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特開2024-107499樹脂組成物、樹脂成形体、及び光学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107499
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂成形体、及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20240801BHJP
   C08L 25/14 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C08L65/00
C08L25/14
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024099117
(22)【出願日】2024-06-19
(62)【分割の表示】P 2020034161の分割
【原出願日】2020-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】摺出寺 浩成
(57)【要約】
【課題】高温高湿環境下に置かれた後、室温に戻した場合であってもヘイズ変化を抑制することができる樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いた樹脂成形体、及び光学素子を提供する。
【解決手段】脂環式構造含有重合体、および体積平均粒子径が所定の範囲であるアクリルスチレン粒子を含む、樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造含有重合体、および体積平均粒子径dが0.15μm<d<1μmの範囲であるアクリルスチレン粒子を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
アクリルスチレン粒子の屈折率と、脂環式構造含有重合体の屈折率との差の絶対値が、0.00以上0.01以下である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
アクリルスチレン粒子が、架橋粒子である、請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項記載の樹脂組成物の成形体である、樹脂成形体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項記載の樹脂組成物を成形してなる、光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂成形体、及び光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学素子や医療用容器の材料として、環状オレフィン重合体等の脂環式構造含有重合体が注目されている。
【0003】
そして、例えば特許文献1には、脂環式構造含有重合体樹脂と、所定の粒度分布及び見掛比重を有するブロッキング防止剤とを含有してなる樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂及びそれと非相溶である配合剤からなり、配合剤の量が所定の範囲である熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3には、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂及びそれと非相溶である配合剤からなり、配合剤が該熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂のマトリックス中に、所定の長さ以下の直径のミクロドメインを形成して分散していることを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-008779号公報
【特許文献2】特許3417480号公報
【特許文献3】特許3189364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような非相溶性配合剤を混合した脂環式構造含有重合体は、高温高湿試験後、成形品を室温に戻すと成形品内部にマイクロクラックが生じ、白濁する現象があるため、成形品が高温高湿環境下に置かれた後、室温に戻した場合に、これらの前後でヘイズ変化が大きくなる問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、高温高湿環境下に置かれた後、室温に戻した場合であってもヘイズ変化を抑制することができる樹脂組成物、及び当該樹脂組成物を用いた樹脂成形体、及び光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、脂環式構造含有重合体、および体積平均粒子径dが所定の範囲であるアクリルスチレン粒子を含む樹脂組成物であれば、高温高湿試験前後のヘイズ変化を抑制し得ることを新たに見出した。
そして、本発明者は、上述した新たな知見に基づき、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の樹脂組成物は、脂環式構造含有重合体、および体積平均粒子径dが0.15μm<d<1μmの範囲であるアクリルスチレン粒子を含む。
【0009】
また、本発明の樹脂組成物において、アクリルスチレン粒子の屈折率と、脂環式構造含有重合体の屈折率との差の絶対値が、0.01以下であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の樹脂組成物において、アクリルスチレン粒子が、任意で、架橋粒子であってもよい。
【0011】
本発明の樹脂成形体は、上述した樹脂組成物の成形体である。また、本発明の光学素子は、上述した樹脂組成物を含む。
【0012】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の光学素子は、上述した樹脂組成物を含むことを特徴とする。上述した脂環式構造含有共重合体を含有していれば、光学素子等の材料として有利に使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温高湿環境下に置かれた後、室温に戻した場合であってもヘイズ変化を抑制することができる樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いた樹脂成形体、及び光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、脂環式構造含有重合体、および体積平均粒子径dが0.15μm<d<1μmの範囲であるアクリルスチレン粒子を含む。
【0016】
<脂環式構造含有重合体>
なお、本明細書において、「脂環式構造含有重合体」は、脂環式構造含有単量体を重合して得られる重合体および/またはその水素化物を指す。ここで、脂環式構造含有単量体を重合して脂環式構造含有重合体を得る際、脂環式構造含有単量体のみを重合してもよいし、脂環式構造含有単量体と、脂環式構造含有単量体以外のその他の単量体とを共重合してもよい。
【0017】
そして、脂環式構造含有重合体としては、例えば、脂環式構造含有単量体を付加重合して得られる重合体(脂環式構造含有付加重合体)を用いてもよいが、機械的強度に優れるため、脂環式構造含有を開環重合して得られる重合体(脂環式構造含有開環重合体)およびその水素化物を用いることがより好ましく、脂環式構造含有開環重合体水素化物を用いることが更に好ましい。
【0018】
