(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108192
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20240805BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20240805BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20240805BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240805BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20240805BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20240805BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20240805BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K7/04
C08K5/5415
C08K3/22
C08K7/14
C08L23/02
C08L25/04
C08L27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012417
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅季
(72)【発明者】
【氏名】立堀 良祐
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB032
4J002BB052
4J002BB112
4J002BB122
4J002BB162
4J002BB172
4J002BB192
4J002BC032
4J002BC042
4J002BC132
4J002BD122
4J002BD132
4J002BD142
4J002BD152
4J002CN011
4J002DA016
4J002DA076
4J002DA096
4J002DA116
4J002DC006
4J002DE078
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE136
4J002DE186
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DK006
4J002DL006
4J002EX017
4J002EX067
4J002EX077
4J002EX087
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD122
4J002FD127
4J002FD128
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】耐トラッキング性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂と、
(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤と、
(C)アルコキシシラン化合物と、
(D)水酸化マグネシウムと、
を含み、
(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤の含有量が、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して30~200質量部であり、
(C)アルコキシシラン化合物の含有量が、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.1~10質量部であり、
(D)水酸化マグネシウムの含有量が、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して90~350質量部である、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂と、
(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤と、
(C)アルコキシシラン化合物と、
(D)水酸化マグネシウムと、
を含み、
(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤の含有量が、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して30~200質量部であり、
(C)アルコキシシラン化合物の含有量が、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.1~10質量部であり、
(D)水酸化マグネシウムの含有量が、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して90~350質量部である、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
(C)アルコキシシラン化合物が、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基及びメルカプト基から選択される1以上を有するアルコキシシラン化合物を1以上含む、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤が、ガラス繊維を含む、請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
(D)水酸化マグネシウムの平均粒子径が1.5μm以下である、請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
(E)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上を、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して1~150質量部含む、請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
成形品のIEC-60112:2003第4版に準拠して測定される比較トラッキング指数が580V以上である、請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であり、
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部と、
