(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107679
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】電子機器
(51)【国際特許分類】
H05K 7/20 20060101AFI20240802BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20240802BHJP
G06F 1/20 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
H05K7/20 P
H05K3/28 C
G06F1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011727
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】杉田 航
(72)【発明者】
【氏名】中田 耕次
(72)【発明者】
【氏名】飯野 秀章
【テーマコード(参考)】
5E314
5E322
【Fターム(参考)】
5E314AA25
5E314BB02
5E314BB12
5E314CC01
5E314EE01
5E314FF01
5E314GG03
5E322AA09
5E322AB10
5E322DA01
5E322DA03
5E322DA04
5E322FA01
(57)【要約】
【課題】 超純水を媒体として液浸することで冷却可能な電子機器を提供する.
【解決手段】 高周波回路基板11は、複数の高周波回路部が実装される多層回路基板本体12と、高周波回路部13,14とからなる。高周波回路は、高周波回路部14のように多層回路基板本体12の内部に実装されていることが好ましい。また、高周波回路部13のように多層回路基板本体12の表面に露出している場合には、その表面に絶縁水密性コーティングが施せばよい。この絶縁水密性コーティングは、絶縁水密性の熱可塑性樹脂を塗布したり、絶縁水密性の熱硬化性樹脂層を形成したりすればよい。また、パリレンコーティングを施してもよい。この絶縁水密性コーティングは、高周波回路部13を完全に被覆するように形成されていればよく、高周波回路部13の付近だけでも多層回路基板本体12の高周波回路部13を含む領域、例えば、表面全域であってもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に電子部品を収容した電子機器であって、前記電子部品の高周波回路部分が水密性である、電子機器。
【請求項2】
前記高周波回路部分が1MHz以上の周波数である、請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記電子部品の高周波回路部分が、多層基板により基板内部に実装されている、請求項2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記電子部品の高周波回路部分に絶縁水密性コーティングが施されている、請求項2に記載の電子機器。
【請求項5】
前記絶縁水密性コーティングが膜厚50μm以上である、請求項4に記載の電子機器。
【請求項6】
前記電子機器の筐体内に純水が循環される、請求項1~5のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項7】
前記電子機器が、複数の電子部品を収容した筐体を備えており、複数の前記筐体同士が、前記純水を流通する気密性の取り外し可能な配管によって、該純水が循環可能に接続可能となっている、請求項6に記載の電子機器。
【請求項8】
前記純水の比抵抗が9MΩ・cm以上である、請求項6に記載の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に関し、特に超純水などに液浸して冷却可能な電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器を構成する電子部品は、動作中の発熱により温度が上昇して高温になる。そして、高温になった電子部品の誤作動又は故障を防止するために、電子部品を冷却することが従来から行われている。
【0003】
例えば、サーバ又は通信装置等の多数の電子部品により構成される電子機器を複数個収容するデータセンタでは、空調を用いた電子部品の冷却が行われている。データセンタでは、電子部品が収容されたラックにより通路を形成して、冷風が流れるコールドアイル及び電子部品を冷却して温度が上昇した空気が流れるホットアイルを形成するような空調システムが導入されている。
【0004】
このように、空気を用いて電子部品を冷却する場合には、冷媒を用いた冷却装置で空気を冷却し、冷却された空気を用いて電子部品を冷却することになる。そのため、ヒートポンプ等の冷却装置で冷媒を冷却する熱交換の段階、及び冷媒を用いて空気を冷却する熱交換の段階、及び冷却された空気で電子部品を冷却する熱交換の段階という複数の熱交換の段階を経て電子部品が冷却される。そのため、各熱交換においてロスが生じるので、投入されたエネルギーの無駄が大きくなる。
【0005】
また、データセンタの室内にコールドアイル及びホットアイルを形成しても、室内の気流をうまく制御できない場合には、局所的な熱交換が生じて空調の効率を下げることになる。
【0006】
さらに、空気は単位体積当たりの熱容量が小さいので、発熱量が30kW/ラックを超える発熱量の電子部品・機器を冷却することには適していない。
【0007】
そこで、発熱量が大きい電子部品を冷却するために、内部に冷却液が流通する配管を用いて冷却することが提案されている。
【0008】
