(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106978
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】研磨用組成物、該研磨用組成物を用いた研磨方法および該研磨用組成物を用いた金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20240801BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20240801BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240801BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550F
C09K3/14 550C
C09G1/02
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024007213
(22)【出願日】2024-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2023010768
(32)【優先日】2023-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023169153
(32)【優先日】2023-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森永 均
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄太
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和利
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友一
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158BA02
3C158BA04
3C158CA04
3C158CA05
3C158CA06
3C158CA07
3C158CB03
3C158CB05
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158ED03
3C158ED04
3C158ED08
3C158ED09
3C158ED12
3C158ED26
3C158ED28
(57)【要約】
【課題】キズを速やかに除去することができ、表面品質を悪くすること無く高い研磨レートを有する研磨用組成物を提供する。
【解決手段】モース硬度が8以上の砥粒と、分散媒と、を含有する研磨用組成物であって、前記砥粒は、細孔電気抵抗法によって測定される体積基準での粒度分布において粒径の異なる2以上の極大点を有する、研磨用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モース硬度が8以上の砥粒と、分散媒と、を含有する研磨用組成物であって、
前記砥粒は、細孔電気抵抗法によって測定される体積基準での粒度分布において粒径の異なる2以上の極大点を有する、研磨用組成物。
【請求項2】
前記砥粒は、前記粒径の異なる2以上の極大点のうち、最も小さい粒径(Dmin)と最も大きい粒径(Dmax)との比Dmin/Dmaxが0.1以上0.9以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記砥粒は、前記粒径の異なる2以上の極大点のうち、体積基準の度数が最も大きい粒径と2番目に大きい粒径とのうち、小粒径側の粒径(Ds)における体積基準の度数をVs、大粒径側の粒径(Dt)における体積基準の度数をVtとしたときに、Vs/Vtが3.5以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒は、前記粒径の異なる2以上の極大点のうち、最も小さい粒径(Dmin)における体積基準の度数をVmin、最も大きい粒径(Dmax)における体積基準の度数をVmaxとしたときに、Vmin/Vmaxが3.5以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記砥粒がダイヤモンドである、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記ダイヤモンドが多結晶ダイヤモンドである、請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記分散媒が、脂肪酸および油脂からなる群より選択される1種以上である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
界面活性剤および増粘剤からなる群から選択される1種以上の成分を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
前記増粘剤が、非晶質シリカである、請求項8に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
界面活性剤をさらに含み、前記界面活性剤が、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルである、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項11】
請求項1または2に記載の研磨用組成物を用いて3次元形状の金属を研磨する、研磨方法。
【請求項12】
請求項1または2に記載の研磨用組成物を用いて金型を研磨する工程を含む、金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、該研磨用組成物を用いた研磨方法および該研磨用組成物を用いた金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、ガラス、セラミック、樹脂、ダイヤモンド等の種々の部材は用途によって表面の平滑化が求められている。これら種々の部材の表面を平滑化するために、ダイヤモンド等のモース硬度の高い硬質砥粒を用いた研磨が行われている。例えば、プレス用、鍛造用、鋳造用、ダイカスト用、プラスチック用、ガラス用、ゴム用、粉末治金用等の金型として使用されている立体的構造(3次元形状)を有する金属は、切削加工後に、砥石およびサンドペーパーによる研磨、硬質砥粒(例えばダイヤモンド)のペーストによる仕上げの順で研磨されている。これにより、金属表面のキズを除去し、滑らかな表面に仕上げている。例えば、特許文献1には、オイルと、金属石鹸と、ダイヤモンド粒子とを含むダイヤモンドペーストが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、多くの企業が、製品ライフサイクルの短期化に伴い、製作期間の短縮や、激しい価格競争にさらされており、コスト改善の課題を抱えている。そうした背景において、これまでよりも研磨作業時間が短縮できるような研磨用組成物が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、キズを速やかに除去することができ、表面品質を悪くすること無く高い研磨レートを有する研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、モース硬度が8以上の砥粒と、分散媒と、を含有する研磨用組成物であって、前記砥粒は、細孔電気抵抗法によって測定される体積基準での粒度分布において粒径の異なる2以上の極大点を有する、研磨用組成物により上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、キズを速やかに除去することができ、表面品質を悪くすること無く高い研磨レートを有する研磨用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の研磨用組成物に含まれる砥粒の粒度分布の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。よって、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、使用方法および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。本明細書に記載される実施の形態は、任意に組み合わせることにより、他の実施の形態とすることができる。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0010】
<研磨用組成物>
本発明の一態様は、モース硬度が8以上の砥粒と、分散媒と、を含有し、前記砥粒は、細孔電気抵抗法によって測定される体積基準での粒度分布において粒径の異なる2以上の極大点を有する、研磨用組成物である。かような構成の研磨用組成物によれば、金属、半導体基板、ガラス、セラミック、樹脂、ダイヤ等の表面、中でも金属表面のキズを速やかに除去することができ、表面品質を悪くすること無く高い研磨レートで研磨対象物を研磨することができる。