脂環式構造含有単量体の具体例としては、特に限定されないが、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン等の1環(単環)の脂環式構造含有および環に置換基を有するこれらの誘導体;
【0019】
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(慣用名:ノルボルネン、以下「NB」と略記することがある。)、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ブチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクタデシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-プロペニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等の2環の脂環式構造含有および環に置換基を有するこれらの誘導体;
【0020】
トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-3,8-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン、以下、「DCP」と略記することがある。)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-3-エン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ-3,9-ジエン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ-4,9-ジエン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ-9-エン、5-シクロペンチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-フェニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等の3環の脂環式構造含有および環に置換基を有するこれらの誘導体;
【0021】
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン(単に「テトラシクロドデセン」ともいう。以下、「TCD」と略記することがある。)、9-メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン(以下、「ETD」と略記することがある。)、9-メチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-ビニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-プロペニル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう。以下、「MTF」と略記することがある。)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ-4,6,8,13-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9,9a,10-ヘキサヒドロアントラセンともいう)等の4環の脂環式構造含有および環に置換基を有するこれらの誘導体;
【0022】
9-シクロペンチル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-シクロヘキシル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-シクロヘキセニル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]-4-ペンタデセン、9-フェニル-シクロペンチル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5-エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,16]-14-エイコセン等の5環以上の脂環式構造含有および環に置換基を有するこれらの誘導体;などが挙げられる。
【0023】
なお、上記の誘導体が環に有する置換基としては、特に限定されることはなく、例えば
、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基など
が挙げられる。
【0024】
また、脂環式構造含有単量体以外のその他の単量体としては、上記脂環式構造含有単量体と共重合可能であれば、特に限定されないが、例えば、脂環式構造含有単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、および1-ヘキセンなどの炭素数2~20のα-オレフィン並びにこれらの誘導体;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、および1,7-オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。
【0025】
ここで、脂環式構造含有単量体と、脂環式構造含有単量体以外のその他の単量体とを重合して脂環式構造含有重合体を得る場合、脂環式構造含有単量体の使用量に対するその他の単量体の使用量の質量比(その他の単量体/脂環式構造含有単量体)は、特に限定されないが、30/70以下であることが好ましく、20/80以下であることがより好ましく、10/90以下であることが更に好ましく、0/100であることが特に好ましい。
【0026】
上述した脂環式構造含有開環重合体は、例えば、国際公開第2010/110323号に記載のルテニウムカルベン錯体触媒などのメタセシス反応触媒(開環重合触媒)を用いる方法、および、特開2015-54885号公報に記載のタングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・テトラヒドロフラン錯体等の開環重合触媒を用いる方法などにより製造することができる。
【0027】
さらに、脂環式構造含有開環重合体を水素化して脂環式構造含有開環重合体水素化物を製造する方法としては、例えば、国際公開第2010/110323号に記載の水素化触媒を用いる方法などが挙げられる。また、例えば、開環重合触媒として上述したルテニウムカルベン錯体触媒を用いて、脂環式構造含有重合体を製造した後、当該ルテニウムカルベン触媒をそのまま水素化触媒としても使用し、脂環式構造含有開環重合体を水素化して脂環式構造含有開環重合体水素化物を製造することもできる。
【0028】
脂環式構造含有開環重合体水素化物の水素化率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、99%以上であることが更に好ましい。脂環式構造含有開環重合体水素化物の水素化率が上記所定値以上であれば、耐候性および耐熱性を向上することができる。
なお、脂環式構造含有開環重合体水素化物の水素化率は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0029】
また、脂環式構造含有重合体のガラス転移温度は、特に限定されず、重合体の種類によっても異なるが、-10℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることが更に好ましく、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることが更に好ましい。
