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特開2024-107822光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107822
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
G02F1/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011942
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】岡橋 宏佑
(72)【発明者】
【氏名】片岡 優
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA30
2K102DA05
2K102DB05
2K102DB08
2K102DC08
2K102DD03
2K102DD05
2K102EA02
2K102EB16
2K102EB20
2K102EB22
2K102EB30
(57)【要約】
【課題】
光導波路の表面の荒れによる光散乱損失や、電極等による光吸収損失を抑制すると共に、光導波路を被覆する誘電体層による応力を緩和することが可能な光導波路素子を提供すること。
【解決手段】
基板1上に形成される光導波路10を有し、該光導波路の一部に該光導波路を伝搬する光波を変調する光変調部(図5(B)参照)が形成された光導波路素子において、該光導波路を覆う第1の誘電体層M1を備え、該光変調部を除く該光導波路の一部(図5(A)参照)には、前記第1の誘電体層M1とは異なる材料で構成される第2の誘電体層M2が、前記第1の誘電体層M1の上の配置されていることを特徴とする。
【選択図】図5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される光導波路を有し、該光導波路の一部に該光導波路を伝搬する光波を変調する光変調部が形成された光導波路素子において、
該光導波路を覆う第1の誘電体層を備え、
該光変調部を除く該光導波路の一部には、前記第1の誘電体層とは異なる材料で構成される第2の誘電体層が、前記第1の誘電体層の上の配置されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、前記第1の誘電体層は、該光導波路を構成する材料より屈折率が低い無機材料であり、前記第2の誘電体層は、該光導波路を構成する材料より屈折率が低い有機材料であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項1に記載の光導波路素子において、前記第1の誘電体層の厚みは1μm以下であり、前記第2の誘電体層の厚みは2μm以上であることを特徴する光導波路素子。
【請求項4】
請求項1に記載の光導波路素子において、該光導波路の端部にスポットサイズ変換部が形成され、該スポットサイズ変換部の構成要素の一部を前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層が兼ねていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
請求項1に記載の光導波路素子において、該基板は、補強基板の表面に形成された薄膜層であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光導波路素子は筐体内に収容され、
該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の光変調デバイスにおいて、
該光導波路素子は該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極を備え、
該変調電極に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする光変調デバイス。
【請求項8】
請求項7に記載の光変調デバイスと、
該光変調デバイスに光波を入力する光源と、
該光変調デバイスに変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置に関し、特に、基板上に形成される光導波路を有し、該光導波路の一部に該光導波路を伝搬する光波を変調する光変調部が形成された光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光計測技術分野や光通信技術分野において、光導波路を形成した基板を用いた光変調器などの光導波路素子が多用されている。一般的な光導波路素子では、ニオブ酸リチウム(LN)などの電気光学効果を有する基板に光導波路を形成し、該光導波路に電界を印加する制御電極を基板上に形成している。また、Siやサファイアなどの基板の上にLNなどの薄膜層を形成し光導波路を形成するものもある。
【0003】
また、基板上に形成した光導波路には、光導波路の表面の荒れによる光散乱損失を低減するため、種々の散乱抑制層が形成されている。特許文献1には、図1に示すように、SiO等の基板SBの上面にコア層C1を形成し、該コア層を覆うように全面にクラッド層C2を形成することが開示されている。このクラッド層C2は、コア層C1の表面の荒れを緩和する効果も有している。