【0011】
研磨用組成物において、砥粒は粒子の集合体として粒度分布を有して存在する。本発明者らは、この粒度分布において、特定の粒度分布が研磨レートおよび研磨表面に存在するキズの解消しやすさに大きく寄与することを見出した。具体的には、ブロードな粒度分布を有する砥粒(すなわち、細孔電気抵抗法によって測定される体積基準での粒度分布において粒径の異なる2以上の極大点を有する砥粒)を用いることにより、研磨レートおよびキズの除去性能が顕著に向上することを見出した。このメカニズムについて詳細は不明だが以下のように推測される。小粒径の粒子は、研磨表面において大きな粒子同士が並んだ場合に生じる隙間に入り込むことができる。本発明の研磨用組成物は、ブロードな粒度分布により小粒径の粒子を含有することにより、研磨表面において砥粒が上記のようなより密に充填された状態を形成していると推測される。これにより、砥粒は研磨表面に対してより強い機械的な力を付与することができ、研磨表面を効率的に研磨することができ、研磨表面に存在するキズも速やかに除去できるのではないかと考えられる。
【0012】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0013】
以下、本発明の研磨用組成物に含まれる各成分について説明する。
【0014】
[砥粒]
本発明の研磨用組成物は、モース硬度が8以上の砥粒を含む。砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有する。ここで、モース硬度とは、硬度1~10までの標準鉱物を設定し、標準物質と測定物質とをこすり、ひっかき傷の有無で硬さを測定する方法である。モース硬度の標準物質として、モース硬度1は滑石、モース硬度2は石膏、モース硬度3は方解石、モース硬度4は蛍石、モース硬度5は燐灰石、モース硬度6は正長石、モース硬度7は石英、モース硬度8はトパーズ(黄玉)、モース硬度9はコランダム(鋼玉)、モース硬度10はダイヤモンド(金剛石)を使用する。
【0015】
モース硬度8以上を有する砥粒としては、例えば、タングステンカーバイド(モース硬度8)、ホウ化ジルコニウム(モース硬度8)、窒化アルミニウム(モース硬度8)、焼結アルミナ、溶融アルミナなどの酸化アルミニウム(モース硬度9)、窒化チタン(モース硬度9)、炭化チタン(モース硬度9)、炭化タンタル(モース硬度9)、炭化ジルコニウム(モース硬度9)、クロム(モース硬度9)ホウ化アルミニウム(モース硬度9)、ボロンカーバイド(モース硬度9)、炭化ケイ素(モース硬度9)、立方晶窒化ホウ素(cBN、モース硬度9.5)、炭化ホウ素(モース硬度9.5)、ホウ化チタン(モース硬度9.5)、ダイヤモンド(モース硬度10)等がある。これらの中でも、炭化ケイ素、ダイヤモンドを好ましく用いることができる。炭化ケイ素は、研磨対象物が軟質金属(例えば、アルミニウム合金、チタン合金等)の場合に好適に用いることができ、またコストの観点で優れている。ダイヤモンドはキズの解消性に優れることから、より好ましく用いることができる。なお、砥粒が複数種類混合されている場合は、砥粒の主成分のモース硬度が8以上であればよい。ここで、砥粒の主成分とは、砥粒のうち、50質量%を超えて含まれる成分を意味する。一実施形態では、本実施形態に係る研磨用組成物において、モース硬度が8以上の砥粒は、砥粒のうち、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上で含まれる。
【0016】
本発明で用いられる砥粒は、細孔電気抵抗法によって測定される体積基準での粒度分布において粒径の異なる2以上の極大点を有する。極大点の数は2でも良いし、3でも良いし、4以上でも良い。本発明の研磨用組成物において、体積基準での粒度分布における極大値の数は、好ましくは2以上5以下であり、より好ましくは2以上4以下であり、さらに好ましくは2または3であり、特に好ましくは2である。
【0017】
図1を参照して、本発明に含まれる砥粒を詳細に説明する。
図1は、本発明の研磨用組成物に含まれる砥粒の粒度分布を示す概念図である。
【0018】
図1では例として極大点を3つ有する砥粒の粒度分布(体積基準)の概念図を示す。
図1の粒度分布において、縦軸は直線(普通)目盛りで示した体積基準の相対粒子数(以下、「体積基準の度数」)を表し、横軸は対数目盛りで示した粒径(μm)を表す。なお、
図1に示す砥粒の粒度分布は、あくまでも概念図であり、本発明の研磨用組成物に含まれる砥粒を限定しない。
図1の粒度分布では、粒径D1、D2、D3において、それぞれ体積基準の度数(すなわちピークの高さ)V1、V2、V3の極大点を有している。
【0019】
ここで、体積基準での粒度分布において極大点を有する2以上の粒径のうち、最も小さい粒径をDmin、最も大きい粒径をDmaxとする。すなわち、
図1の粒度分布において、D1がDminに相当し、D3がDmaxに相当する。また、体積基準での粒度分布において極大点を有する2以上の粒径のうち、体積基準の度数(すなわちピークの高さ)が最も大きい極大点を有する粒径と、体積基準の度数(すなわちピークの高さ)が2番目に大きい極大点を有する粒径とにおいて、小粒径側の粒径をDs、大粒径側の粒径をDtとする。すなわち、
図1の粒度分布において、D1がDsに相当し、D2がDtに相当する。粒径Dmin、Dmax、Ds、Dtにおける体積基準の度数をそれぞれVmin、Vmax、Vs、Vtとする。
図1の粒度分布では、D1は、Dminであり、かつDsである。
【0020】
例えば、体積基準での粒度分布において極大点を2つ有する場合、VminはDsであり、DmaxはDtである。
【0021】
なお粒度分布において隣り合う極大点の粒径が0.05μm以内にある場合、隣り合う極大点は分離した極大点として扱わず、隣り合うピークをまとめて一つのピークとみなし、その中で最も体積基準の度数の大きい粒径を極大点として扱う。
【0022】
本明細書中、砥粒の粒度分布は細孔電気抵抗法、具体的には国際規格ISO13319:2021 Determination of particle size distributions-Electrical sensing zone methodに基づくものである。粒径および測定装置の一例として、実施例に記載の測定装置が挙げられる。なお、国際規格ISO(ISO13319:2021)に基づく測定においては粒子径に応じた径を有するアパチャー(細孔チューブ)を用いる。砥粒の粒度分布の極大点が離れておりアパチャー1種では全ての極大点を検出できない場合には、2種以上のアパチャーを用いて全ての極大点を検出できる。
【0023】
本発明の研磨用組成物で用いられる砥粒は、粒度分布において、粒径の異なる2以上の極大点のうち、最も小さい粒径(Dmin)と最も大きい粒径(Dmax)との比(すなわち、DminとDmaxとの比)Dmin/Dmaxが、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.1以上であり、さらに好ましくは0.2以上であり、特に好ましくは0.3以上であり、最も好ましくは0.4以上である。また、砥粒の粒度分布におけるDmin/Dmaxは、好ましくは0.9以下であり、より好ましくは0.85以下であり、さらに好ましくは0.8以下であり、特に好ましくは0.7以下であり、最も好ましくは0.6以下である。すなわち、砥粒の粒度分布におけるDmin/Dmaxは、好ましくは0.05以上0.9以下であり、より好ましくは0.1以上0.85以下であり、さらに好ましくは0.2以上0.8以下であり、特に好ましくは0.3以上0.7以下であり、最も好ましくは0.4以上0.6以下である。砥粒のDmin/Dmaxが上記範囲である場合、粒子がより密に充填されやすくなり、本発明の所期の効果がより一層発揮される。一実施形態において、砥粒のDmin/Dmaxは、0.1以上0.9以下である。
【0024】
VminとVmaxとの比Vmin/Vmaxは、特に限定はされないが、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.05以上であり、さらに好ましくは0.1以上であり、特に好ましくは0.2以上であり、最も好ましくは0.3以上である。また、Vmin/Vmaxは、好ましくは5.0以下であり、より好ましくは3.5以下であり、さらに好ましくは3.0以下であり、特に好ましくは2.5以下であり、最も好ましくは2.0以下である。砥粒のVmin/Vmaxが上記範囲である場合、粒子がより密に充填されやすくなり、本発明の所期の効果がより一層発揮される。
【0025】
