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特開2024-10744セレン化水素ガス検知器を用いた排水中の水溶性セレンの分析方法
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  • 特開-セレン化水素ガス検知器を用いた排水中の水溶性セレンの分析方法 図1
  • 特開-セレン化水素ガス検知器を用いた排水中の水溶性セレンの分析方法 図2
  • 特開-セレン化水素ガス検知器を用いた排水中の水溶性セレンの分析方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010744
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】セレン化水素ガス検知器を用いた排水中の水溶性セレンの分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
G01N31/00 A
G01N31/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112206
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】大山 聖一
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA20
2G042BB20
2G042CA02
2G042CB03
2G042DA03
2G042FA01
2G042FA04
2G042FA05
2G042GA01
(57)【要約】
【課題】セレン化水素ガス検知器を利用して排水中の6価セレン濃度を測定する際の過大評価を抑えて測定精度の低下を未然に防いで定量分析を可能とする。
【解決手段】水素化ホウ素ナトリウムと塩酸とを添加して常温で反応させる水素化除去処理と、塩酸を添加して加熱する還元処理とを経由させた後、排水試料に含まれるセレンを水素化ホウ素ナトリウムと反応させてセレン化水素ガスを発生させ、このセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導いて、セレン化水素ガス検知器により検出された信号値に基づいて、排水試料に含まれる6価セレン濃度を定量分析する水溶性セレン分析方法において、6価セレンの測定結果が過大評価されているときに、前記水素化除去処理済み排水試料に過マンガン酸カリウムと硫酸とを添加して加熱することにより、水素化除去処理において除去できなかった硫酸イオン以外の硫黄化合物を硫酸イオンとする有機物分解処理を実施するようにしている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ホウ素ナトリウムと塩酸とを添加して常温で反応させる水素化除去処理と、塩酸を添加して加熱する還元処理とを経由させた後、排水試料に含まれるセレンを水素化ホウ素ナトリウムと反応させてセレン化水素ガスを発生させ、このセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導いて、セレン化水素ガス検知器により検出された信号値に基づいて、排水試料に含まれる6価セレン濃度を定量分析する水溶性セレン分析方法において、6価セレンの測定結果が過大評価されているときに、前記水素化除去処理済み排水試料に過マンガン酸カリウムと硫酸とを添加して加熱することにより、水素化除去処理において除去できなかった硫酸イオン以外の硫黄化合物を硫酸イオンとする有機物分解処理を実施することを特徴とする水溶性セレン分析方法。
【請求項2】
前記過マンガン酸カリウムと硫酸との添加量が適正量か否かの判断は、前記水素化除去処理及び前記有機物分解処理後の試料の色味によって行うことを特徴とする請求項1記載の水溶性セレン分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水中の水溶性セレンの定量分析を行う分析方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、セレン化水素ガス検知器を利用した排水中の水溶性セレンの定量分析を行う分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水中のセレン含有量については、排水基準によって厳しく規制されており、その排水基準値を遵守するために排水中のセレン濃度の継続的な監視及び管理が必要となる。例えば、電気事業においては、石炭火力発電所の排煙脱硫排水には石炭に含まれる微量のセレンに起因して水溶性セレン(4価セレン:SeO 2-、6価セレン:SeO 2-)が含まれ、その水溶性セレン濃度が使用する炭種等によって変動することから、水溶性セレン濃度を適切に現場で継続的に監視・管理し、水溶性セレン濃度を低減するための適切な対策等を講じる必要があり、セレン濃度を現場で自動監視するプロセスモニターが求められている。
【0003】
