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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107865
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】成形用樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240802BHJP
   C08L 89/00 20060101ALI20240802BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20240802BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20240802BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20240802BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240802BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20240802BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20240802BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240802BHJP
【FI】
C08L101/00 ZBP
C08L89/00
C08K5/053
C08L23/00
C08L23/12
C08L23/26
C08L67/00
C08J3/22 CER
C08J3/22 CEZ
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012026
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】591045471
【氏名又は名称】アピ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100131587
【弁理士】
【氏名又は名称】飯沼 和人
(72)【発明者】
【氏名】宇山 浩
(72)【発明者】
【氏名】徐 于懿
(72)【発明者】
【氏名】菊地 海太
(72)【発明者】
【氏名】河野 宏行
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4F070AA15
4F070AA47
4F070AA62
4F070AB03
4F070AC36
4F070AC87
4F070AE08
4F070FA06
4F070FA17
4F070FB03
4F070FC06
4J002AA01W
4J002AD01X
4J002BB12W
4J002BB213
4J002BB21W
4J002CD013
4J002CD023
4J002CF03W
4J002CF183
4J002CF18W
4J002EC056
4J002EF047
4J002EF077
4J002EL147
4J002FB286
4J002FB28X
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4J002GQ00
4J200AA04
4J200BA14
4J200BA20
4J200DA17
4J200DA22
4J200DA28
4J200EA06
4J200EA07
4J200EA09
(57)【要約】
【課題】ソフトカプセル製剤の製造において利用されなかったソフトカプセル皮膜材料を有効に再利用する手段を提供することを課題とする。更に、ソフトカプセル皮膜材料を成分とする樹脂組成物からなり、実用充分な機械強度を有する樹脂成形物を提供することを課題とする。好ましくは、ソフトカプセル皮膜材料を成分とする、生分解性を有する樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】ゼラチン及びグリセリンを含有するソフトカプセル皮膜材料と、熱可塑性樹脂と、を含む、成形用樹脂組成物を提供する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン及びグリセリンを含有するソフトカプセル皮膜材料と、熱可塑性樹脂と、を含む、成形用樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂と前記ゼラチンとを相溶化する相溶化剤をさらに含む、請求項1に記載の成形用樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である、請求項1又は2に記載の成形用樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂である、請求項3に記載の成形用樹脂組成物。
【請求項5】
前記相溶化剤が酸変性ポリオレフィンである、請求項2に記載の成形用樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が生分解性樹脂である、請求項1又は2に記載の成形用樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂がポリ乳酸及び/又はポリブチレンサクシネートである、請求項6に記載の成形用樹脂組成物。