(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤を、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して30~200質量部と、
(C)アルコキシシラン化合物を、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.1~10質量部と、
(D)水酸化マグネシウムを、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して90~350質量部と、を混合することを含む、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であり、
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部と、(C)アルコキシシラン化合物0.1~10質量部とを含む組成物(I)を準備すること、及び
組成物(I)と、(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤を、組成物(I)中の(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して30~200質量部と、(D)水酸化マグネシウムを、組成物(I)中の(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して90~350質量部と、を混合することを含む、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性に優れていることから、電気・電子機器部品材料、自動車部品材料、化学機器部品材料等に広く使用されている。しかしながら、ポリアリーレンスルフィド樹脂は、ポリアミド樹脂等の他のエンジニアリングプラスチックに比べ、耐トラッキング性が劣る。
ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐トラッキング性を高める技術として、ポリアリーレンスルフィド樹脂に水酸化マグネシウムを添加する技術がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐トラッキング性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0005】
本発明者は、研究の過程で、水酸化マグネシウムと、アルコキシシランと、所定の異径比(長径/短径)を有する繊維状充填剤とを併用することにより、耐トラッキング性をより高めることができることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1](A)ポリアリーレンスルフィド樹脂と、
(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤と、
(C)アルコキシシラン化合物と、
(D)水酸化マグネシウムと、
を含み、
(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤の含有量が、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して30~200質量部であり、
(C)アルコキシシラン化合物の含有量が、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.1~10質量部であり、
(D)水酸化マグネシウムの含有量が、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して90~350質量部である、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
[2](C)アルコキシシラン化合物が、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基及びメルカプト基から選択される1以上を有するアルコキシシラン化合物を1以上含む、[1]に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
[3](B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤が、ガラス繊維を含む、[1]又は[2]に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
[4](D)水酸化マグネシウムの平均粒子径が1.5μm以下である、[1]から[3]のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
[5](E)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上を、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して1~150質量部含む、[1]から[4]のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
[6] 成形品のIEC-60112:2003第4版に準拠して測定される比較トラッキング指数が580V以上である、[1]から[5]のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
[7] ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であり、
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部と、
(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤を、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して30~200質量部と、
(C)アルコキシシラン化合物を、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.1~10質量部と、
(D)水酸化マグネシウムを、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して90~350質量部と、を混合することを含む、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
[8] ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であり、
