(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106875
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】圧電性単結晶基板の製造方法、ラッピングスラリーの評価方法、及びラッピングスラリーの調整方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240801BHJP
B24B 37/08 20120101ALI20240801BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240801BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20240801BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20240801BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
H01L21/304 622N
B24B37/08
B24B37/00 H
B24B1/00 B
B24B27/06 D
C09K3/14 550Z
H01L21/304 621A
H01L21/304 622D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011347
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】田口 二郎
(72)【発明者】
【氏名】宮内 恭子
【テーマコード(参考)】
3C049
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C049AA07
3C049CA01
3C049CA04
3C049CB06
3C158AA05
3C158AA07
3C158AC02
3C158BA09
3C158CA01
3C158CB06
3C158DA03
3C158EA01
3C158ED00
3C158ED26
5F057AA05
5F057AA19
5F057BA12
5F057BB05
5F057CA18
5F057DA03
5F057DA05
5F057EA01
5F057GB11
(57)【要約】
【課題】ラッピング工程における基板の割れの程度を評価すること。
【解決手段】圧電性単結晶基板の製造方法は、圧電性単結晶をワイヤーソーによりスライスして単結晶基板を形成するスライス工程と、ラッピング加工により前記単結晶基板の両面を粗研磨するラッピング工程と、粗研磨された前記単結晶基板の少なくとも一方の面を鏡面研磨するポリッシング工程と、を有し、前記ラッピング工程は、前記ラッピング加工を行う前に、該ラッピング加工に用いるラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量を測定することを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性単結晶をワイヤーソーによりスライスして単結晶基板を形成するスライス工程と、
ラッピング加工により前記単結晶基板の両面を粗研磨するラッピング工程と、
粗研磨された前記単結晶基板の少なくとも一方の面を鏡面研磨するポリッシング工程と、を有し、
前記ラッピング工程は、前記ラッピング加工を行う前に、該ラッピング加工に用いるラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量を測定することを含む、圧電性単結晶基板の製造方法。
【請求項2】
前記ラッピング工程において前記ラッピング加工に用いるラッピングスラリーは、砥粒と溶媒とを含み、該ラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量が負の値である、請求項1に記載の圧電性単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
前記ラッピングスラリーは、該ラッピングスラリーの全重量に対して、ポリオキシアルキレン系分散剤を0.5重量%以上5重量%以下含む、請求項1または請求項2に記載の圧電性単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
前記単結晶基板が、タンタル酸リチウム単結晶基板、またはニオブ酸リチウム単結晶基板である、請求項1に記載の圧電性単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
単結晶基板の両面を粗研磨するラッピング加工に用いるラッピングスラリーの評価方法であって、
前記ラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量を測定し、該変化量が負の値である場合に、前記ラッピングスラリーは良好であると評価する、ラッピングスラリーの評価方法。
【請求項6】
単結晶基板の両面を粗研磨するラッピング加工に用いるラッピングスラリーの調整方法であって、
