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特開2024-107326マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107326
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
C23C14/35 B
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024094568
(22)【出願日】2024-06-11
(62)【分割の表示】P 2020169360の分割
【原出願日】2020-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮下 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中村 貫人
(72)【発明者】
【氏名】菊池 祐介
(57)【要約】
【課題】マグネトロンスパッタ処理を行うにあたり、プラズマを形成するためにターゲットに印加される電圧の変動を抑制すること
【解決手段】真空容器と、ターゲットとマグネット配列体とマグネット配列体を第1の位置と第2の位置との間で往復移動させる移動機構とを各々備える複数のスパッタ機構と、選択されたスパッタ機構によって基板に成膜が行われるように前記ターゲットに電力を供給してプラズマを形成するための電源と、前記真空容器内に前記プラズマを形成するためのガスを供給するガス供給部と、前記成膜を行うにあたり、平面視で互いの前記マグネット配列体の移動路の延長線が交差する前記選択されたスパッタ機構の当該マグネット配列体と、前記非選択のスパッタ機構の当該マグネット配列体と、について近接しないように同期して移動させる制御信号を出力する制御部と、を備えるように装置を構成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を格納する真空容器と、
一面が前記真空容器内に面するターゲットと、マグネット配列体と、前記ターゲットのスパッタを行うために前記マグネット配列体を当該ターゲットの他面側における第1の位置と第2の位置との間で往復移動させる移動機構と、を各々備える複数のスパッタ機構と、
前記複数のスパッタ機構のうちの一部を選択されたスパッタ機構、残りを非選択のスパッタ機構として、前記選択されたスパッタ機構によって前記基板に成膜が行われるように前記ターゲットに電力を供給してプラズマを形成するための電源と、
前記真空容器内に前記プラズマを形成するためのガスを供給するガス供給部と、
前記成膜を行うにあたり、平面視で互いの前記マグネット配列体の移動路の延長線が交差する前記選択されたスパッタ機構の当該マグネット配列体と、前記非選択のスパッタ機構の当該マグネット配列体と、について近接しないように同期して移動させるか、
あるいは前記選択されたスパッタ機構における前記マグネット配列体の移動路の延長線に対して平面視で移動路の延長線が交差する少なくとも2つの非選択のスパッタ機構の前記各マグネット配列体について、前記第1の位置及び前記第2の位置のうち前記選択されたスパッタ機構から離れた位置側に位置するように制御信号を出力する制御部と、
を備えるマグネトロンスパッタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を製造するにあたり、基板である半導体ウエハ(以下、ウエハと記載する)に各種の膜が成膜され、この成膜は、マグネトロンスパッタ装置により行われる場合が有る。特許文献1には、マグネトロンスパッタ装置の一例が示されている。この特許文献1の装置は、カソード部、ターゲット及び磁石機構の組を4つ備えるチャンバと、開口を備えると共に成膜に使用するターゲットのみが当該開口を介して基板に向うようにチャンバ内にて回転可能なシャッタと、チャンバの外側で各磁石機構間を仕切る仕切り部材と、を備える。そして、成膜に使用するターゲットに係る磁石機構により形成される磁場が、他の磁石機構により形成される磁場により歪むことを抑制するために、上記の仕切り部材及び上記のシャッタを磁性体により構成することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-48222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、マグネトロンスパッタ処理を行うにあたり、プラズマを形成するためにターゲットに印加される電圧の変動を抑制することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のマグネトロンスパッタ装置は、基板を格納する真空容器と、
一面が前記真空容器内に面するターゲットと、マグネット配列体と、前記ターゲットのスパッタを行うために前記マグネット配列体を当該ターゲットの他面側における第1の位置と第2の位置との間で往復移動させる移動機構と、を各々備える複数のスパッタ機構と、
前記複数のスパッタ機構のうちの一部を選択されたスパッタ機構、残りを非選択のスパッタ機構として、前記選択されたスパッタ機構によって前記基板に成膜が行われるように前記ターゲットに電力を供給してプラズマを形成するための電源と、
前記真空容器内に前記プラズマを形成するためのガスを供給するガス供給部と、
前記成膜を行うにあたり、平面視で互いの前記マグネット配列体の移動路の延長線が交差する前記選択されたスパッタ機構の当該マグネット配列体と、前記非選択のスパッタ機構の当該マグネット配列体と、について近接しないように同期して移動させるか、
あるいは前記選択されたスパッタ機構における前記マグネット配列体の移動路の延長線に対して平面視で移動路の延長線が交差する少なくとも2つの非選択のスパッタ機構の前記各マグネット配列体について、前記第1の位置及び前記第2の位置のうち前記選択されたスパッタ機構から離れた位置側に位置するように制御信号を出力する制御部と、
を備える。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、マグネトロンスパッタ処理を行うにあたり、プラズマを形成するためにターゲットに印加される電圧の変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置の縦断側面図である。
図2】前記マグネトロンスパッタ装置の上面図である。
図3】前記マグネトロンスパッタ装置に設けられるマグネット配列体の下面図である。
図4】前記マグネット配列体の動作例を示すための前記マグネトロンスパッタ装置の上面図である。
図5】前記マグネット配列体の動作例を示すための前記マグネトロンスパッタ装置の上面図である。
図6】前記マグネット配列体の動作例を示すための前記マグネトロンスパッタ装置の上面図である。
図7】前記マグネット配列体の他の動作例を示すための前記マグネトロンスパッタ装置の上面図である。
図8】前記マグネット配列体の他の動作例を示すための前記マグネトロンスパッタ装置の上面図である。
