(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106897
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】電気銅の製造方法及び電気銅の製造装置
(51)【国際特許分類】
C25C 1/12 20060101AFI20240801BHJP
C25C 7/00 20060101ALI20240801BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20240801BHJP
C25C 7/08 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C25C1/12
C25C7/00 301
C25C7/06 301A
C25C7/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011380
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】上野 明
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宏太
(72)【発明者】
【氏名】植田 大樹
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA13
4K058BA21
4K058BB02
4K058CA09
4K058FA05
4K058FB03
(57)【要約】
【課題】エクストラフラッピングの回数を低減でき、製造効率を向上することが可能な電気銅の製造方法及び電気銅の製造装置を提供する。
【解決手段】パーマネントカソード法を用いた電気銅の製造方法において、カソード板の表面に電着した電気銅を前記カソード板から剥ぎ取る際の剥取動作回数を抑制するためのエクストラフラッピング抑制剤として、熱分解処理を施したニカワ溶液を電解槽内に供給して電解精製する工程を含む電気銅の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーマネントカソード法を用いた電気銅の製造方法において、
カソード板の表面に電着した電気銅を前記カソード板から剥ぎ取る際の剥取動作回数を抑制するためのエクストラフラッピング抑制剤として、熱分解処理を施したニカワ溶液を電解槽内に供給して電解精製する工程を含む電気銅の製造方法。
【請求項2】
前記エクストラフラッピング抑制剤として、
ニカワを溶媒中に溶解し、50℃以上で1時間以上保持したニカワ溶液を用いることを含む請求項1に記載の電気銅の製造方法。
【請求項3】
パーマネントカソード法を用いた電気銅の製造方法において、
電気銅のカソード板への電着を制御するための添加剤として、第1のニカワ溶液を電解液中に供給し、
前記カソード板の表面に電着した前記電気銅を前記カソード板から剥ぎ取る際の剥取動作回数を抑制するためのエクストラフラッピング抑制剤として、熱分解処理を施した第2のニカワ溶液を前記電解液中に供給し、電解精製する工程を含む電気銅の製造方法。
【請求項4】
前記第2のニカワ溶液を、前記電解精製する工程全体で一日に添加するニカワの10~40重量%となるように供給することを含む請求項3に記載の電気銅の製造方法。
【請求項5】
前記第2のニカワ溶液を、電解液の排液を収容する排液槽内へ供給することを含む請求項3又は4に記載の電気銅の製造方法。
【請求項6】
前記電気銅を前記カソード板から剥ぎ取る際の前記剥取動作回数の測定結果に応じて、前記エクストラフラッピング抑制剤の添加量を制御することを含む請求項3又は4に記載の電気銅の製造方法。
【請求項7】
銅アノード板及びカソード板を電解液中に浸漬させて電解精製することにより前記カソード板の表面に電気銅を付着させる電解槽と、
前記電解槽へ供給する前記電解液の流量を調整する調整槽と、
前記電気銅の電着を制御するための添加剤を前記電解液中に供給する添加剤供給手段と、
前記電解槽から排出された前記電解液の排液を貯留する排液槽と、
前記排液中の懸濁物質を除去し、前記調整槽へ循環させる循環機構と、
前記電気銅を前記カソード板から剥ぎ取る際の剥取動作回数を抑制するためのエクストラフラッピング抑制剤として、熱分解処理を施したニカワ溶液を前記電解液中に供給する抑制剤供給手段と
を備える電気銅の製造装置。
【請求項8】