【0004】
特許文献2には、図2に示すように、基板1にリブ型光導波路10を形成し、光導波路10を含む基板1の全面にSiOを用いたバッファ層2を配置することが開示されている。このバッファ層2は、光導波路10の上面や側面の荒れによる光散乱損失を低減する効果を有している。
【0005】
特許文献3には、図3に示すように、リブ型光導波路10を覆うようにフォトレジストなどの樹脂を利用した誘電体膜20を配置することが開示されている。このような樹脂層もリブ型光導波路の表面の荒れによる光散乱損失を低減する効果を有している。なお、図3では、光導波路10を挟むよう電極ELを配置した例を示している。
【0006】
一方、近年では、広帯域幅コヒーレントドライバ変調器(HB-CDM:High Bandwidth-Coherent Driver Modulator)が注目されている。基板に形成する光導波路は、1μm程度の幅や高さを備え、帯状に延在する凸状部で構成された凸状光導波路(例えば、リブ型導波路、リッジ型導波路、スロット型導波路)が利用されている。このような微細な凸状導波路は、光の閉じ込めが強く、光導波路を小さな曲率で曲げることが可能であり、光導波路素子をコンパクトに形成することができる。
【0007】
微細な光導波路では、ドライエッチングにて基板を加工して光導波路を形成する際に、光導波路の上面や側面の荒れによる光散乱損失が重大な課題であった。リブ型光導波路をコアとした時、クラッドの屈折率は小さい方が光の閉じ込めが良い。このため、本来はリブ型光導波路の周囲に配置する材料は空気が良いが、図1乃至3に示すように、側面荒れ緩和のために空気以外のクラッド層(SiOや樹脂)が配置されている。
【0008】
しかしながら、図2に示すように、基板表面の全面にSiOのバッファ層2を配置した場合には、微細な光導波路(高さや幅が1μm程度)を覆うバッファ層2からの内部応力により、光導波路が破損したり、バッファ層が剥離するため、光導波路素子の伝搬損失が増大する等、特性劣化が生じる。
【0009】
このため、図3に示すような永久レジストなどの樹脂材料を用いることで、ヤング率を下げ、誘電体層20から光導波路10に印加される応力を緩和することが期待される。しかしながら、樹脂材料による光吸収損失が発生し、また、図3のように光導波路に近接して電極ELが配置される場合には、電極による光吸収損失も発生する。さらに、高周波電極(EL)上に樹脂を配置した場合には、高周波特性の劣化も問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2570822号公報
【特許文献2】特開2012-53487号公報
【特許文献3】特開2022-148652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、光導波路の表面の荒れによる光散乱損失や、電極等による光吸収損失を抑制すると共に、光導波路を被覆する誘電体層による応力を緩和することが可能な光導波路素子を提供することである。さらには、その光導波路素子を用いた光変調デバイスと光送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置は、以下の技術的特徴を有する。
(1) 基板上に形成される光導波路を有し、該光導波路の一部に該光導波路を伝搬する光波を変調する光変調部が形成された光導波路素子において、該光導波路を覆う第1の誘電体層を備え、該光変調部を除く該光導波路の一部には、前記第1の誘電体層とは異なる材料で構成される第2の誘電体層が、前記第1の誘電体層の上の配置されていることを特徴とする。
【0013】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、前記第1の誘電体層は、該光導波路を構成する材料より屈折率が低い無機材料であり、前記第2の誘電体層は、該光導波路を構成する材料より屈折率が低い有機材料であることを特徴とする。
【0014】
(3) 上記(1)に記載の光導波路素子において、前記第1の誘電体層の厚みは1μm以下であり、前記第2の誘電体層の厚みは2μm以上であることを特徴する。
【0015】
(4) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該光導波路の端部にスポットサイズ変換部が形成され、該スポットサイズ変換部の構成要素の一部を前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層が兼ねていることを特徴とする。
【0016】
(5) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該基板は、補強基板の表面に形成された薄膜層であることを特徴とする。
【0017】
(6) 上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の光導波路素子は筐体内に収容され、該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイスである。