図9】前記マグネット配列体の配置例を示すための前記マグネトロンスパッタ装置の上面図である。
図10】前記マグネット配列体の配置例を示すための前記マグネトロンスパッタ装置の上面図である。
図11】前記マグネトロンスパッタ装置の他の構成例を示す縦断側面図である。
図12】前記マグネトロンスパッタ装置に設けられるスパッタ機構の縦断側面図である。
図13】前記マグネトロンスパッタ装置の天井部の縦断側面を示す展開図である。
図14】前記天井部の縦断側面図である。
図15】前記マグネトロンスパッタ装置の変形例を示す当該装置の上面図である。
図16】前記マグネトロンスパッタ装置の変形例を示す当該装置の上面図である。
図17】評価試験におけるマグネトロンスパッタ装置の動作を示すための当該装置の上面図である。
図18】評価試験の結果を示すグラフ図である。
図19】評価試験の結果を示すグラフ図である。
図20】評価試験の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の一実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置1について、図1の縦断側面図及び図2の上面図を参照しながら説明する。なお、図1図2におけるA-A′矢視断面図である。マグネトロンスパッタ装置1は、接地された金属製の真空容器11を備えている。真空容器11は円形であり、その側壁にはウエハWを搬入出するための搬送口12が開口している。当該搬送口12は、ゲートバルブ13により開閉される。
【0009】
真空容器11内にはヒーターを備える円形のステージ14が設けられており、ウエハWを水平に載置すると共に、所望の温度に加熱する。なお、ステージ14には昇降機構によって昇降する昇降ピンが設けられ、当該昇降ピンにより、搬送機構とステージ14との間でウエハWが受け渡されるが、これらの昇降ピン、昇降機構及び搬送機構の図示は省略している。そして、ステージ14は垂直な回転軸15を介して、真空容器11の外部に設けられた回転機構16に接続されている。成膜処理中は当該回転機構16によりステージ14が回転し、当該ステージ14に載置されたウエハWは当該ウエハWの中心軸周りに回転する。図中17は回転軸15の周囲に設けられるシール部材であり、真空容器11内の気密性を担保する。
【0010】
また、真空容器11にはバルブや真空ポンプなどにより構成される排気機構18が設けられており、当該排気機構18によって真空容器11内が排気されて所望の圧力の真空雰囲気とされる。そして、真空容器11にはガス供給部21が設けられている。当該ガス供給部21は、真空容器11の外部に設けられるAr(アルゴン)ガス供給機構22に接続されている。Arガス供給機構22は、プラズマ形成用のガスであるArガスの供給源、マスフローコントローラ、バルブなどを含み、所望の流量のArガスをArガス供給部21に供給することができるように構成されており、当該Arガスはガス供給部21から真空容器11内に吐出される。
【0011】
マグネトロンスパッタ装置1は、スパッタ機構3A~3Dを備える。スパッタ機構3A~3Dは、ターゲット31、電極形成板32、マグネット配列体33、移動機構34及び保持部35を各々構成部材として含み、ターゲット31を構成する材料が互いに異なることを除いては互いに同様の構成である。以降、上記のスパッタ機構3A~3Dの各構成部材について、どのスパッタ機構を構成している部材かを明確にするために、数字の符号の後にスパッタ機構を表す英字と同じ英字を付して示す。具体的にスパッタ機構3Aの構成部材を例に挙げると、当該スパッタ機構3Aを構成するターゲット、電極形成板、マグネット配列体、移動機構、保持部については、夫々31A、32A、33A、34A、35Aとして表す。
【0012】
スパッタ機構3A~3Dのターゲット31A、31B、31C、31Dを構成する材料は、夫々例えばTa(タンタル)、Cu(銅)、CoFeB(コバルト、鉄、ホウ素)、Ru(ルテニウム)である。マグネトロンスパッタ装置1は、これらの各材料からなる膜を個別にウエハWに成膜できるように構成されている。
【0013】
スパッタ機構3A~3Dのうち、代表してスパッタ機構3Aについて説明する。上記の電極形成板32Aは、概ね長方形の板状に構成されており、真空容器11の天井部に設けられた開口を塞ぐように配置されている。電極形成板32Aの下方には、矩形板をなすターゲット31Aが当該電極形成板32Aに重なって設けられており、ターゲット31Aの下面(一面)は真空容器11内に面している。保持部35Aが電極形成板32Aの側周を囲むように設けられ、真空容器11の天井部と電極形成板32Aとを互いに接続し、当該電極形成板32Aを当該天井部に保持している。保持部35Aは絶縁部材36を備え、真空容器11と、電極形成板32A及びターゲット31とを互いに絶縁している。
【0014】
電極形成板32Aの上方には、マグネット配列体33Aが当該電極形成板32Aに近接して設けられている。従って、マグネット配列体33Aは、ターゲット31Aの上面側(他面側)に設けられている。図3は、マグネット配列体33Aの下面を示している。当該マグネット配列体33Aは概ね直方体形状をなし、矩形状の支持体37と、支持体37の下方に設けられたマグネット38、39により構成されている。マグネット38は支持体37の中央部に設けられる。マグネット39は支持体37の周縁部に沿うように、マグネット38から離れて設けられている。マグネット38の下部側の磁極とマグネット39の下部側の磁極とは互いに異なる。従って、マグネット38の上部側の磁極とマグネット39の上部側の磁極とについても互いに異なる。
【0015】
また、マグネット配列体33Aの支持体37は、移動機構34Aに接続されている。移動機構34Aはモータを含む。当該モータの駆動によってマグネット配列体33Aは、電極形成板32A上における当該電極形成板32Aの長さ方向の一端側と他端側との間を、当該電極形成板32Aの上面に沿って直線移動する。
【0016】
上記の電極形成板32Aは直流電源41Aに接続されており、それによって電極形成板32A及びターゲット31Aはカソードとして構成されている。Arガスが真空容器11内に供給された状態で、当該直流電源41Aから電極形成板32Aに電力が供給されることで、ターゲット31Aの下面側の空間にプラズマが形成される。このプラズマ形成時において、マグネット配列体33Aが上記の電極形成板32Aの長さ方向の一端側と他端側との間を往復移動、即ち揺動する。
【0017】
ターゲット31Aの下面側の空間において、マグネット配列体33Aに重なる領域のプラズマ密度が高くなる。つまりターゲット31Aの下面において、マグネット配列体33Aに重なる部位におけるスパッタが促進され、多くの粒子が放出されて、当該粒子がウエハWに付着し、成膜がなされる。上記のようにマグネット配列体33Aが揺動することで、ターゲット31Aの一部のみが局所的にスパッタされることが防止され、ターゲット31Aの利用効率が高まるように構成されている。