一実施形態において、砥粒は、粒度分布における粒径の異なる極大点のうち、体積基準の度数が最も大きい粒径と2番目に大きい粒径のうち、小粒径側の粒径(Ds)における体積基準の度数をVs、大粒径側の粒径(Dt)における体積基準の度数をVtとしたときに、VsとVtとの比Vs/Vtが3.5以下である。砥粒の粒度分布におけるVs/Vtは、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.1以上であり、さらに好ましくは0.2以上であり、特に好ましくは0.3以上であり、最も好ましくは0.3を超える。また、砥粒の粒度分布におけるVs/Vtは、好ましくは5.0以下であり、より好ましくは3.5以下であり、さらに好ましくは3.0以下であり、特に好ましくは2.5以下であり、最も好ましくは2.0以下である。砥粒のVs/Vtが上記範囲である場合、粒子がより密に充填されやすくなり本発明の所期の効果がより一層発揮される。
【0026】
砥粒のDminの値は、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上であり、さらに好ましくは1.0μm以上であり、特に好ましくは1.1μm以上であり、一層好ましくは1.5μm以上であり、最も好ましくは2.0μm以上である。砥粒のDminの値は特に限定はされないが、好ましくは5.0μm以下であり、より好ましくは4.0μm以下であり、さらに好ましくは3.5μm以下であり、特に好ましくは3.0μm以下であり、最も好ましくは2.9μm以下である。砥粒のDminが上記範囲である場合、粒子の機械的作用が大きくなり本発明の所期の効果がより一層発揮される。一実施形態において、砥粒のDminの値は、0.3μm以上3.0μm未満である。また、粒度分布において極大点が2つの場合、砥粒のDminの値は、0.4μm以上2.5μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上2.3μm以下であるのがより好ましい。粒度分布において極大点が3つ以上の場合、砥粒のDminの値は、0.3μm以上2.9μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上2.9μm以下であるのがより好ましく、2.0μm以上2.9μm以下であるのがさらに好ましい。砥粒のDminが上記範囲である場合、粒子の機械的作用が大きくなり本発明の所期の効果がより一層発揮される。
【0027】
砥粒のDmaxの値は、好ましくは1.0μm以上であり、より好ましくは1.5μm以上であり、さらに好ましくは1.8μm以上であり、特に好ましくは2.0μm以上であり、最も好ましくは2.0μmを超える。砥粒のDmaxの値は特に限定はされないが、好ましくは9.0μm以下であり、より好ましくは8.5μm以下であり、さらに好ましくは8.0μm以下であり、特に好ましくは7.5μm以下であり、最も好ましくは7.0μm以下である。砥粒のDmaxが上記範囲である場合、粒子の機械的作用が大きくなり本発明の所期の効果がより一層発揮される。一実施形態において、砥粒のDmaxの値は、3.0μm以上6.5μm以下である。また、粒度分布において極大点が2つの場合、砥粒のDmaxの値は、3.5μm以上5.5μm以下であるのが好ましく、3.8μm以上5.0μm以下であるのがより好ましい。粒度分布において極大点が3つ以上の場合、砥粒のDmaxの値は、3.5μm以上8.5μm以下であるのが好ましく、4.0μm以上8.0μm以下であるのがより好ましい。砥粒のDmaxが上記範囲である場合、粒子の機械的作用が大きくなり本発明の所期の効果がより一層発揮される。
【0028】
砥粒のDsの値は、極大値が2の場合は、Ds=Dminであるため、Dsとして上述のDminの値が適用されうる。極大値が3以上の場合、砥粒のDsの値は、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上であり、さらに好ましくは1.0μm以上であり、特に好ましくは1.1μm以上であり、一層好ましくは1.5μm以上であり、最も好ましくは2.0μm以上である。砥粒のDsの値は特に限定はされないが、好ましくは5.0μm以下であり、より好ましくは4.0μm以下であり、さらに好ましくは3.5μm以下であり、特に好ましくは3.0μm以下であり、最も好ましくは2.9μm以下である。砥粒のDsが上記範囲である場合、粒子の機械的作用が大きくなり本発明の所期の効果がより一層発揮される。
【0029】
砥粒のDtの値は、極大値が2の場合は、Dt=Dmaxであるため、Dtとして上述のDmaxの値が適用されうる。極大値が3以上の場合、砥粒のDtの値は特に限定はされないが、好ましくは1.0μm以上であり、より好ましくは1.5μm以上であり、さらに好ましくは1.8μm以上であり、特に好ましくは2.0μm以上であり、最も好ましくは2.0μmを超える。砥粒のDtの値は特に限定はされないが、好ましくは9.0μm以下であり、より好ましくは8.5μm以下であり、さらに好ましくは8.0μm以下であり、特に好ましくは7.5μm以下であり、最も好ましくは7.0μm以下である。砥粒のDtが上記範囲である場合、粒子の機械的作用が大きくなり本発明の所期の効果がより一層発揮される。
【0030】
砥粒は、粒径の異なる2以上の極大点を有していれば1種を単独で用いてもよく、または極大点が2以上になるように2種以上を混合して用いてもよい。また、砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0031】
ここで、粒径の異なる2以上の極大点を有する砥粒は、粒度分布が粒径の異なる2以上の極大点を有するよう合成条件を調整してもよいし、天然砥粒または人工砥粒を所望のサイズ(粒度分布)となるように調整してもよい。例えば、上記人工砥粒を製造した後、または市販品を入手後、ボールミル、気流粉砕等により粉砕し、所望のサイズに調整してもよい。また、粉砕した砥粒を篩等で分級し、所望のサイズ(粒度分布)の砥粒を得てもよいし、所望のサイズ(粒度分布)の砥粒となるように分級された砥粒を混合してもよい。
【0032】
砥粒がダイヤモンドである場合、ダイヤモンドは、例えば、天然ダイヤモンドまたは人工ダイヤモンドであり、人工ダイヤモンドが好ましい。人工ダイヤモンドは、特に制限されず、高温高圧合成(HPHT)法、化学気相蒸着(CVD)法、デイトネーション(爆轟)法等の公知の方法により合成された人工ダイヤモンドを用いることができる。また、人工ダイヤモンドは、単結晶ダイヤモンドでも、多結晶ダイヤモンドでもよく、単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドとを混合して使用することもできる。単結晶ダイヤモンドはコストの観点で好ましい。また、多結晶ダイヤモンドはキズの解消性の観点で好ましい。
【0033】
ダイヤモンドの市販品としては、例えば、ケメットジャパン社製、テクノライズ社製、トーメイダイヤ社製、オプティカニクス社製、ナカニシ社製、PUREON社製、ナガセ研磨機材社製等が挙げられる。
【0034】
研磨用組成物における砥粒の含有量は、研磨用組成物の全質量に対して、0.01質量%以上35質量%以下が好ましい。研磨用組成物がペーストの場合、砥粒の含有量は、研磨用組成物の全質量に対して、より好ましくは0.1質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、特に好ましくは0.7質量%以上20質量%以下、最も好ましくは1質量%以上15質量%以下である。研磨用組成物がラップなどに用いられる砥粒分散液の場合、砥粒の含有量は、研磨用組成物の全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上25質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上15質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以上13質量%以下、最も好ましくは0.5質量%以上10質量%以下である。砥粒の含有量が上記範囲内である場合、十分な研磨レートが得ることができ、表面のキズも速やかに解消できる。
【0035】
本発明において、砥粒は、モース硬度が8以上の砥粒のみ、例えばダイヤモンドのみであってもよいが、ダイヤモンドと他の砥粒を組み合わせてもよい。他の砥粒としてはモース硬度が8未満の砥粒でもよい。組み合わせる砥粒としては、例えば、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化ケイ素、溶融アルミナ、セリア、シリカ等が挙げられる。
【0036】
[分散媒]
本発明の研磨用組成物は、分散媒を含む。分散媒は、砥粒を分散するための成分である。分散媒としては、液体、固体、ゲル状等いずれの状態であってもよいが、常温(25℃)で液体であるものが好ましい。例えば、分散媒として液体を用いた場合、砥粒と分散媒とを含む研磨用組成物は砥粒分散液となり、分散媒として固体またはゲルを用いた場合または砥粒分散液に増粘剤等を添加して砥粒分散液の粘度が向上した場合、砥粒と分散媒とを含む研磨用組成物は砥粒のペーストとなる。よって、本発明の研磨用組成物は、砥粒分散液および砥粒のペーストを包含する。以下では、特に説明しない場合、砥粒分散液は、砥粒のペーストをも包含するものとする。
【0037】
