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  • 特開-鮮魚の凍結保存方法及び装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106926
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】鮮魚の凍結保存方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/06 20060101AFI20240801BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20240801BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20240801BHJP
   F25D 3/10 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
A23B4/06 501
A23B4/06 501J
A23L3/36 A
A23L17/00 A
F25D3/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011432
(22)【出願日】2023-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】豊田 早紀子
(72)【発明者】
【氏名】竹口 東士夫
(72)【発明者】
【氏名】石渡 由則
【テーマコード(参考)】
3L044
4B022
4B042
【Fターム(参考)】
3L044AA04
3L044BA04
3L044CA04
3L044DB03
3L044KA04
4B022LA06
4B022LJ08
4B022LN08
4B022LT01
4B042AC02
4B042AC06
4B042AG12
4B042AP18
4B042AP30
4B042AT10
(57)【要約】
【課題】鮮魚を簡易な方法により高品質で凍結保存する鮮魚の凍結保存方法及び装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る鮮魚の凍結保存方法は、鮮魚を、冷蔵温度で静置した状態で酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスに曝露して色調を上げる酸素ガス曝露工程と、該酸素ガス曝露工程の後、液体窒素が噴霧された極低温窒素ガス雰囲気において前記鮮魚を包装しない状態で凍結する凍結工程とを備えたことを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鮮魚を、冷蔵温度で静置した状態で酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスに曝露して色調を上げる酸素ガス曝露工程と、該酸素ガス曝露工程の後、液体窒素が噴霧された極低温窒素ガス雰囲気において前記鮮魚を包装しない状態で凍結する凍結工程とを備えたことを特徴とする鮮魚の凍結保存方法。
【請求項2】
前記酸素ガス曝露工程は、ガス溶解度の高い1~8℃雰囲気中で実施することを特徴とする請求項1に記載の鮮魚の凍結保存方法。
【請求項3】
前記酸素ガス曝露工程における鮮魚を酸素ガスに曝露している時間が、15分~7時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鮮魚の凍結保存方法。
【請求項4】
鮮魚を酸素ガスに曝露している時間が、白身魚については4~7時間、青魚については15分~60分であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鮮魚の凍結保存方法。
【請求項5】
内部に鮮魚を収容する筐体と、前記筐体内に酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスを供給する酸素ガス供給ノズルと、前記筐体内の温度を1~8℃に調整する温度調整手段と、前記筐体内に液体窒素を噴霧する液体窒素供給ノズルと、前記酸素ガス供給ノズルに酸素ガスを供給する流路に設けられた第1開閉弁と、前記液体窒素供給ノズルに液体窒素を供給する流路に設けられた第2開閉弁と、を備えたことを特徴とする鮮魚の凍結保存装置。
【請求項6】
前記温度調整手段は、前記筐体内に配置されて内部に液体窒素が通流するコイル冷却配管を含むことを特徴とする請求項5に記載の鮮魚の凍結保存装置。