【0018】
スパッタ機構3B~3Dの電極形成板32B~32Dにも各々直流電源が接続されており、これらの直流電源を41B~41Dとして示している。従って、スパッタ機構3A~3Dのターゲット31A~31Dには、電極形成板32A~32Dを介して個別に電力を供給することができ、ターゲット31A~31Dのうち、電力が供給されたターゲットの下方側に限定的にプラズマが形成される。つまり、ターゲット31A~31Dのうちの一部のみのターゲットを選択してスパッタし、スパッタされたターゲットの材料からなる膜をウエハWに形成することができる。スパッタ機構3A~3Dのうち、そのようにプラズマが形成されるように電力が供給されるスパッタ機構が選択されたスパッタ機構、残りが非選択のスパッタ機構であり、本例ではスパッタ機構3A~3Dのうちの一つのみが選択されたスパッタ機構として成膜が行われる。
【0019】
上記のようにプラズマを形成してウエハWに成膜処理を行うにあたり、直流電源41A~41Dは、各々接続される電極形成板32A~32Dに供給される電力が一定となるように動作する。また、図示しない電圧監視部が設けられており、電極形成板32A~32Dを介してターゲット31A~31Dに印加される電圧(放電電圧)がモニターされる。そして、この放電電圧が許容値を越えた直流電源については、ターゲットへの電力供給が停止する。
【0020】
電極形成板32A~32Dの配置についてさらに詳しく説明する。真空容器11の天井部は、周縁部側よりも中心P側が高くなるように傾斜しており、その傾斜する天井部と平行になるように電極形成板32A~32Dについては、当該中心P側に向う端部が天井部の周縁に向う端部よりも高くなるように傾斜して設けられている。なお、図1については、当該真空容器11の天井部については周縁部側から中心P側に向って見た断面を表しているため、上記の天井部及び電極形成板32A~32Dの各傾斜については示されていない。
【0021】
そして電極形成板32A~32Dについては当該中心Pから離れると共に、平面視、当該中心Pに対して回転対称性を有するように配置されている。さらに詳しく述べると、中心Pから真空容器11を周方向に見て、電極形成板32A~32Dが90°毎に設けられており、当該反時計回りに32A、32B、32C、32Dの順で間隔を空けて並んでいる。従って、真空容器11の天井部において、スパッタ機構3A~3Dは周方向に配列されている。そして、電極形成板32A~32Dの長さ方向(即ちマグネット配列体33A~33Dの移動方向)は、平面視、天井部の半径方向に対して直交している。
【0022】
従って、スパッタ機構3A~3Dについて平面視、周方向に隣接するものを組とすると、いずれの組においてもマグネット配列体同士、その移動方向の延長線が交差、より詳しくは直交する。つまり、具体的にはスパッタ機構3A、3Bを組とすると、それらのマグネット配列体33A、33Bの移動方向の延長線は平面視互いに直交し、スパッタ機構3A、3Cを組とすると、それらのマグネット配列体33A、33Cの移動方向の延長線は平面視互いに直交する。その他の平面視で周方向に隣接するスパッタ機構の組み合わせについて見ても、各マグネット配列体の移動方向は上記のマグネット配列体33A、33Bの関係と同様である。
【0023】
また、上記のようにスパッタ機構3A~3Dが配置されているので、真空容器11の外周から中心Pに向けて任意の一つのスパッタ機構を見ると、当該スパッタ機構のマグネット配列体33A~33Dは左右に移動する。既述したように電極形成板32A~32Dのうちプラズマを形成するために電力が供給される電極形成板上を、当該電極形成板に対応する(当該電極形成板と同じスパッタ機構を構成する)マグネット配列体33A~33Dが往復移動してスパッタが行われる。このスパッタを行うための往復移動路について、上記のように外周から中心Pに向けて見たときの右端を右位置R、左端を左位置Lとする。右位置R及び左位置Lのうちの一方が第1の位置、他方が第2の位置であり、本例では電極形成板と、当該電極形成板に対応するマグネット配列体の右位置R及び左位置Lとの位置関係は、スパッタ機構3A~3D間で同じである。図2では右位置Rに位置するマグネット配列体33A~33Dを鎖線で、左位置Lに位置するマグネット配列体33A~33Dを実線で夫々示している。
【0024】
マグネトロンスパッタ装置1はコンピュータである制御部10を備えており(図1参照)、この制御部10は、プログラムを備えている。このプログラムは、例えばコンパクトディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、DVDなどの記憶媒体に収納され、制御部10にインストールされる。制御部10は当該プログラムにより、マグネトロンスパッタ装置1の各部に制御信号を出力して、動作を制御する。具体的には、直流電源41A~41Dのオンオフの切替え、回転機構16によるステージ14の回転、Arガス供給機構22によるArガスの給断、排気機構18による排気、移動機構34A~34Dによるマグネット配列体33A~33Dの揺動などの動作が、上記の制御信号により制御される。そのように各部の動作を制御し、後述の処理が行えるように、上記のプログラムについてはステップ群が組まれている。
【0025】
マグネトロンスパッタ装置1では、プラズマ形成のために電力が供給されるスパッタ機構のマグネット配列体が形成する磁場に対して、他のマグネット配列体による磁場の干渉が抑制されるように、マグネット配列体33A~33Dの動作が制御される。そのように磁場干渉が抑制されることで、プラズマの強度が変化することを防ぎ、それによって電極形成板に印加される直流電圧の変動を抑制し、結果として、当該電圧の最大値(最大放電電圧)について低減される。
【0026】
以下、マグネトロンスパッタ装置1の動作例について、上面図である図4図6を参照しながら具体的に説明する。なお、この図4図6及び以降に示す各上面図では、どのターゲットに電力供給して成膜処理を行っているかを明確に示すために、直流電源41A~41Dのうちターゲットに電力を供給しているもののみを表示し、電力を供給していないものについては表示を省略する。
【0027】
先ず、ウエハWが真空容器11内に搬送されてステージ14に載置され、所望の温度に加熱されると共に回転する。排気機構18により真空容器11内が所望の圧力の真空雰囲気となり、真空容器11内には所望の流量でArガスが供給される。そしてスパッタ機構3A~3Dのマグネット配列体33A~33Dが、例えば左位置Lに位置した状態でスパッタ機構3Cを構成する電極形成板32Cに直流電源41Cから電力が供給され、当該電極形成板32Cに接続されるターゲット31Cの下方でArガスがプラズマ化される。
【0028】
そのようにプラズマが形成される一方で、移動機構34A~34Dを構成する各モータが互いに同じ速度で回転し、それによってマグネット配列体33A~33Dが互いに同じ速度で右位置Rへ向けて移動を開始する(図4)。なお、図5はマグネット配列体33A~33Dが、各々右位置Rと左位置Lとの中間に位置した状態を示している。
