(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107768
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】ネコの筋ジストロフィーの診断方法、及び検査方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20240802BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240802BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALN20240802BHJP
A01K 67/02 20060101ALN20240802BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12N15/12
C12Q1/6883 Z
A01K67/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011864
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】523033213
【氏名又は名称】アニコム損害保険株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 淳平
(72)【発明者】
【氏名】松本 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】横山 望
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ43
4B063QR32
4B063QR72
4B063QR77
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】ネコの筋ジストロフィーの診断方法及び検査方法を提供する。
【解決手段】被検ネコが筋ジストロフィーに罹患しているかを判定する診断方法であって、前記被検ネコから採取された生体サンプルから、前記被検ネコのジストロフィン遺伝子の情報を取得し、前記情報に基づき、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患しているかを判定することを含む、診断方法。被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有しているかを判定する検査方法であって、前記被検ネコから採取された生体サンプルから、前記被検ネコのジストロフィン遺伝子の情報を取得し、前記情報に基づき、前記被検ネコ又はその子孫が筋ジストロフィーを発症するリスクを有しているかを判定することを含む、検査方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検ネコが筋ジストロフィーに罹患しているかを判定する診断方法であって、
前記被検ネコから採取された生体サンプルから、前記被検ネコのジストロフィン遺伝子の情報を取得し、前記情報に基づき、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患しているかを判定することを含む、診断方法。
【請求項2】
前記ジストロフィン遺伝子が機能喪失又は機能抑制変異を有している場合、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定することを含む、請求項1に記載の診断方法。
【請求項3】
前記ジストロフィン遺伝子において、配列番号2で表される塩基配列の第8098番目の塩基又はこれに相当する塩基がTである場合、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定することを含む、請求項1に記載の診断方法。
【請求項4】
前記筋ジストロフィーが、肥大型筋ジストロフィーである、請求項1~3のいずれか一項に記載の診断方法。
【請求項5】
前記ジストロフィン遺伝子が、下記(a)~(c)のいずれか一つのタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の診断方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を有し、ジストロフィン機能を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、ジストロフィン機能を有するタンパク質
【請求項6】
前記被検ネコの品種がキンカロー、マンチカン、又はアメリカンカール、或いはそれらと任意のネコとの交雑種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の診断方法。
【請求項7】
前記生体サンプルが、血液、血漿、血清、リンパ液、口腔内細胞又は糞便である、請求項1~3のいずれか一項に記載の診断方法。
【請求項8】
前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定された場合、下記の処置1~2のいずれか一つ以上を決定することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の診断方法。
処置1)前記被検ネコに対し全身麻酔を行わないこと
処置2)前記被検ネコに対し外科的処置を行わないこと
【請求項9】
被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有しているかを判定する検査方法であって、
前記被検ネコから採取された生体サンプルから、前記被検ネコのジストロフィン遺伝子の情報を取得し、前記情報に基づき、前記被検ネコ又はその子孫が筋ジストロフィーを発症するリスクを有しているかを判定することを含む、検査方法。
【請求項10】
前記ジストロフィン遺伝子が機能喪失又は機能抑制変異を有している場合、前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定することを含む、請求項9に記載の検査方法。
【請求項11】
前記ジストロフィン遺伝子において、配列番号2で表される塩基配列の第8098番目の塩基又はこれに相当する塩基がTである場合、前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定することを含む、請求項9に記載の検査方法。
【請求項12】
前記筋ジストロフィーが、肥大型筋ジストロフィーである、請求項9~11のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項13】
前記ジストロフィン遺伝子が、下記(a)~(c)のいずれか一つのタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、請求項9~11のいずれか一項に記載の検査方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を有し、ジストロフィン機能を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、ジストロフィン機能を有するタンパク質
【請求項14】
前記被検ネコの品種がキンカロー、マンチカン、又はアメリカンカール、或いはそれらと任意のネコとの交雑種である、請求項9~11のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項15】
前記生体サンプルが、血液、血漿、血清、リンパ液、口腔内細胞又は糞便である、請求項9~11のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項16】
前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定された場合、下記の処置3~4のいずれか一つ以上を決定することを含む、請求項9~11のいずれか一項に記載の検査方法。
処置3)前記被検ネコを繁殖させないこと
処置4)前記被検ネコを繁殖候補としないこと
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネコの筋ジストロフィーの診断方法、及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋ジストロフィーは、骨格筋の壊死や変性を主病変とする筋疾患である。ネコにおいては肥大型全身性の骨格筋の肥大を主徴とする肥大型筋ジストロフィーが知られる。ネコの肥大型筋ジストロフィーに関する過去の報告では、ジストロフィン遺伝子(Duchenne muscular dystrophy:DMD遺伝子)のプロモーター及びエクソン1の欠損や、エクソン11のナンセンス変異が示されており(非特許文献1~3)、遺伝性疾患とされている。典型的には雄猫の3~6ヶ月齢で発症し、横隔膜の肥大に伴う巨大食道症や採食障害を招いた場合には予後不良とされ、安楽死される症例が多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“Deletion of the dystrophin muscle promoter in feline muscular dystrophy” N J Winand, M Edwards, D Pradhan, C A Berian, B J Cooper: Neuromuscul Disord, 4(5-6), 433-45 (1994).
