定され、また、仕切られた小空間Spの単位面積は、例えば、スワップ移動及び走査移動時の移動速度を考慮して適宜設定される。
【0021】
上記真空蒸着装置DMにより基板Swの下面に所定の薄膜を蒸着するのに際しては、真空チャンバVc1外にて、収容箱11の坩堝12に蒸着物質Vmを充填した後、充填した蒸着物質Vm上に仕切部材3を載置する。このとき、脚片31b,32bは浮いていてもよい。次に、線形蒸着源DS1を第1スライダSr1上に設置する。線形蒸着源DS1が設置されると、図外の真空ポンプにより真空チャンバVc1内を所定圧力まで真空排気する。次に、シースヒータ13を作動させて蒸着物質Vmを加熱すると、溶融した蒸着物質Vmが気化して収容箱11内に気化雰囲気が形成され、真空チャンバVc1内との圧力差で各放出ノズル14の放出開口14aから気化した蒸着物質Vmが所定の余弦則に従い放出される。このとき、シースヒータ13によって、蒸着物質Vmと同様に仕切部材3も加熱される。そして、真空雰囲気の真空チャンバVc1内の第1の基板保持手段21に最初の基板(第1の基板)Sw1が設置され、各放出ノズル14の放出開口14aから気化した蒸着物質Vmを放出する状態で、第1位置P1にある収容箱11がY軸方向に走査移動されて第1の基板Sw1表面に所定の薄膜が蒸着される。併せて、真空チャンバVc1内の第2の基板保持手段22に次の基板(第2の基板)Sw2が設置される。そして、第1の基板Sw1への蒸着が完了すると、収容箱11がX軸方向へのスライドによるスワップ移動で第2位置P2へ移動し、その後に収容箱11がY軸方向に走査移動されて第2の基板Sw2表面に所定の薄膜が蒸着される。併せて、蒸着済みの第1の基板Sw1が真空チャンバVc1外へと搬出され、更に次の基板Swが真空チャンバVc1内の第1の基板保持手段21に設置される。以降、この操作を繰り返して複数枚の基板Swに対して順次蒸着が行われる。
【0022】
以上によれば、仕切部材3で坩堝12の内部空間が複数の小空間Spに仕切られていることで、収容箱11のスワップ移動時や走査移動時、
図4(a)に示すように収容箱11のスワップ移動方向前後または走査移動方向前後に蒸着物質Vmの上面(液面)の揺れが大きく伝播することが防止され、結果として、蒸着物質Vmの上面の揺れが可及的に抑制される。その結果、放出開口14aから放出される蒸着物質Vmの量の変動が抑制され、基板Sw面内における膜厚分布の均一性よく蒸着することができる。また、収容箱11を比較的速い速度でスワップ移動や走査移動させることができるため、生産性を向上させることができる。
【0023】
また、仕切部材3が、第1及び第2板材31,32を格子状に組付けて構成され、仕切部材3と坩堝12の内側壁及び内底壁との間に隙間Gp1~Gp3を設けることで、仕切部材3のみでの自立が可能となり、また液状の蒸着物質Vmが隙間Gp1~Gp3を介して各小空間Spを流動するため、各小空間Sp内の蒸着物質Vmの液面(即ち、蒸発面積)を均一に維持することができる。なお、隙間Gp2,Gp3は15mm以下であることが好ましく、隙間Gp2,Gp3が15mmよりも大きいと、蒸着物質Vmの上面(液面)の揺れを効果的に抑制することができなくなる。また、仕切部材3は、収容箱11に蒸着物質Vmを充填した後に着脱自在に設けられることで、仕切部材3を簡便に設置することができ、また坩堝12内に残った蒸着物質Vmの回収が容易となる。
【0024】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、収容箱11を第1位置P1と第2位置P2との間でX軸方向にスライドしてスワップ移動させるものを例に説明したが、収容箱11を第1位置P1と第2位置P2との間でスワップ移動させるものであれば、スワップ移動の方式はこれに限定されない。例えば第1位置と第2位置との中間地点に回転中心となる回動軸を設けて、この回動軸を中心として収容箱11を回動によりスワップ移動させるものにも、本発明を適用することができる。
【0025】
また、上記実施形態では、仕切部材3として、第1及び第2板材31,32を格子状に組付けて構成したものを例に説明したが、収容箱11の内部空間を複数の小空間Spに仕切ることができるものであれば、仕切部材3の形状はこれに限定されない。例えば、X軸方向またはY軸方向の一方向で収容箱11の内部空間を仕切るものや、千鳥状やハニカム構造となるように組付けて構成したものでもよい。また、上記実施形態では、加熱手段としてのシースヒータ13を坩堝12の外壁面に設けたものを例に説明したが、加熱手段を仕切部材3に設けることもできる。
【0026】
また、上記実施形態では、蒸着物質Vmとして、液相を経て気相に転移する蒸発材料を例に説明したが、液相を経ずに固相から気相に転移する昇華材料を用いるものにも、本発明を適用することができる。この場合、収容箱11内に充填された昇華材料の上面が、スワップ移動により崩れるのを防止することができる。
【符号の説明】
【0027】
DM…真空蒸着装置、DS1,DS2…線形蒸着源(蒸着源)、P1…第1位置、P2…第2位置、Sp…複数の小空間、St…移動手段、Sw,Sw1,Sw2…基板(被処理基板)、Tc…搬送チャンバ(補助チャンバ)、Tr…真空搬送ロボット(搬送手段)、Vc1,Vc2…真空チャンバ、Vm…蒸着物質、11…収容箱、13…加熱手段、14a…放出開口、3…仕切部材、31…第1板材、32…第2板材、Gp1~Gp3…隙間