【0029】
そしてマグネット配列体33A~33Dが同時に右位置Rに到達すると、各モータの回転方向が切り替わって互いに同じ速度で回転し、マグネット配列体33A~33Dは互いに同じ速度で左位置Lへ向けて移動を開始する(図6)。それによりマグネット配列体33A~33Dは、図5に示した位置状態を経て、左位置Lに同時に位置し、続いて再度、図4に示したように右位置Rに向けて互いに同じ速度で移動を開始する。
【0030】
以降、図4図6に示したマグネット配列体33A~33Dの移動(揺動)が繰り返される。従って、マグネット配列体33A~33Dの全てが、右位置R、左位置Lのうち同じ位置に向うように同期して移動する。なお同期して移動するとは、複数のマグネット配列体が夫々の移動路(揺動路)を往復移動するにあたり、共に移動路の一端側に向けて移動し、且つ共に移動路の他端側に向けて移動することである。上記した真空容器11の中心Pを中心とし、平面視マグネット配列体33A~33Dの中心を通過する仮想円を考える。上記のようにマグネット配列体33A~33Dが同期して移動することで、マグネット配列体33A~33Dが左位置Lに位置するときと、右位置Rに位置するときとで、この仮想円上における各マグネット配列体33A~33Dの相対位置は同じである。なお、例えばマグネット配列体33A~33Dが右位置Rに向かうときの速度、左位置Lに向かうときの速度は互いに等しく、マグネット配列体33A~33Dは右位置R、左位置Lの夫々に周期的に位置する。
【0031】
このような同期した揺動中においては、電力が供給されているスパッタ機構3Cのマグネット配列体33Cが左位置Lに向けて移動する間、マグネット配列体33Bはこのマグネット配列体33Cに近接しないように左位置Lに向けて移動する。そして、マグネット配列体33Cが右位置Rに向けて移動する間、マグネット配列体33D(他のマグネット配列体)はマグネット配列体33Bに近接しないように右位置Rに向けて移動する。このようにマグネット配列体33B、33C、33Dが同期して揺動することで、マグネット配列体33Cは、移動路の延長線について交差する関係となっているマグネット配列体33B、33Dに対して近接することが防止される。従ってマグネット配列体33Cが形成する磁場が、マグネット配列体33B、33Dが形成する磁場の干渉を受けることが抑制される。
【0032】
また、マグネット配列体33Aと33Cとは比較的離れて位置するため、マグネット配列体33Cにより形成される磁場は、マグネット配列体33Aにより形成される磁場による干渉を受けにくい。そして上記のようにマグネット配列体33A、33Cが右位置R、左位置Lのうち同じ位置に向けて同期して移動する。それによって、これらマグネット配列体33A、33Cが共に右位置Rまたは左位置Lに位置するが、そのときにマグネット配列体33A、33C間の距離が、より長くなる(図4図6参照)。このように距離がより長くなる状態が形成されるため、上記のマグネット配列体33A、33C間での磁場干渉がさらに確実に抑制されると考えられる。
【0033】
このようにプラズマを形成するスパッタ機構3Cにおけるマグネット配列体33Cによって形成される磁場は、マグネット配列体33A、33B、33Dによって形成される磁場による干渉を受け難い。従って、当該磁場干渉によるターゲット31Cの下方のプラズマ強度の変化が抑制され、結果として、ターゲット31Cに印加される電圧の変動は抑制される。そして、マグネット配列体33Cの揺動に応じてターゲット31Cの下面に沿ってプラズマ強度が比較的高い領域、即ちターゲット31Cにおいてスパッタが促進される領域が移動し、当該スパッタにより放出されたCoFeBであるスパッタ粒子がウエハWの表面に付着し、CoFeB膜が形成される。
【0034】
ターゲット31Cへの電力供給が開始されてから所定の時間が経過すると直流電源41Cがオフになり、当該電極形成板32Cへの電力供給が停止する。その代りに、直流電源41A、41B、41Dのいずれかがオンになり、ターゲット31A、31B、31Dのいずれかへの電力供給が開始される。ターゲット31A、31B、31Dのいずれかへ電力供給する際も、ターゲット31Cへの電力供給時と同様に、マグネット配列体33A~33Dが右位置R、左位置Lのうち同じ位置へ向うように同期して揺動する。上記したようにスパッタ機構3A~3Dは回転対称性をもって形成されている。従って、ターゲット31A、31B、31Dのうちの電力が供給されるターゲットに対応するマグネット配列体の磁場は、上記のターゲット31Cをスパッタする際のマグネット配列体33Cの磁場と同様に、他のマグネット配列体による磁場の干渉を受けにくい。それ故に、当該ターゲットに印加される電圧の変動が抑えられつつ、そのターゲットの材料からなる膜がウエハWに形成される。
【0035】
例えばこれ以降もターゲット31A~31Dの中で電極形成板を介して電力が供給されるターゲットが順次切り替えられ、且つその電力供給によるプラズマ形成中に、マグネット配列体33A~33Dが右位置R、左位置Lのうち同じ位置に向けて同期して揺動する。つまり、スパッタ機構3A~3Dについて平面視、周方向に隣接するスパッタ機構を組とすると、いずれの組でもマグネット配列体が互いに近接せずに同期して揺動する状態が続けられる。それにより、ターゲット31A~31Dに印加される電圧の変動が抑制されつつ、膜がウエハWに順次積層される。そして、所望の構造の積層膜が形成されると、真空容器11内へのArガスの供給及びターゲット31A~31Dへの電力供給が停止して、真空容器11内におけるプラズマの形成が停止すると共に、マグネット配列体33A~33Dの移動及びウエハWの回転が停止する。然る後、搬送機構によって、ウエハWは真空容器11内から搬出される。
【0036】
このようにマグネトロンスパッタ装置1によれば、マグネット配列体33A~33D間での磁場干渉を抑制することができるので、電極形成板32A~32Dの各々に印加される電圧の変動を抑制することができる。従って、電極形成板32A~32Dへの供給電力を比較的高い値に設定しても、当該電極形成板32A~32Dの各々に印加される電圧の最大値を比較的小さい値とすることができるので、当該電圧が許容値を越えることによる直流電源41A~41Dの動作の停止を防いで、ウエハWに安定した処理を行うことができる。そして、電極形成板32A~32Dへの供給電力を高い値に設定することで、Arガスを効率良くプラズマ化できる。従って、真空容器11に供給するArガスの流量の低減化及びウエハWに対する成膜速度の高速化を図ることができる。
【0037】
なお、マグネトロンスパッタ装置1は、既述のように複数種類の材料の膜をウエハWに成膜可能に構成されている。従って、例えばMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)やハードディスクの磁気ヘッドに用いられる多層膜であるMTJ(磁気トンネル)素子の製造に好適に用いられる。ただし、その用途に限られるものではない。また、マグネトロンスパッタ装置1は、積層膜の形成に用いることに限られず、単層の膜の形成に用いてもよい。