分散媒としては、例えば、水;水以外の水と混和する親水性有機溶媒(例えば、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、オキシアルキレン単独重合体、オキシアルキレン共重合体、疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテル等);疎水性有機溶媒(例えば、n-ペンタン、シクロペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、メチルシクロヘキサン、n-オクタンなどの脂肪族炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物;脂肪酸;油脂;等)等が挙げられる。なお、疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルとは、例えば、炭素数1以上10以下のアルキルエーテルを有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、炭素数1以上8以下が好ましく、炭素数1以上6以下がより好ましい。
【0038】
分散媒として用いられるオキシアルキレン単独重合体、オキシアルキレン共重合体および疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを構成するオキシアルキレン基は、好ましくはオキシエチレン基およびオキシプロピレン基から選ばれる1種以上である。オキシアルキレン基の平均付加モル数は、好ましくは2~30であり、より好ましくは4~20である。
【0039】
分散媒として用いられるオキシアルキレンの単独重合体およびオキシアルキレンの共重合体としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールランダム共重合体、ポリエチレングリコール-ポリテトラメチレングリコールランダム共重合体、ポリプロピレングリコール-ポリテトラメチレングリコールランダム共重合体、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリテトラメチレングリコールランダム共重合体、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールトリブロック共重合体、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコールトリブロック共重合体等が挙げられる。
【0040】
分散媒として用いられる疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリテトラメチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリテトラメチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノプロピルエーテル、ポリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ポリテトラメチレングリコールモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリテトラメチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノペンチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノペンチルエーテル、ポリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ポリプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ポリエチレングリコールモノオクチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノオクチルエーテル、ポリエチレングリコールモノノニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノノニルエーテル、ポリエチレングリコールモノデシルエーテル、ポリプロピレングリコールモノデシルエーテル等のポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル;ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリプロピレングリコールジエチルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジプロピルエーテル、ポリプロピレングリコールジプロピルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジプロピルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールジプロピルエーテル、ポリエチレングリコールジブチルエーテル、ポリプロピレングリコールジブチルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジブチルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールジブチルエーテル、ポリエチレングリコールジペンチルエーテル、ポリプロピレングリコールジペンチルエーテル、ポリエチレングリコールジヘキシルエーテル、ポリプロピレングリコールジヘキシルエーテル、ポリエチレングリコールジオクチルエーテル、ポリプロピレングリコールジオクチルエーテル、ポリエチレングリコールジノニルエーテル、ポリプロピレングリコールジノニルエーテル、ポリエチレングリコールジデシルエーテル、ポリプロピレングリコールジデシルエーテル等のポリオキシアルキレンジアルキルエーテル;等が挙げられる。
【0041】
本発明の研磨用組成物は、分散媒として脂肪酸を含んでもよい。脂肪酸としては、炭素数8以上30以下の直鎖または分岐の脂肪酸が好ましく、炭素数10以上26以下の直鎖または分岐の脂肪酸がより好ましく、炭素数12以上22以下の直鎖または分岐の脂肪酸がさらに好ましい。脂肪酸は、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸のどちらであってもよい。
【0042】
脂肪酸としては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸、イソステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ベヘン(ベヘニン)酸、エルカ酸、トール酸が挙げられる。脂肪酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明においては、これらの中でも、研磨用組成物全体が研磨に効率よく寄与する観点から、研磨用組成物は、ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびリノール酸からなる群より選択される1種以上の脂肪酸を含むのが好ましい。また、研磨用組成物は、常温で液体であることからオレイン酸およびリノール酸からなる群より選択される1種以上の脂肪酸を含むのが好ましい。分散媒として常温で固体の脂肪酸を使用する場合、脂肪酸の融点以上に脂肪酸を加熱して液状とした後に砥粒と混合するのが好ましいが、分散媒として常温で液体の脂肪酸を使用する場合、砥粒と分散媒とを混合することにより、砥粒分散液を得ることができる。
【0044】
本発明において、固形状の脂肪酸(すなわち、分散媒がラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等)は、砥粒を分散させつつ、研磨用組成物の粘性も向上させることができるため、後述する増粘剤としての作用も有する。
【0045】
本発明の研磨用組成物は、分散媒として油脂を含んでもよい。油脂は、砥粒を分散させる分散媒としての役割を有する。油脂としては、例えば、サフラワー油、ぶどう油、月見草油、クルミ油、ひまわり油、大豆油、綿実油、とうもろこし油、小麦胚芽油、ローズヒップ油、ボラージシード油、こめ油、ごま油、落花生油、ハト麦油、なたね油、あまに油、パーム油、オリーブ油、桐油、ヒマシ油、やし油等を好ましく用いることができる。油脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
本発明においては、これらの中でも、研磨用組成物全体が研磨に効率よく寄与する観点から、研磨用組成物は、こめ油、落花生油、オリーブ油およびパーム油からなる群より選択される1種以上の油脂を含むのが好ましい。
【0047】