【請求項8】
前記ソフトカプセル皮膜材料は、ソフトカプセル皮膜材料の乾燥物である、請求項1又は2に記載の成形用樹脂組成物。
【請求項9】
前記成形用樹脂組成物は溶融混練樹脂である、請求項1又は2に記載の成形用樹脂組成物。
【請求項10】
前記ゼラチンとグリセリンの合計含有量は、前記成形用樹脂組成物に対して、60質量%以下である、請求項1又は2に記載の成形用樹脂組成物。
【請求項11】
前記ソフトカプセル皮膜材料における前記グリセリンの含有量は、前記ゼラチンの含有量に対して10~100質量%である、請求項1又は2に記載の成形用樹脂組成物。
【請求項12】
ゼラチン及びグリセリンを含有するソフトカプセル皮膜材料と、熱可塑性樹脂と、を含む、成形用樹脂組成物の製造方法であって:
前記ソフトカプセル皮膜材料と前記熱可塑性樹脂との混合物を得る工程と;
前記混合物を、前記熱可塑性樹脂が溶融する温度にまで加温し、混錬する工程と;を含む製造方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の成形用樹脂組成物を調製するためのマスターバッチであって、
前記ソフトカプセル皮膜材料と前記熱可塑性樹脂の一部とを含む、マスターバッチ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用樹脂組成物及びその製造方法、より具体的には、ソフトカプセル皮膜材料を含む成形用樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソフトカプセル製剤は、ゼラチンと可塑剤であるグリセリンとを含むソフトカプセル皮膜、及びソフトカプセル皮膜の内部に封入された薬液など、を有する製剤である。ソフトカプセル製剤はロータリー法により製造されることが多く;ロータリー法とは、一対の円筒形の金型の間に、ソフトカプセル皮膜となる2枚のゼラチン含有シートを重ねるように挟み込み、2枚のシートの間に薬液などを注入し、金型での圧切・圧着を同時に行う方法であり、「打抜き法」ともいう(特許文献1参照)。
【0003】
ロータリー法でソフトカプセル製剤を製造すると、ゼラチン含有シートの多くが利用されず、結果として、ソフトカプセル皮膜材料を廃棄することが多い。このように廃棄されることになるソフトカプセル皮膜材料を再利用する技術がいくつか提案されている(特許文献2,3)。例えば、特許文献2には、ソフトカプセル皮膜材料に栄養剤などを添加しておき、カプセル製剤として利用されなかったソフトカプセル皮膜材料を栄養剤などとして利用することが提案されている。特許文献3には、カプセル製剤として利用されなかったソフトカプセル皮膜材料を溶媒に溶解させ精製することで、材料に含まれる成分(ゼラチンや可塑剤など)を回収することが提案されている。
【0004】
また、ゼラチンや可塑剤(グリセリンなど)と他の樹脂とを含む樹脂組成物もいくつか提案されている(特許文献4~9)。特許文献4には、粉末ゼラチンをポリエチレンなどの充填剤とともに押出成形したゼラチン粒物質が提案されている。特許文献5には、ポリオレフィン又はポリオレフィン共重合体とゼラチンやグリセリンなどを含む組成物によりつくられた生分解性容器が提案され、ゼラチンやグリセリンによりポリエチレンやポリプロピレンの生分解性が向上することが記載されている。特許文献6及び7には、ポリ乳酸及びゼラチンを含有する生分解性樹脂組成物が提案され、当該組成物においてゼラチンによりポリ乳酸がプロティナーゼK等の酵素の作用を受けてポリ乳酸の分解が迅速になる可能性を指摘している。また、特許文献8には、ポリ乳酸などの生分解性ポリマーと、ゼラチンなどのバイオ分子とともに、生分解性ポリマーの前駆体(重合前のモノマー)を含む樹脂組成物を、生分解性の接着剤として利用することが提案されている。さらに、特許文献9には、発泡性ポリ乳酸からなる粒状物にゼラチンなどでコーティングした発泡成形体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01-038019号
【特許文献2】特開2006-262772号
【特許文献3】特表2002-529289号
【特許文献4】特公平6-62780号
【特許文献5】特開平5-43747号
【特許文献6】特開2004-149581号
【特許文献7】特開2004-18681号
【特許文献8】特開2009―144137号
【特許文献9】特表2010―525099号
【特許文献10】特開平5-254029号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ソフトカプセル製剤の製造において利用されなかったソフトカプセル皮膜材料を有効に再利用する手段を提供することを課題とする。また、熱可塑性樹脂に水溶性ゲルやグリセリンを配合した成形体は、強度性能が低下する傾向にあり(特許文献10)、一般的に実用性が乏しい傾向があるところ、本発明は、ソフトカプセル皮膜材料を成分とする樹脂組成物からなり、実用充分な機械強度を有する樹脂成形物を提供することを課題とする。更に、好ましくは、本発明は、ソフトカプセル皮膜材料を成分とする、生分解性を有する樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、以下に示す成形用樹脂組成物及びその製造方法に関する。