【0038】
ところで、上記の例ではマグネット配列体33A~33D間で同様に揺動するものとして説明したが、この揺動に違いがあってもよい。具体的には例えば、上記の左位置Lと右位置Rとの間隔の大きさについて、マグネット配列体33A~33D間で違いがあってもよい。その場合には、その間隔の違いに応じて移動機構34A~34Dによるマグネット配列体33A~33Dの速度が互いに異なるようにし、マグネット配列体33A~33D間で右位置Rへ到達するタイミング、左位置Lへ到達するタイミングが夫々揃うようにしてもよい。
【0039】
また、マグネット配列体33A~23Dの一往復動作中において、右位置Rに位置するタイミング、左位置Lに位置するタイミングの夫々について、マグネット配列体33A~33D間で若干のずれがあってもよい。従って、スパッタ機構3A~3Dの動作制御の精度の限界により、マグネット配列体33A~33D間で動作にずれが生じてもよい。ただし、上記の右位置Rに位置するタイミングのずれ、左位置Lに位置するタイミングのずれが夫々大きいと、電力供給されるスパッタ機構のマグネット配列体と、そのマグネット配列体に対して周方向両隣のマグネット配列体との距離を十分に離すことができなくなるおそれが有る。従って、マグネット配列体33A~33Dが右位置Rに位置するタイミングのずれ(最も早く右位置Rに到達したマグネット配列体の到達時刻と最も遅く右位置Rに到達したマグネット配列体の到達時刻との差)については小さくすることが好ましく、例えば1秒以下とすることが好ましい。同様にマグネット配列体33A~33Dが左位置Lに位置するタイミングのずれについても小さくすることが好ましく、例えば1秒以下とすることが好ましい。
【0040】
既述したマグネット配列体33A~33Dの全てを左位置L、右位置Rのうちの同じ位置に向けて同期して揺動させる動作を全同期揺動とする。ウエハWを処理するにあたり、この全同期揺動を行うことには限られない。図7図8はマグネット配列体33A~33Dの他の動作例を示しており、この動作例について全同期揺動との差異点を中心に説明する。
【0041】
例えばマグネット配列体33A、33Bが右位置R、マグネット配列体33C、33Dが左位置Lに夫々位置した状態で、電極形成板32Cに電力が供給され、当該電極形成板32Cに接続されるターゲット31Cがスパッタされ、成膜が開始される(図7)。そして、マグネット配列体33A、33Bが左位置L、マグネット配列体33C、33Dが右位置Rに移動する(図8)。続いて、マグネット配列体33A、33Bが右位置R、マグネット配列体33C、33Dが左位置Lに夫々移動し、各マグネット配列体33A~33Dの配置は図7に示した状態に戻る。その後は、以上に述べたマグネット配列体33A~33Dの一連の移動が繰り返される。従ってマグネット配列体33A~33Dの配置について、図7に示す状態、図8に示す状態が交互に切り替わる。
【0042】
このようにマグネット配列体33A~33Dを揺動させても、後述の評価試験で示すように電極形成板32Cに印加される電圧の変動が抑制される。これは、全同期揺動する場合と同様、マグネット配列体33C、33Dについて互いに近接しないため、これらのマグネット配列体同士の磁場干渉が抑制されることによると考えられる。また、図8に示すようにマグネット配列体33Cが右位置Rから左位置Lに向けて移動するとき、当該マグネット配列体33Cに対して周方向に隣接したマグネット配列体33Bは、右位置Rへ向けて移動することでマグネット配列体33Cから離れるように移動する。そのため、例えばマグネット配列体33Bを左位置Lに固定しておく場合に比べて、マグネット配列体33C、33Bが近接する期間が短く、マグネット配列体33Cの磁場がマグネット配列体33Bによる磁場の影響を受けにくいことによると考えられる。
【0043】
ただし、マグネット配列体33Cが右位置Rに向けて移動するとき、左位置Lに向けて移動するマグネット配列体33Bに近接するので、その際にこれらのマグネット配列体33C、33Bの磁場干渉により、既述した電圧変動が比較的大きくなるおそれがある。従って、より確実に電圧変動を抑制して直流電源41Cの動作停止のリスクを低減させるためには、既述した全同期揺動を行うことがより好ましい。
【0044】
図7図8に示したように、マグネット配列体33A~33Dのうち周方向に隣接する2つずつが組となり、同じ組内では左位置L、右位置Rのうち同じ位置に向かうように同期して揺動するが、別の組同士の間では反対の位置に向うように同期して揺動することを、以降は半同期揺動と記載する。なお、このように半同期揺動させて処理を行うにあたり、上記の図7図8の例では電極形成板32Cに電力を供給したが、当該電極形成板32Cの代わりに電極形成板32A、32Bまたは32Dに電力を供給して処理を行ってもよい。
【0045】
また、図7図8の例ではマグネット配列体33C、33Dの2つを左右の同じ位置に向うように同期して揺動させているが、マグネット配列体33B、33C、33Dの3つを左右の同じ位置に向うように同期して揺動させてもよい。その場合には、全同期揺動の例で説明したようにマグネット配列体33B、33C間の磁場干渉がより確実に抑制されるので好ましい。
【0046】
さらに他のマグネット配列体33A~33Cの動作例について、図9に示している。この例でもスパッタ機構3Cの電極形成板32Cに電力が供給されてプラズマが形成され、マグネット配列体33Cが揺動してウエハWに処理が行われる。その間、マグネット配列体33Bについては右位置R、マグネット配列体33Dについては左位置Lで夫々静止する。つまり、スパッタ機構3B、3D(非選択のスパッタ機構)のマグネット配列体33B、33Dは、左位置L及び右位置Rのうち、スパッタ機構3C(選択されたスパッタ機構)からより離れた方の位置にて静止させている。
【0047】
このようにマグネット配列体33B、33Dについては揺動させる範囲内において最も離れた位置にて静止させているので、マグネット配列体33Cと、マグネット配列体33B、33Dとの間における磁場干渉が抑制され、既述した各例と同様に電極形成板32Cに印加される電圧変動が抑制される。なお、この図9に示す例で、マグネット配列体33Aについては左位置Lで静止させているが、マグネット配列体33Cから比較的大きく離れていることで上記したように磁場干渉が抑えられるので、当該左位置Lで静止させなくてもよく、右位置Rにて静止させてもよいし、左右に揺動させてもよい。
【0048】
なお、電極形成板32Cに電力を供給して処理を行う例を示したが、他の電極形成板に電力を供給する場合は、揺動させるマグネット配列体及び静止させるマグネット配列体について、図9に示した例から回転対称性をもって変更すればよい。例えば電極形成板32Bに電力を供給して処理を行う場合は、電極形成板32Bに対応するマグネット配列体33Bを右位置Rと左位置Lとの間で揺動させる一方で、マグネット配列体33A、33Cについては夫々左位置L、右位置Rにて静止させることで、当該マグネット配列体33Bから遠ざければよい。