例えば、電子部品を収容したケーシングに電気絶縁性の誘電性冷媒として油やフロリナートを充填し、誘電性冷媒を用いて、電子部品を直接冷却することが提案されている。しかしながら、ケーシングの周囲の雰囲気から誘電性冷媒中に水分が溶け込んだり、電子部品等の冷媒接触部分から腐食性の成分が誘電性冷媒中に溶解したりすると、誘電性冷媒の電気伝導度が上昇して、電子部品の誤作動又は故障を生じるおそれがある。これらの冷却システムを備えた電子機器では、冷却効率、あるいはシステムの信頼性に関して問題がある。さらに油やフロリナートは、廃棄の際の環境負荷が高い、という問題点がある。
【0009】
そこで、絶縁性が高く環境負荷の低い純水を冷媒として用いる電子機器の冷却方法として、特許文献1には、電子部品を内部に収納する筐体と、筐体内に充填されて、電子部品を冷却する純水と、純水を冷却する冷却部と、純水中のイオンを除去するイオン除去部と、純水中に不活性ガスを注入するガス注入部と、を備え、純水は、筐体と冷却部とイオン除去部とガス注入部とにより形成された気密性の経路内を循環することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載された電子機器では、電子機器を運転した際に短絡などにより回路の障害が起こりうる、という問題点がある。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、超純水を媒体として液浸することで冷却可能な電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、ケーシング内に電子部品を収容した電子機器であって、前記電子部品の高周波回路部分が水密性である電子機器を提供する(発明1)。特に上記発明(発明1)においては、前記高周波回路部分が1MHz以上の周波数であることが好ましい(発明2)。
【0014】
かかる発明(発明1,2)によれば、この電子機器を純水に浸漬して電子部品を冷却して稼働させることができ、高い冷却効率で安定して運転することができる。また、冷媒が純水であるので環境負荷が低い。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。すなわち、電子機器を純水に浸漬すると電子機器を運転した際に回路の障害が生じる原因について本発明者らが検討した結果、水は(水分子が持つ極性により)誘電率が高いため、特に電子部品の高周波回路部分(さらには1MHz以上の周波数の高周波回路部分)で寄生容量(浮遊容量)が生じ、『信号位相がズレる(信号がなまる)』ため障害が発生しやすいことがわかった。そこで、電子部品の高周波回路部分に水密性を付与して水との接触を防止すること、電子部品の高周波回路部分での短絡などの障害を防止し、電子機器を純水に浸漬して電子部品を冷却しても稼働させることができ、高い冷却効率で安定して運転することができると考えられる。
【0015】
上記発明(発明2)においては、前記電子部品の高周波回路部分が、多層基板により基板内部に実装されていることが好ましい(発明3)。
【0016】
かかる発明(発明3)によれば、電子部品の高周波回路部分が多層基板により基板内部実装されていれば水密状態であるので、電子機器を純水に浸漬して電子部品を冷却しても稼働させることができ、高い冷却効率で安定して運転することができる。
【0017】
上記発明(発明2)においては、前記電子部品の高周波回路部分に絶縁水密性コーティングが施されていることが好ましい(発明4)。特に上記発明(発明4)においては、前記絶縁水密性コーティングが膜厚50μm以上であることが好ましい(発明5)。
【0018】
かかる発明(発明4,5)によれば、パリレンコーティングなどの絶縁性かつ水密性のコーティングにより電子部品の高周波回路部分を被覆することにより、電子機器を超水に浸漬して電子部品を冷却しても稼働させることができ、高い冷却効率で安定して運転することができる。
【0019】
上記発明(発明1~5)においては、前記電子機器の筐体内に純水が循環されることが好ましい(発明6)。特に上記発明(発明6)においては、前記電子機器が、複数の電子部品を収容した筐体を備えており、複数の前記筐体同士が、前記純水を流通する気密性の取り外し可能な配管によって、該純水が循環可能に接続可能となっていることが好ましい(発明7)。
【0020】
かかる発明(発明6,7)によれば、サーバセンタなどに電子機器を設置し、純水により好適に冷却することができる。
【0021】
上記発明(発明6)においては、前記純水の比抵抗は9MΩ・cm以上であることが好ましい(発明8)。
【0022】
かかる発明(発明8)によれば、このような純水であれば、サーバセンタなどに設置された電子機器を短絡などの障害を生じさせることなく、好適に冷却することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の電子機器によれば、電子部品の高周波回路部分が絶縁性かつ水密性であるので、この電子機器を純水に浸漬して電子部品を冷却しても稼働させることができ、高い冷却効率で安定して運転することができる。また、冷媒が純水であるので環境負荷が低い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の電子機器を利用可能な液浸冷却システムを示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態による電子機器を構成する電子部品の高周波回路部分を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態による電子機器について添付図面を参照して説明する。
【0026】
[液浸冷却システム]
図1は、本発明の電子機器を適用可能な液浸冷却システムを示している。