【非特許文献2】“Emergent presentation of a cat with dystrophin-deficient muscular dystrophy” Anya N Gambino, Pamela J Mouser, G Diane Shelton, Nena J Winand: J Am Anim Hosp Assoc. 50(2), 130-5 (2014).
【非特許文献3】“A Nonsense Variant in the DMD Gene Causes X-Linked Muscular Dystrophy in the Maine Coon Cat” Evy Beckers, Ine Cornelis, Sofie F M Bhatti, Pascale Smets, G Diane Shelton, Ling T Guo, Luc Peelman, Bart J G Broeckx: Animals 12(21), 2928 (2022).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ネコの筋ジストロフィーは報告される症例数が少なく、簡便な診断方法が確立されていない。現状、ネコの筋ジストロフィーの確定診断は、筋生検および免疫組織化学染色によるジストロフィン蛋白の欠損によってなされている。しかし、筋生検は侵襲性が大きく、吸入麻酔薬と手術侵襲による致死的な横紋筋融解症が報告されており、より低侵襲な診断方法が望まれる。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、ネコの筋ジストロフィーの診断方法、及び検査方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、肥大型筋ジストロフィーと診断されたネコにおいて、次世代シークエンサーによる全ゲノム解析を行った。その結果、ジストロフィン遺伝子(DMD遺伝子)のエクソン上に、タンパク質の生産が止まり、異常なタンパク質が生産されるナンセンス変異を新たに同定し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0007】
(1) 被検ネコが筋ジストロフィーに罹患しているかを判定する診断方法であって、
前記被検ネコから採取された生体サンプルから、前記被検ネコのジストロフィン遺伝子の情報を取得し、前記情報に基づき、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患しているかを判定することを含む、診断方法。
(2) 前記ジストロフィン遺伝子が機能喪失又は機能抑制変異を有している場合、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定することを含む、前記(1)に記載の診断方法。
(3) 前記ジストロフィン遺伝子において、配列番号2で表される塩基配列の第8098番目の塩基又はこれに相当する塩基がTである場合、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定することを含む、前記(1)又は(2)に記載の診断方法。
(4) 前記筋ジストロフィーが、肥大型筋ジストロフィーである、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の診断方法。
(5) 前記ジストロフィン遺伝子が、下記(a)~(c)のいずれか一つのタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の診断方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を有し、ジストロフィン機能を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、ジストロフィン機能を有するタンパク質
(6) 前記被検ネコの品種がキンカロー、マンチカン、又はアメリカンカール、或いはそれらと任意のネコとの交雑種である、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の診断方法。
(7) 前記生体サンプルが、血液、血漿、血清、リンパ液、口腔内細胞又は糞便である、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の診断方法。
(8) 前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定された場合、下記の処置1~2のいずれか一つ以上を決定することを含む、前記(1)~(7)のいずれか一つに記載の診断方法。
処置1)前記被検ネコに対し全身麻酔を行わないこと
処置2)前記被検ネコに対し外科的処置を行わないこと