【0049】
ところで、例えば図9で説明したようにスパッタ機構3Cに電力を供給して処理を行うとした場合、移動機構34Bによりマグネット配列体33Bを右位置Rよりもさらにスパッタ機構3Cから離れた位置に移動させることが可能であれば、そのような位置に移動させることが好ましい。同様に、移動機構34Dによりマグネット配列体33Dを左位置Lよりもさらにスパッタ機構3Cから離れた位置に移動させることが可能であれば、そのような位置に移動させることが好ましい(図10参照)。つまり、スパッタ機構3B、3Dに夫々電力を供給して処理を行う場合には、図2等で示したようにマグネット配列体33B、33Dは左位置Lと右位置Rとの間を揺動して処理が行われる。しかしマグネット配列体33Cとの磁場干渉を抑えるためには、そのように処理を行うために揺動が行われる範囲から外れ、さらにマグネット配列体33Cから遠ざかった位置にマグネット配列体33B、33Dを退避させてもよいということである。
【0050】
なお、図9等で示したようにスパッタ機構3Cに電力を供給して処理を行うにあたり、マグネット配列体33B、33Dの位置については、マグネット配列体33Cから大きく離れるほど磁場干渉を抑えて電圧変動を抑制できると考えられる。ただし、マグネット配列体33B、33Dとマグネット配列体33Cとの間に、ある程度の距離が確保されていれば十分な効果を得られると推定される。つまり、図9で述べた位置よりも若干スパッタ機構3C寄りの位置にマグネット配列体33B、33Dを退避させてもよく、マグネット配列体33B、33Dは右位置R及び左位置Lのうち、スパッタ機構3Cからより離れた位置側にて位置させておけばよい。右位置R及び左位置Lのうちのスパッタ機構3Cからより離れた位置側とは、より具体的には右位置Rと左位置Lとの間の往復移動路を二等分する中間位置に対してスパッタ機構3Cからより離れた側の領域である。なお、当該領域において、マグネット配列体33B、33Dは静止させておくことに限られず、移動していてもよい。
【0051】
続いて、マグネトロンスパッタ装置1の変型例であるマグネトロンスパッタ装置1Aについて、図11の縦断側面図を参照しながら、マグネトロンスパッタ装置1Aとの差異点を中心に説明する。マグネトロンスパッタ装置1Aのスパッタ機構3A、3B、3C、3Dは、制御部10から出力制御信号によって動作が制御される昇降機構30A、30B、30C、30Dを夫々備える。図示の便宜上、図11ではこれらの昇降機構30A~30Dのうち、30A、30Bのみを示している。また、このマグネトロンスパッタ装置1Aにおいてもスパッタ機構3A~3Dは互いに同様の構成であり、代表してスパッタ機構3Aについて、図11とは異なる方向から見た縦断側面を図12に示している。
【0052】
昇降機構30A~30Dは真空容器11の天井部に設けられ、移動機構34A~34Dに夫々接続されている。そして、昇降機構30A~30Dは当該移動機構34A~34Dを介してマグネット配列体33A~33Dを電極形成板32A~32Dの面方向に直交する方向に沿って昇降させ、電極形成板32A~32Dに近接する処理位置と、当該処理位置の上方の退避位置との間で移動させる。図12ではマグネット配列体33Aについて、実線で処理位置(第1の高さ位置)に位置する状態を、鎖線で退避位置(第2の高さ位置)に位置する状態を夫々状態を示している。
【0053】
図13は、マグネトロンスパッタ装置1Aを真空容器11の周方向に沿って縦断し、且つ展開した断面図であり、この図13を参照してマグネトロンスパッタ装置1Aの動作例を説明する。例えば図4図6で述べたようにターゲット31Cに電力を供給し、マグネット配列体33A~33Dについては全同期揺動させて処理を行う。その際に、マグネット配列体33Cについてはターゲット31Cの下面にプラズマを形成するために処理位置にて揺動する。プラズマの形成に関与しないマグネット配列体33A、33B、33Dについては、退避位置にて揺動する。そのように互いの高さが異なるため、マグネット配列体33Cと、マグネット配列体33A、33B、33Dとの距離は、図4図6で示した処理例よりも大きい。従って、既述した磁場干渉がより確実に抑制され、マグネット配列体33Cに印加される電圧変動をより確実に抑制することができる。
【0054】
図7図8で説明したように半同期揺動させて処理を行う場合や、図9で説明したように電力を供給しないターゲットに対応するマグネット配列体を静止させて処理を行う場合にも、このマグネトロンスパッタ装置1Aを用いることができる。その場合に、電力が供給されるターゲットに対応するマグネット配列体は処理位置に、電力が供給されないターゲットに対応するマグネット配列体は退避位置に、夫々位置させて処理を行えばよい。
【0055】
ところで、スパッタ機構3A~3Dの電極形成板32A~32Dのうちの一つを選択して電力を供給して処理を行う例を示してきたが、複数を選択して電力を供給して処理を行ってもよい。図14に示す例では全同期揺動を行った状態で、電極形成板32C、32Dに電力を供給して処理を行っている。従って、ターゲット31C、31Dが共にスパッタされ、これらのターゲット31C、31Dを構成する材料からなる合金膜がウエハWに形成される。既述したように全同期揺動を行うことで、マグネット配列体33Cは他のマグネット配列体に対して近接することが防止されるし、マグネット配列体33Dについても他のマグネット配列体に対して近接することが防止される。そのため、電極形成板32C、32Dに印加される電圧の変動が抑制される。
【0056】
なお、全同期揺動によりマグネット配列体33A~33Dの各々の近接が防止されるため、電力を供給するターゲットの組み合わせとしては、図14に示したような周方向に隣接するスパッタ機構のターゲットには限られない。つまり、スパッタ機構3A~3Dのうちの任意の一のスパッタ機構のターゲットと、その一のスパッタ機構の2つ隣のスパッタ機構のターゲットに各々電力を供給してもよい。また、スパッタ機構3A~3Dのうちの3つのターゲットに電力を供給して処理を行ってもよい。このようにプラズマ処理を行うように選択されるスパッタ機構としては、複数であってもよい。
【0057】
また、ターゲット31C、31Dに電力を供給して処理を行う場合、図15に示すようにマグネット配列体33C、33Dについては、左位置L、右位置Rのうち同じ位置に向けて同期させて移動させる。その一方でマグネット配列体33Cとの磁場干渉を防ぐために、マグネット配列体33Bについては右位置Rで静止させると共に、マグネット配列体33Dとの磁場干渉を防ぐためにマグネット配列体33Aについては左位置Lで夫々静止させるようにしてもよい。このように選択されたスパッタ機構に対して、2つのスパッタ機構を左位置L、右位置Rのうち選択されたスパッタ機構から離れた位置側に位置させるにあたり、選択されたスパッタ機構としては複数であってもよい。
【0058】