砥粒と溶媒とを含み、せん断速度に対するせん断粘度の変化量が正の値であるラッピングスラリーに対して、前記ラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量が負の値となるように分散剤を加えることを含む、ラッピングスラリーの調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電性単結晶基板の製造方法、ラッピングスラリーの評価方法、及びラッピングスラリーの調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸リチウム(LiTaO3、以後、LTと略記する)単結晶、および、ニオブ酸リチウム(LiNbO3、以後、LNと略記する)単結晶は、融点がそれぞれ約1650℃、約1250℃、キュリー点がそれぞれ約600℃、約1200℃の強誘電体であり、圧電性を有する。このLT単結晶またはLN単結晶から製造されたLT単結晶基板やLN単結晶基板は、主に携帯電話の信号ノイズ除去用の表面弾性波(以後、SAWと略記する。)フィルタや光学素子などのデバイス材料として用いられている。デバイスが必要とする特性によって、いずれかの単結晶ウエハが選択される。
【0003】
LT単結晶は、チョクラルスキー法(CZ法)などの単結晶育成方法により育成される。まず、インゴットの状態で、径の不足する結晶の端部をカットした後、LT単結晶には、単一分極化処理(ポーリング)が施される。このポーリング処理は、LT単結晶の<001>軸方向に、キュリー点以上の温度で電圧を印加することで、結晶を単一分極化させる処理である。
【0004】
次に、弾性表面波素子などを作製する際の基準面、すなわち、結晶方位や弾性表面波の伝播方向を示す面となるオリエンテーションフラット(Orientation Flat、OF)を加工し、外径を整える円周研削加工が、LT単結晶に施される。これらの加工を施した後、LT単結晶は、ワイヤーソーなどの切断装置により、所望の結晶方位に沿ってスライスされ、所定の厚さの円盤状の基板として形成される。
【0005】
得られたLT単結晶基板は、例えば次のような加工が施される。まず、#400~#1000程度の番手のダイヤモンド砥石を用いたベベリング加工により、基板の外周に面取り加工を施して、以後のプロセスでの割れを防止するとともに、基板の直径を所定の大きさに成形する。
【0006】
次に、#800~#2000の番手の砥粒と、水と防錆剤(トリエタノールアミン)からなるラップ液とを含むラッピングスラリーを用いたラッピング加工により、LT単結晶基板の両面にラッピング加工を施す。これにより、スライスによる基板両面のダメージを取り除くとともに、平面度と平行度を得ながら、基板は所定の厚みに揃えられる。
【0007】
SAW(Surface Acoustic Wave、弾性表面波)フィルタ用途の場合には、さらに、仕様によって異なるが#240~#2500の番手の砥粒を用いたラッピングスラリーによるラッピング加工により、LT単結晶基板の裏面の粗面化が施される。
【0008】
そして、仕上げとして、粗面化した面の反対側にあたる表面を、コロイダルシリカなどのスラリーを用いたメカノケミカルポリッシュにより、鏡面研磨する。
【0009】
これに対して、光学素子用途の場合には粗面化は不要であり、LT単結晶基板の両面ラッピング後に、コロイダルシリカなどのスラリーを用いたメカノケミカルポリッシュにより、両面を鏡面研磨する場合が多い。
【0010】
このようにして、得られたLT単結晶基板は、例えば、直径が3インチ~6インチ(76mm~152mm)、厚さが0.1mm~0.5mm程度の円盤形状を有する。なお、LN単結晶基板も、LT単結晶基板と同様の製造工程を経て作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上述のようなLT単結晶等の圧電性単結晶基板の製造において最も問題となるのは、基板の割れの問題である。基板の割れが発生する結果、歩留まりが低下し、製造コストも上昇してしまう。特に、スライス後の工程である両面ラッピング工程で割れが発生する場合が多い。
【0013】
例えば、特許文献1には、圧電性単結晶基板のラッピング工程においてラッピング加工に用いるラッピングスラリーの22℃における粘度が1.1~3.0mPa・sにすることで、両面ラッピング工程における、基板の割れ発生割合(割れ率)を2.0%以下に低減することができる記載がある。
【0014】
しかしながら、特許文献1のようにラッピングスラリーの粘度を管理することで基板の割れ発生割合を2.0%以下に抑えることは可能であるが、ラッピングスラリーに含まれる研磨材(砥粒)の生産のロットによってばらつきがあることがわかった。発明者らは、基板の割れる割合の低い研磨材のロットと割れが発生する割合の高い研磨材の生産ロットのラッピングスラリーについて調査した。その結果、ラッピングスラリーの状態により基板の割れ率が左右されることがわかった。
【0015】
