(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106963
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240801BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240801BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240801BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20240801BHJP
C01B 33/141 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 622X
H01L21/304 622B
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
C01B33/141
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023199620
(22)【出願日】2023-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2023010766
(32)【優先日】2023-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】浅野 晴香
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輝
【テーマコード(参考)】
3C158
4G072
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AC04
3C158BA02
3C158BA04
3C158BA05
3C158BA09
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158ED04
3C158ED05
3C158ED10
3C158ED11
3C158ED12
3C158ED13
3C158ED16
3C158ED23
3C158ED26
3C158ED28
4G072AA28
4G072BB05
4G072CC13
4G072DD03
4G072EE01
4G072GG01
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH18
4G072JJ33
4G072JJ38
4G072KK01
4G072MM02
4G072RR12
4G072TT30
4G072UU01
5F057AA07
5F057AA17
5F057AA21
5F057AA28
5F057BA15
5F057BA22
5F057BB15
5F057BB16
5F057BB19
5F057BB29
5F057CA12
5F057DA03
5F057EA07
5F057EA16
5F057EA17
5F057EA18
5F057EA21
5F057EA29
5F057EA32
(57)【要約】
【課題】ポリシリコンの研磨速度に対する酸化ケイ素または窒化ケイ素の研磨速度の比(選択比)が高く、かつ研磨済研磨対象物の表面上の残渣(好ましくは有機物残渣)をより低減させることができる手段を提供する。
【解決手段】コロイダルシリカと、ハロゲンを含まない無機塩と、水溶性高分子と、を含み、前記無機塩のアニオンの価数(単位:価)と研磨用組成物中の前記アニオンの濃度(単位:mM)との積が57以上である、研磨用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカと、ハロゲンを含まない無機塩と、水溶性高分子と、を含み、
前記無機塩のアニオンの価数(単位:価)と研磨用組成物中の前記アニオンの濃度(単位:mM)との積が57以上である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記コロイダルシリカは、アニオン変性コロイダルシリカである、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
pHが、1.0以上5.0未満である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記無機塩のアニオンの価数(単位:価)と前記研磨用組成物中の前記アニオンの濃度(単位:mM)との積が300以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記無機塩のカチオンは、カリウムイオンまたはアンモニウムイオンであり、
前記無機塩のアニオンは、オキソ酸イオンまたはチオシアン酸イオンである、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記無機塩は、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カリウム、スルファミン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ホスホン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一水素アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カリウム、ホスホン酸一水素アンモニウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸一水素カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記水溶性高分子は、第1の水溶性高分子および第2の水溶性高分子を含み、
前記第1の水溶性高分子は、側鎖にアルコール性水酸基を有する水溶性高分子であり、
前記第2の水溶性高分子は、ポリオキシアルキレン鎖を有する水溶性高分子である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記第1の水溶性高分子は、ポリビニルアルコールおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体の少なくとも一方であり、
前記第2の水溶性高分子は、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールの少なくとも一方である、請求項7に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
前記第1の水溶性高分子は、ブテンジオール-ビニルアルコール共重合体である、請求項7に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
前記研磨用組成物中の前記第2の水溶性高分子の濃度は、前記研磨用組成物の総質量に対して、0.2質量%以上1質量%未満である、請求項7に記載の研磨用組成物。
【請求項11】
分散媒をさらに含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項12】
酸化ケイ素および窒化ケイ素の少なくとも一方と、ポリシリコンと、を含む研磨対象物の研磨に用いられる、請求項1~11のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、酸化ケイ素および窒化ケイ素の少なくとも一方と、ポリシリコンと、を含む研磨対象物を研磨することを含む、研磨方法。
【請求項14】
酸化ケイ素および窒化ケイ素の少なくとも一方と、ポリシリコンと、を含む半導体基板を請求項13に記載の研磨方法により研磨することを有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(Large Scale Integration)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)法もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線(ダマシン配線)形成において頻繁に利用される技術である。
【0003】
当該CMPは、半導体製造における各工程に適用されてきており、その一態様として、例えばトランジスタ作製におけるゲート形成工程への適用が挙げられる。トランジスタ作製の際には、シリコン、酸化ケイ素(SiO2)、ポリシリコン(多結晶シリコン)、窒化ケイ素(Si3N4)といったSi含有材料を研磨することがある。また、例えば、ポリシリコンと、酸化ケイ素または窒化ケイ素と、を含む研磨対象物のような、複合材料を研磨することがある。
【0004】
かような複合材料を研磨する技術として、例えば、特許文献1には、有機酸を固定化したシリカ粒子と、濡れ剤と、ケイ素-ケイ素結合を有する材料の研磨速度抑制剤とを含有し、pHが7未満である研磨用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなポリシリコンと、酸化ケイ素または窒化ケイ素と、を含む研磨対象物を研磨する場合、ポリシリコンの研磨速度に対する酸化ケイ素または窒化ケイ素の研磨速度の比(選択比)を向上させるという要求がある。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、各材料の研磨速度がほぼ等しく、当該選択比を向上させるために改良の余地があった。また、特許文献1に記載の技術では、研磨後の研磨対象物(研磨済研磨対象物)上の残渣の低減が不十分であるという現象も見られ、この点においても改良の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、ポリシリコンの研磨速度に対する酸化ケイ素または窒化ケイ素の研磨速度の比(選択比)が高く、かつ研磨済研磨対象物の表面上の残渣(好ましくは有機物残渣)をより低減させることができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を進めた。その結果、コロイダルシリカと、ハロゲンを含まない無機塩と、水溶性高分子と、を含み、前記無機塩のアニオンの価数(単位:価)と研磨用組成物中の前記アニオンの濃度(単位:mM)との積が57以上である、研磨用組成物によって上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリシリコンの研磨速度に対する酸化ケイ素または窒化ケイ素の研磨速度の比(選択比)が高く、かつ研磨済研磨対象物の表面上の残渣をより低減させることができる手段が提供されうる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、コロイダルシリカと、ハロゲンを含まない無機塩と、水溶性高分子と、を含み、前記無機塩のアニオンの価数(単位:価)と研磨用組成物中の前記アニオンの濃度(単位:mM)との積が57以上である、研磨用組成物が提供される。かような本発明の研磨用組成物によれば、ポリシリコンの研磨速度に対する酸化ケイ素または窒化ケイ素の研磨速度の比(選択比)が高く、かつ研磨済研磨対象物の表面上の残渣(好ましくは有機物残渣)をより低減させることができる。