【0030】
そして、脂環式構造含有重合体の融点は、特に限定されないが、50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることが更に好ましく、400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることが更に好ましい。重合体の融点が上記下限以上であれば、製造される重合体を実使用する際の耐熱変形性に優れる。一方、重合体の融点が上記上限以下であれば、製造される重合体は溶融時に十分な流動性を有し、成形性に優れる。
なお、重合体の融点は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0031】
また、脂環式構造含有重合体は、非晶性樹脂でも結晶性樹脂でも良い。さらに、脂環式構造含有重合体が非晶性樹脂である場合、脂環式構造含有重合体は、開環重合体でも付加重合体でも良い。
また、脂環式構造含有重合体が結晶性脂環式構造含有開環重合体水素化物である場合、脂環式構造含有開環重合体水素化物は、立体規則性がシンジオタクチックであることが好ましい。脂環式構造含有開環重合体水素化物がシンジオタクチックであれば、製造される重合体の耐熱性、機械強度、および耐溶剤性などの物性を高めることができる。ここで、シンジオタクチックの割合は特に限定されないが、脂環式構造含有開環重合体水素化物の結晶性を高めて耐熱性を特に良好なものとする観点からは、よりシンジオタクチックの割合が高いことが好ましい。より具体的には、脂環式構造含有単量体を開環重合して、次いで水素化して得られる繰り返し単位についてのラセモ・ダイアッドの割合が、51%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが特に好ましい。ラセモ・ダイアッドの割合が高いものほど、すなわち、シンジオタクチック割合の高いものほど、高い融点を有するジシクロペンタジエン開環重合体水素化物となる。なお、ラセモ・ダイアッドの割合は、13C-NMRスペクトル分析で測定し、定量することができる。具体的な定量の方法としては、オルトジクロロベンゼン-d4を溶媒として、150℃でinverse-gated decoupling法を適用して13C-NMR測定を行い、オルトジクロロベンゼン-d4の127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとの強度比から算出されるメソ/ラセモ比より、ラセモ・ダイアッドの割合を決定する方法を挙げることができる。
ここで、「結晶性」とは、測定条件等を最適化することにより、示差走査熱量測定(DSC)で融点を観測することができる性質をいい、重合体鎖の立体規則性により定まる性質である。
【0032】
脂環式構造含有重合体の重量平均分子量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、5,000~500,000、好ましくは8,000~250,000、より好ましくは10,000~200,000の範囲である。分子量がこの範囲であると、樹脂の機械的強度及び成形加工性が高度にバランスされ好ましい。本発明において重量平均分子量は、シクロヘキサン溶液(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の値である。
【0033】
脂環式構造含有重合体樹脂は、そのガラス転移温度(Tg)が50℃以上であると好ましく、60℃~170℃の範囲であると特に好ましい。Tgがこの範囲であると、耐熱性・耐久性の点で好ましい。本発明においてTgは、JIS-K7121に基づいて示差走査熱量分析法(DSC)で測定した値である。
【0034】
<アクリルスチレン粒子>
<<材質>>
「アクリルスチレン粒子」とは、アクリルスチレンを材質とする粒子である。「アクリルスチレン」とは、アクリル系化合物単位およびスチレン単位を含む共重合体をいう。「アクリル系化合物」とは、アクリル酸構造を含む化合物をいい、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、およびこれらの誘導体(例、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル)が挙げられる。「アクリル系化合物単位」とは、アクリル系化合物によって形成される重合単位をいう。アクリル系化合物単位は、単一の種類であってもよく、複数種類の混合であってもよい。「スチレン単位」とは、スチレンによって形成される重合単位をいう。アクリルスチレンは、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルとスチレンの共重合体が好ましく、メタクリル酸エステルとスチレンの共重合体がより好ましく、メタクリル酸メチル・スチレン共重合体が最も好ましい。
アクリルスチレンにおける、アクリル系化合物単位とスチレン単位のモノマー比(アクリル系化合物単位/スチレン単位)は、特に限定されず、所望の屈折率を得るために適宜調整してもよい。すなわち、アクリル系化合物モノマー単位とスチレンモノマー単位の屈折率が判明していれば、各モノマー単位の屈折率に基づいて、所望の屈折率を得られるようにモノマー比を設定することができる。例えば、アクリルスチレンとしてメタクリル酸メチル・スチレン共重合体を用いる場合、屈折率が約1.49~約1.58となる範囲で、メタクリル酸メチルの比率を上げることにより、屈折率を低く調整することができ、スチレンの比率を上げることにより、屈折率を高く調整することができる。
アクリルスチレン粒子は、非架橋粒子であってもよく、架橋粒子であってもよい。アクリルスチレン粒子は、架橋粒子が好ましい。アクリルスチレン粒子として架橋粒子を用いることにより、溶融混錬時におけるアクリルスチレンの分解、アクリルスチレン粒子同士のブロッキング、及びアクリルスチレン粒子の形状変化を抑制することができる。架橋は、例えば、UV架橋、熱架橋、電子線架橋によって行われてもよい。
アクリルスチレン粒子は、温度300℃で粒子状を維持する物質が好ましく、温度 290℃で粒子状を維持する物質がより好ましく、温度280℃で粒子状を維持する物質が更に好ましい。
アクリルスチレン粒子は、脂環式構造含有重合体と非相溶性であることが好ましい。
アクリルスチレン粒子は、脂環式構造含有重合体に比して水分吸着性が比較的高いと予測されるので、脂環式構造含有重合体にアクリルスチレン粒子を配合することにより、高温高湿試験後の内部マイクロクラックの原因となる残存水分を脂環式構造含有重合体から吸収し、高温高湿試験前後のヘイズ変化(例、ヘイズ上昇)の抑制に寄与し、光学特性を良好に維持することができると考えられる。
また、アクリルスチレン粒子は、樹脂組成物の表面に凹凸を付与するので、摩擦係数が低下し、樹脂組成物同士のブロッキング(例、フィルム形状の樹脂組成物同士のブロッキング)を抑制することができる。
また、アクリルスチレンは、アクリル系化合物モノマー単位及びスチレンモノマー単位の両方を含むことにより透明性を有するので、光学素子の成分として適している。
また、アクリルスチレンの屈折率は、脂環式構造含有重合体の屈折率に近く、また、アクリル系化合物とスチレンのモノマー比(アクリル系化合物/スチレン)に依存して適宜調整可能であるので、アクリルスチレンを脂環式構造含有重合体に配合しても、光学特性が維持される。
<<屈折率>>
