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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106950
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240801BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20240801BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134747
(22)【出願日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2023011277
(32)【優先日】2023-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】山本 稔
(72)【発明者】
【氏名】井上 直人
(72)【発明者】
【氏名】茨木 幹之
(72)【発明者】
【氏名】爲本 広昭
【テーマコード(参考)】
4E168
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA24
4E168DA27
4E168DA46
4E168DA47
4E168JA13
5F063AA04
5F063BA47
5F063DD27
5F063DD32
(57)【要約】
【課題】半導体素子を所望の形状とすることができる半導体素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】半導体素子の製造方法は、第1面と前記第1面とは反対側に位置する第2面とを有するサファイア基板と、前記第1面側に配置された半導体構造体と、を有するウェーハに、前記第2面側からレーザ光を照射する。前記レーザ光は、前記第2面に平行な第1方向に沿って照射され、前記サファイア基板の内部に集光され、前記第1方向に沿って改質部を形成する。前記ウェーハは、前記改質部を形成した後に分割され、複数の半導体素子に個片化される。前記レーザ光は、前記サファイア基板の厚さの半分よりも前記第2面側に集光される。前記サファイア基板は、(10-14)面または(10-11)面に沿う複数の結晶面を含み、前記レーザ光の強度分布は、前記第1面内において、前記レーザ光の強度分布の中心から前記第1方向と交差する第2方向に偏った強度ピークを有する。
【選択図】図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と前記第1面とは反対側に位置する第2面とを有するサファイア基板と、前記第1面側に配置された半導体構造体と、を有するウェーハにおいて、前記第2面側からレーザ光を前記第2面に平行な第1方向に沿って照射し、前記サファイア基板の内部にレーザ光を集光することで、前記第1方向に沿って前記サファイア基板の内部に改質部を形成する工程と、
前記改質部を形成する工程の後に、前記ウェーハを分割し、複数の半導体素子に個片化する工程と、
を備え、
前記改質部を形成する工程において、前記サファイア基板の厚さの半分よりも前記第2面側に前記レーザ光を集光し、
前記サファイア基板は、(10-14)面または(10-11)面に沿う複数の結晶面を含む結晶構造を有し、
前記レーザ光の強度分布は、前記サファイア基板の前記第1面内において、前記レーザ光の強度分布の中心から前記第1方向と交差する第2方向に偏った強度ピークを有し、
前記第2方向は、平面視において、前記複数の結晶面のうち前記第1方向に対して最も平行に近い結晶面に沿った第3面と前記第1面とが交差する第1交線上の任意の第1点から、前記第3面と前記第2面とが交差する第2交線上の任意の第2点に向かう方向である、半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記レーザ光の強度分布は、前記レーザ光に付与するコマ収差により調整される請求項1記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記コマ収差は、前記レーザ光を集光するレンズの光軸に対する角度により制御される請求項2記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記第2方向は、前記第1方向に直交する請求項1乃至3のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記第2方向は、前記第1交線に直交する請求項1乃至3のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1方向は、前記サファイア基板のa軸に平行な方向である請求項1乃至3のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1方向は、前記サファイア基板のa軸に対して45°傾いた方向である請求項1乃至3のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子は、基板上に半導体層を形成したウェーハをダイシングすることによって得られる。