[1]ゼラチン及びグリセリンを含有するソフトカプセル皮膜材料と、熱可塑性樹脂と、を含む、成形用樹脂組成物。
[2]前記熱可塑性樹脂と前記ゼラチンとを相溶化する相溶化剤をさらに含む、前記[1]に記載の成形用樹脂組成物。
[3]前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である、前記[1]又は[2]に記載の成形用樹脂組成物。
[4]前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂である、[3]に記載の成形用樹脂組成物。
[5]前記相溶化剤が酸変性ポリオレフィンである、前記[2]~[4]のいずれかに記載の成形用樹脂組成物。
[6]前記熱可塑性樹脂が生分解性樹脂である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の成形用樹脂組成物。
[7]前記熱可塑性樹脂がポリ乳酸及び/又はポリブチレンサクシネートである、[1]~[6]のいずれかに記載の成形用樹脂組成物。
[8]前記ソフトカプセル皮膜材料は、ソフトカプセル皮膜材料の乾燥物である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の成形用樹脂組成物。
[9]前記成形用樹脂組成物は溶融混練樹脂である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の成形用樹脂組成物。
[10]前記ゼラチンとグリセリンの合計含有量は、前記成形用樹脂組成物に対して、60質量%以下である、前記[1]~[9]のいずれかに記載の成形用樹脂組成物。
[11]前記ソフトカプセル皮膜材料における前記グリセリンの含有量は、前記ゼラチンの含有量に対して10~100質量%である、前記[1]~[10]のいずれかに記載の成形用樹脂組成物。
[12]ゼラチン及びグリセリンを含有するソフトカプセル皮膜材料と、熱可塑性樹脂と、を含む、成形用樹脂組成物の製造方法であって:前記ソフトカプセル皮膜材料と前記熱可塑性樹脂との混合物を得る工程と;前記混合物を、前記熱可塑性樹脂が溶融する温度にまで加温し、混錬する工程と;を含む製造方法。
【0008】
さらに本発明は、以下に示す成形用樹脂組成物を調製するためのマスターバッチに関する。
[13]前記[1]~[11]のいずれかの成形用樹脂組成物を調製するためのマスターバッチであって、前記ソフトカプセル皮膜材料と前記熱可塑性樹脂の一部とを含む、マスターバッチ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ソフトカプセル皮膜材料を再利用することで、実用充分な機械強度を有する樹脂成形物が提供できるため、従来、利用されずに廃棄されていたソフトカプセル皮膜材料を有効に再利用することができる。また、更に好ましくは、ソフトカプセル皮膜材料を再利用することで、生分解性の高い成形用樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1、参考例1及びポリプロピレンから得られた樹脂試験片の引張試験の結果を示すグラフである。
図2】実施例1及び参考例1から得られた樹脂試験片のSEM写真である。
図3】実施例1及び参考例1から得られた樹脂試験片の表面濡れ性の試験結果を示す図である。
図4】実施例2及び比較例1から得られた樹脂試験片の引張試験の結果を示すグラフである。
図5】実施例2及び比較例1から得られた樹脂試験片のSEM写真である。
図6】実施例3~5及びポリ乳酸から得られた樹脂試験片の引張試験の結果を示すグラフである。
図7】実施例3~5から得られた樹脂試験片のSEM写真である。
図8】実施例4、実施例6及び実施例7から得られた樹脂試験片の引張試験の結果を示すグラフである。
図9】実施例4、実施例6及び実施例7から得られた樹脂試験片を温水処理した後のSEM写真である。
図10】実施例8及び9並びに比較例2及び3から得られた樹脂試験片の引張試験の結果を示すグラフである。
図11】実施例における引張試験のために作成した樹脂試験片の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1.成形用樹脂組成物]
本発明の成形用樹脂組成物は、ソフトカプセル皮膜材料と、熱可塑性樹脂と、を含み;相溶化剤を含むことができ;更に他の成分(架橋剤、ワックス、充填剤、フィラー、着色剤、可塑剤、離型剤、滑剤、耐熱安定剤、耐候性安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、結晶化促進剤、核剤等など)を含有してもよい。
【0012】
[1-1.ソフトカプセル皮膜材料]
成形用樹脂組成物に含まれるソフトカプセル皮膜材料は、ソフトカプセル製剤のカプセル皮膜の材料となる組成物である。ここで、ソフトカプセル皮膜材料は、ソフトカプセル製剤の製造に利用されなかった残渣であることが好ましい。例えば、ソフトカプセル製剤がロータリー法とよばれる方法で製造される場合には、シート状のソフトカプセル皮膜材料を金型で打ち抜くことになる。金型で打ち抜かれた後のシート状のソフトカプセル皮膜材料は、従来、残渣として廃棄処分されている。本発明の成形用樹脂組成物は、このようなソフトカプセル皮膜材料の残渣を再利用することができる。