【0018】
(7) 上記(6)に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子は該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極を備え、該変調電極に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする。
【0019】
(8) 上記(7)に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに光波を入力する光源と、該光変調デバイスに変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、基板上に形成される光導波路を有し、該光導波路の一部に該光導波路を伝搬する光波を変調する光変調部が形成された光導波路素子において、該光導波路を覆う第1の誘電体層を備え、該光変調部を除く該光導波路の一部には、前記第1の誘電体層とは異なる材料で構成される第2の誘電体層が、前記第1の誘電体層の上の配置されているため、2種類の誘電体層を組み合わせて使用することで、光変調部やその他の光導波路部分など、誘電体層を使用する場所に応じた種々の課題(光導波路の表面の荒れによる光散乱損失、電極等による光吸収損失、光導波路を被覆する誘電体層による内部応力など)を解決した光導波路素子を提供することが可能となる。
さらに、このような優れた特性を備えた光導波路素子を用いることで、同様の効果を奏する光変調デバイスや光送信装置も提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】特許文献1に記載の光導波路素子の一例を示す断面図である。
図2】特許文献2に記載の光導波路素子の一例を示す断面図である。
図3】特許文献3に記載の光導波路素子の一例を示す断面図である。
図4】本発明の光導波路素子の一例を示す平面図である。
図5図4の光導波路素子の一部を示す断面図である。
図6】光導波路を覆う第1の誘電体層の膜厚を説明する図である。
図7図5の(B)に示す断面図の応用例を説明する図である。
図8図5の(A)に示す断面図の応用例を説明する図である。
図9】本発明の光導波路素子に使用するスポットサイズ変換部の一例を示す図である。
図10図9の異なる箇所の断面を示す図である。
図11図9の異なる箇所の断面を示す図(他の実施例)である。
図12】本発明の光送信装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の光導波路素子について、好適例を用いて詳細に説明する。図4は、本発明の光導波路素子の一例を示す平面図であり、図5図4に示す一部の断面図である。
本発明の光導波路素子は、基板1上に形成される光導波路10を有し、該光導波路の一部に該光導波路を伝搬する光波を変調する光変調部(図4の点線枠A3、図5(B)参照)が形成された光導波路素子において、該光導波路を覆う第1の誘電体層M1を備え、該光変調部を除く該光導波路の一部(例えば、図4の点線枠A1又はA2の一部、図5(A)参照)には、前記第1の誘電体層M1とは異なる材料で構成される第2の誘電体層M2が、前記第1の誘電体層M1の上の配置されていることを特徴とする。なお、図5(A)の電極ELは光導波路10を覆う又は跨ぐ電極であり、光導波路の場所によっては当該電極が無い場合がある。
【0023】
本発明の光導波路素子に使用される基板1としては、電気光学効果を有する基板が利用でき、具体的には、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)などの基板や、これらの基板材料にMgOなどをドープした基材が使用可能である。また、これらの基板を研磨して薄板(薄膜層)化したり、これらの材料をスパッタ法、蒸着法、又はCVD法などの気相成長法を利用して薄膜形成することも可能である。さらに、半導体基板なども利用可能である。
【0024】
光導波路10の形成方法としては、光導波路以外の基板1をエッチングしたリブ型導波路や、リッジ型導波路のように光導波路の両側に溝を形成するなど、基板の光導波路に対応する部分を凸状部とした凸状光導波路を利用することが可能である。また、光導波路以外の部分をエッチング等の方法で全部除去したスロット型導波路も利用することが可能である。さらに、凸状の光導波路に合わせて、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより、屈折率をより高くすることも可能である。凸状光導波路のサイズとしては、光の閉じ込めを高めるため、1μm程度の幅や高さの微細な凸状光導波路となっている。
【0025】
光導波路10を形成した基板(薄板)1の厚さは、変調信号のマイクロ波と光波との速度整合を図るため、10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下に設定される。また、凸状光導波路の高さは、4μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下や0.4μm以下に設定される。