(9) 被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有しているかを判定する検査方法であって、
前記被検ネコから採取された生体サンプルから、前記被検ネコのジストロフィン遺伝子の情報を取得し、前記情報に基づき、前記被検ネコ又はその子孫が筋ジストロフィーを発症するリスクを有しているかを判定することを含む、検査方法。
(10) 前記ジストロフィン遺伝子が機能喪失又は機能抑制変異を有している場合、前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定することを含む、前記(9)に記載の検査方法。
(11) 前記ジストロフィン遺伝子において、配列番号2で表される塩基配列の第8098番目の塩基又はこれに相当する塩基がTである場合、前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定することを含む、前記(9)又は(10)に記載の検査方法。
(12) 前記筋ジストロフィーが、肥大型筋ジストロフィーである、前記(9)~(11)のいずれか一つに記載の検査方法。
(13) 前記ジストロフィン遺伝子が、下記(a)~(c)のいずれか一つのタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、前記(9)~(12)のいずれか一つに記載の検査方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を有し、ジストロフィン機能を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、ジストロフィン機能を有するタンパク質
(14) 前記被検ネコの品種がキンカロー、マンチカン、又はアメリカンカール、或いはそれらと任意のネコとの交雑種である、前記(9)~(13)のいずれか一つに記載の検査方法。
(15) 前記生体サンプルが、血液、血漿、血清、リンパ液、口腔内細胞又は糞便である、前記(9)~(14)のいずれか一つに記載の検査方法。
(16) 前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定された場合、下記の処置3~4のいずれか一つ以上を決定することを含む、前記(9)~(15)のいずれか一つに記載の検査方法。
処置3)前記被検ネコを繁殖させないこと
処置4)前記被検ネコを繁殖候補としないこと
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ネコの筋ジストロフィーの診断方法、及び検査方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の診断方法、及び検査方法の実施形態を説明する。
【0010】
≪診断方法≫
実施形態の診断方法は、被検ネコが、筋ジストロフィーに罹患しているかを判定する診断方法であって、前記被検ネコから採取された生体サンプルから、ジストロフィン遺伝子の情報を取得し、前記情報に基づき、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患しているかを判定することを含む。
【0011】
本実施形態の診断方法は、被検ネコが筋ジストロフィーに罹患しているかの判定に利用できる。被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していることの判定は、被検ネコが筋ジストロフィーに罹患している可能性が高いと判定することを含む。被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していないことの判定は、被検ネコが筋ジストロフィーに罹患している可能性が低いと判定することを含む。
【0012】
ネコにおける筋ジストロフィーの典型は、骨格筋の肥大が生じる「肥大型」筋ジストロフィーである。実施形態の診断方法における前記被検ネコは、筋肥大を示していてもよい。
実施形態の診断方法における前記筋ジストロフィーは、肥大型筋ジストロフィーであってよい。
実施形態の診断方法における前記筋ジストロフィーは、Duchenne型筋ジストロフィーであってよい。
【0013】
ネコのジストロフィン遺伝子は、X染色体上に存在することが知られ、ジストロフィンをコードしている。ジストロフィンは、筋線維の膜タンパク質と細胞骨格との連結に関わる機能を有する。
【0014】
本明細書において「遺伝子」とは、被検ネコが有する核酸上の一領域に保持されるものであってよく、通常は、デオキシリボ核酸(DNA)である。
【0015】
被検ネコから採取された前記生体サンプルは、ジストロフィン遺伝子の情報を含む核酸が含まれてよい。当該核酸としては、ジストロフィン遺伝子のローカスを含むゲノムDNAが挙げられ、mRNA等のジストロフィン遺伝子の転写産物であってもよい。