特許文献1には、ウェーハをダイシングする方法として、基板内部にレーザ光を集光させて改質領域を形成し、この改質領域から伸展する亀裂によりウェーハを複数の半導体チップに分割する方法が開示されている。しかしながら、ウェーハの結晶構造に起因し、意図しない方向に亀裂が進展し、半導体チップを所望の形状とすることが難しいことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-18505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、半導体素子を所望の形状とすることができる半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、半導体素子の製造方法は、第1面と前記第1面とは反対側に位置する第2面とを有するサファイア基板と、前記第1面側に配置された半導体構造体と、を有するウェーハに、前記第2面側からレーザ光を照射する。前記レーザ光は、前記サファイア基板の前記第2面に平行な第1方向に沿って照射され、前記サファイア基板の内部に集光されることで、前記第1方向に沿って前記サファイア基板の内部に改質部を形成する。前記ウェーハは、前記改質部を形成した後に分割され、複数の半導体素子に個片化される。前記改質部を形成する工程において、前記レーザ光は、前記サファイア基板の厚さの半分よりも前記第2面側に集光される。前記サファイア基板は、(10-14)面または(10-11)面に沿う複数の結晶面を含む結晶構造を有し、前記レーザ光の強度分布は、前記サファイア基板の前記第1面内において、前記レーザ光の強度分布の中心から前記第1方向と交差する第2方向に偏った強度ピークを有する。前記第2方向は、平面視において、前記複数の結晶面のうち前記第1方向に対して最も平行に近い結晶面に沿った第3面と前記第1面とが交差する第1交線上の任意の第1点から、前記第3面と前記第2面とが交差する第2交線上の任意の第2点に向かう方向である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の半導体素子の製造方法によれば、半導体素子を所望の形状とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係るウェーハの模式平面図である。
図2】実施形態に係るウェーハの模式断面図である。
図3A】実施形態に係る半導体素子の製造方法におけるレーザ照射工程を説明するための模式断面図である。
図3B】実施形態に係る半導体素子の製造方法におけるレーザ照射工程を説明するための模式平面図である。
図4A】第1実施形態に係る製造方法を説明するための模式断面図である。
図4B】第1実施形態に係るウェーハの結晶構造を模式的に示す斜視図である。
図5A】第1実施形態に係る製造方法を説明するための模式断面図である。
図5B】第1実施形態に係る製造方法を説明するための模式平面図である。
図5C】第1実施形態に係る製造方法を説明するための模式図である。
図6A】第1実施形態に係るウェーハの結晶構造を示す模式図である。
図6B】第1実施形態に係る製造方法を説明するための模式平面図である。
図7A】第1実施形態に係る製造方法を説明するための模式平面図である。
図7B】第1実施形態に係るウェーハの結晶構造を示す模式図である。
図8】第1実施形態に係る製造方法におけるレーザ照射特性を示すグラフである。
図9A】第2実施形態に係る製造方法を説明するための模式図である。
図9B】第2実施形態に係るウェーハの結晶構造を示す模式図である。
図10】第2実施形態に係る製造方法におけるレーザ照射特性を示すグラフである。
図11A】第3実施形態に係る製造方法を説明するための模式図である。
図11B】第3実施形態に係るウェーハの結晶構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照し、実施形態について説明する。なお、各図面中、同じ構成には同じ符号を付している。