そこで、本発明は、上記調査を基にLT単結晶等の圧電性単結晶基板の製造において、両面ラッピング工程における基板の割れの程度を評価することができる圧電性単結晶基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る圧電性単結晶基板の製造方法は、圧電性単結晶をワイヤーソーによりスライスして単結晶基板を形成するスライス工程と、前記単結晶基板の両面を粗研磨するラッピング工程と、粗研磨された前記単結晶基板の少なくとも一方の面を鏡面研磨するポリッシング工程と、を有し、前記ラッピング工程は、ラッピング加工を行う前に、ラッピング加工に用いるラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量を測定することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様に係るラッピングスラリーの評価方法は、単結晶基板の両面を粗研磨するラッピング加工に用いるラッピングスラリーの評価方法であって、前記ラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量を測定し、該変化量が負の値である場合に、前記ラッピングスラリーは良好であると評価する。
【0018】
また、本発明の一態様に係るラッピングスラリーの調整方法は、単結晶基板の両面を粗研磨するラッピング加工に用いるラッピングスラリーの調整方法であって、砥粒と溶媒とを含み、せん断速度に対するせん断粘度の変化量が正の値であるラッピングスラリーに対して、前記ラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量が負の値となるように分散剤を加えることを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明の態様の圧電性単結晶基板の製造方法によれば、ラッピング工程における基板の割れの程度を評価することができる。本発明の態様のラッピングスラリーの評価方法によれば、ラッピング工程における基板の割れを低減することができる。本発明の態様のラッピングスラリーの調整方法によれば、ラッピング工程における基板の割れを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法に用いられる両面ラッピング装置の一例を示した図である。
【
図2】本実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法の両面ラッピング工程の研磨中の状態の一例を示した図である。
【
図3】本実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法の両面ラッピング工程における研磨中のラッピングスラリーの状態を示すための拡大図である。
【
図4】本実施形態に係るラッピングスラリーのせん断速度とせん断粘度の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(圧電性単結晶基板の製造方法)
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
図1は、本発明の実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法に用いられる両面ラッピング装置10の一例を示した図である。
【0022】
本実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法に用いられる両面ラッピング装置10は、上側の定盤20と、下側の定盤30と、キャリアプレート40と、上側の回転軸70と、上側回転盤71と、下側の回転軸80と、下側回転盤81とを備える。
【0023】
上側の定盤20と下側の定盤30とは、互いに上下で対向し、一対の研磨定盤を構成する。また、下側定盤30の表面上には、キャリアプレート40が設置され、キャリアプレート40内に基板50が保持されている。
【0024】
また、上側の定盤20は、上側回転盤71の下面の表面に支持されている。上側回転盤71の上面の中心には、回転軸70が設けられ、上側回転盤71は、回転軸70により回転可能に構成されている。同様に、下側の定盤30は、下側回転盤81の表面上に支持されており、下側回転盤81の下面の中心には、回転軸80が設けられている。そして、回転軸80の回転により、下側回転盤81と、下側回転盤81に支持された下側の定盤30が回転するように構成されている。なお、定盤20、30は、例えば、鋳鉄製であってもよい。
【0025】
図2は、本実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法の両面ラッピング工程の研磨中の状態の一例を示した図である。また、
図3は、両面ラッピング工程における研磨中のラッピングスラリー60の状態を示すための拡大図である。
【0026】
図3に示されるように、ラッピング研磨を行う際には、上側の定盤20と基板50の間及び下側の定盤30と基板50との間にラッピングスラリー60を供給し、定盤20、30に荷重を加えながら回転運動を行う。
【0027】
図1に示されるように、最初に、下側の定盤30上にキャリアプレート40がセットされ、基板50もキャリアプレート40に支持固定される。そして、