なおスパッタ機構の数及びレイアウトについては既述の例に限られない。例えば図16に示すようにスパッタ機構3A~3Cの3つのみが設けられ、平面視、天井部の中心Pを重心とした三角形の一辺に沿って各々揺動するように構成されていてもよい。このようにスパッタ機構が3つのみ設けられる場合であっても、全同期揺動させて処理を行うことができる。図16では電極形成板32Aに電力を供給して処理を行う例を示している。そのように電極形成板32Aに電力を供給して処理を行う場合は、図17に示すように、他の電極形成板32B、32Cに対応するマグネット配列体33B、33Cについては、電極形成板32Aから遠ざかるように左位置L、右位置Rで夫々静止させるようにしてもよい。
【0059】
なお、4つよりも多くのスパッタ機構を設けてもよい。また、電極形成板32A~32Dには直流電源41A~41Dの代わりに交流電源が各々接続され、交流電圧が印加されることでプラズマが形成されてもよい。そして、マグネット配列体33A~33Dについては適切な磁界が形成できればよく、既述したマグネットの配置には限られないし、直線移動することに限られず、円弧に沿って移動してもよい。このように今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0060】
〔評価試験〕
本技術に関連する評価試験について説明する。
評価試験1
評価試験1-1~1-3として、マグネトロンスパッタ装置1において電極形成板32Cに電力を供給すると共にマグネット配列体33Cを揺動させ、電極形成板32Cに印加される電圧をモニターした。マグネット配列体33C以外のマグネット配列体の動作については、評価試験1-1~1-3間で異なるようにした。
【0061】
評価試験1-1においてはマグネット配列体33A、33B、33Dについては左位置Lで静止させた。従って、マグネット配列体33Bについては、マグネット配列体33Cに近接する状態となる。評価試験1-2においては図7図8で述べた半同期揺動が行われるようにマグネット配列体33A~33Dを揺動させた。評価試験1-3においては図4図6で述べた全同期揺動が行われるようにした。
【0062】
図18図19図20は、評価試験1-1、1-2、1-3の結果を夫々示すグラフである。グラフの横軸は試験開始時点からの経過時間を示している。図示を省略したが、真空容器11内にはステージ14と真空容器11の天井部とを区画する図示しないシャッタが設けられる。時刻t1は当該シャッタが開き、ウエハWへの成膜が可能になるタイミングを示している。グラフの縦軸はマグネット配列体の位置、ターゲット31Cへの印加電圧(単位:V)を夫々示している。マグネット配列体33A~33Dの位置については、数値が大きいほど右位置R寄りであることを示す。なお、評価試験1-1~1-3ではマグネット配列体33A、33Bについては同様に揺動させているため、図中ではこれらの位置を共通のグラフ線により示している。
【0063】
評価試験1-1~1-3において、時刻t1後の電圧の急上昇が停止して当該電圧が比較的安定化した後における電圧の最大値及び最小値を検出した。評価試験1-1では、電圧の最大値、最小値は夫々512V、476Vであり、従って最大値-最小値=36Vである。評価試験1-2では、電圧の最大値、最小値は夫々510V、479Vであり、従って最大値-最小値=31Vである。評価試験1-3では、電圧の最大値、最小値は夫々498V、472Vであり、従って最大値-最小値=26Vである。
【0064】
このように電圧の最大値及び最大値-最小値について、半同期揺動させた評価試験1-2、全同期揺動させた評価試験1-3については、評価試験1-1に比べて抑制されており、評価試験1-2、1-3間では評価試験1-3の方がより抑制されていた。従って、この評価試験の結果から、マグネット配列体同士の距離が小さくなることを防ぐことで、プラズマを形成するために印加する電圧の変動を抑え、その最大値についても抑制できることが分かる。また、マグネット配列体同士の距離が小さくなることによって起こる磁場干渉の程度によって、上記の電圧の変動の程度が変化することが分かる。そして、マグネット配列体33A~33Dについて、図4図6で述べた全同期揺動あるいは図7図8で述べた半同期揺動させることが有効であり、全同期揺動させることが、より有効であることが示された。
【0065】
評価試験2
評価試験2-1~2-4として、マグネット配列体33A、33Cを左位置Lに静止させ、マグネット配列体33B、33Dの配置の組み合わせが当該評価試験2-1~2-4間で互いに異なるようにして、ターゲット31Cに電力を供給し、当該電圧をモニターした。このターゲット31Cの周方向両隣のマグネット配列体33B、33Dの配置について、評価試験2-1~2-4間で異なるようにした。評価試験2-1ではマグネット配列体33B、33Dを共に左位置Lに配置し、評価試験2-2ではマグネット配列体33B、33Dを左位置L、右位置Rに夫々配置した。評価試験2-3ではマグネット配列体33B、33Dを右位置R、左位置Lに夫々配置した。従って、評価試験2-3におけるマグネット配列体33B、33Dの配置は、図9に示した配置である。評価試験2-4ではマグネット配列体33B、33Dを共に右位置Rに配置した。なお、評価試験2-1~2-4では、Arガスを18sccmで真空容器11内に供給しており、また、ターゲット31A~31Dの材料としては実施形態で述べた材料とは異なり、31Aがモリブデン、33B、33CがCoFeB、31DがCoFeである。ターゲット31B、31C間ではCoの含有率が異なる。
【0066】
モニターされた電圧について、最大値、最小値、平均値を夫々示すと、評価試験2-1では、最大値、最小値、平均値は夫々793V、649V、716Vであり、評価試験2-2では、最大値、最小値、平均値は夫々809V、654V、727Vであった。評価試験2-3では、最大値、最小値、平均値は夫々790V、650V、720Vであり、評価試験2-4では、最大値、最小値、平均値は夫々800V、658V、730Vであった。このように、マグネット配列体33Cに対してマグネット配列体33Dが近接した配置となる評価試験2-2、2-4については各電圧値が比較的高い。そして、マグネット配列体33Cに対してマグネット配列体33Dが比較的離れた評価試験2-1、2-3間では、マグネット配列体33Cに対してマグネット配列体33Bがより離れて位置する評価試験2-3の方が、各電圧値が低い。
【0067】
この評価試験2の結果からは、電圧が印加されるターゲットに対応するマグネット配列体に対し、周方向に隣接したマグネット配列体を離れて配置することで、電圧の変動を抑制できると共に電圧の最大値を低下させることが示された。これは既述したように、そのような配置にすることでマグネット配列体間の磁場干渉が弱まることによると考えられる。また、この評価試験2の結果からは図9で説明したように各マグネット配列体を配置することが有効であることが示された。
【符号の説明】
【0068】
W ウエハ
10 制御部
11 真空容器
14 ステージ
3A~3D スパッタ機構
