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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107855
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240802BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012006
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊介
(72)【発明者】
【氏名】北村 広之
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB031
4J002BB041
4J002BB111
4J002BB121
4J002BB161
4J002BB171
4J002CF001
4J002CF041
4J002CF061
(57)【要約】
【課題】ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂の海島構造を有する樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂の海相にポリオレフィン樹脂の島相が良好に分散しており、再加熱によるポリオレフィン樹脂の島相の合一による粗大化が抑えられる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とを混練してなる、ポリエステル樹脂の海相とポリオレフィン樹脂の島相の海島構造を有する樹脂組成物であって、該樹脂組成物中の該ポリオレフィン樹脂の島相について測定される平均径Dが0.3μm以下であり、混練後の該樹脂組成物を200℃以下に冷却した後、260℃で4分間加熱した後の該樹脂組成物中の該ポリオレフィン樹脂の島相について測定される平均径Dが2μm以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とを混練してなる、ポリエステル樹脂の海相とポリオレフィン樹脂の島相の海島構造を有する樹脂組成物であって、
該樹脂組成物中の該ポリオレフィン樹脂の島相について、以下の方法で測定される平均径Dが0.3μm以下であり、
混練後の該樹脂組成物を200℃以下に冷却した後、260℃で4分間加熱した後の該樹脂組成物中の該ポリオレフィン樹脂の島相について、以下の方法で測定される平均径Dが2μm以下であることを特徴とする樹脂組成物。
<平均径Dの測定方法>
常温(10~40℃)の該樹脂組成物のSEM写真から32.384μm×24.288μmの領域に存在するポリオレフィン樹脂の島相の面積をそれぞれ測定し、各々の面積の測定値から、該島相を円と仮定して該島相の直径を求め、その平均値を算出して平均径とする。
<平均径Dの測定方法>
常温(10~40℃)の該樹脂組成物のSEM写真から323.84mm×242.88mmの領域に存在するポリオレフィン樹脂の島相の面積をそれぞれ測定し、各々の面積の測定値から、該島相を円と仮定して該島相の直径を求め、その平均値を算出して平均径とする。
【請求項2】
前記平均径Dが0.01~0.3μmで、前記平均径Dが0.1~2μmである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関する。詳しくは、本発明は、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とを混練してなる、ポリエステル樹脂の海相とポリオレフィン樹脂の島相の海島構造を有する樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂の海相にポリオレフィン樹脂の島相が良好に分散しており、再加熱によるポリオレフィン樹脂の島相の合一による粗大化が抑制された樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は様々な製品に適用されており、特にポリエチレンテレフタレートは優れた機械的特性、熱的特性、化学的特性などを有することから、様々な製品へ適用されている。
一方で、プラスチック材料の機能向上の手段として、基材樹脂に異種の樹脂や無機粒子を混練することは広く行われており、例えばポリエチレンテレフタレートにポリプロピレンを混練することで、衝撃強度の向上や光沢、色むら等の機能改善効果が得られることが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】辰巳昌典 研究総覧「押出成形」成形加工 第27巻 第7号 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基材樹脂に異種の樹脂を混合する場合、一方の樹脂中に他方の樹脂を良好に分散させることが、高い機能改善効果を得る観点から重要である。特に、ポリエチレンテレフタレートとポリプロピレンのような非相溶系の組み合わせの場合、基材樹脂となる一方の樹脂の海相に、他方の樹脂が島相となって分散した海島構造の樹脂組成物となるため、この海島構造において、海相に微小な島相を均一に分散させることが重要である。しかしながら、非相溶系の樹脂の組み合わせの場合、一般的な混練法では、良分散の海島構造とすることが難しい。