【0011】
以下では、説明の便宜上、無機塩のアニオンの価数(単位:価)と研磨用組成物中のアニオンの濃度(単位:mM)との積を「パラメータA」とも称する。
【0012】
なぜ、本発明の研磨用組成物により、上記効果が得られるのか、詳細は不明であるが、以下のようなメカニズムであると考えられる。なお、当該メカニズムは推測によるものであり、本発明の技術的範囲が当該メカニズムにより制限されるものではない。
【0013】
本発明の研磨用組成物は、ハロゲンを含まない無機塩を含むが、特に該無機塩に含まれるアニオンの働きにより、研磨済研磨対象物の表面上の欠陥が低減すると考えられる。当該アニオンがオキソ酸アニオンの場合、オキソ酸アニオンが有機物残渣であるパッド屑と、研磨済研磨対象物の表面と、に吸着し、静電反発によって有機物残渣が研磨済研磨対象物の表面上の残渣が低減していると考えられる。上記で規定するパラメータAが57以上であると、パッド屑と研磨済研磨対象物表面の両方により吸着しやすくなり、ゼータ電位をより低下させ、静電反発が強くなり、研磨済研磨対象物の表面上の残渣(好ましくは有機物残渣)が低減すると考えられる。
【0014】
また、当該アニオンがチオシアン酸イオンである場合は、研磨済研磨対象物表面に吸着している水溶性高分子を膨潤させ、研磨済研磨対象物の親水性をより高めると考えられる。このため、疎水性である残渣(好ましくは有機物残渣)は、研磨済研磨対象物に付着しにくくなり、残渣(好ましくは有機物残渣)が低減されると考えられる。上記パラメータAが57以上であると、研磨済研磨対象物の親水性を高める効果がより発揮され、研磨済研磨対象物上の残渣(好ましくは有機物残渣)が低減すると考えられる。
【0015】
これに加えて、本発明に係る研磨用組成物は、水溶性高分子を含む。当該水溶性高分子は、研磨対象物または研磨済研磨対象物の表面に吸着することにより、残渣(好ましくは有機物残渣)の再付着を防止し、また、コロイダルシリカによる機械的な研磨作用を阻害する効果を有する。このような作用機序により、本発明の研磨用組成物は、特にポリシリコンの研磨速度に対する酸化ケイ素または窒化ケイ素の研磨速度の比(選択比)が高く、かつ研磨済研磨対象物の表面上の残渣をより低減させることができる。
【0016】
本明細書において、残渣とは、研磨済研磨対象物の表面に付着した異物を表す。残渣の例は、特に制限されないが、例えば、有機物残渣、研磨用組成物に含まれる砥粒由来のパーティクル残渣、パーティクル残渣および有機物残渣以外の成分からなる残渣、パーティクル残渣および有機物残渣の混合物等のその他の残渣等が挙げられる。
【0017】
本明細書において、有機物残渣とは、研磨済研磨対象物表面に付着した異物のうち、有機低分子化合物や高分子化合物等の有機物や有機塩等からなる成分を表す。研磨済研磨対象物に付着する有機物残渣は、例えば、後述の研磨工程において使用したパットから発生するパッド屑、または研磨工程において用いられる研磨用組成物に含まれる添加剤に由来
する成分等が挙げられる。
【0018】
なお、有機物残渣とその他の残渣とは色および形状が大きく異なることから、残渣が有機物残渣であるか否かの判断は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって目視にて行うことができる。また、残渣が有機物残渣であるか否かの判断は、必要に応じて、SEMに付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析にて判断してもよい。有機物残渣の数は、ウェーハ欠陥検査装置や、ウェーハ欠陥検査装置およびSEMまたはEDX元素分析を用いて測定することができる。具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0019】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態のみには限定されず、特許請求の範囲内で種々改変することができる。本明細書に記載される実施形態は、任意に組み合わせることにより、他の実施形態とすることができる。本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0020】
[コロイダルシリカ]
本発明に係る研磨用組成物は、コロイダルシリカを含む。該コロイダルシリカは、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる。
【0021】
コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明に係るコロイダルシリカとして好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、ゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中で拡散する性質を有する金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。また、コロイダルシリカは、市販品を使用してもよい。
【0022】
コロイダルシリカの形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0023】
本発明の研磨用組成物において、コロイダルシリカは、表面にカチオン性基を有してもよい。すなわち、コロイダルシリカは、カチオン変性コロイダルシリカ(カチオン修飾コロイダルシリカ)であってもよい。カチオン変性コロイダルシリカとしては、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカが好ましく挙げられる。このようなカチオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特開2005-162533号公報に記載されているような、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤をシリカ粒子の表面に固定化する方法が挙げられる。これにより、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカ(アミノ基修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0024】
また、本発明の研磨用組成物において、本発明に係るコロイダルシリカは、表面にアニオン性基を有してもよい。すなわち、コロイダルシリカは、アニオン変性コロイダルシリカ(アニオン修飾コロイダルシリカ)であってもよい。アニオン変性コロイダルシリカとしては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アルミン酸基等のアニオン性基が表面に固定化されたコロイダルシリカが好ましく挙げられる。このようなアニオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特に制限されず、例えば、末端にアニオン性基を有するシランカップリング剤とコロイダルシリカとを反応させる方法が挙げられる。
【0025】
具体例として、スルホン酸基をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”,Chem.Commun.246-247(2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカに反応させた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸基が表面に固定化されたコロイダルシリカ(スルホン酸固定化コロイダルシリカ、スルホン酸修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0026】
カルボン酸基をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”,Chemistry Letters,3,228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸基が表面に固定化されたコロイダルシリカ(カルボン酸固定化コロイダルシリカ、カルボン酸修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0027】
なかでも、ポリシリコンの研磨速度に対する窒化ケイ素の研磨速度の比(選択比)をより高くすることができ、かつ研磨済のポリシリコンの表面上の残渣をより低減させることができるという観点から、コロイダルシリカは、アニオン変性コロイダルシリカであることが好ましく、スルホン酸基が表面に固定化されたコロイダルシリカ(スルホン酸固定化コロイダルシリカ、スルホン酸修飾コロイダルシリカ)であることがより好ましい。
【0028】
本発明に係るコロイダルシリカの大きさは、特に制限されない。例えば、コロイダルシリカの平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましく、20nm以上が特に好ましい。コロイダルシリカの平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。また、コロイダルシリカの平均一次粒子径は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、50nm以下であることが特に好ましい。コロイダルシリカの平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いた研磨により欠陥が少ない表面を得ることが容易になる。すなわち、コロイダルシリカの平均一次粒子径は、5nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上150nm以下であることがより好ましく、15nm以上100nm以下であることがさらに好ましく、20nm以上50nm以下であることが特に好ましい。なお、コロイダルシリカの平均一次粒子径は、例えば、BET法から算出したコロイダルシリカの比表面積(SA)を基に、コロイダルシリカの形状が真球であると仮定して算出することができる。
【0029】