そこで、本件出願人は、測定に多大な時間を要する公定法に代わる簡易測定手法としてセレン化水素ガス検知器を用いて6価セレン濃度を簡易に測定する方法を提案した(特許文献1参照)。この分析方法は、分析用試料に対し水素化ホウ素ナトリウムと塩酸又は硫酸とを添加して常温で反応(水素化除去処理)させることにより、分析用試料中の4価セレンをセレン化水素ガスとして分析用試料中から離脱させると共に、セレン化水素ガス検知器の測定妨害要因となる分析用試料中の不安定な硫黄化合物も硫化水素(ガス)として分析用試料中から離脱させ、分析用試料中に6価セレンのみを残してから塩酸還元工程で4価セレンに還元し、再び水素化ホウ素ナトリウムを添加して反応させセレン化水素ガスを発生させ、このセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導いて、セレン化水素ガス検知器により検出された信号値に基づいて等価6価セレン濃度を求めるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-132702号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の発明によれば、水溶性セレンを簡易に定量分析することができるが、排水性状によっては、セレン濃度の過大評価に起因して測定精度の低下を招く場合があることが明らかとなった。
【0006】
本発明は、セレン化水素ガス検知器を利用して排水中の6価セレン濃度を測定する際の過大評価を抑えて測定精度の低下を未然に防いで定量分析し得るセレンの分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明にかかる水溶性セレン分析方法は、水素化ホウ素ナトリウムと塩酸とを添加して常温で反応させる水素化除去処理と、塩酸を添加して加熱する還元処理とを経由させた後、排水試料に含まれるセレンを水素化ホウ素ナトリウムと反応させてセレン化水素ガスを発生させ、このセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導いて、セレン化水素ガス検知器により検出された信号値に基づいて、排水試料に含まれる6価セレン濃度を定量分析する水溶性セレン分析方法において、6価セレンの測定結果が過大評価されているときに、前記水素化除去処理済み排水試料に過マンガン酸カリウムと硫酸とを添加して加熱することにより、水素化除去処理において除去できなかった硫酸イオン以外の硫黄化合物を硫酸イオンとする有機物分解処理を実施するようにしている。
【0008】
ここで、本発明にかかる水溶性セレン分析方法における、過マンガン酸カリウムと硫酸との添加量が適正量か否かの判断は、水素化除去処理及び有機物分解処理後の試料の色味によって行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる水溶性セレン分析方法によれば、例えばセレンモニターの運転(測定)前に予め行われる校正試料と分析対象となる実排水とを用いたセンサ校正と予備測定の際等に、排水性状に起因するセレン濃度測定精度を簡易に判定することができるので、セレン濃度の測定精度の低下を招くことがないように水素化除去処理済み排水試料にに対して有機物分解処理を採り入れることで、測定精度の低下を未然に防いで水溶性セレンの定量分析を実施できる。
【0010】
本発明の水溶性セレン分析方法によれば、排水性状に拘わらずセレン濃度の測定精度の顕著な低下を招くことなく、セレン化水素ガス検知器を用いたセレン濃度測定を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明にかかる排水中のセレンの分析方法を実施するセレンモニターの一実施形態を示すブロック図である。
図2】実排水Aに対しての6価セレン測定時のプロファイル図で、(A)は従来の6価セレン測定方法による測定結果、(B)は酸化分解処理を追加した本実施形態の6価セレン測定方法による測定結果をそれぞれ示す。
図3】実排水Bに対しての6価セレン測定時のプロファイル図で、(A)は従来の6価セレン測定方法による測定結果、(B)は酸化分解処理を追加した本実施形態の6価セレン測定方法による測定結果をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1に、本発明にかかるセレン化水素ガス検知器を利用した水溶性セレンの分析システムの一実施形態を示す。本実施形態にかかる水溶性セレンの分析システム(セレンモニターと呼ぶ)は、脱硫排水等に含まれる6価セレン濃度を分析するものであり、大きく分けて排水採取部1と、水素化除去処理部2、有機物分解処理部3、塩酸還元処理部4、セレン水素化処理部5及び分析部7とで構成されている。尚、6価セレンモニターの詳細な説明は、特許文献1において行われているので、ここでの説明は簡略なものとする。
【0014】
<排水採取部>
排水採取部1は、例えば石炭火力発電所から排出される脱硫排水等を採取して分析対象試料(分析用試料と呼ぶ)として貯留する2つの採取槽12と、校正試料として利用される第1標準試料(Se標準試料)及び第2標準試料(Se標準試料)とを各々貯留する2つの標準試料貯留槽11とを有し、バルブの開閉によって、分析用試料または標準試料が排水送液装置14を備える排水送液ライン13並びに試料計量計15を経て所定量が第1の処理槽(以下、第1セル16と呼ぶ)に送液されるものとされている。尚、図中の符号8は純水(ブランク試料)を貯留するタンク、9は給水用ポンプ、10は第1~第3の処理槽に純水を供給する給水ライン、50,51,52は廃液ポンプ、53は廃液ラインである。本装置では必要に応じて2種類のSe標準試料を供給できるように設けられている。
【0015】
<水素化除去処理部>