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部と、(C)アルコキシシラン化合物0.1~10質量部とを含む組成物(I)を準備すること、及び
組成物(I)と、(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤を、組成物(I)中の(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して30~200質量部と、(D)水酸化マグネシウムを、組成物(I)中の(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して90~350質量部と、を混合することを含む、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐トラッキング性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。数値範囲を示す「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。
【0009】
[ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物]
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう)は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂と、(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤と、(C)アルコキシシラン化合物と、(D)水酸化マグネシウムと、を含む。(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂と、(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤と、(C)アルコキシシラン化合物と、(D)水酸化マグネシウムと、を含むことによって、耐トラッキング性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物にすることができる。「ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物」は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む組成物のことを意味する。
【0010】
<(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂>
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂は、以下の一般式(I)で示される繰り返し単位を有する樹脂である。
-(Ar-S)- ・・・(I)
(但し、Arは、アリーレン基を示す。)
【0011】
アリーレン基は、特に限定されないが、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等を挙げることができる。(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂は、上記一般式(I)で示される繰り返し単位の中で、同一の繰り返し単位を用いたホモポリマーの他、異種の繰り返し単位を含むコポリマーとすることができる。
【0012】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp-フェニレン基を有する、p-フェニレンスルフィド基を繰り返し単位とするものが好ましい。p-フェニレンスルフィド基を繰り返し単位とするホモポリマーは、極めて高い耐熱性を持ち、広範な温度領域で高強度、高剛性、さらに高い寸法安定性を示すからである。このようなホモポリマーを用いることで非常に優れた物性を備える成形体を得ることができる。
【0013】
コポリマーとしては、上記のアリーレン基を含むアリーレンスルフィド基の中で異なる2種以上のアリーレンスルフィド基の組み合わせが使用できる。これらの中では、p-フェニレンスルフィド基とm-フェニレンスルフィド基とを含む組み合わせが、耐熱性、成形性、機械的特性等の高い物性を備える成形体を得るという観点から好ましい。p-フェニレンスルフィド基を70mol%以上含むポリマーがより好ましく、80mol%以上含むポリマーがさらに好ましい。なお、フェニレンスルフィド基を有する(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂は、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)である。
【0014】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、一般にその製造方法により、実質的に線状で分岐や架橋構造を有しない分子構造のものと、分岐や架橋を有する構造のものが知られているが、本実施形態においてはその何れのタイプのものについても有効である。
【0015】
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度は、本発明の効果を損ねない範囲であれば特に限定されないが、310℃及びせん断速度1200sec-1で測定した溶融粘度が、混合系の場合も含め600Pa・s以下が好ましく、中でも5~300Pa・sの範囲にあるものは、機械的物性と流動性のバランスが優れており、特に好ましい。
【0016】
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、特に限定されず、従来公知の製造方法によって製造することができる。例えば、低分子量のポリアリーレンスルフィド樹脂を合成後、公知の重合助剤の存在下で、高温下で重合して高分子量化することで製造することができる。
【0017】
一実施形態において、樹脂組成物中のポリアリーレンスルフィド樹脂の含有量は、10~50質量%とすることができ、15~50質量%とすることができ、15~45質量%とすることもできるが、これに限定されない。
【0018】
一実施形態において、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂中のポリアリーレンスルフィド樹脂の含有量は、50質量%を超えることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0019】
<(B)繊維状無機充填剤>
樹脂組成物は、長手方向に直角な断面の長径と短径との比(断面の長径/断面の短径)である異径比(以下、単に「異径比」ともいう)が3.0以上である繊維状無機充填剤(以下、単に「(B)繊維状無機充填剤」、又は「(B)所定の異径比を有する繊維状無機充填剤」ともいう)を含む。