【0013】
また、「ソフトカプセル皮膜材料」とは、ソフトカプセル皮膜材料に何らかの処理をした処理物であってもよく、例えば、ソフトカプセル皮膜材料に付着した異物等を除去するために洗浄してもよいし、ソフトカプセル皮膜材料から水分を除去した乾燥物であってもよいし、更にそれを粉砕した乾燥粉砕物であってもよい。ソフトカプセル皮膜材料を乾燥物、又は乾燥粉砕物とすると、ソフトカプセル皮膜材料に含まれるゼラチンと熱可塑性樹脂との相溶性が高まることがある。
【0014】
ソフトカプセル皮膜材料は、ゼラチンと可塑剤であるグリセリンを含有し;他の成分を含有してもよい。
【0015】
ゼラチンとは、動物(牛、豚、鶏、魚など、特に限定されない)の皮膚や骨などの結合組織の主成分であるコラーゲンを加熱して得られる抽出物であって、ソフトカプセル用のソフトカプセル皮膜の成分として用いることができるゼラチンであれば特に制限されない。ゼラチンは、アルカリ処理ゼラチン、酸処理ゼラチン、コハク化ゼラチンやフタル化ゼラチン等の化学修飾ゼラチン、ゼラチンの加水分解物や酵素分解物等のゼラチン分解物などであり得る。ソフトカプセル皮膜材料におけるゼラチンの含有割合は、特に限定されない。
【0016】
グリセリン(グリセロール)とは、1,2,3-プロパントリオールとも呼ばれる水酸基を3個含むポリオールであり、広く医薬などの製剤において使用される無色、無臭、粘性の水溶性の液体である。ソフトカプセル皮膜材料におけるグリセリンの含有割合は、ゼラチン100質量部に対して、通常は10質量部以上、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上含み;通常は100質量部以下、好ましくは70質量部以下、より好ましくは40質量部以下含む。
【0017】
ソフトカプセル皮膜材料は、ゼラチンとグリセリンとともに、グリセリン以外の他の可塑剤を含有してもよい。他の可塑剤としては、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール等の糖アルコールでありうる。さらにソフトカプセル皮膜材料は、必要に応じて着色剤、保存剤等が適宜添加されて構成されていてもよい。
【0018】
ソフトカプセル皮膜材料は、特に限定されないが、適宜加温した精製水とグリセリンの混合溶液に、ゼラチン及び他の成分を添加し、混合溶解させて粘稠溶液とし、必要に応じて真空脱泡して、冷却することにより製造されうる。つまり、ゼラチンをグリセリンで可塑化する工程を含む。また、ソフトカプセル皮膜材料は、ロータリー法によってソフトカプセル製剤とされる場合には、シート状に成形される。そして、シート状に成形されたソフトカプセル皮膜材料を用いてソフトカプセル製剤が製造されるが、その際に、シート状のソフトカプセル皮膜材料の多くが利用されないことがある。本発明は、そのような利用されなかったシート状のソフトカプセル皮膜材料を利用することができる。
【0019】
熱可塑性樹脂に対するソフトカプセル皮膜材料の含有率が高まると、本発明の成形用樹脂組成物から得られる成形物の機械強度(特に、引張強さや破断伸度)が低下する傾向があるので、成形物の用途で求められる機械強度に応じて、ソフトカプセル皮膜材料の含有量を調整すればよい。したがって、成形用樹脂組成物におけるソフトカプセル皮膜材料の含有割合は、ソフトカプセル皮膜材料に含まれるゼラチンとグリセリンの合計含有量として、成形用樹脂組成物に対して60質量%以下、50質量%以下であることが好ましく;また、熱可塑性樹脂に対して100質量%以下、80質量%以下、又は60質量%以下であることが好ましい場合があるが、特に限定されない。また、成形用樹脂組成物におけるソフトカプセル皮膜材料の含有割合は、ソフトカプセル皮膜材料に含まれるゼラチンの含有量として、熱可塑性樹脂に対して75質量%以下、60質量%以下、45質量%以下であることが好ましい場合があるが、特に限定されない。
【0020】
[1-2.熱可塑性樹脂]
成形用樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリシクロオレフィン、4-メチル-1-ペンテン、及びそれらの共重合体)、スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ジエン系樹脂、ポリアミド系樹脂(ナイロンなど)、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリウレタン系樹脂などでありうる。特にポリプロピレンは最も汎用性があり、本発明の成形用樹脂組成物の熱可塑性樹脂として好ましい。
【0021】