【請求項7】
前記温度調整手段は、筐体内の温度を検知する温度検知手段と、該温度検知手段の検知温度及び予め設定された設定時間に基づいて前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁の開閉制御を行う制御部と、をさらに備えたことを特徴とする請求項5又は6に記載の鮮魚の凍結保存装置。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載の鮮魚の凍結保存装置を用いて、鮮魚を凍結保存する方法であって、
筐体内に鮮魚を収容する鮮魚収容工程と、酸素ガス供給ノズルから酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスを筐体内に供給するとともに温度調整手段によって筐体内を冷蔵温度に調整して前記鮮魚を酸素ガスに曝露して色調を上げる酸素ガス曝露工程と、該酸素ガス曝露工程の後、前記液体窒素供給ノズルから液体窒素を噴霧して前記鮮魚を凍結する凍結工程とを備えたことを特徴とする鮮魚の凍結保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフィレ加工された鮮魚の凍結保存方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生食用として流通する鮮魚肉の中には、消費されるまでの間凍結保管されるものが多くあるが、解凍後に急速に進行する色の劣化などが原因となり、量販店や小売店での商品の大量廃棄が発生し、問題となっている。
【0003】
これらの問題の解決策として、例えば、特許文献1においては、酸素ガスを用いてあらかじめ鮪を鮮血色に発色して冷凍保存する方法が開示されている。
さらに、特許文献2においては、マグロ類の肉を、窒素・酸素混合ガス雰囲気中で解凍する方法が開示されている。
またさらに、特許文献3においては、鮮魚類を、凍結前に炭酸・窒素混合ガスで置換包装し、そのまま急速凍結させて色調を保ったまま冷凍魚肉とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-308455号公報
【特許文献1】特許第6529106号公報
【特許文献1】特開2005-58214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の方法は、最初に処理槽を真空引きし、酸素ガスにて加圧、排気時に減圧するなど、魚肉に負担のかかる工程が多い。また、このような複雑な工程は実用的ではないという問題がある。
【0006】
また、特許文献2に開示の方法は、解凍後の色調を3日間持続させることを目指したものであり、複雑な工程を必要とするが、実際は店頭に並ぶ鮮魚はその日に消費されるため、3日間の持続は必要なく、より簡易的な方法が望まれている。
【0007】
さらに、特許文献3の方法では、炭酸ガスが魚肉に浸透し食味の変化を引き起こす懸念があるほか、ガス置換包装された状態での急速凍結は非常に難しく、当該方法で高品質な冷凍魚肉が実現できるとは言い難い。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、鮮魚を簡易な方法により高品質で凍結保存する鮮魚の凍結保存方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来は、魚肉の凍結保管中あるいは解凍後の色の劣化が注目され、色の劣化と凍結工程そのものについての関連があまり重要視されてこなかった。また、それら対策のための具体的な方法としては、上述した従来例に示されるように、色調保持のために、真空引きや加圧など魚肉に負担のかかる工程を行ったり、ガス置換包装に混合ガスを用いたりする方法が多く、作業が複雑であった。
また、凍結保存における凍結過程においては、凍結させる温度を低くし、凍結させる速度を速めるほど、品質が良くなるとされており、その中で、-196℃という冷熱を持つ液体窒素による凍結は有効な手段であるが、窒素ガス成分が魚肉の酸素分と置換され、脱色されるという欠点がある。
【0010】
この点、発明者は、液体窒素雰囲気での凍結という特殊な条件により魚肉が脱色される現象に着目し、この現象を低減することを鋭意検討した。そして、凍結前に脱色防止の措置を施せば、凍結工程そのものおよび凍結保管中、さらに解凍後しばらくの間色劣化が抑制されることを知見した。
本発明はかかる知見に基づくものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0011】