【0020】
「長手方向に直角の断面の長径」は、繊維の長手方向に直角の断面における最長の直線距離であり、「長手方向に直角の断面の短径」は、当該断面における長径と直角方向の最長の直線距離である。異径比は、初期形状(溶融混練前の形状)の異径比をいう。異径比は、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて算出することができ、10本の(B)繊維状無機充填剤について測定した算術平均値とする。異径比は、メーカー値(メーカーがカタログ等において公表している数値)を採用することもできる。
【0021】
(B)繊維状無機充填剤の異径比は、3.0以上であり、好ましくは3.5以上であり、より好ましくは3.8以上である。異径比の上限値は、10.0以下であり、好ましくは8.0以下であり、より好ましくは6.0以下である。繊維状無機充填剤の異径比が、3.0以上であることにより、(C)アルコキシシラン及び(D)水酸化マグネシウムとの相乗効果を発現して、成形品の耐トラッキング性をより高めることができる。また、成形品の衝撃強度を高めることもできる。
【0022】
(B)繊維状無機充填剤としては、例えば、繊維の長手方向に直角な断面形状が、長円形、半円、繭形(長円形の長手方向の一部が内側に窪んだ形状)、矩形又はこれらの類似形である繊維状の無機充填剤を挙げることができる。
【0023】
(B)繊維状無機充填剤の長手方向に直角の断面の長径は、好ましくは10~40μmであり、より好ましくは20~30μmである。
(B)繊維状無機充填剤の長手方向に直角の断面の短径は、好ましくは1~20μmであり、より好ましくは3~10μmである。
長手方向に直角の断面の長径及び短径は、いずれも、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて算出することができ、10本の(B)繊維状無機充填剤について測定した算術平均値とする。また、長手方向に直角の断面の長径及び短径は、いずれも、メーカー値(メーカーがカタログ等において公表している数値)を採用することもできる。
【0024】
(B)繊維状無機充填剤の平均繊維長は、成形品の曲げ強度及び衝撃強度をより高める観点から、樹脂組成物中に溶融混練する前の平均繊維長(カット長)として、好ましくは0.01~3.5mmであり、より好ましくは0.05~3.5mmであり、さらに好ましくは0.1~3.5mmであり、特に好ましくは0.5~3mmである。平均繊維長は、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて算出することができ、1000本の(B)繊維状無機充填剤について測定した算術平均値とする。平均繊維長は、メーカー値(メーカーがカタログ等において公表している数値)を採用することもできる。
【0025】
成形品内の(B)繊維状無機充填剤の平均繊維長としては、成形品の曲げ強度及び衝撃強度をより高める観点から、好ましくは50~1000μmであり、より好ましくは100~900μmである。成形品内の(B)繊維状無機充填剤の平均繊維長は、成形品を600℃で3~5時間加熱して灰化した残渣3mgを5%ポリエチレングリコール水溶液に分散させ、よく攪拌した後、10mLをシャーレに移し、画像測定機を用いて算出することができ、1000本の(B)繊維状無機充填剤について測定した算術平均値とする。
【0026】
(B)繊維状無機充填剤の断面積は、製造しやすさの点で、1×10-5~1×10-3mm2であることが好ましく、1×10-4~5×10-4mm2であることがより好ましい。「断面積」は、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて測定した(B)繊維状無機充填剤の断面の最長の直線距離を長径とし、最短の直線距離を短径とした場合に、長径を2で除した値と、短径を2で除した値とを乗じた値に、さらに円周率πを乗じた値とすることができる。断面積は、10本の(B)繊維状無機充填剤について測定した算術平均値とする。
【0027】
(B)繊維状無機充填剤の材料としては、ガラス繊維、カーボン繊維、酸化亜鉛繊維、酸化チタン繊維、ウォラストナイト、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化ケイ素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、等の鉱物繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、銅繊維、真鍮繊維等の金属繊維状物質等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることが好ましい。中でも、ガラス繊維を含むことがより好ましい。また、樹脂組成物の比重を軽くする等の目的で、(B)繊維状無機充填剤として中空の繊維を使用することもできる。
【0028】
(B)繊維状無機充填剤は、一般的に知られているエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、脂肪酸等の各種表面処理剤により表面処理されていてもよい。表面処理により、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂との密着性を向上させることができる。表面処理剤は、材料調製の前に予め(B)繊維状無機充填剤に適用して表面処理又は収束処理を施しておくことが好ましい。
【0029】
(B)繊維状無機充填剤の含有量は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して30~200質量部であり、好ましくは35~180質量部であり、より好ましくは40~175質量部である。(B)繊維状無機充填剤の含有量が、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して30~200質量部であることにより、後述する(C)アルコキシシラン及び(D)水酸化マグネシウムとの相乗効果を発現して、成形品の耐トラッキング性をより高めることができる。また、成形品の衝撃強度を高めることもできる。
一実施形態において、(B)繊維状無機充填剤の含有量は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して41~173質量部であり得る。
【0030】
(B)繊維状無機充填剤の含有量は、樹脂組成物中に、5~65質量%であってよく、10~50質量%であってよいが、これに限定されない。
【0031】