【0009】
図1は、実施形態に係るウェーハWの模式平面図である。図2は、ウェーハWにおけるダイシングストリートDSが位置する部分の模式断面図である。
【0010】
ウェーハWは、サファイア基板10と半導体構造体20とを有する。サファイア基板10は、第1面11と、第1面11とは反対側の第2面12とを有する。半導体構造体20は、サファイア基板10の第1面11上に配置される。
【0011】
サファイア基板10は、六方晶系の結晶構造を有し、第1面11は、例えば、C面である。なお、第1面11は、半導体構造体20をエピタキシャル成長させる時の各半導体層の結晶性を向上させるために、C面に対して傾斜させた面であっても良い。
【0012】
半導体構造体20は、例えば、組成式InAlGa1-x-yN(0≦x、0≦y、x+y<1)で表される窒化物半導体を含む。半導体構造体20は、例えば、発光ダイオードまたはトランジスタである。
【0013】
ウェーハWは、ダイシングストリートDSに沿って分割することで、複数の半導体素子に個片化される。平面視において、ウェーハWには、例えば、ダイシングストリートDSが格子状に位置している。ダイシングストリートDSは、例えば、サファイア基板10のa軸方向およびm軸方向に延びる。半導体素子は、それぞれ、半導体構造体20を含むように個片化される。
【0014】
実施形態に係る半導体素子の製造方法では、サファイア基板10と半導体構造体20とを有するウェーハWにレーザ光を照射し、サファイア基板10の内部に改質部MP(図3A参照)を形成する。レーザ光は、サファイア基板10の第2面12側から照射され、ダイシングストリートDSに沿って走査される。レーザ光は、サファイア基板10の内部に集光され、集光位置に改質部MPを形成する。
【0015】
図1に示すa軸方向およびm軸方向のうち、一方の方向に延びるダイシングストリートDSに沿ってレーザ光が走査され、この後、他方の方向に延びるダイシングストリートDSに沿ってレーザ光が走査される。
【0016】
レーザ光源は、例えば、パルス駆動され、レーザ光は、パルス駆動の状態で走査される。レーザ光のパルス幅は、例えば、100fsec~1000psecである。レーザ光源として、例えば、Nd:YAGレーザ、チタンサファイアレーザ、Nd:YVO4レーザ、または、Nd:YLFレーザなどを用いてよい。レーザ光のピーク波長は、例えば、500nm以上1200nm以下である。サファイア基板10は、上記レーザ光のピーク波長に対して高い透過性を有するが、レーザ光の一部はサファイア基板10により吸収される。
【0017】
図3Aは、実施形態に係るレーザ照射工程を説明するための模式断面図である。
図3Bは、実施形態に係るレーザ照射工程を説明するための模式平面図である。
【0018】
図3Aおよび図3Bにおいて、レーザ光の走査方向の1つは第1方向D1である。第1方向D1は、サファイア基板10の第2面12に平行な方向である。図1中に示すa軸に沿ってレーザ光を走査する場合、第1方向D1はa軸に平行である、また、図1中に示すm軸に沿ってレーザ光を走査する場合には、第1方向D1は、m軸に平行である。第1方向D1に交差する走査方向を第2方向D2とする。例えば、第2方向D2は第1方向D1に直交する。例えば、第1方向D1をa軸に平行として、第2方向D2を、m軸に平行とすることができる。
【0019】
例えば、サファイア基板10の第2面12側からサファイア基板10の内部にレーザ光を照射する。レーザ光は、サファイア基板10の内部の所定の深さの位置において集光され、その位置にレーザ光のエネルギーが集中する。これにより、サファイア基板10内のレーザ光の集光位置に改質部MPが形成される。改質部MPは、サファイア基板10のレーザ光が照射されない他の部分よりも脆化された領域である。レーザ光の出力は、例えば、0.1μJ以上20.0μJ以下が好ましく、1.0μJ以上15.0μJ以下がより好ましく、2.0μJ以上10.0μJ以下がさらに好ましい。
【0020】
図3Aに示すように、改質部MPは、サファイア基板10の第2面12に近い位置に形成されることが好ましい。改質部MPは、例えば、サファイア基板10のc軸に平行な方向(以下、c軸方向)の厚さの半分よりも第2面12側にレーザ光を集光することにより形成される。言い換えれば、c軸方向において、改質部MPと第2面12との間の距離は、改質部MPと第1面11との間の距離よりも短い。これにより、第1面11上に配置された半導体構造体20に対するレーザ照射の影響を低減できる。
【0021】