【0016】
前記ジストロフィン遺伝子の情報の取得とは、遺伝子型の検出を含み、例えば、ジストロフィン遺伝子の構造に係る情報の取得であってよく、ジストロフィン遺伝子の全部又は一部の塩基配列に係る情報(例えば、ジストロフィン遺伝子および/又はそのプロモーターの全部又は一部の置換、欠失、挿入、又は付加等も含む)の取得であってもよい。
上記の情報の取得方法としては、キャピラリー電気泳動によるサンガー法を用いる等の公知のシークエンス技術を用いた塩基配列情報の取得や、ジストロフィン遺伝子の全部又は一部を含む核酸断片を鋳型とするPCR法等による増幅産物の増幅パターンの取得などの方法が挙げられる。遺伝子型は、一塩基多型であってもよく、一塩基多型の検出には、配列情報の取得の一形態として、シークエンス技術や、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism、制限酵素断片長多型)を利用することもできる。
【0017】
ジストロフィン遺伝子の配列増幅用のプライマーセットの一例として、配列番号5に示す塩基配列からなるプライマーおよび塩基配列6に示す塩基配列からなるプライマーを含むプライマーセットを例示する。
【0018】
前記ジストロフィン遺伝子の情報の取得は、野生型のジストロフィン遺伝子の情報と比較して、前記被検ネコにおける前記ジストロフィン遺伝子が変異を有しているかを検出することを含んでもよい。
【0019】
実施形態の診断方法は、前記被検ネコにおける前記ジストロフィン遺伝子が変異を有している場合、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定することを含むことができる。
以下、筋ジストロフィーの発症の要因となる変異を有するジストロフィン遺伝子を「変異型」ジストロフィン遺伝子と称することがある。
【0020】
変異型ジストロフィン遺伝子が有する変異としては、野生型のジストロフィンに対し、ジストロフィンのアミノ酸配列を変化させる変異であってよく、ジストロフィン遺伝子の機能喪失又は機能抑制を生じさせる変異であってよい。
【0021】
実施形態の診断方法は、前記被検ネコにおける前記ジストロフィン遺伝子が、ジストロフィン遺伝子の機能喪失又は機能抑制変異を有している場合、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定することを含むことができる。
【0022】
ジストロフィン遺伝子の機能喪失又は機能抑制とは、筋ジストロフィーの発症の要因となる程度のジストロフィンの機能喪失又は機能抑制である。
【0023】
ジストロフィン遺伝子の機能喪失又は機能抑制を生じさせる変異としては、ジストロフィン遺伝子の発現調節領域における変異であってもよく、コーディング領域における変異であってもよい。当該変異の種類としては、野生型のジストロフィン遺伝子の塩基配列における、置換、欠失、挿入、又は付加等のいずれであってもよく、欠失、ナンセンス変異又はフレームシフト変異であってよく、コーディング領域におけるナンセンス変異又はフレームシフト変異であってよく、コーディング領域におけるナンセンス変異であってよい。
【0024】
野生型のジストロフィン遺伝子を含むネコゲノムの参照配列として、例えば、アビシニアン種のネコのゲノム配列(felCat9, Buckley et al. PLOS Genetics 2020 Oct 22;16(10):e1008926)、又はアメリカンショートヘア種のネコのゲノム配列(AnAms1.0, Isobe et al. bioRxiv 2020)を利用することができる。
【0025】
配列番号1に、野生型のジストロフィンタンパク質のアミノ酸配列を示す。
【0026】
本明細書における前記ジストロフィン遺伝子として、下記(a)~(c)のいずれか一つのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを例示する。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を有し、ジストロフィン機能を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、ジストロフィン機能を有するタンパク質
【0027】
前記ジストロフィン遺伝子は、下記(a’)~(c’)のいずれか一つのタンパク質をコードするポリヌクレオチドであってもよい。
(a’)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b’)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、ジストロフィン機能を有するタンパク質