樹脂組成物は、後述するように、必要に応じて、(B)繊維状無機充填剤及び(D)水酸化マグネシウム以外のその他の無機充填剤等を含み得るが、全無機充填剤中の(B)繊維状無機充填剤及び(D)水酸化マグネシウムの含有量は、好ましくは合計50質量%以上であり、より好ましくは合計80質量%以上であり、さらに好ましくは合計90質量%以上である。一実施形態において、無機充填剤は、(B)繊維状無機充填剤及び(D)水酸化マグネシウムからなるように構成することもできる。
【0032】
<(C)アルコキシシラン化合物>
樹脂組成物は、(C)アルコキシシラン化合物を含む。(C)アルコキシシラン化合物を含むことにより、(B)繊維状充填剤及び(D)水酸化マグネシウムとの相乗効果を発現して、成形品の耐トラッキング性をより高めることができる。また、成形品の衝撃強度を高めることもできる。
(C)アルコキシシラン化合物は、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基及びメルカプト基から選択される1以上を有するアルコキシシラン化合物を1種又は2種以上含有することが好ましい。
【0033】
一実施形態において、(C)アルコキシシラン化合物は、以下の式(II)で表されることが好ましい。
R1
nSi(OR2)4-n (II)
式(II)において、R1は、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基又はメルカプト基を有する炭素原子数が1~18(好ましくは1~10)のアルキル基であり、R2は炭素原子数1~4のアルキル基であり、nは1~3の整数である。
【0034】
(C)アルコキシシラン化合物としては、例えば、エポキシアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、(メタ)アクリルアルコキシシラン、イソシアネートアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン等のアルコキシシランが挙げられ、これらの1種又は2種以上を含むことが好ましい。なお、アルコキシ基の炭素原子数は1~10が好ましく、特に好ましくは1~4である。
【0035】
エポキシアルコキシシランとしては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0036】
アミノアルコキシシランとしては、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ジアリルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ジアリルアミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0037】
ビニルアルコキシシランとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0038】
(メタ)アクリルアルコキシシランとしては、例えば、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0039】
イソシアネートアルコキシシランとしては、例えば、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
メルカプトアルコキシシランとしては、例えば、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0041】
これらの内、エポキシアルコキシシランとアミノアルコキシシランがより好ましく、特に好ましいものはγ-アミノプロピルトリエトキシシランである。
【0042】
(C)アルコキシシラン化合物の含有量は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.1~10質量部であり、好ましくは0.3~10質量部であり、さらに好ましくは0.5~10質量部である。(C)アルコキシシラン化合物の含有量が、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.1~10質量部であることにより、(B)繊維状充填剤及び(D)水酸化マグネシウムとの相乗効果を発現して、成形品の耐トラッキング性をより高めることができる。また、成形品の衝撃強度を高めることもできる。
【0043】
一実施形態において、(C)アルコキシシラン化合物の含有量は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.1~5.0質量部であってよく、0.3~1.0質量部であってよく、0.3~3.0質量部であってよい。別の実施形態において、(C)アルコキシシラン化合物の含有量は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して1.0~10質量部であってよく、3.0~10質量部であってよい。
【0044】
(C)アルコキシシラン化合物の含有量は、樹脂組成物中に、0.05~1.0質量%であってよく、0.1~0.7質量%であってよいが、これに限定されない。
【0045】
<(D)水酸化マグネシウム>
樹脂組成物は、(D)水酸化マグネシウムを含む。ポリアリーレンスルフィド樹脂に水酸化マグネシウムを添加することによって耐トラッキング性を高めることができるが、驚くべきことに、(D)水酸化マグネシウムと(B)繊維状充填剤及び(C)アルコキシシラン化合物とを併用することによって、耐トラッキング性をさらに高めることができる。このような知見はこれまで知られていない。
【0046】
(D)水酸化マグネシウムとしては、化学式Mg(OH)2で示される無機物を80質量%以上含む純度の高い水酸化マグネシウムが好ましい。耐トラッキング性をより高める観点から、好ましくは、Mg(OH)2で示される無機物を80質量%以上含み、かつCaO含量が5質量%以下、塩素含量が1質量%以下の水酸化マグネシウムであり、より好ましくは、Mg(OH)2を95質量%以上含み、かつCaO含量が1質量%以下、塩素含量が0.5質量%以下の水酸化マグネシウムであり、さらに好ましくは、Mg(OH)2を98質量%以上含み、かつCaO含量が0.1質量%以下、塩素含量が0.1質量%以下の高純度水酸化マグネシウムである。
【0047】
(D)水酸化マグネシウムのレーザー回折散乱法で測定された平均粒子径(体積基準累積50%径D50)は、好ましくは1.5μm以下であり、より好ましくは1.0μm以下であり、さらに好ましくは0.8μm以下である。水酸化マグネシウムの平均粒子径が小さいほど耐トラッキング性をより高めることができる。平均粒子径の下限値は、限定されず、0.01μm以上、又は0.1μm以上とすることができる。