成形用樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、高い生分解性を有するものであってもよく;生分解性を有する熱可塑性樹脂の例には、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリヒドロキシアルカノエート(例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-3-ヒドロキシヘキサノエート共重合体)、酢酸セルロース、デンプンポリエステル樹脂、熱可塑性デンプンなどが含まれる。特にポリ乳酸は、ゼラチンと組み合わされて樹脂組成物とされることで、酵素(プロテイナーゼKなど)の作用による生分解性が高まる可能性が提案されており(前述の特許文献6、7参照);本発明の成形用樹脂組成物の熱可塑性樹脂として好ましい。また、熱可塑性樹脂の生分解性を高めるため、成形用樹脂組成物は生分解性促進剤を含有してもよい。生分解性促進剤の例としては、例えば、特開2018-016720号などに記載されている。
【0022】
また、ポリ乳酸は高い生分解性を有する樹脂であるが、一般的に硬質樹脂であり、その成形物は「脆さ」を有することが多い。そのため、ポリ乳酸とともに、軟質樹脂であるポリブチレンサクシネート及び/又はポリブチレンアジペートテレフタレートとをブレンドした熱可塑性樹脂とすることで、ポリオレフィンに類似する機械強度を有する樹脂組成物となり得る。
【0023】
成形用樹脂組成物における熱可塑性樹脂の含有割合は、樹脂組成物に求められる特性や、その用途などに応じて適宜調整されればよい。
【0024】
[1-3.相溶化剤]
成形用樹脂組成物は、それに含まれる熱可塑性樹脂とゼラチンとが十分に相溶しない(十分に溶解しない)場合には、相溶化剤を含むことが好ましい。特に、ゼラチンは極性の高い樹脂であるため、極性の低い熱可塑性樹脂(ポリオレフィンなど)を用いる場合には、相溶化剤を含有させることが好ましい場合が多い。一方で、極性の高い熱可塑性樹脂(ポリ乳酸など)を用いる場合には、相溶化剤を含有させる必要がない場合もある。
【0025】
好ましい相溶化剤は、熱可塑性樹脂の種類によって異なるが、例えば、その熱可塑性樹脂を酸変性したものを相溶化剤とすることができる。変性に用いる酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、及びメタクリル酸などのカルボキシル基を含有する低分子量有機酸、スルホ基を含有する低分子量有機スルホン酸、ホスホン酸などのホスホ基を含有する低分子量有機酸、ロジン酸などであり;これらを熱可塑性樹脂にグラフト重合させればよい。
【0026】
つまり、熱可塑性樹脂がポリプロピレンである場合には、ポリプロピレンを酸変性したもの、例えば無水マレイン酸変性したもの(MAPP)を相溶化剤とすることができる。また、熱可塑性樹脂がポリ乳酸である場合には、ポリ乳酸を酸変性したものを相溶化剤として用いてもよい。
【0027】
本発明の成形用樹脂組成物に含まれる相溶化剤は、架橋剤であってもよい。つまり、熱可塑性樹脂とゼラチンとを架橋させることで、熱可塑性樹脂とゼラチンとの相分離を抑制し、相溶性を高めることができる。また、熱可塑性樹脂とゼラチンとを架橋させるための架橋剤を配合することで、成形用樹脂組成物の成形物の機械強度(例えば引張強さ)を高めることができる。さらに、このような架橋により樹脂成形物の耐水性を高めることができる場合もある。例えば、熱可塑性樹脂をポリ乳酸とする場合に、エポキシ化合物を架橋剤として配合し、ポリ乳酸とゼラチンとを架橋させる(分離を抑制し、相溶性を高める)ことが考えられる。
【0028】
架橋剤としてのエポキシ化合物は、2以上のエポキシ基(オキサシクロプロパン)を有するポリエポキシ化合物であることが好ましく;ポリエポキシ化合物の例には、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン(BGPP)、各種ソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社からデナコールEX-600シリーズ(EX-614Bなど)として入手可能)などが含まれる。
【0029】
成形用樹脂組成物における相溶化剤の含有量は、熱可塑性樹脂とゼラチンとが十分に相溶できる程度に調整すればよい。
【0030】
[1-4.他の成分]
本発明の成形用樹脂組成物は、成形用樹脂組成物の添加剤として一般的な成分を、特に制限なく含有することができ;成形用樹脂組成物から得る成形物の用途に応じて添加剤を選定すればよい。
【0031】
[2.成形用樹脂組成物の製法]
本発明の成形用樹脂組成物は、ソフトカプセル皮膜材料及び熱可塑性樹脂と、必要に応じて相溶化剤及び他の成分を混練させる、好ましくは溶融混練させることで製造することができる。
【0032】
成形用樹脂組成物を製造するための混練は、混練機、好ましくは2軸混練押し出し機によって行うことができる。混練押し出し機により製造された樹脂組成物は、ペレット又はコンパウンドとして得てもよいし、そのまま所定の成形物に成形されてもよい。混練温度は、混錬する熱可塑性樹脂が溶融する温度(熱可塑性樹脂の融点以上の温度)に設定すればよく、ポリプロピレンであれば約180℃近辺、ポリ乳酸であれば約170℃近辺に設定することができる。混練押出における軸回転数や混練時間などは、混錬される各成分が均一になるように設定すればよい。
【0033】