コロイダルシリカの平均二次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、25nm以上であることが特に好ましい。コロイダルシリカの平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨中の抵抗が小さくなり、安定的な研磨が可能になる。また、コロイダルシリカの平均二次粒子径は、400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。コロイダルシリカの平均二次粒子径が小さくなるにつれて、コロイダルシリカの単位質量当たりの表面積が大きくなり、研磨対象物との接触頻度が向上し、研磨速度がより向上する。すなわち、コロイダルシリカの平均二次粒子径は、10nm以上400nm以下であることが好ましく、15nm以上300nm以下であることがより好ましく、20nm以上200nm以下であることがさらに好ましく、25nm以上100nm以下であることが特に好ましい。なお、コロイダルシリカの平均二次粒子径は、例えばレーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0030】
コロイダルシリカの平均会合度は、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。コロイダルシリカの平均会合度が小さくなるにつれて、欠陥をより低減することができる。コロイダルシリカの平均会合度はまた、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。コロイダルシリカの平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する有利な効果がある。すなわち、コロイダルシリカの平均会合度は、1.0以上5.0以下であることが好ましく、1.5以上4.0以下であることがより好ましく、2.0以上3.0以下であることがさらに好ましい。この平均会合度は、コロイダルシリカの平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。
【0031】
研磨用組成物中のコロイダルシリカのアスペクト比の上限は、特に制限されないが、2.0未満であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。なお、該アスペクト比は、走査型電子顕微鏡によりコロイダルシリカ粒子の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウェアを用いて求めることができる。研磨用組成物中のコロイダルシリカのアスペクト比の下限は、特に制限されないが、1.0以上であることが好ましい。
【0032】
コロイダルシリカの大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径、平均会合度等)は、コロイダルシリカの製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0033】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの濃度(含有量)は、特に制限されない。そのまま研磨液として研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物(典型的にはスラリー状の研磨液であり、ワーキングスラリーまたは研磨スラリーと称されることもある)の場合には、研磨用組成物中のコロイダルシリカの濃度(含有量)の下限は、研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.6質量%以上であることがさらに好ましく、0.8質量%以上であることがよりさらに好ましく、1質量%以上であることが特に好ましい。また、研磨用組成物中のコロイダルシリカの濃度(含有量)の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下であることがさらに好ましく、6質量%以下であることがよりさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0034】
すなわち、コロイダルシリカの濃度(含有量)は、研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましく、0.8質量%以上6質量%以下であることがよりさらに好ましく、1質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。
【0035】
また、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液、ワーキングスラリーの原液)の場合、コロイダルシリカの濃度(含有量)は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、研磨用組成物の総質量に対して、30質量%以下であることが適当であり、25質量%以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液、ワーキングスラリーの原液)の場合、コロイダルシリカの濃度(含有量)は、研磨用組成物の総質量に対して、好ましくは1質量%を超え、より好ましくは2質量%以上である。
【0036】
なお、研磨用組成物が2種以上のコロイダルシリカを含む場合、コロイダルシリカの濃度(含有量)は、これらの合計量を意味する。
【0037】
本発明に係る研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、コロイダルシリカ以外の他の砥粒をさらに含んでもよい。このような他の砥粒は、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。当該他の砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、当該他の砥粒は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0038】
ただし、当該他の砥粒の濃度(含有量)は、コロイダルシリカと他の砥粒との合計質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。最も好ましい形態は、他の砥粒の含有量が0質量%であること、すなわちコロイダルシリカ以外の他の砥粒を含まない形態である。
【0039】
[ハロゲンを含まない無機塩]
本発明に係る研磨用組成物は、ハロゲンを含まない無機塩(以下、単に「無機塩」とも称する)を含有する。上述したように該無機塩に含まれるアニオンの働きにより、研磨済研磨対象物の表面上の欠陥が低減すると考えられる。
【0040】
ハロゲンを含まない無機塩としては、例えば、以下に示すカチオンとアニオンとからなる無機塩が挙げられる。カチオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン等の第2族金属(アルカリ土類金属)イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオン等が挙げられる。アニオンとしては、例えば、オキソ酸イオン(ホウ酸イオン、炭酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、メタケイ酸イオン、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、ホスホン酸イオン、ホスホン酸一水素イオン、ホスフィン酸イオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、クロム酸イオン、ニクロム酸イオン、過マンガン酸イオン等)、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン、スルファミン酸イオン等が挙げられる。
【0041】
無機カチオンと無機アニオンとからなる無機塩のさらに具体的な例としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、チオシアン酸リチウム等のリチウム塩;炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、チオシアン酸カルシウム等のカルシウム塩、硝酸鉄、チオシアン酸鉄等の鉄塩;硝酸カリウム、硫酸カリウム、チオシアン酸カリウム、スルファミン酸カリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カリウム、ホスホン酸一水素カリウム等のカリウム塩;硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム等のナトリウム塩;硝酸亜鉛、チオシアン酸亜鉛等の亜鉛塩;硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、チオシアン酸マグネシウム等のマグネシウム塩;硝酸ストロンチウム、チオシアン酸ストロンチウム等のストロンチウム塩;硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一水素アンモニウム、ホスホン酸アンモニウム、ホスホン酸一水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、チオシアン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム等が挙げられる。これら無機塩は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。また、該無機塩は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0042】
これらの中でも、本発明の効果がより発揮されるという観点から、カチオンがカリウムイオンまたはアンモニウムイオンであり、アニオンがオキソ酸イオンまたはチオシアン酸イオンである無機塩が好ましい。さらに、該無機塩は、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カリウム、スルファミン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ホスホン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一水素アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カリウム、ホスホン酸一水素アンモニウム、ホスホン酸カリウム、およびホスホン酸一水素カリウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0043】
<パラメータA>
本発明に係る研磨用組成物において、無機塩のアニオンの価数(単位:価)と研磨用組成物中の無機機塩のアニオンの濃度(単位:mM)との積(パラメータA)が57以上である。当該パラメータAが57未満の場合、研磨済研磨対象物の表面上の残渣(好ましくは有機物残渣)が増大する。パラメータAは、59以上であってもよく、60以上であってもよく、63以上であってもよく、65以上、68以上、70以上、75以上、80以上、85以上、または90以上であってもよい。パラメータAの上限値は特に制限されないが、通常300以下であり、280以下、260以下、250以下、230以下、200以下、180以下、または150以下であってもよい。