サファイア基板10中に改質部MPが形成されることにより、改質部MPの周りに歪が発生する。この歪は、改質部MPから亀裂crが延びることにより解放される。亀裂crは、例えば、改質部MPからサファイア基板10の第1面11および第2面12に向かう方向に延び、サファイア基板10を分割する際の起点となる。
【0022】
図3Bに示すように、ダイシングストリートDS内において、レーザ光の照射位置を第1方向D1に沿って移動させる。第1方向D1は、ダイシングストリートDSの2つの延在方向のうちの1つである。パルス駆動の光源から出射されるレーザ光により、第1方向D1に並ぶ複数の改質部MPがサファイア基板10内に形成される。複数の改質部MPは、例えば、第1方向D1に沿って形成される。複数の改質部MPは、第1方向D1において、例えば、相互に離間していてもよいし、隣り合う改質部MPが接していてもよいし、重なり合っていてもよい。例えば、複数の改質部MPを重なり合うように形成することで、第1方向D1に延びる連続したライン状の改質部MPを形成してもよい。
【0023】
(第1実施形態)
図4Aは、第1実施形態に係る製造方法を示す模式断面図である。
図4Bは、図4Aに示すサファイア基板10の結晶面CSを模式的に示す斜視図である。
【0024】
図4Aに示すように、サファイア基板10は、その結晶構造に起因する結晶面CSを有する。結晶面CSは、サファイア基板10の結晶構造において、改質部MPからの亀裂crが延びる方向に他の結晶面よりも大きく影響する結晶面である。改質部MPから延びる亀裂crは、結晶面CSに影響され、結晶面CSに沿った方向に延びる傾向があり、サファイア基板10は、結晶面CSに沿った方向に割れ易い。
【0025】
サファイア基板10と半導体構造体20とを有するウェーハWを複数の半導体素子に個片化する場合、サファイア基板10は、c軸およびダイシングストリートDSの延在方向を含む平面において分割されることが好ましい。半導体素子のサファイア基板10の形状は、例えば、サファイア基板10の各側面が第1面11または第2面12に対して直交する立方体に近い形状であることが好ましい。サファイア基板10がc軸に対して傾いた結晶面CSに沿って割れると、個片化された半導体素子のサファイア基板10の側面が第1面11または第2面12に対して傾斜し、サファイア基板10の形状を所望の形状とすることが困難である。このため、亀裂crが改質部MPからc軸方向に延びるようにレーザ光を照射することが望ましい。
【0026】
図4Bには、サファイア基板の(10-14)面および(10-11)面を示している。以下、(10-14)面およびその等価面をR面として説明し、(10-11)面およびその等価面をS面として説明する。
【0027】
c軸に垂直な結晶面(以下、C面)を主面とするサファイア基板10は、例えば、R面、S面およびその複合面に沿って割れ易い特性を有する。したがって、改質部MPからR面もしくはS面に沿う方向に亀裂crが延びないように、レーザ光を照射することが好ましい。
【0028】
図5Aは、第1実施形態に係るレーザ照射方法を説明するための模式断面図である。
図5Bは、第1実施形態に係るレーザ照射方法を説明するための模式平面図である。
図5Cは、第1実施形態に係るレーザ照射方法を説明するための模式図である。
【0029】
図5A中には、サファイア基板10に照射されるレーザ光の光線Lrを模式的に示している。レーザ光がサファイア基板10中に集光されることで、改質部MPが形成される。第2面12側から照射されたレーザ光は、サファイア基板10中を伝播し、第1面11に到達する。
【0030】
図5Bは、サファイア基板10の第2面12側から照射されるレーザ光の第1面11内における強度分布LIを示している。強度分布LIでは、内側の線に沿った強度が外側の線に沿った強度よりも高い。すなわち、強度分布LIは、内側に外側よりも高い1つの強度ピークがあることを示している。
【0031】
レーザ光の強度ピークは、図5Bに示す強度分布LIのように、レーザ光の強度分布の中心から偏った状態で照射される。強度ピークを偏らせる方向は、例えば、結晶面CSがc軸に対して傾斜する方向である。この例では、強度ピークを偏らせる方向は、第2方向D2とは反対方向であるが、実施形態は、これに限定される訳ではない。
【0032】