図2、3に示されるように、上側の定盤20が下降し、基板50は、上下定盤20、30の間にセットされたキャリアプレート40で支持固定される。そして、炭化珪素の#240~#2500の番手からなる砥粒60とラップ液の混合液であるラッピングスラリー60を上下定盤20、30と基板50の間に供給し、かつ、上下定盤20、30に荷重を加えながらすり合わせ回転運動して、基板50の両面を研磨する。
【0028】
なお、本実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法を実施するための両面ラッピング装置は、公知のラッピング装置を用いることができる。例えば、市販の両面ラッピング装置を用いることができる。なお、ラッピングスラリー60(「スラリー」と略記する場合もある)は、例えば、両面ラッピング装置10に備えられた、図示しないスラリー供給タンクから供給される。スラリー供給タンクには、撹拌モーターが取り付けられており、スラリーは撹拌翼で撹拌されている。加工に使用したスラリーは両面ラッピング装置10の排出口からタンクに戻り、再び基板50に供給され、循環して使用される。
【0029】
ラッピングスラリー60は循環して使用している場合、スラリータンク内のラッピングスラリー60は鋳鉄製の定盤由来の鉄粉、基板50の研磨屑の影響で粘度が変化し、基板割れの増大に繋がる。このようなラッピングスラリー60の状態変化を抑えるため、一定枚数加工ごとのラッピングスラリー60の補充、およびラップ液の追加を行う。また、基板50の処理枚数が規定の生産枚数に達したときに、使用中のラッピングスラリー60は廃棄している。
【0030】
次に、本実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法(「製造方法」と略記する場合もある)について説明する。本実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法は、圧電性単結晶をワイヤーソーによりスライスして単結晶基板を形成するスライス工程と、ラッピング加工により単結晶基板の両面を粗研磨するラッピング工程と、粗研磨された単結晶基板の少なくとも一方の面を鏡面研磨するポリッシング工程と、を有し、前記ラッピング工程は、ラッピング加工を行う前に、該ラッピング加工に用いるラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量を測定することを含む。なお、スライス工程、及びポリッシング工程については、公知の方法を用いることができる。また、上記圧電性単結晶基板は、特に限定されない。
【0031】
本実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法においては、ラッピング工程において、ラッピングスラリー60のせん断速度に対するスラリーの粘度の変化量を測定することを特徴とする。これにより、ラッピング工程における基板の割れの程度を評価することができる。前述したように、発明者らは、割れる割合の低いロットと割れが発生するロットのラッピングスラリーについて調査した。その結果、ラッピングスラリーのせん断速度に対するスラリーの粘度の変化量と割れ率に相関があることがわかった。以下、詳細に説明する。
【0032】
ラッピングスラリー60は、基板を研削する砥粒と溶媒とを含む。砥粒は、例えば、炭化ケイ素やダイヤモンドの砥粒を用いることができる。砥粒の粒径は、特に限定されないが、例えば#800~#2000の番手の砥粒を用いることができる。溶媒は、特に限定されないが、一般的に水を用いることができる。なお、必要に応じて分散剤、防錆剤(トリエタノールアミン等)などの添加剤を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で添加してもよい。
【0033】
本発明の態様では、ラッピングスラリー60のせん断速度に対するせん断粘度の変化量(「せん断粘度の変化量」と略記する場合もある)を測定する。ラッピングスラリー60のせん断速度に対するせん断粘度の変化量は、レオメーターを用いてせん断速度γ(1/s=1/sec)とその時のせん断粘度η(Pa・s)を測定することにより求める。ラッピングスラリー60のせん断速度に対するせん断粘度の変化量の測定において、せん断速度の範囲は特に限定されないが、例えばせん断速度が200(1/s)、1000(1/s)間のせん断粘度変化量(η1000-η200)とすることが好ましい。上記せん断速度の範囲の下限側については、測定初期は測定値がばらつきやすいため安定する値とすることが好ましく、例えば200(1/s)以上とすることが好ましい。上記せん断速度の範囲の上限側については、スラリーのダイラタンシー挙動が発現してそのあとに安定するせん断速度とした。上記範囲でのせん断粘度の変化量(η1000-η200)とラッピング加工時の基板の割れの程度(割れ率)に関して調査した。その調査結果の一例を
図4に示す。その結果、基板の割れ率の低いラッピングスラリー60では、せん断粘度の変化量が減少するあるいは一定である傾向があり(