アクリルスチレン粒子の屈折率は、脂環式構造含有重合体の種類に応じて、脂環式構造含有重合体の屈折率に近くなるように適宜設定してもよい。アクリルスチレン粒子の屈折率と脂環式構造含有重合体の屈折率との差の絶対値は、0.00以上0.01以下が好ましく、0.000以上0.009以下がより好ましく、0.000以上0.008以下が更に好ましい。例えば、脂環式構造含有重合体の屈折率が、1.4~1.6の範囲にある場合、アクリルスチレン粒子の屈折率は、脂環式構造含有重合体の屈折率との差が上述した範囲内となるように設定してもよい。アクリルスチレン粒子の屈折率は、アクリルスチレンにおけるモノマー単位の種類、アクリル系化合物とスチレンのモノマー比(アクリル系化合物/スチレン)に基づいて適宜設定することができる。例えば、アクリルスチレンとしてメタクリル酸メチル・スチレン共重合体を用いる場合、屈折率が約1.49~約1.58となる範囲で、メタクリル酸メチルの比率を上げることにより、屈折率を低く調整することができ、スチレンの比率を上げることにより、屈折率を高く調整することができる。
アクリルスチレン粒子の屈折率と脂環式構造含有重合体の屈折率との差が、上述のような低い値の範囲内となることにより、高温高湿試験前後のヘイズ変化が抑制され、光学特性を更に良好に維持することができると考えられる。
アクリルスチレン粒子の屈折率は、当該分野で公知の方法を用いて測定することができ、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定してもよい。
<<粒径>>
アクリルスチレン粒子の体積平均粒子径(d)は、粒子の二次凝集を防ぐ観点から、0.15μm<dが好ましく、0.17μm<dがより好ましく、0.19μm<dが更に好ましい。また、アクリルスチレン粒子の体積平均粒子径は、ポリマーフィルターに捕捉されにくくする観点から、d<1μmが好ましく、d<0.8μmがより好ましく、d<0.6μmが更に好ましい。
アクリルスチレン粒子の粒度分布は、樹脂組成物の光学特性を均一にする観点から、単一のピークを有することが好ましく、シャープな単一のピークを有することがより好ましい。
アクリルスチレン粒子の体積平均粒子径及び粒度分布は、当該分野で公知の方法を用いて測定することができ、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定してもよい。
<<粒子添加量>>
本発明の樹脂組成物におけるアクリルスチレン粒子の脂環式構造含有重合体に対する添加量は、例えば0.01wt%以上、好ましくは0.05wt%以上、より好ましくは0.1wt%以上であってもよく、例えば1wt%以下、好ましくは0.5wt%以下、より好ましくは0.2wt%以下であってもよい。本発明の樹脂組成物が、延伸フィルム形状を有する場合、少量のアクリルスチレン粒子の添加で、フィルムの表面に凹凸が付与され、摩擦係数を低下させることができ、フィルム同士のブロッキングを抑制することができる。したがって、延伸フィルム形状の樹脂組成物が、上述した添加量のアクリルスチレン粒子を含んでいれば、フィルム同士のブロッキングを抑制することができる。
【0035】
<その他の配合剤>
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、その他の公知の添加剤を発明の効果が損なわれない範囲で含有されていてもよい。その他の公知の添加剤としては、滑剤や分散助剤、潤滑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、防曇剤、顔料、有機物充填材、中和剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止材、抗菌剤やその他の樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0036】
滑剤としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の脂肪酸;脂肪酸とリチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛等の金属とからなる脂肪酸金属塩;オレイン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、エルカ酸アマイド、ベヘニン酸アマイド、ステアリルエルカマイド、オレイルパルミトアマイド等の脂肪酸アマイドが挙げられる。中でも、脂肪酸金属塩が好ましく、特にステアリン酸カルシウムが好ましい。
分散助剤としては、シラン系又はチタン系カップリング剤等が挙げられる。
このような滑剤や分散助剤の量は特に限定されないが、脂環式構造含有重合体樹脂100重量部に対して、好ましくは0.4~0.001重量部、より好ましくは0.1~0.01重量部である。比率がこの範囲にあると、樹脂組成物中のブロッキング防止剤(B)の分散性、樹脂のやけ防止の点で良好である。
【0037】
潤滑剤としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリブチレンなどのポリオレフィンワックス類;キャンデリラ、カルナウバ、ライス、木ロウ、ホホバなどの植物系天然ワックス;パラフィン、マイクロクリスタリン、ペトロラクタムなどの石油系ワックス及びその変性ワックス;フィッシャートロプシュワックスなどの合成ワックス;ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ペンタエリスリトールテトラミリステート、ジペンタエリスリトールヘキサミリステート及びジペンタエリスリトールヘキサパルミテートなどの多官能エステル化合物;などが挙げられる。
【0038】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、有機ホスファイト系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。光安定剤としては、ヒンダードアミン系安定剤が挙げられる。紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0039】
帯電防止剤としては、ノニオン系帯電防止剤、カチオン系帯電防止剤、アニオン系帯電防止剤がある。分散剤としてはビスアミド系分散剤、ワックス系分散剤、有機金属塩系分散剤が挙げられる。難燃剤としては、リン酸系難燃剤、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、マグネシウムの炭酸塩、赤リン等が挙げられる。
【0040】
その他の樹脂としては、非晶性樹脂や結晶性樹脂などが挙げられる。中でもフィルムの機械的強度、防湿性の観点からは特に結晶性樹脂を用いることが好ましい。
非晶性樹脂としては、芳香族系石油樹脂、テルペン系樹脂、クマロン-インデン系樹脂、及びこれらの水素添加物、非晶性ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル-スチレン共重合体、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンエーテル等が挙げられるが、フィルムの防湿性、機械強度等の観点から、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ポリフェニレンエーテルが好ましい。
【0041】