分散媒の含有量は、研磨用組成物全質量に対して、好ましくは5質量%以上90質量%以下、より好ましくは10質量%以上85質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上80質量%以下、特に好ましくは20質量%以上75質量%以下であり、最も好ましく25質量%以上70質量%以下である。一実施形態において、分散媒の含有量は、研磨用組成物全質量に対して、30質量%以上98質量%以下であってもよく、35質量%以上95質量%以下であってもよく、40質量%以上93質量%以下であってもよい。分散媒の含有量が上記範囲内であると、十分な研磨レートが得ることができ、表面のキズも速やかに解消できる。2種以上の分散媒を用いた場合、分散媒の含有量は合計量である。
【0048】
分散媒は、用途に応じて、親水性有機溶媒および疎水性有機溶媒のいずれであってもよい。これらのうち、ダイヤモンドの分散性の観点から、疎水性有機溶媒であるのが好ましく、脂肪酸、油脂がより好ましい。一実施形態において、分散媒は、例えば、脂肪酸および油脂から選択される1種以上を含む。また、研磨対象物を研磨した後の洗浄性の観点から、親水性有機溶媒が好ましく、オキシアルキレン単独重合体、オキシアルキレン共重合体、疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルがより好ましく、疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルがさらに好ましい。一実施形態において、分散媒は、例えば、オキシアルキレン単独重合体、オキシアルキレン共重合体および疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルから選択される1種以上を含む。
【0049】
一実施形態において、本発明の研磨用組成物は、脂肪酸、油脂、オキシアルキレン単独重合体、オキシアルキレン共重合体および疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群より選択される1種以上の成分を含む。疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、アルキル基(アルキルエーテル基)の炭素数が1~10であるのが好ましい。これら成分の含有量(研磨用組成物に対する含有量(質量%))は、合計量として、上記分散媒の含有量が適用される。これら成分の含有量が上記範囲内であると、十分な研磨レートが得ることができ、表面のキズも速やかに解消できる。2種以上の分散媒を用いた場合、分散媒の含有量は合計量である。
【0050】
ここで、本発明の研磨用組成物において、分散媒は2種以上であることが好ましい。2種以上の分散媒を用いる場合、混合して同時に用いてもよく、第1の分散媒に砥粒を分散させて砥粒分散液を得た後に、第2の分散媒を砥粒分散液に添加してもよい。
【0051】
本発明の一実施形態において、第1の分散媒は脂肪酸であり、第2の分散媒は油脂である。すなわち、一実施形態において、本発明の研磨用組成物は、脂肪酸および油脂を含む。この場合、脂肪酸の含有量は、研磨用組成物全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上30質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上28質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上25質量%以下、特に好ましくは3質量%以上22質量%以下であり、最も好ましく5質量%以上20質量%以下である。また、この場合、油脂の含有量は、研磨用組成物全質量に対して、好ましくは5質量%以上75質量%以下、より好ましくは10質量%以上70質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上65質量%以下、特に好ましくは20質量%以上60質量%以下であり、最も好ましく25質量%以上55質量%以下である。脂肪酸および油脂の含有量が上記範囲内であると、十分な研磨レートが得ることができ、表面のキズも速やかに解消できる。
【0052】
本発明の一実施形態において、第1の分散媒は脂肪酸であり、第2の分散媒は疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。すなわち、一実施形態において、本発明の研磨用組成物は、脂肪酸および疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む。この場合、脂肪酸の含有量は、研磨用組成物全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上30質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上20質量%以下、特に好ましくは2質量%以上15質量%以下であり、最も好ましく3質量%以上10質量%以下である。一実施形態において、脂肪酸の含有量は、研磨用組成物全質量に対して、1質量%以上12質量%以下、または2質量%以上10質量%以下である。また、この場合、疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量は、研磨用組成物全質量に対して、好ましくは20質量%以下95質量%以上、より好ましくは25質量%以上93質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上90質量%以下、特に好ましくは35質量%以上85質量%以下であり、最も好ましく40質量%以上82質量%以下である。脂肪酸および疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量が上記範囲内であると、十分な研磨レートが得ることができ、表面のキズも速やかに解消できる。
【0053】
第1の分散媒と第2の分散媒とを用いて研磨用組成物を製造する場合、第1の分散媒と第2の分散媒との質量比は、90:10~50:50であるのが好ましく、85:15~60:40であるのがより好ましく、82:18~65:35であるのがさらに好ましく、80:20~65:35であるのが特に好ましく、77:23~67:33であるのが最も好ましい。一実施形態において、第1の分散媒と第2の分散媒との質量比は、80:20~50:50であってもよく、85:15~55:45であってもよく、88:12~60:40であってもよい。ここで、第1の分散媒として用いられる砥粒を分散する分散媒は、脂肪酸が好ましい。
【0054】
[他の成分]
本発明の研磨用組成物は、砥粒および分散媒に加えて、界面活性剤および増粘剤からなる群から選択される1種以上の他の成分を含んでもよい。
【0055】
・界面活性剤
本発明の研磨用組成物は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は、研磨用組成物においてダイヤモンドが分散媒としての脂肪酸や油脂に分散するのを補助する分散剤としての役割を有する。
【0056】
界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも、泡立ちと砥粒の分散性との観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0057】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、アルキルアミン塩、アミンオキサイド、第四級アンモニウム塩、三級アミドアミン型界面活性剤、等に分類することができる。カチオン性界面活性剤の具体例としては、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート、ラウリルジメチルアミンオキサイド、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0058】
本発明に使用できるアニオン性界面活性剤は、例えば、硫酸系、スルホン酸系、リン酸系、ホスホン酸系、カルボン酸系等に分類することができる。アニオン界面活性剤の具体例には、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、アルキル硫酸、アルキルエーテル硫酸エステル、高級アルコール硫酸エステル、アルキルリン酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、アルキルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、上述したいずれかの化合物の塩、等が含まれる。アルキルスルホン酸の一具体例としてドデシルスルホン酸が挙げられる。アニオン性界面活性剤の他の例として、タウリン系界面活性剤、ザルコシネート系界面活性剤、イセチオネート系界面活性剤、N-アシル酸性アミノ酸系界面活性剤、高級脂肪酸塩、アシル化ポリペプチド等が挙げられる。
【0059】
本発明に使用できる両性界面活性剤の具体例には、アルキルベタイン系、アルキルアミンオキサイド系等が含まれる。両性界面活性剤の具体例としては、ココベタイン、ラウラミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、ラウロアンホ酢酸ナトリウム、ココアンホ酢酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリルベタイン(ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン)等が挙げられる。