前記排液槽に接続された熱交換器を備え、前記熱交換器を介して前記エクストラフラッピング抑制剤として用いられる前記ニカワ溶液を前記熱分解処理することを含む請求項7に記載の電気銅の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気銅の製造方法及び電気銅の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス製のカソード板の表面に電着した電気銅を剥ぎ取って製品とするパーマネントカソード法(PC法)を用いた銅の電解精製工程が従来から知られている。PC法では、カソード板の表面に電着した板状の電気銅の上端部分に予め隙間を作り、カソード板を垂直に立てた状態で、カソード板表面から浮いた電気銅の上端部分の両端をグリップで掴んで水平方向へと倒し、その位置で引張応力を与えて電気銅の下端部分に亀裂を生じさせ、電気銅の一面と他方の面とを引き離す「フラッピング」という動作が行われる。
【0003】
PC法に用いられるカソード板の底辺部にはV字状の溝(V溝)が設けられており、このV溝の効果によって、電気銅は底辺部で2枚に分断される。しかしながら、衝撃や摩耗や経年劣化等によりV溝の深さが浅くなると、電気銅を水平に開いた際に電気銅の底部で分断されない場合がある。このような場合、電気銅の底辺部を支点にして開閉動作を更に繰り返す動作(エクストラフラッピング)を行うことで、電着銅の底辺部を疲労させて破断させる。しかしながら、そのような余分なフラッピング動作が入る分だけ作業の遅延に繋がるため、結果的には、電気銅の製造効率の低下を招くことがある。また、底辺部を疲労破断させることから、電気銅の下部が曲がった形状不良品が発生することがある。
【0004】
エクストラフラッピングの回数を抑制する方法として、例えば、特開2006-274299号公報(特許文献1)は、パーマネントカソード板から電着銅を剥離する際に、剥離機のフラッピング回数を測定することによってカソード板底辺部のVグルーブの加工修理時期を判定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、エクストラフラッピングの増加の一因は、カソード板のV溝の劣化にあると考えられている。本発明者らはフラッピングの回数の増加に伴いV溝整備機等を導入してみたところ、一定の改善はみられた。しかしながらV溝整備機等を導入してもエクストラフラッピングの回数が一定数から低減されない場合もあることが分かった。更なる電気銅の製造効率向上のためには、エクストラフラッピング回数の増加抑制対策として、上述のV溝の劣化対策以外の他の対応策を検討することが有用である。
【0007】
上記課題を鑑み、本開示は、エクストラフラッピングの回数を低減でき、電気銅の製造効率を向上することが可能な電気銅の製造方法及び電気銅の製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示によれば、パーマネントカソード法を用いた電気銅の製造方法において、カソード板の表面に電着した電気銅をカソード板から剥ぎ取る際の剥取動作回数を抑制するためのエクストラフラッピング抑制剤として、熱分解処理を施したニカワ溶液を電解槽内に供給して電解精製する工程を含む電気銅の製造方法が提供される。
【0009】
本開示の別の一側面によれば、パーマネントカソード法を用いた電気銅の製造方法において、電気銅のカソード板への電着を制御するための添加剤として、第1のニカワ溶液を電解液中に供給し、カソード板の表面に電着した電気銅をカソード板から剥ぎ取る際の剥取動作回数を抑制するためのエクストラフラッピング抑制剤として、熱分解処理を施した第2のニカワ溶液を電解液中に供給し、電解精製する工程を含む電気銅の製造方法が提供される。
【0010】
本開示の更に別の一側面によれば、銅アノード板及びカソード板を電解液中に浸漬させて電解精製することによりカソード板の表面に電気銅を付着させる電解槽と、電解槽へ供給する電解液の流量を調整する調整槽と、電気銅の電着を制御するための添加剤を電解液中に供給する添加剤供給手段と、電解槽から排出された電解液の排液を貯留する排液槽と、排液中の懸濁物質を除去し、調整槽へ循環させる循環機構と、電気銅をカソード板から剥ぎ取る際の剥取動作回数を抑制するためのエクストラフラッピング抑制剤として、熱分解処理を施したニカワ溶液を電解液中に供給する抑制剤供給手段とを備える電気銅の製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、エクストラフラッピングの回数を低減でき、電気銅の製造効率を向上することが可能な電気銅の製造方法及び電気銅の製造装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る電気銅の製造装置を示す概略図である。
【