結晶性樹脂とは、上記非晶性樹脂の項において例示された一部の樹脂を含むものであるが、その区別は熱測定において結晶融点が観測され得るものとして示され区別される。その具体例としては、直鎖状、または分岐鎖状の高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン系結晶性樹脂、直鎖状、または分岐鎖状の高密度ポリプロピレン、低密度ポリプロピレンなどのポリプロピレン系結晶性樹脂、および、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリメチルブテン、ポリメチルヘキセン、ポリビニルナフタレン、ポリキシレン等からなる群で示されるポリオレフィン系結晶性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、芳香族ポリエステル等からなる群で示されるポリエステル系結晶性樹脂、ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12、ポリアミドイミド等からなる群で示されるポリアミド系結晶性樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等からなる群で示されるフッ素系結晶性樹脂や、その他として、ロジン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、セルロース、アセタール樹脂、塩素化ポリエーテル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、液晶ポリマー(芳香族多環縮合系ポリマー)等の結晶性樹脂が挙げられる。これらの中でも、防湿性、機械強度の観点からポリオレフィン系結晶性樹脂、ポリエステル系結晶性樹脂、ポリアミド系結晶性樹脂が好ましく、ポリオレフィン系結晶性樹脂がより好ましく、ポリエチレン系結晶性樹脂および、ポリプロピレン系結晶性樹脂が特に好ましい。本発明において、結晶性樹脂としては樹脂全体が結晶化しているもののみではなく、部分的に結晶化しているものも含む。
【0042】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、SEBS、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、SEPSなどが挙げられる。
【0043】
<樹脂組成物の製造及び形態>
本発明の樹脂組成物はその製造方法によって特に限定されない。例えば、本発明の樹脂組成物は、脂環式構造含有重合体とアクリルスチレン粒子を混練することにより製造することができる。樹脂組成物は、例えば、樹脂ペレットの形態で得てもよい。混練の温度は、特に限定されないが、例えば180℃以上、好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上であってもよく、例えば300℃以下、好ましくは290℃以下、より好ましくは280℃以下であってもよい。
【0044】
また、生産性の点で好ましい方法としては、例えば、脂環式構造含有重合体に、アクリルスチレン粒子及び必要に応じて用いる添加剤を高濃度で混合し、混練してマスターバッチ化し、その後、該マスターバッチと脂環式構造含有重合体を所望の割合で混合し、次いで溶融混練する方法が挙げられる。マスターバッチ中のアクリルスチレン粒子、及び各種添加剤の濃度は、特に限定されないが、最終生成物中の濃度の10~30倍であることが好ましく、15~25倍であることがより好ましい。
【0045】
混合方法は特に限定されないが、例えば脂環式構造含有重合体、アクリルスチレン粒子、及び必要に応じて用いる添加剤とをヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダーなどの混合器を用いて混合することによって、又は更にこの混合後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダーなどにより溶融混練することによって樹脂組成物が得られる。
樹脂組成物の形状は、特に限定されないが、光学素子、フィルム等の成型品を成形しやすいように、造粒あるいは粉砕、又はペレット化すると好ましい。
【0046】
<成形体>
本発明の樹脂組成物は、成形体(樹脂成形体)として用いることができる。本発明の樹脂組成物の成形体は、本発明の樹脂組成物を成形してなる。そして、本発明の樹脂組成物から得られる成形体は、光学素子(本発明の樹脂組成物を含む光学素子)等として有利に使用することができる。
【0047】
なお、成形体の成形方法としては、例えば、射出成形法、エクストルージョンブロー成形法、インジェクションブロー成形法、二段ブロー成形法、多層ブロー成形法、コネクションブロー成形法、延伸ブロー成形法、回転成形法、真空成形法、押出成形法、カレンダー成形法、溶液流延法、熱プレス成形法、インフレーション法などを用いることができる。
【0048】
<フィルム>
また、本発明の樹脂組成物は、フィルムとすることもできる。
フィルムの成形方法は特に限定されないが、例えばTダイ法、インフレーション法、プレス成形法など公知の方法によって得られる。フィルムの厚さは特に限定されないが、1~500μmの範囲であると好ましく、4~100μmの範囲であるとより好ましい。
本発明の樹脂組成物及び該樹脂組成物からなるフィルムは、透明性が高く、摩擦係数が小さい。更に、表面にブロッキング防止剤由来の凸凹(ブツ)が無いので、印刷性が良好である。
【0049】
本発明の樹脂組成物をフィルムとする場合、フィルムは、延伸フィルムが好ましい。本発明の樹脂組成物を延伸フィルムとすれば、少量のアクリルスチレン粒子の添加で、フィルムの表面に凹凸を付与して摩擦係数を低下させることができ、フィルム同士のブロッキングを抑制することができる。
【実施例0050】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
<物性の測定および評価方法>
各種の物性の測定および評価は、下記の方法に従って行った。
【0052】
(重量平均分子量Mwの測定方法)
重量平均分子量Mwは、シクロヘキサンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリイソプレン換算値として求めた。標準ポリイソプレンとしては、東ソー株式会社製標準ポリイソプレンを用いた。サンプルがシクロヘキサンに溶解しない場合は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液としてGPCにより測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。標準ポリスチレンとしては、東ソー株式会社製標準ポリスチレンを用いた。
【0053】
(ガラス転移温度測定方法)
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析計(ナノテクノロジー社製、製品名:DSC6220SII)を用いて、JIS K 6911に基づき、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0054】
(脂環式構造含有重合体樹脂の屈折率測定)
脂環式構造含有重合体を厚さ5mmのシート状に成形し、〔ガラス転移温度(Tg)-15〕℃の雰囲気下に20時間放置して得た樹脂を測定試料とした。
得られた測定試料について、精密屈折計(株式会社島津製作所製、製品名:KPR-200、光源=Heランプ(波長:587.6nm)、Hランプ(波長:656.3nm及び486.1nm)を用いて、25℃における屈折率(n、n、及びn)を測定した。表中には、波長が587.6nmの光における屈折率を示す。
【0055】
(アクリルスチレン粒子の屈折率測定)
重合体粒子の屈折率測定はベッケ法により行った。このベッケ法による屈折率測定においては、スライドガラス上に樹脂粒子を載せ、屈折液を屈折率差0.002刻みで複数準備したものを滴下した。そして、重合体粒子と屈折液をよく混ぜた後、下から、岩崎電気株式会社製の高圧ナトリウムランプ(型番「NX35」、中心波長589nm)の光を照射しながら、上部から光学顕微鏡により重合体粒子の輪郭を観察した。そして、輪郭が見えない場合を、屈折液と重合体粒子の屈折率が等しいと判断した。