【0005】
本発明者による検討の結果、ポリエステル樹脂/ポリオレフィン樹脂、特に、テレフタレート/ポリプロピレン非相溶系では、混練後の樹脂組成物の再加熱により、ポリプロピレンの島相が合一することで、島相が粗大化し、海島構造における島相の分散性が損なわれ、このことがポリエチレンテレフタレートにポリプロピレンを混練することによる機能改善効果を妨げる要因となっていることが確認された。
樹脂組成物は、樹脂原料の加熱混練により樹脂組成物とされた後、成形時に再度加熱されることになるため、再加熱によりポリプロピレンの島相が合一して粗大化することで分散性が低下することは、各種機能性に優れた樹脂組成物であっても、成形により得られた樹脂成形体はその機能改善効果が損なわれ、物性が低下することを意味し、好ましくない。
【0006】
本発明は、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とを混練してなる、ポリエステル樹脂の海相とポリプロピレンの島相の海島構造を有する樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂の海相にポリオレフィン樹脂の島相が良好に分散しており、再加熱によるポリオレフィン樹脂の島相の合一による島相の粗大化が抑えられる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリエステル樹脂中のポリオレフィン樹脂の分散性が良好であり、再加熱によるポリオレフィン樹脂の合一が抑制される樹脂組成物を得ることができると見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0008】
[1] ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とを混練してなる、ポリエステル樹脂の海相とポリオレフィン樹脂の島相の海島構造を有する樹脂組成物であって、
該樹脂組成物中の該ポリオレフィン樹脂の島相について、以下の方法で測定される平均径Dが0.3μm以下であり、
該樹脂組成物を260℃で4分間加熱した後の該樹脂組成物中の該ポリオレフィン樹脂の島相について、以下の方法で測定される平均径Dが2μm以下であることを特徴とする樹脂組成物。
<平均径Dの測定方法>
常温(10~40℃)の該樹脂組成物のSEM写真から32.384μm×24.288μmの領域に存在するポリオレフィン樹脂の島相の面積をそれぞれ測定し、各々の面積の測定値から、該島相を円と仮定して該島相の直径を求め、その平均値を算出して平均径とする。
<平均径Dの測定方法>
常温(10~40℃)の該樹脂組成物のSEM写真から323.84mm×242.88mmの領域に存在するポリオレフィン樹脂の島相の面積をそれぞれ測定し、各々の面積の測定値から、該島相を円と仮定して該島相の直径を求め、その平均値を算出して平均径とする。
【0009】
[2] 前記平均径Dが0.01~0.3μmで、前記平均径Dが0.1~2μmである、[1]に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂の海島構造において、ポリエステル樹脂の海相にポリオレフィン樹脂の島相が良好に分散しており、再加熱によるポリオレフィン樹脂の島相の合一による粗大化が抑えられる樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の樹脂組成物の製造に好適な混練機の機長方向の概略断面図である。
図2】ディスク型セグメントの正面図である。
図3】多軸混練機の構成の説明図である。
図4】多軸混練機の構成の説明図である。
図5】実施例で用いたディスク型セグメントの写真である。
図6】実施例で採用した多軸混練機の構成の説明図である。
図7】比較例で採用した多軸混練機の構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0013】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とを混練してなる、ポリエステル樹脂の海相とポリオレフィン樹脂の島相の海島構造を有する樹脂組成物であって、
該樹脂組成物中の該ポリオレフィン樹脂の島相について、以下の方法で測定される平均径Dが0.3μm以下であり、
混練後の該樹脂組成物を260℃で4分間加熱した後の該樹脂組成物中の該ポリオレフィン樹脂の島相について、以下の方法で測定される平均径Dが2μm以下であることを特徴とする。
<平均径Dの測定方法>