本発明の成形用樹脂組成物は、マスターバッチ法により製造されてもよい。ここでマスターバッチ法とは、ソフトカプセル皮膜材料と少量の熱可塑性樹脂とを含有するマスターバッチ(ペレット)を得て、さらにマスターバッチと希釈用の熱可塑性樹脂とを混錬させることで成形用樹脂組成物とする手法をいう。このように、マスターバッチには、ソフトカプセル皮膜材料と少量の熱可塑性樹脂とを含むが、更に相溶化剤などを含有してもよい。
【0034】
[3.成形用樹脂組成物の用途]
本発明の成形用樹脂組成物は、各種の樹脂成形手法によって成形されることができ;樹脂成形手法の例には、射出成形、ブロー成形、押出成形、Tダイ法、インフレーション法、真空成形などが含まれる。
【0035】
本発明の成形用樹脂組成物から得られる成形物の用途としては、特に限定されず、日用品、工業部品、電化製品、自動車関連部品、医療用具、精密機部品などとして用いられる。特に、海洋プラスチック問題の主原因となるシングルユースプラスチック(いわゆる、使い捨てされるプラスチック)として、本発明の成形用樹脂組成物の成形物を用いることができる。シングルユースプラスチックの代表例として、食品用途の包装材料などが挙げられる。
【実施例0036】
以下において、本発明を、実施例を参照して説明するが、実施例の記載によって本発明の範囲が限定して解釈されてはならない。
【0037】
[A]ソフトカプセル皮膜材料とポリプロピレンとを含む樹脂組成物の製造
ソフトカプセル皮膜材料と、ポリプロピレンと、マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)と、を準備した。ソフトカプセル皮膜材料は、ニッピ社から提供された豚皮由来のゼラチンAP-200(ゼリー強度160~200g(JIS K 6503(2001)))と、日油社から提供された食添グリセリン-Sを使用して調製され、60質量%のゼラチンと、20質量%のグリセリンと、20%の水とが含まれていた。この皮膜材料を乾燥させて水分を除去した乾燥物を、樹脂組成物の原料とした。また、ポリプロピレンは、プライムポリマー社から提供されたFG113G(プロピレンホモポリマーである)であった。 MAPPは、理研ビタミン社から提供されたリケエイドMG-441Pであった。また、比較例のために、粉末ゼラチンと、グリセリンを用意した。
【0038】
<実施例1>
58.2 gのポリプロピレン、12.0 gのソフトカプセル皮膜材料乾燥物、及び1.8 gのMAPPを、2軸混練押出機(東洋精機製作所社製、ラボプラストミル4C150-01)に投入し、180℃, 5分間の予備加熱を行い、さらに180℃, 軸回転速度50 rpm で10分間で混錬押出した。
【0039】
<参考例1>
60.0 gのポリプロピレン、及び12.0 gのソフトカプセル皮膜材料乾燥物を、実施例1と同様に2軸混練押出機に投入し、同様の条件で混錬押出した。
【0040】
<実施例2>
40.0 gのポリプロピレン、50.0 gのソフトカプセル皮膜材料乾燥物、及び10.0 gのMAPPを、実施例1と同様に2軸混練押出機に投入し、同様の条件で混錬押出した。
【0041】
<比較例1>
40.0 gのポリプロピレン、37.5 gの粉末ゼラチン、12.5 gのグリセリン、及び10.0 gのMAPPを、実施例1と同様に2軸混練押出機に投入し、実施例1と同様の条件で混錬押出した。
【0042】
各実施例、参考例1及び比較例1で得られた樹脂組成物、及びポリプロピレンから、JIS K 7161-1(2014)のタイプ5Aに準じた図11に示す形状(b1=4mm、b2=12.5mm、l1=25mm、l3=75mm、r1=8、r2=12.5mm、L=50mm、L0=20mm)のダンベル型の樹脂試験片(厚さ0.5mm)を、ホットプレス成形フィルムから金型で打ち抜いて得た。具体的には、各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物からなるペレットを、圧縮プレス機にて成形圧力20 MPa、温度180℃でホットプレスし、更に急冷することにより得られた樹脂フィルムを金型で打ち抜き、前記した規定サイズのダンベル試験片を得た。
【0043】
実施例1、参考例1及びポリプロピレンから得られた樹脂試験片について、JIS K7161-1 に準じた引張試験を行い、ヤング率、引張強さ(試験中に観察される最初の最大応力)、破断伸度を求めた。測定温度は室温であり、つかみ具間距離(試験開始時点でのつかみ具間の間隔)は20mm、クロスヘッド速度(引張速度)は10mm/minとした。その結果を、以下の表1及び図1に示す。
【表1】
注: 測定数n=5であり、各数値は「平均値±標準偏差」を示している。
【0044】
表1及び図1に示すように、実施例1の樹脂組成物から得られた樹脂試験片は、ポリプロピレン単体から得られた樹脂試験片と比較して、破断伸度がやや低い数値となるものの、ヤング率及び引張強さは1割程度上回る数値であった。一方、参考例1の樹脂組成物から得られた樹脂試験片は、ポリプロピレン単体から得られた樹脂試験片と比較すると、引張強さ及び破断伸度が低い数値となっている。
【0045】