【0044】
≪パラメータAの算出方法≫
本発明において、パラメータAは以下のようにして算出する。
【0045】
無機塩に含まれるアニオン(共役塩基)は、水溶液中において電離し平衡状態となり(電離平衡)、複数のイオン種の形態をとる。
【0046】
<各イオン種の存在比の計算方法>
硫酸イオンを例により説明する。硫酸イオンは、水溶液中でイオン化していない状態(0価、H2SO4)、1価のイオン(HSO4
-)、および2価のイオン(SO4
2-)の形態をとることができる。この0価の存在比α0、1価のイオンの存在比α1、および2価のイオンの存在比α2は、水溶液のpHと、硫酸のpKa1、pKa2とから求めることができる。具体的には、α0、α1、およびα2は、以下の式から算出される。
【0047】
【0048】
ここで、Ka1=10-pKa1、Ka2=10-pKa2、[H+]=10-pHである。
【0049】
例えば、pH2の水溶液中であれば、硫酸イオンの各イオン種の存在比は、硫酸イオンのpKa1=-10、pKa2=2.01であることから、
α0=[(10(-2)]2/[(10-2)2+(1010)×(10-2)+(1010)×(10-2.01)]=0.00
α1=[(1010)×(10-2)]/[(10-2)2+(1010)×(10-2)+(1010)×(10-2.01)]=0.506
α2=[(1010)×(10-2.01)]/[(10-2)2+(1010)×(10-2))+(1010)×(10-2.01)]=0.494
となり、1価のイオン(HSO4
-)の存在比α1が0.506であり、2価のイオン(SO4
2-)の存在比α2が0.494であることがわかる。
【0050】
本明細書において、実際の計算でのpHは、研磨用組成物のpHを使用する。また、無機塩中のアニオン種のpKaは、ACD/Labs社製のpKa計算ソフトウェア、ACD/pKaから得られる値を採用する。
【0051】
<アニオンの価数について>
本明細書においては、無機塩のアニオンの価数Tは形式上の価数ではなく、(形式上の価数)×(その価数のイオン種の存在比)で表したものである。多価イオンでは、イオン種ごとに計算した(形式上の価数)×(その価数のイオン種の存在比)の総和を採用する。
【0052】
例えば、pH2の水溶液中に存在する硫酸イオンの場合、以下の式で算出される:
T=0×α0+1×α1+2×α2
上記で計算されたそれぞれの値を代入すると、
T=0×0+1×0.506+2×0.494=1.49(小数点3位以下は四捨五入)
となる。
【0053】
形式上の価数ではなく、形式上の価数と存在比との積を無機塩のアニオンの価数として採用する理由は、研磨用組成物のpHによって、無機塩から生成するアニオン種の割合が異なるためである。本発明においては、無機塩のアニオンがポリシリコンの表面上およびポリシリコン上の欠陥となる残渣(パーティクル残渣、有機物残渣など)の両者に吸着されると考えられる。これにより、ポリシリコンの表面および残渣の両方を静電的に負に帯電させ、静電反発力を発生させることで、残渣がポリシリコン表面に付着し欠陥となることを防いでいると考えられる。そのため、アニオンのイオン種の内、どの価数が多く存在しているかが重要となる。よって、アニオンの価数ごとに存在比を算出し、形式上の価数との積をとることで、設計されたpHにおいて、どのアニオン種がポリシリコンや残渣を負に帯電させる能力が高いのかを、より正確に表現することができる。
【0054】
アニオン種によっては、3価のイオンが生成する場合がある。3価のイオンの存在比α3は、研磨用組成物のpHと、アニオン種のpKa1、pKa2、pKa3とから求めることができる。具体的には、α3は以下の式で求められる。
【0055】
【0056】
ここで、Ka1=10-pKa1、Ka2=10-pKa2、Ka3=10-pKa3、[H+]=10-pHである。α3を考慮したアニオンの価数Tは、
T=0×α0+1×α1+2×α2+3×α3
で求められる。
【0057】
<アニオンの価数×研磨用組成物中のアニオンの濃度(パラメータA)について>
アニオンの価数は、研磨用組成物のpH条件において、アニオン種がポリシリコンや、パーティクル残渣や有機物残渣等の残渣に、どれほどの静電力を与えられるかを示す指標であると言える。
【0058】
さらに、アニオンの濃度もポリシリコンおよび残渣の表面電位の制御に関係するため、アニオンの価数と研磨用組成物中に含まれるアニオンの濃度との積(パラメータA)を算出することにより、研磨用組成物全体として、どれほどの静電反発力をポリシリコン-残渣間に付与できるかを表現することができる。
【0059】
例えば、pH2の条件で、硫酸アンモニウムを100mM含む場合、パラメータAを算出すると、
(pH2における硫酸イオンの価数T)×(無機塩に含まれるアニオンの濃度)
=1.49×100mM=149[価・mM](小数点以下は四捨五入)
となる。本発明においては、当該パラメータAが57以上であれば、研磨済研磨対象物上の残渣(好ましくは有機物残渣)が低減する効果が得られる。
【0060】
研磨用組成物中の無機塩の濃度(含有量)は、上記のパラメータAの値を満たす限り、特に制限されない。そのまま研磨液として研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物の場合には、研磨用組成物中の無機塩の濃度(含有量)の下限は、研磨用組成物の総質量に対して、0.3質量%以上であることが好ましく、0.4質量%以上であることがより好ましく、0.45質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましい。また、研磨用組成物中の無機塩の濃度(含有量)の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、3.0質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることがさらに好ましく、1.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0061】
すなわち、無機塩の濃度(含有量)は、研磨用組成物の総質量に対して、0.3質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以上2.5質量%以下であることがより好ましく、0.45質量%以上2.0質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0062】
なお、研磨用組成物が2種以上の無機塩を含む場合、無機塩の濃度(含有量)は、これらの合計量を意味する。
【0063】
[水溶性高分子]
本発明に係る研磨用組成物は、水溶性高分子を含む。水溶性高分子は、特に制限されず、ノニオン性水溶性高分子、アニオン性水溶性高分子、カチオン性水溶性高分子、両性水溶性高分子のいずれも使用可能である。水溶性高分子は、1種単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。また、水溶性高分子は市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0064】
本明細書中、「水溶性」とは、水(25℃)に対する溶解度が1g/100mL以上であることを意味し、「高分子」とは、重量平均分子量(Mw)が100以上である(共)重合体をいう。なお、重量平均分子量(Mw)は、カタログ値であってもよく、また、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することもできる。GPCによって測定できない場合は、分子式から算出した分子量を水溶性高分子の重量平均分子量として採用することができる。
【0065】
本発明の効果をより向上させるという観点から、本発明に係る水溶性高分子は、ポリシリコンの表面に吸着し、該表面の濡れ性を疎水性から親水性に変化させる作用を有する第1の水溶性高分子を含むことが好ましい。かような第1の水溶性高分子により、研磨済研磨対象物表面への残渣の再付着を防止することができる。
【0066】
また、本発明に係る水溶性高分子は、ポリシリコンの研磨速度を抑制する作用を有する第2の水溶性高分子を含むことが好ましい。かような第2の水溶性高分子は、ポリシリコンの表面に吸着して、保護膜を形成することができ、コロイダルシリカによる機械的な研磨作用を阻害する効果を有する。
【0067】
<第1の水溶性高分子>
本発明に係る研磨用組成物に含まれ得る第1の水溶性高分子は、ポリシリコンの表面に吸着し、ポリシリコン表面の濡れ性を疎水性から親水性に変化させる効果を有する。本発明で用いられる水溶性高分子としては、上記効果を有するものであれば、特に制限されないが、分子中に、ノニオン基、アニオン基、およびカチオン基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するものを使用することができる。水溶性高分子は、例えば分子中に、アルコール性水酸基、カルボキシ基、アシルオキシ基、スルホ基、第四級アンモニウム構造、複素環構造、ビニル構造を含むものが挙げられる。本願効果をより得やすいという観点から、第1の水溶性高分子は、側鎖にアルコール性水酸基を有する水溶性高分子であることが好ましい。
【0068】
側鎖にアルコール性水酸基を有する水溶性高分子としては、このような構造のものであれば特に制限されないが、ビニルアルコール単位(-CH2-CH(OH)-により表される構造部分;以下「VA単位」ともいう)を構造内に含む化合物が好ましい。
【0069】
VA単位を構造内に含む化合物は、全繰り返し単位が実質的にVA単位から構成されていてもよい。また、VA単位を構造内に含む化合物は、VA単位に加え、非ビニルアルコール単位(ビニルアルコール以外のモノマーに由来する構成単位、以下「非VA単位」ともいう)をさらに含む化合物であってもよい。非VA単位としては、特に制限されず、例えば、エチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、2-ブテンジオール等に由来する構成単位が挙げられる。ビニルアルコールに由来する構成単位を含むポリマーは、非VA単位を含む場合、1種類の非VA単位のみを含んでもよく、2種類以上の非VA単位を含んでもよい。VA単位を構造内に含む化合物において、全繰り返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、特に制限されないが、好ましくは50%以上であり、より好ましくは65%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、特に好ましくは75%以上である(上限100%)。
【0070】