(c’)配列番号1で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、ジストロフィン機能を有するタンパク質
【0028】
(b)及び(b’)において、置換、欠失、挿入、又は付加されてよいアミノ酸の数としては、1~360個が好ましく、1~300個が好ましく、1~200個が好ましく、1~150個が好ましく、1~100個がより好ましく、1~50個がより好ましく、1~40個がより好ましく、1~30個がより好ましく、1~15個がより好ましく、1~10個が更に好ましく、1~5個が更に好ましく、1~3個がとりわけ好ましく、1~2個が最も好ましい。
【0029】
(c)及び(c’)における配列同一性としては、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましい。
【0030】
アミノ酸配列の配列同一性は、公知のシーケンスアライメントのアルゴリズムであるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)、例えばblastpにより算出可能である。
【0031】
ジストロフィン遺伝子にコードされるジストロフィン機能を有するタンパク質とは、場合により、メチル化、アセチル化、リン酸化等の修飾を受けたり、部分的に切断されたりなどして成熟化されたタンパク質の形態を含む。
【0032】
ジストロフィン遺伝子は、その塩基配列によっても特定可能である。
配列番号2に、野生型のジストロフィンタンパク質をコードするジストロフィン遺伝子(ポリヌクレオチド)のコーディング領域の塩基配列を示す。
【0033】
ジストロフィン遺伝子を塩基配列により特定する場合には、コーディング領域の塩基配列として、配列番号1で表されるアミノ酸配列の代わりに配列番号2で表される塩基配列で特定し、アミノ酸配列に代えて、塩基配列の置換、欠失、挿入、又は付加並びに同一性を採用できる。置換、欠失、挿入、又は付加されてよい塩基(ヌクレオシド)の数及び同一性としては、上記のアミノ酸配列として例示した数値に相当する数値が挙げられる。
【0034】
後述の実施例に示されるように、発明者らは、配列番号2で表される前記ジストロフィン遺伝子の塩基配列において、第8098番目の塩基又はこれに相当する塩基でのナンセンス変異が、ネコにおける肥大型筋ジストロフィーの発症の原因となることをつきとめた。この第8098番目の塩基は、上記のAnAms1.0をリファレンスとするジストロフィン遺伝子の第55エクソンに含まれる。
【0035】
前記変異型ジストロフィン遺伝子が有する前記変異としては、ジストロフィン遺伝子の第1~55エクソンのいずれかの領域におけるナンセンス変異又はフレームシフト変異であってよく、ジストロフィン遺伝子の第1~55エクソンのいずれかの領域におけるナンセンス変異であってよい。
【0036】
後述の実施例に示されるように、発明者らは、配列番号2で表される前記ジストロフィン遺伝子の塩基配列において、第8098番目の塩基又はこれに相当する塩基のTへの変異が、ネコにおける肥大型筋ジストロフィーの発症の原因となることをつきとめた。
【0037】
実施形態の診断方法は、前記ジストロフィン遺伝子において、配列番号2で表される塩基配列の第8098番目の塩基又はこれに相当する塩基がTである場合、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定することを含むことが好ましい。
【0038】
配列番号4で表される塩基配列は、配列番号2で表される塩基配列において、第8098番目の塩基がTである塩基配列である。
配列番号3に、配列番号4に示される変異型ジストロフィン遺伝子から翻訳される、変異型のジストロフィンタンパク質のアミノ酸配列を示す。
【0039】
なお、第8098番目の塩基に相当する塩基とは、上記(a)~(c)や、下記(d)~(f)および下記(d’)~(f’)に例示するような、ジストロフィン遺伝子の配列の多様性を含めた場合、第8098番目の塩基又に相当する塩基である。当業者であれば、塩基配列の配列比較を行うことで、第8098番目の塩基に相当する塩基を、容易に決定できる。
【0040】
実施形態の診断方法は、下記(d)~(f)のいずれか一つの塩基配列を含み、好ましくはジストロフィン機能を有するジストロフィンをコードする前記ジストロフィン遺伝子のコーディング領域の塩基配列において、第8098番目の塩基又はこれに相当する塩基がTである場合、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定することを含むことが好ましい。
(d)配列番号2で表される塩基配列
(e)配列番号2で表される塩基配列において、1~数個の塩基が置換、欠失、挿入、又は付加されている塩基配列