【0060】
ノニオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、ポリオキシアルキレン付加物等のポリオキシアルキレン基を有する界面活性剤が挙げられる。ポリオキシアルキレン付加物の具体例としては、特に制限されないが、疎水性基が長鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリンエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、研磨時の潤滑性の観点から、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルが好ましい。
【0061】
界面活性剤として用いられる疎水性基が長鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、例えば、炭素数10超のアルキル基を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルが挙げられる。
【0062】
ポリオキシアルキレン基を有する界面活性剤においてポリオキシアルキレン基を構成するオキシアルキレン基は、好ましくはオキシエチレン基およびオキシプロピレン基から選ばれる1種以上であり、より好ましくはオキシエチレン基である。オキシアルキレン基の平均付加モル数は、好ましくは2~30であり、より好ましくは4~20である。疎水性基が長鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルにおけるアルキル基の炭素数は、好ましくは12以上であり、より好ましくは14以上であり、さらに好ましくは16以上であり、そして、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。すなわち、疎水性基が長鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルにおけるアルキル基の炭素数は、好ましくは12以上30以下であり、より好ましくは14以上20以下であり、さらに好ましくは16以上18以下である。ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルにおける脂肪酸残基の炭素数は、好ましくは10以上であり、より好ましくは12以上であり、さらに好ましくは14以上であり、そして、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。すなわち、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルにおける脂肪酸残基の炭素数は、好ましくは10以上22以下であり、より好ましくは12以上20以下であり、さらに好ましくは14以上18以下である。脂肪酸残基は、飽和でも不飽和でもよく、不飽和であるのが好ましい。
【0063】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型としては、ポリオキシエチレンモノウンデシルエーテル、ポリオキシエチレンモノドデシルエーテル(ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル)、ポリオキシエチレンジドデシルエーテル(ポリオキシエチレンジラウリルエーテル)、ポリオキシエチレンモノテトラデシルエーテル(ポリオキシエチレンモノミリスチルエーテル)、ポリオキシエチレンジテトラデシルエーテル(ポリオキシエチレンジミリスチルエーテル)、ポリオキシエチレンモノオレイルエーテル、ポリオキシエチレンジオレイルエーテル等を挙げることができる。ポリオキシアルキレンアリールエーテル型としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等を挙げることができる。ポリオキシアルキレンアルキルアミン型としては、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン等を挙げることができる。ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル型としては、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル等を挙げることができる。ポリオキシアルキレングリセリンエーテル脂肪酸エステル型としては、ポリオキシエチレングリセリンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレングリセリンエーテルモノステアリン酸エステル等を挙げることができる。ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル型としては、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等を挙げることができる。
【0064】
また、ポリオキシアルキレン付加物としては、トラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等も挙げられる。
【0065】
ノニオン性界面活性剤としては、HLBが1~10であるのが好ましく、2~9であるのがより好ましく、4~8であるのがさらに好ましい。
【0066】
界面活性剤の分子量は、特に制限されないが、好ましくは、1,000未満であり、より好ましくは500未満であり、さらに好ましくは400未満である。界面活性剤の分子量は、化学式から算出される分子量が採用されることが好ましい。
【0067】
界面活性剤は、市販品を用いても合成品を用いてもよい。また、界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
界面活性剤の含有量は、特に制限されないが、研磨用組成物全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上25質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上23質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上22質量%以下であり、特に好ましくは2質量%以上20質量%以下であり、最も好ましくは5質量%以上18質量%以下である。一実施形態において、界面活性剤の含有量は、研磨用組成物全質量に対して、1質量%以上12質量%以下、または2質量%以上10質量%以下である。界面活性剤が上記範囲内で含有される場合、砥粒が均一に分散されることにより十分な研磨レートが得ることができ、表面のキズも速やかに解消できる。
【0069】
本発明の研磨用組成物は、界面活性剤として、ノニオン性界面活性剤を含むのが好ましく、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルを含むのがより好ましく、炭素数12~22の脂肪酸を有するポリオキシアルキレン脂肪酸エステルがさらに好ましい。
【0070】
一実施形態において、本発明の研磨用組成物は、分散媒として脂肪酸と、界面活性剤としてポリオキシアルキレン脂肪酸エステルと、を含む。すなわち、一実施形態において、本発明の研磨用組成物は、脂肪酸と、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルと、を含む。このような構成であれば、研磨レートを向上させつつ、キズの解消性がより一層向上する。より好ましくは、本発明の研磨用組成物は、炭素数12~22の脂肪酸と、炭素数12~22の脂肪酸を有するポリオキシアルキレン脂肪酸エステルと、を含む。この場合、研磨用組成物全質量に対して、脂肪酸の含有量は、好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上15質量%以下であり、特に好ましく3質量%以上10質量%以下であり、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは0.1質量%以上18質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上12質量%以下であり、特に好ましくは2質量%以上10質量%以下である。
【0071】
一実施形態において、本発明の研磨用組成物は、脂肪酸、油脂および疎水性基が短鎖長のポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群より選択される1種以上の分散媒と、界面活性剤としてポリオキシアルキレン脂肪酸エステルと、を含む。
【0072】
・増粘剤