水素化除去処理部2は、第1セル16内で分析用試料に対し、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を含む溶液(以下、総称して水素化ホウ素ナトリウムと呼ぶ)と塩酸(HCl)とを添加して攪拌し、常温で反応させてセレン化水素ガス並びに硫化水素ガスを発生させて槽外に取り出すことで、分析用試料中から4価セレン及びセレン化水素ガスセンサを妨害する硫黄化合物を除去する水素化除去処理を行う。この水素化除去処理によって得られる水素化除去済みの分析用試料には、6価セレンが残留している。水素化ホウ素ナトリウム及び塩酸の供給は、本実施例の場合、例えば、セレンモニターの還元処理部4の塩酸(HCl)28とセレン水素化処理部6の水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)38とを分岐管43,45によって第1セル16に供給可能とすることにより、水素化除去処理部2を運用するようにしている。分岐管43,45の開閉は三方弁55,57によって行われ、塩酸(HCl)28を第1セル16あるいは第2セル26のいずれかに、また水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)38を第1セル16あるいは第3セル34のいずれかに供給するように設けられている。尚、図中の符号36は水素化ホウ素ナトリウム38を貯留するタンク、27は塩酸28を貯留するタンク、24は水素化除去済み分析用試料を塩酸還元処理部5に向けて送液する第1送液装置、25は水素化除去済み分析用試料を塩酸還元処理部5に向けて送液する第1送液ライン、37は水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を冷温貯蔵する冷蔵庫である。また、第1セル16中における分析用試料と水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)38と塩酸(HCl)28との攪拌は、本実施形態の場合、エアコンプレッサ54から噴気管23を介して供給されるキャリアガス(空気)によりバブリングで行われるようにしているが、これに特に限られず、攪拌翼などによる機械的攪拌やスターラーでの撹拌でも良い。
【0016】
水素化ホウ素ナトリウムを含む溶液38は、水素化ホウ素ナトリウムのみを含むアルカリ性の溶液としてもよいが、例えば、エチレンジアミン四酢酸、水酸化ナトリウムを含むものとしてもよい。水素化ホウ素ナトリウムは、還元剤として広く用いられている安価で入手し易い物質である反面、分解し易い性質がある。そこで、エチレンジアミン四酢酸を加えることによって、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に溶解させて室温で30日間安定に保存できることが知られている(A. D.Idowu, P. K. Dasgupta, Z. Genfa, and K. Toda: “A Gas-Phase Chemiluminescence -Based Analyzer for Waterborne Arsenic”, Anal. Chem., 78, 7088-7097 (2006))。つまり、使用の簡便性と安定性とを兼ね備えた試薬であり、現場分析に用いる試薬として非常に好適である。また、水素化ホウ素ナトリウムを含む溶液38を長期に亘って一定の場所に貯蔵して用いる場合には、0℃~25℃、好適には0℃~10℃に冷却可能な冷蔵庫37に入れて貯蔵することが好適である。これにより、水素化ホウ素ナトリウムを含む溶液38を分析環境に影響されることなく、保存することができ、分解劣化していない安定な水素化ホウ素ナトリウムを長期に亘って添加することができる。
【0017】
ここで、水素化除去処理部2における水素化ホウ素ナトリウムと塩酸との添加量は、分析用試料の4価セレンと硫黄化合物とを水素化して排出し得る量で且つ塩酸還元処理部4での還元を阻害しない量であることが望ましい。水素化ホウ素ナトリウムの添加量については、分析用試料に含まれていると想定される4価セレンの全量をセレン化水素に還元しうる量以上の量であることが望まれる。あくまで一例としては、例えば、1molのHSeO(SeO 2-)を還元させてセレン化水素を発生させるためには、3/4molのNaBH(BH )が必要である。したがって、4価セレン1mgに対して最低でも0.36mgのNaBHを添加することが望ましい。また、NaBHで水素化するには、酸性条件(酸性溶液)でNaBHを添加する必要があるため、酸性条件にするために塩酸を添加している。そのため、塩酸はNaBHを酸性にするための補助的役割を為すものであることから、その添加量はあまり重要ではない。
【0018】
<有機物分解処理部>
水素化除去処理を施した分析用試料には、排水性状によっては、6価セレン測定を妨害するCOD(いわゆる被酸化性物質、即ち硫酸以外の硫黄化合物)が残留することがある。このCODは、前処理の水素化除去において、硫酸イオン以外の硫黄化合物を完全には除去できずに、セレン濃度の過大評価を招く原因となる。そこで、排水性状に応じてあるいは一律に水素化除去処理の次に硫黄化合物を硫酸イオンに変換する有機物分解処理を実施することでCODを除去するようにしている。
【0019】
有機物分解処理は、水素化除去済み分析用試料に対し、過マンガン酸カリウム(KMnO)と硫酸(HSO)とを添加して攪拌して硫黄化合物が分解される温度にまで加熱し、水素化除去済み分析用試料に残留したCODを安定な硫酸イオンとするものである。具体的には、有機物分解処理部3は、第1セル16内の水素化除去済み分析用試料に対し、過マンガン酸カリウム(KMnO)18と硫酸(HSO)20とを添加して攪拌し、第1送液ライン25を経て還元処理部4へ送る途中の加熱装置56で硫黄化合物が分解される温度に加熱し、水素化除去済み分析用試料に残留したCODを安定な硫酸イオンとする。