(f)配列番号2で表される塩基配列において、配列同一性が90%以上である塩基配列
【0041】
実施形態の診断方法は、下記(d’)~(f’)のいずれか一つの塩基配列を含み、好ましくはジストロフィン機能を有するジストロフィンをコードする前記ジストロフィン遺伝子のコーディング領域の塩基配列において、第8098番目の塩基又はこれに相当する塩基がTである場合、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定することを含むことが好ましい。
(d’)配列番号2で表される塩基配列
(e’)配列番号2で表される塩基配列の第8098番目の塩基以外の部位において、1~数個の塩基が置換、欠失、挿入、又は付加されている塩基配列
(f’)配列番号2で表される塩基配列の第8098番目の塩基以外の部位において、配列同一性が90%以上である塩基配列
【0042】
(e)及び(e’)において、置換、欠失、挿入、又は付加されてよい塩基の数としては、1~1100個が好ましく、1~500個が好ましく、1~200個が好ましく、1~150個が好ましく、1~100個がより好ましく、1~50個がより好ましく、1~40個がより好ましく、1~30個がより好ましく、1~15個がより好ましく、1~10個が更に好ましく、1~5個が更に好ましく、1~3個がとりわけ好ましく、1~2個が最も好ましい。
【0043】
(f)及び(f’)における配列同一性としては、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましい。
【0044】
塩基配列の配列同一性は、公知のシーケンスアライメントのアルゴリズムであるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)、例えばblastnにより算出可能である。
【0045】
実施形態の診断方法は、被検ネコのジストロフィン遺伝子が、配列番号4で表される塩基配列を有している場合、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定することを含むことが好ましい。
【0046】
ネコのジストロフィン遺伝子はX染色体上に存在する。オスはX染色体を1つしか有さないため、前記ジストロフィン遺伝子が正常に機能しない場合には、筋ジストロフィーを発症する可能性が非常に高い。本診断方法において、前記被検ネコはオスであることが好ましい。
【0047】
例えば、前記被検ネコがオスであり、前記変異を有するジストロフィン遺伝子を有している場合、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定してもよい。
例えば、前記被検ネコがメスであり、前記変異を有するジストロフィン遺伝子をヘテロ接合で有している場合、前記被検ネコが筋ジストロフィー保因者であると判定してもよい。なお、前記被検ネコがメスであり、前記変異を有するジストロフィン遺伝子をヘテロ接合で有している場合も、筋ジストロフィーを発症するリスクが高まる。
例えば、前記被検ネコがメスであり、前記変異を有するジストロフィン遺伝子をホモ接合で有している場合、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定してもよい。
【0048】
実施形態の診断方法において、前記被検ネコの品種は、特に制限されないが、キンカロー、マンチカン、又はアメリカンカール、或いはそれらと任意のネコとの交雑種であってよい。
キンカローは、後述の実施例における被検ネコの品種である。キンカローは、マンチカンおよびアメリカンカールの交雑種である。
【0049】
前記被検ネコから採取された生体サンプルとしては、ジストロフィン遺伝子の情報を含むゲノムDNAが含まれているものが好ましく、例えば、血液、血漿、血清、リンパ液、口腔内細胞、糞便等が挙げられ、低侵襲であり被検ネコへの負担が抑えられる点から、血液、口腔内細胞又は糞便が好ましい。
【0050】
また、当該生体試料は、核酸抽出可能な状態であればよく、各種前処理が施されているものであってもよい。例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織であってもよい。生体試料からの核酸の抽出は常法により行うことができ、各種市販の核酸抽出・精製キットを使用することもできる。
【0051】
実施形態の診断方法は、前記被検ネコのジストロフィン遺伝子の情報に基づき、前記被検ネコが筋ジストロフィーに罹患していると判定された場合、下記の処置1~2のいずれか一つ以上を決定することを含んでもよい。
処置1)前記被検ネコに対し全身麻酔を行わないこと
処置2)前記被検ネコに対し外科的処置を行わないこと
【0052】