一実施形態において、水酸化マグネシウムのレーザー回折散乱法で測定された平均粒子径は、0.5~1.2μmとすることができる。
【0048】
(D)水酸化マグネシウムの含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して90~350質量部であり、好ましくは95~300質量部であり、より好ましくは100~300質量部であり、さらに好ましくは100~290質量部である。水酸化マグネシウムの含有量をポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して90~350質量部にすることにより、(B)繊維状充填剤及び(C)アルコキシシランとの相乗効果を発現して、成形品の耐トラッキング性をより高めることができる。
【0049】
(D)水酸化マグネシウムの含有量は、樹脂組成物中に、20~70質量%であってよく、30~65質量%であってよいが、これに限定されない。
【0050】
<(E)共重合体>
樹脂組成物は、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の(共)重合体(以下、単に「(共)重合体」ともいう)をさらに含むことが好ましい。
【0051】
オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の(共)重合体を含むことにより、耐トラッキング性をさらに高めることができる。オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の(共)重合体は、2種類以上を併用することも可能である。
【0052】
オレフィン系重合体及びオレフィン系共重合体としては、α-オレフィンの単独重合体及び共重合体が挙げられる。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、1-ノネン、1-デセン等が挙げられる。耐トラッキング性をより高める観点から、炭素原子数2~10の直鎖状α-オレフィンの、単独重合体及び/又は共重合体を含むことが好ましい。炭素原子数2~10の直鎖状α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等が挙げられる。オレフィン系重合体及びオレフィン系共重合体は、2種類以上を併用することも可能である。
中でも、オレフィン系共重合体としては、炭素原子数2~5の直鎖状α-オレフィンと炭素原子数6~10の直鎖状α-オレフィンとの共重合体を含むことが好ましく、エチレンと炭素原子数6~10の直鎖状α-オレフィンとの共重合体を含むことがより好ましく、エチレンと1-オクテンとの共重合体を含むことがさらに好ましい。一実施形態において、オレフィン系共重合体は、エチレン5~95質量%とα-オレフィン5~95質量%からなる共重合体であってもよい。
【0053】
スチレン系重合体及びスチレン系共重合体としては、スチレン、ビニルナフタレン等のスチレン系単量体の単独重合体及び共重合体、並びに、スチレン系単量体と他のビニル系単量体との共重合体等が挙げられる。他のビニル系単量体としては、上記したα-オレフィン等が挙げられる。スチレン系重合体及びスチレン系共重合体は、2種類以上を併用することも可能である。
中でも、スチレン系重合体としては、ポリスチレンを含むことが好ましく、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)を含むことがより好ましい。
【0054】
フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエ-テル共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ素化エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられる。また本発明の効果を損なわない範囲で、上記フッ素系樹脂と共重合可能なモノマーや、末端封鎖剤を併用して重合して得られた共重合体を用いることもできる。フッ素系樹脂は2種類以上を併用することも可能である。
【0055】
一実施形態において、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の(共)重合体は、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)及び/又はエチレン-オクテン共重合体を含むことが好ましく、エチレン-オクテン共重合体を含むことがより好ましい。
【0056】
オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の(共)重合体の含有量は、耐トラッキング性をより高めやすい観点から、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは1~150質量部であり、より好ましくは5~100質量部であり、さらに好ましくは5~50質量部である。
一実施形態において、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の(共)重合体の含有量は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して5~30質量部であってもよく、5~20質量部であってもよく、8~14質量部であってもよい。
【0057】
<その他の充填剤>
樹脂組成物は、必要に応じて、有機充填剤、並びに、(B)繊維状無機充填剤及び(D)水酸化マグネシウム以外のその他の無機充填剤(以下、単に「その他の無機充填剤」ともいう)を1以上含み得る。
【0058】
有機充填剤としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、フッ素繊維、エボナイト粉末等が挙げられる。これらから選択される1以上を含み得る。
【0059】
その他の無機充填剤としては、(B)繊維状無機充填剤以外の繊維状無機充填剤や、(D)水酸化マグネシウム以外の非繊維状無機充填剤等が挙げられる。
【0060】
(B)繊維状無機充填剤以外の繊維状無機充填剤としては、長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が、3.0未満、2.0未満又は1.5以下である繊維状充填剤が挙げられる。(B)繊維状無機充填剤以外の繊維状無機充填剤としては、例えば、繊維の長手方向に直角な断面形状が丸形又は正方形である繊維状無機充填剤が挙げられる。