常温(10~40℃)の該樹脂組成物のSEM写真から32.384μm×24.288μmの領域に存在するポリオレフィン樹脂の島相の面積をそれぞれ測定し、各々の面積の測定値から、該島相を円と仮定して該島相の直径を求め、その平均値を算出して平均径とする。
<平均径Dの測定方法>
常温(10~40℃)の該樹脂組成物のSEM写真から323.84mm×242.88mmの領域に存在するポリオレフィン樹脂の島相の面積をそれぞれ測定し、各々の面積の測定値から、該島相を円と仮定して該島相の直径を求め、その平均値を算出して平均径とする。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂を、好ましくは後述の本発明に好適な混練機を用いて、後述の好適な混練条件で混練することで製造される。
以下において、平均径Dを「再加熱前の平均径D」と称し、平均径Dを「再加熱後の平均径D」と称す場合がある。
【0015】
<ポリオレフィン樹脂の島相の平均径>
本発明の樹脂組成物は、上記の通り、ポリオレフィン樹脂の島相の再加熱前の平均径Dが0.3μm以下であることを特徴とする。
混練後により得られた樹脂組成物中のポリオレフィン樹脂の島相の平均径Dが0.3μm以下であれば、分散性に優れ、ポリオレフィン樹脂をポリエステル樹脂に混練することによる機能改善効果に優れる。この再加熱前の平均径Dは機能改善効果の観点から、好ましくは0.01~0.3μmであり、より好ましくは0.01~0.29μmでありさらに好ましくは0.02~0.28μmである。
【0016】
なお、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂との混練により本発明の樹脂組成物を得る際の混練温度は、後述の通り、300℃以下であることが好ましく、260~300℃であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の樹脂組成物は、上記混練後、260℃で4分加熱した後の当該樹脂組成物中のポリオレフィン樹脂の島相の平均径Dが2μm以下であることを特徴とする。
再加熱後の平均径Dが2μm以下であることは、再加熱により樹脂組成物中のポリオレフィン樹脂の島相の合一が起きにくく、粗大化が抑制されていること、このため、再加熱後においても機能改善効果に優れること、即ち、熱履歴を経ても物性の低下が抑制されることを示す。この再加熱後の平均径Dは、機能改善効果の観点から、好ましくは0.1~2μmであり、より好ましくは0.2~1.9μmである。
【0018】
なお、平均径D,Dの具体的な測定方法は、後掲の実施例の項に記載の通りである。
【0019】
<ポリエステル樹脂>
本発明に使用するポリエステル樹脂は、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート単位又はエチレン-2,6-ナフタレート単位からなるものが好ましく、本発明の目的を損なわない範囲で、好ましくはポリエステル樹脂の全繰り返し単位に対して、15モル%以下、さらに10モル%以下の範囲で、他の成分を共重合した共重合体であっても良い。共重合成分としては、テレフタル酸(主たる繰り返し単位がエチレン-2,6-ナフタレート単位の場合)、2,6-ナフタレンジカルボン酸(主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート単位の場合)、2,7-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の如き脂環族ジカルボン酸、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコールなどが例示できる。これらは単独で使用しても二種以上を併用してもよい。
【0020】
<ポリオレフィン樹脂>
本発明に使用するポリオレフィン樹脂は、少なくとも1種のオレフィンモノマーを重合させたポリマーであればよいが、代表的には、エチレン、プロピレン(プロペン)、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンを少なくとも1種重合させて得られるポリマーであればよい。
ポリオレフィン樹脂としては、具体的には、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE,ULDPE)等のポリエチレン類;ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等のポリプロピレン類;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ビニルエステル共重合体、エチレン・ビニルシラン化合物共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸系化合物共重合体等のエチレン共重合体;等を挙げることができる。
これらのポリオレフィン樹脂は1種類のみが用いられてもよいし、2種類以上が適宜組み合わせて用いられてもよい。