【0026】
光導波路を形成した基板1は、機械的強度を高めるため、基板1の下側に、補強基板(図9及び10の符号SB参照)が接合されている。基板1と補強基板とは、直接接合又は樹脂等の接着層を介して接着固定される。なお、直接接合の場合は、金属酸化物や金属等の中間層を含んでも良い。直接接合する補強基板としては、光導波路や光導波路を形成した基板よりも屈折率が低いことが好ましいが、これに限定されるものではない。また、補強基板は、基板1と熱膨張率が近い材料、例えば水晶やガラス等の酸化物層を含む基板が好適に利用される。さらに、基板1と同じLN基板や、SOI、LNOIと略されるシリコン基板上に酸化ケイ素層を形成した複合基板やLN基板上に酸化ケイ素層を形成した複合基板を利用することも可能である。
【0027】
基板1は、シリコンやサファイアなどの基板を補強基板とし、その表面にLNなどの光導波路に使用する材料を上述のような気相成長方法で積層し、薄膜層を形成した構成とすることも可能である。また、補強基板にLN基板などを貼り付けLN基板を研磨で薄板化することも可能である。
【0028】
光導波路の一部に形成される光変調部では、光導波路に電界を印加するため変調電極が形成される。基板上に形成される電極としては、変調電極以外にDCバイアス電極があり、光導波路を伝搬する光波の位相調整に使用される。本発明では、特に変調電極に高周波信号が印加されるため、光導波路を覆う誘電体層にどのような材料を選択するのかが、光導波路素子の高周波特性を考える上で重要となる。
変調電極やDCバイアス電極を含む制御電極は、下地電極をスパッタ法、蒸着法等で形成し、その後メッキ法で厚みのある電極に形成される。
なお、本発明の説明では、図5(B)のように光導波路を挟むように電極ELを配置する、所謂、X板の例を中心に説明するが、本発明に使用する基板(光導波路)は、このようなX板に限らず、光導波路の上側に電極を配置するZ板にも適用可能であることは言うまでもない。
【0029】
本発明の光導波路素子は、光導波路を覆う誘電体層の材料及び配置等に特徴があり、以下、これらについて詳細に説明する。
図4は、光導波路素子の平面図であり、基板1上に光導波路10が形成されている。本発明の光導波路素子は、図4の光導波路の形状に限定されず、種々のパターンを採用することが可能である。ここでは、光導波路のパターンを見やすくするため、誘電体層や制御電極は図示していない。図4は、1つの入力導波路を4つのマッハツェンダー型導波路に分岐し、最終的に2つの出力導波路に繋がっている。入力導波路の端部と出力導波路の端部は、基板1の同じ側面に配置され、光導波路全体としては折り返しの構造となっている。
【0030】
点線枠A1は光導波路の折り返し部分を示し、点線枠A2は複数の光導波路に分岐する部分を示している。点線枠A3は変調電極が配置される光変調部が形成される部分となる。DCバイアス電極を設ける場合には、A1~A3のいずれかに設けることが可能である。また、制御電極に変調信号やDCバイアス電圧を印加するには、基板1上に配線を行う必要があり、例えば、A1又はA2に配線用の電極が配置される場合(例えば、図5(A)参照)がある。
【0031】
点線枠A4は、入力導波路と出力導波路の端部が配置される部分であり、光導波路が幅や高さが1μm程度の微細な光導波路を使用する場合には、光導波路の端部にスポットサイズ変換部(SSC)を配置し、伝搬する光波のモード径を1μm程度から3μm以上に、又はその逆に変換するように構成される。
符号PDはマッハツェンダー型導波路から出力される光波をモニタするための受光素子であり、基板1上に配置される。
【0032】
図5(B)は、光変調部A3における断面の一部を示す図である。光導波路10を覆うように、第1の誘電体層M1が配置されている。
第1の誘電体層M1は、光導波路の表面の荒れによる光散乱を抑制するための光散乱抑制層として機能する。
第1の誘電体層を構成する材料としては、光導波路やそれを構成する基板の屈折率よりも低い屈折率を有し、通信波長帯での光吸収が小さい材料が使用され、特に、光変調部にも配置されることを考慮すると無機材料が好ましい。
無機誘電体材料の一例として、例えば、SiO、SiN、Al、MgF、La、ZnO、MgO,CaF,Yなどが利用可能である。
【0033】
第1の誘電体層M1の厚みは、光導波路に成膜応力が集中することが無いような膜厚に設定することが必要である。
具体的には、光導波路の表面の荒れを緩和するためには、100nm以上の厚みがあれば良い。また、変調信号と光波との速度整合のためには、変調電極の形状、例えば、1段目と2段目の電極形状のバランスにもよるが、100nm以上の厚みがあれば良く、より好ましくは200nm以上である。さらに、成膜応力やプロセス上の制約として1μm以下が望ましい。
【0034】
図6に示すように、凸状光導波路10を覆う第1の誘電体層M1の厚みは、凸状光導波路10の上面に位置する第1の誘電体層の厚みD1よりも、凸状光導波路の側面に位置する第1の誘電体層の厚みD3を薄く構成することが好ましい。例えば、D3の厚みを、D1の0.5倍~0.8倍程度に設定する。これにより、横方向の光の閉じ込めを強くでき、電極間隔をより狭くすることができる。その結果、駆動電圧Vπの上昇を抑えることができる。