側鎖にアルコール性水酸基を有する水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体(側鎖にアルコール性水酸基を有するポリビニルアルコール誘導体)、ビニルアルコールと他のモノマーとの共重合体(側鎖にアルコール性水酸基を有する、ビニルアルコールと他のモノマーとの共重合体)、および該共重合体の誘導体(側鎖中にアルコール性水酸基を有するビニルアルコールと他のモノマーとの共重合体の誘導体)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0071】
ポリビニルアルコールのけん化度は、特に制限されないが、50モル%以上であることが好ましく、65モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましく、75モル%以上であることが特に好ましい(上限100モル%)。
【0072】
ポリビニルアルコール誘導体の例としては、例えば、変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。変性ポリビニルアルコールは、非VA単位として、ビニルアルコール単位のアルコール性水酸基の一部を他の官能基に置換した構造(以下、「変性VA単位」とも称する)を含む。
【0073】
変性ポリビニルアルコールとしては、特に制限されないが、例えば、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、リン酸変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、エポキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、ニトリル変性ポリビニルアルコール、ピロリドン変性ポリビニルアルコール、シリコーン変性ポリビニルアルコール、アミノ変性ポリビニルアルコール、4級アミノ変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。また、変性ポリビニルアルコールとしては、特に制限されないが、例えば、ポリビニルアルコールを環状アセタール化することにより得られる化合物(例えば、ポリビニルブチラール、ポリビニルプロピラール、ポリビニルエチラール、ポリビニルメチラール等)等が挙げられる。
【0074】
ビニルアルコールと他のモノマーとの共重合体の誘導体としては、特に制限されないが、例えば、VA単位および変性VA単位に加えて、例えば、エチレン由来の構成単位、長鎖アルキル基を有するビニルエーテル由来の構成単位、アクリロイル基およびメタクリロイル基のうちの少なくとも一方を有する化合物由来の構成単位等の構成単位をさらに含む化合物等が挙げられる。
【0075】
側鎖にアルコール性水酸基を有する水溶性高分子として、多糖類も好ましく用いられる。多糖類の例としては、デキストリン、マルトデキストリン、イソマルトデキストリン(分岐マルトデキストリン)、シクロデキストリン、分岐シクロデキストリン、焙焼デキストリン、高分子デキストリン、難消化性デキストリン、イヌリン、イヌリン分解物、アガベイヌリン、LMペクチン、HMペクチン、プルラン、グアーガム、グアーガム分解物、キサンタンガム、アラビアガム、ガティガム、ネイティブジェランガム、脱アシル化ジェランガム、ローカストビーンガム、タラガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、コンニャクマンナン、カードラン、カラギーナン、カラヤガム、カシアガム、タマリンドシードガム、トラガントガム、フェヌグリークガム、サイリウムシードガム、スクシノグリカン、ラムザンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、PGA(アルギン酸プロピレングリコールエステル)、大豆多糖類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、寒天、フコイダン、ポルフィラン、ラミナラン、澱粉、レジスタントスターチ、イソマルツロース、ポリデキストロース、難消化性グルカン、アラビノガラクタン等が挙げられる。
【0076】
これらのなかでも、第1の水溶性高分子は、ポリビニルアルコールおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体の少なくとも一方がより好ましく、ブテンジオール-ビニルアルコール共重合体がさらに好ましい。
【0077】
第1の水溶性高分子の重量平均分子量は、特に制限されないが、1,000以上であることが好ましく、3,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがさらに好ましい。また、第1の水溶性高分子の重量平均分子量は、特に制限されないが、1,000,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、50,000以下であることがさらに好ましい。すなわち、第1の水溶性高分子の重量平均分子量は、1,000以上1,000,000以下であることが好ましく、3,000以上100,000以下であることが好ましく、5,000以上50,000以下であることがさらに好ましい。
【0078】
第1の水溶性高分子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、第1の水溶性高分子は、市販品を使用してもよく、合成品を使用してもよい。
【0079】
研磨用組成物中の第1の水溶性高分子の濃度(含有量)の下限は、研磨対象物の親水性をより高めるとの観点から、研磨用組成物の総質量に対して、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.015質量%以上であることがさらに好ましく、0.02質量%以上であることが特に好ましい。また、研磨用組成物中の第1の水溶性高分子の濃度(含有量)の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、1質量%以下であることが好ましく、0.8質量以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以下であることが特に好ましい。すなわち、研磨用組成物中の第1の水溶性高分子の濃度(含有量)は、研磨用組成物の総質量に対して、0.005質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.8質量%以下であることがより好ましく、0.015質量%以上0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.02質量%以上0.3質量%以下であることが特に好ましい。
【0080】
なお、研磨用組成物が2種以上の第1の水溶性高分子を含む場合、第1の水溶性高分子の濃度(含有量)は、これらの合計量を意味する。
【0081】
<第2の水溶性高分子>
本発明で用いられる第2の水溶性高分子は、上記効果を有するものであれば、特に制限されないが、ノニオン性化合物またはアニオン性化合物が挙げられ、中でもポリオキシアルキレン鎖を有する水溶性高分子が好ましい。また、第2の水溶性高分子は、ポリシリコン以外への静電的な吸着を防ぐという観点から、好ましくはノニオン性化合物であることがより好ましい。
【0082】
なお、側鎖にアルコール性水酸基を有しており、かつポリオキシアルキレン鎖を有する水溶性高分子は、第2の水溶性高分子に分類するものとする。
【0083】
第2の水溶性高分子の例としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリペンチレングリコール、ポリヘキシレングリコール、ポリヘプチレングリコール、ポリオクチレングリコール、ポリノニレングリコール、ポリデシレングリコール、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(POEノニルフェニルエーテル);ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリテトラメチレングリコールから選択される少なくとも2種のブロック共重合体またはランダム共重合体;エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとブチレンオキサイドのランダム共重合体やブロック共重合体;ポリグリセリン、ポリエチレンオキサイド-ポリビニルアルコールグラフト共重合体;等が挙げられる。なかでも、第2の水溶性高分子は、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールの少なくとも一方がより好ましい。
【0084】
第2の水溶性高分子の重量平均分子量は、特に制限されないが、100以上であることが好ましく、200以上であることが好ましく、300以上であることがさらに好ましい。また、第2の水溶性高分子の重量平均分子量は、特に制限されないが、10,000以下であることが好ましく、5,000以下であることがより好ましく、1,000以下であることがさらに好ましい。すなわち、第2の水溶性高分子の重量平均分子量は、100以上10,000以下であることが好ましく、200以上5,000以下であることが好ましく、300以上1,000以下であることがさらに好ましい。
【0085】
第2の水溶性高分子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、第2の水溶性高分子は、市販品を使用してもよく、合成品を使用してもよい。
【0086】
研磨用組成物中の第2の水溶性高分子の濃度(含有量)の下限は、研磨用組成物の総質量に対して、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましく、0.2質量%以上であることが特に好ましい。また、研磨用組成物中の第2の水溶性高分子の濃度(含有量)の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%未満であることが特に好ましい。すなわち、研磨用組成物中の第2の水溶性高分子の濃度(含有量)は、研磨用組成物の総質量に対して、0.05質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以上1質量%以下であることがさらに好ましく、0.2質量%以上1質量%未満であることが特に好ましい。
【0087】
なお、研磨用組成物が2種以上の第2の水溶性高分子を含む場合、第2の水溶性高分子の濃度(含有量)は、これらの合計量を意味する。
【0088】
[pHおよびpH調整剤]
本発明に係る研磨用組成物のpHは、特に制限されないが、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。また、当該pHは、7.0以下であることが好ましく、5.0未満であることがより好ましく、4.5以下であることがさらに好ましく、4.0以下であることが特に好ましい。すなわち、本発明に係る研磨用組成物のpHは、1.0以上7.0以下であることが好ましく、1.0以上5.0未満であることがより好ましく、1.5以上4.5以下であることがさらに好ましく、2.0以上4.0以下であることが特に好ましい。