図4のA)、基板割れ率の高いラッピングスラリー60は、せん断粘度の変化量が増加する傾向がある(
図4のB)、ことが判明した。この時の基板の割れ率は、0.5%(低い割れ率、
図4のA)と1.5%(高い割れ率、
図4のB)で顕著な差があった。
【0034】
上記知見より、本発明の態様の製造方法では、ラッピング工程においてラッピング加工を行う前に、ラッピング加工に用いるラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量を測定することを特徴としている。また、この測定結果より、せん断粘度変化量が負の値のラッピングスラリーを用いることが好ましい。このようなラッピングスラリーを用いることで、基板の割れ率を低位で抑えることができる。ラッピング加工では、スラリーの粘度が高いと割れ率が高くなる傾向があるが、せん断速度に対するせん断粘度が低下するスラリーは分散性が良いことが示唆され、分散性が良いスラリーはラッピング加工中に砥粒の偏析を防ぐ効果があるため基板の割れ率を低減できることが推定される。砥粒がラッピング加工中に偏析するとその箇所に負荷がかかり、偏析した箇所を起点にして基板が割れてしまう。
【0035】
なお、レオメーターでのラッピングスラリーの測定の頻度は、特に限定されないが、例えば、砥粒の生産ロットの切替わり、ラッピングスラリー60の補充、および溶媒の追加、またはラッピングスラリー60の更新のタイミングで行うことが好ましい。これらのタイミングでは、スラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量が変わるため、スラリーの状態を診断(評価)するためのレオメーターの測定は有効である。
【0036】
ラッピングスラリー60のせん断速度に対するせん断粘度の変化量を測定した結果、せん断粘度変化量が増加する(正の値)のスラリー(例:
図4のB)は、砥粒間で凝集が起こっておる可能性が高いと考えられる。このようなスラリーについては、砥粒を分散させる分散剤を添加してもよい。分散剤は、特に限定はない。例えば、ポリオキシアルキレン系分散剤を用いてもよい。この分散剤を、ラッピングスラリー60の全重量に対して、0.5重量%以上5.0重量%以下で添加してもよく、1.0重量%以上3.0重量%以下で添加するのがより好ましい。分散剤の添加量が上記の範囲であると、分散剤の効果が好適であり、例えばスラリー攪拌で巻き込んだ空気が分散剤によって消泡せず、スラリーが過剰に発泡することが抑制される。上記分散をせん断粘度変化量が正の値のスラリーに添加することで、せん断粘度変化量が負の値になるように改善(改質)できる。
【0037】
なお、ラッピングスラリー60において、せん断粘度の範囲は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で限定されない。
【0038】
上述の説明のように、本実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法は、圧電性単結晶をワイヤーソーによりスライスして単結晶基板を形成するスライス工程と、ラッピング加工により前記単結晶基板の両面を粗研磨するラッピング工程と、粗研磨された前記単結晶基板の少なくとも一方の面を鏡面研磨するポリッシング工程と、を有し、前記ラッピング工程は、前記ラッピング加工を行う前に、該ラッピング加工に用いるラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量を測定することを含む。本実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法によれば、上述の説明の通り、ラッピング工程における基板の割れの程度を評価することができる。本実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法は、基板の割れを低減することができるので、タンタル酸リチウム単結晶基板、またはニオブ酸リチウム単結晶基板などの脆性材料の基板に対して、好適に用いることができる。
【0039】
(ラッピングスラリーの評価方法)
次に、本実施形態に係るラッピングスラリーの評価方法について説明する。なお、本実施形態に係るラッピングスラリーの評価方法においては、本明細書で説明した事項のすべてについて、適宜適用可能であるとし、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0040】
本実施形態に係るラッピングスラリーの評価方法は、単結晶基板の両面を粗研磨するラッピング加工に用いるラッピングスラリーの評価方法であって、上述のラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量を測定し、該変化量が負の値である場合に、前記ラッピングスラリーは良好であると評価する、ラッピングスラリーの評価方法である。
【0041】
上述したように、ラッピング工程(ラッピング加工)では、上記したせん断粘度変化量が負の値のラッピングスラリーを用いることが好ましく、このようなラッピングスラリーを用いることで、基板の割れ率を低位で抑えることができる。このため、上記したせん断粘度変化量が負の値である場合に、ラッピングスラリーは良好であると評価することができる。これにより、ラッピング工程における基板の割れを低減させることができる。