図5Cに示すように、集光レンズFLの中心軸Oaがレーザ光の入射側の光線Lr1に対して傾くように、集光レンズFLを配置する。このため、集光レンズFLを通過した交線Lr2は、1点に集光される訳ではなく、所謂コマ収差を有するように集光される。結果として、サファイア基板10の第1面11内におけるレーザ光の強度ピークが偏った状態となる。強度ピークを偏らせる方向および程度は、集光レンズFLの中心軸Oaの傾きにより制御される。なお、実施形態のレーザ光の制御方法は、図示した集光レンズFLに限定される訳ではなく、コマ収差を発生させる制御方法であればよい。例えば、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)を用いて、レーザ光を制御することができる。
【0033】
図6Aは、サファイア基板10の結晶面CSを示す模式図である。
図6Bは、第1実施形態に係る製造方法を説明するための模式平面図である。図6Bは、平面視における第1交線IL1および第2交線IL2を示している。
【0034】
図6Aに示すように、サファイア基板10の結晶面CSは、第1面11および第2面12と交差する。サファイア基板10の複数の結晶面CSのうち第1方向D1に対して最も平行に近い結晶面CSに沿った面を第3面13とする。あるいは、サファイア基板10の複数の結晶面CSのうち第1方向D1と交差する角度が最小となる結晶面CSに沿った面を第3面13とする。以下、1つの第3面13と第1面11とが交差する交線を第1交線IL1とし、1つの第3面13と第2面12とが交差する交線を第2交線IL2として説明する。
【0035】
例えば、C面を主面とするサファイア基板10の個片化工程において、サファイア基板10が斜めに割れる主要因となる結晶面CSは、S面またはR面である。以下、結晶面CSをS面として説明する。
【0036】
図6Bには、第3面13の第1交線IL1および第2交線IL2を示している。第1方向D1に沿ってレーザ光を走査する場合、レーザ光の第1面11内における強度ピークをレーザ光の強度分布の中心からED方向に偏らせる。ここで、ED方向は、平面視において、第1交線IL1上の任意の第1点P1から第2交線IL2上の任意の第2点P2に向かう方向である。
【0037】
図6Bに示すように、ED方向は、第1方向D1と交差する。ED方向は、例えば、第1方向D1に直交する第2方向D2の反対方向であってもよいが、これに限定される訳ではない。ED方向は、例えば、改質部MP(図5A参照)からの亀裂crが結晶面CSに沿って延び難くなるように選択されることが望ましい。
【0038】
図7Aは、第1実施形態に係る製造方法を説明するための模式平面図である。図7Bは、サファイア基板10の結晶構造を示す模式図である。なお、図7Aは、サファイア基板10の第2面12を表している。
【0039】
図7Aに示すように、第1方向D1は、a軸に平行な方向(以下、a軸方向)であり、第2方向D2は、m軸に平行な方向(以下、m軸方向)である。レーザ光は、例えば、第1方向D1に走査された後、第2方向D2に走査される。第1面11内においてED方向に偏った強度ピークを有する強度分布であるレーザ光を、第1方向D1に走査する。例えば、レーザ光に、第1面11内における強度ピークがED方向に偏るようにコマ収差を与えることでレーザ光の強度分布を制御できる。
【0040】
図7Bには、サファイア基板10の主な結晶面を示している。サファイア基板10をc軸方向に見た時、3つの等価なS面がある。以下、a軸に平行なS面を、第1S面s1とし、a軸と交差する2つのS面を、それぞれ、第2S面s2および第3S面s3として説明する。
【0041】
サファイア基板10を、例えば、a軸およびc軸を含む平面において分割する場合には、レーザ光を第1方向D1に走査し、a軸方向に並ぶ改質部MP(図3B参照)を形成する。その後、サファイア基板10に応力を加え、a軸およびc軸を含む平面に沿って分割する。この際、半導体素子のサファイア基板10が斜めに割れる主要因となる結晶面は、3つのS面のうち第1方向D1と交差する角度が最小となる、あるいは第1方向D1に対して最も平行に近い第1S面s1である。以下、第1S面s1に沿った結晶面を第3面13として説明する。
【0042】
レーザ光を第1方向D1に走査する場合、レーザ光の強度ピークを偏らせるED方向は、サファイア基板10の第1面11と第3面13とが交差する第1交線IL1上の任意の第1点から、第2面12と第3面13とが交差する第2交線IL2上の第2点に向かう方向である(図6B参照)。サファイア基板10は、m軸に対して線対称の結晶構造を有するため、ED方向は、m軸に沿った方向であることが好ましい。すなわち、ED方向は、例えば、第1方向D1に直交する第2方向D2の反対方向である。
【0043】