【0089】
本発明に係る研磨用組成物は、pHを調整するためのpH調整剤を含んでもよい。pH調整剤は酸および塩基のいずれであってもよく、また、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。pH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0090】
pH調整剤として使用できる酸の具体例としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、およびフェノキシ酢酸等の有機酸が挙げられる。
【0091】
pH調整剤として使用できる塩基としては、脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン、水酸化第四アンモニウム等の有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、第2族元素の水酸化物、およびアンモニア等が挙げられる。
【0092】
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。また、研磨用組成物のpHは、例えばpHメーターにより測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0093】
[分散媒]
本発明に係る研磨用組成物は、分散媒をさらに含むことが好ましい。分散媒の例としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物等が例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明のより好ましい形態によると、分散媒は水を含む。本発明のさらに好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。最も好ましくは、分散媒は水である。
【0094】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルターを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0095】
[研磨用組成物の電気伝導度]
本発明に係る研磨用組成物の電気伝導度(EC)は、特に制限されないが、1mS/cm以上であることが好ましく、3mS/cm以上であることがより好ましい。また、本発明に係る研磨用組成物の電気伝導度(EC)は、20mS/cm以下であることが好ましく、15mS/cm以下であることがより好ましい。すなわち、本発明に係る研磨用組成物の電気伝導度(EC)は、1mS/cm以上20mS/cm以下であることが好ましく、3mS/cm以上15mS/cm以下であることがより好ましい。研磨用組成物の電気伝導度(EC)がこのような範囲であれば、酸化ケイ素および窒化ケイ素の研磨速度を高く維持できる。また、コロイダルシリカ同士の反発を適切に調整し、安定性を確保することができる。研磨用組成物の電気伝導度は、無機塩、pH調整剤等の種類および量等により調整することができる。研磨用組成物の電気伝導度(EC)は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0096】
[他の成分]
本発明の研磨用組成物は、必要に応じて、錯化剤、金属防食剤、防腐剤、防カビ剤、酸化剤、還元剤、界面活性剤等の他の成分をさらに含んでもよい。以下、好ましい成分である、防腐剤および防カビ剤について説明する。
【0097】
(防腐剤および防カビ剤)
本発明に係る研磨用組成物に添加し得る防腐剤および防カビ剤としては、例えば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンや5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。これら防腐剤および防カビ剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0098】
[研磨用組成物の形態]
本発明に係る研磨用組成物は、典型的には研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物に供給されて、その研磨対象物の研磨に用いられる。本発明に係る研磨用組成物は、例えば、希釈(典型的には、水により希釈)して研磨液として使用されるものでもよく、そのまま研磨液として使用されるものでもよい。すなわち、本発明に係る研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨に用いられる濃縮液(ワーキングスラリーの原液)との双方が包含される。上記濃縮液の濃縮倍率は、例えば、体積基準で2倍以上100倍以下程度とすることができ、通常は3倍以上50倍以下程度が適当である。
【0099】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、特に制限されず、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン)、n型またはp型不純物がドープされた多結晶シリコン、非晶質シリコン(アモルファスシリコン)、n型またはp型不純物がドープされた非晶質シリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭窒化ケイ素(SiCN)、金属、SiGe、炭素含有材料等が挙げられる。
【0100】
酸化ケイ素を含む研磨対象物の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素膜(以下、単に「TEOS」「TEOS膜」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0101】
金属としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。
【0102】
炭素含有材料としては、例えば、アモルファス炭素(アモルファスカーボン)、スピンオンカーボン(SOC)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、ナノ結晶ダイヤモンド、グラフェン;低誘電率(Low-k)材料であるSiOC(SiO2にCをドープした、炭素含有酸化ケイ素)、炭化ケイ素;等が挙げられる。炭素含有材料を含む膜は、CVD、PVD、スピンコート法等によって形成することができる。
【0103】
研磨対象物は、市販品を用いてもよいし、または公知の方法により製造してもよい。
【0104】
これらの中でも、酸化ケイ素および窒化ケイ素の少なくとも一方と、ポリシリコンと、を含む研磨対象物が好ましい。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、研磨用組成物は、酸化ケイ素および窒化ケイ素の少なくとも一方と、ポリシリコンと、を含む研磨対象物の研磨に用いられる。
【0105】
[研磨用組成物の製造方法]
本実施形態に係る研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、コロイダルシリカ、無機塩、水溶性高分子、および必要に応じて添加される他の添加剤を攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上記の通りである。
【0106】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0107】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
上記のように、本実施形態に係る研磨用組成物は、酸化ケイ素および窒化ケイ素を有する研磨対象物の研磨に特に好適に用いられる。よって、本発明は、酸化ケイ素および窒化ケイ素の少なくとも一方と、ポリシリコンと、を含む研磨対象物を、本実施形態に係る研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。また、本発明は、酸化ケイ素および窒化ケイ素の少なくとも一方と、ポリシリコンと、を含む半導体基板を、上記研磨方法により研磨することを有する、半導体基板の製造方法をも提供する。
【0108】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモーター等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0109】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0110】
研磨条件については、例えば、研磨定盤(プラテン)およびキャリア(ヘッド)の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.33s-1)以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.45kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。
【0111】
研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明に係る研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0112】
本実施形態に係る研磨用組成物は、一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明に係る研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水等の希釈液を使って、例えば3倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【0113】
[選択比]
上記したように、本発明に係る研磨用組成物は、ポリシリコンの研磨速度に対する酸化ケイ素または窒化ケイ素の研磨速度の比(選択比)が高い。
【0114】
本発明において、ポリシリコンの研磨速度に対する酸化ケイ素の研磨速度の比(酸化ケイ素/ポリシリコン)は、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、例えば、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、または10以上であってもよい。また、ポリシリコンの研磨速度に対する窒化ケイ素の研磨速度の比(窒化ケイ素/ポリシリコン)は、2以上であることが好ましく、3以上であることが好ましく、例えば、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、または10以上であってもよい。
【0115】
[残渣数]