【0021】
これらのポリオレフィン樹脂でもポリプロピレン類が特に好ましい。ポリプロピレン類のうち、ランダムポリプロピレンまたはブロックポリプロピレンに含まれるポリプロピレン以外のモノマーの種類は特に限定されず、エチレン等のα-オレフィンであってもよいし、前記エチレン共重合体で例示したようなα-オレフィン以外の重合性化合物であってもよい。
また、前記エチレン共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいし、グラフト共重合体であってもよい。
【0022】
<せん断粘度>
本発明で使用するポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂のせん断粘度については特に制限はないが、以下の方法で測定された粘度として、ポリエステル樹脂の粘度は100~400Pa・sで、ポリオレフィン樹脂の粘度は60~300Pa・sであることが好ましい。
<せん断粘度の測定>
キャピラリーレオメーターを用いて、せん断速度300(1/s)、温度260℃で測定する。
【0023】
ポリエステル樹脂およびポリオレフィン樹脂の粘度が上記範囲内であれば、成形性が良好となる。
【0024】
なお、粘度の具体的な測定方法は、後掲の実施例の項に記載の通りである。
【0025】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂およびポリオレフィン樹脂以外に、本発明の目的を損なわない範囲で種々の有機粒子、無機粒子等の充填材、各種添加剤、例えば結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、ブロッキング防止剤、粘度調整剤、着色防止剤などを含有していてもよい。
【0026】
<含有割合>
本発明の樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂の質量比、即ち、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂を混練して本発明の樹脂組成物を製造する際のポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂の質量比は、ポリエステル樹脂:ポリオレフィン樹脂=99:1~51:49であることが好ましく、95:5~55:45であることがより好ましい。上記質量比の範囲内であれば、ポリエステル樹脂中にポリオレフィン樹脂を分散させ易く、良好な海島構造を形成することができる。
【0027】
本発明の樹脂組成物がポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂以外のその他の成分を含有する場合、その含有量は、当該その他の成分の種類、使用目的等によっても異なるが、ポリエステル樹脂中にポリオレフィン樹脂を良分散させて良好な海島構造を形成する観点から、本発明の樹脂組成物中のその他の成分の含有割合は、1質量%以下、例えば0.1~1質量%とすることが好ましい。
【0028】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、上記のポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とを必要に応じて配合されるその他の成分と共に混練することにより製造される。
【0029】
ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂の混練は、混練機の回転軸が回転自在に貫通する軸貫通部と、前記軸貫通部の周囲に穿設された混練材料の流路となる複数の小孔とを有するディスク型セグメントを備える混練機、好ましくは二軸混練押出機を用いて行われる。
【0030】
ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂の混練時の温度は、特に限定されないが、260~300℃が好ましい。混練時の温度を260℃以上とすることで混練機の設計耐圧を超えることなく樹脂を混練して樹脂組成物を得ることが可能になる。また、混練時の温度を300℃以下とすることで、混練時の樹脂に大きな圧力損失を与え、樹脂組成物中での樹脂の分散サイズを小さくすることが可能となる。
【0031】
ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂の混練時の圧力損失は、特に限定されないが、0.5~20MPaが好ましい。混練時の圧力損失を20MPa以下とすることで混練機の設計耐圧を超えることなく樹脂を混練して樹脂組成物を得ることが可能になる。また、混練時の圧力損失を0.5MPa以上とすることで、樹脂組成物中での樹脂の分散サイズ、即ち、ポリオレフィン樹脂の島相の径を小さくすることが可能となる。
【0032】
本発明の樹脂組成物の混練に用いられる二軸混練押出機の一例を図1に示す。
【0033】