(1)本発明に係る鮮魚の凍結保存方法は、鮮魚を、冷蔵温度で静置した状態で酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスに曝露して色調を上げる酸素ガス曝露工程と、該酸素ガス曝露工程の後、液体窒素が噴霧された極低温窒素ガス雰囲気において前記鮮魚を包装しない状態で凍結する凍結工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記酸素ガス曝露工程は、ガス溶解度の高い1~8℃雰囲気中で実施することを特徴とするものである。
【0013】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記酸素ガス曝露工程における鮮魚を酸素ガスに曝露している時間が、15分~7時間であることを特徴とするものである。
【0014】
(4)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、鮮魚を酸素ガスに曝露している時間が、白身魚については4~7時間、青魚については15分~60分であることを特徴とするものである。
【0015】
(5)本発明に係る鮮魚の凍結保存装置は、内部に鮮魚を収容する筐体と、前記筐体内に酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスを供給する酸素ガス供給ノズルと、前記筐体内の温度を1~8℃に調整する温度調整手段と、前記筐体内に液体窒素を噴霧する液体窒素供給ノズルと、前記酸素ガス供給ノズルに酸素ガスを供給する流路に設けられた第1開閉弁と、前記液体窒素供給ノズルに液体窒素を供給する流路に設けられた第2開閉弁と、を備えたことを特徴とするものである。
【0016】
(6)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記温度調整手段は、前記筐体内に配置されて内部に液体窒素が通流するコイル冷却配管を含むことを特徴とするものである。
【0017】
(7)また、上記(5)又は(6)に記載のものにおいて、前記温度調整手段は、筐体内の温度を検知する温度検知手段と、該温度検知手段の検知温度及び予め設定された設定時間に基づいて前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁の開閉制御を行う制御部と、をさらに備えたことを特徴とするものである。
【0018】
(8)上記(5)乃至(7)のいずれかに記載の鮮魚の凍結保存装置を用いて、鮮魚を凍結保存する方法であって、
筐体内のトレーに鮮魚を収容する鮮魚収容工程と、酸素ガス供給ノズルから酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスを筐体内に供給するとともに温度調整手段によって筐体内を冷蔵温度に調整して前記鮮魚を酸素ガスに曝露して色調を上げる酸素ガス曝露工程と、該酸素ガス曝露工程の後、前記液体窒素供給ノズルから液体窒素を噴霧して前記鮮魚を凍結する凍結工程とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、凍結前の色調上げに酸素ガス濃度が80vol%以上の酸素ガスを用いることで、無駄なく最短の時間で、色調上げ、および窒素凍結による脱色の防止を実現することができる。
これによって、店頭販売のために解凍してから、顧客が購入するまでの短時間であれば色調を保持でき、優良誤認を招くことなく顧客の購買意欲を向上させることができる。
また、酸素曝露工程および凍結工程のみであり、工程が簡略化されており、工程を大気圧下で実施するため、魚肉にも負担がかかりにくい。
また、未包装の状態で液体窒素を用いて凍結するため急速凍結実現可能となり、高品質な冷凍魚肉を生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施の形態に係る鮮魚の凍結保存装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施の形態に係る鮮魚の凍結保存方法は、鮮魚を、冷蔵温度で静置した状態で酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスに曝露して色調を上げる酸素ガス曝露工程と、該酸素ガス曝露工程の後、液体窒素が噴霧された極低温窒素ガス雰囲気において前記鮮魚を包装しない状態で凍結する凍結工程とを備えたものである。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0022】