図2】アミノ酸(アルギニン)を添加してニッケルメッキ膜を作製した場合の、アミノ酸の添加濃度と、メッキ膜の硬さ(Hv)との関係を示すグラフである。
【
図3】電解精製工程全体で一日あたりに添加した第1のニカワ溶液と第2のニカワ溶液のニカワ添加量比の推移の例を示すグラフである。
【
図4】電解精製工程全体で一日あたりに添加した第1のニカワ溶液と第2のニカワ溶液のニカワ添加量比とエクストラフラッピング回数との関係の例を示すグラフである。
【
図5】ニカワ溶液の温度とニカワの分解率との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は装置の構造、配置、或いは、方法の順番等を下記のものに特定するものではない。
【0014】
本発明の実施の形態に係る電気銅の製造装置は、
図1に示すように、電解槽1と、電解槽1へ供給する電解液の流量を調整する調整槽2と、電解槽1内に電気銅の電着を制御するための添加剤を供給する添加剤供給手段3と、電解槽1から排出される電解液の排液を貯留する排液槽4と、排液中の懸濁物質を除去し、調整槽2へ循環させる循環機構5と、熱分解処理を施したニカワ溶液を電解液中に供給する抑制剤供給手段6とを備える。
【0015】
電解槽1内には、粗銅等で形成される銅アノード板(不図示)と、ステンレス製等からなるパーマネントカソード板とが所定の間隔を空けて設けられている。電解槽1内には電解液の流量が一定となるように調整する調整槽2を介して電解液が供給される。銅アノード板とパーマネントカソード板とを電解液中に浸漬させて電解精製することにより、パーマネントカソード板の表面に電気銅が付着する。
【0016】
調整槽2には、添加剤供給手段3が接続されている。添加剤供給手段3が調整槽2へ添加する添加剤としては、ニカワを含有するニカワ溶液(第1のニカワ溶液)が用いられる。ニカワは、電気銅の表面の凸部に吸着して電着を抑制し、電気銅表面を平滑にする機能を有する。ニカワは典型的にはゼラチンを主成分とする固体状であるため、このニカワをニカワ溶解槽7aで、水又は温水に溶解させて第1のニカワ溶液を調製する。第1のニカワ溶液は、添加剤供給手段3を介して調整槽2内へ供給し、調整槽2内の電解液と混合させる。
【0017】
ニカワは、電気銅の電着異常を抑制するための電着抑制剤としての機能を果たす一方で、一定以上供給すると電気銅の表面の荒れ等の電着状態の不具合を発生させることがある。そのため、第1のニカワ溶液は、電気銅の電着状態に応じて、その供給量が適切な範囲となるように制御することが好ましい。第1のニカワ溶液の供給は、バッチ式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。
【0018】
添加剤供給手段3が供給するその他の添加剤としては、チオ尿素、アビトン等があげられる。チオ尿素は、電気銅の表面の凹部の電着を促進し、電気銅表面を平滑にする機能を有する。アビトンはチオ尿素と同様に、電気銅表面を平滑にする機能を有するとともに、界面活性剤の作用による電気銅の表面への気泡付着抑制機能及び粒子付着抑制機能を有する。これらニカワ溶液以外の添加剤も、それぞれ別々の溶解槽(不図示)において予め所定の濃度となるように調製及び管理し、添加剤供給手段3を介してそれぞれ独立に供給してもよい。チオ尿素、アビトン等の添加剤は、予め第1のニカワ溶液と混合して、調整槽2へ同時に供給してもよい。
【0019】
電解槽1で電気分解に用いられた電解液の排液は排液槽4へ送られ、排液槽4内で一旦貯留される。排液槽4内の排液は、排液槽4に接続された熱交換器41で加熱された後、循環機構5を介して調整槽2へと循環させる。循環機構5は、例えば、配管、ポンプ、1又は複数の貯留槽等で構成されることができ、具体的構成は特に限定されない。
【0020】
図1の例では、循環機構5は、排液槽4から排出された排液を貯留し、濾過装置52へ排液を供給する濾過前槽51と、排液中の微粒子等の不要物質を取り除くためのウルトラフィルタ等を備える濾過装置52と、濾過装置52で濾過処理された清澄な電解液を、調整槽2経由で電解槽1内へ送液するための給液槽53とを備える。調整槽2は、給液槽53の液面変動を吸収し、電解槽1への給液流量を安定化させる。
【0021】
排液槽4には、カソード板の表面に電着した電気銅をカソード板から剥ぎ取る際の剥取動作回数を抑制するためのエクストラフラッピング抑制剤を電解液中へ供給する抑制剤供給手段6が接続されている。ここで、本明細書において「エクストラフラッピング抑制剤」とは、パーマネントカソード板の表面に電着した電気銅の剥離動作が一度では上手くいかず、電気銅の底辺部を支点にして開閉動作を更に繰り返す「エクストラフラッピング」と呼ばれる動作の回数を抑制するために添加する添加剤を指す。エクストラフラッピング抑制剤としては、熱分解処理を施したニカワ溶液(第2のニカワ溶液)が用いられる。