サファイア基板10を、m軸およびc軸を含む平面において分割する場合には、レーザ光を第2方向D2に走査し、m軸方向に並ぶ改質部MP(図3B参照)を形成する。この場合、半導体素子の欠けの要因となる結晶面は、3つのS面のうちm軸と交差する角度が最小となる、あるいは第1方向D1に対して最も平行に近い第2S面s2および第3S面s3である。すなわち、サファイア基板10がm軸に対して線対称の結晶構造を有するため、2つの結晶面の影響を受けることになる。このため、レーザ光の強度ピークをm軸方向と交差する方向に偏らせると、第2S面s2および第3S面s3のいずれか一方に沿って亀裂crが伸び易くなるので、レーザ光の強度ピークをm軸方向と交差する方向に偏らせないことが好ましい。例えば、レーザ光をm軸方向に走査する場合には、m軸方向と交差する方向にコマ収差を与えずにレーザ光を集光することが好ましい。
【0044】
図8は、第1実施形態に係る製造方法におけるコマ収差と斜め割れ量(μm)との関係を示すグラフである。縦軸は、c軸に対する斜め割れ量(μm)であり、横軸は、コマ収差の量である。ここで、斜め割れ量は、上面において、改質部MPと、改質部MPから斜め方向に延びる亀裂crが第1面11に達した箇所との間の距離である。
【0045】
図8に示すように、レーザ光の強度ピークを偏らせる方向であるED方向にコマ収差を大きくすると、斜め割れ量の絶対値は小さくなる。すなわち、コマ収差をED方向に大きくすることにより、サファイア基板10の斜め割れを抑制できることが分かる。
【0046】
(第2実施形態)
図9Aは、第2実施形態に係る製造方法を説明するための模式平面図である。図9Bは、図9Aに対応するサファイア基板10の結晶構造を示す模式図である。なお、図9Aは、サファイア基板10の第2面12を表している。
【0047】
図9Aに示すように、この例では、第1方向D1は、a軸に対して45°傾斜した方向であり、第2方向D2は、第1方向D1に直交する。レーザ光は、例えば、第1方向D1に走査された後、第2方向D2に走査される。第1方向D1に沿ってレーザ光を走査する場合、レーザ光は、第1面11内における強度ピークがレーザ光の強度分布の中心からED1方向に偏った状態で照射される。第2方向D2に沿ってレーザ光を走査する場合、レーザ光は、第1面11内における強度ピークがレーザ光の強度分布の中心からED2方向に偏った状態で照射される。
【0048】
第1面11内においてED1方向に偏った強度ピークを有する強度分布であるレーザ光を、第1方向D1に走査する。例えば、レーザ光には、第1面11内における強度ピークが第1方向D1に直交するED1方向に偏るようにコマ収差が与えられる。
【0049】
図9Bに示すように、半導体素子の欠けの要因となる結晶面は、3つのS面のうち第1方向D1と交差する角度が最小となる、あるいは第1方向D1に対して最も平行に近い第2S面s2である。以下、本実施形態において、第2S面s2に沿った結晶面を第3a面13aとして説明する。この場合、レーザ光の強度ピークを偏らせるED1方向は、サファイア基板10の第1面11と第3a面13aとが交差する第1交線IL1上の任意の第1点から、第2面12と第3a面13aとが交差する第2交線IL2上の第2点に向かう方向である(図6B参照)。この例では、ED1方向は、第1方向D1に直交する方向であり、第2方向D2と同じ方向である。
【0050】
サファイア基板10を、例えば、第2方向D2およびc軸を含む平面において分割する場合、レーザ光を第2方向D2に走査し、第2方向D2に並ぶ改質部MP(図3B参照)を形成する。この場合、半導体素子のサファイア基板10が斜めに割れる主要因となる結晶面は、図9Bに示す3つのS面のうち第2方向D2と交差する角度が最小となる、あるいは第2方向D2に対して最も平行に近い第3S面s3である。以下、本実施形態において、第3S面s3に沿った結晶面を第3b面13bとして説明する。
【0051】
レーザ光の強度ピークを偏らせるED2方向は、サファイア基板10の第1面11と第3b面13bとが交差する第1交線IL1上の任意の第1点から、第2面12と第3b面13bとが交差する第2交線IL2上の第2点に向かう方向である(図6B参照)。この例でも、ED2方向は、第2方向D2に直交する方向であり、第1方向D1と同じ方向である。
【0052】
図10は、第2実施形態に係る製造方法におけるコマ収差と斜め割れ量(μm)との関係を示すグラフである。縦軸は、c軸に対する斜め割れ量(μm)であり、横軸は、コマ収差の量である。ここで、斜め割れ量は、上面において、改質部MPと、改質部MPから斜め方向に延びる亀裂crが第1面11に達した箇所との間の距離である。
【0053】