図1において、液浸冷却システムは、電子機器としてのサーバ7を複数内部に収納する筐体1と、筐体1内に充填されてサーバ7を冷却する超純水を製造する超純水製造装置2と、この超純水製造装置2に純水を供給する純水製造装置3とを有し、筐体1と超純水製造装置2間は、気密性及び水密性を有するループ状の配管4により、超純水を循環可能となっている。この配管4の筐体1より下流側には、ポンプ5及び冷却部6が配置されている。そして、サーバ7の上流側には比抵抗計(RM)8A及び温度センサ(TS)9Aが、サーバ7の下流側には比抵抗計(RM)8B及び温度センサ(TS)9Bが、冷却部6の下流側には温度センサ(TS)9Cがそれぞれ設けられている。そして、超純水製造装置2で製造された超純水の循環量が図示しない制御手段により制御可能となっている。なお、サーバ7は、配線などにより、稼働電力の供給及び/又はデータ通信等が可能となっている。
【0027】
なお、本実施形態においは、冷却媒体の純水として超純水を用いる。ここで、超純水としては、例えば、抵抗率:18.1MΩ・cm以上、微粒子:粒径50nm以上で1000個/L以下、生菌:1個/L以下、TOC(Total Organic Carbon):1μg/L以下、全シリコン:0.1μg/L以下、金属類:1ng/L以下、イオン類:10ng/L以下、過酸化水素;30μg/L以下、水温:25±2℃のものが好適である。なお、冷却媒体としての純水は超純水が好適であるが、これに限るものではなく、比抵抗が9MΩ・cm以上の純水であれば用いることができる。
【0028】
(電子機器)
本実施形態でおいては、ケーシング内に電子部品を収容した電子機器としてサーバ7の場合について説明するが、ケーシング内に高周波回路を有する電子部品を内蔵していれば制限はなく、小型汎用コンピュータ、大型コンピュータなどにも適用することができる。高周波回路を有する電子部品としては、PCカード型の無線端末やPC(パーソナルコンピュータ)基盤などが挙げられる。なお、本実施形態において、高周波回路としては、周波数が高いほど純水への浸漬による障害が発生しやすく、1MHz以上、特に10MHz以上の周波数のものに好適である。
【0029】
上述したような高周波回路を有するPC基盤を構成する多層高周波回路基板の構造の一部を
図2に示す。この多層高周波回路基板11は、複数の高周波回路部が実装される多層回路基板本体12と、高周波回路部13,14とからなる。高周波回路は、高周波回路部14のように多層回路基板本体12の内部に実装されていることが好ましい。また、高周波回路部13のように多層回路基板本体12の表面に露出している場合には、その表面に絶縁水密性コーティングが施せばよい。この絶縁水密性コーティングは、絶縁性の熱可塑性樹脂を水密性を発揮しうる密着性で塗布したり、絶縁性の熱硬化性樹脂層を水密性を発揮しうる密着性で形成したりすればよい。また、パリレンコーティングを施してもよい。ここで、パリレンとは、パラキシレンから得られる一連のポリマーの名称であり、室温で蒸着プロセスにより形成することができ、化学的に安定な性質を有し、優れた水分・化学薬品・絶縁バリア特性を備えているだけでなく、温度安定性、機械的特性及び引っ張り強さにも優れていることから、本実施形態に好適に適用することができる。
【0030】
この絶縁水密性コーティングは、高周波回路部13を完全に被覆するように形成すればよく、高周波回路部13の付近だけでも多層回路基板本体12の高周波回路部13を含む領域、例えば、表面全域であってもよい。上述したような絶縁水密性コーティングの膜厚は、絶縁性と水密性を有していれば特に制限はないが30μm以上であることが好ましく、特に50~200μm程度とすることが好ましい。絶縁水密性コーティングの膜厚が50μm未満では、絶縁安定性と耐久性が十分でない一方、200μmを超えても絶縁性及び水密性が変わりないばかりか、膜の形成コストが高くなるため経済的でない。
【0031】
[液浸冷却方法]
上述したような液浸冷却システムにおいて、超純水製造装置2から筐体1に超純水が供給し、ポンプ5は筐体1から流れてきた超純水を冷却部6へ送り出し、冷却部6で冷却された超純水は超純水製造装置2に回収される。このようにして、サーバ7を冷却することができる。すなわち、サーバ7を構成する高周波回路基板11の高周波回路部13のエリアは水に晒されるが、高周波回路部14は水に接触しない。そして、配管4内を循環する超純水の比抵抗を比抵抗計8A、8Bで計測するとともに、「超純水の温度を温度センサ9A、9B、9Cで測定し、超純水による冷却が適正に行われるように図示しない制御手段により超純水の循環量を制御可能となっている。
【0032】
このとき、水に晒されている高周波回路部13が直接水に接触すると、短絡などの電気的な障害を起こす虞が生じる。これは高周波に起因して水の励起などが原因であると推測される。そこで、本実施形態においては、高周波回路部13を被覆するように絶縁水密性コーティングを施しているので、高周波回路部13自体が直接水に接触することがないので、水の励起などに起因する電気的な障害が生じないようになっている。
【0033】
以上、本発明の電子機器について前記実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の変更実施が可能である。例えば、前記実施形態においては、電子機器としてサーバを液浸冷却する場合について説明してきたが、耐水性パソコンに適用することもできる。また、高周波回路としては、高周波回路基板に限定されず、USB端子などの各種端子などであってもよい。
【実施例0034】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例1~5、比較例1及び参考例1]
表1に示す条件で加工を施した高周波回路を有するPC基盤を超純水に1時間浸漬した後引き上げ、このPC基盤に動作監視用PCをシリアル接続で接続し、直流電流を定電圧で供給した。この時の動作監視用PCの挙動とエラーメッセージの有無の確認を行った。結果を表1に示す。なお、参考例として加工していないPC基盤を水道水に浸漬した場合について同様に試験を行った結果を表1にあわせて示す。
【0036】