【0022】
ニカワは、電解精製時の局所的な電流集中を抑制して均一電着性の向上を図る機能を有し、一般的には、ゼラチン状のニカワを加温しながら水等に溶解してニカワ溶液とした後、電解液中に供給することが行われている。しかしながら、ニカワは分解されやすく、分解が進むと、電着抑制剤としての機能が十分に得られなくなる。ニカワが分解してしまうと、その分多くのニカワを添加しなければならないため、ニカワの使用量が増える。そのため、従来の手法としては、ニカワをなるべく分解させないで電解液中に供給する手法が用いられてきた。
【0023】
一方、本実施形態では、従来の手法とは逆に、熱分解処理を施すこと、即ち、ニカワ溶液に所定の熱処理を加えてニカワの分解を促進させたニカワ溶液を電解液中へ供給したところ、電気銅のエクストラフラッピングの回数が有意に低減されることが分かった。その理由は明らかではないが、以下のように推測できる。
【0024】
ニカワの主成分はゼラチンであり、ゼラチンはコラーゲンの熱変性物質であるため、タンパク質を多く含み、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン、グリシン、プロリン等の種々のアミノ酸を含有する。ここで、
図2は、アミノ酸として、アルギニンを添加してニッケル(Ni)メッキ膜を作製した場合の、アミノ酸の添加濃度と、ニッケルメッキ膜の硬さHvとの関係の一例を示すグラフである(「電析ニッケルめっき膜へのアミノ酸の共析」、永井 太一ら(長岡技術科学大学大学院工学研究科)、表面技術、Vol.66、No.2、2015、p59-64)。
図2に示すように、アミノ酸を添加して作製したNiメッキ膜は、アミノ酸の添加量が増加するにつれて、硬さHvの値が徐々に大きくなり、その後、徐々に小さくなりながら一定値に収束する傾向にある。
【0025】
図2のニッケルの例を元に、電気銅の製造においても
図2の結果と同様の傾向を示すと仮定すると、本実施形態では、ニカワの分解に伴って、ニカワ溶液中のアミノ酸濃度が増加し、電解液中のアミノ酸濃度が高まることにより、電解液中で生成される電気銅の硬度が増すと考えられる。その結果、電気銅が曲がりにくくなり、パーマネントカソード板の底部に設けられたV溝における破断が生じやすくなるという現象が推定される。
【0026】
よって、エクストラフラッピング抑制剤として、アミノ酸が生成されるように所定の熱分解処理を施し、ニカワ中の成分を積極的に分解させたニカワ溶液を電解液中に供給することによって、従来に比べて硬い電気銅を得ることができると考えられる。これにより、電気銅の剥ぎ取る際のフラッピング回数を有意に低減でき、電気銅の製造効率を向上できるものと考えられる。
【0027】
エクストラフラッピング抑制剤として用いられる「熱分解処理を施したニカワ溶液」は、ニカワを水等に溶解したニカワ溶液を50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは65℃以上で、1時間以上、より好ましくは2時間以上、更に好ましくは4時間以上保持することにより熱処理を行ったニカワ溶液を意味する。
【0028】
ニカワ溶液の加熱温度が高すぎたり長すぎたりすると、溶媒の蒸発や設備に負担がかかる場合がある。よって、エクストラフラッピング抑制剤として用いるニカワ溶液は100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは70℃以下で熱処理する。
【0029】
エクストラフラッピング抑制剤の添加位置は
図1に示す例に限定されず、調整槽2、排液槽4及び循環機構5の任意の位置で構わない。中でも、
図1に示すように、ニカワ溶解槽7bで溶解させたエクストラフラッピング抑制剤を、抑制剤供給手段6を介して電解槽1から排出された電解液の排液を収容する排液槽4中へ供給することによって、排液が電解槽1へ循環して再度供給されるまでの滞留時間を十分に確保できるため、その間にニカワ溶液中のニカワの分解を促進させることができる。排液槽4に接続された熱交換器41は、電解液の排液を典型的には80~90℃程度に加熱することができる。そのため、排液槽4に、エクストラフラッピング抑制剤としてのニカワ溶液を供給し、熱交換器41を介してエクストラフラッピング抑制剤として用いられるニカワ溶液を熱処理することで、ニカワ溶液の熱処理に必要な熱源が省略できる。
【0030】