【0020】
本実施例の場合、セレンモニターの還元処理部4の塩酸(HCl)28とセレン水素化処理部5の水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)とを分岐管43,45によって第1セル16に供給することにより、水素化除去処理部2を運用するようにしている。分岐管43,45の開閉は三方弁55,57によって行われ、塩酸(HCl)28を第1セル16あるいは第2セル26のいずれかに、また水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)38を第1セル16あるいは第3セル34のいずれかに供給するように設けられている。つまり、本実施形態では、第1セル16に対して過マンガン酸カリウム(KMnO)18を供給するライン58と硫酸(HSO)20を供給するライン59と、水素化ホウ素ナトリウムを含む溶液38を供給するライン45と塩酸28を供給するライン43とを備え、適宜切り替えることによって第1セル16を水素化除去処理部2あるいは有機物分解処理部3として機能させるように設けられている。尚、図中の符号17は過マンガン酸カリウムを貯留するタンク、19は硫酸を貯留するタンクである。
【0021】
第1セル16内に供給する過マンガン酸カリウム(KMnO)と硫酸(HSO)の添加量は、水素化除去済み分析用試料に残留したCODを安定な硫酸イオンに酸化分解し得る量で、且つ余剰分が還元処理部5における還元処理における還元を阻害しない量であることが望まれる。
【0022】
過マンガン酸カリウム(KMnO)と硫酸(HSO)とを分析用試料に添加して加熱することによって、過マンガン酸カリウム(KMnO)の酸化力が増大して排水に含まれる硫黄化合物を酸化分解して安定な硫酸イオンにする。つまり、ガスセンサーの妨害成分となる硫化水素を発生させる排水中の前駆物質(不安定な硫黄化合物)を安定な硫酸イオンに変換することにより排除している。
【0023】
硫黄化合物の分解についてより詳細に説明すると、ジチオン酸やヒドロキシルアミンスルホン酸化合物(NS化合物)などの硫黄化合物は、硫酸(HSO)により酸化力が増強された過マンガン酸カリウム(KMnO)によって酸化分解され、最終的に硫酸イオンとなる。硫酸イオンは化学的に安定であり、水素化ホウ素ナトリウムを添加しても硫化水素ガスは発生しない。したがって、硫酸(HSO)により酸化力が増強された過マンガン酸カリウム(KMnO)によって、水素化ホウ素ナトリウムとの反応によって硫化水素ガスを発生し得る硫黄化合物、即ち、水素化ホウ素ナトリウムとは反応しない安定な硫黄化合物(硫酸やペルオキソ二硫酸等)以外の硫黄化合物によるセレン化水素ガスの測定の妨害を排除して、精度良く分析することが可能となる。
【0024】
第1セル16内で分析用試料に対し、過マンガン酸カリウム(KMnO)18と硫酸(HSO)20とをタンク17,19から供給して添加して攪拌し、第1送液装置24によって第1送液ライン25を経て還元処理部4へ送る途中の加熱装置56で硫黄化合物が分解される温度まで加熱し、分析用試料に含まれる硫酸以外の不安定な硫黄化合物(ガスセンサの妨害成分となる硫化水素を発生させる前駆物質)を安定な硫酸イオンとする酸化分解(有機物分解)処理を実施する。尚、過マンガン酸カリウム18と硫酸20との添加量はポンプ21,22により制御される。第1セル16内における分析用試料とマンガン酸カリウム18と硫酸20との攪拌は、本実施形態の場合、エアコンプレッサ54から噴気管23を介して供給されるキャリアガス(空気)によりバブリングで行われるようにしているが、これに特に限られず、攪拌翼などによる機械的攪拌やスターラーでの撹拌でも良い。
【0025】
過マンガン酸カリウムと硫酸の添加量は、水素化除去処理済み分析用試料に含まれる硫酸以外の硫黄化合物を安定な硫酸イオンに酸化分解し得る量で、且つ余剰分が還元処理における還元を阻害しない量である。過マンガン酸カリウムの添加量が多すぎると、余剰分が還元処理において還元剤である塩酸と反応し、塩酸の量が消費される結果、6価セレンの4価セレンへの還元反応が阻害されることとなる。過マンガン酸カリウムの具体的な添加量については、過マンガン酸カリウムの具体的な添加量については、例えばあくまで一例として挙げると、分析用試料中に含まれると予想される硫黄化合物を酸化処理するのに必要とされる量の5~1000倍量とすることが好適であり、10~50倍量とすることがより好適である。
【0026】
硫酸(HSO)はKMnO溶液を酸性にするための補助的役割を為すものであることから、その添加量はあまり重要ではない。硫酸(HSO)の添加量は、あくまで一例としては、例えば硫酸(HSO)と過マンガン酸カリウム(KMnO)(水溶液)を添加した後の分析用試料の硫酸濃度が1.3~3mol/Lに調整される量とすることが好適であり、2.3mol/Lに調整される量とすることがより好適である。硫酸濃度が低すぎると、硫酸(HSO)による過マンガン酸カリウム(KMnO)の酸化力を高める効果が低くなるため、硫黄化合物の分解を十分に行うことができず、分析精度が低下し得る。硫酸濃度を高めすぎると、硫酸(HSO)の添加量が多くなりすぎて、分析用試料の総量が増加し、反応時間の増加を招くこととなる。
【0027】