なお、凸状光導波路以外の基板1の上面に配置される第1の誘電体層M1の厚みD2は、基本的にD1と同じとなる。
【0035】
図7は、図5(B)の第1の誘電体層の幅Wを変更した例を説明する図である。
第1の誘電体層の機能である光散乱抑制層としての幅Wは、光散乱抑制の観点から光導波路10の側面が覆われる幅があれば良く。図7(A)に示すように、第1の誘電体層の幅Wは、光導波路10のモードフィールド径(MFD)の1.5倍の幅があれば、基板1の光導波路10の両側にあるスラブ部へはみ出した部分の光散乱も効果的に抑制できる。
【0036】
プロセス安定性や作製位置精度を考慮すると、図7(B)のように電極間隔Gと同程度の幅Wがあれば良く、より好ましくは、電極間隔Gの2倍以上の幅Wがあることが望ましい。また、幅Wが電極間隔Gの1倍を下回らないことで、図7(A)のようにW<Gの場合と比較し、Vπを悪化させない効果もある。
【0037】
第1の誘電体層は、光変調部だけでなく、光導波路が形成される基板の全面に配置することも可能である。また、全面成膜した後に、必要部分以外をウェット/ドライエッチングで除去して所望のパターンに形成する方法や、第1の誘電体層(光散乱抑制層)が必要な部分以外へ所望のパターンを有するレジストを配置した後、全面成膜してからレジストを取り除くリフトオフ法などで、部分的に第1の誘電体層を配置することが可能である。
第1の誘電体層は、光変調部以外で、電極などの光吸収部材が配置されていない部分では、第1の誘電体層のみを光導波路上に配置するよう構成することも可能である。
【0038】
次に、図4の領域A1やA2のように、配線用電極が光導波路を跨ぐように配置される場合には、図5(A)に示すように、第1の誘電体層M1のみでなく、第2の誘電体層M2を第1の誘電体層M1上に配置し、配線用電極による光吸収を抑制することが必要である。これは、第1の誘電体層M1を応力緩和のため極めて薄く形成するため、第1の誘電体層M1の膜厚では、光吸収を抑制する機能が十分ではないためである。
【0039】
第2の誘電体層に使用する材料としては、光導波路が形成される基板より屈折率が低い材料が好ましく、成膜応力も第1の誘電体層より低い材料が好ましい。
具体的には、第2の誘電体層は、有機材料で構成することが好ましく、例えば、レジストのような樹脂で、ヤング率が小さく、パターンニングしやすいものが望ましい。例えば、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、アミノ系樹脂、エポキシ系樹脂などの材料を使用することが可能である。例えば、第2の誘電体層のヤング率は、15GPa以下が好ましく、第1の誘電体層のヤング率よりも低いことが好ましい。
【0040】
第2の誘電体層(光吸収抑制層)の厚さは、光吸収抑制のために2μm以上あれば良く、例えば、2~10μmの範囲であれば任意の膜厚で調整することが可能である。
第2の誘電体層の形成は、樹脂等をスピンコートにより塗布し、一般的なリソグラフィプロセスによってパターンニングを行い、必要部のみ残して形成する。
【0041】
第1の誘電体層と第2の誘電体層との幅については、積層する材料同士の密着性により選択することが可能である。例えば、第1の誘電体層M1と第2の誘電体層M2と基板1(LN)との間の密着性が良い場合には、図8(A)に示すように第1の誘電体層M1と第2の誘電体層M2の幅を同じ程度に設定する。
また、第1の誘電体層M1と第2の誘電体層M2との密着が悪く、基板1と第2の誘電体層M2との密着が良い場合には、図8(B)に示すように第2の誘電体層M2の幅を第1の誘電体層M1よりも幅S1だけはみ出して形成する。
さらに、第1の誘電体層M1と第2の誘電体層M2との密着が良く、基板1と第2の誘電体層M2との密着が悪い場合には、図8(C)のように、第2の誘電体層M2を第1の誘電体層M1よりも幅S2だけ狭く設定する。
プロセス安定性や作製位置精度を考慮すると、図の左右にはみ出している幅S1又はS2の全体量(オーバーラップ幅,S1又はS2の2倍)は第1又は第2の誘電体層の全体幅の+10%以上に設定することが好ましい。
【0042】
次に、図9乃至11に示すスポットサイズ変換部について説明する。以下では、出力導波路に設けるスポットサイズ変換部を中心に説明するが、入力導波路も同様の形状で構成することが可能である。
図9の上半分はスポットサイズ変換部(SSC)の一例を示す平面図である。
図9の下半分は、平面図の一点鎖線Cにおける断面図を示す。
リブ型導波路10は、スポットサイズ変換部(両矢印SSCの領域)では、領域TPで光導波路の幅が徐々に狭くなるテーパー形状となっている。リブ型導波路の基板1を構成するスラブ部の幅についても、必要に応じて先端に向かってテーパー状とすることが好ましい。
【0043】
第1の誘電体層M1は、スポットサイズ変換部SSCの一部に入り込んで配置されているが、最終的には途中で消失する構造となっている。リブ型導波路10が徐々に先細るにつれ、第2の誘電体層M2の方に光波が乗り移って行く。