上記したように、本発明に係る研磨用組成物は、研磨済研磨対象物の表面上の残渣(好ましくは有機物残渣)の数を低減することができる。該残渣の数は、100,000個以下であることが好ましく、80,000個以下であることがより好ましく、50,000個以下であることがさらに好ましく、10,000個以下であることがよりさらに好ましく、5,000個以下であることが特に好ましい(下限0個)。
【0116】
[スクラッチ]
本発明に係る研磨用組成物は、研磨済研磨対象物の表面上のスクラッチの数を低減することができる。例えば、酸化ケイ素膜を有する研磨済研磨対象物状のスクラッチの数は、300個以下であることが好ましく、200個以下であることがより好ましく、100個以下であることがさらに好ましく、50個以下であることがよりさらに好ましく、30個以下であることが特に好ましい(下限0個)。なお、当該スクラッチの数は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0117】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0118】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
1.コロイダルシリカと、ハロゲンを含まない無機塩と、水溶性高分子と、を含み、
前記無機塩のアニオンの価数(単位:価)と研磨用組成物中の前記アニオンの濃度(単位:mM)との積が57以上である、研磨用組成物;
2.前記コロイダルシリカは、アニオン変性コロイダルシリカである、上記1.に記載の研磨用組成物;
3.pHが、1.0以上5.0未満である、上記1.または2.に記載の研磨用組成物;
4.前記無機塩のアニオンの価数(単位:価)と前記研磨用組成物中の前記アニオンの濃度(単位:mM)との積が300以下である、上記1.~3.のいずれかに記載の研磨用組成物;
5.前記無機塩のカチオンは、カリウムイオンまたはアンモニウムイオンであり、
前記無機塩のアニオンは、オキソ酸イオンまたはチオシアン酸イオンである、上記1.~4.のいずれかに記載の研磨用組成物;
6.前記無機塩は、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カリウム、スルファミン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ホスホン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一水素アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カリウム、ホスホン酸一水素アンモニウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸一水素カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記1.~5.のいずれかに記載の研磨用組成物;
7.前記水溶性高分子は、第1の水溶性高分子および第2の水溶性高分子を含み、
前記第1の水溶性高分子は、側鎖にアルコール性水酸基を有する水溶性高分子であり、
前記第2の水溶性高分子は、ポリオキシアルキレン鎖を有する水溶性高分子である、上記1.~6.のいずれかに記載の研磨用組成物;
8.前記第1の水溶性高分子は、ポリビニルアルコールおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体の少なくとも一方であり、
前記第2の水溶性高分子は、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールの少なくとも一方である、上記7.に記載の研磨用組成物;
9.前記第1の水溶性高分子は、ブテンジオール-ビニルアルコール共重合体である、上記7.または8.に記載の研磨用組成物:
10.前記研磨用組成物中の前記第2の水溶性高分子の濃度は、前記研磨用組成物の総質量に対して、0.2質量%以上1質量%未満である、上記7.~9.のいずれかに記載の研磨用組成物:
11.分散媒をさらに含む、上記1.~10.のいずれかに記載の研磨用組成物;
12.酸化ケイ素および窒化ケイ素の少なくとも一方と、ポリシリコンと、を含む研磨対象物の研磨に用いられる、上記1.~11.のいずれかに記載の研磨用組成物;
13.上記1.~12.のいずれかに記載の研磨用組成物を用いて、酸化ケイ素および窒化ケイ素の少なくとも一方と、ポリシリコンと、を含む研磨対象物を研磨することを含む、研磨方法;
14.酸化ケイ素および窒化ケイ素の少なくとも一方と、ポリシリコンと、を含む半導体基板を上記13.に記載の研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法。
【実施例0119】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件下で行われた。なお、各物性は以下のようにして測定を行った。
【0120】
<砥粒の平均二次粒子径>
砥粒の平均二次粒子径は、動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151(日機装株式会社製)により、体積平均粒子径(体積基準の算術平均径;Mv)として測定した。
【0121】
<研磨用組成物のpH>
研磨用組成物のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製、型番:LAQUA)により測定した。
【0122】
<水溶性高分子の重量平均分子量>
水溶性高分子の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、下記の測定条件により測定した。
【0123】
(GPC測定条件)
測定装置:HLC-8320GPC(東ソー株式会社製)
サンプル濃度:0.01質量%
カラム:TSKgel GMPWXL
検出器:示差屈折計
溶離液:10mMの臭化リチウムをN,N-ジメチルホルムアミドに溶かした溶液
流速:1mL/分
測定温度:40℃
分子量換算:ポリエチレングリコール換算
サンプル注入量:200μL。
【0124】
<研磨用組成物の電気伝導度>
研磨用組成物の電気伝導度(EC)は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71 LAQUA(登録商標))により測定した。
【0125】
<スルホン酸固定化コロイダルシリカ>
研磨用組成物に含まれるスルホン酸固定化コロイダルシリカは、平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径70nm、平均会合度2のコロイダルシリカを用いて、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で作製したものを準備した。
【0126】
(実施例1)
<研磨用組成物の調製>
分散媒としての水に対して、スルホン酸固定化コロイダルシリカ(平均二次粒子径:70nm、繭型)を、最終濃度が3質量%となるように加えた。さらに、ポリビニルアルコール(PVA、重量平均分子量(Mw):10,000、日本酢ビ・ポバール株式会社製、品名:JMR-10HH)を最終濃度が0.075質量%となるように、ポリプロピレングリコール(PPG、重量平均分子量(Mw):400、三洋化成工業株式会社製)を最終濃度が0.6質量%となるように、および無機塩として硫酸アンモニウム(富山薬品工業株式会社製)を最終濃度が35.50mM(0.47質量%)となるように、それぞれ加え、攪拌混合を行った(攪拌温度:25℃、攪拌時間:20分)。研磨用組成物のpHは、硫酸を用いてpH2.50に調整し、研磨用組成物1を完成させた。
【0127】
(実施例2)
硫酸アンモニウムを、組成物中の最終濃度が47.00mM(0.62質量%)となるように加えたこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物2を調製した。
【0128】
(実施例3)
硫酸の代わりに、組成物のpHが2.10となるように硝酸を加えたこと以外は、実施例2と同様にして、研磨用組成物3を調製した。
【0129】
(実施例4~5)
硫酸アンモニウムの代わりに、硝酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用い、最終濃度が下記表1に記載のモル濃度となるように加え、さらに組成物のpHが2.50となるように硝酸を加えたこと以外は、実施例3と同様にして、研磨用組成物4~5を調製した。
【0130】
(実施例6)
硝酸アンモニウムの代わりに、硫酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用い、組成物中の最終濃度が35.50mM(0.62質量%)となるように加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物6を調製した。
【0131】
(実施例7)
硝酸アンモニウムの代わりに、硝酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用い、組成物中の最終濃度が71.00mM(0.72質量%)となるように加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物7を調製した。
【0132】
(実施例8)
硝酸アンモニウムの代わりに、チオシアン酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用い、組成物中の最終濃度が71.00mM(0.54質量%)となるように加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物8を調製した。
【0133】
(実施例9)
硝酸アンモニウムの代わりに、チオシアン酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用い、組成物中の最終濃度が71.00mM(0.69質量%)となるように加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物9を調製した。
【0134】
(実施例10)
硝酸アンモニウムの代わりに、スルファミン酸アンモニウム(アミド硫酸アンモニウム、東京化成工業株式会社製)を用い、組成物中の最終濃度が71.00mM(0.81質量%)となるように加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物10を調製した。
【0135】
(実施例11~12)
硝酸アンモニウムの代わりに、リン酸(ラサ工業株式会社製)とアンモニア(関東化学株式会社製)とを用い、組成物中のリン酸二水素アンモニウムとしての最終濃度が下記表1に記載のモル濃度となるようにそれぞれ加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物11~12を調製した。
【0136】
(実施例13~14)