図10に示すように、レーザ光の強度ピークを偏らせる方向であるED1方向にコマ収差を大きくすると、斜め割れ量は小さくなる。例えば、コマ収差を0の位置からED1方向に大きくすると、斜め割れ量は、プラスからマイナスに変化する。すなわち、斜め割れ量を0μmにできる最適なコマ収差があることを示している。
【0054】
(第3実施形態)
図11Aは、第3実施形態に係る製造方法を説明するための模式平面図である。図11Bは、図11Aに対応するサファイア基板10の結晶構造を示す模式図である。なお、図11Aは、サファイア基板10の第2面12を表している。第3実施形態において、ED3方向が第1方向D1に対して傾斜し、ED4方向が第2方向D2に対して傾斜している点が、上記の第2実施形態と主に異なる。
【0055】
図11Aに示すように、この例では、第1方向D1は、a軸に対して45°傾斜した方向であり、第2方向D2は、第1方向D1に直交する。レーザ光は、例えば、第1方向D1に走査された後、第2方向D2に走査される。第1方向D1に沿ってレーザ光を走査する場合、レーザ光は、第1面11内における強度ピークがレーザ光の強度分布の中心からED3方向に偏った状態で照射される。第2方向D2に沿ってレーザ光を走査する場合、レーザ光は、第1面11内における強度ピークがレーザ光の強度分布の中心からED4方向に偏った状態で照射される。
【0056】
第1面11内においてED3方向に偏った強度ピークを有する強度分布であるレーザ光を、第1方向D1に走査する。例えば、レーザ光には、第1面11内における強度ピークが第1方向D1に対して傾斜するED3方向に偏るようにコマ収差が与えられる。
【0057】
図11Bに示すように、半導体素子の欠けの要因となる結晶面は、3つのS面のうち第1方向D1と交差する角度が最小となる、あるいは第1方向D1に対して最も平行に近い第2S面s2である。以下、本実施形態において、第2S面s2に沿った結晶面を第3a面13aとして説明する。この場合、レーザ光の強度ピークを偏らせるED3方向は、サファイア基板10の第1面11と第3a面13aとが交差する第1交線IL1上の任意の第1点から、第2面12と第3a面13aとが交差する第2交線IL2上の第2点に向かう方向である(図6B参照)。この例では、ED3方向は、第1交線IL1および第2交線IL2に直交する方向である。
【0058】
サファイア基板10を、第2方向D2およびc軸を含む平面において分割する場合には、レーザ光を第2方向D2に走査し、第2方向D2に並ぶ改質部MP(図3B参照)を形成する。この場合、半導体素子のサファイア基板10が斜めに割れる主要因となる結晶面は、3つのS面のうち第2方向D2と交差する角度が最小となる、あるいは第2方向D2に対して最も平行に近い第3S面s3である。以下、本実施形態において、第3S面s3に沿った結晶面を第3b面13bとして説明する。
【0059】
レーザ光を第2方向D2に走査する際に、レーザ光の強度ピークを偏らせるED4方向は、サファイア基板10の第1面11と第3b面13bとが交差する第1交線IL1上の任意の第1点から、第2面12と第3b面13bとが交差する第2交線IL2上の第2点に向かう方向である(図6B参照)。すなわち、レーザ光には、第1面11内における強度ピークが第2方向D2に対して傾斜するED4方向に偏るようにコマ収差が与えられる。この例では、ED4方向は、第1交線IL1および第2交線IL2に直交する方向である。
【0060】
上記の第1~第3実施形態では、第1面11内におけるレーザ光の強度ピークをレーザ光の強度分布の中心から偏らせる方向を、レーザ光の走査方向に垂直な方向、または、第1面11と結晶面CSの交線に垂直な方向としたが、本発明は、これに限定される訳ではない。レーザ光の強度ピークを偏らせる方向は、走査方向と交差する方向であれば良く、レーザ光に与えるコマ収差を適宜調整することにより、c軸に対するサファイア基板10の斜め割れを低減し、半導体素子を所望の形状に個片化することを目的とする。
【0061】
また、上記の第1~第3実施形態では、サファイア基板10の厚さ方向において、1つのライン状の改質部MPを形成する例を説明したが、複数のライン状の改質部MPを形成してもよい。この場合、複数のライン状の改質部MPのうち少なくとも1つのライン状の改質部MPを形成するときに、レーザ光に与えるコマ収差等を適宜調整しレーザ光の強度ピークをレーザ光の強度分布の中心から偏らせることが好ましい。これにより、上記の第1~第3実施形態と同様に、c軸に対するサファイア基板10の斜め割れを低減し、半導体素子を所望の形状に個片化することができる。