ただし、図1に示されるように、ポリプロピレン単体と同様に、実施例1及び参考例1についても、降伏点を超えてもサンプルが破断することなく伸びていることがわかる。降伏点が存在する応力歪み曲線を有するプラスチック成型品の場合、降伏応力を超える応力が発生すると、塑性変形してしまうため;プラスチック成型品は、一般的に、降伏点を超えないような範囲で使用されるように設計される(https://plastics-japan.com/archives/2545:プラスチックス・ジャパン・ドットコムのサイト参照)。つまり、降伏点を超えた伸度の挙動は、プラスチック成型品の実用性にあまり影響がない。そのため、ポリプロピレン単体と比較して、破断伸度が低い実施例1や参考例1の樹脂であっても、その降伏応力に応じた樹脂成形物の用途に応じて実用性がある。
【0046】
図2には、実施例1の樹脂組成物から得られた樹脂試験片のSEM写真(a)と、参考例1の樹脂組成物から得られた樹脂試験片のSEM写真(b)を示す。SEM写真(b)には、比較的大きいゼラチン粒が存在していることがあるが(点線で囲んだ箇所)、SEM写真(a)ではそのようなゼラチン粒が見当たらなかった。このように、MAPPが相溶化剤として作用し、ポリプロピレンのマトリックスにゼラチンを均一に配合できることがわかる。
【0047】
実施例1及び参考例1の樹脂組成物から得られた樹脂試験片の表面の濡れ性を評価するため、1μLの水滴を樹脂試験片の表面に滴下し、滴下直後の水接触角を測定し、その結果を図3(a)(b)に示す。実施例1の樹脂組成物から得られた樹脂試験片の水接触角は86.4±1.5°であり、参考例1の樹脂組成物から得られた樹脂試験片の水接触角は98.5±1.3°であり、MAPPによって樹脂組成物の成形物表面の親水性が向上したことがわかる。
【0048】
次に、実施例1、参考例1及びポリプロピレン単体についての試験と同様に、実施例2及び比較例1から得られた樹脂試験片について引張試験を行い、ヤング率 、引張強さ、破断伸度を求めた。その結果を、以下の表2及び図4に示す。
【表2】
注: 測定数n=5であり、各数値は「平均値±標準偏差」を示している。
【0049】
表2及び図4に示すように、ゼラチンとグリセリンを含むソフトカプセル皮膜材料を配合した実施例2は、ほぼ同質量の粒状ゼラチンとグリセリンを配合した比較例1と比較して、引張強さ及び破断伸度が高いことがわかる。このように、ゼラチンとグリセリンとをソフトカプセル皮膜材料に加工してからポリプロピレンと混錬して得られる樹脂組成物と、ゼラチンとグリセリンとポリプロピレンとを混錬して得られる樹脂組成物とでは、その成形物の機械的特性(強度など)が全く異なることがわかる。
【0050】
図5には、実施例2の樹脂組成物から得られた樹脂試験片のSEM写真(a)と、比較例1の樹脂組成物から得られた樹脂試験片のSEM写真(b)が示される。SEM写真(b)には、大きな(直径数十μm以上)ゼラチン粒子が存在しているのに対して、SEM写真(a)ではそのようなゼラチン粒子はないことがわかる。
【0051】
[B]ソフトカプセル皮膜材料とポリ乳酸とを含む樹脂組成物
ソフトカプセル材料と、ポリ乳酸と、相溶化剤として2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン (BGPP)及びソルビトールポリグリシジルエーテル(EX614B, ナガセケミカル社提供)を準備した。ソフトカプセル材料は、前記[A]と同様、乾燥物として樹脂組成物の原料とした。ポリ乳酸は、Nature Works社から提供されたIngeo 2003Dであった。
【0052】
<実施例3>
90 gのポリ乳酸、及び10 gのソフトカプセル皮膜材料乾燥物を、実施例1と同様の2軸混練押出機に投入し、170℃, 5 分の予備加熱を行い、さらに170℃, 軸回転速度70 rpm で10分間混錬押出した。
【0053】
<実施例4>
80 gのポリ乳酸、及び20 gのソフトカプセル皮膜材料乾燥物を、実施例3と同様に2軸混練押出機に投入し、同様の条件で混錬押出した。
【0054】
<実施例5>
70 gのポリ乳酸、及び30 gのソフトカプセル皮膜材料乾燥物を、実施例3と同様に2軸混練押出機に投入し、同様の条件で混錬押出した。
【0055】
<実施例6>
80 gのポリ乳酸、20 gのソフトカプセル皮膜材料乾燥物、及び5 gの2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパンを、実施例3と同様に2軸混練押出機に投入し、同様の条件で混錬押出した。
【0056】
<実施例7>
80 gのポリ乳酸、20 gのソフトカプセル皮膜材料乾燥物、及び5 gのソルビトールポリグリシジルエーテル(EX614B)を、実施例3と同様に2軸混練押出機に投入し、同様の条件で混錬押出した。
【0057】
次に、実施例1,参考例1及びポリプロピレン単体についての試験と同様に、実施例3~5の樹脂組成物、及びポリ乳酸から得られた樹脂試験片について引張試験を行い、ヤング率、引張強さ、破断伸度を求めた。その結果を、以下の表3及び図6に示す。
【表3】
注: 測定数n=5であり、各数値は「平均値±標準偏差」を示している。
【0058】
表3及び図6からわかるように、ポリ乳酸に対するソフトカプセル皮膜材料の含有量が高まるにつれて、引張強さ及び破断伸度が低下していく傾向がみられるが;図6に示される通り、ポリ乳酸単体と同様に、各実施例とも降伏点で破断することなく伸びていることがわかる。前記の通り、プラスチック成型品は、一般的に降伏点を超えないような範囲で使用されるように設計されるため;各実施例の樹脂は、その降伏応力に応じた樹脂成形物の用途に応じて十分な実用性がある。