硫酸アンモニウムの代わりに、ホスホン酸(関東化学株式会社製)とアンモニア(関東化学株式会社製)を用い、組成物中のホスホン酸一水素アンモニウムとしての最終濃度が下記表1に記載のモル濃度となるようにそれぞれ加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物13~14を調製した。
【0137】
(実施例15)
分散媒としての水に対して、スルホン酸固定化コロイダルシリカ(平均二次粒子径:70nm、繭型)を、最終濃度が2.3質量%となるように加えた。さらに、ブテンジオール-ビニルアルコール共重合体(BVOH、重合度:300、三菱ケミカル株式会社製、品名:ニチゴーGポリマー AZF8035W)を最終濃度が0.075質量%となるように、ポリプロピレングリコール(重量平均分子量:400、三洋化成工業株式会社製)を最終濃度が0.6質量%となるように、および無機塩として硫酸アンモニウム(富山薬品工業株式会社製)を最終濃度が38.14mM(0.50質量%)となるように、それぞれ加え、攪拌混合を行った(攪拌温度:25℃、攪拌時間:20分)。研磨用組成物のpHは、硝酸を用いてpH2.10に調整し、研磨用組成物15を調製した。
【0138】
(実施例16)
分散媒としての水に対して、スルホン酸固定化コロイダルシリカ(平均二次粒子径:70nm、繭型)を、最終濃度が2.3質量%となるように加えた。さらに、ポリビニルアルコール(PVA、重量平均分子量(Mw):10,000、日本酢ビ・ポバール株式会社製、品名:JMR-10HH)を最終濃度が0.075質量%となるように、ポリプロピレングリコール(PPG、重量平均分子量(Mw):400、三洋化成工業株式会社製)を最終濃度が0.6質量%となるように、および無機塩として硫酸アンモニウム(富山薬品工業株式会社製)を最終濃度が38.14mM(0.50質量%)となるように、それぞれ加え、攪拌混合を行った(攪拌温度:25℃、攪拌時間:20分)。研磨用組成物のpHは、硝酸を用いてpH2.10に調整し、研磨用組成物16を完成させた。
【0139】
(実施例17)
ポリプロピレングリコール(重量平均分子量:400、三洋化成工業株式会社製)を、最終濃度が0.05質量%となるように加えたこと以外は、実施例16と同様にして、研磨用組成物17を調製した。
【0140】
(実施例18)
ポリプロピレングリコール(重量平均分子量:400、三洋化成工業株式会社製)を、最終濃度が0.1質量%となるように加えたこと以外は、実施例16と同様にして、研磨用組成物18を調製した。
【0141】
(実施例19)
ポリプロピレングリコール(重量平均分子量:400、三洋化成工業株式会社製)を、最終濃度が0.15質量%となるように加えたこと以外は、実施例16と同様にして、研磨用組成物19を調製した。
【0142】
(実施例20)
ポリプロピレングリコール(重量平均分子量:400、三洋化成工業株式会社製)を、最終濃度が0.2質量%となるように加えたこと以外は、実施例16と同様にして、研磨用組成物20を調製した。
【0143】
(実施例21)
ポリプロピレングリコール(重量平均分子量:400、三洋化成工業株式会社製)を、最終濃度が0.4質量%となるように加えたこと以外は、実施例16と同様にして、研磨用組成物21を調製した。
【0144】
(比較例1)
無機塩を加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物比較1を調製した。
【0145】
(比較例2)
硫酸アンモニウムを、組成物中の最終濃度が23.50mM(0.31質量%)となるように加えたこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物比較2を調製した。
【0146】
(比較例3)
無機塩を加えなかったこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物比較3を調製した。
【0147】
(比較例4)
硝酸アンモニウムを、組成物中の最終濃度が47.00mM(0.38質量%)となるように加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物比較4を調製した。
【0148】
(比較例5)
硝酸アンモニウムの代わりに、クエン酸(扶桑化学工業株式会社製)とアンモニア(関東化学株式会社製)とを用い、組成物中のクエン酸アンモニウムとしての最終濃度が71.00mM(0.49質量%)となるようにそれぞれ加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物比較5を調製した。
【0149】
(比較例6)
硝酸アンモニウムの代わりに、リン酸(ラサ工業株式会社製)とアンモニア(関東化学株式会社製)とを用い、組成物中のリン酸二水素アンモニウムとしての最終濃度が71.00mM(0.82質量%)となるようにそれぞれ加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物比較6を調製した。
【0150】
(比較例7)
硫酸アンモニウムの代わりに、塩酸(関東化学株式会社製)とアンモニア(関東化学株式会社製)とを用い、組成物中の塩化アンモニウムとしての最終濃度が71.00mM(0.37質量%)となるように加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物比較7を調製した。
【0151】
(比較例8)
硫酸アンモニウムの代わりに、(-)-10-カンファースルホン酸(東京化成工業株式会社製)とアンモニア(関東化学株式会社製)とを用い、組成物中の10-カンファースルホン酸アンモニウムとしての最終濃度が71.00mM(1.77質量%)となるようにそれぞれ加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物比較8を調製した。
【0152】
実施例および比較例の研磨用組成物の構成を、下記表1および表2に示す。なお、下記表2中の「-」は、その成分を含まないことを意味する。
【0153】
【0154】
【0155】
<パラメータAの算出>
各実施例および各比較例のパラメータAは、下記のようにして算出した。
【0156】
無機塩中のアニオン種のpKaは、ACD/Labs社製のpKa計算ソフトウェア、ACD/pKaから得られる値を用いた。
【0157】
<各イオン種の存在比の計算方法>
アニオンの各イオン種の存在比α0(イオン化していないものの存在比)、α1(1価のイオンの存在比)、α2(2価のイオンの存在比)、およびα3(3価のイオンの存在比)は、以下の式により算出した。
【0158】
【0159】
ここで、Ka1=10-pKa1、Ka2=10-pKa2、Ka3=10-pKa3、[H+]=10-pHである。
【0160】
無機塩のアニオン種の価数Tは、イオン種ごとに計算した(形式上の価数)×(その価数のイオン種の存在比)の総和を算出し、これを採用した:
T=0×α0+1×α1+2×α2+3×α3
算出されたT(単位:価)と無機塩のアニオンの濃度(単位:mM)との積を算出し、パラメータAの値とした。
【0161】
各実施例および各比較例のパラメータAの計算根拠となる値、およびパラメータAの値を下記表3および表4に示す。
【0162】
【0163】
【0164】
[評価]
研磨対象物として、シリコンウェーハ(300mm、ブランケットウェーハ)の表面に厚さ1000Åのポリシリコン膜、厚さ1000Åの酸化ケイ素膜、または厚さ1000Åの窒化ケイ素膜を形成したものを、各研磨対象物とした(下記表2中では、それぞれ、Poly-Si、SiO2、Si3N4、と表している)。なお、酸化ケイ素膜はTEOS(オルトケイ酸テトラエチル)由来である。各研磨対象物を、下記の条件により研磨した:
<研磨条件>
研磨機:300mm研磨機(株式会社荏原製作所製、型番:F-REX300E)
研磨パッド:ポリウレタン製パッド(ニッタ・デュポン株式会社製、IC1000)
圧力:2.0psi(13.79kPa)
研磨定盤(プラテン)回転数:30rpm
キャリア(ヘッド)回転数:31rpm
研磨用組成物の流量:200ml/min
研磨時間:60秒間。
【0165】
<研磨速度、選択比>
研磨対象物の研磨速度(研磨レート)は、下記の式により算出した。
【0166】
【0167】
研磨前後の研磨対象物の膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(ケーエルエー・テンコール株式会社製、型番:A-SET F5X)により求め、その差を研磨時間で除することにより研磨速度を算出した。また、ポリシリコン膜の研磨速度に対する酸化ケイ素膜の研磨速度の比(SiO2/poly-si)、およびポリシリコン膜の研磨速度に対する窒化ケイ素膜の研磨速度の比(Si3N4/poly-si)、すなわち選択比をそれぞれ算出した。
【0168】
<残渣数>
ケーエルエー・テンコール株式会社製、Surfscan(登録商標)SP-5を用いて、ポリシリコン膜を有する研磨済研磨対象物表面に残留する、0.07μm以上のサイズの残渣(ディフェクト)の総数を測定した。
【0169】
<スクラッチ>
ケーエルエー・テンコール株式会社製、Surfscan(登録商標)SP-5を用いて、酸化ケイ素膜を有する研磨済研磨対象物表面に発生した、0.05μm以上のサイズの欠陥(ディフェクト)の総数を測定した。その後、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、日立マルチパーパスSEM(Scanning Electron Microscope) RS6000 Inspagoを用いてすべての欠陥のSEM像を観察し、凹状の欠陥をスクラッチとして、個数をカウントした。
【0170】
研磨速度、選択比、残渣数、およびスクラッチの評価結果を、下記表5に示す。
【0171】
【0172】
上記表5から明らかなように、実施例の研磨用組成物を用いた場合、ポリシリコン膜の研磨速度に対する酸化ケイ素膜の研磨速度の比、およびポリシリコン膜の研磨速度に対する窒化ケイ素膜の研磨速度の比(選択比)が高く、かつ研磨済研磨対象物の表面上の残渣およびスクラッチが少なくなることが分かった。一方、比較例の研磨用組成物を用いた場合、研磨済研磨対象物の表面上の残渣が多くなることが分かった。
【0173】
また、実施例16~21を比較すると、ポリプロピレングリコールの濃度が高くなるほど、スクラッチの数が減少する傾向が見られた。
【0174】
なお、上記表5は、ポリシリコン膜を有する研磨対象物、酸化ケイ素膜を有する研磨対象物、および窒化ケイ素膜を有する研磨対象物、を別々に研磨して得られた結果である。しかしながら、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜の少なくとも一方と、ポリシリコン膜と、を共に有する研磨対象物を研磨した場合であっても、上記表5と同様の研磨速度、選択比、残渣数、およびスクラッチの結果が得られると推測される。