図1に示すように、二軸混練押出機1は、基本的構成は従来と同様であり、中空のバレル11と、バレル11内にポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂の各樹脂を供給するためのホッパー12、バレル11内に、必要に応じて添加される樹脂添加剤を供給するための添加剤投入口13(サイドフィーダ)、脱気等のためのベント14を備える。
【0034】
バレル11内には軸方向に沿って混練スクリュ21が配置されている。本実施形態の混練押出機は二軸であるから、2条の混練スクリュが対になっている。
【0035】
混練スクリュ21の中間位置かつ添加剤投入口13の下流側に、ディスク型セグメント22が配置される。なお、「中間位置」とは、必ずしも中央を意味するものではなく、単に入口ないし出口の位置でないことを意味する。また、本実施形態では、ディスク型セグメント22は1枚のみであるが、複数枚配置してもよく、その場合、連続的に配置してもよいし、間隔を空けて配置してもよい。ディスク型セグメント22はセグメントタイプであるため、圧力制御や、その位置、個数等を自由に設定できる。
【0036】
ホッパー12から供給された樹脂は、混練スクリュ21によって、上流(図1左側)から下流(図1右側)へ軸方向に混練されながら搬送される。その際、途中で必要に応じ添加剤投入口13から樹脂添加剤が供給される。ベント14からは、混練中に発生したガスの排出等が行われる。
【0037】
ディスク型セグメント22は、バレル11内を仕切るように、バレル11の内断面と略同形状の断面形状を備える。具体的には、ディスク型セグメント22は、図2に示すように2つの円が一部重ね合わされたような断面形状を有し、バレル11も同様の内断面形状を有する。
【0038】
ディスク型セグメント22は、従来のニーディングディスクのように、バレル11内壁とのクリアランスに混練材料を通過させるのではなく、その小孔221a(後述する)に混練材料を通過させるものであるので、バレル11内壁との間に隙間を設ける必要はない。
【0039】
ただし、ディスク型セグメント22をバレル11内に挿入する作業上、これを容易ならしめる程度の隙間を設けてもよい。
【0040】
図2に示すように、ディスク型セグメント22は、ディスク本体221と、混練スクリュ21の回転軸21aが回転自在に貫通する軸貫通部222を備えている。
【0041】
軸貫通部222としては、例えば、ボールベアリングやスリーブベアリング、ローラーベアリングなどのベアリングが挙げられる。
【0042】
ディスク型セグメント22は、混練スクリュ21の回転に伴って回転することなく、混練押出時において、固定された状態となる。
【0043】
軸貫通部222の周囲には、混練材料の流路となる多数の小孔221aが形成されている。
【0044】
以上の説明から明らかなとおり、多軸混練機におけるディスク型セグメントは、混練スクリュの回転に伴って回転することのない固定式であり、極めて効率的に混練材料が小孔を通過する。ディスク2枚が分離し、各々が混練スクリュの回転に伴って回転する従来型のブリスターディスクのように、ディスク間での漏れも生じないことから、高い圧力損失をもたらすことができる。
【0045】
ここで、本発明者は、大きな圧力損失を与え、小孔を通過させることで、伸長流動により樹脂組成物中での各樹脂の分散性が向上するとの知見を得ている。
【0046】
この多軸混練機の設計耐圧を超えないよう留意しつつ、その限度で所望の分散に必要な圧力損失を確保することが好ましい。
【0047】
従って、小孔221aの径、軸方向の厚み、数、小孔221aの樹脂流れ入口側の開口面積の総計、位置、押出速度などについても、多軸混練機の設計耐圧、分散性を考慮して設計することが望ましい。
【0048】
例えば、小孔の厚みを持たせることで圧力損失を上げることはできるが、小孔内部は純粋なせん断作用のため、せん断発熱をさけるためには極力薄くすることが望ましい。
【0049】
このような観点から好ましい範囲を一例として以下に述べる。
【0050】
すなわち、例えば、小孔221aの径を0.5~1.5mmとし、軸方向の小孔221aの厚み(L)とスクリュ径(D)との比(L/D)を1/12~1/4とし、小孔221aの数を2~64個とすることができる。
【0051】
また、小孔221aの樹脂流れ入口側の開口面積の総計は、例えば、バレル11の内断面積の4~20%とすることができる。20%以内とすることが好ましく、10%以内とすることがより好ましい。
【0052】
なお、本実施形態では、各軸貫通部222の同心円状に一列に、30個の小孔221aが配置されている。これと異なり、小孔を2列以上配置してもよい。
【0053】
また、軸貫通部222と軸貫通部222との間には小孔を穿設していないが、これに限定されず、軸貫通部222と軸貫通部222との間に小孔を穿設してもよい。
【0054】
また、ディスク型セグメントは、上述したとおり、複数枚配置しても良く、その位置も自由に設定することができる。
【0055】