ここで、過マンガン酸カリウム(KMnO)と硫酸(HSO)の添加は、分析用試料と硫酸(HSO)を十分に撹拌混合してから過マンガン酸カリウム(KMnO)を添加すること、または分析用試料と過マンガン酸カリウム(KMnO)を十分に撹拌混合してから硫酸(HSO)を添加することが好ましい。これにより、硫酸(HSO)の中和反応による分析用試料の沸騰を抑制でき、かつ過マンガン酸カリウム(KMnO)と硫酸(HSO)とが直接接触して固体生成が生じることによる硫黄化合物の分解能の低下を防ぐことができる。
【0028】
過マンガン酸カリウム(KMnO)及び硫酸の添加後の分析用試料の加熱温度は、100℃以上とすることが好適である。これよりも低い温度だと、硫黄化合物を分解しきれず、分析精度が低下し得る。尚、加熱温度を高めすぎると、分析用試料が激しく沸騰することから、加熱温度は、100~120℃とすることが好適である。
【0029】
加熱時間は、例えば上記温度で15分以上とすることが好適である。これよりも短いと、硫黄化合物を分解しきれず、分析精度が低下し得る。尚、分解処理時間を長くし過ぎても、特に有利な効果は見られず、むしろ分析時間の長時間化に繋がる。したがって、分解処理時間は、上記温度で概ね15~30分程度とすればよく、15分~20分とすることが好適であり、分解処理の確実性を考慮すると、20分程度とすることがより好適である。
【0030】
<還元処理部>
還元処理部4は、有機物分解処理済み分析用試料(あるいは有機物分解処理が施されない場合には水素化除去済み分析用試料)に塩酸を添加して加熱することにより分析用試料に残留している6価セレン(元々脱硫排水に含まれていた6価セレン)を4価セレンに還元するものである。第2の処理槽(以下、第2セル26と呼ぶ)に供給される有機物分解処理済み分析用試料(あるいは水素化除去済み分析用試料)には、元々脱硫排水に存在する6価セレンを含んでいる。また、有機物分解処理を経た場合には、水素化除去処理で除去しきれなかったCOD(硫酸以外の硫黄化合物)が分解処理された安定な硫酸イオンを含んでいる。したがって、有機物分解処理済み分析用試料(あるいは水素化除去済み分析用試料)を還元処理することで、分析用試料に含まれていた6価セレンが全て4価セレンとされる。尚、図中の符号27は塩酸28を貯留するタンク、30は所定量の塩酸28を第2セル26に供給するポンプ、29は第2セル26内の有機物分解処理済み分析用試料(あるいは水素化除去済み分析用試料)と塩酸28とをバブリングにより攪拌する攪拌手段を構成する噴気管、31及び33は有機物分解処理済み分析用試料(あるいは水素化除去済み分析用試料)と塩酸28との混合液を第3の処理槽(第3セル34)に向けて送液する第2送液装置及び第2送液ライン、32は第2送液ライン33を通過中の有機物分解処理済み分析用試料(あるいは水素化除去済み分析用試料)と塩酸28との混合液の6価セレンを4価セレンへの還元反応が進行する温度に加熱する加熱装置である。第2セル26内における有機物分解処理済み分析用試料(あるいは水素化除去済み分析用試料)と塩酸28との攪拌は、本実施形態の場合、エアコンプレッサ54から噴気管29を介して供給されるキャリアガス(空気)によりバブリングで行われるようにしているが、これに特に限られず、攪拌翼などによる機械的攪拌やスターラーでの撹拌でも良い。
【0031】
還元処理における塩酸の添加量は、あくまで一例ではあるが例えば有機物分解処理済み分析用試料(あるいは水素化除去済み分析用試料)の塩酸濃度が4mol/L~6.7mol/Lとなる量とすることが好適であり、6.7mol/Lとなる量とすることがより好適である。塩酸濃度が低すぎると、6価セレンの全量を4価セレンに還元できないことがある。塩酸濃度が高過ぎると、塩酸の添加量が多くなりすぎて、有機物分解処理済み分析用試料(あるいは水素化除去済み分析用試料)の総量が増加し、分析時間の長時間化を招くこととなる
【0032】
また、塩酸添加後の分析用試料の加熱温度は、100℃以上とすることが好適である。これよりも低い温度の場合には、4価セレンに還元されない6価セレンが残り、分析精度が低下し得る。尚、加熱温度を高め過ぎると、分析用試料が激しく沸騰することから、加熱温度は、100~120℃とすることが好適である。さらに、加熱時間は、上記温度で10分以上とすることが好適である。これよりも短いと、4価セレンに還元されない6価セレンが残り、分析精度が低下することがある。尚、6価セレンを4価セレンに還元する時間を長くし過ぎても、特に有利な効果は見られず、むしろ分析時間の長時間化につながる。したがって、6価セレンを4価セレンに還元する時間は、上記温度で概ね10分~15分程度とすればよい。
【0033】
<セレン水素化処理部>
セレン水素化処理部5は、還元処理済み分析用試料に水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を添加して反応させることにより、還元処理済み分析用試料に含まれる4価セレンを水素化してセレン化水素ガスに変換するものである。還元処理済み分析用試料と水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)は密閉構造の第3セル34に収容され、第3セル34内のヘッドスペース41に溜まるセレン化水素ガスをガス導入管42でセレン化水素ガス検知器6に送り込むようにされている。尚、図中の符号44はキャリアガス供給手段、35は撹拌翼、36は水素化ホウ素ナトリウムを含む溶液38を貯蔵するタンク、37は水素化ホウ素ナトリウム38を冷蔵する冷蔵庫、39は水素化ホウ素ナトリウム38をセレン化水素ガス検知器6にて検出される信号値のピークが分裂する速度未満で供給するポンプである。