(B)繊維状無機充填剤以外の繊維状無機充填剤の材質は、限定されず、上記した(B)繊維状無機充填剤において例示した繊維状充填剤を挙げることができ、それらから選ばれる1以上を含み得る。(B)繊維状無機充填剤と(B)繊維状無機充填剤以外の繊維状無機充填剤とは、材質が同じであってもよく異なっていてもよい。その他の繊維状無機充填剤の平均繊維長及び平均繊維径は限定されない。(B)繊維状無機充填剤以外の繊維状無機充填剤の平均繊維径は、限定されず、初期形状における平均繊維径が例えば3~30μmであり得る。(B)繊維状無機充填剤以外の繊維状無機充填剤の平均繊維長は、限定されず、初期形状における平均繊維長(カット長)が0.01~3mmであり得る。平均繊維径及び平均繊維長の測定方法は、上記のとおりである。
【0061】
(D)水酸化マグネシウム以外の非繊維状無機充填剤としては、粉粒状無機充填剤(水酸化マグネシウムを除く)、板状無機充填剤等を挙げることができ、これらから選ばれる1以上を含み得る。
粉粒状無機充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、タルク(粒状)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土等のケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、その他炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられ、これらから選択される1以上を含み得る。板状無機充填剤としては、例えば、ガラスフレーク、タルク(板状)、マイカ、カオリン、クレイ、アルミナ、各種の金属箔等が挙げられ、これらから選択される1以上を含み得る。非繊維状無機充填剤の平均粒子径(体積基準累積50%径D50)は、限定されず、例えば初期形状(溶融混練前の形状)において、0.1~100μmとすることができる。平均粒子径(体積基準累積50%径D50)は、レーザー回折散乱法で測定することができる。
【0062】
有機充填剤及びその他の無機充填剤の含有量は、限定されず、例えば、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、0~50質量部とすることができ、40質量部未満とすることもできる。一実施形態において、その他の無機充填剤は少ないほうが好ましい。
【0063】
一実施形態において、耐トラッキング性をより高める観点から、長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0未満である繊維状充填剤(例えば、断面形状が略円形である繊維状充填剤)の含有量は、無機充填剤の総量中に5質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。
【0064】
<その他の添加剤等>
樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤を、要求性能に応じ含有することができる。添加剤としては、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、及び腐食防止剤等を挙げることができる。上記添加剤の含有量は、全樹脂組成物中5質量%以下にすることができる。
【0065】
また、樹脂組成物には、その目的に応じ前記成分の他に、他の熱可塑性樹脂成分を補助的に少量併用することも可能である。ここで用いられる他の熱可塑性樹脂としては、高温において安定な樹脂であれば何れのものでもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の、芳香族ジカルボン酸とジオール、或いはオキシカルボン酸等からなる芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、液晶ポリマー、環状オレフィンコポリマー等を挙げることができる。また、これらの熱可塑性樹脂は、2種以上混合して使用することもできる。他の熱可塑性樹脂成分の含有量は、例えば、全樹脂組成物中20質量%以下、15質量%以下、又は10質量%以下にすることができる。
【0066】
本実施形態に係る樹脂組成物は、耐トラッキング性に優れている。一実施形態において、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、成形品のIEC-60112:2003第4版に準拠して測定される比較トラッキング指数が580Vであることが好ましく、600V以上であることがより好ましい。試験片として使用する成形品は、樹脂組成物を、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で射出成形して得られる、15mm×15mm×厚さ3mmの平板形状とする。
【0067】
樹脂組成物は、上記した(C)アルコキシシラン化合物を含むので、熱可塑性樹脂の一部が高分子量化されていることがある。一実施形態において、樹脂組成物は、GPC測定においてポリスチレン換算で測定した分子量150万以上の樹脂成分が存在する。なお、一般的に無機充填剤は表面処理されている場合があるが、表面処理剤は、熱可塑性樹脂と無機充填剤との間で反応するため、熱可塑性樹脂の高分子量化には寄与しない。
【0068】
<用途>
本実施形態に係る樹脂組成物は、耐トラッキング性に優れているので、耐トラッキング性が求められる部材の製造に好ましく用いることができる。例えば、リレー、スイッチ、コネクタ、アクチュエータ、センサー、トランスボビン、端子台、カバー、ソケット、コイル、プラグ等の電気・電子部品の絶縁性部材の製造に用いることができる。
【0069】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部と、
(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤を、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して30~200質量部(好ましくは35~180質量部、より好ましくは40~175質量部)と、
(C)アルコキシシラン化合物を、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.1~10質量部(好ましくは0.3~10質量部、さらに好ましくは0.5~10質量部)と、
(D)水酸化マグネシウムを、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して90~350質量部(好ましくは95~300質量部、より好ましくは100~300質量部、さらに好ましくは100~290質量部)と、を混合することを含む。
【0070】
混合方法は、限定されず、一般に合成樹脂組成物の混合に用いられる設備と方法により行うことができる。例えば、必要成分をドライブレンドして混合することができ、及び/又は、1軸又は2軸の押出機を使用して溶融混練することができる。その後、押出して成形用ペレットとしてもよい。混合時(又は溶融混練時)の樹脂温度は、水酸化マグネシウムの熱分解を防止するために350℃以下が好ましい。