【0044】
図9の位置X1における断面図を図10(A)に、位置X2における断面図を図10(B)に、さらに位置X3における断面図を図10(C)に各々示す。
第2の誘電体層の幅は、スポットサイズ変換部に入る前の幅W1は5μm以上あるが、スポットサイズ変換部の端部では幅W2では5μm未満、例えば2μm~4μm程度に設定される。第2の誘電体層(光吸収抑制層)の幅は、スポットサイズ変換部の中でテーパー状に狭くなっており、スポットサイズ変換部の先端の位置で最も幅が狭くなる。
【0045】
第1の誘電体層(光散乱抑制層)の厚さが400nm以上の場合は、スポットサイズ変換の際、光散乱抑制層が変換損失の要因となるため、リブ型導波路10のテーパー部が始まる前までに光散乱抑制層がなくなることが好ましい。
また、図10(A)に示すように、第1の誘電体層(光散乱抑制層)M1は、第2の誘電体層M2の下のみに配置される。
【0046】
第1の誘電体層(光散乱抑制層)の厚さが200nm以下の場合には、光散乱抑制層の有無が変換損失に影響を及ぼさないため、スポットサイズ変換部の終端まで光散乱抑制層が配置されても良い。この場合の図9の位置X1~X3の断面図は、図11(A)~(C)のような断面図となる。
当然、図10と同様に、リブ型導波路10のテーパー部が始まる前までに第1の誘電体層(光散乱抑制層)M1が無くなっていても良い。
【0047】
以上のように、スポットサイズ変換部の構成要素の一部に第1の誘電体層M1と第2の誘電体層M2を兼用することで、製造プロセスも簡素化することが可能であり、光導波路部分とスポットサイズ変換部とを構成する薄膜を連続的に形成することができるため、光挿入損失も抑制することが可能となる。
【0048】
次に、本発明の光導波路素子を、光変調デバイスや光送信装置に適用した例について説明する。以下では、HB-CDMの一例を用いて説明するが、本発明はこれに限らず、光位相変調器、偏波合成機能を備えた光変調器やより多い又はより少ないマッハツェンダー型光導波路を集積した光導波路素子、シリコンなど他材料で構成した光導波路素子との接合デバイス、センサ用途のデバイスなどにも適用可能である。
【0049】
図12に示すように、光導波路素子は、基板1に形成された光導波路10と、該光導波路10を伝搬する光波を変調する変調電極などの制御電極(不図示)とを有しており、筐体CA内に収容される。さらに、光導波路に光波を入出力する光ファイバ(F)を設けることで、光変調デバイスMDを構成することができる。図12では、光ファイバFは、光学レンズを備えた光学ブロックやレンズ鏡筒、偏波合波部3などを用いて光導波路素子内の光導波路10と光学的に結合されている。これに限らず、光ファイバを筐体の側壁を貫通する貫通孔を介して筐体内に導入し、光学部品又は基板と、光ファイバとを直接接合したり、または光ファイバ端部にレンズ機能を有した光ファイバを光導波路素子内の光導波路と光学的に結合しても良い。また、光ファイバや光学ブロックとの接合を安定的に行うため、光導波路基板1の端面に沿って補強部材(不図示)を重ねて配置することも可能である。
【0050】
光変調デバイスMDに変調動作を行わせる変調信号Soを出力する電子回路(デジタル信号プロセッサーDSP)を、光変調デバイスMDに接続することにより、光送信装置OTAを構成することが可能である。光導波路素子に印加する変調信号Sを得るためには、デジタル信号プロセッサーDSPから出力される変調信号Soを増幅する必要がある。このため、図12では、ドライバ回路DRVを使用し、変調信号を増幅している。ドライバ回路DRVやデジタル信号プロセッサーDSPは、筐体CAの外部に配置することも可能であるが、筐体CA内に配置することも可能である。特に、ドライバ回路DRVを筐体内に配置することで、ドライバ回路からの変調信号の伝搬損失をより低減することが可能となる。
【0051】
光変調デバイスMDへの入力光L1は、光送信装置OTAの外部から供給されても良いが、図12に示すように半導体レーザー(LD)を光源とすることも可能である。光変調デバイスMDで変調された出力光L2は、光ファイバFにより外部に出力される。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上説明したように、本発明によれば、光導波路の表面の荒れによる光散乱損失や、電極等による光吸収損失を抑制すると共に、光導波路を被覆する誘電体層による応力を緩和することが可能な光導波路素子を提供することが可能となる。さらには、その光導波路素子を用いた光変調デバイスと光送信装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 光導波路を形成する基板(薄板,膜体)
10 光導波路
M1 第1の誘電体層(光散乱抑制層)
M2 第2の誘電体層(光吸収抑制層)
F 光ファイバ
LD 光源
CA 筐体
MD 光変調デバイス
DRV ドライバ回路
DSP デジタル信号プロセッサー
OTA 光送信装置
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12