また、キャリアガスを供給する手段44は、キャリアガスの加湿のための2つの水タンク46と、加湿済みキャリアガスをガス導入管42に供給する配管47と、エアコンプレッサ54から供給されるキャリアガスの流量を調整するマスコントローラ49及び配管48とで構成されている。さらに、配管47及びガス導入管42はヒータ内蔵の断熱材で覆われて、ガス導入管42の内壁に結露が生じない温度に加熱すると共に、セレン化水素ガス検知器6のセンサ部の電解液が蒸発乾固しない温度に加熱する図示しない加熱装置を備えられている。尚、セレンでも硫黄化合物でもNaBHで水素化するには、酸性条件(酸性溶液)下でNaBHを添加する必要があるが、第2の前処理の還元工程で過剰に塩酸を添加している場合には、既に酸性溶液になっているため、塩酸を追加添加する必要はない。また、水素化ホウ素ナトリウムを含む溶液38は、水素化ホウ素ナトリウムのみを含むアルカリ性の溶液としてもよいが、例えば、エチレンジアミン四酢酸、水酸化ナトリウムを含むものとしてもよい。
【0034】
キャリアガスで置換することにより、セレン化水素ガス検知器6の信号のベースラインを安定させて、安定した信号値に基づいて精度良く分析を行うようにしている。また、ヒータ内蔵の断熱材で覆われた配管47によって、ガス導入管42の内壁に結露が生じない温度(70~80℃)に加熱すると共に、セレン化水素ガス検知器6のセンサ部の電解液が蒸発乾固しない温度(50℃)に加熱する図示しない加熱装置を備えることが好ましい。尚、図示していないが、必要に応じて還元処理済み分析用試料からの塩化水素ガスの発生を抑制し得る量の水を予め第3セル34に供給することにより塩化水素ガスの発生を抑えて、セレン化水素ガス検知器において異常ピークが生じることによる分析の妨害を排除することが好ましい。
【0035】
セレン水素化処理部5における水素化ホウ素ナトリウムの添加量については、分析用試料に存在していると考えられる4価セレンの全量をセレン化水素に還元しうる量以上の量が適宜選択される。例えば1molのHSeO(SeO 2-)を還元させてセレン化水素を発生させるためには、3/4molのNaBH(BH )が必要である。したがって、4価セレン1mgに対して最低でも0.36mgのNaBHが必要である。ここで、セレン水素化処理部5における水素化ホウ素ナトリウムの添加量については、分析用試料に存在している4価セレンの全量を確実にセレン化水素に還元するためには、前処理済み分析用試料に含まれていると考えられる4価セレンの全量に対して過剰量の水素化ホウ素ナトリウムの量を添加することが好ましい。ただし、あまり過剰な量の水素化ホウ素ナトリウムの添加は、セレン化水素の測定に影響を及ぼすことは無いが、セレン化水素発生反応には関与しないので、無駄である。
【0036】
また、分析用試料への水素化ホウ素ナトリウムの添加開始時からセレン化水素ガス検知器による測定が終了するまでの間は、分析用試料を撹拌し続けることが好ましい。撹拌を十分に行わないと、分析用試料に添加した水素化ホウ素ナトリウムが十分に拡散することができずに、分析用試料中の4価セレンをセレン化水素ガスに水素化することが不完全となったり、還元処理済み分析用試料との間の反応が不均一となってセレン化水素ガス検知器によるセレン化水素の信号強度が低下する虞がある。そこで、第3セル34には、反応槽34内の還元処理済み分析用試料と水素化ホウ素ナトリウム38とを撹拌する撹拌装置(攪拌翼などによる機械的攪拌やスターラー)35が備えられている。本実施形態の場合、第3セル34の内部の試料等の攪拌は、撹拌装置35によって行われているが、これに特に限られず、場合によってはエアコンプレッサ54から噴気管40を介して供給されるキャリアガス(空気)によりバブリングで行われるようにしても良い。
【0037】
<分析部>
分析部7は、第3セル34のヘッドスペース41のセレン化水素ガスをガス導入管42を介してセレン化水素ガス検知器(例えばバイオニクス機器製の商品名T-3260H等のいわゆるガスセンサ)6に送り込み、セレン化水素ガス検知器6により測定された測定値(信号値)に基づいて、分析用試料の水溶性セレン濃度を検量線法により分析するものである。
【0038】
ここで、セレン化水素ガス検知器6には、校正試料あるいは排水試料が第1セル16から第2セル26を経て第3セル34に移送される間、水タンク46を通過したキャリアガス(加湿空気)が流されている。そして、校正試料あるいは排水試料の第3セル34への移送が完了した後、一定時間、第3セル34のヘッドスペース41内をキャリアガス(加湿しない空気)で置換する。その後、ガス流路を切り替えて第3セル34を通過したキャリアガスをセレン化水素ガス検知器6に流すことによりセレン検出を開始する。
【0039】
セレン化水素ガスは、セレン化水素ガス検知器6により随時測定され、測定値が出力される。ここで、発生したセレン化水素ガスには、キャリアガスを供給し、キャリアガスに同伴させてセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導くのが好適である。さらには、セレン化水素ガス検知器のガス吸引機能を利用してセレン化水素ガスを単独であるいはキャリアガスと共に吸引することが好適である。キャリアガスとしては、窒素やアルゴンなどの不活性ガスだけでなく、空気を利用することもできる。また、センサ感度の低下抑制策としてキャリアガスは加湿しておくことが好ましい。
【0040】