<鮮魚>
対象とする鮮魚は、例えばフィレ加工されたものを例示できるが、魚肉の加工形態は、フィレに限らず任意の形態のものを対象とすることができる。
【0023】
<酸素ガス曝露工程>
酸素ガス曝露工程は、冷蔵温度で静置した状態で酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスに曝露して色調を上げる工程である。
冷蔵温度は、魚肉が凍結しない程度の温度であり、ガス溶解度の高い1~8℃が好ましい。
酸素ガス曝露工程を施すことによって、魚肉中の赤身成分の素であるミオグロビンと酸素が結合し、オキシミオグロビンを生成することで変色防止への効果が得られる。
【0024】
曝露温度が上述した下限値を下回ると魚肉が凍結し、ガスと結合しづらくなることが懸念される。逆に、上限値を上回るとガス溶解度が落ち、酸素の溶け込みが不十分となるほか、魚肉が傷みやすくなることが懸念される。
【0025】
酸素ガスの酸素濃度は、80vol%を下回ると、液体窒素による凍結時の脱色を防止する効果が得られない。また、脱色防止の観点からは、酸素ガスの濃度は、90vol%以上がより好ましく、95vol%以上が特に好ましい。
【0026】
好ましい酸素曝露時間は魚種ごとに異なる。例えば、キンメダイ等の白身魚は4~7時間が好ましく、5~6時間がより好ましい。アジ等の青魚は15~60分が好ましく、30~50分がより好ましい。このように、酸素曝露時間を魚種ごとに設定することで、最適な変色防止を実現できる。
なお、酸素曝露時間が、魚種ごとに好適とされる時間の下限値を下回ると十分な発色が得られず、逆に上限値を上回ると魚肉が傷み始める可能性がある。
【0027】
また、酸素ガス曝露工程の圧力は、大気圧で行うことが好ましい。これによって、魚肉に物理的に負荷のかからない工程が実現できる。減圧状態とすると、魚肉中の水分が抜けやすくなると同時にうま味等の成分も抜けやすくなるという不都合がある。加圧状態とすると魚肉が押しつぶされるなどの不都合がある。
【0028】
<凍結工程>
凍結工程は、酸素ガス曝露工程の後、液体窒素が噴霧された極低温窒素ガス雰囲気において鮮魚を包装しない状態で凍結する工程である。
凍結工程は、液体窒素により、鮮魚を載置した庫内の温度を-80℃~-120℃にし、凍結に必要な時間維持する。
【0029】
凍結工程が完了すると、凍結した鮮魚を庫外へ取り出し、-40℃以下の雰囲気で長期冷凍保存する。長期保存環境は、包装等をしない状態、あるいはバリアフィルム等による包装容器中でも良い。
【0030】
以上のように、本実施の形態においては、凍結前の色調上げに酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスを用いることで、無駄なく最短の時間で、色調上げ、および窒素凍結による脱色の防止を実現することができる。
これによって、店頭販売のために解凍してから、顧客が購入するまでの1日にも満たない短時間であれば、色調を確実に保持させ、優良誤認を招くことなく顧客の購買意欲を向上させることができる。
また、酸素曝露工程および凍結工程のみであり、工程が簡略化されており、工程を大気圧下で実施するため、魚肉にも負担がかかりにくい。
また、未包装の状態で液体窒素を用いて凍結するため急速凍結実現可能となり、高品質な冷凍魚肉を生産できる。
【0031】
次に、上記の鮮魚の凍結保存方法を実施するのに好適な鮮魚の凍結保存装置を、図1に基づいて説明する。
本実施の形態の鮮魚の凍結保存装置1は、図1に示すように、筐体3と、筐体3内に設置されて鮮魚を並べて載置するトレー5と、筐体3内に酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスを供給する酸素ガス供給ノズル7と、筐体3内の温度を1~8℃に調整する温度調整手段9と、筐体3内に液体窒素を噴霧する液体窒素供給ノズル11と、酸素ガス供給ノズル7に酸素ガスを供給する流路に設けられた第1開閉弁13と、液体窒素供給ノズル11に液体窒素を供給する流路に設けられた第2開閉弁15と、筐体3内の温度を検知する温度検知手段17と、温度検知手段17の検知温度及び予め設定された設定時間に基づいて第1開閉弁13及び第2開閉弁15の開閉制御を行う制御部19と、を備えている。
以下、各構成についてさらに説明する。
【0032】