【0062】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。本発明の上述した実施形態を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての形態も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものである。
【0063】
(付記1)
第1面と前記第1面とは反対側に位置する第2面とを有するサファイア基板と、前記第1面側に配置された半導体構造体と、を有するウェーハにおいて、前記第2面側からレーザ光を前記第2面に平行な第1方向に沿って照射し、前記サファイア基板の内部にレーザ光を集光することで、前記第1方向に沿って前記サファイア基板の内部に改質部を形成する工程と、
前記改質部を形成する工程の後に、前記ウェーハを分割し、複数の半導体素子に個片化する工程と、
を備え、
前記改質部を形成する工程において、前記サファイア基板の厚さの半分よりも前記第2面側に前記レーザ光を集光し、
前記サファイア基板は、(10-14)面または(10-11)面に沿う複数の結晶面を含む結晶構造を有し、
前記レーザ光の強度分布は、前記サファイア基板の前記第1面内において、前記レーザ光の強度分布の中心から前記第1方向と交差する第2方向に偏った強度ピークを有し、
前記第2方向は、平面視において、前記複数の結晶面のうち前記第1方向に対して最も平行に近い結晶面に沿った第3面と前記第1面とが交差する第1交線上の任意の第1点から、前記第3面と前記第2面とが交差する第2交線上の任意の第2点に向かう方向である、半導体素子の製造方法。
(付記2)
前記レーザ光の強度分布は、前記レーザ光に付与するコマ収差により調整される付記1記載の半導体素子の製造方法。
(付記3)
前記コマ収差は、前記レーザ光を集光するレンズの光軸に対する角度により制御される付記2記載の半導体素子の製造方法。
(付記4)
前記第2方向は、前記第1方向に直交する付記1乃至3のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
(付記5)
前記第2方向は、前記第1交線に直交する付記1乃至3のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
(付記6)
前記第1方向は、前記サファイア基板のa軸に平行な方向である付記1乃至5のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
(付記7)
前記第1方向は、前記サファイア基板のa軸に対して45°傾いた方向である付記1乃至5のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
(付記8)
第1面と前記第1面とは反対側に位置する第2面とを有するサファイア基板と、前記第1面側に配置された半導体構造体と、を有するウェーハにおいて、前記第2面側からレーザ光を前記第2面に平行な第1方向に沿って照射し、前記サファイア基板の内部にレーザ光を集光することで、前記第1方向に沿って前記サファイア基板の内部に改質部を形成する工程と、
前記改質部を形成する工程の後に、前記ウェーハを分割し、複数の半導体素子に個片化する工程と、
を備え、
前記改質部を形成する工程において、前記サファイア基板の厚さの半分よりも前記第2面側に前記レーザ光を集光し、
前記サファイア基板は、(10-14)面または(10-11)面に沿う複数の結晶面を含む六方晶系の結晶構造を有し、
前記レーザ光の強度分布は、前記サファイア基板の前記第1面内において、前記第1方向と交差する第2方向に偏った強度ピークを有し、
前記第2方向は、平面視において、前記複数の結晶面のうち前記第1方向と交差する角度が最小となる結晶面に沿った第3面と前記第1面とが交差する第1交線上の任意の第1点から、前記第3面と前記第2面とが交差する第2交線上の任意の第2点に向かう方向である、半導体素子の製造方法。
【符号の説明】
【0064】
10…サファイア基板、
11…第1面、
12…第2面、
13、13a、13b…第3面、
20…半導体構造体、
CS…結晶面、
D1…第1方向、
D2…第2方向、
DS…ダイシングストリート、
FL…集光レンズ、
IL1…第1交線、
IL2…第2交線、
LI…強度分布、
Lr、Lr1、Lr2…光線、
MP…改質部、
Oa…中心軸、
W…ウェーハ、
cr…亀裂
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B