【0056】
(アクリルスチレン粒子の体積平均粒子径測定)
重合体粒子の体積平均粒子径は、孔径20~400μmの細孔に電解質溶液を満たし、当該電解質溶液を粒子が通過する際の電界質溶液の導電率変化から体積を求めることによって、計算した。具体的には、重合体粒子の体積平均粒子径として、コールター方式精密粒度分布測定装置「マルチサイザーIII」(ベックマンコールター株式会社製)を用いて測定した体積平均粒子径(体積基準の粒度分布における算術平均径)を採用した。なお、測定に際しては、Coulter Electronics Limited発行の「Reference MANUAL FOR THE COULTER MULTISIZER」(1987)に従って、測定する重合体粒子の粒子径に適合したアパチャーを用いてマルチサイザーIIIのキャリブレーションを行い、測定した。
【0057】
(成形体のヘイズ値の測定)
実施例記載の成形体を、200℃、40MPaで鏡面のSUS板に挟み込み、3mm板になるようプレスした。高温高湿試験前のヘイズ値(プレス後初期ヘイズ値)を、JIS K7361-1997に準拠して、日本電色工業株式会社製「濁度計 NDH-300A」を用いて測定した。更に、その後、温度85℃湿度85%の高温高湿槽(オーブン)にサンプルを500時間静置し、オーブンから取り出して24時間後のヘイズ値(高温高湿試験後のヘイズ値)を測定した。この高温高湿試験後のヘイズ値とプレス後初期ヘイズ値の差をヘイズ変化とした。
評価は、
前後のトータルヘイズ変化が1%以下を〇
前後のトータルヘイズ変化が1%より大きく2%より小さいを△
前後のトータルヘイズ変化が2%以上を×
として行った。
【0058】
<成形体の作製>
成形体は、下記の方法に従って作製した。
【0059】
(射出成形)
実施例記載の樹脂組成物を射出成形材料とした射出成形法を実施して、成形体としての光学レンズを製造した。射出成形装置としてはファナック株式会社製の「ROBOSHOT S2000i100A」を用いた。射出成形金型としては、16個取り金型を用いた。これらを用いて、射出速度30mm/秒、保圧80MPaとして、10回の製造工程を行って160個の光学レンズを製造した。
【0060】
(実施例1)
(1-1)ノルボルネン系開環重合体の製造
内部を窒素置換したガラス製反応容器に、後述する単量体の合計100重量部に対して200部の脱水したシクロヘキサン、1-ヘキセン0.7mol%、ジイソプロピルエーテル0.15mol%、及びトリイソブチルアルミニウム0.05mol%、イソブタノール0.054mol%を、室温で反応器に入れ、混合した。その後、50℃に保ちながら、反応器に、単量体としてのエチリデンテトラシクロドデセン(ETD)100重量%と、六塩化タングステン(0.65重量%トルエン溶液)0.02mol%とを、並行して2時間かけて連続的に添加し、重合した。次いで、重合溶液に、イソプロピルアルコール0.6mol%を加えて重合触媒を不活性化し、重合反応を停止させた。前記の説明において、単位「mol%」で示される量は、いずれも、単量体の合計量を100mol%とした値である。得られたノルボルネン系開環重合体の重量平均分子量Mwは3.5×10であった。また、単量体の重合体への転化率は、100%であった。
【0061】
(1-2)水素化によるノルボルネン系水素化物の製造
次いで、前記の工程(1-1)で得られたノルボルネン系開環重合体を含有する反応溶液1830gに対して、シクロヘキサン670gを加え、さらに水素化触媒としてケイソウ土担持ニッケル触媒(日揮化学社製「T8400RL」、ニッケル担持率57%)1.8重量%を加えた。水素化触媒の量は、反応溶液に含まれるノルボルネン系開環重合体100重量%に対する値を表す。その後、反応溶液を水素により4.5MPaに加圧して撹拌しながら温度190℃まで加温し、8時間、水素化反応を行った。これにより、ノルボルネン系開環重合体の水素化物としてのノルボルネン系水素化物を含む反応溶液を得た。
【0062】
反応溶液を、ラジオライト#500を濾過床として、圧力0.25MPaで加圧濾過(石川島播磨重工社製「フンダバックフィルター」)して、水素化触媒を除去し、無色透明な溶液を得た。得られた溶液を、大量のイソプロパノール中に注ぎ、ノルボルネン系水素化物を沈殿させた。沈殿したノルボルネン系水素化物を濾取した後に、ノルボルネン系水素化物100部当り、酸化防止剤〔ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、製品名「イルガノックス(登録商標)1010」)〕0.1部を溶解したキシレン溶液2.0部を添加した。次いで、真空乾燥機(200℃、1Torr)で6時間乾燥させて、ノルボルネン系水素化物を、熱可塑性ノルボルネン系樹脂として得た。ノルボルネン系水素化物の重量平均分子量は4.0×10であった。熱可塑性ノルボルネン系樹脂のガラス転移温度Tgは138℃であった。屈折率は1.525であった。熱可塑性ノルボルネン系樹脂として得られたノルボルネン系水素化物(以下「COP1」と呼ぶ)を、樹脂組成物作製に用いるための脂環式構造含有重合体とした。
【0063】
(1-3)樹脂組成物の作製
脂環式構造含有重合体として、上記ノルボルネン系水素化物(COP1)100部と、アクリルスチレン粒子として、体積平均粒子径0.3μmの架橋アクリルスチレン粒子(積水化成品社製「テクポリマー」、材質:架橋メタクリル酸メチル・スチレン共重合体、屈折率1.525、以下「粒子A」と呼ぶ)0.2部とを、温度280℃で混練して、樹脂組成物を樹脂ペレットとして得た。
【0064】
(1-4)成形体の製造およびヘイズ値の測定、ヘイズ変化の評価
この樹脂ペレットを射出成形装置(ファナック株式会社製「ROBOSHOT S2000i100A」)を用いて射出成形法にて厚み3mm×Φ50mmの光学レンズを成形した。レンズのヘイズ値は、上記記載の方法で測定し、高温高湿試験前0.20%、高温高湿試験後0.69%、変化量は0.49%と小さかった。結果を表1にまとめた。
【0065】
(実施例2)
樹脂組成物の製造において、アクリルスチレン粒子として粒子Aを0.1部添加した以外は、実施例1と同じ手順で樹脂組成物および成形体の製造、ならびに、成形体のヘイズ値の測定、ヘイズ変化の評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
実施例1の工程(1-1)において用いる単量体の組み合わせを、テトラシクロドデセン(TCD)50重量%、メタノテトラヒドロフルオレン(MTF)47重量%、及びエチリデンテトラシクロドデセン(ETD)3重量%に変更した。また、1-ヘキセン0.73mol%に変更した。得られたノルボルネン系開環重合体の重量平均分子量Mwは3.7×10であった。得られたノルボルネン系水素化物の重量平均分子量は4.2×10であった。得られた熱可塑性ノルボルネン系樹脂のガラス転移温度Tgは160℃であった。屈折率は1.535であった。熱可塑性ノルボルネン系樹脂として得られたノルボルネン系水素化物(以下「COP2」と呼ぶ)を、樹脂組成物作製に用いるための脂環式構造含有重合体とした。
【0067】
脂環式構造含有重合体として、上記ノルボルネン系水素化物(COP2)100部と、アクリルスチレン粒子として、体積平均粒子径0.5μmの架橋アクリルスチレン粒子(積水化成品社製「テクポリマー」、材質:架橋メタクリル酸メチル・スチレン共重合体、屈折率1.530、以下「粒子B」と呼ぶ)0.15部とを、温度280℃で混練して、樹脂組成物を樹脂ペレットとして得た。