従来のネコの筋ジストロフィーの診断方法では、免疫組織化学染色を行うための生体サンプルとして、被検ネコから筋組織を採取する必要があり、全身麻酔や外科的処置が常法であった。しかし、被検ネコが既に筋ジストロフィーを発症している場合など、これらの全身麻酔や外科的処置による横紋筋融解の発生リスクが増加してしまう。
一方、本実施形態の診断方法によれば、遺伝子情報の取得により筋ジストロフィーに罹患しているかを判定可能であるため、低侵襲に採取が可能な血液等の生体サンプルを利用でき、被検ネコの負担を大幅に軽減できる。
【0053】
≪検査方法≫
実施形態の検査方法は、被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有しているかを判定する検査方法であって、前記被検ネコから採取された生体サンプルから、前記被検ネコのジストロフィン遺伝子の情報を取得し、前記情報に基づき、被検ネコ又はその子孫が筋ジストロフィーを発症するリスクを有しているかを判定することを含む。
【0054】
実施形態の検査方法において、前記生体サンプル、および前記ジストロフィン遺伝子としては、上記の実施形態の診断方法で例示したサンプルと同一のものを例示できる。
【0055】
実施形態の検査方法において、前記ジストロフィン遺伝子としては、上記の実施形態の診断方法で例示した遺伝子と同一のものを例示できる。
【0056】
実施形態の検査方法は、前記ジストロフィン遺伝子が変異を有している場合、前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定することを含んでよい。
【0057】
実施形態の検査方法は、前記被検ネコにおける前記ジストロフィン遺伝子が、ジストロフィン遺伝子の機能喪失又は機能抑制変異を有している場合、前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定することを含んでよい。
【0058】
実施形態の検査方法において、ジストロフィン遺伝子の前記変異としては、上記の実施形態の診断方法で例示した遺伝子と同一のものを例示できる。
【0059】
例えば、前記ジストロフィン遺伝子において、配列番号2で表される塩基配列の第8098番目の塩基又はこれに相当する塩基がTである場合、前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定することを含むことができる。
【0060】
実施形態の検査方法は、下記(d)~(f)のいずれか一つの塩基配列を含み、好ましくはジストロフィン機能を有するジストロフィンをコードする前記ジストロフィン遺伝子のコーディング領域の塩基配列において、第8098番目の塩基又はこれに相当する塩基がTである場合、前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定することを含むことが好ましい。
(d)配列番号2で表される塩基配列
(e)配列番号2で表される塩基配列において、1~数個の塩基が置換、欠失、挿入、又は付加されている塩基配列
(f)配列番号2で表される塩基配列において、配列同一性が90%以上である塩基配列
【0061】
実施形態の検査方法は、下記(d’)~(f’)のいずれか一つの塩基配列を含み、好ましくはジストロフィン機能を有するジストロフィンをコードする前記ジストロフィン遺伝子のコーディング領域の塩基配列において、第8098番目の塩基又はこれに相当する塩基がTである場合、前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定することを含むことが好ましい。
(d’)配列番号2で表される塩基配列
(e’)配列番号2で表される塩基配列の第8098番目の塩基以外の部位において、1~数個の塩基が置換、欠失、挿入、又は付加されている塩基配列
(f’)配列番号2で表される塩基配列の第8098番目の塩基以外の部位において、配列同一性が90%以上である塩基配列
【0062】
実施形態の検査方法は、被検ネコのジストロフィン遺伝子が、配列番号4で表される塩基配列を有している場合、前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定することを含むことが好ましい。
【0063】
本検査方法において前記被検ネコは、オスであってもよく、メスであってもよい。
【0064】
前記被検ネコが、前記変異を有するジストロフィン遺伝子を有している場合、前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定することができる。
特に、前記被検ネコがメスの場合で、前記変異を有するジストロフィン遺伝子をヘテロ接合で有している場合、被検ネコは筋ジストロフィー保因者であり、前記被検ネコ又はその子孫が筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定することができる。