筐体3は、ステンレス製とし、例えば魚介フィレ数十kgを収めるのに十分な庫内を有するものが好ましい。なお、筐体3には、内部のガス、例えば酸素ガスを排気するための排気手段20が設けられている。
トレー5は、メッシュ素材で形成され、複数段になっている。
酸素ガス供給ノズル7は、酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスを筐体3内に供給して、トレー5に載置された鮮魚を酸素曝露するためのものである。
【0033】
温度調整手段9は、筐体3内(以下、庫内という場合あり)の温度を1~8℃に調整するものであり、温度検知手段17と、酸素ガス供給源と酸素ガス供給ノズル7とを接続する配管Aに設けられた第1開閉弁13と、液体窒素供給源と液体窒素供給ノズル11とを接続する配管Bに設けられた第2開閉弁15と、配管Bの第2開閉弁15の一次側から分岐した配管Cであって冷却用コイル配管30の一次側に設けられた第3開閉弁21と、制御部19とを含む。温度調整手段9は、筐体3内を冷却する手段として、図1に示すように、内部に液体窒素が通流する冷却用コイル配管30を含むものが好ましい。このような構成であれば、凍結に用いる液体窒素と供用できる。もっとも、温度調整手段9は筐体3内の温度を所定の温度に調整できればよく、液体窒素を用いるものに限られず、例えば機械式冷凍機で構成してもよい。
冷却用コイル配管30の他端は筐体3の外部に開口し、液体窒素を通過させて庫内を冷却した後、大気放出される。冷却用コイル配管30の一次側の配管Cに設けられた第3開閉弁21は、制御部19によって開閉制御できるようになっている。
【0034】
液体窒素供給ノズル11は、筐体3内に液体窒素を噴霧することで、液体窒素を霧状にして筐体3内の温度を-80℃~-120℃にし、鮮魚を急速冷凍するためのものである。
なお、図1に示すように、噴霧した液体窒素を筐体3内で攪拌するための攪拌ファン23を設けるのが好ましい。
【0035】
温度検知手段17は、例えば温度センサー17aを有し、温度センサー17aで検知した筐体3内温度を制御部19に送信する。
制御部19は、温度検知手段17の検知温度及び予め設定された設定時間に基づいて第1開閉弁13及び第2開閉弁15の開閉制御を行う。すなわち、第1開閉弁13を開にすることで、酸素曝露を行い、その後、第1開閉弁13を閉にして、第2開閉弁15を開にすることで、液体窒素による鮮魚の凍結を行う。
【0036】
上記のように構成された本実施の形態の鮮魚の凍結保存装置1を用いて、鮮魚を凍結保存する方法について説明する。
まず、温度調整手段9によって筐体3内の温度を1~8℃に調整する。これは、制御部19が温度調整手段9の温度センサー17aからの情報に基づいて、第3開閉弁21を開閉制御することで、筐体3内の温度を上記温度範囲内の所定温度に調整する。
【0037】
次に、所定温度に調整された筐体3内のトレー5に鮮魚を並べて載置する。そして、第1開閉弁13を開にして、酸素ガス供給ノズル7から酸素濃度が80vol%以上の酸素ガスを供給して前記鮮魚を酸素ガスに曝露して色調を上げる。この酸素ガスを供給する時間は、上述したように、鮮魚の種類によって予め制御部19に設定された時間であり、制御部19は、この設定時間に基づいて、第1開閉弁13の開閉制御を行う。
【0038】
制御部19は、第1開閉弁13を閉にした後、第2開閉弁15を開にして液体窒素供給ノズル11から液体窒素を噴霧することで、筐体3内の温度を-80℃~-120℃鮮魚にして、鮮魚を凍結する。このとき、制御部19は温度センサー17aからの情報に基づいて、筐体3内の温度が所定の温度になるように、第2開閉弁15の開閉制御を行う。
凍結工程が完了すると、凍結した鮮魚を筐体3外へ取り出し、-40℃以下の雰囲気で長期冷凍保存する。
【0039】
本実施の形態の鮮魚の凍結保存装置1によれば、酸素ガス曝露工程及び凍結工程を自動で行うことができる。
もっとも、上述した鮮魚の凍結保存方法は、上記のように制御部19によって第1開閉弁13、第2開閉弁15及び第3開閉弁21を自動制御するものに限られず、人の操作によるものであってもよい。
また、トレー5を使用することによって、段数増加により収容数を容易に増やすことができるとともに、並べて載置された鮮魚フィレに冷熱を均一に伝えられる利点を得られるが、鮮魚を筐体3内に収容する手段としてはトレーに限られず、上端や側面端が開口した容器、網、台、皿等いかなるものであってもよい。
【実施例0040】
本発明の効果を確認するために、鮮魚の凍結保存方法を実施したので以下説明する。