セレン濃度は、予め求められている検量線を利用して、セレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器6に導いて得られた検出信号値に基づいて求められる。検量線法に用いる検量線は、水溶性セレン濃度が既知の複数の標準試料(例えば、セレン標準試料とブランク試料)を校正試料として予め求めた水溶性セレン濃度とセレン化水素ガス検知器により検出された信号値との相関に基づいて作成されたものである。さらに具体的に説明すると、水溶性セレン濃度が既知の複数の標準試料(例えば、セレン標準試料とブランク試料)それぞれに対し、実際に分析用試料を分析する際と同じ条件で分析を行い、水溶性セレン濃度とセレン化水素ガス検知器により検出された信号値との相関を例えば最小二乗法などの公知の手法によりフィッティングして検量線を得る。したがって、分析用試料を分析した際の信号値から、この検量線を利用して、分析用試料の水溶性セレン濃度を求めることができる。
【0041】
以上のように構成された本実施形態にかかる6価セレン測定シーケンスによれば、水素化除去処理部2において、脱硫排水から採取された分析用試料に対し、水素化ホウ素ナトリウム38と塩酸28とを添加して常温で反応させることにより、分析用試料中の4価セレンをセレン化水素ガスとして分析用試料中から離脱させると同時にセレン化水素ガス検知器の測定妨害要因となる分析用試料中の不安定な硫黄化合物も硫化水素ガスとして分析用試料中から離脱させる(水素化除去処理)。脱硫排水例えば石炭火力発電所の排煙脱硫分析用試料には石炭に含まれる微量のセレンに起因して水溶性セレン(4価セレン:SeO 2-、6価セレン:SeO 2-)並びに硫黄化合物が含まれているが、水素化除去処理において4価セレン及び硫黄化合物が水素化されてセレン化水素ガス及び硫化水素ガスとして除去される結果、水素化除去済み分析用試料には6価セレンのみが残る。同時に、セレン化水素ガス検知器でセレン化ガスを測定する際の妨害物質となる不安定な硫黄化合物を予め硫化水素として除去しておくことでその影響を取り除くことができる。
【0042】
ところが、本発明者等が様々な排煙脱硫排水に対して実証実験を行った結果、排水性状によっては多種高濃度の妨害物質が排水中に含まれることで、水素化除去済み分析試料に妨害成分が残留することがあることによって、6価セレンを過大に評価して精度良く測定できない場合があることが明らかとなった。
【0043】
かかる問題について、本発明者等が種々研究・実験した結果、排水性状によっては、前処理の水素化除去において硫酸イオン以外の硫黄化合物を完全には除去できずに、残留した硫酸イオン以外の硫黄化合物(いわゆる被酸化性物質)がセレン濃度の過大評価を招くことを知見するに至った。この硫酸以外の硫黄化合物による6価セレン測定の妨害現象(濃度の過大評価)は、セレンモニターが使用するガスセンサ(セレン化水素ガスセンサ)を用いた場合に特有のものであり、本発明者等の度重なる実験において初めて見出されたものである。そして、本発明者等は、前処理として水素化除去処理の次に酸分解処理(硫黄化合物を硫酸イオンに変換する処理)を実施することでセレン濃度の過大評価を解消し得ることを見出した。
【0044】
つまり、水素化除去済み分析用試料に対し、必要に応じてあるいは一律に、過マンガン酸カリウム(KMnO)と硫酸(HSO)とを添加して加熱することにより、水素化除去処理においても完全には除去できなかった硫酸イオン以外の硫黄化合物(COD)を硫酸イオンとして安定化させる(有機物分解処理)ことでセレン濃度の過大評価を解消することを見出した。具体的には、例えば第1セル16の脱硫排水から採取された分析用試料に、HClの添加、NaBHの添加を行って攪拌した後例えば5分待機し(水素化除去処理)、その後硫酸の添加、KMnOの添加を行う(有機物分解処理)。これによって、6価セレン濃度の過大評価の原因となっているCOD(硫酸以外の硫黄化合物)を安定な硫酸イオンに変換しつつ、分析用試料中に元々存在していた6価セレンのみを残すことができる。
【0045】
ここで、KMnO(+HSO)の添加量が適正量か否かの判断は、例えば第2のセル26に流入するまでに完了する前処理(即ち、水素化除去処理及び有機物分解処理)後の試料の色味によって行うことができる。産業排水は日常運転で想定される被酸化性物質濃度の変動範囲があるので、想定される最大濃度に合わせてKMnOとHSOの添加量が予め決定される。その条件での、有機物分解後の排水試料の色味(呈色状況)からKMnOとHSOの添加量を適宜微調整する。即ち、KMnOの適正量は、有機物分解処理後の排水試料の色調を指標として、KMnO(+HSO)添加量を微調整することが好ましい。例えば、有機物分解処理後の試料が、透明な淡桃色の場合、Mn2+イオンが残存していることから、KMnO(+HSO)添加量としては適正である。一方、無色透明の場合には、Mn2+イオンが存在しないので、有機物分解(酸化)が十分でない可能性がある。よってKMnO(+HSO)の添加量を増やすことが必要となる。他方、茶色の懸濁液となる場合には、固体のMnOが多く残留しているため(試料に対してKMnOが過剰に添加されていることとなるため)、KMnO(+HSO)の添加量を減らして淡桃色が得られるように調整する必要がある。尚、試料の色味の判定は、作業員が試料の色をみて判断することで足りるが、場合によっては、装置が試料の色を観察し機械学習AIを活用して自動判断することも可能である。
【0046】
尚、この排水性状を特定するタイミングは、予めセレンモニターの運転(測定)前であることが望ましいが、必ずしもこのタイミングに限られず、場合によってはセレンモニターの測定で異常値(例えば巨大ピーク(普通にはあり得ないほどの高セレン濃度))が発生したとき等に行うようにしても良い。
【0047】