【0042】
(ラッピングスラリーの調整方法)
次に、本実施形態に係るラッピングスラリーの調整方法について説明する。なお、本実施形態に係るラッピングスラリーの調整方法においては、本明細書で説明した事項のすべてについて、適宜適用可能であるとし、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0043】
本実施形態に係るラッピングスラリーの調整方法は、単結晶基板の両面を粗研磨するラッピング加工に用いるラッピングスラリーの調整方法であって、砥粒と溶媒とを含み、せん断速度に対するせん断粘度の変化量が正の値であるラッピングスラリーに対して、前記ラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量が負の値となるように分散剤を加えることを含む、ラッピングスラリーの調整方法である。
【0044】
上述したように、分散剤をせん断粘度変化量が正の値のスラリーに添加することで、せん断粘度変化量が負の値になるように改善(改質)することができる。これにより、ラッピングスラリーを基板の割れ率を低位で抑えることができるように改質することができ、このようなラッピングスラリーを用いることによりラッピング工程における基板の割れを低減させることができる。
【0045】
[実施例]
次に、本発明の実施形態に係る圧電性単結晶基板の製造方法、ラッピングスラリーの調整方法、ラッピングスラリーの評価方法を実施した例について説明する。なお、以下の例において、粘度計は、レオメーターを使用した。
【0046】
(例1)
チョクラルスキー法により育成したLT単結晶を端部カットおよび円筒研削をした後、ワイヤーソーを用いて、直径4インチ、厚さ0.3mmのLT単結晶基板にスライスした。
その後、スラリー供給タンクを備えた両面ラッピング装置を使用して、これらのLT単結晶基板をGC(緑色炭化珪素研削材)#1000の番手の砥粒と溶媒の水及び防錆剤(トリエタノールアミン)から成るラッピングスラリーを用いて両面ラッピングを施した。ラッピング加工前に上記ラッピングスラーについて、レオメーターによりせん断速度に対するせん断粘度の変化量(粘度変化量)を測定した。この変化量はせん断速度が200(1/s)、1000(1/s)間のせん断粘度変化量(η1000-η200)とした。この時の値は、-0.0018であった。このスラリーを用いて400枚の基板に両面ラッピング加工を基板の厚さが0.26mmになるまで研磨した。この時の両面ラッピングによる割れ発生割合(割れ率)は0.25%であった。
【0047】
(例2~7)
実施例1と同様にして、直径4インチ、厚さ0.3mmのLT単結晶基板を作製し、製造ロットが相違する砥粒を用いたラッピングスラリーを作製し、このスラリーを用いて両面ラッピングを施した。ラッピング加工前のラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量(粘度変化量)及び割れ率などを表1に示す。
【0048】
(例8)
例7のスラリーに対してポリオキシアルキレン系分散剤を1重量%添加した。その他は例1と同様とした。ラッピング加工前のラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量(粘度変化量)及び割れ率などを表1に示す。
【0049】
(例9)
例7のスラリーに対してポリオキシアルキレン系分散剤を3重量%添加した。その他は例1と同様とした。ラッピング加工前のラッピングスラリーのせん断速度に対するせん断粘度の変化量(粘度変化量)及び割れ率などを表1に示す。
【0050】
【0051】
表1の例1~例3、例8~9に示すように、上記せん断速度に対するせん断粘度の変化量が負の値であるラッピングスラリーを用いて加工した場合、基板の割れ率は、0.5%以下と良好であった。これに対し、例4~7では、上記せん断速度に対するせん断粘度の変化量が正の値であり、基板の割れ率は、1.0%~2.0%という結果であった。例1~例9の結果から、ラッピング加工前のラッピングスラリーの上記せん断速度に対するせん断粘度の変化量を測定することにより、ラッピング工程における基板の割れの程度を評価できることが確認される。
【0052】
また、例8及び例9においては、例7のスラリーを用い、このスラリーに対して分散剤を添加している。例7のスラリーのせん断粘度の変化量は当初正の値であったが、分散剤を添加することで負の値に変化していた(例8、9)。これにより、基板の割れ率が抑制できた。このように、ラッピング加工前のラッピングスラリーの上記せん断速度に対するせん断粘度の変化量を測定し、この値が負になるように管理、調整することで基板の割れ率を抑制することが可能となることが確認される。
【符号の説明】
【0053】
10 両面ラッピング装置
20 上側の定盤
30 下側の定盤
40 キャリアプレート
50 基板
60 ラッピングスラリー
70、80 回転軸
71、81 回転盤