【0068】
この樹脂ペレットを射出成形装置(ファナック株式会社製「ROBOSHOT S2000i100A」)を用いて射出成形法にて厚み3mm×Φ50mmの光学レンズを成形した。レンズのヘイズ値は、上記記載の方法で測定し、高温高湿試験前0.40%、高温高湿試験後0.75%、ヘイズ変化は0.35%と小さかった。結果を表1にまとめた。
【0069】
(実施例4)
樹脂組成物の製造において、アクリルスチレン粒子として粒子Aを0.05部添加した以外は、実施例1と同じ手順で樹脂組成物および成形体の製造、ならびに、成形体のヘイズ値の測定、ヘイズ変化の評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例5)
〔製造例.ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物の製造〕
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0071】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解した溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。
この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750および28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0072】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0073】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素添加物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0074】
前記の反応液に含まれる水素添加物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物28.5部を得た。この水素添加物の水素添加率は99%以上、ガラス転移温度(Tg)は95℃、融点(Tm)は262℃であった。
【0075】
〔樹脂組成物の作製〕
脂環式構造含有重合体として、上記ノルボルネン系水素化物(結晶性COP)100部と、アクリルスチレン粒子としての体積平均粒子径0.5μmの架橋アクリルスチレン粒子(積水化成品社製「テクポリマー」、材質:架橋メタクリル酸メチル・スチレン共重合体、屈折率1.525、以下「粒子C」と呼ぶ)0.15部とを、温度300℃で混練して、樹脂組成物を樹脂ペレットとして得た。
【0076】
〔成形体の製造およびヘイズ値の測定、ヘイズ変化の評価〕
この樹脂ペレットを射出成形装置(ファナック株式会社製「ROBOSHOT S2000i100A」)を用いて射出成形法にて厚み3mm×Φ50mmの光学レンズを成形した。レンズのヘイズ値は、上記記載の方法で測定し、高温高湿試験前0.92%、高温高湿試験後1.68%、変化量は1.72%と小さかった。結果を表1にまとめた。
【0077】
(実施例6)
脂環式構造含有重合体として、実施例1で用いたノルボルネン系水素化物(COP1)100部と、アクリルスチレン粒子として、体積平均粒子径0.3μmの非架橋アクリルスチレン粒子(積水化成品社製「テクポリマー」、材質:非架橋メタクリル酸メチル・スチレン共重合体、屈折率1.525、以下「粒子D」と呼ぶ)0.15部とを、温度240℃で混練して、樹脂組成物を樹脂ペレットとして得た。
【0078】
この樹脂ペレットから、実施例1と同様の手順で射出成形法にて光学レンズを成形した。レンズのヘイズ値は、上記記載の方法で測定した。結果を表1にまとめた。
【0079】
(実施例7)
脂環式構造含有重合体として、APEL5014CL(三井化学製)100部と、アクリルスチレン粒子として、体積平均粒子径0.3μmの架橋アクリルスチレン粒子(積水化成品社製「テクポリマー」、材質:架橋メタクリル酸メチル・スチレン共重合体、屈折率1.540、以下「粒子E」と呼ぶ)0.15部とを、温度260℃で混練して、樹脂組成物を樹脂ペレットとして得た。
【0080】
この樹脂ペレットを射出成形装置(ファナック株式会社製「ROBOSHOT S2000i100A」)を用いて射出成形法にて厚み3mm×Φ50mmの光学レンズを成形した。レンズのヘイズ値は、上記記載の方法で測定し、高温高湿試験前0.23%、高温高湿試験後1.14%、ヘイズ変化は0.91%と小さかった。結果を表1にまとめた。
【0081】
(比較例1)
樹脂組成物の製造において、アクリルスチレン粒子として体積平均粒子径3μmの架橋アクリルスチレン粒子(積水化成品社製「テクポリマー」、材質:架橋メタクリル酸メチル・スチレン共重合体、屈折率1.525、以下「粒子F」と呼ぶ)0.1部添加した以外は、実施例1と同じ手順で樹脂組成物および成形体の製造、ならびに、成形体のヘイズ値の測定、ヘイズ変化の評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(比較例2)
樹脂組成物の製造において、アクリルスチレン粒子として体積平均粒子径0.13μmの架橋アクリルスチレン粒子(積水化成品社製「テクポリマー」、材質:架橋メタクリル酸メチル・スチレン共重合体、屈折率1.525、以下「粒子G」と呼ぶ)0.2部添加した以外は、実施例1と同じ手順で樹脂組成物および成形体の製造、ならびに、成形体のヘイズ値の測定、ヘイズ変化の評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、高温高湿環境下に置かれた後、室温に戻した場合であってもヘイズ変化を抑制することができる樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いた樹脂成形体、及び光学素子を提供することができる。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系重合体、および体積平均粒子径dが0.15μm<d<1μmの範囲であるアクリルスチレン粒子を含
アクリルスチレン粒子の屈折率と、環状オレフィン系重合体の屈折率との差の絶対値が、0.00以上0.01以下である、
樹脂組成物。
【請求項2】
環状オレフィン系重合体、および体積平均粒子径dが0.15μm<d<1μmの範囲であるアクリルスチレン粒子を含む、光学用樹脂組成物。
【請求項3】
アクリルスチレン粒子の屈折率と、環状オレフィン系重合体の屈折率との差の絶対値が、0.00以上0.01以下である、請求項記載の樹脂組成物。
【請求項4】
環状オレフィン系重合体100部に対するアクリルスチレン粒子の添加量が、0.01部以上、0.5部以下である、
請求項1~3のいずれか一項記載の樹脂組成物。
【請求項5】
アクリルスチレン粒子が、架橋粒子である、請求項1~4のいずれか一項記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項記載の樹脂組成物の成形体である、樹脂成形体。
【請求項7】
環状オレフィン系重合体、および体積平均粒子径dが0.15μm<d<1μmの範囲であるアクリルスチレン粒子を含む、樹脂組成物の成形体であって、
前記成形体は、高温多湿試験前後のヘイズ値の差が、2%未満である樹脂成形体。
【請求項8】
環状オレフィン系重合体、および体積平均粒子径dが0.15μm<d<1μmの範囲であるアクリルスチレン粒子を含む、樹脂組成物の成形体であって、