本発明の研磨用組成物は、増粘剤を含んでもよい。増粘剤は、研磨用組成物の粘度を増加させ、安定性を向上する作用を有する。本発明において用いられる増粘剤としては、常温(25℃)で固形の無機化合物またはワックスが挙げられる。かような無機化合物としては、非晶質シリカ、ベントナイト等が挙げられ、非晶質シリカとしてはシリカゲル、シリカゾル、沈降シリカ、フュームドシリカが挙げられる。これらのうち、増粘剤としては、沈降シリカ、シリカゲル、フュームドシリカが好ましく、沈降シリカがより好ましい。
【0073】
増粘剤として常温で固体のワックスを使用する場合、砥粒分散液をワックスの融点まで加熱した後、砥粒分散液にワックスを添加し、融解させて均一に撹拌を行い、室温に冷却させることでペースト研磨剤組成物が作製できる。増粘剤として無機化合物を用いる場合、砥粒分散液に無機化合物を直接添加してもよいし、無機化合物を分散媒に分散させた後、当該無機化合物分散液を砥粒分散液に添加してもよい。
【0074】
増粘剤の含有量は、特に制限されないが、研磨用組成物全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上33質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上30質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上27質量%以下であり、特に好ましくは2質量%以上25質量%以下であり、最も好ましくは5質量%以上23質量%以下である。増粘剤が上記範囲内で含有される場合、十分な研磨レートが得ることができ、表面のキズも速やかに解消できる。
【0075】
本発明の研磨用組成物は、砥粒、分散媒(好ましくは脂肪酸および油脂から選択される少なくとも1種以上)、界面活性剤および増粘剤の成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、他の添加剤を任意の割合でさらに含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、pH調整剤、高分子化合物、防カビ剤(防腐剤)、消泡剤、溶存ガス、還元剤、酸化剤およびアルカノールアミン類等が挙げられる。これらの他の添加剤は公知のものを用いることができる。
【0076】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、砥粒を分散媒(例えば水、脂肪酸など)に分散させる工程を含む。具体的には、本発明の研磨用組成物の製造方法は、(a)砥粒と、界面活性剤とを第1の分散媒(例えば脂肪酸)に添加し、混合して砥粒分散液を得る工程と;必要に応じて(b)第2の分散媒(例えば油脂)と、必要に応じて増粘剤とを砥粒分散液に添加し、混合して研磨用組成物を得る工程と;を含む。ここで、砥粒分散液や研磨用組成物を得るために混合する方法としては、超音波、マグネティックスターラー、スリーワンモーター、ホモジナイザー等が使用できる。砥粒分散液を混合する場合、超音波を照射して混合するのが好ましく、研磨用組成物を得るために混合する場合、超音波、スリーワンモーターで混合するのが好ましい。
【0077】
第1の分散媒として常温で固体の脂肪酸を使用する場合、脂肪酸を融点まで加熱して液状にした後、脂肪酸に砥粒を添加して、均一になるよう撹拌を行い、室温に冷却させることでペースト(砥粒分散液)が作製できる。固体の脂肪酸を増粘剤として作用させる場合、固体の脂肪酸を分散媒として用いてペーストとしての研磨用組成物を得てもよいが、いったん常温で液体の脂肪酸に砥粒を分散させて砥粒分散液を得た後に、常温で固体の脂肪酸を砥粒分散液に添加してもよい。この際、常温で固体の脂肪酸は、砥粒分散液に添加する前に、脂肪酸の融点以上の温度で加熱し、液状となった脂肪酸を用いるのが好ましい。
【0078】
[研磨用組成物の用途]
本発明の研磨用組成物は、金属、半導体基板、ガラス、セラミック、樹脂、ダイヤ等を研磨するのに好適に用いられ、特に、立体的構造を有する金属(3次元形状の金属)を研磨するのに好適に用いられる。3次元形状の金属としては、金型が挙げられる。
【0079】
すなわち、本発明によれば、本発明の研磨用組成物を用いて3次元形状の金属を研磨する、研磨方法が提供される。また、本発明によれば、本発明の研磨用組成物を用いて金型を研磨する工程を含む、金型の製造方法も提供される。
【0080】
本発明に係る研磨対象物である金属の種類としては、機械構造用炭素鋼鋼材SC系(例えばS50C等)、クロムモリブデン鋼鋼材SCM系(例えばP2RM、P3RMF等)、NAK系(折出硬化系)(例えばNAK80等)等のプリハードン鋼;ステンレス鋼(例えばSTAVAX、HPM38S、P12RM等)、合金工具鋼(例えばP9RM、D9RM1、NAK101等)等の焼入焼戻し鋼;時効処理鋼;等が挙げられる。これらの金属により製造される金型の用途として、プレス用、鍛造用、鋳造用、ダイカスト用、プラスチック用、ガラス用、ゴム用、粉末治金用等の金型がある。これらの金型により成形される部材としては、鋼板、アルミ合金や亜鉛合金等の非鉄金属、ガラス材、ゴム類、プラスチック類であるポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられる。
【0081】
これらの金型が使用される分野としては、自動車部品、建設機械部品、農業機械部品、飲料容器、照明器具部品、履物、モールドべース、バンパー、家電、インストルメンタルパネル、TVキャビネット、ヘッドランプ、光学機器、OA機器、スマホ/PC/カメラ筐体、化粧品ボトル、レンズ、光ディスク、繊維強化製品等が挙げられる。本発明の研磨用組成物は、上記の様々な分野の製品を製造する際に成形するために用いられる金型を研磨する研磨用組成物として用いることができる。
【0082】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0083】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0084】
[1]モース硬度が8以上の砥粒と、分散媒と、を含有する研磨用組成物であって、
前記砥粒は、細孔電気抵抗法によって測定される体積基準での粒度分布において粒径の異なる2以上の極大点を有する、研磨用組成物;
[2]前記砥粒は、前記粒径の異なる2以上の極大点のうち、最も小さい粒径(Dmin)と最も大きい粒径(Dmax)の比Dmin/Dmaxが、0.1以上0.9以下である、上記[1]に記載の研磨用組成物;
[3]前記砥粒は、前記粒径の異なる2以上の極大点のうち、体積基準の度数が最も大きい粒径と2番目に大きい粒径とのうち、小粒径側の粒径(Ds)における体積基準の度数をVs、大粒径側の粒径(Dt)における体積基準の度数をVtとしたときに、Vs/Vtが3.5以下である、上記[1]または[2]に記載の研磨用組成物;
[4]前記砥粒は、前記粒径の異なる2以上の極大点のうち、最も小さい粒径(Dmin)における体積基準の度数をVmin、最も大きい粒子の粒径(Dmax)における体積基準の度数をVmaxとしたときに、Vmin/Vmaxが3.5以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の研磨用組成物;
[5]前記砥粒がダイヤモンドである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の研磨用組成物;
[6]前記ダイヤモンドが多結晶ダイヤモンドである、上記[5]に記載の研磨用組成物;
[7]前記分散媒が、脂肪酸および油脂からなる群より選択される1種以上である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の研磨用組成物;
[8]界面活性剤および増粘剤からなる群から選択される1種以上の成分を含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の研磨用組成物;
[9]前記増粘剤が、非晶質シリカである、上記[8]に記載の研磨用組成物;
[10]界面活性剤をさらに含み、前記界面活性剤が、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルである、上記[1]~[9]のいずれかに記載の研磨用組成物;
[11]上記[1]~[10]のいずれかに記載の研磨用組成物を用いて3次元形状の金属を研磨する、研磨方法;
[12]上記[1]~[10]のいずれかに記載の研磨用組成物を用いて金型を研磨する工程を含む、金型の製造方法。
【実施例0085】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件下で行った。
【0086】
[研磨用組成物A1~A17およびB1の調製]
砥粒として表1に記載の粒径に極大点を有する単結晶ダイヤモンド4.9質量部と、界面活性剤としてポリオキシエチレンオレイン酸エステル(製品名:ノイゲンES-99D(第一工業製薬株式会社)、HLB:7.7)14.2質量部と、分散媒として脂肪酸である高級脂肪酸(オレイン酸)14.2質量部とを均一に撹拌し、ダイヤモンド分散液を作製した。このダイヤモンド分散液に、分散媒として油脂(オリーブ油)46.9質量部と、増粘剤として非晶質シリカ(製品名:カープレックス30(沈降シリカ)、平均二次粒径(D50):15μm)19.7質量部とを添加して均一に混練して、ペースト状の研磨用組成物A1~A17およびB1を作製した。