ここで、6価セレン濃度の過大評価は、
1)全セレン濃度よりも6価セレン濃度が著しく高い、
2)想定濃度よりも異常に高い6価セレン濃度が得られる、
という状況の場合、その可能性が高いと判断される。
前者は、測定の原理から、「全セレン濃度=4価セレン濃度+6価セレン濃度の関係があるため、全セレン濃度<<6価セレン濃度となることはあり得ない。すなわち、そのような場合は6価セレンを過大評価している可能性が高いと判断される。後者は、産業排水においては、日常運転で想定されるセレン濃度の範囲(変動範囲)があり、それを大きく超える濃度は測定上の不具合(セレン濃度の過大評価)と推定される。
【0048】
また、排水性状即ち還元性か酸化性か被酸化性の硫黄化合物を含むか否かの特定は、特定の手法に限られるものではないが、例えば以下の3つの方法で推測することが好ましい。
(1)排水の酸化還元電位
(2)簡易なCOD(化学的酸素要求量)測定
(3)排水中に共存することが予想される被酸化性の硫黄化合物
(例えば亜硫酸イオン、硫化水素など)の簡易測定
【0049】
第2セル26に移した有機物分解処理済み分析用試料に塩酸を添加して加熱し試料中に残存する6価セレンを4価セレンに還元する(還元処理)。さらに第3セル34に移した還元処理済み分析用試料に水素化ホウ素ナトリウムを添加して反応させ4価セレンをセレン化水素ガスにする(セレン水素化処理)。そして、発生したセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器6に導いて得られた検出信号値に基づいて、予め求められている検量線を利用して等価6価セレン濃度を求めることができる。これによって、過大評価されることなく、セレン化水素ガス検知器(ガスセンサと呼ぶ。)を利用して脱硫排水中の6価セレンを測定することが可能となる。
【0050】
以上のように、水素化処理部の後に必要に応じて有機物分解処理を追加実施し、6価セレン濃度の過大評価の原因となっているCOD(硫酸以外の硫黄化合物)を安定な硫酸イオンに変換することで、セレン化水素ガス検知器6に検出させないようにできるので、実濃度と評価濃度とを近似させることができる。つまり、セレン濃度の過大評価を解消することができる。この有機物分解処理の実施は、6価セレン濃度の過大評価が生じている場合に行われるが、場合によっては過大評価の有無に関係なく一律に行われるようにしても良い。勿論、不要の有機物分解処理の追加は、測定時間が長くなる、試薬消費量が増える(コスト増)などの弊害を伴うことから、排水性状を見極めてから有機物分解処理工程を追加するか否かを決めることが好ましい。
【0051】
(実施例1)
実濃度で0.027ppmの6価セレンを含む実排水Aに対し、上述の六価セレン測定シーケンスの水素化除去処理、還元処理、さらにセレン水素化処理とを実施して、発生したセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導いて得られた検出信号値に基づいて、予め求められている検量線を利用して等価6価セレン濃度を定量分析すると、図2(A)に示す結果(評価濃度0.354ppm)が得られた。この分析結果は、6価セレン濃度について1桁以上(概ね13倍)の過大評価が為されたものであった。
これに対し、つまり、上述の実排水Aに対し、6価セレン測定シーケンスの水素化除去処理、硫酸以外の硫黄化合物(被酸化性物質)を硫酸イオンとする有機物分解処理、還元処理、さらにセレン水素化処理とを実施して、発生したセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導いて得られた検出信号値に基づいて、予め求められている検量線を利用して等価6価セレン濃度を定量分析すると、図2(B)に示す結果(評価濃度0.028ppm)が得られた。この分析結果は、実濃度と近似しており、6価セレン濃度について過大評価が改善されたことが明らかとなった。
【0052】
(実施例2)
また、実濃度で0.002ppmの6価セレンを含む実排水Bに対し、上述の六価セレン測定シーケンスの水素化除去処理、還元処理、さらにセレン水素化処理とを実施して、発生したセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導いて得られた検出信号値に基づいて、予め求められている検量線を利用して等価6価セレン濃度を定量分析すると、図3(A)に示す結果(評価濃度0.519ppm)が得られた。この場合、6価セレン濃度について2桁以上(概ね260倍)の過大評価が為された。
【0053】
これに対し、上述の実排水Bに対し、六価セレン測定シーケンスの水素化除去処理、硫酸以外の硫黄化合物(被酸化性物質)を硫酸イオンとする有機物分解処理、還元処理、さらにセレン水素化処理とを実施して、発生したセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導いて得られた検出信号値に基づいて、予め求められている検量線を利用して等価6価セレン濃度を定量分析すると、図3(B)に示す結果(評価濃度0.047ppm)が得られた。この場合、6価セレン濃度について過大評価が1桁以上(概ね260倍から23倍へと)改善されたことが明らかとなった。
【0054】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 6価セレンモニター(6価セレン定量分析ライン)
2 排水採取部
3 酸化処理部
4 還元処理部
5 セレン水素化処理部
6 セレン化水素ガス検知器
7 分析部
図1
図2
図3