エクストラフラッピング抑制剤としてのニカワ溶液は、熱分解処理によってある程度分解が進んでいることから、電解槽1内にニカワを過剰に添加した場合に発生する電気銅の表面の荒れ等の電着異常発生は小さいと考えられる。本発明の実施の形態に係る電気銅の製造方法では、パーマネントカソード法を用いた電気銅の製造方法において、電気銅の電着を制御するための添加剤として第1のニカワ溶液を電解液中に供給するとともに、エクストラフラッピング抑制剤として、所定の熱分解処理を施した第2のニカワ溶液を電解液中に供給して電解精製することにより、電気銅の電着異常を抑制しながら、電気銅の剥ぎ取り時のフラッピング回数を有意に低減できる。
【0031】
第1のニカワ溶液と第2のニカワ溶液を、
図1の電気銅の製造装置へ供給する場合は、第2のニカワ溶液を過剰に添加しすぎると電気銅の電着異常が生じることも考えられる。そのため、第2のニカワ溶液は、電解精製する工程全体で一日に添加するニカワ濃度の10~40重量%、より好ましくは15~35重量%、更に好ましくは20~30重量%となるように供給することが好ましい。これにより、電気銅のエクストラフラッピング回数を低減して製造効率を向上させながら、電気銅の表面性状の向上を図ることができる。
【0032】
また、本実施形態では、電気銅の電着状態に応じて第1のニカワ溶液の供給量、供給タイミング及びニカワ濃度を制御し、電気銅をパーマネントカソード板から剥離する際のフラッピング回数の測定結果に応じて、第2のニカワ溶液の供給量、添加タイミング及びニカワ濃度を制御することが好ましい。このように、第1のニカワ溶液と第2のニカワ溶液の供給をそれぞれ独立して管理及び制御することによって、装置全体としてのニカワ使用量を最適化することができる。第1及び第2のニカワ溶液の供給量は、電気銅の製造装置の規模及び処理条件によって種々に変更できる。
【0033】
図3は、電気銅の電着状態を考慮しながら、電解精製工程全体で一日あたりに添加した第1のニカワ溶液と第2のニカワ溶液のニカワ添加量比の推移を示す。
図4は、電解精製工程全体で一日あたりに添加した第1のニカワ溶液と第2のニカワ溶液のニカワ添加量比とエクストラフラッピング回数との関係を示す。
図3では、電解精製工程前半は、電着抑制剤としての第1のニカワ溶液のみを供給し、電解精製工程後半は、第1のニカワ溶液と、エクストラフラッピング抑制剤としての第2のニカワ溶液を供給した例を示している。
【0034】
図3に示すように、従来はニカワ添加量比1.10を超える量のニカワを添加すると、電気銅の電着に悪影響が出たため、ニカワの添加量を増やすことができなかった。これに対し、従来型の第1のニカワ溶液に加えて、熱分解処理を施した第2のニカワ溶液を加えてニカワの添加量を全体的に増加させた本実施形態では、ニカワの添加量を増やしても、電気銅の表面性状への悪影響が見られることなく電気銅の製造を行うことができた。更に、
図4に示すように、フラッピング回数低減に効果を発揮するニカワ添加量比を検討したところ、ニカワ添加量比を1.10以上、更には1.25以上、より更には1.35以上とすること、即ちニカワの添加量を増やすことによって、エクストラフラッピングの回数を低減できる。
【0035】
このように、本発明の実施の形態に係る電気銅の製造装置及びこれを用いた製造方法によれば、熱分解処理を行わない第1のニカワ溶液と熱分解処理を行った第2のニカワ溶液とを電解液中へ混合させることにより、エクストラフラッピングの回数を低減でき、製造効率を向上することが可能となる。
【0036】
本発明は上記の実施形態を用いて説明したが、各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0037】
図5に、ニカワ溶液の温度とニカワの分解率との関係の一例を示す(「亜鉛電解採取におけるゼラチンの分解に及ぼす各種因子の影響」、中野博昭ら、(九州大学大学院)、Journal of MMIJ、Vol.128(2012)、p584-589)。この例によると、ニカワ溶液の温度が高くなるにつれて、ニカワの分解率が向上することが分かる。よって、ニカワ溶液の温度とニカワの分解率とに基づいて、操作者が、ニカワ溶解槽7bの溶液温度及び分解率を適切な範囲に制御することにより、エクストラフラッピングの回数を低減しながら、電気銅の製造効率を向上することが可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1…電解槽
2…調整槽
3…添加剤供給手段
4…排液槽
5…循環機構
6…抑制剤供給手段
7a…ニカワ溶解槽
7b…ニカワ溶解槽
41…熱交換器
51…濾過前槽
52…濾過装置
53…給液槽