【0059】
図7には、実施例3~5で得られた樹脂試験片のSEM写真を示す((a)実施例3、(b)実施例4、(c)実施例5)。図7に示されるように、ソフトカプセル皮膜材料の含有量に係わらず、ゼラチンとポリ乳酸とが相溶していることがわかる。
【0060】
次に、実施例1、参考例1及びポリプロピレン単体についての試験と同様に、実施例4,6及び7、並びにポリ乳酸から得られた樹脂試験片について引張試験を行い、ヤング率、引張強さ、破断伸度を求めた。その結果を、以下の表4及び図8に示す。
【表4】
注: 測定数n=5であり、各数値は「平均値±標準偏差」を示している。
【0061】
表4及び図8に示すように、ポリ乳酸及びゼラチンと反応して架橋させると考えられる架橋剤であるBGPP又はソルビトールポリグリシジルエーテルを配合することによって、樹脂試験片の引張強さが高まる傾向がみられた。このように、引張強さの向上が必要な成形物の用途に適用する場合には、架橋剤を配合することが好ましいことがわかる。
【0062】
実施例4, 6及び7の樹脂試験片を凍結破断し、50℃の温水中に4時間浸漬したのち、減圧乾燥した。その後の両者の樹脂試験片のSEM写真を図9に示す((a)実施例6、(b)実施例7,(c)実施例4)。BGPPを配合した実施例6のSEM写真(a)及びポリグリシジルエーテルを配合した実施例7のSEM写真(b)は、架橋剤を配合しなかった実施例4のSEM写真(c)と比較して、形成された孔の口径が小さいことがわかる。このように、BGPPやポリグリシジルエーテルなどのポリエポキシ化合物で架橋させることにより耐水性が高まり、ゼラチンの溶出を抑制したことがわかる。また、ポリエポキシ化合物によってポリ乳酸とゼラチンとが架橋したことで、ポリ乳酸とゼラチンとの相溶性が向上していることもわかる。
【0063】
[C]ソフトカプセル皮膜材料と、ポリ乳酸及びポリブチレンサクシネートとを含む樹脂組成物
ソフトカプセル皮膜材料と、ポリ乳酸と、ポリブチレンサクシネートと、を準備した。ソフトカプセル皮膜材料は、実施例1と同様に乾燥物として用いた。また、ポリ乳酸は、実施例3で用いたものと同じである。ポリブチレンサクシネートは三菱ケミカル社から提供されたBioPBSであった。
【0064】
なお、ポリ乳酸(PLA)及びポリブチレンサクシネート(PBS)は、いずれも一般的な生分解性樹脂であるが、ポリ乳酸は硬質樹脂、ポリブチレンサクシネートは軟質樹脂であるため、両樹脂をブレンドすることによりポリ乳酸の特長を活かしつつ、ポリ乳酸の脆さを改善することが行われている。
【0065】
<実施例8>
45 gのポリ乳酸、45 gのポリブチレンサクシネート、及び10 gのソフトカプセル皮膜材料乾燥物を、実施例3と同様に2軸混練押出機に投入し、同様の条件で混錬押出した。
【0066】
<比較例2>
50 gのポリ乳酸、及び50 gのポリブチレンサクシネートを、実施例3と同様に2軸混練押出機に投入し、同様の条件で混錬押出した。
【0067】
<実施例9>
60 gのポリ乳酸、30 gのポリブチレンサクシネート、及び10 gのソフトカプセル皮膜材料乾燥物を、実施例3と同様に2軸混練押出機に投入し、同様の条件で混錬押出した。
【0068】
<比較例3>
65 gのポリ乳酸、及び35 gのポリブチレンサクシネートを、実施例3と同様に2軸混練押出機に投入し、同様の条件で混錬押出した。
【0069】
次に、実施例1、参考例1及びポリプロピレン単体についての試験と同様に、実施例8及び9並びに比較例2及び3の樹脂組成物、及びポリ乳酸から得られた各樹脂試験片について、引張試験を行い、ヤング率、引張強さ、破断伸度を求めた。その結果を、以下の表5及び図10に示す。
【表5】
注: 測定数n=5であり、各数値は「平均値±標準偏差」を示している。
【0070】
表5及び図10からわかるように、ポリ乳酸及びポリブチレンサクシネートとともにソフトカプセル皮膜材料を含む実施例8及び9の樹脂組成物は、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネートを含む樹脂組成物(比較例2及び3)と比較して、その成形物の破断伸度が低下し、引張強さもやや低下したが;実施例8及び9の樹脂も、比較例2及び3と同様、降伏点を超えてもサンプルが破断することなく伸びていることがわかる。また、実施例8のヤング率と引張強さは、表1に示したポリプロピレン単体のヤング率と引張強さとほぼ同じ値であり、ポリプロピレン樹脂の代替品として置き換えができる可能性がある。プラスチック成型品は、一般的に降伏点を超えない範囲で使用されるように設計されるため、実施例8及び9の樹脂は、その降伏応力に応じた樹脂成形物の用途に応じて十分な実用性がある。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、従来、ソフトカプセル製剤として利用されずに廃棄されてきたソフトカプセル皮膜材料を、有効に再利用する手段が提供される。また、ソフトカプセル皮膜材料と生分解性熱可塑性樹脂(ポリ乳酸など)とを組み合わせて含む樹脂組成物は、生分解性の高い樹脂組成物とすることができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11