【0065】
実施形態の検査方法において、前記被検ネコの品種は、特に制限されないが、キンカロー、マンチカン、又はアメリカンカール、或いはそれらと任意のネコとの交雑種であってよい。
【0066】
実施形態の検査方法において、前記被検ネコは、ペットとして飼育されている、又は飼育が予定されているネコであってよい。実施形態の検査方法において、前記被検ネコは、繁殖候補のネコであってよい。
【0067】
実施形態の検査方法における前記筋ジストロフィーは、肥大型筋ジストロフィーであってよい。
実施形態の検査方法における前記筋ジストロフィーは、Duchenne型筋ジストロフィーであってよい。
【0068】
実施形態の検査方法は、前記被検ネコのジストロフィン遺伝子の情報に基づき、前記被検ネコ又はその子孫が、筋ジストロフィーを発症するリスクを有していると判定された場合、下記の処置3~4のいずれか一つ以上を決定することを含んでもよい。
処置3)前記被検ネコを繁殖させないこと
処置4)前記被検ネコを繁殖候補としないこと
【0069】
本実施形態の検査方法によれば、遺伝子情報の取得により、簡易に筋ジストロフィーの発症リスクを判定できるため、将来的な筋ジストロフィーの発症に備えることや、筋ジストロフィーを発症するネコの低減に寄与する。
【実施例0070】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
肥大型筋ジストロフィーと診断されたキンカロー(11ヶ月齢、オス)の血液からDNA抽出キット(QIAGEN社製、QIAmp DNA Mini Kit)を用いてDNAを抽出した。抽出したDNAからライブラリー調整キット(Illumina社製、TruSeq DNA PCR free)を用いてシークエンス用のライブラリーを作成した。当該ライブラリーを用いて次世代シークエンサー(Illumina社製、NovaSeq 6000)により全ゲノム配列データ(fastq形式)を取得した。このfastqファイルを用いて、アビシニアン種の既存のゲノム配列(felCat9, Buckley et al. PLOS Genetics 2020 Oct 22;16(10):e1008926)および発明者の松本らが開発したアメリカンショートヘア種のネコの参照ゲノム配列(AnAms1.0, Isobe et al. bioRxiv 2020)に対し、データ解析ソフトウェア(Illumina社製、DRAGEN)を用いて配列のマッピングを実施し、変異検出を行なった。
【0072】
その結果、筋ジストロフィー関連遺伝子であるジストロフィン(DMD)遺伝子に変異が検出された。全ゲノム配列データをもとに、DMD遺伝子の全塩基配列を推定し、下記1)~3)の条件に当てはまる塩基置換を調べた。1)DMD遺伝子のエクソン上にありアミノ酸配列を変化させる変異であること、2)二つの参照ゲノム配列の結果が一致していること、3)疾患歴のない欧米原産の20個体のネコ種(アメリカンショートヘア、スコティッシュフォールド、ブリティッシュショートヘア等)で当該変異を持たないこと。
これら3つの条件を満たした変異は、一塩基置換のナンセンス変異の一つのみであった。この変異は、AnAms1.0の染色体Xの27,454,847番目の塩基(felCat9の染色体Xの27,350,268番目の塩基)に同定された。
【0073】
変異型DMD遺伝子のコーディング領域の塩基配列(配列番号4)と、この塩基配列を有する変異型DMD遺伝子から翻訳される変異型DMDのアミノ酸配列(配列番号3)とを示す。配列番号4に示される塩基配列における第8098番目の塩基で、本来Cであるはずの塩基がTに置換していた。
【0074】
上記で得た塩基配列の情報をもとに、プライマーセット(フォワードプライマー 配列番号5:5’-GGGAGACACAGAATCGGAAACAG-3’、リバースプライマー 配列番号6:5’-AAGTCTCAGCGTTCTGCATGTG-3’)を用いて、上記の抽出DNAからPCR産物を得て、サンガーシークエンスにより再度、DMD遺伝子の配列情報を取得し、疾患歴のない欧米原産のネコ種の200個体分のDMD遺伝子の配列情報と比較した。
【0075】
その結果、肥大型筋ジストロフィーと診断されたネコ個体のみが、上記の非同義置換のナンセンス変異を有していることが確認された。
この個体において、すでに非特許文献1~3に報告されているプロモーター及びエクソン1の欠損変異及びエクソン11のナンセンス変異は認められなかったため、今回発見した当該ナンセンス変異が肥大型筋ジストロフィーの発症に関与したことが強く示唆される。
【0076】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。