【0071】
一実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部と、(C)アルコキシシラン化合物とを混合した後に、さらに(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤、及び(D)水酸化マグネシウムと混合してもよい。
【0072】
すなわち、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、
<工程1>(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部と、(C)アルコキシシラン化合物0.1~10質量部(好ましくは0.3~10質量部、さらに好ましくは0.5~10質量部)とを含む組成物(I)を準備すること、及び
<工程2>組成物(I)と、(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤を、組成物(I)中の(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して30~200質量部(好ましくは35~180質量部、より好ましくは40~175質量部)と、(D)水酸化マグネシウムを、組成物(I)中の(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して90~350質量部(好ましくは95~300質量部、より好ましくは100~300質量部、さらに好ましくは100~290質量部)と、を混合することを含むことができる。組成物(I)は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部と、(C)アルコキシシラン化合物0.1~10質量部とを混合して得ることができる。混合方法については上記のとおりである。
【実施例0073】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0074】
[材料]
実施例及び比較例で用いた材料は、以下のとおりである。
ポリアリーレンスルフィド樹脂(PPS樹脂):(株)クレハ製、「フォートロンKPS」、溶融粘度20Pa・s(せん断速度1200sec-1、310℃)
GF1:ガラス繊維、日本電気硝子(株)製、フラットガラスファイバ ECS03T-760-FGF、断面が長円形、長径28μm、短径7μm、長径/短径の比4.0、平均繊維長3mm
比較GF:ガラス繊維、日本電気硝子(株)製、チョップドストランド ECS03T-747H、断面が略円形、長径10.5μm、短径10.5μm、長径/短径の比1.0、平均繊維長3mm
アルコキシシラン化合物:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)製「KBE-903P」
水酸化マグネシウム:神島化学工業(株)製、平均粒子径(D50)1.1μm、表面処理なし
エチレン-オクテン共重合体:ダウ・ケミカル日本(株)製、「エンゲージ8003」
【0075】
[実施例1~5、比較例1~4]
表1に示す材料を用いて、表1に示す含有割合でドライブレンドした。これをシリンダー温度320℃の二軸押出機に投入して(ガラス繊維は押出機のサイドフィード部より別添加)溶融混練することで、樹脂組成物ペレットを得た。
得られた樹脂ペレットを用いて、射出成形により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、15mm×15mm×厚さ3mmの平板試験片を作製した。
【0076】
[測定及び評価]
(比較トラッキング指数:CTI)
上記平板試験片及び白金電極を用いて、IEC-60112:2003第4版に準拠して、0.1質量%塩化アンモニウム水溶液を滴下しながら電圧を加え、試験片にトラッキングが生じる印加電圧(V:ボルト)を測定した。なお、測定には、日立化成工業(株)製耐トラッキング性試験機「HAT-500-3」を用いた。結果を表1に示した。CTIが580V以上の場合に、耐トラッキング性に優れていると評価される。
【0077】
(曲げ強度:FS)
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、成形シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO316に準じた試験片(幅10mm、厚さ4mm)を作製した。この試験片を用い、ISO178に準じて曲げ強さ(MPa)を測定した。結果を表1に示した。
【0078】
(シャルピー衝撃強度(ノッチ付き))
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、成形シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO316に準じた試験片(幅10mm、厚さ4mm)を作製した。この試験片を用い、ISO179-1に準じてシャルピー衝撃強度(ノッチ付き)(kJ/m2)を測定した。結果を表1に示した。
【0079】
【0080】
表1に示すように、実施例1~5の樹脂組成物は、比較トラッキング指数(CTI)が580V以上であり、優れた耐トラッキング性を有している。実施例1の樹脂組成物は、(C)アルコキシシラン化合物を含まない比較例1の樹脂組成物、及び、繊維状充填剤の異径比が3.0未満である比較例3の樹脂組成物よりも、耐トラッキング性が優れているだけでなく、曲げ強度及び衝撃強度も向上している。
比較例1~4に示すように、(B)長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤、(C)アルコキシシラン化合物、及び(D)水酸化マグネシウムのうちの1以上を含む場合であっても、いずれか1以上を含まない場合は、耐トラッキング性を向上する効果が得られない。
比較例2に示すように、(D)水酸化マグネシウムの含有量が(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して90質量部未満であると、耐トラッキング性が著しく低い結果となる。比較例3と比較例4との対比から明らかなように、繊維状充填剤の異径比が3.0未満である場合は、(C)アルコキシシラン化合物を含有していても耐トラッキング性を高める効果は得られない。また、衝撃強度を向上する効果が低い。
本実施形態に係る樹脂組成物は、耐トラッキング性に優れているので、電気・電子部品の絶縁性部材の製造に好ましく用いることができ、産業上の利用可能性を有している。