前記成形体は、ヘイズ値が0.1%以上1.6%以下である樹脂成形体。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか一項記載の樹脂成形体である、光学素子。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0034
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0034】
<アクリルスチレン粒子>
<<材質>>
「アクリルスチレン粒子」とは、アクリルスチレンを材質とする粒子である。「アクリルスチレン」とは、アクリル系化合物単位およびスチレン単位を含む共重合体をいう。「アクリル系化合物」とは、アクリル酸構造を含む化合物をいい、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、およびこれらの誘導体(例、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル)が挙げられる。「アクリル系化合物単位」とは、アクリル系化合物によって形成される重合単位をいう。アクリル系化合物単位は、単一の種類であってもよく、複数種類の混合であってもよい。「スチレン単位」とは、スチレンによって形成される重合単位をいう。アクリルスチレンは、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルとスチレンの共重合体が好ましく、メタクリル酸エステルとスチレンの共重合体がより好ましく、メタクリル酸メチル・スチレン共重合体が最も好ましい。
アクリルスチレンにおける、アクリル系化合物単位とスチレン単位のモノマー比(アクリル系化合物単位/スチレン単位)は、特に限定されず、所望の屈折率を得るために適宜調整してもよい。すなわち、アクリル系化合物モノマー単位とスチレンモノマー単位の屈折率が判明していれば、各モノマー単位の屈折率に基づいて、所望の屈折率を得られるようにモノマー比を設定することができる。例えば、アクリルスチレンとしてメタクリル酸メチル・スチレン共重合体を用いる場合、屈折率が約1.49~約1.58となる範囲で、メタクリル酸メチルの比率を上げることにより、屈折率を低く調整することができ、スチレンの比率を上げることにより、屈折率を高く調整することができる。
アクリルスチレン粒子は、非架橋粒子であってもよく、架橋粒子であってもよい。アクリルスチレン粒子は、架橋粒子が好ましい。アクリルスチレン粒子として架橋粒子を用いることにより、溶融混錬時におけるアクリルスチレンの分解、アクリルスチレン粒子同士のブロッキング、及びアクリルスチレン粒子の形状変化を抑制することができる。架橋は、例えば、UV架橋、熱架橋、電子線架橋によって行われてもよい。
アクリルスチレン粒子は、温度300℃で粒子状を維持する物質が好ましく、温度 290℃で粒子状を維持する物質がより好ましく、温度280℃で粒子状を維持する物質が更に好ましい。
アクリルスチレン粒子は、脂環式構造含有重合体と非相溶性であることが好ましい。
アクリルスチレン粒子は、脂環式構造含有重合体に比して水分吸着性が比較的高いと予測されるので、脂環式構造含有重合体にアクリルスチレン粒子を配合することにより、高温高湿試験後の内部マイクロクラックの原因となる残存水分を脂環式構造含有重合体から吸収し、高温高湿試験前後のヘイズ変化(例、ヘイズ上昇)の抑制に寄与し、光学特性を良好に維持することができると考えられる。
また、アクリルスチレン粒子は、樹脂組成物の表面に凹凸を付与するので、摩擦係数が低下し、樹脂組成物同士のブロッキング(例、フィルム形状の樹脂組成物同士のブロッキング)を抑制することができる。
また、アクリルスチレンは、アクリル系化合物モノマー単位及びスチレンモノマー単位の両方を含むことにより透明性を有するので、光学素子の成分として適している。
また、アクリルスチレンの屈折率は、脂環式構造含有重合体の屈折率に近く、また、アクリル系化合物とスチレンのモノマー比(アクリル系化合物/スチレン)に依存して適宜調整可能であるので、アクリルスチレンを脂環式構造含有重合体に配合しても、光学特性が維持される。
<<屈折率>>
アクリルスチレン粒子の屈折率は、脂環式構造含有重合体の種類に応じて、脂環式構造含有重合体の屈折率に近くなるように適宜設定してもよい。アクリルスチレン粒子の屈折率と脂環式構造含有重合体の屈折率との差の絶対値は、0.00以上0.01以下が好ましく、0.000以上0.009以下がより好ましく、0.000以上0.008以下が更に好ましい。例えば、脂環式構造含有重合体の屈折率が、1.4~1.6の範囲にある場合、アクリルスチレン粒子の屈折率は、脂環式構造含有重合体の屈折率との差が上述した範囲内となるように設定してもよい。アクリルスチレン粒子の屈折率は、アクリルスチレンにおけるモノマー単位の種類、アクリル系化合物とスチレンのモノマー比(アクリル系化合物/スチレン)に基づいて適宜設定することができる。例えば、アクリルスチレンとしてメタクリル酸メチル・スチレン共重合体を用いる場合、屈折率が約1.49~約1.58となる範囲で、メタクリル酸メチルの比率を上げることにより、屈折率を低く調整することができ、スチレンの比率を上げることにより、屈折率を高く調整することができる。
アクリルスチレン粒子の屈折率と脂環式構造含有重合体の屈折率との差が、上述のような低い値の範囲内となることにより、高温高湿試験前後のヘイズ変化が抑制され、光学特性を更に良好に維持することができると考えられる。
アクリルスチレン粒子の屈折率は、当該分野で公知の方法を用いて測定することができ、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定してもよい。
<<粒径>>
アクリルスチレン粒子の体積平均粒子径(d)は、粒子の二次凝集を防ぐ観点から、0.15μm<dが好ましく、0.17μm<dがより好ましく、0.19μm<dが更に好ましい。また、アクリルスチレン粒子の体積平均粒子径は、ポリマーフィルターに捕捉されにくくする観点から、d<1μmが好ましく、d<0.8μmがより好ましく、d<0.6μmが更に好ましい。
アクリルスチレン粒子の粒度分布は、樹脂組成物の光学特性を均一にする観点から、単一のピークを有することが好ましく、シャープな単一のピークを有することがより好ましい。
アクリルスチレン粒子の体積平均粒子径及び粒度分布は、当該分野で公知の方法を用いて測定することができ、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定してもよい。
<<粒子添加量>>
本発明の樹脂組成物におけるアクリルスチレン粒子の脂環式構造含有重合体に対する添加量は、脂環式構造含有重合体100部に対して例えば0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上であってもよく、例えば1以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.2以下であってもよい。本発明の樹脂組成物が、延伸フィルム形状を有する場合、少量のアクリルスチレン粒子の添加で、フィルムの表面に凹凸が付与され、摩擦係数を低下させることができ、フィルム同士のブロッキングを抑制することができる。したがって、延伸フィルム形状の樹脂組成物が、上述した添加量のアクリルスチレン粒子を含んでいれば、フィルム同士のブロッキングを抑制することができる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0083
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0083】
【表1】