31A~31D ターゲット
33A~33D マグネット配列体
34A~34D 移動機構
21 ガス供給部
41A~41D 直流電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【手続補正書】
【提出日】2024-06-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を格納する真空容器と、
一面が前記真空容器内に面するターゲットと、マグネット配列体と、前記ターゲットのスパッタを行うために前記マグネット配列体を当該ターゲットの他面側における第1の位置と第2の位置との間で往復移動させる移動機構と、を各々備える複数のスパッタ機構と、
前記複数のスパッタ機構のうちの一部を選択されたスパッタ機構、残りを非選択のスパッタ機構として、前記選択されたスパッタ機構によって前記基板に成膜が行われるように前記ターゲットに電力を供給してプラズマを形成するための電源と、
前記真空容器内に前記プラズマを形成するためのガスを供給するガス供給部と、
前記成膜を行うにあたり、前記選択されたスパッタ機構における前記マグネット配列体の前記第1の位置と前記第2の位置との間隔と、前記非選択のスパッタ機構における前記マグネット配列体の前記第1の位置と前記第2の位置との間隔と、が異なる場合において、前記各マグネット配列体の前記第1の位置、または前記第2の位置に到達するタイミングが揃うように、前記非選択のスパッタ機構の前記マグネット配列体の位置を制御する制御部と、
を備えるマグネトロンスパッタ装置。
【請求項2】
前記第1の位置及び前記第2の位置のうち、前記各マグネット配列体が到達するタイミングが揃う位置に前記選択されたスパッタ機構における前記マグネット配列体が位置するときに、
前記非選択のスパッタ機構の前記マグネット配列体は前記第1の位置及び前記第2の位置のうち、前記選択されたスパッタ機構のマグネット配列体からより離れた方に位置する請求項1記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項3】
前記制御部は、平面視で互いの前記マグネット配列体の移動路の延長線が交差する前記選択されたスパッタ機構の当該マグネット配列体と、前記非選択のスパッタ機構の当該マグネット配列体と、について、近接しないように同期して移動させる請求項2記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項4】
前記スパッタ機構は3つ以上設けられ、
2つ以上の当該スパッタ機構が選択されて成膜が行われる請求項1ないし3のいずれか一つに記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項5】
前記複数のスパッタ機構は前記真空容器の天井部において、当該真空容器の周方向に配列され、
平面視で当該周方向に隣接する前記スパッタ機構の互いの前記マグネット配列体の移動路の延長線が交差し、当該周方向に隣接する前記スパッタ機構について、一方が前記選択されたスパッタ機構、他方が前記非選択のスパッタ機構として成膜が行われる請求項1ないし4のいずれか一つに記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項6】
前記スパッタ機構は4つ、前記真空容器の周方向に配列され、
平面視で当該周方向に隣接する前記スパッタ機構を組とすると、いずれの組でも前記マグネット配列体の移動路の延長線が交差すると共に、当該マグネット配列体同士が互いに近接しないように同期して移動する請求項5記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項7】
前記複数のスパッタ機構は、第1の高さ位置と当該第1の高さ位置よりも前記ターゲットから離れる第2の高さ位置との間で前記マグネット配列体を昇降させる昇降機構を各々備え、
前記選択されたスパッタ機構の前記マグネット配列体は前記第1の高さ位置にて、前記非選択のスパッタ機構の前記マグネット配列体は前記第2の高さ位置にて、各々往復移動する請求項1ないし6のいずれか一つに記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項8】
前記各マグネット配列体は、前記第1の位置と前記第2の位置との間隔の違いに応じて異なる速度で当該第1の位置と当該第2の位置との間を移動する請求項1ないし7のいずれか一つに記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項9】
基板を真空容器に格納する工程と、
一面が前記真空容器内に面するターゲットと、マグネット配列体と、移動機構と、を各々備え、平面視、前記マグネット配列体の移動方向が互いに交差する複数のスパッタ機構における前記マグネット配列体を、前記ターゲットのスパッタを行うために、当該ターゲットの他面側における第1の位置と第2の位置との間で往復移動させる工程と、
前記複数のスパッタ機構のうちの一部を選択されたスパッタ機構、残りを非選択のスパッタ機構として、電源により、前記選択されたスパッタ機構によって前記基板に成膜が行われるように前記ターゲットに電力を供給してプラズマを形成する工程と、
ガス供給部により前記真空容器内に前記プラズマを形成するためのガスを供給する工程と、
前記成膜を行うにあたり、前記選択されたスパッタ機構における前記マグネット配列体の前記第1の位置と前記第2の位置との間隔と、前記非選択のスパッタ機構における前記マグネット配列体の前記第1の位置と前記第2の位置との間隔と、が異なる場合において、前記各マグネット配列体の前記第1の位置、または前記第2の位置に到達するタイミングが揃える工程と、
を含むマグネトロンスパッタ方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
本開示のマグネトロンスパッタ装置は、基板を格納する真空容器と、
一面が前記真空容器内に面するターゲットと、マグネット配列体と、前記ターゲットのスパッタを行うために前記マグネット配列体を当該ターゲットの他面側における第1の位置と第2の位置との間で往復移動させる移動機構と、を各々備える複数のスパッタ機構と、
前記複数のスパッタ機構のうちの一部を選択されたスパッタ機構、残りを非選択のスパッタ機構として、前記選択されたスパッタ機構によって前記基板に成膜が行われるように前記ターゲットに電力を供給してプラズマを形成するための電源と、
前記真空容器内に前記プラズマを形成するためのガスを供給するガス供給部と、
前記成膜を行うにあたり、前記選択されたスパッタ機構における前記マグネット配列体の前記第1の位置と前記第2の位置との間隔と、前記非選択のスパッタ機構における前記マグネット配列体の前記第1の位置と前記第2の位置との間隔と、が異なる場合において、前記各マグネット配列体の前記第1の位置、または前記第2の位置に到達するタイミングが揃うように、前記非選択のスパッタ機構の前記マグネット配列体の位置を制御する制御部と、
を備える。