【0087】
[ダイヤモンドの粒度分布の測定]
ダイヤモンドの粒度分布は、ベックマン・コールター株式会社製の“Multisizer 4e”により測定した。アパチャー径は20μmとした。
【0088】
[研磨用組成物の評価]
得られた研磨用組成物A1~A17およびB1について、以下の評価を行った。研磨用組成物A1~A17およびB1による評価結果は、表1に示した。
【0089】
[研磨レート]
研磨用組成物を用いて下記研磨条件により研磨を行ったNAK80の研磨レートを測定した。研磨レートは研磨前後の金型素材の重量を測定し、その差分を取代とし、研磨時間で除算し算出した。そして研磨用組成物B1の研磨レートを1.00とし、研磨用組成物B1との研磨レート比を算出した。この作業を3回行い、平均値を示した。なお研磨用組成物B1の研磨レートは4mg/分であった。
【0090】
[キズ解消時間]
NAK80を2000番のサンドペーパーで研磨したあと下記研磨条件で研磨用組成物を用いて研磨した。表面を目視で観察し、2000番のサンドペーパーによるキズが消えるまでの時間をキズ解消時間(分)とした。
【0091】
[研磨条件]
材質: NAK80 大きさ:60mm×60mm×5mm
研磨機: ミニター製
・MINIMO ONE SERIES VER.2
・M112GRAD
パッド: ミニター製 φ30フェルト(SA3103)
回転数: 1000rpm。
【0092】
【0093】
[研磨用組成物A18~A21およびB2の調製]
砥粒として表2に記載の粒径に極大点を有する単結晶ダイヤモンド4.9質量部を用いた他は、研磨用組成物A1~A17およびB1と同様の方法で、ペースト状の研磨用組成物A18~A21およびB2を作製した。なお、表2に記載のダイヤモンドの粒度分布は、ベックマン・コールター株式会社製の“Multisizer 4e”を使用して測定し、アパチャー径は20μmとした。
【0094】
[研磨用組成物の評価]
得られた研磨用組成物A18~A21およびB2について、研磨用組成物B2の研磨レートを1.00とし、研磨用組成物B2との研磨レート比を算出した以外は、研磨用組成物A1~A17およびB1と同様に評価した。なお研磨用組成物B2の研磨レートは3mg/分であった。評価結果を表2に示した。
【0095】
[研磨用組成物A22~A25およびB3の調製]
砥粒として表3に記載の粒径に極大点を有する単結晶ダイヤモンド4.9質量部を用いた他は、研磨用組成物A1~A17およびB1と同様の方法で、ペースト状の研磨用組成物A22~A25およびB3を作製した。なお、表3に記載のダイヤモンドの粒度分布は、ベックマン・コールター株式会社製の“Multisizer 4e”を使用して測定し、アパチャー径は50μmとした。
【0096】
[研磨用組成物の評価]
得られた研磨用組成物A22~A25およびB3について、研磨用組成物B3の研磨レートを1.00とし、研磨用組成物B3との研磨レート比を算出した以外は、研磨用組成物A1~A17およびB1と同様に評価した。なお研磨用組成物B3の研磨レートは1mg/分であった。評価結果を表3に示した。
【0097】
[研磨用組成物A26、A28、A31およびB4の調製]
砥粒として表4に記載の粒径に極大点を有する単結晶ダイヤモンド3.5質量部と、界面活性剤として表4に記載の組成で界面活性剤X1またはX2と、増粘剤としてフュームドシリカ(製品名:エアロジル200、日本アエロジル株式会社製、平均一次粒径(D50):12nm)5質量部と、組成物全体を100質量部としたときの残部の量で分散媒としてポリオキシアルキレングリコール(製品名:ニューポール50HB-400、三洋化成工業株式会社製)と、を添加して均一に混練して、ペースト状の研磨用組成物A26、A28、A31およびB4を作製した。表4の「研磨用組成物の組成」の欄において「-」の表記はその成分を配合していないことを意味する。界面活性剤X1またはX2は下記の化合物である。
・界面活性剤X1:ポリオキシエチレンオレイン酸エステル(製品名:ノイゲンES-99D、第一工業製薬株式会社製)(別名:ポリオキシエチレンモノオレエート)
・界面活性剤X2:ポリオキシエチレンアルキル(C12~14)エーテル(製品名:ファインサーフ290、青木油脂株式会社製)。
【0098】
[研磨用組成物A27、A29およびA30の調製]
砥粒として表4に記載の粒径に極大点を有する単結晶ダイヤモンド3.5質量部と、界面活性剤として表4に記載の組成で界面活性剤X1またはX2と、分散媒として表4に記載の組成で高級脂肪酸(オレイン酸)とを均一に撹拌し、ダイヤモンド分散液を作製した。このダイヤモンド分散液に、増粘剤としてフュームドシリカ(製品名:エアロジル200、日本アエロジル株式会社製、平均一次粒径(D50):12nm)5質量部と、組成物全体を100質量部としたときの残部の量で分散媒としてポリオキシアルキレングリコール(製品名:ニューポール50HB-400、三洋化成工業株式会社製)と、を添加して均一に混練して、ペースト状の研磨用組成物A27、A29およびA30を作製した。なお、表4に記載のダイヤモンドの粒度分布は、ベックマン・コールター株式会社製の“Multisizer 4e”を使用して測定し、アパチャー径は20μmとした。
【0099】
[研磨用組成物の評価]
得られた研磨用組成物A26~A31およびB4について、研磨用組成物B4の研磨レートを1.00とし、研磨用組成物B4との研磨レート比を算出した以外は、研磨用組成物A1~A17およびB1と同様に評価した。なお研磨用組成物B4の研磨レートは4mg/分であった。評価結果を表4に示した。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
[研磨用組成物A32およびB5の調製]
砥粒として表5に記載の粒径に極大点を有する多結晶ダイヤモンド3.5質量部と、界面活性剤X1と、分散媒として表5に記載の組成で高級脂肪酸(オレイン酸)とを均一に撹拌し、ダイヤモンド分散液を作製した。このダイヤモンド分散液に、増粘剤としてフュームドシリカ(製品名:エアロジル200、日本アエロジル株式会社製、平均一次粒径(D50):12nm)8質量部と、組成物全体を100質量部としたときの残部の量で分散媒としてポリオキシアルキレングリコール(製品名:ニューポールLB-625、三洋化成工業株式会社製)と、を添加して均一に混練して、ペースト状の研磨用組成物A32およびB5を作製した。
[研磨用組成物A33およびB6の調製]
砥粒として表5に記載の粒径に極大点を有する単結晶ダイヤモンド3.5質量部を用いた他は、研磨用組成物A32およびB5と同様の方法で、ペースト状の研磨用組成物A33およびB6を作製した。なお、表5に記載のダイヤモンドの粒度分布は、ベックマン・コールター株式会社製の“Multisizer 4e”を使用して測定し、アパチャー径は20μmとした。
【0104】
[研磨用組成物の評価]
得られた研磨用組成物A32、A33、B5およびB6について、研磨用組成物B5の研磨レートを1.00とし、研磨用組成物B5との研磨レート比を算出した以外は、研磨用組成物A1~A17およびB1と同様に評価した。なお研磨用組成物B5の研磨レートは8mg/分であった。評価結果を表5に示した。
【0105】
[研磨用組成物A34およびB7の調製]
砥粒として表6に記載の粒径に極大点を有する炭化ケイ素(GC)3.5質量部と、界面活性剤X1と、分散媒として表6に記載の組成で高級脂肪酸(オレイン酸)とを均一に撹拌し、炭化ケイ素分散液を作製した。この炭化ケイ素分散液に、増粘剤としてフュームドシリカ(製品名:エアロジル200、日本アエロジル株式会社製、平均一次粒径(D50):12nm)8質量部と、組成物全体を100質量部としたときの残部の量で分散媒としてポリオキシアルキレングリコール(製品名:ニューポールLB-625、三洋化成工業株式会社製)と、を添加して均一に混練して、ペースト状の研磨用組成物A34およびB7を作製した。なお、表6に記載の炭化ケイ素の粒度分布は、ベックマン・コールター株式会社製の“Multisizer 4e”を使用して測定し、アパチャー径は20μmとした。
【0106】
[研磨用組成物の評価]
得られた研磨用組成物A34およびB7について、研磨用組成物B7の研磨レートを1.00とし、研磨用組成物B7との研磨レート比を算出した以外は、研磨用組成物A1~A17およびB1と同様に評価した。なお研磨用組成物B7の研磨レートは3mg/分であった。評価結果を表6に示した。
【0107】
【0108】
【0109】
上記表1~表6に示すように、粒径の異なる2以上の極大点を有する砥粒である実施例の研磨用組成物は、研磨レートが高く、キズ解消時間も短く、良好な研磨性能を有し作業時間の短縮が可能であることが確認された。一方、極大点が1つの砥粒である比較例の研磨用組成物は、実施例の研磨用組成物に比べて、研磨レート、キズ解消時間の結果が劣ることがわかった。