図1に示した鮮魚の凍結保存装置1において、対象とする魚種、本例ではキンメダイに対する最適な条件に応じて、酸素ガス濃度が80vol%以上の酸素ガスに曝露させる際の庫内温度および時間、窒素凍結する際の庫内温度および時間を下記の通り設定した。
80vol%以上の酸素ガス曝露の際の庫内温度 :4℃
酸素ガス曝露時間 :6時間
液体窒素凍結温度 :-100℃
凍結時間 :8分
【0041】
まず、キンメダイを水揚げ後、直ちにフィレ加工し、それらフィレを、鮮魚の凍結保存装置1内のトレー5上に並べ、設備を稼働させた。
稼働開始後、酸素ガスが庫内に流入すると同時に、第3開閉弁21を開として冷却用コイル配管30内を流通する液体窒素の冷熱により庫内を冷却した。これにより、4℃の空間で酸素ガス濃度が80vol%以上の酸素ガスに6時間フィレを曝露させた。
6時間経過後、第1開閉弁13及び第3開閉弁21を閉とするとともに上記設備の排気手段20が作動し、酸素ガスを大気中へ排気した。
続いて第2開閉弁15を開とし液体窒素供給ノズル11から液体窒素を直接庫内へ噴霧し、-100℃の雰囲気を形成した。8分経過後、第2開閉弁15を閉止して液体窒素の噴霧を停止し、設備の稼働は完了となる。
その後、庫内から凍結したフィレを取り出し、-50℃の雰囲気にて、消費時期まで保管した。
【0042】
上記方法で処理・保管したキンメダイのフィレは、解凍後6時間程度までは生と同等の評価が得られた。
一方で、酸素ガスの酸素濃度が70vol%や50vol%の場合には、十分な脱色防止効果を発揮せず、良い評価は得られなかった。また、これら低濃度の酸素濃度ガスへの曝露は、魚肉の褐変を招く可能性があることが分かった。
さらに、酸素曝露温度が10℃などと高温になると、ガス溶解度が落ち、酸素の溶け込みが不十分となるほか、曝露中に腐敗が進行する場合もあることが分かった。
また、酸素曝露時間が1時間など短い場合には、キンメダイのような肉厚の魚肉の場合には、魚肉に酸素が浸透するためには時間が足りず、十分な脱色防止効果を発揮しなかった。
【実施例0043】
青魚であるアジを対象として、アジに対する最適な条件に応じて、80vol%以上の酸素ガスに曝露させる際の庫内温度および時間、窒素凍結する際の庫内温度および時間を下記の通り設定した。
80vol%以上の酸素ガス曝露の際の庫内温度 :4℃
酸素ガス曝露時間 :30分
液体窒素凍結温度 :-100℃
凍結時間 :4分
【0044】
アジを水揚げ後、直ちに三枚おろし加工し、それらフィレを、鮮魚の凍結保存装置1内のトレー5上に並べ、設備を稼働させた。
稼働開始後、第1開閉弁13を開とし酸素ガスを庫内に流入させると同時に、第3開閉弁21を開として冷却用コイル配管30を流通する液体窒素の冷熱により庫内を冷却した。これにより、6℃の空間で酸素ガス濃度が80vol%以上の酸素ガスに30分間フィレを曝露させた。
30分経過後、第1開閉弁13及び第3開閉弁21を閉とするとともに上記設備の排気手段20が作動し、酸素ガスを大気中へ排気した。
続いて第2開閉弁15を開とし液体窒素供給ノズル11から液体窒素を直接庫内へ噴霧し、-100℃の雰囲気を形成した。4分経過後、第2開閉弁15を閉止して液体窒素の噴霧を停止し、設備の稼働は完了となる。
その後、庫内から凍結したフィレを取り出し、-50℃の雰囲気にて、消費時期まで保管した。
【0045】
上記方法で処理・保管したアジフィレは、解凍後2時間程度までは生と同等の評価が得られた。
一方で、酸素ガスの酸素濃度が70vol%や50vol%の場合には、十分な脱色防止効果を発揮せず、良い評価は得られなかった。また、これら低濃度の酸素濃度ガスへの曝露は、魚肉の褐変を招く可能性があることが分かった。
さらに、酸素曝露温度が10℃などと高温になると、ガス溶解度が落ち、酸素の溶け込みが不十分となるほか、曝露中に腐敗が進行する場合もあることがわかった。
また、酸素曝露時間が3時間など長いと、アジのような足の早い魚種では曝露中に腐敗が進行し、良い評価は得られなかった。
【0046】
以上のように、本発明の鮮魚の凍結保存方法によれば、凍結前の色調上げに酸素ガス濃度が80vol%以上の酸素ガスを用いることで、無駄なく最短の時間で、色調上げ、および窒素凍結による脱色の防止を実現することができることが実証された。
【符号の説明】
【0047】
1 鮮魚の凍結保存装置
3 筐体
5 トレー
7 酸素ガス供給ノズル
9 温度調整手段
11 液体窒素供給ノズル
13 第1開閉弁
15 第2開閉弁
17 温度検知手段
17a 温度センサー
19 制御部
20 排気手段
21 第3開閉弁
23 攪拌ファン
30 コイル冷却配管
図1