真空ポンプにより脱揮する場合において、ディスク型セグメントが一枚であると、図3に示すように、Aの位置に真空ポンプを配置することになる。他方、ディスク型セグメントを複数枚用いるようにすれば、図4に示すように、B1の位置だけでなく、B2の位置(ディスク型セグメントの背後)にも真空ポンプを配置し、脱揮させることができる。ディスク型セグメントの配置が自由に設定できるため、脱揮位置も自由に変更できるという利点を有することになる。
【実施例0056】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[原材料]
以下の実施例及び比較例では、以下のポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂を用いた。
<ポリエステル樹脂>
ポリエチレンテレフタレートA:三菱ケミカル社製「GF756S」
粘度:333Pa・s
ポリエチレンテレフタレートB:三菱ケミカル社製「GF240」
粘度:123Pa・s
<ポリオレフィン樹脂>
ポリプロピレンA:住友化学社製「FLX80E4」
粘度:172Pa・s
ポリプロピレンB:住友化学社製「FLX90E1」
粘度:81Pa・s
【0058】
[物性の測定方法]
<粘度測定>
ポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂の粘度はキャピラリーレオメーターLCR7001(Dynisco製)を用い、260℃で測定した。せん断速度300(1/s)時のせん断粘度(Pa・s)をその樹脂のせん断粘度(Pa・s)とした。
【0059】
<平均径Dの測定方法>
常温(10~40℃)の該樹脂組成物のSEM写真から32.384μm×24.288μmの領域に存在するポリオレフィン樹脂の島相の面積をそれぞれ測定し、各々の面積の測定値から、該島相を円と仮定して該島相の直径を求め、その平均値を算出して平均径とした。
<平均径Dの測定方法>
常温(10~40℃)の該樹脂組成物のSEM写真から323.84mm×242.88mmの領域に存在するポリオレフィン樹脂の島相の面積をそれぞれ測定し、各々の面積の測定値から、該島相を円と仮定して該島相の直径を求め、その平均値を算出して平均径とした。
樹脂組成物の混練後も再加熱後においても、樹脂組成物を常温にしてから平均径D,Dを測定した。
【0060】
[実施例1]
二軸混練押出機「ZSK18 MEGAlab」(Coperion社製。スクリュー径18mm、L/D:40)を用いて、そのバレル内に、図5に示すディスク型セグメント(以下、「XBD」(Fixed Blistering Disk)と略記する)を配置し、混練押出を行った。
【0061】
XBDの穴径は0.5mm、穴数は30個とした。二軸混練押出機におけるXBDの配置位置は図6に示す通りとした。
軸方向の小孔の厚み(L)とスクリュ径(D)との比(L/D)は1/6である。
【0062】
表1の通り、ポリエチレンテレフタレートAとポリプロピレンAが90:10(質量比)となるように原料を押出機へ供給し、バレル温度260℃、スクリュー回転数150rpm、原料供給量4.0kg/hの条件で樹脂組成物を得た。
【0063】
得られた樹脂組成物の再加熱(TAIYO社製プレス機PQCS2-60kN-FCを用い、260℃×4分の加熱を行った)前後の平均径D,Dを表1に示す。表1の通り、良好な結果であった。
【0064】
[実施例2~4]
表1のとおり原料(ポリエチレンテレフタレートA,B、ポリプロピレンA,B)の組み合わせを変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、再加熱前後の平均径D,Dを測定した。結果を表1に示す。表1の通り、いずれも良好な結果であった。
【0065】
[比較例1~4]
図7のように、XBDをニーディングディスクに変更した。これ以外はそれぞれ実施例1~4と同一条件で樹脂組成物を作製した。加熱前後の平均径D,Dの測定結果を表1に示す。表1の通り、実施例と比較して再加熱後の平均径Dが大きくなっている。これは混練時の分散性不良の結果であった。
【0066】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂の海相にポリオレフィン樹脂の島相が良好に分散しており、再加熱によるポリオレフィン樹脂の島相の合一による粗大化が抑えられることから、ポリエステル樹脂にポリオレフィン樹脂を混練することによる衝撃強度の向上や光沢、色むら等の機能改善効果を有効に得ることができ、各種用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 二軸混練押出機
11 バレル
12 ホッパー
13 サイドフィーダ
14 ベント
21 混練スクリュ
22 ディスク型セグメント
221 ディスク本体
222 軸貫通部
221a 小孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7